説明

有機EL装置の機能層の製造装置および製造方法

【課題】基板上に、有機EL素子の機能層をはじめとして、塗付膜をウェット法で形成する際に、基板上全体に配される塗膜形状のバラツキを抑えて、塗膜形状を均一化する。
【解決手段】乾燥装置20は、減圧容器21の内部に設けられた支持台22上に、インクが充填された基板1が支持台22に載置される。基板1の上方には、整流部材50が配置されている。整流部材50には、溶剤蒸気を流通させるスリット53が複数並設されている。整流部材50の下面には、各スリット53の入口を覆うように、板上の網目部材40が配設されている。網目部材40には、各スリット53に対して貫通孔41が複数個づつ開設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主に、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」と記載する。)の機能層をはじめとして、素子用の薄膜を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、研究・開発が進んでいる有機EL素子は、有機材料の電界発光現象を利用した発光素子であって、陽極と陰極との間に発光層が介挿された構造を有している。
有機ELディスプレイにおいて、一般に発光層は、素子ごとに絶縁材料からなるバンクで仕切られていて、このバンクによって発光層の配置位置と形状が規定されている。また、陽極と発光層との間には、例えば、必要に応じてホール注入層、ホール輸送層またはホール注入兼輸送層が介挿され、陰極と発光層との間には、必要に応じて電子注入層、電子輸送層または電子注入兼輸送層が介挿される(以下、ホール注入層、ホール輸送層、ホール注入兼輸送層、電子注入層、電子輸送層、および電子注入兼輸送層を総称して「電荷注入輸送層」と記載する。また、発光層と電荷注入輸送層は、各々発光、電荷の注入と輸送といった固有の機能を果たすので、これらの層を総称して「機能層」という。)。
【0003】
フルカラー表示の有機ELディスプレイにおいては、このような有機EL素子が、RGB各色のサブピクセルに相当し、隣り合うRGBのサブピクセルを合わせて一画素が形成され、この画素がマトリックス状に配列されて画像表示領域が形成されている。
有機ELディスプレイを作製する際には、基板上にEL素子の機能層を形成する工程がある。この機能層形成工程において、低分子材料を真空プロセスで成膜する方式も用いられているが、機能層を形成するための材料を溶剤に溶解させたインク(塗布液)を、インクジェット法などでバンク間に充填して、充填されたインクを乾燥するウェット方式が多く用いられている。このウェット方式によれば、大型のパネルにおいても比較的容易に機能層を形成することができる。
【0004】
ところで、有機ELディスプレイでは、素子毎に均一な発光特性を得ることが要求されるが、有機EL素子の発光特性は機能層の膜厚に敏感であるため、機能層をウェット方式で形成する際には、各素子形成予定領域に一定量のインクを充填すること、並びに各素子領域内で機能層の膜厚バラツキをなくして、機能層を平坦に形成することが要求される。
そこで、基板上に複数のEL素子の機能層を形成する際に、各素子形成予定領域に対してインクが均等量充填されるように、比較的沸点の高い溶剤が用いられる。そして、充填されたインクを乾燥する時には、その沸点の高い溶剤を蒸発させるために、インクを充填した基板を乾燥器内で減圧乾燥している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−218253号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のように基板上にインクを充填し減圧乾燥する方法で機能層を形成すると、基板中央部と基板端部とではインク乾燥時の雰囲気が異なるので不具合が生じる。すなわち、一般に、基板端部に充填されたインクの液溜まりでは、基板端寄りの方が基板中央寄りと比べて溶剤が蒸発しやすいので、充填されたインクの液溜まりの中でインク液が基板端側に流動し、偏った状態で乾燥が進む。それによって、形成される機能層は基板端側の方が塗膜の膜厚が大きくなりやすい。その結果、基板中央部に形成される素子の機能層と基板端部に形成される素子の機能層とは形状が互いに異なる傾向がある。
【0007】
このように、基板中央部の素子と基板端部の素子とで機能層の形状が異なると、各機能層の特性も互いに異なるため、有機ELディスプレイにおいては画質の低下につながる。
このような課題に対して、特許文献1には、乾燥室内において、基板上に、上方に流れる溶剤蒸気を整流するために、複数のスリットを有する整流部材を設ける技術が開示されている。この装置を用いて乾燥すれば、基板全体的には、基板の中央部と基板端部とで蒸気の形成される機能層の膜形状がある程度均一化できると期待できる。
【0008】
しかし、実際には、各スリットに蒸気が流入するときに蒸気の流れに乱れが生じやすく、このスリット入口における蒸気流の乱れによって、各スリットに対応する領域内で、各インク溜まりから溶剤が蒸発する仕方にバラツキが生じて、素子ごとに形成される機能層の形状にバラツキが生じることになる。
