説明

曲順決定装置、曲順決定方法、および曲順決定プログラム

【課題】ミックス再生に適した楽曲再生順序を決定する。
【解決手段】曲順決定装置10は、楽曲を再生した場合における、ビートが再生される時刻に関する情報を少なくとも含むビート位置情報と、前記楽曲における単位時間当たりの拍数を示すテンポ値とを取得し、前記テンポ値が所定の基準値と異なる場合、その楽曲のテンポ値が前記基準値と同一の値になるように、その楽曲の前記ビート位置情報を補正するビート情報補正部12と、テンポ値が前記基準値と同一の値のときの前記ビート位置情報に基づいて、複数の楽曲の各楽曲間における前記ビート位置情報の相関度合いを示す相関値を算出する相関値算出部13と、各楽曲間の前記相関値に基づいて、所定数の楽曲の再生順序である曲順を決定する曲順決定部14とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、楽曲の再生順序を決定する曲順決定装置、曲順決定方法、および曲順決定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
音楽表現手法の1つとして、ミックス再生と呼ばれる手法が知られている。ミックス再生は、単に一曲一曲を最初から最後まで順に再生するのではなく、曲の再生速度を調節したり、曲にディレイやリバーブ等のエフェクトをかけたり、スクラッチなどの効果音を挿入したりしながら、前後の楽曲を途切れなく連続して再生していく手法である。
【0003】
特許文献1には、楽曲のビートやメロディ構造を記述したメタデータを用いて、前後の曲に適切なミックス方法を選択し、楽曲のミックス再生を自動的に行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2007/066818号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術を用いてミックス再生を行っても、前後の楽曲がミックス再生に対して相性がよくない場合、楽曲のつながりに違和感が生じることがある。特許文献1の技術では、楽曲間の相性を考慮してミックス再生に適した楽曲の再生順序(曲順)を決定することはできなかった。
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたもので、ミックス再生に適した曲順を決定することができる曲順決定装置、曲順決定方法、および曲順決定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、楽曲を再生した場合における、ビートが再生される時刻に関する情報を少なくとも含むビート位置情報と、前記楽曲における単位時間当たりの拍数を示すテンポ値とを取得し、前記テンポ値が所定の基準値と異なる場合、その楽曲のテンポ値が前記基準値と同一の値になるように、その楽曲の前記ビート位置情報を補正するビート情報補正部(12)と、テンポ値が前記基準値と同一の値のときの前記ビート位置情報に基づいて、複数の楽曲の各楽曲間における前記ビート位置情報の相関度合いを示す相関値を算出する相関値算出部(13)と、各楽曲間の前記相関値に基づいて、所定数の楽曲の再生順序である曲順を決定する曲順決定部(14)とを備えることを特徴とする曲順決定装置(10)が提供される。
【0008】
本発明の他の態様によれば、楽曲を再生した場合における、ビートが再生される時刻に関する情報を少なくとも含むビート位置情報と、前記楽曲における単位時間当たりの拍数を示すテンポ値とを取得し、前記テンポ値が所定の基準値と異なる場合、その楽曲のテンポ値が前記基準値と同一の値になるように、その楽曲の前記ビート位置情報を補正するステップと、テンポ値が前記基準値と同一の値のときの前記ビート位置情報に基づいて、複数の楽曲の各楽曲間における前記ビート位置情報の相関度合いを示す相関値を算出するステップと、各楽曲間の前記相関値に基づいて、所定数の楽曲の再生順序である曲順を決定するステップとを含むことを特徴とする曲順決定方法が提供される。
【0009】
