説明

構造材の表面改質装置及びその方法

【課題】簡便で小型の溶接改質装置により、短期間で溶接金属の耐食性を改善することができる構造材の表面改質装置及びその方法を提供する。
【解決手段】溶接トーチ部2と表面改質トーチ部3とを有する構造材の表面改質装置1において、前記溶接トーチ部2と表面改質トーチ部3を移動可能な連結部材17により連結するとともに、前記表面改質トーチ部3は、前記溶接トーチ部2で形成された溶接金属22の表面にチタン含有溶液を噴射しアナターゼ型酸化チタン層からなる表面改質層21を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力プラント等に用いられる構造材の表面改質装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントにおいて、炉内構造物、配管、タービン等の構造物には溶接部も含めて主にステンレス鋼やニッケル基合金が材料として用いられている。これらの金属材料においては、プラント運転時における各々の環境に応じた劣化がしばしば問題となり、この問題の対策として金属材料に表面処理を施工することで材料改善をする技術が用いられている。
【0003】
特に、ニッケル基合金は溶接熱影響部だけでなく、溶接金属部における応力腐食割れの発生事例も報告されており、溶接金属および溶接熱影響部の双方において耐食性の向上が求められる。現在のところ、軽水炉発電プラントの構造物における応力腐食割れ対策技術として、金属材料にピーニングを施工する技術が提案されている(特許文献1、2)。
【0004】
他にも金属表面に酸化チタンのような光触媒をコーティングし、光の照射下で表面電位を低減させることにより、耐食性を向上させるような技術(特許文献3)や、肉盛溶接を施工することで耐食性を向上させる技術も提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−210825号公報
【特許文献2】特開2007−44698号公報
【特許文献3】特開2008−274419号公報
【特許文献4】特開平10−260290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1又は2に記載される従来のピーニングによる応力腐食割れ予防技術は、溶接施工が完了した後に独立して行うものである。すなわち、溶接が完了しない限り実施できず、溶接からピーニングへの工程の移行に伴う装置の入れ換え作業や調整が必要となるため、工期が長期間に及ぶという問題があった。
【0007】
また、特許文献3に記載されるコーティングによる耐食技術も同様に、製造工程の最終工程において独立して行う作業であるとともに、光触媒活性度の高いアナターゼ型酸化チタンをゾルゲル法で得るためには、基材を400℃以上に加熱しなければならないため、別途加熱処理が必要である。また装置の入れ換え作業や調節が必要であるため、工期期間が長期に及ぶ可能性があった。
【0008】
さらに、特許文献4は肉盛溶接を用いた表面改質技術であるが、溶接条件が変わること、肉盛溶接の溶接金属を別に用意する必要があること、また、その際に溶接金属を交換し条件設定をするか、場合によっては溶接機の入れ換えが必要なこともあることなどの理由により、同様に、長期の工期期間を必要とするものである。
【0009】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、簡便で小型の溶接改質装置により、短期間で効率的に溶接金属の耐食性を改善することができる構造材の表面改質装置及びその方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る構造材の表面改質装置は、溶接トーチ部と表面改質トーチ部とを有する構造材の表面改質装置において、前記溶接トーチ部と表面改質トーチ部を移動可能な連結部材により連結するとともに、前記表面改質トーチ部は、前記溶接トーチ部で形成された溶接金属の表面にチタン含有溶液を噴射しアナターゼ型酸化チタン層を形成することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る構造材の表面改質装置は、溶接トーチ部と溶射トーチ部とを有する構造材の表面改質装置において、前記溶接トーチ部と溶射トーチ部を移動可能な連結部材により連結するとともに、前記溶射トーチ部は、前記溶接トーチ部で形成された溶接金属の表面にアナターゼ型酸化チタン粉末からなる溶射材をガスフレーム溶射により噴射しアナターゼ型酸化チタン層を形成することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る構造材の表面改質方法は、本発明に係る表面改質装置を用いて、構造材の溶接金属の表面にアナターゼ型酸化チタン又は貴金属からなる表面改質層を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡便で小型の溶接改質装置により、短期間で溶接金属の耐食性を改善することができる構造材の表面改質装置及びその方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る表面改質装置の全体構成図。
