説明

有機薄膜トランジスタ

【課題】本発明は、ゲート絶縁膜の絶縁耐圧を高めることができ、低電圧で動作させることができる有機薄膜トランジスタを提供することを目的とする。
【解決手段】ゲート電極20と、該ゲート電極上に形成されたゲート絶縁膜30とを有する有機薄膜トランジスタであって、
前記ゲート絶縁膜は、自己組織化単分子膜31上に高分子絶縁膜32が形成された積層構造を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜トランジスタに関し、特に、ゲート電極上にゲート絶縁膜が形成された有機薄膜トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フレキシブル化、軽量化などの視点から、有機半導体を用いたトランジスタ(有機TFT、Thin Film Transistor)の研究が盛んになっている。一般に、有機半導体を用いる場合、溶液からの塗布成膜が可能となり、各種印刷法を使った大面積プロセスを適用することができ、大幅な低コスト化が可能となる。また、低温作製プロセスであるため、プラスチックなどのフレキシブル基板を利用できると言った利点もある。
【0003】
有機TFTの応用分野は広く、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、液晶、電子ペーパー等表示デバイスをアクティブ駆動させる駆動素子として、また、RFID(Radio Frequency Identification)タグやセンサー等への応用も検討されている。しかしながら、現状の有機TFTは、移動度、動作電圧、駆動安定性において実用的なレベルに到達していない。そのため、有機半導体のみならず、素子構成、作製プロセス等、様々な角度からの改良が急務となっている。
【0004】
有機TFTは、一般的に駆動電圧が高いことが問題となっており、その動作電圧が数10V〜100V程度である特性が報告されている。実際の電子デバイスでは、ロジック回路等に用いる場合で5V以下、ディスプレイ駆動回路で20V以下の動作電圧にする必要がある。
【0005】
有機TFTの動作電圧を低くするためには、2つの方法がある。1つはゲート絶縁膜を薄くする方法で、具体的には、自己組織化単分子膜を用いる方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。かかる非特許文献1に記載の方法によれば、自己組織化単分子膜をゲート絶縁膜として用いることで、ゲート絶縁膜の膜厚を数nm程度にすることができ、ゲート容量を大きくすることができる。これにより、有機TFTの動作電圧を3V以下まで大幅に下げることが可能となる。
【0006】
もう1つの方法は、ゲート絶縁膜の誘電率を大きくする方法が挙げられる(例えば、非特許文献2参照)。かかる非特許文献2に記載の方法によれば、ゲート絶縁膜の誘電率を大きくすることで、少ない電圧でより多くの電流を流すことが可能になるため、有機TFTの動作電圧を低減することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nature, Vol.364, No. 6436, 1993年7月29日発行, p.745
【非特許文献2】Yoshiki Iino et al, "Organic Thin Film Transistors on a Plastic Substrate with Anodically Oxide High-Dielectric-Constant Insulators", Japanese Journal of Applied Physics, Vol. 42 (2003) pp. 299-304
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、有機TFTで用いられる高分子絶縁材料は、誘電率の小さな材料がほとんどであり、有機TFTの動作電圧を下げる方法は、ゲート絶縁膜の膜厚を薄くする方法にほぼ限られており、上述の非特許文献2に記載の方法は現実的ではない。
【0009】