本発明は、上記課題に鑑み、基板上に、有機EL素子の機能層をはじめとして、塗付膜をウェット法で形成する際に、基板上全体に配される塗膜形状のバラツキを抑えて、塗膜形状を均一化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の一態様である、内部を減圧可能な減圧容器と、当該減圧容器から排気する減圧ポンプとを備え、減圧容器内で、基板の上面に充填された塗布液に含まれる溶剤を蒸発させることにより有機EL素子の機能層を形成する製造装置においては、減圧容器内に、溶剤蒸気を流通させるスリットが複数並設された整流部材を、当該各スリットの入口が基板の上面と間隙をおいて対向するように配設し、上記スリットよりも幅の狭い貫通孔が複数開設されてなる網目部材を、整流部材の各スリットの入口を覆うように配設することとした。
【発明の効果】
【0010】
上記態様にかかる製造装置を用いて、基板の上面に充填された塗布液に含まれる溶剤を減圧容器の中で蒸発させると、基板上面の各領域から蒸発する溶剤蒸気は、整流部材に並設されている各スリットを流通するので、基板全体において溶剤の蒸発速度が均一化され、機能層の膜形状が均一化される。
さらに、網目部材が各スリットの入口を覆うように配設され、上記スリットよりも幅の狭い貫通孔が複数開設されてなる網目部材を、整流部材の各スリットの入口を覆うように配設しているので、塗付液から蒸発する蒸気は網目部材の各貫通孔を通って各スリットの入口に導入される。従って、各スリットの入口において溶剤蒸気の流れが乱れることがなく蒸気流れが整えられるので、各スリット領域内においても、塗膜形状を平坦に且つ均一に形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施の形態にかかる有機ELディスプレイの一部断面を模式的に示す断面図である。
【図2】上記有機ELディスプレイの製造方法を説明する工程図である。
【図3】有機ELディスプレイを製造する際に乾燥工程で用いる乾燥装置の概略構成を示す図である。
【図4】上記乾燥装置における減圧容器の内部構成を示す斜視図である。
【図5】減圧容器内の圧力プロファイルの一例である。
【図6】基板上に網目部材、整流部材を設けることなく、基板1上に形成された複数のバンク5の間の各空間内に充填されたインクを乾燥するときの様子を示す図である。
【図7】基板中央領域、基板左端領域、基板右端領域の各素子において形成される発光層のピクセル内での膜厚分布を示す図である。
【図8】網目部材が存在する場合と存在しない場合とで、整流部材の各スリット入口における蒸気の流れを示す図である。
【図9】網目部材としてマスク板を用いて乾燥する実施例を示す図である。
【図10】網目部材として各貫通孔がテーパー状に形成されたメタルマスク板を用いる実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一態様である、内部を減圧可能な減圧容器と、当該減圧容器から排気する減圧ポンプとを備え、減圧容器内で、基板の上面に充填された塗布液に含まれる溶剤を蒸発させることにより有機EL素子の機能層を形成する製造装置においては、減圧容器内に、溶剤蒸気を流通させるスリットが複数並設された整流部材を、当該各スリットの入口が基板の上面と間隙をおいて対向するように配設し、上記スリットよりも幅の狭い貫通孔が複数開設されてなる網目部材を、整流部材の各スリットの入口を覆うように配設することとした。
【0013】
本態様により、基板上面の各領域に充填された塗付液から蒸発する溶剤蒸気は、整流部材に並設されている各スリットを流通するので、基板全体において溶剤の蒸発速度が均一化される。さらに、各スリットの入口において溶剤蒸気の流れが乱れることもないので、各スリット領域内でも溶剤の蒸発速度が均一化される。従って、基板上の各領域に形成される塗膜形状にバラツキが生じることなく、塗膜形状が均一化される。
【0014】
よって、上記態様の製造装置を用いることによって、発光特性の優れた有機EL素子、あるいは有機EL発光装置を製造することができる。
上記態様において、次のようにすることが好ましい。
上記網目部材において、整流部材の各スリットの入口に対して、貫通孔が複数個づつ臨むように形成する。
【0015】
また、上記網目部材において、複数の貫通孔を、各スリットの入口に臨む領域内でマトリックス状に配列する。
網目部材は、基板上における塗付液が充填された全体領域よりも外方に拡がるように設定する。
整流部材において、複数の各スリットを鉛直方向に貫通させ、減圧容器の上部に、各スリットから排出される溶剤蒸気を排気する排気口を設ける。
【0016】
上記網目部材として、メタルマスクを用いる。
ここで、メタルマスクの開口部において、基板保持部材と対向する側の開口面積よりも、基板保持部材と対向する反対側の開口面積を小さくする。
本発明の一態様にかかる、基板の上面に充填された塗布液に含まれる溶剤を蒸発させて塗付膜を形成する塗付膜形成方法においては、減圧容器内に、塗布液が上面に充填された基板を配置し、溶剤蒸気を流通させるスリットが複数並設された整流部材を、各スリットの入口が基板の上面と間隙をおいて対向するように配設するとともに、上記スリットよりも幅の狭い貫通孔が複数開設されてなる網目部材を、各スリットの入口を覆うように配設した状態で、減圧容器内を減圧することによって、塗布液に含まれる溶剤を蒸発させることとした。
【0017】
[実施の形態]
本実施の形態では、有機ELディスプレイの発光層を形成する工程において本発明を適用する。
まず、製造しようとする有機ELディスプレイの概略構成を述べ、次にその製造方法について説明する。
【0018】
<有機ELディスプレイの概略構成>
