説明

柱状部材接合用ジョイント

【課題】設計位置から軸ズレしている第1の柱状部材に対する第2の柱状部材の接合を従来より短時間で簡便に高精度でズレ補償して行える柱状部材接合用ジョイントの提供。
【解決手段】第1と第2の柱状部材の端部同士を接合するジョイントであって、第1の柱状部材の端部に嵌合部を介して固定され、嵌合部周りに複数個の貫通穴を有する第1ジョイントプレートと、第2の柱状部材の端部に予め溶接固定された第2ジョイントプレートと、これらプレート同士を締結するために前記貫通穴に回転自在に挿嵌される座金部材を介して挿入されるボルトとこれに螺合するナットと、を備え、座金部材は、中心軸位置から半径方向に沿って外周側へ延びるように穿設されたスリット状ボルト孔を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば地中に埋設された鋼管杭と地上の鉄骨柱との接合等の柱状部材同士を端部で接合するためのジョイント装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から建築物の骨組みを構成するのに、各種鉄骨鋼材からなる柱状部材同士の接合が必要不可欠であるが、接合方法としては、何らかのジョイントを用いて溶接やボルト−ナット締結によるものがほとんどである。そこで、ジョイント構成部材で、予め柱状部材に固定できるものは、工場で溶接等を行い、できるだけ現場での溶接や固定のための作業を省いている。
【0003】
例えば、建築物の地上骨組みの主となる鉄骨柱は、これを支持するために地盤を掘り起こして構築されている鉄筋コンクリート製の基礎等に下端が連結支持されているが、現在では、例えば特許文献1に示すような、基礎として地中に垂直にねじ込んで埋設した複数本の基礎杭101を用いて各杭101の地上に出た頭部上に鉄骨支柱201を立設する、という地盤を掘り起こして鉄筋コンクリート基礎を構築する必要のない非常に簡便な工法が普及してきている。
【0004】
このような工法においは、例えば図7に示すように、地中側の杭101の頭部と地上側の鉄骨支柱201の下端とのジョイントを介した接合は、基礎杭101と鉄骨支柱201との各端部に溶接固定されたジョイント板(102,202)同士を上下に合わせ、両ジョイント板(102,202)に予め形成されているボルト穴(103,203)を上下に重ねてアンカーボルト104を挿嵌して締結することによって基礎杭101と鉄骨支柱201とが一体に接合されるものであり、杭側ジョイント板102は、現場で埋設後の基礎杭101の地上部に出た部分を所定長さを切断調整した後その残った頭部に溶接固定しているが、鉄骨支柱側ジョイント板202は予め工場などで溶接しておくことができる。
【0005】
また、鉄骨支柱に梁又は筋かいを接合する場合には、ジョイントとしての仕口を介して接合が行われている。この仕口は、柱の梁又は筋かい接合位置に所定角度をもって分岐状に突設された短い柱状の仕口部材を備えるものであり、実際の梁又は筋かいとなる柱状部材が、両柱状部材にわたるつなぎ板をボルト止めすることによって仕口部材の延長上に接合されるものである。
【0006】
従って、短い柱状の仕口部材とこれに接合された柱状部材とが一体となって梁又は筋かいが構成される。さらに、一本の柱に複数本の梁や筋かいが接合されることも多く、その場合、柱の対応位置にそれぞれ仕口部材が設けられることになるが、これら仕口部材は予め工場などで柱に溶接固定されており、現場では、既に予め定められた位置に仕口が設けられている柱を所定位置に立設した後、各仕口部材に梁又は筋かいとなる柱状部材をそれぞれ接合固定するだけとなっている。
【0007】
【特許文献1】特許第3095376号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のような従来の柱状部材同士の接合においては、予め位置付けられた一方の柱状部材が設計通りの正しい位置にあるとは限らず、この場合、他方の柱部材をずらして接合しなければならなくなる。
【0009】
例えば、図8に示すように、地中に埋設された基礎杭101が予め定められた設計位置Bから位置B’に軸ズレしていることがある。この場合、地上の支柱201は設計通りの位置Bに軸を合わせて立設しなければならないため、基礎杭101の軸ズレ分(B−B’)を測量したのち、支柱側ジョイント板202の中心軸が本来あるべき基礎杭の設計上の軸B上に合致するように基礎杭101の頭部に対して杭側ジョイント板102を位置調整して軸ズレ分を埋め合わせてから溶接固定を行っており、支柱側との接合までに手間の掛かる煩雑な作業が必要であった。
【0010】
しかも、現場溶接時の位置調整では、高精度の調整は困難であり、溶接後になおズレが残ることもある。このようなズレがわずかでも残る場合には、上下に重なるべきボルト穴(103,203)に挿嵌されるアンカーボルト104を曲げることによってズレを補償するが、このためにはアンカーボルトとして高張力ボルトが使用できず、強度も本来の値より低下してしまう。
【0011】
従って、基礎杭と鉄骨柱との接合は、杭側ジョイント板の杭頭部への固定が現場での溶接に依っているため、作業工程の効率に大きく影響し、特に杭の位置ズレがある場合、建築物の骨組みを構成する全作業工程の効率を大幅に低下させてしまうだけでなく、その強度も正常な接合で得られるはずの強度よりも低下する。
【0012】
また、上記のような柱と梁又は筋かいとの接合においても、予め柱に溶接固定された仕口部材が設計位置からずれていることもあり得る。この場合、梁や筋かいとなる柱状部材を仕口部材に対して接合する際に、つなぎ板をズレ量だけ曲げることが考えられるが、その分作業の手間が掛かるだけでなく、やはり強度低下の恐れもある。
【0013】