一方、上述の非特許文献1に記載された方法のように、ゲート絶縁膜を薄くして有機TFTの動作電圧を低減した場合、絶縁耐圧が低くなるという問題があった。非特許文献1で報告されている自己組織化単分子膜を使ったゲート絶縁膜は、膜厚が数nm程度であるため、およそ4V程度の電圧で絶縁破壊を起こしてしまう。そのため、この絶縁膜は動作電圧が20V程度となるディスプレイ駆動回路の有機TFTには用いることはできないという問題があった。また、高分子絶縁材料を薄膜化して動作電圧を低減することもできるが、高分子絶縁材料の絶縁耐圧は一般的に1MV/cm程度と低いため、ディスプレイ駆動回路に用いる場合、200nm程度までしか薄膜化できないという問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、ゲート絶縁膜の絶縁耐圧を高めることができ、低電圧で動作させることができる有機薄膜トランジスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る有機薄膜トランジスタは、ゲート電極と、該ゲート電極上に形成されたゲート絶縁膜とを有する有機薄膜トランジスタであって、
前記ゲート絶縁膜は、自己組織化単分子膜上に高分子絶縁膜が形成された積層構造を有することを特徴とする。
【0012】
また、前記自己組織化単分子膜は、リン酸系自己組織化単分子膜であってもよい。
【0013】
また、前記リン酸系自己組織化単分子膜は、n−alkyl−PO(OH)(nは8以上の整数)で表される長鎖アルキル基を有してもよい。
【0014】
また、前記高分子絶縁膜は、疎水性を有する膜であってもよい。
【0015】
また、前記ゲート電極はアルミニウムで構成され、表面が酸素プラズマ処理されていてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ゲート絶縁膜の絶縁耐圧を向上させることができ、トランジスタ動作を低電圧で行わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態1に係る有機薄膜トランジスタの一例を示した断面構成図である。
【図2】実施形態1に係る有機薄膜トランジスタの製造方法の説明図である。図2(A)は、ゲート電極形成工程の一例を示した図である。図2(B)は、ゲート電極表面処理工程の一例を示した図である。図2(C)は、自己組織化単分子膜形成工程の一例を示した図である。図2(D)は、高分子ゲート絶縁膜形成工程の一例を示した図である。図2(E)は、ソース・ドレイン電極形成工程の一例を示した図である。図2(F)は、有機半導体層形成工程の一例を示した図である。
【図3】実施形態2に係る有機薄膜トランジスタの一例を示した断面構成図である。
【図4】実施形態3に係る有機薄膜トランジスタの一例を示した断面構成図である。
【図5】実施例1及び比較例1、2に係る有機薄膜トランジスタのトランジスタ特性図である。図5(A)は、実施例1及び比較例1、2に係る有機薄膜トランジスタのゲート電圧に対するドレイン電流の変化特性図である。図5(B)は、実施例1及び比較例1、2に係る有機薄膜トランジスタのゲート電圧に対するゲート電流の変化特性図である。
【図6】実施例2及び比較例3、4に係る有機薄膜トランジスタの電流電圧特性の測定結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態の説明を行う。
【0019】
〔実施形態1〕
図1は、本発明の実施形態1に係る有機薄膜トランジスタ(以下、「有機TFT」と呼んでもよいこととする。)の一例を示した断面構成図である。図1において、実施形態1に係る有機薄膜トランジスタは、絶縁基板10と、ゲート電極20と、ゲート絶縁膜30と、ソース電極40と、ドレイン電極41と、有機半導体層50とを有する。また、ゲート絶縁膜30は、自己組織化単分子膜31と、高分子ゲート絶縁膜32とを有する。
【0020】
図1において、絶縁基板10上にゲート電極20が形成され、ゲート電極20上に自己組織化単分子膜31が形成され、自己組織化単分子膜31上に高分子ゲート絶縁膜32が形成された積層構造を有している。また、ソース電極40及びドレイン電極41は、高分子ゲート絶縁膜32の表面上の、上面視的にゲート電極20の両端を覆うような位置に形成されている。また、ソース電極40とドレイン電極41との間の高分子ゲート絶縁膜32上には、有機半導体層50が形成されており、有機半導体層50は、ソース電極40とドレイン電極41の内側端部を覆っている。図1に示す構造は、ボトムゲート・ボトムコンタクト構造と呼ばれる構造である。