図1は、有機ELディスプレイの一部断面を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、有機ELディスプレイ100は、RGB各色のサブピクセルを構成する発光層を具備するトップエミッション型の有機EL素子10a,10b,10cがマトリックス状に配列されてなる有機ELディスプレイである。有機EL素子10a,10b,10cは、RGB各色のサブピクセルに相当し、3つの隣接する有機EL素子10a,10b,10cによって1画素が形成されている。
【0019】
TFT基板1(以下、「基板1」と記載する)上には、陽極2がマトリックス状に形成されており、陽極2上に、ITO(酸化インジウムスズ)層3及び、ホール注入層4がその順で積層されている。なお、ITO層3が陽極2上にのみ積層されているのに対し、ホール注入層4は陽極2上だけでなく基板1の上面全体に亘って形成されている。
陽極2の周辺上部にはホール注入層4を介してバンク5が形成されており、バンク5で挟まれた領域内に発光層6が積層されている。さらに、発光層6の上には、電子注入層7、陰極8、及び封止層9が、各バンク5で規定された領域を超えて、隣接する有機EL素子10a,10b,10cのものと連続するように形成されている。
【0020】
基板1は、例えば、無アルカリガラス、ソーダガラス、無蛍光ガラス、燐酸系ガラス、硼酸系ガラス、石英、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエチレン、ポリエステル、シリコーン系樹脂、又はアルミナ等の絶縁性材料をベース材料として形成される。
陽極2は、Ag(銀)の他、APC(銀、パラジウム、銅の合金)、ARA(銀、ルビジウム、金の合金)、MoCr(モリブデンとクロムの合金)、NiCr(ニッケルとクロムの合金)等で形成されていても良い。
【0021】
ITO層3は、陽極2及びホール注入層4の間に介在し、各層間の接合性を良好にする機能を有する。
ホール注入層4は、金属酸化物、金属窒化物又、金属窒化物などホール注入機能を果たす材料、例えば、WOx(酸化タングステン)又はMoxWyOz(モリブデン−タングステン酸化物)で形成される。このホール注入層4は、バンク5の底面に沿って側方に延出している。
【0022】
バンク5は、樹脂等の絶縁性を有する有機材料、例えば、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ノボラック型フェノール樹脂等で形成される。バンク5は、有機溶剤耐性を有することが好ましく、また、エッチング処理、ベーク処理等がされることがあるので、それらの処理に対して変形、変質などしにくい材料で形成することが好ましい。
発光層6は、RGB各色の有機発光材料(蛍光物質)からなる層である。この有機発光材料として、例えば、特開平5−163488号公報に記載されたオキシノイド化合物、ペリレン化合物、クマリン化合物、アザクマリン化合物、オキサゾール化合物、オキサジアゾール化合物、ペリノン化合物、ピロロピロール化合物、ナフタレン化合物、アントラセン化合物、フルオレン化合物、フルオランテン化合物、テトラセン化合物、ピレン化合物、コロネン化合物、キノロン化合物及びアザキノロン化合物、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、ローダミン化合物、クリセン化合物、フェナントレン化合物、シクロペンタジエン化合物、スチルベン化合物、ジフェニルキノン化合物、スチリル化合物、ブタジエン化合物、ジシアノメチレンピラン化合物、ジシアノメチレンチオピラン化合物、フルオレセイン化合物、ピリリウム化合物、チアピリリウム化合物、セレナピリリウム化合物、テルロピリリウム化合物、芳香族アルダジエン化合物、オリゴフェニレン化合物、チオキサンテン化合物、アンスラセン化合物、シアニン化合物、アクリジン化合物、8−ヒドロキシキノリン化合物の金属鎖体、2−ビピリジン化合物の金属鎖体、シッフ塩とIII族金属との鎖体、オキシン金属鎖体、希土類鎖体等が挙げられる。
【0023】
電子注入層7は、陰極8から注入された電子を発光層6へ輸送する機能を有し、例えば、バリウム、フタロシアニン、フッ化リチウム、あるいはこれらの組み合わせで形成されることが好ましい。
トップエミッション型なので、陰極8は、光透過性の材料、例えば、ITO、IZO(酸化インジウム亜鉛)等で形成されている。
【0024】
封止層9は、発光層6等が水分に晒されたり、空気に晒されたりすることを抑制する役割を有し、例えば、SiN(窒化シリコン)、SiON(酸窒化シリコン)等の材料で形成されている。
なお、図1では、基板1を横方向に切断したX-Z断面形状を示しているが、バンク5は、基板1の上面に沿って縦方向(図1で紙面表裏方向、図2でY方向)に伸長している。そして、複数本のバンク5が、基板1の上面全体に亘って配列されている。
【0025】
<有機ELディスプレイの製造方法>
図2は、上記有機ELディスプレイの製造方法を説明する工程図である。
図2(a)に示すように、基板1上に、陽極2、ITO層3、ホール注入層4を順に形成し、ホール注入層4上にバンク5を形成する。それに伴ってバンク5どうしの間に発光層形成予定領域である凹部空間5aが形成される。
【0026】
陽極2は、例えばスパッタリングによりAg薄膜を形成し、当該Ag薄膜を例えばフォトリソグラフィ法でマトリックス状にパターニングすることによって形成する。なお、Ag薄膜は真空蒸着等で形成しても良い。
ITO層3は、例えばスパッタリングによりITO薄膜を形成し、当該ITO薄膜を例えばフォトリソグラフィ法でパターニングすることにより形成する。
【0027】
