説明

柱状構造膜とその成膜方法、圧電素子、液体吐出装置、及び圧電型超音波振動子

【課題】複雑なプロセスを要することなく、耐電圧に優れ駆動耐久性に優れた圧電膜等の柱状構造膜を提供する。
【解決手段】柱状構造膜は、基板上に成膜され、基板の基板面に対して非平行方向に延びる多数の柱状体からなる柱状構造膜であり、気相成長法により成膜されたものであり、膜厚方向に見たときの水平方向の平均柱径の最大値をGSmaxとし、最小値をGSminとしたとき、GSmax>2.0GSminを充足する。GSmax/GSminの値が大きい膜構造では、膜厚方向のグレインバウンダリが膜の下面から上面まで貫通する確率が低くなり、リークパスが減少するため、耐電圧が向上し、駆動耐久性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱状構造膜とその成膜方法、柱状構造膜からなる圧電体膜を備えた圧電素子、これを用いた液体吐出装置及び圧電型超音波振動子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電界印加強度の増減に伴って伸縮する圧電体と、圧電体に対して電界を印加する電極とを備えた圧電素子が、インクジェット式記録ヘッドに搭載される圧電アクチュエータ等の用途に使用されている。圧電材料としては、PZT(ジルコンチタン酸鉛)、及びPZTのAサイト及び/又はBサイトの一部を他元素で置換したPZTの置換系等が知られている。
【0003】
圧電素子の小型薄型化を考慮すれば、圧電体としては薄膜が好ましい。単結晶膜はグレインバウンダリングが存在しないため、高い耐電圧特性を示し、高い耐久性特性を示す。しかしながら、単結晶膜は成膜速度が非常に遅く生産性が低く、大面積化も難しいため、実用化は難しい。多結晶構造の圧電体を薄膜化すると、膜厚の厚いバルク体を用いた場合に比べて耐電圧が低く、電圧を印加して駆動を繰り返すと絶縁破壊が起こり変位劣化が起こりやすい傾向にある。
【0004】
多結晶構造の圧電体膜の膜構造としては、基板面に対して非平行方向に延びる多数の柱状体からなる柱状膜構造が知られている。特許文献1,2には、柱状膜構造の圧電体膜において結晶粒径の異なる積層構造が提案されている。
【0005】
特許文献1には、圧電体膜の結晶粒界が膜厚方向で不連続になるように形成された構造が提案されている(請求項1)。特許文献1にはまた、圧電体膜が膜厚方向に複数層の結晶構造を備えており、隣接する層にある結晶の粒径が互いに異なるように形成された構造が提案されている(請求項6)。かかる構成では、リークパスが低減して耐電圧が向上することが記載されている(段落0049等)。
【0006】
特許文献1では、段落0024−0033に記載されているように、ゾルゲル法により上記積層構造を得ている。具体的には、基板上に圧電体の構成金属を含む複数種類の金属アルコキシドを含む塗布液を塗布した後にこれを熱処理する工程を、条件を変えて複数回繰り返すことで、上記積層構造を得ている。
特許文献1には、1層目の結晶粒径が3000−4000nm、2層目の結晶粒径が50−80nm、3層目の結晶粒径が100−500nmの積層構造が記載されている(段落0028,0030,0031)。
【0007】
特許文献2には、化学量論比よりもPb量の多い層と化学量論比よりもPb量の少ない層との積層構造の圧電体膜が提案されている(請求項1)。かかる構成では、二酸化鉛によるリークパスが遮断され、耐久性が向上することが記載されている(段落0020)。特許文献2には、Pb量の多い層の結晶粒径を大きくすることにより、リークパスの発生箇所を少なくすることができることも記載されている(段落0036)。
【0008】
特許文献2では、スパッタ法により上記積層構造の圧電体膜が成膜されている(段落0042,0065)。特許文献2には、(Pb量の多い膜の結晶粒径)/(Pb量の少ない膜の結晶粒径)=2.0の圧電体膜が成膜されている(段落0045,0068)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000-307163号公報
【特許文献2】特開2007-335779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1及び2にはいずれも、結晶粒径の異なる積層構造の圧電体膜が提案されているが、具体的に結晶粒径をどれだけ変えればよいかについては検討されていない。
特許文献1では、圧電体の構成金属を含む複数種類の金属アルコキシドを含む塗布液を塗布した後にこれを熱処理する工程を、条件を変えて複数回繰り返すゾルゲル法により上記積層構造を得ている。かかる方法では、プロセスが複雑で、圧電体膜の成膜に時間を要する。圧電体膜の薄膜化も難しい。
【0011】
本発明は、複雑なプロセスを要することなく成膜することができ、耐電圧に優れ駆動耐久性に優れた圧電体膜を提供することを目的とするものである。本発明は、基板面に対して非平行方向に延びる多数の柱状体からなる柱状膜構造を有する任意の膜に適用可能なものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の柱状構造膜は、
基板上に成膜され、該基板の基板面に対して非平行方向に延びる多数の柱状体からなる柱状構造膜において、
気相成長法により成膜されたものであり、
膜厚方向に見たときの水平方向の平均柱径の最大値をGSmaxとし、最小値をGSminとしたとき、GSmax>2.0GSminを充足することを特徴とするものである。
【0013】
