説明

検査装置、プログラム及び画像の位置合わせ方法

【課題】画像化の際に誤差が空間的に分散しやすい要素と、誤差があってもそれが局所にとどまる要素とが被検査対象領域内に混在する場合にも、位置合わせ精度を高くできる技術を提供する。
【解決手段】検査装置1は対象画像及び基準画像を複数のブロック領域に分割する。この対象画像及び基準画像のブロック領域がずらされつつ画素毎に比較されて、類似度マップMBが作成される。類似度が高くなるずらせ位置P(Δx,Δy)を表す各マップ点URが包含されることで最小矩形領域Sminが類似度マップMBにおいて設定される。最小矩形領域SminのX方向及びY方向の幅として特定される分布指標値Dx,Dyが閾値Dx0,Dy0と比較され、当該最小矩形領域Sminを有する対象ブロック領域が有効ブロックであるか否かが判定される。位置合わせのための確定ずらせ位置の算出には有効ブロックのみが使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検査対象物上に形成されたパターンをカメラで撮像することによって、外観検査を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大規模集積回路(LSI)、又はフラットパネルディスプレイ(FPD)などで基板に形成されるパターンの微細化が益々進んでいる。従って、パターンの欠陥として検出しなければならない寸法はきわめて小さくなっており、高精度な基板の検査が望まれている。
【0003】
パターンの欠陥は、基板上に形成されたパターンをCCDカメラ、又はTDIカメラなどでスキャン撮像して取得された対象画像と、設計データあるいは基板上の同一パターン領域に基づいて取得された基準画像との比較検査によって検出される。この結果、対象画像と基準画像とに差異が認められる場合、対象画像に対応する領域のパターンが欠陥を有していると判定される。
【0004】
このような比較検査を行うには、基準画像と対象画像との高精度な位置合わせを行う必要がある。特許文献1には、基準画像と対象画像との位置合わせに関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−071630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、パターン領域が画像としての検出誤差が空間的に広く分散しやすい要素(以下「分散誤差要素」と総称)を多く含むと、分散誤差要素の影響が相対的に大きくなって、対象画像と基準画像との位置合わせのための座標位置が誤検出されてしまう問題を有している。
【0007】
即ち、対象画像と基準画像との位置合わせにおいて、分散誤差要素による位置合わせ結果からの寄与の方が、局所的に形成された矩形パターンや円形パターンなどのような、画像上の誤差が空間的に分散しない要素(以下「局在画像要素」と総称)での位置合わせ結果からの寄与よりも大きくなる。このため、それらを総合的に評価して位置合わせ結果を求めたときに、位置合わせの誤差が大きくなる。
【0008】
このような分散誤差要素の代表例としては、斜め線のパターンがある。斜め線のパターンにおいては、そのエッジが伸びる方向が画素配列の縦横方向のいずれとも異なる。このため、それを撮像して得たパターンのエッジは画素配列として階段状に分散する。そして、斜め線の撮像位置が少し変化するだけでその階段の各段差の位置が大きく変化するため、各段差の誤差が段差の数だけ累積されてしまい、大きな誤差要因となる。
【0009】
このようにして、広い範囲にわたって形成された斜め線のパターンを多く含む対象画像は誤検出された座標位置で位置合わせされやすい。この結果、本来ならば欠陥を有していないにもかかわらず、擬似欠陥が検出される。
【0010】
また、比較的広い面積を持つ無地領域部での画像ノイズも分散誤差要素となりやすい。画像ノイズはランダムかつ広範囲に分散して発生する。このため、無地領域部以外に存在する局在画像要素についての位置合わせ結果からの寄与よりも、ノイズによる誤った位置合わせ結果からの寄与の方が大きくなり、位置合わせの精度低下につながる。
【0011】
つまり、このような問題は、局在画像要素と分散誤差要素とが被検査対象物の領域内に混在する場合、特に分散誤差要素の割合が多い場合に一般に生じうる。
【0012】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、画像化の際に誤差が空間的に分散しやすい要素(分散誤差要素)と、誤差があってもそれが局所にとどまる要素(局在画像要素)とが被検査対象領域内に混在する場合にも、位置合わせ精度を高くできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の発明に係る検査装置は、検査対象物を撮像し、対象画像を取得する撮像部と、前記対象画像に対する基準画像を予め記憶しておく記憶部と、前記対象画像と前記基準画像との位置合わせを行い、前記対象画像と前記基準画像とを比較し、差異を欠陥として検出する検出部と、を備え、前記検出部は、前記対象画像及び前記基準画像に対して、画像内における位置が対応するように複数のブロック領域をそれぞれ設定し、前記対象画像のブロック領域と前記基準画像のブロック領域との位置をずらせつつ前記対象画像と前記基準画像とを相互に比較して、各ずらせ位置での画素ごとの類似度を表現した類似度マップを生成し、前記類似度マップにおいて、あらかじめ設定した閾値よりも大きい類似度が算出された前記ずらせ位置の空間的分布を求め、前記空間的分布の2次元的な集中度を反映した分布指標値を求め、前記分布指標値と所定の基準値とを比較することによって、前記複数のブロック領域の中で前記集中度が所定程度以上に大きいブロック領域を有効ブロックとして特定し、前記複数のブロック領域の中で前記有効ブロックでの前記類似度マップを優先して用いつつ、前記複数のブロック領域の全体的な類似度を表現した評価用指標値を得て、前記対象画像と前記基準画像との複数の前記ずらせ位置のうち、前記評価用指標値によって表現された類似度が最大となる前記ずらせ位置で、前記対象画像と前記基準画像との位置合わせを行う。
【0014】
第2の発明は、第1の発明に係る検査装置であって、前記検出部が、前記類似度マップにおいて、所定の幾何学的形状を有するとともに、前記閾値よりも大きい類似度を持つ前記ずらせ位置各々を包含する最小包含領域を前記空間的分布として設定し、前記最小包含領域の2次元的なサイズを表現した値を前記分布指標値とする。
【0015】
第3の発明は、第2の発明に係る検査装置であって、前記幾何学的形状は矩形であり、前記最小包含領域が最小矩形領域である。
【0016】