ホール注入層4は、WOx又はMoxWyOzを含む組成物を用いて、真空蒸着、スパッタリングなどの技術で形成する。
バンク5は、ホール注入層4上にバンク材料を塗布する等によってバンク材料層を形成し、形成したバンク材料層の一部を除去することによって形成する。バンク材料層の除去は、バンク材料層上にレジストパターンを形成し、その後、エッチングすることにより行うことができる。バンク材料層の表面に、必要に応じてフッ素系材料を用いたプラズマ処理等によって撥液処理を施してもよい。
【0028】
次に、図2(b)に示すように、バンク5同士間の発光層形成領域となる凹部空間5aに、RGB各色のいずれかの有機発光材料を含む塗付液としてのインク6aを充填する。そして、充填したインク6aを減圧下で乾燥させることによって、図2(c)に示すように発光層6を形成する。
この発光層6の形成工程については後で詳しく説明する。
【0029】
次に、図2(d)に示すように、電子注入層7、陰極8、封止層9を順次形成する。
電子注入層7は、例えば真空蒸着によってバリウムを薄膜成形する。
陰極8は、例えばスパッタリング法によってITOを薄膜成形する。
〈発光層6の形成〉
上記発光層6の形成方法について詳細に説明する。
【0030】
インク準備工程:
RGB各色ごとに、発光層6を構成する有機発光材料を溶質とし、比較的沸点が高い溶剤(沸点170〜300℃)を含む溶剤に溶解してインクを製造する。
溶剤としては、シクロヘキシルベンゼン(CHB、沸点238℃)の他に、例えば、ジエチルベンゼン(沸点183℃)、デカハイドロナフタレン(沸点190℃)、メチルベンゾエート(沸点199℃)、アセトフェノン(沸点202℃)、フェニルベンゼン(沸点202℃)、ベンジルアルコール(沸点205℃)、テトラハイドロナフタレン(沸点207℃)、イソフォロン(沸点213℃)、n−ドデカン(沸点216℃)、ジシクロヘキシル(沸点227℃)、p−キシレングリコールジメチルエーテル(沸点235°)が挙げられる。
【0031】
これら溶剤は、単独で用いてもよいし、複数の溶剤を混合したもの、あるいは上記の高沸点溶剤と、沸点170℃未満の低沸点溶剤とを混合して用いてもよい。
インク充填工程:
基板1上の全体に亘って、複数本のバンク5どうしの間に形成された各凹部空間5a内に、液滴吐出法(インクジェット法)で、RGB各色のインクを充填する。
【0032】
インクを充填する方法として、この他に、ディスペンサー法、ノズルコート法、スピンコート法、凹版印刷、凸版印刷等を用いてもよい。
乾燥工程:
各色のインクが充填された基板1を乾燥装置20内に収納し、減圧雰囲気下でインク中の溶剤を蒸発させることによって乾燥させる。
【0033】
(乾燥装置20の構成と乾燥方法)
図3は、有機ELディスプレイ100を製造する際に乾燥工程で用いる乾燥装置20の概略構成を示す図である。
この乾燥装置20は、減圧容器21を備え、減圧容器21の内部には、インクが充填された基板1を水平に載置する支持台22が設けられ、当該支持台22の上方には、インクから蒸発する溶媒蒸気を整流する網目部材40と整流部材50が設けられている。
【0034】
図4は、乾燥装置20における減圧容器21の内部構成を示す斜視図である。
整流部材50には、溶剤蒸気を流通させるスリット53が複数並設され、各スリット53の入口(下端開口)が基板1の上面と間隙をおいて対向するように配設されている。
網目部材40は、上記スリット53よりも幅の狭い貫通孔41が複数開設された板状部材であって、整流部材50の下面を覆うように、すなわち各スリット53の入口を覆うように配設されている。それによって、網目部材40は、基板1と若干の距離をおいて基板1を覆うように水平に配されている。
【0035】
減圧容器21内の上部には、整流部材50の上端面から間隙を開けて、水平仕切板24及び排気口23が設けられている。
この排気口23に、排気管30を介して減圧ポンプ31が連結され、減圧ポンプ31を駆動することによって減圧容器21内から排気されて減圧できるようになっている。
この減圧容器21から排気する時に、網目部材40直下に存在する気体は、網目部材40の各貫通孔41を通過して整流部材50各スリット53に流れ込み、各スリット53を上方に流通して、排気口23から排出される。
【0036】
減圧容器21は、その側面に基板1を出し入れする扉(不図示)を備え、気密に密閉できるようになっている。
減圧ポンプ31は、減圧容器21を10Pa以下まで減圧できる能力を持ったもので、例えば、メカニカルブースタとロータリポンプを用いる。また、減圧容器21内の圧力に応じて使用する真空ポンプを切り変えるようにしてもよい。例えば、大気圧から素引きするときには、ロータリポンプを用いて排気し、真空度が高くなったら、メカニカルブースタを併用するようにしてもよい。
【0037】
減圧容器21には、当該減圧容器21内の圧力を測定する圧力計61が取り付けられている。また、排気管30には、排気コンダクタンスを調整する調整バルブ32が取り付けられている。圧力計61で測定する測定値は、コントローラ60に入力され、コントローラ60は、この測定値に基いて、調整バルブ32の制御、及び減圧ポンプ31の駆動制御を行う。
【0038】
網目部材40、整流部材50についての詳細:
図3,4に示すように、整流部材50は、減圧容器21内に固定され、網目部材40は、整流部材50の下面全体を覆うように取り付けられている。網目部材40及び整流部材50の下面は、支持台22上に載置される基板1の上面におけるインク充填領域全体よりも外方に拡がっている。