本明細書において、「水平方向の平均柱径」は、断面EBSD像から求めるものとする。ある膜厚方向の位置について、水平方向のすべての柱状体の柱径を求め、その平均値を「水平方向の平均柱径」として求めるものとする。本明細書において、表1及び図7に測定例を示すように、膜厚方向の位置と水平方向の平均柱径との関係を求め、GSmaxとGSminとを求めるものとする。
【0014】
本明細書において、下部電極―上部電極間にDC電圧を印加し、電流値が1μA以上になるポイントを絶縁破壊電圧として耐電圧を測定するものとする。上部電極を変えて5箇所について耐電圧を測定し、その平均を求めるものとする。
【0015】
本発明の圧電素子は、上記の本発明の柱状構造膜からなる圧電体膜と、該圧電体膜に対して電界を印加する電極とを備えたことを特徴とするものである。
【0016】
本発明の液体吐出装置は、上記の本発明の圧電素子と、該圧電素子に隣接して設けられた液体吐出部材とを備え、該液体吐出部材は、液体が貯留される液体貯留室と、前記圧電体膜に対する前記電界の印加に応じて該液体貯留室から外部に前記液体が吐出される液体吐出口とを有することを特徴とするものである。
【0017】
本発明の圧電型超音波振動子は、上記の本発明の圧電素子と、前記電極に交流電流を印加する交流電源と、前記圧電体の伸縮により振動する振動板とを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、耐電圧に優れ駆動耐久性に優れた柱状構造膜を提供することができる。本発明は柱状構造の圧電体膜等に適用することができる。本発明の圧電体膜は耐電圧が高いため、最大印加電圧を高く設定することができる。液体吐出装置等の用途において、最大印加電圧を高く設定して圧電体膜を大きく変位させることができ、好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る一実施形態の圧電素子及びインクジェット式記録ヘッドの構造を示す断面図
【図2】インクジェット式記録装置の構成例を示す図
【図3】図2のインクジェット式記録装置の部分上面図
【図4】本発明に係る一実施形態の圧電型超音波振動子の構造を示す断面図
【図5】試験例1の圧電体膜の断面EBSD像
【図6】試験例2の圧電体膜の断面EBSD像
【図7】試験例1及び試験例2の圧電体膜の膜厚方向の位置と平均柱径との関係を示すグラフ
【図8】試験例1〜3の結果をまとめたグラフ
【発明を実施するための形態】
【0020】
「柱状構造膜」
本発明者は、気相成膜の成膜条件を工夫することにより、膜厚方向に見たときの水平方向の平均柱径の最大値をGSmaxとし、最小値をGSminとしたとき、GSmax>2.0GSminを充足する柱状構造膜を実現した。本発明者はさらに、GSmax≧2.5GSmin、GSmax≧3.0GSmin、GSmax≧3.5GSminの膜を実現した(図8を参照)。本発明者は、GSmax/GSminの値が大きくなる程、耐電圧性が向上し、駆動耐久性が向上することを見出し、本発明を完成した。
【0021】
GSmax/GSminの値が大きい膜構造では、膜厚方向のグレインバウンダリが膜の下面から上面まで貫通する確率が低くなり、リークパスが減少するため、耐電圧が向上し、駆動耐久性が向上すると考えられる。
【0022】
すなわち、本発明の柱状構造膜は、基板上に成膜され、該基板の基板面に対して非平行方向に延びる多数の柱状体からなる柱状構造膜において、
気相成長法により成膜されたものであり、
膜厚方向に見たときの水平方向の平均柱径の最大値をGSmaxとし、最小値をGSminとしたとき、GSmax>2.0GSminを充足することを特徴とするものである。
【0023】
本発明の柱状構造膜は、GSmax≧2.5GSminを充足することが好ましく、GSmax≧3.0GSminを充足することが特に好ましい。
【0024】
本明細書で言うところの「柱状構造膜」は、Movchan and Demchishin,Phys.Met.Mettallogr.,28,83(1969)、あるいはThonton,J.Vac.Sci.Technol.,11,666(1974)等に記載の柱状構造膜である。柱状構造膜は、結晶構造を有していてもアモルファス構造を有していても構わず、結晶構造を有することが好ましい。結晶構造を有する場合、個々の柱状体が柱状の結晶粒となる。
【0025】
本発明によれば、電流値が1μA以上となる印加電圧により定義される絶縁破壊電圧が300kV/cm以上である柱状構造膜を提供することができる。本発明によれば、絶縁破壊電圧が400kV/cm以上である柱状構造膜を提供することも可能であり、絶縁破壊電圧が500kV/cm以上である柱状構造膜を提供することも可能であり、絶縁破壊電圧が600kV/cm以上である柱状構造膜を提供することも可能である(図8を参照)。
【0026】
気相成長において、柱状体の成長は成膜粒子が堆積する堆積面のグレイン形状が大きな影響を与えること、及び柱状体の成長は縦方向だけでなく横方向にも進むことを考えると、平均柱径が相対的に大きい柱状体の上に平均柱径が相対的に小さい柱状体を成長させるよりも、平均柱径が相対的に小さい柱状体の上に平均柱径が相対的に大きい柱状体を成長させる方が比較的容易である。したがって、本発明の柱状構造膜において、膜厚方向に見たときに、基板側の面の水平方向の平均柱径が最も小さく、基板と反対側の面の水平方向の平均柱径が最も大きいことが好ましい。
【0027】
本発明者は、GSmaxと耐電圧との間には良好な相関関係は見られず、GSmax/GSminと耐電圧との間に良好な相関関係があることを見出している。(表2を参照)。
【0028】
