説明

有機ケイ素ポリマー−単層カーボンナノチューブ複合体及びそれを用いた酸化物半導体、並びに光電極及び光電極の製造方法

【課題】半導体としての特性を保持し、優れた光電変換効果を与えることができるとともに、汎用溶媒に可溶な単層カーボンナノチューブ、及び、この単層カーボンナノチューブが担持され、優れた光電変換効果、電界発光効果を示す酸化物半導体、並びに、この酸化物半導体を使用することを特徴とし、太陽電池等の光電変換デバイスに好適に適用される光電極及びその製造方法を提供する。
【解決手段】特定構造の有機ケイ素ポリマーで単層カーボンナノチューブを修飾してなる有機ケイ素ポリマー−単層カーボンナノチューブ複合体、この複合体を、多孔性二酸化チタンに担持させてなる酸化物半導体、この酸化物半導体からなることを特徴とする光電極、及び、透明導電膜上に多孔性二酸化チタン層を形成し、この層に、光照射下で、前記の有機ケイ素ポリマー−単層カーボンナノチューブ複合体を含有する溶液を接触させて加熱することを特徴とする光電極の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ケイ素ポリマーで単層カーボンナノチューブを修飾してなる有機ケイ素ポリマー−単層カーボンナノチューブ複合体、該複合体を担持する酸化物半導体、前記酸化物半導体を含む光電極、及び前記光電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、その特異な電子状態、構造上の特徴から、独特の電気的特性、光学的特性を有し、電子材料や光電素子等への利用が期待されている。特に、半導体としての特性を有する単層カーボンナノチューブ(以下、SWNTと表現する。)は、その光吸収・発光波長域が、光通信技術などにとって重要な近赤外域(800−1500nm)にあることから、光電変換素子及び電界発光素子への利用が、産業上極めて有用なものと期待されている。例えば、特許文献1には、カーボンナノチューブ含有薄膜を備えた光電変換材料及び光電変換素子並びに電界発光材料及び電界発光素子及び該薄膜からなる光電変換素子、電界発光素子が開示されている。
【0003】
しかし、SWNT等のカーボンナノチューブは、汎用溶媒の大部分に対して不溶性を示し、かつ不融である。その結果、加工性に乏しく薄膜化が困難である等の問題を有し、電子材料や光電素子等への利用を困難にしていた。そこで、カーボンナノチューブを汎用溶媒に可溶化する方法が種々提案されている。
【0004】
例えば、特許文献2には、カーボンナノチューブの可溶化方法として、a)カーボンナノチューブと重合反応できる少なくとも1つのタイプのモノマー分子又は該少なくとも1つのタイプのモノマー分子の前駆体を準備するステップと、b)上記モノマー分子又は該モノマー分子の前駆体と上記カーボンナノチューブとを混合するステップと、c)モノマー分子とカーボンナノチューブとの重合反応を開始し、化学修飾されたカーボンナノチューブを生成するステップとを有し、化学修飾されたカーボンナノチューブは、表面及び/又は末端に官能基を有しており、該官能基において重合反応が起こることを特徴とする方法が開示されている。この方法は、カーボンナノチューブの表面や末端に重合体基を導入して、その重合体基により、可溶化するものである。
【0005】
又、特許文献1には、カーボンナノチューブを、可溶性のポリフェニレンビニレン置換体のような導電性高分子に分散させて光電変換機能や電界発光機能を有する薄膜を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−265035号公報(段落0001)
【特許文献2】特開2006−509703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前記の従来技術によりSWNTを可溶化すると、SWNTの半導体としての特性が下がる問題があった。又、前記の方法によって可溶化されたSWNTを含有した薄膜によっては、効率の高い光電変換効果、電界発光効果は得られなかった。そこで、SWNTの半導体としての特性を下げずに、優れた光電変換効果、電界発光効果を与えることができる、SWNTの可溶化方法の開発が望まれていた。
【0008】
本発明は、SWNTの半導体としての特性を保持し、優れた光電変換効果、電界発光効果を与えることができるとともに、汎用溶媒に可溶なSWNTを含む複合体(以下、「SWNT複合体」と言う。)を提供することを課題とする。又、本発明は、この可溶化されたSWNT複合体が担持され、優れた光電変換効果、電界発光効果を示す酸化物半導体を提供することを課題とする。本発明は、さらに、この酸化物半導体を使用することを特徴とし、太陽電池等の光電変換デバイスに好適に適用される光電極及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は検討の結果、特定の構造を有する有機ケイ素ポリマーを用い、該有機ケイ素ポリマーでSWNTの表面を修飾して有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体を形成することにより、有機溶媒に可溶なSWNT複合体とすることができること、さらに、このようにして可溶化したSWNT複合体を多孔性の二酸化チタン表面に担持することにより、優れた光電特性を有する酸化物半導体が得られること、従って、この酸化物半導体を用いることにより優れた光電極が得られることを見出し、以下に示す構成からなる本発明を完成した。
【0010】
請求項1に記載の発明は、下記構造式(1)で表される有機ケイ素ポリマーでSWNTの表面を修飾してなる有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体である。
【0011】
【化1】

【0012】
