説明

樹脂シートの製造装置及び樹脂シートの製造方法

【課題】パターンロールの周面に形成された微細なパターンを溶融樹脂シートに高精度に転写することが可能な樹脂シートの製造装置及び製造方法を提供する。
【解決手段】溶融樹脂シート3に転写するためのパターンが形成された周面を有するパターンロール4と、周面のパターン形成部の一部と所定の間隔をおいて対向する曲面部を有するブロック5を用意し、温度調節用の媒体流路53によって所定の温度に調節された曲面部とパターン形成部の間に溶融樹脂シート3を挟み込む。パターンロール4を回転させ、溶融樹脂シート3をブロック5の曲面部によりパターン形成部の方向に押圧し、曲面部とパターン形成部の間隔をパターンロール4の回転方向に向かって連続的に減少させながら、パターンを溶融樹脂シート3に転写する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パターンロールの周面に形成されたパターンを溶融樹脂シートに転写する樹脂シートの製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、輝度向上シートや光拡散シートのように表面に微細なパターンを有する樹脂シートを押出成形で製造する場合には、例えば融解点相当温度より高い温度に昇温した溶融樹脂をTダイからシート状に押し出し、周面にパターンが形成されたパターンロールと、周面に鏡面加工を施した鏡面ロールで挟み込むことで樹脂充填圧力を印加し、溶融樹脂シートにパターンを転写していた(例えば特許文献1)。なお、融解点相当温度とは、結晶性の高分子化合物の場合には融解点、非晶性の材料の場合には粘度が低下して流動性を呈し、原型を保持出来なくなる所定の温度を指している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−79867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来装置を用いた樹脂シートの製造方法では、溶融樹脂シートの厚みに対してパターンロール周面に形成されたパターンの樹脂充填部(凹部)の幅が狭い場合や、高精度の転写が要求される場合に、以下のような課題があった。一般に、溶融樹脂のような流体は、流動抵抗のより低い方へ流れる性質があるため、微細なパターンの場合、パターンへの樹脂充填抵抗が溶融樹脂シートの幅方向や長手方向の樹脂流動抵抗より高くなり、溶融樹脂はパターンの樹脂充填部に充填されないまま、溶融樹脂シートの幅方向や長手方向に流れてしまうという問題があった。
【0005】
そこで、微細なパターンの転写が求められる場合は、成形時の樹脂温度を高くして樹脂の粘度を低下させる方法があるが、それぞれの樹脂に応じた適正な温度よりも高くすると樹脂の熱劣化や熱分解が起こるため、この方法の適用には限界があった。また、溶融樹脂シートを挟み込む力を強くして樹脂充填圧力を増加させる方法でも、溶融樹脂シートの幅方向や長手方向に圧力が解放され、パターン部への充填に効果的に寄与しないという問題があった。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、パターンロールの周面に形成された微細なパターンを溶融樹脂シートに高精度に転写することが可能な樹脂シートの製造装置及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る樹脂シートの製造装置は、相対向する円形の側面とこれらを繋ぐ周面を有するロール状の回転体であって、両側面の中心を貫く軸を回転軸として回転可能に設けられ、溶融樹脂シートに転写するためのパターンが周面に形成されたパターンロールと、
パターンロールの周面の一部と所定の間隔をおいて対向する曲面部、パターンロールに部分的に接触しパターンロールを支持する支持部、及び曲面部近傍に設けられた温度調節用の媒体流路を有し、曲面部と周面の間に溶融樹脂シートを挟み、溶融樹脂シートを周面の方向に押圧するブロックを備え、曲面部と周面の間隔が、パターンロールの回転方向に向かって連続的に減少しているものである。