以上のように、軸ズレを生じ得る柱状部材同士の接合は、基礎杭と柱との間の接合のような垂直方向に沿ったのものに限らず、水平方向や斜め方向に沿ったもの、また柱、梁、筋かい等の各部材間での延長接合や仕口接合など、建築物の骨組み工程において、様々な場面で想定され、その場合、煩雑な手間の追加による作業効率の低下や強度低下の恐れがあった。
【0014】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、第1と第2の柱状部材の端部同士の接合において、予め定められた設計位置と軸ズレを生じている第1の柱状部材に対する第2の柱状部材の設計位置での接合を従来より高精度な位置調整で良好な強度を維持しながらも短時間で簡便に行える柱状部材接合用ジョイントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明に係る柱状部材接合用ジョイントは、第1の柱状部材と第2の柱状部材との端部同士を接合するためのジョイントであって、
前記第1の柱状部材の前記接合を行う端部に嵌合される嵌合部と、該嵌合部を前記第1の柱状部材の端部に固定する固定手段と、
該嵌合固定状態にて第1の柱状部材の軸方向と直交する平面内にその表面が位置するように前記嵌合部と一体的に形成され、予め定められた口径の貫通穴が前記嵌合部周りに複数個形成された板状の第1ジョイントプレートと、
前記第2の柱状部材の前記接合を行う端部に該柱状部材の軸方向と直交する平面内にその表面が位置するように予め溶接固定された板状の第2ジョイントプレートと、
前記第1ジョイントプレートあるいは該第1ジョイントプレートに固定される第3ジョイントプレートと、前記第2ジョイントプレートとを互いに対面状態で締結するために前記第1ジョイントプレート側から各貫通穴に座金部材を介して挿入されるボルトおよびこれに螺合するナットと、を備え、
前記座金部材は、前記貫通穴に回転自在に挿嵌される円柱状部と、該円柱状部より大きい直径を有すると共に該円柱状部に一体に同心で形成された円盤状部と、これら円柱状部と円盤状部との中心軸位置から半径方向に沿って外周側へ延びるように穿設され、前記ボルトが挿入可能な幅を持つと共に該ボルトが挿入状態で半径方向に沿って摺動可能なスリット状ボルト孔と、を備えているものである。
【0016】
また、請求項2に記載の発明に係る柱状部材接合用ジョイントは、請求項2に記載の柱状部材接合用ジョイントにおいて、前記嵌合部は、前記第1ジョイントプレートの裏面から下垂方向にその軸方向が沿うように一体的に設けられた円筒部を備え、
該円筒部は、前記第1の柱状部材の端部の外周径にほぼ合致する内径を有し、下端から上方へ軸心と平行に形成されたスリット状切欠きが全周にわたって予め定められた間隔で複数本設けられており、
前記固定手段は、前記円筒部周りに複数個のボルトで締め付けられる割ナット部材を備えているものである。
【0017】
また、請求項3に記載の発明に係る柱状部材接合用ジョイントは、請求項1に記載の柱状部材接合用ジョイントにおいて、前記第1ジョイントプレートは、中央に円形の開口穴を有し、
前記嵌合部は、前記第1ジョイントプレートの裏面に前記開口穴と同軸上に一体的に設けられた円筒部を備え、
該円筒部は、前記第1の柱状部材の端部が円筒形状であるとき、該端部の内径とほぼ合致する外径と、均一な内径の上方領域と下端開口に向かってテーパー状に拡大する内径の下方領域とを有し、下端から上方へ軸心と平行に形成されたスリット状切欠きが全周にわたって予め定められた間隔で複数本設けられていると共に、上部に前記第1ジョイントプレートの開口穴と連通する凹部を形成する底板が設けられており、
前記固定手段は、該円筒部の下方から嵌め込まれた略円錐状の楔部材と、該楔部材を前記開口穴に露呈する底板に固定するボルト及びナットとを備え、
前記楔部材は、該楔部材と前記底板とを下方から貫通するボルトの端部を前記底板の上方側からナット締めすることによって軸方向に沿った位置調整可能に固定されるものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の柱状部材の端部同士を接合するためのジョイントにおいては、嵌合部と固定手段を介して第1の柱状部材の端部に固定された第1ジョイントプレートが、その嵌合部周りに複数個形成された予め定められた口径の貫通穴に回転自在に挿嵌される座金部材を介して挿入されるボルトとナットによる締結で予め第2の柱状部材の端部に溶接固定された第2ジョイントプレートに対して、直接あるいは第3ジョイントプレートを介して対面状態で固定され、第1と第2の柱状部材が接合されるものであり、前記座金部材に穿設されたボルト孔を中心軸位置から半径方向に沿って外周側へ延びるスリット状ボルト孔として、該ボルト孔に挿入されたボルトがボルト孔内を前記半径方向に沿って摺動可能としたことにより、第1のジョイントプレートの任意の方向に設定可能な貫通穴に対してそれぞれボルトを偏心止めするができるため、スリット状ボルト孔内の半径方向移動量分だけ第1ジョイントプレートと第2ジョイントプレートとを直接または第3ジョイントプレートを介して相対的に偏心させた固定状態で第1の柱状部材に対して第2の柱状部材を任意の方向、量で偏心させて接合することができる。