説明

昇降装置のブレーキ装置

【課題】耐久性を兼ね備え、応答性の良好な水門扉の昇降装置のブレーキ装置を提供する。
【解決手段】自重降下式の昇降装置のブレーキ装置であり、入力軸30には左ネジ32が設けられ、左ネジ32に第1ディスク板50と第1ディスクナット51とが螺設し、入出力軸方向の面に第1と第2摩擦体52,53を備える第1ラチェット板60が回動自在に設けられ、出力軸40にはテーパ状ナット46とロッキングカム47による第2係止部44との間に右ネジ42が設けられ、右ネジ42に第2ディスク板70と第2ディスクナット71とが螺設し、出入力軸方向の面に第3と第4摩擦体72,73を備える第2ラチェット板80が回動自在に設けられ、ロッキングカム47と第2ディスクナット71とに圧縮スプリング48が設けられ、第1ラチェット板60の開方向回転を規制する第1ブレーキ爪と第2ラチェット板80の閉方向回転を規制する第2ブレーキ爪とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は昇降装置のブレーキ装置に関し、詳しくは、昇降装置のクラッチを切断することで水門扉の自重降下が可能であり、またクラッチを接続することでハンドルを開方向に回転すると水門扉は上昇し、ハンドルを止めると中間位置で停止する操作性の良好な昇降装置のブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の装置には手動式水門開閉装置がある。この装置は水門扉を遠心ブレーキを用いて自重降下させ、水門扉が水底に着いた後、漏水防止のためにさらにメカニカルブレーキを作用させて、ハンドルにより水門扉を押し下げ、水門扉の下縁に設けられた水密ゴムを押しつぶして増締めをすることにより、水門としての水密性を高めることができる構造となっている。従って、ハンドルの操作により増し締めを解除したり、或いは荷重を掛けたままメカニカルブレーキを解除する場合に、回転軸にスラスト力が掛かった状態で摩擦面相互を滑らして回さねばならず、解除に要するトルクが大であり、ハンドルに大きな力を加えねばならなかった。このような問題点を改善すべく、ブレーキ解除に要するトルクが小さく、また摩擦面の損耗が少ない昇降装置のブレーキ装置があった。
【0003】
従来の昇降装置のブレーキ装置について、図5〜図7を参照して説明する。図5は手動の水門開閉装置の手動ハンドルから歯車装置の一部までの駆動力伝達機構を示すものであり、1は手動ハンドル、2は入力軸、3はブレーキ装置、4は出力軸、5は多板クラッチであり、多板クラッチ5以降にピニオン8を設けたピニオン軸6に遠心ブレーキ7が設けられ、ピニオン軸6に連動する歯車機構などを介して水門扉を昇降している。多板クラッチ5を接続してハンドル1を開き向き方向9に回せば、水門扉が開き、閉じ向き方向10に回せば、水門扉が閉じるようになっている。多板クラッチ5を遮断すれば、水門扉は遠心ブレーキ7の作用で所定の速度で自重降下する。
【0004】
ブレーキ装置3は重力方向の負荷を制動するためのメカニカルブレーキS1と反重力方向の負荷を制動するため増し締めブレーキS2を備えたものであり、図6に示したように、入力軸2及び出力軸4は中心軸上に互い対向して配置されて回転可能に支承されている。出力軸4の軸端にガイド孔11が設けられ、入力軸2の軸端に設けられたガイドピン12が相対的に回転可能に嵌入している。入力軸2及び出力軸4のそれぞれには、軸端に向う側に摩擦面を有する摩擦板13,14が固定されている。入力軸2の軸端にはネジ15(左ネジ)が設けられ、出力軸4の軸端にはトルクを伝達し、かつ軸方向に相対的に滑動可能な滑り軸継手であるスプライン式軸継手の軸側部材であるスプライン軸16が設けられている。
【0005】
