説明

有機圧電材料、超音波振動子および超音波探触子

【課題】高周波・広帯域に適した超音波振動子を形成するための有機圧電材料、それを用いた超音波振動子、およびそれを用いた超音波探触子を提供する。
【解決手段】有機圧電材料の表面に電極を形成させて成る超音波振動子に用いられる有機圧電材料において、有機圧電材料が電極の電極金属と共有結合を形成し得る材料を含有し、さらに電極金属と共有結合を形成し得る材料が電極金属と共有結合している。この有機圧電材料により、表面処理のような煩雑な工程を経ずに優れた接着強度が簡易に得られ、電極金属との接着に優れ、操作中の摩擦などでの電極はがれ耐性に優れ、加工を行う際の弱い摩擦でも剥離生成の抑制に優れ、加工性に優れ、圧電性に優れた超音波振動子、およびそれを用いた超音波探触子ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波・広帯域に適した超音波振動子を構成するための有機圧電材料、それを用いた超音波振動子、およびそれを用いた超音波探触子に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波は、通常、16kHz以上の音波を総称して言われ、非破壊および無害でその内部を調べることが可能なことから、欠陥の検査や疾患の診断などの様々な分野に応用されている。その一つに、被検体内を超音波で走査し、被検体内からの超音波の反射波(エコー)から生成した受信信号に基づいて当該被検体内の内部状態を画像化する超音波診断装置がある。この超音波診断装置では、被検体に対して超音波を送受信する超音波探触子が用いられている。この超音波探触子としては、送信信号に基づいて機械振動して超音波を発生し、被検体内部で音響インピーダンスの違いによって生じる超音波の反射波を受けて受信信号を生成する振動子を備えて構成される超音波送受信素子が用いられる。
【0003】
そして、近年では、超音波探触子から被検体内へ送信された超音波の周波数(基本周波数)成分ではなく、その高調波周波数成分によって被検体内の内部状態の画像を形成するハーモニックイメージング(Harmonic Imaging)技術が研究、開発されている。このハーモニックイメージング技術は、(1)基本周波数成分のレベルに比較してサイドローブレベルが小さく、S/N比(signal to noise ratio)が良くなってコントラスト分解能が向上すること、(2)周波数が高くなることによってビーム幅が細くなって横方向分解能が向上すること、(3)近距離では音圧が小さくて音圧の変動が少ないために多重反射が抑制されること、および(4)焦点以遠の減衰が基本波並みであり高周波を基本波とする場合に較べて深速度を大きく取れることなどの様々な利点を有している。
【0004】
このハーモニックイメージング用の超音波探触子は、基本波の周波数から高調波の周波数までの広い周波数帯域が必要とされ、その低周波側の周波数領域が基本波を送信するための送信用に利用される。一方、その高周波側の周波数領域が高調波を受信するための受信用に利用される(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この特許文献1に開示されている超音波探触子は、被検体にあてがわれて当該被検体内に超音波を送信し当該被検体内で反射して戻ってきた超音波を受信する超音波探触子である。この超音波探触子は、所定の第1の音響インピーダンスを有する配列された複数の第1の圧電素子からなる、所定の中心周波数の超音波からなる基本波の、被検体内に向けた送信、および当該被検体内で反射して戻ってきた超音波のうちの基本波の受信を担う第1圧電層を備えている。また、前記第1の音響インピーダンスよりも小さい所定の第2の音響インピーダンスを有する配列された複数の第2の圧電素子からなる、前記被検体内で反射して戻ってきた超音波のうちの高調波の受信を担う第2圧電層を備えている。なお、当該第2圧電層は、前記第1圧電層の、この超音波探触子が被検体にあてがわれる側の全面に重ねられている。したがって、当該超音波探触子は、このような構成によって広い周波数帯域で超音波を送受信することができる。
【0006】
ハーモニックイメージングにおける基本波は、出来る限り狭い帯域巾を有する音波がよい。それを担う圧電素子には、水晶、LiNbO、LiTaO、KNbOなどの単結晶、ZnO、AlNなどの薄膜、Pb(Zr,Ti)O系などの焼結体を分極処理した、いわゆるセラミックスの無機圧電体が広く利用されている。高周波側の受信波を検知する圧電素子には、より広い帯域巾の感度が必要でこれらの無機材料は適さない。高周波、広帯域に適した圧電素子として、ポリフッ化ビニリデン(以下「PVDF」とも略称する。)などの有機系高分子物質を利用した有機圧電体が知られている(例えば、特許文献2参照)。この有機圧電体は、無機圧電体と比較して、可撓性が大きく、薄膜化、大面積化、長尺化が容易で任意の形状、形態のものを作ることができる、等の特性を有する。
