説明

有機薄膜トランジスタ

【課題】高温保存した場合でも電界効果移動度の安定性に優れ、かつ応答速度が大きい有機薄膜トランジスタ(有機TFT)を提供する。
【解決手段】少なくとも基板上にゲート電極、ソース電極及びドレイン電極の3端子、絶縁体層並びに有機半導体層が設けられ、ソース−ドレイン間電流をゲート電極に電圧を印加することによって制御する有機薄膜トランジスタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜トランジスタに関し、特に、高温保存した場合でも電界効果移動度の安定性に優れ、かつ応答速度が大きい有機薄膜電界効果トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜トランジスタ(以下、TFTと略記する場合がある。)は、液晶表示装置等の表示用のスイッチング素子として広く用いられている。代表的なTFTの断面構造を図1に示す。図1に示すように、TFTは、基板上にゲート電極、絶縁体層、有機半導体層をこの順に有し、有機半導体層上に、所定の間隔を隔てて形成されたソース電極及びドレイン電極を有している。ソース電極及びドレイン電極の一部は表面に露出し、両電極間に露出する面には、半導体層が形成されている。このような構成のTFTでは、半導体層がチャネル領域を成しており、ゲート電極に印加される電圧でソース電極とドレイン電極の間に流れる電流が制御され、オン/オフ動作する。
従来、TFTは、アモルファスや多結晶のシリコンを用いて作製されていたが、このようなシリコンを用いたTFTの作製に用いられるCVD装置は、高額であり、TFTを用いた表示装置等の大型化は、製造コストの大幅な増加を伴うという問題点があった。また、アモルファスや多結晶のシリコンを成膜するプロセスは非常に高い温度下で行われるので、基板として使用可能な材料の種類が限られてしまい、軽量で、且つ柔軟性の付与が可能で自由に形状設計ができる樹脂基板等は使用できないという問題があった。軽量の樹脂基板の上にTFTの製造が可能になると携帯用電子デバイスへの応用が可能になると期待される。
【0003】
このような問題を解決するために、有機半導体を用いたTFT(以下、有機TFTと略記する場合がある。)が提案されている。有機半導体でTFTを形成する際に用いる成膜方法として真空蒸着法や塗布法等が知られているが、これらの成膜方法によれば、製造コストの上昇を抑えつつ素子の大型化が実現可能になり、成膜時に必要となるプロセス温度を比較的低温にすることができる。また、有機物を用いたTFTでは、基板に用いる材料の選択時の制限が少ないといった利点があり、その実用化が期待されている。このような状況下、有機TFTについて多くの研究報告が出されるようになった。例えば、非特許文献1〜3などを挙げることができる。また、TFTの半導体層に用いる材料としては、p型では共役系ポリマーやチオフェンなどの多量体(特許文献1)や、ペンタセンなどの縮合芳香族炭化水素(特許文献2)などが知られている。また,n型FETの材料としては、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボキシルジアンヒドライド(NTCDA)、11,11,12,12-テトラシアノナフト-2,6- キノジメタン(TCNNQD)、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボキシルジイミド(NTCDI)等が、特許文献3に開示されている。
【0004】
有機TFTと同じように電気伝導を用いるデバイスとして有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と略記する場合がある。)が知られている。有機EL素子が、一般に100nm以下の超薄膜に対して、膜厚方向に105V/cm以上の強電界をかけ強制的に電荷を流しているのに対し、有機TFTの場合には数μm以上の距離を105V/cm以下の電界で高速に電荷を流す必要がある。このため、有機物自体に、有機EL素子用材料を超える電導性が必要となる。しかしながら、従来の有機TFTに使用されている有機物は電界効果移動度(以下、移動度と略記する場合がある。)が小さく、応答速度が遅い。このため、トランジスタとしての高速応答性に問題があった。また、オン/オフ比も小さいものであった。
ここで、オン/オフ比とは、ゲート電圧をかけたとき、すなわち、オン状態のときにソース−ドレイン間に流れる電流(オン電流)を、ゲート電圧をかけないとき、すなわち、オフ状態のときにソース−ドレイン間に流れる電流で割った値である。また、オン電流とはゲート電圧を増加させていったときに、ソース−ドレイン間に流れる電流が飽和したときの電流値(飽和電流)のことである。
このような有機TFTの問題点を解決し、素子構成の改良により移動度を向上させる試みがなされている。たとえば、チャネル層(有機半導体層)と絶縁層の界面にN,N’−ジナフタレン−1−イル−N,N’−ジフェニル−ビフェニル−4,4’−ジアミン(NPD)の蒸着膜を挿入することが試みられている(非特許文献4)。しかし、NPDはガラス転移温度が低く、耐熱性が不足しているため、高温下で実用に供した場合、時間とともに移動度が低下するという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開平8−228034号公報
【特許文献2】特開平5−55568号公報
【特許文献3】特開平10−135481号公報
【非特許文献1】HorowitzらAdvanced Materials,8巻,3号, 242頁,1996年
【非特許文献2】H. Fuchigamiら,Applied Physics Letter,63巻,1372頁,1993年
【非特許文献3】Lay-Lay Chuaら,Nature,434巻,2005年3月10日号,194頁
【非特許文献4】石川ら、2007年春季第54回応用物理学関係連合講演会予稿集30a-W-11、1424頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記の課題を解決するためになされたもので、高温保存した場合でも電界効果移動度の安定性に優れ、かつ応答速度が大きい有機薄膜トランジスタ(有機TFT)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、有機TFTを構成する絶縁体層と有機半導体層の間に、特定のイオン化ポテンシャルとガラス転移点を有する非晶質材料からなるチャネル制御層を形成することにより応答速度(駆動速度)を高速化することができること、及び高温条件での保存に対して安定となることを見出し、本発明を完成したものである。
