説明

有機性排水処理方法及びその方法に用いる微生物活性剤

【課題】有用微生物を活性化させて、下水や屎尿その他の有機性排水を浄化処理するための排水処理時間を短縮することができ、排水処理設備を小型化してランニングコストを低減することが可能な有機性排水処理方法及びその方法に用いる微生物活性剤を提供する。
【解決手段】希釈することによってゲル化する珪素ゾルと、有用微生物を用いて、有機物を含有する有機性排水を排水処理槽3で浄化処理し、前記排水処理槽3から排出する処理水を上下に蛇行させ、上向きに流れる前記処理水が狭路部41を通過するようにしてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水や屎尿その他の有機性排水を浄化処理する有機性排水処理方法及びその方法に用いる微生物活性剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下水や屎尿その他の有機性排水を浄化処理する有機性排水処理方法は、多数の浄化処理槽を有し、微生物処理槽において微生物による有機物やアンモニア等の分解を行った後、固液分離槽において固形物と処理水に分離し、更に凝集処理装置において処理水を凝集処理等の高度処理をしている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の凝集処理装置では、固液分離槽にて分離された処理水をpH5〜7.5の酸性〜中性条件下にてシリカ成分と鉄成分を含有する重合凝集剤の添加により凝集処理し、更に、固液分離槽及び濾過槽により浄化処理している。
【0003】
従来の有機性排水処理方法は、微生物処理工程、固液分離工程、凝集処理工程、濾過工程などの各工程に対応して多数の浄化処理槽を有することから、排水処理のための設備が大掛かりなものになり、排水処理設備の設置場所が限られると共に、排水処理設備の設置及び維持に莫大な費用を要していた。
【0004】
本願の出願人は、下水道が整備されていない地域においても、飲食店や食品・飲料工場の排水、畜舎排水などの有機物を多量に含む排水の排水処理を、処理工程の少ない簡易な設備で行うことができる有機性排水処理方法を提供している(特許文献2参照)。特許文献2に記載の有機性排水処理方法は、有機物を含有する有機性排水を有用微生物及び珪素凝集剤を用いて浄化処理する排水処理槽に、活性酸素を供給する活性酸素供給装置と、処理排水を濾過する濾過装置を備え、排水処理槽にスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)を産生するSOD産生微生物を添加し、この排水処理槽にフェントン反応を起こさせる金属イオンを添加している。
【0005】
また、バチルス属細菌等を含む活性汚泥で被処理水を浄化処理する排水処理装置において、マグネシウムイオンやケイ酸イオンを溶出する鉱物を収容して、バチルス属細菌等の増殖を促進させるようにした排水処理方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−33897号公報
【特許文献2】国際公開2010/049971号
【特許文献3】特開2005−329301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の有機性排水処理方法では、固液分離槽において膜分離方式を用いると、排水中に含まれる固形分により膜の目詰まりが発生し、膜を頻繁に洗浄したり交換したりする必要が生じ、煩雑であると共に、コストが嵩むという問題があった。一方、重力沈降方式の固液分離槽では、固液分離処理に時間を要するため、排水処理時間が長くなり、装置自体も大きくなるという課題があった。
【0008】
特許文献2に記載の有機性排水処理方法は、従来の水処理方法と比較して処理工程が少なく、水処理装置の小型化が可能であり、確実に有機性排水の浄化処理を行うことができる画期的な水処理方法である。このように、有機性排水の処理方法には、安価で狭い場所にも設置可能な処理装置が望まれており、更なる機能合理化と小型化が要求されていた。
【0009】
また、特許文献3に記載の排水処理方法は、排水処理装置に鉱物を収容していることから、被処理水に溶出するマグネシウムイオンやケイ酸イオンの量は極微量であり、バチルス属細菌等の増殖を促進させるには不充分であるという課題もあった。
【0010】