【0007】
前記有機圧電体に形成される表面電極としては、導電性に優れた材料であれば種々の金属(合金を含む)を用いることができる。そして、予め膜状に作製した表面電極材を圧電材料に接合することもできるし、また膜状の表面電極を圧電材料の表面において形成することにより、表面電極の形成と圧電材料への接合を同時に行うこともできる。前記表面電極は、表面電極自体の形成と、これの圧電材料への接合を同時に行うことができる無電解メッキ法、スパッタ法、あるいは蒸着法により形成される。
【0008】
しかしながら、ポリフッ化ビニリデンを主成分とする圧電体は、電極金属との接着が非常に弱いことが知られており、操作中に摩擦などで電極はがれをおこし加工を行う際に弱い摩擦でも剥離が起きてしまい加工がしにくいことや、有機圧電体を含む振動子をダイシングソーなどの装置を用いて適当な形状の複数の各振動子に裁断する際に、はく離がおきてしまうことや、逆圧電効果により電圧をかけて振動を生じさせる際にはく離が生じやすいなどの問題があった。
【0009】
有機圧電材料へ電極を施す際、接着性をよくするために、有機圧電材料表面を酸化させたり、カップリング剤を塗布し層を設けたり(例えば、特許文献3参照)など、煩雑な工程が提案されている。圧電体の両面に導電性接着剤を塗布して電極を接着させる方法や、銀ペーストを電極として圧電体の表面に直接塗布するなどの方法があるが、接着力が弱く、衝撃に弱かった。
【0010】
これら、表面処理のような煩雑な工程を経ずに優れた接着強度が簡易に得られる改善方法が要望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−276478号公報
【特許文献2】特開昭60−217674号公報
【特許文献3】特開平5−42674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、上記問題を解決し、表面処理のような煩雑な工程を経ずに優れた接着強度が簡易に得られ、電極金属との接着に優れ、操作中の摩擦などでの電極はがれ耐性に優れ、加工を行う際の弱い摩擦でもの剥離生成の抑制に優れ、加工性に優れ、圧電性に優れた、高周波・広帯域に適した超音波振動子を形成するための有機圧電材料、それを用いた超音波振動子、およびそれを用いた超音波探触子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
【0014】
1.有機圧電材料の表面に電極を形成させて成る超音波振動子に用いられる有機圧電材料において、該有機圧電材料が該電極の電極金属と共有結合を形成し得る材料を含有し、さらに該電極金属と共有結合を形成し得る材料が電極金属と共有結合していることを特徴とする有機圧電材料。
【0015】
2.前記電極金属と共有結合を形成し得る材料を0.01〜5質量%含有することを特徴とする前記1に記載の有機圧電材料。
【0016】
3.前記有機圧電材料が、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンの重合体、フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンとモノフルオロエチレンとの重合体、フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンとメタクリル酸メチルとの重合体、フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンと酢酸ビニルとの重合体、セルロース系誘導体、および、ポリウレア、の各ポリマーおよびポリマー共重合体、から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前記1または2に記載の有機圧電材料。
【0017】
4.前記有機圧電材料が、フッ化ビニリデンを主成分とすることを特徴とする前記3に記載の有機圧電材料。
【0018】
5.前記電極金属と共有結合を形成し得る材料が官能基としてメルカプト基を含むことを特徴とする前記1〜4のいずれか1項に記載の有機圧電材料。
【0019】
6.前記電極金属と共有結合を形成し得る材料が、下記一般式(I)で表されるメルカプト化合物、または、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシランおよび3−メルカプトプロピルトリメトキシシランから選ばれる少なくとも1種のメルカプト系シランカップリング剤、であることを特徴とする前記1〜5のいずれか1項に記載の有機圧電材料。
