説明

時間デジタル変換装置およびデジタル位相同期ループ装置、受信機

【課題】広帯域の周波数範囲に対応可能で、量子化ノイズ成分を増大させることなく低消費電力化を図る。
【解決手段】時間デジタル変換器104は、発振周波数を制御する周波数制御信号16を用いて、入力周波数に応じて動作する遅延回路10−1〜10−nの段数を切り替えるスイッチング素子12−1〜12−nを備えている。入力周波数の周期に応じて必要な段数の遅延回路だけが動作することとなるため、広帯域の周波数範囲に対応しながらも系全体の低消費電力化を図ることが可能となり、特に高い入力周波数において低消費電力化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル位相同期ループ(Phase−Locked Loop)回路の位相周波数検出部に用いられる時間デジタル変換装置、これを用いたデジタル位相同期ループ装置および受信機に関し、特に、小数部の位相周波数検出器(fractional phase detector;フラクショナル・フェイズ・ディテクタ)として用いられる時間デジタル変換装置、これを用いたデジタル位相同期ループ装置および、これを信号発生部に用いた受信機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線通信の受信機(チューナ装置)などでは、デジタルPLL回路として、デジタル位相同期ループ(PLL)回路が信号発生部に用いられている。特に、所定の発振周波数を出力する発振器からの出力と、基準信号(参照信号)となる入力信号とを比較するために、時間デジタル変換器による位相周波数検出器と位相周波数比較器とを用いた位相同期ループ回路の開発が行われている。
【0003】
図6は、従来の一般的なデジタルPLL回路の要部構成例を示すブロック図である。
【0004】
図6において、従来のデジタルPLL回路100は、DPC(Digital Phase Comparator;デジタル位相比較器)101と、ループフィルタ102と、DCO(Digital Controlled Oscillator;デジタル制御発振器)103と、カウンタ104とが、閉ループ状に接続されて構成されている。なお、図6では、カウンタ104を独立した回路としているが、機能上は、DCO103の構成要素として含まれている。このように、従来のデジタルPLL回路100は、構成上、アナログPLL回路におけるVCO(Voltage Controlled Oscillator;電圧制御発振器)をDCOに置き換えたものと見ることができる。
【0005】
DPC101は、例えばラッチ回路によって構成されており、外部から基準信号として入力デジタル信号Φinが供給される毎に、カウンタ104からのカウント値CNTを取り込んで保持し、位相差信号PCとして出力する。
【0006】
ループフィルタ102は、例えばデジタルローパスフィルタによって構成されており、DPC101から順次出力される位相差信号PCの不要な周波数帯域の成分を除去して、周波数制御信号NとしてDCO103に出力する。
【0007】
DCO103は、この周波数制御信号Nを入力として、周波数制御信号Nに応じた発振周波数のデジタル信号φoを径全体の出力信号として出力すると共に、カウンタ104にもこのデジタル信号φoをフィードバック制御用のDCO出力信号として供給する。
【0008】
カウンタ104は、一定周波数fの基本クロック信号によりDCO出力信号のカウントが行われる。
【0009】
上記構成により、図6に示す従来のデジタルPLL回路100の動作について簡単に説明する。
【0010】
まず、DPC101には、外部からの基準信号の入力デジタル信号φinとカウンタ104からのカウント値CNTとが入力され、入力デジタル信号φinの供給毎に、カウンタ104のカウント値CNTを取り込んで保持し、これを位相差信号PCとしてループフィルタ102に出力する。
【0011】
次に、ループフィルタ102により、この位相差信号PCの不要な周波数帯域の成分を除去して、周波数制御信号NとしてDCO103に出力する。
【0012】
さらに、DCO103は周波数制御信号Nに応じた発振周波数のデジタル信号φoをカウンタ104に出力し、カウンタ104では、一定周波数fの基本クロック信号に基づいてデジタル信号φoのカウントを行い、カウント値CNTをDPC101に出力する。
【0013】
このカウンタ104からのカウント値CNT(位相出力に相当)と、入力デジタル信号φinの位相とが位相比較器のDPC101により位相比較されて、その位相差信号PCの位相差に応じて周波数制御信号Nを増減する。これによって、DCO103の位相出力と入力デジタル信号φinとの齟齬(ずれ量)を補正する。
【0014】
即ち、そのカウント値CNTと基準信号の入力デジタル信号Φinとが比較されて、それらのずれ量を示す位相差信号PCにより、上記周波数制御信号Nを増減する。これによって、DCO103からのデジタル信号φoを、カウント値CNTの分だけ分周した低い周波数の基準信号(入力デジタル信号Φin)と一致するように、DCO103の発振周波数が制御されている。
【0015】
特定の周波数帯域、例えば2.4GHzが用いられる「BLUETOOTH」規格においては、位相比較器のDPC101により位相比較用(参照用)の基準信号(入力デジタル信号Φin)が用いられる。この基準信号に応じた複数倍の周波数を持つ発振周波数信号をDCO103で発生させるためには、安定な基準発振器からの出力信号が基本クロック信号として用いられて、上述したようなカウント動作が行われる。安定な基準発振器としては、例えば移動通信用グローバルシステム(GSM)に用いられる13MHzのTCXO(Temperature Compensated Xtal Oscillator)のような基準水晶発振器が用いられている。
【0016】
カウンタ104では、DCO103からのDCO出力信号を基本クロック信号によりカウントするという連続的な時間に関するアナログ信号を、離散的なデジタル信号に変換する一種のアナログ−デジタル変換器(Analog to Digital Converter)に相当する動作を行う。このようなアナログ−デジタル変換器は、時間デジタル変換器と呼ばれ、例えば特許文献1,2に開示されている。
