構造物の補強方法
【課題】複数本の繊維強化プラスチック線材を長手方向に引き揃えて有する繊維強化シートを使用して、コンクリート構造物の床版下面凹状面、又は、カルバートのハンチ部などとされる構造物の凹状曲り部を作業性良く補強することのできる作業効率が高い構造物の補強方法を提供する。
【解決手段】構造物100の凹状曲り部101の表面に接着材106を塗布し、繊維強化シート1の線材2の長手方向が構造物100の凹状曲り部101の曲線形状に対向するようにして、繊維強化シート1を配置し、次いで、繊維強化シート1を繊維強化シート1の弾性力に抗して、接着材106が塗布された構造物100の凹状曲り部101の表面の方へと押圧して弾性変形させ、この状態を固定具200にて仮固定し、繊維強化シート1の凹状曲り部101と対向した側とは反対の表面側へと侵出した接着材106を平らに均し、必要に応じて、繊維強化シート1の表面側から接着材106を塗布し、その後、接着材106を硬化させる。
【解決手段】構造物100の凹状曲り部101の表面に接着材106を塗布し、繊維強化シート1の線材2の長手方向が構造物100の凹状曲り部101の曲線形状に対向するようにして、繊維強化シート1を配置し、次いで、繊維強化シート1を繊維強化シート1の弾性力に抗して、接着材106が塗布された構造物100の凹状曲り部101の表面の方へと押圧して弾性変形させ、この状態を固定具200にて仮固定し、繊維強化シート1の凹状曲り部101と対向した側とは反対の表面側へと侵出した接着材106を平らに均し、必要に応じて、繊維強化シート1の表面側から接着材106を塗布し、その後、接着材106を硬化させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化シートを使用して、土木建築構造物であるコンクリート構造物或いは鋼構造物、更には、木製構造物、プラスチック製構造物、或いは、これらの複合構造物(本願明細書では、コンクリート構造物、鋼構造物、木製構造物、プラスチック製構造物、及び、これらの複合構造物を含めて単に「構造物」という。)を補強する構造物の補強方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、既存或いは新設の構造物の補強方法として、特許文献1に記載されるような、構造物の表面に、炭素繊維シートやアラミド繊維シートなどの連続強化繊維シートを貼り付けたり、巻き付けたりする炭素繊維シート接着工法やアラミド繊維シート接着工法などの連続繊維シート接着工法がある。
【0003】
更には、現場樹脂含浸を省略するため工場生産した板厚1〜2mm、幅5cm程度のFRP板をコンクリート表面にパテ状接着材を用いて接着するFRP板接着補強工法も開発されている。
【0004】
しかしながら、上記連続繊維シート接着工法は、マトリクス樹脂(含浸接着剤)を連続繊維シートに工事現場で含浸させながら補強構造物に接着するために、マトリクス樹脂の強化繊維束への含浸に手間を要し、マトリクス樹脂の含浸不良、連続繊維シートの膨れ、浮きの発生など現地施工による品質不良が生じ易いという欠点があった。
【0005】
また、繊維シートの連続繊維に施工現場で樹脂を含浸させるため、繊維シートの繊維目付量を大きくすると、繊維束内部まで含浸接着剤が含浸しないといった問題、また、含浸用の低粘度のマトリクス樹脂を構造物との接着剤として兼用するため、繊維シートの重量が重くなり過ぎると接着剤の硬化前に連続繊維シートが剥離、脱落する恐れがあった。
【0006】
このため、連続繊維シートの繊維目付量を大きくすることが難しく炭素繊維シートの場合で600g/m2程度が限界であった。
【0007】
このため、必要補強量が多い場合には多層積層する必要があり、工期が長くなる、コスト高となる、などの欠点があった。
【0008】
又、繊維強化プラスチック平板を用いる場合は、板の剛性が強いため曲げることが極めて難しく、また、剛性に対する樹脂との接着面積が小さいため、充分な接着力を得ることが難しいといった問題がある。
【0009】
そこで、本発明者らは、特許文献2に記載するように、強化繊維にマトリックス樹脂が含浸され、硬化された連続した繊維強化プラスチック線材を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、その後線材を互いに固定用繊維材にて固定した繊維強化シートを提案した。
【0010】
特許文献3には、強化繊維にマトリックス樹脂が含浸され、硬化された連続した繊維強化プラスチック線材を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、その後線材を互いに固定用繊維材にて固定された強化繊維シートを使用した構造物の補強方法が提案されている。
【0011】
このような繊維強化シートは、施工時の糸切れの問題を解決し、又、施工に際してのボイドの発生も回避して被補強面に対して充分な接着力を得ることができ、コンクリート構造物の補強などを極めて作業性良く実施することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平3−224901号公報
【特許文献2】特開2004−197325号公報
【特許文献3】特開2008−637584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記特許文献2に記載の繊維強化シートは、剛性があるため接着剤でコンクリート面に貼り付けても、施工面が略平面でないと浮き上がり、本来のコンクリート面との一体化による期待される補強効果を得ることができない。
【0014】
そこで、特許文献3では、床版下面やボックスカルバートのハンチ部などの凹状曲り部表面へ施工する際には、ハンチ入隅部及び出隅部に曲げ成型された繊維強化シートを配置し、ハンチ形状のある構造物を補強している。
【0015】
斯かる補強方法では、予め、補強すべき構造物の形状に合わせて曲げ成型された繊維強化シートを作製しておくことが必要となり、作業性の点で問題がある。
【0016】
そこで、本発明の目的は、複数本の繊維強化プラスチック線材を長手方向に引き揃えて形成される繊維強化シートを使用して、コンクリート構造物の床版下面凹状部、又は、カルバートのハンチ部などとされる構造物の凹状曲り部を作業性良く補強することのできる作業効率が高い構造物の補強方法を提供することである。
【0017】
本発明の他の目的は、複数本の繊維強化プラスチック線材を長手方向に引き揃えて形成される繊維強化シートを使用して、コンクリート構造物の床版下面凹状部及びカルバートのハンチ部などとされる構造物の凹状曲り部を含む被補強面を作業性良く補強することのできる作業効率が高い構造物の補強方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的は本発明に係る構造物の補強方法にて達成される。要約すれば、第1の本発明によれば、強化繊維にマトリクス樹脂が含浸され、硬化された連続した繊維強化プラスチック線材を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、線材を互いに線材固定材にて固定した繊維強化シートを、少なくとも構造物の凹状曲り部表面を含む被補強面に接着材にて接着して一体化する構造物の補強方法において、
(a)前記構造物の凹状曲り部表面に接着材を塗布し、
(b)前記繊維強化シートを、前記繊維強化シートの線材の長手方向が前記構造物の凹状曲り部の曲線形状に沿うように構造物の凹状曲り部表面に対向させて配置し、
(c)次いで、前記繊維強化シートを前記繊維強化シートの弾性力に抗して、前記接着材が塗布された前記構造物の凹状曲り部の表面の方へと押圧して弾性変形させ、この状態を固定具にて仮固定し、
(d)前記繊維強化シートの前記凹状曲り部と対向した側とは反対の表面側へと侵出した接着材を平らに均し、必要に応じて、前記繊維強化シートの表面側から接着材を塗布し、
(e)その後、前記接着材を硬化させる、
ことを特徴とする構造物の補強方法が提供される。
【0019】
第1の本発明にて、一実施態様によれば、前記構造物の前記被補強面は、前記構造物の凹状曲り部表面に連接した水平面を有しており、
前記工程(a)〜(e)の工程を実施して、前記構造物の凹状曲り部表面とされる被補強面に前記繊維強化シートを接着した後、
次いで、前記水平面とされる被補強面に接着材を塗布し、
他の前記繊維強化シートを、前記接着材が塗布された前記構造物の前記水平面とされる被補強面に押し付けて接着する。
【0020】
第1の本発明にて、他の実施態様によれば、前記構造物の前記被補強面は、前記構造物の凹状曲り部表面に連接した水平面を有しており、先ず、前記水平面とされる被補強面に接着材を塗布し、
他の前記繊維強化シートを、前記接着材が塗布された前記構造物の前記水平面とされる被補強面に押し付けて接着し、
その後、前記工程(a)〜(e)の工程を実施して、前記構造物の凹状曲り部表面とされる被補強面に前記繊維強化シートを接着する。
【0021】
第1の本発明にて、他の実施態様によれば、前記構造物の水平面に接着した前記繊維強化シートと、前記構造物の凹状曲り部表面に接着した前記繊維強化シートとは、所定の長さだけ重ねた重ね継手により接合される。
【0022】
第1の本発明にて、他の実施態様によれば、前記繊維強化シートの前記固定具が設置される領域は、前記繊維強化シートの前記線材の長手方向両端部である。
【0023】
第1の本発明にて、他の実施態様によれば、前記繊維強化シートの少なくとも前記固定具が設置される領域は、予め樹脂を塗布して硬化させ、前記領域の前記線材を一体とする。或いは、他の実施態様によれば、前記繊維強化シートの少なくとも前記固定具が設置される領域は、予め、ガラス繊維、炭素繊維又は有機繊維にて作製された、クロス材、マット材又は不織布を適合し、樹脂を塗布して硬化させ、前記領域の前記線材を一体とする。
【0024】
第1の本発明にて、他の実施態様によれば、前記樹脂は、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂若しくはフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、又は、ポリアミド樹脂若しくはポリビニルアルコール系樹脂などの熱可塑性樹脂である。
【0025】
第1の本発明にて、他の実施態様によれば、前記繊維強化シートの前記固定具が設置される領域には、前記固定具を取り付けるための所定の直径の穴が形成される。
【0026】
第1の本発明にて、他の実施態様によれば、前記固定具は、コンクリートアンカーピン、プラスチックアンカーピン又はコンクリート釘である。
【0027】
第1の本発明にて、他の実施態様によれば、前記固定具が設置される領域は、前記構造物の凹状曲り部表面と前記繊維強化シートとの間の距離が最も離間した領域或いはその近傍である。
【0028】
第1の本発明にて、他の実施態様によれば、前記固定具は、L形アングル、真直板状部材、又は半円形凹状板状部材と、固定ピンとを有する。また、他の実施態様によれば、前記固定ピンは、コンクリートアンカーピン、プラスチックアンカーピン又はコンクリート釘である。
【0029】
第2の本発明によれば、強化繊維にマトリクス樹脂が含浸され、硬化された連続した繊維強化プラスチック線材を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、線材を互いに線材固定材にて固定した繊維強化シートを、構造物の凹状曲り部表面及び該凹状曲り部表面に連接した水平面を含む被補強面に接着材にて接着して一体化する構造物の補強方法において、
前記構造物の凹状曲り部表面及び該凹状曲り部表面に連接した水平面を含む被補強面に接着材を塗布し、
前記繊維強化シートを、前記繊維強化シートの線材の長手方向が前記構造物の凹状曲り部の曲線形状に沿うようにして前記構造物の被補強面と対向させて配置し、
次いで、前記接着材が塗布された前記構造物の被補強面に前記繊維強化シートを押し付け、前記凹状曲り部表面に対しては、前記繊維強化シートを前記繊維強化シートの弾性力に抗して、前記接着材が塗布された前記構造物の凹状曲り部の表面の方へと押圧して弾性変形させ、この状態を固定具にて仮固定し、
前記繊維強化シートの前記被補強面と対向した側とは反対の表面側へと侵出した接着材を平らに均し、必要に応じて、前記繊維強化シートの表面側から接着材を塗布し、
その後、前記接着材を硬化させる、
ことを特徴とする構造物の補強方法が提供される。
【0030】
第2の本発明にて、一実施態様によれば、前記固定具が設置される領域は、前記構造物の凹状曲り部表面と前記繊維強化シートとの間の距離が最も離間した領域或いはその近傍である。
【0031】
第2の本発明にて、他の実施態様によれば、前記固定具は、L形アングル、真直板状部材、又は半円形凹状板状部材と、固定ピンとを有する。又、他の実施態様によれば、前記固定ピンは、コンクリートアンカーピン、プラスチックアンカーピン又はコンクリート釘である。
【0032】
第2の本発明にて、他の実施態様によれば、前記繊維強化シートの前記固定具が設置される領域は、前記繊維強化シートの前記線材の長手方向両端部、及び、前記凹状曲り部表面に連接した前記水平面であって前記凹状曲り部表面に近接した領域である。
【0033】
第2の本発明にて、他の実施態様によれば、前記繊維強化シートの少なくとも前記固定具が設置される領域は、予め樹脂を塗布して硬化させ、前記領域の前記線材を一体とする。或いは、他の実施態様によれば、前記繊維強化シートの少なくとも前記固定具が設置される領域は、予め、ガラス繊維、炭素繊維又は有機繊維にて作製された、クロス材、マット材又は不織布を適合し、樹脂を塗布して硬化させ、前記領域の前記線材を一体とする。
【0034】
第2の本発明にて、他の実施態様によれば、前記樹脂は、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂若しくはフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、又は、ポリアミド樹脂若しくはポリビニルアルコール系樹脂などの熱可塑性樹脂である。
【0035】
第2の本発明にて、他の実施態様によれば、前記繊維強化シートの前記固定具が設置される領域には、前記固定具を取り付けるための所定の直径の穴が形成される。
【0036】
第2の本発明にて、他の実施態様によれば、前記固定具は、コンクリートアンカーピン、プラスチックアンカーピン又はコンクリート釘である。
【0037】
上記各本発明にて、一実施態様によれば、前記接着材は、パテ状の熱硬化性樹脂、又は、無機系接着材料である。
【0038】
上記各本発明にて、他の実施態様によれば、前記パテ状の熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂、MMA樹脂、ビニルエステル樹脂、又は、不飽和ポリエステル樹脂であり、前記無機系接着材料はポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントペースト、又は、セメントペーストである。
【0039】
上記各本発明にて、他の実施態様によれば、前記構造物の凹状曲り部は、コンクリート構造物の床版下面凹状曲り部、又は、カルバートのハンチ部である。
【0040】
上記各本発明にて、他の実施態様によれば、前記繊維強化プラスチック線材の強化繊維は、炭素繊維;ガラス繊維;バサルト繊維;アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエステルなどの有機繊維;が単独で、又は、複数種混入してハイブリッドにて使用される。
【0041】
上記各本発明にて、他の実施態様によれば、前記繊維強化プラスチック線材のマトリクス樹脂は、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂若しくはフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、又は、ポリアミド樹脂若しくはポリビニルアルコール系樹脂などの熱可塑性樹脂である。
【0042】
上記各本発明にて、他の実施態様によれば、前記繊維強化プラスチック線材は、直径が0.5〜3mmの円形断面形状であるか、又は、幅が1〜10mm、厚みが0.1〜2mmとされる矩形断面形状である。