【0020】
【化1】

【0021】
7.前記電極金属が、Al,Zn,Fe,Ni,Cr,Sn,Cu,Ag,またはAuの金属、あるいは該金属を主成分とする合金、であることを特徴とする前記1〜6のいずれか1項に記載の有機圧電材料。
【0022】
8.前記電極金属が、Auを主成分とする金属あるいは合金であることを特徴とする前記7に記載の有機圧電材料。
【0023】
9.前記1〜8のいずれか1項に記載の有機圧電材料を用いたことを特徴とする超音波振動子。
【0024】
10.超音波送信用振動子と超音波受信用振動子を具備する超音波探触子であって、前記9に記載の超音波振動子を超音波受信用振動子として用いたことを特徴とする超音波探触子。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、表面処理のような煩雑な工程を経ずに優れた接着強度が簡易に得られ、電極金属との接着に優れ、操作中の摩擦などでの電極はがれ耐性に優れ、加工を行う際の弱い摩擦でもの剥離生成の抑制に優れ、加工性に優れ、圧電性に優れた、高周波・広帯域に適した超音波振動子を形成するための有機圧電材料、それを用いた超音波振動子、およびそれを用いた超音波探触子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0027】
本発明は、有機圧電材料とその表面に電極を形成させて形成される超音波振動子に用いられる有機圧電材料において、該有機圧電材料に該電極の電極金属と共有結合を形成し得る材料を含有することを特徴とする。
【0028】
本発明においては、特に、有機圧電材料に電極の電極金属と共有結合を形成し得る材料を含有することで、表面処理のような煩雑な工程を経ずに優れた接着強度が簡易に得られ、電極金属との接着に優れ、操作中の摩擦などでの電極はがれ耐性に優れ、加工を行う際の弱い摩擦でもの剥離生成の抑制に優れ、加工性に優れ、圧電性に優れた、高周波・広帯域に適した超音波振動子を形成するための有機圧電材料が得られる。
【0029】
本発明を更に詳しく説明する。
【0030】
(有機圧電材料)
本発明の有機圧電材料としては低分子材料、高分子材料を問わず採用でき、低分子の有機圧電材料であれば、例えば、フタル酸エステル系化合物、スルフェンアミド系化合物、フェノール骨格を有する有機化合物などが挙げられる。高分子の有機圧電材料であれば、例えば、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンの重合体、フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンとモノフルオロエチレン(フッ化ビニルともいう)との重合体、フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンとメタクリル酸メチルとの重合体、フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンと酢酸ビニルとの重合体、あるいはナイロン9、ナイロン11などの奇数ナイロンや、芳香族ナイロン、脂環族ナイロンなどのナイロン(登録商標)、あるいはポリ乳酸や、ポリヒドロキシブチレートなどのポリヒドロキシカルボン酸、セルロース系誘導体、ポリウレア、の各ポリマー、ポリマー共重合体などが挙げられる。
【0031】
有機圧電材料としては、良好な圧電特性、加工性、入手容易性等の観点から、高分子の有機圧電材料、特にフッ化ビニリデンを主成分とする高分子材料であることが好ましい。
【0032】
具体的には、大きい双極子モーメントをもつCF基を有する、ポリフッ化ビニリデンの単独重合体又はフッ化ビニリデンを主成分とする共重合体であることが好ましい。なお、共重合体における第二組成分として、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロパン、クロロフルオロエチレン等を用いることができる。
【0033】
例えば、フッ化ビニリデン/3フッ化エチレン共重合体の場合、共重合比によって厚さ方向の電気機械結合定数(圧電効果)が変化すので、前者の共重合比が60〜99モル%であることが好ましく、更には、85〜99モル%であることが好ましい。
【0034】
なお、フッ化ビニリデンを85〜99モル%にして、パーフルオロアルキルビニルエーテル、パーフルオロアルコキシエチレン、パーフルオロヘキサエチレン等を1〜15モル%にしたポリマーは、送信用無機圧電素子と受信用有機圧電素子との組み合わせにおいて、送信基本波を抑制して、高調波受信の感度を高めることができる。
【0035】
上記有機圧電材料は、セラミックスからなる無機圧電材料に比べ、薄膜化できることからより高周波の送受信に対応した振動子にすることができる。
