説明

有機EL用蒸着マスククリーニング装置、有機ELディスプレイの製造装置および有機EL用蒸着マスククリーニング方法

【課題】有機EL用蒸着マスクのクリーニングを行うときに、有機EL用蒸着マスクに応じた適切なエネルギーを設定することを目的とする。
【解決手段】有機材料が付着した有機EL用蒸着マスク2の表面に対してレーザ光Lを走査して有機材料を剥離するレーザ走査手段4と、有機EL用蒸着マスク2のうち一部の領域にレーザ光Lをテスト走査させるレーザ制御部55と、有機EL用蒸着マスク2のうちテスト走査を行った部位の有機材料が剥離されたか否かを検出する画像処理部52と、画像処理部52の検出結果に基づいて、有機EL用蒸着マスク2に照射されるレーザ光Lの照射条件を補正する電流補正部53およびフォーカス補正部54と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL用蒸着マスクにレーザ光を走査してクリーニングを行うための有機EL用蒸着マスククリーニング装置、有機ELディスプレイの製造装置および有機EL用蒸着マスククリーニング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイは、バックライトを必要としない低消費電力・軽量薄型の画像表示装置として多く利用されている。その構造としては、透明性のガラス基板上に有機EL薄膜層を積層しており、有機EL薄膜層は発光層を正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層及び陽極層と陰極層とにより挟み込む構造を採用している。発光層はガラス基板上に有機材料を蒸着させて薄膜として形成するものが多く用いられており、ディスプレイを構成する各画素の領域を3分割してRGBの3色の有機材料を蒸着させている。従って、各画素の3つの領域に異なる色の有機材料(有機色素材料)を蒸着させるために多数の開口部を形成した有機EL用蒸着マスク(シャドーマスク)を用いて蒸着を行う。この有機EL用蒸着マスクを画素ピッチ分ずつずらしながら、各色の有機材料を蒸着させていくことにより、発光層の蒸着プロセスが完了する。
【0003】
蒸着プロセスを行うときには、ガラス基板だけではなく有機EL用蒸着マスクにも有機材料が付着する。有機EL用蒸着マスクは1回の蒸着プロセスだけに使用されるのではなく繰り返し使用されることから、次の蒸着プロセスを行うときに有機EL用蒸着マスクに有機材料が付着していると、新たなガラス基板に付着していた有機材料が転写して汚損させる。また、有機EL用蒸着マスクに多数形成した開口部のエッジ部分にも有機材料が蒸着して、開口部の面積を部分的にまたは全面的に閉塞させる。開口部の全部を塞いだ場合はもちろん、部分的に塞ぐことにより蒸着時の障害(影またはシャドウ)となり、当該有機EL用蒸着マスクを用いた場合の蒸着品質は著しく低下し、また使用に耐え得るものではなくなる。従って、有機EL用蒸着マスクを定期的に(好ましくは、1つの蒸着プロセスを完了した後に)クリーニングして、有機材料の除去を行っている。
【0004】
有機EL用蒸着マスクのクリーニングとしては、有機物を溶解させる洗浄液を用いたり、界面活性剤等を用いたウェットクリーニングが主に行われている。ウェットクリーニングは有機EL用蒸着マスクに対して液体を供給して行うクリーニングである。しかし、クリーニングされる有機EL用蒸着マスクは一般に厚さがミクロンオーダー(10〜50μm程度)の極薄の金属板であり、ウェットクリーニング時に液圧や洗浄促進のための超音波と加熱とが作用することにより歪みや変形等の大きなダメージが有機EL用蒸着マスクに与えられる。また、界面活性剤等の薬液を用いてウェットクリーニングを行うと、薬液供給機構および使用済みの薬液(排液)を処理する排液処理機構を要するため機構が複雑化し、また排液による環境汚染の問題もある。さらに、近年、有機EL用蒸着マスクが大型化しており、この場合、洗浄液を多量に使用することになり、ランニングコストも増大する。
【0005】
一方、ウェットクリーニングを用いないクリーニングとして、有機EL用蒸着マスクに対してレーザ光を照射して行うクリーニング(レーザクリーニング)に関する技術が特許文献1に開示されている。金属素材の有機EL用蒸着マスクにレーザ光を照射することにより、有機EL用蒸着マスクと有機材料との間に剥離力を作用させている。特許文献1の技術は、この剥離力により有機EL用蒸着マスクから有機材料を除去してクリーニングを行うものである。そして、有機EL用蒸着マスクには粘着性のフィルムを貼り付けており、剥離した有機材料を粘着フィルムに転写させることで、クリーニングプロセスを行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−169573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
有機EL用蒸着マスクに与えるダメージを軽減するために、ウェットクリーニング等を用いるのではなく、特許文献1に開示されているようなレーザクリーニングを用いることが望ましい。ただし、レーザクリーニングは有機EL用蒸着マスクに対してレーザ光を走査して行うクリーニングであるため、レーザ光が過剰なエネルギーを有する場合には、有機EL用蒸着マスクに対してダメージが与えられる。
【0008】
つまり、レーザ光が持つエネルギーを有機EL用蒸着マスクに作用させることにより熱を発生させて有機材料を剥離するようにしている。このため、レーザ光の過剰なエネルギーが有機EL用蒸着マスクに作用すると、熱により有機EL用蒸着マスクが歪みや変形等を生じて復元不能なダメージを受ける。有機EL用蒸着マスクは繰り返し使用されることからクリーニングを行う必要があるが、復元不能なダメージを受けることにより有機EL用蒸着マスクの再利用を図ることができなくなる。
【0009】
一方、有機材料は有機EL用蒸着マスクにある程度の付着力をもって密着しており、有機EL用蒸着マスクへのダメージ回避のためにレーザ光のエネルギーを過剰に低くすると、有機材料と有機EL用蒸着マスクとの間に十分な剥離力を作用させることができなくなる。これにより、有機EL用蒸着マスクには依然として有機材料が残存してしまい、レーザクリーニングとしては不十分になる。
【0010】