これにより、第1の柱状部材が予め定められた設計位置から軸ズレ状態で位置決めされていても、第1ジョイントプレート側から座金部材のスリット状ボルト孔の長手方向の向きとボルト孔内の半径方向上のボルト止め位置を調整するだけで、従来のような現場での溶接時の調整等の煩雑な作業を必要とすることなく簡便に且つより高精度に前記軸ズレを補償して第2の柱状部材を設計上の軸心に軸合わせさせた位置で第1と第2の柱状部材同士を接合することができるため、柱状部材同士の接合工程の効率化を可能とし、結果として建築物の骨組み構築等の作業全体の効率化を実現できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明によるジョイントは、第2の柱状部材の一端部に該柱状部材の軸方向と直交する平面内にその表面が位置するよう予め溶接固定された板状の第2ジョイントプレートに対して、第1の柱状部材の一端部に嵌合した状態で固定手段によって固定される嵌合部に該柱状部材の軸方向と直交する平面内にその表面が位置するよう一体的に形成された板状の第1ジョイントプレートと直接あるいはこれに固定された第3ジョイントプレートを介して対面状態で第1ジョイントプレート側から該プレートの嵌合部周りに複数個形成された予め定められた口径の貫通穴に座金部材を介して挿入されるボルトとナットによる締結によって第1と第2の柱状部材の端部同士を接合するものであり、前記座金部材は第1ジョイントプレートの貫通穴に回転自在に挿嵌される円柱状部と該円柱状部より大きい直径を有すると共に該円柱状部に一体に同心で形成された円盤状部とを備えており、前記ボルトが挿入されるボルト孔が、円柱状部と円盤状部との中心軸位置から半径方向に沿って外周側へ延びるように穿設されたスリット状で、挿入されたボルトがボルト孔内で前記半径方向に沿って摺動可能としたものである。
【0020】
従って、本発明においては、ボルトが半径方向に摺動可能なスリット状ボルト孔を備えた座金部材を介することによって、貫通孔に対してそれぞれ前記半径方向に沿った任意の位置でボルトを偏心止めできるため、前記スリット状ボルト孔内の半径方向移動量分だけ第1ジョイントプレートと第2ジョイントプレートとを直接あるいは第3ジョイントプレートを介して相対的に偏心させて接合させることができる。しかも、前記座金部材は第1ジョイントプレートの貫通穴に対して回転自在であるため、その偏心方向も任意の方向に設定することができる。
【0021】
即ち、本発明のジョイントによれば、図1の第2ジョイントプレートあるいは第3ジョイントプレート側から見た平面模式図に示すように、第1ジョイントプレート10が嵌合部12を介して嵌合固定される第1の柱状部材100に対して、第2の柱状部材200に溶接固定されている第2ジョイントプレート20または第3ジョイントプレート40を任意の方向、量で偏心させてボルト締結することができるため、第1の柱状部材100が予め定められた設計上の位置(軸心位置A)から軸ズレした位置(埋設後の軸心位置A’)にあっても、現場での接合作業における溶接時のズレ調整等の煩雑な作業を必要とすることなく、第1ジョイントプレート側から座金部材12のスリット状ボルト穴17の長手方向の向きとボルト穴内の半径方向上のボルト止め位置を調整するだけで、簡便に且つ従来の溶接より高精度で第2の柱状部材200を設計上の位置Aに軸合わせさせた状態で第2ジョイントプレート20を直接または第3ジョイントプレート40を介して第1ジョイントプレート10をボルトで締結でき、実質的に前記軸ズレ分A−A’を補償して第1と第2の柱状部材同士(100,200)を接合することができる。
【0022】
なお、第1ジョイントプレートと第2ジョイントプレートとを直接ボルト締結する場合には、本発明のジョイントを構成する部材数が少なくて済むが、第3ジョイントプレートを介在させる場合には、部材数は増えるが第1ジョイントプレートと第3ジョイントプレートとの間で前記軸ズレを補償するようにボルト位置を調整してから位置調整済みの第3ジョイントプレートに対して第2ジョイントプレートを軸心合わせさせてさらにボルト締結による固定を行うことによって第1の柱状部材と第2の柱状部材が接合されるため、軸ズレ補償のためのボルト位置調整作業を第1ジョイントプレートと第2の柱状部材を伴った第2ジョイントプレートとの間で行う場合よりも作業は手軽で簡便になる。
【0023】
また、本発明における第1ジョイントプレートと一体的に設けられる嵌合部は、第1の柱状部材の一端部に良好に嵌合でき、固定手段で簡便に固定できる構成のものが望ましい。例えば、第1の柱状部材の少なくとも接合しようとする端部が円柱形状であれば、嵌合部はこれに寸法が合う円筒部を備えれたものとすれば良い。
【0024】
この場合、まずこの円筒部を第1の柱状部材の外側に被せる構成が考えられる。具体的には、第1ジョイントプレートの裏面から下垂方向にその軸方向が沿うように一体的に設けられた円筒部が、第1の柱状部材の一端部の外周径にほぼ合致する内径を有するものとし、下端から上方へ軸心と平行に形成されたスリット状切欠きを全周にわたって予め定められた間隔で複数本設けておけば、第1の柱状部材の一端部に被せた円筒部の周りに固定手段としての割りナット部材を装着して複数個のボルトで締め付ければ、前記切欠きにより若干縮径する円筒部が第1の柱状部材の一端部を強固に締め付け、結果として該円筒部を介して第1ジョイントプレートが第1の柱状部材の一端部に良好に固定される。
【0025】
また、第1の柱状部材の接合しようとする一端部も円筒形状であるとき、嵌合部としての円筒部を該端部に挿入し、楔部材を用いて円筒部を内側から押し開くチャック機構を利用すれば良好な嵌合固定状態が得られる。例えば、第1ジョイントプレートの裏面に一体的に設けられた円筒部を、第1の柱状部材の一端部の内径とほぼ合致する外径で、均一な内径の上方領域とテーパー状に拡大する内径の下方領域とを有するものとし、下端から上方へ軸心と平行に形成されたスリット状切欠きを全周にわたって予め定められた間隔で複数本設けておけば、この円筒部を第1の円柱状部材の一端部の円筒形状内に挿入嵌合し、固定手段として略円錐状の楔部材を円筒部の下方から嵌めて押し込めば、切欠きにより円筒部は若干拡径し、この拡がった円筒部がチャックつかみの如く第1の柱状部材の一端部の円筒形状内で強く固定され、結果として該円筒部を介して第1ジョイントプレートが第1の柱状部材に良好に固定される。
【0026】