【0008】
また、本発明に係る樹脂シートの製造方法は、溶融樹脂シートに転写するためのパターンが形成された周面を有するパターンロールと、周面の一部と所定の間隔をおいて対向する曲面部及びパターンロールに部分的に接触する支持部を有するブロックを用意し、温度調節用の媒体流路によって所定の温度に調節された曲面部と周面の間に溶融樹脂シートを挟み込むとともに、支持部でパターンロールを支持する第1のステップと、パターンロールを回転させ、溶融樹脂シートを曲面部により周面の方向に押圧し、曲面部と周面の間隔をパターンロールの回転方向に向かって連続的に減少させることにより曲面部による押圧力を連続的に増加させながら、パターンを溶融樹脂シートに転写する第2のステップを含むものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明における樹脂シートの製造装置及び樹脂シートの製造方法によれば、溶融樹脂シートを挟み込むブロックの曲面部とパターンロール周面の間隔を、パターンロールの回転方向に向かって連続的に減少させることにより、曲面部による押圧力を連続的に増加させているので、パターンへの溶融樹脂の充填が徐々に進行し、パターン転写の妨げとなる空気がパターンの樹脂未充填部を通して外部に排出されるため、転写不良を防止することができる。また、パターンロールと所定の温度に調節されたブロックを接触させて成形することで、樹脂充填圧力を印加した際の溶融樹脂シートの幅方向及び長手方向の樹脂の流動を防止することができる。これにより、パターンロール周面に形成されたパターンを溶融樹脂シートに高精度に転写することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態1に係る押出成形機の構成を示す概略図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る押出成形機のパターンロールを示す側面図、正面図、及び部分拡大断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る押出成形機のブロックを示す斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る押出成形機のパターンロールとブロックで溶融樹脂シートを挟み込んだ状態を示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態1におけるパターン形成部への樹脂充填状況を示す図である
【図6】本発明の実施の形態2に係る押出成形機の構成を示す概略図である。
【図7】本発明の実施の形態2に係る押出成形機のパターンロールを示す側面図、正面図、及び部分拡大断面図である。
【図8】本発明の実施の形態2に係る押出成形機のブロックを示す斜視図である。
【図9】本発明の実施の形態2に係る押出成形機のパターンロールとブロックで溶融樹脂シートを挟み込んだ状態を示す断面図である。
【図10】本発明の実施の形態3係る押出成形機の構成を示す概略図である。
【図11】本発明の実施の形態3に係る押出成形機のパターンロールを示す側面図、正面図、及び部分拡大断面図である。
【図12】本発明の実施の形態3に係る押出成形機のブロックを示す斜視図である。
【図13】本発明の実施の形態3に係る押出成形機のパターンロールとブロックで溶融樹脂シートを挟み込んだ状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を実施するための形態である実施の形態1〜実施の形態3について、図面に基づいて説明する。
【0012】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る樹脂シートの製造装置である押出成形機の構成を