【0039】
その結果、網目部材40は、支持台22上に載置された基板1におけるインクが充填された上面と間隙をおいて基板1と平行に、且つインク充填領域全体を覆うように配置され、この網目部材40の直上に、溶剤蒸気を上方に流通させるスリット53が複数並設されてなる整流部材50が連結配置されている。
網目部材40は、図3,4に示すように、整流部材50の入口側に配された薄板状部材であって、整流部材50の各スリット53の入口に対して、貫通孔41が複数個づつ開設されている。
【0040】
網目部材40は、ワイヤメッシュを用いてもよいし、薄板に貫通孔を開設したマスク板を用いてもよい。
整流部材50は、縦方向(Y方向)及び鉛直上下方向(Z方向)に広がる複数の垂直仕切板51と、横方向(X方向)及び上下方向(Z方向)に広がる複数の垂直仕切板52とが、マトリクス状に組み合わされて構成されている。
【0041】
複数の垂直仕切板51は、横方向(X方向)に等間隔で配列され、複数の垂直仕切板52は、縦方向(Y方向)に等間隔で配列されており、このように配列された垂直仕切板51と垂直仕切板52によって、基板1の上方空間は、横方向及び縦方向に仕切られている。
なお、垂直仕切板52を省略して、複数の垂直仕切板51をストライプ状に設けて、基板1上の空間を横方向にだけ仕切ってもよい。
【0042】
また整流部材50において、各スリット53を流通する蒸気の流量を均一化する上で、上記のように複数の垂直仕切板51を横方向(X方向)に等間隔で配列することが好ましいが、複数の垂直仕切板51の間隔は、減圧容器21の形状や排気口23の位置によって、適宜変更してもよい。
このような乾燥装置20を用いて、次のようにインクの減圧乾燥を行う。
【0043】
減圧容器21内(初期温度25℃)の支持台22上に、インクを充填した基板1を設置して、減圧容器21を密閉する。
その後、減圧容器21を減圧ポンプ31で減圧する。
図5は、減圧容器21内の圧力プロファイル(圧力の時間的変化)の一例である。
この例では、大気圧状態から10Pa程度になるまで減圧容器21の減圧を約5分かけて行う。その後、6分間程度、調整バルブ32を調整して減圧容器21内の圧力を10Paに維持する。
【0044】
このように減圧容器21内を減圧することによってインク6a中に含まれる溶媒が蒸発して、発光層6が形成される。
その後、調整バルブ32を閉じ、減圧容器21に大気を導入して大気圧状態に戻し、減圧容器21から基板を取り出す。
〈網目部材40及び整流部材50による整流効果〉
上記のように減圧容器21内で減圧乾燥を行うときに、基板1の上方に網目部材40と整流部材50とが存在する状態で減圧乾燥しているので、基板1上の各領域から蒸発する溶媒蒸気は、網目部材40の各貫通孔41を通過して直上の各スリット53内に流れ込む。従って、垂直仕切板51と垂直仕切板52とで仕切られた各スリット53に均一的に導入される。そして、各スリット53内の導入された蒸気は、垂直仕切板51と垂直仕切板52に沿って滑らかに上方向に流れて、排気口23から排気される。
【0045】
従って、減圧乾燥中において、基板上の各領域に充填されたインクから蒸発する溶剤の流れが均一に整えられるので、形成される発光層6は均一性が良好なものとなる。

以下、図6,7,8を参照しながら、この効果を詳細に説明する。
比較例1として、乾燥室内に、網目部材40も整流部材50も設けることなく乾燥する場合に、基板1上に形成される発光層の形状にバラツキが生じるメカニズムを説明する。なお、基板1上における発光層形状のバラツキは、横方向(X方向)、縦方向(Y方向)のいずれにも生じ得るが、ここでは、主に、バンク5に対して直交する横方向(X方向)について説明する。
【0046】
図6は、基板1上に網目部材、整流部材を設けることなく、基板1上に形成された複数のバンク5の間の各空間内に充填されたインクを乾燥するときの様子を示す図であって、基板1を横方向に切断した断面で示している。
図6(a)において、破線で表す曲線の高さは、基板上の横方向各位置においてインクから蒸発する溶剤蒸気の濃度を示している。
【0047】
また図6(b)には、発光層6を形成するときに、基板1の中央領域と、基板1の右端領域及び左端領域とで、インクから溶剤が蒸発するときにサブピクセル内で蒸発速度がどのように異なるかを、矢印A1〜A3,矢印B1〜B3、矢印C1〜C3で示している。
図7は、基板中央領域、基板左端領域、基板右端領域の各サブピクセルにおいて形成される発光層6のサブピクセル内での膜厚分布(バンク5と直交する横方向に対する膜厚分布)を示す図であって、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定したものである。
【0048】
図6(a)に示されるように、基板1の端部上の領域B、Cでは、基板1中央部上の領域Aと比べて溶剤蒸気濃度が低くなっており、特に基板右端及び基板左端近くでは溶剤蒸気濃度の低下が顕著である。
このように基板1の端部で溶剤蒸気濃度の低下が生じる理由は、基板1の中央領域では、その両横に溶剤蒸気の発生源があるためインクから蒸発する溶剤蒸気は上方向だけに拡散するのに対して、基板1の右端領域Bでは、その右方に溶剤蒸気の発生源がなく、溶剤蒸気圧の低い空間が広がっているので、インクから蒸発する溶剤蒸気が、上方向だけでなく右方向にも拡散され、基板1の左端領域Cでも同様にインクから蒸発する溶剤蒸気が、上方向だけでなく左方向にも拡散され、拡散力が大きいためである。
【0049】
