説明

有底円筒状部材、有底薄肉延伸円筒状部材、底部円板状有底円筒状部材及び底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材の製造方法、並びに、有底円筒状部材有底薄肉円筒状部材、底部円板状有底延伸円筒状部材及び底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材

【課題】過大な加圧力を必要とすることなく容易に形状形成でき、金型寿命の向上を図ることができる有底円筒状部材、底部円板状有底延伸円筒状部材、有底薄肉延伸円筒状部材及び底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材の製造方法並びに有底円筒状部材、底部円板状有底延伸円筒状部材、有底薄肉延伸円筒状部材及び底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材を提供する。
【解決手段】本製造方法は、中実円柱状の素材1を鍛造加工することにより該素材の一端側の端部に向かって杯状に拡径された杯状拡径部2bを形成し、該杯状拡径部及び該杯状拡径部の小径側に一体に形成されている円柱状部2aを備える中間部材2を得る工程と、中間部材の杯状拡径部をしごき加工することにより杯状拡径部が円筒状に加工された円筒状部3bを形成し、該円筒状部及び該円筒状部の一端側に一体に形成されている円柱状部3aを備える有底円筒状部材を得る工程と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有底円筒状部材、有底薄肉延伸円筒状部材、底部円板状有底円筒状部材及び底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材の製造方法、並びに、有底円筒状部材有底薄肉円筒状部材、底部円板状有底延伸円筒状部材及び底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、有底円筒状部材を製造する方法として、鍛造による後方押出し成形法が知られている。この後方押出し成形による有底円筒状部材の製造方法では、ワークとしての中実丸棒の上面にパンチ型で中空孔を形成すると同時に、パンチ型により押し出された素材を構成する金属をパンチ型とダイ型との隙間に流動させることにより円筒状部を形成するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−94732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、後方押出し成形による有底円筒状部材の製造方法では、通常、図33(a)〜(c)に示すように、上金型となるパンチ101と、下金型となるダイ102とを用いて加工するが、ワークWの肉の流動する方向がパンチ101による加圧方向と反対であることから、変形抵抗が大きくなってしまう。このため、成形にはそれに応じた大きな加圧力が必要になり、成形金型にも過大な加圧力が働いてしまう。そして、過大な加圧力のために、金型寿命が著しく短くなってしまったり、成形金型とワークとが固着してしまったりする、といった問題があった。また、後方押出し成形法では断面減少率が大きい成形が困難であり、特に、NCF751等の難加工材の場合には断面減少率60パーセント以上の成形が困難であることから、所望の肉厚の円筒状部を得られない場合がある、といった問題があった。
【0005】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、過大な加圧力を必要とすることなく容易に形状形成でき、金型寿命の向上を図ることができる有底円筒状部材、有底薄肉延伸円筒状部材、底部円板状有底円筒状部材及び底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材の製造方法、並びに、有底円筒状部材有底薄肉円筒状部材、底部円板状有底延伸円筒状部材及び底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の通りである。
1.中実円柱状の素材を鍛造加工することにより該素材の一端側の端部に向かって杯状に拡径された杯状拡径部を形成し、該杯状拡径部及び該杯状拡径部の小径側に一体に形成されている円柱状部を備える中間部材を得る工程と、
前記中間部材の前記杯状拡径部をしごき加工することにより前記杯状拡径部が円筒状に加工された円筒状部を形成し、該円筒状部及び該円筒状部の一端側に一体に形成されている円柱状部を備える有底円筒状部材を得る工程と、を含むことを特徴とする有底円筒状部材の製造方法。
2.前記1.記載の製造方法で製造した有底円筒状部材の前記円筒状部をスピニング加工することにより前記円筒状部の肉厚よりも薄肉になるように軸線方向に延伸した薄肉延伸円筒状部を形成し、該薄肉延伸円筒状部及び該薄肉延伸円筒状部の一端側に一体に形成されている円柱状部を備える有底薄肉延伸円筒状部材を得る工程を含むことを特徴とする有底薄肉延伸円筒状部材の製造方法。
3.前記スピニング加工は、回転させた前記有底円筒状部材の前記円筒状部の外径側の面に加工ローラの外径側の面を押し当てながら、延伸させる方向に向かって該加工ローラを移動させることにより薄肉延伸円筒状部を形成する加工であって、当該加工の間は前記円筒状部の内径側の面には加工用工具を当接させない加工である前記2.記載の有底薄肉延伸円筒状部材の製造方法。
4.前記1.記載の製造方法で製造した有底円筒状部材を鍛造加工することにより前記円柱状部の底部側が円板状に拡径された円板状拡径部を形成し、該円板状拡径部及び該円板状拡径部の一端側に一体に形成されている円筒状部を備える底部円板状有底円筒状部材を得る工程を含むことを特徴とする底部円板状有底円筒状部材の製造方法。
5.前記底部円板状有底円筒状部材を得る工程では、前記円板状拡径部の底部側の面形状を形成するための第1の型と、前記円筒状部の外側面側の面形状及び前記円板状拡径部の前記底部側の面以外の面形状を形成するための第2の型と、前記円筒状部の有底円筒内面形状を形成するための第3の型と、を用いて前記円板状拡径部と前記円筒状部とを形成し、
その後、前記第3の型を最初に離型する前記4.記載の底部円板状有底円筒状部材の製造方法。
6.前記4.又は前記5.記載の製造方法で製造した底部円板状有底円筒状部材の前記円筒状部をスピニング加工することにより該円筒状部の肉厚よりも薄肉になるように軸線方向に延伸した薄肉延伸円筒状部を形成し、該薄肉延伸円筒状部及び該薄肉延伸円筒状部の一端側に一体に形成されている円板状拡径部を備える底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材を得る工程を含むことを特徴とする底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材の製造方法。
7.前記スピニング加工は、回転させた底部円板状有底円筒状部材の前記円筒状部の外径側の面に加工ローラの外径側の面を押し当てながら、延伸させる方向に向かって該加工ローラを移動させることにより薄肉延伸円筒状部を形成する加工であって、当該加工の間は前記円筒状部の内径側の面には加工用工具を当接させない加工である前記6.記載の底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材の製造方法。
8.前記1.記載の製造方法で製造したことを特徴とする有底円筒状部材。
9.前記2.又は前記3.記載の製造方法で製造したことを特徴とする有底薄肉延伸円筒状部材。
10.前記4.又は前記5.記載の製造方法で製造したことを特徴とする底部円板状有底円筒状部材。
11.前記6.又は前記7.記載の製造方法で製造したことを特徴とする底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材。
【発明の効果】
【0007】
本発明の有底円筒状部材の製造方法及びこの製造方法により製造された有底円筒状部材によると、最初に、鍛造加工により素材の一端側の端部に向かって杯状に拡径された杯状拡径部を形成するようにし、その後、しごき加工により杯状拡径部を円筒状に加工するようにしている。これにより、後方押出し成形により同様の中実円柱状素材から同様の有底円筒状部材を得る場合と比較して、小さな加圧力で容易に円筒状部の形状を形成することができる。また、過大な加圧力を負荷することがないので、金型寿命の向上を図ることができる。更に、一旦拡径して杯状拡径部を形成してから円筒状部を形成するようにしているので、従来の後方押出し成形により形成可能な肉厚よりも薄い肉厚の円筒状部を容易に形成することができる。
【0008】
本発明の有底薄肉延伸円筒状部材の製造方法及びこの製造方法により製造された有底薄肉延伸円筒状部材によると、スピニング加工により円筒状部の肉厚よりも薄肉になるように軸方向に延伸した薄肉延伸円筒状部を形成するようにしている。これにより、鍛造加工により同様の薄肉延伸円筒状部を形成する場合と比較して、より肉厚の小さい薄肉延伸円筒状部を容易に形成することができる。