すなわち、本発明は、少なくとも基板上にゲート電極、ソース電極及びドレイン電極の3端子、絶縁体層並びに有機半導体層が設けられ、ソース−ドレイン間電流をゲート電極に電圧を印加することによって制御する有機薄膜トランジスタであって、前記有機半導体層と前記絶縁体層の間に、イオン化ポテンシャルが5.8eV未満であり、かつ、ガラス転移温度が100℃以上である非晶質有機化合物を含むチャネル制御層を有することを特徴とする有機薄膜トランジスタである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の有機TFTは、応答速度(駆動速度)が高速化されており、且つ高温保存した場合でも電界効果移動度の安定性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、少なくとも基板上にゲート電極、ソース電極及びドレイン電極の3端子、絶縁体層並びに有機半導体層が設けられ、ソース−ドレイン間電流をゲート電極に電圧を印加することによって制御する有機薄膜トランジスタであって、前記有機半導体層と前記絶縁体層の間に、イオン化ポテンシャルが5.8eV未満であり、かつ、ガラス転移温度が100℃以上である非晶質有機化合物を含むチャネル制御層を有することを特徴とする有機薄膜トランジスタ(有機TFT)である。
【0010】
以下、本発明の有機TFTの詳細について説明する。
(基本素子構成)
本発明の有機TFTの素子構成としては、少なくとも基板上にゲート電極、ソース電極及びドレイン電極の3端子、絶縁体層及び有機半導体層が設けられ、前記有機半導体層と前記絶縁体層の間にチャネル制御層が挿入されており、ソース−ドレイン間電流をゲート電極に電圧を印加することによって制御するTFTであれば、限定されない。公知の素子構成を基本とするものであっても良い。本発明ではこの有機半導体層と前記絶縁体層の間にチャネル制御層が挿入されていることを特徴とする。
本発明の素子構成A〜Dを図2〜5に例示する。有機TFTの素子構成はA〜Dに限定されるものではない。素子構成A〜Dに示すように、電極の位置、層の積層順などによりいくつかの公知の基本構成が知られているが、本発明の有機TFTは、電界効果トランジスタ(FET: Field Effect Transistor)構造を有するものである。有機TFTは、有機半導体層、絶縁体層と、相互に所定の間隔をあけて対向するように形成されたソース電極及びドレイン電極と、ソース電極、ドレイン電極からそれぞれ所定の距離をあけて形成されたゲート電極とを有し、ゲート電極に電圧を印加することによってソース−ドレイン電極間に流れる電流を制御する。ここで、ソース電極とドレイン電極の間隔は通常、用途によって決定され、通常は0.1μm〜1mm、好ましくは1μm〜100μm、さらに好ましくは5μm〜100μmである。
【0011】
素子A〜Dのうち、図4に記載の素子Cを例としてさらに詳しく説明する。素子Cは、基板上に、ゲート電極、絶縁体層、チャネル制御層、有機半導体層をこの順に有し、有機半導体層上に、所定の間隔をあけて形成された一対のソース電極及びドレイン電極を有している。ゲート電極に印加される電圧でソース電極とドレイン電極の間に流れる電流が制御され、オン/オフ動作する。
【0012】
(チャネル制御層の機能)
チャネル制御層は、その上に成膜される有機半導体層との界面でのキャリアトラップを低減させ移動度を向上させる機能を有する。また、キャリアトラップの低減により、TFTの大気中での安定性が向上する。
【0013】
(チャネル制御層が含む非晶質有機化合物の物理特性)
チャネル制御層は、5.8eV未満、好ましくは5.7eV以下、より好ましくは5.5eV以下のイオン化ポテンシャル(Ip)を有する非晶質有機化合物を含む。チャネル制御層が含む非晶質有機化合物のIpが5.8eV以上であると、キャリアトラップが発生するため、移動度が不十分となる。Ipの下限値は、特に限定されないが、材料の入手容易性の点で4.0eV以上であることが好ましい。
もう一つの要件はガラス転移温度が100℃以上の非晶質有機化合物を用いることである。携帯用電子デバイスは100℃以上の高温環境におかれたりする可能性もあるので、後記する高温保存性が必要である。そのためチャネル制御層にはガラス転移温度100℃以上の材料を用いることにより、携帯用途の電子デバイスに必須である100℃の高温保存が可能となることを見出した。これにより、高温環境下での性能低下を抑制することができる。
更にもう一つの要件は、上記非晶質有機化合物は本質的に非晶質であるという点である。非晶質であることにより、通常、単結晶や多結晶物質で構成される有機半導体層との界面のチャネル領域が平滑となってキャリアの移動度が向上する。また、ピンホールや欠陥部分ができにくい点も移動度の向上に寄与する。チャネル制御層は完全に非晶質化している必要はなく、本発明の効果を損なわない範囲であれば、結晶化部分を含んでいてもよい。
上記イオン化ポテンシャルとガラス転移温度の条件を満たす、非晶質有機化合物をチャネル制御層に用いることにより、非晶質材料のチャネル制御層が形成できる。この層の形成により、チャネル領域内を移動するキャリアのトラップが低減され、移動度の向上を図ることできるため、チャネル制御層と名づけた。
【0014】
(非晶質化合物の具体例)
前記の物理特性を満たす非晶質化合物であれば特に限定されないが、具体的には以下に例示する非晶質有機化合物を好ましく挙げることができる。このような非晶質有機化合物をチャネル制御層に用いることにより、大きな移動度と、高温条件での優れた安定性が得られる。この場合、本発明の効果を損なわない範囲であれば、結晶性化合物を配合してもよい。
【0015】
【化1】

【0016】
【化2】

【0017】
【化3】

【0018】
【化4】

【0019】
上記例示化合物は、次の4種類に分けられる。
(1)アミノ基含有有機化合物
イオン化ポテンシャル(Ip)5.8eV以下を達成するため芳香族アミン化合物が好ましい。一般に芳香族アミン化合物はIpが小さい化合物として知られ有機ELの正孔輸送材料として用いられている。芳香族アミン化合物において、芳香族基がナフタレン、アントラセン、フェナントレン、クリセン等の縮合芳香族の残基や、ビフェニルの残基、スピロ結合を有する化合物が、中でも高いTgが得られるので好ましい。