【図2】(a)は溶接金属の表面に形成された表面改質層を示す図、(b)はその断面図。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る表面改質トーチ部の構成図。
【図4】本発明の第3の実施形態に係る表面改質装置の全体構成図。
【図5】(a)は溶接金属の表面に形成された表面改質層を示す図、(b)はその断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る構造材の表面改質装置及びその方法の実施形態を、図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係るプラント構造材の表面改質装置を図1及び図2を用いて説明する。
【0016】
図1において、本実施形態に係る表面改質装置1は、電極11とガスノズル12とフィラーワイヤー13からなる溶接トーチ部2と、溶液タンク14とスプレーノズル15と溶液16からなる表面改質トーチ部3と、この溶接トーチ部2と表面改質トーチ部3とを連結する連結部材17と、構造材からなる被溶接材18とから構成される。
【0017】
表面改質トーチ部3は、連結部材17によって溶接方向に対して上下方向および前後方向に移動可能であり、被溶接材18の施工面との距離および溶接トーチ部2との距離をそれぞれ変えることができる。
【0018】
本実施形態では、溶液16には例えばチタンテトライソプロポキシドのエタノール溶液からなるゾルゲル溶液を、溶接金属にはニッケル基合金を用い、溶接方法はティグ溶接を用いている。なお、スプレーノズル15の代わりに、滴下式や流出式のノズルを用いてもよい。
【0019】
このように構成された表面改質装置1において、溶接トーチ部2でニッケル基合金のティグ溶接を行いながら、溶接金属22の表面に対して、表面改質トーチ部3の溶液16をスプレーノズル15から垂直に連続噴霧する。
【0020】
その際、溶接金属22の表面の温度は、溶接工程の余熱により400℃以上に保持されているため、図2(a)、(b)に示すようにアナターゼ型酸化チタンの表面改質層21が、ゾルゲル法の原理により、溶接金属22およびその近傍の溶接熱影響部の表面に成膜される。
【0021】
このアナターゼ型酸化チタンは光触媒作用に優れており、プラント稼働中に、アナターゼ型酸化チタン表面に原子炉内で発生するチェレンコフ光のようなアナターゼ型酸化チタンのバンドギャップエネルギーよりも高いエネルギーを持った光が照射されれば光触媒反応が生じ、表面の電位が低減する。この表面電位、すなわち腐食電位の低減によって耐食性が向上する。
このように本実施形態では、従来必要とされた余熱工程を省略することができるので、工期を大幅に短縮することが可能となる。
【0022】
以上説明したように、本第1の実施形態によれば、溶接トーチ部2と表面改質トーチ部3が連結された小型の表面改質装置1を用いて、溶接工程とその溶接熱を利用した表面改質工程を連続的におこなうことにより、溶接金属の表面にアナターゼ型酸化チタン層からなる表面改質層21を効率的かつ短期間で形成することができる。
【0023】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る構造材の表面改質装置を、図3を用いて説明する。
本第2の実施形態は、第1の実施形態における表面改質トーチ部3として溶射トーチ部4を用いている。この溶射トーチ部4は、熱源31と、溶射材供給系統32と、キャリアガスを流出するキャリアガスノズル33と、カバー34と、溶射材35とから構成される。この溶射トーチ部4は、第1の実施形態と同様に溶接トーチ部2に連結部材17により連結され、溶接方向に対して上下方向および前後方向に移動可能である。
【0024】
本実施形態において、溶射方法は燃焼ガスと酸素の燃焼フレームを熱源とした高速ガスフレーム溶射とし、燃焼ガスとしてアセチレン(C)とプロピレン(C)の混合ガスを、溶射材35としてアナターゼ型酸化チタン粉末を、キャリアガスとして窒素を用いている。また、溶接金属22はニッケル基合金を用い、溶接方法はティグ溶接を用いている。
【0025】
このように構成された表面改質装置1において、溶接トーチ部1でアーク溶接を行いながら、溶接金属22の表面に対して高速ガスフレーム溶射を行うと、図2(a)、(b)に示すように溶接金属22およびその近傍の溶接熱影響部の表面にアナターゼ型酸化チタンの表面改質層21が形成される。
【0026】
本第2の実施形態によれば、溶接トーチ部2と溶射トーチ部4が連結された小型の表面改質装置1を用いて、溶接工程とその溶接熱を利用した表面改質工程を連続的におこなうことにより、溶接金属の表面にアナターゼ型酸化チタン層からなる表面改質層21を効率的かつ短期間で形成することができる。