【0043】
上記各本発明にて、他の実施態様によれば、前記各繊維強化プラスチック線材は、互いに0.05〜3.0mmだけ離間している。
【0044】
上記各本発明にて、他の実施態様によれば、前記繊維強化シートは、幅が50〜1000mmである。
【0045】
上記各本発明にて、他の実施態様によれば、前記線材固定材は、前記各繊維強化プラスチック線材の長手方向に対して垂直方向に複数本の前記繊維強化プラスチック線材を編み付ける横糸である。
【0046】
上記各本発明にて、他の実施態様によれば、前記横糸は、ガラス繊維、有機繊維又は綿繊維から成る糸条である。
【発明の効果】
【0047】
本発明によれば、複数本の繊維強化プラスチック線材を長手方向に引き揃えて有する繊維強化シートを使用して、コンクリート構造物の床版下面凹状部、又は、カルバートのハンチ部などとされる構造物の凹状曲り部を作業性良く補強することができる。
【0048】
また、本発明によれば、複数本の繊維強化プラスチック線材を長手方向に引き揃えて形成される繊維強化シートを使用して、コンクリート構造物の床版下面凹状部及びカルバートのハンチ部などとされる構造物の凹状曲り部を含む被補強面を作業性良く補強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の構造物の補強方法に使用し得る繊維強化シートの一実施例を示す斜視図である。
【図2】本発明の構造物の補強方法に使用し得る繊維強化シートを構成する繊維強化プラスチック線材の断面図である。
【図3】本発明の構造物の補強方法に使用し得る繊維強化シートの一実施例を示す図であり、図3(a)は平面図、図3(b−1)は両端部を補強した状態を示す平面図、図3(b−2)は側面図である。
【図4】繊維強化シートを構造物の凹状曲り部に仮固定した状態を示す斜視図である。
【図5】本発明の構造物の補強方法の一実施例を説明する工程図である。
【図6】図6(a)は、本発明の構造物の補強方法の他の実施例を説明する図であり、図6(b)は、繊維強化シートを構造物の凹状曲り部に仮固定した状態を示す斜視図である。
【図7】本発明の構造物の補強方法の他の実施例を説明する工程図である。
【図8】固定具を構成する板状部材の実施例を説明する断面図である。
【図9】本発明の構造物の補強方法の他の実施例を説明する図である。
【図10】本発明の構造物の補強方法の他の実施例を説明する図である。
【図11】図10に示す実施例における、繊維強化シートを構造物の凹状曲り部に仮固定した状態を示す斜視図である。
【図12】本発明の構造物の補強方法の他の実施例を説明する工程図である。
【図13】本発明の構造物の補強方法の他の実施例における、繊維強化シートを構造物の凹状曲り部に仮固定した状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明に係る構造物の補強方法を図面に則して更に詳しく説明する。
【0051】
実施例1
(繊維強化シート)
図1に、本発明に係る構造物の補強方法に使用する繊維強化シート1の一実施例を示す。繊維強化シート1は、連続した繊維強化プラスチック線材2を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、各線材2を互いに線材固定材3にて固定される。
【0052】
繊維強化プラスチック線材2は、一方向に配向された多数本の連続した強化繊維fにマトリクス樹脂Rが含浸され硬化された細長形状(細径)のものであり、弾性を有している。従って、斯かる弾性の繊維強化プラスチック線材2をスダレ状に、即ち、線材2が互いに近接離間して引き揃えられたシート形状とされる繊維強化シート1は、その長手方向に弾性を有している。そのために、例えば、繊維強化シート1は、搬送時には、長手方向に所定半径にて巻き込んだ状態にて持ち運びが可能であり、極めて可搬性に富んでいる。また、繊維強化シート1は、繊維強化プラスチック線材2にて構成されているために、搬送時に、従来の未含浸強化繊維シートのように、強化繊維の配向が乱れたり、糸切れを生じるといった心配は全くない。
【0053】
更に説明すると、細径の繊維強化プラスチック線材2は、直径(d)が0.5〜3mmの略円形断面形状(図2(a))であるか、又は、幅(w)が1〜10mm、厚み(t)が0.1〜2mmとされる略矩形断面形状(図2(b))とし得る。勿論、必要に応じて、その他の種々の断面形状とすることができる。
【0054】
上述のように、一方向に引き揃えスダレ状とされた繊維強化シート1において、各線材2は、互いに空隙(g)=0.05〜3.0mmだけ近接離間して、線材固定材3にて固定される。また、このようにして形成された繊維強化シート1の長さ(L)及び幅(W)は、補強される構造物の寸法、形状に応じて適宜決定されるが、取扱い上の問題から、一般に、全幅(W)は、50〜1000mmとされる。又、長さ(L)は、1〜5m程度の短冊状のもの、或いは、100m以上のものを製造し得るが、使用時においては、適宜切断して使用される。
【0055】
また、繊維強化シート1の長さ(L)を1〜5m程度として、幅(W)をこれより長く1〜10m程度として製造することも可能である。この場合、上述したように、繊維強化プラスチック線材2を伸ばした状態で繊維強化プラスチック線材2に対して直角方向に巻き、スダレ状に巻き込んで搬送することもできる。
【0056】
強化繊維fとしては、炭素繊維;ガラス繊維;バサルト繊維;更には、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエステルなどの有機繊維;が単独で、又は、複数種混入してハイブリッドにて使用することができる。
【0057】
繊維強化プラスチック線材2に含浸されるマトリクス樹脂Rは、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を使用することができ、熱硬化性樹脂としては、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニールエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂などが好適に使用され、又、熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂などが好適に使用可能である。又、樹脂含浸量は、30〜70重量%、好ましくは、40〜60重量%とされる。
【0058】
又、各線材2を線材固定材3にて固定する方法としては、図1に示すように、例えば、線材固定材3として横糸を使用し、一方向にスダレ状に配列された複数本の線材2から成るシート形態とされる線材、即ち、連続した線材シートを、線材に対して直交して一定の間隔(P)にて打ち込み、編み付ける方法を採用し得る。横糸3の打ち込み間隔(P)は、特に制限されないが、作製された繊維強化シート1の取り扱い性を考慮して、通常10〜100mm間隔の範囲で選定される。
【0059】
このとき、横糸3は、ガラス繊維、有機繊維或いは綿繊維を複数本束ねた糸条とされる。又、有機繊維としては、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール系繊維などが好適に使用される。
【0060】
(補強方法)
次に、図3〜図5を参照して、構造物の補強方法について説明する。
【0061】
本実施例によれば、図3(a)、(b−1)、(b−2)に示す繊維強化シート1を用いて、図4及び図5(a)〜(c)に示すような構造物100の凹状曲り部101の補強が行われる。また、本実施例では、図4及び図5(a)に示すように、少なくとも、コンクリート構造物100であるカルバートのハンチ部(凹状曲り部)101を補強するものとして説明する。
【0062】
つまり、本発明の構造物の補強方法によれば、強化繊維fにマトリクス樹脂Rが含浸され、硬化された連続した繊維強化プラスチック線材2を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、線材2を互いに線材固定材3にて固定した繊維強化シート1を、構造物の被補強面であるハンチ部(凹状曲り部)101の表面に接着材にて接着して一体化する。詳しくは後述するが、図5(d)に示すように、構造物100の被補強面である床版102の下面である真直平面部102Aには直線状の、即ち、平らな繊維強化シート1を配置して両繊維強化シート1、1を重ね継手110で接合することにより、角部(「入隅部」という。)105を含めたハンチ部101を連続して補強することができる。
【0063】
図3(a)に、本発明の補強方法を実施するに際して使用する、繊維強化シート1を示す。図3(a)の繊維強化シート1は、図1を参照して説明した繊維強化シート1と同じ構成とされる。
【0064】
つまり、繊維強化シート1は、連続した繊維強化プラスチック線材2を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、各線材2を互いに線材固定材3にて固定される。
【0065】
繊維強化プラスチック線材2は、一方向に配向された多数本の連続した強化繊維fにマトリクス樹脂Rが含浸され硬化された細長形状(細径)のものであり、弾性を有している。
【0066】
通常、図4及び図5(a)に示すように、コンクリート構造物100であるカルバートのハンチ部101は、水平の上壁部(床版)102と、上壁部102と垂直壁部103とを接続する斜行した斜行壁104と、により構成されており、本実施例では、少なくとも、水平の上壁部102と斜行壁104とにより形成される入隅部105を含むハンチ部(即ち、凹状曲り部)101(被補強面)の補強が行われる。
【0067】
以下、本発明の特徴部を構成する構造物のハンチ部101、即ち、凹状曲り部の補強について説明する。
【0068】
先ず、繊維強化シート1を貼付すべき構造物の凹状曲り部101の表面に接着材106を塗布する。通常、ハンチ部101の入隅部105は、図5(a)に示すように、開角度αが135〜155°程度の凹状角部とされており、角部105には接着材106を多めに塗布しておくのがよい。
【0069】
接着材106としては、パテ状熱硬化性樹脂、例えば、パテ状のエポキシ樹脂、MMA樹脂などアクリル系樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂が好適に使用される。更に、接着材106としては、無機系接着材料である、ポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントペースト、セメントペーストなどを用いることができる。
【0070】
また、必要に応じて、被補強面であるコンクリート構造物100のハンチ部表面、(即ち、繊維強化シートの被接着面)は、ディスクサンダー、サンドブラスト、スチールショットブラスト、ウォータージェットなどの研削手段により除去し、構造物100の被接着面を適度な粗度を持つ面となるように下地処理を行い、下地処理した面にエポキシ樹脂プライマーを塗布することも可能である。プライマーとしては、エポキシ樹脂系に限ることなくMMA系樹脂など適宜選定される。
【0071】
次いで、図5(b)に示すように、繊維強化シート1の線材2の長手方向(長さL方向)が構造物100の凹状曲り部101(即ち、入隅部105)の曲線形状に対向するようにして、維強化シート1を配置し、矢印Aで示すように、繊維強化シート1を繊維強化シート1の弾性力に抗して凹状曲り部101の表面の方へと押圧して弾性変形させる(図5(c))。
【0072】
この時、繊維強化シート1の下方端部、即ち、図5(b)、(c)にて左側端1aは、斜行壁104と垂直壁103との交点104a近傍に位置し、斜行壁104に対する定着に必要な長さ(L3)が確保される必要がある。また、繊維強化シート1の上方端部、即ち、図5(b)、(c)にて右側端1bは、上壁部、即ち、水平壁102に対する定着に必要な長さ(L4)が確保される程度にまで水平壁102に沿って延在することが重要である。
【0073】
本実施例では、ハンチ部101の寸法は、図5(b)、(c)にて、L1、L2=100〜300mmであり、定着長さL3、L4=100mm以上とされる。
【0074】
次に、繊維強化シート1は、凹状曲り部101の表面の方へと押圧して適合した状態を維持するべく、図5(c)に示すように、固定具200にて仮固定する。固定具200は、コンクリートアンカーピン、プラスチックアンカーピン、又は、コンクリート釘とされる。
【0075】
また、繊維強化シート1の固定具200が設置される領域は、任意の場所とし得るが、本実施例では、図3、図4及び図5(c)に示すように、繊維強化シート1の線材2の長手方向両端部1A、1Bとされる。
【0076】
本実施例にて、繊維強化シート1の少なくとも固定具200が設置される領域1A、1Bは、予め樹脂を塗布して硬化させ、この領域における線材2を一体としておくことが必要である。好ましくは、図3(b−1)、(b−2)に示すように、この領域1A、1Bに、予め、ガラス繊維、炭素繊維、又は、アラミド繊維、ポリエステル繊維などの有機繊維にて作製された、クロス材、マット材又は不織布などとされるシート状の補強材20を適合し、樹脂を塗布して硬化させ、領域1A、1Bの線材2を一体とする。
【0077】
固定具200が設置される領域に塗布する樹脂としては、繊維強化プラスチック線材2に含浸されるマトリクス樹脂Rと同様のものを使用することができ、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を使用することができる。
【0078】
つまり、熱硬化性樹脂としては、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニールエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂などが好適に使用され、又、熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂などが好適に使用可能である。
【0079】
また、繊維強化シート1の固定具200が設置される領域1A、1Bには、固定具200を取り付けるための所定の直径、通常、直径2〜6mmの穴21が複数個、例えばシート幅(W)方向に2個形成される。この穴21を利用して、上記固定具200であるコンクリートアンカーピン、プラスチックアンカーピン、又は、コンクリート釘が挿通され、繊維強化シート1をコンクリート構造体100に仮固定する。
【0080】
このとき、繊維強化シート1を凹状曲り部101へと押圧することにより、接着材106がシート1の隙間gから、繊維強化シート1の凹状曲り部101と対向した側とは反対の表面側へと侵出する。このシート1の隙間gから侵出した接着材106は、ヘラなどを使用して、シート表面に平らに均す。また、必要に応じて、繊維強化シート1の表面側から更に接着材106を塗布しても良い。
【0081】
次いで、接着材106を硬化させる。
【0082】
接着材106が硬化した時点において、固定具200を除去する。繊維強化シート1は、凹状曲がり部101における入隅部105及びその両隣領域の表面に接着されており、固定具200を除去しても、繊維強化シート1が有する弾性力により繊維強化シート1がハンチ部(凹状曲がり部)101の表面から剥がれることはない。ただし、固定具200は、除去せずに固定させたままとしても、勿論、問題はない。
【0083】
このように、本実施例によれば、繊維強化シート1を隙間無く良好にコンクリート構造物100の凹状曲がり部101に一体化することができ、工事期間の短縮等、作業効率の向上を図ることができる。
【0084】
上記説明では、ハンチ部101の補強方法についての説明を簡単にするために、図4及び図5(a)〜(c)に示すように、ハンチ部101に繊維強化シート1を貼り付ける態様について説明した。
【0085】
しかし、通常、構造物100の床版下面水平壁面にも繊維強化シート1が貼り付けられて補強される。この場合は、図5(d)に示すように、先ず、構造物100の床版102の下面(水平面)102Aに直線状の、即ち、平らな繊維強化シート1が貼り付けられ、その後、ハンチ部101に繊維強化シート1が、上述の図5(a)〜(c)に示す工程により貼り付けられる。
【0086】