従って、有機EL用蒸着マスクを走査するレーザ光には有機EL用蒸着マスクに復元不能なダメージを与えることがなく、且つ有機材料を剥離するような適切なエネルギーを持たせなくてはならない。ただし、有機EL用蒸着マスクを走査するレーザ光のエネルギーは種々の要因によって変化する。例えば、有機EL用蒸着マスクの素材や厚み、開口部のパターン等によって変化し、有機材料の物質や膜厚等によっても変化する。特に、膜厚は有機EL用蒸着マスクごとに変化するため、予め適切なエネルギーを設定することは難しい。
【0011】
そこで、本発明は、有機EL用蒸着マスクのクリーニングを行うときに、有機EL用蒸着マスクに応じた適切なエネルギーを設定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以上の課題を解決するため、本発明の請求項1の有機EL用蒸着マスククリーニング装置は、有機材料が付着した有機EL用蒸着マスクの表面に対してレーザ光を走査して前記有機材料を剥離するレーザ走査手段と、前記有機EL用蒸着マスクの少なくとも一部の領域に前記レーザ光をテスト走査させるレーザ制御手段と、前記有機EL用蒸着マスクのうち前記テスト走査を行った部位の有機材料が剥離されたか否かを検出する剥離検出手段と、前記剥離検出手段の検出結果に基づいて、前記有機EL用蒸着マスクに照射される前記レーザ光の照射条件を補正するレーザ補正手段と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
この有機EL用蒸着マスククリーニング装置によれば、レーザ光の照射条件(エネルギー)を補正してテスト走査しており、有機材料が剥離された否かの検出結果に基づいてレーザ光のエネルギーを補正している。これにより、どの程度のエネルギーをレーザ光が有していれば有機材料を剥離することができるかを認識することができ、有機EL用蒸着マスクに応じた適切なエネルギーを設定することができるようになる。
【0014】
本発明の請求項2の有機EL用蒸着マスククリーニング装置は、請求項1記載の有機EL用蒸着マスククリーニング装置であって、前記レーザ補正手段は、前記有機EL用蒸着マスクに照射されるレーザ光のエネルギー密度を前記有機材料が剥離されないエネルギーから開始して、前記有機材料が剥離されるエネルギー密度まで段階的に上昇させる補正を行うことを特徴とする。
【0015】
この有機EL用蒸着マスククリーニング装置によれば、レーザ光に有機材料を剥離することができないエネルギーを予め持たせておき、段階的に上昇させる補正を行っている。これにより、有機材料が剥離されないエネルギー密度から剥離されるエネルギー密度への切り替わりを検出することができるため、有機EL用蒸着マスクに与えるダメージを最小限に抑制しつつ、有機材料を剥離することができるようになる。
【0016】
本発明の請求項3の有機EL用蒸着マスククリーニング装置は、請求項2記載の有機EL用蒸着マスククリーニング装置であって、前記剥離検出手段は、前記テスト走査を行った部位のうち少なくとも一部の画像を撮影する撮影手段と、撮影した画像の残査割合を検出する画像処理を行って、残査割合に基づいて有機材料が剥離されたか否かを検出する画像処理手段と、を備えていることを特徴とする。
【0017】
この有機EL用蒸着マスククリーニング装置によれば、有機材料が剥離されたか否かを残査割合に基づいて検出している。この残査割合は有機EL用蒸着マスクに付着する有機材料が付着しているときと付着していないときとで撮影手段が撮影したときの光量差を画像処理によって検出する。この光量差を利用することにより、容易に剥離されているか否かを検出できるようになる。
【0018】
本発明の請求項4の有機EL用蒸着マスククリーニング装置は、請求項2記載の有機EL用蒸着マスククリーニング装置であって、前記レーザ補正手段は、前記レーザ光を発振するレーザ光源に対して供給する電流を上昇させる補正と前記レーザ光のデフォーカス量を小さくする補正とを行うことを特徴とする。
【0019】
この有機EL用蒸着マスククリーニング装置によれば、電流とデフォーカス量とでレーザ光のエネルギーを補正している。電流によるエネルギーの補正幅は細かく、デフォーカス量によるエネルギーの補正幅は大きくなる。従って、これらを組み合わせて補正することにより、レーザ光のエネルギーの補正を細かく且つ広範囲に行うことができるようになる。
【0020】
本発明の請求項5の有機ELディスプレイの製造装置は、請求項1乃至4の何れか1項に記載の有機EL用蒸着マスククリーニング装置を備えたことを特徴とする。
【0021】
有機ELディスプレイは、有機EL用蒸着マスクを用いてガラス基板に有機材料を蒸着させており、このときに使用される有機EL用蒸着マスクを洗浄する有機EL用蒸着マスククリーニング装置は有機ELディスプレイの製造装置の一部を構成する。従って、前述してきた有機EL用蒸着マスククリーニング装置は有機ELディスプレイの製造装置に適用することができる。
【0022】
本発明の請求項6の有機EL用蒸着マスククリーニング方法は、有機材料が付着した有機EL用蒸着マスクに対して前記有機材料が剥離されないエネルギーのレーザ光を照射し、少なくとも前記レーザ光を照射した部位の一部の画像を撮影して、撮影した画像の画像処理を行い、前記画像情報に基づいて有機材料が剥離されたか否かを検出し、前記有機材料が剥離されていないことが検出されたときには、レーザ光のエネルギーを段階的に上昇させてテスト走査を行い、前記有機材料が剥離されたことを検出したときに、前記レーザ光のエネルギーの設定を確定して、当該設定で前記有機EL用蒸着マスクのレーザクリーニングを行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、有機EL用蒸着マスクに照射されるレーザ光のエネルギーを変化させてテスト走査を行い、有機材料が剥離されているか否かを検出して、検出結果に基づいてレーザ光のエネルギーを補正している。これにより、有機EL用蒸着マスクに付着した有機材料を剥離するためのレーザ光に適切なエネルギーの設定を行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】有機EL用蒸着マスククリーニング装置の外観図である。
【図2】有機EL用蒸着マスクの側面図および平面図である。