本発明の他の態様によれば、楽曲を再生した場合における、ビートが再生される時刻に関する情報を少なくとも含むビート位置情報と、前記楽曲における単位時間当たりの拍数を示すテンポ値とを取得し、前記テンポ値が所定の基準値と異なる場合、その楽曲のテンポ値が前記基準値と同一の値になるように、その楽曲の前記ビート位置情報を補正するステップと、テンポ値が前記基準値と同一の値のときの前記ビート位置情報に基づいて、複数の楽曲の各楽曲間における前記ビート位置情報の相関度合いを示す相関値を算出するステップと、各楽曲間の前記相関値に基づいて、所定数の楽曲の再生順序である曲順を決定するステップとをコンピュータに実行させるための曲順決定プログラムが提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ミックス再生に適した曲順を決定できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る曲順決定装置の実施形態の構成例を示すブロック図である。
【図2】ビート情報メタデータを説明するための図である。
【図3】ビート情報補正部および相関値算出部の動作の一例を示すフローチャートである。
【図4】ビート情報補正部によるビート位置情報の補正方法を説明するための図である。
【図5】相関値テーブルの一例を示す図である。
【図6】相関値の算出方法を説明するための図である。
【図7】曲順決定部の動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態)
以下、本発明に係る曲順決定装置の実施形態を、図1のブロック図を参照して説明する。
【0013】
図1は、本発明に係る曲順決定装置の実施形態の構成例を示すブロック図である。
【0014】
図1に示すように、曲順決定装置10は、楽曲DB(データベース)11と、ビート情報補正部12と、相関値算出部13と、曲順決定部14とを備える。曲順決定装置10は、表示部15に接続されている。
【0015】
楽曲DB11は、複数の楽曲の楽曲データ、各楽曲のメタデータであるビート情報メタデータ、楽曲間の相関値をテーブル形式で記憶した相関値テーブル(後述の図5参照)等を記憶する。楽曲DB11は、HDDやメモリ等の記憶装置からなる。なお、楽曲DB11は、固定式の記憶装置でも、着脱式の記憶装置でもよく、また、ケーブルやネットワークで接続された外部の記憶装置でもよい。
【0016】
ビート情報メタデータは、楽曲の時間軸上におけるビートの位置に関する情報とビートの振幅に関する情報とを含むビート位置情報、および楽曲のテンポを示すテンポ値を含む。テンポ値は、例えば、BPM(Beat Per Minute)で表される。BPMとは楽曲の1分間(単位時間)当たりの拍数(一般的には四分音符の数)を示す値である。なお、ビート位置情報には、ビートの振幅に関する情報は必ずしも含まれなくてもよく、例えば、全ての振幅を同一の値(例えば1)としてもよい。ただし、ビート位置情報に、ビートの振幅に関する情報を含むことで、後に詳述する相関値を算出する際に、より正確に算出することができる。
【0017】
また、時間軸上におけるビートの位置とは、楽曲を再生したときの、ビートが再生される時刻を示す情報であり、例えば、楽曲データを最初から再生した際の再生開始時刻を基準とし、その再生開始時刻からの経過時間で示されている。なお、ビート位置情報は、必ずしも再生開始時刻を基準とする必要はなく、楽曲データを再生したときの任意の時刻を基準としてもよい。
【0018】
図2は、ビート情報メタデータを説明するための図であり、図2(a),(b)は、それぞれ、楽曲A,Bのビート情報メタデータ210,220を説明するための図である。
【0019】
図2において、横軸は時間tを示し、縦軸はビートの振幅ampを示す。時間軸上におけるビートの位置は、各楽曲を構成する打楽器音(曲のリズムを決定付ける音)の発音位置である。打楽器の種類は問わない。また、打楽器音が含まれない楽曲の場合は、ビートの位置は、ビートを形成する楽器の発音位置を示す。なお、図2(a)に示す楽曲Aのビート情報メタデータ210の場合、BPM=100である。また、図2(b)に示す楽曲Bのビート情報メタデータ220の場合、BPM=125である。
【0020】
本実施形態では、各楽曲の時間軸上におけるビート位置情報およびBPMがビート情報メタデータとして楽曲DB11に記憶されているが、ビート情報メタデータの取得方法はこれに限らず、例えば、事前にユーザがビート位置情報およびBPMを入力するようにしてもよい。また、特開2008−233812号公報に記載のビート検出方法などを用いて楽曲の波形から自動的にビート情報メタデータを検出して、ビート情報メタデータとしてもよい。