(2)縮合芳香族炭化水素化合物
縮合芳香族基としては、ナフタレン、アントラセン等の残基が挙げられる。また、ビフェニルやターフェニルの残基、およびスピロ結合を有する縮合芳香族炭化水素化合物も好ましく挙げられる。
(3)末端変性されたチオフェンオリゴマー
チオフェンオリゴマーもIpが小さな化合物として代表的なものであるが通常、結晶性である。そこで、非晶性とするため、末端を芳香族炭化水素基で置換したものが好ましい。
(4)特定構造の金属錯体
化合物(28)のような金属錯体が挙げられる。
【0020】
(チャネル制御層の膜厚)
本発明の有機TFTにおけるチャネル制御層の膜厚は特に制限されず、チャネル制御層と有機半導体層との界面を平滑化するために必要な膜厚があればよい。好ましくは膜厚1nm〜100nmであり、5nm〜50nmであると更に好ましい。これは膜厚が厚すぎるとゲート電圧によってキャリアを蓄積する効果が小さくなり、薄すぎると有機半導体との界面の平滑性が足りず、チャネル内にキャリアトラップが形成される恐れがあるためである。
【0021】
(チャネル制御層の形成方法)
チャネル制御層の形成方法は特に限定されることはなく、有機半導体層の形成方法として公知の方法を適用できる。例えば、分子線蒸着法(MBE法)、真空蒸着法、化学蒸着、材料を溶媒に溶かした溶液のディッピング法、スピンコーティング法、キャスティング法、バーコート法、ロールコート法等の印刷、塗布法及びベーキング、エレクトロポリマラインゼーション、分子ビーム蒸着、溶液からのセルフ・アセンブリ、及びこれらの組合せた手段により形成される。
ここで、材料の非晶性が保持されることを考慮する必要がある。
【0022】
(有機半導体層)
本発明で用いられる有機半導体としては特に制限を受けるものではない。一般に開示されているような、有機TFTに用いられる有機半導体を用いることができる。
以下に具体例を示す。
【0023】
(有機半導体層に使用される材料)
高い移動度が得られるため、通常、結晶性の材料が用いられる。具体的には、次のような材料を例示することができる。
(1)ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、ヘキサセン、ヘプタセン等の、置換基のついてもよいアセン類、例として1,4−ビススチリルベンゼン、1,4−ビス(2−メチルスチリル)ベンゼン、1,4−ビス(3−メチルスチリル)ベンゼン(4MSB)、1,4−ビス(4−メチルスチリル)ベンゼン、ポリフェニレンビニレンなどC65−CH=CH−C65で表されるスチリル構造を有する化合物、このような化合物のオリゴマーやポリマー。
(2)以下に示すチオフェン環を含む化合物
(ア)α−4T、α−5T、α−6T、α−7T、α−8Tの誘導体等の置換基を有してもよいチオフェンオリゴマー
(イ)ポリヘキシルチオフェン、ポリ(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル−コ−ビチオフェン)等のチオフェン系高分子等のチオフェン系高分子
(ウ)ビスベンゾチオフェン誘導体、α,α’−ビス(ジチエノ[3,2−b:2’,3’−d]チオフェン)、ジチエノチオフェン−チオフェンのコオリゴマー、ペンタチエノアセン等の縮合オリゴチオフェン特にチエノベンゼン骨格またはジチエノベンゼン骨格を有する化合物、ジベンゾチエノベンゾチオフェン誘導体が好ましい。
(3)また、セレノフェンオリゴマー、無金属フタロシアニン、銅フタロシアニン、鉛フタロシアニン、チタニルフタロシアニン、白金ポルフィリン、ポルフィリン、ベンゾポルフィリンなどのポルフィリン類、テトラチアフルバレン(TTF)及びその誘導体、ルブレン及びその誘導体などが挙げられる。
【0024】
(n型有機TFTを構成する有機半導体)
本発明の有機TFTの場合、n型有機TFTであると、特に大きな移動度および更に優れた高温安定性が得られる。n型有機TFTに用いられる有機半導体としては、nチャネル駆動能を有する有機半導体が好ましく、具体的には以下の化合物を挙げることができる。
(1)アセン類、無金属フタロシアニン、銅フタロシアニン、フッ素化銅フタロシアニン、鉛フタロシアニン、チタニルフタロシアニン、白金ポルフィリン、ポルフィリン、ベンゾポルフィリンなどのポルフィリン類、ルブレン、ポリフェニレンビニレンなどの両極輸送性化合物。
(2)以下に示すp型半導体を母骨格とし、これらに対してF、CF3、C25等のフッ素、フルオロアルキル基が付加した化合物。
ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、ヘキサセン、ヘプタセン等の置換基のついてもよいアセン類、例として1,4−ビススチリルベンゼン、1,4−ビス(2−メチルスチリル)ベンゼン、1,4−ビス(3−メチルスチリル)ベンゼン(4MSB)、1,4−ビス(4−メチルスチリル)ベンゼン、ポリフェニレンビニレンなどC65−CH=CH−C65で表されるスチリル構造を有するオリゴマー、ポリマー、α−4T、α−5T、α−6T、α−7T、α−8Tの誘導体等の置換基を有してもよいチオフェンオリゴマーポリヘキシルチオフェン、ポリ(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル−コ−ビチオフェン)等のチオフェン系高分子等のチオフェン系高分子ビスベンゾチオフェン誘導体、α,α’−ビス(ジチエノ[3,2−b:2’,3’−d]チオフェン)、ジチエノチオフェン−チオフェンのコオリゴマー、ペンタチエノアセン等の縮合オリゴチオフェン特にチエノベンゼン骨格またはジチエノベンゼン骨格を有する化合物、ジベンゾチエノベンゾチオフェン誘導体、セレノフェンオリゴマー、無金属フタロシアニン、銅フタロシアニン、フッ素化銅フタロシアニン、鉛フタロシアニン、チタニルフタロシアニン、白金ポルフィリン、ポルフィリン、ベンゾポルフィリンなどのポルフィリン類、テトラチアフルバレン(TTF)及びその誘導体。