【0021】
絶縁基板10は、絶縁材料からなる種々の基板で構成されてよいが、例えば、石英、シリコンなどのガラス基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ナイロン、ポリカーボネート等のプラスチックフィルム等を用いることが出来る。また、表面が絶縁性処理されていれば、金属フォイル等も絶縁基板10として用いることができる。
【0022】
ゲート電極20は、実施形態1に係る有機薄膜トランジスタの入力となる電極であり、例えば、アルミニウムで構成されてよい。ゲート電極20の表面上には、自己組織化単分子膜31が形成されるが、ゲート電極20の表面は、自己組織化単分子膜31を積層形成するために、必要な表面処理が施されてよい。
【0023】
ゲート絶縁膜30は、ゲート電極20の周囲を覆ってゲート電極20を絶縁する膜である。本実施形態に係る有機薄膜トランジスタのゲート絶縁膜30は、自己組織化単分子膜31上に高分子ゲート絶縁膜32が積層形成された積層構造を有する。有機薄膜トランジスタにおいては、ゲート電極20に電圧が印加されたときに、有機半導体層50にチャネルが形成され、ソース電極40とドレイン電極41との間が導通してトランジスタ動作を行うが、ゲート絶縁膜30の絶縁耐圧が、実際の回路に要求される耐圧よりも低いと、有機薄膜トランジスタを実際の回路中のデバイスとして動作させることができない。本実施形態に係る有機薄膜トランジスタにおいては、自己組織化単分子膜31上に高分子ゲート絶縁膜32を形成する積層構造を採用することにより、ゲート絶縁膜30の絶縁耐圧を高めている。
【0024】
自己組織化単分子膜31は、絶縁基板10に特定の処理を施すと、化学反応により、有機分子が自ら1分子分だけ付着してゆくという性質を有する膜であり、このような性質を有する膜として、例えば、リン酸系の自己組織化単分子膜31が知られている。自己組織化単分子膜31は、欠陥が非常に少なく、均一性が非常に高い膜を形成することができるという利点を有する。しかしながら、厚さ方向への成長性が無く、膜厚を厚く形成することができない。よって、自己組織化単分子膜31は、厚さがほぼ一定に定まってしまい、例えば、数nm程度の厚さの膜しか形成できない。この場合、2〜3V程度の絶縁耐圧を得ることができるが、ディスプレイの駆動回路では、20Vの耐圧が要求されるため、このままでは実際の回路に用いることができない。
【0025】
そこで、本実施形態に係る有機薄膜トランジスタにおいては、自己組織化単分子膜31の上に、高分子ゲート絶縁膜32を積層形成し、ゲート絶縁膜30を構成している。高分子ゲート絶縁膜32は、ピンホール等の欠陥が多く、単体で用いると大きな絶縁耐圧を得ることができないが、自己組織化単分子膜31と異なり、厚さ方向に成長させて成膜することが可能であり、膜の厚さを制御することができるという利点を有する。よって、自己組織化単分子膜31の上に必要な厚さで成膜することにより、ゲート絶縁膜30全体の絶縁耐圧を向上させることができる。例えば、数nmの自己組織化単分子膜31の上に、数10nm、例えば50nm程度の厚さの高分子ゲート酸化膜32を積層形成することにより、5〜10V程度の耐圧を有するゲート酸化膜30を構成することが可能である。よって、ゲート電極20上に自己組織化単分子膜31を形成した後、高分子ゲート絶縁膜32を、厚さを調整して形成することにより、所望の耐圧のゲート絶縁膜30を構成することができる。
【0026】
このように、本実施形態に係る有機薄膜トランジスタにおいては、ゲート絶縁膜30を、自己組織化単分子膜31と高分子ゲート絶縁膜32との積層構造とすることにより、所望の絶縁耐圧を得ることができる。
【0027】
なお、自己組織化単分子膜31は、自己組織化の性質を有する種々の膜を用いることができるが、例えば、リン酸系自己組織化単分子膜を用いる場合には、ゲート電極20をアルミニウムで構成することが好ましい。ゲート電極20の上に形成されるリン酸系の自己組織化単分子膜31は、Al表面にある酸化膜Alと最も結合し易く、相性が良いからである。なお、アルミニウムのゲート電極20は、種々の方法で形成されてよい。