入力軸2の端部にはネジ15(左ネジ)が設けられ、移動摩擦体18のナット部17に螺合している。出力軸4の軸端がスプライン軸16であり、スプライン継手により移動摩擦体18と一体的に形成され、移動摩擦体18の軸方向の両端面には摩擦面を揃えて移動摩擦体18が形成されている。移動摩擦体18と摩擦板13との間には、逆転防止機構としてのラチェット板19が入力軸2の回りに回転可能に支承されている。ラチェット板20の両側にはブレーキライニング21,22が設けられている。一方、移動摩擦体18と摩擦板14との間には、逆転防止機構としてのラチェット板20が、出力軸4の回りに回転可能に支承されている。ラチェット板20の両側にはブレーキライニング23,24が設けられている。ラチェット板20は、図7に示したように、開き向き9の回転が阻止され、閉じ向き10の回転は許容される。また、ラチェット板20は、閉じ向き10の回転が阻止され、開き向き9の回転は許容される。ラチェット板19とラチェット板20の許容回転向きは互いに逆向きになっている。
【0006】
水門開閉操作について説明すると、ハンドル1を開き方向9に回して水門扉を上昇させると、移動摩擦体18がネジ15との関係で右方向に移動してブレーキライニング23、24を押圧し、かつラチェット板20及び摩擦板14を押圧して入力軸2と出力軸4とが一体化し、ラチェット板20は自由状態であり、水門扉は上昇する。また、ハンドル1から手を離したとしてもラチェット板20により水門扉が降下するのを防止することができる。一方、ハンドル1を閉じ方向10に回すると、ネジ15の作用により移動摩擦体18が左方向に移動して水門扉は自重降下する。水門扉が降下して水密ゴムに接触した後、さらに水門扉を増し締めして水密ゴムを押圧する。その際、ハンドル1を閉じ方向10に回すと移動摩擦体18は、右方向に移動して摩擦板14を押圧し、ラチャット板19は自由状態にし、ラチャット板19はカップリングピン25がラチェット板19の歯26に歯合して増し締めすることができる。
【0007】
【特許文献1】特開平3−81409号公報(明細書全文,図面全図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の昇降装置のブレーキ装置は、図6に例示したように、移動摩擦体18が左右の一方向に移動して、左右何れかのブレーキライニングの摩擦力により、水門扉の昇降を制御しているが、移動摩擦体18の移動距離が大きいといった欠点があり、手動による操作性を改善する余地があった。また、長期間使用した際、片面のブレーキライニングの摩耗が進み、左ネジ15と移動摩擦体18のナット部17との噛み込みが大きくなり、移動摩擦体18の移動距離がさらに増し、ブレーキライニングとの不必要な接触又は隙間が生じ、ハンドル1による昇降操作に支障を与えるおそれがあった。さらに、水門扉が自由降下する際に移動摩擦体18とブレーキライニングとが滑って摩耗し易く耐久性に問題があった。
【0009】
本発明は、上述のような課題に鑑みなされたものであり、昇降装置のハンドルによる昇降操作が一層容易であり、耐久性を兼ね備え、応答性の良好な昇降装置のブレーキ装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を達成したものであって、請求項1の発明は、手動又は原動機による回転駆動力及び重力により水門扉を昇降するようにした昇降装置のブレーキ装置において、
入力軸と出力軸とが回転可能に軸中心線上に対向配備され、
前記入力軸は入力軸段付部と該入力軸の軸端に設けた係止部との間に左ネジが設けられ、該左ネジに第1ディスク板と第1ディスクナットとが螺設され、該第1ディスク板と該第1ディスクナットとの間に入出力軸方向の面に第1と第2摩擦体を備える第1ラチェット板が回動自在に設けられ、かつ該第1ディスク板の出力軸方向の移動を規制する前記係止部を固定する第1係止部材が該左ネジの中間部に設けられ、
前記出力軸は出力軸段付部と該出力軸の軸端に螺設されたテーパ状ナットと該テーパ状ナットに嵌合するロッキングカムによる係止部との間に右ネジが設けられ、該右ネジに第2ディスク板と第2ディスクナットとが螺設され、該第2ディスク板と該第2ディスクナットとの間に出入力軸方向の面に第3と第4摩擦体を備える第2ラチェット板が回動自在に設けられ、かつ該第2ディスク板の入力軸方向の移動を規制する第2係止部材が該右ネジの中間部に設けられ、