【0021】
ビート情報補正部12は、楽曲DB11から各楽曲のビート情報メタデータを取得し、BPMが所定の基準値である基準BPMと異なる楽曲のビート位置情報におけるビートの位置を補正し、各楽曲のBPMを基準BPMと一致させる(BPMを統一する)。ビート情報補正部12は、補正後のビート位置情報およびBPMを楽曲DB11に記憶する。なお、ビート情報補正部12の動作については、後に詳述する。なお、基準BPMは、予め決めておいてもよいし、所定の楽曲のBPMを基準BPMとしてもよい。
【0022】
相関値算出部13は、BPMが統一された各楽曲のビート位置情報に基づいて、楽曲DB11に記憶された複数の楽曲の各楽曲間におけるビート位置情報の相関度合いを示す相関値を算出する。なお、一例として、本実施形態においては、相関値が大きいほど強い相関関係にあるものとする。相関値算出部13は、算出した相関値を各楽曲のビート情報メタデータとして楽曲DB11等に記憶する。本実施形態では、さらに、相関値算出部13は、楽曲DB11等に記憶した各楽曲の相関値を正規化し、相関値テーブルとして楽曲DB11に記憶する。なお、相関値を正規化する処理は、本発明では、必須ではない。
【0023】
曲順決定部14は、楽曲DB11に記憶された相関値テーブルから正規化された相関値を取得し、正規化された相関値に基づいて、楽曲DB11から再生される所定数の楽曲の再生順序である曲順を決定する。
【0024】
表示部15は、ディスプレイやモニタであり、曲順決定部14が決定した曲順を表示する。
【0025】
<本装置の動作の説明>
次に、本実施形態の曲順決定装置10の動作を、フローチャート等を参照して説明する。まず、曲順決定装置10のビート情報補正部12によるビート情報補正、および相関値算出部13による相関値算出の動作例について説明する。なお、ここでは、各楽曲間における楽曲の末尾部分と冒頭部分とのビート位置情報の相関度合いを示す値を、楽曲間の相関値とする場合について説明する。
【0026】
<ビート情報補正および相関値算出の動作>
図3は、ビート情報補正部12および相関値算出部13の動作の一例を示すフローチャートである。
【0027】
曲順決定装置10では、例えば、楽曲DB11へ楽曲が追加される度に、ビート位置情報およびBPMの補正、相関値の算出および正規化処理を行う。
【0028】
つまり、曲順決定装置10では、まず、ビート情報補正部12は、楽曲DB11へ新たに楽曲が追加されたか否かを判断し(ステップS310)、新たに楽曲が追加されなければ(ステップS310“No”)、処理を終了する。
【0029】
楽曲DB11へ新たな楽曲が追加された場合(ステップS310“Yes”)、ビート情報補正部12は、楽曲DB11から追加された楽曲のビート情報メタデータを取得する(ステップS320)。
【0030】
次に、ビート情報補正部12は、取得したビート情報メタデータに含まれる追加された楽曲のBPMが基準BPMと一致しているか否かを判断する(ステップS330)。一致している場合は(ステップS330“Yes”)、ステップS350に進む。一致していない場合(ステップS330“No”)、ビート情報補正部12は、追加された楽曲のビート位置情報におけるビートの位置を補正し、BPMを基準BPMに一致させる。ビート情報補正部12は、補正したビート位置情報およびBPMを楽曲DB11に記憶する(ステップS340)。ステップS340の後、ビート情報補正部12は、ステップS350に進む。
【0031】
≪ビート位置情報の補正≫
ここで、図3におけるステップS340におけるビート位置情報の補正方法の具体例について説明する。
【0032】
2つの楽曲をミックス再生する場合、ビートがうまく重なって聴こえるように、2つの楽曲のBPM情報の値を合わせて再生することが多い。そのため、本実施形態では、相関値を求める前に、各楽曲のBPMを基準BPMに統一する。
【0033】
つまり、ビート情報補正部12は、楽曲DB11に楽曲が追加された場合、追加された楽曲のビート位置情報と、楽曲DB11に記憶された他のすべての楽曲のビート位置情報との相関値を算出する前に、各楽曲のBPMとなる基準BPMを設け、すべての楽曲のBPMが基準BPMに統一されるように、ビートの位置を補正する。ここで、基準BPMは相関値を算出する目的で用いるBPMであり、必ずしも再生時には基準BPMで再生しなくてもよい。