【図3】レーザ光の補正や制御を行うコンピュータの構成を示すブロック図である。
【図4】処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】テスト走査の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1において、本発明の有機EL用蒸着マスククリーニング装置(レーザ光により有機EL用蒸着マスクの表面をレーザクリーニングする装置)は洗浄ステージ(クリーニングステージ)を構成しており、ベース1と有機EL用蒸着マスク2とマスク保持部材3とレーザ走査手段4と撮影手段5と搬送空気流形成手段6とマスク移動手段7とを備えて概略構成している。
【0026】
ベース1は有機EL用蒸着マスククリーニング装置の各要素を取り付けるための基台となっている。なお、図1において、X方向とY方向とは水平面上の相互に直交する2方向になっており、Z方向は垂直方向である。そして、Z方向の矢印が示す方向が上方になり、反対側が下方になる。従って、重力は矢印反対方向に作用する。
【0027】
有機EL用蒸着マスク2は洗浄ステージで洗浄される被洗浄体である。図2に示すように、有機EL用蒸着マスク2は有機ELディスプレイを構成するガラス基板20に発光層としての有機材料を蒸着してパターン形成を行うために用いられる極薄の金属板である。ガラス基板20に高精度に有機材料を蒸着させるために、有機EL用蒸着マスク2の厚みは10〜50μm程度の極薄の金属板が用いられる。そして、有機ELディスプレイの大型化に伴い、有機EL用蒸着マスク2のサイズも大型になり、このため有機EL用蒸着マスク2は極薄且つ大型の金属板になる。
【0028】
有機EL用蒸着マスク2は主にマスク本体21から構成されており、マスク本体21は規則的に微小な開口部(30μm×80μm程度)22を多数形成したマスク金属板(シャドーマスク)である。有機EL用蒸着マスク2の素材としては種々の金属を用いることができるが、例えばニッケル系の合金(インバー)や42アロイ等を用いることができる。有機EL用蒸着マスク2は、発光層の有機材料を蒸着する図示しない真空蒸着槽の蒸着ステージにおいてガラス基板20に密着させた状態で、蒸着源から有機材料を蒸着させるようにしている。
【0029】
有機材料は発光性の有機色素材料であり、例えばAlqやIr(ppy)3、α―NPD等の任意の材料を適用することができる。蒸着源から蒸発した有機材料は、有機EL用蒸着マスク2の開口部22からガラス基板20に蒸着する。これにより、ガラス基板20の画素に対応する領域に発光層としての有機材料が蒸着してパターンが形成される。有機EL用蒸着マスク2は大型且つ極薄の金属板であるため、図2に示すように、その周囲に保形性を持たせるためのマスクフレーム23を取り付けている。マスクフレーム23は金属素材であってもよいし、金属以外の素材であってもよい。
【0030】
有機EL用蒸着マスク2を用いて1回の蒸着プロセスを行うと、ガラス基板20だけではなく有機EL用蒸着マスク2にも有機材料が付着する。蒸着プロセスは繰り返し行われることから、有機EL用蒸着マスク2に付着した有機材料のクリーニングが所定のタイミングで行われる。有機EL用蒸着マスククリーニング装置が配置されている洗浄槽とガラス基板20に蒸着を行う真空蒸着槽とは別個独立に設けられているため、有機EL用蒸着マスククリーニング装置を行うときには有機EL用蒸着マスク2が真空蒸着槽から洗浄槽内に移行される。
【0031】
図1に示すように、有機EL用蒸着マスク2は垂直方向に立てた状態(有機EL用蒸着マスク2の表面の法線方向が水平面方向)で保持されている。マスク保持部材3には有機EL用蒸着マスク2と同程度或いはそれよりも大きなサイズを持たせている。そして、例えば背面からマスク全面を多数のマグネットで有機EL用蒸着マスク2を引き付け、有機EL用蒸着マスク2を満遍なく均一にマスク保持部材3に密着させて行う。有機EL用蒸着マスク2は寝かせた状態(有機EL用蒸着マスク2の表面の法線方向が垂直方向)または傾斜した状態で保持するものであってもよい。
【0032】
レーザ走査手段4について説明する。レーザ走査手段4はレーザ光源41とガルバノミラー42とガルバノ駆動部43とを備えて概略構成している。レーザ光源41はレーザ光Lを発振する光源になっている。ここでは、レーザ光源41はパルスレーザを発振するようにしている。レーザ光源41には非常に時間幅の短いパルスが入力されており、当該パルスに同期して間欠的にレーザ光Lを発振している。従って、パルスの時間幅(パルス幅)または下記のガルバノミラー42のスキャン速度と周波数とを調整することにより、有機EL用蒸着マスク2における隣接するレーザ光Lのスポットの間隔を調整することができる。
【0033】
レーザ光源41はZ方向下方に向けてレーザ光Lが照射されるように配置されており、レーザ光の入射位置にガルバノミラー42を配置している。ガルバノミラー42はレーザ光Lを走査させる反射ミラーであり、ミラーを高速に微小運動させることにより、レーザ光Lの照射方向が変化する。これにより、有機EL用蒸着マスク2にレーザ光Lが走査される。レーザ光Lの走査は有機EL用蒸着マスク2の所定エリア(クリーニングエリア)に対して行う。
【0034】
このクリーニングエリアは基本的には有機EL用蒸着マスク2の全面に設定される。ただし、有機EL用蒸着マスク2のうち一部の領域に限定的に設定するものであってもよい。いずれにしても、クリーニングエリアは面になっており、面のクリーニングを行うために、レーザ光LをX方向に走査して1本のスキャンラインを形成し、このスキャンラインをZ方向に微小シフトさせて、面のクリーニングを行う。また、ガルバノミラー42にはガルバノ駆動部43が取り付けられており、このガルバノ駆動部43がガルバノミラー42を振動させている。
【0035】
レーザ光源41とガルバノミラー42との間には集光手段としての集光レンズ44が配置されている。レーザ光源41から発振されるレーザ光Lは平行光になっており、収束光として焦点を結ばせるための集光レンズ44をレーザ光Lの光路上に設けている。集光レンズ44には焦点位置調整手段としてのレンズ位置調整部材45が取り付けられている。このレンズ位置調整部材45は集光レンズ44をレーザ光Lの光路に沿って移動(Z方向に移動)させるための部材である。これにより、集光レンズ44の位置が変化し、焦点位置をY方向に変化させることが可能になる。つまり、レンズ位置調整部材45によりデフォーカス量を変化させることができる。