前記第1ラチェット板の開方向回転を規制する第1ブレーキ爪と前記第2ラチェット板の閉方向回転を規制する第2ブレーキ爪が設けられ、
前記ロッキングカムと前記第2ディスクナットとを円周方向に分離するように、該ロッキングカムと該第2ディスクナットとの間に圧縮スプリングが備えられていることを特徴とする昇降装置のブレーキ装置である。
【0011】
また、請求項2の発明は、前記第1ディスクナットと第2ディスクナットの爪状突起部が互いに係合して回転トルクを伝達し、かつ互いの該爪状突起が滑る遊び回転角を設けたことを特徴とする請求項1に記載の昇降装置のブレーキ装置である。なお、遊び回転角は概ね30度である。
【0012】
また、請求項3の発明は、前記左ネジと前記右ネジが多条ネジであり、該右ネジに対して該左ネジの条数を多くしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の昇降装置のブレーキ装置である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明では、手動又は原動機による回転駆動力及び重力により水門扉を昇降するようにした昇降装置のブレーキ装置において、
入力軸と出力軸とが回転可能に軸中心線上に対向配備され、
前記入力軸は入力軸段付部と該入力軸の軸端に設けた係止部との間に左ネジが設けられ、該左ネジに第1ディスク板と第1ディスクナットとが螺設され、該第1ディスク板と該第1ディスクナットと中間に入出力軸方向の面に第1と第2摩擦体を備える第1ラチェット板が回動自在に設けられ、かつ該第1ディスク板の出力軸方向の移動を規制する前記係止部を固定する第1係止部材が該左ネジの中間部に設けられ、
前記出力軸は出力軸段付部と該出力軸の軸端に螺設されたテーパ状ナットと該テーパ状ナットに嵌合するロッキングカムによる係止部との間に右ネジが設けられ、該右ネジに第2ディスク板と第2ディスクナットとが螺設され、該第2ディスク板と該第2ディスクナットと中間に出入力軸方向の面に第3と第4摩擦体を備える第2ラチェット板が回動自在に設けられ、かつ該第2ディスク板の入力軸方向の移動を規制する第2係止部材が該右ネジの中間部に設けられ、
前記第1ラチェット板の開方向回転を規制する第1ブレーキ爪と前記第2ラチェット板の閉方向回転を規制する第2ブレーキ爪が設けられ、
前記ロッキングカムと前記第2ディスクナットとを円周方向に分離するように、該ロッキングカムと該第2ディスクナットとの間に圧縮スプリングが備えられていることを特徴とする昇降装置のブレーキ装置であるので、ブレーキ力を発生させる摩擦移動体が第1と第2ディスクナットによる分割された移動体構造となっており、この摩擦移動体である第1と第2ディスクナットが僅かな軸方向の移動により、第1と第2摩擦体が第1と第2ラチェット板に押圧されてブレーキ力を発生させることができ、原動機による回転駆動力は元より手動による開閉操作が円滑にできる利点がある。また、第1と第2ディスクナットにそれぞれ摩擦体が設けられているので、従来のように移動摩擦体が一個の場合と比較し、耐久性が優れたものになる利点がある。
【0014】
また、前記出力軸の軸端はテーパ状ナットが設けられ、このテーパ状ナットにロッキングカムが嵌合した構造の係止部が設けられ、このロッキングカムを覆うように第2ディスクナットが配置され、ロッキングカムと第2ディスクナットとの間に圧縮スプリングが設けられ、圧縮スプリングの伸張によって第2ディスクナットが回動して僅かに出力軸の外側軸端方向に移動し、また、出力軸の回転に応じて圧縮スプリングが伸縮し、この動作を繰り返し、この圧縮スプリングのバネ力によって、第2ディスクナットが入力軸側のテーパ状ナットとロッキングカムに強固に食い込まないようにし、かつ第1と第2ディスクナットの接合部が左右軸方向に移動可能とし、第2ディスクナットの軸方向の微少区間を移動し、水門扉の応答性(水門扉の昇降及び降下の応答性)を高めることができた。また、第1ディスクナットと第2ディスクナットの互いの爪状突起部の噛み合い時に作用する力を圧縮スプリングにより緩和しつつブレーキ力の解除・発生を繰り返して水門扉の安定した降下に寄与する。
