説明

樹脂フィルムのバリ取り方法及び積層体の切断方法

【課題】樹脂フィルムに切り込みを入れた際に生じるバリを除去する方法を提供する。
【解決手段】カッター2を樹脂フィルム4に圧接させ、カッター2を樹脂フィルム4に対して相対的に移動させることによって、樹脂フィルム4に切り込み6を入れた後、切り込み6を入れた部分を押圧部材で押圧して、切り込み6によって生じたバリ41を押し潰す。ここでバリ41を取り除いた後の樹脂フィルム4aの表面の平面度をより高くする観点からは、押圧部材をローラ部材とし、押圧部材の中心軸を切り込み方向に対して略垂直として、切り込み6の部分を転動させるのが好ましい。ローラ部材の直径としては1〜10mmの範囲が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルムのバリ取り方法及び積層体の切断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
厚さ数mm程度の樹脂シートを切断すると、切断部にバリやカエリが生じること、及びこれらのバリやカエリの抑制方法について記載した文献はいくつかある(例えば、特許文献1,2を参照)。しかし、図12に示すように、厚さが1mm未満の樹脂フィルム4にカッター2によって切り込み6を入れたときにも、バリ41が発生する。このことについて言及した文献は、本発明者等が調べた範囲では見あたらず、ましてやそのようなバリを取る方法について言及した文献はなかった。
【0003】
また、脆性材料基板と樹脂フィルムとを積層した積層体を切断方法としては、例えば、脆性材料基板と樹脂フィルムとの間にスクレイパーを挿入するとともに、樹脂フィルムの表面にカッターを所定圧力で当接し、スクレイパーとカッターとを積層体に対して相対的に移動させて、脆性材料基板から樹脂フィルムを帯状に剥離し、露出した脆性材料基板の表面にスクライビングホイールを当接させてスクライブラインを形成した後、外部応力を加えて積層体を切断する方法が提案されている(例えば、特許文献3,4を参照)。
【0004】
しかしながら、上記提案の切断方法では、樹脂フィルムの剥離片が不可避的に発生する。また、脆性材料基板と樹脂フィルムとの間にスクレイパーを挿入して相対移動させると、スクレイパーによって脆性材料基板の表面が傷つけられるおそれがある。
【特許文献1】特開2003-117882
【特許文献2】特開2000-225593
【特許文献3】特開2003-335536
【特許文献4】特開2007-45656
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、樹脂フィルムに切り込みを入れた際に生じるバリを除去する方法を提供することにある。
【0006】
また、本発明の目的は、脆性材料基板と樹脂フィルムとが積層された積層体において、剥離片や切断片などの廃棄物を生じさせず、しかも脆性材料基板の表面を傷つけることなく、さらには樹脂フィルムに切り込みを入れた際に生じるバリを取り除きながら積層体を切断できる方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、カッターを樹脂フィルムに圧接させ、前記カッターを前記樹脂フィルムに対して相対的に移動させることによって、樹脂フィルムに切り込みを入れた後、切り込みを入れた部分を押圧部材で押圧して、切り込みによって生じたバリを押し潰すことを特徴とする樹脂フィルムのバリ取り方法が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、脆性材料基板の一方面側に少なくとも1枚の樹脂フィルムが積層された積層体の切断方法であって、前記脆性材料基板の、前記樹脂フィルム面側と反対面側から、前記脆性材料基板表面に対して垂直方向にクラックを形成する工程と、前記樹脂フィルムにカッターを圧接させ、前記カッターを前記樹脂フィルムに対して相対的に移動させることによって前記樹脂フィルムに切り込みを入れる工程と、前記樹脂フィルムの切り込みを入れた部分を押圧部材で押圧する工程とを含むことを特徴とする積層体の切断方法が提供される。
【0009】
ここで、バリを取り除いた後の樹脂フィルム表面の平面度をより高くする観点からは、前記押圧部材をローラ部材とし、前記押圧部材の中心軸を切り込み方向に対して略垂直として、前記切り込みを入れた部分上を転動させるのが好ましい。前記押圧部材の直径としては1〜10mmの範囲が好ましい。また、押圧部材の押圧力としては0.01〜0.4MPaの範囲が好ましい。
【0010】
また、積層体を切断する場合、前記カッターの圧接力としては0.1〜0.8MPaの範囲が好ましい。
【0011】