(3)単独でn型半導体として知られているもの、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、11,11,12,12−テトラシアノナフト−2,6−キノジメタン(TCNNQ)らのキノイドオリゴマー、C60、C70、PCBM等のフラーレン類、N,N’−ジフェニル−3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸ジイミド、N,N’−ジオクチル−3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸ジイミド(C8−PTCDI)、NTCDA、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシルジイミド(NTCDI)等のテトラカルボン酸類。
【0025】
(有機半導体層の膜厚及び成膜方法)
本発明の有機TFTにおける有機半導体層の膜厚は、特に制限されることはないが、通常、0.5nm〜1μmであり、2nm〜250nmであると好ましい。この範囲であると、大きな移動度と高温条件での優れた安定性が得られる。
有機半導体層の形成方法は特に限定されることはなく公知の方法を適用でき、例えば、分子線蒸着法(MBE法)、真空蒸着法、化学蒸着、材料を溶媒に溶かした溶液のディッピング法、スピンコーティング法、キャスティング法、バーコート法、ロールコート法等の印刷、塗布法及びベーキング、エレクトロポリマラインゼーション、分子ビーム蒸着、溶液からのセルフ・アセンブリ、及びこれらの組合せた手段により、前記したような有機半導体層の材料で形成される。有機半導体層の結晶性を向上させて、電界効果移動度を向上させるため、気相からの成膜(蒸着、スパッタ等)を用いる場合は成膜中の基板温度を高温で保持する方法を採用することができる。その温度は50〜250℃が好ましく、70〜150℃であるとさらに好ましい。また、成膜方法に関わらず成膜後にアニーリングを実施することで、素子の性能向上を図ることができる。アニーリングの温度は50〜200℃が好ましく、70〜200℃であるとさらに好ましく、時間は10分〜12時間が好ましく、1〜10時間であるとさらに好ましい。ただし、チャネル制御層の非晶質が保たれるようなアニーリング条件を採用する必要がある。
【0026】
(チャネル制御層および有機半導体層に用いられる有機化合物の純度)
また、本発明の有機薄膜トランジスタにおける、上記チャネル制御層に用いられる非晶質有機化合物や有機半導体層に用いられる有機半導体としては、純度の高いものを用いることにより電界効果移動度やオン/オフ比の向上を図ることができる。したがってこれらは必要に応じて、カラムクロマトグラフィー、再結晶、蒸留、昇華などの手法により精製を加えることが望ましい。好ましくはこれらの精製方法を繰り返し用いたり、複数の方法を組み合わせたりすることにより純度を向上させることが可能である。さらに精製の最終工程として昇華精製を少なくとも2回以上繰り返すことが望ましい。これらの手法を用いることによりHPLCで測定した純度90%以上の材料を用いることが好ましく、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上の材料を用いることにより、有機TFTの電界効果移動度やオン/オフ比を高め、本来材料の持っている性能を引き出すことができる。
【0027】
(基板)
本発明の有機TFTにおける基板は、有機TFTの構造を支持する役目を担うものである。材料としてはガラスの他、金属酸化物や窒化物などの無機化合物、プラスチックフィルム(PET,PES,PC)や金属基板又はこれら複合体や積層体なども用いることが可能である。また、基板以外の構成要素により有機TFTの構造を十分に支持し得る場合には、基板を使用しないことも可能である。また、基板の材料としてはシリコン(Si)ウエハが用いられることが多い。この場合、Si自体をゲート電極兼基板として用いることができる。また、Siの表面を酸化し、SiO2を形成して絶縁層として活用することも可能である。この場合、基板兼ゲート電極のSi基板にリード線接続用の電極として、Auなどの金属層を成膜することもある。
【0028】
(電極)
本発明の有機TFTにおける、ゲート電極、ソース電極及びドレイン電極の材料としては、導電性材料であれば特に限定されず、白金、金、銀、ニッケル、クロム、銅、鉄、錫、アンチモン鉛、タンタル、インジウム、パラジウム、テルル、レニウム、イリジウム、アルミニウム、ルテニウム、ゲルマニウム、モリブデン、タングステン、酸化スズ・アンチモン、酸化インジウム・スズ(ITO)、フッ素ドープ酸化亜鉛、亜鉛、炭素、グラファイト、グラッシーカーボン、銀ペースト及びカーボンペースト、リチウム、ベリリウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、マンガン、ジルコニウム、ガリウム、ニオブ、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム混合物、リチウム/アルミニウム混合物等が用いられる。
【0029】
前記電極の形成方法としては、例えば、蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング、大気圧プラズマ法、イオンプレーティング、化学気相蒸着、電着、無電解メッキ、スピンコーティング、印刷又はインクジェット等の手段により形成される。また、必要に応じてパターニングする方法としては、上記の方法を用いて形成した導電性薄膜を、公知のフォトリソグラフ法やリフトオフ法を用いて電極形成する方法、アルミニウムや銅などの金属箔上に熱転写、インクジェット等により、レジストを形成しエッチングする方法がある。このようにして形成された電極の膜厚は電流の導通さえあれば特に制限はないが、好ましくは0.2nm〜10μm、さらに好ましくは4nm〜300nmの範囲である。この好ましい範囲内であれば、膜厚が薄いことにより抵抗が高くなり電圧降下を生じることがない。また、厚すぎないため膜形成に時間がかからず、保護層や有機半導体層など他の層を積層する場合に、段差が生じることが無く積層膜が円滑にできる。
【0030】