この場合、楔部材の円筒部に対する押し込みは、楔部材を円筒部にネジ止めしているボルトを円筒部に対して送りネジとして利用する簡便な構成で行うことができる。例えば、第1のジョイントプレートの中央に円形の開口穴を設けると共に、該開口穴と同軸上に一体的に形成された円筒部の上部に該開口穴と連通する凹部を設け、円筒部に下方から嵌め込まれた楔部材とこの凹部の底板とを貫通するボルトの先端にナットを螺合しておけば、第1のジョイントプレートの開口穴に露呈する凹部の底板上でナットの螺合回転を進めるだけでこの底板に対しボルトが楔部材を伴って上方へ移動し、楔部材がさらに円筒部内に押し込まれていく。
【0027】
なお、固定手段は、上記のような専用の部材を用いたものに限らず、嵌合部と基礎杭頭部等の第1の柱状部材の端部とを溶接固定したり、フランジボルトでネジ止めするなど、直正的な固定手段を用いても良い。この場合、固定作業に若干の手間が必要であるが、細かい位置調整等を必要としない簡単な作業であり、また特殊な構成部材数が省かれる分、製造工程の簡略化が図れる。
【0028】
本発明で云う柱状部材とは、地中基礎部分や地上部分の支柱、梁、筋かい、控などの一般建築鉄骨および屋上架台や支持架台等の鉄骨設備架台、トラス構造物などの各種建築物、建造物の骨組み各所で用いられる長尺状部材であり、H型鋼、I型鋼、Z型鋼、T型鋼、平鋼、溝型鋼、山形鋼、等の形鋼や角型鋼管、円筒型鋼管など一般的な構造用鋼材が挙げられ、何ら特定の部位に用いられる特定の鉄骨柱部材に限定するものではない。
【0029】
また、本発明によるジョイントは、同形の柱状部材同士の接合だけでなく、異なる形の柱状部材同士の接合にも用いることができる。例えば、地中に埋設される基礎杭とこの杭の上に立設される鉄骨支柱との接合に用いる場合、基礎杭が第1の柱状部材となり、鉄骨支柱が第2の柱状部材となる。従って、第1ジョイントプレートが、地面に露出している基礎杭の頭部に固定され、予め鉄骨支柱の一端部に溶接固定された第2ジョイントプレートと対面状態で前記座金部材を介したボルト・ナットにより締結されることによって両部材同士が接合される。
【0030】
この場合、先に地中に埋設された基礎杭が設計上の位置から軸ズレしていても、本発明のジョイントによれば、第2ジョイントプレートを基礎杭側の第1ジョイントプレートに対して座金部材のボルト穴の向きとボルトの挿入位置との調整によって前記軸ズレを実質的に補償した状態で鉄骨支柱を本来の設計上の位置に軸合わせした状態で第2ジョイントプレートを第1ジョイントプレートに固定できるため、従来のような現場でのジョイント板の溶接固定の位置調整によって鉄骨支柱側の軸ズレをなくそうとし、またそれでも残るズレをアンカーボルトの曲げによって補正していた場合に比べてその手間も精度も向上し、強度の低下もなく、作業工程全体の効率化が可能となる。
【0031】
また、その他にも、支柱と梁や筋かいとの接合にも用いることができる。この場合、柱に溶接固定されている仕口から突出している短い柱状部材と梁や筋かいの本体側柱状部材との端部同士を接合するが、支柱の立設後に予め工場等で溶接固定された仕口側の柱状短部材が設計上の位置より軸ズレしてしまっていても、本発明のジョイントによれば、現場での溶接しながらの位置ズレ調整等の煩雑で精度が低い作業も、また残ったズレを補正するためのつなぎ板の曲げ等も必要なく、簡便で短時間の作業で本体側の柱状部材を設計上の位置に配置されるようにそのズレ分を解消した状態で仕口側の柱状短部材に接合することができる。
【0032】
本発明のジョイントは、以上のような異なる柱状部材同士の接合以外に、柱状部材の延長のような同種の部材同士の接合にも同様に有効である。なお、第1ジョイントプレートに対する第2ジョイントプレートの相対位置を固定するために、これらジョイントプレートをその前後左右の側面方向から挟持する位置固定手段をさらに設けることが好ましい。
【0033】
また、本発明のジョイントにおいて、第1の柱状部材の軸ズレ分を補償するためのボルト止め位置の偏心可能上限長さは、ボルトが摺動できる座金部材のスリット状ボルト孔の半径方向長さ(ボルト径分を除く)となる。このボルト孔の長さの上限は、座金部材の円柱状部および貫通穴の径寸法によって決定される。従って、これらの寸法は、実際にジョイントが用いられる部位で想定される最大軸ズレ量に基づいて適宜設定することが望ましい。
【0034】
例えば、基礎杭と鉄骨支柱のと接合においては、現状で基礎杭の埋設時に生じている軸ズレ量が最大50〜60mmであることから、この基礎杭−鉄骨支柱接合に用いるジョイントにおいては、座金部材および貫通孔の設計寸法を、ボルトの摺動可能最大長さが60mmとなるスリット状ボルト孔に対応したものとすれば良い。
【0035】
また、通常ボルト止め箇所は、少なくとも必要な接合強度が得られる数だけ設けられるが、本発明においてボルト止め箇所となる第1ジョイントプレートの貫通穴は、前記のように想定される第1の柱状部材の最大軸ズレ量によって決定されるため、従来の単にボルトを貫通させられるだけの径を持つボルト孔が形成される場合に比べて大幅に大きな径寸法を有するものであり、むやみに数を増やすことができない。従って、ボルト止め箇所は、各貫通穴同士が適宜な間隔を持って配置できると共に、必要充分な接合強度が得られる数と位置を、その柱状部材およびジョイントプレートの寸法に応じて適宜設定する。
【0036】
なお、本発明の第1ジョイントプレートには、上記のように大きな貫通穴が複数形成されるが、該貫通穴に嵌合される座金部材は、アンカーボルトと同様に高張力鋼製とすることができるため、第1ジョイントプレート自体の強度に問題はない。
【0037】