本発明の柱状構造膜において、平均柱径の膜厚方向の変化は、連続的でも不連続的でも構わない。本発明の柱状構造膜は、明確に分かれた複数の層からなる積層構造でも、単層構造でも構わない。
【0029】
特許文献1では、請求項1及び図3に記載されているように、結晶粒界が膜厚方向で不連続になるように複数の層を積層している。かかる構成では、結晶粒界が不連続な隣接する層の界面においてストレスがかかり、クラックや層剥離が起こる恐れがある。
【0030】
したがって、本発明の柱状構造膜において、水平方向の平均柱径が膜厚方向に連続的に変化していると、不連続構造と比較して、応力が分散されてクラックが起こりにくく、好ましい。層剥離の恐れがないことから、本発明の柱状構造膜は明確に分かれた複数の層からなる積層構造よりも単層構造が好ましい。
【0031】
本発明の柱状構造膜は、プラズマを用いる気相成長法により成膜されたものであることが好ましい。
【0032】
本発明の柱状構造膜の組成は特に制限されない。
本発明の柱状構造膜は、誘電体膜に適用できる。
本発明の柱状構造膜は、圧電体膜に適用できる。
本発明の柱状構造膜は、強誘電体膜に適用できる。
【0033】
圧電体膜又は強誘電体膜からなる本発明の柱状構造膜の組成としては、下記式で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物(P)を含むものが挙げられる。
一般式ABO・・・(P)
(式中、A:Aサイトの元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素。
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Sb,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素。
O:酸素元素。
Aサイト元素とBサイト元素と酸素元素のモル比は1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
【0034】
上記一般式で表されるペロブスカイト型酸化物としては、
チタン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、ジルコニウム酸鉛、チタン酸鉛ランタン、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛、ニッケルニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛、亜鉛ニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛等の鉛含有化合物、及びこれらの混晶系;
チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムバリウム、チタン酸ビスマスナトリウム、チタン酸ビスマスカリウム、ニオブ酸ナトリウム、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸リチウム、ビスマスフェライト等の非鉛含有化合物、及びこれらの混晶系が挙げられる。
【0035】
高圧電定数が得られることから、本発明の圧電体膜は、下記式で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物(PX)を含むことが好ましい。
(Zr,Ti,Mb−x−y・・・(PX)
(式中、A:Aサイトの元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素。
Mは1種又は2種以上の金属元素を示す。
0<x<b、0<y<b、0≦b−x−y。
a:b:c=1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
【0036】
Bサイトの1種又は2種以上の置換元素であるMは、特に制限されない。
被置換イオンの価数よりも高い価数を有する各種ドナイオンを添加したPZTでは、真性PZTよりも圧電性能等の特性が向上することが知られている。Mは、4価のZr,Tiよりも価数の大きい1種又は2種以上のドナイオンであることが好ましい。かかるドナイオンとしては、V5+,Nb5+,Ta5+,Sb5+,Mo6+,及びW6+等が挙げられる。本発明の圧電体膜は、ペロブスカイト型酸化物(PX)の中でも、0<b−x−yであり、MがV,Nb,Ta,及びSbからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含むペロブスカイト型酸化物を含むことが好ましい。
【0037】
ペロブスカイト型酸化物(PX)において、Aサイトに含まれてもよいPb以外の元素としては特に制限されず、ドナイオンが好ましく、具体的にはBi,及びLa等の各種ランタノイド等の少なくとも1種の元素が好ましい。
【0038】
本発明の柱状構造膜の膜厚は特に制限されない。膜厚が薄くなる程、耐電圧性が低くなる傾向にあるので、本発明は薄膜に特に有効である。本発明は例えば膜厚が20μm以下の薄膜に有効であり、膜厚が10μm以下の薄膜に特に有効である。本発明は例えば500nm〜20μmの薄膜に有効であり、500nm〜10μmの薄膜に有効である。
【0039】
以下、本発明の柱状構造膜の成膜方法について説明する。
【0040】
本発明の柱状構造膜は、気相成膜において、GSmax>2.0GSmin、好ましくはGSmax≧2.5GSmin、特に好ましくはGSmax≧3.0GSminを充足するよう、成膜条件を制御して成膜する。
【0041】
