説明

柔軟性を持つ遠赤外線輻射式PTC面状発熱体および携帯用暖房装置

【課題】本発明は、遠赤外線輻射式PTC面状発熱体に柔軟性を持たせ利用範囲を拡大するとともに、柔軟性を持たせた遠赤外線輻射式PTC面状発熱体の特徴を活かして利用環境を広く提供するものである。
【解決手段】粗い網目状態に構成した綿布に、粗い網目の一部として構成された特殊構造の電力供給線を織り込み組み合わせることで柔軟性を持った素材としたものに、PTC特性を有する特殊導電性塗料を含浸させた後に高温焼成して熱架橋を施し、網目状の遠赤外線輻射式PTC面状発熱体としたものに、柔軟性樹脂素材で被覆し、劣化することを防止するとともに、輻射効果範囲を広める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠赤外線輻射式PTC面状発熱体に柔軟性を持たせ利用範囲を拡大するとともに遠赤外線の輻射を最大に活用する構造にすることで遠赤外線輻射式PTC面状発熱体の特徴を活かして利用環境を広く提供するものである。
従来の遠赤外線輻射式PTC面状発熱体には柔軟性がなく、折り曲げなどによりPTC素材に剥離や亀裂などの劣化現象が発生していたが、本発明により薄利や亀裂を起こすことなく、遠赤外線輻射式PTC面状発熱体に柔軟性と耐久性を持たせることができた。
また、従来の多くの遠赤外線輻射式PTC面状発熱体がフィルム印刷方式を採用していることから、遠赤外線の輻射が1方向に限られていたものを遠赤外線輻射式PTC面状発熱体の構造を粗い網目に変えることで全方向への輻射を可能にした。
さらに、本発明により開発された遠赤外線輻射式PTC面状発熱体の特徴を活かして、人体などに遠赤外線輻射式PTC面状発熱体を当てて利用する環境に対して、体型に適合しやすい柔軟構造体を提供するともに、高耐久性、高信頼性、高安全性を提供し、さらに、低消費電力特性、自在性、小型化、軽量化などの利便性を提供することで、遠赤外線輻射式PTC面状発熱体が持つ本来の有効性を広く世の中に提供するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、世の中に存在する小型軽量な人体暖房装置は次の様なものがある。
1.鉄粉の酸化熱を利用して暖房に利用するもの。
2.衣類にパイプを這わせ、そのパイプにガスを送り発熱・熱発散させるもの。
3.ニクロム線、カーボン塗料を利用して、バッテリーから電力供給して発熱するもの。
4.従来のPTC塗料を利用して面状に仕上げ、バッテリーから電力供給するもの。
【0003】
1.鉄粉を利用して酸化熱により暖房効果を得るものは、ホカロンなどの商品名で販売されているものであるが、利用者が利用状態で発熱温度を安全に管理し難いものであり、利用条件によってはやけどなどの事故が発生するとともに、使用後に廃棄物が発生する欠点があるものである。
2.衣類にパイプを這わせそのパイプにガスを通して暖房効果を得るものは、循環ガスの温度上限を管理することで安全性を確保し易いが、提供装置の価格が高額になるとともに、普段着を着て利用するものでないため、利用範囲が狭く一般利用者に提供し難いものである。
3.ニクロム線を利用して暖房効果を得るものは、ニクロム線に耐久性があるため自由な形状で提供し易いが、発熱部分が線状のため期待する温度に対応させるためには、高温発熱せざるを得ず、発熱部の一部を押さえて保温性を高めるとその部分の温度が上昇するため、利用条件によってはやけどなどの事故が発生しやすく、その事故を防止しながら暖房効果を提供するためには、複数の発熱部と温度センサーに分割して提供する必要などの対策が必要でありコスト的に割高になるとともに、有効遠赤外線照射範囲が狭い欠点がある。
4.カーボン塗料(既存の面状発熱体)を利用して暖房効果を得ているものは、焼成したカーボン塗料の耐久性が曲げ環境下では低いことが知られているが、既存製品と同じ工程で作られたラミネートフィルムにより表面コーティングを行い、絶縁性、耐水性などの効果を得る加工を行ったものをそのまま利用している。