【0028】
高分子ゲート絶縁膜32は、種々の高分子ポリマー絶縁膜で構成されてよい。高分子ゲート絶縁膜32に用いる材料は、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリビニルフェノール(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、サイトップ、テフロン(登録商標)などの絶縁性高分子を用いることができる。
【0029】
なお、自己組織化単分子膜31と高分子ゲート絶縁膜32は、両者の密着度が高くなるような材料の組み合わせを選択することが好ましい。例えば、リン酸系の自己組織化単分子膜31は撥水性を有するので、高分子ゲート絶縁膜32には、疎水性を有する溶媒を選択する必要がある。この場合、例えば、高分子ゲート絶縁膜32に、疎水性のあるフッ素系の膜を用いることにより、適切に積層構造のゲート絶縁膜30を構成することができる。
【0030】
ソース電極40及びドレイン電極41は、有機薄膜トランジスタの出力電極であり、種々の材料から構成することができる。ソース電極40及びドレイン電極41の材料としては、例えば、金、銀、ニッケルなどの金属コロイド粒子を分散させた溶液若しくは銀などの金属粒子を導電材料として用いたペーストが挙げられる。また、例えば、金属や合金、透明導電膜材料を、全面にスパッタ法や蒸着法等によって成膜後、レジスト材料を用い、フォトリソグラフィ法やスクリーン印刷法で所望のレジストパターンを形成した後、酸等のエッチング液でエッチングすることにより所望のパターンを形成することができる。また、金属や合金、透明導電膜材料を、マスクを用いてスパッタ法や蒸着法で直接所望のパターンを形成することもできる。これらスパッタ法や蒸着法に使用できる金属材料としては、アルミニウム、モリブデン、クロム、チタン、タンタル、ニッケル、銅、銀、金、白金、パラジウム等が、透明導電膜材料としてはITO等が挙げられる。
【0031】
有機半導体層50は、トランジスタ動作時にチャネルを形成するアクティブ半導体領域であり、有機半導体膜から構成される。有機半導体層50は、種々の材料から構成されてよいが、例えば、ペンタセンやアントラセン、ルブラン等の多環芳香族炭化水素、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)等の低分子化合物、ポリアセチレンやポリ−3−ヘキシルチオフェン(PHT)、ポリパラフェニレンビニレン(PPV)等のポリマー等を用いてもよい。
【0032】
なお、図1においては示していないが、本実施形態に係る有機薄膜トランジスタは、必要に応じて、封止層、遮光層等を設けるようにしてもよい。
【0033】
次に、図2を用いて、本発明の実施形態1に係る有機薄膜トランジスタの製造方法について説明する。図2は、実施形態1に係る有機薄膜トランジスタの製造方法を説明するための図である。なお、図2においては、自己組織化単分子膜31のリン酸系自己組織化単分子膜を用いた例を挙げて説明する。
【0034】
図2(A)は、ゲート電極形成工程の一例を示した図である。ゲート電極形成工程においては、絶縁基板10上にゲート電極20を成膜する。ゲート電極20の上に形成されるリン酸系の自己組織化単分子膜31は、Al表面にある酸化膜Alと最も結合しやすいため、ゲート電極20にAlを用いる必要がある。よって、ゲート電極20はAlで構成する。なお、ゲート電極20の形成方法は問わない。
【0035】
図2(B)は、ゲート電極表面処理工程の一例を示した図である。ゲート電極表面処理工程においては、ゲート電極20を酸素プラズマにより表面酸化させる。具体的には、ゲート電極20となるアルミを成膜した後、そのアルミ電極表面を酸素プラズマ処理することで非常に薄いアルミナ層を形成する。なお、プラズマによる表面酸化処理は、ゲート電極20及び絶縁基板10を含む全面に行われてよい。
【0036】