柱状構造膜に関しては、成膜時の基板温度及び成膜圧力と生成される柱状体の形状や柱径との関係、及び柱状体の分類について、研究がなされている。かかる研究は、蒸着膜ではMovchan and Demchishin,Phys.Met.Mettallogr.,28,83(1969)に詳細に記載されており、スパッタ膜ではThonton,J.Vac.Sci.Technol.,11,666(1974)に詳細に記載されている。かかるモデルを参照して成膜条件の目安とすることができる。
【0042】
本発明の柱状構造膜の成膜方法において、プラズマを用いる気相成長法により成膜を行うことが好ましい。プラズマを用いる気相成長法としては、スパッタ法及びPLD法等が挙げられる。
【0043】
プラズマを用いる気相成長法において例えば、GSmaxとGSminとが前記式を充足するように、成膜パワー、成膜温度、成膜圧力、基板―ターゲット間距離、及び基板電位を設定して成膜を行うことで、本発明の膜構造の柱状構造膜を成膜することができる。成膜開始から終了まで同じ成膜条件で成膜を行ってもよいし、成膜途中で成膜条件を変えてもよい。
【0044】
GSmax>2.0GSminを充足する本発明の柱状構造膜は例えば、成膜途中に少なくとも1つの成膜条件を1回以上変えることで成膜することができる。この場合、上記文献のモデルを参照して成膜条件の目安とすることができる。
【0045】
成膜途中に成膜条件を変えて成膜を行う場合、成膜条件を変えた瞬間に膜構造が急に変化する訳ではない。成膜条件を変えた時点において先に成膜された部分も引き続き成膜温度と成膜圧力等の成膜環境下にあり、膜構造として不完全な状態にある。そのため、成膜条件を変えた時点より先に成膜された部分の少なくとも一部は新たな成膜条件の影響を受け、先の成膜条件と新たな成膜条件の両方の影響を受けた膜構造となる。成膜条件を変えた後に成膜される部分についても、先に成膜された部分が下地となるので、下地の影響と新たな成膜条件の影響を受けた膜構造となる。
【0046】
本発明者は例えば、プラズマを用いる気相成長法において、成膜途中に成膜パワーを変えることで、基板側から柱状体の柱径が徐々に大きくなる柱状構造膜の成膜に成功している(後記試験例1を参照)。
【0047】
プラズマを用いる気相成長法において、GSmax>2.0GSminを充足する本発明の柱状構造膜はまた、成膜途中に成膜条件を変えなくても、下地の結晶構造と成膜される粒子のエネルギーとを適切に制御することでも、成膜可能である。
成膜初期には、下地の結晶構造を引きずって結晶成長が起こる。また、成膜される粒子の持つエネルギーが大きい程、横方向の柱状体の成長が大きくなる傾向にある。したがって、これらの条件を好適化することで、グレインの横方向の成長を制御することができ、これによって膜厚方向の平均柱径を変えることができる。本発明者は、表2に示す多くの試験例において、成膜中に成膜条件を変えずに、基板側から柱状体の柱径が徐々に大きくなる柱状構造膜の成膜に成功している。
【0048】
特許文献1では、圧電体の構成金属を含む複数種類の金属アルコキシドを含む塗布液を塗布した後にこれを熱処理する工程を、条件を変えて複数回繰り返すゾルゲル法により積層構造を得ている。かかる方法では、プロセスが複雑で、圧電体膜の成膜に時間を要する。また、平均柱径を膜厚方向に連続的に変化させることができないので、積層界面において応力が集中し、クラックが起こりやすい。
【0049】
本発明では、気相成長法により柱状構造膜を成膜することを特徴の1つとしており、成膜を止めることなく平均柱径を膜厚方向に連続的あるいは断続的に変化させることができるので、非常に簡便である。また、平均柱径が膜厚方向に連続的に変化した連続構造では、不連続構造に比較して、応力が分散されてクラックが起こりにくく、層剥離の恐れもない。
【0050】
以上説明したように、本発明によれば、複雑なプロセスを要することなく成膜することができ、耐電圧に優れ駆動耐久性に優れた柱状構造膜とその成膜方法を提供することができる。本発明は柱状構造の圧電体膜等に好ましく適用できる。本発明の圧電体膜は耐電圧が高いため、最大印加電圧を高く設定することができる。液体吐出装置等の用途において、最大印加電圧を高く設定して圧電体膜を大きく変位させることができ、好ましい。
【0051】
「圧電素子及びインクジェット式記録ヘッド」
図1を参照して、本発明に係る一実施形態の圧電素子及びこれを備えたインクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)の構造について説明する。図1はインクジェット式記録ヘッドの要部断面図(圧電素子の膜厚方向の断面図)である。視認しやすくするため、構成要素の縮尺は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0052】
本実施形態の圧電素子1は、基板10上に、下部電極20と圧電体膜30と上部電極40とが順次積層された素子である。圧電体膜30は、本発明の柱状構造膜からなる膜であり、圧電体膜30に対して下部電極20と上部電極40とにより膜厚方向に電界が印加されるようになっている。
【0053】
下部電極20は基板10の略全面に形成されており、この上にライン状の凸部31がストライプ状に配列したパターンの圧電体膜30が形成され、各凸部31の上に上部電極40が形成されている。
【0054】
圧電体膜30のパターンは図示するものに限定されず、適宜設計される。また、圧電体膜30は連続膜でも構わない。但し、圧電体膜30は、連続膜ではなく、互いに分離した複数の凸部31からなるパターンで形成することで、個々の凸部31の伸縮がスムーズに起こるので、より大きな変位量が得られ、好ましい。
【0055】