ある程度の柔軟性を持たせた製品としてまとめ、人体に製品を固定すると常時装置に曲げ応力が掛かるため、焼成後素材からカーボン塗料が剥離したり亀裂を起こしてしてしまい、耐用時間が短くなっていた。
【0004】
これらの環境から、使い捨てカイロのように利用後の廃棄物発生をなくし再利用を可能にするとともに、人体形状に適合する暖房装置として装着後に体を動かしても問題が発生しない高耐久、高信頼、高安全を提供し、さらに遠赤外線輻射式PTC面状発熱体の構造から得られる遠赤外線の高輻射率により人体暖房を目的とした場合、単なる熱エネルギーでは得られない遠赤外線効果により、小電力、省エネルギー動作が可能になることで、小型、軽量などの利便性を実現し、遠赤外線輻射式PTC面状発熱体を安全かつ有効利用できる手段の提供が求められていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、既存遠赤外線輻射式PTC面状発熱体にあった欠点を改善して、人体を直接的に暖房する携帯用暖房装置に特に有効な効果を与えることで、遠赤外線輻射式PTC面状発熱体利用に対して新たに大きな付加価値および産業効果を与えるものである。
1)従来の遠赤外線輻射式PTC面状発熱体が、外的応力により短期間で発熱機能が破壊されていたことを、荒い網目状の遠赤外線輻射式PTC面状発熱体を柔軟性のある樹脂で完全に一体化させることで柔軟性と強度を確保することで改善し、遠赤外線輻射式PTC面状発熱体の耐用期間を長くして携帯用暖房装置の耐久性と安全性を確保する。
2)遠赤外線輻射式PTC面状発熱体に柔軟性を与えた後も、従来の遠赤外線輻射式PTC面状発熱体が持つ機能を同等以上の信頼性を確保して、広範囲に利用可能とする。
3)遠赤外線輻射式PTC面状発熱体を人体暖房に適合する構造体とし、無駄なエネルギーの利用を止めることで、使用する電源(バッテリー)の小型、軽量化を図り、さらに利用装置の小型、軽量化を実現する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、既存の遠赤外線輻射式PTC面状発熱体利用装置の中で、遠赤外線輻射式PTC面状発熱体が床暖房のように構造体に固定されないで使用する装置に使用できるよう、遠赤外線輻射式PTC面状発熱体の発熱量および遠赤外線を最大限有効利用できる構造としたことにより、省エネルギー環境で同一動作を実行させる構造では全ての装置に利用することができるものである。
従来の遠赤外線輻射式PTC面状発熱体のメリットを生かしながら、次の手段で課題を解決したものである。
1.まず遠赤外線輻射式PTC面状発熱体に柔軟性と遠赤外線の輻射を全方向に有効になるよう発熱体の形状及び構造を粗い網目状の形状とした。
次に、本発明の遠赤外線輻射式PTC面状発熱体に使用しているPTC機能を有する特殊導電性塗料(以下単に導電性塗料という)は、そのPTC機能を安定させるために高温(180℃前後)で3分以上掛けて熱架橋させる必要があることから、従来のようなフィルム印刷方式は採用できないので、比較的耐熱温度の高い天然素材の綿糸(#20前後)を1ミリ間隔で荒い網目状態に機織して綿布に仕上げた。
その綿布に電極に使用する特殊銅線を機織する際に、使用電圧と使用電力に見合う本数と電極間の距離を決めて織り込み綿布に仕上げる。
この特殊銅線は柔軟性と耐久性及び強度を確保するために特殊構造にするが、その構造は極細の科学繊維を数百本束ね、その表面に幅1mmの銅箔をスパイラル状に巻き、1本の特殊銅線とする構造を採用した。
こうすることで柔軟性と引っ張り強度を高めながら導電性を確保することが出来た。1本の特殊銅線には約0.2mAの電流容量があるので、使用環境に合わせて電極に流れる電流容量を計算して織り込む本数を決定する。