そしてまた、本発明によれば、脆性材料基板の一方側面側に少なくとも1枚の樹脂フィルムが積層された積層体の切断装置であって、前記脆性材料基板に対して相対移動可能な、樹脂フィルムに切り込みを入れるカッターと、前記カッターによる切り込みの近傍に生じた樹脂フィルムのバリを押圧する押圧部材と、前記脆性材料基板に対して相対移動可能な、前記脆性材料基板に対して垂直方向にクラックを形成するクラック形成手段とを有することを特徴とする積層体の切断装置が提供される。
【0012】
前記クラック形成手段としてはスクライビングホイールであってもよい。また前記押圧部材としてはローラ部材であってもよく、この場合、ローラ部材の中心軸を切り込み方向に対して略垂直として、前記切り込みを入れた部分上を転動させるのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の樹脂フィルムのバリ取り方法では、カッターで樹脂フィルムに切り込みを入れた後、切り込みを入れた部分を押圧部材で押圧するので、切り込みによって生じたバリが押し潰され、樹脂フィルムの表面の平面度が格段に高くなる。
【0014】
また、本発明に係る積層体の切断方法及び切断装置では、脆性材料基板に所定深さのクラックを形成すると共に、カッターによって樹脂フィルムに切り込みを入れ、切り込みを入れた部分を押圧部材で押圧して、前記クラックを脆性材料基板の樹脂フィルム面側まで伸展させることによって積層体を切断するので、切断処理において廃棄物は発生しない。また、カッターは樹脂フィルムに切り込みを入れるだけで、原則として脆性材料基板の、樹脂フィルムとの接合面に接触することはないので、脆性材料基板がカッターで傷つけられることはない。さらには、切り込みを入れた部分を押圧部材で押圧して、前記クラックを脆性材料基板の樹脂フィルム面側まで伸展させる際、樹脂フィルムに形成されたバリを押圧部材で押し潰すので、切断後の樹脂フィルムの平面度が高くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係るバリ取り方法についてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に何ら限定されるものではない。
【0016】
図1に、本発明に係るバリ取り方法の一実施形態を示す工程図を示す。まず、樹脂フィルム4にカッター2を圧接し、カッター2を樹脂フィルム4に対して相対的に移動させる(同図(a))。これによって、樹脂フィルム4に切り込み6が入れられる(同図(b))。このとき、カッター2によって押し出された樹脂フィルムが、切り込み6の両側に突条となってバリ41を形成する。次に、ローラ部材(押圧部材)9を、中心軸91が切り込み6の方向に対して垂直で、且つ切り込み部分の両側に接触するように配置し、所定の押圧力を加えながら転動させる(同図(c))。すると、切り込み6の両側のバリ41がローラ部材9によって押し潰され、樹脂フィルム4の表面の平面度が格段に高くなる(同図(d))。なお、ローラ部材9によって押し潰されたバリ41の一部は、同図(d)のように、切り込み6の内周壁に膨らみとなって現れることもあるが、樹脂フィルム4の表面の平面度に影響を与えることはない。
【0017】
また、樹脂フィルム4の材質が比較的硬い場合は、ローラ部材9によって押圧する前に、樹脂フィルム4の切り込み6の部分を加熱し、変形しやすくしておいてもよい。なお、このときの加熱温度は、樹脂フィルム4の溶融温度未満である。
【0018】
本発明で使用するカッター2としては、固定式および回転式のいずれの方式であっても構わないが、一般に樹脂フィルム4に切り込みを入れやすい固定式が推奨される。また固定式のカッターの場合、樹脂フィルム4との摩擦を小さくして、小さな圧接荷重で切り込みを入れる観点から、刃先角度θ(図1(a)に図示)は20°〜80°の範囲が好ましい。また、カッター2に加える圧接力は、樹脂フィルム4の材質や刃先角度、切り込みの深さ等から適宜決定すればよい。通常は、0.1〜0.8MPaの範囲の圧接力が好ましい。カッター2の材質としては、ガラスより硬度の低い金属が好ましく、例えばステンレス鋼や高速度工具鋼が好適である。
【0019】
図2に、本発明で好適に使用できるカッターの一例を示す。図2のカッター22は、略V字状に形成された外周縁部22aを有するディスク状を呈し、図中下方の外周縁部22aに、軸線と平行にカットされた平坦なカット面22bを有する。図中において、カッター22上部にも同様に、後述するフィルムカッターホルダー25(図10に図示)に当接させてカッター22を固定するための平坦な固定面22cが形成されている。
【0020】
