説明

架橋重合体微粒子およびその製造方法

【課題】 ミクロンサイズの平均粒子径を有し、粒度分布が狭く、十分に架橋されていて耐溶剤性、耐熱性に優れる架橋重合体微粒子及びその製造方法の提供。
【解決手段】 (α)加水分解性シリル基含有ビニル単量体(a)に由来する構造単位を0.5質量%以上及び20℃の水溶解度が1.0g/100ml以下の単官能の疎水性ビニル単量体(b)に由来する構造単位を10質量%以上の割合で有するビニル系共重合体からなり、(β)加水分解性シリル基の加水分解縮合反応によって架橋された、(γ)平均粒子径0.7〜8μmの架橋重合体微粒子、並びに前記ビニル単量体(a)及び疎水性ビニル単量体(b)を用いて分散安定剤の存在下にビニル単量体及び分散安定剤を溶解するが、生成するビニル系共重合体を溶解しない親水性溶媒中で重合して重合体微粒子を製造し、ビニル単量体の重合時又は重合後にビニル系共重合体中の加水分解性シリル基の少なくとも一部を加水分解縮合反応させて前記架橋重合体微粒子を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋重合体微粒子およびその製造方法に関する。より詳細には、本発明は、粒度分布が狭くて粒径の均一なミクロンサイズの粒径を有し、耐熱性および耐溶剤性に優れる架橋重合体微粒子および当該架橋重合体微粒子を凝集物などを生ずることなく安定に生産性良く製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ミクロンサイズの重合体微粒子は、光拡散、アンチグレア(艶消し)、アンチブロッキング、スペーサーなどの用途に使用される。光拡散用途としては、液晶ディスプレー用の拡散板や拡散フィルム、照明装置、特にLED照明装置用の拡散カバーなどが挙げられる。
これらの用途において、重合体微粒子は、有機溶剤に分散して塗工されたり、高温下で溶融させた樹脂に混練されることが多く、高度な耐溶剤性、耐熱性が要求される。また、上記用途では、より高度な性能、品質を得るために、より粒度分布の狭いサイズの揃った重合体微粒子が求められている。
【0003】
粒度分布の狭いミクロンサイズの重合体微粒子の製造方法としては、分散安定剤の存在下に、ビニル単量体を溶解するが、生成する重合体を実質的に溶解しない溶媒中で重合を行う分散重合法が知られている。しかし、分散重合法は均相系から重合体を析出させる重合方法であることにより、ビニル単量体として2個以上のビニル基を有する架橋性のビニル単量体を使用すると重合体の凝集物が生成しやすく、そのため2個以上のビニル基を有する架橋性のビニル単量体の使用量に限界があり、架橋密度が高くて耐溶剤性や耐熱性に優れる重合体微粒子を製造することは困難である。
【0004】
ミクロンサイズで粒度分布が狭く、かつ架橋密度の高い重合体微粒子を得る方法としては、懸濁重合法により架橋密度の高い重合体微粒子を製造し分級する方法、粒度分布の狭い非架橋重合体微粒子に架橋性ビニル単量体を吸収、膨潤させた後に重合させるシード膨潤重合法が用いられている。しかしこれらの方法は、長時間の煩雑な製造工程を必要とし、収率も低いことから、得られた重合体微粒子は極めて高価になるという問題がある。
【0005】
また、1個のビニル基を有する非架橋性単量体と2個以上のビニル基を有する架橋性単量体を、分散剤の非存在下に、カチオン系開始剤を用いて共重合させて、架橋重合体微粒子を製造する方法が知られている(特許文献1)。
しかしながら、この方法による場合は、十分に架橋した、耐熱性および耐溶剤性に優れる架橋微粒子を安定に製造することが困難である。
【0006】
更に、加水分解性のアルコシシリル基を有する不飽和単量体とその他の不飽和単量体を第1段目のラジカル乳化重合させてラジカル重合体を製造した後、さらにアルコシシリル基を有する不飽和単量体とその他の不飽和単量体を第2段目のラジカル乳化重合させてコア/シェル構造を有する重合体微粒子を含有するエマルジヨンを製造する方法が知られている(特許文献2)。
しかしながら、この方法による場合は、得られる重合体微粒子のサイズが0.1〜0.3μmと小さ過ぎて、光拡散、アンチグレア(艶消し)、アンチブロッキング、スペーサーなどの用途に適するミクロンサイズ(0.7〜8μm程度)の重合体微粒子を製造することが困難であり、また重合方法や粒子径に起因してアルコキシシリル基を有する不飽和単量体の導入可能量が小さいため、十分に架橋した、耐熱性および耐溶剤性に優れる重合体微粒子を得ることが困難である。
【0007】
また、ヒドロキシル基、エポキシ基、カルボキシル基およびアルコキシシリル基から選ばれる少なくとも1つの官能基を有するエチレン性不飽和単量体と、メタクリル酸メチルなどのその他のエチレン性不飽和単量体を分散安定剤の非存在下でラジカル重合させて反応性単分散樹脂微粒子を製造する方法が知られている(特許文献3)。
しかしながら、この方法によってアルコキシシリル基を有する重合体微粒子を製造しようとすると重合時に凝集が生じて重合を安定に行うことができず、アルキキシシリル基の加水分解縮合反応によって十分に架橋した耐熱性および耐溶剤性に優れる重合体微粒子が得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−278907号公報
【特許文献2】特開2002−69365号公報
【特許文献3】特開2007−191562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、光拡散、アンチグレア(艶消し)、アンチブロッキング、スペーサーなどの用途に適する0.7〜8μm程度のミクロンサイズを有し、加水分解性シリル基の加水分解縮合反応によるシロキサン結合の形成によって十分に架橋されていて耐熱性、耐溶剤性などの特性に優れる、粒度分布が狭くて粒径の揃ったビニル系重合体微粒子を提供することである。
さらに、本発明の目的は、当該ビニル系重合体微粒子を、凝集物を生成することなく、安定に、かつ生産性良く低コストで円滑に製造することのできる製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記の目的を達成すべく検討を重ねてきた。その結果、ビニル単量体として、加水分解性シリル基を有するビニル単量体および20℃の水への溶解度が1.0g/100ml以下の単官能の疎水性ビニル単量体を少なくとも用いて、分散安定剤の存在下に、ビニル単量体および分散安定剤を溶解するが、生成するビニル系共重合体を溶解しない親水性溶媒中で重合して重合体微粒子を製造し、ビニル単量体の重合時または重合後に加水分解性シリル基の少なくとも一部を加水分解縮合反応させると、0.7〜8μmの平均粒子径を有する粒度分布が狭くて粒径の揃った架橋重合体微粒子を、凝集などを生ずることなく安定した重合状態を維持しながら、簡単な工程で、生産性良く、低コストで製造できることを見出した。
さらに、本発明者らは、その際に、加水分解性シリル基を有するビニル単量体および20℃の水への溶解度が1.0g/100ml以下の単官能の疎水性ビニル単量体を所定の量で用いると、粒度分布が狭くて粒径が揃っていて、しかも十分に架橋されていて耐溶剤性および耐熱性に優れる架橋重合体微粒子をより安定した重合状態を維持しながらより円滑に製造できることを見出した。
また、本発明者らは、それによって得られる架橋重合体微粒子は十分に架橋されていて耐熱性、耐溶剤性などの特性に優れていて、さらに疎水性ビニル単量体の導入効果により、耐水性、他の重合体への分散性、および有機溶媒への分散性にも優れていることから、光拡散、アンチグレア(艶消し)、アンチブロッキング、スペーサーなどの用途に有効に用い得ることを見出して本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1) 下記の要件(α)〜(γ)を満たすことを特徴とする架橋重合体微粒子である。
(α)加水分解性シリル基を有するビニル単量体に由来する構造単位を0.5質量%以上の割合で有し且つ20℃の水への溶解度が1.0g/100ml以下の単官能の疎水性ビニル単量体に由来する構造単位を10質量%以上の割合で有するビニル系共重合体からなる架橋重合体微粒子である;
(β)ビニル系共重合体が有する加水分解性シリル基の加水分解縮合反応によって架橋されている;および、
(γ)平均粒子径が0.7〜8μmである。
【0012】
さらに、本発明は、
(2) 粒子サイズの変動係数(Cv)が20%以下である前記(1)の架橋重合体微粒子;
である。
【0013】
そして、本発明は、
(3) ビニル単量体の全質量に基づいて、加水分解性シリル基を有するビニル単量体を0.5質量%以上の割合で用い、且つ20℃の水への溶解度が1.0g/100ml以下の単官能の疎水性ビニル単量体を10質量%以上の割合で用いて、分散安定剤の存在下に、ビニル単量体および分散安定剤を溶解するが、生成するビニル系共重合体を溶解しない親水性溶媒中で重合してビニル系共重合体からなる重合体微粒子を製造し、ビニル単量体の重合時または重合後にビニル系共重合体中の加水分解性シリル基の少なくとも一部を加水分解縮合反応により架橋させることを特徴とする請求項1に記載の架橋重合体微粒子の製造方法である。
【0014】
さらに、本発明は、
(4) 分散安定剤として、カルボキシル基とビニル基を有する重合体およびポリビニルピロリドンの少なくとも1種を用いる前記(3)の架橋重合体微粒子の製造方法;
である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の架橋重合体微粒子は、0.7〜8μmというミクロンサイズの平均粒子径を有し、粒度分布が狭くて粒径が揃っており、シロキサン結合によって十分に架橋されていて、耐溶剤性および耐熱性に優れている。
そのため、本発明の架橋重合体微粒子は、前記した特性を活かして、光拡散、アンチグレア(艶消し)、アンチブロッキング、スペーサーなどの用途に有効に用いることができる。
本発明の製造方法による場合は、前記した優れた特性を有する本発明の架橋重合体微粒子を、重合時に凝集物などを副生することなく、安定した状態で、簡単な工程で、生産性良く、低コストで、円滑に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の実施例1によって得られた架橋重合体微粒子(P−1)を電界放射走査型電子顕微鏡(FE−SEM)を使用して撮影した写真である。
【図2】図2は、本発明の実施例10によって得られた架橋重合体微粒子(P−10)を電界放射走査型電子顕微鏡(FE−SEM)を使用して撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明について詳細に説明する。
(I)架橋重合体微粒子に係る説明
本発明の架橋重合体微粒子は、下記の要件(α)〜(γ)、すなわち、
(α)加水分解性シリル基を有するビニル単量体に由来する構造単位を0.5質量%以上の割合で有し且つ20℃の水への溶解度が1.0g/100ml以下の単官能の疎水性ビニル単量体に由来する構造単位を10質量%以上の割合で有するビニル系共重合体からなる架橋重合体微粒子である;
(β)ビニル系共重合体が有する加水分解性シリル基の加水分解縮合反応によって架橋されている;および、
(γ)平均粒子径が0.7〜8μmである;
という要件(α)〜(γ)を満たす架橋重合体微粒子である。
【0018】