【0036】
本発明の有機圧電材料は、厚み共振周波数における比誘電率が10〜50であることが好ましい。比誘電率の調整は、有機圧電材料を構成する化合物が有するCF基やCN基のような極性官能基の数量、組成、重合度等の調整、及び後述する分極処理によって行うことができる。
【0037】
なお、有機圧電材料は有機圧電材料膜として振動子に用いられるのが一般であるが、本発明の有機圧電材料膜は、複数の高分子材料を積層させた構成とすることもできる。この場合、積層する高分子材料としては、上記の高分子材料の他に下記の比誘電率の比較的低い高分子材料を併用することができる(なお、下記の例示において、括弧内の数値は、高分子材料(樹脂)の比誘電率を示す)。
【0038】
例えば、メタクリル酸メチル樹脂(3.0)、アクリルニトリル樹脂(4.0)、アセテート樹脂(3.4)、アニリン樹脂(3.5)、アニリンホルムアルデヒド樹脂(4.0)、アミノアルキル樹脂(4.0)、アルキッド樹脂(5.0)、ナイロン−6−6(3.4)、エチレン樹脂(2.2)、エポキシ樹脂(2.5)、塩化ビニル樹脂(3.3)、塩化ビニリデン樹脂(3.0)、尿素ホルムアルデヒド樹脂(7.0)、ポリアセタール樹脂(3.6)、ポリウレタン(5.0)、ポリエステル樹脂(2.8)、ポリエチレン(低圧)(2.3)、ポリエチレンテレフタレート(2.9)、ポリカーボネート樹脂(2.9)、メラミン樹脂(5.1)、メラミンホルムアルデヒド樹脂(8.0)、酢酸セルロース(3.2)、酢酸ビニル樹脂(2.7)、スチレン樹脂(2.3)、スチレンブタジェンゴム(3.0)、スチロール樹脂(2.4)、フッ化エチレン樹脂(2.0)等を用いることができる。
【0039】
なお、上記比誘電率の低い高分子材料は、圧電特性を調整するため、或いは有機圧電体膜の物理的強度を付与するため等の種々の目的に応じて適切なものを選択することが好ましい。
(電極金属と共有結合を形成し得る材料)
本発明の有機圧電材料は、電極の電極金属と共有結合を形成し得る材料を含有し、さらに電極金属と共有結合している。
【0040】
本発明において、電極金属と共有結合を形成し得る材料としては、電極金属と共有結合を形成し得る材料であれば特に限定はされないが、メルカプト基が電極金属と強固に結合する点から、メルカプト化合物やメルカプト系シランカップリング剤が好ましく、例えば、前記一般式(I)で表されるメルカプト化合物、あるいは、下記メルカプト系シランカップリング剤等が好ましいものとして挙げられる。
【0041】
本発明に用いられる前記一般式(I)で表されるメルカプト化合物について述べる。
【0042】
前記一般式(I)において、Qは置換基を有してもよい5員の複素環またはベンゼン環と縮合した5員の複素環を形成するのに必要な原子群を表す。
【0043】
前記一般式(I)中のQが形成する5員の複素環としては、例えば、イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ナフトイミダゾール環、ベンゾオキサゾール環などがあげられる。Qの置換基としてはアルキル基、アルコキシ基、アリール基、スルホニル基、カルボニル基、カルボキシル基、カルボンアミド基、カルボン酸エステル基、アミノ基、スルホンアミド基などがあげられる。
【0044】
一般式(I)で表されるメルカプト化合物の中でもメルカプトテトラゾール化合物が好ましく、例えば、下記一般式(II)で表されるメルカプト化合物を好ましく用いることができる。
【0045】
【化2】

【0046】
前記一般式(II)において、Yは水素原子、アミノ基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、−CONHR32基、−COR33基、−NHCOR34基または−HNSO34基等が挙げられる。R32,R33,R34,R35,R36はそれぞれアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、またはアリール基等が挙げられる。
【0047】
以下に本発明に用いることができる一般式(I)または(II)で表されるメルカプト化合物の好ましい例を示すが本発明はこれに限定されない。
【0048】
【化3】

【0049】
前記一般式(I)および(II)で示される化合物のうち、ME−1〜ME−11に代表されるメルカプトテトラゾール化合物が特に好ましい。
【0050】
本発明に用いられるメルカプト系シランカップリング剤としては、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、6−メルカプトヘキサトリメトキシシラン、等が挙げられる。なお、メルカプト系シランカップリング剤において、メルカプト基とケイ素原子とを結合する結合基Rの大きさは、Rの炭素数が2〜30であることが好ましい。3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランを好ましく用いることができる。
