説明

有機EL装置の製造方法

【課題】有機EL素子を封止する無機物層を含む被膜を形成するときに、有機EL素子に与えるダメージを抑えながら、水蒸気や酸素に対するバリア性の高い被膜を形成することができる有機EL装置の製造方法を提供すること。
【解決手段】基板10上に、少なくとも一方が透明または半透明の一対の電極間に発光層を含む有機EL層22を挟んで構成した有機EL素子20と、有機EL素子20に接する少なくとも1層の無機物膜を含み、有機EL素子20を封止する封止層30と、を形成する際に、封止層30中の有機EL素子20に接する第1の封止膜31をイオンビームスパッタ法で形成し、封止層30中の他の無機物膜をイオンビームスパッタ法以外の他の成膜方法で形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、有機EL(Electro Luminescence)装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、少なくとも一方が透明または半透明の一対の電極間に有機発光材料からなる発光層を含む有機EL層を挟んだ構造を有する。このような構造を有する有機EL素子の一対の電極間に電圧を印加すると、発光層には陰極から電子が注入され、陽極から正孔が注入され、これらが発光層で再結合する。そして、このときに生じるエネルギで、発光層中の発光材料が励起され、発光層で発光する。この有機EL素子を基板に形成したものを、この明細書では有機EL装置という。たとえば、平板状の基板に有機EL素子を形成した有機EL装置は、面状光源、セグメント表示装置、ドットマトリックス表示装置などに用いることができる。
【0003】
有機EL素子は、水蒸気や酸素にさらされると劣化してしまう。そのため、たとえばガラス基板などの基板上に、陽極と、発光層を含む有機EL層と、陰極とを順に積層して有機EL素子を形成した後に、窒化珪素などからなる無機パッシベーション膜と、無機パッシベーション膜の表面上に樹脂からなる樹脂封止膜と、で有機EL素子全体を被覆することで、有機EL素子が水蒸気と接触することによる劣化を防止している(たとえば、特許文献1参照)。ここで、無機パッシベーション膜は、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法やスパッタリング法によって形成される。
【0004】
【特許文献1】特開2000−223264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の無機パッシベーション膜の形成に用いられるスパッタ法には、種々のものがあるが、一般的には成膜速度が早いマグネトロンスパッタ法が用いられる。このマグネトロンスパッタ法は、上述したように高い成膜レートで無機パッシベーション膜を形成することができるが、水蒸気や酸素に対するバリア性の高い被膜を形成することができないという問題点があった。また、従来の無機パッシベーション膜の形成に用いられるCVD法は、高い成膜レートで無機パッシベーション膜を形成することができるとともに、マグネトロンスパッタ法に比較して発光層へのダメージを低くすることができるが、やはり水蒸気や酸素に対するバリア性の高い被膜を形成することができないという問題点があった。つまり、マグネトロンスパッタ法やCVD法で形成した無機パッシベーション膜には、ピンホールなどの欠陥が生じてしまい、その欠陥を介して外部の水蒸気や酸素などのガスが有機EL素子内へと浸入してしまうという問題点があった。
【0006】
この発明は、上記に鑑みてなされたもので、有機EL素子を封止する無機物層を含む被膜を形成するときに、有機EL素子に与えるダメージを抑えながら、水蒸気や酸素に対するバリア性の高い被膜を形成することができる有機EL装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、この発明にかかる有機EL装置の製造方法は、基板上に、少なくとも一方が透明または半透明の一対の電極間に発光層を含む有機エレクトロルミネッセンス(以下、ELということがある)層を挟んで構成した有機EL素子と、前記有機EL素子に接する少なくとも1層の無機物膜を含み、前記有機EL素子を封止する封止層と、を形成して有機EL装置を製造する有機EL装置の製造方法において、前記封止層中の前記1層の無機物膜をイオンビームスパッタ法で形成し、前記封止層中の他の無機物膜をイオンビームスパッタ法以外の他の成膜方法で形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、有機EL素子上に水蒸気や酸素などのガスに対してバリア性の高い封止層を形成することができるとともに、封止層の形成時に有機EL素子に与えるダメージを抑えることができる。その結果、寿命の長い有機EL装置を得ることができるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる有機EL装置の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、以下の実施の形態で用いられる有機EL装置の断面図は模式的なものであり、層の厚みと幅との関係や各層の厚みの比率などは現実のものとは異なる。