【0017】
図7は、特許文献1に開示されている従来の時間デジタル変換器の要部構成例を示すブロック図である。
【0018】
図7において、この従来の時間デジタル変換器110は、第1入力信号S1を順次遅延させる複数段の遅延回路111−1〜111−nと、基準クロック信号としての第2入力信号S2の立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジの遷移に基づいて、各遅延回路111−1〜111−nによりそれぞれ順次遅延された各第1入力信号S1の値(レベル)をそれぞれラ保持する複数のラッチ/ホールド回路112−1〜112−nと、第2入力信号S2の遷移タイミングにおいて各ラッチ/ホールド回路112−1〜112−nから出力された遅延第1入力信号S1から、基準クロック信号としての第2入力信号1周期当たりの第1入力信号S1の遅延量を示すベクトル値を検出するエッジ検出器113とを備えている。
【0019】
この時間デジタル変換器110は、図6ではカウンタ104に相当し、第1入力信号S1がデジタル信号φo(DCO出力信号)、第1入力信号S1の遅延情報(遅延値)がカウンタ104からのカウント値CNTに相当するものであり、この例では「BLUETOOTH」規格の帯域用に用いられる全デジタルPLL回路のデジタル位相検出器として設計されている。デジタルPLL回路において、時間デジタル変換器110は、位相比較器のDPC101への入力信号を生成するため、特に、小数部の位相を検出するために用いられており、時間デジタル変換器110からの出力位相情報(遅延値)は、上述した位相比較用の基準信号と比較される。
【0020】
具体的には、図7の時間デジタル変換器110では、時間分解能が、インバータで構成される複数段の遅延回路111−1〜111−nの遅延時間によって決定され、時間デジタル変換器110の最大時間分解能は、各遅延回路111−1〜111−nの遅延時間によって決定される。例えば、テキサス州ダラスのテキサスインスツルメンツ社によって開発されたCO35.1CMOSプロセスにより製造されたインバータにおいては遅延時間は約40psecである。この時間を一単位として、直列接続された複数段の遅延回路111−1〜111−nに対してDCO103からの第1入力信号S1が入力され、各遅延回路111−1〜111−nからその直前のインバータの出力よりも一単位(基準遅延量)だけ遅延された信号が出力されることによって、DCO出力信号の位相情報を得ることができる。即ち、一単位分ずつ順次遅延されたDCO103からの出力信号(第1入力信号S1)は、上述したような基本クロック信号(第2入力信号S2)によってサンプリングされ、その各サンプリング値が変化した遅延段に相当する時間が位相情報(遅延値)として出力される。
【0021】
図8は、図6の入力デジタル信号Φin(基準信号)と、時間デジタル変換器への第1入力信号S1であるDCO出力信号との各信号波形のタイミングを示すタイミングチャートである。なお、図6の入力デジタル信号Φin(基準信号)と、図7の時間デジタル変換器のエッジ検出器113からの出力信号とが比較される。
【0022】
図8において、DCO出力信号(図7の第1入力信号S1または図6のデジタル信号φo)の「1」から「0」への遷移の位置をt0とし、DCO出力信号の「0」から「1」への遷移の位置をt1とし、基本クロック信号(図7の第2入力信号S2)によるサンプリングにより検出された遅延DCO出力信号の立ち上がり遷移エッジの位置をt2とすると、t1からt2の期間は量子化されたDCO出力信号の立ち上がりエッジの遅延時間ΔTrを示し、t0からt2の期間は遅延DCO出力信号の立ち下がりエッジの量子化された遅延時間ΔTfを示している。
【0023】
下記式(数1)に示すように、DCO出力信号の周期Tνは、ΔTrとΔTfとの差の倍数として表すことができる。
【0024】
【数1】

位相検出器(時間デジタル変換器110)からの出力信号とΔTrを組み合わせるためには、DCO出力信号の周期によって除算することにより、ΔTrを正規化する必要がある。正規化されたΔTrをεとして下記式(数2)に示している。
【0025】
【数2】

上記式中、ΔtrはΔTr、ΔtfはΔTfである。
【0026】
以上のようにして、DCO出力信号の立ち上がり遷移エッジ、または立ち下がり遷移エッジと基準信号出力との時間差を検出し、その時間差(ΔTrまたはΔTf)をデジタル信号(デジタル位相)として表すことができる。ここで得られたデジタル位相(位相情報)は、小数部のデジタル位相情報として、位相比較器のDPC101に入力される。
【特許文献1】米国特許第6429693号公報
【特許文献2】米国特許第6326851号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
しかしながら、上記図7に示す従来の時間デジタル変換器には、以下のような問題がある。
【0028】
上記時間デジタル変換器は、「BLUETOOTH」規格の帯域2.4GHz用として設定されている。しかしながら、このような特定周波数の近傍帯域のみでなく、テレビジョン受信機などのような広帯域の周波数範囲、例えばUHF帯:400MHz〜900MHzにより用いられる場合においては、発振器に課される発振周波数範囲についても同程度必要となる。したがって、デジタル位相検出器(時間デジタル変換器)への入力周波数が高い場合には、1周期に必要とされる時間が短いため、少ない段数の遅延回路によって位相検出を実現することができる。一方、デジタル位相検出器への入力周波数が低い場合に安定な動作を実現するためには、その1周期分の時間を保障するために、多くの段数の遅延回路が必要とされる。このため、全体の回路構成としては、低い入力周波数に対しても安定な動作を確保して全発振周波数範囲を補償するために、必要な遅延回路の段数が多く相当なものとなる。
【0029】