第4の発明は、第1ないし第3の発明のいずれかに係る検査装置であって、前記検出部が、前記複数のブロック領域のうち、前記有効ブロックの前記類似度マップのみを用いて、前記評価用指標値を得る。
【0017】
第5の発明は、第1ないし第3の発明のいずれかに係る検査装置であって、前記検出部が、前記集中度をウエイトとして、少なくとも前記複数のブロック領域の一部に前記ウエイトによる重み付けを行って得られた類似度を反映させて前記評価用指標値を得る。
【0018】
第6の発明は、第1ないし第3の発明のいずれかに係る検査装置であって、前記類似度マップ中に前記閾値よりも大きい類似度を持つ前記ずらせ位置が存在しないブロック領域は、前記評価用指標値の生成の基礎としては除外される。
【0019】
第7の発明に係るプログラムは、対象画像と、前記対象画像に対して基準となる基準画像とを取得する画像取得ステップと、前記対象画像及び前記基準画像に対して、画像内における位置が対応するように複数のブロック領域をそれぞれ設定する領域設定ステップと、前記対象画像のブロック領域と前記基準画像のブロック領域との位置をずらせつつ前記対象画像と前記基準画像とを相互に比較して、各ずらせ位置での画素ごとの類似度を表現した類似度マップを生成するマップ生成ステップと、前記類似度マップにおいて、あらかじめ設定した閾値よりも大きい類似度が算出された前記ずらせ位置の空間的分布を求め、前記空間的分布の2次元的な集中度を反映した分布指標値を求める分布指標値算出ステップと、前記分布指標値と所定の基準値とを比較することによって、前記複数のブロック領域の中で前記集中度が所定程度以上に大きいブロック領域を有効ブロックとして特定し、前記複数のブロック領域の中で前記有効ブロックでの前記類似度マップを優先して用いつつ、前記複数のブロック領域の全体的な類似度を表現した評価用指標値を得る評価用指標値取得ステップと、前記対象画像と前記基準画像との複数の前記ずらせ位置のうち、前記評価用指標値によって表現された類似度が最大となる前記ずらせ位置で、前記対象画像と前記基準画像との位置合わせを行う位置合わせステップと、を備える。
【0020】
第8の発明に係る画像の位置合わせ方法は、対象画像と、前記対象画像に対して基準となる基準画像とを取得する画像取得工程と、前記対象画像及び前記基準画像に対して、画像内における位置が対応するように複数のブロック領域をそれぞれ設定する領域設定工程と、前記対象画像のブロック領域と前記基準画像のブロック領域との位置をずらせつつ前記対象画像と前記基準画像とを相互に比較して、各ずらせ位置での画素ごとの類似度を表現した類似度マップを生成するマップ生成工程と、前記類似度マップにおいて、あらかじめ設定した閾値よりも大きい類似度が算出された前記ずらせ位置の空間的分布を求め、前記空間的分布の2次元的な集中度を反映した分布指標値を求める分布指標値算出工程と、前記分布指標値と所定の基準値とを比較することによって、前記複数のブロック領域の中で前記集中度が所定程度以上に大きいブロック領域を有効ブロックとして特定し、前記複数のブロック領域の中で前記有効ブロックでの前記類似度マップを優先して用いつつ、前記複数のブロック領域の全体的な類似度を表現した評価用指標値を得る評価用指標値取得工程と、前記対象画像と前記基準画像との複数の前記ずらせ位置のうち、前記評価用指標値によって表現された類似度が最大となる前記ずらせ位置で、前記対象画像と前記基準画像との位置合わせを行う位置合わせ工程と、を備える。
【発明の効果】
【0021】
第1ないし第6の発明によれば、有効ブロックが優先的に用いられて、画像が位置合わせされるずらせ位置の算出が行われる。このため、画像が位置合わせされるずらせ位置は、有効ブロックに基づく集中度の高い位置で検出され、位置合わせのミスが生じることを抑えられる。
【0022】
この発明での有効ブロックは、誤差があってもそれが局所にとどまる要素(局在画像要素)に対応する。このため、画像化の際に誤差が空間的に分散しやすい要素(分散誤差要素)の影響が抑制され、局在画像要素と分散誤差要素とが被検査対象領域内に混在する場合にも、位置合わせ精度が高くなり、欠陥検査の精度を向上させることができる。
【0023】
特に、第3の発明によれば、最小包含領域は矩形であるため、分布指標値の算出が容易である。
【0024】
特に、第4の発明によれば、有効ブロックの類似度マップのみを用いて評価用指標値が得られる。このため、複数のブロック領域のうち、有効ブロックを除くブロック領域の影響は完全に排除することができる。
【0025】
特に、第5の発明によれば、複数のブロック領域のうち、集中度をウエイトとして少なくとも一部のブロック領域に重み付けを行って得られた類似度を反映させて評価用指標値が得られる。従って、有効ブロックが複数のブロック領域に存在していなくとも、評価用指標値が得られる。
【0026】
特に、第6の発明によれば、類似度マップ中に閾値よりも大きい類似度を持つずらせ位置が存在しないブロック領域は評価用指標値の生成の基礎としては除外される。このため、評価用指標値の計算にかかる処理の負担が軽減される。
【0027】
また、第7および第8の発明によれば、検査目的に限らず、互いに対応する2つの画像の重ね合わせのための位置ずれの特定において第1の発明と同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態に係る検査装置1の概略側面図である。
【図2】検査装置1が備える制御部40のハードウエア構成が示された図である。
【図3】検査の流れが示されたフローチャートである。
【図4】カメラ10による基板W上のパターンの撮像の様子が示された図である。
【図5】位置合わせ処理の流れが示されたフローチャートである。
【図6】対象画像の一例が示された図である。
【図7】対象ブロック領域に分割された対象画像の一例が示された図である。
【図8】SSDマップMAの一例が示された図である。
【図9】各ずらせ位置P(Δx,Δy)におけるSSD値F(Δx,Δy)が概念的に示された図である。
【図10】各ずらせ位置P(Δx,Δy)における類似度指標値G(Δx,Δy)が概念的に示された図である。
【図11】各ずらせ位置P(Δx,Δy)における2値化された類似度指標値H(Δx,Δy)が概念的に示された図である。
【図12】類似度マップMBの一例が示された図である。
【図13】有効ブロックの各ずらせ位置P(Δx,Δy)におけるSSD値F(Δx,Δy)が概念的に示された図である。
【図14】各ずらせ位置P(Δx,Δy)における評価用指標値Q(Δx,Δy)が概念的に示された図である。
【図15】比較例でのSSD値F(Δx,Δy)が概念的に示された図である。