【0034】
具体的には、ビート情報補正部12は、基準BPMを“Tb”、補正する楽曲のBPMを“T”とした場合、補正する楽曲の時系列のビート間隔を、T/Tb倍に拡げることで、当該楽曲のBPMが基準BPMになるようにする。
【0035】
図4は、ビート情報補正部によるビート位置情報の補正方法を説明するための図である。
【0036】
例えば、図4(a)に示すビート情報メタデータ410が、追加された楽曲のビート情報メタデータであるとする。ビート情報メタデータ410におけるBPM=100である。これに対し、基準BPM=80である場合、ビート情報補正部12は、図4(a)のビート情報メタデータ410におけるビート間隔を5/4(=100/80)倍に拡げるように、ビート位置を補正する。図4(b)は、補正後のビート情報メタデータ420を示す。例えば、ビート情報補正部12は、図4(a)におけるビート間隔411に“0”を挿入することで拡張する。これにより、図4(a)のビート間隔411に対応する図4(b)のビート間隔421は、ビート間隔411の5/4倍となる。ビート情報メタデータ420におけるBPMは、基準BPM=80となる。
【0037】
図3に戻り、ステップS350では、ビート情報補正部12は、他に追加された楽曲があるか否かを判断する。ビート情報補正部12は、他に追加された楽曲があると判断した場合(ステップS350“Yes”)、ステップS320の処理に戻る。ビート情報補正部12が他に追加された楽曲がないと判断した場合(ステップS350“No”)、次のステップS360の処理へ移行する。
【0038】
ステップS360では、相関値算出部13が、追加された楽曲の末尾部分のビート位置情報と、それ以外の楽曲の冒頭部分のビート位置情報との相関値を算出する。相関値算出部13は、算出した相関値を、追加された楽曲Aのビート情報メタデータとして楽曲DB11へ記憶する。また、相関値算出部13は、追加された楽曲の冒頭部分のビート位置情報と、それ以外の楽曲の末尾部分のビート位置情報との相関値も算出して、追加された楽曲以外の楽曲のビート情報メタデータとしてそれぞれ楽曲DB11へ記憶する。なお、このステップS360での処理は、図5のところで再度説明する。
【0039】
次のステップS370では、相関値算出部13は、楽曲DB11から各楽曲のビート情報メタデータとして記憶した相関値を読み出し、追加された楽曲とそれ以外の楽曲との相関値の合計が1になるように正規化する。相関値算出部13は、正規化した相関値を、図5に示すような相関値テーブルとして、楽曲DB11に記憶する。
【0040】
図5は、楽曲DB11に記憶される相関値テーブルの一例を示す図である。
【0041】
図5に示す相関値テーブル500では、例えば、楽曲A〜Eそれぞれが前曲および次曲となった場合の相関値が、各列の相関値の合計が1になるように正規化されて記憶されている。つまり、図5に示す相関値テーブル500では、楽曲A〜Eの各列の合計は1となっており、それぞれ自曲以外の楽曲への遷移確率として用いることができる。
【0042】
ここで、例えば、図5に示す相関値テーブル500において、楽曲Eが追加された楽曲である場合には、それ以外の楽曲は楽曲A〜Dとなる。この場合、相関値算出部13は、ステップS360において、まずは、楽曲Eが前曲で、楽曲A〜Dが次曲である場合の相関値である、楽曲Eの末尾部分のビート位置情報と、それ以外の楽曲A〜Dの冒頭部分のビート位置情報との相関値を求める。つまり、相関値算出部13は、楽曲Eを前曲とし、それ以外の楽曲A〜Dを次曲とした場合の相関値として、図5に示す相関値テーブル500に示すように、それぞれ、0.40、0.12、0.33、0.15の正規化前の値を算出して、楽曲Eのビート情報メタデータとして楽曲DB11へ記憶する。
【0043】
その一方、相関値算出部13は、ステップS360において、さらに、楽曲A〜Dが前曲で、楽曲Eが次曲である場合の相関値である、楽曲Eの冒頭部分のビート位置情報と、それ以外の楽曲A〜Dの末尾部分のビート位置情報との相関値を求める。つまり、相関値算出部13は、楽曲Eの冒頭部分のビート位置情報と、それ以外の楽曲A〜Dの末尾部分のビート位置情報との相関値として、図5に示す相関値テーブル500に示すように、それぞれ、0.37、0.08、0.12、0.39の正規化前の値を算出して、楽曲A〜Dのビート情報メタデータとして楽曲DB11へ記憶する。