【0010】
図1は、この発明が適用される有機EL装置の構造の一例を模式的に示す断面図である。この有機EL装置は、基板10上に形成された有機EL素子20の基板10と反対側から光を放出するトップエミッション型の有機EL装置を示す図であり、基板10上に、陽極21と、発光層を含む有機EL層22と、陰極23と、が順に積層された有機EL素子20が形成され、この基板10上に形成された有機EL素子20全体を覆うように、封止層30が形成された構造を有する。
【0011】
ここで、基板10としては、ガラス基板やシリコン基板、プラスチック基板など種々のものを用いることができる。また、陽極21としては、比較的仕事関数の大きな(4.0eVより大きな仕事関数を持つものが好適である)、導電性の金属酸化物膜や半透明の金属薄膜などが一般的に用いられる。具体的には、インジウムスズ酸化物(Indium Tin Oxide、以下、ITOという)、酸化スズなどの金属酸化物、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、銅(Cu)などの金属またはこれらのうちの少なくとも1つを含む合金、ポリアニリンまたはその誘導体、ポリチオフェンまたはその誘導体などの有機の透明導電膜などを用いることができる。また、陽極21は、必要があれば二層以上の層構成により形成することができる。陽極21の膜厚は、電気伝導度を(ボトムエミッション型の場合には、光の透過性も)考慮して、適宜選択することができるが、たとえば10nm〜10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。陽極21の作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法などが挙げられる。なお、トップエミッション型の場合には、基板側に出射される光を反射させるための反射膜を陽極21の下に設けてもよい。
【0012】
有機EL層22は、少なくとも有機物からなる発光層を含んで構成される。この発光層は、蛍光または燐光を発光する有機物(低分子化合物または高分子化合物)を有する。なお、さらにドーパント材料を含んでいてもよい。有機物としては、色素系材料、金属錯体系材料、高分子系材料などを挙げることができる。また、ドーパント材料は、有機物の発光効率の向上や発光波長を変化させるなどの目的で必要に応じて有機物中にドープされるものである。これらの有機物と必要に応じてドープされるドーパントとからなる発光層の厚さは通常20〜2,000Åである。
【0013】
(色素系材料)
色素系材料としては、たとえば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマーなどが挙げられる。
【0014】
(金属錯体系材料)
金属錯体系材料としては、たとえば、イリジウム錯体、白金錯体などの三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体など、中心金属に、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、ベリリウム(Be)などまたはテルビウム(Tb)、ユーロピウム(Eu)、ジスプロシウム(Dy)などの希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを有する金属錯体などを挙げることができる。
【0015】
(高分子系材料)
高分子系材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、上記色素体や金属錯体系発光材料を高分子化したものなどが挙げられる。
【0016】
上記発光性材料のうち、青色に発光する材料としては、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、およびそれらの重合体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体やポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0017】
また、緑色に発光する材料としては、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0018】
