説明

樹脂の塗布方法、フィルムおよびその用途

【課題】溶剤が吸湿するにともない樹脂が析出するワニスであっても、基材フィルムに樹脂層を安定な厚み精度で成膜出来る方法を提供する。
【解決手段】溶剤可溶性ポリイミドを含有するフィルムのコーティングに、ワニスが露出するコータヘッド周辺の湿度を厳しく低く保つ密閉構造を適用する。ワニスの露出が少ない構造のコータヘッド(例えばCED)を使用し,コーティング時の湿度を0〜25%に管理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂の塗布方法に関し、更に詳しくは接着性フィルムとして、電子材料分野で用いられるフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のコート法としては、大きくロールコーター、ダイコーターなどがある。前者は一般的にワニスの露出部が大きい。後者ではワニスの露出を抑えた方式なども登場している。
基材フィルムに樹脂層をコーティングにより成膜して製造する場合において、従来の代表的なコーティング技術のひとつであるロールコート方式ではワニスが大気に接触する機会が多く、特に吸湿性溶剤に樹脂を溶解し、その溶剤が吸湿するに伴い樹脂が析出するワニスを使用したコーティングにおいてはロールに樹脂が析出、付着して、連続的なコーティングが不可能であった。
また、ダイコーターに分類され、ワニスが大気に接触する機会の少ない密閉系でのコーティングが可能なダイコーター(CED)方式によるコーティングにおいても、吸湿性溶剤に樹脂を溶解し、その溶剤が吸湿するに伴い樹脂が析出する塗液を使用した場合にはわずかに開放されたダイコーター(CED)リップへの樹脂の析出により所望の厚み安定精度を得られないという問題点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記の問題点を解決し、溶剤が吸湿するにともない樹脂が析出するワニスであっても、基材フィルムに樹脂層を安定な厚み精度で成膜出来る方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは鋭意検討し、本願発明を完成した。即ち、第一の発明は、基材フィルムに樹脂を塗布する方法であって、樹脂を溶剤に溶解したワニスを少なくともコータヘッド部の湿度を0−25%の範囲に保持して、基材フィルムに塗布することを特徴とする樹脂の塗布方法である。
塗布方法がロールコーター方法であり、基材フィルムの出入り部以外を密閉することは高粘度のワニス(50,000cp程度まで)を高速でコート(300m/分程度まで)する場合に好ましい態様である。
塗布方法がダイコーター方法であり、基材フィルムの出入り部以外を密閉することは、大気にさらされることによりワニスの物性が変質するものを使用する場合やワニス中の溶剤の蒸発を抑えたい場合に好ましい態様である。
第二の発明は、前記の方法で製造された接着性フィルムである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の塗布方法により、吸湿により樹脂が析出する塗布液であっても、樹脂の析出を抑えることができるので、結果としてタ゛イアタッチフィルムの厚み安定性を悪化させる要因を抑制する効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本願発明は、樹脂を溶剤に溶解したワニスを少なくともコータヘッド部の湿度を0−25%の範囲に保持して、基材フィルムに塗布する樹脂の塗布方法である。
塗布方法は、特に限定されないが、好ましくはロールコータ方法及びCED方法が挙げられる。
CED方式の概要および特徴を図-1に示す。
CED方法とは、タンク内の塗布液をホ゜ンフ゜にてCEDに送りCED内部のマニホールドで幅方向に分配し、スロットから連続的に均一に塗布させ、CED先端リップに対向して背面をバックアップロールに支持され連続走行する基材フィルムに塗布液を塗布する方法である。