しかしながら、入力周波数が高い場合には、必要とされる遅延回路の段数は少なくてよいため、通常動作に必要ではない遅延回路まで動作するという問題がある。例えば、1段当たりの遅延回路の遅延時間を50psecとした場合、デジタル位相検出器への入力周波数が1GHzであれば、20段の遅延回路により実現可能である。これに対して、入力周波数が400MHzであれば、50段の遅延回路が必要となる。広帯域の周波数範囲において安定な動作を実現するためには、入力周波数が低い場合に合わせて遅延回路が動作することを保障するべきであるため、高い周波数の信号が入力された場合にも50段の遅延回路が動作することとなり、その消費電力を無視することはできない。さらに、入力周波数が高いほど、遅延回路1段当たりの動作に必要とされる消費電力が増大するため、回路全体としての消費電力も問題となる。
【0030】
このためには、入力周波数に応じて遅延回路が生成する遅延時間を変化させるという方法も考えられるが、一般的に遅延時間を大きくすると量子化ノイズ成分が増大するという問題がある。量子化ノイズ成分の増大は、DCO出力信号の位相雑音性能に弊害をもたらすことを意味する。したがって、DCOの発振周波数に応じて遅延時間を変化させる方法は、適切な課題解決方法ではない。
【0031】
本発明は、上記従来の問題を解決するもので、広帯域の周波数範囲に対応可能で、量子化ノイズ成分を増大させることなく低消費電力化を図ることができる時間デジタル変換装置、これを用いたデジタル位相同期ループ装置および、これを信号発生部に用いた受信機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明の時間デジタル変換装置は、第1入力信号を順次遅延させる複数段の遅延手段と、 第2入力信号の立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジに基づいて、該遅延手段のそれぞれにより遅延された第1入力信号をそれぞれラッチする複数のラッチ/ホールド手段と、 該第2入力信号の遷移タイミングにおいて該ラッチ/ホールド手段からそれぞれ出力された遅延第1入力信号の各値から、該第2入力信号1周期当たりの該第1入力信号の遅延情報を検出するエッジ検出手段と、該第1入力信号の入力周波数に対応した第3入力信号を用いて、動作する遅延手段の段数を調整する遅延段数調整手段とを有するものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0033】
また、好ましくは、本発明の時間デジタル変換装置における第3入力信号は、前記第1入力信号の発振周波数を制御するためのデジタル信号かまたは、外部から入力されるデジタル信号である。
【0034】
さらに、好ましくは、本発明の時間デジタル変換装置における遅延段数調整手段は、前記第1入力信号の発振周波数を制御するデジタル信号のビット値の変化または、前記外部から入力されるデジタル信号のビット値の変化に応じて動作する遅延手段の段数を調整する。
【0035】
さらに、好ましくは、本発明の時間デジタル変換装置における遅延段数調整手段は、前記複数段の遅延手段からの出力をそれぞれオンオフ制御する複数のスイッチ手段を有する。
【0036】
さらに、好ましくは、本発明の時間デジタル変換装置における複数段の遅延手段は、直列接続された複数の反転回路から構成されている。
【0037】
さらに、好ましくは、本発明の時間デジタル変換装置におけるラッチ/ホールド手段は、D型フリップフロップから構成されている。
【0038】
さらに、好ましくは、本発明の時間デジタル変換装置における第1入力信号としてデジタル制御発振手段からの出力信号が入力され、前記第2入力信号として基本クロック信号が入力されている。
【0039】
さらに、好ましくは、本発明の時間デジタル変換装置における遅延情報は、前記第1入力信号の遅延量を示すベクトル値である。
【0040】
さらに、好ましくは、本発明の時間デジタル変換装置において、前記外部から入力されるデジタル信号は、前記第1入力信号の発振周波数を制御するための内部デジタル信号とは別のデジタル信号であって、該第1入力信号の発振周波数を制御するためのデジタル信号である。
【0041】
さらに、好ましくは、本発明の時間デジタル変換装置における複数のスイッチ手段はそれぞれ、前記デジタル信号のビット列の各ビット毎にそれぞれオンオフ制御される。
【0042】
本発明のデジタル位相同期ループ装置は、本発明の上記時間デジタル変換装置と、前記第3入力信号と該時間デジタル変換装置からの出力信号との差をデジタル値として出力するデジタル位相周波数比較手段と、該デジタル位相周波数比較手段からの出力信号から必要な帯域のみを通過させるループフィルタ手段と、該ループフィルタ手段からの出力信号に応じて所定の発振周波数になるように前記第1入力信号を発振出力するデジタル制御発振手段とを有するものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0043】
また、好ましくは、本発明のデジタル位相同期ループ装置におけるデジタル位相周波数比較手段は、前記第3入力信号と前記時間デジタル変換装置からの出力信号とを減算処理する減算処理回路と、減算処理した信号を保持するラッチ回路を有している。
【0044】
さらに、好ましくは、本発明のデジタル位相同期ループ装置におけるループフィルタ手段はデジタルローパスフィルタ手段を有している。
【0045】
さらに、好ましくは、本発明のデジタル位相同期ループ装置におけるデジタル制御発振手段は、2値制御を可能とする複数のバラクタ容量を有している。
【0046】
本発明の受信機は、基準信号を参照してこれと同一または異なる発振周波数信号を得るための本発明の上記デジタル位相同期ループ装置を信号発生部に用いたものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0047】
上記構成により、以下に、本発明の作用について説明する。
【0048】
本発明の時間デジタル変換装置では、発振周波数制御信号の第3入力信号を用いて入力周波数に応じて動作する遅延回路の段数を調整可能とする遅延段数調整手段が設けられている。このように、入力周波数に応じて動作する遅延回路の段数が調整されるため、低い入力周波数に対しても安定な動作を確保可能な複数段数の遅延回路を設けて、高い入力周波数に対しては必要な段数の遅延回路だけを動作させることが可能となる。したがって、広帯域の周波数範囲に対応しながらも、系全体の低消費電力化を図ることが可能となる。