また、赤色に発光する材料としては、クマリン誘導体、チオフェン環化合物、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることが出来る。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0019】
(ドーパント材料)
ドーパント材料としては、たとえば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾンなどを挙げることができる。
【0020】
また、有機EL層22には、発光層以外に、発光層と陽極21との間に設けられる層と、発光層と陰極23との間に設けられる層と、を適宜設けることができる。まず、発光層と陽極21との間に設けられるものとして、陽極21からの正孔注入効率を改善する正孔注入層や、陽極21、正孔注入層または陽極21により近い正孔輸送層から発光層への正孔注入を改善する正孔輸送層などがある。また、発光層と陰極23との間に設けられるものとして、陰極23からの電子注入効率を改善する電子注入層や、陰極23、電子注入層または陰極23により近い電子輸送層からの電子注入を改善する機能を有する電子輸送層などがある。
【0021】
(正孔注入層)
正孔注入層を形成する材料としては、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウムなどの酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体などが挙げられる。
【0022】
(正孔輸送層)
正孔輸送層を構成する材料としては、ポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体、ポリアリールアミンもしくはその誘導体、ポリピロールもしくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)もしくはその誘導体、またはポリ(2,5−チエニレンビニレン)もしくはその誘導体などが例示される。
【0023】
なお、これらの正孔注入層または正孔輸送層が、電子の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの正孔輸送層や正孔注入層を電子ブロック層ということもある。
【0024】
(電子輸送層)
電子輸送層を構成する材料としては、公知のものが使用でき、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタンもしくはその誘導体、ベンゾキノンもしくはその誘導体、ナフトキノンもしくはその誘導体、アントラキノンもしくはその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタンもしくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレンもしくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、または8−ヒドロキシキノリンもしくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリンもしくはその誘導体、ポリキノキサリンもしくはその誘導体、ポリフルオレンもしくはその誘導体などが例示される。
【0025】
(電子注入層)
電子注入層としては、発光層の種類に応じて、Ca層の単層構造からなる電子注入層、または、Caを除いた周期律表IA族とIIA族の金属であり且つ仕事関数が1.5〜3.0eVの金属およびその金属の酸化物、ハロゲン化物および炭酸化物の何れか1種または2種以上で形成された層とCa層との積層構造からなる電子注入層を設けることができる。仕事関数が1.5〜3.0eVの、周期律表IA族の金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、リチウム、フッ化リチウム、酸化ナトリウム、酸化リチウム、炭酸リチウムなどが挙げられる。また、仕事関数が1.5〜3.0eVの、Caを除いた周期律表IIA族の金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、酸化ストロンチウム、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0026】
なお、これらの電子輸送層または電子注入層が、正孔の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの電子輸送層や電子注入層を正孔ブロック層ということもある。
【0027】