【0007】
製品の厚みは塗膜厚みに依存し、塗膜厚みはダイ先端リップと基材との間隙(ギャップ)により決定される。
また、特徴として塗布液タンクから塗布部までほぼ密閉系での塗布が可能であり、したがって大気接触による液組成変化が少なくすることが可能であり、コーターヘッド部の湿度を0〜25%の範囲に保持することができる。
次にロールコーター方式の概要および特徴を図-2に示す。
基材フィルムにワニスを転写するコーティングロール、転写する液量をコントロールするドクターバー(あるいはドクターロール)、そして搬送機構とバックアップロールから構成されている。ドクター部でコーティングロールに液を転写させ、その後、基材フィルムに液を接触転写する。特徴として、構成部品が少なく洗浄が容易であること、高粘度のワニスにも対応できることなどが挙げられるが、ドクター部のワニスが大気に開放しており、ワニスの組成変化などを引き起こすことなどが短所であり、吸湿により樹脂の析出を生じるワニスの場合には不向きであるが、ワニスの開放部とコーティングロール部を密閉し、内部の湿度を0〜25%に保持することにより、ロールコーター方法でも塗布が可能である。
【0008】
また、比較的大気接触の機会の少ないCED方式においても吸湿により樹脂の析出を発生させる塗布液を使用した場合には、ダイ先端リップに樹脂が析出し、経時とともに徐徐に堆積し、ダイ先端リップと基材とのギャップが経時とともに狭まる場合がある。その結果、塗膜厚みの厚みが塗液塗布の経時とともに薄くなることになり、結果として析出する製品の厚み安定性が悪化するという問題があるが、塗布時における湿度環境を管理し、少なくともコータヘッド部の湿度を0〜25%、より好ましくは0〜10%に保持することにより、吸湿による樹脂の析出を抑え、安定した塗工厚みにすることができる。本発明の塗布方法は、基材への塗液の塗布により塗膜を形成するタ゛イアタッチフィルムの製造に好適に使用できる。
【0009】
樹脂の析出現象は、溶剤の吸湿性、貧溶媒の水が溶剤に溶け込んだ状況での樹脂の溶解しやすさなどの因子により、程度が異なる。
好ましくは、上記の組み合わせを避け、非吸湿性溶剤に、該溶剤に溶解する樹脂を溶かして使うとよい。
しかし、溶剤可溶ポリイミドは、その構造にもよるが、非吸湿性溶剤に溶解しにくいものも多い。これらの系では、コーティングに工夫が必要となる。
ワニスは、例えばポリイミド溶液にエポキシ樹脂、硬化剤、フィラー等を混合攪拌分散して得ることができる。
【0010】
ポリイミドは、例えばODPA(式1の構造)等の酸無水物とシリコーンジアミン、芳香族ジアミン等のジアミンをNMP(1-メチル−2−ピロリドン)、メシチレン(1,3,5−トリメチルベンゼン)(重量比70/30)等の溶媒中で、反応温度160〜180℃程度で15時間程度共沸脱水縮合して得ることができる。
熱硬化性樹脂として、三井化学製のテクモアVG3101等が例示できる。硬化剤として、三井化学製のミレックスXLC−3L等が例示できる。フィラーとして、龍森製の溶融シリカ(製品名1−FX)等が例示できる。
本発明は、このように、コート時における湿度環境を管理し、ワニスの吸湿による樹脂の析出を抑えることにより、安定した塗膜厚みを提供できる。
【実施例】
【0011】
(ワニスの製造例)
ODPA(式1の構造、マナック製ODPA‐m)とシリコーンジアミン(式2の構造、信越化学製PAM-E)、芳香族ジアミン(式3の構造、イハラケミカル製エラストマー1000)を102:70:30のモル比でNMP(1-メチル−2−ピロリドン)、メシチレン(1,3,5−トリメチルベンゼン)(重量比70/30)中で仕込み固形分35%にて、160〜180℃で15時間共沸脱水縮合してポリイミドA溶液を得た。
【0012】
【化1】