本発明の架橋重合体微粒子は、加水分解性シリル基を有するビニル単量体[以下これを「加水分解性シリル基含有ビニル単量体(a)」ということがある]に由来する構造単位と、20℃の水への溶解度が1.0g/100ml以下の単官能の疎水性ビニル単量体[以下これを「単官能の疎水性ビニル単量体(b)」または単に「疎水性ビニル単量体(b)」ということがある]に由来する構造単位を有するビニル系共重合体から形成されている架橋重合体微粒子であることが必要である。
【0019】
架橋重合体微粒子を形成しているビニル系共重合体が加水分解性シリル基含有ビニル単量体(a)に由来する構造単位を有していることによって、加水分解性シリル基の加水分解縮合反応によって重合体微粒子が架橋されて、耐熱性、耐溶剤性および粒子強度に優れる本発明の架橋重合体微粒子が得られる。
【0020】
加水分解性シリル基含有ビニル単量体(a)としては、加水分解性シリル基を1個以上有するビニル単量体のいずれもが使用でき、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシランンなどのビニルシラン類;アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、アクリル酸トリエトキシシリルプロピル、アクリル酸メチルジメトキシシリルプロピルなどのシリル基含有アクリル酸エステル類;メタクリル酸トリメトキシシリルプロピル、メタクリル酸トリエトキシシリルプロピル、メタクリル酸メチルジメトキシシリルプロピル、メタクリル酸ジメチルメトキシシリルプロピルなどのシリル基含有メタクリル酸エステル類;トリメトキシシリルプロピルビニルエーテルなどのシリル基含有ビニルエーテル類;トリメトキシシリルウンデカン酸ビニルなどのシリル基含有ビニルエステル類などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
そのうちでも、加水分解性シリル基を有するビニル単量体としては、加水分解性シリル基含有アクリル酸エステル、加水分解性シリル基含有メタクリル酸エステルが好ましく用いられる。特に、共重合に優れ、さらに加水分解縮合反応が制御しやすいことから、重合を円滑に行うことができ、かつ架橋度の高い微粒子が得られることから、メタクリル酸トリメトキシシリルプロピル(すなわちトリメトキシシリルプロピルメタクリレート)、メタクリル酸トリエトキシシリルプロピル(すなわちトリエトキシシリルプロピルメタクリレート)などがより好ましく用いられる。
【0021】
本発明の架橋重合体微粒子では、架橋重合体微粒子の耐熱性、耐溶剤性、粒子強度などがより良好になる点から、架橋重合体微粒子を形成するビニル系共重合体における加水分解性シリル基含有ビニル単量体(a)に由来する構造単位の含有割合が、ビニル系共重合体の製造に用いた全単量体の合計質量に基づいて、0.5質量%以上であり、0.5〜90質量%であることが好ましく、1〜70質量%であることがより好ましく、2〜60質量%であることが更に好ましく、5〜40質量%であることが一層好ましい。
【0022】
さらに、本発明の架橋重合体微粒子を形成するビニル系共重合体は、20℃の水への溶解度が1.0g/100ml以下で且つ重合性のビニル基を分子中に1個有する単官能の疎水性ビニル単量体(b)に由来する構造単位を有していることによって、重合体微粒子を製造するための重合時に凝集物を生ずることなく重合を円滑に行うことができ、しかも得られる架橋重合体微粒子の耐水性が良好になり、他の重合体への分散性や有機溶媒への分散性が良好になる。
架橋重合体微粒子が、20℃の水への溶解度が1.0g/100ml以下である単官能の疎水性ビニル単量体(b)に由来する構造単位を持たない場合は、重合体微粒子を製造するための重合時に凝集物が生じて重合が円滑に行われなくなり、また得られる架橋重合体微粒子の耐水性が不足したり、樹脂や有機溶媒への分散性が不良となり易い。
ここで、本明細書におけるビニル単量体の20℃の水への溶解度は、等容積のイオン交換水とビニル単量体をガラス製容器に入れ、20℃で24時間攪拌した後、同じく20℃で5時間静置して分離した水相を、油相(ビニル単量体相)を巻き込むことがないように十分注意して取り出し、GC測定またはLC測定により、水中に飽和溶解したビニル単量体濃度を定量分析することにより決定することができる。GC、もしくはLC測定の選択や測定条件は、ビニル単量体の分子量(沸点)や極性に応じて適宜適切な方法を選択する。例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソブチルについては、以下の実施例に記載したGC測定条件にて測定することができる。
【0023】
単官能の疎水性ビニル単量体(b)としては、20℃の水への溶解度が1.0g/100ml以下であって、加水分解性シリル基含有ビニル単量体(a)と共重合可能なビニル単量体を用いることができる。単官能の疎水性ビニル単量体(b)としては、20℃の水への溶解度が0.3g/100ml以下の単官能の疎水性ビニル単量体が好ましく用いられ、20℃の水への溶解度が0.1g/100ml以下の単官能の疎水性ビニル単量体がより好ましく用いられる。
20℃の水への溶解度が1.0g/100ml以下の疎水性ビニル単量体(b)としては、例えば、メタクリル酸の炭素数2以上のアルキルエステル、パーフロロアルキルエステル、シクロアルキルエステル、シクロアルケニルエステル、ベンジルエステル;アクリル酸の炭素数4以上のアルキルエステル、パーフロロアルキルエステル、シクロアルキルエステル、シクロアルケニルエステル;スチレン、α−メチルスチレンなどのスチレン系単量体;エチレン、プロピレン、イソブチレンなどのオレフィン類を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0024】
そのうちでも、20℃の水への溶解度が1.0g/100ml以下の疎水性ビニル単量体(b)としては、メタクリル酸の炭素数4以上のアルキルエステル、パーフロロアルキルエステル、シクロアルキルエステル、シクロアルケニルエステル、;アクリル酸の炭素数6以上のアルキルエステル、パーフロロアルキルエステル、シクロアルキルエステル、シクロアルケニルエステル;スチレン、α−メチルスチレンなどのスチレン系単量体が好ましく用いられる。具体例としては、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸2−エチルへキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸デシル、前記したメタクリル酸のアルキルエステル基の水素原子の全てがフッ素原子によって置換されているメタクリル酸パーフロロアルキルエステル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸ジシクロペンテニル、メタクリル酸ジシクロペンタニルなどのメタクリル酸エステル類;アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−エチルへキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸デシル、前記したアクリル酸のアルキルエステル基の水素原子の全てがフッ素原子によって置換されているアクリル酸パーフロロアルキルエステル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸ジシクロペンテニル、アクリル酸ジシクロペンタニルなどのアクリル酸エステル類;スチレン、α−メチルスチレンなどを挙げることができる。
上記したうちでも、疎水性ビニル単量体(b)としては、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸tert−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、スチレンの1種または2種以上が、重合時に凝集物を生じることなく重合を円滑に行うことができ、かつ粒度分布の狭い粒径のそろった架橋重合体微粒子が得られる点から好ましく用いられ、特にメタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸tert−ブチルが、特に重合時の安定性が良好で、かつ粒度分布の狭い架橋重合体微粒子が得られる点からより好ましく用いられる。
【0025】
本発明の架橋重合体微粒子では、重合時の凝集物の生成が少なくなる点、粒度分布の狭い粒径の揃った架橋重合体微粒子が得られる点、更に得られる架橋重合体微粒子の耐水性が良好になり、他の重合体への分散性やや有機溶媒への分散性が良好になる点から、架橋重合体微粒子を形成するビニル系共重合体における疎水性ビニル単量体(b)に由来する構造単位の含有割合は、ビニル系共重合体の製造に用いた全単量体の合計質量に基づいて、10質量%以上であり、10〜99.5質量%であることが好ましく、20〜99質量%であることがより好ましく、30〜90質量%であることが更に好ましく、30〜85質量%であることが一層好ましい。
【0026】
本発明の架橋重合体微粒子は、加水分解性シリル基含有ビニル単量体(a)に由来する構造単位および疎水性ビニル単量体(b)に由来する構造単位と共に、必要に応じて、20℃の水への溶解度が1.0g/100mlより大きい他のビニル単量体の1種または2種以上に由来する構造単位を有していてもよい。
他のビニル単量体としては、20℃の水への溶解度が3g/100ml以下で且つ1.0g/100mlよりも大きく且つ重合性のビニル基を分子中に1個有する単官能のビニル単量体[以下これを「ビニル単量体(c)」ということがある]、および20℃の水への溶解度が3g/100mlよりも大きく且つ重合性のビニル基を分子中に1個有する単官能のビニル単量体[以下これを「ビニル単量体(d)」ということがある]を挙げることができる。
20℃の水への溶解度が3g/100ml以下で且つ1.0g/100mlよりも大きいビニル単量体(c)の具体例としては、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、グリシジルメタアクリレート、酢酸ビニルなどを挙げることができる。
また、20℃の水への溶解度が3g/100mlよりも大きいビニル単量体(d)の具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2−ヒドロキシブチル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、ポリエチレングリコールモノアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシブチル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、メタクリル酸、アクリルアミド、アクリロニトリル、ビニルピロリドン、アクリロイルモルホリン、N-メチロールアクリルアミド、N-メトキシメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドおよびその塩、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートおよびその塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびその塩、p−スチレンスルホン酸およびその塩などを挙げることができる。
【0027】