また、前記スピニング加工は、回転させた前記有底円筒状部材の前記円筒状部の外径側の面に加工ローラを押し当てながら、延伸させる方向に向かって該加工ローラを移動させることにより薄肉延伸円筒状部を形成する加工であって、当該加工の間は前記円筒状部の内径側の面には加工用工具を当接させない加工である場合は、内径側の面を規定する成形型を必要としないので、加工用工具数を減らすことができる。その結果、簡易な構成による加工を実現することができる。
【0009】
本発明の底部円板状有底円筒状部材の製造方法及びこの製造方法により製造された底部円板状有底延伸円筒状部材によると、鍛造加工により、円柱状部の底部側が円板状に拡径された円板状拡径部を形成するようにしている。これにより、円板状拡径部と円筒状部とを備える底部円板状有底円筒状部材を容易に得ることができる。
また、前記底部円板状有底延伸円筒状部材を得る工程では、前記円板状拡径部の底部側の面形状を形成するための第1の型と、前記円筒状部の外側面側の面形状及び前記円板状拡径部の前記底部側の面以外の面形状を形成するための第2の型と、前記円筒状部の有底円筒内面形状を形成するための第3の型と、を用いて前記円板状拡径部と前記円筒状部とを形成し、その後、前記第3の型を最初に離型する場合は、第2の型と第3の型とを同時に離型する場合と比較して、金型とワークとが固着してしまうことなく容易に離型することができる。
【0010】
本発明の底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材の製造方法及びこの製造方法により製造された底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材によると、スピニング加工により円筒状部の肉厚よりも薄肉になるように軸方向に延伸した薄肉延伸円筒状部を形成するようにしている。これにより、鍛造加工により同様の薄肉延伸円筒状部を形成する場合と比較して、より肉厚の薄い薄肉延伸円筒状部を容易に形成することができる。
また、前記スピニング加工は、回転させた前記底部円板状有底円筒状部材の前記円筒状部の外径側の面に加工ローラを押し当てながら、延伸させる方向に向かって該加工ローラを移動させることにより薄肉延伸円筒状部を形成する加工であって、当該加工の間は前記円筒状部の内径側の面には加工用工具を当接させない加工である場合は、内径側の面を規定する成形型を必要としないので、加工用工具数を減らすことができる。その結果、簡易な構成による加工を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1に係る有底円筒状部材を説明するための説明図であり、(a)は成形前の素材、(b)は(a)から得た中間部材、(c)は(b)から得た有底円筒状部材をそれぞれ示す。
【図2】実施例1に係る有底円筒状部材の製造方法を説明するための説明図である。
【図3】実施例1に係る有底円筒状部材の製造方法を説明するための説明図である。
【図4】実施例1に係る有底円筒状部材の製造方法を説明するための説明図であり、(a)は中間部材成形時の成形中期の状態、(b)は(a)よりも成形が進行した状態、(c)は(b)よりも成形が進行した状態をそれぞれ示す。
【図5】実施例1に係る有底円筒状部材の製造方法を説明するための説明図であり、中間部材の成形が完了した状態を示す。
【図6】実施例1に係る有底円筒状部材の製造方法を説明するための説明図であり、中間部材離型時の状態を示す。
【図7】実施例1に係る中間部材成形時の変形状態の例を説明するための説明図である。
【図8】実施例1に係る有底円筒状部材の製造方法を説明するための説明図である。
【図9】実施例1に係る有底円筒状部材の製造方法を説明するための説明図である。
【図10】実施例1に係る有底円筒状部材の製造方法を説明するための説明図であり、(a)は有底円筒状部材成形時の成形中期の状態、(b)は(a)よりも成形が進行した状態、(c)は(b)よりも成形が進行した状態をそれぞれ示す。
【図11】実施例1に係る有底円筒状部材の製造方法を説明するための説明図であり、(a)は有底円筒状部材成形時の成形中期の状態、(b)は(a)よりも成形が進行した状態、(c)は(b)よりも成形が進行した状態をそれぞれ示す。
【図12】実施例1に係る有底円筒状部材の製造方法を説明するための説明図であり、有底円筒状部材の成形が完了した状態を示す。
【図13】実施例2に係る有底薄肉延伸円筒状部材を説明するための説明図であり、(a)は成形前の部材、(b)は(a)から得た部材をそれぞれ示す。
【図14】実施例2に係る有底薄肉延伸円筒状部材の製造方法を説明するための説明図である。
【図15】実施例2に係る有底薄肉延伸円筒状部材の製造方法を説明するための説明図であり、(a)は成形中期の状態、(b)は(a)よりも成形が進行した状態をそれぞれ示す。
【図16】実施例3に係る底部円板状有底円筒状部材を説明するための説明図であり、(a)は成形前の部材、(b)は(a)から得た部材をそれぞれ示す。
【図17】実施例3に係る底部円板状有底円筒状部材の製造方法を説明するための説明図である。
【図18】実施例3に係る底部円板状有底円筒状部材の製造方法を説明するための説明図であり、(a)は成形前の部材挿入時の状態、(b)は上下型が係合した状態をそれぞれ示す。
【図19】実施例3に係る底部円板状有底円筒状部材の製造方法を説明するための説明図であり、(a)は成形開始時の状態、(b)は成形中期の状態をそれぞれ示す。
【図20】実施例3に係る底部円板状有底円筒状部材の製造方法を説明するための説明図であり、(a)は成形完了時の状態、(b)はピン離型時の状態をそれぞれ示す。
【図21】実施例3に係る底部円板状有底円筒状部材の製造方法を説明するための説明図であり、(a)は上金型離型時の状態、(b)は下金型離型時の状態をそれぞれ示す。
【図22】実施例4に係る底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材を説明するための説明図であり、(a)は成形前の部材、(b)は(a)から得た部材をそれぞれ示す。
【図23】実施例4に係る底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材の製造方法を説明するための説明図である。
【図24】実施例4に係る底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材の製造方法を説明するための説明図であり、(a)は成形中期の状態、(b)は(a)よりも成形が進行した状態をそれぞれ示す。
【図25】他の実施形態に係る有底円筒状部材(中間部材)を説明するための説明図である。
【図26】他の実施形態に係る有底円筒状部材(中間部材)の製造方法を説明するための説明図である。
【図27】他の実施形態に係る有底円筒状部材(中間部材)の製造方法を説明するための説明図である。
【図28】他の実施形態に係る有底円筒状部材(中間部材)の製造方法を説明するための説明図であり、(a)は中間部材成形時の成形中期の状態、(b)は(a)よりも成形が進行した状態、(c)は(b)よりも成形が進行した状態をそれぞれ示す。
【図29】他の実施形態に係る有底円筒状部材(中間部材)の製造方法を説明するための説明図であり、中間部材の成形が完了した状態を示す。
【図30】他の実施形態に係る有底円筒状部材(中間部材)の製造方法を説明するための説明図であり、中間部材離型時の状態を示す。
【図31】他の実施形態に係る(a)底部円板状有底円筒状部材及び(b)底部円板状有底延伸円筒状部材を説明するための説明図である。
【図32】他の実施形態に係る加工ローラ(a)及び(b)を説明するための説明図である。
【図33】従来の有底円筒状部材の製造方法を説明するための説明図であり、(a)は成形開始時の状態、(b)は(a)よりも成形が進行した状態、(c)は(b)よりも成形が進行した状態をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.有底円筒状部材の製造方法
本実施形態に係る有底円筒状部材の製造方法は、中実円柱状の素材を鍛造加工することにより該素材の一端側の端部に向かって杯状に拡径された杯状拡径部を形成し、該杯状拡径部及び該杯状拡径部の小径側に一体に形成されている円柱状部を備える中間部材を得る工程と、この中間部材の杯状拡径部をしごき加工することにより杯状拡径部が円筒状に加工された円筒状部を形成し、該円筒状部及び該円筒状部の一端側に一体に形成されている円柱状部を備える有底円筒状部材を得る工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
上記鍛造加工の種類は特に問わないが、例えば、物温800度以上で加工する熱間鍛造、物温200〜800度程度で加工する温間鍛造、物温常温〜200度程度で加工する冷間鍛造であることができる。これらのうち、加工の容易さ、過大な加圧力(押圧力)を必要としない、といった観点から、熱間鍛造であることが好ましい。
【0014】