そこで、本発明は、有用微生物を活性化させて、下水や屎尿その他の有機性排水を浄化処理するための排水処理時間を短縮することができ、排水処理設備を小型化してランニングコストを低減することが可能な有機性排水処理方法及びその方法に用いる微生物活性剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために、希釈することによってゲル化する珪素ゾルと、有用微生物を用いて、有機物を含有する有機性排水を排水処理槽で浄化処理する有機性排水処理方法であって、前記排水処理槽から排出する処理水を上下に蛇行させ、上向きに流れる前記処理水が狭路部を通過するようにした有機性排水処理方法を提供するものである。
【0012】
また、本発明の有機性排水処理方法は、下向きに流れる前記処理水が狭路部を通過するようにしたものである。
【0013】
また、本発明の有機性排水処理方法は、上向きに流れる前記処理水が、前記排水処理槽から排出される排出口より低い位置で下向きに折り返し、折り返しを繰り返す毎に下向きへの折り返し位置が順に低くなるようにしたものである。
【0014】
また、本発明の有機性排水処理方法は、前記処理水を蛇行した後に濾過する濾過手段を備えたものである。
【0015】
また、本発明の有機性排水処理方法は、前記有用微生物がバチルス属細菌である。
【0016】
また、本発明の有機性排水処理方法は、前記排水処理槽内の水素イオン濃度をpH6.5〜8.3に維持し、活性汚泥濃度(MLSS)を3000mg/L以上に維持して、前記珪素ゾルを用いるようにしたものである。
【0017】
また、本発明は、上記の有機性排水処理方法に用いられ、前記有用微生物を活性化させる微生物活性剤であって、珪素含有物質とアルカリ性物質を混合し熱処理した珪素含有溶質を、酸溶媒に溶解した珪素ゾルからなる微生物活性剤を提供するものである。
【0018】
また、本発明の微生物活性剤は、前記珪素含有溶質が前記珪素含有物質の熱融解点以下の温度で熱処理されたことを特徴とするものである。
【0019】
また、本発明の微生物活性剤は、前記アルカリ性物質が炭酸カルシウム又は石灰からなるものである。
【0020】
また、本発明の微生物活性剤は、前記珪素含有物質がマグネシウム又はマグネシウム化合物を含むものである。
【0021】
また、本発明の微生物活性剤は、前記珪素含有溶質が、セメント、セメントの中間生成物、高炉スラグ、石炭灰の群から選ばれる1又は2以上の物質からなるものである。
【0022】
また、本発明の微生物活性剤は、前記酸溶媒が希塩酸からなるものである。
【0023】
また、本発明の微生物活性剤は、前記酸溶媒が、酢酸、酢酸アンモニウム、塩化アンモニウムの群から選ばれる1又は2以上のゲル化抑止剤を含有してなるものである。
【0024】
また、本発明の微生物活性剤は、希釈することによってゲル化する珪素ゾルと、有用微生物を用いて、有機物を含有する有機性排水を排水処理槽で浄化処理する有機性排水処理方法に用いられ、前記有用微生物を活性化させる微生物活性剤であって、珪素含有物質とアルカリ性物質を混合し熱処理した珪素含有溶質を、酸溶媒に溶解した珪素ゾルからなるものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明の有機性排水処理方法は、希釈することによってゲル化する珪素ゾルと、有用微生物を用いて、有機物を含有する有機性排水を排水処理槽で浄化処理する有機性排水処理方法であって、前記排水処理槽から排出する処理水を上下に蛇行させ、上向きに流れる前記処理水が狭路部を通過するようにしたことにより、上向きに流れる処理水が、狭路部を通過するときに、処理水中に含まれる汚泥は狭路部の手前に滞留して沈殿し、主に水のみが狭路部を通過するから、処理水が狭路部を通過する毎に汚泥を分離することができ、排水処理槽で浄化処理しきれなかった汚泥を簡易かつ迅速に分離することができる効果がある。
【0026】
また、本発明の有機性排水処理方法は、排水処理槽から排出された処理水が上下に蛇行する間に汚泥を分離することができるから、固液分離槽が不要になり、装置全体を小型化することができると共に、固液分離時間を短縮して処理工程全体を時間短縮することができる効果がある。
【0027】
また、本発明の有機性排水処理方法は、下向きに流れる前記処理水が狭路部を通過するようにしたことにより、分離した汚泥が逆流するのを防止することができる効果がある。
【0028】
