説明

植物系バイオマス成形体の製造方法及び植物系バイオマス成形体の加熱流動成形用材料

【課題】木質材料の外観の低下が抑えられ、曲げ強度が良好なバイオマス成形体を安価に製造することができる植物系バイオマス成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】熱で軟化させた植物系バイオマス材料1を圧縮しながらせん断力Fの作用によりずり変形させて一旦加熱流動成形用材料2を得たのち、この加熱流動成形用材料2を金型に供給し加熱加圧して3次元形状を有する成形体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物系バイオマス成形体の製造方法及び植物系バイオマス成形体の加熱流動成形用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
石油由来資源に替わり、持続性資源でありかつ炭素ストック材料であるバイオマス材料が注目されている。特に、石油由来樹脂をできるだけ用いない植物系バイオマス材料の開発が行われている。その中で注目される技術として、植物系バイオマス材料の原料となる竹や木材を水蒸気処理などの前処理を行った後、木粉などの微小なエレメントへ加工し、可塑化、流動化させて成形する方法が報告されている(例えば、特許文献1−2)。また、バルクの状態で金型内に設置し、プレス加圧することによって材料を流動させるなどしてバルク材の特徴を活かした成形体を得る製造方法が報告されている(例えば、特許文献3−4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−261159号公報
【特許文献2】特開2007−283661号公報
【特許文献3】特開2006−247974号公報
【特許文献4】特開2008−36941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前者の方法においては、原料を一旦、160℃以上の高温高圧水蒸気下で前処理を行う必要がある。そのような条件下で処理して得られた成形体は、植物系バイオマス材料の主成分であるセルロース及びヘミセルロースの分解が進み、褐色〜黒色に変色してしまい、木質感が損なわれてしまうという課題があった。また、材料を微小なエレメントへ加工するための粉砕などの工程が必要であり、そのことも木質感が損なわれる原因の一つとなっていた。
【0005】
後者の方法においては、バイオマス材料をシリンダーから金型へ押出し流動化させるために、非常に高い圧力を必要とする。例えば、バイオマス材料を圧縮成形するための圧力は、150MPa程度の高圧力を必要とする。このため、大容積の成形物を作製するためには、汎用的なプレス設備では成形できないこと、また、小径口からの材料充填となることや高圧に対応する必要があることなどから複雑な金型設計が必要となることなどという課題がある。また、バイオマス材料は、樹脂材料と比べて、空隙率が高く、かさ密度が小さい。バルク材のかさ密度は、例えば0.3〜0.7程度であり、材料の形状によっては0.3以下となる場合もある。このようなかさ高い材料を金型内に設置しようとした場合、金型シリンダーの内容積を大きくしたり、複数回に分けて材料を圧締することが必要である。さらに、シリンダーに充填した材料を一気に金型内へ移動させ流動させると、材料が塊で移動するため、材料に均一にせん断力が働かず、材料のずり変形が均一に生じない場合がある。そのようにして得られた成形体は木質感を有するが、材料の物性としては曲げ強度が低い、吸水試験後での材料表面に凹凸が生じるなどの不均一なものとなる場合があるという課題があった。
【0006】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、木質材料の外観の低下が抑えられ、曲げ強度が良好なバイオマス成形体を安価に製造することができる植物系バイオマス成形体の製造方法及び植物系バイオマス成形体の加熱流動成形用材料を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の植物系バイオマス成形体の製造方法は、熱で軟化させた植物系バイオマス材料を圧縮せん断力の作用によりずり変形させ、一旦加熱流動成形用材料を得たのち、この加熱流動成形用材料を金型に供給し加熱加圧して3次元形状を有する成形体を得ることを特徴とする。
【0008】
この植物系バイオマス成形体の製造方法において、軟化促進剤として、水、又は水酸基を有する有機化合物を、軟化前の植物系バイオマス材料に加えることが好ましい。