このとき、水平面102Aに接着される繊維強化シート1は、線材2の長手方向が両ハンチ部(凹状曲り部)101へと配向するように配置される。
【0087】
また、このような場合、ハンチ部101に貼り付けられた繊維強化シート1は、図5(d)に示すように、先に構造物の床版下面102Aに貼付された直線状の繊維強化シート1と重ねて配置して、長さ(L4)とされる重ね継手110により接合される。これにより、入隅部105を有するハンチ部分104から床版102の水平壁面102Aを、繊維強化シート1、1により連続して補強することができる。
【0088】
又、別法として、先ず、構造物100のハンチ部101に繊維強化シート1が、上述の図5(a)〜(c)に示す工程により貼り付けられ、その後、構造物100の床版102の下面(水平面)102Aに平らな繊維強化シート1を貼り付けることも可能である。勿論、ハンチ部101に貼り付けられた繊維強化シート1と、後で構造物の床版下面102Aに貼付された直線状の繊維強化シート1とは、重ねて配置して、長さ(L4)とされる重ね継手110により接合される。
【0089】
実施例2
上記実施例1では、繊維強化シート1の固定具200が設置される領域1A、1Bは、繊維強化シート1の線材2の長手方向両端部であるとしたが、これに限定されるものではなく、固定具200が設置される領域を、図6(a)、(b)に示すように、ハンチ部101の角部105近傍とすることもできる。上記実施例1と同じ構成部については、同じ参照番号を付し、再度の説明は省略する。
【0090】
図7(a)〜(c)を参照すると、先の実施例1と同様に、図7(a)に示すコンクリート構造物100であるカルバートのハンチ部(凹状曲り部)101において、先ず、繊維強化シート1を貼付すべき構造物の凹状曲り部101の表面に接着材106を塗布する。角部(入隅部)105に接着材106を多めに塗布しておくのがよい。
【0091】
次いで、図7(b)に示すように、繊維強化シート1の線材2の長手方向(長さL方向)が構造物100の凹状曲り部101の曲線形状に対向するようにして、維強化シート1を配置し、矢印Aで示すように、繊維強化シート1を繊維強化シート1の弾性力に抗して凹状曲り部101の表面の方へと押圧して弾性変形させる(図7(c))。
【0092】
次に、繊維強化シート1は、凹状曲り部101の表面の方へと押圧して適合した状態を維持するべく、図7(c)に示すように、固定具200にて仮固定する。
【0093】
ここまでの工程は、先の図5(a)、(b)を参照しして説明した実施例1と同様である。
【0094】
ただ、本実施例2では、繊維強化シート1の固定具200が設置される領域は、入り隅部105或いはその近傍とされる。
【0095】
つまり、構造物100の凹状曲り部101に対向配置された繊維強化シート1と、凹状曲り部101表面との間の距離が最も離間した領域或いはその近傍である。
【0096】
本実施例2では、固定具200は、図8(a)をも参照すると理解されるように、繊維強化シート1の線材長手方向に直交する幅方向に延在したL形アングル200aをコンクリートピン、プラスチックアンカーピン、又は、コンクリート釘などとされる固定ピン200bなどにて取り付ける構成とされる。
【0097】
上記固定ピン200bの位置は、図7(c)に示すように、ハンチ部101の角部105を通る中心線OX(斜行壁104からの角度α1と、上壁部102からの角度α2が同じ(即ち、α1=α2)とされる位置を通る線)から±xの範囲に入る位置とされる。通常、x=0〜20mm、本実施例では、x1=10mmとした。
【0098】
L形アングル200aは、図8(a)にて、通常、シート取付水平部200a1の幅w1は、10〜40mm、垂直部200a2の高さh1は、5〜30mm、厚さt1は、1.0〜3mmとされ、シート1の幅(W)方向へと延在している。シート取付部200a1には、固定ピン200bの挿入孔200a3が形成されている。
【0099】
勿論、L形アングル200aの代わりに、図8(b)、(c)に示すように、剛性の真直板状部材、又は、半円形凹状板状部材等の板状部材200aとすることもできる。L形アングル(或いは、板状部材)200aの長さは、繊維強化シート1の幅Wと同じか、若干長くなるようにするのが好ましい。
【0100】
L形アングル(或いは、板状部材)200aは、鋼、SUS、プラスチック、セラミクス、FRPなどとし得る。
【0101】
上述のように、本実施例2では、このL形アングル(或いは、板状部材)200aは、コンクリートアンカーピンなどの固定ピン200bを使用して繊維強化シート1を構造物100の凹状曲がり部101の入隅部105領域に仮固定する。
【0102】
この実施例2によれば、上記実施例1のように、繊維強化シート1に対して、L形アングル(或いは、板状部材)200aなどを使用した固定具200が設置される領域に、予め樹脂を塗布して線材を一体としたり、或いは、ガラス繊維、炭素繊維、又はアラミド繊維にて作製されたクロス材、マット材又は不織布を適合し、樹脂を塗布して硬化させ、領域の線材を一体とすることは、必ずしも必要ではない。従って、この点にて、本実施例2は、実施例1に比較すると、より作業効率の向上を図ることができる。
【0103】
また、必要に応じて、実施例2の構成と実施例1の構成とを併用しても良い。即ち、シート1の両端部は、固定具200にて固定し、中央部は、L形アングル(或いは、板状部材)200aなどを使用した固定具200を使用して固定することができる。
【0104】
勿論、この実施例2の場合においても、図7(d)に示すように、ハンチ部101に貼り付けられた繊維強化シート1は、先の実施例と同様に、構造物の床版下面に配置された直線状の繊維強化シート1と重ねて配置して、長さ(L4)とされる重ね継手110により接合することができる。これにより、入隅部105を有するハンチ部分101から床版102を、繊維強化シート1、1により連続して補強することができる。
【0105】
勿論、この場合においても、実施例1で説明したように、水平面に接着される繊維強化シート1は、線材2の長手方向が両ハンチ部(凹状曲り部)101へと配向するように配置される。
【0106】
又、別法として、先ず、構造物100のハンチ部101に繊維強化シート1が、上述の図7(a)〜(c)に示す工程により貼り付けられ、その後、構造物100の床版102の下面(水平面)102Aに平らな繊維強化シート1を貼り付けることも可能である。勿論、ハンチ部101に貼り付けられた繊維強化シート1と、後で構造物の床版下面102Aに貼付された直線状の繊維強化シート1とは、重ねて配置して、長さ(L4)とされる重ね継手110により接合される。
【0107】
(変更実施例)
例えば、図9に示すように、幅Wの繊維強化シート1をハンチ部101の表面に沿って、カルバートの長手方向に、幅Gの隙間を空けて平行に貼付して補強することがある。この場合には、固定具200は、繊維強化シート1の幅より長くなるように形成し、繊維強化シート1の幅より外方へと突出した部分を利用して、固定具200をハンチ部101に固定しても良い。
【0108】
この実施例によれば、繊維強化シート1の線材2を固定具200のL形アングル200aをシート1の両側外側にてアンカーピン200bで固定するため、シート1を損傷することがない。
【0109】
次に、本発明に係る構造物の補強方法の作用効果を実証するために以下の実験を行った。
【0110】
(実験例1)
本実験例では、繊維強化シート1を使用して、図5(a)〜(c)に示すように、接着工法に従ってコンクリート構造物100であるカルバートのハンチ部101を補強した。ハンチ部101の寸法L1、L2=300mmであった。
【0111】
また、本実験例で使用した繊維強化シート1は、図1を参照して説明した構成の繊維強化シート1であった。
【0112】
繊維強化シート1における繊維強化プラスチック線材2は、強化繊維fとして平均径7μm、収束本数12000本のPAN系炭素繊維ストランドを用い、マトリクス樹脂Rとして常温硬化型のエポキシ樹脂を含浸し、硬化して作製した。樹脂含浸量は、50重量%であり、硬化後の繊維強化プラスチック線材2は、直径(d)1.1mmの円形断面を有していた。
【0113】
このようにして得た繊維強化プラスチック線材2を、一方向に引き揃えてスダレ状に配置した後、ポリエステル繊維を横糸3として平織りによりシート状に保持した。横糸3の間隔(P)は50mmであった。
【0114】
このようにして作製した繊維強化シート1は、幅(W)が250mm、長さ(L)が500mmであった。各線材2、2間の間隙(g)は、0.1〜0.3mmであった。
【0115】
繊維強化シート1の両端部に、端部1a、1bから60mmの長さに渡って、シート幅(W)全面にガラス繊維クロス(株式会社日東紡製の「質量200g/m2品」)を補強材20として配置し、エポキシ樹脂(日鉄コンポジット(株)製「FR−E3P」(商品名))を0.2kg/m2塗布し、線材を一体化した。その後、固定具200を挿通するための直径4mmの穴21を穿設した。
【0116】
上記繊維強化シート1を使用してカルバートのハンチ部101を、図5(a)〜(c)を参照して実施例1で説明したと同様の繊維シート接着工法により補強した。
【0117】
先ず、本実験例では、ハンチ部101の入隅部105を中心として、斜行壁104の表面及びコンクリート床版102の下面をディスクサンダーによりケレンした。ケレンしたコンクリート梁100の表面102上に接着材106としてパテ状エポキシ樹脂(日鉄コンポジット(株)製「FB−E7S」(商品名))を塗布し、直線状の、即ち、平らな繊維強化シート1を貼った。
【0118】
次に、入隅部105の角部及びその周辺に接着材106として上記パテ状エポキシ樹脂(日鉄コンポジット(株)製「FB−E7S」(商品名))をたっぷり塗り、繊維強化シート1をハンチ部101に適合し、固定具200としてコンクリートアンカーピンを使用して繊維強化シート1をハンチ部101に仮固定した。定着長さL3、L4は、250mmであった。
【0119】
繊維強化シート1の表面にしみ出した樹脂をゴムベラにより表面を平坦に仕上げた。その後、室温で1週間養生した。繊維強化シート1の貼着面に、何らボイドを発生することなく、ハンチ部101に極めて良好に接着することができた。
【0120】
接着材が硬化した後、固定具200を除去したが、繊維強化シート1がハンチ部101から剥離することはなかった。
【0121】
(実験例2)
本実験例では、上記実験例1で説明したと同じ構成の繊維強化シート1を使用して、図7(a)〜(c)、及び、図9に示すように、幅Wの繊維強化シート1をハンチ部101の表面に沿って、その長手方向に、幅Gの隙間を空けて平行に貼付して、接着工法に従ってコンクリート構造物であるカルバートのハンチ部101を補強した。繊維強化シート1、1間の隙間Gは、100mmであった。
【0122】
固定具200は、L形アングル200a(w1=20mm、h1=20mm、t1=1.6mm)を実験例1で使用したと同じコンクリートアンカーピン200bを使用して、図7(c)にて、角部105からx1=10mmの位置に固定した。定着長さL3、L4は、320mmであった。
【0123】
実験例1より作業性が良く、実験例1と同様の補強性能を発揮することができた。
【0124】
上記実施例1、実施例2、実験例1、実験例2では、コンクリート構造物100のハンチ部101の補強に関して説明したが、本発明の繊維強化シート1を使用した補強方法は、鋼構造物、木造構造物、及び、プラスチック構造物、更には、これらの組み合わせた構造物の凹状曲り部の補強に際しても同様に適用することでき、同様の作用効果を達成し得る。
【0125】
実施例3
上記実施例1、2では、繊維強化シート1を、構造物の凹状曲り部表面に接着材にて接着して一体化する構造物の補強方法について説明した。
【0126】
また、特に、構造物100の床版下面水平壁面102Aにも繊維強化シート1が貼り付けられて補強される場合には、図5(d)、図7(d)に示すように、先ず、構造物100の床版102の下面102Aに直線状の、即ち、平らな繊維強化シート1が貼り付けられ、その後、ハンチ部101に繊維強化シート1が、上述の図5(a)〜(c)に示す工程により貼り付けられる、ものとして説明した。或いは、先ず、ハンチ部101に繊維強化シート1が、上述の図5(a)〜(c)に示す工程により貼り付けられ、その後、構造物100の床版102の下面102Aに直線状の、即ち、平らな繊維強化シート1が貼り付けられるものとして説明した。
【0127】
このような場合、ハンチ部101に貼り付けられた繊維強化シート1は、図5(d)、図7(d)に示すように、構造物の床版下面102Aに貼付された直線状の繊維強化シート1と重ねて配置して、長さ(L4)とされる重ね継手110により接合された。
【0128】
しかしながら、構造物100の両ハンチ部101及び床版102の下面102A、即ち、被補強面を、1枚の連続した直線状の、平らな繊維強化シート1を貼り付けて補強することもできる。
【0129】
つまり、本発明の構造物の補強方法は、凹状曲り部101のみでなく、この凹状曲り部101及びこの曲がり部101に連接した平面部102Aを有する構造物の被補強面にも適用することができる。
【0130】
図10〜図12を参照して、本実施例の構造物の補強方法について説明する。
【0131】
コンクリート構造物100であるカルバートにて、両ハンチ部101は、水平の上壁部(床版)102と、該上壁部102の両側に位置した垂直の壁部103と上壁部102との接続部である斜行壁104と、により構成されている。本実施例では、水平の上壁部102と斜行壁104とにより形成される入隅部105を含むハンチ部(即ち、凹状曲り部)101及び上壁部102の下面102Aを含む被補強面の補強が同時に行われる。
【0132】
本実施例におけるコンクリート構造物100であるカルバートの両ハンチ部101の構造、及び、繊維強化シート1は、実施例1、2で説明したと同様であるので、上記実施例1、2と同じ構成部については、同じ参照番号を付し、再度の説明は省略する。
【0133】
尚、本実施例では、カルバートのハンチ部(凹状曲り部)101の補強方法は、実施例2の補強方法を採用した。従って、実施例2の説明をも参照しながら、図12(a)〜(b)を参照して、本実施例の構造物の補強方法を説明する。
【0134】
図12(a)を参照すると、先の実施例2と同様に、コンクリート構造物100において、先ず、繊維強化シート1を貼付すべき構造物の凹状曲り部101及び上壁部102の下面(水平面)102Aから成る被補強面に接着材106を塗布する。角部(入隅部)105に接着材106を多めに塗布しておくのがよい。
【0135】
次いで、図12(b)に示すように、繊維強化シート1の線材2の長手方向(長さL方向)が構造物100の凹状曲り部101の曲線形状に沿うようにして構造物100の被補強面101、102Aと対向させて配置する。次いで、接着材106が塗布された構造物100の被補強面101、102Aに繊維強化シート1を押し付ける。このとき、本実施例では、先ず、図12にて左側の凹状曲り部101の表面に対しては、矢印Aで示すように、繊維強化シート1の一端側1Aを繊維強化シート1の弾性力に抗して凹状曲り部101の表面の方へと押圧して弾性変形させる(図12(c))。
【0136】
次に、繊維強化シート1は、凹状曲り部101の表面の方へと押圧して適合した状態を維持するべく、図12(c)に示すように、固定具200にて仮固定する。
【0137】
本実施例では、実施例2と同様に、繊維強化シート1の固定具200が設置される領域は、入り隅部105或いはその近傍とされる。
【0138】
つまり、構造物100の凹状曲り部101に対向配置された繊維強化シート1と、凹状曲り部表面との間の距離が最も離間した領域或いはその近傍である。
【0139】
本実施例では、固定具200は、実施例2と同様とされ、図8(a)をも参照すると理解されるように、繊維強化シート1の線材長手方向に直交する幅方向に延在したL形アングル200aをコンクリートピン、プラスチックアンカーピン、又は、コンクリート釘などとされる固定ピン200bなどにて取り付ける構成とされる。
【0140】
上記固定ピン200bの位置は、図12(c)に示すように、ハンチ部101の角部105を通る中心線OX(斜行壁104からの角度α1と、上壁部102からの角度α2が同じ(即ち、α1=α2)とされる位置を通る線)から±xの範囲に入る位置とされる。通常、x=0〜20mm、本実施例では、x1=10mmとした。