上記しごき加工の種類は特に問わないが、例えば、物温800度以上で加工する熱間しごき、物温200〜800度程度で加工する温間しごき、物温常温〜200度程度で加工する冷間しごきであることができる。これらのうち、良好な加工精度であることや、熱間及び温間加工と比較して加熱温度が低い又は加熱を必要としない、といった観点から、冷間しごき加工であることが好ましい。
【0015】
上記「素材」は、中実円柱状である限り、その外径の大きさ、高さ等は特に問わない。また、この素材の材質も特に問わないが、例えば、NCF751、SUH35、SUH38、SUH3、SUH11等の耐熱鋼、SCR材、SCM材等の合金鋼、SUS304、SUS430等のステンレス鋼、S45C、S20C等の機械構造用炭素鋼等を挙げることができる。これらのうち、特に、耐熱鋼、ステンレス鋼等の難加工材であることができる。
【0016】
上記「中間部材」は、上記素材を熱間鍛造加工して得られる部材であり、素材の一端側の端部に向かって杯状に拡径された杯状拡径部と、この杯状拡径部の小径側に一体に形成されている円柱状部と、とを備えている(例えば、図1(b)等参照)。
【0017】
上記杯状拡径部の高さ、肉厚等は特に問わない。杯状拡径部は、例えば、端部側に向かうに従ってその肉厚が減少していることができる(例えば、図1(b)等参照)。これにより、しごき加工による杯状拡径部の大径側の縮径量と小径側の縮径量とのばらつきを抑制することができ、肉厚が略均一な円筒状部を形成することができるからである。また、杯状拡径部は、例えば、その肉厚が略均一であることができる。更に、杯状拡径部は、例えば、端部側に向かうに従ってその肉厚が増加していることができる(例えば、図25等参照)。これにより、鍛造加工時の素材の肉の流動する方向のうち加圧方向とは反対の方向への流動を抑制することができ(例えば、図28(a)〜(c)等参照)、杯状拡径部の肉厚が略均一又は端部側に向かうに従って減少している場合と比較して、変形抵抗をより小さくすることができるからである。また、杯状拡径部は、例えば、しごき加工後に所望の肉厚及び高さの円筒状部が得られるように、その肉厚及び高さがそれぞれ適宜設定されていることができる。
上記円柱状部の外径の大きさは特に問わないが、例えば、上記素材の外径の大きさと略同一であることができる。
【0018】
上記「有底円筒状部材」は、上記中間部材をしごき加工して得られる部材であり、このしごき加工によって杯状拡径部が円筒状に加工された円筒状部と、この円筒状部の一端側に一体に形成されている円柱状部と、を備えている(例えば、図1(c)等参照)。この有底円筒状部材において、円柱状部の外径の大きさ及び高さは、中間部材における円柱状部の外径の大きさ及び高さと略同一となっている。また、円柱状部の外径の大きさと円筒状部の外径の大きさとは略同一となっている。
【0019】
上記円筒状部の肉厚、高さ等は特に問わない。この円筒状部は、例えば、しごき加工されることにより、その肉厚が加工前の杯状拡径部の肉厚よりも小さくなっていることができる(例えば、図1(b)、(c)等参照)。また、円筒状部の肉厚は、例えば、端部に向かって略均一であることができるが、端部に向かって減少していてもよい。また、この円筒状部は、例えば、しごき加工されることにより、その高さが加工前の杯状拡径部の高さよりも大きくなっていることができる(例えば、図1(b)、(c)等参照)。
【0020】
上記「中間部材を得る工程」では、例えば、杯状拡径部の内壁形状を形成するための凸状部を有する上金型と、杯状拡径部の外壁形状を形成するための凹状部を有する下金型と、を用いることができる(例えば、図2等参照)。この場合、例えば、上記下金型には上金型と係合する際に上金型を加圧方向に案内する案内部が設けられており、上記上金型にはこの案内部に案内される被案内部が設けられていることができる(例えば、図2等参照)。これにより、加圧による上金型と下金型との位置ずれを抑制して確実に係合させることができ、寸法精度に優れた有底円筒状部材を製造できるからである。また、上記上金型には、例えば、凸状部の基端側に設けられており、鍛造加工の際に杯状拡径部の端部の肉が偏って成長するのを抑制するための成長抑制部が設けられていることができる(例えば、図2、7等参照)。
【0021】
上記「有底円筒状部材を得る工程」では、例えば、貫通孔が形成された下金型と、丸棒状の突起部を備える上金型と、を用いて、貫通孔に中間部材を円柱状部側から挿入し、突起部により中間部材を押圧して貫通孔を通過させることにより上記杯状拡径部を円筒状に加工することができる(例えば、図8〜12等参照)。
なお、上記しごき加工を行うに際し、予め焼き鈍し処理を実行しておくようにしてもよい。これにより延伸性が向上し、より容易に加工することができるからである。
【0022】
2.有底薄肉延伸円筒状部材の製造方法
本実施形態に係る有底薄肉延伸円筒状部材の製造方法は、上記実施形態1の製造方法で製造した有底円筒状部材の円筒状部をスピニング加工することにより円筒状部の肉厚よりも薄肉になるように軸方向に延伸した薄肉延伸円筒状部を形成し、該薄肉延伸円筒状部及び該薄肉延伸円筒状部の一端側に一体に形成されている円柱状部を備える有底薄肉延伸円筒状部材を得る工程を含むことを特徴とする。
【0023】
上記スピニング加工の種類は特に問わないが、例えば、物温800度以上で加工する熱間スピニング、物温200〜800度程度で加工する温間スピニング、物温常温〜200度程度で加工する冷間スピニングであることができる。これらのうち、良好な加工精度であることや、熱間及び温間加工と比較して加熱温度が低い又は加熱を必要としない、といった観点から、冷間スピニング加工であることが好ましい。
【0024】
上記スピニング加工は、回転させた上記有底円筒状部材の円筒状部の外径側の面に、加工ローラや加工ヘラ等の加工用工具を押し当てながら、延伸させる方向に向かって加工用工具を移動させることにより薄肉延伸円筒状部を形成する加工である。このスピニング加工は、例えば、円筒状部の内径側の面を規定するためのマンドレル(成形型)等の加工用工具を用いる加工であってもよいし、そのような加工用工具を用いず、当該加工の間は円筒状部の内径側の面には加工用工具を当接させない加工であってもよい。
上記スピニング加工における押し当て量、延伸させる方向への移動回数等は特に問わない。
【0025】
また、上記スピニング加工により加工された薄肉円筒状部の内径の大きさは、例えば、加工前の円筒状部の内径の大きさと略同一の大きさになっていてもよいし(例えば、図13(a)、(b)等参照)、加工前の円筒状部の内径の大きさよりも小さくなるように加工されてもよい。なお、上記スピニング加工により加工された薄肉延伸円筒状部の外径の大きさは、通常、加工前の円筒状部の外径の大きさよりも小さくなっている(例えば、図13(a)、(b)等参照)。
【0026】
また、加工ローラや加工ヘラ等、円筒状部の外径側の面に押し当てる加工用工具は、その押し当て面の断面形状は特に問わないが、例えば、略円弧状、略直線状等であることができる。更に、上記加工用工具の押し当て面の断面形状が略円弧状である場合、その曲率半径は、例えば、加工する円筒状部の肉厚の1.0倍以上であることができ、好ましくは2.0倍以上、より好ましくは3.0倍以上であることができる。これにより、加工ローラの押し当て面をワークに十分な接触面積で押し当てることができ、好適に延伸させることができるからである。
【0027】
上記「有底薄肉延伸円筒状部材」は、上記有底円筒状部材を上記スピニング加工して得られる部材であり、円筒状部の肉厚よりも薄肉になるように軸方向に延伸した薄肉延伸円筒状部と、この薄肉延伸円筒状部の一端側に一体に形成されている円柱状部と、を備えている(例えば、図13(b)等参照)。
【0028】
上記薄肉延伸円筒状部の高さ、肉厚等は特に問わない。この薄肉延伸円筒状部は、スピニング加工されることにより、通常、その肉厚が加工前の円筒状部の肉厚よりも小さくなっているとともに、その高さが円筒状部の高さよりも大きくなっている(例えば、図13(a)、(b)等参照)。
【0029】
本実施形態において、上記スピニング加工は、特に、回転させた上記有底円筒状部材の円筒状部の外径側の面に加工ローラの外径側の面を押し当てながら、延伸させる方向に向かって該加工ローラを移動させることにより薄肉延伸円筒状部を形成する加工であって、当該加工の間は円筒状部の内径側の面には加工用工具を当接させない加工であることが好ましい(例えば、図14、図15(a)、(b)等参照)。内径側の面を規定する成形型を必要としないので、加工用工具点数を減らすことができ、容易に薄肉延伸円筒状部を形成することができるからである。
【0030】
上記「加工ローラ」の構造、大きさ、個数等は特に問わない。この加工ローラは、例えば、その外径の大きさが上記円筒状部の外径の大きさの3〜5倍程度の大きさであることができる。これにより、1回のスピニング加工における加工ローラの総回転数を抑制することができ、外径側の面(押し当て面)が摩耗するのを抑制することができるからである。
【0031】