示す概略図である。本実施の形態1に係る押出成形機100は、押出機1、Tダイ2、パターンロール4、ブロック5、及び冷却ロール6から主に構成されている。また、図示していないが、樹脂ペレットの供給口であるホッパー、成形後の樹脂シートを巻き取るロール及びこれを回転させるモータ、温度調節機等を備えている。
【0013】
押出機1は、融解点相当温度まで昇温した樹脂を押し出し、Tダイ2は、押出機1から押し出された溶融樹脂を所定の厚みのシート状に広げた溶融樹脂シート3を成形し、パターンロール4に供給するものである。パターンロール4とブロック5については、後に詳しく説明する。冷却ロール6は、表面に鏡面加工が施され、パターン転写が完了した溶融樹脂シート3aを冷却するものである。
【0014】
図2は、本実施の形態1における押出成形機100のパターンロール4を示しており、(a)は側面図、(b)は正面図、(c)は、(b)中A−Aで示す部分の部分拡大断面図である。パターンロール4は、相対向する円形の側面41、42とこれらを繋ぐ周面43を有するロール状の回転体である。両側面41、42の中心を貫く軸を回転軸(図示せず)として回転可能に設けられている(回転機構については図示せず)。
【0015】
パターンロール4の周面43は、両側面41、42にそれぞれ近接する2つの端部43a、43bと、これら2つの端部43a、43bの間に溶融樹脂シート3に転写するためのパターンが形成されたパターン形成部43cを有している。なお、図2(b)中に示した矢印は、溶融樹脂シート3の送り方向を示している。
【0016】
パターンロール4の製造方法について簡単に説明する。まず、一般的なロール材料である炭素鋼(例えばS25C)を用いてパターンロール4の基となるマザーロールを製作する。次に、マザーロール周面のパターン形成部43cに対応する部分にニッケルリンメッキを形成し、両端部43a、43bに対応する部分に硬質クロムメッキを形成する。さらに、パターン形成部43cに対応する部分にダイヤモンドバイトで円周方向に溝を形成する。
【0017】
なお、マザーロールの内部構造には特に制約はないが、ロール表面温度を均等にするため、ロール内部を二重壁とし、その壁間にスパイラル状の板を設けて温度調整用の媒体流路を形成する。本実施の形態1では、温度調整用の媒体として油を用いており、所定の温度に保った油をロール内部に循環させている。
【0018】
次に、ブロック5について説明する。図3は、本実施の形態1における押出成形機100のブロック5を示す斜視図である。ブロック5は、パターンロール4の周面43の一部と所定の間隔をおいて対向する曲面部52と、パターンロール4に部分的に接触しパターンロール4を支持する支持部51a、51bと、曲面部52近傍に設けられた温度調節用の媒体流路53を有する。本実施の形態1では、パターンロール4の2つの端部43a、43bとそれぞれ接触する2つの支持部51a、51bと、これら2つの支持部51a、51bの間に、パターンロール4のパターン形成部43cと対向する曲面部52を有している。支持部51a、51bは、パターンロール4の端部43a、43bの外形寸法と同寸法の円弧状に形成されている。
【0019】
また、曲面部52は、パターンロール4のパターン形成部43cの一部と、所定の間隔をおいて対向して配置され、パターン形成部43cとの間に挟まれた溶融樹脂シート3をパターン形成部43cの方向に押圧する。曲面部52とパターン形成部43cとの間隔は、パターンロール4の回転方向に向かって連続的に減少している。
【0020】
ブロック5内部の曲面部52近傍には、曲面部52に沿って温度調節用の媒体流路53
が設けられている。図3において、横線で示した媒体流路53aは冷却用媒体流路、縦線で示した媒体流路53bは加熱用媒体流路である。図3に示すように、冷却用媒体流路53aは、曲面部52の溶融樹脂シート入口(a)付近と溶融樹脂シート出口(e)付近に対応して設けられている。また、加熱用媒体流路53bは、曲面部52の溶融樹脂シート入口(a)付近と溶融樹脂シート出口(e)付近を除く部分(b〜d)に対応して設けられている。
【0021】