【0141】
L形アングル200aは、実施例2において、図8(a)を参照して説明したように、通常、シート取付部200a1の幅w1は、10〜40mm、高さh1は、5〜30mm、厚さt1は、1.0〜3mmとされ、シート1の幅(W)方向へと延在している。シート取付部200a1には、固定ピン200bの挿入孔200a3が形成されている。
【0142】
勿論、L形アングル200aの代わりに、図8(b)、(c)に示すように、剛性の真直板状部材、又は、半円形凹状板状部材等の板状部材200aとすることもできる。L形アングル(或いは、板状部材)200aの長さは、繊維強化シート1の幅Wと同じか、若干長くなるようにするのが好ましい。
【0143】
L形アングル(或いは、板状部材)200aは、鋼、SUS、プラスチック、セラミクス、FRPなどとし得る。
【0144】
上述のように、本実施例では、このL形アングル(或いは、板状部材)200aは、コンクリートアンカーピンなどの固定ピン200bを使用して繊維強化シート1を構造物100の凹状曲がり部101の入隅部105領域に仮固定する。
【0145】
次いで、繊維強化シート1を、図12(c)にて矢印B方向へと、上壁部102の下面(水平面)102Aに押し付け、接着する。
【0146】
その後、図12にて右側の凹状曲り部101の表面に対して、図12(c)にて矢印C方向へと、繊維強化シート1の他端側1Bを繊維強化シート1の弾性力に抗して凹状曲り部101の表面の方へと押圧して弾性変形させる(図12(d))。引き続いて、繊維強化シート1は、凹状曲り部101の表面の方へと押圧して適合した状態を維持するべく、図12(d)に示すように、固定具200にて仮固定する。仮固定の態様は、左側の凹状曲り部101に対するのと同様である。
【0147】
繊維強化シート1の被補強面と対向した側とは反対の表面側へと侵出した接着材106は、平らに均し、必要に応じて、繊維強化シート1の表面側から接着材106を塗布する。
【0148】
この状態で、接着材106を硬化させる。
【0149】
もちろん、本実施例においても、実施例2で説明したように、例えば、図9に示すように、幅Wの繊維強化シート1をハンチ部101及び水平部102の表面、即ち、構造物の被補強面に沿って、カルバートの長手方向に、幅Gの隙間を空けて平行に貼付して補強することがある。この場合には、固定具200は、繊維強化シート1の幅より長くなるように形成し、繊維強化シート1の幅より外方へと突出した部分を利用して、固定具200をハンチ部101に固定しても良い。
【0150】
この変更実施例によれば、繊維強化シート1の線材2を固定具200のL形アングル200aをシート1の両側外側にてアンカーピン200bで固定するため、シート1を損傷することがない。
【0151】
尚、本実施例では、カルバートのハンチ部(凹状曲り部)101の補強方法は、実施例2の補強方法を採用した。当然なことに、本実施例においても変更実施例として、図13に示すように、図3〜図5を参照して説明した実施例1に従ったハンチ部(凹状曲り部)101の補強方法を採用しても良い。
【0152】
つまり、固定具200は、図13に示すように、繊維強化シート1の長手方向両端部1A、1Bに近接して、及び、上壁部102の水平面102Aであって凹状曲り部表面に近接した領域とすることができる。
【0153】
この変更実施例においても、実施例1にて説明したように、図3に示すように、繊維強化シート1の少なくとも固定具200が設置される領域は、予め樹脂を塗布して硬化させ、この領域の線材2を一体とすることができ、また、予め、ガラス繊維、炭素繊維又は有機繊維にて作製された、クロス材、マット材又は不織布を適合し、樹脂を塗布して硬化させ、この領域の線材2を一体とすることができる。また、繊維強化シート1の固定具200が設置される領域には、固定具200を取り付けるための所定の直径の穴を形成しても良い。
【0154】
上記実施例では、コンクリート構造物100のハンチ部101の補強に関して説明したが、本発明の繊維強化シート1を使用した補強方法は、鋼構造物、木造構造物、及び、プラスチック構造物、更には、これらの組み合わせた構造物の凹状曲り部の補強に際しても同様に適用することでき、同様の作用効果を達成し得る。
【符号の説明】
【0155】
1 繊維強化シート
2 繊維強化プラスチック線材
3 線材固定材(横糸)
20 補強材
21 穴
100 構造物
101 凹状曲り部(ハンチ部)
102 カルバート上壁部(床版)
103 カルバート垂直壁
104 カルバート斜行壁
105 入隅部(角部)
106 接着材
110 重ね継手
200 固定具
200a 板状部材
200b 固定ピン
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化シートを使用して、土木建築構造物であるコンクリート構造物或いは鋼構造物、更には、木製構造物、プラスチック製構造物、或いは、これらの複合構造物(本願明細書では、コンクリート構造物、鋼構造物、木製構造物、プラスチック製構造物、及び、これらの複合構造物を含めて単に「構造物」という。)を補強する構造物の補強方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、既存或いは新設の構造物の補強方法として、特許文献1に記載されるような、構造物の表面に、炭素繊維シートやアラミド繊維シートなどの連続強化繊維シートを貼り付けたり、巻き付けたりする炭素繊維シート接着工法やアラミド繊維シート接着工法などの連続繊維シート接着工法がある。
【0003】
更には、現場樹脂含浸を省略するため工場生産した板厚1〜2mm、幅5cm程度のFRP板をコンクリート表面にパテ状接着材を用いて接着するFRP板接着補強工法も開発されている。
【0004】
しかしながら、上記連続繊維シート接着工法は、マトリクス樹脂(含浸接着剤)を連続繊維シートに工事現場で含浸させながら補強構造物に接着するために、マトリクス樹脂の強化繊維束への含浸に手間を要し、マトリクス樹脂の含浸不良、連続繊維シートの膨れ、浮きの発生など現地施工による品質不良が生じ易いという欠点があった。
【0005】
また、繊維シートの連続繊維に施工現場で樹脂を含浸させるため、繊維シートの繊維目付量を大きくすると、繊維束内部まで含浸接着剤が含浸しないといった問題、また、含浸用の低粘度のマトリクス樹脂を構造物との接着剤として兼用するため、繊維シートの重量が重くなり過ぎると接着剤の硬化前に連続繊維シートが剥離、脱落する恐れがあった。
【0006】
このため、連続繊維シートの繊維目付量を大きくすることが難しく炭素繊維シートの場合で600g/m2程度が限界であった。
【0007】
このため、必要補強量が多い場合には多層積層する必要があり、工期が長くなる、コスト高となる、などの欠点があった。
【0008】
又、繊維強化プラスチック平板を用いる場合は、板の剛性が強いため曲げることが極めて難しく、また、剛性に対する樹脂との接着面積が小さいため、充分な接着力を得ることが難しいといった問題がある。
【0009】
そこで、本発明者らは、特許文献2に記載するように、強化繊維にマトリックス樹脂が含浸され、硬化された連続した繊維強化プラスチック線材を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、その後線材を互いに固定用繊維材にて固定した繊維強化シートを提案した。
【0010】
特許文献3には、強化繊維にマトリックス樹脂が含浸され、硬化された連続した繊維強化プラスチック線材を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、その後線材を互いに固定用繊維材にて固定された強化繊維シートを使用した構造物の補強方法が提案されている。
【0011】
このような繊維強化シートは、施工時の糸切れの問題を解決し、又、施工に際してのボイドの発生も回避して被補強面に対して充分な接着力を得ることができ、コンクリート構造物の補強などを極めて作業性良く実施することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平3−224901号公報
【特許文献2】特開2004−197325号公報
【特許文献3】特開2008−637584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記特許文献2に記載の繊維強化シートは、剛性があるため接着剤でコンクリート面に貼り付けても、施工面が略平面でないと浮き上がり、本来のコンクリート面との一体化による期待される補強効果を得ることができない。
【0014】
そこで、特許文献3では、床版下面やボックスカルバートのハンチ部などの凹状曲り部表面へ施工する際には、ハンチ入隅部及び出隅部に曲げ成型された繊維強化シートを配置し、ハンチ形状のある構造物を補強している。
【0015】
斯かる補強方法では、予め、補強すべき構造物の形状に合わせて曲げ成型された繊維強化シートを作製しておくことが必要となり、作業性の点で問題がある。
【0016】
そこで、本発明の目的は、複数本の繊維強化プラスチック線材を長手方向に引き揃えて形成される繊維強化シートを使用して、コンクリート構造物の床版下面凹状部、又は、カルバートのハンチ部などとされる構造物の凹状曲り部を作業性良く補強することのできる作業効率が高い構造物の補強方法を提供することである。
【0017】
本発明の他の目的は、複数本の繊維強化プラスチック線材を長手方向に引き揃えて形成される繊維強化シートを使用して、コンクリート構造物の床版下面凹状部及びカルバートのハンチ部などとされる構造物の凹状曲り部を含む被補強面を作業性良く補強することのできる作業効率が高い構造物の補強方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的は本発明に係る構造物の補強方法にて達成される。要約すれば、第1の本発明によれば、強化繊維にマトリクス樹脂が含浸され、硬化された連続した繊維強化プラスチック線材を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、線材を互いに線材固定材にて固定した繊維強化シートを、少なくとも構造物の凹状曲り部表面を含む被補強面に接着材にて接着して一体化する構造物の補強方法において、
(a)前記構造物の凹状曲り部表面に接着材を塗布し、
(b)前記繊維強化シートを、前記繊維強化シートの線材の長手方向が前記構造物の凹状曲り部の曲線形状に沿うように構造物の凹状曲り部表面に対向させて配置し、
(c)次いで、前記繊維強化シートを前記繊維強化シートの弾性力に抗して、前記接着材が塗布された前記構造物の凹状曲り部の表面の方へと押圧して弾性変形させ、この状態を固定具にて仮固定し、
(d)前記繊維強化シートの前記凹状曲り部と対向した側とは反対の表面側へと侵出した接着材を平らに均し、必要に応じて、前記繊維強化シートの表面側から接着材を塗布し、
(e)その後、前記接着材を硬化させる、
ことを特徴とする構造物の補強方法が提供される。
【0019】
第1の本発明にて、一実施態様によれば、前記構造物の前記被補強面は、前記構造物の凹状曲り部表面に連接した水平面を有しており、
前記工程(a)〜(e)の工程を実施して、前記構造物の凹状曲り部表面とされる被補強面に前記繊維強化シートを接着した後、
次いで、前記水平面とされる被補強面に接着材を塗布し、
他の前記繊維強化シートを、前記接着材が塗布された前記構造物の前記水平面とされる被補強面に押し付けて接着する。
【0020】
第1の本発明にて、他の実施態様によれば、前記構造物の前記被補強面は、前記構造物の凹状曲り部表面に連接した水平面を有しており、先ず、前記水平面とされる被補強面に接着材を塗布し、
他の前記繊維強化シートを、前記接着材が塗布された前記構造物の前記水平面とされる被補強面に押し付けて接着し、
その後、前記工程(a)〜(e)の工程を実施して、前記構造物の凹状曲り部表面とされる被補強面に前記繊維強化シートを接着する。
【0021】
第1の本発明にて、他の実施態様によれば、前記構造物の水平面に接着した前記繊維強化シートと、前記構造物の凹状曲り部表面に接着した前記繊維強化シートとは、所定の長さだけ重ねた重ね継手により接合される。
【0022】
第1の本発明にて、他の実施態様によれば、前記繊維強化シートの前記固定具が設置される領域は、前記繊維強化シートの前記線材の長手方向両端部である。
【0023】
第1の本発明にて、他の実施態様によれば、前記繊維強化シートの少なくとも前記固定具が設置される領域は、予め樹脂を塗布して硬化させ、前記領域の前記線材を一体とする。或いは、他の実施態様によれば、前記繊維強化シートの少なくとも前記固定具が設置される領域は、予め、ガラス繊維、炭素繊維又は有機繊維にて作製された、クロス材、マット材又は不織布を適合し、樹脂を塗布して硬化させ、前記領域の前記線材を一体とする。
【0024】
第1の本発明にて、他の実施態様によれば、前記樹脂は、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂若しくはフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、又は、ポリアミド樹脂若しくはポリビニルアルコール系樹脂などの熱可塑性樹脂である。
【0025】
第1の本発明にて、他の実施態様によれば、前記繊維強化シートの前記固定具が設置される領域には、前記固定具を取り付けるための所定の直径の穴が形成される。
【0026】
第1の本発明にて、他の実施態様によれば、前記固定具は、コンクリートアンカーピン、プラスチックアンカーピン又はコンクリート釘である。
【0027】
第1の本発明にて、他の実施態様によれば、前記固定具が設置される領域は、前記構造物の凹状曲り部表面と前記繊維強化シートとの間の距離が最も離間した領域或いはその近傍である。
【0028】
第1の本発明にて、他の実施態様によれば、前記固定具は、L形アングル、真直板状部材、又は半円形凹状板状部材と、固定ピンとを有する。また、他の実施態様によれば、前記固定ピンは、コンクリートアンカーピン、プラスチックアンカーピン又はコンクリート釘である。
【0029】
第2の本発明によれば、強化繊維にマトリクス樹脂が含浸され、硬化された連続した繊維強化プラスチック線材を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、線材を互いに線材固定材にて固定した繊維強化シートを、構造物の凹状曲り部表面及び該凹状曲り部表面に連接した水平面を含む被補強面に接着材にて接着して一体化する構造物の補強方法において、
前記構造物の凹状曲り部表面及び該凹状曲り部表面に連接した水平面を含む被補強面に接着材を塗布し、
前記繊維強化シートを、前記繊維強化シートの線材の長手方向が前記構造物の凹状曲り部の曲線形状に沿うようにして前記構造物の被補強面と対向させて配置し、
次いで、前記接着材が塗布された前記構造物の被補強面に前記繊維強化シートを押し付け、前記凹状曲り部表面に対しては、前記繊維強化シートを前記繊維強化シートの弾性力に抗して、前記接着材が塗布された前記構造物の凹状曲り部の表面の方へと押圧して弾性変形させ、この状態を固定具にて仮固定し、
前記繊維強化シートの前記被補強面と対向した側とは反対の表面側へと侵出した接着材を平らに均し、必要に応じて、前記繊維強化シートの表面側から接着材を塗布し、
その後、前記接着材を硬化させる、
ことを特徴とする構造物の補強方法が提供される。
【0030】
第2の本発明にて、一実施態様によれば、前記固定具が設置される領域は、前記構造物の凹状曲り部表面と前記繊維強化シートとの間の距離が最も離間した領域或いはその近傍である。
【0031】
第2の本発明にて、他の実施態様によれば、前記固定具は、L形アングル、真直板状部材、又は半円形凹状板状部材と、固定ピンとを有する。又、他の実施態様によれば、前記固定ピンは、コンクリートアンカーピン、プラスチックアンカーピン又はコンクリート釘である。
【0032】
第2の本発明にて、他の実施態様によれば、前記繊維強化シートの前記固定具が設置される領域は、前記繊維強化シートの前記線材の長手方向両端部、及び、前記凹状曲り部表面に連接した前記水平面であって前記凹状曲り部表面に近接した領域である。