【0044】
以上のように、相関値算出部13は、ステップS360では、新たに楽曲が追加される毎に相関値を算出して、ビート情報メタデータとして楽曲DB11に記憶するので、ステップS370では、新たに楽曲が追加される毎に、ステップS360にて新たに算出した相関値と、既存の相関値とを合わせて再度正規化して、相関値テーブル500として記憶して、終了とする。例えば、新たに楽曲Fが追加された場合、相関値算出部13は、図5に示す相関値テーブル500において、楽曲A〜Eの各列に新たな楽曲Fを追加した楽曲A〜Fの各列の合計が1となるように再度正規化して、相関値テーブル500として記憶する。なお、ここでは、相関値算出部13は、正規化後の相関値のみを相関値テーブル500として記憶しているが、正規化前の相関値も別の相関値テーブルとして記憶するようにしてもよい。
【0045】
≪相関値の算出≫
次に、ステップS360における相関値算出部13による相関値の算出方法について説明する。
【0046】
図6は、相関値算出部13における相関値の算出方法を説明するための図である。
【0047】
図6(a)に示す楽曲A’のビート位置情報610および楽曲B’のビート位置情報620は、BPMを基準BPMに統一した後のビート位置情報である。楽曲A’の冒頭部分のビート位置情報611と、楽曲B’の末尾部分のビート位置情報621との相関度合いを算出する場合を例として述べる。
【0048】
まず、相関値算出部13は、図6(a)に示すように、楽曲A’のビート位置情報610から抜き出した冒頭部分のビート位置情報611を関数f(t)とする。同様に、相関値算出部13は、楽曲B’のビート位置情報620から抜き出した楽曲B’の末尾部分のビート位置情報621を関数g(t)とする。
【0049】
なお、ビート位置情報の抜き出す範囲は、楽曲の冒頭または末尾、もしくはビートが存在する位置から固定時間長で決めてもよいし、楽曲の時間長から割合として求めてもよい。例えば、後者の場合、楽曲全体の5%を抜き出すとすると、5分間の楽曲では、15秒間を抜き出すということである。
【0050】
次に、相関値算出部13は、図6(b)に示すように、楽曲B’の末尾部分のビート位置情報621を示す関数g(t)を、時間軸tの方向に平行移動させながら、平行移動した各位置(時間)においてf(t)とg(t)との積の総和、すなわち、Σ(f(n)・g(n−m))を求める。
【0051】
すなわち、相関値算出部13は、f(t)とg(t)が重なる範囲でmを変化させ、それぞれのmの値における、Σ(f(n)・g(n−m))を求め、このようにして求めたf(t)とg(t)との積の総和Σ(f(n)・g(n−m))の最大値を、相関値とする。
【0052】
そのため、相関値算出部13は、例えば、楽曲A’の冒頭部分のビート位置情報611を示す関数f(t)と、楽曲B’の末尾部分のビート位置情報621を示す関数g(t)とを、任意の時間間隔毎の配列として記憶する。すなわち、ビートが存在する時刻に対応する配列要素にはビートの値(振幅)が配置され、ビートが存在しない時刻に対応する配列要素には0が配置される。
【0053】
そして、f(t)とg(t)が重なる範囲でmを変化させたf(t)とg(t)との積の総和であるΣ(f(n)・g(n−m))は、f(t)とg(t)に該当する配列の対応する各要素の積の総和となる。ここで、f(t)とg(t)が重なる範囲でmを変化させて積の総和を求めることは、前記配列が重なる範囲でm個分の配列要素をずらし、ずらした配列要素と、もう一方の配列の対応する配列要素との積の総和を求めることになる。このように、相関値算出部13は、f(t)とg(t)が重なる範囲で、mをずらして求めた各総和Σ(f(n)・g(n−m))の最大値を、相関値として算出する。
【0054】
<相関値に基づく曲順決定方法>
次に、曲順決定部14による曲順決定方法について説明する。
【0055】
曲順決定部14は、連続して再生される楽曲間の相関値の積または総和が最大となるように、楽曲DB11から再生される所定数の楽曲の曲順を決定する。例えば、曲順決定部14は、ユーザの指定により、またはランダムに、楽曲DB11から所定数の楽曲を選択し、選択した楽曲のなかで、連続して再生される楽曲間の相関値の積または総和が最大となるような曲順を決定する。
【0056】