陰極23としては、仕事関数が比較的小さく(4.0eVより小さな仕事関数を持つものが好適である)、発光層への電子注入が容易な透明または半透明の材料が好ましい。たとえば、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、Be、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、Al、スカンジウム(Sc)、バナジウム(V)、Zn、イットリウム(Y)、インジウム(In)、セリウム(Ce)、サマリウム(Sm)、Eu、Tb、イッテルビウム(Yb)などの金属、または上記金属のうち2つ以上の合金、もしくはそれらのうち1つ以上と、Au,Ag,Pt,Cu,マンガン(Mn)、チタン(Ti)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、スズ(Sn)のうち1つ以上との合金、またはグラファイトもしくはグラファイト層間化合物、またはITO、酸化スズなどの金属酸化物などが用いられる。
【0028】
なお、陰極23を2層以上の積層構造としてもよい。この例としては、上記の金属、金属酸化物、フッ化物、これらの合金と、Al,Ag,クロム(Cr)などの金属との積層構造などが挙げられる。陰極23の膜厚は、電気伝導度や耐久性を考慮して、適宜選択することができるが、たとえば10nmから10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。陰極23の作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、また金属薄膜を熱圧着するラミネート法などが用いられる。
【0029】
これらの発光層と陽極21との間と、発光層と陰極23との間に設けられる層は、製造する有機EL装置に求められる性能に応じて、適宜選択可能である。たとえば、この発明で使用される有機EL素子20の構造として、下記の(a)〜(o)の層構成のいずれかを有することができる。
【0030】
(a)陽極/正孔輸送層/発光層/陰極
(b)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
(c)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(d)陽極/正孔注入層/発光層/陰極
(e)陽極/発光層/電子注入層/陰極
(f)陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極
(g)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/陰極
(h)陽極/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
(i)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
(j)陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/陰極
(k)陽極/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(l)陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(m)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(n)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(o)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(ここで、「/」は各層が隣接して積層されていることを示す。以下同じ。)
【0031】
封止層30は、水蒸気や酸素などの気体が有機EL素子20に接触することを防ぐために、上記気体に対して高いバリア性を有する層で有機EL素子を封止するために設けられる。この封止層30は、有機EL層20に接して形成される無機物膜を少なくとも1層有する。ここで、バリア性とは、有機EL装置が置かれる環境に存在する水蒸気や酸素などの気体の有機EL素子20への侵入し難さをいうものとする。具体的には、バリア性の高低は、膜に存在するピンホールなどの膜の欠陥に影響され、緻密な連続膜ほどバリア性が高くなる。また、封止層30として、SiN膜やSiO膜、SiON膜、Al23膜などの単体膜やこれらの積層膜、またはこれらの膜とアクリルモノマーなどの有機物膜との積層膜が使用される。この例では、封止層30は、基板10側からバリア性の高い第1の封止膜31と、第1の封止膜31よりもバリア性の劣る第2の封止膜32とから構成される。
【0032】
この実施の形態に示す例では、基板10側にバリア性の高い第1の封止膜31を形成し、その上に第1の封止膜31よりもバリア性の低い、第1の封止膜31と同じ材料の第2の封止膜32を形成することで、有機EL素子20を外気から守り、有機EL素子20と水蒸気や酸素などとの接触を抑制することができる。この気体に対するバリア性の高い第1の封止膜31は、封止層30の有機EL素子20側のごく一部を構成すればよく、製造コストの点からは、第1の封止膜31の厚さが50〜100nmであることが好ましい。