図2(C)は、自己組織化単分子膜形成工程の一例を示した図である。自己組織化単分子膜形成工程においては、プラズマ処理したゲート電極20上にアルキル鎖長が炭素数14のリン酸表面処理剤を用いて、自己組織化単分子膜31を形成する。つまり、ゲート電極表面所定工程で形成されたアルミナ層を、リン酸系の自己組織化単分子膜で表面処理することで、リン酸系自己組織化膜と反応し、この単分子膜がアルミナ層上に形成される。リン酸系の自己組織化単分子膜31の分子構造は問わないが、アルキル鎖長が炭素数8以上のリン酸処理剤を用いたほうが効果的である。また、自己組織化単分子膜31を形成した後の表面の濡れ性を制御するために、アルキル鎖の末端構造を変化させたリン酸処理剤も用いることができる。例えば、リン酸系の自己組織化単分子膜31は、n−alkyl−PO(OH)(nは8以上の整数)で表されるリン酸処理剤を用いてよい。
【0037】
図2(D)は、高分子ゲート絶縁膜形成工程の一例を示した図である。高分子ゲート絶縁膜形成工程においては、自己組織化単分子膜31が形成されたゲート電極20上に高分子ゲート絶縁材料を塗布し、高分子ゲート絶縁膜32を形成する。これにより、ゲート絶縁膜30が完成する。
【0038】
図2(E)は、ソース・ドレイン電極形成工程の一例を示した図である。ソース・ドレイン電極形成工程においては、ゲート絶縁膜30の高分子ゲート絶縁膜32上に、ソース電極40及びドレイン電極41が形成される。ソース電極40及びドレイン電極41は、ゲート電極20の中央領域は開口部となるように、ゲート電極20の両端部の上方に形成され、ゲート電極20の両端部と一部重なるような位置に形成される。なお、ソース電極40とゲート電強41は、同じ材料から構成されているので、ソース電極40とドレイン電極41が入れ替わって形成されてもよい。ソース電極40及びドレイン電極41の形成方法や材料は問わない。例えば、フォトリソグラフィ法やディスペンサ法の他、スクリーン印刷法、インクジェット法、フレキソ印刷法、反転オフセット印刷法等の印刷法により形成されてもよい。上述のように、スパッタ法や蒸着法を用いて成膜し、その後にフォトリソグラフィやスクリーン印刷により所定のパターンを形成してもよいし、マスクを用いてスパッタ法や蒸着法により所定のパターンに成膜して構成してもよい。用いる材料は、図1において説明した通り、種々の材料を用いることができる。
【0039】
図2(F)は、有機半導体層形成工程の一例を示した図である。有機半導体層形成工程においては、ソース電極40及びドレイン領域41の開口部にあり、高分子ゲート絶縁膜32が露出した部分に、有機半導体膜が形成される。有機半導体層50の形成方法は問わず、種々の方法により形成されてよい。有機半導体層50は、高分子ゲート絶縁膜32上に形成されるとともに、ソース電極40とドレイン電強41の各々の開口部側端部を覆うように形成される。有機半導体層50も、図1において説明した通り、種々の材料から構成されてよい。
【0040】
例えば、このような工程で、実施形態1に係る有機薄膜トランジスタが製造される。真空プロセスも要せず、低温度でのプロセスで済むので、簡素な工程で低電圧動作可能な有機薄膜トランジスタを製造することができる。
【0041】
〔実施形態2〕
図3は、本発明の実施形態2に係る有機薄膜トランジスタの一例を示した断面構成図である。実施形態2に係る有機薄膜トランジスタは、絶縁基板10と、ゲート電極20と、ゲート絶縁膜30とを備え、これらが下から順に積層されて構成されている点は、実施形態1に係る有機薄膜トランジスタと同様である。また、ゲート絶縁膜30が、自己組織化単分子膜31上に高分子ゲート絶縁膜32が積層形成された構成となっている点も、実施形態1に係る有機薄膜トランジスタと同様である。よって、これらの構成要素には、実施形態1と同一の参照符号を付し、その説明を省略する。
【0042】
実施形態2に係る有機薄膜トランジスタは、高分子ゲート絶縁膜32上の全面に有機半導体層51が形成され、有機半導体層51の上にソース領域42及びドレイン領域43が形成されている点で、実施形態1に係る有機薄膜トランジスタと異なっている。
【0043】
実施形態2に係る有機薄膜トランジスタは、ボトムゲート・トップコンタクト構造と呼ばれている構造を有している。このように、本発明に係る有機薄膜トランジスタは、ゲート電極20上にゲート絶縁膜30が形成されている構成を有していれば、トップコンタクト構造に構成されてもよい。この場合であっても、ゲート電極20上に自己組織化単分子膜31が形成され、自己組織化単分子膜31上に高分子ゲート絶縁膜32が形成された積層構造を有するので、ゲート絶縁膜30絶縁耐圧を向上させ、低電圧で動作可能な有機薄膜トランジスタを構成することができる。