式中、mは1〜3の数を、それぞれのRは、同一又は異なって、炭素数1〜20のアルキル基、又は置換されていてもよいフェニル基を、Arは、2〜8のベンゼン環からなる2価の縮合環芳香族基を、nは、5〜2000の数を表す。
【0013】
構造式(1)中のシリレン基、ジシリレン基又はトリシリレン基に置換する複数の置換基Rは、同一であってもよいし、それぞれ異なっていてもよい。例えば、全てのRが同じ炭素数、構造のアルキル基であってもよいし、炭素数や構造が異なるアルキル基やフェニル基が混在していてもよい。置換されていてもよいフェニル基とは、置換されていないフェニル基、及びアルキル基等で置換されているフェニル基、例えばトリル基等を含む意味である。
【0014】
構造式(1)中のArは、縮合環芳香族化合物の2価の基(2価の縮合環芳香族基)を表す。この縮合環芳香族基がSWNTの表面に吸着され、式(1)で表される有機ケイ素ポリマーでSWNTを修飾して、本発明の複合体が形成される。式(1)で表される有機ケイ素ポリマーでSWNTの表面を修飾した複合体は、トルエン、酢酸エチル、四塩化炭素等の汎用溶剤に可溶であり、その溶液を用いることにより薄膜化等の加工を容易に行えるようになる。
【0015】
縮合環芳香族とは、複数の芳香環(単環)を有し、各々の単環が、それぞれの環の辺を共有してできる縮合環を有する炭化水素化合物を意味する。すなわち、Arは、2〜8のベンゼン環からなり、それぞれのベンゼン環の間で、2個又はそれ以上の原子を共有している化合物の2価の基を意味する。なお、縮合環芳香族中には、ベンゼン環以外の環が含まれていてもよい。
【0016】
構造式(1)中のnは、5〜2000の範囲であるが、構造式(1)で表される有機ケイ素ポリマーの分子量は、1,000〜100,000程度の範囲が好ましく、この範囲の分子量となるnが好ましい。より好ましくは5,000〜50,000の範囲である。なお、ここで分子量とは、GPCにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。
【0017】
SWNTとしては、太さが5nmまでであり、長さが100nm程度までの単層のカーボンナノチューブが好ましく使用される。このようなSWNTと、構造式(1)で表される有機ケイ素ポリマーを、混合、撹拌することにより、式(1)の有機ケイ素ポリマーがSWNT表面を修飾し、汎用溶媒に可溶な有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体が形成される。
【0018】
構造式(1)で表される有機ケイ素ポリマーは、p型半導体としての性質を有する。このようなp型半導体としての性質を有するポリマーにより可溶化するので、SWNTの半導体としての特性が損なわれることはない。
【0019】
請求項2に記載の発明は、構造式(1)中のmが2であることを特徴とする請求項1に記載の有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体である。請求項1の有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体の中でも、構造式(1)中のmが2である有機ケイ素ポリマーから得られるものは、Si−Si結合を有し、光照射により二酸化チタン表面へ担持させやすいので好ましい。
【0020】
請求項3に記載の発明は、構造式(1)中のRが、炭素数3〜8のアルキル基であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体である。構造式(1)で表される有機ケイ素ポリマーは、後述のように、縮合環芳香族化合物と、1,2−ジエチニル−置換シラン化合物とを、交互共重合することにより得られるが、構造式(1)中のRが、炭素数3〜8のアルキル基を主体とする場合、5,000〜50,000の範囲の分子量のポリマーが得られやすいので好ましい。
【0021】
請求項4に記載の発明は、構造式(1)中のArが、フェナレン、フェナントレン、トリフェニレン、ピレン、クリセン、ピセン、ペリレン及びペンタフェンからなる群より選ばれる縮合環芳香族化合物の2価の残基であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体である。
【0022】
構造式(1)中のArが、フェナレン、フェナントレン、トリフェニレン、ピレン、クリセン、ピセン、ペリレン及びペンタフェンからなる群より選ばれる縮合環芳香族化合物の2価の残基である場合は、SWNT表面に有機ケイ素ポリマーが修飾されやすく、安定して有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体が形成できるので好ましい。
【0023】
構造式(1)の有機ケイ素ポリマーは、可視領域に大きな吸収を有し、SWNTは1000〜1500nmにも吸収を有するので、本発明の有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体は、300〜1500nmの範囲内に吸収を有する。広い波長範囲に吸収を有することから太陽電池などへの利用価値が高いものである。また、光通信技術などにとって重要な近赤外域(800〜1500nm)を含むことから、本発明の有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体は、受光デバイスへの利用価値が高いものである。
【0024】
式(1)の有機ケイ素ポリマーは、例えば、下記構造式で表されるジエチニル置換シラン化合物:
【0025】
【化2】

【0026】
[式中、mは1〜3の数を、それぞれのRは、同一又は異なって、炭素数1〜20のアルキル基、又は置換されていてもよいフェニル基を表す。]と、2〜8のベンゼン環からなる縮合環芳香族化合物、例えば、X−Ar−Xで表される化合物(式中、Arは前記の意味を、Xはハロゲン原子を表す。)を、トルエン、酢酸エチル、クロロホルム、四塩化炭素、THF、DMF等の溶媒中に混合して、触媒の存在下、縮合重合させる方法により合成することができる。