【0033】
つぎに、このような構成を有する有機EL装置の製造方法について説明する。図2−1〜図2−3は、この発明にかかる有機EL装置の製造方法の一例を模式的に示す図である。まず、ガラス基板などの基板10上に、従来公知の方法によって、所定の形状にパターニングした陽極21、発光層を含む有機EL層22、および陰極23を順に形成して、有機EL素子20を形成する(図2−1)。このとき、たとえば有機EL装置をドットマトリックス表示装置として使用する場合には、発光領域をマトリクス状に区切るために図示しないバンクが形成され、このバンクで囲まれる領域に発光層を含む有機EL層22が形成される。
【0034】
ついで、有機EL素子20が形成された基板10上に、イオンビームスパッタ法によって所定の厚さの第1の封止膜31を形成する(図2−2)。この第1の封止膜31の厚さとしては、少なくとも50nm以上であることが望ましい。これは、50nmよりも薄いと、第1の封止膜31中にピンホールなどの欠陥が生成される可能性が高いからである。また、第1の封止膜31を50nmよりも厚くしてもよいが、この場合には、イオンビームスパッタ法の特性により成膜に時間がかかってしまうので、第1の封止膜31の厚さは、有機EL装置の製造にかけられる時間によって適宜選択されることになる。
【0035】
図3は、イオンビームスパッタ装置の構成を模式的に示す図である。この図に示されるように、イオンビームスパッタ装置100は、真空チャンバ101内に基板10(有機EL素子20が形成された基板10A)を保持する基板ホルダ102と、第1の封止膜31を構成する材料またはその材料の一部からなるターゲット103と、ターゲット103にプラズマ化したイオンビーム111を供給するイオン源104と、を備える。真空チャンバ101内は、成膜中に所定の真空度となるように真空ポンプ105によって排気された状態となっている。また、たとえば、第1の封止膜31がSiO膜で構成される場合には、ターゲット103としてSiOやSiが用いられる。ただし、Siターゲットを用いる場合には、基板ホルダ102に保持された基板10Aの表面にSiO膜が堆積するように、図示しないガス供給部から酸素ガスなどが真空チャンバ101内に供給される。また、他の材料からなる第1の封止膜31を形成する場合でも同様である。
【0036】
このようなイオンビームスパッタ装置100では、基板ホルダ102に基板10Aを保持し、真空ポンプ105によって真空チャンバ101内が所定の真空度にされた後、イオン源104からターゲット103に向けてアルゴンイオンなどのイオンビーム111が発射され、所定のエネルギで加速されてターゲット103に衝突する。これによって、ターゲット構成粒子がスパッタされ、そのスパッタ粒子112の一部が基板10Aの表面へと到達し、堆積することによって薄膜(第1の封止膜31)が形成される。
【0037】
このとき、イオン源104から出射されるイオンビーム111(入射イオン)は、ターゲット103に衝突した後に、ターゲット103内に進入したり、ターゲット103で反射されたりする。そして、ターゲット103で反射されたイオンビーム111(入射イオン)の一部は、基板10A方向へと反射されるが、イオンビームスパッタ装置100の構成から、ターゲット103で基板10A方向へと反射される高エネルギを有するイオンビームの割合は、全体から見て極わずかであり、マグネトロンスパッタ法に比較して、有機EL素子20の発光層に与える影響を低く抑えることができる。また、イオン源104でアルゴンガスなどをプラズマ化してイオンビーム111を生成するので、薄膜を形成する真空チャンバ101内にはプラズマが侵入せず、プラズマによる基板10A上の発光層への影響も抑えることができる。
【0038】
また、イオンビームスパッタ法で形成される被膜は、マグネトロンスパッタ法やCVD法に比較して成膜レートが遅いという欠点はあるが、緻密でありバリア性が高くなる。そのため、イオンビームスパッタ法で形成された、ある厚さの被膜のバリア性は、CVD法やマグネトロンスパッタ法で形成された同じ厚さの被膜に比して約3〜10倍のバリア性を有する。つまり、イオンビームスパッタ法で形成された、ある厚さの被膜のバリア性は、CVD法やマグネトロンスパッタ法で形成されたその厚さの約3〜10倍の厚さを有する被膜と同等のバリア性を有する。
【0039】
その後、CVD法やマグネトロンスパッタ法などのイオンビームスパッタ法以外の成膜法で、第1の封止膜31上に所定の厚さの第2の封止膜32を形成する(図2−3)。この第2の封止膜32の形成には、イオンビームスパッタ法に比較して成膜レートが高いものを用いる。以上の工程によって、有機EL装置が製造される。