【図16】比較例での評価用指標値Q(Δx,Δy)が概念的に示された図である。
【図17】変形例における被検査対象物が示された図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定する事例ではない。
【0030】
<1.第1の実施形態>
<1−1.検査装置1>
図1に示される検査装置1について説明する。検査装置1は、半導体基板、又はフラットパネルディスプレイ用基板などの各種基板Wの表面に形成されたパターンの外観検査を行う装置である。図1に示される検査装置1は、カメラ10、ステージ20、ステージ移動機構30、及び制御部40を、主たる構成として備えている。
【0031】
ステージ20は、基台60の上に載置された、いわゆるXYθステージであって、主走査方向及び副走査方向、さらには回転方向に移動可能である。このようなステージ20は平板状の外形を有し、その上面に基板Wを水平姿勢に載置して保持する。ステージ20の上面には複数の図示しない吸引孔が形成されており、この吸引孔に負圧(吸引圧)を形成することによって、ステージ20上に載置された基板Wが固定保持される。
【0032】
ステージ移動機構30は、ステージ20を移動させる機構であり、例えばステージ20のXYθ各軸に設けられたモータで構成されている。ステージ移動機構30は、後述する制御部40からの信号に応じて駆動する。従って、ステージ20は制御部40によって、移動方向及び移動距離が制御される。
【0033】
カメラ10は、基板Wの表面を撮像する検査装置1の部分であり、本実施形態における撮像部に相当する。カメラ10は所定の位置に固定設置されており、ステージ20に保持された基板Wがカメラ10の直下を主走査方向及び副走査方向に搬送されることで、基板Wの表面に形成されているパターン領域が光学画像として制御部40に取り込まれる。この実施形態でのカメラ10は2次元イメージセンサであるが、1次元イメージセンサを用いてもよい。
【0034】
制御部40は図1に示される各機能ブロックを有する。具体的に制御部40が有する機能ブロックとして、画像処理部51、位置合わせ処理部52、パターン検査部53、全体制御部54、及び駆動制御部55が挙げられる。
【0035】
駆動制御部55はステージ移動機構30と電気的に接続されている。駆動制御部55は、後述する全体制御部54から受ける制御信号に基づいて、ステージ移動機構30を特定の移動方向及び距離に移動させる。
【0036】
また、画像処理部51は、カメラ10がスキャン撮影して取り込んだ画像を対象画像に設定する部分である。画像処理部51は、取り込んだ画像を単位検査領域の画像に分割し、分割された各画像を対象画像として、位置合わせ処理部52、又はパターン検査部53に送信する。
【0037】
位置合わせ処理部52は、対象画像と、対象画像の比較対象となる基準画像との位置合わせ処理が行われるずらせ位置を決定する部分である。位置合わせ処理は、制御部40に記憶された、後述するプログラムに則って行われる。基準画像は、対象画像のパターンの製造の基礎となった設計データ(CADなどで作製された設計データ)に基づいて、又は基板W上で対象画像と同じパターン分布を持つ領域(例えば対象画像をひとつのユニット領域としたとき、当該ユニット領域に隣接して形成された別のユニット領域)を撮像して得られる画像である。このような基準画像は位置合わせ処理が開始される前に、後記の記憶装置42に予め記憶されている。
【0038】
この位置合わせ処理部52にて位置合わせされた対象画像と基準画像との比較検査がパターン検査部53で行われる。パターン検査部53が、位置合わせが行われた対象画像と基準画像とを比較検査し、画像の差異の有無について判定を行う。
【0039】
全体制御部54は、パターン検査部53における比較検査、及び駆動制御部55によるステージ20の移動について制御を行う。
【0040】
図2には、制御部40のハードウエア構成が示されている。制御部40のハードウエアとしての構成は、一般的なコンピュータと同様である。即ち、制御部40は、各種演算処理を行うCPU41、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、及び各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMなどの記憶装置42、又はデータなどを記憶しておく記憶メディアドライブ43が、インターフェイス44に接続されて構成されている。また、表示装置であるディスプレイ45、及びキーボード及びマウスなどの操作入力装置46が入力手段としてインターフェイス44に接続されている。
【0041】
このような制御部40が、カメラ10及びステージ移動機構30と、LANケーブルなどを介して電気的に接続されている。記憶装置42には、図1の各機能ブロック51〜55に対応して後述する各動作を実行するためのプログラムが予めインストールされており、それに基づいてCPU41等が各動作を実行する。
【0042】
<1−2.実施の流れ>
<1−2−1.検査の流れ>
本実施形態における検査装置1が行う基板Wのパターン検査の流れについて、図3に示されるフローチャートに基づいて説明する。最初に、制御部40が、基板Wの表面に形成されたパターン領域の被検査画像を取得する(ステップS11)。
【0043】
図4に示されるように、基板Wは円形基板である。また、基板W上の複数の矩形領域が各々集積回路のダイ150に相当する。図4の点線矢印で示されるように、ステージ20が、スキャン撮像が行われる主走査方向と、主走査方向に直交する副走査方向とに移動することによって、カメラ10が基板Wの表面を相対的に往復走査する。従って、カメラ10は、基板W上のパターン領域を、スキャン幅を有する短冊状の複数のストライプ(部分画像)として連続的に撮像していく。撮像された部分画像は画像処理部51に連続的に入力される。なお、第1の部分画像が取得された後で取得される第2の部分画像は、カメラ10が第1の部分画像を撮影する場合とは逆方向に相対的に走査することでスキャン撮像された画像である。カメラ10は、主走査方向を交互に逆向きの方向としながら、基板Wの表面に形成されたパターン領域の全域をスキャン撮像する。このようにして、取り込まれた複数の部分画像が被検査画像として記憶される。
【0044】
画像処理部51は、取り込んだ被検査画像を分割して、単位検査領域である複数の対象画像を設定する(ステップS12)。対象画像は、例えば、被検査画像のダイ150に相当する部分を9分割した画像のうちの1つである。このような複数の対象画像のうちの1つの対象画像が位置合わせ処理部52に送信される。そして、位置合わせ処理部52が、送られてきた対象画像の位置情報に基づいて、対象画像に隣接するパターン画像から、対応する位置、大きさの基準画像を設定する(ステップS13)。なお、基準画像は設計データであるCADデータ等に基づいて作製されてもよい。