ここで、例えば、上記加工ローラは複数設けられていることができる。これにより、1つの加工ローラを用いて加工する場合と比較して、加工に要する時間を短くすることができるからである。また、複数の加工ローラの配置形態としては、例えば、ワークの円周方向に配置する形態(例えば、図32(a)、(b)等参照)や、軸方向に配置する形態等が挙げられる。更に、複数の加工ローラの押し当て形態としては、例えば、(1)各加工ローラをワークの中心方向に向かってそれぞれ押し当てる形態(例えば、図32(a)等参照)、(2)各加工ローラの押し当て方向が互いに平行となるように押し当てる形態(例えば、図32(b)等参照)等が挙げられる。
なお、上記スピニング加工を行うに際し、上記有底円筒状部材に予め焼き鈍し処理を実行しておくようにしてもよい。これにより延伸性が向上し、より容易に加工することができるからである。
【0032】
3.底部円板状有底円筒状部材の製造方法
本実施形態にかかる底部円板状有底円筒状部材の製造方法は、上記実施形態1の製造方法で製造した有底円筒状部材を鍛造加工することにより円柱状部の底部側が円板状に拡径された円板状拡径部及び該円板状拡径部の一端側に一体に形成された円筒状部を形成し、該円板状拡径部及び該円筒状部を備える底部円板状有底円筒状部材を得る工程を含むことを特徴とする。
【0033】
上記鍛造加工の種類は特に問わないが、例えば、物温800度以上で加工する熱間鍛造、物温200〜800度程度で加工する温間鍛造、物温常温〜200度程度で加工する冷間鍛造であることができる。これらのうち、加工の容易さ、過大な加圧力(押圧力)を必要としない、といった観点から、熱間鍛造であることが好ましい。
【0034】
上記「底部円板状有底円筒状部材」は、上記有底円筒状部材を鍛造加工して得られる部材であり、有底円筒状部材の円柱状部の底部側が円板状に拡径された円板状拡径部と、この円板状拡径部の一端側に一体に形成された円筒状部と、を備えている(例えば、図16(b)等参照)。
【0035】
上記円板状拡径部の外径の大きさ、高さ等は特に問わない。この円板状拡径部は、鍛造加工されることにより、通常、上記有底円筒状部材の円柱状部の底部側の肉が偏平の円板状に拡径されている(例えば、図16(a)、(b)等参照)。また、この円板状拡径部は、例えば、円筒状部に接続されている側から底部側に向かって拡径する形状であることができる(例えば、図31(a)等参照)。
【0036】
上記円筒状部は、その外径の大きさが有底円筒状部材の外径の大きさと略同一となっている。また、円筒状部は、例えば、鍛造加工されることにより、上記有底円筒状部材の円柱状部の肉の一部が円筒状に形成されることができる(例えば、図31(b等参照))。これにより、有底円筒状部材の円筒状部よりも軸方向に延伸された円筒状部を形成することができる。
【0037】
ここで、上記底部円板状有底円筒状部材を得る工程は、例えば、上記有底円筒状部材を鍛造加工することにより上記有底円筒状部材の円柱状部の底部側が円板状に拡径された円板状拡径部及び該円板状拡径部の一端側に一体に形成され且つ前記円筒状部が軸線方向に延伸された円筒状部を形成し、該円板状拡径部及び該円筒状部を備える底部円板状有底円筒状部材を得る工程であることができる(例えば、図31(a)等参照)。
【0038】
ここで、上記底部円板状有底円筒状部材を得る工程では、例えば、円板状拡径部の底部側の面形状を形成するための第1の型(上金型)と、円筒状部の外側面側の面形状及び円板状拡径部の底部側の面以外の面形状を形成するための第2の型(下金型)と、円筒状部の有底円筒内面形状を形成するための第3の型(ピン)と、を用いて円板状拡径部と円筒状部とを形成し、その後、第3の型を最初に離型するようにすることができる(例えば、図17〜21等参照)。
【0039】
また、上述の場合、例えば、第1の型、第2の型及び第3の型は、第1の型、第2の型及び第3の型の順に上から配置されており、且つ第2の型は、流体シリンダにより第1の型の押圧方向と反対の方向に所定の押圧力で押圧されているとともに、押圧力に抗して押圧方向に平行移動可能であることができる(例えば、図17等参照)。更に、この場合、底部円板状有底円筒状部材を得る工程では、最初に、有底円筒状部材を挿入した第2の型に向けて第1の型を下降させることにより第2の型及び第1の型を係合させ、次に、第1の型を更に下降させることにより第2の型を押圧し、第2の型及び第1の型を合わせた状態のまま共に下降させ、これにより第3の型と、第2の型及び第1の型と、を係合させて円板状拡径部と円筒状部とを形成し、その後、第1の型を上昇させることにより第2の型を第1の型に合わせた状態のまま共に上昇させ、これにより第3の型を離型するようにすることができる(例えば、図17〜21等参照)。これにより、簡易な構成により金型とワークとが固着し難い容易な離型を実現することができる。
【0040】
上記流体シリンダの種類は特に問わないが、例えば、窒素ガス等の圧縮性流体を封入した流体シリンダ、油圧オイル等の非圧縮性流体を駆動ユニットにより駆動制御する流体シリンダ等が挙げられる。これらのうち、簡易な構造であるといった観点から、圧縮性流体を封入した流体シリンダであることが好ましい。
【0041】
4.底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材の製造方法
本実施形態に係る底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材の製造方法は、上記実施形態3の製造方法で製造した底部円板状有底延伸円筒状部材の円筒状部をスピニング加工することにより円筒状部の肉厚よりも薄肉になるように軸方向に延伸した薄肉延伸円筒状部を形成し、該薄肉延伸円筒状部及び該薄肉延伸円筒状部の一端側に一体に形成されている円板状拡径部を備える底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材を得る工程を含むことを特徴とする。
【0042】
上記「底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材」は、上記底部円板状有底延伸円筒状部材をスピニング加工して得られる部材であり、円筒状部の肉厚よりも薄肉になるように軸方向に延伸した薄肉延伸円筒状部と、この薄肉延伸円筒状部の一端側に一体に形成されている円板状拡径部と、を備えている(例えば、図22等参照)。
【0043】
上記薄肉延伸円筒状部の高さ、肉厚等は特に問わない。この薄肉延伸円筒状部は、スピニング加工されることにより、通常、その肉厚が加工前の円筒状部の肉厚よりも小さくなっているとともに、その高さが円筒状部の高さよりも大きくなっている(例えば、図22(a)、(b)、図31(b)等参照)。
【0044】
本実施形態において、上記スピニング加工の形態は、例えば、上述の実施形態2において述べたスピニング加工の形態と同様の形態であることができる。また、上記スピニング加工を行うに際し、上記底部円板状有底円筒状部材に予め焼き鈍し処理を実行しておくようにしてもよい。これにより延伸性が向上し、より容易に加工することができるからである。
【実施例】
【0045】
以下、図面を用いて実施例により本発明を具体的に説明する。なお、本実施例においては、素材として、難加工材であるNCF751を用いる場合を例示する。
<実施例1>
(1)有底円筒状部材の構成
本実施例に係る有底円筒状部材3は、図1(a)〜(c)に示すように、素材1を鍛造加工して得られる中間部材2をしごき加工して得られる部材であり、円柱状部3aと、円筒状部3bと、を備えている。円柱状部3aの外径D3aと、円筒状部3bの外径D3bとは略等しくなっている。また、有底円筒状部材3には、円筒状部3b側の端部側に開口する有底孔3cが形成されている。有底孔3cは、内径d3c、深さH3cとなっている。
【0046】
(2)有底円筒状部材の製造方法
次に、上記有底円筒状部材の製造方法について説明する。
まず、図1(a)に示す中実円柱状の素材1に対して鍛造加工を施すことにより、図1(b)に示す円柱状部2aと一方の端部が拡径する杯状拡径部2bとを有する中間部材2を得る。本実施例において、上記鍛造加工は熱間鍛造を採用している。この熱間鍛造では、図2に示すように、杯状拡径部2bの内壁形状を形成するための凸状部11aを有する上金型11と、素材1を保持するとともに、杯状拡径部2bの外壁形状を形成するための凹状部12aを有する下金型12と、を用いる。凹状部12aには、その下方からノックアウトピン13が挿入されており、凹状部12aに素材1を挿入した際に、素材1が保持されるようになっている。また、下金型12には上金型11と係合する際に上金型11を加圧方向に案内する案内部12bが設けられており、上金型11にはこの案内部12bに案内される被案内部11bが設けられている。更に、上金型11には、凸状部11aの基端側に、鍛造加工の際に杯状拡径部2bの端部の肉が偏って成長するのを抑制するための成長抑制部11cが設けられている。
【0047】