こうして完成した綿布に導電性塗料をディッピングコーター機で含侵させロールで絞り塗布量を一定にした後に乾燥炉にて乾燥と焼成加工をして遠赤外線輻射式PTC面状発熱体を作るが、面状発熱体であるからこの塗布量の管理が一番重要と成るが、生産ラインは連続加工になるために、必要な大きさに裁断された製品の遠赤外線輻射式PTC面状発熱体性能検査のように電極間の抵抗値等での品質管理は不可能なため、従来は生産終了後にサンプリングして計測するか、生産ラインから部分的にカットしてサンプリングしたものを計測する方法を取っていたが、このような方法では品質が安定せず不良率も高くなることから、独自のシステムを開発して連続生産をしながら常時抵抗密度を計測する計測器を設置することで製品の安定性と生産効率を改善した。
次にこの完成した遠赤外線輻射式PTC面状発熱体に樹脂コーティング処理を施すが、使用する樹脂はコスト等も考慮してSBR樹脂を使用したが特に限定される物ではない。
この樹脂コーティング処理の方法は、遠赤外線輻射式PTC面状発熱体に再度ディッピングコーター機を使用して全体に満遍なく樹脂をコーティングした後に乾燥炉で乾燥させるが、乾燥炉に入る前に粗い網目の部分に樹脂が残らないように送風機にて網目部分に残った樹脂を除去して網目形状を残すことにより、柔軟性に対応できるようにした。
このようにして製造することで、外的応力により遠赤外線輻射式PTC面状発熱体が持つPTC特性が劣化することを防止するとともに遠赤外線輻射式PTC面状発熱体が持つ遠赤外線効果範囲を広めたことを特徴とする遠赤外線輻射式PTC面状発熱体および携帯用暖房装置。
2.1項に示す遠赤外線輻射式PTC面状発熱体を利用することで、装置に耐久性を持たせたことを特徴とする遠赤外線輻射式PTC面状発熱体および携帯用暖房装置。
3.1項の遠赤外線輻射式PTC面状発熱体を利用することで、同じ暖房効果でも低消費電力で実行できることを特徴とする遠赤外線輻射式PTC面状発熱体および携帯用暖房装置。
4.1項の遠赤外線輻射式PTC面状発熱体を利用することで、動作電力を少なくしてバッテリー容量を小さくすることにより小型/軽量化したことを特徴とする遠赤外線輻射式PTC面状発熱体および携帯用暖房装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、次に示す効果を遠赤外線とPTC利用技術および利用環境に提供するものである。
1.従来の遠赤外線輻射式PTC面状発熱体が、外的応力によって短期間で機能が破壊されていたことを、柔軟構造を取り入れることで改善し、遠赤外線輻射式PTC面状発熱体の耐用期間を長くして耐用年数を確保する。
2.遠赤外線輻射式PTC面状発熱体に柔軟性を与えた後も、従来の遠赤外線輻射式PTC面状発熱体と同等以上の信頼性と絶縁性などを確保して、広範囲に利用可能とする。
3.遠赤外線輻射式PTC面状発熱体を人体暖房に適合する構造体とし、遠赤外線輻射効果により熱カロリーの消費を最小限に抑え、使用する電源(バッテリー)の小型、軽量化を図り、さらに利用装置の小型、軽量化を実現する。
4.小電力で直接人体を暖房する事により、環境温度を空調する必要が無くなることで、施設、工場、電気自動車等の暖房エネルギー及びコストを極限まで抑える事を可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
一般的な遠赤外線輻射式PTC面状発熱体は、床などの硬い構造体に挟んで使用する構造なため、遠赤外線輻射式PTC面状発熱体に人体に適合する様な柔軟性は求められず、柔軟性を持った遠赤外線輻射式PTC面状発熱体の研究開発は、殆んど実施されていなかった。
現在生産されている遠赤外線輻射式PTC面状発熱体の殆どは、フィルムへの印刷方式であり、一部綿布などの素材に含浸させたものもあるが、被覆構造に問題があり、既存構造で曲げなどの応力を与えると、PTC発熱体が剥離をしたり亀裂が入って、遠赤外線輻射式PTC面状発熱体の特性劣化が発生することが知られている。
【0009】