また、本発明の有機性排水処理方法は、上向きに流れる前記処理水が、前記排水処理槽から排出される排出口より低い位置で下向きに折り返し、折り返しを繰り返す毎に下向きへの折り返し位置が順に低くなるようにしたことにより、水圧を利用して処理水を排水処理槽から排出することができると共に、排出された処理水が蛇行することによる排水抵抗を軽減して、処理水を排水処理槽から容易に排出することができる効果がある。
【0029】
また、本発明の有機性排水処理方法は、前記処理水を蛇行した後に濾過する濾過手段を備えたことにより、汚泥を分離した処理水を、各種限外濾過膜(UF膜)を用いた液中膜などによって濾過し、再利用可能な処理水を得ることができる効果がある。
【0030】
また、本発明の有機性排水処理方法は、前記有用微生物がバチルス属細菌であることにより、バチルス属細菌は、珪素によって活性化し、蛋白質、澱粉、油脂やアンモニア等の分解性に優れており、有機物を効率良く分解することができる効果がある。
【0031】
また、本発明の有機性排水処理方法は、前記排水処理槽内の水素イオン濃度をpH6.5〜8.3に維持し、活性汚泥濃度(MLSS)を3000mg/L以上に維持して、前記珪素ゾルを用いるようにしたことにより、有用微生物が活性化されて、有機物が細分化されているから、珪素ゾルがゲル化するときに素早く有機物を取り込んでフロックを形成することができ、水処理の時間を短縮することができる効果がある。
【0032】
また、本発明の微生物活性剤は、上記の有機性排水処理方法に用いられ、前記有用微生物を活性化させる微生物活性剤であって、珪素含有物質とアルカリ性物質を混合し熱処理した珪素含有溶質を、酸溶媒に溶解した珪素ゾルからなる構成を有することにより、熱処理した珪素含有溶質は酸溶媒に溶解することができ、バチルス属細菌などの有用微生物の増殖を促す珪素を酸に溶解してイオン状態で供給することができるから、有機性排水の浄化処理に用いられる有用微生物を活性化することができると共に、珪素ゾルがゲル化すると多孔質状になり、有用微生物を担持する担体として作用するから、有用微生物の増殖を更に促し、有用微生物が活性化した状態を維持することができる効果がある。
【0033】
また、本発明の微生物活性剤を用いることにより、珪素ゾルがゲル化するときに有機性排水中の有機物を取り込み、フロックを形成する。取り込まれた有機物は、多孔質状のフロックに担持され活性化された有用微生物によって分解されるから、排出される汚泥の量を大幅に削減することができる効果がある。
【0034】
すなわち、この微生物活性剤を用いた有機性排水処理方法では、活性化された有用微生物によって有機性排水に含まれる有機物を確実に分解することができ、分解困難な懸濁物は珪素ゾルによって凝集され、排水処理槽から排出された後に狭路部で分離することができる。また、この珪素ゾルは、さらさらのフロックを形成するから、濾過膜が詰まり難くなり、濾過膜の寿命を大幅に延ばすことができる効果がある。
【0035】
また、本発明の微生物活性剤は、前記珪素含有溶質が前記珪素含有物質の熱融解点以下の温度で熱処理されたことにより、この珪素含有溶質は優れた酸溶解性を有するから、酸溶媒に溶解して安定した珪素ゾルを生成することができる効果がある。
【0036】
また、本発明の微生物活性剤は、前記アルカリ性物質が炭酸カルシウム又は石灰からなることにより、珪素含有溶質がパウダー状となるから、酸溶媒への溶解性を向上させることができる。また、本発明の微生物活性剤は、珪素ゾルが豊富なカルシウムを含むことにより、有用微生物の増殖を促し、有用微生物が活性化した状態を維持することができる効果がある。
【0037】
また、本発明の微生物活性剤は、前記珪素含有物質がマグネシウム又はマグネシウム化合物を含むことにより、有用微生物の増殖を促進させる無機塩類を豊富に含むから、有用微生物のさらなる増殖を促し、有用微生物が活性化した状態を維持することができる効果がある。
【0038】
また、本発明の微生物活性剤は、前記珪素含有溶質が、セメント、セメントの中間生成物、高炉スラグ、石炭灰の群から選ばれる1又は2以上の物質からなることにより、これらの熱処理された珪素含有溶質を酸溶媒に溶解して珪素ゾルを生成することができる。特に、セメント、セメントの中間生成物、高炉スラグは、有用微生物の増殖を促進させる無機塩類であるカルシウムとマグネシウムを豊富に含むことから、生成される珪素ゾルが有用微生物の増殖を促し、有用微生物が活性化した状態を維持することができる効果がある。
【0039】