素材1から中間部材2を得るに当たり、最初に、図3に示すように、下金型12の凹状部12aに素材1を挿入して上金型11を下降させ、素材1に凸状部11aを押し当てて加圧する。すると、図4(a)〜(c)に示すように、凸状部11aによって素材1が圧縮されて素材1の肉が押し出され、加圧方向に対して斜め後方に流出する。即ち、凸状部11aによって押し出された肉が加圧方向と交差する方向となる上金型11と下金型12の間の空隙へ流出する。そして、図5に示すように、上金型11が下降端に達すると、杯状拡径部2bの形成が完了する。最後に、図6に示すように、上金型11を上昇させるとともに、ノックアウトピン13を上昇させて離型し、中間部材2を得る。
【0048】
なお、本実施例では、図3に示すように、凸状部11aが素材1に当接するよりも前に、上金型11の被案内部11bが下金型12の案内部12bに係合し、以降、上金型11が下降端に達するまで案内される。これにより、上金型11と下金型12とを確実に合わせることができるようになっている。
また、図7に示すように、素材1を鍛造加工する際に杯状拡径部2bの端部の肉が偏って成長した場合には、偏って成長した端部が成長抑制部11cに接触することにより、それ以上の成長を抑制され、高さが略均等な杯状拡径部2bが形成される。
【0049】
このようにして得た中間部材2は、図1(b)に示すように、素材1の外径D1と略同一の外径D2aを有する円柱状部2aと、端部に向かって拡径しており、その端部が外径D2bとなっている杯状拡径部2bと、を備える。また、杯状拡径部2b側にはすり鉢状の有底孔2cが形成される。有底孔2cは高さH2cとなっている。更に、杯状拡径部2bは、その肉厚t2bが端部側に向かうにつれて減少するように形成されている。
【0050】
次に、上述のようにして得た中間部材2に対してしごき加工を施す。本実施例において、上記しごき加工は冷間しごきを採用している。この冷間しごき加工では、図8に示すように、貫通孔22aが形成された下金型22と、丸棒状の突起部21aを備える上金型21と、を用いる。下金型22の貫通孔22aは、上端側の開口から徐々に縮径するように形成されており、軸方向の中間位置において最小内径d22aをとるようになっている。この内径d22aは、しごき加工後に得られる有底円筒状部材3において所望の外径D3bが得られるように設定されている。また、貫通孔22aの下端側は、内径d22aよりも大きい内径に設定されており、貫通孔22aの内径d22aの箇所を通過してしごき加工が施されたワークが容易に通過できるようになっている。上金型21の突起部21aは、その外径D21aが、しごき加工後に得られる有底円筒状部材3において所望の内径d3cが得られるように設定されている。なお、突起部21aには空気穴21bが形成されており、離型時に有底孔3c内が真空状態とならないように、突起部21aの先端側に空気を供給可能となっている。
【0051】
中間部材2から有底円筒状部材3を得るに当たり、最初に、図9に示すように、下金型22の貫通孔22aに中間部材2の円柱状部2a側を挿入して上金型21を下降させる。下降した上金型21の突起部21aは中間部材2の有底孔2cの底壁に当接し、中間部材2を下方に押し下げる。すると、図10(a)〜(c)及び図11(a)〜(c)に示すように、杯状拡径部2bが、突起部21aの外壁と、貫通孔22aの内壁と、によりしごかれて縮径されるとともに薄肉化され、貫通孔22aの最小内径d22aに倣った外径を有する円筒状となる。また、このとき、杯状拡径部2bは、突起部21aによる比較的小さな加圧力により、加圧方向に対して交差する方向に変形する。そして、図12に示すように、ワークが貫通孔22aの内径d22aの箇所を通過するまで押し下げられると、円筒状部3bの形成が完了し、有底円筒状部材3が得られる。なお、貫通孔22aの内径d22aの箇所を通過したワークは貫通孔22a内を落下し、これにより下金型22から排出される。
【0052】
このようにして得た有底円筒状部材3は、図1(c)に示すように、中間部材2の円柱状部2aの外径D2aと略同一の外径D3aの円柱状部3aと、円柱状部3aの外径D3aと略同一の外径D3bの円筒状部3bと、を備える。また、円筒状部3b側には、内径d3c、高さH3cの有底孔3cが形成される。更に、円筒状部3bは、その肉厚t3bが杯状拡径部2bの肉厚t2bよりも薄肉に形成されているとともに、有底円筒状部材3の軸方向に略均一な肉厚に形成されている。
【0053】
(3)実施例1の効果
以上のように、本実施例では、最初に、熱間鍛造加工により、一端側の端部に向かって拡径するように形成された杯状拡径部2bを備える中間部材2を得るようにし、その後、冷間しごき加工により杯状拡径部2bを円筒状に加工した円筒状部3bを形成することにより有底円筒状部材3を得るようにしている。これにより、中実円柱状の素材から後方押出し成形により同様の部材を得る場合と比較して、小さな加圧力で容易に円筒状部3bの形状を形成することができる。また、過大な加圧力を負荷することがないので、金型寿命の向上を図ることができる。更に、一旦拡径して杯状拡径部2bを形成してから円筒状部3bを形成するようにしているので、後方押出し成形では得難い薄肉の円筒状部3bを備える有底円筒状部材3を得ることができる。
【0054】
また、本実施例では、杯状拡径部2bの内壁形状を形成するための凸状部11aを有する上金型11と、素材1を保持するとともに、杯状拡径部2bの外壁形状を形成するための凹状部12aを有する下金型12と、を用いるようにし、凸状部11aの基端側には成長抑制部11cが設けたので、鍛造加工の際に杯状拡径部2bの端部の肉が偏って成長するのを抑制することができる。
【0055】
更に、下金型12には上金型11と係合する際に上金型11を加圧方向に案内する案内部12bが設けられており、上金型11にはこの案内部12bに案内される被案内部11bが設けられているので、上金型11と下金型12とを確実に合わせることができる。
【0056】
<実施例2>
本実施例では、上記実施例1の製造方法により得た有底円筒状部材から、薄肉延伸円筒状部と円柱状部とを備える有底薄肉延伸円筒状部材を得る方法について説明する。
【0057】
(1)有底薄肉延伸円筒状部材の構成
本実施例に係る有底薄肉延伸円筒状部材4は、図13(b)に示すように、円柱状部4aと薄肉延伸円筒状部4bとを備えている。また、有底薄肉延伸円筒状部材4には、薄肉延伸円筒状部4b側の端部側に開口する有底孔4cが形成されている。薄肉延伸円筒状部4bは、図13(a)及び(b)に示すように、その外径D4bが有底円筒状部材3の円筒状部3bの外径D3bよりも小さくなっている。また、有底孔4cは、その内径d4cが、有底円筒状部材3の有底孔3cの内径d3cと略等しい大きさとなっており、その深さH4cは、有底円筒状部材3の有底孔3cの深さH3cより大きくなるように加工される。更に、薄肉延伸円筒状部4bの肉厚t4bは、有底円筒状部材3の円筒状部3bの肉厚t3bよりも小さくなっている。即ち、本実施例に係る有底薄肉延伸円筒状部材4においては、薄肉延伸円筒状部4bとして、有底円筒状部材3の円筒状部3bよりも薄肉であり且つ軸方向に延伸された部位が形成される。
【0058】
(2)有底薄肉延伸円筒状部材の製造方法
次に、上記有底薄肉延伸円筒状部材の製造方法について説明する。本実施例では、上述のようにして得た有底円筒状部材3に対してスピニング加工を施す。本実施例において、上記スピニング加工は冷間スピニングとしている。この冷間スピニング加工では、図14に示すように、加工ローラ31と、チャック32と、を用いる。加工ローラ31は、ワークとなる有底円筒状部材3の中心方向(図14のx軸方向)及び軸方向(図14のz軸方向)に自在に移動可能なように図示しない移動手段により支持されている。また、加工ローラ31は、z軸方向の軸回りに回転自在に軸支されており、回転する有底円筒状部材3の外周面に押し当てられた際に、その回転に連れて回転するようになっている。
【0059】
更に、加工ローラ31は、その押し当て面31aが略円弧状をなしており、その曲率半径はR31aとなっている。押し当て面31aの曲率半径R31aは、有底円筒状部材3の円筒状部3bの肉厚t3bの約3倍に設定されている。また、加工ローラ31は、その外径D31がワークとなる有底円筒状部材3の円筒状部3bの外径D3bの約3倍に設定されている。チャック32は、ワークとなる有底円筒状部材3を固定支持するとともに図示しない回転駆動手段により回転可能であり、これによりワークを回転させることができる。なお、本実施例においては、通常のスピニング加工において用いられるような成形型等の加工用工具は用いない。
【0060】
有底円筒状部材3から有底薄肉延伸円筒状部材4を得るに当たり、最初に、図14に示すように、有底円筒状部材3をチャック32に固定支持させて回転させ、加工ローラ31の押し当て面31aをワークに押し当てる。すると、図15(a)に示すように、円筒状部3bの加工ローラ31が押し当てられた部分の外径が小径化されることにより薄肉化される。なお、本実施例では、このとき、円筒状部3bの内径側の面を規定する加工用工具は用いないが、内径の大きさはほとんど変化しない。
【0061】