この様な環境下で、従来は柔軟性がなく人体暖房に適合していない遠赤外線輻射式PTC面状発熱体を利用して、既存携帯用暖房装置が開発されたが、使用時に遠赤外線輻射式PTC面状発熱体に劣化が発生し、製品耐用期間が短くなるとともに、使用バッテリーも大きくなり製品として満足できるものではなかったが、本件発明者は遠赤外線輻射式PTC面状発熱体に使用する特殊導電性塗料を水溶性にすることで、含浸素材の綿布に対する特殊導電性塗料の浸透性を改善するとともに、特殊導電性塗料の特性を本用途に適するように改善を行った。
その改善例を、図1:レクサムインク新旧比較データーに示す。
また、この水溶性特殊導電性塗料で作られた遠赤外線輻射式PTC面状発熱体の温度に対する抵抗値と電流値の変化特性例を図2に示す。
この特殊導電性塗料は水溶性であるため、繊維と繊維の間に浸透し易くするための繊維加工が容易であり、繊維表面に集積され難い特徴があるため、フィルム表面や繊維表面に集積してPTC特性を構成していた従来の特殊導電性塗料と比較すると柔軟性と耐久性に富み改善されている事が分かった。
【0010】
既存の携帯用暖房装置の利用環境を見直したところ、既存の遠赤外線輻射式PTC面状発熱体は、ラミネートフィルム(PETフィルム)により覆う構造であり、特殊導電性塗料含浸部に沿って網目状のコーティングをする構造ではなかったため、特殊導電性塗料が物理的な応力で剥離したりすると構造が維持できなくなり、電気的特性が劣化することが分かった。
そこで、ラミネートフィルムの代わりに柔軟性がある絶縁素材を用いて網目状の繊維構造を立体的に完全被覆する絶縁加工を行ってみたところ、遠赤外線輻射式PTC面状発熱体を一体化して覆うために従来剥離していた特殊導電性塗料もその場所が維持されるために、若干の特性劣化は認められるものの利用条件に変化を与える様な性能劣化に繋がらないことが分かった。
尚、柔軟性がない素材で被覆を行うことは、遠赤外線輻射式PTC面状発熱体が持つ熱膨張による抵抗変化に影響があり、好ましくないことが分かったが、遠赤外線輻射式PTC面状発熱体に使用する繊維内に柔軟性を持つ素材を加えて、熱膨張による抵抗変化に影響がないようにすることで改善可能なことも分かったが、従来の綿繊維構造でないため今回は見送った。
【0011】
遠赤外線輻射式PTC面状発熱体に柔軟性を持たせたものがあれば携帯用暖房製品の耐用期間が長くできることが分かり、具体化する研究を進めたところ、次の方法により遠赤外線輻射式PTC面状発熱体でも要求する柔軟性が得られることが分かった。
今回試作した、柔軟性を持たせた遠赤外線輻射式PTC面状発熱体構造例を図3−1および図3−2に示す。
図3−1は従来の構造であるが、遠赤外線輻射式PTC面状発熱体を維持するための各電極間に存在する発熱部が縦横の構造のため、電極間に存在する発熱部で電極に直行する発熱部は通常の発熱を行うが、電極に並行する発熱部は発熱し難い構造である。
図3−2に示す構造のように電極間の発熱部をバイアス状にすると、電極間の発熱部は均一に発熱し得る構造になる。
この場合電極は遠赤外線輻射式PTC面状発熱体焼成後の素材に、ミシンなどを用いて縫い込むことができるため、縫い込み方を考慮することで、遠赤外線輻射式PTC面状発熱体の柔軟性を確保するとともに電力供給・端子接続などに問題はない。
この遠赤外線輻射式PTC面状発熱体の製造過程を説明すると、粗い網目状態に構成した綿布に電極線も織り込んだ原反を用意して、遠赤外線輻射式PTC面状発熱体用特殊導電性塗料を含浸、焼成させ、網目構造を維持したままの遠赤外線輻射式PTC面状発熱体の表面をSBR或はNBR等の柔軟性絶縁樹脂で再度含浸塗布を実施して、遠赤外線輻射式PTC面状発熱体用特殊導電性塗料が剥離しないようにした。
今回の評価実験では、織幅を1mm間隔に設定して織った綿布を使用したが、網目構造が維持できるものであれば、柔軟構造を得るための織幅寸法に制限はないことは言うまでもない。
今回の評価実験においては、10mm間隔で特殊銅線を設置したが、特殊銅線間隔は給電電圧、発熱温度などにより変化するため、制限されるものではないことは言うまでもない。
【0012】