本発明の有機TFTにおいて、上記とは異なるソース電極、ドレイン電極、ゲート電極およびその形成方法としては、上記の導電性材料を含む、溶液、ペースト、インク、分散液などの流動性電極材料を用いて形成する方法を採用することができる。この場合、導電性ポリマー、又は白金、金、銀、銅を含有する金属微粒子を含む流動性電極材料を用いることが好ましい。また、溶媒や分散媒体としては、有機半導体への悪影響を抑制するため、水を60質量%以上、好ましくは90質量%以上含有する溶媒又は分散媒体であることが好ましい。金属微粒子を含有する分散物としては、例えば、公知の導電性ペーストなどを用いても良いが、通常粒子径が0.5nm〜50nm、1nm〜10nmの金属微粒子を含有する分散物であると好ましい。この金属微粒子の材料としては、例えば、白金、金、銀、ニッケル、クロム、銅、鉄、錫、アンチモン鉛、タンタル、インジウム、パラジウム、テルル、レニウム、イリジウム、アルミニウム、ルテニウム、ゲルマニウム、モリブデン、タングステン、亜鉛等を用いることができる。これらの金属微粒子を、主に有機材料からなる分散安定剤を用いて、水や任意の有機溶剤である分散媒中に分散した分散物を用いて電極を形成するのが好ましい。このような金属微粒子の分散物の製造方法としては、ガス中蒸発法、スパッタリング法、金属蒸気合成法などの物理的生成法や、コロイド法、共沈法などの、液相で金属イオンを還元して金属微粒子を生成する化学的生成法が挙げられ、好ましくは、特開平11−76800号公報、同11−80647号公報、同11−319538号公報、特開2000−239853号公報等に示されたコロイド法、特開2001−254185号公報、同2001−53028号公報、同2001−35255号公報、同2000−124157号公報、同2000−123634号公報などに記載されたガス中蒸発法により製造された金属微粒子の分散物である。
【0031】
これらの金属微粒子分散物を用いて直接インクジェット法によりパターニングしても良く、塗工膜からリソグラフやレーザーアブレーションなどにより形成しても良い。また凸版、凹版、平版、スクリーン印刷などの印刷法でパターニングする方法も用いることができる。前記電極を成形し、溶媒を乾燥させた後、必要に応じて100℃〜300℃、好ましくは150℃〜200℃の範囲で形状様に加熱することにより、金属微粒子を熱融着させ、目的の形状を有する電極パターンを形成する。
さらに、上記とは別のゲート電極、ソース電極及びドレイン電極の材料として、ドーピング等で導電率を向上させた公知の導電性ポリマーを用いることもできる。例えば、導電性ポリアニリン、導電性ポリピロール、導電性ポリチオフェン(ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の錯体など)、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸の錯体などを好適に用いることができる。これらの材料によりソース電極とドレイン電極の有機半導体層との接触抵抗を低減することができる。これらの形成方法もインクジェット法によりパターニングしても良く、塗工膜からリソグラフやレーザーアブレーションなどにより形成しても良い。また凸版、凹版、平版、スクリーン印刷などの印刷法でパターニングする方法も用いることができる。
【0032】
特にソース電極及びドレイン電極を形成する材料は、前述した例の中でも有機半導体層との接触面において電気抵抗が少ないものが好ましい。この際の電気抵抗は、すなわち電流制御デバイスを作製したとき電界効果移動度と対応しており、大きな移動度を得る為には出来るだけ抵抗が小さいことが必要である。これは一般に電極材料の仕事関数と有機半導体層のエネルギー準位との大小関係で決まる。
電極材料の仕事関数(W)をa、有機半導体層のイオン化ポテンシャルを(Ip)をb、有機半導体層の電子親和力(Af)をcとすると、以下の関係式を満たすことが好ましい。ここで、a,b及びcはいずれも真空準位を基準とする正の値である。
【0033】
p型有機TFTの場合には、b−a<1.5eV(式(I))であることが好ましく、さらに好ましくはb−a<1.0eVである。有機半導体層との関係において上記関係が維持できれば高性能なデバイスを得ることができるが、特に電極材料の仕事関数はできるだけ大きいことものを選ぶことが好ましく、仕事関数4.0eV以上であることが好ましく、さらに好ましくは仕事関数4.2eV以上である。
金属の仕事関数の値は、例えば化学便覧 基礎編II−493頁(改訂3版 日本化学会編 丸善株式会社発行1983年)に記載されている4.0eV又はそれ以上の仕事関数をもつ有効金属の前記リストから選別すれば良く、高仕事関数金属は、主としてAg(4.26,4.52,4.64,4.74eV),Al(4.06,4.24,4.41eV),Au(5.1,5.37,5.47eV),Be(4.98eV),Bi(4.34eV),Cd(4.08eV),Co(5.0eV),Cu(4.65eV),Fe(4.5,4.67,4.81eV),Ga(4.3eV),Hg(4.4eV),Ir(5.42,5.76eV),Mn(4.1eV),Mo(4.53,4.55,4.95eV),Nb(4.02,4.36,4.87eV),Ni(5.04,5.22,5.35eV),Os(5.93eV),Pb(4.25eV),Pt(5.64eV),Pd(5.55eV),Re(4.72eV),Ru(4.71eV),Sb(4.55,4.7eV),Sn(4.42eV),Ta(4.0,4.15,4.8eV),Ti(4.33eV),V(4.3eV),W(4.47,4.63,5.25eV),Zr(4.05eV)である。これらの中でも、貴金属(Ag,Au,Cu,Pt),Ni,Co,Os,Fe,Ga,Ir,Mn,Mo,Pd,Re,Ru,V,Wが好ましい。金属以外では、ITO、ポリアニリンやPEDOT:PSSのような導電性ポリマー及び炭素が好ましい。電極材料としてはこれらの高仕事関数の物質を1種又は複数含んでいても、仕事関数が前記式(I)を満たせば特に制限を受けるものではない。
【0034】
n型有機TFTの場合にはa−c<1.5eV(式(II))であることが好ましく,さらに好ましくはa−c<1.0eVである。有機半導体層との関係において上記関係が維持できれば高性能なデバイスを得ることができるが、特に電極材料の仕事関数はできるだけ小さいものを選ぶことが好ましく、仕事関数4.3eV以下であることが好ましく、さらに好ましくは仕事関数3.7eV以下である。