また、本発明における第1、第2、第3のジョイントプレートの平面形状は特に限定するものではなく、各種多角形状、円形状、楕円形状など、広く様々な形状が採用可能であり、実際に接合対象となる柱状部材の断面外形状に応じて、ボルト孔の配置や製造、現場での上下プレート同士の位置合わせなどの取り扱い等、強度や工程の簡便さ、効率等を考慮して適宜選択すればよい。例えば基礎杭に断面外形状が四角形の鉄骨支柱を接合するのに用いる場合には、従来のジョイント板と同様の略四角形状とするのが、ボルト孔の効率的で均等な配置や製造工程、接合時の位置調整での取り扱いの簡便さから好ましい。
【実施例1】
【0038】
本発明の第1の実施例としてのジョイントを、地中に埋設される基礎杭とその上に立設される鉄骨支柱との接合に用いた場合を以下に示す。従って、本実施例において、基礎杭が第1の柱状部材であり、鉄骨支柱が第2の柱状部材である。また、本実施例においては、第1ジョイントプレートの嵌合固定を、基礎杭の頭部外周に嵌合する円筒部と該円筒部周りをボルトで締め付ける割ナット部材とで行う場合を例示する。
【0039】
図2は、本実施例におけるジョイントの構成部材を示す概略斜視図であり、(a)は全体構成図、(b)は座金部材の側面図、(c)は座金部材の底面図である。図3は本ジョイントによる接合状態を示す説明図であり、(a)は鉄骨支柱側から見た概略斜視図、(b)は基礎杭側から見た概略斜視図である。
【0040】
図2に示すように、本実施例によるジョイントは、主に、予め工場等で鉄骨支柱201の下端部に該支柱201の軸方向と直交する平面内にその表面が位置するように溶接固定された略四角形板状の第2ジョイントプレート20と、嵌合部および固定手段によって基礎杭101の頭部に該基礎杭101の軸方向と直交する平面内にその表面が位置するように嵌合固定される略四角形板状の第1ジョイントプレート10と、嵌合部として第1ジョイントプレート10の裏面から下垂方向に一体的に設けられた円筒部11と、該円筒部11周りに複数個のボルトで締め付けられる固定手段としての割ナット部材30と、第1ジョイントプレート10と第2ジョイントプレート20とを互いに対面状態で締結するために第1ジョイントプレート10に形成された貫通穴13と第2ジョイントプレート20に形成されたボルト孔21に座金部材14を介して挿入されるアンカーボルト18とナット19とで構成される。
【0041】
嵌合部となる円筒部11は、基礎杭頭部101の外周径にほぼ合致する内径を有し、下端から上方へ軸心と平行に形成されたスリット状切欠き12が全周にわたって断面円形の等角度間隔位置に複数本設けられている。なお、本実施例においては、第1ジョイントプレート10の裏面に円筒部11の外側面との間に形成される直角部に補強用のリブRを数個設けた。もちろん補強の必要がないほど十分か強度をもつ場合であればリブRは必ずしも設ける必要ない。
【0042】
また、第1ジョイントプレート10には、円筒部11の周りに一辺に沿って3個となるように計8個の口径の大きな貫通穴13が互いに所定間隔をもって形成されている。座金部材14は、貫通穴13に回転自在に挿嵌される円柱状部15と、これより大きい直径で同心の円盤状部16とを備えており、第1ジョイントプレート10に裏面側、即ち基礎杭側から貫通穴13に円柱状部15を挿入すると、円柱状部15の外周領域に突出した円盤状部16が第1ジョイントプレート10の裏面の貫通穴13周囲に当接して止まる。
【0043】
この座金部材14には、円柱状部15と円盤状部16の中心から半径方向に沿って外周側に延びるスリット状ボルト孔17が穿設されている。このボルト穴17の座金部材内側端部である中心軸(円柱状部15と円盤状部16との同心上)位置は、円柱部材15が嵌め込まれる貫通穴13の中心位置と合致し、各貫通穴13おいてそれぞれ座金部材14の中心軸位置でボルト18を第2ジョイントプレート20側に形成された対応する各ボルト孔21に挿入してナット19で締結すると、第1と第2のジョイントプレート(10,20)の中心位置同士が重なり、第1ジョイントプレート10の中心位置と重なる基礎杭101の中心軸と第2ジョイントプレート20の中心位置と重なるように溶接固定された鉄骨支柱201の中心軸とが同軸上となるように設定されている。
【0044】
本実施例では、ボルト18が、スリット状ボルト孔17内をその内側端部の前記中心軸位置から外周側端部まで半径方向に沿って摺動可能とすることにより、この半径方向上の任意の位置で第1ジョイントプレート10と第2ジョイントプレート20とをボルト18で偏心止めすることができる。
【0045】
従って、本実施例のジョイントによれば、基礎杭101と鉄骨支柱201とを互いの中心軸同士を前記偏心量分だけズラして接合することができ、もし、図1(b)に示すように、先の地中に埋設された基礎杭101(第1の柱状部材100)が、その中心軸が予め決定されている設計上の位置Aと異なる位置A’に軸ズレしてしまった場合、前記ボルト18の偏心止めによりその軸ズレ分を補償して、鉄骨支柱201(第2の柱状部材200)をその中心軸が設計上の位置Aに重なる位置で基礎杭上に立設するよう接合することができる。
【0046】
以上の構成を備えた本実施例のジョイントにより軸ズレして埋設された基礎杭101と鉄骨支柱201とを接合する場合の作業工程を以下に説明する。まず、地中に埋設後の円筒型鋼管からなる基礎杭101は、地上に露出した頭部周りを所定の領域に亘って所定の深さに掘った状態で予め定められた設計上の高さで切断して調整されており、この基礎杭101の位置を測量して設計上の位置との軸ズレ量とそのズレ方向を求めておく。
【0047】
高さ調整済みの基礎杭101の頭部に対して、第1ジョイントプレート10の円筒部11を嵌め込み、基礎杭101の頭部を覆う円筒部11周りに割ナット部材30を重ねてボルトで締め付ける。この際、円筒部11に形成された複数本のスリット状切欠き12により、円筒部11が縮径し、該円筒部11における基礎杭101の頭部に対する嵌合部は強固な固定状態となり、第1ジョイントプレート10の基礎杭101の頭部への固定が完了する。