ブロック5の製造方法について簡単に説明する。母材はマザーロールと同じく炭素鋼(例えばS25C)を使用する。支持部51a、51b、及び曲面部52に対応する部分にニッケルリンメッキを形成し、ダイヤモンドバイトを使用して鏡面加工を施す。また、ブロック5内部の曲面部52近傍に、溶融樹脂シート3を加熱または冷却するための媒体流路53を形成する。
【0022】
ニッケルリンメッキは硬質クロムメッキよりも硬度が低いため、パターンロール4の両端部43a、43bとブロック5の支持部51a、51bを接触させると、支持部51a、51b表面に形成したニッケルリンメッキが磨耗する。磨耗が進んだ場合は、再度ニッケルリンメッキを形成する必要がある。なお、押出機1、Tダイ2、冷却ロール6については、一般的に使用されているものを用いることができるため、これらの製造方法については説明を省略する。
【0023】
図4は、パターンロール4の端部43a、43bとブロック5の支持部51a、51bを重ね合わせ、溶融樹脂シート3を挟み込んだ状態を示している。なお、パターンロール4とブロック5を位置決めし保持する機構については、特に限定するものではない。ブロック5を固定しパターンロール4を移動させるように構成してもよいし、パターンロール4を固定しブロック5を移動させる構成でもよい。または、パターンロール4、ブロック5共に移動させる構成でもよい。その場合、例えばパターンロール4を左右に移動させ、ブロック5を上下に移動させるようにしてもよく、その逆でもよい。
【0024】
次に、パターンロール4の周面43とブロック5の曲面部52の間隔について、図1及び図3を用いて説明する。図1において、aはTダイ2によりシート状に広げられた溶融樹脂シート3が挿入される溶融樹脂シート入口、bはパターン形成部43cのパターンに溶融樹脂シート3の溶融樹脂が充填され始める充填開始位置(転写開始位置)、cは充填経過位置、dはパターンへの溶融樹脂の充填が完了する充填完了位置(転写完了位置)、eはパターンの転写が完了した溶融樹脂シート3aが排出される溶融樹脂シート出口である。また、図3において、X(a)は、aの位置におけるパターンロール4の周面43(パターン形成部43c)とブロック5の曲面部52の間隔を示している。なお、X(b)、X(c)、X(d)、X(e)についても同様である。
【0025】
パターンロール4のパターン形成部43cとブロック5の曲面部52の間隔は、溶融樹脂シート入口(a)から充填開始位置(b)まで、同じ間隔に形成されている(X(a)=X(b))。また、充填開始位置(b)から充填完了位置(d)までは、連続的に減少している(X(b)>X(c)>X(d))。さらに、充填完了位置(d)から溶融樹脂シート出口(e)の間は、同じ間隔に形成されている(X(d)=X(e))。このように、曲面部52とパターン形成部43cの間隔をパターンロール4の回転方向に向かって連続的に減少させることにより、曲面部52による押圧力を連続的に増加させるものである。
【0026】
次に、パターンロール4のパターン形成部43cに、溶融樹脂シート3の溶融樹脂が充填される様子について、図5を用いて説明する。図5の(a)〜(e)はそれぞれ、図1に示すa〜eの位置における溶融樹脂の充填状況を示している。なお、図5において、パ
ターンロール4のパターン形成部43cと溶融樹脂シート3に挟まれている白い部分は、樹脂未充填部7を示している。
【0027】
まず、図5(a)に示すように、溶融樹脂シート入口(a)では、Tダイ2により厚みLに延ばされた溶融樹脂シート3が、パターンロール4のパターン形成部43cとブロック5の曲面部52の間隔X(a)の間に挿入される。充填開始位置(b)までは、図5(b)に示すように、同じ状態で送られる。続いて、充填開始位置(b)から充填完了位置(d)までは、パターン形成部43cと曲面部52の間隔が連続的に減少しているため、図5(c)に示すように溶融樹脂シート3の溶融樹脂が、パターンの溝に充填され始める。さらに、図5(d)に示すように、充填完了位置(d)では、溶融樹脂がパターンの溝に完全に充填され、図5(e)では、パターン転写が完了した溶融樹脂シート3aが溶融樹脂シート出口(e)から排出される。