ここで、基板1上の蒸気濃度が低い領域ほど、インク表面付近での蒸気濃度勾配が大きくなり、溶剤の蒸発速度も大きくなるので、図6(b)中、基板右端領域の図に示されるように、基板1の右端領域においては、ピクセル左端部からの蒸発速度B1と比べて、ピクセル中央部からの蒸発速度B2の方が大きく、ピクセル右端部からの蒸発速度B3がさらに大きくなる。
【0050】
このように充填されたインク液の液溜まりの中で、蒸発速度に差が生じると、蒸発速度の小さいピクセル左端部から蒸発速度の大きいピクセル右端部へとインク液が流れ込み、流れ込んだインク液に含まれる溶剤だけが蒸発していくので、ピクセル右端部において発光層材料の堆積量が多くなり、その分膜厚が大きくなる。従って、基板1の基板右端領域のサブピクセルにおいて形成される発光層の膜厚は、図7の基板右端領域のグラフに示されるようにピクセル左端部よりもピクセル右端部の方が大きくなる。
【0051】
基板左端領域においても、同様に、ピクセル右端部からの蒸発速度C3と比べて、ピクセル中央部からの蒸発速度C2の方が大きく、ピクセル左端部からの蒸発速度C1がさらに大きい。従って、インク液中において、ピクセル部からピクセル左端部に液が流れ込み、基板1の左端領域において形成される発光層の膜厚は、ピクセル右端部よりもピクセル左端部の方が大きくなる。
【0052】
一方、図6(b)中、基板中央領域の図に示すように、基板中央領域においては、ピクセル内で左右の蒸気圧の差が少ないので、ピクセル左端部とピクセル右端部からの蒸発速度A1、A3はほぼ同等である。ただし、ピクセル端部においては、隣接するバンク5の上にも溶剤蒸気が拡散できるので、ピクセル中央部と比べてピクセル端部では、蒸気濃度が若干小さくなり、ピクセル中央部からの蒸発速度A2と比べて、ピクセル端部からの蒸発速度A1、A3は若干大きくなる。
【0053】
従って基板中央領域では、充填されたインク液の液溜まりの中で、ピクセル中央部から素子端部へとインク液が流れ込み、図7の基板中央領域のグラフに示されるようにピクセル中央部の膜厚と比べてピクセル端部の膜厚が若干大きくなる。
これに対して、本実施の形態では、基板1の上方に網目部材40と整流部材50とが存在する状態で減圧乾燥しているので、上述したように、各スリット53に均一的に導入され、各スリット53内の導入された蒸気は、垂直仕切板51及び垂直仕切板52に沿って滑らかに上方向に流れて、排気口23から排気される。
【0054】
従って、減圧乾燥中において、基板1上の各領域における溶剤蒸気濃度は均一的になり、それに伴って、基板右端領域及び基板左端領域のピクセル内での蒸発速度差も小さく抑えられるので、インク液の流れ(対流)も小さく抑えられる。よって、形成される発光層6のピクセル内における左右の膜厚差も小さく抑えられる。
また、整流部材50の各スリット53の下端入口に網目部材40が存在しているので、以下に説明するように、さらに均一的な形状の発光層6を形成することができる。
【0055】
図8は、網目部材40が存在する場合と存在しない場合とで、各スリット53の下端入口における蒸気の流れを示す図である。
図8(a)は、図3中の○で囲んだCの部分を拡大した図であって、網目部材40が存在しない場合を示している。
図8(b)は、整流部材50の各スリット53の下端入口に網目部材40が存在しない場合を示している。この場合、図中矢印a2で示すように溶媒蒸気が各スリット53の下端入口に流入するときに、蒸気の流れが乱れやすい。そして、各スリット53の下端入口で蒸気の流れが乱れると、それに応じて、基板1上に形成される各発光層6の形状が乱れて、均一性が損なわれ得る。
【0056】
これに対して、本実施の形態では、図8(a)に示すように各スリット53の下端入口に網目部材40が存在し、基板1上の溶媒蒸気は複数の貫通孔41を通過して整流されながら各スリット53に導入されるので、各スリット53の入口付近で乱れが生ずることがない。従って、基板1上に形成される発光層6の形状に乱れが生じることなく、基板1上に形成される各発光層6は均一的な形成となる。
【0057】
以上のように、整流部材50による基板1の全体領域に対する整流効果に加えて、網目部材40による各スリット53の入口内での整流効果も得られるので、基板1の全体領域において、各素子領域に充填されたインクから溶媒が均一的に蒸発し、それによって、均一的な形状の発光層6が形成される。
網目部材40、整流部材50の仕様:
整流部材50において、垂直仕切板51のピッチW(各スリット53の横幅に相当)は、狭いほど整流効果が得られるので50mm以下とすることが好ましい。一方、ピッチWをあまり狭くすると、垂直仕切板51の厚みを確保することができず、また、溶媒蒸気がスリット53を流通するときの圧力損失が大きくなるので、10mm以上とすることが好ましい。
【0058】
各スリット53の上下方向の長さLは、短すぎると整流効果が十分得られず、スリット53の上端側(出口側)で生じる気流の乱れが基板1に伝わりやすいので、10cm以上とすることが好ましい。また、長さLが長すぎると溶剤蒸気がスリット53を流通するときの圧力損失が大きくなるので、500cm以下とすることが好ましい。
スリット53の長さLとして特に好ましい範囲は20cm〜100cmである。
【0059】
網目部材40に開設する複数の貫通孔41は、各スリット53の入口に臨み、この入口に流れ込む溶剤蒸気を整流する働きをなす。
従って、複数の貫通孔41は、整流部材50の各スリット53の入口全体にわたって均等に分散配置することが好ましい。
