説明

極薄熱延鋼板の製造方法

【課題】仕上げ圧延機出側板厚が1.0mm以下である極薄熱延鋼帯を歩留りよく安定して製造し得る極薄熱延鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】複数の圧延スタンドからなる仕上げ圧延機を用い、仕上げ圧延機出側板厚が1.0mm以下である極薄熱延鋼帯を製造する際、当該圧延スタンドのワークロール直径D、当該圧延スタンドの出側板厚hとしたとき、D/h>500となる圧延スタンドの上下のワークロールに、圧延部外層が超鋼合金からなるロールを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の圧延スタンドからなる仕上げ圧延機を用い、仕上げ圧延機出側板厚が1.0mm以下である極薄熱延鋼帯を歩留りよく安定して製造し得る極薄熱延鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
仕上げ圧延機出側板厚が1.2mm以上である熱延鋼帯は、たとえば図3に示したような、7スタンドからなる仕上げ圧延機を用い、以下のような仕上げ圧延条件で歩留りよく安定して製造されている。図3中、1はX線板厚計、2は板厚制御装置を示す。Wはワークロール、Bはバックアップロールである。
仕上げ圧延機入側板厚=20〜50mm、幅=500〜2400mm、
ワークロール直径=500〜900mm、バレル長1800〜2500mm、
ワークロールWの材質:ハイスロールまたはNiグレンロール(従来ロールという)、バックアップロールの材質:鋼製。
【0003】
しかし、上下のワークロールWに従来ロールを用いると、仕上げ圧延機出側板厚が1.0mm以下である極薄熱延鋼帯は、歩留りよく安定して製造し得なかった。
一般に出側板厚が薄くなるほど、当該圧延スタンドの圧延荷重が大きくなるから、仕上げ圧延機出側板厚が1.0mm以下ともなると、後段スタンドで圧延荷重が急増する。このため、形状が悪化しあるいは絞りが生じ、仕上げ圧延機内で通板トラブルが多発してしまう。
【0004】
これは、主にワークロールのロール扁平変形に起因し、出側板厚が薄くなるほど、塑性定数(被圧延材Sの板厚を1mm変化させるために必要な圧延荷重)が急増して圧延可能限界板厚に近づくからである。
ここで、扁平後ロール半径R‘は(1)式で与えられる(非特許文献1)。
R‘=(1+C/Δh×P)R ・・・・(1)
ただし、圧下量Δh=h−h(h:当該圧延スタンドの入側板厚、h:当該圧延スタンドの出側板厚)、P:単位幅圧延荷重、R:扁平前ロール半径、C=16(1-n2)/(pE)(n:ポアソン比、E:ヤング率)。
【0005】
一方、仕上げ圧延機内での通板トラブルを解消しつつ、極薄熱延鋼帯を製造する技術が実現されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2004-283909号公報
【非特許文献1】「圧延理論と実際」日本鉄鋼協会編、昭和59年9月発行、p5〜p43(第2章)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の極薄熱延鋼帯の製造技術は、仕上げ圧延機の上流側にシートバー接合装置を設置し、走間板厚変更を実施する必要がある。
この特許文献1の極薄熱延鋼帯の製造技術は、接合した被圧延材の先端部の仕上げ出側目標板厚が1.2mmとされ、仕上げ圧延機内を被圧延材が走行している間に板厚を変更し、仕上げ圧延機出側板厚が1.0mmである極薄熱延鋼帯を得ようとしている。したがって、本質的に極薄熱延鋼帯の歩留りが悪いという問題があった。
【0007】
本発明は、仕上げ圧延機出側板厚が1.0mm以下である極薄熱延鋼帯を歩留りよく安定して製造し得る極薄熱延鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、極薄熱延鋼帯の製造方法について鋭意検討した結果、上下のワークロールに圧延部外層が超硬合金からなるロールを用い、ロール扁平変形を抑制することで実現できることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
すなわち本発明は、以下のとおりである。
1.複数の圧延スタンドからなる仕上げ圧延機を用い、仕上げ圧延機出側板厚が1.0mm以下である極薄熱延鋼帯を製造する際、