【0009】
この植物系バイオマス成形体の製造方法において、前記植物系バイオマス材料が、木材、竹、麻類、草本類、農産物、及びそれらの廃材からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0010】
また、この植物系バイオマス成形体の製造方法において、圧縮成形機、ペレットミル、又はロール成形機で前記植物系バイオマス材料を圧縮することが好ましい。
【0011】
そして、この植物系バイオマス成形体の製造方法において、前記加熱流動成形用材料に、添加剤及びフィラーのうち少なくとも一方を加えて加熱加圧することが好ましい。
【0012】
さらに、この植物系バイオマス成形体の製造方法において、前記加熱流動成形用材料を、押出し成形機、射出成形機、プレス成形機、又はトランスファー成形機で加熱加圧することが好ましい。
【0013】
また、本発明の加熱流動成形用材料は、熱で軟化させた植物系バイオマス材料に圧縮せん断力が加えられ、前記植物系バイオマス材料を構成する組織の空隙が大きく変形し圧縮され、細胞間の位置が相対的に変化していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、木質材料の外観の低下が抑えられ、緻密で曲げ強度が良好なバイオマス成形体を安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】植物系バイオマス材料に作用させる圧縮力とせん断力を説明するために、圧縮力とせん断力を作用させた植物系バイオマス材料を示した模式図である。
【図2】図1の植物系バイオマス材料をミクロ的にみた模式図である。
【図3】(a)はペレットミルの模式図であり、(b)は(a)の要部Aの拡大図である。
【図4】ロール成形機の模式図である。
【図5】(A)は植物系バイオマス材料の顕微鏡写真、(B)は(A)を熱で軟化させた植物系バイオマス材料を圧縮してせん断力の作用によりずり変形させて得られた加熱流動成形用材料の顕微鏡写真である。
【図6】ボウル形状(深底形状)のキャビティを有するプレス金型の模式図である。
【図7】図6の金型で成形して得られた成形物の斜視図である。
【図8】中空形状を有し両端にサネ部を有するボード状の成形物の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明は、熱で軟化させた植物系バイオマス材料を圧縮してせん断力の作用によりずり変形させて一旦加熱流動成形用材料を得た後、この加熱流動成形用材料を金型に供給し、加熱加圧して植物系バイオマス成形体を得る。
【0018】
具体的には図1に示すように、例えば熱で軟化させた植物系バイオマス材料1を上下から圧縮力Pを加えるとともに、圧縮方向と直交する方向にせん断力Fを生じさせる。せん断力Fの作用を受けた植物系バイオマス材料1は、ずり変形し、全体として大きく変形する。この材料が加熱流動成形用材料2である。植物系バイオマス材料1の変形を図2に示すようにミクロ的にみると、植物系バイオマス材料1を構成する組織の細胞1aと細胞1aの間の接着層が熱による軟化によりその接着力が弱まり、せん断力Fの作用を受けると細胞1aと細胞1aの間の界面にずれが生じる。せん断力Fの作用を受けた植物系バイオマス材料1は組織の空隙が変形し圧縮され、細胞1a,1a間の相互位置が変化する。ここで、植物系バイオマス材料に作用させるせん断力は、植物系バイオマス材料を構成する細胞間の相互位置を変化させる程度の大きさであればよく、細胞を破壊する程の大きさは不要である。このようなせん断力を作用させるために、植物系バイオマス材料に加える圧縮力は、例えば、20〜100MPaであることが好ましい。
【0019】
このようなせん断力の作用を受けた植物系バイオマス材料は、細胞の状態を保持したまま組織が変形状態になっており、加熱流動成形用材料として加熱した金型に供給して圧力を加えると、より大きな流動性を生じさせることができる。このため、従来の加熱流動成形で得られる成形体に比べて、小さい圧力、低い温度条件で均一に成形させることが可能となる。
【0020】
原料となる植物系バイオマス材料としては、木材、竹、麻類、草本類、農産物などの植物材料や、廃材としてそれらの廃棄物や残渣物(皮、葉、茎、実)又はそれらの材料を加工した紙やパルプなどが挙げられる。例えば、木材としてはスギ、ヒノキ、マツなどの針葉樹、ポプラ、ブナ、ナラ、カバなどの広葉樹、麻類としては、ジュート、ケナフ、亜麻、ヘンプ、ラミー、サイザル、その他としては、葦、稲わら、籾殻、ヤシの実やさとうきびの絞りカスなどが挙げられる。これらの材料を2種以上混合して使用することも可能である。