焼成後の遠赤外線輻射式PTC面状発熱体に樹脂コーティング処理を施して柔軟性を持たせたため、焼成後に取り付ける電力供給端子・電線の固定方法にも従来方式の改善が必要であった。電力供給用の端子を遠赤外線輻射式PTC面状発熱体の電極に接続する際には電極に付着した絶縁樹脂を除去してからカシメまたは圧着で止めるが、端子、止め金具等が十分な通電性を維持確保できる様ハンダ等により接触不良発生を防止することが重要である。
【0013】
今回の評価実験では、焼成された遠赤外線輻射式PTC面状発熱体に電力供給端子が確保された状態で、電力供給端子部分にマスキングをし、遠赤外線輻射式PTC面状発熱体の表面にSBR樹脂コーティングを行い、特殊導電性塗料の剥離などを防止するとともに電気的な絶縁を行い、遠赤外線輻射式PTC面状発熱体を完成させた。
評価実験で作成した遠赤外線輻射式PTC面状発熱体のサイズは、幅40mm×長さ150mm×厚さ1mmであるが、サイズは用途により決まるため特定するものではない。
遠赤外線輻射式PTC面状発熱体に樹脂コーティングをする際には、コーティング樹脂により遠赤外線輻射式PTC面状発熱体の網目構造を潰さないようにすることで、より高い柔軟性を維持することができたが、必ずしも網目構造を維持することが必然でないことは言うまでもない。
遠赤外線輻射式PTC面状発熱体の表面を覆う樹脂が硬化すると、特殊導電性塗料に含まれるPTC素材の熱膨張による抵抗変化に影響があるため、PTC発熱体の表面を直接覆う樹脂は柔軟性のものを使用することと網目形状を維持する事が好ましい。
樹脂被覆は、単層でも複層でも可能であるが、遠赤外線輻射式PTC面状発熱体に接触する部分には、SBR、NBRなどの柔軟性樹脂を使用することができる。
製品価格などを考慮した結果、評価実験ではSBR素材を用いてコーティングした。
尚、柔軟性樹脂を用いて被覆した後に、ラミネートなどの従来素材を用いて被覆強度を持たせることも可能であることは言うまでもないが、表面が面構造となるためPTC発熱体の柔軟性は劣化する。
【0014】
人体などで遠赤外線輻射式PTC面状発熱体を利用する際には、発汗などによる濡れと表面の擦れによる劣化が発生するため、今回利用した柔軟性樹脂では防水構造および表面補強が必要であった。
防水効果と表面補強した遠赤外線輻射式PTC面状発熱体例を図4に示す。
今回はSBRでコーティングした遠赤外線輻射式PTC面状発熱体表面を、防水性を備えた幅広布テープを用いてさらに覆い防水構造と表面補強する構造としたが、焼成した布を布テープで挟む構造のため、期待される柔軟性は確保されており、500回の折り曲げ試験などを行っても、電気的特性に劣化が認められなかった。
尚、既存の遠赤外線輻射式PTC面状発熱体では、同一条件下の折り曲げ試験でも50回に満たない回数で電気的特性に劣化が確認された。
【0015】
今回の水溶性特殊導電性塗料を使用して製作した遠赤外線輻射式PTC面状発熱体の耐久テストを行った。
テスト条件としては、電源オンしてから30分して電源をオフし60分経過後に更に電源オンを繰り返す条件でタイマーセットをしたが、実際の利用では、朝晩に1回ずつ電源オン・オフし、1日2回のオン・オフがあるものと考え、暖房装置であるので、1年の内の4ヵ月分を利用日数と考えることができ、利用は1年で120日・240回のオン・オフになるので、約15日で1年分の動作に対応し、1年の継続テストでは24年分の動作に対応する条件とした。
そのテストの初期状態の値を図5に、1年半以上継続的に繰り返して動作させた結果を図6に示すが、計測データー確保後も動作させ3年以上の継続動作でも異常が認められなかった。
3年のテストでも、60年分のオン・オフ動作に対応するため、今回の遠赤外線輻射式PTC面状発熱体十分な基本耐久性を持つものであることが確認された。
【0016】
評価用遠赤外線輻射PTC面状発熱体は、以下のようなものになった。
遠赤外線輻射式PTC面状発熱体のサイズ 幅40mm×長さ150mm×厚さ1mm
使用バッテリー出力 7.4V(初期値)
最大出力電力 1.2W