また、本発明の微生物活性剤は、前記酸溶媒が希塩酸からなることにより、塩酸はカルシウムの溶解性が高く、中和すると塩化カルシウム(CaCl)になるから安全無毒の微生物活性剤を生成することができる効果がある。
【0040】
また、本発明の微生物活性剤は、前記酸溶媒が、酢酸、酢酸アンモニウム、塩化アンモニウムの群から選ばれる1又は2以上のゲル化抑止剤を含有してなることにより、ゲル化抑止剤によって珪素ゾルのゲル化を抑止して安定したゾル状態を長期間維持することができるから、微生物活性剤の保管及び運搬が容易になる効果がある。
【0041】
また、本発明の微生物活性剤は、希釈することによってゲル化する珪素ゾルと、有用微生物を用いて、有機物を含有する有機性排水を排水処理槽で浄化処理する有機性排水処理方法に用いられ、前記有用微生物を活性化させる微生物活性剤であって、珪素含有物質とアルカリ性物質を混合し熱処理した珪素含有溶質を、酸溶媒に溶解した珪素ゾルからなることにより、熱処理した珪素含有溶質は酸溶媒に溶解することができ、バチルス属細菌などの有用微生物の増殖を促す珪素を酸に溶解してイオン状態で供給することができるから、有機性排水の浄化処理に用いられる有用微生物を活性化することができると共に、珪素ゾルがゲル化すると多孔質状になり、有用微生物を担持する担体として作用するから、有用微生物の増殖を更に促し、有用微生物が活性化した状態を維持することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の有機性排水処理方法の一実施例を示す構成図。
【図2】本発明の有機性排水処理方法の他の実施例を示す平面構成図。
【図3】本発明の有機性排水処理方法の他の実施例を示す平面構成図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
本発明の実施の形態を図示する実施例に基づいて説明する。
本発明に係る有機性排水処理方法は、希釈することによってゲル化する珪素ゾルと、有用微生物を用いて、有機物を含有する有機性排水を排水処理槽3で浄化処理し、前記排水処理槽3から排出する処理水を上下に蛇行させ、上向きに流れる前記処理水が狭路部41を通過するようにしてある。
【実施例1】
【0044】
図1に示す実施例において、有機性排水の処理方法に用いられる排水処理装置10は、有用微生物及び凝集剤を用いて有機性排水を浄化処理する排水処理槽3と、この排水処理槽3から処理水を排出する排水路4と、平膜槽5を備え処理水を濾過する濾過装置と、から構成してある。
【0045】
排水処理槽3は、飲食店などから排出される有機性排水の原水が流入するようにしてある。排水処理槽3には、有機性排水に含まれる有機物の分解処理に適した有用微生物を加えて、有用微生物を活性化した状態に保っている。排水処理装置10は、排水処理槽3に流入する有機性排水の水量変動が大きい場合には、排水処理槽3に流入する有機性排水の水量を均一化するように流量調整槽を設けることも可能である。
【0046】
排水処理槽3には曝気装置31を設けてあり、好気性の有用微生物を加えた有機性排水に空気を送り込んで曝気し、有用微生物を活性化させることにより、排水に含まれる有機物を分解して有機性排水を浄化処理するようにしてある。
【0047】
実施例において、有用微生物は、バチルス属細菌を優勢種とし、光合成細菌を加えている。バチルス属細菌は、珪素によって活性化し、蛋白質、澱粉、油脂やアンモニア等の有機物の分解に優れており、単独で用いることもできる。光合成細菌は、好気下で活動できる紅色非硫黄細菌が好ましく、油脂や澱粉等の有機物を好んで分解し、臭気の元になる硫化水素やアンモニアなども分解して悪臭を消滅させることができる。また、排水処理槽3は、曝気装置31によって曝気されているから、他の好気性微生物を加えることにより、様々な有機物を分解することができる。
【0048】
実施例において、珪素ゾルには、珪素含有物質とアルカリ性物質を混合し熱処理した珪素含有溶質を、酸溶媒に溶解した微生物活性剤を用いている。
【0049】
珪素含有物質は、二酸化珪素(SiO)等の珪素化合物を含有する天然の土類若しくは岩石、又はそれらを含む加工製品からなる。また、珪素含有物質は、還元作用を有することにより超微粒子の凝集に優れた鉄を含有しているものが好ましく、バチルス属細菌など有用微生物の増殖を促すためにマグネシウムを含有しているものが好ましい。珪素含有物質には、例えば、表1に示すように、二酸化珪素の含有率が高く、酸化鉄(FeO)を含有する伊武部白土(沖縄県伊武部地方の土類)を用いることができる。