【0015】
また、請求項2の発明では、前記第1ディスクナットと第2ディスクナットの爪状突起部が互いに係合して回転トルクを伝達し、かつ互いの該爪状突起が滑る遊び回転角を設けたことを特徴とする請求項1に記載の昇降装置のブレーキ装置であるので、水門扉降下時、第2ディスクナットが圧縮スプリングの反発力を利用して回動して入力軸方向へ移動し、ブレーキ力が解除され、出力軸に作用している負荷トルクにより出力軸が閉方向に回転する。出力軸が閉方向へ回転すると、第1ディスクナットと第2ディスクナットの爪状突起部の遊び回転角の範囲で、第2ディスクナットと右ネジとの関係で第2ディスクナットが出力軸方向に僅かに移動し、再度ブレーキ力が発生するが、入力軸は閉方向に回転を継続しているので、再度ブレーキ力が圧縮スプリングの反発力を利用して解除され、第2ディスクナットは微少区間を左右に移動し、出力軸側のブレーキ力の解除と発生を繰り返し、水門扉の安定した降下が可能である。
【0016】
また、請求項3の発明では、前記左ネジと前記右ネジが多条ネジであり、該右ネジに対して該左ネジの条数を多くしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の昇降装置のブレーキ装置であるので、手動ハンドルで増し締め操作を行う際の第1ディスクナットの入力側への移動距離が、左ネジの条数を多くしたことにより大きくなり、即ち、第1のディスクナットの軸方向の移動量が大きくなり、水門扉の昇降動作の応答性が改善され、また、過大な締め込み力を必要とすることなく、手動ハンドルによる最適な増し締め操作ができる利点がある。無論、ハンドルから手を離したとしても第1ラチェット板の回転が拘束され、第1ブレーキ爪により第1ラチェット板のブレーキ歯が係合して開方向の回転が阻止されてブレーキが掛かり弛むことがない利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る水門扉の昇降を行う昇降装置のブレーキ装置について、図面を参照して説明する。先ず、図1は本発明の一実施形態を示すブレーキ装置の概略断面図であり、このブレーキ装置は、例えば図5に示した駆動力伝達機構を介して昇降装置に接続されている。なお、図1では圧縮スプリングの図示を省略した。また、図2(a),(c)はA−A矢視及びD−D矢視で示したブレーキ機構の断面図であり、図2(b)はB−B矢視で示したディスクナットの摺り合わせ面の正面図である。図3(a)はC−C矢視の圧縮スプリング部の断面図であり、図3(b)はその摺り合わせ面と圧縮スプリングとの関係を示す説明図である。図4(a)は出力側ディスクナットの断面図であり、図4(b)はそのE−E矢視の断面図である。
【0018】
本実施形態について、図1〜図3を参照して説明する。本実施形態は、入力軸30と出力軸40とが、ブレーキケース29aとケースフランジ29b内に軸中心線上に互い対向配備されて軸受部材により回転可能に支承されている。このブレーキ本体は、滑り摩擦を低減するための潤滑油が注入されてカバーケース29cで覆われ、入力軸30には手動で開放操作や増し締め操作をする手動ハンドル1が設けられている。ブレーキ装置の入力軸30は入力軸段付部31より軸端側に左ネジ32が設けられ、入力軸軸端33に二重ナットによりスラスト荷重を受ける係止部34が設けられている。
【0019】
また、出力軸40は出力軸段付部41より軸端側に右ネジ42が設けられ、出力軸軸端43に二重ナット構造によりスラスト荷重を受ける係止部44が設けられている。この係止部44は、テーパ状ナット46が軸端に螺設され、テーパ状ナット46にロッキングカム47が嵌合するように設けられ、さらにナットが軸端に螺設され、このナットとロッキングカム47とがボルト締めされて二重ナット構造を構成している。このように入力軸30と出力軸40は、入力軸30の左ネジ32と出力軸40の右ネジ42とが軸中心線上に互い向き合うように配備されている。なお、テーパ状ナット46のテーパ面には滑り防止のためにローレット加工等が施されている。