そして、この状態で、加工ローラ31をz軸方向に移動させると、図15(b)に示すように、円筒状部3bに相当する部位が軸線方向に延伸されるとともに、加工ローラ31が通過した部位の肉厚が薄くなってゆく。これにより、円筒状部3bの肉厚t3bよりも薄肉であり且つ軸線方向に延伸された薄肉延伸円筒状部4bが形成され、有底薄肉延伸円筒状部材4が得られる。
【0062】
このようにして得た有底薄肉延伸円筒状部材4は、図13(b)に示すように、有底円筒状部材3の円柱状部3aの外径D3aと略同一の外径D4aの円柱状部4aと、有底円筒状部材3の円筒状部3bの外径D3bよりも小さい外径D4bの薄肉延伸円筒状部4bと、を備える。また、薄肉延伸円筒状部4b側には、内径d4c、高さH4cの有底孔4cが形成される。更に、薄肉延伸円筒状部4bは、その肉厚t4bが有底円筒状部材3の円筒状部3bの肉厚t3bよりも薄肉に形成されているとともに、有底薄肉延伸円筒状部材4の軸方向に略均一な肉厚となっている。
【0063】
(3)実施例2の効果
以上のように、本実施例では、冷間スピニング加工により、有底円筒状部材3の円筒状部3bの肉厚よりも薄肉になるように軸方向に延伸した薄肉延伸円筒状部4bを形成するようにしている。これにより、鍛造加工により同様の薄肉延伸円筒状部を形成する場合と比較して、より肉厚の小さい薄肉延伸円筒状部を容易に形成することができる。
また、冷間スピニング加工は、回転させた有底円筒状部材3の円筒状部3bの外径側の面に加工ローラ31を押し当てながら、延伸させる方向に向かって加工ローラ31を移動させることにより薄肉延伸円筒状部4bを形成する加工であって、当該加工の間は円筒状部の内径側の面には加工用工具を当接させない加工であるので、通常のスピニング加工のような成形型を必要とせずに、容易に薄肉延伸円筒状部を形成することができる。
【0064】
更に、本実施例では、加工ローラ31の押し当て面31aの断面形状を略円弧状とし、その曲率半径R31aは、有底円筒状部材3の円筒状部3bの肉厚t3bの約3倍に設定されているので、押し当て面31aを円筒状部3bに十分な接触面積で押し当てることができ、好適に延伸させることができる。
【0065】
<実施例3>
本実施例では、上記実施例1の製造方法により得た有底円筒状部材から、円板状拡径部と円筒状部とを備える底部円板状有底円筒状部材を得る方法について説明する。
【0066】
(1)底部円板状有底円筒状部材の構成
本実施例に係る底部円板状有底円筒状部材5は、図16(b)に示すように、円板状拡径部5aと円筒状部5bとを備えている。また、底部円板状有底円筒状部材5には、円筒状部5b側の端部側に開口する有底孔5cが形成されている。円筒状部5bは、図16(a)及び(b)に示すように、その外径D5bが有底円筒状部材3の円筒状部3bの外径D3bと略等しい大きさとなっている。また、有底孔5cは、その内径d5cが、有底円筒状部材3の有底孔3cの内径d3cと略等しい大きさとなっており、その深さH5cは、有底円筒状部材3の有底孔3cの深さH3cと略等しい大きさとなっている。
【0067】
(2)底部円板状有底円筒状部材の製造方法
次に、上記底部円板状有底円筒状部材の製造方法について説明する。
本実施例においては、図16(a)に示す有底円筒状部材3に対して鍛造加工を施すことにより、図16(b)に示す円板状拡径部5aと円筒状部5bとを備える底部円板状有底円筒状部材5を得る。本実施例において、上記鍛造加工は熱間鍛造を採用している。この熱間鍛造では、図17に示すように、偏平状の凸状部41aを備える上金型41(本発明に係る第1の型として例示する)と、貫通孔42aが形成された下金型42(本発明に係る第2の型として例示する)と、貫通孔42aに下方から挿入された状態で固定的に配置される丸棒状のピン43(本発明に係る第3の型として例示する)と、を用いる。これらの型は、上金型41、下金型42及びピン43の順に上から配置されている。下金型42は、その外周側をガイド45により上下動可能に支持されているとともに、その下方から流体シリンダ46により押圧された状態となっている。本実施例において、上記流体シリンダ46は、圧縮性流体である窒素ガスを封入した流体シリンダを用いている。また、貫通孔42aとピン43との間には、それらの隙間を上下動可能な円筒状のノックアウトスリーブ44が配設されている。
【0068】
有底円筒状部材3から底部円板状有底円筒状部材5を得るに当たり、図18(a)に示すように、最初に、下金型42の貫通孔42aに有底円筒状部材3を円筒状部3b側から挿入して上金型41を下降させる。すると、図18(b)に示すように、上金型41の凸状部41aが下金型42の貫通孔42aの上端側と係合するとともに、有底円筒状部材3が上金型41に押圧される。上金型41が更に下降すると、図19(a)に示すように、この上金型41と合わさった状態の下金型42がガイド45に沿って共に下降し、有底円筒状部材3の有底孔3cにピン43が進入する。ピン43の先端部が有底孔3cの底壁に当接するまで下降すると、図19(b)に示すように、有底円筒状部材3が圧縮され始め、その肉が上金型41、下金型42の間の空間に流出する。そして、図20(a)に示すように、上金型41及び下金型42が下降端に達し、円板状拡径部5aと円筒状部5bとが形成される。
【0069】
離型に際し、上金型41を上昇させると、図20(b)に示すように、流体シリンダ46の押圧力により、下金型42が上金型41に追従して上昇する。一方、固定的に配置されているピン43は有底孔5cから抜け、これにより、ピン43の離型が完了する。上金型41を更に上昇させて、それに追随して上昇していた下金型42が上昇端まで達すると、図21(a)に示すように、上金型41と下金型42との係合が解け、上金型41の離型が完了する。最後に、図21(b)に示すように、ノックアウトスリーブ44を上昇させて下金型42から離型し、底部円板状有底円筒状部材5を得る。
【0070】
このようにして得た底部円板状有底円筒状部材5は、図16(b)に示すように、有底円筒状部材3の円柱状部3aの底部側が円板状に拡径された円板状拡径部5aと、円板状拡径部5aの一端側に一体に形成された円筒状部5bと、を備える。また、円筒状部5b側には、内径d5c、高さH5cの有底孔5cが形成される。更に、円筒状部5bは、その肉厚t5bが有底円筒状部材3の円筒状部3bの肉厚t3bと略同一に形成される。また、有底孔5cの高さH5cは、有底円筒状部材3の有底孔3cの高さH3cと略同一となっている。
【0071】
(3)実施例3の効果
以上のように、本実施例では、熱間鍛造加工により、有底円筒状部材3の円柱状部3aの底部側が円板状に拡径された円板状拡径部5aを形成するようにしている。これにより、円板状拡径部5aとこの円板状拡径部5aと一体に形成された円筒状部5bとを備える底部円板状有底円筒状部材5を容易に得ることができる。
【0072】
また、円板状拡径部5aの底部側の面形状を形成するための上金型41と、円筒状部5bの外側面側の面形状及び円板状拡径部5aの底部側の面以外の面形状を形成するための下金型42と、円筒状部5bの有底円筒内面形状を形成するためのピン43と、を用いて円板状拡径部5aと円筒状部5bとを形成し、その後、ピン43を最初に離型するようにしたので、下金型42とピン43とを同時に離型する場合と比較して、金型とワークとが固着してしまったりすることなく容易に離型することができる。
【0073】
更に、上金型41、下金型42及びピン43は、この順に上から配置されており、且つ下金型42は、流体シリンダ46により上金型41の押圧方向と反対の方向に所定の押圧力で押圧されているとともに、押圧力に抗して押圧方向に平行移動可能である。そして、底部円板状有底円筒状部材5を得る工程として、最初に、有底円筒状部材3を挿入した下金型42に向けて上金型41を下降させることにより下金型42及び上金型41を係合させ、次に、上金型41を更に下降させることにより下金型42を押圧し、下金型42及び上金型41を合わせた状態のまま共に下降させ、これによりピン43と、下金型42及び上金型41と、を係合させて円板状拡径部5aと円筒状部5bとを形成し、その後、上金型41を上昇させることにより、下金型42を上金型41に合わせた状態のまま共に上昇させ、これによりピン43を離型するようにしている。これにより、簡易な構成により金型とワークとが固着し難い容易な離型を実現することができる。
【0074】
<実施例4>
本実施例では、上記実施例3の製造方法により得た底部円板状有底円筒状部材から、薄肉延伸円筒状部と円板状拡径部とを備える底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材を得る方法について説明する。
【0075】
(1)底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材の構成