【0045】
対象画像及び基準画像が設定されると、位置合わせ処理が開始される(ステップS14)。具体的な位置合わせ処理については後に詳述する。この位置合わせ処理が行われることによって、画像が位置合わせされる確定ずらせ位置が特定される。
【0046】
比較検査は、対象画像と基準画像とが確定ずらせ位置に位置合わせされた状態で行われる(ステップS15)。パターン検査部53は、位置合わせされた対象画像と基準画像との外観を比較し、差異が存在するか否かについて、所定の判定基準に則って検査を行う。検査結果は制御部40にて保存される。
【0047】
未処理の対象画像が存在する場合、上述のパターン検査が未処理の対象画像に対して順次行われる。そして、全ての対象画像のパターン検査が行われた段階で検査は終了する(ステップS16)。
【0048】
<1−2−2.位置合わせ処理>
続いて、対象画像と基準画像との位置合わせ処理について説明する。図5には、位置合わせ処理の一連の流れを表したフローチャートが示されている。
【0049】
図6には対象画像の一例が示されている。図6に示される対象画像は、三隅において局所的に形成されたパターンV1、中央部分において斜め線として形成されたパターンW1、及びパターンが形成されていない無地の領域Z1を有している。なお、図6に示される対象画像に対応する基準画像についても同様の画像である。
【0050】
最初に基準画像と対象画像とが各々複数のブロック領域に分割される(ステップS21)。図7に、複数のブロック領域に分割された対象画像の一例が示されている。基準画像についても、図7に示される対象画像と同様に複数のブロック領域に分けられる。
【0051】
図7に示される対象画像のブロック領域は3種類に分類される。ブロック領域V2は、対象画像の三隅において、局所的に形成されていたパターンを含むブロック領域である。ブロック領域W2は、対象画像において、斜め線として形成されていたパターンを含むブロック領域である。ブロック領域Z2は、対象画像において、無地の領域であった部分のブロック領域である。後に理解されるように、ブロック領域V2は局在画像要素によって形成されているブロック領域であり、ブロック領域W2は分散誤差要素を多く含む領域である。ブロック領域Z2はノイズが多いときには分散誤差要素を多く含む領域となる。ただし、ここではノイズの影響は小さいものとし、ブロック領域Z2は位置合わせ処理に寄与しない領域とする(ノイズがある場合については他の適用例として後述する)。
【0052】
対象画像を構成する複数のブロック領域の中から、ひとつのブロック領域が選択される(以下において、「対象ブロック領域」と称する)(ステップS22)。また、基準画像のうち対象ブロック領域に対応する領域を以下において「基準ブロック領域」と称する。
【0053】
選択された対象ブロック領域が、基準ブロック領域に対して相対的に、X方向における長さΔx、及びY方向における長さΔyずつずらされる。このとき、長さΔx、長さΔyはともに単位長さの整数倍の値である。なお、単位長さは、例えば、一画素の長さに相当する(図では便宜上、縦横とも15分割として示している)。
【0054】
対象ブロック領域が基準ブロック領域に対して相対的にずらされる都度、対象ブロック領域における対象画像の画素値と、その時点での対象ブロック領域に重なっている基準ブロック領域の画素値とが相互に比較される。種々のずらせ位置のそれぞれにおいて、対象ブロック領域と重なっている基準画像中の領域を以下において「対応ブロック領域」と称する。
【0055】
対象画像と基準画像との相互比較を定量的に行うために、各ずらせ位置P(Δx,Δy)において、対象ブロック領域内の各画素の画素値(対象画素値)と、基準画像のうちそれらの画素にそれぞれ重なっている対応ブロック領域の画素値(対応画素値)との残差二乗和の値(SSD値F(Δx,Δy))が計算される(ステップS23)。残差二乗和の値は、対象ブロック領域の各画素について、対象画素値と対応画素値との残差(差異)を二乗して、対象ブロック領域の全体についてそれらの和をとることによって算出される。
【0056】
なお、各ずらせ位置P(Δx,Δy)における対象ブロック領域の画素値と対応ブロック領域の画素値との差異は、例えば、差の絶対和(SAD値D(Δx,Δy))、又は正規化相関による方法で算出された値が採用されても構わない。
【0057】
続いて、算出されたSSD値F(Δx,Δy)が2次元領域にマッピングされる。図8には、各ずらせ位置P(Δx,Δy)におけるSSD値F(Δx,Δy)のSSDマップMAが示されている。具体的に、図8(a)は対象ブロック領域V2に対応するSSDマップMAである。また、図8(b)は対象ブロック領域W2に対応するSSDマップMAである。さらに、図8(c)は対象ブロック領域Z2に対応するSSDマップMAである。
【0058】
各マップ点URはずらせ位置P(Δx,Δy)に対応する2次元座標点である。SSD値F(Δx,Δy)は多階調表現されたデータとして、ずらせ位置P(Δx,Δy)に対応するマップ点URに付与される。つまり、図8中では、各マップ点URの画素の濃淡がSSD値F(Δx,Δy)の値の大きさを表している。より具体的には、SSD値F(Δx,Δy)が小さいほど、マップ点URの画素は黒く示されている。
【0059】
図8(a)から図8(c)における中央のマップ点URが、ずらせ位置P(0,0)の場合、即ち、対象ブロック領域と基準ブロック領域とが相対的にずらされることなく重ね合わされた場合のSSD値F(0,0)を表している。このような中央のマップ点URを、以下において基準点CRと称する場合がある。例えば、対象ブロック領域が基準ブロック領域に対して相対的に(+X)方向に1画素ずらされた場合のSSD値F(+1,0)が、基準点CRの1単位右側のマップ点URに付与される。また、対象ブロック領域が基準ブロック領域に対して(−Y)方向に3画素ずらされた場合のSSD値F(0,−3)が、基準点CRから3単位だけ下側のマップ点URに付与される。図8(c)に対応する対象ブロック領域Z2は無地の領域であり、対象ブロック領域と対応ブロック領域との間で残差が生じることはない。このため、図8(c)に示されるいずれのマップ点URにおいてもSSD値F(Δx,Δy)は0である。
【0060】
このように、対象ブロック領域が基準ブロック領域に対して相対的にずらされて、XおよびYの正負方向に単位間隔の整数倍ずつ移動させた場合のそれぞれのSSD値F(Δx,Δy)が2次元領域にマッピングされる。