【0051】
上記電極金属と共有結合を形成し得る材料を有機圧電材料に対して、0.01〜5質量%含有することが好ましい。
【0052】
(有機圧電体膜の作製方法)
(延伸製膜)
本発明の有機圧電材料を振動子とする場合、フィルム状に形成し、ついで電気信号を入力するための表面電極を形成するのが一般的である。
【0053】
フィルム形成は、溶融法、流延法など一般的な方法を用いることができる。ポリフッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体の場合、フィルム状にしたのみで自発分極をもつ結晶型を有することが知られているが、さらに特性を上げるには、分子配列を揃える処理を加えることが有用である。手段としては、延伸製膜、分極処理などが挙げられる。
【0054】
延伸製膜の方法については、種々の公知の方法を採用することができる。例えば、上記高分子材料をエチルメチルケトン(MEK)などの有機溶媒に溶解した液をガラス板などの基板上に流延し、常温にて溶媒を乾燥させ、所望の厚さのフィルムを得て、このフィルムを室温で所定の倍率の長さに延伸する。当該延伸は、所定形状の有機圧電体膜が破壊されない程度に一軸・ニ軸方向に延伸することができる。延伸倍率は2〜10倍、好ましくは2〜6倍である。
【0055】
なお、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体および/またはフッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体において、230℃における溶融流動速度(Melt Flow Rate)が0.03g/min以下である。より好ましくは、0.02g/min以下、更に好ましくは、0.01g/minである高分子圧電体を使用すると高感度な圧電体の薄膜が得られる。
【0056】
(超音波振動子)
超音波振動子は、有機圧電材料膜(層)の両面上又は片面上に電極を形成し、その有機圧電材料膜を分極処理することによって作製される。
【0057】
(電極)
本発明において、電極金属としては、Al,Zn,Fe,Ni,Cr,Sn,Cu,Ag,またはAuの各金属、あるいはこれらの金属を主成分とする合金を用いて電極を形成することができる。電極金属が、Auを主成分とする金属あるいは合金であることがより好ましい。
【0058】
電極の形成に際しては、まず、ニッケル(Ni)、Au、チタン(Ti)やクロム(Cr)などの下地金属をスパッタ法により0.02〜0.1μmの厚さに形成する。その後、上記金属元素を主体とする金属及びそれらの合金からなる金属材料、さらには必要に応じ一部絶縁材料をスパッタ法、その他の適当な方法で0.02〜1μmの厚さに形成する。これらの電極形成はスパッタ法以外でも微粉末の金属粉末と低融点ガラスを混合した導電ペーストをスクリーン印刷やディッピング法、溶射法で形成することもできる。
【0059】
(分極処理)
さらに、有機圧電材料膜の両面に形成した電極間に、所定の電圧を供給し、有機圧電材料膜を分極することで超音波振動子(圧電素子)が得られる。
【0060】
分極処理における分極処理方法としては、従来公知の直流電圧印加処理、交流電圧印加処理又はコロナ放電処理等の方法が適用され得る。
【0061】
例えば、コロナ放電処理法による場合には、コロナ放電処理は、市販の高電圧電源と電極からなる装置を使用して処理することができる。
【0062】
放電条件は、機器や処理環境により異なるので適宜条件を選択することが好ましい。高電圧電源の電圧としては−1〜−20kV、電流としては1〜80mA、電極間距離としては、1〜10cmが好ましく、印加電圧は、0.5〜2.0MV/mであることが好ましい。
【0063】
電極としては、従来から用いられている針状電極、線状電極(ワイヤー電極)、網状電極が好ましいが、本発明ではこれらに限定されるものではない。
【0064】
(超音波探触子)
本発明においては、超音波の送受信の両方をひとつの振動子で担ってもよいが、より好ましくは、送信用と受信用で振動子は分けて探触子内に構成される。
【0065】
送信用振動子を構成する圧電材料としては、従来公知のセラミックス無機圧電材料でも、有機圧電材料でもよい。
【0066】
本発明の超音波探触子は、超音波送信用振動子と超音波受信用振動子を具備する超音波医用画像診断装置用探触子(プローブ)であり、本発明の超音波振動子を上記超音波受信用振動子として用いる(以下、本発明の超音波振動子を本発明の超音波受信用振動子ともいう。)ことができる。