【0049】
例えば、発振周波数を制御するデジタル信号である周波数制御信号を利用して、スイッチング回路などの複数の切換回路によって、必要な段数の遅延回路が動作するようにオンオフ制御することが可能となる。また、外部から制御信号(デジタル信号)を入力することにより、必要な段数の遅延回路が動作するようにオンオフ制御することも可能となる。
【0050】
複数のスイッチ手段はそれぞれ、デジタル信号のビット値の変化をサーモメータコードとして出力することによりそれぞれオンオフ制御されるため、複数のスイッチ手段を簡単にオンオフ制御できて、DCOの発振周波数を制御する周波数制御信号に応じて複数段の遅延回路の動作範囲を容易に繰り替えることが可能となる。
【発明の効果】
【0051】
以上により、本発明によれば、入力周波数に応じて、動作させる遅延回路の段数を調整することができる。これによって、入力周波数が低い場合にも安定した動作が可能な段数の遅延回路を設けて、入力周波数が高い場合には必要な段数の遅延回路のみを動作させることができる。したがって、テレビジョン受信装置(受信機)などの幅広い入力周波数範囲に応じて、適切な段数の遅延回路を動作させることができ、遅延回路を安定かつ低い消費電力により動作させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下に、本発明の時間デジタル変換装置の実施形態1および、これを用いた本発明のデジタル位相ループ回路の実施形態2、3について、図面を参照しながら詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る時間デジタル変換装置の基本構成例を示す回路図である。
【0053】
図1において、本実施形態1の時間デジタル変換器10は、第1入力信号S1としてのDCO出力信号を順次遅延させる複数段の遅延手段としての遅延回路11−1〜11−nと、第2入力信号S2としての基本クロック信号の立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジに応じて、遅延回路11−1〜11−nのそれぞれにより遅延されたDCO出力信号をそれぞれラッチして保持する複数のラッチ/ホールド手段としてのラッチ/ホールド回路12−1〜12−nと、基本クロック信号の遷移タイミングにおいてラッチ/ホールド回路12−1〜12−nからそれぞれ出力された遅延したDCO出力信号から、基本クロック信号1周期当たりの遅延DCO出力信号の遅延情報(遅延値)を検出するエッジ検出手段としてのエッジ検出器13と、DCOの発振周波数を制御するデジタル信号である第3入力信号S3を用いて、DCO出力信号の入力周波数に応じて、動作する遅延手段の段数を調整する遅延段数調整手段としてのスイッチング回路14−1〜14−nとを備えている。
【0054】
遅延回路11−1〜11−nは、複数段の反転回路(インバータ)で構成されており、図示しないDCOからのDCO出力信号が第1入力信号S1として伝送線路L1を通じて受信され、そのDCO出力信号が順次遅延されるようになっている。
【0055】
ラッチ/ホールド回路12−1〜12−nは、複数段の一般的なD型フリップフロップ回路で構成されており、基本クロック信号が第2入力信号S2として伝送線路L2を通じて受信され、その立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジの遷移に応答して、各遅延回路11−1〜11−nからの各DCO出力信号データの遅れの瞬間値(信号レベル)がラッチされて保持される。
【0056】
エッジ検出器13は、基本クロック信号(第2入力信号S2)の遷移タイミングにおいて各ラッチ/ホールド回路からのDCO出力信号データの遅れの瞬間値(信号レベル)から、基本クロック信号1周期辺りのDCO出力信号の遅延情報としてその遅延量を示すベクトル値(「0」から「1」の立ち上がりと「1」から「0」の立下りを区別している)が検出されてこれがデジタル値として出力される。
【0057】
スイッチング回路14−1〜14−nは、遅延回路11−1〜11−nの段数を制御するために各遅延回路11−1〜11−nの出力をオンオフ制御する切換回路(スイッチ手段)として用いられ、DCOの発振周波数を制御するデジタル信号である第3入力信号S3が伝送線路L3を通じて受信され、DCO出力信号の入力周波数に応じて各遅延回路11−1〜11−nの出力がオンオフ制御されている。
【0058】
以下に、上記各構成およびその動作について、さらに詳しく説明する。
【0059】
まず、遅延回路11−1〜11−nについて説明する。第1入力信号S1としてのDCO出力信号が、伝送線路L1を通じて1段目の遅延回路11−1に入力されて1段分の遅延時間だけ遅れた信号(遅延値)が出力され、これが2段目の遅延回路11−2へ入力される。この動作が繰り返されて、n−1段目の遅延回路11−(n−1)に入力された信号は、n−1段分の遅延時間だけ遅れた信号(遅延値)として出力され、これがn段目の遅延回路11−nへ入力される。
【0060】
次に、ラッチ/ホールド回路12−1〜12−nについて説明する。各遅延回路11−1〜11−nからそれぞれ出力された各信号は、n個のラッチ/ホールド回路12−1〜12−nによって、伝送線路L2を通じて伝送される基本クロック信号(第2入力信号S2)の立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジの遷移タイミングに応答して、DOC出力信号の遅延を表す要素n個のベクトルの瞬間値としてラッチされて保持される。この遅延ベクトルの特性は、遅延回路11−1〜11−nの総数n、遅延回路1段当たりの遅延時間量および基本クロック信号によるラッチ/ホールド回路12−1〜12−nによって決定される。本実施形態1では、これら直列のラッチ/ホールド回路12−1〜12−nとして、一般的なD型フリップフロップ回路が用いられており、基本クロック信号(第2入力信号S2)の立ち上がりエッジにおいて入力信号(DCO出力信号)の情報がラッチされ、次の基本クロック信号(第2入力信号S2)の立ち上がりエッジが入力されるまでその状態が保持される(立ち下りエッジに応答する場合もある)。このラッチ/ホールド回路12−1〜12−nには、「High」と「Low」の2つのレベル状態が1ビットの情報として保持され、これらがエッジ検出器13に出力される。