【0033】
第2の本発明にて、他の実施態様によれば、前記繊維強化シートの少なくとも前記固定具が設置される領域は、予め樹脂を塗布して硬化させ、前記領域の前記線材を一体とする。或いは、他の実施態様によれば、前記繊維強化シートの少なくとも前記固定具が設置される領域は、予め、ガラス繊維、炭素繊維又は有機繊維にて作製された、クロス材、マット材又は不織布を適合し、樹脂を塗布して硬化させ、前記領域の前記線材を一体とする。
【0034】
第2の本発明にて、他の実施態様によれば、前記樹脂は、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂若しくはフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、又は、ポリアミド樹脂若しくはポリビニルアルコール系樹脂などの熱可塑性樹脂である。
【0035】
第2の本発明にて、他の実施態様によれば、前記繊維強化シートの前記固定具が設置される領域には、前記固定具を取り付けるための所定の直径の穴が形成される。
【0036】
第2の本発明にて、他の実施態様によれば、前記固定具は、コンクリートアンカーピン、プラスチックアンカーピン又はコンクリート釘である。
【0037】
上記各本発明にて、一実施態様によれば、前記接着材は、パテ状の熱硬化性樹脂、又は、無機系接着材料である。
【0038】
上記各本発明にて、他の実施態様によれば、前記パテ状の熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂、MMA樹脂、ビニルエステル樹脂、又は、不飽和ポリエステル樹脂であり、前記無機系接着材料はポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントペースト、又は、セメントペーストである。
【0039】
上記各本発明にて、他の実施態様によれば、前記構造物の凹状曲り部は、コンクリート構造物の床版下面凹状曲り部、又は、カルバートのハンチ部である。
【0040】
上記各本発明にて、他の実施態様によれば、前記繊維強化プラスチック線材の強化繊維は、炭素繊維;ガラス繊維;バサルト繊維;アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエステルなどの有機繊維;が単独で、又は、複数種混入してハイブリッドにて使用される。
【0041】
上記各本発明にて、他の実施態様によれば、前記繊維強化プラスチック線材のマトリクス樹脂は、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂若しくはフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、又は、ポリアミド樹脂若しくはポリビニルアルコール系樹脂などの熱可塑性樹脂である。
【0042】
上記各本発明にて、他の実施態様によれば、前記繊維強化プラスチック線材は、直径が0.5〜3mmの円形断面形状であるか、又は、幅が1〜10mm、厚みが0.1〜2mmとされる矩形断面形状である。
【0043】
上記各本発明にて、他の実施態様によれば、前記各繊維強化プラスチック線材は、互いに0.05〜3.0mmだけ離間している。
【0044】
上記各本発明にて、他の実施態様によれば、前記繊維強化シートは、幅が50〜1000mmである。
【0045】
上記各本発明にて、他の実施態様によれば、前記線材固定材は、前記各繊維強化プラスチック線材の長手方向に対して垂直方向に複数本の前記繊維強化プラスチック線材を編み付ける横糸である。
【0046】
上記各本発明にて、他の実施態様によれば、前記横糸は、ガラス繊維、有機繊維又は綿繊維から成る糸条である。
【発明の効果】
【0047】
本発明によれば、複数本の繊維強化プラスチック線材を長手方向に引き揃えて有する繊維強化シートを使用して、コンクリート構造物の床版下面凹状部、又は、カルバートのハンチ部などとされる構造物の凹状曲り部を作業性良く補強することができる。
【0048】
また、本発明によれば、複数本の繊維強化プラスチック線材を長手方向に引き揃えて形成される繊維強化シートを使用して、コンクリート構造物の床版下面凹状部及びカルバートのハンチ部などとされる構造物の凹状曲り部を含む被補強面を作業性良く補強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の構造物の補強方法に使用し得る繊維強化シートの一実施例を示す斜視図である。
【図2】本発明の構造物の補強方法に使用し得る繊維強化シートを構成する繊維強化プラスチック線材の断面図である。
【図3】本発明の構造物の補強方法に使用し得る繊維強化シートの一実施例を示す図であり、図3(a)は平面図、図3(b−1)は両端部を補強した状態を示す平面図、図3(b−2)は側面図である。
【図4】繊維強化シートを構造物の凹状曲り部に仮固定した状態を示す斜視図である。
【図5】本発明の構造物の補強方法の一実施例を説明する工程図である。
【図6】図6(a)は、本発明の構造物の補強方法の他の実施例を説明する図であり、図6(b)は、繊維強化シートを構造物の凹状曲り部に仮固定した状態を示す斜視図である。
【図7】本発明の構造物の補強方法の他の実施例を説明する工程図である。
【図8】固定具を構成する板状部材の実施例を説明する断面図である。
【図9】本発明の構造物の補強方法の他の実施例を説明する図である。
【図10】本発明の構造物の補強方法の他の実施例を説明する図である。
【図11】図10に示す実施例における、繊維強化シートを構造物の凹状曲り部に仮固定した状態を示す斜視図である。
【図12】本発明の構造物の補強方法の他の実施例を説明する工程図である。
【図13】本発明の構造物の補強方法の他の実施例における、繊維強化シートを構造物の凹状曲り部に仮固定した状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明に係る構造物の補強方法を図面に則して更に詳しく説明する。
【0051】
実施例1
(繊維強化シート)
図1に、本発明に係る構造物の補強方法に使用する繊維強化シート1の一実施例を示す。繊維強化シート1は、連続した繊維強化プラスチック線材2を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、各線材2を互いに線材固定材3にて固定される。
【0052】
繊維強化プラスチック線材2は、一方向に配向された多数本の連続した強化繊維fにマトリクス樹脂Rが含浸され硬化された細長形状(細径)のものであり、弾性を有している。従って、斯かる弾性の繊維強化プラスチック線材2をスダレ状に、即ち、線材2が互いに近接離間して引き揃えられたシート形状とされる繊維強化シート1は、その長手方向に弾性を有している。そのために、例えば、繊維強化シート1は、搬送時には、長手方向に所定半径にて巻き込んだ状態にて持ち運びが可能であり、極めて可搬性に富んでいる。また、繊維強化シート1は、繊維強化プラスチック線材2にて構成されているために、搬送時に、従来の未含浸強化繊維シートのように、強化繊維の配向が乱れたり、糸切れを生じるといった心配は全くない。
【0053】
更に説明すると、細径の繊維強化プラスチック線材2は、直径(d)が0.5〜3mmの略円形断面形状(図2(a))であるか、又は、幅(w)が1〜10mm、厚み(t)が0.1〜2mmとされる略矩形断面形状(図2(b))とし得る。勿論、必要に応じて、その他の種々の断面形状とすることができる。
【0054】
上述のように、一方向に引き揃えスダレ状とされた繊維強化シート1において、各線材2は、互いに空隙(g)=0.05〜3.0mmだけ近接離間して、線材固定材3にて固定される。また、このようにして形成された繊維強化シート1の長さ(L)及び幅(W)は、補強される構造物の寸法、形状に応じて適宜決定されるが、取扱い上の問題から、一般に、全幅(W)は、50〜1000mmとされる。又、長さ(L)は、1〜5m程度の短冊状のもの、或いは、100m以上のものを製造し得るが、使用時においては、適宜切断して使用される。
【0055】
また、繊維強化シート1の長さ(L)を1〜5m程度として、幅(W)をこれより長く1〜10m程度として製造することも可能である。この場合、上述したように、繊維強化プラスチック線材2を伸ばした状態で繊維強化プラスチック線材2に対して直角方向に巻き、スダレ状に巻き込んで搬送することもできる。
【0056】
強化繊維fとしては、炭素繊維;ガラス繊維;バサルト繊維;更には、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエステルなどの有機繊維;が単独で、又は、複数種混入してハイブリッドにて使用することができる。
【0057】
繊維強化プラスチック線材2に含浸されるマトリクス樹脂Rは、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を使用することができ、熱硬化性樹脂としては、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニールエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂などが好適に使用され、又、熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂などが好適に使用可能である。又、樹脂含浸量は、30〜70重量%、好ましくは、40〜60重量%とされる。
【0058】
又、各線材2を線材固定材3にて固定する方法としては、図1に示すように、例えば、線材固定材3として横糸を使用し、一方向にスダレ状に配列された複数本の線材2から成るシート形態とされる線材、即ち、連続した線材シートを、線材に対して直交して一定の間隔(P)にて打ち込み、編み付ける方法を採用し得る。横糸3の打ち込み間隔(P)は、特に制限されないが、作製された繊維強化シート1の取り扱い性を考慮して、通常10〜100mm間隔の範囲で選定される。
【0059】
このとき、横糸3は、ガラス繊維、有機繊維或いは綿繊維を複数本束ねた糸条とされる。又、有機繊維としては、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール系繊維などが好適に使用される。
【0060】
(補強方法)
次に、図3〜図5を参照して、構造物の補強方法について説明する。
【0061】
本実施例によれば、図3(a)、(b−1)、(b−2)に示す繊維強化シート1を用いて、図4及び図5(a)〜(c)に示すような構造物100の凹状曲り部101の補強が行われる。また、本実施例では、図4及び図5(a)に示すように、少なくとも、コンクリート構造物100であるカルバートのハンチ部(凹状曲り部)101を補強するものとして説明する。
【0062】
つまり、本発明の構造物の補強方法によれば、強化繊維fにマトリクス樹脂Rが含浸され、硬化された連続した繊維強化プラスチック線材2を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、線材2を互いに線材固定材3にて固定した繊維強化シート1を、構造物の被補強面であるハンチ部(凹状曲り部)101の表面に接着材にて接着して一体化する。詳しくは後述するが、図5(d)に示すように、構造物100の被補強面である床版102の下面である真直平面部102Aには直線状の、即ち、平らな繊維強化シート1を配置して両繊維強化シート1、1を重ね継手110で接合することにより、角部(「入隅部」という。)105を含めたハンチ部101を連続して補強することができる。
【0063】
図3(a)に、本発明の補強方法を実施するに際して使用する、繊維強化シート1を示す。図3(a)の繊維強化シート1は、図1を参照して説明した繊維強化シート1と同じ構成とされる。
【0064】
つまり、繊維強化シート1は、連続した繊維強化プラスチック線材2を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、各線材2を互いに線材固定材3にて固定される。
【0065】
繊維強化プラスチック線材2は、一方向に配向された多数本の連続した強化繊維fにマトリクス樹脂Rが含浸され硬化された細長形状(細径)のものであり、弾性を有している。
【0066】
通常、図4及び図5(a)に示すように、コンクリート構造物100であるカルバートのハンチ部101は、水平の上壁部(床版)102と、上壁部102と垂直壁部103とを接続する斜行した斜行壁104と、により構成されており、本実施例では、少なくとも、水平の上壁部102と斜行壁104とにより形成される入隅部105を含むハンチ部(即ち、凹状曲り部)101(被補強面)の補強が行われる。
【0067】
以下、本発明の特徴部を構成する構造物のハンチ部101、即ち、凹状曲り部の補強について説明する。
【0068】
先ず、繊維強化シート1を貼付すべき構造物の凹状曲り部101の表面に接着材106を塗布する。通常、ハンチ部101の入隅部105は、図5(a)に示すように、開角度αが135〜155°程度の凹状角部とされており、角部105には接着材106を多めに塗布しておくのがよい。
【0069】
接着材106としては、パテ状熱硬化性樹脂、例えば、パテ状のエポキシ樹脂、MMA樹脂などアクリル系樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂が好適に使用される。更に、接着材106としては、無機系接着材料である、ポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントペースト、セメントペーストなどを用いることができる。
【0070】
また、必要に応じて、被補強面であるコンクリート構造物100のハンチ部表面、(即ち、繊維強化シートの被接着面)は、ディスクサンダー、サンドブラスト、スチールショットブラスト、ウォータージェットなどの研削手段により除去し、構造物100の被接着面を適度な粗度を持つ面となるように下地処理を行い、下地処理した面にエポキシ樹脂プライマーを塗布することも可能である。プライマーとしては、エポキシ樹脂系に限ることなくMMA系樹脂など適宜選定される。
【0071】
次いで、図5(b)に示すように、繊維強化シート1の線材2の長手方向(長さL方向)が構造物100の凹状曲り部101(即ち、入隅部105)の曲線形状に対向するようにして、維強化シート1を配置し、矢印Aで示すように、繊維強化シート1を繊維強化シート1の弾性力に抗して凹状曲り部101の表面の方へと押圧して弾性変形させる(図5(c))。
【0072】
この時、繊維強化シート1の下方端部、即ち、図5(b)、(c)にて左側端1aは、斜行壁104と垂直壁103との交点104a近傍に位置し、斜行壁104に対する定着に必要な長さ(L3)が確保される必要がある。また、繊維強化シート1の上方端部、即ち、図5(b)、(c)にて右側端1bは、上壁部、即ち、水平壁102に対する定着に必要な長さ(L4)が確保される程度にまで水平壁102に沿って延在することが重要である。
【0073】
本実施例では、ハンチ部101の寸法は、図5(b)、(c)にて、L1、L2=100〜300mmであり、定着長さL3、L4=100mm以上とされる。
【0074】
次に、繊維強化シート1は、凹状曲り部101の表面の方へと押圧して適合した状態を維持するべく、図5(c)に示すように、固定具200にて仮固定する。固定具200は、コンクリートアンカーピン、プラスチックアンカーピン、又は、コンクリート釘とされる。
【0075】
また、繊維強化シート1の固定具200が設置される領域は、任意の場所とし得るが、本実施例では、図3、図4及び図5(c)に示すように、繊維強化シート1の線材2の長手方向両端部1A、1Bとされる。
【0076】
本実施例にて、繊維強化シート1の少なくとも固定具200が設置される領域1A、1Bは、予め樹脂を塗布して硬化させ、この領域における線材2を一体としておくことが必要である。好ましくは、図3(b−1)、(b−2)に示すように、この領域1A、1Bに、予め、ガラス繊維、炭素繊維、又は、アラミド繊維、ポリエステル繊維などの有機繊維にて作製された、クロス材、マット材又は不織布などとされるシート状の補強材20を適合し、樹脂を塗布して硬化させ、領域1A、1Bの線材2を一体とする。