【0067】
本発明の超音波探触子においては、送信用振動子の上もしくは並列に本発明の超音波受信用振動子を配置することができる。
【0068】
より好ましい実施形態としては、超音波送信用振動子の上に本発明の超音波受信用振動子を積層する構造が良く、その際には、本発明の超音波受信用振動子は他の高分子材料(支持体として上記の比誘電率が比較的低い高分子(樹脂)フィルム、例えば、ポリエステルフィルム)の上に添合した形で送信用振動子の上に積層してもよい。その際の受信用振動子と他の高分子材料と合わせた膜厚は、探触子の設計上好ましい受信周波数帯域に合わせることが好ましい。実用的な超音波医用画像診断装置および生体情報収集に現実的な周波数帯から鑑みると、その膜厚は、40〜150μmであることが好ましい。
【0069】
なお、当該探触子には、バッキング層、音響整合層、音響レンズなどを設けても良い。また、多数の圧電材料を有する振動子を2次元に並べた探触子とすることもできる。複数の2次元配列した探触子を順次走査して、画像化するスキャナーとして構成させることもできる。
【0070】
(超音波医用画像診断装置)
本発明に係る上記超音波探触子は、種々の態様の超音波診断装置に用いることができる。例えば、患者などの被検体に対して超音波を送信し、被検体で反射した超音波をエコー信号として受信する圧電体振動子が配列されている超音波探触子(プローブ)を備えている超音波医用画像診断装置が好ましい。また当該超音波探触子に電気信号を供給して超音波を発生させるとともに、当該超音波探触子の各圧電体振動子が受信したエコー信号を受信する送受信回路と、送受信回路の送受信制御を行う送受信制御回路を備えていることが好ましい。
【0071】
更に、送受信回路が受信したエコー信号を被検体の超音波画像データに変換する画像データ変換回路を備え、当該画像データ変換回路によって変換された超音波画像データでモニタを制御して表示する表示制御回路と、超音波医用画像診断装置全体の制御を行う制御回路を備えた超音波医用画像診断装置が好ましい。
【0072】
このような超音波医用画像診断装置は、制御回路には、送受信制御回路、画像データ変換回路、表示制御回路が接続されており、制御回路はこれら各部の動作を制御している。そして、超音波探触子の各圧電体振動子に電気信号を印加して被検体に対して超音波を送信し、被検体内部で音響インピーダンスの不整合によって生じる反射波を超音波探触子で受信する。
【0073】
なお、上記送受信回路が「電気信号を発生する手段」に相当し、画像データ変換回路が「画像処理手段」に相当する。
【0074】
上記のような超音波診断装置によれば、本発明の圧電特性及び耐熱性に優れかつ高周波・広帯域に適した超音波受信用振動子の特徴を生かして、従来技術と比較して画質とその再現・安定性が向上した超音波像を得ることができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0076】
実施例1
《有機圧電材料の作製》
フッ化ビニリデン(VDF)とトリフルオロエチレン(3FE)のモル比率が75:25であるポリフッ化ビニリデン共重合体粉末(重量平均分子量29万)を減圧オーブンにて50℃で12時間乾燥させた。次に、この粉体70g、表1記載の種類と添加量の本発明に係る電極金属と共有結合を形成し得る材料等、とを50℃に加熱したエチルメチルケトン(MEK)、ジメチルホルムアミド(DMF)の9:1混合溶媒630gに溶解した液をガラス板上に流延した。その後、55℃にて溶媒を乾燥させ、厚さ約140μmのフィルム(有機圧電材料膜)を得た。このフィルムを室温で4倍に延伸した後、延伸した長さを保ったまま135℃1時間熱処理後、自然冷却を行って、有機圧電材料1〜22をそれぞれ得た。得られた熱処理後のフィルムの膜厚は43μmであった。
【0077】
《超音波振動子の作製》
得られた有機圧電材料1〜22(フィルム)の両面に表面抵抗が1Ω以下になるように真空蒸着装置JEE−420(日本電子データム(株)製)にてニッケルを下地処理(0.1μm)した後に、金を蒸着(0.2μm)して表面電極付の試料を得た。
【0078】
つづいて、この電極に室温にて、0.1Hzの交流電圧を印可しながら分極処理を行った。分極処理は低電圧から行い、最終的に電極間電場が100MV/mになるまで徐々に電圧をかけた。超音波振動子試料1〜22をそれぞれ得た。
【0079】
《評価》
(接着性)
接着性は90度剥離試験で測定を行った。
【0080】
