説明

検出素子及び画像形成装置

【課題】 赤外領域を含む、広い周波数領域一般で受光感度が高い検出素子が求められていた。
【解決手段】 そこで、本発明では、負誘電率媒体における表面プラズモン共鳴によって電界強度が増強されることを利用して、電界強度が大きな位置に電磁波検出部を配する検出素子を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は赤外領域を含み、長波長側をミリ波領域からテラヘルツ帯(30GHz〜30THz)、短波長側を可視光領域とした広い周波数領域一般の検出素子及び検出素子を用いた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外領域における検出素子として、波長依存性のない熱型検出素子や波長依存性のある量子型検出素子がこれまで広く知られている。これらの多くは、赤外検出の特徴を利用している。たとえば自動ドアにおける人体検出器、火災警報装置やエアコンにおける温度検出器、気体の赤外吸収スペクトルを利用した気体検出器、サブミリ波・遠赤外領域における宇宙観測など、幅広い分野、様々な用途で応用されている。ここで熱型検出素子はたとえば、焦電素子(LiTaO3、TGSなど)、ゴーレイセル、ボロメータである。また、量子型検出素子はたとえば真性半導体素子(InGaAsPINフォトダイオード、MCT光伝導素子など)や不純物半導体素子である。また、ショットキーバリアダイオードはいずれの動作も可能である。
【0003】
これらを比較すれば、熱型検出素子は手軽に利用できることができるのが特徴で、たとえば、典型的な量子型検出素子が冷却を必要とするのに対して典型的な熱型検出素子は冷却が不要である。一方、熱型検出素子は受光感度が小さく、NEP(Noise Equivalent Power)が大きいため、一般に検出能力は小さいことも知られている。検出能力は、比検出能力D*で表される。一般に、D*(ディースター)は大きいほどよい検出素子とされ、また、異なる素子を比較しやすいようにNEPを単位面積の平方根で規格化して、逆数をとった量である。比検出能力で比較すると、たとえば、中赤外領域における典型的な量子型検出素子の比検出能力D*は1010[cm.Hz1/2/w]から1011[cm.Hz1/2/w]であって、典型的な熱型検出素子のD*は10[cm.Hz1/2/w]から10[cm.Hz1/2/w]である。したがって、D*でみると、熱型検出素子は量子型検出素子より二桁程度、性能が劣るといえる。
【0004】
以上のように、熱型検出素子は手軽に用いることができる一方で検出能力小さいとともに検出可能な周波数領域が非常に広い。そこで、ある特定の波長領域の検出能力を向上させるには検出可能な周波数領域の一部を通過できるような波長選択フィルタを用いて、素子全体として雑音を低減する方法が常套手段として用いられている。たとえば、特許文献1は焦電素子が検出する赤外光を回折光学レンズによって絞る方法を開示している。このとき、回折光学レンズは赤外光の波長選択フィルタとして機能する。また、回折光学レンズを利用することによってフィルタ通過後の赤外光の光強度が通過前に比べて低下しにくいために、素子全体としての受光感度が低下しにくい構造にもなっている。
【0005】
また、一方では光検出技術の発展により、表面プラズモンにともなう光電界検出ができるようになっている。非特許文献1は、ある特定の波長の光電界を選択的に増強するための中心に波長以下の穴を配し、波長程度の間隔をもって数本の溝を配した金属回折リングにフォトダイオードを集積した構造を開示している。このとき、検出したい光は表面プラズモンとして金属回折リングの中心に集められ、フォトダイオードの位置する中心の穴の光電界を増強する効果がある。したがって、このような増強効果を利用すれば素子全体としての受光感度を高められる可能性がある。
【特許文献1】特開平8−145787
【非特許文献1】Tsutomu Ishii et al;Jpn.Jour.Appl.Phys.,Vol.44(2005),L364
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、波長選択フィルタを用いた焦電素子の従来例において、受光感度を高めることは難しい。一般のフィルタ通過前の光強度はフィルタ通過前の光強度より小さいためである。また、金属回折リングの中心にフォトダイオードを集積した従来例においては、受光感度を高める効果は有していても、フォトダイオードの素子面積の大きさは波長以下の大きさに制約されてしまうため、検出面積に限界がある。