本実施例に係る底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材6は、図22(b)に示すように、円板状拡径部6aと薄肉延伸円筒状部6bとを備えている。また、底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材6には、薄肉延伸円筒状部6b側の端部側に開口する有底孔6cが形成されている。薄肉延伸円筒状部6bは、図22(a)及び(b)に示すように、その外径D6bが底部円板状有底円筒状部材5の円筒状部5bの外径D5bよりも小さくなっている。また、有底孔6cは、その内径d6cが、底部円板状有底円筒状部材5の有底孔6cの内径d6cと略等しい大きさとなっており、その深さH6cは、底部円板状有底円筒状部材5の有底孔5cの深さH5cより大きくなるように加工される。更に、薄肉延伸円筒状部6bの肉厚t6bは、底部円板状有底円筒状部材5の円筒状部5bの肉厚t5bよりも小さくなっている。即ち、本実施例に係る底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材6においては、薄肉延伸円筒状部6bとして、底部円板状有底円筒状部材5の円筒状部5bよりも薄肉であり且つ軸方向に延伸された部位が形成される。
【0076】
(2)底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材の製造方法
次に、上記底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材の製造方法について説明する。本実施例では、上述のようにして得た底部円板状有底円筒状部材5に対してスピニング加工を施す。本実施例において、上記スピニング加工は冷間スピニングとしている。この冷間スピニング加工では、図23に示すように、加工ローラ51と、チャック52と、を用いる。加工ローラ51は、上記実施例2の加工ローラ31と略同様の構成であり、ワークとなる有底円筒状部材3の中心方向(図23のx軸方向)及び軸方向(図23のz軸方向)に自在に移動可能なように図示しない移動手段により支持されている。また、加工ローラ51は、z軸方向の軸回りに回転自在に軸支されており、回転する底部円板状有底円筒状部材5の外周面に押し当てられた際に、その回転に連れて回転するようになっている。更に、加工ローラ51は、その押し当て面51aが略円弧状をなしているとともに、その曲率半径R51aは、底部円板状有底円筒状部材5の円筒状部5bの肉厚t5bの約3倍に設定されている。また、加工ローラ51は、その外径D51がワークとなる底部円板状有底円筒状部材5の円筒状部5bの外径D5bの約3倍に設定されている。
【0077】
チャック52は、ワークとなる底部円板状有底円筒状部材5を固定支持するとともに図示しない回転駆動手段により回転可能であり、これによりワークを回転させることができる。なお、本実施例においては、底部円板状有底円筒状部材5の有底孔5cに挿入し、その底壁を押さえてワークとなる底部円板状有底円筒状部材5を保持する保持ピン53を用いるようにしているが、保持ピン53は有底孔5cの底壁に当接しているのみで、有底孔5cの内径側の面には当接していない。即ち、本実施例において、通常のスピニング加工において用いられるような成形型等の加工用工具は用いない。
【0078】
底部円板状有底円筒状部材5から底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材6を得るに当たり、最初に、図23に示すように、底部円板状有底円筒状部材5をチャック52に固定支持させて回転させ、加工ローラ51の押し当て面51aをワークに押し当てる。すると、図24(a)に示すように、円筒状部5bの加工ローラ51が押し当てられた部分の外径が小径化されることにより薄肉化される。
【0079】
そして、この状態で、加工ローラ51をz軸方向に移動させると、図24(b)に示すように、円筒状部5bに相当する部位が軸線方向に延伸されるとともに、加工ローラ51が通過した部位の肉厚が薄くなってゆく。これにより、円筒状部5bの肉厚t5bよりも薄肉であり且つ軸線方向に延伸された薄肉延伸円筒状部6bが形成され、底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材6が得られる。
【0080】
このようにして得た底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材6は、図22(b)に示すように、底部円板状有底円筒状部材5の円板状拡径部5aと略同形状の円板状拡径部6aと、底部円板状有底円筒状部材5の円筒状部5bの外径D5bよりも小さい外径D6bの薄肉延伸円筒状部6bと、を備える。また、薄肉延伸円筒状部6b側には、内径d6c、高さH6cの有底孔6cが形成される。更に、薄肉延伸円筒状部6bは、その肉厚t6bが底部円板状有底円筒状部材5の円筒状部5bの肉厚t5bよりも薄肉に形成されているとともに、底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材6の軸方向に略均一な肉厚となっている。
【0081】
(3)実施例4の効果
以上のように、本実施例では、冷間スピニング加工により、底部円板状有底円筒状部材5の円筒状部5bの肉厚よりも薄肉になるように軸方向に延伸した薄肉延伸円筒状部6bを形成するようにしている。これにより、鍛造加工により同様の薄肉延伸円筒状部を形成する場合と比較して、より肉厚の薄い薄肉延伸円筒状部を容易に形成することができる。
【0082】
また、冷間スピニング加工は、回転させた底部円板状有底円筒状部材5の円筒状部5bの外径側の面に加工ローラ51を押し当てながら、延伸させる方向に向かって加工ローラ51を移動させることにより薄肉延伸円筒状部6bを形成する加工であって、当該加工の間は円筒状部5bの内径側の面には加工用工具を当接させない加工であるので、通常のスピニング加工のように内径側の面を規定する成形型を必要としないので、加工用工具数を減らすことができ、簡易な構成による加工を実現することができる。
【0083】
更に、本実施例では、加工ローラ51の押し当て面51aの断面形状を略円弧状とし、その曲率半径R51aは、底部円板状有底円筒状部材5の円筒状部5bの肉厚t5bの約3倍に設定されているので、押し当て面51aを円筒状部5bに十分な接触面積で押し当てることができ、好適に延伸させることができる。
【0084】
なお、本発明においては、上記実施例1〜4に限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。即ち、上記実施例では、中間部材2として、肉厚t2bが端部側に向かうにつれて減少する杯状拡径部2bを備える例を示したが、これに限定されず、例えば、図25に示すように、端部側に向かうに従ってその肉厚t2b’が増加する杯状拡径部2b’を備える中間部材2’としてもよい。このような中間部材2’の製造方法の例を図26〜図30を参照して以下に説明する。
【0085】
中間部材2’は、上記実施例1と同様に、素材1を鍛造加工することにより得られる。この鍛造加工では、図26に示すように、杯状拡径部2b’の内壁形状を形成するための凸状部11a’を有する上金型11’と、素材1を保持するとともに、杯状拡径部2b’の外壁形状を形成するための凹状部12a’を有する下金型12’と、を用いる。図26は、左半分に上記実施例1における中間部材2を得るために用いる上金型11及び下金型12を示し、右半分に中間部材2’を得るために用いる上金型11’及び下金型12’を示している。同図に示すように、凹状部12a’は、その内壁が実施例1の凹状部12aの内壁よりも低い位置から縮径するように形成されているとともに、凹状部12aよりも急峻に縮径するように形成されている。なお、凸状部11a’は、その先端側の形状が実施例1の凸状部11aと略同一であるが、凸状部11a’の基端側に設けられる成長抑制部11c’は、実施例1の成長抑制部11cよりも低い位置に設けられている。
【0086】
素材1から中間部材2’を得るに当たり、最初に、図27に示すように、下金型12’の凹状部12a’に素材1を挿入して上金型11’を下降させ、素材1に凸状部11a’を押し当てて加圧する。すると、図28(a)〜(c)に示すように、凸状部11a’によって素材1が圧縮されて素材1の肉が押し出され、加圧方向に対して斜め後方に流出する。このとき、凸状部11a’と凹状部12a’との間の空隙は、上記実施例1と比較して外側により大きく開くように形成されるので、凸状部11a’によって押し出される素材1の肉は、上記実施例1と比較してより外側方向に流出する。そして、図29に示すように、上金型11’が下降端に達すると、杯状拡径部2b’の形成が完了する。最後に、図30に示すように、上金型11’を上昇させるとともに、ノックアウトピン13を上昇させて離型し、中間部材2’を得る。
【0087】