例えば、図4における網目部材40の拡大図に示されるように、スリット53の入口開口領域全体にわたって、複数の貫通孔41が横方向(X方向)及び縦方向(Y方向)にマトリックス状に配列することが好ましい。
【0060】
各貫通孔41の開口形状は、円形状、楕円形状、矩形状などが望ましいが、これらに限定されない。
また、下記実施例で示すように、網目部材40の各貫通孔41を、基板1上のインク充填領域と対応するように形成してもよい。
貫通孔41の開口幅(孔径)は、画素サイズ(画素1辺の長さ)以上に設定する。画素サイズは通常10μm以上なので、貫通孔41の幅(孔径)も10μm以上に設定する。一方、整流効果を得るために、貫通孔41の幅(孔径)は1mm以下に設定することが好ましい。
【0061】
基板1と網目部材40との間隙Gは、狭すぎると基板1が網目部材40に吸着される可能性があるので0.1mm以上とする。一方、間隙Gが広すぎると、網目部材40及び整流部材50による整流効果が基板1の表面に及びにくくなるので、間隙Gを50mm以下に設定することが好ましい。
(網目部材40としてマスク板を用いて乾燥する実施例)
塗布液:
有機EL素子の発光層形成用インクであって、溶媒は安息香酸ブチル、溶質はポリフルオレンポリマー(品名:Poly(9,9-di-n-dodecylfluorenyl-2,7-diyl)、アルドリッチ製)であり、濃度は1.0wt%である。
【0062】
基板:
平らなガラス上に、感光材料をスピン塗布して、フォトリソグラフィー技術でパターンニングすることによって、基板上にバンクを形成する。ここでは図9に示すように、基板1上に幅25μのバンク5を間隙65μmで形成する。
塗布工程:
基板上のバンク間(ピクセル領域)に、インクジェット装置を用いて、インクを充填する。
【0063】
乾燥工程:
乾燥工程で使用する乾燥装置20は、網目部材40として、金属薄板に貫通孔41を開口したメタルマスク板を用いる。そして、上記図5に示した圧力プロファイルに基づいて減圧容器21内を減圧する。
メタルマスク板は、厚み0.05mm〜0.1mmのステンレス板に対して、エッチングを施すことによって貫通孔41を開設することによって製造することができる。
【0064】
図9に示す例ではメタルマスク板の厚さは100μmであって、貫通孔41が、基板1上におけるインク6aの充填領域(素子形成予定領域)と同一のパターン(貫通孔41と素子領域とが1対1で対応するパターン)で形成されている。このようなメタルマスクは、バンク5を形成する際に用いる露光用マスクと同じ設計仕様のマスクを用いてエッチングすることによって製造することができる。
【0065】
そして、網目部材40における各貫通孔41の直下に、各ピクセル領域(インク6aが充填された領域)が位置するように、基板1を支持台22の上に配置する。
網目部材40の各貫通孔41と各ピクセル領域とを位置合わせするには、例えば、支持台22の上面及び基板1に、それぞれ位置合わせ用のアラインメントマークを形成しておいて、両方のアラインメントマークを合わせすれば、容易に位置合わせを実施できる。
【0066】
この状態で減圧乾燥を行うことによって、基板1上の各素子領域に充填されたインク6aから蒸発する溶剤蒸気は、その真上に位置する各貫通孔41に吸い込まれるので、各ピクセル領域に充填されたインク6aを同等の条件下で減圧乾燥することができる。
(テーパー状の貫通孔を有するマスク板を用いて乾燥する実施例)
図10に示す実施例では、上記図9と同様に、網目部材40としてメタルマスク板を用いるが、各貫通孔41の幅(孔径)が基板1に近い側で大きくなるように、各貫通孔41がテーパー状に形成されている。これによって、発光層6の膜厚を平坦に形成する効果が高まることが期待できる。
【0067】
すなわち、バンク間に充填されたインク6aは、その表面張力によって、ピクセル中央領域で厚く盛り上がり、ピクセル端部領域では薄くなっている。
ここで、貫通孔41をテーパー状に形成すれば、貫通孔41の入口側(下側)の開口面積を大きくすることによって、インク6aが充填された領域を覆うようにすることも容易である。そして、それによって、ピクセル中央部から蒸発する溶剤蒸気とピクセル端部から蒸発する溶剤蒸気とを均一的に貫通孔41に取り込むことができる。
【0068】
その結果、各素子領域に充填されたインク6aにおいて、ピクセル中央領域からの溶媒の蒸発速度と、ピクセル端部領域からの溶媒の蒸発速度とを均一化して、発光層6の膜厚を平坦に形成する効果を高めることが期待できる。
貫通孔41をテーパー状に形成する利点についてさらに述べると、図9に示すように、貫通孔41の形状がストレート(円柱状)の場合、その孔径R1を、バンク5間のインク6aの幅(65μm)と同等程度に設定すると、網目部材40における貫通孔41間の肉厚t1もバンク幅(25μm)程度に狭くなってしまうが、図10のように貫通孔41の形状がテーパー状であると、入口側で貫通孔41の孔径R1をバンク5間のインク6aの幅(65μm)と同等程度に大きくしても、網目部材40における貫通孔41間の出口側の肉厚t2が入口側の肉厚t1より大きい(肉厚t2>肉厚t1)ので、網目部材40の強度を確保しやすく、貫通孔41を形成するときの加工も容易である。
【0069】
このように貫通孔41の形状をテーパー状に形成するには、一般的なテーパーエッチング技術を用いればよく、金属薄板の原板に対して、ウェットエッチングで貫通孔41を開設するときの条件をコントロールすることによって所望のテーパ角で形成することができる。