【0027】
X−Ar−Xを用いる場合、使用する反応触媒としては、種々のパラジウム触媒が好適に用いられる。中でも、ジクロロビス(トリフェニルフォスフィン)パラジウムやテトラキス(トリフェニルフォスフィン)パラジウム[Pd(PPh]が好適に用いられる。反応温度や反応時間等の反応条件は、縮合環芳香族化合物等の原料の種類、触媒の種類、用いる溶媒等によりその好ましい範囲は変動し、特に限定されないが、前記のようなパラジウム触媒を用いた場合は、50〜100℃で50〜100時間程度の条件が採用されることが多い。反応に際しては、トリエチルアミン等のpH調整剤、CuI等を反応系に添加してもよい。
【0028】
式(1)の有機ケイ素ポリマーの末端は、例えば水素、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、トリアルキルシリル基であってよく、又、式(1)の有機ケイ素ポリマーは、末端同士が結合した環状高分子であってもよい。
【0029】
請求項5に記載の発明は、構造式(1)で表される有機ケイ素ポリマーとSWNTとを有機溶媒中で混合することを特徴とする有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体溶液の製造方法である。
【0030】
前記のように、SWNTと、構造式(1)で表される有機ケイ素ポリマーを、混合、撹拌することにより式(1)の有機ケイ素ポリマーでSWNT表面を修飾することができ、このようにして生成した有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体は、汎用有機溶媒に可溶である。従って、SWNTと有機ケイ素ポリマーとの混合を、トルエン、酢酸エチル、クロロホルム、四塩化炭素、THF、DMF等の有機溶媒中で行うことにより、有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体溶液を得ることができる。この方法では、50℃〜溶剤の沸点までの温度で10〜100時間程度混合する条件が採用される場合が多い。後述のように、このようにして得られる有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体溶液を用いることにより、本発明の酸化物半導体等を容易に得ることができる。
【0031】
請求項6に記載の発明は、上記ジエチニル置換シラン化合物、2〜8のベンゼン環からなる縮合環芳香族化合物、及びSWNTを混合して、有機溶媒中で、前記ジエチニル置換シラン化合物と縮合環芳香族化合物との縮合重合反応を行うことを特徴とする有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体溶液の製造方法である。
【0032】
構造式(1)で表される有機ケイ素ポリマーを、上記構造式で表されるジエチニル置換シラン化合物と2〜8のベンゼン環からなる縮合環芳香族化合物との縮合重合反応により合成する際に、反応系にSWNTを含有させることにより、有機ケイ素ポリマーの生成と同時に、該有機ケイ素ポリマーでその表面を修飾したSWNT、すなわち有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体を得ることができる(in situ法)。そして、この複合体は、有機溶媒に可溶なので、縮合重合反応を有機溶媒中で行うことにより、有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体溶液を製造することができる。ここで用いられる有機溶媒としては、トルエン、酢酸エチル、クロロホルム、四塩化炭素、THF、DMF等を挙げることができる。反応の条件は、有機ケイ素ポリマーの製造で説明した条件と同様である。
【0033】
請求項7に記載の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体を、多孔性二酸化チタンに担持させてなる酸化物半導体である。
【0034】
前記の方法等により得られる有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体の溶液と多孔性二酸化チタンを接触させることにより、多孔性二酸化チタンに有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体を担持することができる。この溶液と多孔性二酸化チタンとの接触の際に、光照射すると、より容易に担持させることができる。本発明の有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体を多孔性二酸化チタンに担持させてなる酸化物半導体は、SWNTの半導体としての性質が保持されており、優れた光電変換効率、電界発光効率を示す。従って、光電変換デバイスの光電極等に好適に使用される。
【0035】
請求項8に記載の発明は、本発明の酸化物半導体の使用の1態様を提供するものであり、具体的には、透明基板、この透明基板上に設けられた透明導電膜、及びこの透明導電膜上に設けられた多孔性半導体層からなり、この多孔性半導体層が、請求項7に記載の酸化物半導体からなることを特徴とする光電極である。請求項7に記載の酸化物半導体は、優れた光電変換効率を示すので、この酸化物半導体を用いた光電極は、光電変換デバイスに好適に用いられる。
【0036】