【0036】
ここでは、レーザ光源41から発振されたレーザ光Lをガルバノミラー42で有機EL用蒸着マスク2に向けて反射させるようにしているが、有機EL用蒸着マスク2の表面を走査することができれば任意の配置態様にしてもよい。例えば、レーザ光源41からレーザ光LをX方向に向けて発振し、ガルバノミラー42でZ方向に向けてレーザ光Lを反射させる。そして、この反射したレーザ光Lを受光する位置に別途の反射ミラーを設けておき、この反射ミラーにより有機EL用蒸着マスク2の表面に向けてレーザ光Lを反射させるようにしてもよい。
【0037】
撮影手段5について説明する。撮影手段5は有機EL用蒸着マスク2の表面からY方向に離間した位置に設けられており、有機EL用蒸着マスク2の表面の一部領域の画像を撮影している。図1においては、有機EL用蒸着マスク2におけるX方向およびZ方向の端部の一部領域を撮影している。なお、レーザ走査手段4と撮影手段5とは有機EL用蒸着マスク2からY方向に離間した位置に配置されているが、例えば撮影手段5は有機EL用蒸着マスク2の角隅部近傍を撮影するように配置している。そこで、レーザ走査手段4およびレーザ光Lと干渉することはない。換言すれば、撮影手段5はレーザ走査手段4およびレーザ光Lの光路と干渉しない位置に配置する。
【0038】
撮影手段5は主に画像を撮影するための撮影カメラ5Cを有して構成されており、撮影カメラ5Cが撮影する領域に対して照明光を供給する照明装置5Lも備えている。撮影カメラ5Cは光学的に高い拡大率(例えば、500倍程度)を有しており、詳細な画像を取得する。このため、撮影カメラ5Cの撮影範囲は狭小な領域になる。
【0039】
次に、搬送空気流形成手段6について説明する。搬送空気流形成手段6は送風部61と吸風部62とを備えて概略構成している。送風部61はY方向に延びる2本の支柱からなる送風支持部63に取り付けられており、吸風部62も同様にY方向に延びる2本の支柱からなる吸風支持部64に取り付けられている。また、送風支持部63と吸風支持部64とはそれぞれベース1に取り付けられている。吸風部62には回収部65が設けられており、吸引した遊離物質を回収部65が回収する。
【0040】
送風部61にはスリット長が長く、スリット幅が短い送風スリット61Sが形成されている。同様に、吸風部62にもスリット長が長く、スリット幅が短い吸風スリット62Sが形成されている。送風スリット61Sと吸風スリット62SとはY方向において同じ位置に対向するようにして形成され、且つ有機EL用蒸着マスク2の表面から離間した位置に形成されている。送風スリット61Sからは下方に向けてエアが送風され、吸風スリット62Sは上方のエアを吸引するため、送風部61と吸風部62との間に空気流が形成される。この空気流を搬送空気流とする。
【0041】
マスク移動手段7について説明する。マスク移動手段7は有機EL用蒸着マスク2を移動させる手段であり、移動テーブル71により概略構成されている。移動テーブル71はマスク保持部材3を垂直方向に立てた状態で固定的に取り付けて移動させるためのテーブルである。移動テーブル71は、例えばボールネジ手段やリニアモータ手段、ロボット手段等で移動させることができる。移動テーブル71が移動することにより、有機EL用蒸着マスク2は垂直方向に立てられた状態で移動を行う。移動テーブル71はX方向に移動する例を示しているが、Y方向、Z方向に移動可能であってもよい。
【0042】
有機EL用蒸着マスククリーニング装置には全体の制御を行うコンピュータが設けられている。図3に示すように、コンピュータ51は画像処理部52と電流補正部53とフォーカス補正部54とレーザ制御部55とを備えている。画像処理部52は撮影カメラ5Cと接続されており、電流補正部53は電源56に接続されている。また、レーザ光源41は電源56およびレーザ制御部55に接続されている。なお、コンピュータ51は全体的な制御を行うものであり、例えばガルバノ駆動部43の駆動制御を行う手段等を有している。
【0043】
画像処理部52は撮影カメラ5Cが撮影した画像に対して所定の画像処理を行う画像処理手段である。この画像処理は有機EL用蒸着マスク2に付着した有機材料が剥離されたか否かを検出するものになる。有機材料が剥離されているか否かの検出は様々な手法を用いることができる。ここでは、撮影カメラ5Cが撮影した画像を有機物に対し光る条件の撮影カメラを用いて光量を輝度情報として検出している。なお、画像処理手段と撮影手段とにより剥離検出手段が構成される。
【0044】
画像処理部52は有機材料が剥離されている場合の輝度情報に基づく閾値を記憶している。この閾値は有機材料が剥離されているか否かを判定するための値であり、撮影カメラ5Cの画像中の輝度情報と閾値とを比較して有機材料が剥離されているか否かを判定する。検出した輝度情報が閾値よりも大きければ有機材料が剥離されていない(残存している)と判定し、小さければ有機材料が剥離されている(残存していない)と判定する。後述するように、画像処理部52が記憶する閾値は、有機材料が剥離されている場合の輝度情報と同じ値にしてもよいが、異なる値にしてもよい。
【0045】
有機材料が剥離されていないと画像処理部52が判定したときには、電流補正部53、フォーカス補正部54を制御する。電流補正部53およびフォーカス補正部54は有機EL用蒸着マスク2に照射されたときのレーザ光Lのエネルギー(強度)を補正するためのレーザ補正手段として機能する。電流補正部53は電源56が供給する電流の値を補正する制御を行っており、これによりレーザ光Lの発振強度(発振エネルギー)を変更することができる。つまり、供給する電流を上昇させる補正を行うことによりレーザ光Lのエネルギーが高くなり、低減させる補正を行うことによりレーザ光Lのエネルギーは低くなる。
【0046】
電源56には供給する電流値の初期値(初期電流)が設定されており、この初期電流を起点として電流補正部53により供給する電流値が補正される。後述するデフォーカス量にも依存するが、初期電流は有機EL用蒸着マスク2から有機材料を剥離するために必要最小限の発振強度を得るための電流よりも低い電流値が設定されている。つまり、初期電流に基づくレーザ光Lを有機EL用蒸着マスク2に照射したとしても、有機材料は剥離されない。この初期電流から開始してレーザ光源41に供給する電流を所定量上昇させる補正を行う。