【0020】
また、入力軸30の左ネジ32には、移動摩擦体である第1ディスク板50と第1ディスクナット(摩擦移動体)51とが螺設され、第1ディスク板50と第1ディスクナット51との間に、入出力軸方向の面に第1と第2摩擦体52,53が備えられた第1ラチェット板60が回動自在に設けられ、かつ第1ディスク板50の出力軸側への移動を規制する第1係止部材35が左ネジ32の中間部に設けられている。第1と第2摩擦体52,53にはブレーキライニングが施されている。第1ディスク板50は、入力軸段付部31と第1係止部材35とでその移動量が規制されている。
【0021】
また、出力軸40の右ネジ42には、移動摩擦体である第2ディスク板70と第2ディスクナット(摩擦移動体)71とが螺設され、第2ディスク板70と第2ディスクナット71との間に、出入力軸方向の面に第3と第4摩擦体72,73が備えられた第2ラチェット板80が回動自在に設けられ、かつ第2ディスク板70の入力軸側への移動を規制する第2係止部材45が右ネジ42の中間部に設けられている。第3と第4摩擦体72,73にはブレーキライニングが施されている。第2ディスク板70は、出力軸段付部41と第2係止部材44とでその移動量が規制されている。
【0022】
また、左ネジ32と右ネジ42は角ネジの多条ネジが用いられ、例えば、左ネジ32の条数が4であり、右ネジ42の条数が3に設定されている。左ネジ32の条数を右ネジ42の条数に対して大きな値とし、右ネジ42の移動摩擦体(第2ディスクナット71)の移動量に対し、左ネジ32の移動摩擦体(第1ディスクナット51)の移動量が大きくなるように設定され、入出力軸30,40の回転による水門扉の昇降動作の応答性が改善されている。
【0023】
また、本実施形態には、第1ラチェット板60と第2ラチェット板80の回転方向を規制する第1ブレーキ機構90Aと第2ブレーキ機構90Bとがブレーキケース29aに固定されている。図2(a),(c)に示したように、第1ブレーキ機構90A及び第2ブレーキ機構90B内のスプリングにより、第1と第2ブレーキ爪90a,90bが第1ラチェット板60と第2ラチェット板80との一方向の回転を許容し得るように出没可能に設けられている。第1ブレーキ機構90Aは、第1ブレーキ爪90aが設けられて第1ラチェット板60の水門扉の開方向の回転を規制し、閉方向の回転を許容している。また、第2ブレーキ機構90Bは、第2ブレーキ爪90bが設けられて第2ラチェット板80の水門扉の閉方向の回転を規制し、水門扉の開方向の回転を許容している。
【0024】
また、第1と第2ディスクナット51,71は、図2(b)に示すように、爪状突起51a,71aを有するので、両者が噛み合って入力軸30又は出力軸40のトルクを伝達できるし、爪状突起51a,71aには、概ね30度の遊び回転角が設けられ、第1と第2ディスクナット51,71はこの遊び回転角の範囲で滑りを許容した構造とし、この遊び回転角により第2ディスクナット71の微少な軸方向の移動を可能としている。爪状突起51a,71aは円対象に設けられ、その摩擦面の回転角は概ね60度である。さらに、この微少区間の移動は、この遊び回転角に加えて圧縮スプリング48が設けられていることにより、昇降動作の応答性が改善されている。
【0025】
圧縮スプリング48は、図3及び図4に示したように、第2ディスクナット71に設けた挿通孔71aとロッキングカム47の受け溝47aとに収納され、圧縮スプリング48は止めねじ71cで固定され、4箇所設けられている。この挿通孔71aは、ロッキングカム47の中心に対して接線方向に穿設され、圧縮スプリング48のバネ力が第2ディスクナット71に十分に加わるように設けられている。この圧縮スプリング48は、伸張時、第2ディスクナット71とロッキングカム47とを円周方向に分離する働きを有する。この圧縮スプリング48は、その反発力によって、ハンドル1等により水門扉を開方向(反重力方向)に回動させた際に、第2ディスクナット71が第3と第4摩擦体72,73の摩耗によって、入力軸側に食い込んで分離が困難になるのを解消し、圧縮スプリング48の伸張による分離作用によって、水門扉の昇降操作に対して適切な応答性を得ることができる。なお、圧縮スプリング48は、第2ディスクナット71の入力軸方向の移動距離を規制する役割を果たしている。