この光電極は、透明基板及びこの透明基板上に設けられた透明導電膜からなる透明電極の前記透明導電膜上に、多孔性二酸化チタンの微粒子を塗布しその後焼結して、多孔性二酸化チタン層を形成する工程、及び、光照射下で、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体を含有する溶液と前記多孔性二酸化チタン層を接触させて加熱する工程を有する方法により、製造することができる。本発明は、請求項9として、この光電極の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0037】
本発明の有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体は、汎用溶媒に可溶であり、優れた加工性を有する。又、SWNTの半導体としての性質は、有機ケイ素ポリマーでの修飾により損なわれることはなく、優れた光電変換効率、電界発光効率を与えることができる。本発明の酸化物半導体は、この有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体が担持されているので、優れた光電変換効率、電界発光効率を示す。
【0038】
本発明の光電極は、この酸化物半導体を用いているので、優れた光電変換効率を与える。従って、太陽電池や有機EL素子等の光電変換デバイス、特に太陽電池に好適に適用される。この光電極は、本発明の光電極の製造方法により、容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の光電極を使用した太陽電池の構成を示す模式断面図である。
【図2】実施例1で得られた生成物の吸光スペクトルである。
【図3】有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体を、多孔性酸化物半導体層に担持させたガラス基板の赤外吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
次に、本発明を実施するための形態につき説明するが、本発明の範囲はこの形態のみに限定されるものではない。
【0041】
式(1)の有機ケイ素ポリマーでSWNTの表面を修飾する方法としては、式(1)で表される有機ケイ素ポリマーとSWNTとを有機溶媒中で混合する方法(請求項5の製造方法で行われる方法)や前記のin situ法(請求項6の製造方法で行われる方法)
の他に、有機ケイ素ポリマー及びSWNTを、ボールミルにより混合する方法等を挙げることができる。ボールミルにより混合する方法では、100〜500rpmで1〜50時間程度混合する条件が採用される場合が多い。
【0042】
本発明の有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体を、多孔性二酸化チタンに担持させることにより、本発明の酸化物半導体が得られるが、二酸化チタン(チタニア)は、半導体としての特性を有する無機酸化物の中でも、安定性、安全性及び効率の点から好ましい酸化物である。
【0043】
多孔性二酸化チタンとは、アナターゼ型及び/又はルチル型の二酸化チタンから構成され、ナノサイズの空孔を有するものである。この空孔に本発明の有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体が担持される。エネルギー変換効率(光電変換効率、電界発光効率)を向上させるためには、一般に有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体をより多く吸着させ、担持させる必要があり、このために多孔性二酸化チタンの比表面積は大きなものが好ましく、10〜200m/g程度の比表面積を有するものが好ましい。
【0044】
式(1)の有機ケイ素ポリマーとSWNTとの複合体を、多孔性二酸化チタンに担持する方法としては、有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体を溶剤に溶解し、その溶液と多孔性二酸化チタンを接触する方法を採用することができる。前記のように式(1)の有機ケイ素ポリマーとSWNTの複合体は、汎用溶媒に可溶なので、この溶液は容易に得ることができる。
【0045】
有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体の溶液と多孔性二酸化チタンの接触は、例えば溶液中に多孔性二酸化チタンを浸漬して行うことができる。式(1)中のmが2である有機ケイ素ポリマーの場合等では、この接触の際に紫外光を照射することにより、二酸化チタン表面の酸素原子とポリマー中のケイ素原子間を反応させて、担持を促進することができる。又、この接触は、光学変換デバイスの製造過程で、多孔性二酸化チタンの層を導電層等の上に形成した後に行うこともできる。
【0046】
このようにして得られた酸化物半導体は、多孔性半導体層を形成し、例えば、本発明の光電極、すなわち、透明基板、この透明基板上に設けられた透明導電膜、及びこの透明導電膜上に設けられた多孔性半導体層からなり、この多孔性半導体層が、前記酸化物半導体からなることを特徴とする光電極に使用することができる。
【0047】
さらに、この本発明の光電極は、対電極等を組み合わされて光電変換デバイス等の構成部材として用いることができる。さらに有機トランジスタ、センサー等への応用が考えられる。ここで光電変換デバイスとは、400〜1500nmの範囲の光を電気エネルギー(起電力)に変え、又は電気エネルギーを光エネルギーに変える機能を有する素子で、例えば、太陽電池や有機EL素子等を挙げることができる。本発明の光電極は特に、太陽電池に好ましく使用される。
【0048】
次に、本発明の光電極及びそれを用いた太陽電池の構造を、図を用いて説明する。
【0049】
図1は、本発明の光電極を使用した太陽電池の構成を示す模式断面図である。図中1はガラス基板(透明基板)であり、その上に、FTO層2(透明導電膜)が形成されている。FTO層2上には、本発明の酸化物半導体からなる多孔性半導体層3が形成されている。ガラス基板1(透明基板)、FTO層2(透明導電膜)及び多孔性半導体層3で光電極を構成している。