【0013】
【化2】

【0014】
【化3】


ポリイミドA溶液に対して、エポキシ樹脂として三井化学製テクモアVG3101L(メシチレン溶液、固形分60%)、硬化剤として三井化学製ミレックスXLC-3L(NMP溶液、固形分50%溶液)、フィラーとして龍森製1-FX(溶融シリカ)を表1の重量比で配合し、最終固形分26%になるようにNMPで希釈し、混合攪拌分散して配合ワニスを得た。
【0015】
(実施例−1)
(ロールコーター、窒素下で湿度0%)
コートに使用した装置を図−2に示す。また試作条件を表−2に示す。
ロールコーターによるコート法でコート時の湿度環境を、温度23℃/湿度0%となるように、塗布部を基材フィルムの出入り口を除いてアクリル板で密閉し、そこに窒素ガスを吹き込み、湿度0%の状況を作って、コーティングを実施した。
【0016】
結果、初期厚み25.3umから500mコート終了時(6時間コート終了時)には23.8umであった。その差1.5umであって所望の厚み安定精度(ターケ゛ット厚み25um±10%)で連続的に塗布が可能であった。結果を表−3にまとめる。
【表1】

【0017】
【表2】

【0018】
【表3】

(実施例−2)
(ダイコーター(CED)、25%湿度)
実施例1と同じワニスを使用して、塗布を行った。
コートに使用した装置を図3に示す。また試作条件を表−2に示す。
CEDによるコート法を使用しコート時の湿度環境(図−3中の□枠内の環境)を、温度23℃/湿度25%に保持し、塗布を実施した。結果、初期厚み25.0umであり、500mコート終了時(6時間コート終了時)は、23.9umであった。その差は、1.1umで薄くなっていおり、厚み低下を抑制し所望の厚み安定精度(ターケ゛ット厚み25um±10%)を得られた。結果を表−3にまとめる。
【0019】
(実施例−3)
(ダイコーター(CED)、窒素下)
実施例1と同じワニスを使用した。
コートに使用した装置を図1に示す。また試作条件を表−2に示す。
ダイコーターによるコート法を使用しコート時の湿度環境が、温度23℃/湿度0%となるように、基材フィルムの出入り口を除いてアクリル板で密閉し、そこに窒素ガスを吹き込み、湿度0%の環境で、コーティングを実施した。
結果、初期厚み24.8umであり、500mコート終了時(6時間コート終了時)は厚み25.2umであった。コート終了時にも厚みが減少することはなく、また経時による厚みの減少傾向はなかった。結果を表−3にまとめる。
【0020】
(比較例−1)
(ロールコーター、通常環境、湿度50%)
実施例1と同様のワニスを使用した。
コートに使用した装置を図2に示す。また試作条件を表−2に示す。
ロールコーター方式を使用してコートを実施したところ約3時間経過にてコートロールの部分に樹脂が析出し、ロール表面に凹凸な粘性のある樹脂の膜を形成し基材フィルムに平滑かつ均一な厚みのコートが不可能であった。結果を表−3にまとめる。
【0021】
(比較例−2)
(ダイコーター(CED)、通常環境、湿度50%)
実施例1と同様のワニスを使用した。
コートに使用した装置を図3に示す。また試作条件を表−2に示す。
CEDによるコート法を使用しながらコート時の湿度環境(図−3中の□枠内の環境)を、一般的なクリーンルーム環境である温度23℃/湿度50%において塗布を実施した。
結果、初期厚み25.2umであり、500mコート終了時(6時間コート終了時)は厚み21.2umであった。その差は4.0umで、薄くなっており、所望の厚み安定精度(ターケ゛ット厚み25um±10%)が得られなかった。またその厚みは経時とともに減少した。結果を表−3にまとめる。
実施例1と比較例1の結果から、ワニスが大気にさらされる機会の多いロールコーターにおいても、コート環境を厳しく湿度管理することで樹脂の析出を抑えられる。
実施例-2と比較例-2の結果から、密閉系といわれるCEDにおいても、湿度管理しない場合には、リップ先端でワニスが吸湿し樹脂が析出して、リップ先端部で樹脂が経時的に成長しリップ先端と基材とのギャップが狭まっていくことにより、塗膜の厚みが初期設定時よりも薄くなってしまう。
【0022】
以上の結果から、吸湿性溶剤に樹脂を溶解し、その溶剤が吸湿するに伴い樹脂が析出するワニスを使用する場合は、コートを長時間(6時間以上)、連続的に安定したコート厚み(ターケ゛ット厚み25.0um±10%)を得る為に、コート時における湿度環境を管理(0〜25%RH)しながらワニスの吸湿による樹脂の析出を抑えることが効果的であった。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】CEDコーティング装置の概略図
【図2】ロールコーター装置の概略図
【図3】本発明で使用するCEDコーティング装置の一例を示す概念図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムに樹脂を塗布する方法であって、樹脂を溶剤に溶解したワニスを少なくとも塗布部の湿度を0−25%の範囲に保持して、基材フィルムに塗布することを特徴とする樹脂の塗布方法。
【請求項2】
塗布方法がロールコーター方法であり、基材フィルムの出入り部以外を密閉することを特徴とする請求項1記載の樹脂の塗布方法。
【請求項3】
塗布方法がダイコーター方法であり、基材フィルムの出入り部以外を密閉することを特徴とする請求項1記載の樹脂の塗布方法。
【請求項4】
ワニスの全溶剤中にN-メチルピロリドン(NMP)またはジメチルアセテート(DMAc)が20重量%以上含有していることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の樹脂の塗布方法。
【請求項5】
樹脂が溶剤可溶性のポリイミドであることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の樹脂の塗布方法。
【請求項6】
更にワニスが熱硬化性樹脂及びフィラーを含むことを特徴とする請求項5に記載の樹脂の塗布方法。
【請求項7】
請求項1−6何れかに記載の方法で製造された接着性フィルム。
【請求項8】
ICパッケージでICチップを接着する用途に用いられることを特徴とする請求項7に記載の接着性フィルム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−346521(P2006−346521A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−172253(P2005−172253)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】