【0044】
なお、ソース電極40とドレイン電強41は、厚さ方向の形成位置は有機半導体層50の上であり、実施形態1と異なるが、上面視的な位置は、ゲート電極20の両端部を覆うような位置である点で、実施形態1に係る有機薄膜トランジスタと同様である。
【0045】
実施形態2に係る有機薄膜トランジスタの製造方法については、図2(E)で説明したソース・ドレイン電極形成工程と、図2(F)で説明した有機半導体層形成工程の順序を入れ替え、有機半導体層形成工程において、高分子ゲート絶縁膜32の全面に有機半導体層51を形成すればよく、他の工程は、実施形態1に係る有機薄膜トランジスタの製造方法と同様であるので、その説明を省略する。
【0046】
実施形態2に係る有機薄膜トランジスタによれば、ボトムゲート・トップコンタクト構造の有機薄膜トランジスタにおいても、ゲート絶縁膜30の絶縁耐圧を向上させ、トランジスタ動作を低電圧で行うことができる。
【0047】
〔実施形態3〕
図4は、本発明の実施形態3に係る有機薄膜トランジスタの一例を示した断面構成図である。図4において、実施形態3に係る有機薄膜トランジスタは、絶縁基板10上にゲート電極20が形成され、ゲート電極20上に自己組織化単分子膜31が形成され、自己組織化単分子膜31上に高分子ゲート絶縁膜32が形成されている点で、実施形態1及び2に係る有機薄膜トランジスタと同様である。よって、これらの構成要素には、実施形態1及び2に係る有機薄膜トランジスタと同一の参照符号を付し、その説明を省略する。
【0048】
実施形態3に係る有機薄膜トランジスタにおいては、ゲート絶縁膜30の高分子ゲート絶縁膜32の上にドレイン電極45及び有機半導体層52が形成され、有機半導体層52の上方にソース電極44が形成されている点で、実施形態1及び2に係る有機薄膜トランジスタと異なっている。なお、ソース電極44及びドレイン電極45の上面視的な位置は、ゲート電極20の両端部を覆うような配置である点で、実施形態1及び2に係る有機薄膜トランジスタと同様である。なお、ソース電極44とドレイン電極45の位置が入れ替わっていてもよい点は、実施形態1及び2に係る有機薄膜トランジスタと同様である。
【0049】
実施形態3に係る有機薄膜トランジスタは、トップ&ボトムコンタクト構造と呼ばれる構造であり、本発明に係る有機薄膜トランジスタは、このようなトップ&ボトムコンタクト構造に構成されてもよい。実施形態3に係る有機薄膜トランジスタにおいても、ゲート電極20上にゲート絶縁膜30が形成され、ゲート絶縁膜30は、ゲート電極20上に形成された自己組織化単分子膜31と、自己組織化単分子膜31上に形成された高分子ゲート絶縁膜32の積層構造を有するので、ゲート絶縁膜30の絶縁耐圧を向上させ、低電圧でのトランジスタ動作が可能となる。
【0050】
実施形態3に係る有機薄膜トランジスタの製造方法は、図2(E)で説明したソース・ドレイン電極形成工程と、図2(F)で説明した有機半導体層形成工程の順序を入れ替え、ドレイン電極45を形成してから有機半導体層52を形成し、最後にソース電極44を形成すればよい。その他の工程は、実施形態1及び2と同様であるので、その説明を省略する。
【0051】
このように、実施形態1乃至3で説明したように、本発明に係る有機薄膜トランジスタは、ゲート電極20上にゲート絶縁膜30が形成されたボトムゲート構造を有すれば、種々の構造の有機薄膜トランジスタに適用することができる。
【0052】
次に、本発明の実施例に係る有機薄膜トランジスタについて説明する。本実施例に係る有機薄膜トランジスタにおいては、有機半導体層51に低分子半導体であるペンタセンを用いて、図3に示した実施形態2に係るボトムコンタクト構造の有機薄膜トランジスタを作製し、比較例に係る有機薄膜トランジスタと特性比較を行った。なお、以下の各実施例において、実施形態2に係る有機薄膜トランジスタと同様の構成要素については、同一の参照符号を付し、その説明を省略する。
【0053】
〔実施例1〕