【0040】
このように、封止層30のうち有機EL素子20側の所定の厚さの第1の封止膜31をイオンビームスパッタ法で形成し、その上にCVD法やマグネトロンスパッタ法で第2の封止膜32を形成することで、有機EL素子20の外気に対するバリア性を従来の封止層を有する有機EL装置に比して高めることができる。また、第1の封止膜31が第2の封止膜32に比してバリア性の高い薄膜であるので、封止層30全体の厚さを、CVD法やマグネトロンスパッタ法で全ての封止層を形成した場合の薄膜の厚さに比して、薄くすることができるという効果を有する。
【0041】
なお、上述した説明では、1つの材料で構成した封止層30を異なる製造方法で形成した場合を例に挙げたが、この発明がこの例に限定されるものではなく、他の方法で形成したものでもよい。図4−1〜図4−3は、封止層の構造の一例を示す図である。なお、これらの図において、上記した図と同一の構成要素には同一の符号を付してその説明を省略している。
【0042】
図4−1は、封止層を3層の無機物膜で構成した場合を示す図である。この封止層30は、基板10(有機EL素子20)側から順に、SiN膜33/SiO膜またはSiON膜34/SiN膜35の3層の積層構造で形成されている。このうち、最下層のSiN膜33がイオンビームスパッタ法で形成され、他のSiO膜またはSiON膜34と、その上に形成されるSiN膜35とが、CVD法またはマグネトロンスパッタ法などの方法によって成膜されている。
【0043】
図4−2は、図4−1と同様に封止層を3層の無機物膜で構成した場合を示す図である。この封止層30は、図4−1の場合で、最下層のSiN膜33が、イオンビームスパッタ法で形成される第1のSiN膜33Aと、第1のSiN膜33A上にCVD法やマグネトロンスパッタ法などの方法で形成される第2のSiN膜33Bとからなる場合を示している。なお、図4−1と同様の構成については、同じ符号を付してその説明を省略する。
【0044】
また、この図4−2において、SiO膜またはSiON膜34と、その上に形成されるSiN膜35についても、イオンビームスパッタ法で形成される第1の膜と、この第1の膜上にCVD法やマグネトロンスパッタ法などの方法で形成される第2の膜とから構成される積層構造としてもよい。
【0045】
図4−3は、封止層が無機物膜と有機物膜の積層構造で構成した場合を示す図である。この封止層30は、基板10(有機EL素子20)側から、無機物膜36A,36B,36Cと有機物膜37A,37Bとが互いに順番に形成され、最上位の無機物膜36C上に最上位有機物膜38が形成される構造を有している。ここで、有機物膜37A,37Bおよび最上位有機物膜38は、無機物膜36A,36B,36C上に形成されたピンホールなどの欠陥を埋め、バリア性を高める機能を有する。また、形成される有機物膜37A,37Bの形成領域は、無機物膜36A,36B,36Cの形成領域よりも狭くする必要がある。これは、有機物膜37A,37Bの端部を無機物膜36A,36B,36Cと同じとすると、有機物膜37A,37Bの端部が外気に露出され、そこから有機物膜37A,37Bが劣化してしまうからである。
【0046】
このような構造を有する封止層30の製造は、最下層の無機物膜36Aが上記したイオンビームスパッタ法で形成され、有機物膜37A,37Bおよび最上位有機物膜38はフラッシュ蒸着法などによって形成され、他の無機物膜36B,36CがCVD法やマグネトロンスパッタ法で形成されることで行われる。
【0047】
このような無機物膜36A,36B,36Cと有機物膜37A,37Bを交互に積層した形態とすることで、最下層のバリア性の高い無機物膜36Aの存在と、無機物膜36A,36B,36C上の欠陥を埋める有機物膜37A,37Bと最上位有機物膜38を設けることによる相乗効果によって、よりバリア性の高い封止層30を形成することができる。また、従来のCVD法やマグネトロンスパッタ法などの方法で成膜した場合では、たとえば5層の無機物膜が必要であったものが、イオンビームスパッタ法を用いて最下層の無機物膜36Aを形成することで、より少ない数の無機物膜(たとえば3層の無機物膜)で従来の5層の無機物膜の構造の場合と同じバリア性を有する封止層30を得ることができる。
【0048】
また、図4−3の構成において、各無機物膜36A,36B,36Cを形成する際に、最初にイオンビームスパッタ法で所定の厚さの第1の膜を形成し、第1の膜上にCVD法やマグネトロンスパッタ法などの方法で第2の膜を形成した構成とするようにしてもよい。
【0049】
上述した説明では、トップエミッション型の有機EL装置を例に挙げて説明したが、有機EL層22で生じる光を基板10側から取り出すボトムエミッション型の有機EL装置にも、この発明を適用することができる。