【0050】
透明基板の材料としては、例えばガラスやポリマーフィルム等が挙げられる。この透明基板上に透明導電膜が設けられる。透明導電膜は、透明でかつその表面が導電性を持つ材料から形成され、例えばスズ蒸着酸化インジウム膜(ITO)又はフッ素蒸着酸化スズ膜(FTO)が好ましく例示される。図1の例では、透明基板にガラスが、透明導電膜にFTOが用いられている。
【0051】
透明導電膜の膜厚は0.1μm〜5μm程度が適当である。透明導電膜は、前記透明基板上に、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、PVD法、ゾルゲル法等の公知の方法により形成することができる。
【0052】
透明導電膜上には、多孔性の二酸化チタン層が形成される。二酸化チタン層の膜厚は、特に限定されるものではないが、光透過性、光電変換効率等の観点から、0.1〜50μm程度が好ましい。
【0053】
透明導電膜上に、二酸化チタン層を形成する方法としては、ナノサイズのアナターゼ型二酸化チタン微粒子又はアナターゼ型とルチル型二酸化チタン微粒子の混合物を含有する懸濁液を、透明導電膜上に塗布して乾燥及び/又は焼結する方法(塗布法)が挙げられるが、この方法に限定されず、CVD法、MOCVD法、PVD法、蒸着法、スパッタリング法、ゾルゲル法、電気化学的な酸化還元反応を利用した方法等の公知の方法及びそれらの組み合わせにより形成することもできる。
【0054】
透明導電膜上に二酸化チタン微粒子を含有する懸濁液を塗布する場合は、比表面積の大きい多孔性半導体層を得るために、二酸化チタン微粒子の平均粒径は、1〜2000nm程度の範囲が好ましい。半導体粒子を含有する懸濁液は、例えば、ポリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル等のグライム系溶剤、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤、イソプロピルアルコール/トルエン等のアルコール系混合溶剤、水等の溶剤に、半導体粒子及び任意に分散剤を加えて調製することができる。塗布法における乾燥及び/又は焼結は、大気又は不活性ガス雰囲気下、50〜800℃程度の温度、10秒〜12時間程度で行うことができる。この乾燥、焼結は、温度等を変化させて2回以上行ってもよい。
【0055】
図中4は対電極であり、FTO膜を蒸着したガラス板41と白金層42の2層からなる。このような白金層は、スパッタリング法、塩化白金酸の熱分解、蒸着等の方法によって形成することができ、その膜厚は、1nm〜1000nm程度が適当である。なお、一般に、光電変換デバイスを構成する対電極は、導電性の高い材料から形成され、この材料としては、電気化学的に安定な、例えば、白金、金、銀、銅、アルミニウム等の金属や、グラファイト等が挙げられるが、前記の光電極の形成に用いられた透明電極を用いることもでき、又、ここで例示されたものと組合せて用いることもできる。
【0056】
対電極4と、多孔性半導体層3の間には、電荷輸送層5が挟持されている。この例での電荷輸送層5は、アセトニトリルとエチレンカーボネートの2:8(重量比)の混合液に、ヨウ化リチウム0.5M、ヨウ素0.05Mを溶解した溶液である。なお、一般に、太陽電池では、光電極及び対電極間に、電荷輸送層が挟持されているが、電荷輸送層中を移動する電荷キャリアは電子でもホールでもイオンでも良い。電荷輸送層は、溶液状態のものの他、ゲル状態、又は固体状態(ドライ化)のものが用いられる。イオンは可逆的に酸化還元可能なイオン種が用いられ、溶液状態のものの場合、電解質溶液中に存在する酸化還元対としては、ヨウ素−ヨウ素化合物、臭素−臭素化合物等を挙げることができる。
【0057】
ガラス基板1、FTO層2及び多孔性半導体層3から構成される本発明の光電極6は、次のようにして製造される。先ず、蒸着法等によりガラス基板1上にFTO層2を形成し、FTO層2上に、ポリエチレングリコール中に二酸化チタン微粒子を分散したペーストを塗布し、その後、乾燥、焼結し、二酸化チタン層を有する透明電極を得る。このようにして得られた透明電極を、有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体と接触することにより、二酸化チタン層を構成する多孔性の二酸化チタンに、有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体を担持させることができ、本発明の光電極を得ることができる。
【0058】
透明電極と、有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体との接触は、有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体を溶媒に溶解し、この溶液に、該透明電極を浸漬する方法により行うことができる。本発明の有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体を溶解する溶媒としては、トルエン、酢酸エチル、四塩化炭素等の有機溶剤が挙げられる。これらの溶媒は、1種類の単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いることもできる。
【0059】
溶液の濃度は、0.1〜10g/lが好ましい。溶液の濃度が0.1g/l未満の場合は、有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体を十分な密度で二酸化チタンに結合させることができない場合がある。一方、10g/lを越える場合は、溶媒の種類によっては、有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体が全て溶解しない場合がある。