【0048】
次に、鉄骨支柱201の下端に溶接固定された第2ジョイントプレート20を第1ジョイントプレート10の表面に対面させ、鉄骨支柱201をその中心軸が設計上の中心軸位置に合致するよう位置合わせした状態で第1と第2のジョイントプレート(10,20)同士を当接させる。この時、第2ジョイントプレート20に形成されている各ボルト孔21は、第1ジョイントプレート10の対応する各貫通穴13の中心からそれぞれ前記軸ズレ分だけ離れた偏心位置に来る。
【0049】
従って、両ジョイントプレート(10,20)同士の当接状態において、第1ジョイントプレート10の各貫通穴13にその裏面側(地面側)から座金部材14の円柱状部15を挿嵌し、スリット状ボルト孔17の長手方向(半径方向)が前記軸ズレの方向に沿うように回転して位置調整する。
【0050】
この位置調整により、第2ジョイントプレート20の各ボルト孔21はそれぞれ対応するが座金部材14のスリット状ボルト孔17の半径方向上に重なるため、この偏心位置で高張力鋼製のアンカーボルト18を座金部材14のスリット状ボルト孔17から第2ジョイントプレート20のボルト孔21まで貫通させ、ナット19で締結することにより、第1ジョイントプレート10と第2ジョイントプレート20とがボルト固定され、基礎杭101と鉄骨支柱201との接合が完了する。
【0051】
以上にように、本実施例におけるジョイントを用いれば、設計上の位置から軸ズレして埋設されてしまった基礎杭に対して、該基礎杭側に固定される第1ジョイントプレートの貫通穴に挿嵌される座金部材を回転させてそのスリット状ボルト孔の向きとボルト挿入位置を調整するという簡便な工程で、前記軸ズレ分を補償しながら鉄骨支柱を接合し、設計上の位置に精度良く立設することができる。
【0052】
なお、スリット状ボルト孔17の長手方向長さは、実質的にボルト18が摺動可能な範囲であるボルト18径分を除く寸法を、第1の柱状部材の位置決め固定時に生じる軸ズレとして想定される最大値に設定しておけば、ほとんどの現場で本ジョイントによる接合でその軸ズレを補償することができる。例えば、本実施例においては、現状における基礎杭101の埋設時に生じる軸ズレ量の経験的に得られている最大値50〜60mmに対応すべく前記ボルト18が摺動可能な範囲となる寸法を60mmとするのが望ましい。
【0053】
また、第1ジョイントプレート10に対する第2ジョイントプレート20との相対的な偏心位置を固定するための手段を更に設けても良い。例えば図1に示すように、第1ジョイントプレート10に対して偏心位置決めされた第2ジョイントプレート20を前後方向または左右方向から固定板31を介して固定ボルト32で挟持する固定手段によって両ジョイントプレートの相対位置関係をより安定に維持できる。
【0054】
また、本実施例においては、第1ジョイントプレートと第2ジョイントプレートを直接ボルトで締結固定する場合を示したが、図4に示すように、両ジョイントプレートの締結を第3ジョイントプレート40を介して行う構成としても良い。
【0055】
この場合、第1ジョイントプレート10に対してまず第3ジョイントプレート40が基礎杭101の軸ズレを補償するように偏心位置で固定され、その後第3ジョイントプレート40に対して第2ジョイントプレート20を互いの中心軸同士を合わせて固定することにより、基礎杭101と鉄骨支柱201とが接合されるものとする。
【0056】
このように、第3ジョイントプレート40を介する構成によれば、第1ジョイントプレート10の対する座金部材14のスリット状ボルト17の向きやボルト止めの偏心位置調整の作業をフリーの第3ジョイントプレート40に対して行えば良いため、鉄骨支柱201を伴った第2ジョイントプレート20に対して直接行う場合よりも作業が簡便となる。
【0057】
なお、作業開始時には基礎杭101の頭部の周りが所定範囲に亘って所定深さ掘られて空間が確保されているため、第1ジョイントプレート10の該頭部への嵌合固定後あるいは第2ジョイントプレート20との固定完了時に前記空間を掘り出された土は埋め戻されるが、その際、第1ジョイントプレート10の周囲を設計領域に亘ってコンクリート打設する場合もある。
【実施例2】
【0058】
上記第1の実施例においては、第1ジョイントプレートを基礎杭頭部に固定するための嵌合部として、該頭部周りに被せるように嵌合させる筒状部としたが、基礎杭頭部が円筒状であれば、該嵌合部をその円筒状頭部内に挿入嵌合する構成も考えられる。
【0059】
本発明の第2の実施例として、第1ジョイントプレート基礎杭頭部に嵌合固定するための構成として、前記の如く基礎杭の円筒状頭部内に挿入嵌合される嵌合部としての円筒部と、この円筒部を固定するための手段として該円筒部に下方から挿入されて円筒部を内側から押し開くチャック機構を構成する楔部材を固定手段として備えたジョイントを図5に示す。図5(a)は、本実施例の第1ジョイントプレートの基礎杭頭部への嵌合固定状態を示す概略平面図であり、(b)はその概略側断面図である。
【0060】
本実施例2においては、円筒部および楔部材との嵌合部と固定手段以外は実施例1と基本構成が共通するものである。即ち、予め工場等で鉄骨支柱の下端部に該支柱の軸方向と直交する平面内にその表面が位置するように溶接固定された略四角形板状の第2ジョイントプレート(不図示)と、嵌合部および固定手段によって基礎杭101の頭部に該基礎杭101の軸方向と直交する平面内にその表面が位置するように嵌合固定される略四角形板状の第1ジョイントプレート50と、第1ジョイントプレート50と第2ジョイントプレートとを互いに対面状態で締結するために第1ジョイントプレート50に形成された貫通穴56と第2ジョイントプレート側に形成されたボルト孔に図1〜3に示した座金部材14を介して挿入されるアンカーボルト18とナット19とで主に構成される。