【0077】
固定具200が設置される領域に塗布する樹脂としては、繊維強化プラスチック線材2に含浸されるマトリクス樹脂Rと同様のものを使用することができ、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を使用することができる。
【0078】
つまり、熱硬化性樹脂としては、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニールエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂などが好適に使用され、又、熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂などが好適に使用可能である。
【0079】
また、繊維強化シート1の固定具200が設置される領域1A、1Bには、固定具200を取り付けるための所定の直径、通常、直径2〜6mmの穴21が複数個、例えばシート幅(W)方向に2個形成される。この穴21を利用して、上記固定具200であるコンクリートアンカーピン、プラスチックアンカーピン、又は、コンクリート釘が挿通され、繊維強化シート1をコンクリート構造体100に仮固定する。
【0080】
このとき、繊維強化シート1を凹状曲り部101へと押圧することにより、接着材106がシート1の隙間gから、繊維強化シート1の凹状曲り部101と対向した側とは反対の表面側へと侵出する。このシート1の隙間gから侵出した接着材106は、ヘラなどを使用して、シート表面に平らに均す。また、必要に応じて、繊維強化シート1の表面側から更に接着材106を塗布しても良い。
【0081】
次いで、接着材106を硬化させる。
【0082】
接着材106が硬化した時点において、固定具200を除去する。繊維強化シート1は、凹状曲がり部101における入隅部105及びその両隣領域の表面に接着されており、固定具200を除去しても、繊維強化シート1が有する弾性力により繊維強化シート1がハンチ部(凹状曲がり部)101の表面から剥がれることはない。ただし、固定具200は、除去せずに固定させたままとしても、勿論、問題はない。
【0083】
このように、本実施例によれば、繊維強化シート1を隙間無く良好にコンクリート構造物100の凹状曲がり部101に一体化することができ、工事期間の短縮等、作業効率の向上を図ることができる。
【0084】
上記説明では、ハンチ部101の補強方法についての説明を簡単にするために、図4及び図5(a)〜(c)に示すように、ハンチ部101に繊維強化シート1を貼り付ける態様について説明した。
【0085】
しかし、通常、構造物100の床版下面水平壁面にも繊維強化シート1が貼り付けられて補強される。この場合は、図5(d)に示すように、先ず、構造物100の床版102の下面(水平面)102Aに直線状の、即ち、平らな繊維強化シート1が貼り付けられ、その後、ハンチ部101に繊維強化シート1が、上述の図5(a)〜(c)に示す工程により貼り付けられる。
【0086】
このとき、水平面102Aに接着される繊維強化シート1は、線材2の長手方向が両ハンチ部(凹状曲り部)101へと配向するように配置される。
【0087】
また、このような場合、ハンチ部101に貼り付けられた繊維強化シート1は、図5(d)に示すように、先に構造物の床版下面102Aに貼付された直線状の繊維強化シート1と重ねて配置して、長さ(L4)とされる重ね継手110により接合される。これにより、入隅部105を有するハンチ部分104から床版102の水平壁面102Aを、繊維強化シート1、1により連続して補強することができる。
【0088】
又、別法として、先ず、構造物100のハンチ部101に繊維強化シート1が、上述の図5(a)〜(c)に示す工程により貼り付けられ、その後、構造物100の床版102の下面(水平面)102Aに平らな繊維強化シート1を貼り付けることも可能である。勿論、ハンチ部101に貼り付けられた繊維強化シート1と、後で構造物の床版下面102Aに貼付された直線状の繊維強化シート1とは、重ねて配置して、長さ(L4)とされる重ね継手110により接合される。
【0089】
実施例2
上記実施例1では、繊維強化シート1の固定具200が設置される領域1A、1Bは、繊維強化シート1の線材2の長手方向両端部であるとしたが、これに限定されるものではなく、固定具200が設置される領域を、図6(a)、(b)に示すように、ハンチ部101の角部105近傍とすることもできる。上記実施例1と同じ構成部については、同じ参照番号を付し、再度の説明は省略する。
【0090】
図7(a)〜(c)を参照すると、先の実施例1と同様に、図7(a)に示すコンクリート構造物100であるカルバートのハンチ部(凹状曲り部)101において、先ず、繊維強化シート1を貼付すべき構造物の凹状曲り部101の表面に接着材106を塗布する。角部(入隅部)105に接着材106を多めに塗布しておくのがよい。
【0091】
次いで、図7(b)に示すように、繊維強化シート1の線材2の長手方向(長さL方向)が構造物100の凹状曲り部101の曲線形状に対向するようにして、維強化シート1を配置し、矢印Aで示すように、繊維強化シート1を繊維強化シート1の弾性力に抗して凹状曲り部101の表面の方へと押圧して弾性変形させる(図7(c))。
【0092】
次に、繊維強化シート1は、凹状曲り部101の表面の方へと押圧して適合した状態を維持するべく、図7(c)に示すように、固定具200にて仮固定する。
【0093】
ここまでの工程は、先の図5(a)、(b)を参照しして説明した実施例1と同様である。
【0094】
ただ、本実施例2では、繊維強化シート1の固定具200が設置される領域は、入り隅部105或いはその近傍とされる。
【0095】
つまり、構造物100の凹状曲り部101に対向配置された繊維強化シート1と、凹状曲り部101表面との間の距離が最も離間した領域或いはその近傍である。
【0096】
本実施例2では、固定具200は、図8(a)をも参照すると理解されるように、繊維強化シート1の線材長手方向に直交する幅方向に延在したL形アングル200aをコンクリートピン、プラスチックアンカーピン、又は、コンクリート釘などとされる固定ピン200bなどにて取り付ける構成とされる。
【0097】
上記固定ピン200bの位置は、図7(c)に示すように、ハンチ部101の角部105を通る中心線OX(斜行壁104からの角度α1と、上壁部102からの角度α2が同じ(即ち、α1=α2)とされる位置を通る線)から±xの範囲に入る位置とされる。通常、x=0〜20mm、本実施例では、x1=10mmとした。
【0098】
L形アングル200aは、図8(a)にて、通常、シート取付水平部200a1の幅w1は、10〜40mm、垂直部200a2の高さh1は、5〜30mm、厚さt1は、1.0〜3mmとされ、シート1の幅(W)方向へと延在している。シート取付部200a1には、固定ピン200bの挿入孔200a3が形成されている。
【0099】
勿論、L形アングル200aの代わりに、図8(b)、(c)に示すように、剛性の真直板状部材、又は、半円形凹状板状部材等の板状部材200aとすることもできる。L形アングル(或いは、板状部材)200aの長さは、繊維強化シート1の幅Wと同じか、若干長くなるようにするのが好ましい。
【0100】
L形アングル(或いは、板状部材)200aは、鋼、SUS、プラスチック、セラミクス、FRPなどとし得る。
【0101】
上述のように、本実施例2では、このL形アングル(或いは、板状部材)200aは、コンクリートアンカーピンなどの固定ピン200bを使用して繊維強化シート1を構造物100の凹状曲がり部101の入隅部105領域に仮固定する。
【0102】
この実施例2によれば、上記実施例1のように、繊維強化シート1に対して、L形アングル(或いは、板状部材)200aなどを使用した固定具200が設置される領域に、予め樹脂を塗布して線材を一体としたり、或いは、ガラス繊維、炭素繊維、又はアラミド繊維にて作製されたクロス材、マット材又は不織布を適合し、樹脂を塗布して硬化させ、領域の線材を一体とすることは、必ずしも必要ではない。従って、この点にて、本実施例2は、実施例1に比較すると、より作業効率の向上を図ることができる。
【0103】
また、必要に応じて、実施例2の構成と実施例1の構成とを併用しても良い。即ち、シート1の両端部は、固定具200にて固定し、中央部は、L形アングル(或いは、板状部材)200aなどを使用した固定具200を使用して固定することができる。
【0104】
勿論、この実施例2の場合においても、図7(d)に示すように、ハンチ部101に貼り付けられた繊維強化シート1は、先の実施例と同様に、構造物の床版下面に配置された直線状の繊維強化シート1と重ねて配置して、長さ(L4)とされる重ね継手110により接合することができる。これにより、入隅部105を有するハンチ部分101から床版102を、繊維強化シート1、1により連続して補強することができる。
【0105】
勿論、この場合においても、実施例1で説明したように、水平面に接着される繊維強化シート1は、線材2の長手方向が両ハンチ部(凹状曲り部)101へと配向するように配置される。
【0106】
又、別法として、先ず、構造物100のハンチ部101に繊維強化シート1が、上述の図7(a)〜(c)に示す工程により貼り付けられ、その後、構造物100の床版102の下面(水平面)102Aに平らな繊維強化シート1を貼り付けることも可能である。勿論、ハンチ部101に貼り付けられた繊維強化シート1と、後で構造物の床版下面102Aに貼付された直線状の繊維強化シート1とは、重ねて配置して、長さ(L4)とされる重ね継手110により接合される。
【0107】
(変更実施例)
例えば、図9に示すように、幅Wの繊維強化シート1をハンチ部101の表面に沿って、カルバートの長手方向に、幅Gの隙間を空けて平行に貼付して補強することがある。この場合には、固定具200は、繊維強化シート1の幅より長くなるように形成し、繊維強化シート1の幅より外方へと突出した部分を利用して、固定具200をハンチ部101に固定しても良い。
【0108】
この実施例によれば、繊維強化シート1の線材2を固定具200のL形アングル200aをシート1の両側外側にてアンカーピン200bで固定するため、シート1を損傷することがない。
【0109】
次に、本発明に係る構造物の補強方法の作用効果を実証するために以下の実験を行った。
【0110】
(実験例1)
本実験例では、繊維強化シート1を使用して、図5(a)〜(c)に示すように、接着工法に従ってコンクリート構造物100であるカルバートのハンチ部101を補強した。ハンチ部101の寸法L1、L2=300mmであった。
【0111】
また、本実験例で使用した繊維強化シート1は、図1を参照して説明した構成の繊維強化シート1であった。
【0112】
繊維強化シート1における繊維強化プラスチック線材2は、強化繊維fとして平均径7μm、収束本数12000本のPAN系炭素繊維ストランドを用い、マトリクス樹脂Rとして常温硬化型のエポキシ樹脂を含浸し、硬化して作製した。樹脂含浸量は、50重量%であり、硬化後の繊維強化プラスチック線材2は、直径(d)1.1mmの円形断面を有していた。
【0113】
このようにして得た繊維強化プラスチック線材2を、一方向に引き揃えてスダレ状に配置した後、ポリエステル繊維を横糸3として平織りによりシート状に保持した。横糸3の間隔(P)は50mmであった。
【0114】
このようにして作製した繊維強化シート1は、幅(W)が250mm、長さ(L)が500mmであった。各線材2、2間の間隙(g)は、0.1〜0.3mmであった。
【0115】
繊維強化シート1の両端部に、端部1a、1bから60mmの長さに渡って、シート幅(W)全面にガラス繊維クロス(株式会社日東紡製の「質量200g/m2品」)を補強材20として配置し、エポキシ樹脂(日鉄コンポジット(株)製「FR−E3P」(商品名))を0.2kg/m2塗布し、線材を一体化した。その後、固定具200を挿通するための直径4mmの穴21を穿設した。
【0116】
上記繊維強化シート1を使用してカルバートのハンチ部101を、図5(a)〜(c)を参照して実施例1で説明したと同様の繊維シート接着工法により補強した。
【0117】
先ず、本実験例では、ハンチ部101の入隅部105を中心として、斜行壁104の表面及びコンクリート床版102の下面をディスクサンダーによりケレンした。ケレンしたコンクリート梁100の表面102上に接着材106としてパテ状エポキシ樹脂(日鉄コンポジット(株)製「FB−E7S」(商品名))を塗布し、直線状の、即ち、平らな繊維強化シート1を貼った。
【0118】
次に、入隅部105の角部及びその周辺に接着材106として上記パテ状エポキシ樹脂(日鉄コンポジット(株)製「FB−E7S」(商品名))をたっぷり塗り、繊維強化シート1をハンチ部101に適合し、固定具200としてコンクリートアンカーピンを使用して繊維強化シート1をハンチ部101に仮固定した。定着長さL3、L4は、250mmであった。
【0119】
繊維強化シート1の表面にしみ出した樹脂をゴムベラにより表面を平坦に仕上げた。その後、室温で1週間養生した。繊維強化シート1の貼着面に、何らボイドを発生することなく、ハンチ部101に極めて良好に接着することができた。
【0120】
接着材が硬化した後、固定具200を除去したが、繊維強化シート1がハンチ部101から剥離することはなかった。
【0121】
(実験例2)
本実験例では、上記実験例1で説明したと同じ構成の繊維強化シート1を使用して、図7(a)〜(c)、及び、図9に示すように、幅Wの繊維強化シート1をハンチ部101の表面に沿って、その長手方向に、幅Gの隙間を空けて平行に貼付して、接着工法に従ってコンクリート構造物であるカルバートのハンチ部101を補強した。繊維強化シート1、1間の隙間Gは、100mmであった。
【0122】
固定具200は、L形アングル200a(w1=20mm、h1=20mm、t1=1.6mm)を実験例1で使用したと同じコンクリートアンカーピン200bを使用して、図7(c)にて、角部105からx1=10mmの位置に固定した。定着長さL3、L4は、320mmであった。
【0123】
実験例1より作業性が良く、実験例1と同様の補強性能を発揮することができた。
【0124】
上記実施例1、実施例2、実験例1、実験例2では、コンクリート構造物100のハンチ部101の補強に関して説明したが、本発明の繊維強化シート1を使用した補強方法は、鋼構造物、木造構造物、及び、プラスチック構造物、更には、これらの組み合わせた構造物の凹状曲り部の補強に際しても同様に適用することでき、同様の作用効果を達成し得る。
【0125】
実施例3
上記実施例1、2では、繊維強化シート1を、構造物の凹状曲り部表面に接着材にて接着して一体化する構造物の補強方法について説明した。
【0126】
また、特に、構造物100の床版下面水平壁面102Aにも繊維強化シート1が貼り付けられて補強される場合には、図5(d)、図7(d)に示すように、先ず、構造物100の床版102の下面102Aに直線状の、即ち、平らな繊維強化シート1が貼り付けられ、その後、ハンチ部101に繊維強化シート1が、上述の図5(a)〜(c)に示す工程により貼り付けられる、ものとして説明した。或いは、先ず、ハンチ部101に繊維強化シート1が、上述の図5(a)〜(c)に示す工程により貼り付けられ、その後、構造物100の床版102の下面102Aに直線状の、即ち、平らな繊維強化シート1が貼り付けられるものとして説明した。
【0127】
このような場合、ハンチ部101に貼り付けられた繊維強化シート1は、図5(d)、図7(d)に示すように、構造物の床版下面102Aに貼付された直線状の繊維強化シート1と重ねて配置して、長さ(L4)とされる重ね継手110により接合された。
【0128】
しかしながら、構造物100の両ハンチ部101及び床版102の下面102A、即ち、被補強面を、1枚の連続した直線状の、平らな繊維強化シート1を貼り付けて補強することもできる。
【0129】
つまり、本発明の構造物の補強方法は、凹状曲り部101のみでなく、この凹状曲り部101及びこの曲がり部101に連接した平面部102Aを有する構造物の被補強面にも適用することができる。
【0130】