上記のように相関値の積または総和が最大となるように曲順を決定することで、正確に最適な曲順を決定できる。ただし、この方法では、演算量が多くなり、現在の計算機では、演算処理に長時間を要する。曲順を決定しようとする楽曲数をnとすると、楽曲遷移パターンは通りあるため、最も相関値の積または和が大きくなるような楽曲遷移パターンを求めるには、n!オーダーの演算量が必要となるためである。
【0057】
そこで、少ない演算量で曲順決定方法を以下に説明する。図7は、この曲順決定方法を示すフローチャートである。
【0058】
ここでは、図5の相関値テーブル500に示す楽曲A〜Eの5曲の曲順を決める場合を例に説明する。
【0059】
まず、曲順決定部14は、1曲目の楽曲を選択する(ステップS710)。曲順決定部14は、1曲目を、ユーザの指示に応じて選択してもよいし、ランダムで選択してもよい。ここで、1曲目として楽曲Dが選択されたとする。
【0060】
次に、曲順決定部14は、前に選択した楽曲に対して、相関値が最大となる楽曲を選択する(ステップS720)。1曲目が楽曲Dの場合、曲順決定部14は、次曲として、楽曲Dに対して相関値が最大の0.39となる楽曲Eを選択する。
【0061】
次に、曲順決定部14は、これまでに選択した楽曲数が、最大楽曲数に達しているか否かを判断する(ステップS730)。これまでに選択した楽曲数が最大楽曲数に達していれば(ステップS730“Yes”)、曲順決定部14は、曲順決定処理を終了する。ここで、最大楽曲数は、曲順を決定しようとする楽曲の数であり、5曲の曲順を決める際には、最大楽曲数は5となる。
【0062】
これまでに選択した楽曲の数が最大楽曲数に達していなければ(ステップS730“No”)、曲順決定部14は、ステップS720へ戻り、再び楽曲の選択を行う。
【0063】
なお、この例では、2曲目として楽曲Eが選択されているため、3曲目として、楽曲Eに対して相関値が最大の0.40となる楽曲Aが選択される。4曲目は楽曲Aに対して相関値が最大の0.37となる楽曲Eおよび同じく2番目に大きい0.28となる楽曲Dは既に選択されているため、その次の3番目に大きい0.23となる楽曲Bが選択される。そして、最後の5曲目は、残りの楽曲Cとなる。
【0064】
以上のような、図7のフローチャートの一連の処理により、曲順決定部14は、1曲目を選択し、2曲目以降は、同じ曲を繰り返し選択しないようにして、選択した楽曲数が所定数(最大楽曲数)に達するまで、前曲に対する次曲の相関値が最大である楽曲を順次選択することにより曲順を決定する。これにより、簡単かつ高速に曲順を決定できるとともに、同じ曲が複数回選択されることを防止できる。
【0065】
なお、本実施形態では、各楽曲間における楽曲の末尾部分と冒頭部分とのビート位置情報の相関度合いを示す値を、楽曲間の相関値とする場合について説明したが、相関値はこれに限定されない。各楽曲間において、各楽曲の少なくとも一部のビート位置情報の相関度合いを示す値を相関値とすればよい。例えば、各楽曲間における楽曲全体のビート位置情報の相関度合いを示す値を相関値としてもよい。この場合は、2曲間において、どちらの楽曲が前曲であっても相関値は同じ値になる。
【0066】
以上説明したように、本実施形態の曲順決定装置10は、BPMを統一した各楽曲のビート位置情報の相関値から曲順を決定することで、ミックス再生に適した曲順を決定できる。
【0067】
また、各楽曲間における楽曲の末尾部分と冒頭部分とのビート位置情報の相関度合いを示す値を相関値として用いることで、楽曲のつながり部分の違和感をより効果的に軽減できる。これにより、例えば、曲の冒頭部分は静かだが、楽曲全体としてはノリがよい等、前曲の末尾部分と次曲の冒頭部分との相性が曲自体の類似度と一致しない場合でも、ミックス再生に適した曲順を決定できる。
【0068】
なお、本実施形態では、基準BPMが1つとして説明したが、基準BPMを複数設けてもよい。2つの楽曲をミックス再生する際には、後の楽曲のBPMが、前の楽曲のBPMの1/n、またはn倍になるようにすることがある。例えば、BPM=120の楽曲の後に、BPM=70の楽曲をミックス再生するとき、後の楽曲のBPMを、前の楽曲のBPMの1/2の60として再生する、といった場合である。こうした場合も考慮し、ビート情報補正部12は、基本となる基準BPM以外に、その1/n、またはn倍の値も、基準BPMとするようにしてもよい。このように複数の基準BPMを設定する場合、ビート情報補正部12は、各楽曲について、複数の基準BPMそれぞれに応じてビート位置を補正したビート位置情報を生成する。ビート情報補正部12が基準BPMを複数とした場合、相関値算出部13は、それぞれの基準BPMに応じた補正後のビート位置情報を用いて相関値を算出する。