本発明の架橋重合体微粒子を形成するビニル系共重合体が、加水分解性シリル基含有ビニル単量体(a)および20℃の水への溶解度が1.0g/100ml以下の疎水性ビニル単量体(b)と共に、20℃の水への溶解度が3g/100ml以下で且つ1.0g/100mlよりも大きいビニル単量体(c)に由来する構造単位を有している場合は、重合時における凝集物の生成防止、粒度分布の狭い粒度の揃った架橋重合体微粒子の製造、得られる架橋重合体微粒子の耐溶剤性、耐水性、さらには他の重合体への分散性や有機溶媒への分散性などの点から、ビニル単量体(c)に由来する構造単位の含有割合が、架橋重合体微粒子を形成するビニル系共重合体の製造に用いた全単量体の合計質量に基づいて、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることが更に好ましく、50質量%以下であることが特に好ましい。
ビニル単量体(c)を併用する場合は、ビニル単量体(c)としてメタクリル酸メチル、アクリル酸エチルなどが、重合時における凝集物の生成防止、粒度分布の狭い粒度の揃った架橋重合体微粒子の製造の点から特に好ましく用いられる。
【0028】
本発明の架橋重合体微粒子を形成するビニル系共重合体が、加水分解性シリル基含有ビニル単量体(a)および20℃の水への溶解度が1.0g/100ml以下の疎水性ビニル単量体(b)と共に、20℃の水への溶解度が3g/100mlよりも大きいビニル単量体(d)に由来する構造単位を有している場合は、重合時における凝集物の生成防止、得られる架橋重合体微粒子の耐水性、耐アルカリ性、耐酸性などの点から、ビニル単量体(d)に由来する構造単位の含有割合が、架橋重合体微粒子を形成するビニル系共重合体の製造に用いた全単量体の合計質量に基づいて、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが更に好ましい。ビニル単量体(d)に由来する構造単位の含有割合が20質量%を超えると、重合時に凝集物が生成し易く、また粒度分布が広くなり易く、また架橋重合体微粒子の耐水性、耐アルカリ性、耐酸性が低下する。
【0029】
本発明の架橋重合体微粒子は、架橋密度を調整するために、必要に応じて、1分子内にエチレン性不飽和結合を2個以上有する多官能のビニル単量体に由来する構造単位を有していてもよい。多官能のビニル単量体の具体例としては、ジビニルベンゼン、アリル(メタ)アクリルレート、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性体のトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上に由来する構造単位を有していることができる。そのうちでも、分散重合時における重合体微粒子間の凝集の抑制が容易である点から、多官能のビニル単量体を用いる場合は、アリル(メタ)アクリレートを併用することが好ましい。
上記した多官能のビニル単量体の使用量は、架橋重合体微粒子の製造に用いる全単量体の合計質量に基づいて、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。単官能のビニル単量体の使用量が10質量%を超えると、重合時に凝集物が発生しやすくなる。
【0030】
本発明の架橋重合体微粒子は、架橋重合体微粒子を形成するビニル系共重合体中の加水分解性シリル基の加水分解縮合反応によって架橋されている。すなわち、本発明の架橋重合体微粒子では、架橋重合体微粒子を形成するビニル系共重合体中の加水分解性シリル基が加水分解してシラノール基となり、複数のシラノール基間の脱水縮合反応、もしくはシラノール基とアルコキシシリル基の脱アルコール縮合によって形成されるシロキサン結合によって架橋がなされている。
本発明の架橋重合体微粒子は、加水分解性シリル基の加水分解縮合反応(脱水、脱アルコール縮合反応)によって架橋されているために、耐熱性、耐溶剤性に優れている。
加水分解性シリル基の加水分解縮合反応は、架橋重合体微粒子を形成するビニル系共重合体中に含まれる加水分解性シリル基の全てで行なわれていてもよいし、または加水分解性シリル基の一部で行なわれていてもよい。一般的には、架橋重合体微粒子を形成するビニル系共重合体が有している加水分解性シリル基の10%以上、特に30%以上が、加水分解縮合反応に関与していることが、架橋重合体微粒子の耐熱性、耐溶剤性などが良好になる点から好ましい。
【0031】
本発明の架橋重合体微粒子は、0.7〜8.0μmの平均粒子径を有している。
好ましい平均粒子径は、用途などによって異なるが、液晶ディスプレーや照明装置の拡散板用の拡散剤として用いる場合は、一般に平均粒子径が0.9〜3.0μmであることが好ましく、艶消し(AG)剤として用いる場合は、一般に平均粒子径が1.0〜4.0μmであることが好ましい。
ここで、本明細書でいう架橋重合体微粒子の平均粒子径は、数平均粒子径(dn)をいう。当該平均粒子径[数平均粒子径(dn)]は、走査型電子顕微鏡を使用して重合体微粒子を写真撮影した粒子像に基づいて算出される数平均粒子径(dn)であり、その詳細な算出方法は、以下の実施例に記載するとおりである。
【0032】
本発明の架橋重合体微粒子は、粒度分布がより狭くて、粒径が揃っていることが好ましい。かかる点から、本発明の架橋重合体微粒子は、粒子サイズの変動係数(Cv)が20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。
ここで、本明細書でいう、「粒子サイズの変動係数(Cv)」は、以下の実施例に記載した方法で求められる粒子サイズの変動係数(Cv)をいう。
【0033】
本発明の架橋重合体微粒子は、必要に応じて、各種添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、酸化防止剤(フェノール系、イオウ系、リン系など)、光安定剤(ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系など)、滑剤(炭化水素系、脂肪酸系、高級アルコール系、脂肪族アマイド系、金属せっけん系など)、帯電防止剤、蛍光増白剤、コバルト、鉄、アルミニウムなどの金属やこれらの合金、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケルなどからなる金属酸化物の微粉体、カーボンブラックニグロシン染料、アニリンブルーなどの顔料や染料類、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、リン酸エステルなどの陰イオン界面活性剤、脂肪酸アミド誘導体、多価アルコール誘導体などの非イオン界面活性剤などを挙げることができる。
特に、本発明の架橋重合体微粒子を拡散板やアンチブロッキング剤として用いるために熱可塑性樹脂に添加して溶融混練する場合は、架橋重合体微粒子中に酸化防止剤などの安定剤を添加することが好ましい。酸化防止剤などの安定剤は、重合および架橋処理を行なって得られる架橋重合体微粒子を乾燥する前、特に架橋重合体微粒子が重合溶媒中に分散している段階で添加することが好ましい。
【0034】
本発明の架橋重合体微粒子は、ミクロンサイズの粒子径を有し、しかも粒度分布が狭くて均一な粒径を有し、単分散性で粒子間の凝集がなく、また架橋していて耐熱性、耐薬品性、強度などにも優れているため、それらの特性を活かして、液晶表示用スペーサ、液晶表示用光拡散フィルム、拡散板などの光拡散剤、導電性微粒子、カラム用充填剤、診断薬用の担体などをはじめとして種々の用途に好適に使用することができる。
【0035】
(II)架橋重合体微粒子の製造方法に係る説明
本発明の架橋重合体微粒子の製造に当っては、ビニル系共重合体の製造に用いる全ビニル単量体の合計質量に基づいて、加水分解性シリル基を有するビニル単量体(a)を0.5質量%以上および20℃の水への溶解度が1.0g/100ml以下の単官能の疎水性ビニル単量体(b)を10質量%以上の割合で用いて、分散安定剤の存在下に、ビニル単量体および分散安定剤を溶解するが、生成するビニル系共重合体を溶解しない親水性溶媒中で重合してビニル系共重合体からなる重合体微粒子を製造し、ビニル単量体の重合時または重合後にビニル系共重合体中の加水分解性シリル基の少なくとも一部を加水分解縮合反応させて架橋重合体微粒子を製造する本発明の製造方法が好ましく採用される。
【0036】
上記した製造方法では、親水性溶媒として、親水性の有機溶媒(水を含有しない親水性有機溶媒)を使用してもよいし、または親水性の有機溶媒と水との混合溶媒を使用してもよい。その際に、親水性の有機溶媒としては、20℃での水への溶解度が5g/100ml以上である有機溶媒が好ましく用いられる。
前記した親水性の有機溶媒の具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコールなどのモノアルコール類;エチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコールなどの多価アルコール類;メチルセロソルブ、セロソルブ、イソプロピロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテルアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類;テトラヒドロフランなどのエーテル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどを挙げることができる。親水性の有機溶媒は1種類のみを用いてよいし、2種以上を併用してもよい。
重合に使用するビニル単量体の種類、生成するビニル単量体の種類などに応じて、前記した親水性の有機溶媒のうちから、適切な親水性有機溶媒を選択して使用する。
【0037】
そのうちでも、親水性溶媒としては、水とアルコールとを含む混合溶媒が好ましく用いられ、特に、水と、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコールの1種または2種以上とを混合した混合溶媒がより好ましく用いられる。
親水性溶媒として、水と上記したアルコールとを混合した混合溶媒を用いると、ビニル単量体の種類、組成などに応じて水とアルコールとの混合比率を調整することで、生成する重合体微粒子の粒子径、粒度分布、分子量などを容易にコントロールすることができ、しかも引火、爆発等などの危険を低減することができ、更に環境への負荷も小さい。
特に、親水性溶媒として、水とメタノールとの混合溶媒、そのうちでも、水:メタノールの質量比が5:95〜50:50、更には10:90〜40:60である混合溶媒を用いると、平均粒子径が目標範囲となり、且つ粒度分布の狭い重合体微粒子を円滑に製造することができるので、一層好ましい。
【0038】
重合系のpHは、4〜10.5の範囲であることが好ましく、5〜10の範囲であることがより好ましく、5.5〜9.5の範囲であることが更に好ましい。重合系のpHが4よりも低いか、または10.5よりも高いと、加水分解性シリル基の縮合反応が速くなりすぎて重合工程中に縮合反応が過剰に進行して凝集物が生成する場合がある。
【0039】
上記した架橋重合体微粒子の製造は、必要に応じて、親水性溶媒の一部を、20℃の水への溶解度が5g/100ml未満の疎水性溶媒に置き換えて行なってもよい。疎水性溶媒としては、例えば、メチルイソブチルケトン、トルエン、シクロヘキサンなどを用いることができる。