【0007】
そこで、本発明では上記課題を解決し、赤外領域を含む、広い周波数領域一般の、受光感度を高める効果を有し、非特許文献1の検出部よりも検出面積が大きい検出素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、以下のように構成した検出素子を提供する。
【0009】
すなわち、本発明では
電磁波を検出するための検出素子であって、
前記電磁波の検出する波長領域を選択するためのフィルタ部と電磁波検出部とを備え、
前記フィルタ部は誘電率実部が負の第1の媒体と前記第1の媒体と異なる第2の媒体とを備え、
前記第1の媒体と前記第2の媒体との間の距離が検出する電磁波の波長以下で、且つ
前記第1の媒体と前記電磁波検出部との間の距離が前記検出する電磁波の波長以下である検出素子を提供するものである。
【0010】
または、本発明では
電磁波を検出するための検出素子であって、
前記電磁波の検出する波長領域を選択するためのフィルタ部と電磁波検出部とを備え、
前記フィルタ部は、検出する電磁波の波長以下の周期を有したグレーティング形状を有し、且つ誘電率実部が負の負誘電率媒体とを備え、
前グレーティング形状の凹部に前記電磁波検出部が露出している検出素子を提供するものである。
【0011】
ここで、電磁波検出部はたとえば熱型検出素子や量子型検出素子である。このようにして構成した本発明における検出素子は、第1の媒体(負誘電率媒体)における表面プラズモン共鳴を波長選択フィルタとして利用する。そして、表面プラズモン共鳴によって選択された波長の電界強度が増強されることを利用して、電界強度が大きな位置に熱型検出素子あるいは量子型検出素子を配する構成により、従来の検出素子よりも受光感度の高い検出素子を提供することができる。
【0012】
なお、本明細書において“受光”や“光検出”などという文言で使用した“光”は、電磁波のことを指し、赤外光や可視光といった電磁波領域のみを限定するものではない。
【発明の効果】
【0013】
本発明の構成をとることによって、赤外領域を含む広い周波数領域のなかで選択された波長領域に対して、受光感度が高い検出素子を提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(構成)
以下に、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して説明する。ここで説明する検出素子は、熱型検出素子を含み、媒体と負誘電体媒体によって構成されるものである。
【0015】
図1は、本発明を実施するための最良の形態を示す断面図をあらわすものである。図において101は負誘電率媒体であって、使用する電磁波領域において、負の誘電率実部を有した第1の媒体である。ミリ波帯からテラヘルツ帯の周波数領域であればたとえばキャリアドープした半導体(InAs,GaAs,Siなど)が好ましく、近赤外域から可視光領域の周波数領域であればたとえば金属(Ag,Au,Alなど)が好ましい。また、透明性導電膜(ITOなど)を選択してもよく、典型的な透明導電膜は近赤外域まで負の誘電率実部を有する。図1において103は、熱型検出素子である。熱型検出素子のほとんどは、誘電率実部が正で静電正接が比較的小さいいわゆる誘電体であり、本発明を実施するための最良の形態として好ましい。102は少なくともその一部が熱型検出素子103の誘電率あるいは熱型検出素子近傍の実効誘電率より大きな誘電率を有した第2の媒体であって、よく知られた誘電体を用いればよい。たとえば、ミリ波帯からテラヘルツ帯の周波数領域(30GHzから30THz)ことであればたとえばhigh−k材料として知られているファインセラミックを利用してよい。近赤外域から可視光領域の周波数領域であれば、Si(アンドープ)やTiO2を利用してもよい。特に、本発明の検出素子は、電磁波が30GHzから30THzの周波数領域の一部を含むものを検出する素子として好ましく用いられる。また、図1において第2の媒体102はかまぼこ状の形状をしているが、本質的にはどのような形状でもよい。第1の媒体(負誘電率媒体)101、第2の媒体102、熱型検出素子103の位置関係は、これまでによく知られた表面プラズモン共鳴センサにおけるクレッチマン配置と同様な位置関係である。つまり、検出したい電磁波104の入射方向側から102、101、103の順である。102,101、103は図1のようにそれぞれ接するように配置するか、検出する電磁波の波長以下の距離内となるように配しておく。単純に、図1のように層状に重ねて配したときは