【0060】
前記の接触は、加熱下に行われる。加熱下に行うことにより、二酸化チタンとの化学結合が促進され、高いエネルギー効率が得られる。加熱の温度としては、30℃〜60℃が好ましい。加熱の温度が30℃未満の場合は、化学結合が進みにくく高いエネルギー効率が得られにくくなる傾向がある。一方、60℃を越える場合は、有機ケイ素ポリマー間の縮合が進みやすくなり、二酸化チタンとの結合密度が低下する場合がある。浸漬時間は、10分から12時間の範囲が好ましい。浸漬は、1回又は複数回行ってもよく、浸漬後に乾燥してもよい。又、溶媒の還流下で浸漬してもよい。
【0061】
前記の具体例では、透明電極を、有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体を、クロロホルム中に0.5〜3g/l程度の濃度で溶解してなる溶液に浸漬し、一定時間(数分〜数十時間)、40〜60℃程度で加熱した後、乾燥して光電極6を得ている。
【0062】
このようにして得られた太陽電池に、ガラス基板1側より400〜1500nmの波長を有する可視光又は赤外線を照射すると、多孔性半導体層3に担持されている有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体が光を吸収し、その中の電子が励起され、この励起電子が、多孔性半導体層3を構成する二酸化チタンに移動し、FTO層2(透明導電膜)に注入され、さらに電気回路を通って対電極に移動する。対電極4に移動した電子は、電荷輸送層5中に移動し、ヨウ素の酸化還元反応を生じ、この酸化還元反応(電荷輸送層5中のヨウ素イオンの移動)により、多孔性半導体層3に電子が戻り、この過程により光起電力が発生する。図1中のeと矢印は電子の流れを示す。本発明の光電極では、有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体は二酸化チタン表面に化学的に結合しているので、有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体と二酸化チタン間の電荷(電子)移動は円滑に行われ、エネルギー変換効率を向上できると考えられる。
【実施例】
【0063】
先ず、構造式(1)で表される有機ケイ素ポリマーの合成の例を示す。
【0064】
合成例1 Buポリマー(式(1)において、Rがブチルのポリマー)の合成
1,6−ジブロモピレン(0.875mmol)、1,2−ジエチニル−1,1,2,2−テトラブチルジシラン(0.875mmol)、PdCl(PPhの0.05g(5mol%)、CuIの0.015g(5mol%)、DMF30ml、トリエチルアミン5mlを50ml二口フラスコに加え、油浴中で80℃、72時間反応した。反応終了後、溶液をセライトろ過して不溶物を除去し、ろ液が透明になるまでクロロホルムで洗浄した。ろ液の溶媒をエバポレーターで留去し、残渣をクロロホルム/エタノールから再沈殿することで、オレンジ色の粉末固体として、収率47%でポリマーを得た。このポリマーを、Buポリマーとする。GPCによる測定結果は、Mw=7800、Mw/Mn=1.3であった。この合成例では、以下に示す反応が行われたものと考えられる。(式中、Buはブチル基を表す。)
【0065】
【化3】

【0066】
合成例2 Hexポリマー(式(1)において、Rがヘキシルのポリマー)の合成
ベンゼン中に、1,2−ジフェニル−1,1,2,2−テトラヘキシルジシラン、塩化水素、三塩化アルミニウムを加えて反応し、1,2−ジクロル−1,1,2,2−テトラヘキシルジシランを得た。さらに、グリニヤール試薬:R1MgBr(式中、R1はエチニル基)を反応させて、1,2−ジエチニル−1,1,2,2−テトラヘキシルジシランを得た。(なお、他の例で用いられる−ジエチニル−置換シラン化合物も同様な反応により合成することができる。)
【0067】
このようにして得られた1,2−ジエチニル−1,1,2,2−テトラヘキシルジシラン0.3903g(0.875mmol)、並びに、1,6−ジブロモピレン0.315g(0.875mmol)、PdCl(PPhの0.05g(5mol%)、CuIの0.015g(5mol%)、DMF30ml及びトリエチルアミン5mlを50ml二口フラスコに加え、油浴中で80℃、72時間反応した。反応終了後、溶液をセライトろ過して不溶物を除去し、ろ液が透明になるまでクロロホルムで洗浄した。ろ液の溶媒をエバポレーターで留去し、残渣をクロロホルム/エタノールから再沈殿することで、暗赤色のタール状固体として収率63%でポリマーを得た。GPCによる測定結果は、Mw=6900、Mw/Mn=1.5であった。この合成例では、以下に示す反応が行われたものと考えられる。(式中、Hexはヘキシル基を表す。)
【0068】
【化4】

【0069】
合成例3
1,6−ジブロモピレン(0.875mmol)、ジエチニル−ジヘキシルシラン(0.875mmol)、PdCl(PPhの0.05g(5mol%)、CuIの0.015g(5mol%)、DMF30ml、トリエチルアミン5mlを50ml二口フラスコに加え、油浴中で80℃、72時間反応した。反応終了後、溶液をセライトろ過して不溶物を除去し、ろ液が透明になるまでクロロホルムで洗浄した。ろ液の溶媒をエバポレーターで留去し、残渣をクロロホルム/エタノールから再沈殿することで、オレンジ色の粉末固体として収率19%でポリマーを得た。GPCによる測定結果は、Mw=6500、Mw/Mn=1.3であった。この合成例では、以下に示す反応が行われたものと考えられる。(式中、Hexはヘキシル基を表す。)
【0070】
【化5】

【0071】
合成例4