この場合に、疎水性溶媒の割合は、重合に用いる溶媒の全量に対して、30質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが更に好ましい。疎水性溶媒の割合が30質量%を超えると、生成する重合体粒子の粒度分布が広くなったり、重合中に凝集物が生成する場合がある。
【0040】
架橋重合体微粒子の製造に用いる加水分解性シリル基含有ビニル単量体(a)および20℃の水への溶解度が1.0g/100ml以下の単官能の疎水性ビニル単量体(b)としては、上記(I)(架橋重合体微粒子に係る説明の項)に記載した加水分解性シリル基含有ビニル単量体(a)の1種または2種以上、および上記(I)(架橋重合体微粒子に係る説明の項)に記載した20℃の水への溶解度が1.0g/100ml以下の単官能の疎水性ビニル単量体(b)の1種または2種以上をそれぞれ使用することができる。
【0041】
加水分解性シリル基含有ビニル単量体(a)の使用割合は、架橋重合体微粒子の耐熱性、耐溶剤性、粒子強度、および粒度分布の狭さなどがより良好になる点から、上記(I)に記載したように、架橋重合体微粒子の製造に用いる全単量体(架橋重合体微粒子を形成するビニル系共重合体の製造に用いる全単量体)の合計質量に基づいて、0.5質量%以上であり、0.5〜90質量%であることが好ましく、1〜70質量%であることがより好ましく、2〜60質量%であることが更に好ましく、5〜40質量%であることが一層好ましい。
【0042】
疎水性ビニル単量体(b)の使用割合は、重合時の凝集物の生成が少なくなる点、粒度分布の狭い粒度の揃った架橋重合体微粒子が得られる点、更に、得られる架橋重合体微粒子の耐水性が良好になり、他の重合体への分散性や有機溶媒への分散性が良好になる点から、上記(I)に記載したように、架橋重合体微粒子の製造に用いる全単量体の合計質量に基づいて、10質量%以上であり、10〜99.5質量%であることが好ましく、20〜99質量%であることがより好ましく、30〜90質量%であることが更に好ましく、30〜85質量%であることが一層好ましい。
【0043】
また、架橋重合体微粒子の製造に当っては、加水分解性シリル基含有ビニル単量体(a)および疎水性ビニル単量体(b)と共に、必要に応じて、上記(I)に記載した、20℃の水への溶解度が1.0g/100mlよりも大きく且つ3g/100ml以下であるビニル単量体(c)および/または20℃の水への溶解度が3g/100mlよりも大きいビニル単量体(d)の1種または2種以上を、上記(I)に記載した割合で用いることができる。
また、架橋重合体微粒子の製造に当っては、必要に応じて、上記(I)に記載した、1分子中にエチレン性不飽和結合を2個以上有する多官能のビニル単量体の1種または2種以上を、架橋重合体微粒子の製造に用いる全単量体の合計質量に基づいて、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下の割合で用いることができる。多官能ビニル単量体の割合が10質量%を超えると、重合時に凝集物が発生し易くなる。
【0044】
本発明の架橋重合体微粒子は、重合体微粒子を形成するビニル系共重合体中に含まれる加水分解性シリル基含有ビニル単量体(a)に由来する構造単位中の加水分解性シリル基を加水分解してシラノール基にし、当該シラノール基間の脱水縮合反応を行わせてシロキサン結合を形成させることによって製造される。
加水分解性シリル基の加水分解・縮合反応のタイミングとしては、重合の進行とともに行なってもよいし、重合後に行なってもよいし、または重合の進行中および重合後の両方で行なってもよい。凝集物の生成を抑制し、粒度分布の狭い架橋重合体微粒子を得るためには、重合前半での加水分解性シリル基の加水分解・縮合反応をできるだけ抑制し、重合後半および/または重合後に加水分解性シリル基の加水分解・縮合反応を促進することが好ましい。
重合時、特に重合前半での加水分解性シリル基の加水分解・縮合反応を抑制するためには、水を含まない親水性有機溶媒中で重合を行うか、またはpHが好ましくは4〜10.5の範囲、より好ましくは5〜10の範囲、さらに好ましくは5.5〜9.5の範囲にある親水性有機溶と水との混合溶媒中で重合を行なうことが好ましく、それによって、凝集物の生成を抑制しながら、粒度分布の狭い架橋重合体微粒子を製造することができる。
【0045】
重合後半または重合後に加水分解性シリル基の加水分解・縮合反応を促進させる方法としては、ビニル単量体の反応率が所定の値を超えた時点で、酸またはアルカリ化合物を縮合反応触媒として添加する方法がある。その際に、水を含まない親水性有機溶媒中で重合を行う場合は、酸またはアルカリ化合物からなる触媒と共に水も一緒に添加する必要がある。重合途中で水を添加すると、架橋重合体微粒子の粒度分布が広くなることがあるので、重合の後半に加水分解性シリル基の加水分解縮合反応を行なう場合は、pHが好ましくは4〜10.5の範囲、より好ましくは5〜10の範囲、さらに好ましくは5.5〜9.5の範囲にある親水性有機溶と水との混合溶媒中で重合反応を行なうことが好ましい。
加水分解性シリル基の加水分解縮合反応を行なうために用いる酸触媒またはアルカリ触媒のうちでも、加水分解性シリル基の加水分解縮合反応時に凝集物の生成がなく、縮合反応速度も速く、かつ縮合反応後に架橋重合体微粒子から容易に除去できる点から、アンモニアまたはトリエチルアミンなどの低沸点アミンが好ましく用いられる、特にアンモニアがより好ましく用いられる。
【0046】
架橋重合体微粒子の製造時に用いる分散安定剤としては、上記(I)で挙げた、20℃の水への溶解度が3g/100mlを超えるビニル単量体(d)の1種または2種以上を重合して得られる親水性ポリマー、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリエチレングリコールなどの親水性ポリマーの1種または2種以上を使用することができる。
これら親水性ポリマーの中でも、ポリビニルピロリドンが、重合時に凝集物の生成がなく、粒度分布の狭い重合体微粒子が得られることから好ましく用いられる。
ポリビニルピロリドンとしては、重量平均分子量(Mw)が5,000〜500,000のもの、特に10,000〜200,000のものが好ましく用いられる。
なお、本明細書中における重合体の重量平均分子量(Mw)は、以下の実施例に記載した方法で測定した重量平均分子量(Mw)である。
分散安定剤としてポリビニルピロリドンを使用する場合は、その使用量は、全単量体の合計質量に基づいて、1〜50質量%であることが好ましく、2〜20質量%であることがより好ましい。ポリビニルピロリドンの使用量が1質量%未満であると、重合時の安定性が不足して凝集物が生成する場合がある。一方、ポリビニルピロリドンの使用量が50質量%を超えると、生成する重合体微粒子の粒度分布が広くなり易くなり、また重合後に重合体微粒子からポリビニルピロリドンを分離しにくくなる。
【0047】
また、本発明では、架橋重合体微粒子を製造するための重合反応時に、分散安定剤として、上記したポリビニルピロリドンやその他の水溶性ポリマー以外に、カルボキシル基とビニル基を有する重合体が好ましく用いられる。分散安定剤としてカルボキシル基とビニル基を有する重合体を用いることによって、重合時の安定性が極めて高くなり、しかも粒度分布の狭い、粒径の揃った架橋重合体微粒子を得ることができる。
カルボキシル基とビニル基を有する重合体からなる分散安定剤は、カルボキシル基の一部または全部をアルカリ化合物で中和して使用することがより好ましく、アルカリ化合物としては、アンモニアまたはトリエチルアミンなどの低沸点アミンが好ましく用いられる。
【0048】
分散安定剤として好ましく用いられるカルボキシル基とビニル基を有する重合体の好ましい例としては、
(A) 分子鎖の末端にビニリデン型のエチレン性不飽和基を有し且つ側鎖(分子鎖の途中)にカルボキシル基を有する重合体[以下これを「分散安定剤用重合体(A)」ということがある];
(B) 側鎖(分子鎖の途中)に(メタ)アクリロイル基などのビニル基とカルボキシル基を有する重合体[以下これを「分散安定剤用重合体(B)」ということがある];
(C) 分子鎖の末端に(メタ)アクリロイル基などのビニル基を有し且つ側鎖(分子鎖の途中)にカルボキシル基を有する重合体[以下これを「分散安定剤用重合体(C)」ということがある];
を挙げることができる。
【0049】
分子鎖の末端にビニリデン型のエチレン性不飽和基を有し且つ側鎖(分子鎖の途中)にカルボキシル基を有する上記した分散安定剤用重合体(A)は、カルボキシル基を有するビニル単量体を少なくとも含むビニル単量体を180℃以上の高温でラジカル重合することにより製造することができる。高温条件下でのラジカル重合により、得られた重合体は分子末端にビニリデン型のエチレン性不飽和結合が導入される。
分散安定剤用重合体(A)の重量平均分子量は、1,000〜200,000であることが好ましく、3,000〜100,000であることがより好ましく、5,000〜50,000であることが更に好ましい。
また、分散安定剤用重合体(A)の酸価[分散安定剤用重合体(A)の1g当りのカルボキシル基のミリモル数]は、0.1〜12meq/gであることが好ましく、0.5〜10meq/gであることがより好ましく、1.0〜5.0meq/gであることが更に好ましい。
【0050】
分散安定剤用重合体(A)は、比較的大きな粒子径を有する架橋重合体微粒子(通常、平均粒子径が1.5〜8μmの架橋重合体微粒子)を製造する際の分散安定剤として好ましく用いられる。
分散安定剤用重合体(A)を分散安定剤として用いて架橋重合体微粒子を製造するに当っては、架橋重合体微粒子の製造に用いる全単量体の合計質量に対して、分散安定剤用重合体(A)を1〜100質量%の割合で用いることが好ましく、2〜70質量%の割合で用いることがより好ましく、5〜50質量%の割合で用いることが更に好ましい。
【0051】
側鎖(分子鎖の途中)に(メタ)アクリロイル基などのビニル基とカルボキシル基を有する分散安定剤用重合体(B)は、例えば、カルボキシル基を有するビニル単量体を少なくとも含むビニル単量体をラジカル重合させて側鎖にカルボキシル基を有するプレポリマーを製造し、当該プレポリマーの側鎖に導入されたカルボキシル基の一部に、エポキシ基と(メタ)アクリロイル基などのビニル基を有する化合物を付加反応させることにより製造することができる。
分散安定剤用重合体(B)の重量平均分子量は、500〜200,000であることが好ましく、1,000〜10,000であることがより好ましい。
また、分散安定剤用重合体(B)の酸価[分散安定剤用重合体(B)の1g当りのカルボキシル基のミリモル数]は、0.5〜10meq/gであることが好ましく、1〜7meq/gであることがより好ましく、1.5〜5meq/gであることが更に好ましい。
さらに、分散安定剤用重合体(B)のf値[分散安定剤用重合体(B)の1分子当りの(メタ)アクリロイル基などのビニル基の平均導入量]は、0.2〜2.0であることが好ましく、0.4〜1.6であることがより好ましく、0.4〜1.4であることが更に好ましい。
【0052】
分散安定剤用重合体(B)は、比較的粒子径の小さい架橋重合体微粒子(通常、平均粒子径が0.7〜3μmの架橋重合体微粒子)を製造する際の分散安定剤として好ましく用いられる。
分散安定剤用重合体(B)を分散安定剤として用いて架橋重合体微粒子を製造するに当っては、架橋重合体微粒子の製造に用いる全単量体の合計質量に対して、分散安定剤用重合体(B)を0.2〜10質量%の割合で用いることが好ましく、0.5〜5質量%の割合で用いることがより好ましい。
【0053】