低仕事関数金属の具体例としては、例えば化学便覧 基礎編II−493頁(改訂3版 日本化学会編 丸善株式会社発行1983年)に記載されている4.3eV又はそれ以下の仕事関数をもつ有効金属の前記リストから選別すれば良く、Ag(4.26eV),Al(4.06,4.28eV),Ba(2.52eV),Ca(2.9eV),Ce(2.9eV),Cs(1.95eV),Er(2.97eV),Eu(2.5eV),Gd(3.1eV),Hf(3.9eV),In(4.09eV),K(2.28),La(3.5eV),Li(2.93eV),Mg(3.66eV),Na(2.36eV),Nd(3.2eV),Rb(4.25eV),Sc(3.5eV),Sm(2.7eV),Ta(4.0,4.15eV),Y(3.1eV),Yb(2.6eV),Zn(3.63eV)等が挙げられる。これらの中でも、Ba,Ca,Cs,Er,Eu,Gd,Hf,K,La,Li,Mg,Na,Nd,Rb,Y,Yb,Znが好ましい。電極材料としてはこれらの低仕事関数の物質を1種又は複数含んでいても、仕事関数が前記式(II)を満たせば特に制限を受けるものではない。n型有機TFTにおいて、Auを用いることもできる。
ただし、低仕事関数金属は、大気中の水分や酸素に触れると容易に劣化してしまうので、必要に応じてAgやAuのような空気中で安定な金属で被覆することが望ましい。被覆に必要な膜厚は10nm以上必要であり、膜厚が熱くなるほど酸素や水から保護することができるが、実用上、生産性を上げる等の理由から1um以下にすることが望ましい。
【0035】
(バッファ層)
また、本実施の有機薄膜トランジスタでは、例えば、キャリアの注入効率を向上させる目的で、有機半導体層とソース電極及びドレイン電極との間に、バッファ層を設けても良い。バッファ層としてはn型有機薄膜トランジスタに対しては有機EL素子の陰極に用いられているLiF、Li2O、CsF、NaCO3、KCl、MgF2、CaCO3などのアルカリ金属、アルカリ土類金属イオン結合を持つ化合物が望ましい。また、Alqなど有機ELで電子注入層、電子輸送層として用いられる化合物を挿入しても良い。
p型有機薄膜トランジスタに対してはFeCl3、TCNQ、F4−TCNQ、HATなどのシアノ化合物、CFxやGeO2、SiO2、MoO3、V25、VO2、V23、MnO、Mn34、ZrO2、WO3、TiO2、In23、ZnO、NiO、HfO2、Ta25、ReO3、PbO2などのアルカリ金属、アルカリ土類金属以外の金属酸化物、ZnS、ZnSeなどの無機化合物が望ましい。これらの酸化物は多くの場合、酸素欠損を起こし、これが正孔注入に好適である。更にはTPDやNPDなどのアミン系化合物やCuPcなど有機EL素子において正孔注入層、正孔輸送層として用いられる化合物でもよい。また、上記の化合物二種類以上からなるものが望ましい。
バッファ層はキャリアの注入障壁を下げることにより閾値電圧を下げ、有機TFTを低電圧駆動させる効果がある。また、移動度を高める効果もある。バッファ層は電極と有機半導体層との間に薄く存在すればよく、その厚みは0.1nm〜30nm、好ましくは0.3nm〜20nmである。
【0036】
(絶縁体層)
本発明の有機TFTにおける絶縁体層の材料としては、電気絶縁性を有し薄膜として形成できるものであるのなら特に限定されず、金属酸化物(珪素の酸化物を含む)、金属窒化物(珪素の窒化物を含む)、高分子、有機低分子など室温での電気抵抗率が10Ωcm以上の材料を用いることができ、特に、比誘電率の高い無機酸化物膜が好ましい。
無機酸化物としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタン、酸化スズ、酸化バナジウム、チタン酸バリウムストロンチウム、ジルコニウム酸チタン酸バリウム、ジルコニウム酸チタン酸鉛、チタン酸鉛ランタン、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、フッ化バリウムマグネシウム、ランタン酸化物、フッ素酸化物、マグネシウム酸化物、ビスマス酸化物、チタン酸ビスマス、ニオブ酸化物,チタン酸ストロンチウムビスマス、タンタル酸ストロンチウムビスマス、五酸化タンタル、タンタル酸ニオブ酸ビスマス、トリオキサイドイットリウム及びこれらを組合せたものが挙げられ、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタンが好ましい。
また、窒化ケイ素(Si34、SixNy(x、y>0))、窒化アルミニウム等の無機窒化物も好適に用いることができる。
【0037】
さらに、絶縁体層は、アルコキシド金属を含む前駆物質で形成されていても良く、この前駆物質の溶液を、例えば基板に被覆し、これを熱処理を含む化学溶液処理をすることにより絶縁体層が形成される。
前記アルコキシド金属における金属としては、例えば、遷移金属、ランタノイド、又は主族元素から選択され、具体的には、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、チタン(Ti)、ビスマス(Bi)、タンタル(Ta)、ジルコン(Zr)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、鉛(Pb)、ランタン(La)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、フランシウム(Fr)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ニオブ(Nb) 、タリウム(Tl)、水銀(Hg)、銅(Cu)、コバルト(Co)、ロジウム(Rh)、スカンジウム(Sc)及びイットリウム(Y)等が挙げられる。また、前記アルコキシド金属におけるアルコキシドとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール等を含むアルコール類、メトキシエタノール、エトキシエタノール、プロポキシエタノール、ブトキシエタノール、ペントキシエタノール、ヘプトキシエタノール、メトキシプロパノール、エトキシプロパノール、プロポキシプロパノール、ブトキシプロパノール、ペントキシプロパノール、ヘプトキシプロパノールを含むアルコキシアルコール類等から誘導されるものが挙げられる。
【0038】
本発明において、絶縁体層を上記したような材料で構成すると、絶縁体層中に分極が発生しやすくなり、有機TFT動作の閾電圧を低減することができる。また、上記材料の中でも、特に、Si34、SixNy、SiONx(x、y>0)等の窒化ケイ素で絶縁体層を形成すると、分極がいっそう発生しやすくなり、閾電圧をさらに低減させることができる。