【0028】
なお、図5において、パターンロール4のパターン形成部43cとブロック5の曲面部52の間隔は、パターン転写前の溶融樹脂シート3の断面積Sと、パターン転写が完了した溶融樹脂シート3aの断面積Sが同じ面積になるように、パターンのピッチP、溝深さd、溝本数n、及び溶融樹脂シート3の厚みLから求められる。例えばパターンの断面形状が図2(c)に示すような連続した三角形状の場合、以下の式1、式2によって求められる。
【0029】
溶融樹脂シート3の溶融樹脂がパターン溝に充填される前の溶融樹脂シート入口(a)から充填開始位置(b)までの間の間隔X(a〜b)は、溶融樹脂シート3の厚みLと略等しく設定されるので、
X(a〜b)=L ・・・(式1)
とすると、溶融樹脂が完全に充填された充填完了位置(d)から溶融樹脂シート出口(e)までの間の間隔X(d〜e)は、
X(d〜e)=(L−d/2)・・・(式2)
となる。また、充填開始位置(b)から充填完了位置(d)の間の間隔は、Lから(L−d/2)まで連続的に減少させたものである。
【0030】
ここで、パターン転写前の溶融樹脂シート3の厚みLを0.3mm、頂角θを90°、溝深さdを0.05mm、ピッチPを0.1mmとすると、X(a〜b)は0.3mm、X(d〜e)は0.275mmとなる。充填開始位置(b)から充填完了位置(d)の間の間隔X(b〜d)は、0.3mmから0.275mmまで連続的に減少させたものである。
【0031】
次に、本実施の形態1に係る押出成形機100を用いた樹脂シートの製造方法について説明する。まず、溶融樹脂シート3に転写するためのパターンが形成された周面43を有するパターンロール4と、周面43のパターン形成部43cの一部と所定の間隔をおいて対向する曲面部52及びパターンロール4に部分的に接触する支持部51a、51bを有するブロック5を用意する。続いて、温度調節用の媒体流路53によって所定の温度に調節された曲面部52とパターン形成部43cの間に溶融樹脂シート3を挟み込むとともに、支持部51a、51bでパターンロール4の端部43a、43bを支持する(第1のステップ)。
【0032】
第1のステップでは、最初はブロック5をパターンロール4に接触させず、離して設置しておく。そこに、例えば非晶性の熱可塑性樹脂であるポリカーボネート(以下、PCと
記す)を押出機1内で融解点以上の300℃まで昇温すると同時に、押出機1内部のスク
リューを回転させることで、樹脂を溶融、混練し、押し出す。なお、PCは溶融時に分解ガスを発生するため、押出機1にガスベントを設けて強制排出する。
【0033】
続いて、押出機1内で溶融したPCをTダイ2の内部でシート状に広げ、所定の厚みの溶融樹脂シート3に成形し、PCのガラス転移温度以下(例えば140℃)に昇温したパターンロール4及び冷却ロール6に巻き付ける。図1では、パターンロール4は右回り、冷却ロール6は左回りに回転する。また、ブロック5の加熱用媒体流路53aに300℃の油、冷却用媒体流路53bに140℃の油を流す。その後、ブロック5の支持部51a、51bとパターンロール4の両端部43a、43bを重ね合わせ、溶融樹脂シート3を挟み込む。
【0034】
次に、パターンロール4及び冷却ロール6を回転させ、溶融樹脂シート3をブロック5の曲面部52によりパターン形成部43cの方向に押圧する。ここで、曲面部52とパターン形成部43cの間隔Xを、パターンロール4の回転方向に向かって連続的に減少させることにより、曲面部52による押圧力を連続的に増加させながら、パターン形成部43cのパターンを溶融樹脂シート3に転写する(第2のステップ)。
【0035】
なお、第2のステップにおいて、ブロック5の曲面部52の溶融樹脂シート入口(a)付近と、溶融樹脂シート出口(e)付近では、冷却用媒体により溶融樹脂シート3を冷却する。また、曲面部52の溶融樹脂シート入口(a)付近と溶融樹脂シート出口(e)付近を除く部分、すなわち充填開始位置(b)から充填完了位置(d)の間の部分では、加熱用媒体により溶融樹脂シート3を加熱する。