分子鎖の末端に(メタ)アクリロイル基などのビニル基を有し且つ側鎖(分子鎖の途中)にカルボキシル基を有する上記した分散安定剤用重合体(C)は、例えば、カルボキシル基を有する連鎖移動剤の存在下に、水酸基を有するビニル単量体を少なくとも含むビニル単量体をラジカル重合させることによって分子末端にカルボキシル基を有し且つ側鎖に水酸基を有するプレポリマーを製造し、当該プレポリマーの分子末端のカルボキシル基にまずエポキシ基と(メタ)アクリロイル基などのビニル基を有する化合物を付加反応させた後、側鎖の水酸基にジカルボン酸無水物を付加させることにより製造することができる。
分散安定剤用重合体(C)の重量平均分子量は、500〜200,000であることが好ましく、1,000〜10,000であることがより好ましい。
また、分散安定剤用重合体(C)の酸価(分散安定剤用重合体(C)の1g当りのカルボキシル基のミリモル数)は、0.5〜4meq/gであることが好ましく、1〜4meq/gであることがより好ましい。
【0054】
分散安定剤用重合体(C)は、比較的粒子径の小さい架橋重合体微粒子(通常、平均粒子径が0.7〜3μmの架橋重合体微粒子)を製造する際の分散安定剤として好ましく用いられる。
分散安定剤用重合体(C)を分散安定剤として用いて架橋重合体微粒子を製造するに当っては、架橋重合体微粒子の製造に用いる全単量体の合計質量に対して、分散安定剤用重合体(C)を0.2〜10質量%の割合で用いることが好ましく、0.5〜5質量%の割合で用いることがより好ましい。
【0055】
上記した分散安定剤用重合体(A)〜(C)のうちでも、分子鎖の途中(側鎖)または末端にビニル基を有する分散安定剤用重合体(B)または(C)であって、当該ビニル基が(メタ)アクリロイル基である重合体が、他の分散安定剤に比べて極めて少ない使用量で、凝集物などを生成することなく、極めて安定に、粒度分布の狭い架橋重合体微粒子を製造することができることから、分散安定剤として特に好ましく用いられる。
【0056】
ビニル単量体を重合して架橋重合体微粒子を製造する際の、カルボキシル基とビニル基を有する重合体からなる分散安定剤の使用量は、架橋重合体微粒子の製造に用いる全ビニル単量体の合計質量に対して、0.2〜10質量%であることが好ましく、0.5〜5.0質量%であることがより好ましい。カルボキシル基とビニル基を有する重合体からなる分散安定剤の使用量が少なすぎると、重合時の安定性が低下して生成した重合体微粒子の凝集などが生じ易くなり、一方当該分散安定剤の使用量が多すぎると、生成する重合体微粒子の粒度分布が広くなって、サイズが不揃いになり易い。
【0057】
ビニル単量体を重合して架橋重合体微粒子を製造する際の親水性溶媒の使用量は、全単量体の合計質量に対して、1〜50質量倍であることが好ましく、2〜10質量倍であることがより好ましい。親水性溶媒の使用量が少なすぎると、重合安定性が不良となる場合があり、また得られる架橋重合体微粒子の粒度分布が広くなり易く、一方親水性溶媒の使用量が多すぎると架橋重合体微粒子の収率が低下し生産性が悪くなり易い。
【0058】
ビニル単量体を重合して架橋重合体微粒子を製造する際の重合開始剤としては、ラジカル重合において通常用いられている重合開始剤を使用することができ、特に制限されない。そのうちでも親水性溶媒に溶解するラジカル重合開始剤が好ましく用いられる。本発明で用い得るラジカル重合開始剤としては、例えば、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−t−ブチルパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、オルソクロロ過酸化ベンゾイル、オルソメトキシ過酸化ベンゾイル、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイドなどの有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシクロヘキサカルボニトリル、アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロリド(V−50)、4,4'−アゾビス(4−シアノバレリックアシッド)(V−501)などのアゾ系化合物;過硫酸カリウムなどの過硫化物系化合物などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
そのうちでも、重合開始剤としては、t−ブチルパーオキシピバレート、アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)が、粒度分布の狭い重合体微粒子を生産性よく製造できる点から好ましく用いられる。
【0059】
重合開始剤の使用量は特に限定されず、製造する架橋重合体微粒子の分子量、使用する重合開始剤の分解温度などを考慮して適宜決めることができる。一般的には、全単量体の合計100質量部に対して、重合開始剤を0.1〜40質量部の量で使用することが好ましく、1〜10質量部の量で使用することがより好ましい。重合開始剤の使用量が少なすぎると架橋重合体微粒子の収率が低くなり易く、一方重合開始剤の使用量が多すぎると重合速度が大きくなりすぎて、重合を安定に行いにくくなる。
【0060】
架橋重合体微粒子を製造する際の重合温度としては、40〜80℃が好ましく、45〜70℃がより好ましい。重合温度が低すぎると、ビニル単量体の重合速度が低くなって架橋重合体微粒子を生産性よく製造できにくくなり、一方重合温度が高すぎると、生成した架橋重合体微粒子の凝集などが生じ易く、また架橋重合体微粒子の粒度分布が広くなる。
【0061】
本発明では、生成する架橋重合体微粒子の分散安定性をより向上させるためや、粒度分布をより狭くするためや、架橋重合体微粒子に磁性や導電性を付与するためや、架橋重合体微粒子を着色するために、上記した分散安定剤と共に、他の添加剤を用いてもよい。他の添加剤としては、例えば、コバルト、鉄、アルミニウムなどの金属やこれらの合金;酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケルなどからなる金属酸化物の微粉体;カーボンブラックニグロシン染料、アニリンブルーなどの顔料、染料類:高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、リン酸エステルなどの陰イオン界面活性剤;脂肪酸アミド誘導体、多価アルコール誘導体などの非イオン界面活性剤などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0062】
重合および加水分解性シリル基の加水分解縮合反応により生成した架橋重合体微粒子は、親水性溶媒中に分散させたままで架橋重合体微粒子の分散液の状態で使用してもよいし、親水性溶媒から分離回収して使用してもよい。
架橋重合体微粒子を親水性溶媒から分離回収する方法としては、例えば、沈降分離法、遠心分離法、デカンテーション法などを採用することができ、更に必要に応じて洗浄、乾燥を行う。また、架橋重合体微粒子の分散液を分離回収することなく、直接スプレードライヤー等の噴霧乾燥機や、気流式乾燥機等を用いて直接乾燥してもよい。
【0063】
上記した製造方法による場合は、重合の開始とともに、生成した重合体が親水性溶媒に溶解せずに次々に析出するが、分散安定剤として、上記した分散安定剤用重合体(A)、(C)、(B)などのカルボキシル基とビニル基を有する重合体からなる分散安定剤を用いた場合には、当該分散安定剤(分散安定剤用重合体)と架橋重合体微粒子の製造に用いたビニル単量体の共重合により極めて分散安定化効果の高いグラフトポリマーも同時に効率よく生成するため、重合の極初期段階でより多くの安定粒子が形成される。さらにビニル単量体の重合が進行する段階においては、初期に形成された安定粒子が重合の進行とともに成長する速度に合わせて、上記グラフトポリマーが主に成長粒子表面で生成するため、粒子間の凝集、および新粒子の発生が高度に抑制されて、極めて単分散性に優れる、粒度分布の狭い重合体微粒子を再現性よく、安定にかつ簡便に製造することができる。しかも、カルボキシル基と(メタ)アクリロイル基を有する重合体からなる分散安定剤を用いた場合には、他の分散安定剤を用いた場合に比べて、より小さな(より多くの)初期安定化粒子を形成することが可能であり、かつその成長を安定に進行させることができるため、より小さくかつ単分散性に優れた架橋重合体微粒子を製造することが可能となる。
【実施例】
【0064】
以下に実施例などによって本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の例に何ら限定されるものではない。
以下の例において、重合体の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)、カルボキシル基を有する重合体(プレポリマー)へのグリシジルメタクリレートの付加率、重合安定性、重合体微粒子の体積平均粒子径(dv)、数平均粒子径(dn)、粒子サイズの変動係数(Cv)、副生小粒子量、並びに架橋重合体微粒子の耐メチルエチルケトン性(耐溶剤性)の測定または評価は、以下のようにして行なった。
【0065】
(1)重合体の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn):
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により重合体の分子量を測定して、ポリスチレン換算で重合体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を求めた。
具体的には、GPC装置として、東ソー社製「HLC−8120GPC」を使用し、カラムとしてTSKgel super MP−M(4本)を使用して、分散液より揮発分を除去して得られる重合体を溶媒テトラヒドロフランに溶解した溶液(濃度5mg/ml)をサンプルとして、展開溶媒にテトラヒドロフランを用い、流速0.35ml/分、カラム温度40℃の条件にて測定を行った。測定結果を標準ポリスチレンにて作成した検量線を用いて解析し、ポリスチレン換算での重合体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を求めた。
【0066】
(2)カルボキシル基を有する重合体へのグリシジルメタクリレートの付加率:
ガスクロマトグラフィー(GC)により、グリシジルメタクリレートの残存量、副反応物生成量を測定して、カルボキシル基を有する重合体(プレポリマー)へのグリシジルメタクリレートの付加率を求めた。
具体的には、GC装置として日立社製「GC−263−30」を使用し、FID検出器、およびカラムとしてZebron ZB−5(30m)を使用して、反応液を蒸留水にて希釈し、内部標準物質としてメチルセロソルブアセテートを添加したものをサンプルとして、キャリアーガスとして窒素ガスを用い、流量を10ml/分とし、カラム温度を50℃から200℃まで7.5℃/分で昇温させて測定を行った。内部標準物質(メチルセロソルブアセテート)、グリシジルメタクリレート、およびグリシジルメタクリレートの水付加物のピーク面積より、未反応で残存しているグリシジルメタクリレート量およびグリシジルメタクリレートの水付加物量を定量した。グリシジルメタクリレートの水付加率は水付加により消費されたグリシジルメタクリレート量を全グリシジルメタクリレート量で除算して求めた。またカルボキシル基を有する重合体(プレポリマー)へのグリシジルメタクリレートの付加率は、グリシジルメタクリレートの全使用量から残存グリシジルメタクリレート量および水付加により消費されたグリシジルメタクリレート量を差し引き、グリシジルメタクリレートの全使用量で除算して求めた。