基板10としては特に制限なく、シリコン,酸化シリコン,ステンレス(SUS),イットリウム安定化ジルコニア(YSZ),アルミナ,サファイヤ,SiC,及びSrTiO等の基板が挙げられる。基材10としては、シリコン基板上にSiO膜とSi活性層とが順次積層されたSOI基板等の積層基板を用いてもよい。
【0056】
下部電極20の組成は特に制限なく、Au,Pt,Ir,IrO,RuO,LaNiO,及びSrRuO等の金属又は金属酸化物、及びこれらの組合せが挙げられる。上部電極40の組成は特に制限なく、下部電極20で例示した材料,Al,Ta,Cr,Cu等の一般的に半導体プロセスで用いられている電極材料、及びこれらの組合せが挙げられる。下部電極20と上部電極40の厚みは特に制限なく、50〜500nmであることが好ましい。
【0057】
圧電アクチュエータ2は、圧電素子1の基板10の裏面に、圧電体膜30の伸縮により振動する振動板50が取り付けられたものである。圧電アクチュエータ2には、圧電素子1の駆動を制御する駆動回路等の制御手段(図示略)も備えられている。
【0058】
インクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)3は、概略、圧電アクチュエータ2の裏面に、インクが貯留されるインク室(液体貯留室)61及びインク室61から外部にインクが吐出されるインク吐出口(液体吐出口)62を有するインクノズル(液体貯留吐出部材)60が取り付けられたものである。インク室61は、圧電体膜30の凸部31の数及びパターンに対応して、複数設けられている。インクジェット式記録ヘッド3では、圧電素子1に印加する電界強度を増減させて圧電素子1を伸縮させ、これによってインク室61からのインクの吐出や吐出量の制御が行われる。
【0059】
基板10とは独立した部材の振動板50及びインクノズル60を取り付ける代わりに、基板10の一部を振動板50及びインクノズル60に加工してもよい。例えば、基板10がSOI基板等の積層基板からなる場合には、基板10を裏面側からエッチングしてインク室61を形成し、基板自体の加工により振動板50とインクノズル60とを形成することができる。
【0060】
本実施形態の圧電素子1及びインクジェット式記録ヘッド3は、以上のように構成されている。本実施形態によれば、耐電圧に優れ駆動耐久性に優れた圧電素子1を提供することができる。
【0061】
「インクジェット式記録装置」
図2及び図3を参照して、上記実施形態のインクジェット式記録ヘッド3を備えたインクジェット式記録装置の構成例について説明する。図2は装置全体図であり、図3は部分上面図である。
【0062】
図示するインクジェット式記録装置100は、インクの色ごとに設けられた複数のインクジェット式記録ヘッド(以下、単に「ヘッド」という)3K,3C,3M,3Yを有する印字部102と、各ヘッド3K,3C,3M,3Yに供給するインクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部114と、記録紙116を供給する給紙部118と、記録紙116のカールを除去するデカール処理部120と、印字部102のノズル面(インク吐出面)に対向して配置され、記録紙116の平面性を保持しながら記録紙116を搬送する吸着ベルト搬送部122と、印字部102による印字結果を読み取る印字検出部124と、印画済みの記録紙(プリント物)を外部に排紙する排紙部126とから概略構成されている。
印字部102をなすヘッド3K,3C,3M,3Yが、各々上記実施形態のインクジェット式記録ヘッド3である。
【0063】
デカール処理部120では、巻き癖方向と逆方向に加熱ドラム130により記録紙116に熱が与えられて、デカール処理が実施される。
ロール紙を使用する装置では、図2のように、デカール処理部120の後段に裁断用のカッター128が設けられ、このカッターによってロール紙は所望のサイズにカットされる。カッター128は、記録紙116の搬送路幅以上の長さを有する固定刃128Aと、該固定刃128Aに沿って移動する丸刃128Bとから構成されており、印字裏面側に固定刃128Aが設けられ、搬送路を挟んで印字面側に丸刃128Bが配置される。カット紙を使用する装置では、カッター128は不要である。
【0064】
デカール処理され、カットされた記録紙116は、吸着ベルト搬送部122へと送られる。吸着ベルト搬送部122は、ローラ131、132間に無端状のベルト133が巻き掛けられた構造を有し、少なくとも印字部102のノズル面及び印字検出部124のセンサ面に対向する部分が水平面(フラット面)となるよう構成されている。
【0065】
ベルト133は、記録紙116の幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引孔(図示略)が形成されている。ローラ131、132間に掛け渡されたベルト133の内側において印字部102のノズル面及び印字検出部124のセンサ面に対向する位置には吸着チャンバ134が設けられており、この吸着チャンバ134をファン135で吸引して負圧にすることによってベルト133上の記録紙116が吸着保持される。
【0066】
ベルト133が巻かれているローラ131、132の少なくとも一方にモータ(図示略)の動力が伝達されることにより、ベルト133は図2上の時計回り方向に駆動され、ベルト133上に保持された記録紙116は図2の左から右へと搬送される。
【0067】
縁無しプリント等を印字するとベルト133上にもインクが付着するので、ベルト133の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部136が設けられている。