【0036】
以上のように、本実施の形態1に係る押出成形機100を用い、上記のような第1及び第2のステップを含む製造方法によって樹脂シートを製造し、従来装置(図示せず)によ
る樹脂シートと比較したところ、従来装置による樹脂シートはパターンへの樹脂充填率が溝深さに対して約85%であったが、本実施の形態1による押出成形機100で製造した樹脂シートでは約98%であった。
【0037】
本実施の形態1における樹脂シートの製造方法によれば、ブロック5の曲面部52によるパターン形成部43cへの押圧力(樹脂充填圧力)は、充填開始位置(b)から充填完了位置(d)に進むにつれて徐々に増加し、図5に示すように、パターンへの溶融樹脂の充填が徐々に進行することから、樹脂未充填部7は溶融樹脂シート入口(a)から充填完了位置(d)まで連通している。このため、パターン転写の妨げとなる空気は、樹脂未充填部7を通して充填完了位置(d)から溶融樹脂シート入口(a)に向けて外部に排出されるため、転写不良を防止することができる。
【0038】
さらに、ブロック5からの押圧力(樹脂充填圧力)による溶融樹脂シート3の幅方向への流れ(広がり)は、ブロック5の支持部51a、51bにより防止することができる。また、長手方向の流れは、ブロック5に設けられた冷却用媒体流路53aにより、溶融樹脂シート入口(a)付近に対応する部分と、溶融樹脂シート出口(e)付近に対応する部分を冷却することで、溶融樹脂の流動層を減少させるとともに、溶融樹脂の粘度を増加させ、流動抵抗を増加させることにより防止することができる。
【0039】
以上のことから、本実施の形態1によれば、パターンロール4のパターン形成部43cに形成された微細なパターンを溶融樹脂シート3に高精度に転写することが可能な樹脂シートの製造装置及び製造方法を提供することができる。
【0040】
実施の形態2.
図6は、本発明の実施の形態2に係る樹脂シートの製造装置である押出成形機101の構成を示す概略図、図7は、本実施の形態2における押出成形機101のパターンロール40を示しており、(a)は側面図、(b)は正面図、(c)は、(b)中B−Bで示す部分の部分拡大断面図である。また、図8は、本実施の形態2における押出成形機101
のブロック50を示す斜視図である。
【0041】
本実施の形態2における押出成形機101のパターンロール40は、図7に示すように、周面43の端部43d、43eに、それぞれが近接する側面41、42に向かってロールの直径が小さくなる方向に傾斜が設けられている。また、これに対応するように、ブロック50の支持部51c、51dにも傾斜が設けられている。
【0042】
また、ブロック50は、支持部51cを有する部品5A、支持部51dを有する部品5B、及び曲面部52を有する部品5Cの3つの部品から構成され、これらの部品はボルト54で固定されている。図9は、パターンロール40の傾斜を有する2つの端部43d、43eとブロック50の2つの支持部51c、51dを重ね合わせ、溶融樹脂シート3を挟み込んだ状態を示している。なお、本実施の形態2における押出成形機101のその他の構成及び樹脂シートの製造方法については、上記実施の形態1と同様であるので説明を省略する。
【0043】
本実施の形態2によれば、上記実施の形態1と同様の効果に加え、ブロック50が3つの部品5A、5B、5Cから構成されているため、支持部51c、51dに形成したニッケルリンメッキが磨耗した際には、部品5A、5Bのみに再度ニッケルリンメッキを施工すればよく、上記実施の形態1に比べて容易に修復ができる。また、パターンロール40の両端部43d、43eと、これらに接触するブロック50の支持部51c、51dに傾斜を設けることにより、パターンロール40とブロック50で溶融樹脂シート3を挟み込む際の位置決めを容易に行うことができる。
【0044】
実施の形態3.