具体的には、上記超音波振動子試料に補強用のカプトンテープ(カプトンR電気絶縁用テープ、パーマセル社製)を片側に圧着させた後、もう片側表面電極上にエポキシ系接着剤を塗布し、ガラス製基板と補強用カプトンテープを貼付した上記超音波素子試料とを加圧治具を用いて15×10Pa/cmで加圧接着させて50℃にて乾燥させた後、デジタルフォースゲージZP−20N(イマダ社製)を用いて、補強用カプトンテープごと一定速度で剥離させた時の有機圧電膜と電極との接着力を測定し、下記評価基準に則り接着性の評価を行った。
評価基準
A:20000Pa/cm以上
B:15000Pa/cm以上20000Pa/cm未満
C:10000Pa/cm以上15000Pa/cm未満
D:5000Pa/cm以上10000Pa/cm未満
結果を表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
表1から明らかなように、本発明の場合には、表面処理のような煩雑な工程を経ずに優れた接着強度が簡易に得られ、有機圧電材料と電極金属との接着に非常に優れていることがわかる。
【0083】
本発明の場合には、表面処理のような煩雑な工程を経ずに優れた接着強度が簡易に得られ、電極金属との接着に優れ、操作中の摩擦などでの電極はがれ耐性に優れ、加工を行う際の弱い摩擦でもの剥離生成の抑制に優れ、加工性に優れ、圧電性に優れた、高周波・広帯域に適した超音波振動子を形成するための有機圧電材料、それを用いた超音波振動子、およびそれを用いた超音波探触子を提供できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機圧電材料の表面に電極を形成させて成る超音波振動子に用いられる有機圧電材料において、該有機圧電材料が該電極の電極金属と共有結合を形成し得る材料を含有し、さらに該電極金属と共有結合を形成し得る材料が電極金属と共有結合していることを特徴とする有機圧電材料。
【請求項2】
前記電極金属と共有結合を形成し得る材料を0.01〜5質量%含有することを特徴とする請求項1に記載の有機圧電材料。
【請求項3】
前記有機圧電材料が、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンの重合体、フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンとモノフルオロエチレンとの重合体、フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンとメタクリル酸メチルとの重合体、フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンと酢酸ビニルとの重合体、セルロース系誘導体、および、ポリウレア、の各ポリマーおよびポリマー共重合体、から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機圧電材料。
【請求項4】
前記有機圧電材料が、フッ化ビニリデンを主成分とすることを特徴とする請求項3に記載の有機圧電材料。
【請求項5】
前記電極金属と共有結合を形成し得る材料が官能基としてメルカプト基を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機圧電材料。
【請求項6】
前記電極金属と共有結合を形成し得る材料が、下記一般式(I)で表されるメルカプト化合物、または、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシランおよび3−メルカプトプロピルトリメトキシシランから選ばれる少なくとも1種のメルカプト系シランカップリング剤、であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機圧電材料。
【化1】

【請求項7】
前記電極金属が、Al,Zn,Fe,Ni,Cr,Sn,Cu,Ag,またはAuの金属、あるいは該金属を主成分とする合金、であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機圧電材料。
【請求項8】
前記電極金属が、Auを主成分とする金属あるいは合金であることを特徴とする請求項7に記載の有機圧電材料。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の有機圧電材料を用いたことを特徴とする超音波振動子。
【請求項10】
超音波送信用振動子と超音波受信用振動子を具備する超音波探触子であって、請求項9に記載の超音波振動子を超音波受信用振動子として用いたことを特徴とする超音波探触子。

【公開番号】特開2010−182994(P2010−182994A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27164(P2009−27164)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】