【0050】
【表1】

【0051】
アルカリ性物質は、珪素含有物質を酸溶解性に変えるために混合してあり、実施例では、アルカリ性物質として炭酸カルシウム(CaCO)又は石灰を珪素含有物質に混ぜ合わせて熱処理してある。これにより、生成される珪素含有溶質がパウダー状となり、酸溶媒への溶解性が向上すると共に、有用微生物の増殖を促進させる無機塩類であるカルシウムを含ませることができる。この熱処理は、珪素含有物質の熱融解点以上の温度で行うとガラス状となり溶解性が低下することから、珪素含有物質の熱融解点以下の温度で行うことが好ましい。珪素含有物質が、表1に示す伊武部白土(沖縄県伊武部地方の土類)の場合には、伊武部白土の熱融解点である約1300℃以下の任意の温度で行い、熱融解点に近い1150〜1250℃で熱処理することが好ましい。
【0052】
珪素含有溶質は、珪素含有物質の熱融解点以下の温度で熱処理することにより、優れた酸溶解性を有するから、酸溶媒に溶解して安定した珪素ゾルとなり、長期間保存することができると共に、有用微生物の増殖を促進させる無機塩類を酸に溶解させてイオン状態で供給することができる。
【0053】
また、珪素含有溶質には、セメント、セメントの中間生成物、高炉スラグ、石炭灰等、珪素含有物質とアルカリ性物質を混合し熱処理された生成物を用いることもできる。これらの珪素含有溶質は、珪素含有物質の熱融解点以下の温度で熱処理された珪素含有溶質と比べて、酸溶解性は劣るものの、後述のゲル化抑止剤を含有する酸溶媒に溶解することにより、安定した珪素ゾルを生成することができる。また、これらの珪素含有溶質は、無機塩類を多く含むことから、有用微生物を活性化させることができる。特に、普通セメントは、比較的酸溶解性も優れ、表1に示すように、有用微生物の増殖を促進させる無機塩類であるマグネシウムとカルシウムを豊富に含むから、珪素含有溶質として普通セメントを用いることが好ましい。珪素含有溶質には、セメント、セメントの中間生成物、高炉スラグ、石炭灰の群から選ばれる2以上の物質を混合して用いることも可能である。
【0054】
実施例では、酸溶媒として塩酸(HCl)を用いた。塩酸(HCl)は、カルシウムの溶解性が高く、中和すると塩化カルシウム(CaCl)となり安全無毒であるから、酸溶媒として塩酸を用いることが好ましい。また、酸濃度に対する珪素の溶解度は一定であり、液体容積に分散する珪素ゾル密度も一定の水空隙の中でしかゾル状態の安定を保つことができないことから、酸溶媒として塩酸を希釈した希塩酸を用い、特に、3倍〜7倍に希釈した希塩酸を用いることが好ましい。なお、酸溶媒は、塩酸(HCl)に限られるものではなく、他の酸溶液を用いることも可能である。
【0055】
また、酸溶媒は、酢酸(C)、酢酸アンモニウム(CHCOONH)、塩化アンモニウム(NHCl)の群から選ばれる1又は2以上のゲル化抑止剤を含有してあることが好ましい。酸溶媒は、ゲル化抑止剤として酢酸(C)を含有することにより、酢酸のpH緩衝作用とゾル、コロイドの収斂性によって、酢酸の滴加量を調整して珪素ゾルのゲル化を抑止することができる。また、酢酸などの有機酸は、紅色細菌の絶好の基質であるから、ゲル化抑止剤として酢酸を用いることにより、紅色細菌などの有用微生物をさらに活性化させることができる。
【0056】
この微生物活性剤は、多量の珪素やマグネシウム・カルシウムなどの無機塩類をイオン状態で含んでいることから、排水処理槽3内の有用微生物の増殖を促し、活性化した状態を維持することができる。また、微生物活性剤は、排水処理槽3内に投入されると、酸溶媒が有機性排水で希釈されてゲル化する。珪素ゾルは、ゲル化するときに、有機性排水中の有機物を包み込んで凝集し、フロックを形成する。このフロックは、多孔質状になるから、有用微生物を担持する担体としても作用し、フロックに取り込まれた有機物も有用微生物によって分解することができる。
【0057】
排水処理槽3は、槽内の水素イオン濃度をpH6.5〜8.3に維持し、活性汚泥濃度(MLSS)を3000mg/L以上に維持し、有用微生物を活性化させた状態で、微生物活性剤を槽内に投入することが好ましい。有用微生物が活性化した状態では、有機性排水に含まれる有機物が細分化されているから、珪素凝集剤がゲル化するときに素早く有機物を取り込んでフロックを形成することができると共に、微生物活性剤により活性化状態を継続させることができる。
【0058】