【0021】
材料の形態としては、単板、チップ、繊維状として使用することができる。材料のサイズは、特に限定されず、後述する圧縮成形機、ペレットミル、ロール成形機などに投入可能な大きさに適宜設定される。
【0022】
植物系バイオマス材料は、軟化を促進させうる材料(軟化促進剤)を含んでいることが好ましい。軟化促進剤の具体例として、水分が挙げられる。この場合、植物系バイオマス材料の含水率は、15%以下が望ましい。含水率が15%以下であると、金型で加熱加圧して成形する際に水蒸気が材料内部に残らず、開圧時に爆裂することがなく、材料間で十分な接着を得ることができる。そのため、水分を多く含む場合は事前に乾燥処理を施しても良い。含水率の下限値は特に制限されないが、例えば3%とすることができる。含水率が3%以上であると、軟化促進剤としての機能を十分に発現させることができる。
【0023】
水分以外の軟化促進剤としては、水酸基を有する有機化合物など、植物系バイオマス材料の主成分であるセルロース、ヘミセルロース、リグニンなどと親和性を有するものが用いられる。
【0024】
水酸基を有する有機化合物としては、1価アルコール類、グリコール類、グリセリン類、糖類、フェノール類、ポリフェノール類、メラミンや尿素化合物のメチロール化物及びこれらの誘導体よりなる群から選ばれる1種以上のものが好適に用いられる。
【0025】
水酸基を有する有機化合物の具体例として、1価アルコール類としてはエタノール、メタノールなどの1価アルコール類、及び水・アルコール混合液、グリコール類としてはエチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール類、グリセリン類としてはグリセリンなどのグリセリン類、糖類としては、スクロース、キシリトール、デンプン、グルコマンナン、ペクチン、キトサンなどの糖類、フェノール類としてはフェノール及びその誘導体、ポリフェノール類としてはタンニン酸などのポリフェノール類、メラミンや尿素化合物のメチロール化物(ホルムアルデヒド縮合物)としては、モノメチロールメラミン、ジメチロールメラミン、トリメチロールメラミン、ジメチロールユリアなどが挙げられる。これらは誘導体とされていてもよい。
【0026】
また、その他の軟化促進剤としては、植物系バイオマス材料と親和性を有するものとして、COOH基やCHO基を有する、酢酸、クエン酸、シュウ酸、乳酸などの酸類及びそれらの塩、グリオキザールの水溶液などが挙げられる。
【0027】
植物系バイオマス材料に軟化促進剤を添加する方法は、特に限定されない。例えば、浸漬、散布、塗布などの方法により、植物系バイオマス材料に軟化促進剤を均一に接触、含浸させることができる。また、その後、必要に応じて、水分などの溶媒を乾燥させてもよく、適当な含水率に調整することができる。軟化促進剤の添加量は、植物系バイオマス材料100質量部に対して、1〜20質量部程度が好ましい。
【0028】
上記した植物系バイオマス材料にせん断力を作用させる方法としては、例えば、材料に対して一方向だけに圧縮処理するのではなく、狭いスリットや小孔に材料を通過させながらその材料の圧縮方向と直交する方向にせん断力が働くような機構を用いることができる。そのような機構を備えた設備の具体例として、圧縮成形機、ペレットミル、ロール成形機などが挙げられる。
【0029】
圧縮成形機やペレットミルは、植物系バイオマス材料を圧縮し減容させるために用いられるものである。いずれの設備も植物系バイオマス材料を圧縮しながら1mm〜100mm程度の1個〜複数の円柱状のダイ穴から材料を押出して圧縮している。この時、植物系バイオマス材料には圧縮力とともにせん断力が働いており、植物系バイオマス材料はほぐされながら圧縮された状態となる。特に、図3に示すようなペレットミルは、回転している複数のプレスロール3と円筒状のリングダイ4の間で植物系バイオマス材料1を圧縮して複数のダイ穴5から押出すため、均一に、多量の材料を加工して加熱流動成形用材料2を得ることができる。
【0030】
ダイ穴の大きさ、深さは、投入する植物系バイオマス材料の形状、サイズによって適宜設定される。材料にかかる圧力は50〜100MPa程度である。圧縮された後の植物系バイオマス材料の形態は、ずり変形させることが狙いであるため、完全に圧縮されたペレットの形状でなくてもよく、できるだけ木質材料の外観、性状を残すことが好ましい。
【0031】