吸着ベルト搬送部122により形成される用紙搬送路上において印字部102の上流側に、加熱ファン140が設けられている。加熱ファン140は、印字前の記録紙116に加熱空気を吹き付け、記録紙116を加熱する。印字直前に記録紙116を加熱しておくことにより、インクが着弾後に乾きやすくなる。
【0068】
印字部102は、最大紙幅に対応する長さを有するライン型ヘッドを紙送り方向と直交方向(主走査方向)に配置した、いわゆるフルライン型のヘッドとなっている(図3を参照)。各印字ヘッド3K,3C,3M,3Yは、インクジェット式記録装置100が対象とする最大サイズの記録紙116の少なくとも一辺を超える長さにわたってインク吐出口(ノズル)が複数配列されたライン型ヘッドで構成されている。
【0069】
記録紙116の送り方向に沿って上流側から、黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の順に各色インクに対応したヘッド3K,3C,3M,3Yが配置されている。記録紙116を搬送しつつ各ヘッド3K,3C,3M,3Yからそれぞれ色インクを吐出することにより、記録紙116上にカラー画像が記録される。
印字検出部124は、印字部102の打滴結果を撮像するラインセンサ等からなり、ラインセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まり等の吐出不良を検出する。
【0070】
印字検出部124の後段には、印字された画像面を乾燥させる加熱ファン等からなる後乾燥部142が設けられている。印字後のインクが乾燥するまでは印字面と接触することは避けた方が好ましいので、熱風を吹き付ける方式が好ましい。
後乾燥部142の後段には、画像表面の光沢度を制御するために、加熱・加圧部144が設けられている。加熱・加圧部144では、画像面を加熱しながら、所定の表面凹凸形状を有する加圧ローラ145で画像面を加圧し、画像面に凹凸形状を転写する。
【0071】
こうして得られたプリント物は、排紙部126から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット式記録装置100では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部126A、126Bへと送るために排紙経路を切り替える選別手段(図示略)が設けられている。
大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列にプリントする場合には、カッター148を設けて、テスト印字の部分を切り離す構成とすればよい。
インクジェット記記録装置100は、以上のように構成されている。
【0072】
「圧電型超音波振動子(超音波トランスデューサ)」
図4を参照して、本発明に係る一実施形態の圧電型超音波振動子の構造について説明する。図4は圧電型超音波振動子の要部断面図である。視認しやすくするため、構成要素の縮尺は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0073】
本実施形態の圧電型超音波振動子5は、裏面側からリアクティブイオンエッチング(RIE)加工されて、空洞部81と振動板82と振動板82を支える支持部83とが一体形成されたオープンプール構造のSOI基板80と、この基板上に形成された圧電素子4と、圧電素子4の電極71、73に高周波交流電流を印加するRf電源(高周波交流電源)90とから概略構成されている。圧電素子4は、基板80側から下部電極71と圧電体膜72と上部電極73との積層構造を有している。
【0074】
下部電極71及び上部電極73の組成や厚みは、図1の圧電素子1の下部電極20及び上部電極40と同様である。圧電体膜72は、本発明の柱状構造膜により構成されている。
【0075】
圧電素子4の電極71、73に超音波領域の電気交流信号が印加されると、印加された電気交流信号と同じ周波数で圧電素子4に撓み振動が生じ、振動板82は圧電素子4と一体となって撓み振動する。このとき、振動板82は支持部83により周縁部が支持された状態で振動することにより、振動板82の圧電素子4と反対側から、印加された電気交流信号と同じ周波数の超音波が放射される。
【0076】
本実施形態の圧電型超音波振動子5は、以上のように構成されている。本実施形態によれば、耐電圧に優れ駆動耐久性に優れた圧電型超音波振動子5を提供することができる。
本実施形態の圧電型超音波振動子5は、超音波モータ等に使用できる。
本実施形態の圧電型超音波振動子5はまた、特定周波数の超音波を発生し、対象物より反響して戻ってきた超音波を検知するセンサ等として使用でき、超音波探触子等に使用できる。対象物より反響して戻ってきた超音波を受けて振動板82が振動すれば、その応力に応じて圧電体膜72が変位し、圧電素子4にはその変位量に応じた電圧が生じる。これを検出することで、対象物の形状等を検出することができる。
【0077】
(設計変更)
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、適宜設計変更可能である。
【実施例】
【0078】
本発明に係る試験例について説明する。
【0079】
(試験例1)
Si基板上にスパッタ法により、基板温度350℃にて、50nm厚のTiW膜と150nm厚のIr下部電極とを順次成膜した。この下部電極上に、3.9μm厚のNbドープPZT圧電体膜を成膜した。圧電体膜の成膜途中でRf投入電力を変更した。成膜条件は以下の通りとした。
成膜装置:Rfスパッタ装置、