図1に示すように、排水処理装置10は、上下に蛇行して配設した排水路4を備え、浄化処理済みの処理水を排水処理槽3の上部から排出することができるように構成してある。排水路4は、上向き流路部4a及び下向き流路部4bの下部に、断面積を他の部分より狭くした狭路部41を形成してある。実施例において、狭路部41は、直径50mmの合成樹脂製パイプで形成してあり、他の部分の排水路4は、直径100mmの合成樹脂製パイプで形成してある(他の部分の断面積に対する狭路部の断面積は、25%)。
【0059】
上向き流路部4aを流れる処理水は、狭路部41を通過するときに、排水路4の直径が変化する変化部42に当たって渦流を生じ、処理水に含まれる汚泥が分離される。分離された汚泥は、狭路部41の手前に滞留して次第に沈降し、主に水のみが狭路部41を通過するから、処理水が狭路部41を通過する毎に汚泥を分離することができる。狭路部41は、上向き流路部4aにのみ形成することも可能であるが、下向き流路部4bにも形成することにより、分離した汚泥が舞い上がって逆流するのを防止することができる。
【0060】
狭路部41の断面積は、狭路部41を通過する処理水の流量を確保しながら、汚泥を確実に分離することができるから、狭路部41を除く排水路4の断面積の10%〜70%(直径比約30%〜80%)に形成してあることが好ましく、狭路部41を除く排水路4の断面積の25%〜55%(直径比約50%〜75%)に形成してあることがより好ましい。狭路部41と変化部42は、単体で成形してあり、他の部分を構成する排水路4と連結して設けてある。狭路部41のサイズは、処理対象の有機性排水の特性に応じて、適宜選択することができる。
【0061】
変化部42は、処理水に含まれる汚泥を確実に分離することができる傾斜角に形成してあり、傾斜角45°〜90°に形成してあることが好ましい。
【0062】
排水路4の上側折り返し部4cは、排水処理槽3から排水路4へ処理水を取水する取水口43より低い位置に配置してあり、水圧を利用して処理水を排水処理槽3から容易に排出することができるように構成してある。また、排水路4は、複数回蛇行して配設してあり、複数の上側折り返し部4cを、取水口43側から排出口44側に向かって順に低くなるように配置してある。排水路4は、上述のように構成したことにより、排水路4が蛇行していることによる排水抵抗を軽減して、処理水を排水処理槽3から容易に排出することができる。
【0063】
図示の実施例では、排水路4は、上下に2往復蛇行して配設してある。排水路4は、狭路部41を形成した上向き流路部4aを一又は二以上設けていればよく、処理対象の有機性排水の特性に応じて、排水路4の蛇行回数は適宜設定することが可能である。
【0064】
また、狭路部41は、上向き流路部4a及び下向き流路部4bの任意の位置に形成することができるが、分離した汚泥を、排水路4の下側折り返し部4dに素早く沈殿させることができるから、上向き流路部4a及び下向き流路部4bの下部に形成してあることが好ましい。
【0065】
図1に示すように、排水路4の下側折り返し部4dには、残留汚泥を排出する汚泥排出機構6を備えている。汚泥排出機構6は、内部にスクリュー62を備えた汚泥搬送路61と、スクリュー62を駆動するモータ63と、汚泥搬送路61で搬送された残留汚泥を排出する汚泥排出管64と、から構成してある。
【0066】
排水路4の各下側折り返し部4dには、それぞれ汚泥排出管45を設けてあり、下側折り返し部4dに沈殿した残留汚泥を、汚泥排出機構6に排出することができるようにしてある。汚泥排出機構6は、モータ63でスクリュー62を駆動して、汚泥排出管45から汚泥搬送路61に受け入れた汚泥を搬送して、汚泥排出管64から排出する。汚泥排出管45,64には、それぞれバルブ46,65を設けてあり、スクリュー62を駆動しているときにバルブ46,65を開いて、汚泥を排出するようにしている。
【0067】
汚泥排出機構6から排出された残留汚泥は、排水処理槽3や流量調整槽へ返送して、有用微生物により浄化処理することができる。
【0068】
排水処理装置10は、狭路部41を形成した排水路4により、排水処理槽3で浄化処理しきれなかった残留汚泥を簡易かつ迅速に分離することができるから、固液分離槽が不要になり、装置全体を小型化することができると共に、固液分離時間を短縮して水処理工程全体の時間を短縮することができる。排水処理装置10は、排水路4を排水処理槽3の周囲に配置することにより、排水処理槽3の設置場所があれば足りるから、装置の設置場所の確保が困難な所でも設置可能である。