図10〜図12を参照して、本実施例の構造物の補強方法について説明する。
【0131】
コンクリート構造物100であるカルバートにて、両ハンチ部101は、水平の上壁部(床版)102と、該上壁部102の両側に位置した垂直の壁部103と上壁部102との接続部である斜行壁104と、により構成されている。本実施例では、水平の上壁部102と斜行壁104とにより形成される入隅部105を含むハンチ部(即ち、凹状曲り部)101及び上壁部102の下面102Aを含む被補強面の補強が同時に行われる。
【0132】
本実施例におけるコンクリート構造物100であるカルバートの両ハンチ部101の構造、及び、繊維強化シート1は、実施例1、2で説明したと同様であるので、上記実施例1、2と同じ構成部については、同じ参照番号を付し、再度の説明は省略する。
【0133】
尚、本実施例では、カルバートのハンチ部(凹状曲り部)101の補強方法は、実施例2の補強方法を採用した。従って、実施例2の説明をも参照しながら、図12(a)〜(b)を参照して、本実施例の構造物の補強方法を説明する。
【0134】
図12(a)を参照すると、先の実施例2と同様に、コンクリート構造物100において、先ず、繊維強化シート1を貼付すべき構造物の凹状曲り部101及び上壁部102の下面(水平面)102Aから成る被補強面に接着材106を塗布する。角部(入隅部)105に接着材106を多めに塗布しておくのがよい。
【0135】
次いで、図12(b)に示すように、繊維強化シート1の線材2の長手方向(長さL方向)が構造物100の凹状曲り部101の曲線形状に沿うようにして構造物100の被補強面101、102Aと対向させて配置する。次いで、接着材106が塗布された構造物100の被補強面101、102Aに繊維強化シート1を押し付ける。このとき、本実施例では、先ず、図12にて左側の凹状曲り部101の表面に対しては、矢印Aで示すように、繊維強化シート1の一端側1Aを繊維強化シート1の弾性力に抗して凹状曲り部101の表面の方へと押圧して弾性変形させる(図12(c))。
【0136】
次に、繊維強化シート1は、凹状曲り部101の表面の方へと押圧して適合した状態を維持するべく、図12(c)に示すように、固定具200にて仮固定する。
【0137】
本実施例では、実施例2と同様に、繊維強化シート1の固定具200が設置される領域は、入り隅部105或いはその近傍とされる。
【0138】
つまり、構造物100の凹状曲り部101に対向配置された繊維強化シート1と、凹状曲り部表面との間の距離が最も離間した領域或いはその近傍である。
【0139】
本実施例では、固定具200は、実施例2と同様とされ、図8(a)をも参照すると理解されるように、繊維強化シート1の線材長手方向に直交する幅方向に延在したL形アングル200aをコンクリートピン、プラスチックアンカーピン、又は、コンクリート釘などとされる固定ピン200bなどにて取り付ける構成とされる。
【0140】
上記固定ピン200bの位置は、図12(c)に示すように、ハンチ部101の角部105を通る中心線OX(斜行壁104からの角度α1と、上壁部102からの角度α2が同じ(即ち、α1=α2)とされる位置を通る線)から±xの範囲に入る位置とされる。通常、x=0〜20mm、本実施例では、x1=10mmとした。
【0141】
L形アングル200aは、実施例2において、図8(a)を参照して説明したように、通常、シート取付部200a1の幅w1は、10〜40mm、高さh1は、5〜30mm、厚さt1は、1.0〜3mmとされ、シート1の幅(W)方向へと延在している。シート取付部200a1には、固定ピン200bの挿入孔200a3が形成されている。
【0142】
勿論、L形アングル200aの代わりに、図8(b)、(c)に示すように、剛性の真直板状部材、又は、半円形凹状板状部材等の板状部材200aとすることもできる。L形アングル(或いは、板状部材)200aの長さは、繊維強化シート1の幅Wと同じか、若干長くなるようにするのが好ましい。
【0143】
L形アングル(或いは、板状部材)200aは、鋼、SUS、プラスチック、セラミクス、FRPなどとし得る。
【0144】
上述のように、本実施例では、このL形アングル(或いは、板状部材)200aは、コンクリートアンカーピンなどの固定ピン200bを使用して繊維強化シート1を構造物100の凹状曲がり部101の入隅部105領域に仮固定する。
【0145】
次いで、繊維強化シート1を、図12(c)にて矢印B方向へと、上壁部102の下面(水平面)102Aに押し付け、接着する。
【0146】
その後、図12にて右側の凹状曲り部101の表面に対して、図12(c)にて矢印C方向へと、繊維強化シート1の他端側1Bを繊維強化シート1の弾性力に抗して凹状曲り部101の表面の方へと押圧して弾性変形させる(図12(d))。引き続いて、繊維強化シート1は、凹状曲り部101の表面の方へと押圧して適合した状態を維持するべく、図12(d)に示すように、固定具200にて仮固定する。仮固定の態様は、左側の凹状曲り部101に対するのと同様である。
【0147】
繊維強化シート1の被補強面と対向した側とは反対の表面側へと侵出した接着材106は、平らに均し、必要に応じて、繊維強化シート1の表面側から接着材106を塗布する。
【0148】
この状態で、接着材106を硬化させる。
【0149】
もちろん、本実施例においても、実施例2で説明したように、例えば、図9に示すように、幅Wの繊維強化シート1をハンチ部101及び水平部102の表面、即ち、構造物の被補強面に沿って、カルバートの長手方向に、幅Gの隙間を空けて平行に貼付して補強することがある。この場合には、固定具200は、繊維強化シート1の幅より長くなるように形成し、繊維強化シート1の幅より外方へと突出した部分を利用して、固定具200をハンチ部101に固定しても良い。
【0150】
この変更実施例によれば、繊維強化シート1の線材2を固定具200のL形アングル200aをシート1の両側外側にてアンカーピン200bで固定するため、シート1を損傷することがない。
【0151】
尚、本実施例では、カルバートのハンチ部(凹状曲り部)101の補強方法は、実施例2の補強方法を採用した。当然なことに、本実施例においても変更実施例として、図13に示すように、図3〜図5を参照して説明した実施例1に従ったハンチ部(凹状曲り部)101の補強方法を採用しても良い。
【0152】
つまり、固定具200は、図13に示すように、繊維強化シート1の長手方向両端部1A、1Bに近接して、及び、上壁部102の水平面102Aであって凹状曲り部表面に近接した領域とすることができる。
【0153】
この変更実施例においても、実施例1にて説明したように、図3に示すように、繊維強化シート1の少なくとも固定具200が設置される領域は、予め樹脂を塗布して硬化させ、この領域の線材2を一体とすることができ、また、予め、ガラス繊維、炭素繊維又は有機繊維にて作製された、クロス材、マット材又は不織布を適合し、樹脂を塗布して硬化させ、この領域の線材2を一体とすることができる。また、繊維強化シート1の固定具200が設置される領域には、固定具200を取り付けるための所定の直径の穴を形成しても良い。
【0154】
上記実施例では、コンクリート構造物100のハンチ部101の補強に関して説明したが、本発明の繊維強化シート1を使用した補強方法は、鋼構造物、木造構造物、及び、プラスチック構造物、更には、これらの組み合わせた構造物の凹状曲り部の補強に際しても同様に適用することでき、同様の作用効果を達成し得る。
【符号の説明】
【0155】
1 繊維強化シート
2 繊維強化プラスチック線材
3 線材固定材(横糸)
20 補強材
21 穴
100 構造物
101 凹状曲り部(ハンチ部)
102 カルバート上壁部(床版)
103 カルバート垂直壁
104 カルバート斜行壁
105 入隅部(角部)
106 接着材
110 重ね継手
200 固定具
200a 板状部材
200b 固定ピン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維にマトリクス樹脂が含浸され、硬化された連続した繊維強化プラスチック線材を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、線材を互いに線材固定材にて固定した繊維強化シートを、少なくとも構造物の凹状曲り部表面を含む被補強面に接着材にて接着して一体化する構造物の補強方法において、
(a)前記構造物の凹状曲り部表面に接着材を塗布し、
(b)前記繊維強化シートを、前記繊維強化シートの線材の長手方向が前記構造物の凹状曲り部の曲線形状に沿うように前記構造物の凹状曲り部表面に対向させて配置し、
(c)次いで、前記繊維強化シートを前記繊維強化シートの弾性力に抗して、前記接着材が塗布された前記構造物の凹状曲り部の表面の方へと押圧して弾性変形させ、この状態を固定具にて仮固定し、
(d)前記繊維強化シートの前記凹状曲り部と対向した側とは反対の表面側へと侵出した接着材を平らに均し、必要に応じて、前記繊維強化シートの表面側から接着材を塗布し、
(e)その後、前記接着材を硬化させる、
ことを特徴とする構造物の補強方法。
【請求項2】
前記構造物の前記被補強面は、前記構造物の凹状曲り部表面に連接した水平面を有しており、
前記工程(a)〜(e)の工程を実施して、前記構造物の凹状曲り部表面とされる被補強面に前記繊維強化シートを接着した後、
次いで、前記水平面とされる被補強面に接着材を塗布し、
他の前記繊維強化シートを、前記接着材が塗布された前記構造物の前記水平面とされる被補強面に押し付けて接着する、
ことを特徴とする請求項1に記載の構造物の補強方法。
【請求項3】
前記構造物の前記被補強面は、前記構造物の凹状曲り部表面に連接した水平面を有しており、先ず、前記水平面とされる被補強面に接着材を塗布し、
他の前記繊維強化シートを、前記接着材が塗布された前記構造物の前記水平面とされる被補強面に押し付けて接着し、
その後、前記工程(a)〜(e)の工程を実施して、前記構造物の凹状曲り部表面とされる被補強面に前記繊維強化シートを接着する、
ことを特徴とする請求項1に記載の構造物の補強方法。
【請求項4】
前記構造物の水平面に接着した前記繊維強化シートと、前記構造物の凹状曲り部表面に接着した前記繊維強化シートとは、所定の長さだけ重ねた重ね継手により接合されることを特徴とする請求項2又は3に記載の構造物の補強方法。
【請求項5】
前記繊維強化シートの前記固定具が設置される領域は、前記繊維強化シートの前記線材の長手方向両端部であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
【請求項6】
前記繊維強化シートの少なくとも前記固定具が設置される領域は、予め樹脂を塗布して硬化させ、前記領域の前記線材を一体とすることを特徴とする請求項5に記載の構造物の補強方法。
【請求項7】
前記繊維強化シートの少なくとも前記固定具が設置される領域は、予め、ガラス繊維、炭素繊維又は有機繊維にて作製された、クロス材、マット材又は不織布を適合し、樹脂を塗布して硬化させ、前記領域の前記線材を一体とすることを特徴とする請求項5に記載の構造物の補強方法。
【請求項8】
前記樹脂は、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂若しくはフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、又は、ポリアミド樹脂若しくはポリビニルアルコール系樹脂などの熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項6又は7に記載の構造物の補強方法。
【請求項9】
前記繊維強化シートの前記固定具が設置される領域には、前記固定具を取り付けるための所定の直径の穴が形成されることを特徴とする請求項6、7又は8に記載の構造物の補強方法。
【請求項10】
前記固定具は、コンクリートアンカーピン、プラスチックアンカーピン又はコンクリート釘であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
【請求項11】
前記固定具が設置される領域は、前記構造物の凹状曲り部表面と前記繊維強化シートとの間の距離が最も離間した領域或いはその近傍であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
【請求項12】
前記固定具は、L形アングル、真直板状部材、又は半円形凹状板状部材と、固定ピンとを有することを特徴とする請求項11に記載の構造物の補強方法。
【請求項13】
前記固定ピンは、コンクリートアンカーピン、プラスチックアンカーピン又はコンクリート釘であることを特徴とする請求項12に記載の構造物の補強方法。
【請求項14】
強化繊維にマトリクス樹脂が含浸され、硬化された連続した繊維強化プラスチック線材を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、線材を互いに線材固定材にて固定した繊維強化シートを、構造物の凹状曲り部表面及び該凹状曲り部表面に連接した水平面を含む被補強面に接着材にて接着して一体化する構造物の補強方法において、
前記構造物の凹状曲り部表面及び該凹状曲り部表面に連接した水平面を含む被補強面に接着材を塗布し、
前記繊維強化シートを、前記繊維強化シートの線材の長手方向が前記構造物の凹状曲り部の曲線形状に沿うようにして前記構造物の被補強面と対向させて配置し、
次いで、前記接着材が塗布された前記構造物の被補強面に前記繊維強化シートを押し付け、前記凹状曲り部表面に対しては、前記繊維強化シートを前記繊維強化シートの弾性力に抗して、前記接着材が塗布された前記構造物の凹状曲り部の表面の方へと押圧して弾性変形させ、この状態を固定具にて仮固定し、
前記繊維強化シートの前記被補強面と対向した側とは反対の表面側へと侵出した接着材を平らに均し、必要に応じて、前記繊維強化シートの表面側から接着材を塗布し、
その後、前記接着材を硬化させる、
ことを特徴とする構造物の補強方法。
【請求項15】
前記固定具が設置される領域は、前記構造物の凹状曲り部表面と前記繊維強化シートとの間の距離が最も離間した領域或いはその近傍であることを特徴とする請求項14に記載の構造物の補強方法。
【請求項16】
前記固定具は、L形アングル、真直板状部材、又は半円形凹状板状部材と、固定ピンとを有することを特徴とする請求項15に記載の構造物の補強方法。
【請求項17】
前記固定ピンは、コンクリートアンカーピン、プラスチックアンカーピン又はコンクリート釘であることを特徴とする請求項16に記載の構造物の補強方法。
【請求項18】
前記繊維強化シートの前記固定具が設置される領域は、前記繊維強化シートの前記線材の長手方向両端部、及び、前記凹状曲り部表面に連接した前記水平面であって前記凹状曲り部表面に近接した領域であることを特徴とする請求項14に記載の構造物の補強方法。
【請求項19】
前記繊維強化シートの少なくとも前記固定具が設置される領域は、予め樹脂を塗布して硬化させ、前記領域の前記線材を一体とすることを特徴とする請求項18に記載の構造物の補強方法。
【請求項20】
前記繊維強化シートの少なくとも前記固定具が設置される領域は、予め、ガラス繊維、炭素繊維又は有機繊維にて作製された、クロス材、マット材又は不織布を適合し、樹脂を塗布して硬化させ、前記領域の前記線材を一体とすることを特徴とする請求項18に記載の構造物の補強方法。
【請求項21】
前記樹脂は、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂若しくはフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、又は、ポリアミド樹脂若しくはポリビニルアルコール系樹脂などの熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項19又は20に記載の構造物の補強方法。
【請求項22】
前記繊維強化シートの前記固定具が設置される領域には、前記固定具を取り付けるための所定の直径の穴が形成されることを特徴とする請求項19、20又は21に記載の構造物の補強方法。
【請求項23】
前記固定具は、コンクリートアンカーピン、プラスチックアンカーピン又はコンクリート釘であることを特徴とする請求項18〜22のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