植物系バイオマス材料を熱で軟化させるために、ダイを加温してもよいが、材料の摩擦熱により材料自体が発熱する場合もあり、この場合には加温しなくてもよい。植物系バイオマス材料を軟化させる温度としては、植物系バイオマス材料に含まれるヘミセルロースやリグニンなどの軟化層が軟化する温度、具体的には、植物系バイオマス材料の温度が80℃以上であることが望ましい。上限値は、植物系バイオマス材料が熱により分解、変色を生じない温度であり、具体的には150℃程度である。
【0032】
ロール成形機としては、例えば、一つのロールとこのロールに合い対する固定面を備えた機構、又は、図4に示すような一対のロール6,6を備えた機構が挙げられる。前者の機構の場合、材料の接する固定面の粗度や凹凸形状によりせん断力を制御することが可能である。粗度が大きく摩擦抵抗が大きいほど材料にせん断力がかかりやすく、大きな変形を生じさせることができる。後者の機構の場合、一対のロール6,6において両者のロール6,6の送り速度を同調させないことが好ましい。両者のロール6,6の送り速度が同じ場合、ロール6,6間の材料は圧縮力を大きく受けて圧縮されるが、せん断力が小さいため、ずり変形も小さい。そこで、両者のロール6,6の送り速度を変えることにより、ロール6,6間に投入される植物系バイオマス材料1により大きなせん断力を作用させて大きな変形を生じさせることができる。必要に応じて複数個のロールを設置し、一対のロールでの送り速度比を順次大きくすることにより、大きなせん断変形を生じさせることもできる。送り速度としては、材料の種類、形状、状態などによって異なり、適宜設定される。
【0033】
ロール成形機に使用されるロールとしては、加温可能な金属製のロールが用いられる。上記したように、植物系バイオマス材料を軟化させる温度としては、その材料の温度が80℃以上150℃以下であることが望ましく、このような材料温度になるようにロールが加温されることが考慮される。具体的には、ロールの温度は150℃〜300℃の範囲で適宜設定される。ロールと材料の接する時間は短時間であり、ロール温度が300℃でも材料温度は150℃以下であり、熱による分解、変色はほとんど生じない。
【0034】
ロール成形機の圧力、植物系バイオマス材料の投入速度は、投入する材料の量、形状により適宜設定される。圧締する圧力としては、0.2〜1ton/cmの範囲が好ましい。0.2ton/cm以下では、材料の圧縮せん断変形が生じにくく、1ton/cm以上となると材料が圧縮されるため成形時に流動しにくくなる。また、複数のロールに植物系バイオマス材料を通すことも可能である。
【0035】
植物系バイオマス材料が繊維質の材料である場合、ロールに投入する材料の繊維方向がロールの送り方向に対して45度以上の角度で投入することにより、繊維間のせん断変形をより大きく生じさせることが可能となる。好ましくは、できるだけ90度に近い角度、つまりロールに投入する材料の繊維方向がロールの送り方向に直交するように材料をロールに投入することがよい。バイオマスの組織構造として、繊維状の組織がリグニンなどの接着作用を有する成分で接合されており、繊維束の繊維方向に直交する方向にせん断力を作用させることにより、大きなせん断変形を生じさせることが可能となる。
【0036】
ロール成形機で圧縮した植物系バイオマス材料は、材料の形状、サイズを均一にするために、切断、粉砕などをおこなってもよい。また、材料の取り扱いを容易にするために、低圧でプレス圧締してもよい。
【0037】
せん断力の作用を受けた植物系バイオマス材料は、繊維の状態が保持されたまま、ずり変形し、流動性が付与されている。材料の構造としては、せん断力の作用を受ける前の状態(図5(A))が、組織が部分的に、圧縮せん断変形され、ミクロに見ると、図5(B)のように細胞のゆがみ、亀裂が生じた状態となっている(図5はナラの顕微鏡写真)。組織内の空隙率を見ると、空隙率は10〜50%の範囲内となっており、比重に換算すると、木質材料の真比重が1.5程度であるとされていることから、0.8〜1.3程度の材料となる。このような材料が加熱流動成形用材料として金型に供給され、各種成形法によって加熱加圧され、木質材料の外観の低下が抑えられた、曲げ強度が良好な3次元形状を有する成形物となる。この加熱流動成形用材料は流動性が付与されているので、汎用的なプレス設備で比較的低い温度、圧力で成形することができる、金型シリンダーの内容積を大きくする必要がないなど低コスト化が図れる。また、加熱流動成形用材料を得るための植物系バイオマス材料の熱による軟化、圧縮処理も汎用の設備を利用して低コストで行うことができるので、全工程を通じて、植物系バイオマス材料の成形物(植物系バイオマス成形体)を安価に製造することができる。