このようにして得た中間部材2’は、杯状拡径部2b’が、その肉厚t2b’が端部側に向かうに従って増加するように形成される。このように、肉厚t2b’が端部側に向かうに従って増加するように杯状拡径部2b’を形成するようにしたので、上記実施例1と比較して、変形抵抗のより小さな鍛造加工を実現することができる。また、凸状部11a’によって押し出される素材1の肉は、実施例1と比較してより外側方向、即ち、加圧方向に対してより大きな角度をもって斜め後方に流出するので、実施例1と比較して、より小さな加圧力による加工が実現できる。更に、端部側に向かうに従って肉厚t2b’が増加するようにしたので、実施例1と比較して、上方側への肉の流動が小さくなり、上金型11’の凸状部11a’と流動する肉と摩擦量を小さくすることができる。その結果、金型の摩耗を抑制することができ、金型寿命をより向上させることができる。
【0088】
また、上記実施例3では、鍛造加工により、図16(b)に示すような円板状拡径部5aを備える底部円板状有底円筒状部材5を得るようにしたが、これに限定されず、例えば、図31(a)に示すように、円筒状部5b’側から端部側に向かうに連れて拡径するように形成された円板状拡径部5a’を備える底部円板状有底円筒状部材5’を得るようにしてもよい。更に、上記鍛造加工において、有底円筒状部材3の円筒状部3bが軸線方向に延伸された円筒状部5b’を形成するようにしてもよい。
【0089】
また、図31(a)に示すように、有底円筒状部材3を鍛造加工することにより、円柱状部3aの底部側が円板状に拡径されるとともに、端部側に向かうに連れて拡径するように形成された円板状拡径部5a’と、該円板状拡径部5a’の一端側に一体に形成され且つ円筒状部3bが軸線方向に延伸された円筒状部5b’と、を形成し、該円板状拡径部5a’及び該円筒状部5b’を備える底部円板状有底円筒状部材5’を得るようにしてもよい。
【0090】
更に、このようにして得た底部円板状有底円筒状部材5’の円筒状部5b’をスピニング加工することにより、図31(b)に示すように、円筒状部5b’の肉厚t5b’よりも薄肉になるように軸線方向に延伸した薄肉延伸円筒状部6b’を形成し、該薄肉延伸円筒状部6b’及び該薄肉延伸円筒状部6b’の一端側に一体に形成されている円板状拡径部6a’を備える底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材6’を得るようにしてもよい。
【0091】
また、上記実施例2及び4においては、スピニング加工において、1つの加工ローラ31,51を用いる例を示したが、これに限定されず、例えば、図31(a)及び(b)に示すように、複数の加工ローラを用いるようにしてもよい。この場合、図31(a)及び(b)に示すように、複数の加工ローラをワークの円周方向に配置するようにしてもよいし、軸方向に配置するようにしてもよい。更に、複数の加工ローラをワークの円周方向に配置する場合、その押し当て形態として、図32(a)に示すように、各加工ローラ31,51をワークの中心方向に向かってそれぞれ押し当てる形態や、図32(b)に示すように、各加工ローラ31,51の押し当て方向が互いに平行となるように押し当てる形態とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
有底円筒状部材、底部円板状有底円筒状部材、有底薄肉延伸円筒状部材及び底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材を製造する技術として広く利用される。特に、難加工材からこれらの部材を製造する技術として好適に利用される。
【符号の説明】
【0093】
1;素材、2,2’;中間部材、2a;円柱状部、2b,2b’;杯状拡径部、2c;有底孔、3;有底円筒状部材、3a;円柱状部、3b;円筒状部、3c;有底孔、4;有底薄肉延伸円筒状部材、4a;円柱状部、4b;薄肉延伸円筒状部、4c;有底孔、5,5’;底部円板状有底円筒状部材、5a,5a’;円板状拡径部、5b,5b’;円筒状部、5c;有底孔、6,6’;底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材、6a,6a’;円板状拡径部、6b,6b’;薄肉延伸円筒状部、6c;有底孔、11,11’;上金型、11a,11a’;凸状部、11b;被案内部、11c,11c’;成長抑制部、12,12’;下金型、12a,12a’;凹状部、12b;案内部、13;ノックアウトピン、21;上金型、21a;突起部、21b;空気穴、22;下金型、22a;貫通孔、31;加工ローラ、31a;押し当て面、32;チャック、41;上金型、41a;凸状部、42;下金型、42a;貫通孔、43;ピン、44;ノックアウトスリーブ、45;ガイド、46;流体シリンダ、51;加工ローラ、51a;押し当て面、52;チャック、53;保持ピン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中実円柱状の素材を鍛造加工することにより該素材の一端側の端部に向かって杯状に拡径された杯状拡径部を形成し、該杯状拡径部及び該杯状拡径部の小径側に一体に形成されている円柱状部を備える中間部材を得る工程と、
前記中間部材の前記杯状拡径部をしごき加工することにより前記杯状拡径部が円筒状に加工された円筒状部を形成し、該円筒状部及び該円筒状部の一端側に一体に形成されている円柱状部を備える有底円筒状部材を得る工程と、を含むことを特徴とする有底円筒状部材の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法で製造した有底円筒状部材の前記円筒状部をスピニング加工することにより前記円筒状部の肉厚よりも薄肉になるように軸線方向に延伸した薄肉延伸円筒状部を形成し、該薄肉延伸円筒状部及び該薄肉延伸円筒状部の一端側に一体に形成されている円柱状部を備える有底薄肉延伸円筒状部材を得る工程を含むことを特徴とする有底薄肉延伸円筒状部材の製造方法。
【請求項3】
前記スピニング加工は、回転させた前記有底円筒状部材の前記円筒状部の外径側の面に加工ローラの外径側の面を押し当てながら、延伸させる方向に向かって該加工ローラを移動させることにより薄肉延伸円筒状部を形成する加工であって、当該加工の間は前記円筒状部の内径側の面には加工用工具を当接させない加工である請求項2記載の有底薄肉延伸円筒状部材の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の製造方法で製造した有底円筒状部材を鍛造加工することにより前記円柱状部の底部側が円板状に拡径された円板状拡径部を形成し、該円板状拡径部及び該円板状拡径部の一端側に一体に形成されている円筒状部を備える底部円板状有底円筒状部材を得る工程を含むことを特徴とする底部円板状有底円筒状部材の製造方法。
【請求項5】
前記底部円板状有底円筒状部材を得る工程では、前記円板状拡径部の底部側の面形状を形成するための第1の型と、前記円筒状部の外側面側の面形状及び前記円板状拡径部の前記底部側の面以外の面形状を形成するための第2の型と、前記円筒状部の有底円筒内面形状を形成するための第3の型と、を用いて前記円板状拡径部と前記円筒状部とを形成し、
その後、前記第3の型を最初に離型する請求項4記載の底部円板状有底円筒状部材の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5記載の製造方法で製造した底部円板状有底円筒状部材の前記円筒状部をスピニング加工することにより該円筒状部の肉厚よりも薄肉になるように軸線方向に延伸した薄肉延伸円筒状部を形成し、該薄肉延伸円筒状部及び該薄肉延伸円筒状部の一端側に一体に形成されている円板状拡径部を備える底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材を得る工程を含むことを特徴とする底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材の製造方法。
【請求項7】
前記スピニング加工は、回転させた底部円板状有底円筒状部材の前記円筒状部の外径側の面に加工ローラの外径側の面を押し当てながら、延伸させる方向に向かって該加工ローラを移動させることにより薄肉延伸円筒状部を形成する加工であって、当該加工の間は前記円筒状部の内径側の面には加工用工具を当接させない加工である請求項6記載の底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材の製造方法。
【請求項8】
請求項1記載の製造方法で製造したことを特徴とする有底円筒状部材。
【請求項9】
請求項2又は3記載の製造方法で製造したことを特徴とする有底薄肉延伸円筒状部材。
【請求項10】
請求項4又は5記載の製造方法で製造したことを特徴とする底部円板状有底円筒状部材。
【請求項11】
請求項6又は7記載の製造方法で製造したことを特徴とする底部円板状有底薄肉延伸円筒状部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【公開番号】特開2012−125777(P2012−125777A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277375(P2010−277375)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(510328630)株式会社東亜鍛工所 (1)
【Fターム(参考)】