【0050】
この発明の有機EL素子は面状光源、セグメント表示装置、ドットマトリックス表示装置として用いることができる。
【0051】
この実施の形態によれば、基板10上に形成された有機EL素子20を外気と遮断するための封止層30を形成する際に、有機EL素子20を直接覆う被膜をイオンビームスパッタ法で形成し、その上にCVD法やマグネトロンスパッタ法で被膜を形成するようにしたので、製造された有機EL装置の有機EL素子20の外気に対するバリア性を高めることができるという効果を有する。また、封止層30の一部をイオンビームスパッタ法で形成し、他の部分を成膜速度の速いCVD法やマグネトロンスパッタ法などで成膜するようにしたので、すべての封止層30をイオンビームスパッタ法で成膜するよりも、生産効率が上がるという効果も有する。
【実施例】
【0052】
以下において、この発明を実施例および比較例を参照してより詳細に説明するが、この発明はこれに限定されるものではない。
【0053】
(実施例)
まず、基板10としてのガラス基板上に、スパッタ法で約150nmの膜厚のITO膜を形成し、フォトリソグラフィ技術とエッチング技術とを用いて所定の形状にパターニングして、陽極21を形成する。ついで、陽極21が形成されたガラス基板(10)を有機溶媒、アルカリ洗剤および超純水で洗浄して乾燥させた後、紫外線/オゾン洗浄装置で紫外線/オゾン洗浄処理を行う。
【0054】
ついで、ポリ(3,4)エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(Baytron(登録商標) P TP AI 4083(商品名)、HCスタルクヴィテック社製)の懸濁液を0.5μm径のフィルタでろ過し、ろ過した懸濁液をスピンコート法によって70nmの厚さで陽極21を形成したガラス基板(10)上に成膜する。その後、ガラス基板(10)をホットプレート上に置き、大気雰囲気下において200℃で10分間乾燥させて、正孔注入層を形成する。
【0055】
ついで、キシレンとアニソールを1:1で混合した溶媒を用いて、1.5重量%の高分子有機発光材料(Lumation GP1300(商品名)、サメイション社製)の溶液を作製する。この溶液を、正孔注入層を形成したガラス基板(10)上にスピンコート法によって80nmの膜厚に成膜して、発光層を形成する。その後、ガラス基板(10)上の取り出し電極部分や封止エリア部分における発光層を除去し、ガラス基板(10)を真空チャンバ内に導入し、加熱室に移す。なお、以後の工程では、真空中または窒素雰囲気中で処理を行うので、処理中の有機EL装置が大気に曝されることはない。
【0056】
ガラス基板(10)を加熱室に移した後、真空チャンバ内の加熱室を1×10-4Pa以下の真空度にして、約100℃で60分加熱する。ついで、ガラス基板(10)を蒸着チャンバに移し、陰極マスクをガラス基板(10)に対してアライメントし、有機EL装置中の発光が行われる領域である発光部と、取り出し電極部に陰極23が成膜されるように蒸着する。ここで、陰極23は、抵抗加熱法で蒸着速度が約2Å/secとなるように金属Baを加熱し、膜厚が50Åとなるまで蒸着したBa膜と、電子ビーム蒸着法で約2Å/secの蒸着速度で100Åの膜厚となるまで蒸着したAl膜とによって形成した。その後、対向ターゲット式スパッタ装置を有する真空チャンバにガラス基板(10)を移し、真空チャンバ内にアルゴンガスと酸素ガスを導入し、対向ターゲット式スパッタ法で膜厚1,500ÅのITO膜を形成する。以上により、ガラス基板(10)上に有機EL素子20が形成される。
【0057】
その後、有機EL素子20を作製したガラス基板(10)を、大気中に曝露させずに、対向ターゲット式スパッタ装置を有する真空チャンバからイオンビームスパッタ装置を有する真空チャンバに移す。ついで、イオンビームスパッタ装置を有する真空チャンバ内にアルゴンガスと窒素ガスを導入し、イオンビームスパッタ法で、有機EL素子20が形成されたガラス基板(10)上に第1の封止膜としての窒化珪素(SiN)膜を500Å堆積させる。
【0058】
その後、イオンビームスパッタ装置を有する真空チャンバからプラズマCVD装置を有する真空チャンバへとガラス基板(10)を移す。そして、プラズマCVD装置を有する真空チャンバ内にシランガスと窒素ガスとを導入し、プラズマCVD法を用いて第2の封止膜32としてのSiN膜を約2μmの厚さで形成する。以上により、有機EL装置が製造される。
【0059】
(比較例)
実施例で製造した有機EL装置と比較対照のために、この比較例で有機EL装置を製造する。なお、ガラス基板(10)上に有機EL素子20を形成し、有機EL素子20上に対向ターゲット式スパッタ法で厚さ1,500ÅのITO膜を形成するところまでは実施例と同じである。
【0060】