【0061】
図9は、SSDマップMAにおける各ずらせ位置P(Δx,Δy)と、ずらせ位置P(Δx,Δy)に対応するSSD値F(Δx,Δy)との関係を便宜的に1次元化して概念的に表した図である。各ずらせ位置P(Δx,Δy)のうち、位置Paは、対象ブロック領域と対応ブロック領域との画素値の差異が最も小さいずらせ位置P(Δx,Δy)である。
【0062】
次に、このような各SSD値F(Δx,Δy)の中から最大値Fmaxが抽出される(ステップS24)。
【0063】
抽出された最大値Fmaxに基づいて、ずらせ位置P(Δx,Δy)におけるSSD値F(Δx,Δy)の類似度指標値G(Δx,Δy)が、(式1)によって算出される(ステップS25)。
【0064】
G(Δx,Δy)=Fmax/F(Δx,Δy) …(式1)
なお、所定のずらせ位置P(Δx,Δy)において残差が生じない場合、即ちSSD値F(Δx,Δy)が0である場合は、(式1)の分母が0となってG(Δx,Δy)の値が定まらない。このため、そのような場合には、0でない所定の下限値Fminが(式1)の分母として与えられ、
G(Δx,Δy)=Fmax/Fmin …(式2)
とされる。このときの類似度指標値G(Δx,Δy)は、類似度指標値の最大値:
Gmax=Fmax/Fmin …(式3)
になる。
【0065】
また、図8(c)に示されるようなSSDマップMAの場合、いずれのずらせ位置P(Δx,Δy)においてもSSD値F(Δx,Δy)が0になるため、最大値Fmaxは0である。このような場合、すべてのずらせ位置P(Δx,Δy)において、類似度指標値G(Δx,Δy)が0に設定される。
【0066】
図10は、各ずらせ位置P(Δx,Δy)と、ずらせ位置P(Δx,Δy)に対応する類似度指標値G(Δx,Δy)との関係を、図9に対応して概念的に例示した図である。
【0067】
次に、各類似度指標値G(Δx,Δy)は、閾値G0と値の大小を比較され、2値化される(ステップS26)。従って、2値化された類似度指標値H(Δx,Δy)は1又は0の値をとる。なお、閾値G0は類似度指標値G(Δx,Δy)の最大値Gmaxよりも小さく、0よりも大きい値として予め設定されている。
【0068】
図11は、各ずらせ位置P(Δx,Δy)と、ずらせ位置P(Δx,Δy)に対応する2値化された類似度指標値H(Δx,Δy)との関係を概念的に表した図である。本実施形態では、図10に示されるように、閾値G0よりも大きい類似度指標値G(Δx,Δy)は、2値化された類似度指標値H(Δx,Δy)の値が1である。また、閾値G0よりも小さい類似度指標値G(Δx,Δy)は2値化された類似度指標値H(Δx,Δy)の値が0である。このように類似度指標値G(Δx,Δy)は、閾値G0との比較によって、2値化された類似度指標値H(Δx,Δy)に転換される。
【0069】
このような2値化された類似度指標値H(Δx,Δy)が2次元領域にマッピングされて、類似度マップMBが生成される(ステップS27)。
【0070】
図12(a)から図12(c)には、図8(a)から図8(c)に対応する類似度マップMBが示されている。本実施形態では、2値化された類似度指標値H(Δx,Δy)が1であるとき、当該ずらせ位置P(Δx,Δy)に対応するマップ点URが黒く示されている。つまり、類似度が高くなるずらせ位置P(Δx,Δy)のマップ点URが黒く示されている。
【0071】
このような類似度マップMB(図12(a)から図12(c))が用いられて、黒く示されたマップ点UR、つまり予め設定された閾値G0よりも高い類似度を有するマップ点URの空間的分布の2次元的な集中度(逆に言えば分散度)が特定される。具体的に、類似度マップMBにおいて、黒く示されたマップ点UR(つまり類似度が高いマップ点UR)を包含するような、所定の幾何学的形状を持つ包含領域が設定される。
【0072】
本実施形態では、包含領域の幾何学的形状として矩形が採用される。従って、2値化された類似度指標値H(Δx,Δy)=1であるすべてのマップ点URを包含するような最小矩形領域Sminが、その対象ブロック領域の類似度マップMBにおいて特定される。なお、包含領域は必ずしも矩形領域に限らず、矩形以外の多角形などであってもよいが、矩形領域であるほうが後述する有効ブロック領域の判定作業が容易に行える。
【0073】
このような最小矩形領域Sminを設定するために、まず2値化された類似度指標値H(Δx,Δy)=1のマップ点URが表すずらせ位置P(Δx,Δy)のうち、最大のΔx,Δyの値であるΔxmax,Δymaxが特定される。また、同様に、最小のΔx,Δyの値であるΔxmin,Δyminが特定される(ステップS28、図12参照)。
【0074】
このような最大値Δxmax,Δymaxと最小値Δxmin,Δyminとによって、最小矩形領域Sminが設定される(ステップS29)。具体的に、最大値Δxmaxに対応するマップ点UR(図12(a)におけるずらせ位置P(Δxmax,Δy)、図12(b)におけるずらせ位置P(Δxmax,Δymax))の(+X)側の一辺を含むY方向の縦線と、最小値Δxminに対応するマップ点UR(図12(a)におけるずらせ位置P(Δxmin,Δy)、図12(b)におけるずらせ位置P(Δxmin,Δymin))の(−X)側の一辺を含むY方向の縦線とが、最小矩形領域SminのY方向における外縁を構成する。また、最大値Δymaxに対応するマップ点UR(図12(a)におけるずらせ位置P(Δx,Δymax)、図12(b)におけるずらせ位置P(Δxmax,Δymax))の(+Y)側の一辺を含むX方向の横線と、最小値Δyminに対応するマップ点UR(図12(a)におけるずらせ位置P(Δx,Δymin)、図12(b)におけるずらせ位置P(Δxmin,Δymin))の(−Y)側の一辺を含むX方向の横線とが最小矩形領域SminのX方向における外縁を構成する。
【0075】
このような最小矩形領域SminのX方向及びY方向における幅は、各ずらせ位置P(Δx,Δy)での類似度が空間的に集中しているかどうかを表現する分布指標値として利用できる。そこで、対象ブロック領域についての分布指標値Dx,Dyを、
Dx=Δxmax−Δxmin …(式4)
Dy=Δymax−Δymin …(式5)
のように、(式4)及び(式5)より算出する(ステップS30)。
【0076】
これらの分布指標値Dx,Dyが小さい程、最小矩形領域Sminの面積は小さくなる。つまり、類似度指標値H(Δx,Δy)=1のマップ点URが、類似度マップMBの2次元領域内に集中している。一方、分布指標値Dx,Dyが大きい程、最小矩形領域Sminの面積は大きくなる。つまり、類似度指標値H(Δx,Δy)=1のマップ点URが類似度マップMBの2次元領域内に分散し、広がりを有している。このように、分布指標値Dx,Dyは、一定の閾値G0以上の類似度を有する各ずらせ位置P(Δx,Δy)の2次元的な集中度を反映する。