【0038】
植物系バイオマス成形体や加熱流動成形用材料に機能性を付与するために、また植物系バイオマス成形体を効率よく製造するために下記の各種添加剤やフィラーを加熱流動成形用材料に添加することができる。
【0039】
例えば、成形物の強度や耐水性を向上させる場合、PP、PET、ポリ乳酸、ポリ酢酸ビニルなどの熱可塑性樹脂からなる粉体、ペレット、繊維などを加熱流動成形用材料に添加することができる。さらに必要に応じて、相溶化剤を添加してもよい。また、フェノール樹脂やDAP樹脂、エポキシ樹脂などの半硬化状態の熱硬化性樹脂を含んだ粉体、繊維を添加してもよい。これらを添加することにより、加熱流動成形用材料の流動性の向上とともに、成形物の強度や耐水性の向上を図ることができる。
【0040】
成形物の軽量化を図る場合は、パーライト、シラスバルーン、ガラスバルーンなどの軽量骨材を添加することができる。この場合、軽量骨材は耐圧性を有する無機材料が好ましい。また、相溶性を向上させるために表面処理が施されたものであってもよい。
【0041】
成形物に耐衝撃性を付与する場合は、PP、ビニロン、ポリエステルなどの有機繊維、ガラス繊維などの繊維フィラーや、弾性を付与するためにゴム弾性を有する耐熱性のあるシリコーンゴム、EPDMゴムなどの微粒子などを添加することができる。
【0042】
加熱流動成形用材料の流動性をより向上させる場合は、上述したものと同じ軟化促進剤、カルシウムステアレートや亜鉛ステアレートなどの潤滑剤を添加することができる。
【0043】
添加剤の種類によっては、成形温度、圧力の低下を促進することが可能となる。
【0044】
また、色、比重、外観の異なる複数種類の材料を混合して添加しても良い。これによって、木質感を有しながら優れた意匠性を有する成形物を得ることができる。染料、顔料などを少量添加し、部分的に着色させることにより、成形物に流れ模様などを付加することも可能である。さらに、成形物の表面に、耐久性や意匠性向上のため、コーティングあるいは部分的に化粧シートなどを貼ることもできる。
【0045】
添加剤やフィラーの添加量は、材料の種類や機能性により適宜設定され、特に限定されないが、例えば、植物系バイオマス材料100質量部に対し、20質量部以下とすることが考慮される。
【0046】
植物系バイオマス材料の成形方法としては、押出し成形機、射出成形機、プレス成形機、トランスファー成形などが挙げられる。
【0047】
成形条件としては、成形方法にもよるが、材料が再流動し緻密化するための温度、圧力が適宜設定される。植物系バイオマス材料に含まれるリグニンなどの軟化温度は80℃程度(含水時)であることから、成形時の材料温度が80℃以上であることが望ましい。成形温度の上限値としては、植物系バイオマス材料に含まれるヘミセルロースやセルロースなどの分解温度、材料の変色、強度などの物性の低下などを考慮して、成形時の材料温度が200℃であることが必要であり、好ましくは140℃〜180℃の材料温度で成形される。成形圧力は、150MPaより低い圧力で成形することが可能となり、20〜100MPaの圧力で成形することが好ましい。
【0048】
温度、圧力及び成形時間は、材料の種類、添加剤の種類、形態などによって適宜設定される。所定の条件で圧締後、必要によっては冷却させた後に成形物を取り出すことができる。
【0049】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
なお、曲げ強度は(サイズ幅30mm×長さ100mm、3点曲げ試験、荷重速度10mm/分、スパン75mm)の方法で測定し、常温吸水試験24h後の体積膨潤率は、(サイズ100×100mm角、常温水中に浸漬、全没)の方法で測定した。
【実施例】
【0050】
<実施例1>
スギ材の間伐材小径木からチッパーにより粗粉砕された木片チップをさらにリングフレーカー(スリットクリアランス3mm)により粉砕してスギの木片チップ(含水率約10%)を得た。図3に示した、3連のプレスロール3とφ6mmのダイ穴5を有するリングダイ4を設置したペレットミルへ木片チップを投入し、所定の条件にて約φ6mmのペレット状に近い形状の加熱流動成形用材料2を得た。
【0051】
得られた加熱流動成形用材料2の含水率を約7%に調整し、図6に示した、ボウル形状(深底形状)のキャビティを有するプレス金型7に設置した。金型温度150℃、圧力100MPaの条件で加熱流動成形用材料2を一定時間圧締した後、金型を常温まで冷却し、脱型して、図7に示すようなボウル形状(深底形状)の成形物8を得た。