【0061】
エッジ検出器13について詳細に説明する。このエッジ検出器13は、図示しない2つの回路ブロックによって構成されている。第1の回路ブロックは、各遅延回路11−1〜11−nからの各出力がラッチ/ホールド回路12−1〜12−nにより基本クロック信号の立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジの遷移のタイミングによってそれぞれラッチされて保持された1ビット(一単位遅延時間)分の遅延情報が、サーモメータコード(2進法の例えば「111」を「11111111」の「1」が8つとして表す)として出力されるように構成されている。また、第2の回路ブロックにおいては、そのサーモメータコードが1ビット(一単位遅延時間)の時間により除算されるように構成されている。第1の回路ブロックによって、DCO出力信号の周波数1周期分と実際の遅延時間とが、各遅延回路11−1〜11−nの遅延時間により導出されて、その信号がサーモメータコードとして出力されることによって、ある状態のDCO出力信号周波数の周期と実際の遅延時間とを、「High」と「Low」という状態によって認識することが可能となる。また、第2の回路ブロックによって、この1ビット(一単位遅延時間)の時間情報が除算回路により除算されることによって、DCO出力信号の周波数1周期当たりの遅延時間(遅延量)をデジタル信号として出力させることが可能となる。
【0062】
スイッチング回路14−1〜14−nについて説明する。DCO出力信号の周波数が変化する場合、即ち、遅延回路11−1に入力される信号の周波数が変化する場合には、伝送線路L3を介して伝播される周波数制御信号(DCOの発振周波数を制御するデジタル信号の第3入力信号S3)に応じて各遅延回路からの出力をオンオフ制御するスイッチング回路12−1〜12−nによって、必要な段数の遅延回路だけが動作するようにオンオフ制御される。この場合の周波数制御信号(DCOの発振周波数を制御するデジタル信号の第3入力信号S3)は、DCO出力信号としてDCOから所定の発振周波数の信号を出力させるための制御信号であるため、基準信号(DPC入力信号)と第3入力信号S3とは両者が異なる周波数となるような制御状態は、基本的にこのシステム内には存在しない。第3入力信号S3は、周波数が同一かまたは異なる第1入力信号S1(DCO出力信号)の入力周波数に対応した信号である。したがって、第1入力信号S1であるDCO出力信号の周波数に応じて遅延回路の動作を制御することができるため、広帯域の周波数範囲においても低消費電力化を実現することができる。
【0063】
スイッチング回路14−1〜14−nがそれぞれ、デジタル信号のビット値の変化をサーモメータコードとして出力することによりそれぞれオンオフ制御することができる。これによれば、スイッチング回路14−1〜14−nを簡単に順次オンオフ制御できて、DCOの発振周波数を制御する周波数制御信号(第3入力信号S3)のビット値の変化に応じて複数段の遅延回路11−1〜11−nの動作範囲を容易に切り換えることができるようになる。
【0064】
この周波数制御信号(DCOの発振周波数を制御するデジタル信号の第3入力信号S3)のビット列によりオンオフ制御されるスイッチング回路14−1〜14−nによって、各遅延回路はn段目から順番にオフされるかまたは、各遅延回路は1段目から順番にオンされる。
【0065】
ここで、本実施形態1の時間デジタル変換器10における遅延回路11−1〜11−nとその出力をオンオフ制御するスイッチング回路14−1〜14−nの構成について、さらに具体的に説明する。
【0066】
図2は、図1の時間デジタル変換回路10における遅延回路およびその段数をオンオフ制御するスイッチング回路の構成例を示す回路図である。なお、図2では、1段分の遅延回路11−1およびそのスイッチング回路14−1とを示しているが、この時間デジタル変換回路10においては、図1のように複数段の遅延回路11−1〜11−nおよびそのスイッチング回路14−1〜14−nが設けられている。
【0067】
図2において、遅延回路11−1であるインバータには、DCO出力信号(第1入力信号S1)が伝送線路L1を介して入力されている。遅延回路11−1〜11−nの段数を制御するスイッチング回路14−1〜14−nはそれぞれ、段数制御用インバータ14aおよび14bとスイッチング素子14c(P型FET)および14d(N型FET)とを有しており、周波数制御信号(DCOの発振周波数を制御するデジタル信号S3)が段数制御用インバータ14aに伝送線路L3を介して入力されている。段数制御用インバータ14aの出力端は段数制御用インバータ14bの入力端およびスイッチング素子14cの制御端子にそれぞれ接続され、段数制御用インバータ14bの出力端はスイッチング素子14dの制御端子に接続されている。
【0068】
伝送線路L3を介して段数制御用インバータ14aに入力される周波数制御信号(DCOの発振周波数を制御するデジタル信号S3)は、DCO出力信号(第1入力信号S1)が所望の周波数になるように制御している。よって、周波数制御信号(DCOの発振周波数を制御するデジタル信号S3)により、入力周波数に応じて必要な段数の遅延回路だけが動作するように、それぞれのスイッチング素子14cおよび14dが共にオンオフ制御される。
【0069】
周波数制御信号が「High」状態の場合には、スイッチング素子14cおよび14dが共にオン状態となるため、遅延回路11−1から信号が出力される。また、周波数制御信号が「Low」状態の場合には、スイッチング素子14cおよび14dが共にオフ状態となるため、遅延回路11−1からは信号が出力されない。
【0070】