【0069】
図示の実施例において、排水処理装置10は、排水路4から排出される処理水を濾過する濾過装置を備えている。濾過装置は、平膜槽5からなり、処理水を、各種限外濾過膜(UF膜)を用いた液中膜などによって濾過し、再利用可能な処理水を得ることができる。平膜槽5は、排水路4で汚泥を分離した処理水を受け入れているから、処理水を低圧で引き抜くことができる。
【0070】
平膜槽5には、曝気装置51と、平膜を洗浄する逆洗機構とを、備えている。逆洗機構は、平膜で濾過した濾過水を貯える放流槽52と、放流槽52に濾過水を送水する送水管53と、放流槽52貯えられた濾過水を平膜に送水して洗浄する逆洗送水管54とから構成してある。
【0071】
実施例の排水処理方法は、希釈することによってゲル化する珪素ゾルを用いたことにより、さらさらしたフロックを形成するから、平膜槽5の目詰まりが生じ難く、逆洗機構によって確実に洗浄することができ、平膜の寿命を大幅に延長(半年以上)することができた。また、実施例の排水処理方法は、珪素ゾルを用いたことにより、処理水に珪素が溶解し易くなり、珪素の界面活性作用と曝気により、平膜の表面が常に洗浄されているものと推測される。
【0072】
なお、排水処理装置10は、濾過装置を設けない構成にすることも可能である。
【実施例2】
【0073】
図2及び図3に示す実施例において、有機性排水の処理方法に用いられる排水処理装置10は、有機性排水の原水が流入する原水槽1と、原水から固形分を取り除く沈殿槽2と、有用微生物及び珪素ゾルからなる微生物活性剤を用いて有機性排水を浄化処理する排水処理槽3と、この排水処理槽3から処理水を排出する排水路4と、平膜槽5を備え処理水を濾過する濾過装置と、から構成してある。
【0074】
原水槽1は、曝気装置11を備えており、飲食店などから排出される有機性排水の原水が流入するようにしてある。原水槽1には、有機性排水に含まれる有機物の分解処理に適した有用微生物を加えて、有用微生物を活性化した状態に保っている。原水槽1は、排水処理槽3の浄化処理能力に応じて、貯えた原水を排水処理槽3に送水し、原水の流量や水質変動を均一化することができるように構成してある。また、原水槽1は、槽内の水素イオン濃度をpH6.5〜8.3に維持し、活性汚泥濃度(MLSS)を3000mg/L以上に維持し、有用微生物を活性化させた状態で、原水を排水処理槽3に送水することができるようにしてある。
【0075】
図3に示すように、沈殿槽2には、スポンジで形成した濾過膜21を設けてあり、送水管12によって原水を濾過膜21の下側に送水し、濾過膜21で濾過された原水を沈殿槽2の上部に貯えることができるようにしてある。沈殿槽2の下部は、円錐状に形成してあり、沈殿した固形分を、槽の中央下端に設けた排出管13から排出するようにしてある。排出管12から排出された固形分は、原水槽1に戻して、有用微生物による分解処理を繰り返すことも可能である。沈殿槽2の上部に貯えられた原水は、送水管22を通って排水処理槽3に送られる。
【0076】
排水処理槽3には、曝気装置31を設けてあると共に、有機性排水に含まれる有機物の分解処理に適した有用微生物と微生物活性剤を加えてある。有用微生物及び微生物活性剤は、実施例1と同じものを使用している。
【0077】
実施例において、原水槽1及び排水処理槽3は、槽内の有用微生物が活性化した状態を維持できるように、1日の処理可能水量の約4倍の水量の原水を収容可能に形成している。実施例の排水処理方法は、排水処理槽3内の有機性排水に含まれる有機物が、活性化された有用微生物によって細分化されているから、珪素ゾルがゲル化するときに素早く有機物を取り込んでフロックを形成することができ、凝集に要する時間を従来の1/4程度に短縮することができた。
【0078】
実施例の有機性排水処理方法に用いられる排水処理装置10は、排水路4及び平膜槽5など他の構成は、実施例1と同様である。この排水処理方法は、処理水が排水路4を流れる間に汚泥を分離することができるから、固液分離槽を使用する従来技術と比較して固液分離に要する時間を1/10程度に短縮することができた。この排水処理方法は、固液分離槽が不要になる上、従来技術と比較して凝集等の水処理に要する時間を大幅に短縮することができるから、各処理槽を小型化でき、設備全体をコンパクトに形成することが可能になった。
【0079】