【0067】
(3)重合安定性の評価:
重合または重合と架橋反応により得られた架橋重合体微粒子の分散液を反応器から取り出した後、反応器の内部および攪拌翼への重合体の付着量を目視により観察した。また、反応器から取り出した架橋重合体微粒子の分散液を、200目ポリネット(目開き:114μm)で濾過し、ポリネット上に残留している凝集物の量を目視で観察し、それらの両方の観察結果から、下記の評価基準に従って重合安定性の評価を行なった。
[重合安定性の評価基準]
◎:反応器の内部および撹拌翼への重合体の付着がないか又は付着がごく僅かであり、しかもポリネット上に凝集物の残留がないか又は残留がごく僅かである。
○:反応器の内部および撹拌翼への重合体の付着が少なく、かつポリネット上での凝集物の残留が少ない。
△:反応器の内部および撹拌翼への重合体の付着がかなりあり、かつポリネット上での凝集物の残留がかなりある。
×:反応器の内部および撹拌翼への重合体の付着が多く、しかもポリネット上での凝集物の残留が多い。
【0068】
(4)架橋重合体微粒子の体積平均粒子径(dv)、数平均粒子径(dn)、粒子サイズの変動係数(Cv)および副生小粒子量:
(i) 重合または重合と架橋反応により得られた架橋重合体微粒子の分散液から揮発分(重合溶媒、残存モノマーなど)を除去して回収した架橋重合体微粒子を、所定の有機溶媒に均一分散させた後、アルミプレート上に滴下、室温で有機溶剤を除去して、電界放射走査型電子顕微鏡(FE−SEM)[日本電子(株)製「JSM−6330F」]を使用するSEM方法によって写真撮影した。その際に、粒子径および変動係数を測定するための撮影として、1枚の写真に200個程度の粒子が撮影される倍率とし、撮影位置を変えて、3枚撮影した。
(ii) 上記(i)で撮影したSEM写真において、全ての重合体微粒子のそれぞれについてその粒子径(di)(写真撮影した粒子の面積から求められる面積円相当径)を測定し、以下の数式(1)、(2)および(3)に従って、重合体微粒子の体積平均粒子径(dv)、数平均粒子径(dn)および粒子サイズの変動係数(Cv)を算出した。niは粒子径がdiである粒子の個数を示す。
体積平均粒子径(dv)=(Σnidi3/Σni)1/3 (1)
数平均粒子径(dn)=(Σnidi/Σni) (2)
粒子サイズの変動係数(Cv)(%)=100σ/dn (3)
σ(標準偏差)=(Σ(di−dn)2/Σni)1/2 (4)

粒子サイズの変動係数(Cv)は、その値が小さいほど(ゼロに近いほど)、粒度分布が狭く、粒子の径が均一で粒子サイズが揃っていることを意味する。
なお、上記計算に当たっては、正確な粒子径の測定が可能な、0.3μm以上の架橋重合体微粒子の測定結果を使用した。
【0069】
(iii) 上記において、粒子径が0.3μm以下の小粒子(副生小粒子)の生成量については、SEM写真を目視にて観察した結果から、以下の評価基準に従って評価した。

[副生小粒子の生成量の評価基準]
◎:副生小粒子の生成がないかまたはごく僅かである。
○:副生小粒子が少量生成している。
△:副生小粒子がかなり生成している
×:副生小粒子が多量に生成している。
【0070】
(5)架橋重合体微粒子の耐メチルエチルケトン性(耐溶剤性):
架橋重合体微粒子を20質量倍のメチルエチルケトンに分散させた後、25℃で24時間静置した。24時間後に、架橋重合体微粒子がメチルエチルケトンに溶解または膨潤したか否かを目視により観察し、溶解しないか又は膨潤による粒子間の合一がなく、粒子状を保って再分散が可能な重合体微粒子については、室温下に静置状態でメチルエチルケトンを除去してSEM法により写真撮影し、そのSEM写真を、本試験を行なう前の架橋重合体微粒子のSEM写真と比較して、粒子サイズの変化、形態の変化、溶出ポリマー成分の有無を調べて、下記の評価基準に従って耐メチルエチルケトン性を評価した。なお、本試験を行なう前の架橋重合体微粒子のSEM写真とは、重合体微粒子をメタノールに均一分散したのち、室温でメタノールを除去したサンプルを観察したものを意味する。

[耐メチルエチルケトン性の評価基準]
◎:架橋重合体微粒子の試験前後のSEM写真を比較したときに、粒子サイズおよび粒子形態にほとんど変化が見られず、良好な粒子形態を維持している。
○:架橋重合体微粒子の試験前後のSEM写真を比較したときに、粒子サイズおよび粒子形態に多少変化が見られるが、ほぼ良好な粒子形態を維持している。
△:試験後の架橋重合体微粒子のSEM写真では、粒子形態を有していることは確認されるが、粒子サイズおよび/または粒子形態にかなりの変化が生じているか、或いは架橋重合体微粒子の外部に溶出した重合体成分が確認される。
×:架橋重合体微粒子がメチルエチルケトンに溶解するか、または膨潤による架橋重合体微粒子間の合一が顕著で24時間静置後に再分散できない。

架橋重合体微粒子、特に十分な架橋がなされている架橋重合体微粒子ほど、この耐メチルエチルケトン性の試験を行なった際に、架橋重合体微粒子の溶解や形態変化がないかまたは小さく、溶出ポリマー成分も少ない。以下の試験結果から明らかなように、実施例の架橋重合体微粒子は、耐メチルエチルケトン性に優れており、耐溶剤性や耐熱性が要求される用途に好適に使用することができる。
【0071】
《製造例1》[分散安定剤液(Aw−1)の製造]
(1) ホットオイルによる加熱装置を備えた容量500mlの加圧式攪拌槽型反応器を3−エトキシプロピオン酸エチルで満たした。反応器を約250℃に加温し、反応器内圧力を圧力調節器により3−エトキシプロピオン酸エチルの蒸気圧以上に設定した。
(2) メタクリル酸メチル20質量部、アクリル酸シクロヘキシル55質量部、アクリル酸25質量部およびジ−t−ブチルパーオキサイド0.1部を秤量して、単量体混合液を調製し、この単量体混合液を原料タンクに貯蔵した。
(3) 上記(1)の反応器内の圧力を一定に保ちながら、上記(2)で調製した単量体混合液を原料タンクから反応器に連続的に供給した。このとき、単量体混合液の反応器内での平均滞留時間が12分となるように供給速度を設定した。単量体混合液の供給量に相当する反応液を反応器の出口から連続的に抜き出した。単量体混合液の連続供給中、反応器内温度を230±2℃に維持した。反応器の出口から抜き出した反応液を薄膜蒸発器に導入して、反応液中の未反応単量体などの揮発性成分を除去して、分子鎖末端にビニリデン基を有し、分子鎖の途中にカルボキシル基を有する重合体(A−1)を得た。単量体混合液の供給開始から90分後、薄膜蒸発器の出口から重合体(A−1)の採取を開始し、60分間採取を行った。
【0072】
(4) 上記(3)で得られた重合体(A−1)について、上記した方法で重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を上記した方法で測定したところ、重量平均分子量(Mw)は10600、数平均分子量(Mn)は3100であった。
また、上記(3)で得られた重合体(A−1)では、1H−NMRにより測定した末端エチレン性不飽和結合の濃度と数平均分子量(Mn)から算出される末端エチレン性不飽和結合(末端ビニリデン基)の導入率は98%であった。
(5) 上記(3)で得られた重合体(A−1)をフレーク状に粉砕し、重合体(A1)の粉砕物100質量部、水260質量部および25%アンモニア水22.5質量部を冷却管付ガラス製フラスコに仕込み、90℃の温浴で加温しながら攪拌して重合体(A−1)を水溶化させた。重合体(A−1)が溶解したことを確認した後、155℃×30分での加熱残分より測定した固形分濃度が25質量%となるように水を加えて、重合体(A−1)の水溶液[以下「分散安定剤液(Aw−1)」という]を製造した。この分散安定剤液(Aw−1)(水溶液)の25℃でのpHは8.0であった。
【0073】
《製造例2》[分散安定剤液(Bw−1)の製造]
(1) 攪拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管および送液配管連結部を備えたガラス製反応器に、イオン交換水200質量部を仕込み、攪拌および窒素ガスの吹き込みを行いながら反応器内温を80℃に調整した。
(2) 定量ポンプによる送液配管を取り付けたガラス製容器に、メタクリル酸メチル36.4質量部、メタクリル酸イソブチル36.4質量部、メタクリル酸20.0質量部およびチオグリコール酸2−エチルヘキシル7.29質量部を仕込み、攪拌して単量体混合液(100質量部)を調製した。
(3) 上記(1)の反応器内温が80℃で安定したことを確認した後、反応器に、過硫酸アンモニウム(重合開始剤)0.800質量部をイオン交換水3.00質量部に溶解した重合開始剤水溶液を添加し、その5分後に上記(2)で調製した単量体混合液の反応器への供給を開始し、定量ポンプを使用して、単量体混合液100質量部を一定速度で180分かけて反応器に供給した。供給完了後、反応器内温を90℃に昇温し、90℃で5時間維持して、分子鎖の途中にカルボキシル基を有する重合体(B0)(プレポリマー)の分散液を得た。分散液の少量をサンプリングして乾燥した後、GPC測定により上記した方法で分子量を測定した結果、重量平均分子量(Mw)4850、数平均分子量(Mn)2800であった。また重合体(B0)のカルボキシル基量は、単量体混合液組成より2.33meq/gと計算される。
(4) 上記(3)で得られた反応器内の重合体(B0)の分散液の温度を80℃に調整し、窒素ガスの吹き込みを空気の吹き込みに変更し、直ちにトリエチルアミン9.39質量部およびメトキシハイドロキノン0.03質量部を添加し、その15分後にグリシジルメタクリレート5.07質量部を添加し、内温80℃で3時間加熱して重合体(B0)のカルボキシル基の一部にグリシジルメタクリレートを付加させて、分子鎖の途中にカルボキシル基とメタクリロイル基を有する重合体(B−1)を含む分散液を製造した。
【0074】
(5) 上記(4)で得られた重合体(B−1)の分散液をサンプリングして上記の方法によりGC分析を行った。測定の結果、グリシジルメタクリレートは検出されなかった。またグリシジルメタクリレートの4%に相当するグリシジルメタクリレート水付加物が検出された。この結果より、重合体(B0)へのグリシジルメタクリレートの付加率は96%、水付加率は4%と計算される。また重合体(P0)の数平均分子量(Mn)および重合体(P0)へのグリシジルメタクリレートの付加率より、重合体(B−1)は、1分子当たり(ポリマー鎖1本当たり)、平均して0.96個のエチレン性不飽和基を有する[エチレン性不飽和基の平均導入率(f値)が96%である]ことが算出された。
(6) 上記(4)で得られた重合体(B−1)の分散液に、イオン交換水を添加して、155℃×30分での加熱残分より測定した固形分濃度が30質量%の分散液(以下「分散安定剤液(Bw−1)」という)を調製した。
なお、上記(4)で得られた重合体(B−1)におけるエチレン性不飽和基の平均導入率(f値)は、以下の計算により求めた。
【0075】
[エチレン性不飽和基の平均導入率(f値)の計算]
・重合体(B0)100部のモル数は、100/2800[重合体(B0)のMn]
・重合体(B0)100部に対し、グリシジルメタクリレートの5.07部×0.96が付加している。