【0077】
算出された分布指標値Dx,Dyは、それぞれX方向に対応する所定の閾値Dx0、Y方向に対応するDy0と比較される(ステップS31)。これによって、当該分布指標値Dx,Dyを有する対象ブロック領域が「有効ブロック」であるか、それとも「無効ブロック」であるか判定される(ステップS32)。
【0078】
有効ブロックは、
0< Dx ≦ Dx0 及び 0< Dy ≦ Dy0
の有効ブロック条件を満たす対象ブロック領域である。つまり、類似度が高くなるずらせ位置P(Δx,Δy)が2次元的に集中していれば、幅Dx,Dyがそれぞれ閾値Dx0,Dy0以下となるため、そのような対象ブロック領域に基づく位置合わせ情報は信頼度が高い。そのような対象ブロック領域が「有効ブロック」とされる。本実施形態では図12(a)に示された類似度マップMBに対応する対象ブロック領域V2が有効ブロックと判定されるものとする。
【0079】
「無効ブロック」は上記有効ブロック条件を満たさない対象ブロック領域である。従って、「無効ブロック」には、所定の長さ以上の縦線、横線、及び斜め線などのパターンを有する対象ブロック領域、及びパターンが形成されていない無地の対象ブロック領域が含まれる。
【0080】
図12(b)、図12(c)に示された類似度マップMBに基づく最小矩形領域Sminは上記有効ブロック条件を満たさない。従って、これらの最小矩形領域Sminに対応する対象ブロック領域W2,Z2は無効ブロックであると判定される。特に、図12(c)には、閾値G0よりも大きい類似度を有するずらせ位置P(Δx,Δy)が存在しない類似度マップMBが示されている。このような類似度マップMBに対応する対象ブロック領域は、有効ブロックの判定処理が行われるまでもなく、無効ブロックと判定される。無効ブロックである対象ブロック領域W2,Z2は、後述するように、本実施形態における評価用指標値算出の基礎としては除外される。
【0081】
このような有効ブロックの判定処理は、対象画像を構成するすべての対象ブロック領域に対して行われ、未処理の対象ブロック領域が存在する場合は上記工程が繰り返される(ステップS33)。
【0082】
すべての対象ブロック領域の判定処理が終了すると、有効ブロックと判定された対象ブロック領域のSSDマップMAのみが用いられ、各SSDマップMAの中で同じ位置のマップ点URのSSD値F(Δx,Δy)が加算合成される。このような加算合成されたSSD値F(Δx,Δy)が各ずらせ位置P(Δx,Δy)における評価用指標値Q(Δx,Δy)に相当する(ステップS34)。評価用指標値Q(Δx,Δy)は、複数の対象ブロック領域の全体的な類似度を表現している。
【0083】
このような評価用指標値算出処理について、図13及び図14を用いて説明する。図13(a)、図13(b)には、各ずらせ位置P(Δx,Δy)に対応するSSD値F1(Δx,Δy)、SSD値F2(Δx,Δy)が概念的に示されている。同じずらせ位置P(Δx,Δy)におけるSSD値F1(Δx,Δy)とSSD値F2(Δx,Δy)とが加算合成されて、図14で示される評価用指標値Q(Δx,Δy)が得られる。
【0084】
有効ブロックに対応する類似度マップMBは、類似度が高くなるずらせ位置P(Δx,Δy)の2次元的な集中度が高くなる。このため、図13(a)又は図13(b)におけるSSD値F1(Δx,Δy)及びSSD値F2(Δx,Δy)では、類似度の高さを示す、値の小さいSSD値が局所的に集中している。従って、有効ブロックに基づくこれらのSSD値F(Δx,Δy)が加算合成された評価用指標値Q(Δx,Δy)についても、図14で示されるように、値の小さい評価用指標値Qが一部分に集中する。
【0085】
なお、評価用指標値Q(Δx,Δy)は、必ずしもSSD値F(Δx,Δy)の加算合成により算出される形態に限られない。例えば、各SSD値F(Δx,Δy)が、最小矩形領域Sminの面積に応じて加重平均されることにより算出される形態であってもよい。
【0086】
この評価用指標値Q(Δx,Δy)が最小となるずらせ位置P(Δx,Δy)が、最も類似度が大きくなるずらせ位置P(Δx,Δy)として特定される。つまり、当該ずらせ位置P(Δx,Δy)が、画像の位置合わせが行われる確定ずらせ位置に相当する(ステップS35)。
【0087】
このようにして制御部40の位置合わせ処理部52は、特定のプログラムに則って、上述の位置合わせ処理を行い、対象画像と基準画像とが位置合わせされる確定ずらせ位置を決定する。
【0088】
確定ずらせ位置が定まると、パターン検査部53は、対象画像と基準画像とをその確定ずらせ位置にずらせて重ね合わせ、その状態でのそれぞれの画像の差分(差異)を欠陥として検出する。そのような欠陥検査としては、例えば線切れ検査や短絡検査などがあり、その検査アルゴリズムは公知の手法を種々利用可能である。
【0089】
以上のように、本実施形態に係る検査装置1は、対象画像を構成するブロック領域と基準画像を構成するブロック領域とをずらせつつ、対象画像と基準画像とを相互に比較して各ずらせ位置P(Δx,Δy)での画素ごとの類似度を表現した類似度マップMBを作成する。この類似度マップMBで表される類似度の高いずらせ位置P(Δx,Δy)の2次元的な集中度に基づいて、集中度が所定程度以上に大きいブロック領域が有効ブロックとされる。そして、このような有効ブロックのみが用いられ、対象画像と基準画像との位置合わせが行われる確定ずらせ位置が算出される。
【0090】
ここで、有効ブロックだけでなく、無効ブロックと有効ブロックとが同じウエイトで用いられて位置合わせ処理が行われる比較例について、図15、図16を用いて説明する。一例として、図15(a)には、局所的に形成されたパターンを有する対象ブロック領域(有効ブロック)に対応するSSD値F5(Δx,Δy)が概念的に示されている。また、図15(b)には、例えば斜め線で広い範囲にわたって形成されたパターンを有する対象ブロック領域(無効ブロック)に対応するSSD値F6(Δx,Δy)が概念的に示されている。SSD値F5(Δx,Δy)と、SSD値F6(Δx,Δy)とが加算合成されて、図16に示される評価用指標値Q(Δx,Δy)が算出される。
【0091】