1,6−ジブロモピレン(0.583mmol)、1,2−ジエチニル−1,2−ジメチル−1,2−ジフェニルジシラン(0.583mmol)、PdCl(PPhの0.05g(5mol%)、CuIの0.015g(5mol%)、DMF20ml、トリエチルアミン3.5mlを50ml二口フラスコに加え、油浴中で80℃、72時間反応した。反応終了後、溶液をセライトろ過して不溶物を除去し、ろ液が透明になるまでクロロホルムで洗浄した。ろ液の溶媒をエバポレーターで留去し、残渣をクロロホルム/エタノールから再沈殿することで、暗赤色のタール状固体として収率19%でポリマーを得た。GPCによる測定結果は、Mw=3400、Mw/Mn=1.5であった。
【0072】
実施例1
Buポリマー20mgとSWNT(アルドリッチ社製カーボンナノチューブ、single-walled short、1−2nm×0.5−2μm)3mgを、ボールミルの容器に仕込み、容器内にボール9個を入れた後、300rpmで3時間混合した。混合後、容器内の混合物をクロロホルムに溶解してセライトろ過し不溶物を除去した。生成物の分子量を測定するとともに、クロロホルム溶液を調製して、吸光スペクトル、蛍光スペクトルを測定した。クロロホルム溶液の濃度はそれぞれ8×10−3g/l、2.7×10−3g/lである。分子量、蛍光量子収率(蛍光(全波長)量/吸収光量)を表1に示す。
【0073】
実施例2
Buポリマー20mgとSWNT(実施例1で使用したアルドリッチ社製カーボンナノチューブ)3mgを、THF6ml中に添加し、環流状態で72時間混合した。その後、実施例1と同様にして、分子量、蛍光スペクトルを測定した。分子量、蛍光量子収率を表1に示す。
【0074】
実施例3
Buポリマー20mgとSWNT(実施例1で使用したアルドリッチ社製カーボンナノチューブ)3mgを、DMF6ml中に添加し、80℃で72時間混合した。その後、実施例1と同様にして、分子量、蛍光スペクトルを測定した。分子量、蛍光量子収率を表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
SWNTが式(1)の有機ケイ素ポリマーで修飾されると、蛍光量子収率は低下する。表1から明らかなように、実施例1〜3の生成物は、いずれも、Buポリマーより蛍光量子収率が低下しており、有機ケイ素ポリマーでSWNTが修飾されていることが、この結果により示されている。特に、実施例1は、蛍光量子収率の低下が大きく、有機ケイ素ポリマーでSWNTを修飾するための好ましい方法であることが示されている。又、溶剤としては、THFよりDMFが優れることがこの結果より明らかである。
【0077】
図2に、実施例1で得られた生成物の吸光スペクトルを示す。波長1100〜1400nm付近にSWNT由来の吸収が見られる。
【0078】
実施例4 (in situ法)
表2に示す量のSWNT(実施例1で使用したアルドリッチ社製カーボンナノチューブ)(ジブロモピレンに対して5〜15重量%に相当する)を反応系に加えた以外は、合成例1と同条件で反応を行い、生成物を得た。その生成物の、分子量、赤外吸収スペクトル(IR)を測定した。その結果を表2に示す。いずれも、2130〜2140cm−1程度の領域にIRの吸収が見られ、有機ケイ素ポリマーで修飾されたSWNT(有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体)が生成していることが示された。
【0079】
又、各生成物の粉末1mgを10mLの溶媒(トルエン、酢酸エチル、四塩化炭素)に溶解し溶解性を検討した。その結果を、短時間で着色透明な溶液となる場合を○として、表2に示したが、前記溶媒のいずれについても○であり、有機ケイ素ポリマーで修飾されたことにより、SWNTが汎用溶媒に可溶化されていることが示された。
【0080】
【表2】

【0081】
実施例5
表3に示す量のBuポリマーとSWNT(実施例1で使用したアルドリッチ社製カーボンナノチューブ)を、ボールミルの容器に仕込み、容器内にボール9個を入れた後、300rpmで3時間混合した。混合後、容器内の混合物をクロロホルムに溶解してセライトろ過し不溶物を除去した。生成物の分子量を測定するとともに、クロロホルム溶液を調製して、吸光スペクトル、蛍光スペクトルを測定した。クロロホルム溶液の濃度はそれぞれ8×10−3g/l、2.7×10−3g/lである。蛍光量子収率を表3に示す。
【0082】
【表3】

【0083】
蛍光量子収率の結果は、SWNTの耐ポリマー重量%が25%程度で、有機ケイ素ポリマーで最もSWNTが修飾されることを示している。
【0084】
実施例6、7 (in situ法)
BuポリマーをHexポリマーに変え、SWNTの量を、Hexポリマーに対して、5%(実施例6)、10%(実施例7)とした以外は、実施例4と同様にして、有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体を得、分子量、蛍光量子収率を測定した。その結果を表4に示す。
【0085】
実施例8
Hexポリマーと、ポリマーに対して25重量%のSWNT(実施例1で使用したアルドリッチ社製カーボンナノチューブ)を、ボールミルの容器に仕込み、容器内にボールを入れた後、300rpmで3時間混合した。混合後、容器内の混合物をクロロホルムに溶解してセライトろ過し不溶物を除去した。生成物の分子量を測定するとともに、クロロホルム溶液を調製して、吸光スペクトル、蛍光スペクトルを測定した。クロロホルム溶液の濃度はそれぞれ8×10−3g/l、2.7×10−3g/lである。分子量、蛍光量子収率を表4に示す。
【0086】
【表4】

【0087】
実施例9
[二酸化チタン微粒子スラリー(ペースト)の調製]
市販の二酸化チタンを、ボールミルの容器に取り、純水を加えて、遊星型ボールミルを用い、回転速度500rpm程度で10分間程度攪拌を行う。その後、さらに同量の純水を加え、10分間程度攪拌した。同様の作業を計6回程度繰り返す。
【0088】