例えば、1段当たりの遅延回路の遅延時間を50psecとした場合、時間デジタル変換装置10への入力周波数が1GHzであれば、20段の遅延回路を動作させるようにスイッチング回路がオンオフ制御される。また、入力周波数が400MHzであれば、50段の遅延回路を動作させるようにスイッチング回路がオンオフ制御される。
(実施形態2)
図3は、本発明の実施形態2に係る位相同期ループ(PLL)回路の概略構成例を示すブロック図である。
【0071】
図3において、本実施形態2の位相同期ループ(PLL)回路20は、第1入力信号S1としてのDCO出力信号の発信周波数を制御するデジタル信号の第3入力信号S3(基準信号)と時間デジタル変換装置10からの出力信号S4との差をデジタル値として出力するデジタル位相周波数比較手段(デジタル位相周波数比較器)であるDPC21と、DPC21からの出力信号から必要な帯域のみを通過させるループフィルタ手段としてのループフィルタ22と、ループフィルタ22からの出力信号(発振周波数制御信号N)に応じて所定の発振周波数でDCO出力信号(第1入力信号S1)を発振出力するデジタル制御発振手段(デジタル制御発振器)であるDCO23と、DCO出力信号(第1入力信号S1)が入力されて出力信号S4をDPC21に出力する本実施形態1の時間デジタル変換器10とが、閉ループ状に接続されて構成されている。
【0072】
DPC21は、例えばラッチ回路によって構成されており、DCO23の発振周波数を制御する周波数制御信号である第3入力信号S3と、時間デジタル変換器10からの出力信号S4とが入力されて両者が比較され、両者の信号が減算処理されてその差がラッチ回路に保持された後にデジタル値として出力される。
【0073】
ループフィルタ22は、デジタルローパスフィルタによって構成されており、一般的なIIRデジタルフィルタを用いて構成されている。このループフィルタ22では、DPC21から順次出力される信号から不要な周波数帯域の成分が除去されて、必要な帯域の信号のみが通過される。
【0074】
DCO23は、従来のアナログ制御発振器に比べて、発振周波数をデジタル信号で制御することが特長であり、具体的には複数のバラクタ容量を2値制御することによって実現されている。ループフィルタ22からの出力信号は、DCO23の発振周波数を制御する発振周波数制御信号Nとして用いられ、この周波数制御信号Nを受けてDCO23から所定の発振周波数で第1入力信号S1(DCO出力信号)が発振出力される。DCO23から出力された第1入力信号S1は、PLL回路からの出力信号となると共に、フィードバックループへ伝達されて時間デジタル変換器10に入力される。
【0075】
時間デジタル変換器10では、DCO23の発振周波数を制御する周波数制御信号(デジタル信号S3)により、時間デジタル変換器10への入力周波数に応じた必要な遅延回路の段数が決定される。時間デジタル変換器10からの出力信号S4は、デジタル信号として位相周波数比較器であるDPC21に入力され、DPC21で周波数制御信号S3と比較することによって、微少な発振周波数の齟齬が補正される。
【0076】
以上により、本実施形態2の位相同期ループ(PLL)回路20によれば、入力周波数に対して適切な段数の遅延回路が動作することになって、特に、入力周波数が高い場合の消費電力を効率的に削減することができる。
(実施形態3)
図4は、本発明の実施形態3に係る位相同期ループ(PLL)回路の概略構成例を示すブロック図である。
【0077】
図4において、本実施形態3の位相同期ループ(PLL)回路30は、第1入力信号S1としてのDCO出力信号の発信周波数を制御するデジタル信号S3(基準信号)と時間デジタル変換装置10’からの出力信号S4’との差をデジタル値として出力するデジタル位相周波数比較手段(デジタル位相周波数比較器)であるDPC21と、DPC21からの出力信号から必要な帯域のみを通過させるループフィルタ手段としてのループフィルタ22と、ループフィルタ22からの出力信号に応じて所定の発振周波数でDCO出力信号(第1入力信号S1)を発振出力するデジタル制御発振手段(デジタル制御発振器)であるDCO23と、DCO出力信号(第1入力信号S1)が入力されて出力信号S4’をDPC21に出力する時間デジタル変換器10’とが、閉ループ状に接続されて構成されている。
【0078】
上記実施形態2の位相同期ループ(PLL)回路20では、時間デジタル変換器10に対してDCO23の発振周波数を制御する周波数制御信号である第3入力信号S3が入力されて必要な遅延回路の段数が決定されていたが、本実施形態3の位相同期ループ(PLL)回路30では、時間デジタル変換器10’に対して外部からデジタル信号の外部入力信号S3’が入力されており、この外部入力信号S3’によって必要な遅延回路の段数が決定されている。なお、切換スイッチなどを介してこの外部入力信号S3’と上記実施形態2の第3入力信号S3とを切換自在に構成しておき、通常は、第3入力信号S3側を時間デジタル変換器10の入力とし、必要時に、外部入力信号S3’を、時間デジタル変換器10への入力として選択可能としてもよい。
【0079】
この位相同期ループ(PLL)回路30では、図3に示す位相同期ループ(PLL)回路20の場合と同様に、発振周波数を制御する周波数制御信号S3がDPC21に入力され、ループフィルタ22によって必要な帯域の信号のみが通過される。ループフィルタ22からの出力信号は、DCO23の発振周波数を制御する周波数制御信号Nとなり、この周波数制御信号Nを受けてDCO23から所定の発振周波数の出力信号(第1入力信号S1としてのDCO出力信号)を発振出力する。このDCO出力信号は系全体の出力となると共に、フィードバックループへと伝達されて、時間デジタル変換器10’の第1入力信号S1として入力される。
【0080】
以上により、本実施形態3の位相同期ループ(PLL)回路30によれば、外部からの外部入力信号S3’によって、必要な段数の遅延回路のみが動作するようにオン制御することができる。例えば、DCO23の発振周波数を制御する周波数制御信号に対して何らかの要因が影響することによって、所望の発振周波数から齟齬が生じることが考えられる。このような場合に、本来はフィードバックループを介して発振周波数が補正されるのであるが、本実施形態3の位相同期ループ(PLL)回路30では外部からの外部入力信号S3’を用いて発振周波数を補正することができる。