【0026】
続いて、本実施形態のブレーキ装置の動作について図1,図2及び図3を参照して説明する。先ず、水門扉上昇時には入力軸30を右方向(開方向)9に回転し、入力軸30の端部の左ネジ32と左ネジ32に螺合する第1ディスクナット51との関係から第1ディスクナット51は出力軸側へ移動するが、二重ナットによる係止部34に当接して、入力軸30及び第1ディスクナット51、第1ディスク板50が一体となって回転する。この時、第1ディスク板50は二分割ストッパーである第1係止部35により軸方向移動が規制され、第1ディスク板50は摩擦板52及び第1ラチェット53を圧着することなく、第1ラチェット60は空転可能な状態に保持される。なお、第1ラチェット60はピン状のブレーキ爪90aにより回転が規制されているが、第1ラチェット60は空転可能な状態に保持されており、入力軸30は右方向(水門扉が開方向)9に回転する。
【0027】
一方、出力軸40の軸端部の右ネジ42と右ネジ42に螺合する第2ディスクナット71と圧縮スプリングの関係から第2ディスクナット71は出力軸側へ移動し、第2ラチェット80及び摩擦板72,73を圧着する。出力軸40側の第2ラチェット80はピン状のブレーキ爪90bが水門扉の開方向の回転を規制していないので、入力軸30と出力軸40とが一体となって回転する。なお、第2ディスクナット70は出力軸段付部41と二分割ストッパーである第2係止部45により軸方向移動が規制されている。昇降装置による入力軸30の右方向(開方向)9の回転により水門扉は上昇する。
【0028】
次に、水門扉降下時について説明する。水門扉降下時には入力軸30を左方向(閉方向)10に回転し、入力軸30の左ネジ35と左ネジ35に螺合する第1デスクナット51の関係から第1デスクナット51は入力軸側へ移動し、摩擦板53及び第1ラチェット60を圧着して一体となり、入力軸側の第1ラチェット60はピン状のブレーキ爪90aにより回転を規制していないので、入力軸30は左方向(閉方向)10に回転する。
【0029】
一方、出力軸40は、右ネジ42と右ネジ42に螺合する第2ディスクナット71との関係から第2ディスクナット71は入力軸側へ移動し、摩擦板73及び第2ラチェット80の圧着を開放する。即ち、第2ラチェット80のブレーキ力が解除されるので、出力軸側に作用している負荷トルクにより出力軸40は重力作用向き(閉方向)27へ回転することになる。出力軸40が閉方向27に回転すると、第2ディスクナット71と右ネジ42の関係と、第1と第2ディスクナット51,71の爪状突起51a,71aの遊び回転角との関係から、第2ディスクナット72は再び出力軸方向に移動し、摩擦板及びラチェットを圧着しブレーキ力を発生させる。入力軸30は閉方向の回転を継続しているので、再度ブレーキ開放効果が働く。その際、圧縮スプリング48の伸張力によって、スムーズに第2ディスクナット72が右方向に回転する。以下同様に入力軸30側のブレーキ力の開放、発生が繰り返され、第2ディスクナット72は軸上の微少区間往復運動をして出力軸40は円滑に閉方向に回転し、水門扉が閉じられる。
【0030】
なお、増し締め操作は、手動ハンドル1を閉じ方向10に回転させて行うが、開方向の回転力が働いたとしても第1ラチェット60のブレーキ爪がブレーキ爪90aに規制されて開方向の回転が規制される。そのブレーキ力の開放は昇降装置の電動機始動力による場合と、手動ハンドル開放操作(上昇)後の電動運転が選択できる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の活用例としては、水門扉の昇降装置のブレーキ装置に利用することができるし、また他の昇降装置のブレーキ装置として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る昇降装置のブレーキ装置の一実施形態を示す概略断面図である。