・グリシジルメタクリレートの分子量142より、グリシジルメタクリレートの付加モル数は、(5.07部×0.96)/142
・f値=付加したグリシジルメタクリレートのモル数/重合体(B0)のモル数
=(5.07×0.96/142)/(100/2800)=0.96
【0076】
《実施例1》[架橋重合体微粒子(P−1)の製造]
(1) 攪拌機、還流冷却器、温度計および窒素導入管を備えたガラス製反応器に、イオン交換水140質量部、メタノール830質量部、製造例1で製造した分散安定剤液(Aw−1)40.0質量部、メタクリル酸メチル45.0質量部およびメタクリル酸イソブチル45.0質量部を仕込み、攪拌および窒素ガスの吹き込みを行いながら、反応器内温を55℃に調整した。なお、分散安定剤液(Aw−1)の水も考慮すると、水とメタノールの質量比は17/83である。
(2) 上記(1)の反応器の内温が55℃で安定したことを確認した後、メタクリル酸トリメトキシシリルプロピル10.0質量部を反応器に投入し、さらにその10分後に重合開始剤(日本油脂株式会社製「パーブチルPV」;t−ブチルパーオキシピバレートの70%溶液)4.0質量部を添加して重合を開始させたところ、重合開始剤の添加後、直ちに反応液に濁りが生じ、徐々に白化して乳白色となり、重合体微粒子が生成していることが確認された。重合開始剤(パーブチルPV)の添加から4時間にわたって反応器の内温を55℃に保持して、加水分解性シリル基を有する重合体微粒子の分散液を得た。
(3) 引き続き、加水分解性シリル基の加水分解・縮合反応による架橋を促進させるため、塩基性触媒として25%アンモニア水32.9質量部を添加し、反応器の内温を65℃に昇温させて同温度に3時間保持して、微粒子分散液を得た。
【0077】
(4) 上記(3)で得られた微粒子分散液を冷却した後、200目ポリネットでろ過しながら反応器から取り出しを行なって、架橋重合体微粒子(P−1)の分散液を回収した。重合反応液を抜き出した後の反応器の内部や攪拌翼に重合体の付着はなく、更に200目ポリネット上にろ過残渣は認められず、上記した評価方法による重合安定性の評価では◎と判定された。
(5) 上記(4)で回収した分散液を遠心分離処理して、架橋重合体微粒子(P−1)を沈降させた後、上澄み液を除去してから、架橋重合体微粒子(P−1)を回収し、155℃で30分加熱した時の不揮発分が98質量%以上になるまで60℃で乾燥し、乾燥後に解砕して、乾燥した架橋重合体微粒子(P−1)を得た。
(6) 上記(5)で得られた架橋重合体微粒子(P−1)について、メタノールに分散させた後、室温で乾燥させて、SEM(電界放射走査型電子顕微鏡FE−SEM)[日本電子(株)製「JSM−6330F」]を使用して観察を行った。その得られたSEM写真より、上記した方法で求めた数平均粒子径(dn)は3.75μm、粒子サイズの変動係数(Cv)は3.9%であった。また、SEM写真より、0.3μm以下の副生小粒子生成量はごく僅かであることが確認された。
【0078】
(7) 上記(5)で得られた架橋重合体微粒子(P−1)を20質量倍のメチルエチルケトンに分散させた後、25℃で24時間静置させた。24時間後に架橋重合体微粒子(P−1)はメチルエチルケトン中で沈降していたが、粒子間の凝集や合一などが生じておらず、容易に再分散できた。再分散させた架橋重合体微粒子(P−1)のメチルエチルケトン分散液を室温で乾燥させた後、上記(6)と同様にしてSEMを使用して観察を行った。架橋重合体微粒子(P−1)のSEM像は、上記(5)で得られた、メチルエチルケトンに浸漬する前の架橋重合体微粒子(P−1)のSEM像と変わりがなく、上記した方法で評価した耐メチルエチルケトン性の評価結果は◎と判定された。架橋重合体微粒子(P−1)は、その架橋効果よって耐溶剤性に優れた微粒子であることが確認された。
(8) 上記(6)のSEM写真[メチルエチルケトン(MEK)に浸漬する前の架橋重合体微粒子(P−1)のSEM写真](倍率5,000倍)を図1の(a)に、また上記(7)のSEM写真[メチルエチルケトン(MEK)に浸漬した前の架橋重合体微粒子(P−1)のSEM写真](倍率5,000倍)を図1の(b)に示す。
【0079】
《実施例2〜5》[架橋重合体微粒子(P−2)〜(P−5)の製造]
重合に使用したビニル単量体の種類および量を下記の表1に変更した以外は実施例1と同様に行なって、架橋重合体微粒子(P−2)〜(P−5)を製造し、上記した方法で、重合安定性の評価、得られた架橋重合体微粒子の平均粒子径[数平均粒子径(dn)]および粒子サイズの変動係数(Cv)の算出、副生小粒子の生成の評価並びに耐メチルエチルケトン性の評価を行なった。
その結果を、下記の表1に示す。
【0080】
《実施例6および7》[架橋重合体微粒子(P−6)および(P−7)の製造]
重合温度を下記の表1に変更した以外は実施例1と同様に行なって、架橋重合体微粒子(P−6)および(P−7)のそれぞれを製造し、上記した方法で、重合安定性の評価、得られた架橋重合体微粒子の平均粒子径[数平均粒子径(dn)]および粒子サイズの変動係数(Cv)の算出、副生小粒子の生成の評価並びに耐メチルエチルケトン性の評価を行なった。
その結果を、下記の表2に示す。
【0081】
《実施例8および9》[架橋重合体微粒子(P−8)および(P−9)の製造]
分散安定剤として、分散安定剤液(Aw−1)の代りにポリビニルピロリドン[和光純薬株式会社製「K−30」、重量平均分子量(Mw)=30,000]を下記の表2に示す量で用い、下記の親水性溶媒の組成並びにビニル単量体の種類および量を下記の表2に示すように変えた以外は、実施例1と同様に行なって、架橋重合体微粒子(P−8)および(P−9)をそれぞれ製造し、上記した方法で、重合安定性の評価、得られた架橋重合体微粒子の平均粒子径[数平均粒子径(dn)]および粒子サイズの変動係数(Cv)の算出、副生小粒子の生成の評価並びに耐メチルエチルケトン性の評価を行なった。
その結果を、下記の表2に示す。
【0082】
《比較例1》[架橋重合体微粒子(Q−1)の製造]
20℃の水への溶解度が1.0g/100ml以下のビニル単量体(b)を含まない下記の表2に示すビニル単量体組成を採用し、ビニル単量体の種類および量を下記の表2に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして架橋重合体微粒子を製造しようとしたところ、重合途中に多量の凝集物が生成して攪拌が困難となったため、重合を中止した。そのため架橋重合体微粒子を得ることができなかった。
その結果を、下記の表2に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【0085】
上記の表1および表2の結果にみるように、実施例1〜9では、ビニル単量体として、加水分解性シリル基含有ビニル単量体(a)および20℃の水への溶解度が1.0g/100ml以下の疎水性ビニル単量体(b)を本発明で規定する範囲内の量で少なくとも用いて、分散安定剤の存在下に、ビニル単量体および分散安定剤を溶解するが、生成するビニル系共重合体を溶解しない親水性溶媒中で重合してビニル系共重合体からなる重合体微粒子を製造し、ビニル単量体の重合後にビニル系共重合体中の加水分解性シリル基の少なくとも一部を加水分解縮合反応させたことによって、平均粒子径(dn)が0.7〜8μmの範囲にあり、粒子サイズの変動係数(Cv)が20%以下で粒度分布が狭くて粒径が揃っていて、しかも耐溶剤性(耐メチルエチルケトン性)に優れる本発明の架橋重合体微粒子が、良好な重合安定性で、粒径が0.3μm以下の小粒子を副生しないかまたは副生を抑制しながら円滑に得られている。
それに対して、比較例1では、ビニル単量体として、加水分解性シリル基含有ビニル単量体(a)を用いているが、20℃の水への溶解度が1.0g/100ml以下の疎水性ビニル単量体(b)を用いずに、20℃の水への溶解度が1.0g/100mlよりも大きいビニル単量体を用いていることによって、重合安定性が極端に悪く、多量の凝集物が生成し、架橋重合体微粒子を製造することができなかった。
【0086】
《実施例10》[架橋重合体微粒子(P−10)の製造]
(1) 攪拌機、還流冷却器、温度計および窒素導入管を備えたガラス製反応器に、イオン交換水99.6質量部、メタノール475.6質量部、製造例2で製造した分散安定剤液(Bw−1)6.67質量部、25%アンモニア水0.13質量部、メタクリル酸メチル40.0質量部およびメタクリル酸イソブチル50.0質量部を仕込み、攪拌および窒素ガスの吹き込みを行いながら、反応器内温を55℃に調整した。なお、分散安定剤液(Bw−1)の水も考慮すると、水とメタノールの質量比は18/82である(25%アンモニア水は水として計算)。
(2) 上記(1)の反応器の内温が55℃で安定したことを確認した後、メタクリル酸トリメトキシシリルプロピル10.0質量部を反応器に投入し、さらにその10分後に重合開始剤(日本油脂株式会社製「パーブチルPV」;t−ブチルパーオキシピバレートの70%溶液)2.40質量部を添加して重合を開始させたところ、重合開始剤の添加後、直ちに反応液に濁りが生じ、徐々に白化して乳白色となり、重合体微粒子が生成していることが確認された。重合開始剤(パーブチルPV)の添加から4時間にわたって反応器の内温を55℃に保持して、加水分解性シリル基を有する重合体微粒子の分散液を得た。なお、分散液のpHは8.5であった。
【0087】
(3) 引き続き、加水分解性シリル基の縮合反応による架橋を促進させるため、塩基性触媒として25%アンモニア水32.9質量部を添加し、反応器の内温を65℃に昇温させて同温度に3時間保持して、微粒子分散液を得た。なお、65℃で2.5時間保持した時点で、酸化防止剤[株式会社ADEKA製「AO−70」;トリエチレングリコールビス(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート)]1.00部を添加した。
(4) 上記(3)で得られた微粒子分散液を冷却した後、200目ポリネットでろ過しながら反応器から取り出しを行なって、架橋重合体微粒子(P−10)の分散液を回収した。重合反応液を抜き出した後の反応器の内部や攪拌翼に重合体の付着はなく、更に200目ポリネット上にろ過残渣は認められず、上記した評価方法による重合安定性の評価では◎と判定された。
(5) 上記(4)で回収した分散液を遠心分離等による分離操作を行うことなく、そのまま、155℃で30分加熱した時の不揮発分が98質量%以上になるまで60℃で乾燥し、乾燥後に解砕して、乾燥した架橋重合体微粒子(P−10)を得た。
【0088】
(6) 上記(5)で得られた架橋重合体微粒子(P−10)について、メタノールに分散させた後、室温で乾燥させて、SEM(電界放射走査型電子顕微鏡FE−SEM)[日本電子(株)製「JSM−6330F」]を使用して観察を行った。それにより得られたSEM写真より、上記した方法で求めた数平均粒子径(dn)は1.94μm、粒子サイズの変動係数(Cv)は2.3%であった。また、SEM写真より、0.3μm以下の副生小粒子生成量はごく僅かであることが確認された。この架橋重合体微粒子(P−10)のSEM写真を図2の(a)に示す(倍率8,000倍)。