また、貫通孔41をテーパー状に形成する場合、網目部材40の主面(水平面)に対する貫通孔41の内壁面の角度は65〜85°の範囲内に設定することが好ましい。
【0070】
(変形例)
(1)上記実施の形態では、基板上に複数のEL素子を形成する際に、バンクどうしの間に発光層を形成する場合について示したが、電荷注入輸送層など、発光層以外の機能層をバンクどうしの間にウェットで形成する場合も、同様に実施することができ、同様の効果を奏する。
【0071】
(2)上記実施の形態では、トップエミッション型有機ELディスプレイの発光層を形成する例を説明したが、ボトムエミッション型有機ELディスプレイの発光層を形成する場合にも適用可能である。また、有機EL素子の発光層以外に、有機EL素子の電荷輸送層、カラーフィルタなどの機能層を形成する際にも適用できる。
(3)さらに、実施の形態で説明した有機EL素子以外に、プラスマディスプレイパネルのリブなどを形成したり、フラットパネルディスプレイのオーバーコート膜、フォトリソ加工を行うためのレジスト膜、液晶パネル用配向膜などを形成する際にも、本発明を適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、インクを塗布乾燥することで機能性膜を形成する技術分野において有効な技術であり、有機ELディスプレイをはじめ有機EL光源など、有機ELパネルを製造するのに適用することができ、基板面内での発光特性が均一的な有機ELパネルを製造することができる。
有機ELディスプレイにおいては画像表示面内における発光特性が均一化されるので画質の向上にも寄与する。
【符号の説明】
【0073】
1 基板
5 バンク
5a 凹部空間
6 発光層
6a インク
10a,10b,10c 有機EL素子
20 乾燥装置
21 減圧容器
22 支持台
23 排気口
24 水平仕切板
30 排気管
31 減圧ポンプ
32 調整バルブ
40 網目部材
41 貫通孔
50 整流部材
51 垂直仕切板
52 垂直仕切板
53 スリット
60 コントローラ
61 圧力計
100 有機ELディスプレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を減圧可能な減圧容器と、当該減圧容器から排気する減圧ポンプとを備え、前記減圧容器内で、基板の上面に充填された塗布液に含まれる溶剤を蒸発させることにより有機EL素子の機能層を形成する製造装置であって、
前記減圧容器内には、
溶剤蒸気を流通させるスリットが複数並設された整流部材が、当該各スリットの入口が前記基板の上面と間隙をおいて対向するように配設され、
前記スリットよりも幅の狭い貫通孔が複数開設されてなる網目部材が、前記整流部材の各スリットの入口を覆うように配設されていることを特徴とする製造装置。
【請求項2】
前記網目部材において、前記整流部材の各スリットの入口に対して、前記貫通孔が複数個づつ臨むように形成されていることを特徴とする請求項1記載の製造装置。
【請求項3】
前記網目部材において、
前記複数の貫通孔は、各スリットの入口に臨む領域内でマトリックス状に配列されていることを特徴とする請求項2記載の製造装置。
【請求項4】
前記網目部材は、
前記基板上における塗付液が充填された全体領域よりも外方に拡がっていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の製造装置。
【請求項5】
前記整流部材において、前記複数の各スリットは鉛直方向に貫通し、
前記減圧容器の上部に、前記各スリットから排出される溶剤蒸気を排気する排気口が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の製造装置。
【請求項6】
前記網目部材は、メタル板に貫通孔が開設されてなるメタルマスクであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか載の製造装置。
【請求項7】
前記メタルマスクに開設された各貫通孔は、
前記基板と対向する側の開口面積よりも、反対側の開口面積が小さいことを特徴とする請求項6記載の製造装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか記載の製造装置を用いて、有機EL素子の機能層を形成する工程を含むことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか記載の製造装置を用いて、有機EL素子の機能層を形成する工程を含むことを特徴とする有機EL表示装置の製造方法。
【請求項10】
基板の上面に充填された塗布液に含まれる溶剤を蒸発させて塗付膜を形成する塗付膜形成方法であって、
減圧容器内に、
塗布液が上面に充填された基板を配置し、
溶剤蒸気を流通させるスリットが複数並設された整流部材を、各スリットの入口が基板の上面と間隙をおいて対向するように配設するとともに、
前記スリットよりも幅の狭い貫通孔が複数開設されてなる網目部材を、前記各スリットの入口を覆うように配設した状態で、
前記減圧容器内を減圧することによって、前記塗布液に含まれる溶剤を蒸発させることを特徴とする塗付膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−71013(P2011−71013A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222345(P2009−222345)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】