当該圧延スタンドのワークロール直径D、当該圧延スタンドの出側板厚hとしたとき、D/h>500となる圧延スタンドの上下のワークロールに、圧延部外層が超鋼合金からなるロールを用いることを特徴とする極薄熱延鋼帯の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、仕上げ圧延機の上流側にシートバー接合装置を設置し、走間板厚変更を実施しなくとも、仕上げ圧延機出側板厚が1.0mm以下である極薄熱延鋼帯を歩留りよく安定して製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、仕上げ圧延機の最終スタンド、具体的には7スタンドからなる仕上げ圧延機のF7スタンドで、圧下率r=20%一定としたときの、出側板厚hと単位幅圧延荷重の関係を示した特性図である。
単位幅圧延荷重はOrowanの荷重式(圧延理論と実際 鉄鋼協会編)で求めた。また、圧下率rは(2)式による。ワークロール直径D=600mm、被圧延材は一般熱延鋼帯(SPHC)とした。
【0011】
r=(Δh/h)×100・・・・・・(2)
圧下量Δh=h−h(h:当該圧延スタンドの入側板厚、h:当該圧延スタンドの出側板厚)。
図1から、ハイスロールまたはNiグレンロールの従来ロールに比べ、ヤング率が大きい超鋼合金をワークロールに用いることで、仕上げ圧延機出側板厚0.5mmでも単位幅圧延荷重が急増していないため、仕上げ圧延機出側板厚0.5mmとしても圧延可能限界板厚に到達していないことがわかる。
【0012】
すなわち、図4(a)、(b)に示すような、圧延部外層が超鋼合金からなるロールを用いることで、仕上げ圧延機出側板厚1.0mm以下0.5mmまでの極薄熱延鋼帯を製造し得る。
図4(a)は、鋼製軸芯5の胴部に超硬合金スリーブ4を嵌め込み、鋼製側端リングで固定してなる構造のロールである。図4(b)は、超硬合金スリーブ4と鋼製軸芯5の間に鋼製緩衝材6を設けた構造のロールである。どちらも圧延部表層が超硬合金スリーブ4からなるロールであり、ワークロールに用いて好適である。なお、図4(c)には、従来ロール3であるハイスロールあるいはNiグレンロールの構造を示した。
【0013】
また、仕上げ圧延機で仕上げ圧延機出側板厚が1.0mm以下である極薄熱延鋼帯を製造する際、通板安定性は、単位圧延荷重<1500ton/mで通板安定、単位圧延荷重≧1500ton/mで通板不安定と判定する。
この1500ton/mという値は、ヤング率をNiグレンロールの値とし、仕上げ圧延機出側板厚1.2mmとした場合に得られる単位圧延荷重と一致しており、実機の7スタンドからなる仕上げ圧延機を用い、仕上げ圧延機出側板厚1.2mmの熱延鋼帯を製造する際、被圧延材の先端部の形状が安定しており、通板トラブルがなく圧延できる上限の単位圧延荷重である。
【0014】
超硬合金スリーブ4は、複数個の超硬材料混合粉末からなるスリーブ部材をロール軸方向に接合・一体化して形成したものであり、このような構造をもつロールは、公知のロール製造技術で製造することが可能である。
たとえばWC、TaC 、TiC 等の超硬材料粉末にCo、Ni、Cr、Ti等の金属粉末のうちから選ばれる1種または2種以上を5〜50mass%添加した超硬材料混合粉末を素材とし、これをラバー成形してCIP(冷間等方加圧)により成形したスリーブ部材を、ロールの軸方向に複数個重ね、1260℃、10気圧の条件でHIP(熱間等方加圧)により接合・一体化して超硬合金スリーブ4とする。鋼製軸芯5には、通常鍛鋼、鋳鋼を用いる。WC粉末にCo:5〜50mass%(好ましくはCo:20mass%)に適量のNiを添加した超硬合金混合粉末を焼結した超硬合金とするのが、耐摩耗性、靭性などの観点から好ましい。
【0015】
以上のロール製造技術によって、直径620〜650mm、バレル長2050mmの圧延部外層が超硬合金スリーブであるロールが得られる。
【実施例1】
【0016】
実施例1にて、当該圧延スタンドのワークロール直径D、当該圧延スタンドの出側板厚hとしたとき、D/h>500となる圧延スタンドの上下のワークロールに、圧延部外層が超鋼合金からなるロールを用いるようにした理由を説明する。
7スタンドからなる仕上げ圧延機を用い、熱延鋼板(SPHC)を圧延し、仕上げ圧延機出側板厚を1.0mm、0.70mmとした場合の圧延スケジュールをそれぞれ表1、2に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
【表2】

【0019】
ここで、表1、2に示した圧延スケジュールにおいて、上下のワークロールのヤング率を従来ロール(Niグレン=176GPa)とし、単位幅圧延荷重をOrowanの荷重式で求めた場合、D/h>500となる圧延スタンドは、単位幅圧延荷重>1500ton/mとなる。このため、被圧延材の先端部の通板が不安定となる。
これに対し、D/h>500となる圧延スタンドの上下のワークロールのヤング率を超鋼合金(=500GPa)とし、当該圧延スタンドの単位幅圧延荷重をOrowanの荷重式で求めた場合、(1)式で与えられるロール扁平変形が小さくなるから、単位幅圧延荷重<1500ton/mとなる。