【0061】
本実施例では、第1ジョイントプレート50の中央部に開口穴55が形成されおり、嵌合部となる円筒部51が第1ジョイントプレート50の裏面に該開口穴55と同軸上に一体的に設けられている。この円筒部51には、上部に、開口穴55と連通する凹部が形成されており、また断面円形状の等角度間隔位置に下端から上方に向かって円筒部軸心と平行にスリット状切欠き52が全周にわたって複数本形成されていると共に、下方領域において下端開口に向かって内径がテーパー状に拡大している。
【0062】
この拡径部53には、該拡径部53と同じ傾斜のテーパー状外周形状を持つ楔部材60が嵌め込まれており、この楔部材60は凹部の底板54にボルト61とナット62によりネジ止めされている。この楔部材60と底板54とを下方から貫通しているボルト61の端部に底板54の上面で螺合するナット62は、第1ジョイントプレート50の開口穴55内に露呈しているため、ナット62の螺合回転操作を外側からおこなうことができる。
【0063】
従って、ナット62の螺合回転を進めることによって、ボルト61は送りネジとなって楔部材60を伴って底板54に対して近接する方向へ移動し、楔部材60はさらに円筒部51内に押し込まれることになる。このような楔部材60の円筒部51内への押し込みが進めば、スリット状切欠き53によって円筒部51の下方領域は拡径する。従って、楔部材60が下方開口から嵌め込まれている円筒部51を基礎杭101の頭部内に挿入し、開口穴55に露呈しているナット62の螺合回転を進めていけば、楔部材60の押し込みに伴って円筒部51の下方領域は拡径していき、円筒部51は基礎杭101の頭部に対して内側からチャックつかみの如く押圧し、強固な嵌合固定状態が得られる。
【0064】
以上のように、円筒部51と楔部材60とによって基礎杭101の頭部に固定された第1ジョイントプレート50に対しては、以降は実施例1と同様の工程で第2ジョイントプレート20を座金部材14介してボルト締結することによって、基礎杭101が設計上の埋設位置から軸ズレしていても該軸ズレを補償して鉄骨支柱201を設計上の位置で接合することができる。
【実施例3】
【0065】
また、楔形状を用いたチャック機構による固定手段は、基礎杭の頭部を外側から締め付ける構成でも可能である。本発明の第3の実施例として、第1ジョイントプレートの嵌合部を構成する円筒部が楔部となる場合を図6に示す。図6(a)は第1ジョイントプレートを基礎杭頭部に嵌合固定した状態を示す側断面図であり、(b)は、締め付けリングを円筒部に対して相対移動させるためのリングネジを第1ジョイントプレートの裏面側からみた平面図である。
【0066】
本実施例による第1ジョイントプレート10には、第1実施例と同様に、嵌合部として裏面から下垂方向に一体的に円筒部70が設けられており、その周りに、鉄骨支柱201の端部に予め溶接固定された第2ジョイントプレート20と対面状態でアンカーボルトによって締結するためのボルト孔17を備えた座金部材14が嵌装される貫通孔13が所定個数設けられている。また円筒部70は、基礎杭101の頭部外周径にほぼ合致する内径を有し、基礎杭101の頭部に被さるように嵌合でき、また下端から上方へ軸心と平行に形成されたスリット状切欠き72が全周にわたって断面円形の等角度間隔位置に複数本設けられている。
【0067】
本実施例においては、円筒部70は、その軸方向略中央位置から基礎杭101側下方へ向かう所定領域に亘って外径がテーパー状に縮径している外側縮径部71を備えており、さらにその下方には端部に亘って外表面に雄ネジ加工部43が形成されている。さらに前記縮径部71には、該縮径部71と同じ傾斜のテーパー状内形状をもつ締め付けリング80が外側に嵌められており、その下方の雄ネジ加工部73には、これと螺合する雌ネジ加工82が内周面に施されたリングネジ81が配置されている。
【0068】
従って、リングネジ81を円筒部70に対してその軸方向に沿って第1ジョイントプレート10側上方へ螺合回転を進めて移動させると、該リングネジ81は締め付けリング80を円筒部70に対して上方へ押し上げられ、これに伴って円筒部70の下方領域は締め付けられ、スリット状切欠き72によって縮径していき、円筒部70は基礎杭101の頭部に対して外側から強く締め付け押圧され、強固な嵌合固定状態が得られる。このように、嵌合部としての円筒部70に対して、その外側縮径部71とこの領域に嵌められる締め付けリングおよび下方の雄ネジ加工部73とこれに螺合するリングネジ81が本実施例の固定手段を構成している。
【0069】
以上の嵌合部と固定手段とによって円筒部70が基礎杭101の頭部に強固に嵌合固定された状態において、第1ジョイントプレート10はその表面が基礎杭101の軸方向に対して直交する平面内にあるため、以降は上記実施例と同様に、基礎杭101が設計上の位置から軸ズレして埋設されてしまっていても、第1ジョイントプレート10に第2ジョイントプレートを対面させ、座金部材14のスリット状ボルト孔17の向きとアンカーボルト18の挿入位置を調整するという簡便な工程で、前記軸ズレ分を補償しながら第1と第2のジョイントプレート同士を固定することによって、鉄骨支柱201を設計上の位置に精度良く立設するように基礎杭101に接合することができる。
【0070】
なお、以上の実施例においては、円筒状鋼管からなる基礎杭と鉄骨支柱との接合の場合において、第1ジョイントプレートの嵌合部として、基礎杭の頭部形状に嵌合する円筒部と、これを割ナットによる締め付けまたは楔部材によるチャック機構で固定する手段を備えたジョイント構成を示したが、本発明においてはこれに限定されるものではなく、接合する柱状部材の頭部形状に応じて簡便に嵌合固定できる機構であれば採用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明のジョイントによる第1と第2のジョイントプレート同士の固定時における位置関係を示す説明図であり、(a)は第1と第2のジョイントプレートの重なりを示す平面図模式図、(b)は側面模式図である。