【0047】
電流補正部53は予め補正する電流の上限値を上限電流として記憶しており、補正した電流がこの上限電流に達したときにフォーカス補正部54にその旨を通知する。そして、電流補正部53は電流の補正量をリセット(ゼロに戻す)し、電源56からは初期電流が供給されることになる。レーザ光源41に供給される電流が上昇するのに応じてレーザ光Lの発振強度が高くなるが、ある上限値以上に電流を上昇させてもレーザ光Lの発振強度は殆ど上昇しない。そこで、この上限値を上限電流とする。勿論、これ以外にも上限電流を任意に設定してもよい。
【0048】
フォーカス補正部54はレンズ位置調整部材45の位置を補正する制御を行う。レンズ位置調整部材45は集光レンズ44の位置を調整することによりデフォーカス量を変化させており、フォーカス補正部54はそのデフォーカス量を補正する。デフォーカス量を補正することにより、有機EL用蒸着マスク2に形成されるレーザ光Lのスポット径が変化する。デフォーカス量(の絶対値)を少なくすることによりレーザ光Lのスポット径は小さくなり、デフォーカス量(の絶対値)を多くすることによりレーザ光Lのスポット径は大きくなる。
【0049】
レーザ光Lのスポット径が大きくなると、1回のレーザ光Lの照射範囲が広範囲になる。これにより、レーザクリーニングのスピードが高速になり、クリーニングの効率が向上する。ただし、スポット径が大きくなることで、レーザ光Lのエネルギーが分散し、エネルギーの分布密度にばらつきを生じる。これにより、一定以上スポット径が大きくなると、有機材料の剥離を均一に行うことができなくなる。一方、スポット径が小さくなると、照射範囲が狭くなるため、レーザクリーニングのスピードが低速になり、クリーニング効率が低下する。
【0050】
レンズ位置調整部材45はクリーニング効率と剥離の均一性とに基づいて、所望のデフォーカス量となるように集光レンズ44の位置が設定されている。この位置を初期位置とする。フォーカス補正部54は電流補正部53が補正する電流が上限電流に達したときに、デフォーカス量を所定量少なくする。これにより、レーザ光Lのスポット径が小さくなり、レーザ光Lのエネルギーが集中する。レーザ光Lのエネルギーが集中することで、有機EL用蒸着マスク2に作用するレーザ光Lのエネルギーが高くなる。
【0051】
次に、動作について説明する。まず、洗浄槽内に配置した有機EL用蒸着マスククリーニング装置に有機材料が付着した有機EL用蒸着マスク2を搬入する。搬入時にはマスク保持部材3に有機EL用蒸着マスク2が当接した状態で、しかも垂直方向に立てられた状態で保持されている。この状態で、移動テーブル71により、有機EL用蒸着マスク2をレーザ洗浄手段4の位置にまでX方向に移動させて、その位置で停止する。
【0052】
そして、有機EL用蒸着マスク2を停止した状態でレーザクリーニングを開始する。レーザクリーニングは有機EL用蒸着マスク2に向けてレーザ光Lを照射し、照射位置を変化させる走査により行う。レーザ光源41から発振したレーザ光Lは集光レンズ44により収束光にされた後に、ガルバノミラー42で反射して有機EL用蒸着マスク2に照射される。有機EL用蒸着マスク2は有機材料が付着している面(表面)がレーザ光の照射方向に向くように配置されており、ガルバノミラー42で反射したレーザ光は有機EL用蒸着マスク2に照射される。
【0053】
有機EL用蒸着マスク2の表面には固形状態の有機材料が膜状となって付着しており、この有機材料を透過してレーザ光Lが有機EL用蒸着マスク2に照射される。レーザ光Lは集光レンズ44により収束光にされており、焦点を結ぶ。そして、レンズ位置調整部材45の初期位置により所望のデフォーカス量が設定されており、有機EL用蒸着マスク2の表面からずれた位置で焦点を結ぶようになっている。つまり、ジャストフォーカスにはなっていない。そして、照射されたレーザ光Lは有機EL用蒸着マスク2に吸収される。
【0054】
有機EL用蒸着マスク2に形成されるレーザ光Lのスポット径は極めて微小な領域(例えば円形領域)になり、この領域にレーザ光Lが吸収される。有機EL用蒸着マスク2は金属素材であり、レーザ光Lが吸収されることにより熱エネルギーが発生して、吸収された部位およびその付近が瞬間的に温度上昇する。
【0055】
温度上昇した有機EL用蒸着マスク2の部位は熱膨張を起こす。前記したように、非常に狭小な領域に対してレーザ光Lが吸収されて熱エネルギーが集中するため、瞬間的に温度上昇して、温度上昇した部位は急激に熱膨張を起こす。一方で、レーザ光Lが及ぼすエネルギー(熱エネルギー)は狭小な領域に集中しており、他の部位は温度上昇することなくそのままの形状を維持している。従って、固形状態となって付着している有機材料に向けて熱膨張を起こす。
【0056】
有機EL用蒸着マスク2の層と有機材料の層とは積層構造となっている。有機材料の透過率が高いレーザ光を用いることによりレーザ光Lが透過したとしても有機材料を溶融させずに固形状態を維持することができる。つまり、有機EL用蒸着マスク2が熱膨張を起こして瞬間的に隆起する一方、有機材料は殆ど熱膨張を起こさないことから、層間に剥離力が作用する。このとき、急激に有機EL用蒸着マスク2が熱膨張を起こして剥離力が作用するため、固形状態の有機材料に強い衝撃が与えられて破砕され、有機材料は粉体等の粒径の小さい遊離物質となって有機EL用蒸着マスク2から離間する方向に飛散する。
【0057】
飛散した遊離物質(有機材料)は重力の作用によりZ方向下方に向けて落下しようとする。そして、飛散方向には搬送空気流形成手段6により搬送空気流が形成されており、この搬送空気流に補足されて、吸風部62に遊離物質が回収される。これにより、飛散した遊離物質が有機EL用蒸着マスク2に再付着しなくなり、遊離物質が再付着することによる洗浄度の低下といった問題を生じなくなる。なお、搬送空気流は飛散した遊離物質を効率的に回収するために設けており、本発明においては必須の要素ではない。
【0058】