本発明の実施例1に係る有機薄膜トランジスタは、以下のようにして作製した。まず、絶縁基板10としてガラス基板を用い、この絶縁基板10上にゲート電極20となるAlを、真空蒸着法で30nmの膜厚になるよう成膜した。この絶縁基板10をプラズマ処理装置(サムコ製:PC300)にセットし、300Wで10分間、酸素プラズマ処理を行った。その絶縁基板10を、イソプロピルアルコールを溶媒に用いたリン酸系処理剤(溶液)に数時間浸漬させることで、リン酸系の自己組織化単分子膜31を形成した。
【0054】
次に、ゲート絶縁膜材料としてテフロン(登録商標)AF1600(三井・デュポンフルオロケミカル製)をスピンコート法により成膜した後、90℃で30分、120℃で2時間、順にホットプレート上でベークし、膜厚50nmの高分子ゲート絶縁膜32を形成した。
【0055】
高分子ゲート絶縁膜32まで形成した絶縁基板10を、真空蒸着装置にセットし、ペンタセンを50nm成膜し、有機半導体層50を形成した。
【0056】
その上にAuを30nmの膜厚になるようマスク蒸着で成膜し、ソース電極42及びドレイン電極43を形成した。
【0057】
〔比較例1〕
実施例1と同様の作製方法で、自己組織化単分子膜31まで形成した絶縁基板10上に、高分子ゲート絶縁膜32を成膜せず、有機半導体層51とソース電極42及びドレイン電極43を形成した有機薄膜トランジスタを比較例1とした。有機半導体層51とソース電極42及びドレイン電極43の形成法は実施例1と同様である。
【0058】
なお、比較例1は、高分子ゲート絶縁膜32が存在せず、実施形態2とは対応していないが、理解の容易のため、対応する構成要素については、実施形態2と同様の参照符号を付すものとする。この点は、以下の比較例においても同様とする。
【0059】
〔比較例2〕
実施例1と同様の作製方法で、ゲート電極20まで形成した絶縁基板10上に、自己組織化単分子膜31を形成せずに、高分子ゲート絶縁膜32、有機半導体層51とソース電極42及びドレイン電極43を形成した有機薄膜トランジスタを比較例2とした。高分子ゲート絶縁膜32、有機半導体層51、ソース電極42及びドレイン電極43の形成法は実施例1と同様である。
【0060】
〔実施例2〕
実施例2においては、絶縁耐圧を測定するための素子を作成した。実施例1と同様の方法で高分子ゲート絶縁膜32まで形成した絶縁基板10上に、30nmの膜厚のAl電極を成膜した。絶縁基板10の上に成膜された第1のAl層(ゲート電極20に相当)と、最後に成膜された第2のAl層とが重なる面積は0.09cmである。
【0061】
〔比較例3〕
比較例1と同様の方法で自己組織化単分子膜31まで形成した絶縁基板10上に、30nmの膜厚のAl電極を成膜した。絶縁基板10の上に成膜された第1のAl層(ゲート電極20に相当)と最後に成膜された第2のAl層とが重なる面積は0.09cmである。
【0062】
〔比較例4〕
比較例2と同様の方法で高分子ゲート絶縁膜32まで形成した絶縁基板10上に、30nmの膜厚のAl電極を成膜した。絶縁基板10の上に成膜された第1のAl層(ゲート電極20に相当)と最後に成膜された第2のAl層とが重なる面積は0.09cmである。
【0063】
図5は、実施例1及び比較例1、2に係る有機薄膜トランジスタのトランジスタ特性を示した図である。図5(A)は、実施例1及び比較例1、2に係る有機薄膜トランジスタのゲート電圧に対するドレイン電流の変化特性を示した図である。図5(A)において、実施例1、比較例1及び比較例2に係る有機薄膜トランジスタの特性曲線がそれぞれ示されている。なお、実施例1及び比較例1、2に係る有機薄膜トランジスタは、Pチャネル型であり、ゲート電極20に負電圧を印加して駆動する。図5(A)の各特性曲線において、極小値より右側がトランジスタオフ状態を示し、左側がトランジスタオン状態を示している。また、ここでの説明は、極性を無視して、電圧の低い、高いは絶対値の高低を意味するものとする。
【0064】
図5(A)に示されるように、比較例1に係る自己組織化単分子膜をゲート絶縁膜に用いた有機薄膜トランジスタは、動作電圧は低いが、4V程度で絶縁破壊を起こした。また、実施例1の特性と比較例2の特性とを比較すると、実施例1の特性曲線の極小値が、比較例3の特性曲線の極小値よりも小さくなっている。これは、実施例1に係る有機薄膜トランジスタが、比較例2に係る有機薄膜トランジスタに比べて、オフ電流が低くリーク電流が少ない特性であることを示している。また、実施例1に係る有機薄膜トランジスタの方が、やや低い電圧でトランジスタを駆動できていることが分かる。