Re(ε) < −ε
の関係式を満たさなくてはならず、第1の媒体(負誘電率媒体)101の裏側(熱型検出素子103の側)へ表面プラズモンが保持されるために必要である。また、表面プラズモンを励起するために
ε > ε
の関係式も満たさなくてはならない。ここで、Re(ε)は負誘電率媒質101の層の誘電率実部、εは第2の媒体102の誘電率、εは熱型検出素子103の誘電率を表す。
【0016】
なお、図1において、第1の媒体(負誘電率媒体)101は膜状の形状をしているが、第1の媒体(負誘電率媒体)101の一部そのようになっていればよい。また、光検出によって熱型検出素子で得られる光検出電気信号の取り出し方法は熱型検出素子103の具体例によって異なるため図示していないが、以下の実施例において説明する。
【0017】
(原理)
以上の構成において、本発明が受光感度を高くできる理由は次のとおりである。すなわち、ある波長の電磁波104が第2の媒体102を介して、第1の媒体(負誘電率媒質)101に入射されたとき、表面プラズモン共鳴が起こるための条件を満たすと、第1の媒体(負誘電率媒体)101保持される表面プラズモンを励起することができる。表面プラズモン共鳴が起こる条件は、電磁波の波長や入射角度、負誘電率媒質の誘電率や形状などの構成によって決まる。これは入射電磁波にp偏光成分が含まれているときで、共鳴のために設計された構成では負誘電率媒質101の裏側、つまり、熱型検出素子103の側へ表面プラズモンが励起される。ここで、レーザ光など偏光面をもつ電磁波の場合にはp偏光成分が多くなるような調整を行うことが望ましい。無偏光、複数の偏光面、楕円/円偏光の場合には調整を不用とすることもできる。表面プラズモンは第1の媒体(負誘電率媒体)101の表面に垂直な電界ベクトルを有した電磁界をともない、その電界強度は、典型的には、入射電磁波における電界強度の数十から数百倍程度である。これは電界増強効果と呼ばれ、広く知られている。いま、図1のように熱型検出素子103を配しておくと、第1の媒体(負誘電率媒体)101に保持された表面プラズモンにともなう電磁界は熱型検出素子103に染み出すようになる。このときの電界強度は熱型検出素子103によって検出されることになり、ゆえに、大きな光検出信号が得られるので素子全体としての受光感度が高くなる。言いなおすと、ある波長の電磁波が第2の媒体102を介して、一の強度をもって第1の媒体(負誘電率媒質)101に入射し、表面プラズモン共鳴がおきると、熱型検出素子103において数十から数百倍程度の電界強度となる。簡単のため、熱型検出素子103の受光感度を(電界強度に依らずに)一定として、たとえば電界増強効果を100倍と仮定すると、このとき熱型検出素子103から得られる光検出電気信号は受光感度×100と計算される。これは、素子全体としての受光感度が100倍となっていることを意味する。したがって、第1の媒体(負誘電率媒体)101と第2の媒体102とはフィルタとして波長を選択する働きを有する。さらに、このとき、あたかもフィルタ通過後の電界強度を数十から数百倍に増幅しているような働きを有しているといってもよい。ただし、フィルタ通過後の電磁界は伝播するような電磁波ではない。このようにして、素子全体としての受光感度が高くなる効果を有すれば、NEPは受光感度に反比例するため、素子全体としてのNEPも優れ、したがって、D*も優れる。
【0018】
図2は以上に示した電界増強効果の典型的な例を表している。グラフは電界強度201と構成との位置関係を示しており、入射電磁波の電界強度を1と規格化して表している。図2によれば、第1の媒体(負誘電率媒体)101の裏側(熱型検出素子103の側)の位置で電界強度は大きくなっている。その大きさは、指数関数的に減衰するが、入射電磁波の波長と同程度までは十分な大きさで残っている。したがって、熱型検出素子103は第1の媒体(負誘電率媒体)101の近傍に配しておけばよいことがわかる。電界強度の大きさは、第1の媒体(負誘電率媒体)101の誘電率実部や形状、その他の構成に依存している。たとえば、He−Neレーザを光源として仮定し(波長633[nm])、第1の媒体(負誘電率媒体)101としてAg薄膜(50[nm])、第2の媒質102としてBK7ガラスを利用した状況のもとで計算した。それによると、電界強度大きさはピーク値で約350と計算される。
【0019】