【0052】
得られた成形物は、木質材料の外観が保持され、表面に光沢を有するなど意匠性に優れたものであった。この成形物から小片を切り出し、物性を測定した結果、曲げ強度は約36MPa、常温吸水試験24h後の体積膨潤率は9%であった。
<実施例2>
スギ材の樹皮(厚さ約3mm、含水率約10%)を一定幅にカットした。これを、図4に示した、幅送りスピードを変えた(送り速度比5倍)の一対のロール6,6をもつロールプレス機(温度250℃、圧力1ton/cm設定)へ繊維方向をロールの送り方向とできるだけ直交するように供給し、加熱流動成形用材料を得た。
【0053】
加熱流動成形用材料に潤滑剤を少量添加し、複雑形状を有するダイ(温度200℃に設定)を設置した高トルク2軸押出し混練機へ供給し、図8に示すような、中空形状を有し両端にサネ部を有するボード状の成形物9を得た。
【0054】
得られた成形物は、木質材料の外観が保持され、表面に光沢を有するなど意匠性に優れたものであった。この成形物から小片を切り出し、物性を測定した結果、曲げ強度は約40MPa、常温吸水試験24h後の体積膨潤率は8%であった。
<実施例3>
ケナフ材の芯材をリングフレーカー(スリットクリアランス3mm)により粉砕してケナフ芯材チップ(含水率約10%)を得た。そのチップに軟化を促進させるためにポリエチレングリコール(#600)水溶液10%wt%をスプレーで噴霧した後、乾燥させた。図3に示した、3連のプレスロール3とφ6mmのダイ穴5を有するリングダイ4を設置したペレットミルへケナフ芯材チップを投入し、所定の条件にて約φ6mmのペレット状に近い形状の加熱流動成形用材料2を得た。
【0055】
得られた加熱流動成形用材料2の含水率を約7%に調整し、図6に示した、ボウル形状(深底形状)のキャビティを有するプレス金型7に設置した。金型温度150℃、圧力100MPaの条件で加熱流動成形用材料2を一定時間圧締した後、金型を常温まで冷却し、脱型して、図7に示すようなボウル形状(深底形状)の成形物8を得た。
【0056】
得られた成形物は、木質材料の外観が保持され、表面に光沢を有するなど意匠性に優れたものであった。この成形物から小片を切り出し、物性を測定した結果、曲げ強度は約48MPa、常温吸水試験24h後の体積膨潤率は12%であった。。
<実施例4>
スギ材の間伐材小径木からチッパーにより粗粉砕された木片チップをさらにリングフレーカー(スリットクリアランス3mm)により粉砕してスギの木片チップ(含水率約10%)を得た。図3に示した、3連のプレスロール4とφ6mmのダイ穴5を有するリングダイ4を設置したペレットミルへ木片チップを投入し、所定の条件にて約φ6mmのペレット状に近い形状の加熱流動成形用材料2を得た。同様の処理を、ポプラ材を用いて行い、ポプラ材の加熱流動成形用材料2を得た。
【0057】
それら2種類の材料を1:1で混合し、含水率を約7%に調整し、図6に示した、ボウル形状(深底形状)のキャビティを有するプレス金型7に設置した。金型温度150℃、圧力100MPaの条件で材料を一定時間圧締した後、金型を常温まで冷却し、脱型して、図7に示すようなボウル形状(深底形状)の成形物8を得た。
【0058】
得られた成形物は、木質材料の外観が保持され、表面に光沢を有し、2種類の材料が混ざり合い流れ模様が入るなど意匠性に優れたものであった。この成形物から小片を切り出し、物性を測定した結果、曲げ強度は約34MPa、常温吸水試験24h後の体積膨潤率は10%であった。
<実施例5>
ヒノキ材の間伐材小径木からチッパーにより粗粉砕された木片チップをさらにリングフレーカー(スリットクリアランス3mm)により粉砕してヒノキの木片チップ(含水率約10%)を得た。図3に示した、3連のプレスロール3とφ6mmのダイ穴5を有するリングダイ4を設置したペレットミルへ木片チップを投入し、所定の条件にて約φ6mmのペレット状に近い形状の流動成形用材料2を得た。
【0059】
得られた加熱流動成形用材料2の含水率を約7%に調整した。流動性をより向上させるとともに耐水性を付与するため、含水率約7%に調整した材料に対し、ペレット状のポリ乳酸を20wt%添加し、図6に示した、ボウル形状(深底形状)のキャビティを有するプレス金型7に設置した。金型温度150℃、圧力70MPaの条件で材料を一定時間圧締した後、金型を常温まで冷却し、脱型して、図7に示すようなボウル形状(深底形状)の成形物8を得た。