【0081】
次に、本発明の実施形態2、3に係る位相同期ループ(PLL)回路におけるDCO出力信号(第1入力信号S1)の発振周波数と周波数制御信号(第3入力信号S3,S3’)と遅延回路の動作段数との関係について説明する。
【0082】
図5は、本発明の実施形態2、3のDCO出力信号(第1入力信号S1)の発振周波数と周波数制御信号(第3入力信号S3,S3’)と遅延回路の動作段数の関係について説明するための図である。
【0083】
図5に示すように、DCO出力信号(第1入力信号S1)の発振周波数が増大するにつれて、周波数制御信号(第3入力信号S3、S3’)のビット数が増える。周波数制御信号(第3入力信号S3、S3’)のビット数は、用いられる基本クロック信号(第2入力信号S2)の周波数によって変化するため、ビット数の絶対値は用いられる水晶発振器に依存する。
【0084】
しかしながら、DCO出力信号(第1入力信号S1)の発振周波数が低い場合には低ビットの周波数制御信号(第3入力信号S3、S3’)により制御が行われ、DCO出力信号(第1入力信号S1)の発振周波数が高い場合には高ビットの周波数制御信号(第3入力信号S3、S3’)により制御が行われる。このような周波数制御信号(第3入力信号S3、S3’)の特性を利用して、本発明の時間デジタル変換装置10,10’における遅延回路の動作段数が変化するように制御されている。したがって、DCO出力信号(第1入力信号S1)の高い発振周波数の信号を発振させる場合には、発振周波数の1周期が短いため、遅延回路の動作段数を少なくすることによって、低消費電力化を図ることができる。また、DCO出力信号(第1入力信号S1)の低い発振周波数の信号を発振させる場合には、発振周波数の1周期が長いため、遅延回路の動作段数を多くすることによって、安定して動作させることができる。
【0085】
スイッチング回路14−1〜14−nは、外部から入力されるデジタル信号(第3入力信号S3’)のビット値の変化に応じて、動作する遅延回路11−1〜11−nの段数を調整可能とする。このビット値の変化と遅延回路11−1〜11−nの段数調整については、第3入力信号S3’の1ビットが1つのスイッチング回路にそれぞれ入力されてオンオフ制御するものである。
【0086】
従来は、周波数範囲が広帯域である場合、入力周波数によって必要な遅延回路の段数が異なり、また、周波数によっては必要がない遅延回路まで動作することになり、低消費電力化を図る上で問題となっていたが、上記実施形態1〜3によれば、DCO23の発振周波数を制御する基準信号の第3入力信号S3、または、遅延回路の段数を制御する外部入力信号S3’を用いて、入力周波数に応じて動作する遅延回路11−1〜11−nの段数を適切に切り替えるスイッチング回路14−1〜14−nを備えており、入力周波数の周期に応じて必要な段数の遅延回路だけが動作することになる。このため、広帯域の周波数範囲に対応しながらも系全体の低消費電力化を図ることが可能となり、特に高い入力周波数において低消費電力化を効率的に図ることができる。これによって、広帯域の周波数範囲に対応可能で、従来のように量子化ノイズ成分を増大させることなく低消費電力化を効率よく図ることができる。
【0087】
なお、上記実施形態1〜3では、特に説明しなかったが、DCO出力信号の第1入力信号S1を順次遅延させる複数段の遅延回路11−1〜11−nと、基準クロック信号の第2入力信号S2の立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジに基づいて、遅延回路11−1〜11−nのそれぞれにより遅延された第1入力信号S1をそれぞれラッチする複数のラッチ/ホールド回路12−1〜12−nと、この第2入力信号S2の遷移タイミングにおいてラッチ/ホールド回路12−1〜12−nからそれぞれ出力された、遅延した第1入力信号S1の各値(信号レベル)から、第2入力信号S2の1周期当たりの第1入力信号S1の遅延値を検出するエッジ検出器13と、第1入力信号S1の入力周波数に対応した第3入力信号S3またはS3’を用いて、動作する遅延回路11−1〜11−nの直列段数を調整するスイッチング回路14−1〜14−nとを有していれば、広帯域の周波数範囲に対応可能で、量子化ノイズ成分を増大させることなく低消費電力化を図ることができる本発明の目的を達成することができる。
【0088】
以上のように、本発明の好ましい実施形態1〜3を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態1〜3に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態1〜3の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、デジタル位相同期ループ(Phase−Locked Loop)回路の位相周波数検出部に用いられる時間デジタル変換装置、これを用いたデジタル位相同期ループ装置および受信機に関し、特に、小数部の位相周波数検出器(fractional phase detector;フラクショナル・フェイズ・ディテクタ)として用いられる時間デジタル変換装置、これを用いたデジタル位相同期ループ装置および、これを信号発生部に用いた受信機の分野において、入力周波数に応じて、動作させる遅延回路の段数を調整することができる。これによって、入力周波数が低い場合にも安定した動作が可能な段数の遅延回路を設けて、入力周波数が高い場合には必要な段数の遅延回路のみを動作させることができる。したがって、テレビジョン受信装置などの幅広い入力周波数範囲に応じて、適切な段数の遅延回路を動作させることができ、遅延回路を安定かつ低い消費電力により動作させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の実施形態1に係る時間デジタル変換装置の基本構成例を示す回路図である。
【図2】図1の時間デジタル変換回路における遅延回路およびその段数をオンオフ制御するスイッチング回路の構成例を示す回路図である。