さらに、以上の電界増強効果は第1の媒体(負誘電率媒体)101の裏側(熱型検出素子103の側)の至るところで発生しているため、構成全体の面積を広くしても同効果が低減されることがない。したがって、本発明では受光面積を比較的大きくとることができるので、より微弱な光検出を、より大きな光検出電気信号出力をもって行うこと可能である。
【0020】
(その他の構成)
以上に示された本発明を実施するための最良の形態に加えて、電界増強効果を有するような次のような構成もとることができる。すなわち、第1の媒体(負誘電率媒体)、第2の媒体、熱型検出素子の位置関係は、可視光領域でよく知られた表面プラズモン共鳴センサにおけるオットー配置と同様な位置関係であってもよい。このとき、検出したい電磁波の入射方向側から第2の媒体、第1の媒体(負誘電率媒体)、熱型検出素子の順である。また、媒体を使用せず、第1の媒体(負誘電率媒体)に検出したい電磁波の波長と同じかそれ以下の(負誘電率媒体によるが、通常波長より短い)ピッチでグレーティング加工を施し、さらに熱型検出素子を配してもよい。これらはいずれも、表面プラズモン共鳴に起因する電界増強効果を有するため素子全体としての受光感度や検出能力を高め、また受光面積も同様に比較的大きくとることができる。
【0021】
さらに、周波数領域を限定すれば、以上に示された熱型検出素子を量子型検出素子に代替することもできる。つまり、量子型検出素子の多くは半導体素子であって、キャリアがドープされた典型的な半導体は少なくとも中赤外域より長波長側(ミリ波帯からテラヘルツ帯を含む)では金属として振舞うからである。これは、定性的には、プラズマ周波数から低周波側が金属、高周波側が誘電体として説明されることによる。本発明では誘電体として説明される周波数領域で効果を有するため、中赤外域から可視光領域の周波数領域においてのみ、以上に示された熱型検出素子を量子型検出素子に代替することができる。
【0022】
(付加的な構成)
さらに、以上に示された本発明を実施するための最良の形態において、検出したい電磁波は空気中を伝播して入射される状況が多く考えられるため、空気と媒体との間のフレネル反射ロスを低減するための構成もとることができる。このためには、媒体に自由空間とのインピーダンス変換構造を備える構成とすればよく、たとえば、媒体にSWS(サブ波長格子)を施した構成、ARコーティングを備えた構成としてもよい。
【実施例1】
【0023】
図3は、本発明に係る、検出素子及びフィルタの構成の実施例を示した断面図である。図3において301はn−InAsであって、ミリ波帯を含みテラヘルツ帯までの周波数領域において負の誘電率実部を持つ。302は同周波数領域のhigh−k材料として知られたチタニア系セラミックスである。303はDLaTGS結晶であって、同周波数領域の焦電素子として知られる。また、311、312は電極であって、検出にともなうDLaTGS結晶の自発分極を電圧として取り出すためのものである。ゆえに、313は電圧検出器を示している。また313は、インピーダンス整合回路(たとえばソースフォロア回路)を含んでいてもよい。
【0024】
構成は図3のようなクレッチマン配置として、検出したいミリ波帯からテラヘルツ帯の電磁波304の入射方向側から302、301、303の順とすることはすでに述べたとおりである。これらはそれぞれ接するか、使用する電磁波の波長以下の距離内となるように配しておけばよく、本実施例では図3のように接している。n−InAs301の厚さには最適値があって、最適なとき、最も電界増強効果が高い。このとき、素子全体としての受光感度が高く、したがって、電圧検出器313で大きな応答が得られることになる。いま、検出したい光の波長を周波数換算で0.5[THz]から1.0[THz]の間であることを想定する。DLaTGS結晶303の(比)誘電率を19、チタニア系セラミックス302の誘電率を110、n−InAs301をドゥルーデの複素誘電率モデルとしてフレネルの反射式に基づいて計算をすすめる。ドゥルーデの複素誘電率モデルでは、自由電子数1.0e16[cm−3]、有効質量meff=0.03、緩和時間の逆数γ/2π=0.30[THz]、背景誘電率ε=14.5である。それによると、n−InAs301の厚さは5[μm]程度が最適値である。このときの、もともとDLaTGS結晶303のD*がおよそ10[cm.Hz1/2/w]であることと、数十倍程度の電界増強効果とを考慮すれば、素子全体として最大1010[cm.Hz1/2/w]程度の検出能力が期待できる。さらに、共鳴時において301、302は波長選択フィルタの効果もあり(バンドパス帯域はおおよそγと考えてよい)、素子全体としての検出能力はさらに優れたものになる。
【0025】