前述したように、レーザ光Lはパルスレーザとして発振している。そして、ガルバノミラー42により1方向(X方向:走査方向)にレーザ光Lの照射位置が変化するように走査しているため、前記の有機材料が破砕される領域が連続するように走査がされる。この走査を1方向に行って1本のスキャンラインを形成して、スキャンラインをZ方向(X方向に直交する方向)に微小シフトさせることで、面のクリーニングを行う。なお、前記破砕領域は有機EL用蒸着マスク2にレーザ光Lを照射したときに形成されるスポットと同じ形状とは限らず、それよりも広い領域になっていることもある。
【0059】
以上のようにして、レーザ光Lを走査して有機EL用蒸着マスク2から有機材料を剥離するレーザクリーニングを行うことができる。このとき、有機EL用蒸着マスク2に照射されたときのレーザ光Lのエネルギーは、有機EL用蒸着マスク2に復元不能なダメージを与えるような過剰なエネルギーでないこと、且つ有機材料を剥離することができるエネルギーであること、の2つの条件を満たすようにする。有機EL用蒸着マスク2に与えるレーザ光Lのエネルギーを制御するためには、レーザ光源41の発振強度だけではなく、幾つかの設定要素がある。
【0060】
本発明では、有機EL用蒸着マスク2に照射するレーザ光Lのエネルギーを最適に設定するために、有機EL用蒸着マスク2の一部の領域にレーザ光Lのテスト走査を行う。ここでは、マスク本体21のZ方向端部からごく僅かな領域をテスト走査するように設定する。なお、X方向においては領域を限定せずに、有機EL用蒸着マスク2の端部から端部までの全長にわたってテスト走査を行う。以下、図4のフローチャートを用いて説明する。
【0061】
まず、移動テーブル71により有機EL用蒸着マスク2はレーザ走査手段4がレーザクリーニングを行う位置まで移動される。そして、フォーカス補正部54は集光レンズ44を初期位置に固定して(ステップS1)、電源56は初期電流をレーザ光源41に供給する(ステップS2)。ステップS1およびS2は初期的な設定になり、この初期的な設定は例えば真空蒸着槽から未洗浄の有機EL用蒸着マスク2が搬入されるまでの間に行うことができる。これにより、有機EL用蒸着マスク2の搬入と初期的な設定との処理をオーバラップさせることができる。
【0062】
次に、有機EL用蒸着マスク2にテスト走査を行う。このために、まずレーザ光源41は有機EL用蒸着マスク2の表面の1ライン分を走査させる(ステップS3)。これにより、図5に示す1本目のスキャンラインSL1(Z方向の最も端部のスキャンライン)が形成される。前述したように、X方向においてスキャンラインSL1は有機EL用蒸着マスク2の端部から端部までの全長の走査を行うように形成される。
【0063】
図5のCAは撮影カメラ5Cの撮影視野を示しており、Z方向においては5本のスキャンラインSL1〜SL5(総称してスキャンラインSL)を収めるような範囲となっている。勿論、撮影視野CAのスキャンラインSLの数は複数本であれば任意に設定してもよい。前述したように、撮影カメラ5Cの撮影視野CAは有機EL用蒸着マスク2の全体から見て狭小な領域になっている。有機EL用蒸着マスク2の全体をレーザクリーニングするためにはスキャンラインSLが多数形成されるが、そのうちの僅かな本数のスキャンラインSLのみが撮影視野CAに収まるようにしている。同様に、X方向においても全長ではなく、僅かな領域のみが撮影視野CAに収まるようになっている。図5では、撮影視野CAは正方形の領域になっているが、視野の形状、大きさはこれに限定されるものではない。
【0064】
撮影カメラ5Cが撮影した画像に対して、画像処理部52は画像処理を行う(ステップS4)。画像処理を開始するタイミングは任意に設定することができるが、スキャンラインSL1が撮影視野CAに形成された時点で開始することにより、残りのスキャンラインSL1の形成と画像処理とをオーバラップさせることができる。そして、前述したように、画像処理部52は撮影カメラ5Cが撮影した画像に対して画像処理を行う。
【0065】
画像処理部52は撮影した画像の光量検出を行う。有機EL用蒸着マスク2に付着している剥離対象の有機材料は発光性の有機色素材料であり、有機物に対して光るフィルタを通して見ることにより発光して見ることができる。もしくはUVランプを照射することで有機物は光って見えるため、確認することが可能である。よって、未剥離のものは全面を通して光って見ることができ、有機膜の付着を確認することができる。前述の工程を終えたものに対し、剥離されているのであれば、有機EL用蒸着マスク2のマスク領域21の光量が検出され、有機材料が付着していたときよりは低い輝度の光量が検出される。
【0066】
画像処理部52は撮影視野CAのうちスキャンラインSL1の部位の光量を輝度情報として検出する。また、画像処理部52は有機材料が付着していない状態(剥離されている状態)の撮影視野CAの画像のうちスキャンラインSL1の部位の輝度情報を閾値として記憶している。撮影視野CAは基本的には固定されているため、スキャンラインSL1の位置を特定することは容易である。そして、スキャンラインSL1の部位の検出した輝度情報と閾値との比較を行って、剥離されたか否かの判定を行う(ステップS5)。
【0067】
有機材料が剥離せずに付着しているときには、検出した輝度情報は閾値よりも高くなる。一方、剥離して付着していないときには、検出した輝度情報は設定閾値以下となる。これにより、有機物の有無判定を行うことができる。このとき、閾値は有機材料が付着していないときの輝度情報と同じにしてもよいが、それよりも高い値に設定してもよい。ある一部を映した画像に対し、有機材料が残存して光って見える面積(割合)と残存していないときの面積(割合)に対し、残存率(残査割合)をある任意の閾値として設定することもできる。
【0068】
画像処理部52が判定した結果、有機材料が付着していると判定した場合には、電流補正部53にその旨を出力し、電流補正部53が電源56から供給される電流を所定量(例えば、1アンペアずつ)上昇させる補正を行う(ステップS6)。スキャンラインSL1を形成したときには、初期電流に設定されているため、有機材料は剥離されない。このため、スキャンラインSL1のときには通常はステップS5において剥離されていないと判定され、電流の上昇補正が行われる。
【0069】