有機化合物を用いた絶縁体層としては、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリレート、光ラジカル重合系、光カチオン重合系の光硬化性樹脂、アクリロニトリル成分を含有する共重合体、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ノボラック樹脂、及びシアノエチルプルラン等を用いることもできる。その他、ワックス、ポリエチレン、ポリクロロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリオキシメチレン、ポリビニルクロライド、ポリフッ化ビニリデン、ポリメチルメタクリレート、ポリサルホン、ポリカーボネート、ポリイミドシアノエチルプルラン、ポリ(ビニルフェノール)(PVP)、ポリ(メチルメタクレート)(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリオレフィン、ポリアクリルアミド、ポリ(アクリル酸)、ノボラック樹脂、レゾール樹脂、ポリイミド、ポリキシリレン、エポキシ樹脂に加え、プルランなどの高い誘電率を持つ高分子材料を使用することも可能である。
【0039】
絶縁体層の材料として、特に好ましいのは撥水性を有する有機化合物であり、撥水性を有することにより絶縁体層とチャネル制御層との相互作用を抑え、チャネル制御層が本来保有している非晶質性を保持できるので、チャネル制御層の機能を発揮し素子性能を向上させることができる。このような例としては、Yasudaら Jpn. J. Appl. Phys. Vol. 42 (2003) pp.6614-6618に記載のポリパラキシリレン誘導体やJanos Veres ら Chem. Mater., Vol. 16 (2004) pp. 4543-4555に記載のものが挙げられる。
また、図2及び図5に示すようなトップゲート構造を用いるときに、このような有機化合物を絶縁体層の材料として用いると、有機半導体層に与えるダメージを小さくして成膜することができるため有効な方法である。
【0040】
前記絶縁体層は、前述したような無機又は有機化合物材料を複数用いた混合層であっても良く、これらの積層構造体であっても良い。この場合、必要に応じて誘電率の高い材料と撥水性を有する材料を混合したり、積層したりすることによりデバイスの性能を制御することもできる。
また、前記絶縁体層は、陽極酸化膜、又は該陽極酸化膜を構成として含んでも良い。陽極酸化膜は封孔処理されることが好ましい。陽極酸化膜は、陽極酸化が可能な金属を公知の方法により陽極酸化することにより形成される。陽極酸化処理可能な金属としては、アルミニウム又はタンタルを挙げることができ、陽極酸化処理の方法には特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。陽極酸化処理を行なうことにより、酸化被膜が形成される。陽極酸化処理に用いられる電解液としては、多孔質酸化皮膜を形成することができるものならばいかなるものでも使用でき、一般には、硫酸、燐酸、蓚酸、クロム酸、ホウ酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸等あるいはこれらを2種類以上組み合わせた混酸又はそれらの塩が用いられる。陽極酸化の処理条件は使用する電解液により種々変化するので一概に特定し得ないが、一般的には、電解液の濃度が1〜80質量%、電解液の温度5〜70℃、電流密度0.5〜60A/cm2、電圧1〜100ボルト、電解時間10秒〜5分の範囲が適当である。好ましい陽極酸化処理は、電解液として硫酸、リン酸又はホウ酸の水溶液を用い、直流電流で処理する方法であるが、交流電流を用いることもできる。これらの酸の濃度は5〜45質量%であることが好ましく、電解液の温度20〜50℃、電流密度0.5〜20A/cm2で20〜250秒間電解処理するのが好ましい。
絶縁体層の厚さとしては、層の厚さが薄いと有機半導体に印加される実効電圧が大きくなるので、素子自体の駆動電圧、閾電圧を下げることができるが、逆にソースーゲート間のリーク電流が大きくなるので、適切な膜厚を選ぶ必要があり、通常10nm〜5μm、好ましくは50nm〜2μm、さらに好ましくは100nm〜1μmである。
【0041】
前記絶縁体層の形成方法としては、真空蒸着法、分子線エピタキシャル成長法、イオンクラスタービーム法、低エネルギーイオンビーム法、イオンプレーティング法、CVD法、スパッタリング法、特開平11−61406号公報、同11−133205号公報、特開2000−121804号公報、同2000−147209号公報、同2000−185362号公報に記載の大気圧プラズマ法などのドライプロセスや、スプレーコート法、スピンコート法、ブレードコート法、デイップコート法、キャスト法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法などの塗布による方法、印刷やインクジェットなどのパターニングによる方法などのウェットプロセスが挙げられ、材料に応じて使用できる。ウェットプロセスは、無機酸化物の微粒子を、任意の有機溶剤又は水に必要に応じて界面活性剤などの分散補助剤を用いて分散した液を塗布、乾燥する方法や、酸化物前駆体、例えば、アルコキシド体の溶液を塗布、乾燥する、いわゆるゾルゲル法が用いられる。
【0042】
(有機TFTの形成プロセス)
本発明の有機TFTを形成する方法としては、特に限定されず公知の方法によれば良いが、所望の素子構成に従い、基板投入、ゲート電極形成、絶縁体層形成、チャネル制御層形成,有機半導体層形成、ソース電極形成、ドレイン電極形成までの一連の素子作製工程を全く大気に触れることなく形成すると、大気との接触による大気中の水分や酸素などによる素子性能の阻害を防止できるため好ましい。やむをえず、一度大気に触れさせなければならないときは、有機半導体層成膜以後の工程は大気に全く触れさせない工程とし、有機半導体層成膜直前には、有機半導体層を積層する面(例えば素子Bの場合は絶縁層に一部ソース電極、ドレイン電極が積層された表面)を紫外線照射、紫外線/オゾン照射、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ等で清浄化・活性化した後、有機半導体層を積層することが好ましい。また,p型TFT材料の中には一旦大気に触れさせ,酸素等を吸着させることにより性能が向上するものもあるので,材料によっては適宜大気に触れさせる。