ターゲット:120mmφのPb1.3(Zr0.46Ti0.42Nb0.12)O焼結体、
基板温度:475℃、
基板―ターゲット間距離(T−S距離):60mm、
成膜圧力:0.3Pa(2.3mTorr)、
成膜ガス:Ar/O=97.5/2.5(モル比)、
投入電力:成膜開始〜40分間は500W、その後の30分間は700W。
【0080】
得られた圧電体膜のEBSD測定を実施した。断面EBSD像を図5に示す。図5に示すように、得られた圧電体膜は、基板面に対して非平行方向に延びる多数の柱状体からなる柱状構造膜であり、かつ、膜厚方向に見て、下部電極側から上方に向けて水平方向の平均柱径が連続的に大きくなる柱状構造膜であった。
【0081】
圧電体膜の下面(基板側の面)からの膜厚方向の位置と、水平方向の平均柱径との関係を表1及び図7に示す。GSmax=300nm、GSmin=82nm、GSmax/GSmin=3.65であった。
【0082】
上記圧電体膜上にPt/Ti上部電極(Pt:150nm厚/Ti:30nm厚)を蒸着し、これを複数の400μmφの円形状パターンにパターニングして、本発明の圧電素子を得た。
【0083】
下部電極―上部電極間にDC電圧を印加し、電流値が1μA以上になるポイントを絶縁破壊電圧として耐電圧を測定した。上部電極を変えて5箇所について耐電圧を測定し、その平均を求めた。圧電体膜の耐電圧は236V(=605kV/cm)であった。
得られた圧電素子に対して、30kHz、35Vピークtoピーク矩形波にて駆動耐久性試験を行ったところ、3000億サイクル駆動しても劣化が見られなかった。
【0084】
(試験例2)
圧電体膜の成膜条件を途中で変えず、終始同じ条件で圧電体膜の成膜を実施した以外は、試験例1と同様にして、比較用の圧電素子を得た。圧電体膜の成膜条件は以下の通りとした。
成膜装置:試験例1と同じ、
ターゲット:試験例1と同じ、
基板温度:試験例1と同じ、
基板―ターゲット間距離(T−S距離):試験例1と同じ、
成膜圧力:試験例1と同じ、
成膜ガス:試験例1と同じ、
投入電力:500W、
成膜時間:90分間。
【0085】
得られた圧電体膜のEBSD測定を実施した。断面EBSD像を図6に示す。図6に示すように、得られた圧電体膜は、基板面に対して非平行方向に延びる多数の柱状体からなる柱状構造膜であった。膜厚方向に見たとき、試験例1のように平均柱径の大きな変化は見られなかった。
【0086】
圧電体膜の下面(基板側の面)からの膜厚方向の位置と、水平方向の平均柱径との関係を表1及び図7に示す。GSmax=188nm、GSmin=107nm、GSmax/GSmin=1.75であった。
【0087】
試験例1と同様に耐電圧測定を実施したところ、耐電圧は82V(=205kV/cm)であった。
得られた圧電素子に対して、試験例1と同様に、30kHz、35Vピークtoピーク矩形波にて駆動耐久性試験を行ったところ、50億サイクル駆動したところで、絶縁破壊が起こり、圧電体膜が破壊した。
【0088】
(試験例3)
成膜条件を種々変え、試験例1,2と同様にGSmax/GSminの異なる種々の圧電体膜の成膜を実施して圧電素子を得、耐電圧を評価した。成膜条件を表2に示す。表中の「→」は試験例1と同様に、成膜途中で成膜条件を変えたことを示している。表中、T−S距離は基板―ターゲット間距離、Vdcは成膜時のターゲットセルフバイアスを各々示す。
【0089】
試験例1〜3の結果を表2及び図8に示す。表2には参考までに、各サンプルについてのGSmaxの値についても合わせて示してある。いずれもGSmaxの値は、膜表面付近で得られたものだった。
【0090】
図8には参考までに、同組成の単結晶体の耐電圧レベル(700〜800kV/cm)についても示してある。GSmax/GSminが大きくなる程、耐電圧が向上することが示された。
試験例1〜3では、1.5<GSmax/GSmin≦3.65の柱状構造膜が得られ、2.0<GSmax/GSmin≦3.65、好ましくは2.5≦GSmax/GSmin≦3.65、特に好ましくは3.0≦GSmax/GSmin≦3.65において、高い耐電圧特性が得られた。GSmax/GSmin=3.65では、単結晶体に近い耐電圧特性が得られた。
【0091】
【表1】

【0092】
【表2】

【0093】
(圧電型超音波振動子の作製)
SOI基板上に、下部電極として、50nm厚のTiW膜と150nm厚のIr下部電極とを順次成膜した。この下部電極上に、試験例1と同様の条件でNbドープPZT圧電体膜を成膜した。この圧電体膜上に、上部電極として100nm厚のPt膜を成膜した。SOI基板を裏面側からRIE加工することで、720μm×300μmの空洞部を有するキャビティ構造を形成して、圧電型超音波振動子を作製した。共振周波数は1MHzであった。同様にして、試験例2の圧電体膜を付けた圧電型超音波振動子を作製した。
【0094】
試験例1の膜を付けた圧電型超音波振動子と試験例2の膜を付けた圧電型超音波振動子について、上記共振条件で超音波を発生させ続けたところ、試験例1の膜を付けた圧電型超音波振動子は試験例2の膜を付けた圧電型超音波振動子の約5倍の寿命であった。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の柱状構造膜は、圧電体膜等に好ましく適用できる。本発明の圧電体膜は、インクジェット式記録ヘッド、磁気記録再生ヘッド、MEMS(Micro Electro-Mechanical Systems)デバイス、マイクロポンプ、超音波探触子、及び超音波モータ等に搭載される圧電素子/圧電型超音波振動子/圧電型発電素子等、あるいは強誘電体メモリ等の強誘電体素子に好ましく適用できる。