【0069】
本実施形態では、曲順決定装置10を、図1に示すようにハードウエア的に構成して説明したが、本発明ではこれに限らず、CPUと、このCPUに曲順決定装置10の機能を実行させるようにプログラミングした曲順決定プログラムとにより、ソフトウエア的に構成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0070】
10 曲順決定装置
11 楽曲DB(データベース)
12 ビート情報補正部
13 相関値算出部
14 曲順決定部
15 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
楽曲を再生した場合における、ビートが再生される時刻に関する情報を少なくとも含むビート位置情報と、前記楽曲における単位時間当たりの拍数を示すテンポ値とを取得し、前記テンポ値が所定の基準値と異なる場合、その楽曲のテンポ値が前記基準値と同一の値になるように、その楽曲の前記ビート位置情報を補正するビート情報補正部と、
テンポ値が前記基準値と同一の値のときの前記ビート位置情報に基づいて、複数の楽曲の各楽曲間における前記ビート位置情報の相関度合いを示す相関値を算出する相関値算出部と、
各楽曲間の前記相関値に基づいて、所定数の楽曲の再生順序である曲順を決定する曲順決定部と
を備えることを特徴とする曲順決定装置。
【請求項2】
前記相関値算出部は、各楽曲間における、楽曲の末尾部分と冒頭部分との前記ビート位置情報の相関度合いを示す値を前記相関値として算出することを特徴とする請求項1に記載の曲順決定装置。
【請求項3】
前記曲順決定部は、連続して再生される楽曲間の前記相関値の積または総和が最大となるように、所定数の楽曲の前記曲順を決定することを特徴とする請求項1または2に記載の曲順決定装置。
【請求項4】
前記曲順決定部は、前記複数の楽曲から1曲目を選択し、2曲目以降は、同じ曲を繰り返し選択しないようにして、選択した楽曲数が所定数に達するまで、前曲に対する次曲の前記相関値が最大である楽曲を順次選択することにより前記曲順を決定することを特徴とする請求項1または2に記載の曲順決定装置。
【請求項5】
楽曲を再生した場合における、ビートが再生される時刻に関する情報を少なくとも含むビート位置情報と、前記楽曲における単位時間当たりの拍数を示すテンポ値とを取得し、前記テンポ値が所定の基準値と異なる場合、その楽曲のテンポ値が前記基準値と同一の値になるように、その楽曲の前記ビート位置情報を補正するステップと、
テンポ値が前記基準値と同一の値のときの前記ビート位置情報に基づいて、複数の楽曲の各楽曲間における前記ビート位置情報の相関度合いを示す相関値を算出するステップと、
各楽曲間の前記相関値に基づいて、所定数の楽曲の再生順序である曲順を決定するステップと
を含むことを特徴とする曲順決定方法。
【請求項6】
楽曲を再生した場合における、ビートが再生される時刻に関する情報を少なくとも含むビート位置情報と、前記楽曲における単位時間当たりの拍数を示すテンポ値とを取得し、前記テンポ値が所定の基準値と異なる場合、その楽曲のテンポ値が前記基準値と同一の値になるように、その楽曲の前記ビート位置情報を補正するステップと、
テンポ値が前記基準値と同一の値のときの前記ビート位置情報に基づいて、複数の楽曲の各楽曲間における前記ビート位置情報の相関度合いを示す相関値を算出するステップと、
各楽曲間の前記相関値に基づいて、所定数の楽曲の再生順序である曲順を決定するステップと
をコンピュータに実行させるための曲順決定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−123120(P2012−123120A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272913(P2010−272913)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(308036402)株式会社JVCケンウッド (1,152)
【Fターム(参考)】