この仕様の遠赤外線輻射式PTC面状発熱体をベストの背面脊髄中央のベルトの位置に横になるように貼り付け、バッテリー最大出力で給電し、着用状態での発熱状態等を計測したところ、平均周囲温度22度であっても、PTC発熱体表面温度は40度まで上昇し、連続8時間以上の利用が可能であった。
この遠赤外線輻射式PTC面状発熱体の設置箇所は人体の大動脈が通っている場所に合わせたが、約20分間の時間経過で爪先まで暖かくなり、十分な暖房効果が得られた。
この暖房成果は、遠赤外線輻射式PTC面状発熱体が持つ遠赤外線輻射効果によるものが大きい。
今回利用した遠赤外線輻射式PTC面状発熱体は、40℃前後の温度で2〜20μの遠赤外線を輻射する特徴のものにした。
この周波数帯域の遠赤外線は、体内の水分と共振し、体内の水分が自己発熱し体温が上昇する効果が得られるものである。
また、遠赤外線輻射式PTC面状発熱体は綿布と防水布テープにより作られているため、布と同様の柔軟性が確保されており、今回評価用に製作した装置であっても違和感がなく装着することができ、一般事務業務、屋外業務、工場作業者、電気自動車、レジャーなどに使用することができる。
今回の試作品では、外装材として市販の防水布テープを使用したが、今後、この部分を改善することで、さらに快適に利用できることは言うまでもない。
【0017】
従来のフイルム式では面状で遠赤外線を放射しても、片面しか有効利用できないのに比較して、網目状で遠赤外線を輻射させた場合には、網目のため全方向から輻射された遠赤外線を利用することができ、体から離れた側の面に遠赤外線反射材を配置することで、反射され網目を通った遠赤外線を利用することができるため、遠赤外線の利用効率はよくなる。
同一の特殊導電性塗料を用いた遠赤外線輻射式PTC面状発熱体にて、近距離からの人体に対する遠赤外線による暖房効果の評価実験した結果、遠赤外線を発生する網目を荒くしすぎると暖かさが感じ難くなるため適切な発生密度にする必要があるが、少なくとも面積比較で1/5程度までであればあまり違和感のない温暖効果が得られることが確認されているため、試作実験では織幅を1mmにした。
網目状の布を使用した場合には断面で見ると360°全方向に遠赤外線を輻射する事になり、発生している熱量は同じでも遠赤外線輻射効果は全く違ってくる事が実験により証明された。
その結果、給電量を1.2Wと極微量の電力での人体暖房が可能になり、バッテリー容量を小さくしても同じ時間以上の暖房感覚が得られるため、携帯用暖房装置の小型、軽量化を容易に行うことができた。
従来の携帯用暖房装置では4時間程度が利用設定時間だったものが、今回の試作実験装置で利用したバッテリーであっても、使用環境によっては11時間以上の連続利用に対応できることが確認されており、バッテリー容量削減による携帯用暖房装置の軽量化・小型化は、既に実現されたと言っても過言ではない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】特殊導電性塗料新旧比較データーの一例である。本特許関連で開発された、水性特殊導電性塗料の特性を示す。
【図2】温度に対する遠赤外線輻射式PTC面状発熱体の抵抗・電流変化の一例である。本特許関連で開発された、水性特殊導電性塗料の特性を示す。
【図3−1】柔軟性を持たせた遠赤外線輻射式PTC面状発熱体構造の一例である。
【図3−2】柔軟性を持たせた遠赤外線輻射式PTC面状発熱体構造の一例である。
【図4】防水効果と表面補強した遠赤外線輻射式PTC面状発熱体の一例である。
【図5】水性特殊導電性塗料耐久テスト初期値の計測例である。
【図6】水性特殊導電性塗料耐久テスト36年相当の計測例である。
【図7】試作品動作における計測例である。
【図8】暖房衣実装テストにおける計測例である。計測時間は18時から5時までの11時間であるが、23時以降は室内に放置した値である。
【符号の説明】
【0019】
1. 特殊導電性塗料・遠赤外線輻射式PTC面状発熱体
温度上昇と共に抵抗値が上昇する特性を持つ塗料および、その塗料を用いて製造された面状発熱体の総称。
2. 温度
周囲温度と規定しない場合は、遠赤外線輻射式PTC面状発熱体の表面温度で計測された温度を示す。