広い範囲にわたって縞状に形成された斜め線パターンを有する対象ブロック領域のように、分散誤差要素を多く含む領域では、類似度マップMBにおいて、類似度が高くなるずらせ位置P(Δx,Δy)が拡散している。従って、図15(b)に示されるように、値の小さいSSD値F(Δx,Δy)は、局所的に集中することなく、各ずらせ位置P(Δx,Δy)において比較的満遍なく広がっている。このため、SSD値F5(Δx,Δy)とSSD値F6(Δx,Δy)とが加算合成されたときには、斜め線パターンの影響によって、正しいずらせ位置P(Δx,Δy)とは異なる位置で評価用指標値Q(Δx,Δy)が最小値をとる。つまり、分散誤差要素の位置情報と局在画像要素の位置情報とが混ざり合ってしまい、正しいずらせ位置P(Δx,Δy)をとらえることができずに誤検出が起きる(図16参照)。
【0092】
また、比較的広い範囲を占める縦線、又は横線のように形成されたパターンを有する無効ブロックについても、値の小さいSSD値F(Δx,Δy)は局所的に集中することはない。このため、このような無効ブロックを有効ブロックと同じウエイトで参酌する比較例では、評価用指標値Q(Δx,Δy)がばらついて算出され、同様の誤検出が生じやすい。
【0093】
これに対して、本実施形態では、類似度が高くなるずらせ位置P(Δx,Δy)の類似度マップMBにおける集中度、換言すれば広がり具合に応じて、各対象ブロック領域が有効ブロック、又は無効ブロックに分類される。これによって、類似度が高くなるずらせ位置P(Δx,Δy)が類似度マップMBにおいて拡散するような対象ブロック領域は除外されて、評価用指標値Q(Δx,Δy)の算出処理が行われる。このため、確定ずらせ位置が誤検出されることを抑えることができる。
【0094】
また、本実施形態では、類似度の高い領域を包含する包含領域が矩形領域で表されている。従って、分布指標値の算出が比較的容易であり、閾値Dx0,Dy0との比較が容易に行える。
【0095】
また、本実施形態では、無効ブロックの影響は完全に排除されるため、位置合わせの精度はより高くなる。
【0096】
また、本実施形態では、類似度マップMB中に閾値よりも大きい類似度を持つずらせ位置P(Δx,Δy)が存在しないブロック領域は評価用指標値の生成の基礎から除外される。このため、評価用指標値の計算にかかる処理の負担が軽減される。
【0097】
<2.第2の実施形態>
上記第1の実施形態では、無効ブロックに対応する対象ブロック領域が除外されて、確定ずらせ位置が算出されていたが、このような形態に限られない。評価用指標値算出工程は、無効ブロックでの位置ずれ評価結果を有効ブロックよりも低いウエイトで反映させて行われてもよい。
【0098】
その場合、例えば、無効ブロックに対応する類似度マップMBで特定された最小矩形領域Sminの面積に応じて重み係数(ウエイト)が算出される。矩形面積が大きくなるほど、類似度が高くなるずらせ位置P(Δx,Δy)の集中度は小さくなる。このため、重み係数は矩形面積の逆数に比例する値とする。
【0099】
このような重み係数に基づいて、重み係数算出の基準となった無効ブロックの各SSD値F(Δx,Δy)に重み付けが行われる。そして、重み付けされた各SSD値F(Δx,Δy)が、加算合成された有効ブロックの各SSD値F(Δx,Δy)に合算される。このようにして、評価用指標値Q(Δx,Δy)が算出されても構わない。
【0100】
また、複数の有効ブロックについても同じウエイトとするのではなく、有効ブロックの中で類似度の空間的な集中度がより大きいものについての評価結果を相対的に重視してもよい。例えば、すべての有効ブロック及びすべての無効ブロックにおいて最小矩形領域Sminの面積に基づく重み係数が算出され、その値を用いて算出された各SSD値F(Δx,Δy)の加重平均が評価用指標値Q(Δx,Δy)とされてもよい。
【0101】
このように、最小矩形領域Sminの面積に対して負の相関を持つ量が集中度を反映するから、そのような集中度のパラメータをウエイトとして、少なくとも複数のブロック領域の一部(例えば無効ブロック)に、ウエイトによる重み付けを行った類似度を反映させて評価用指標値Q(Δx,Δy)を得てもよい。
【0102】
これによって、無効ブロックの影響を完全に排除することなく、評価用指標値Q(Δx,Δy)が算出される。既述した第1実施形態では、対象画像が無効ブロックのみを有するような特殊な場合には評価用指標値が定まらない。このため、例外ルーチンなどによって、例えばデフォルトの位置決め値を用いるなどの対応をとることが必要となる。それに対して、この第2実施形態では、そのような特殊な場合にも、位置合わせ処理のための評価用指標値生成工程を単一のルーチンで進行させることができる。
【0103】
<3.変形例>
本発明は、上記実施形態のように、半導体基板、又はフラットパネルディスプレイ用基板などの各種基板Wに形成されたパターンが比較検査される際に用いられる形態に限られない。例えば、印刷物の表面に形成された印刷パターンが基準画像と比較検査される際に、本発明を用いることも可能である。具体的に、特定の印刷パターンが全体の印刷領域の一部のみに局所的に記載されている印刷物の検査に本発明は利用できる。
【0104】
図17(a)は、印刷パターン200として文字が印刷物100の印刷領域に局所的に形成されており、それ以外の部分が無地の領域250である印刷物100が示されている。このような印刷物100の印刷領域が画像として取り込まれ、当該画像(対象画像)が基準画像と比較検査される際に、ノイズが対象画像の無地領域の全体から検出される場合がある。この場合、当該無地領域部分のノイズに基づいて、同程度の値の大きさを有するSSD値F(Δx,Δy)が、各ずらせ位置P(Δx,Δy)において満遍なく算出される。このため、正確な位置での基準画像と対象画像との位置合わせが行われず、印刷パターン200が擬似欠陥として検出される。なお、図17(a)ではノイズを表すために無地の領域250全体に模様を付けて表しているが、実際は無地の領域である。
【0105】
また、ノイズによる影響に限らず、例えば、図17(b)に示されるような、局所的に形成された文字などの特定の印刷パターン200と、網掛けのような広い範囲にわたって繰り返された印刷パターン300とで構成される印刷物400についても、同様の問題が生じる。つまり、広い範囲を占める網掛けの印刷パターンによって、同程度の値の大きさを有するSSD値F(Δx,Δy)が、各ずらせ位置P(Δx,Δy)において満遍なく算出される。このため、正確な位置での画像の位置合わせが行われず、局所的に形成された印刷パターンが擬似欠陥として検出される。
【0106】
上述のような印刷物についても、本発明に係る位置合わせ処理を行うことによって、画像の位置合わせが行われるずらせ位置P(Δx,Δy)の誤検出を抑えることが可能である。このように、本発明は、特定の印刷領域内に、部分的に記載された印刷パターンと、それ以外の広範囲にわたって繰り返し形成されたパターン、又は無地の領域と、で構成された印刷物の外観検査を行う際の位置合わせ処理にも有効である。