なお、DLaTGS結晶303は、受光感度が周囲の温度に依存して安定しない性質を持つため、構成に加えて外部温調器などを設けておいてもよい。また、320はSWSをあらわし、本実施例のようなミリ波帯からテラヘルツ帯の周波数領域では、波長が比較的大きく加工が容易である。
【0026】
以上の構成の作製方法は下記の通りである。すなわち、n−InAs基板とDLaTGS結晶を直接固相接合で張り合わせて、研磨などにより5[μm]厚のn−InAs薄膜を残すようにすれば所望の形態となる。固相接合の方法としては、加圧しながら温度を上昇させる方法や電界を印加する方法などがある。または、二つの部材の表面同士を接触させて、周囲に接着剤を塗布して固めてもよい。研磨によりn−InAsを薄膜化したあとに、電極312をその表面の一部に図1のように形成する。その後、媒体302を載せてやはり周囲を接着剤で固めるなどして固定する。SWS320については、媒体302を焼結で作製する際に、もとの型に刻んでおけばよい。あるいは、図1のように成形した後、切削などの機械加工、レーザ加工などで形成してもよい。
【0027】
ここで、半導体としてはInAsに限るものではなく、Si,SiGe,InGaAs,GaAs,GaN,GaSb,CdTe系などIV族およびその化合物、III−V族化合物半導体、II−VI族半導体などを用いることができる。今回は基板の研磨により薄膜化したが、基板上にMBE法などでバッファ層および動作層のエピタキシャル成長を行い、動作層のみを焦電素子を構成する結晶に移設するELO(エピタキシャルリフトオフ)技術を用いてもよい。または、焦電素子を構成する結晶上に低温で直接的に上記半導体のアモルファス膜を形成したもの、さらにはこれをレーザアニール等で結晶化したものを用いてもよい。
【0028】
DLaTGS結晶と半導体の張り合わせ方法として金属間接合を用いて図9のような構造となってもよい。すなわち、まずn−InAs基板上にTi/Auなどによる金属膜を蒸着して、受光領域となる1[mm]Φだけリフトオフ法などで金属膜のない窓領域を形成して周囲に金属膜904,905が残るようにする。DLaTGS結晶上に同じく窓領域をもつTi/Au金属膜911、912を形成し、n−InAs基板と窓領域が勘合するように張り合わせて加圧し、ボンディングを行う。その後、研磨などにより5[μm]厚のn−InAs膜901を残すようにすれば所望の形態となる。この場合、911および912を電極として用いてDLaTGS結晶の表面に発生している分極を横方向から電圧913として取り出す構成としてもよい。
【0029】
上記の説明では単一の素子について述べてきたが、これらを二次元アレイ化して一括して画像取得を可能としても良い。たとえば、図7は4×4アレイとしたものである。焦電体結晶基板702にはすでに説明したような図示しない半導体膜および媒体701が独立に配置されている。それぞれ画素に相当する電極は704のように独立に引き出されて、各画素の信号を個別に検出することができる。一方裏面には共通電極703が形成されている。この構成によりたとえばテラヘルツ帯において高速に画像を取得することができる。この例では16画素を集積化しているが、画素数を増加させて高解像度の二次元イメージを取れる構成も提供できる。
【実施例2】
【0030】
図4は、本発明に係る、検出素子及びフィルタの構成の実施例を示した断面図である。図4において401はITO(In2O3)であって、中赤外域を含み近赤外域までの周波数領域において負の誘電率実部を持つ。402は波長1[μm]以上の周波数領域で比較的透明な高屈折率材料としてのSi(アンドープ)である。403はLiTaO3結晶であって、同周波数領域の焦電素子として知られる。また、411、412は電極であって、検出にともなうLiTaO3結晶の自発分極を電圧で取り出すためのものである。ゆえに、413は電圧検出器を示している。また413は、インピーダンス整合回路(たとえばソースフォロア回路)を含んでいてもよい。
【0031】