さらに、例えば、大気中に含まれる酸素、水などの有機半導体層に対する影響を考慮し、有機トランジスタ素子の外周面の全面又は一部に、ガスバリア層を形成しても良い。ガスバリア層を形成する材料としては、この分野で常用されるものを使用でき、例えば、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリクロロトリフロロエチレンなどが挙げられる。さらに、前記絶縁体層で例示した、絶縁性を有する無機物も使用できる。
【実施例】
【0043】
実施例1(有機TFTの製造)
有機薄膜トランジスタを以下の手順で作製した。まず、Si基板(P型比抵抗1Ωcmゲート電極兼用)を熱酸化法にて表面を酸化させ、基板上に300nmの熱酸化膜を作製して絶縁体層とした。さらに基板の一方に成膜したSiO2膜をドライエッチングにて完全に除去した後、スパッタ法にてクロムを20nmの膜厚で成膜し、さらにその上に金(Au)を100nmスパッタにて成膜し取り出し電極とした。この基板を、中性洗剤、純水、アセトン及びエタノールで各30分超音波洗浄し、さらにオゾン洗浄を行った。
次に、上記基板を真空蒸着装置(ULVAC社製、EX−400)に設置し、絶縁体層上に前記化合物(2)(Ip=5.44eV Tg=126℃)を0.05nm/sの蒸着速度で10nm膜厚のチャネル制御層として成膜した。次いで、PTCDI−C13(下図)を0.05nm/sの蒸着速度で50nm膜厚の有機半導体層として成膜した。最後に金属マスクを通して金を50nmの膜厚で成膜することにより、互いに接しないソース電極及びドレイン電極を、間隔(チャンネル長L)が75μmになるように形成した。そのときソース電極とドレイン電極の幅(チャンネル幅W)は5mmとなるように成膜して有機薄膜トランジスタを作製した(図6参照)。
【0044】
【化5】

【0045】
得られた有機薄膜トランジスタのゲート電極に0〜100Vのゲート電圧を印加し、ソース−ドレイン間に電圧を印加して電流を流した。この場合、電子が有機半導体層のチャンネル領域(ソース−ドレイン間)に誘起され、p型トランジスタとして動作する。その結果、電流飽和領域でのソース−ドレイン電極間の電流のオン/オフ比は3×105であった。また、電子の電界効果移動度μを下記式(A)より算出したところ8.3×10-2cm2/Vsであった。
D=(W/2L)・Cμ・(VG−VT)2 (A)
式中、IDはソース−ドレイン間電流、Wはチャンネル幅、Lはチャンネル長、Cはゲート絶縁体層の単位面積あたりの電気容量、VTはゲート閾値電圧、VGはゲート電圧である。
さらにこの有機TFTを真空下100℃中に500時間保存しておいたところ移動度は4.3×10-2cm2/Vsと依然として高い値を保っていた。
【0046】
実施例2(有機TFTの製造)
実施例1において、有機半導体層の材料として、チャネル制御層として化合物(2)の代わりに化合物(24)(5.69eV Tg=157℃)を使った以外は全く同様にして素子を作製した。
【0047】
実施例3(有機TFTの製造)
実施例1において,有機半導体としてPTCDI−C13の代わりにC60(フラーレン)を使った以外は全く同様にして素子を作製した。この有機半導体はn型として用いられる。トランジスタ特性を第1表に示す。
【0048】
比較例1(有機TFTの製造)
チャネル制御層を用いなかった以外は実施例1と全く同様に有機TFTを作製したが結果を表1に示す。
【0049】
比較例2(有機TFTの製造)
化合物(2)の代わりにTCTA(下図 Ip=5.80eV Tg=151℃)を用いた以外は実施例1と全く同様に有機TFTを作製した。結果を表1に示す。
【0050】
【化6】

【0051】
比較例3(有機TFTの製造)
化合物(2)の代わりにNPD(下図 Ip=5.45eV Tg=95℃)を用いた以外は実施例1と全く同様に有機TFTを作製した。結果を表1に示す。
【0052】
【化7】

【0053】
【表1】

【0054】
表1よりIpが5.8未満のチャネル制御層を設けたものは移動度が向上し、特にTgが100℃以上であると100℃の高温保存での保存安定性が向上することが明確になった。比較例3では初期の移動度は高いが高温保存で大きく低下した。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上詳細に説明したように、本発明の有機TFTは、高い移動度と高い保存安定性を有するため、トランジスタとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】一般的な有機TFTの素子構成の一例を示す図である。
【図2】本発明の有機TFTの素子構成の一例を示す図である。
【図3】本発明の有機TFTの素子構成の一例を示す図である。
【図4】本発明の有機TFTの素子構成の一例を示す図である。
【図5】本発明の有機TFTの素子構成の一例を示す図である。
【図6】本発明の実施例における有機TFTの素子構成の一例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基板上にゲート電極、ソース電極及びドレイン電極の3端子、絶縁体層並びに有機半導体層が設けられ、ソース−ドレイン間電流をゲート電極に電圧を印加することによって制御する有機薄膜トランジスタであって、前記有機半導体層と前記絶縁体層の間に、イオン化ポテンシャルが5.8eV未満であり、かつ、ガラス転移温度が100℃以上である非晶質有機化合物を含むチャネル制御層を有することを特徴とする有機薄膜トランジスタ。
【請求項2】
前記チャネル制御層の膜厚が1nm〜100nmの範囲にある請求項1に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項3】
前記非晶質有機化合物がアミノ基を有する有機化合物である請求項1又は2に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項4】
前記非晶質有機化合物が縮合芳香環を有する炭化水素化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項5】
前記有機半導体層がnチャネル駆動能を有する有機半導体を含む請求項1〜4のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−81265(P2009−81265A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249132(P2007−249132)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】