図10は、本発明の実施の形態3に係る樹脂シートの製造装置である押出成形機102の構成を示す概略図、図11は、本実施の形態3における押出成形機102のパターンロール400を示しており、(a)は側面図、(b)は正面図、(c)は、(b)中C−Cで示す部分の部分拡大断面図である。また、図12は、本実施の形態3における押出成形機102のブロック500を示す斜視図である。
【0045】
本実施の形態3における押出成形機102のパターンロール400は、図11に示すように、周面43全面にパターン形成部43cを有している。また、これに対応するように、ブロック500は、パターンロール400の両側面41、42とそれぞれ接触する2つの支持部51e、51fと、これら2つの支持部51e、51fの間に、パターン形成部43cと対向する曲面部52を有している。
【0046】
また、ブロック500は、支持部51eを有する部品5D、支持部51fを有する部品5E、及び曲面部52を有する部品5Fの3つの部品から構成され、これらの部品はボルト54で固定されている。図13は、パターンロール400の両側面41、42と、ブロック500の2つの支持部51e、51fを接触させ、溶融樹脂シート3を挟み込んだ状態を示している。なお、本実施の形態3における押出成形機102のその他の構成及び樹脂シートの製造方法については、上記実施の形態1と同様であるので説明を省略する。
【0047】
本実施の形態3によれば、上記実施の形態1と同様の効果に加え、ブロック500が3つの部品5D、5E、5Fから構成されているため、支持部51e、51fに形成したニッケルリンメッキが磨耗した際には、部品5D、5Eのみに再度ニッケルリンメッキを施工すればよく、上記実施の形態1に比べて容易に修復ができる。
【0048】
さらに、上記実施の形態1及び実施の形態2では、ブロック5、50をパターンロール4、40の周面43に接触させていたが、本実施の形態3では、ブロック500をパター
ンロール400の両側面41、42に接触させるようにした。これにより、パターンロール400のパターン形成部43cとブロック500の曲面部52の間隔を変更したい場合に、パターンロール400またはブロック500の加工を伴うことなく、ブロック500の位置を調整することで容易に変更できるため、様々な厚みの樹脂シートを製造することが可能である。
【0049】
なお、上記実施の形態1〜実施の形態3では、マザーロール表面にニッケルリンメッキと硬質クロムメッキを形成したが、メッキの種類はこれに限定されるものではなく、例えば銅メッキ等を形成してもよい。ただし、パターンロールとブロックを接触させて成形するため、パターンロールもしくはブロックの接触部位の磨耗、異物巻き込み時のキズ、変形等が発生した際に、パターンロールもしくはブロックのどちらか一方を修復すれば良いように、パターンロール及びブロックの接触部位表面に形成するメッキの硬度に差を付けた方が良い。
【0050】
また、ブロックの支持部の摩耗を軽減するために、接触部位表面に潤滑油などの潤滑材や、フッ素コーティング等の対磨耗コーティングを塗布しても良い。また、互いに接触する部位にベアリング等の摺動機構を使用しても良い。また、パターンロールとブロックの母材としてS25Cを用いたが、これに限らず、パターンロール及びブロックの剛性や、表面に形成するメッキの線膨張係数等を考慮して最適な材料を選定すれば良い。
【0051】
また、上記実施の形態1〜実施の形態3では、樹脂シート材料として非晶性の熱可塑性樹脂であるPCを用いたが、これに限定されるものではなく、他の熱可塑性樹脂や、熱硬化性樹脂、感光性樹脂、2液混合により硬化する樹脂等、架橋硬化性樹脂を用いても良い。さらに、上記実施の形態1〜実施の形態3では、押出機1とTダイ2を使用して溶融樹脂シート3を製作したが、市販されている熱可塑性の樹脂シートを加熱して使用しても良い。また、本発明は、樹脂材料に限らず、パターンロールやブロックを形成する材料よりも融解点相当温度が低い材料に対して適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、輝度向上シートや光拡散シートのように表面に微細なパターンを有する樹脂シートを押出成形で製造する際の製造装置及び製造方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 押出機、2 Tダイ、3 溶融樹脂シート、
3a パターン転写が完了した溶融樹脂シート、
4、40、400 パターンロール、41、42 側面、