3. 抵抗値
周辺温度によると規定されない限り、遠赤外線輻射式PTC面状発熱体表面温度計測値における、電圧値と電流値から求められた抵抗値。
4. 特殊銅線
通常の銅線ではなく、特殊構造により導電性と柔軟性及び強度を高めた遠赤外線輻射式PTC面状発熱体の電極として使用する。遠赤外線輻射式PTC面状発熱体の面状発熱部に給電するために配置される。
5. 電線
導電体と電源部を接続するために配置される導電線。
6. 柔軟性樹脂
PTC発熱体が熱膨張したときに、PTC発熱体が持つPTC特性を阻害しない柔軟特性を持つ絶縁性素材である。
防水性、耐応力性なども期待されるが、本特許では必須要因ではない。
7. 布製防水テープ
試作品で、柔軟性樹脂にない防水性、耐久性を得るために利用された市販の布製防水テープであるが、今後の製品において利用を特定するものではない。
8. 特殊導電性塗料の耐久テスト
特殊導電性塗料は、熱膨張により抵抗値が変化する特徴があり、大きな温度変化を繰り返すと劣化し易い特徴があるため、電源のオン・オフを繰り返すことにより劣化耐久試験ができ、この試験で基本耐久性の優劣が判断できる。
9. 試作品動作
本特許を用いて試作された携帯用暖房装置の動作例を示すものであり、実際に人体体に取り付けて行動した日の温度変化を示したデーターである。
10.暖房衣実装テスト
本特許を用いて試作された携帯用暖房装置の動作例を示すものであり、実際の暖房装置として利用して行動した日の温度変化を示したデーターである。
計測時間は11時間に至っており、11時間の経過を持っても有効な暖房効果があることを示しているが、23時以降は室内に放置されたため装着状態より電力消費量が多く、さらに長時間での利用が可能なことが確認されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗い網目状態に構成した綿布に、粗い網目の一部として構成された特殊構造の電力供給線を織り込み組み合わせることで柔軟性を持った遠赤外線輻射式PTC面状発熱体の素材としたものに、PTC特性を有する特殊導電性塗料を含浸させた後に高温焼成して熱架橋を施し、PTC特性を持つ網目状の遠赤外線輻射式PTC面状発熱体としたものに、さらにその遠赤外線輻射式PTC面状発熱体の網目形状を維持した状態で、遠赤外線輻射式PTC面状発熱体表面を柔軟性樹脂素材で被覆をし、遠赤外線輻射式PTC面状発熱体が持つ発熱特性及びPTC特性を外的応力により劣化することを防止するとともに、遠赤外線輻射式PTC面状発熱体が持つ遠赤外線輻射効果範囲を広めたことを特徴とする遠赤外線輻射式PTC面状発熱体および携帯用暖房装置。
【請求項2】
請求項1に示す遠赤外線輻射式PTC面状発熱体を利用することで、装置に耐久性を持たせたことを特徴とする遠赤外線輻射式PTC面状発熱体および携帯用暖房装置。
【請求項3】
請求項1の遠赤外線輻射式PTC面状発熱体を利用することで、人体に及ぼす同じ暖房効果でも低消費電力で実行できることを特徴とする遠赤外線輻射式PTC面状発熱体および携帯用暖房装置。
【請求項4】
請求項1の遠赤外線輻射式PTC面状発熱体を利用することで、動作電力を少なくしてバッテリー容量を小さくすることにより小型/軽量化したことを特徴とする遠赤外線輻射式PTC面状発熱体および携帯用暖房装置。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−119193(P2011−119193A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288333(P2009−288333)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(503190855)
【出願人】(509349587)
【出願人】(509349598)
【上記2名の代理人】
【識別番号】503190855
【氏名又は名称】小林 博
【Fターム(参考)】