電流補正部53は電流の補正を行うが、電流を上昇させる補正を行うことによりレーザ光源41に供給される電流が上限電流に達するか否かを判定する(ステップS7)。上限電流に達していないと判定した場合には、再びステップS3に戻る。そして、次のスキャンラインSL2の形成を行うためのレーザ光Lの走査が行われる。スキャンラインSL2はスキャンラインSL1よりも高い電流を供給することにより、レーザ光Lの発振強度は高くなる。よって、このレーザ光Lによって形成されるスキャンラインSL2により有機EL用蒸着マスク2に作用するエネルギーはスキャンラインSL1よりも高くなる。
【0070】
一方、上限電流に達していると判定された場合には、デフォーカス量の補正が行われる(ステップS8)。上限電流に達した場合には、レーザ光源41に供給可能な電流に対し最大値(MAX値:安定して供給可能な電流)となり、ソフト的なリミット(制限)がかかる。集光レンズ44は初期位置に配置されており、デフォーカス量を狭くするため、フォーカス補正部54はレンズ位置調整部材45を制御して、集光レンズ44の位置をY方向に移動させる補正を行う。ここでは、デフォーカス量を少なくするような補正を行う。これにより、焦点位置がより有機EL用蒸着マスク2の表面に近づくことになる。従って、有機EL用蒸着マスク2に形成されるレーザ光Lのスポット径が小さくなり、有機EL用蒸着マスク2に照射されたときのレーザ光Lのエネルギーをより強くすることができる。このとき、電流補正部53は電源56が供給する電流を初期電流に戻すために、補正値を初期化(リセット)する(ステップS9)。
【0071】
従って、電流を上昇させることにより、またデフォーカス量を小さくすることにより、有機EL用蒸着マスク2に照射されたときのレーザ光Lのエネルギーを高いものにすることができる。つまり、段階的に前記のエネルギーが高くなるようにスキャンラインSL1〜SL5を形成している。スキャンラインSL1は初期電流および初期位置によりレーザ光Lを走査したものであり、通常は有機材料が剥離されることはなく、スキャンラインSL2以降で有機材料が剥離されることとなる。
【0072】
画像処理部52は検出した光量に基づいて有機材料が剥離されたと判定したときには、電流およびデフォーカス量の設定を確定する(ステップS10)。このときの設定は、有機材料を剥離可能なエネルギーをレーザ光Lに持たせることができる設定になっている。そして、直前のスキャンラインSLでは剥離できないが、当該スキャンラインSLでは剥離できるようになっている。つまり、有機材料を剥離するために必要最小限のエネルギー、またはそれと同程度のエネルギーを持たせることができ、過剰なエネルギーをレーザ光Lに持たせることがない。これにより、過剰なエネルギーのレーザ光Lが照射されることにより、復元不能なダメージが有機EL用蒸着マスク2に与えられることはない。
【0073】
つまり、有機EL用蒸着マスク2に作用させるレーザ光Lのエネルギーを剥離不十分なエネルギーから段階的に上昇させて、剥離された時点を認識することにより、電流およびデフォーカス量を最適に設定することができる。以上のテスト走査はステップS10により設定が確定された時点で終了する。これにより、この設定よりも高いエネルギーをレーザ光Lに持たせてテスト走査を行うことがなくなり、有機EL用蒸着マスク2に過剰なエネルギーを与えることはない。そして、有機EL用蒸着マスク2のクリーニング対象のエリアの全面にレーザクリーニングを行う。これにより、最適な設定でレーザクリーニングを行うことができ、付着した有機材料を剥離でき、且つ有機EL用蒸着マスク2に復元不能なダメージが与えられることはない。
【0074】
有機EL用蒸着マスク2に照射されたときのレーザ光Lのエネルギーを如何に設定するかは、有機EL用蒸着マスク2および有機材料によって異なる。つまり、有機EL用蒸着マスクの金属素材や厚み、開口部22のパターン等の条件によっても異なり、有機EL用蒸着マスク2に付着した有機材料の物質や膜厚等の条件によっても異なる。例えば、有機EL用蒸着マスク2の厚みが非常に薄いものである場合や開口部22がマスク本体21の多くの領域を占めるような場合には、比較的低いエネルギーのレーザ光Lで復元不能なダメージが与えられる。一方、有機材料の膜厚が厚いような場合には、レーザ光Lにある程度のエネルギーを持たせないと有機材料の剥離が困難になる。
【0075】
ただし、前記の条件のうち有機材料の厚み以外の条件は予め認識することが可能である。つまり、有機EL用蒸着マスク2の金属素材と厚みと開口部22のパターンとは予め既知として得られているものであり、有機材料の物質も予め既知として得られているものになる。これに対して、有機EL用蒸着マスク2に付着した有機材料の膜厚は有機EL用蒸着マスク2ごとに異なる。
【0076】
有機EL用蒸着マスク2は蒸着プロセスにおいてガラス基板20に有機材料を蒸着させるために用いられ、膜厚のコントロールはなされているものの、有機材料の膜厚が実際にどの程度になるかは有機EL用蒸着マスク2ごとに異なる。従って、他の条件とは異なり、蒸着プロセス後でなければ膜厚を認識することはできない。このため、有機材料を剥離するために必要なエネルギーは有機EL用蒸着マスク2ごとによって変化する。
【0077】
本発明では、有機材料を剥離するためには不十分なエネルギーをレーザ光Lに持たせておき、段階的にエネルギーを上昇させて、剥離されないエネルギーと剥離されたエネルギーとの切り替わりを検出するためのテスト走査を行っている。そして、テスト走査により設定された最適な条件でレーザクリーニングを行うことで、有機EL用蒸着マスク2から有機材料を剥離させ、且つ復元不能なダメージを与えないようにして有機EL用蒸着マスク2のクリーニングを行うことができるようになる。
【0078】
また、レーザ光Lのエネルギーの設定はコンピュータ51が行っている。つまり、撮影した画像に基づいて画像処理部52が画像処理を行い、電流補正部53、フォーカス補正部54がレーザ光Lのエネルギーを上昇させる補正を行っている。これらの制御はコンピュータ51が行っており、人手を介することなく行われる。よって、自動的に最適なエネルギーの設定がされることになり、人為的な設定ミス等を生じることもない。
【0079】
以上において、電流およびデフォーカス量を補正することにより有機EL用蒸着マスク2に作用させるレーザ光Lのエネルギーを段階的に上昇させているが、電流またはデフォーカス量の何れかを補正するものであってもよい。電流またはデフォーカス量の何れかのみでレーザ光Lのエネルギー密度を上昇させることができるためである。ただし、一般に電流を補正することによりエネルギーの補正幅を細かくコントロールでき、デフォーカス量による補正幅は大きくなる。このため、電流とデフォーカス量とを組み合わせることで、補正幅のコントロールが可能になる。