(7) 上記(5)で得られた架橋重合体微粒子(P−11)を20質量倍のメチルエチルケトンに分散させた後、25℃で24時間静置させた。24時間後に架橋重合体微粒子(P−10)はメチルエチルケトン中で沈降していたが、粒子間の凝集や合一などが生じておらず、容易に再分散できた。再分散させた架橋重合体微粒子(P−10)のメチルエチルケトン分散液を室温で乾燥させた後、上記(6)と同様にしてSEMを使用して観察を行った。架橋重合体微粒子(P−10)のSEM像は、上記(5)で得られた、メチルエチルケトンに浸漬する前の架橋重合体微粒子(P−10)のSEM像と変わりがなく、上記した方法で評価した耐メチルエチルケトン性の評価結果は◎と判定された。架橋重合体微粒子(P−10)は、その架橋効果よって耐溶剤性に優れた微粒子であることが確認された。メチルエチルケトンから取り出して乾燥した架橋重合体微粒子(P−10)のSEM写真を図2の(b)に示す(倍率8,000倍)。
【0089】
《実施例11〜15》[架橋重合体微粒子(P−11)〜(P−15)の製造]
重合時に使用する親水性溶媒の組成を下記の表3に示す組成に変え、ビニル単量体の種類および量を下記の表3に変更した(実施例13〜15)以外は、実施例10と同様に行なって、架橋重合体微粒子(P−11)〜(P−15)を製造し、上記した方法で、重合安定性の評価、得られた架橋重合体微粒子の平均粒子径[数平均粒子径(dn)]および粒子サイズの変動係数(Cv)の算出、副生小粒子の生成の評価並びに耐メチルエチルケトン性の評価を行なった。
その結果を、下記の表3に示す。
【0090】
《実施例16〜20》[架橋重合体微粒子(P−16)〜(P−20)の製造]
重合時に、使用する分散安定剤の量、親水性溶媒の組成、25%アンモニア水の添加量、ビニル単量体の種類および量並びに重合温度のいずれか1つまたは2つ以上を下記の表4のように変更し、それ以外は実施例10と同様に行なって、架橋重合体微粒子(P−16)〜(P−20)を製造し、上記した方法で、重合安定性の評価、得られた架橋重合体微粒子の平均粒子径[数平均粒子径(dn)]および粒子サイズの変動係数(Cv)の算出、副生小粒子の生成の評価並びに耐メチルエチルケトン性の評価を行なった。
その結果を、下記の表4に示す。
【0091】
《実施例21〜22》[架橋重合体微粒子(P−21)〜(P−22)の製造]
重合時に使用する親水性溶媒の組成を下記の表5に示す組成に変え、ビニル単量体の種類および量を下記の表5に変更した以外は、実施例10と同様に行なって、架橋重合体微粒子(P−21)〜(P−22)を製造し、上記した方法で、重合安定性の評価、得られた架橋重合体微粒子の平均粒子径[数平均粒子径(dn)]および粒子サイズの変動係数(Cv)の算出、副生小粒子の生成の評価並びに耐メチルエチルケトン性の評価を行なった。
その結果を、下記の表5に示す。
【0092】
《比較例2》[架橋重合体微粒子(Q−2)の製造]
架橋性単量体として、加水分解性シリル基含有ビニル単量体(a)の代りにメタクリル酸アリルを用いて、下記の表5に示す親水性溶媒組成並びに下記の表6に示す種類および量のビニル単量体を用い、それ以外は実施例10と同様にして架橋重合体微粒子を製造しようとしたところ、重合途中に多量の凝集物が生成して攪拌が困難となったため、重合を中止した。そのため、架橋重合体微粒子を得ることができなかった。
【0093】
《比較例3》[重合体微粒子(Q−3)の製造]
・架橋性単量体を使用せずに、下記の表6に示す種類および量のビニル単量体を用い、それ以外は実施例20と同様にして重合体微粒子(Q−3)を製造した。上記した方法で、重合安定性の評価、得られた重合体微粒子(Q−3)の平均粒子径[数平均粒子径(dn)]および粒子サイズの変動係数(Cv)の算出、副生小粒子の生成の評価並びに耐メチルエチルケトン性の評価を行なった。
その結果を、下記の表6に示す。
【0094】
《比較例4》[架橋重合体微粒子(Q−4)の製造]
架橋性単量体として、加水分解性シリル基含有ビニル単量体(a)の代りにメタクリル酸アリルを用いて、下記の表6に示す種類および量のビニル単量体を用い、それ以外は実施例20と同様にして架橋重合体微粒子(Q−4)を製造し、上記した方法で、重合安定性の評価、得られた架橋重合体微粒子の平均粒子径[数平均粒子径(dn)]および粒子サイズの変動係数(Cv)の算出、副生小粒子の生成の評価並びに耐メチルエチルケトン性の評価を行なった。
その結果を、下記の表6に示す。
【0095】
《比較例5》[架橋重合体微粒子(Q−5)の製造]
架橋性単量体として、加水分解性シリル基含有ビニル単量体(a)の代りに、エチレングリコールジメタクリレートを用いて、下記の表6に示す種類および量のビニル単量体を用い、それ以外は実施例20と同様にして架橋重合体微粒子を製造しようとしたところ、重合途中に多量の凝集物が生成して攪拌が困難となったため、重合を中止した。そのため架橋重合体微粒子を得ることができなかった。
【0096】
《比較例6》[架橋重合体微粒子(Q−6)の製造]
20℃の水への溶解度が1.0g/100ml以下の単官能のビニル単量体(b)の使用量が10質量%より少ない下記の表6に示すビニル単量体組成を採用し、更に下記の表6に示す親水性溶媒組成および重合温度を採用し、また分散安定剤は使用せず、重合開始剤はパーブチルPVの代わりに、和光純薬製、V−50[2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロリド]0.17部、およびV−70[2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4’−ジメチルバレロニトリル)]0.03部を使用した。それ以外は実施例10と同様にして架橋重合体微粒子を製造しようとしたところ、重合途中に多量の凝集物が生成して攪拌が困難となったため、重合を中止した。そのため、架橋重合体微粒子を得ることができなかった。
【0097】
【表3】

【0098】
【表4】

【0099】
【表5】

【0100】
【表6】

【0101】
上記の表3〜6の結果にみるように、実施例10〜22では、ビニル単量体として、加水分解性シリル基含有ビニル単量体(a)および20℃の水への溶解度が1.0g/100ml以下の単官能の疎水性ビニル単量体(b)を本発明で規定する量で少なくとも用いて、分散安定剤の存在下に、ビニル単量体および分散安定剤を溶解するが、生成するビニル系共重合体を溶解しない親水性溶媒中で重合してビニル系共重合体からなる重合体微粒子を製造し、ビニル単量体の重合後にビニル系共重合体中の加水分解性シリル基の少なくとも一部を加水分解縮合反応させたことによって、平均粒子径(dn)が0.7〜8μmの範囲にあり、粒子サイズの変動係数(Cv)が10%以下で粒度分布が狭くて粒径が揃っていて、しかも耐溶剤性(耐メチルエチルケトン性)に優れる本発明の架橋重合体微粒子が、良好な重合安定性で、粒径が0.3μm以下の小粒子を副生しないかまたは副生を抑制しながら円滑に得られている。
【0102】
それに対して、比較例2では、架橋性ビニル単量体として、加水分解性シリル基含有ビニル単量体(a)の代りにメタクリル酸アリルを用いたことにより、重合安定性に大きく劣っていて、重合中に多量の凝集物が生成し、架橋重合体微粒子が得られない。
また、比較例3では、架橋性ビニル単量体を何ら用いなかったことにより、得られた重合体微粒子は耐溶剤性(耐メチルエチルケトン性)に大きく劣っている。
また、20℃の水への溶解度が1.0g/100ml以下の疎水性ビニル単量体(b)としてスチレンを用い、架橋性ビニル単量体として加水分解性シリル基含有ビニル単量体(a)の代りにメタクリル酸アリルを用いた比較例4では、重合安定性に劣っており、得られる架橋重合体微粒子は耐溶剤性(耐メチルエチルケトン性)に劣っている。
さらに、20℃の水への溶解度が1.0g/100ml以下の疎水性ビニル単量体(b)としてスチレンを用い、架橋性ビニル単量体として、加水分解性シリル基含有ビニル単量体(a)の代りにエチレングリコールジメタクリレートを用いた比較例5では、重合安定性に大きく劣っていて、重合中に多量の凝集物が生成し、架橋重合体微粒子が得られない。
また、比較例6では、特許文献3に記載の内容を参考に、分散安定剤を使用せず、開始剤にV−50[2、2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロリド]0.17部、およびV−70[2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)]0.03部を使用して分散重合法を実施した。ビニル単量体としては、加水分解性シリル基含有ビニル単量体(a)を用いたが、20℃の水への溶解度が1.0g/100ml以下の単官能の疎水性ビニル単量体(b)の使用量が10質量%より少ないために、重合安定性は大きく劣っており、重合中に多量の凝集物が生成し、架橋重合体微粒子が得られなかった。つまり特許文献3の技術を用いても加水分解性シリル基の加水分解縮合反応により架橋された、耐熱性、耐溶剤性に優れた架橋微粒子を合成することはできない。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の架橋重合体微粒子は、0.7〜8μmというミクロンサイズの平均粒子径を有し、粒度分布が狭くて粒径が揃っており、シロキサン結合によって十分に架橋されていて、耐溶剤性および耐熱性に優れているため、光拡散、アンチグレア(艶消し)、アンチブロッキング、スペーサーなどの用途に有効に用いることができ、本発明の製造方法によって前記した優れた特性を有する本発明の架橋重合体微粒子を、重合時に凝集物などを副生することなく、安定した状態で、簡単な工程で、生産性良く、低コストで、円滑に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の要件(α)〜(γ)を満たすことを特徴とする架橋重合体微粒子。
(α)加水分解性シリル基を有するビニル単量体に由来する構造単位を0.5質量%以上の割合で有し且つ20℃の水への溶解度が1.0g/100ml以下の単官能の疎水性ビニル単量体に由来する構造単位を10質量%以上の割合で有するビニル系共重合体からなる架橋重合体微粒子である;
(β)ビニル系共重合体が有する加水分解性シリル基の加水分解縮合反応によって架橋されている;および、
(γ)平均粒子径が0.7〜8μmである。
【請求項2】
粒子サイズの変動係数(Cv)が20%以下である請求項1に記載の架橋重合体微粒子。
【請求項3】
ビニル単量体の全質量に基づいて、加水分解性シリル基を有するビニル単量体を0.5質量%以上の割合で用い、且つ20℃の水への溶解度が1.0g/100ml以下の単官能の疎水性ビニル単量体を10質量%以上の割合で用いて、分散安定剤の存在下に、ビニル単量体および分散安定剤を溶解するが、生成するビニル系共重合体を溶解しない親水性溶媒中で重合してビニル系共重合体からなる重合体微粒子を製造し、ビニル単量体の重合時または重合後にビニル系共重合体中の加水分解性シリル基の少なくとも一部を加水分解縮合反応により架橋させることを特徴とする請求項1に記載の架橋重合体微粒子の製造方法。
【請求項4】
分散安定剤として、カルボキシル基とビニル基を有する重合体およびポリビニルピロリドンの少なくとも1種を用いる請求項3に記載の架橋重合体微粒子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−168632(P2011−168632A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31059(P2010−31059)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】