構成は図4のようなクレッチマン配置として、検出したい中赤外域から近赤外域の電磁波404の入射方向側から402、401、403の順とすることはすでに述べたとおりである。これらはそれぞれ接するか、使用する電磁波の波長以下の距離内となるように配しておけばよく、本実施例では図3のように接している。ITO401の厚さには最適値があって、最適なとき、最も電界増強効果が高い。このとき、素子全体としての受光感度が高く、したがって、電圧検出器413で大きな応答が得られる。いま、検出したい光の波長が3[μm]付近であることを想定する。LiTaO3結晶403の(比)誘電率を4.5、Si402の誘電率を12、ITO401をドゥルーデの複素誘電率モデルとしてフレネルの反射式に基づいて計算をすすめる。ドゥルーデの複素誘電率モデルでは、自由電子数1.0e21[cm−3]、有効質量meff=0.3、緩和時間の逆数γ/2π=5.8[THz]、背景誘電率ε=3.1とする。それによると、ITOの厚さは200[nm]程度が最適値である。このときの、もともとLiTaO3結晶103のD*がおよそ10[cm.Hz1/2/w]であることと、百倍程度の電界増強効果とを考慮すれば、素子全体として最大1010[cm.Hz1/2/w]程度の検出能力が期待できる。さらに、共鳴時において401、402は波長選択フィルタの効果もあり(バンドパス帯域はおおよそγと考えてよい)、素子全体としての検出能力はさらに優れたものになる。
【0032】
なお、420はARコーティングであって本実施例では付加しているが、フレネル反射ロスが比較的小さい構成とできれば、付加しなくてもよい。
【0033】
以上の構成の作製方法は、たとえば、へき開したLiTaO3結晶上にITOをスパッタ法や蒸着で成膜してもよい。また、ARコーティングはCVD法などで酸化シリコン膜または窒化シリコン膜を形成する。
【実施例3】
【0034】
図5は、本発明に係る、検出素子及びフィルタの構成の実施例を示した断面図である。図5において501はAuであって、近赤外域を含み可視領域までの周波数領域において負の誘電率実部を持つ。402は波長1[μm]以上の周波数領域で比較的透明な高屈折率材料としてのSi(アンドープ)である。503はInGaAsPINフォトダイオードであって、InやGaなどの混晶の配合を変えることによって同周波数領域をサポートするPIN型フォトダイオードと知られる。たとえば、InP基板に格子整合するIn53Ga47Asは1.5[μm]帯にD*のピークを持ち、その値は1010[cm.Hz1/2/w]である。514、515はInGaAsPINフォトダイオードにおけるそれぞれp型、n型領域である。i型領域はp型領域514とn型領域515との間に存在するが図示していない。516は絶縁膜である。511,512はそれぞれ電極であって、検出にともなう光電流を取り出すためのものである。ゆえに、513は電流検出器を示している。また513は、逆バイアスを印加する回路やオペアンプによる増幅回路を含んでいてもよい。
【0035】
構成は図5のようなクレッチマン配置として、検出したい近赤外域から可視領域の電磁波504の入射方向側から502、501、503の順とすることはすでに述べたとおりである。これらはそれぞれ接するか、使用する電磁波の波長以下の距離内となるように配しておけばよく、本実施例では図5のように接している。Au501の厚さには実施例1と同様に最適値があって、最適なとき、最も電界増強効果が高い。いま、検出したい光の波長が1.5[μm]付近であることを想定する。InGaAs503の(比)誘電率を11、Si502の誘電率を12、Au501をドゥルーデの複素誘電率モデルでフレネルの反射式に基づいて計算する。ドゥルーデの複素誘電率モデルでは、プラズマ周波数2.2[PHz]、有効質量meff=1.0、緩和時間の逆数γ/2π=40[THz]、背景誘電率ε=1.0とする。これによると、Au501の厚さは60[nm]程度が最適値である。このときの、もともとInGaAsPINフォトダイオード503のD*がおよそ1010[cm.Hz1/2/w]であることと、百倍程度の電界増強効果とを考慮すれば、素子全体として最大1012[cm.Hz1/2/w]程度の検出能力が期待できる。
【0036】
PINフォトダイオードでは、一般に、受光領域の周囲あるいは中央に電極512を備える。さらに、その表面に酸化シリコン、窒化シリコンなどの絶縁膜516を形成して、さらにEB蒸着法などによって金薄膜501を形成し、媒体502をその上に配置することで、本実施例の検出素子を構成できる。
【実施例4】
【0037】
図6は、本発明に係る、検出素子及びフィルタの構成の実施例を示した断面図である。図6において601はグレーティング加工されたAuであって、Au自身は近赤外域を含み可視領域までの周波数領域において負の誘電率実部を持つことはこれまでに述べたとおりである。本実施例は実施例3の変形例であって、以下は実施例3と同様な構造である。すなわち603はInGaAsPINフォトダイオードであり、614、615はInGaAsPINフォトダイオードにおけるそれぞれp型、n型領域である。i型領域はp型領域614とn型領域615との間に存在するが図示していない。616は絶縁膜である。611,612はそれぞれ電極であって、検出にともなう光電流を取り出すためのものである。ゆえに、613は電流検出器を示している。また613は、逆バイアスを印加する回路やオペアンプによる信号増幅回路を含んでいてもよい。