【0107】
また、この発明の原理は、画像の検査目的だけでなく、互いに対応する2つの画像を互いに重ね合わせるにあたっての位置合わせの目的で広く利用できる。
【符号の説明】
【0108】
1 検査装置
10 カメラ
20 ステージ
30 ステージ移動機構
40 制御部
CR 基準点
UR マップ点
Dx,Dy 分布指標値
Smin 最小矩形領域
W 基板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物を撮像し、対象画像を取得する撮像部と、
前記対象画像に対する基準画像を予め記憶しておく記憶部と、
前記対象画像と前記基準画像との位置合わせを行い、前記対象画像と前記基準画像とを比較し、差異を欠陥として検出する検出部と、
を備え、
前記検出部は、
前記対象画像及び前記基準画像に対して、画像内における位置が対応するように複数のブロック領域をそれぞれ設定し、
前記対象画像のブロック領域と前記基準画像のブロック領域との位置をずらせつつ前記対象画像と前記基準画像とを相互に比較して、各ずらせ位置での画素ごとの類似度を表現した類似度マップを生成し、
前記類似度マップにおいて、あらかじめ設定した閾値よりも大きい類似度が算出された前記ずらせ位置の空間的分布を求め、前記空間的分布の2次元的な集中度を反映した分布指標値を求め、
前記分布指標値と所定の基準値とを比較することによって、前記複数のブロック領域の中で前記集中度が所定程度以上に大きいブロック領域を有効ブロックとして特定し、前記複数のブロック領域の中で前記有効ブロックでの前記類似度マップを優先して用いつつ、前記複数のブロック領域の全体的な類似度を表現した評価用指標値を得て、
前記対象画像と前記基準画像との複数の前記ずらせ位置のうち、前記評価用指標値によって表現された類似度が最大となる前記ずらせ位置で、前記対象画像と前記基準画像との位置合わせを行う、検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の検査装置であって、
前記検出部が、
前記類似度マップにおいて、所定の幾何学的形状を有するとともに、前記閾値よりも大きい類似度を持つ前記ずらせ位置各々を包含する最小包含領域を前記空間的分布として設定し、前記最小包含領域の2次元的なサイズを表現した値を前記分布指標値とする、検査装置。
【請求項3】
請求項2に記載の検査装置であって、
前記幾何学的形状は矩形であり、前記最小包含領域が最小矩形領域である、検査装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の検査装置であって、
前記検出部が、前記複数のブロック領域のうち、前記有効ブロックの前記類似度マップのみを用いて、前記評価用指標値を得る、検査装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の検査装置であって、
前記検出部が、前記集中度をウエイトとして、少なくとも前記複数のブロック領域の一部に前記ウエイトによる重み付けを行って得られた類似度を反映させて前記評価用指標値を得る、検査装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の検査装置であって、
前記類似度マップ中に前記閾値よりも大きい類似度を持つ前記ずらせ位置が存在しないブロック領域は、前記評価用指標値の生成の基礎としては除外される、検査装置。
【請求項7】
対象画像と、前記対象画像に対して基準となる基準画像とを取得する画像取得ステップと、
前記対象画像及び前記基準画像に対して、画像内における位置が対応するように複数のブロック領域をそれぞれ設定する領域設定ステップと、
前記対象画像のブロック領域と前記基準画像のブロック領域との位置をずらせつつ前記対象画像と前記基準画像とを相互に比較して、各ずらせ位置での画素ごとの類似度を表現した類似度マップを生成するマップ生成ステップと、
前記類似度マップにおいて、あらかじめ設定した閾値よりも大きい類似度が算出された前記ずらせ位置の空間的分布を求め、前記空間的分布の2次元的な集中度を反映した分布指標値を求める分布指標値算出ステップと、
前記分布指標値と所定の基準値とを比較することによって、前記複数のブロック領域の中で前記集中度が所定程度以上に大きいブロック領域を有効ブロックとして特定し、前記複数のブロック領域の中で前記有効ブロックでの前記類似度マップを優先して用いつつ、前記複数のブロック領域の全体的な類似度を表現した評価用指標値を得る評価用指標値取得ステップと、
前記対象画像と前記基準画像との複数の前記ずらせ位置のうち、前記評価用指標値によって表現された類似度が最大となる前記ずらせ位置で、前記対象画像と前記基準画像との位置合わせを行う位置合わせステップと、
を備えるプログラム。
【請求項8】
対象画像と、前記対象画像に対して基準となる基準画像とを取得する画像取得工程と、
前記対象画像及び前記基準画像に対して、画像内における位置が対応するように複数のブロック領域をそれぞれ設定する領域設定工程と、
前記対象画像のブロック領域と前記基準画像のブロック領域との位置をずらせつつ前記対象画像と前記基準画像とを相互に比較して、各ずらせ位置での画素ごとの類似度を表現した類似度マップを生成するマップ生成工程と、
前記類似度マップにおいて、あらかじめ設定した閾値よりも大きい類似度が算出された前記ずらせ位置の空間的分布を求め、前記空間的分布の2次元的な集中度を反映した分布指標値を求める分布指標値算出工程と、
前記分布指標値と所定の基準値とを比較することによって、前記複数のブロック領域の中で前記集中度が所定程度以上に大きいブロック領域を有効ブロックとして特定し、前記複数のブロック領域の中で前記有効ブロックでの前記類似度マップを優先して用いつつ、前記複数のブロック領域の全体的な類似度を表現した評価用指標値を得る評価用指標値取得工程と、
前記対象画像と前記基準画像との複数の前記ずらせ位置のうち、前記評価用指標値によって表現された類似度が最大となる前記ずらせ位置で、前記対象画像と前記基準画像との位置合わせを行う位置合わせ工程と、
を備える画像の位置合わせ方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−208025(P2012−208025A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74151(P2011−74151)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】