その後、ポリエチレングリコール(PEG)を加え、10分間程度攪拌を行った後、適量の硝酸を加え、さらに、4時間程度攪拌を行い、スラリー(二酸化チタン微粒子ペースト)を調整する。
【0089】
[多孔性酸化物半導体層の形成]
次に、得られた二酸化チタン微粒子ペーストを、ガラス基板上に、ドクターブレードで塗布し成膜する。成膜後、電気炉で、500℃程度で30分間程度の焼結を行い、多孔性酸化物半導体層が形成されたガラス基板を得る。
【0090】
[有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体溶液の調製]
前記の実施例で得られた有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体を、それぞれ1000重量倍程度のクロロホルムに添加し、バブリングして溶解させ、有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体のクロロホルム溶液を調整する。この溶液に、前記の多孔性酸化物半導体層が形成されたガラス基板を40分程度浸漬すると同時に、キセノンランプにより400nmより長波長の可視光を照射する。その後水等により洗浄することにより、有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体が多孔性酸化物半導体(二酸化チタン)層に担持された酸化物半導体を得ることができる。
【0091】
図3は、実施例1で作製された有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体(SWNTの耐ポリマー重量は、15重量%)を、実施例9の条件にて、多孔性酸化物半導体層に担持させたガラス基板の赤外吸収スペクトルである。このスペクトルから、二酸化チタンからなる多孔性酸化物半導体層に有機ケイ素ポリマー−SWNT複合体が担持されていることがわかる。
【符号の説明】
【0092】
1 ガラス基板
2 FTO層
3 多孔性半導体層
4 対電極
41 FTO膜を蒸着したガラス板
42 白金層
5 電荷輸送層
6 光電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(1)で表される有機ケイ素ポリマーで単層カーボンナノチューブの表面を修飾してなる有機ケイ素ポリマー−単層カーボンナノチューブ複合体。
【化1】

[式中、mは1〜3の数を、2つのRは、それぞれ同一又は異なって、炭素数1〜20のアルキル基、又は置換されていてもよいフェニル基を、Arは、2〜8のベンゼン環からなる2価の縮合環芳香族基を、nは、5〜2000の数を表す。]
【請求項2】
構造式(1)中のmが2であることを特徴とする請求項1に記載の有機ケイ素ポリマー−単層カーボンナノチューブ複合体。
【請求項3】
構造式(1)中のRが、炭素数3〜8のアルキル基であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の有機ケイ素ポリマー−単層カーボンナノチューブ複合体。
【請求項4】
構造式(1)中のArが、フェナレン、フェナントレン、トリフェニレン、ピレン、クリセン、ピセン、ペリレン及びペンタフェンからなる群より選ばれる縮合環芳香族化合物の2価の残基であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の有機ケイ素ポリマー−単層カーボンナノチューブ複合体。
【請求項5】
下記構造式(1)で表される有機ケイ素ポリマーと単層カーボンナノチューブとを有機溶媒中で混合することを特徴とする有機ケイ素ポリマー−単層カーボンナノチューブ複合体溶液の製造方法。
【化2】

[式中、mは1〜3の数を、2つのRは、それぞれ同一又は異なって、炭素数1〜20のアルキル基、又は置換されていてもよいフェニル基を、Arは、2〜8のベンゼン環からなる2価の縮合環芳香族基を、nは、5〜2000の数を表す。]
【請求項6】
下記構造式で表されるジエチニル置換シラン化合物、2〜8のベンゼン環からなる縮合環芳香族化合物、及び単層カーボンナノチューブを混合して、有機溶媒中で、前記ジエチニル置換シラン化合物と縮合環芳香族化合物との縮合重合反応を行うことを特徴とする有機ケイ素ポリマー−単層カーボンナノチューブ複合体溶液の製造方法。
【化3】

[式中、mは1〜3の数を、それぞれのRは、同一又は異なって、炭素数1〜20のアルキル基、又は置換されていてもよいフェニル基を表す。]
【請求項7】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の有機ケイ素ポリマー−単層カーボンナノチューブ複合体を、多孔性二酸化チタンに担持させてなる酸化物半導体。
【請求項8】
透明基板、この透明基板上に設けられた透明導電膜、及びこの透明導電膜上に設けられた多孔性半導体層からなり、この多孔性半導体層が、請求項7に記載の酸化物半導体からなることを特徴とする光電極。
【請求項9】
透明基板及びこの透明基板上に設けられた透明導電膜からなる透明電極の前記透明導電膜上に、多孔性二酸化チタンの微粒子を塗布しその後焼結して、多孔性二酸化チタン層を形成する工程、及び、光照射下で、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の有機ケイ素ポリマー−単層カーボンナノチューブ複合体の溶液を、前記多孔性二酸化チタン層に接触させて加熱する工程を、有することを特徴とする光電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−62761(P2011−62761A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213687(P2009−213687)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】