【0060】
得られた成形物は、木質材料の外観が保持され、表面に光沢を有するなど意匠性に優れたものであった。この成形物から小片を切り出し、物性を測定した結果、曲げ強度は約42MPa、常温吸水試験24h後の体積膨潤率は2%であった。
<比較例1>
スギ材の間伐材小径木からチッパーにより粗粉砕された木片チップをさらにリングフレーカー(スリットクリアランス3mm)により粉砕してスギの木片チップ(含水率約10%)を得た。この木片チップの含水率の調整を行い(含水率約7%)、図6に示した、ボウル形状(深底形状)のキャビティを有するプレス金型7に設置した。金型温度150℃、圧力100MPaの条件で木片チップを一定時間圧締したが、木片チップが十分流動せずに狙いの成形物を得ることができなかった。
<比較例2>
スギ材の間伐材小径木からチッパーにより粗粉砕された木片チップをさらにリングフレーカー(スリットクリアランス3mm)により粉砕してスギの木片チップ(含水率約10%)を得た。この木片チップの含水率の調整を行い(含水率約7%)、図6に示した、ボウル形状(深底形状)のキャビティを有するプレス金型7に設置した。金型温度160℃、圧力200MPaの条件で木片チップを一定時間圧締した後、金型を常温まで冷却し、脱型して、図7に示すようなボウル形状(深底形状)の成形物8を得た。
【0061】
得られた成形物は、木質材料の外観が保持され、表面に光沢を有するなど意匠性に優れたものであった。この成形物から小片を切り出し、物性を測定した結果、曲げ強度は約25MPa、常温吸水試験24h後の体積膨潤率は15%であった。曲げ強度は25MPaであり、組織の接合部からクラックが入るなど強度性能が低かった。また、吸水試験後の表面外観は部分的に膨れが生じ凹凸が確認された。
【0062】
このように、本発明の範囲である実施例1〜5では、金型内で加熱流動成形用材料が十分に流動し、十分な強度と耐水性を備えた成形品を得ることができた。特に、実施例5は体積膨潤率が2%と低く、耐水性に優れていた。
【符号の説明】
【0063】
1 植物系バイオマス材料
1a 細胞
2 加熱流動成形用材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱で軟化させた植物系バイオマス材料を圧縮せん断力の作用により、ずり変形させて、一旦加熱流動成形用材料を得たのち、この加熱流動成形用材料を金型に供給し加熱加圧して3次元形状を有する成形体を得ることを特徴とする植物系バイオマス成形体の製造方法。
【請求項2】
軟化促進剤として、水、又は水酸基を有する有機化合物を、軟化前の植物系バイオマス材料に加えることを特徴とする請求項1に記載の植物系バイオマス成形体の製造方法。
【請求項3】
前記植物系バイオマス材料が、木材、竹、麻類、草本類、農産物、及びそれらの廃材からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の植物系バイオマス成形体の製造方法。
【請求項4】
圧縮成形機、ペレットミル、又はロール成形機で前記植物系バイオマス材料を圧縮することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の植物系バイオマス成形体の製造方法。
【請求項5】
前記加熱流動成形用材料に、添加剤及びフィラーのうち少なくとも一方を加えて加熱加圧することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の植物系バイオマス成形体の製造方法。
【請求項6】
前記加熱流動成形用材料を、押出し成形機、射出成形機、プレス成形機、又はトランスファー成形機で加熱加圧することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の植物系バイオマス成形体の製造方法。
【請求項7】
熱で軟化させた植物系バイオマス材料に圧縮せん断力が加えられ、前記植物系バイオマス材料を構成する組織の空隙が大きく変形し圧縮され、細胞間の位置が相対的に変化していることを特徴とする加熱流動成形用材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−11749(P2012−11749A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153057(P2010−153057)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】