【図2】(a),(c)は本実施形態のA−A矢視及びD−D矢視のブレーキ機構の断面図であり、(b)は出力軸の嵌合面のB−B矢視の概略平面図である。
【図3】(a)は本実施形態のC−C矢視の断面図であり、(b)はその摺り合わせ面と圧縮スプリングとの関係を示す説明図である。
【図4】(a)はディスクナットの断面図であり、(b)はそのE−E矢視の断面図である。
【図5】従来のブレーキ装置と昇降装置との伝達機構を示す概略図である。
【図6】従来のブレーキ装置の断面図である。
【図7】従来のブレーキ機構を示す断面図である。
【符号の説明】
【0033】
29a ブレーキケース
29b ケースフランジ
30 入力軸
31 入力軸段付部
32 左ネジ
33 入力軸軸端
34 係止部
35 第1係止部材
40 出力軸
41 出力軸段付部
42 右ネジ
43 出力軸軸端
44 係止部
45 第2係止部材
46 テーパ状ナット
47 ロッキングカム
47a 受け溝
48 圧縮スプリング
50 第1ディスク板
51 第1ディスクナット(摩擦移動体)
51a 爪状突起
52,53 摩擦体
60 第1ラチェット
70 第2ディスク板
71 第2ディスクナット(摩擦移動体)
71a 爪状突起
71b 挿通孔
72,73 摩擦体
80 第2ラチェット
90A ブレーキ機構
90a ブレーキ爪
90B ブレーキ機構
90b ブレーキ爪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
手動又は原動機による回転駆動力及び重力により水門扉を昇降するようにした昇降装置のブレーキ装置において、
入力軸と出力軸とが回転可能に軸中心線上に対向配備され、
前記入力軸は入力軸段付部と該入力軸の軸端に設けた係止部との間に左ネジが設けられ、該左ネジに第1ディスク板と第1ディスクナットとが螺設され、該第1ディスク板と該第1ディスクナットとの間に入出力軸方向の面に第1と第2摩擦体を備える第1ラチェット板が回動自在に設けられ、かつ該第1ディスク板の出力軸方向の移動を規制する第1係止部材が該左ネジの中間部に設けられ、
前記出力軸は出力軸段付部と該出力軸の軸端に螺設されたテーパ状ナットと該テーパ状ナットに嵌合するロッキングカムによる係止部との間に右ネジが設けられ、該右ネジに第2ディスク板と第2ディスクナットとが螺設され、該第2ディスク板と該第2ディスクナットとの間に出入力軸方向の面に第3と第4摩擦体を備える第2ラチェット板が回動自在に設けられ、かつ該第2ディスク板の入力軸方向の移動を規制する第2係止部材が該右ネジの中間部に設けられ、
前記第1ラチェット板の開方向回転を規制する第1ブレーキ爪と前記第2ラチェット板の閉方向回転を規制する第2ブレーキ爪が設けられ、
前記ロッキングカムと前記第2ディスクナットとを円周方向に分離するように、該ロッキングカムと該第2ディスクナットとの間に圧縮スプリングが備えられていることを特徴とする昇降装置のブレーキ装置。
【請求項2】
前記第1ディスクナットと第2ディスクナットの爪状突起部が互いに係合して回転トルクを伝達し、かつ互いの該爪状突起が滑る遊び回転角を設けたことを特徴とする請求項1に記載の昇降装置のブレーキ装置。
【請求項3】
前記左ネジと前記右ネジが多条ネジであり、該右ネジに対して該左ネジの条数を多くしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の昇降装置のブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−277915(P2007−277915A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−105399(P2006−105399)
【出願日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(598168759)有限会社ミューロン (11)
【出願人】(000154037)株式会社表鉄工所 (8)
【Fターム(参考)】