【0080】
また、有機EL用蒸着マスク2に作用させるレーザ光Lのエネルギーを段階的に上昇させることができれば、電流およびデフォーカス量以外の手法を用いてもよい。例えば、レーザ光Lの走査速度(スキャンスピード)を段階的に低速化させるような補正を行ってもよい。レーザ光Lの走査速度を低速にすることにより、有機EL用蒸着マスク2に形成される隣接するスポットの間隔が短くなり、有機EL用蒸着マスク2に作用するレーザ光Lのエネルギーが高くなる。要は、有機EL用蒸着マスク2に作用するレーザ光Lのエネルギー密度を段階的に上昇させることができれば、任意の手法を用いてもよい。
【0081】
また、電流補正部53は所定量の電流を段階的に上昇させる補正を行っているが、電流の上昇幅を変化させるようにしてもよい。例えば、1回目の電流上昇の補正と2回目の電流上昇の補正とを補正量が異なるように設定してもよい。同様に、デフォーカス量の下降幅も変化させるようにしてもよい。
【0082】
また、画像処理部52は撮影視野CAの光量を検出する画像処理を行っていたが、光量検出以外の画像処理を行うようにしてもよい。例えば、有機材料が剥離された後の撮影視野CAの画像と剥離されていない状態の撮影視野CAの画像とを比較して、画像のパターンの一致性を認識するパターンマッチングを用いて画像処理を行うようにしてもよい。ただし、有機EL用蒸着マスク2に付着しているのは有機材料であるため、光量検出により残存しているか否かを判定する手法を用いることにより、簡単に検出可能になる。
【0083】
また、各ライン毎のエネルギーの上昇幅を小さくすることにより、過剰なエネルギーのレーザ光Lの照射をより一層防ぐことができる。
【0084】
ここで、撮影カメラ5Cは顕微鏡であり、一般にその撮影視野CAはそれほど広範な領域ではない。そこで、撮影カメラ5C(および照明装置5L)を有して構成される撮影手段5に移動機構(図示せず)を取り付けて、撮影視野CAの位置を変化させるようにしてもよい。これにより、撮影視野CAでは限定されていたスキャンラインSLの本数を自由に増やすことができるようになる。
【0085】
また、テスト走査を行うためのスキャンラインSLはマスク本体21のZ方後端部から一部の領域に形成しているが、有機EL用蒸着マスク2の任意の箇所に形成してよい。マスク本体21の中央位置に設けるようにしてもよいし、マスクフレーム23の近傍に形成するものであってもよい。さらに、本実施例では撮影視野CAを有機EL用蒸着マスク2の角隅部近傍に設けるようにしたが、テスト走査が行われた部位を撮影するものであれば、任意の場所を視野とすることができる。ただし、レーザ走査手段4およびレーザ光Lの光路と干渉しないことが条件となる。
【符号の説明】
【0086】
2 有機EL用蒸着マスク 4 レーザ走査手段
5 撮影手段 5C 撮影カメラ
5L 照明装置 41 レーザ光源
42 ガルバノミラー 45 レンズ位置調整部材
51 コンピュータ 52 画像処理部
53 電流補正部 54 フォーカス補正部
55 レーザ制御部 56 電源
CA 撮影視野

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機材料が付着した有機EL用蒸着マスクの表面に対してレーザ光を走査して前記有機材料を剥離するレーザ走査手段と、
前記有機EL用蒸着マスクの少なくとも一部の領域に前記レーザ光をテスト走査させるレーザ制御手段と、
前記有機EL用蒸着マスクのうち前記テスト走査を行った部位の有機材料が剥離されたか否かを検出する剥離検出手段と、
前記剥離検出手段の検出結果に基づいて、前記有機EL用蒸着マスクに照射される前記レーザ光の照射条件を補正するレーザ補正手段と、
を備えたことを特徴とする有機EL用蒸着マスククリーニング装置。
【請求項2】
前記レーザ補正手段は、前記有機EL用蒸着マスクに照射されるレーザ光のエネルギー密度を前記有機材料が剥離されないエネルギーから開始して、前記有機材料が剥離されるエネルギー密度まで段階的に上昇させる補正を行うこと
を特徴とする請求項1記載の有機EL用蒸着マスククリーニング装置。
【請求項3】
前記剥離検出手段は、
前記テスト走査を行った部位のうち少なくとも一部の画像を撮影する撮影手段と、
撮影した画像の残査割合を検出する画像処理を行って、残査割合に基づいて有機材料が剥離されたか否かを検出する画像処理手段と、
を備えていることを特徴とする請求項2記載の有機EL用蒸着マスククリーニング装置。
【請求項4】
前記レーザ補正手段は、前記レーザ光を発振するレーザ光源に対して供給する電流を上昇させる補正と前記レーザ光のデフォーカス量を小さくする補正とを行うこと
を特徴とする請求項2記載の有機EL用蒸着マスククリーニング装置。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の有機EL用蒸着マスククリーニング装置を備えたことを特徴とする有機ELディスプレイの製造装置。
【請求項6】
有機材料が付着した有機EL用蒸着マスクに対して前記有機材料が剥離されないエネルギーのレーザ光を照射し、
少なくとも前記レーザ光を照射した部位の一部の画像を撮影して、撮影した画像の画像処理を行い、前記画像情報に基づいて有機材料が剥離されたか否かを検出し、
前記有機材料が剥離されていないことが検出されたときには、レーザ光のエネルギーを段階的に上昇させてテスト走査を行い、
前記有機材料が剥離されたことを検出したときに、前記レーザ光のエネルギーの設定を確定して、当該設定で前記有機EL用蒸着マスクのレーザクリーニングを行うこと
を特徴とする有機EL用蒸着マスククリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−187362(P2011−187362A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52852(P2010−52852)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】