【符号の説明】
【0096】
1 圧電素子
3、3K,3C,3M,3Y インクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)
10 基板
20、40 電極
30 圧電体膜(柱状構造膜)
60 インクノズル(液体貯留吐出部材)
61 インク室(液体貯留室)
62 インク吐出口(液体吐出口)
100 インクジェット式記録装置
4 圧電素子
5 圧電型超音波振動子(超音波トランスデューサ)
71、73 電極
72 圧電体膜(柱状構造膜)
82 振動板
90 Rf電源(高周波交流電源)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に成膜され、該基板の基板面に対して非平行方向に延びる多数の柱状体からなる柱状構造膜において、
気相成長法により成膜されたものであり、
膜厚方向に見たときの水平方向の平均柱径の最大値をGSmaxとし、最小値をGSminとしたとき、GSmax>2.0GSminを充足することを特徴とする柱状構造膜。
【請求項2】
GSmax≧2.5GSminを充足することを特徴とする請求項1に記載の柱状構造膜。
【請求項3】
GSmax≧3.0GSminを充足することを特徴とする請求項2に記載の柱状構造膜。
【請求項4】
電流値が1μA以上となる印加電圧により定義される絶縁破壊電圧が300kV/cm以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の柱状構造膜。
【請求項5】
膜厚方向に見たときに、前記基板側の面の水平方向の平均柱径が最も小さく、前記基板と反対側の面の水平方向の平均柱径が最も大きいことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の柱状構造膜。
【請求項6】
水平方向の平均柱径が膜厚方向に連続的に変化していることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の柱状構造膜。
【請求項7】
プラズマを用いる気相成長法により成膜されたものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の柱状構造膜。
【請求項8】
誘電体膜であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の柱状構造膜。
【請求項9】
圧電体膜であることを特徴とする請求項8に記載の柱状構造膜。
【請求項10】
強誘電体膜であることを特徴とする請求項9に記載の柱状構造膜。
【請求項11】
下記式で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物(P)を含むことを特徴とする請求項9又は10に記載の柱状構造膜。
一般式ABO・・・(P)
(式中、A:Aサイトの元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素。
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Sb,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素。
O:酸素元素。
Aサイト元素とBサイト元素と酸素元素のモル比は1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
【請求項12】
下記式で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物(PX)を含むことを特徴とする請求項11に記載の柱状構造膜。
(Zr,Ti,Mb−x−y・・・(PX)
(式中、A:Aサイトの元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素。
Mは1種又は2種以上の金属元素を示す。
0<x<b、0<y<b、0≦b−x−y。
a:b:c=1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
【請求項13】
ペロブスカイト型酸化物(PX)のMが、V,Nb,Ta,及びSbからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素であることを特徴とする請求項12に記載の柱状構造膜。
【請求項14】
請求項9〜13のいずれかに記載の柱状構造膜からなる圧電体膜と、該圧電体膜に対して電界を印加する電極とを備えたことを特徴とする圧電素子。
【請求項15】
請求項14に記載の圧電素子と、該圧電素子に隣接して設けられた液体吐出部材とを備え、該液体吐出部材は、液体が貯留される液体貯留室と、前記圧電体膜に対する前記電界の印加に応じて該液体貯留室から外部に前記液体が吐出される液体吐出口とを有することを特徴とする液体吐出装置。
【請求項16】
請求項14に記載の圧電素子と、
前記電極に交流電流を印加する交流電源と、
前記圧電体の伸縮により振動する振動板とを備えたことを特徴とする圧電型超音波振動子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−40644(P2011−40644A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188098(P2009−188098)
【出願日】平成21年8月14日(2009.8.14)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】