【0020】
したがって、表1、2に示したように、ワークロールの材質変更(Niグレンから圧延部外層が超鋼合金からなるロールへ)を行った圧延スタンドでは、単位幅圧延荷重<1500ton/mとなるため、仕上げ圧延機出側板厚を1.0mm、0.70mmとした極薄熱延鋼帯を製造する際、通板が安定して行えることがわかる。
このパラメータD/hの技術的意義は、圧延スケジュールが決まれば、被圧延材の鋼種と温度などから、各圧延スタンド(F1〜F7)での被圧延材の変形抵抗が求まり、(1)式で与えられるロール扁平変形を介し、Orowanの荷重式などで単位幅圧延荷重が求まるという関係となっている。このため、パラメータD/h=500の値が、通板安定か、通板不安定かを分ける境となるのである。
【0021】
よって、本発明は、パラメータD/h>500となる圧延スタンドの上下のワークロールに、圧延部外層が超鋼合金からなるロールを用いるようにした。
図3に示した7スタンドからなる仕上げ圧延機を用い、実施例1の実証を以下のようにして行った。
【実施例2】
【0022】
仕上げ圧延機出側板厚1.0mm以下0.7mm越えの極薄熱延鋼板の製造について
本発明例:(a)のケースでは、図3に示した7スタンドからなる仕上げ圧延機の最終スタンドとF6スタンドの上下のワークロールに、圧延部外層が超鋼合金からなるロールを用いるようにし、(b)のケースでは、最終スタンドを含む連続するF5およびF6スタンドの上下のワークロールに、圧延部外層が超鋼合金からなるロールを用いるようにした。
【0023】
サイクル開始時の予備圧延材=30本(仕上げ圧延機出側板厚=2〜4mm、幅1200〜1600mm)。
本発明例で製造した極薄熱延鋼板:仕上げ圧延機出側板厚1.0mm以下0.7mm越えのもの6本(仕上げ圧延機出側板厚=1.0mmのもの3本、0.75mmのもの3本、いずれも幅1200mm)
(比較例)
本発明例で、圧延部外層が超鋼合金からなるロールに代え、当該圧延スタンドの上下のワークロールにハイスロールを用いた以外、本発明例と同じとした。
【0024】
比較例では、仕上げ圧延機出側板厚1.0mmの1本目は圧延できたが、2本目は先端部で絞りが発生し、0.75mmのものは圧延ができなかった。
これに対して、本発明例では、最終スタンドを含むF5あるいはF6スタンドで絞りの発生、あるいは形状不良、蛇行などの通板トラブルの問題もなく、仕上げ圧延機出側板厚1.0mm以下0.7mmまでの極薄熱延鋼帯が安定して得られた。
【0025】
なお、図2(a)に、仕上げ目標板厚1.0mmの場合の先端部の、仕上げ目標板厚からの偏差を比較して示す。先端部の板厚は極薄熱延鋼帯の先端から5m位置でのX線板厚計の測定値とした。本発明例によれば、比較例に比べ、仕上げ目標板厚に近い極薄熱延鋼帯を製造でき、図2(b)に示したように歩留りが向上する。
また、特許文献1記載の極薄熱延鋼帯の製造技術は、仕上げ圧延機の上流側にシートバー接合装置を設置し、走間板厚変更を実施する必要があるため、本発明に比べ、先端部の板厚精度が悪く、本質的に極薄熱延鋼帯の歩留りが悪化する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明を仕上げ圧延機の最終スタンドに適用する際の特性図である。
【図2】本発明の適用例を示す棒グラフである。
【図3】本発明を適用する仕上げ圧延機の構成を示す側面図である。
【図4】本発明に用いて好適なロールの構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0027】
D ワークロール直径
h 出側板厚
S 被圧延材
W ワークロール
B バックアップロール
1 X線板厚計
2 板厚制御装置
3 従来ロール(ハイスロールあるいはNiグレンロール)
4 超硬合金スリーブ
5 鋼製軸芯
6 鋼製緩衝材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の圧延スタンドからなる仕上げ圧延機を用い、仕上げ出側板厚が1.0mm以下である極薄熱延鋼帯を製造する際、
当該圧延スタンドのワークロール直径D、当該圧延スタンドの出側板厚hとしたとき、D/h>500となる圧延スタンドの上下のワークロールに、圧延部外層が超鋼合金からなるロールを用いることを特徴とする極薄熱延鋼帯の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−214117(P2009−214117A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−58030(P2008−58030)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】