【0038】
本実施例の構成は図6のようにAu601に検出したい電磁波の波長と同じかそれ以下の(負誘電率媒体によるが、通常波長より短い)周期dでグレーティング加工を施し、さらにInGaAsPINフォトダイオード603を配している。グレーティングの凹部の底面にフォトダイオードが露出している。これにより、グレーティングで電界の強度が増幅された電磁波を効率的に検出することができる。Auグレーティング601のピッチdには最適値があって、最適なとき、最も電界増強効果が高い。いま、検出したい光の波長が1.5[μm]付近であることを想定する。InGaAs603の(比)誘電率を11.6、Au601の複素屈折率をドゥルーデの複素誘電率モデルとして結合波理論に基づいて計算をすすめる。
【0039】
ドゥルーデの複素誘電率モデルでは、プラズマ周波数2.2[PHz]、有効質量meff=1.0、緩和時間の逆数γ/2π=40[THz]、背景誘電率ε=1.0とする。これによると、Auグレーティング601のピッチdは500[nm]程度が一次の最適値である。ただし、共鳴が生じる波長はほかにも存在するため、601の波長選択フィルタの効果はやや小さいといえる。この構成では媒体を必ずしも必要としないため、構成が比較的容易となる。
【0040】
この場合はp型領域614上に(pnを短絡させないように)Au601グレーティングを蒸着して形成する。
【実施例5】
【0041】
図8は、本発明に係る、検出素子及びフィルタの構成の実施例を示した断面図である。図8において821は遮蔽部材であって、822は保持部材である。遮蔽部材821は指向性を絞るためのものであって、822は素子全体としての指向性を調整するためのものである。824は窒素ガスなどの不活性ガス(Ne,Ar,Kr,Xeなど)であって、素子全体の損傷を防止するためのものである。または真空でもよい。本実施例は実施例1の変形例であって、以下は実施例1と同様な構造である。すなわち、801はn−InAs、802はチタニア系セラミックス、803はDLaTGS結晶である。また、811,812は電極である。813は電圧検出器であって、端子823を介して、電極811,812に接続される。
【0042】
遮蔽部材821は、たとえば銅やステンレスなど適当な金属を用いればよい。もちろん十分な遮蔽効果を与えるために、その厚みを使用する電磁波の表皮深さ以上とする。ミリ波帯以上のいずれの周波数領域においてたとえば、1[μm]もあれば十分である。この場合端子823を短絡しないように、端子823は被覆しておくことが望ましい。保持部材822は共鳴時に規定された入射角を、素子全体として垂直にするためのものである。実施例1と同様に、検出したい電磁波の波長を周波数換算して0.5[THz]から1.0[THz]の間であることと想定する。DLaTGS結晶803の(比)誘電率を19、チタニア系セラミックス802の誘電率を110、n−InAs801をドゥルーデの複素誘電率モデルとしてフレネルの反射式に基づいて計算をすすめる。ドゥルーデの複素誘電率モデルでは、自由電子数1.0e16[cm−3]、有効質量meff=0.03、緩和時間の逆数γ/2π=0.30[THz]、背景誘電率ε=14.5とする。これによると、入射角は約30[deg]に規定される。したがって、図8のように保持部材822を配して、調整角Θは30[deg]とする。ここで、保持部材822は適当な絶縁体でよいから、たとえば成型のしやすいような、樹脂や発砲ウレタンなどを用いればよい。また、端子823,不活性ガス824を含む素子全体の作製方法としては、よく知られたパッケージ実装技術を選択することができる。
【0043】
検出したい電磁波の中心波長をシフトさせることもでき、たとえば、このパッケージを回転可能な台に載せて制御して入射角を変化させてればよい。この入射角変化に対する強度分布を取得すれば、波長スペクトルを計測するシステムとして機能させることができる。たとえば、任意の電磁波発生源からの電磁波を検査したい物体に照射して、その透過光または反射光をこの検出素子で波長スペクトルを取得すれば分光器として機能させることができる。また、検査物体がなければ電磁波発生源のスペクトル特性そのものを評価することもできる。