【図3】本発明の実施形態2に係る位相同期ループ(PLL)回路の概略構成例を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施形態3に係る位相同期ループ(PLL)回路の概略構成例を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施形態2、3のDCO出力信号の発振周波数と周波数制御信号と遅延回路の動作段数の関係について説明するための図である。
【図6】従来の一般的なデジタルPLL回路の要部構成例を示すブロック図である。
【図7】従来の時間デジタル変換器の要部構成例を示すブロック図である。
【図8】図6の入力デジタル信号Φin(基準信号)と、時間デジタル変換器への第1入力信号S1であるDCO出力信号との各信号波形のタイミングを示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0091】
10,10’ 30では、時間デジタル変換器(時間デジタル変換装置)
11−1〜11−n 遅延回路(遅延手段)
12−1〜12−n ラッチ/ホールド回路(ラッチ/ホールド手段)
13 エッジ検出器(エッジ検出手段)
14−1〜14−n スイッチング回路(スイッチ手段)
20,30 位相同期ループ(PLL)回路(位相同期ループ装置)
S1 DCO出力信号(第1信号)
L1 DCO出力信号の伝送線路
S2 基準クロック信号(第2信号)
L2 基準クロック信号の伝送線路
S3 周波数制御信号
S3’ 遅延回路の段数を制御する外部入力信号
L3 周波数制御信号の伝送線路
S4 基本クロック信号1周期辺りのDCO出力信号の遅延量を示すベクトル値(デジタル値)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1入力信号を順次遅延させる複数段の遅延手段と、
第2入力信号の立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジに基づいて、該遅延手段のそれぞれにより遅延された第1入力信号をそれぞれラッチする複数のラッチ/ホールド手段と、
該第2入力信号の遷移タイミングにおいて該ラッチ/ホールド手段からそれぞれ出力された遅延第1入力信号の各値から、該第2入力信号1周期当たりの該第1入力信号の遅延情報を検出するエッジ検出手段と、
該第1入力信号の入力周波数に対応した第3入力信号を用いて、動作する遅延手段の段数を調整する遅延段数調整手段とを有する時間デジタル変換装置。
【請求項2】
前記第3入力信号は、前記第1入力信号の発振周波数を制御するためのデジタル信号かまたは、外部から入力されるデジタル信号である請求項1に記載の時間デジタル変換装置。
【請求項3】
前記遅延段数調整手段は、前記第1入力信号の発振周波数を制御するデジタル信号のビット値の変化または、前記外部から入力されるデジタル信号のビット値の変化に応じて動作する遅延手段の段数を調整する請求項1に記載の時間デジタル変換装置。
【請求項4】
前記遅延段数調整手段は、前記複数段の遅延手段からの出力をそれぞれオンオフ制御する複数のスイッチ手段を有する請求項1〜3のいずれかに記載の時間デジタル変換装置。
【請求項5】
前記複数段の遅延手段は、直列接続された複数の反転回路から構成されている請求項1に記載の時間デジタル変換装置。
【請求項6】
前記ラッチ/ホールド手段は、D型フリップフロップから構成されている請求項1に記載の時間デジタル変換装置。
【請求項7】
前記第1入力信号としてデジタル制御発振手段からの出力信号が入力され、前記第2入力信号として基本クロック信号が入力されている請求項1〜3のいずれかに記載の時間デジタル変換装置。
【請求項8】
前記遅延情報は、前記第1入力信号の遅延量を示すベクトル値である請求項1または2に記載の時間デジタル変換装置。
【請求項9】
前記外部から入力されるデジタル信号は、前記第1入力信号の発振周波数を制御するための内部デジタル信号とは別のデジタル信号であって、該第1入力信号の発振周波数を制御するためのデジタル信号である請求項2に記載の時間デジタル変換装置。
【請求項10】
前記複数のスイッチ手段はそれぞれ、前記デジタル信号のビット値の変化をサーモメータコードとして出力することによりそれぞれオンオフ制御される請求項4に記載の時間デジタル変換装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の時間デジタル変換装置と、
前記第3入力信号と該時間デジタル変換装置からの出力信号との差をデジタル値として出力するデジタル位相周波数比較手段と、
該デジタル位相周波数比較手段からの出力信号から必要な帯域のみを通過させるループフィルタ手段と、
該ループフィルタ手段からの出力信号に応じて所定の発振周波数になるように前記第1入力信号を発振出力するデジタル制御発振手段とを有するデジタル位相同期ループ装置。
【請求項12】
前記デジタル位相周波数比較手段は、前記第3入力信号と前記時間デジタル変換装置からの出力信号とを減算処理する減算処理回路と、減算処理した信号を保持するラッチ回路を有している請求項11に記載のデジタル位相同期ループ装置。
【請求項13】
前記ループフィルタ手段はデジタルローパスフィルタ手段を有している請求項11に記載のデジタル位相同期ループ装置。
【請求項14】
前記デジタル制御発振手段は、2値制御を可能とする複数のバラクタ容量を有している請求項11に記載のデジタル位相同期ループ装置。
【請求項15】
基準信号を参照してこれと同一または異なる発振周波数信号を得るための請求項11に記載のデジタル位相同期ループ装置を信号発生部に用いた受信機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図8】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−160594(P2008−160594A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−348505(P2006−348505)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】