43 周面、43a、43b、43d、43e 端部、43c パターン形成部、
5、50、500 ブロック、6 冷却ロール、7 樹脂未充填部、
51a、51b、51c、51d、51e、51f 支持部、52 曲面部、
53 媒体流路、54 ボルト、100、101、102 押出成形機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対向する円形の側面とこれらを繋ぐ周面を有するロール状の回転体であって、前記両側面の中心を貫く軸を回転軸として回転可能に設けられ、溶融樹脂シートに転写するためのパターンが前記周面に形成されたパターンロール、
前記パターンロールの前記周面の一部と所定の間隔をおいて対向する曲面部と、前記パターンロールに部分的に接触し前記パターンロールを支持する支持部と、前記曲面部近傍に設けられた温度調節用の媒体流路を有し、前記曲面部と前記周面の間に溶融樹脂シートを挟み、溶融樹脂シートを前記周面の方向に押圧するブロックを備え、
前記曲面部と前記周面の間隔が、前記パターンロールの回転方向に向かって連続的に減少していることを特徴とする樹脂シートの製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂シートの製造装置であって、前記パターンロールの前記周面は、前記両側面にそれぞれ近接する2つの端部と、これら2つの端部の間に前記パターンが形成されたパターン形成部を有し、前記ブロックの前記支持部は、前記2つの端部とそれぞれ接触して前記パターンロールを支持することを特徴とする樹脂シートの製造装置。
【請求項3】
請求項2に記載の樹脂シートの製造装置であって、前記端部には、近接する前記側面に向かってロールの直径が小さくなる方向に傾斜が設けられていることを特徴とする樹脂シートの製造装置。
【請求項4】
請求項1に記載の樹脂シートの製造装置であって、前記パターンロールの前記周面は、その全面に前記パターンが形成されたパターン形成部を有し、前記ブロックの前記支持部は、前記パターンロールの両側面とそれぞれ接触して前記パターンロールを支持することを特徴とする樹脂シートの製造装置。
【請求項5】
請求項1に記載の樹脂シートの製造装置であって、前記温度調節用の媒体流路として、前記曲面部の溶融樹脂シート入口付近と溶融樹脂シート出口付近に対応して冷却用の媒体流路が設けられ、前記曲面部の前記溶融樹脂シート入口付近と前記溶融樹脂シート出口付近を除く部分に対応して加熱用の媒体流路が設けられていることを特徴とする樹脂シートの製造装置。
【請求項6】
請求項1に記載の樹脂シートの製造装置であって、樹脂を溶融して押し出す押出機と、前記押出機から押し出された溶融樹脂をシート状に広げるダイを備え、前記ダイにより所定の厚みに成形された溶融樹脂シートを前記パターンロールに供給することを特徴とする樹脂シートの製造装置。
【請求項7】
溶融樹脂シートに転写するためのパターンが形成された周面を有するパターンロールと、前記周面の一部と所定の間隔をおいて対向する曲面部及び前記パターンロールに部分的に接触する支持部を有するブロックを用意し、温度調節用の媒体流路によって所定の温度に調節された前記曲面部と前記周面の間に溶融樹脂シートを挟み込むとともに、前記支持部で前記パターンロールを支持する第1のステップ、
前記パターンロールを回転させ、溶融樹脂シートを前記曲面部により前記周面の方向に押圧し、前記曲面部と前記周面の間隔を前記パターンロールの回転方向に向かって連続的に減少させることにより前記曲面部による押圧力を連続的に増加させながら、前記パターンを溶融樹脂シートに転写する第2のステップを含むことを特徴とする樹脂シートの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の樹脂シートの製造方法であって、前記第2のステップにおいて、前記曲面部の溶融樹脂シート入口付近と溶融樹脂シート出口付近では、冷却用媒体により溶融
樹脂シートを冷却し、前記曲面部の溶融樹脂シート入口付近と溶融樹脂シート出口付近を除く部分では、加熱用媒体により溶融樹脂シートを加熱することを特徴とする樹脂シートの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2010−264604(P2010−264604A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115625(P2009−115625)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】