【0065】
図5(B)は、実施例1及び比較例1、2に係る有機薄膜トランジスタのゲート電圧に対するゲート電流の変化特性を示した図である。図5(B)において、各特性曲線のゲート電流の変化を比較すると、比較例2と比べて実施例1の有機薄膜トランジスタは、流れる電流量が少ないことから、リーク電流が低いことを示している。また、比較例1に係る有機薄膜トランジスタは、やはり低い電圧で絶縁破壊が発生している。このことから、本発明に示した、リン酸系自己組織化単分子膜31と高分子膜からなる積層のゲート絶縁膜32を用いることで、有機薄膜トランジスタの動作電圧を低減し、かつ高い絶縁耐圧を得ることができることを実証することができた。
【0066】
図6は、実施例2及び比較例3、4に係る有機薄膜トランジスタの電流電圧特性の測定結果を示した図である。比較例3の素子は、4V程度で絶縁破壊を起こした。実施例2と比較例4の素子を比較すると、実施例2の特性の方が、同じ電圧でも1桁以上電流が少なく、実施例2に係る有機薄膜トランジスタの絶縁特性の方が優れていることがわかる。また、絶縁破壊が起こる電圧も、実施例2の素子の方が10V程度高くなっており、このことからも、絶縁耐圧が向上していることを示している。以上の結果から、自己組織化単分子膜31によってゲート電極20を表面処理することが、高分子ゲート絶縁膜32の絶縁耐圧を高めることに効果的であることが分かる。
【0067】
このように、本発明に係る有機薄膜トランジスタによれば、絶縁ゲート30の絶縁耐性を高め、低い電圧でトランジスタ動作を行うことができる。
【0068】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳説したが、本発明は、上述した実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、トランジスタ及びトランジスタを用いた種々の電子回路に利用することができる。
【符号の説明】
【0070】
10 絶縁基板
20 ゲート電極
30 ゲート絶縁膜
31 自己組織化単分子膜
32 高分子ゲート絶縁膜
40、42、44 ソース電極
41、43、45 ドレイン電極
50、51、52 有機半導体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲート電極と、該ゲート電極上に形成されたゲート絶縁膜とを有する有機薄膜トランジスタであって、
前記ゲート絶縁膜は、自己組織化単分子膜上に高分子絶縁膜が形成された積層構造を有することを特徴とする有機薄膜トランジスタ。
【請求項2】
前記自己組織化単分子膜は、リン酸系自己組織化単分子膜であることを特徴とする請求項1に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項3】
前記リン酸系自己組織化単分子膜は、n−alkyl−PO(OH)(nは8以上の整数)で表される長鎖アルキル基を有することを特徴とする請求項2に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項4】
前記高分子絶縁膜は、疎水性を有する膜であることを特徴とする請求項2又は3に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項5】
前記ゲート電極はアルミニウムで構成され、表面が酸素プラズマ処理されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の有機薄膜トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−169419(P2012−169419A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28544(P2011−28544)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】