その後、有機EL素子20を作製したガラス基板(10)を、大気中に曝露させずに、対向ターゲット型スパッタ装置を有する真空チャンバからプラズマCVD装置を有する真空チャンバに移す。ついで、プラズマCVD装置を有する真空チャンバ内にシランガスと窒素ガスを導入し、プラズマCVD法で2μmのSiN膜を成膜する。
【0061】
以上のように実施例と比較例で製造した有機EL装置についての発光寿命を測定する。この測定の概要は、有機EL素子20を10mAで定電流駆動し、初期輝度約2,000cd/m2で発光を開始させてからそのまま発光を持続させ、発光寿命を測定するものである。その結果、封止層30は緻密な膜質のSiN膜を有する実施例の有機EL装置の方が、水分透過率が低くなり、プラズマCVD法のみで封止層を形成した比較例の有機EL装置よりも寿命が長くなる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上のように、この発明にかかる有機EL装置の製造方法は、有機EL素子を水蒸気などのガスから封止する場合に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】この発明が適用される有機EL装置の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【図2−1】この発明にかかる有機EL装置の製造方法の一例を模式的に示す図である(その1)。
【図2−2】この発明にかかる有機EL装置の製造方法の一例を模式的に示す図である(その2)。
【図2−3】この発明にかかる有機EL装置の製造方法の一例を模式的に示す図である(その3)。
【図3】イオンビームスパッタ装置の構成を模式的に示す図である。
【図4−1】封止層の構造の一例を示す図である。
【図4−2】封止層の構造の一例を示す図である。
【図4−3】封止層の構造の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
10,10A 基板
20 有機EL素子
21 陽極
22 有機EL層
23 陰極
30〜35,33A,33B 封止膜
36A,36B,36C 無機物膜
37A,37B 有機物膜
38 最上位有機物膜
100 イオンビームスパッタ装置
101 真空チャンバ
102 基板ホルダ
103 ターゲット
104 イオン源
105 真空ポンプ
111 イオンビーム
112 スパッタ粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、少なくとも一方が透明または半透明の一対の電極間に発光層を含む有機エレクトロルミネッセンス(以下、ELということがある)層を挟んで構成した有機EL素子と、前記有機EL素子に接する少なくとも1層の無機物膜を含み、前記有機EL素子を封止する封止層と、を形成して有機EL装置を製造する有機EL装置の製造方法において、
前記封止層中の前記1層の無機物膜をイオンビームスパッタ法で形成し、前記封止層中の他の無機物膜をイオンビームスパッタ法以外の他の成膜方法で形成することを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項2】
基板上に、少なくとも一方が透明または半透明の一対の電極間に発光層を含む有機エレクトロルミネッセンス(以下、ELということがある)層を挟んで構成した有機EL素子と、前記有機EL素子に接する少なくとも1層の無機物膜を含み、前記有機EL素子を封止する封止層と、を形成して有機EL装置を形成する有機EL装置の製造方法において、
前記封止層中の前記1層の無機物膜は、最初にイオンビームスパッタ法で前記有機EL素子を覆うように前記基板上に所定の厚さの第1の被膜を堆積した後に、前記イオンビームスパッタ法とは異なる他の成膜方法によって前記第1の被膜上に前記第1の被膜と同じ材料からなる第2の被膜を堆積して、形成されることを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項3】
前記他の成膜方法は、CVD法またはマグネトロンスパッタ法であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL装置の製造方法。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図4−3】
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【公開番号】特開2009−37811(P2009−37811A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−200099(P2007−200099)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】