この排水処理方法は、多量の珪素やマグネシウム・カルシウムなどの無機塩類をイオン状態で含んでいる微生物活性剤を用いたことにより、排水処理槽3内の有用微生物の増殖を促し、活性化した状態を継続することができる。従って、この排水処理方法は、有機性排水に含まれる有機物を、活性化した有用微生物によって確実に分解処理することができると共に、分解しきれずに残った懸濁物も迅速に凝集処理することができるから、浄化処理時間を短縮して設備を小型化できるのみならず、排出される残留汚泥の量も大幅に削減することができる。
【符号の説明】
【0080】
1 原水槽
2 沈殿槽
3 排水処理槽
4 排水路
4a 上向き流路部
4b 下向き流路部
4c 上側折り返し部
4d 下側折り返し部
5 平膜槽
6 汚泥排出機構
10 排水処理装置
11 曝気装置
12 送水管
13 排出管
21 濾過膜
22 送水管
31 曝気装置
41 狭路部
42 変化部
43 取水口
44 排出口
45 汚泥排出管
46 バルブ
51 曝気装置
52 放流槽
53 送水管
54 逆洗送水管
61 汚泥搬送路
62 スクリュー
63 モータ
64 汚泥排出管
65 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希釈することによってゲル化する珪素ゾルと、有用微生物を用いて、有機物を含有する有機性排水を排水処理槽で浄化処理する有機性排水処理方法であって、
前記排水処理槽から排出する処理水を上下に蛇行させ、上向きに流れる前記処理水が狭路部を通過するようにした有機性排水処理方法。
【請求項2】
下向きに流れる前記処理水が狭路部を通過するようにした請求項1に記載の有機性排水処理方法。
【請求項3】
上向きに流れる前記処理水が、前記排水処理槽から排出される排出口より低い位置で下向きに折り返し、折り返しを繰り返す毎に下向きへの折り返し位置が順に低くなるようにした請求項1又は2に記載の有機性排水処理方法。
【請求項4】
前記処理水を蛇行した後に濾過する濾過手段を備えた請求項1乃至3の何れか一項に記載の有機性排水処理方法。
【請求項5】
前記有用微生物がバチルス属細菌である請求項1乃至4の何れか一項に記載の有機性排水処理方法。
【請求項6】
前記排水処理槽内の水素イオン濃度をpH6.5〜8.3に維持し、活性汚泥濃度(MLSS)を3000mg/L以上に維持して、前記珪素ゾルを用いるようにした請求項1乃至5の何れか一項に記載の有機性排水処理方法。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか一項に記載の有機性排水処理方法に用いられ、前記有用微生物を活性化させる微生物活性剤であって、
珪素含有物質とアルカリ性物質を混合し熱処理した珪素含有溶質を、酸溶媒に溶解した珪素ゾルからなる微生物活性剤。
【請求項8】
前記珪素含有溶質が前記珪素含有物質の熱融解点以下の温度で熱処理されたことを特徴とする請求項7に記載の微生物活性剤。
【請求項9】
前記アルカリ性物質が炭酸カルシウム又は石灰からなる請求項7又は8に記載の微生物活性剤。
【請求項10】
前記珪素含有物質がマグネシウム又はマグネシウム化合物を含む請求項7乃至9の何れか一項に記載の微生物活性剤。
【請求項11】
前記珪素含有溶質が、セメント、セメントの中間生成物、高炉スラグ、石炭灰の群から選ばれる1又は2以上の物質からなる請求項7に記載の微生物活性剤。
【請求項12】
前記酸溶媒が希塩酸からなる請求項7乃至11の何れか一項に記載の微生物活性剤。
【請求項13】
前記酸溶媒が、酢酸、酢酸アンモニウム、塩化アンモニウムの群から選ばれる1又は2以上のゲル化抑止剤を含有してなる請求項7乃至12の何れか一項に記載の微生物活性剤。
【請求項14】
希釈することによってゲル化する珪素ゾルと、有用微生物を用いて、有機物を含有する有機性排水を排水処理槽で浄化処理する有機性排水処理方法に用いられ、前記有用微生物を活性化させる微生物活性剤であって、
珪素含有物質とアルカリ性物質を混合し熱処理した珪素含有溶質を、酸溶媒に溶解した珪素ゾルからなる微生物活性剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−5924(P2012−5924A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141914(P2010−141914)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(394022853)
【Fターム(参考)】