【0044】
また、パッケージングする素子としては図7に示した二次元アレイ状のものを用いて、ミリ波から可視光領域において選択される高感度なイメージチップを提供することもできる。さらに、検出素子が検出する電界強度の違いに基づいて、電界強度分布の画像を形成する画像形成部を備えたことにより画像形成装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明を実施するための最良の形態について示した断面図。
【図2】本発明を実施するための最良の形態で得られる電界増強効果を示した図。
【図3】実施例1に係る検出素子の構成を示す断面図。
【図4】実施例2に係る検出素子の構成を示す断面図。
【図5】実施例3に係る検出素子の構成を示す断面図。
【図6】実施例4に係る検出素子の構成を示す断面図。
【図7】実施例1に係る検出素子の二次元アレイ形状を示した図。
【図8】実施例5に係る検出素子の構成を示す断面図。
【図9】実施例1に係る検出素子の構成を示す断面図。
【符号の説明】
【0046】
101 第1の媒体(負誘電率媒体)
102 第2の媒体
103 熱型検出素子
104 電磁波
201 電界強度
301,801,901 n−InAs(負誘電率媒体)
302,802,902 チタニア系セラミックス(媒体)
303,803,903 DLaTGS結晶(熱型検出素子)
304,804 ミリ波帯からテラヘルツ帯の電磁波
320 SWS
401 ITO(負誘電率媒体)
402 Si(媒体)
403 LiTaO3結晶(熱型検出素子)
404 中赤外域から近赤外域の光
420 ARコーティング
501 Au(負誘電率媒体)
502 Si(媒体)
503,603 InGaAsPINフォトダイオード(量子型検出素子)
504,604 近赤外域から可視光領域の光
601 Auグレーティング(負誘電率媒体)
701 媒体
702 焦電体結晶
703 共通電極
704 電極
311,312,411,412,511,512,611,612,811,812,911,912 電極
313,413,813,913 電圧検出器
513,613 電流検出器
514,614 p型領域
515,615 n型領域
516,616 絶縁膜
821 遮蔽部材
822 保持部材
823 端子
824 不活性ガス
904,905 金属膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波を検出するための検出素子であって、
前記電磁波の検出する波長領域を選択するためのフィルタ部と電磁波検出部とを備え、
前記フィルタ部は誘電率実部が負の第1の媒体と前記第1の媒体と異なる第2の媒体とを備え、
前記第1の媒体と前記第2の媒体との間の距離が検出する電磁波の波長以下で、且つ
前記第1の媒体と前記電磁波検出部との間の距離が前記検出する電磁波の波長以下であることを特徴とする検出素子。
【請求項2】
前記検出する電磁波が、30GHzから30THzの周波数領域の一部を含むことを特徴とする請求項1記載の検出素子。
【請求項3】
前記第2の媒体に、インピーダンス変換構造を備えることを特徴とする請求項1又は2記載の検出素子。
【請求項4】
前記第1の媒体が、金属、半導体、透明性導電膜のいずれかであることを特徴とする請求項1から3のいずれか記載の検出素子。
【請求項5】
前記電磁波検出部が、熱型検出素子であることを特徴とする請求項1から4のいずれか記載の検出素子。
【請求項6】
電磁波を検出するための検出素子であって、
前記電磁波の検出する波長領域を選択するためのフィルタ部と電磁波検出部とを備え、
前記フィルタ部は、検出する電磁波の波長以下の周期を有したグレーティング形状を有し、且つ誘電率実部が負の負誘電率媒体とを備え、
前記グレーティング形状の凹部に前記電磁波検出部が露出していることを特徴とする検出素子。
【請求項7】
複数の請求項1から6のいずれか記載の検出素子がアレイ状に配置され、
前記検出素子が検出する電界強度の違いに基づいて、電界強度分布の画像を形成する画像形成部とを備えることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−248382(P2007−248382A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−75052(P2006−75052)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】