【0027】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態に係る構造材の表面改質装置を、図4、図5を用いて説明する。
本第3の実施形態では、表面改質装置1としてガスシールドアーク溶接を用い、溶接と表面改質層の形成を連続的におこなっている。
【0028】
図4において、本実施形態に係る表面改質装置1は、電極11とガスノズル12とフィラーワイヤー13とガスボンベ41とから構成され、フィラーワイヤー13にはチタン元素を含有させ、ガスボンベ41には酸素とアルゴンの混合ガスを用いている。
【0029】
このようにして構成された表面改質装置1において、ガスシールドアーク溶接を行うと、シールドガスに添加した酸素がアークプラズマに晒されることによって、イオン、ラジカル等化学的に活性な種になり、この酸素の活性種と溶融池に含まれるチタン元素との化学結合によって、図5(a)、(b)に示すように溶接金属22の表面に表面改質層51としてアナターゼ型酸化チタン層が形成される。
【0030】
本第3の実施形態によれば、小型の表面改質装置1を用いて、溶接工程とその溶接熱を利用した表面改質工程を連続的におこなうことにより、溶接金属の表面にアナターゼ型酸化チタン層からなる表面改質層21を効率的かつ短期間で形成することができる。
【0031】
なお、上記実施形態では、溶接金属および被溶接材の表面にアナターゼ型酸化チタン層を形成する例を説明したが、チタンに限定されることはなく、例えばパラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)などの貴金属を用いて表面改質層を形成しても同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0032】
1…表面改質装置、2…溶接トーチ部、3…表面改質トーチ部、4…溶射トーチ部、11…電極、12…ガスノズル、13…フィラーワイヤー、14…溶液タンク、15…スプレーノズル、16…溶液、17…連結部材、18…被溶接材、21…表面改質層、22…溶接金属、31…熱源、32…溶射材供給系統、33…キャリアガスノズル、34…カバー、35…溶射材、41…ガスボンベ、51…表面改質層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接トーチ部と表面改質トーチ部とを有する構造材の表面改質装置において、
前記溶接トーチ部と表面改質トーチ部を移動可能な連結部材により連結するとともに、前記表面改質トーチ部は、前記溶接トーチ部で形成された溶接金属の表面にチタン含有溶液を噴射しアナターゼ型酸化チタン層を形成することを特徴とする構造材の表面改質装置。
【請求項2】
前記チタン含有溶液はゾルゲル溶液であることを特徴とする請求項1記載の構造材の表面改質装置。
【請求項3】
溶接トーチ部と溶射トーチ部とを有する構造材の表面改質装置において、
前記溶接トーチ部と溶射トーチ部を移動可能な連結部材により連結するとともに、前記溶射トーチ部は、前記溶接トーチ部で形成された溶接金属の表面にアナターゼ型酸化チタン粉末からなる溶射材をガスフレーム溶射により噴射しアナターゼ型酸化チタン層を形成することを特徴とする構造材の表面改質装置。
【請求項4】
前記溶接トーチ部はアーク溶接によって構造材に溶接金属を形成することを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の構造材の表面改質装置。
【請求項5】
ガスシールドアーク溶接をおこなう溶接トーチ部とフィラーワイヤーとを有する構造材の表面改質装置において、
前記フィラーワイヤーにチタンを含有させることにより溶接金属の表面にアナターゼ型酸化チタン層を形成することを特徴とする表面改質装置。
【請求項6】
前記溶接金属はニッケル基合金であることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載の構造材の表面改質装置。
【請求項7】
前記アナターゼ型酸化チタン層の代わりに、パラジウム、イリジウム、白金、金のいずれかの貴金属からなる表面改質層を形成することを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載の構造材の表面改質装置。
【請求項8】
請求項1乃至7記載の構造材の表面改質装置を用いて、構造材の溶接金属の表面にアナターゼ型酸化チタン又は貴金属からなる表面改質層を形成することを特徴とする構造材の表面改質方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−177764(P2011−177764A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45415(P2010−45415)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】