【請求項24】
前記接着材は、パテ状の熱硬化性樹脂、又は、無機系接着材料であることを特徴とする請求項1〜23のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
【請求項25】
前記パテ状の熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂、MMA樹脂、ビニルエステル樹脂、又は、不飽和ポリエステル樹脂であり、前記無機系接着材料はポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントペースト、又は、セメントペーストであることを特徴とする請求項24に記載の構造物の補強方法。
【請求項26】
前記構造物の凹状曲り部は、コンクリート構造物の床版下面凹状曲り部、又は、カルバートのハンチ部であることを特徴とする請求項1〜25のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
【請求項27】
前記繊維強化プラスチック線材の強化繊維は、炭素繊維;ガラス繊維;バサルト繊維;アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエステルなどの有機繊維;が単独で、又は、複数種混入してハイブリッドにて使用されることを特徴とする請求項1〜26のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
【請求項28】
前記繊維強化プラスチック線材のマトリクス樹脂は、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂若しくはフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、又は、ポリアミド樹脂若しくはポリビニルアルコール系樹脂などの熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1〜27のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
【請求項29】
前記繊維強化プラスチック線材は、直径が0.5〜3mmの円形断面形状であるか、又は、幅が1〜10mm、厚みが0.1〜2mmとされる矩形断面形状であることを特徴とする請求項1〜28のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
【請求項30】
前記各繊維強化プラスチック線材は、互いに0.05〜3.0mmだけ離間していることを特徴とする請求項1〜29のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
【請求項31】
前記繊維強化シートは、幅が50〜1000mmであることを特徴とする請求項1〜30のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
【請求項32】
前記線材固定材は、前記各繊維強化プラスチック線材の長手方向に対して垂直方向に複数本の前記繊維強化プラスチック線材を編み付ける横糸であることを特徴とする請求項1〜31のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
【請求項33】
前記横糸は、ガラス繊維、有機繊維又は綿繊維から成る糸条であることを特徴とする請求項32の構造物の補強方法。
【請求項1】
強化繊維にマトリクス樹脂が含浸され、硬化された連続した繊維強化プラスチック線材を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、線材を互いに線材固定材にて固定した繊維強化シートを、少なくとも構造物の凹状曲り部表面を含む被補強面に接着材にて接着して一体化する構造物の補強方法において、
(a)前記構造物の凹状曲り部表面に接着材を塗布し、
(b)前記繊維強化シートを、前記繊維強化シートの線材の長手方向が前記構造物の凹状曲り部の曲線形状に沿うように前記構造物の凹状曲り部表面に対向させて配置し、
(c)次いで、前記繊維強化シートを前記繊維強化シートの弾性力に抗して、前記接着材が塗布された前記構造物の凹状曲り部の表面の方へと押圧して弾性変形させ、この状態を固定具にて仮固定し、
(d)前記繊維強化シートの前記凹状曲り部と対向した側とは反対の表面側へと侵出した接着材を平らに均し、必要に応じて、前記繊維強化シートの表面側から接着材を塗布し、
(e)その後、前記接着材を硬化させる、
ことを特徴とする構造物の補強方法。
【請求項2】
前記構造物の前記被補強面は、前記構造物の凹状曲り部表面に連接した水平面を有しており、
前記工程(a)〜(e)の工程を実施して、前記構造物の凹状曲り部表面とされる被補強面に前記繊維強化シートを接着した後、
次いで、前記水平面とされる被補強面に接着材を塗布し、
他の前記繊維強化シートを、前記接着材が塗布された前記構造物の前記水平面とされる被補強面に押し付けて接着する、
ことを特徴とする請求項1に記載の構造物の補強方法。
【請求項3】
前記構造物の前記被補強面は、前記構造物の凹状曲り部表面に連接した水平面を有しており、先ず、前記水平面とされる被補強面に接着材を塗布し、
他の前記繊維強化シートを、前記接着材が塗布された前記構造物の前記水平面とされる被補強面に押し付けて接着し、
その後、前記工程(a)〜(e)の工程を実施して、前記構造物の凹状曲り部表面とされる被補強面に前記繊維強化シートを接着する、
ことを特徴とする請求項1に記載の構造物の補強方法。
【請求項4】
前記構造物の水平面に接着した前記繊維強化シートと、前記構造物の凹状曲り部表面に接着した前記繊維強化シートとは、所定の長さだけ重ねた重ね継手により接合されることを特徴とする請求項2又は3に記載の構造物の補強方法。
【請求項5】
前記繊維強化シートの前記固定具が設置される領域は、前記繊維強化シートの前記線材の長手方向両端部であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
【請求項6】
前記繊維強化シートの少なくとも前記固定具が設置される領域は、予め樹脂を塗布して硬化させ、前記領域の前記線材を一体とすることを特徴とする請求項5に記載の構造物の補強方法。
【請求項7】
前記繊維強化シートの少なくとも前記固定具が設置される領域は、予め、ガラス繊維、炭素繊維又は有機繊維にて作製された、クロス材、マット材又は不織布を適合し、樹脂を塗布して硬化させ、前記領域の前記線材を一体とすることを特徴とする請求項5に記載の構造物の補強方法。
【請求項8】
前記樹脂は、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂若しくはフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、又は、ポリアミド樹脂若しくはポリビニルアルコール系樹脂などの熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項6又は7に記載の構造物の補強方法。
【請求項9】
前記繊維強化シートの前記固定具が設置される領域には、前記固定具を取り付けるための所定の直径の穴が形成されることを特徴とする請求項6、7又は8に記載の構造物の補強方法。
【請求項10】
前記固定具は、コンクリートアンカーピン、プラスチックアンカーピン又はコンクリート釘であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
【請求項11】
前記固定具が設置される領域は、前記構造物の凹状曲り部表面と前記繊維強化シートとの間の距離が最も離間した領域或いはその近傍であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
【請求項12】
前記固定具は、L形アングル、真直板状部材、又は半円形凹状板状部材と、固定ピンとを有することを特徴とする請求項11に記載の構造物の補強方法。
【請求項13】
前記固定ピンは、コンクリートアンカーピン、プラスチックアンカーピン又はコンクリート釘であることを特徴とする請求項12に記載の構造物の補強方法。
【請求項14】
強化繊維にマトリクス樹脂が含浸され、硬化された連続した繊維強化プラスチック線材を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、線材を互いに線材固定材にて固定した繊維強化シートを、構造物の凹状曲り部表面及び該凹状曲り部表面に連接した水平面を含む被補強面に接着材にて接着して一体化する構造物の補強方法において、
前記構造物の凹状曲り部表面及び該凹状曲り部表面に連接した水平面を含む被補強面に接着材を塗布し、
前記繊維強化シートを、前記繊維強化シートの線材の長手方向が前記構造物の凹状曲り部の曲線形状に沿うようにして前記構造物の被補強面と対向させて配置し、
次いで、前記接着材が塗布された前記構造物の被補強面に前記繊維強化シートを押し付け、前記凹状曲り部表面に対しては、前記繊維強化シートを前記繊維強化シートの弾性力に抗して、前記接着材が塗布された前記構造物の凹状曲り部の表面の方へと押圧して弾性変形させ、この状態を固定具にて仮固定し、
前記繊維強化シートの前記被補強面と対向した側とは反対の表面側へと侵出した接着材を平らに均し、必要に応じて、前記繊維強化シートの表面側から接着材を塗布し、
その後、前記接着材を硬化させる、
ことを特徴とする構造物の補強方法。
【請求項15】
前記固定具が設置される領域は、前記構造物の凹状曲り部表面と前記繊維強化シートとの間の距離が最も離間した領域或いはその近傍であることを特徴とする請求項14に記載の構造物の補強方法。
【請求項16】
前記固定具は、L形アングル、真直板状部材、又は半円形凹状板状部材と、固定ピンとを有することを特徴とする請求項15に記載の構造物の補強方法。
【請求項17】
前記固定ピンは、コンクリートアンカーピン、プラスチックアンカーピン又はコンクリート釘であることを特徴とする請求項16に記載の構造物の補強方法。
【請求項18】
前記繊維強化シートの前記固定具が設置される領域は、前記繊維強化シートの前記線材の長手方向両端部、及び、前記凹状曲り部表面に連接した前記水平面であって前記凹状曲り部表面に近接した領域であることを特徴とする請求項14に記載の構造物の補強方法。
【請求項19】
前記繊維強化シートの少なくとも前記固定具が設置される領域は、予め樹脂を塗布して硬化させ、前記領域の前記線材を一体とすることを特徴とする請求項18に記載の構造物の補強方法。
【請求項20】
前記繊維強化シートの少なくとも前記固定具が設置される領域は、予め、ガラス繊維、炭素繊維又は有機繊維にて作製された、クロス材、マット材又は不織布を適合し、樹脂を塗布して硬化させ、前記領域の前記線材を一体とすることを特徴とする請求項18に記載の構造物の補強方法。
【請求項21】
前記樹脂は、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂若しくはフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、又は、ポリアミド樹脂若しくはポリビニルアルコール系樹脂などの熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項19又は20に記載の構造物の補強方法。
【請求項22】
前記繊維強化シートの前記固定具が設置される領域には、前記固定具を取り付けるための所定の直径の穴が形成されることを特徴とする請求項19、20又は21に記載の構造物の補強方法。
【請求項23】
前記固定具は、コンクリートアンカーピン、プラスチックアンカーピン又はコンクリート釘であることを特徴とする請求項18〜22のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
【請求項24】
前記接着材は、パテ状の熱硬化性樹脂、又は、無機系接着材料であることを特徴とする請求項1〜23のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
【請求項25】
前記パテ状の熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂、MMA樹脂、ビニルエステル樹脂、又は、不飽和ポリエステル樹脂であり、前記無機系接着材料はポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントペースト、又は、セメントペーストであることを特徴とする請求項24に記載の構造物の補強方法。
【請求項26】
前記構造物の凹状曲り部は、コンクリート構造物の床版下面凹状曲り部、又は、カルバートのハンチ部であることを特徴とする請求項1〜25のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
【請求項27】
前記繊維強化プラスチック線材の強化繊維は、炭素繊維;ガラス繊維;バサルト繊維;アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエステルなどの有機繊維;が単独で、又は、複数種混入してハイブリッドにて使用されることを特徴とする請求項1〜26のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
【請求項28】
前記繊維強化プラスチック線材のマトリクス樹脂は、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂若しくはフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、又は、ポリアミド樹脂若しくはポリビニルアルコール系樹脂などの熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1〜27のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
【請求項29】
前記繊維強化プラスチック線材は、直径が0.5〜3mmの円形断面形状であるか、又は、幅が1〜10mm、厚みが0.1〜2mmとされる矩形断面形状であることを特徴とする請求項1〜28のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
【請求項30】
前記各繊維強化プラスチック線材は、互いに0.05〜3.0mmだけ離間していることを特徴とする請求項1〜29のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
【請求項31】
前記繊維強化シートは、幅が50〜1000mmであることを特徴とする請求項1〜30のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
【請求項32】
前記線材固定材は、前記各繊維強化プラスチック線材の長手方向に対して垂直方向に複数本の前記繊維強化プラスチック線材を編み付ける横糸であることを特徴とする請求項1〜31のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
【請求項33】
前記横糸は、ガラス繊維、有機繊維又は綿繊維から成る糸条であることを特徴とする請求項32の構造物の補強方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−133231(P2010−133231A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−244887(P2009−244887)
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【出願人】(599104369)日鉄コンポジット株式会社 (51)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【出願人】(599104369)日鉄コンポジット株式会社 (51)
【Fターム(参考)】
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