【図2】本発明の第1実施例によるジョイントの構成を示す斜視図であり、(a)は構成部材全体の概略斜視図、(b)は座金部材の側面図、(c)は座金部材の底面図である。
【図3】第1実施例のジョイントによる基礎杭と鉄骨支柱との接合状態を示す斜視図であり、(a)は鉄骨支柱側から見た斜視図、(b)は基礎杭側から見た斜視図である。
【図4】第1実施例のジョイントによる接合の他の例を示す斜視図である。
【図5】本発明の第2実施例によるジョイントの嵌合部および固定手段の構成を示す説明図であり、(a)は基礎杭頭部に固定された第1ジョイントプレートを上面側から見た平面図、(b)は側面図である。
【図6】本発明の第3実施例によるジョイントの嵌合部および固定手段の構成を示す説明図であり、(a)は基礎杭頭部に固定された第1ジョイントプレートの側断面図、(b)は固定手段を構成するリングネジの平面図である。
【図7】従来のジョイントによる基礎杭と鉄骨支柱との接合を説明する概略斜視図である。
【図8】従来のジョイントによる軸ズレのある基礎杭と鉄骨支柱との接合の場合を説明する概略斜視図である。
【符号の説明】
【0072】
10,50:第1ジョイントプレート
11,51,70:円筒部(嵌合部)
12,52,72:スリット状切欠き
13,56:貫通穴
R:リブ
14:座金部材
15:円柱状部
16:円盤状部
17:スリット状ボルト孔
18:アンカーボルト
19:ナット
20:第2ジョイントプレート
21:ボルト孔
30:割ナット
31:固定板
32:固定ボルト
40:第3ジョイントプレート
53:拡径部(円筒部下部領域)
54:凹部底板
55:開口穴
60:楔部材
61:ボルト
62:ナット
71:外側縮径部
73:雄ネジ加工部
80:締め付けリング
81:リングネジ
82:雌ネジ加工
100:第1の柱状部材
101:基礎杭
102:杭側ジョイント板
103,203:ボルト孔
104:アンカーボルト
200:第2の柱状部材
201:鉄骨支柱
202:支柱側ジョイント板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の柱状部材と第2の柱状部材との端部同士を接合するためのジョイントであって、
前記第1の柱状部材の前記接合を行う端部に嵌合される嵌合部と、該嵌合部を前記第1の柱状部材の端部に固定する固定手段と、
該嵌合固定状態にて第1の柱状部材の軸方向と直交する平面内にその表面が位置するように前記嵌合部と一体的に形成され、予め定められた口径の貫通穴が前記嵌合部周りに複数個形成された板状の第1ジョイントプレートと、
前記第2の柱状部材の前記接合を行う端部に該柱状部材の軸方向と直交する平面内にその表面が位置するように予め溶接固定された板状の第2ジョイントプレートと、
前記第1ジョイントプレートあるいは該第1ジョイントプレートに固定される第3ジョイントプレートと、前記第2ジョイントプレートとを互いに対面状態で締結するために前記第1ジョイントプレート側から各貫通穴に座金部材を介して挿入されるボルトおよびこれに螺合するナットと、を備え、
前記座金部材は、前記貫通穴に回転自在に挿嵌される円柱状部と、該円柱状部より大きい直径を有すると共に該円柱状部に一体に同心で形成された円盤状部と、これら円柱状部と円盤状部との中心軸位置から半径方向に沿って外周側へ延びるように穿設され、前記ボルトが挿入可能な幅を持つと共に該ボルトが挿入状態で前記半径方向に沿って摺動可能なスリット状ボルト孔と、を備えていることを特徴とする柱状部材接合用ジョイント。
【請求項2】
前記嵌合部は、前記第1ジョイントプレートの裏面から下垂方向にその軸方向が沿うように一体的に設けられた円筒部を備え、
該円筒部は、第1の柱状部材の端部の外周径にほぼ合致する内径を有し、下端から上方へ軸心と平行に形成されたスリット状切欠きが全周にわたって予め定められた間隔で複数本設けられており、
前記固定手段は、前記円筒部周りに複数個のボルトで締め付けられる割ナット部材を備えていることを特徴とする請求項1に記載の柱状部材接合用ジョイント。
【請求項3】
前記第1ジョイントプレートは、中央に円形の開口穴を有し、
前記嵌合部は、前記第1ジョイントプレートの裏面に前記開口穴と同軸上に一体的に設けられた円筒部を備え、
該円筒部は、前記第1の柱状部材の端部が円筒形状であるとき、該端部の内径とほぼ合致する外径と、均一な内径の上方領域と下端開口に向かってテーパー状に拡大する内径の下方領域とを有し、下端から上方へ軸心と平行に形成されたスリット状切欠きが全周にわたって予め定められた間隔で複数本設けられていると共に、上部に前記第1ジョイントプレートの開口穴と連通する凹部を形成する底板が設けられており、
前記固定手段は、該円筒部の下方から嵌め込まれた略円錐状の楔部材と、該楔部材を前記開口穴に露呈する底板に固定するボルト及びナットとを備え、
前記楔部材は、該楔部材と前記底板とを下方から貫通するボルトの端部を前記底板の上方側からナット締めすることによって軸方向に沿った位置調整可能に固定されることを特徴とする請求項1に記載の柱状部材接合用ジョイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−138363(P2009−138363A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313377(P2007−313377)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(592035154)株式会社田定工作所 (4)
【Fターム(参考)】