図2に示すカッター22によれば、例えば、ガラス基板上に樹脂フィルムが積層された積層体において、樹脂フィルムに切り込みを入れる場合、図3に示すように、平坦なカット面22bがたとえガラス基板3aの表面3bに接触したとしても、ガラス基板3aに与える損傷を抑えることができる。このため、ガラス基板3aの表面3bの直近位置(図中の、ガラス基板面からの距離e’の位置)まで、カッター22を接近させることができ、深い切込みを安定して形成することができるようになる。なお、距離e’は、数十μm以下にまですることができる。
【0021】
カッター22のカット面22bを、ガラス基板3aの表面3bに接近させた状態で切り込みを入れると、樹脂フィルム4aはほぼ切断された状態になる。このとき既に、ガラス基板3aにスクライブラインが形成されている場合には、切り込みを入れた部分を、ローラ部材9で押圧することによって、樹脂フィルム4aに生じたバリが押し潰されると同時に、ガラス基板3aに形成された垂直クラックが深く伸展し、積層体が切断される。
【0022】
カッター22のカット面22bには、摩擦を減少させる減摩処理を施してもよい。減摩処理としては、フッ素樹脂や二硫化モリブデン等の減摩剤をコーティングする方法が挙げられる。
【0023】
図4に、本発明で好適に使用できるカッターの他の形態を示す。カッター23は、略V字状に形成された外周縁部23aを有するディスク状を呈し、図中下方の外周縁部23aに、軸線と平行にカットされた平坦なカット面23bが形成され、さらにカット面23bと平行に深さdの切欠き部23dを有する。このような、外周縁部23aの少なくとも一箇所に、ディスクの軸線と平行にカットされた第1のカット面23bと、ディスクの径方向でカット深さが変化した第2のカット面23dとを備えたカッター23では、樹脂フィルム4a中における切り込み時の抵抗が抑えられるので、切り込みに要する駆動力を低減でき、装置を簡略化することができる。
【0024】
本発明で使用する押圧部材は、ローラ部材9に限定されるものではなく、例えば断面が多角形の柱状部材や板状部材などであっても構わない。ただし、柱状部材や板状部材を樹脂フィルム4に圧接させて、樹脂フィルム4に形成されたバリ41を一度に押し潰す場合、押圧部材の、樹脂フィルム4と接触する面の平面度を高くする必要があり、使用する押圧部材の加工精度や圧接条件等を厳密に管理・制御しなければならない。これに対し、押圧部材として、樹脂フィルム4上を転動させるローラ部材9を用いる場合は、ここまでの厳しい管理・制御は必要とされないので、本発明で使用する押圧部材としてはローラ部材9が推奨される。
【0025】
ローラ部材9の直径に特に限定はないが、直径が大きいと、バリ41に加わる押圧力が弱くなるので、通常は、1〜10mmの範囲が好ましい。
【0026】
押圧部材の材質としては、弾性変形しないものであれば特に限定はなく、例えばPEEK(Poly Ether Ether Ketone)などの樹脂材やステンレス鋼などの金属材などが挙げられる。
【0027】
ローラ部材9に加える押圧力に特に限定はないが、樹脂フィルム4の材質やバリ41の大きさ等を考慮して適宜決定すればよい。一般に、カッター2の刃先角度θが大きいほど、また切り込み6が深いほど、形成されるバリ41の体積は大きくなるので、ローラ部材9の押圧力を大きくする必要がある。ローラ部材9に加える押圧力としては、通常、0.01〜0.4MPaの範囲である。
【0028】
本発明のバリ取り方法が適用できる樹脂フィルム4としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)などのセルロースアセテート系樹脂、アクリル系樹脂、四フッ化エチレン/六フッ化プロピレン系共重合体のようなフッ素系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン樹脂もしくはポリアミド系樹脂等の樹脂をフィルム状に成形加工したものが挙げられる。樹脂フィルム4の厚さに特に限定はないが、通常は、500μm以下の範囲である。
【0029】
次に、本発明に係る積層体の切断方法について説明する。図5に、本発明に係る切断方法の一実施形態を示す工程図を示す。この図は、脆性材料基板であるガラス基板3の片側面に樹脂フィルム4aが積層された積層体Sを切断する場合の工程図である。なお、同図(a)〜(c)において、左側の図は垂直クラック5に対して垂直方向の断面図であり、右側の図は、クラック面における、垂直クラック5に平行な方向の断面図である。同図(a)では、まず、所定荷重のかかったスクライビングホイール1を、ガラス基板3に対して相対的に移動させて、ガラス基板3にスクライブラインを形成する。このときガラス基板3の表面に対して垂直方向で深さDの垂直クラック5が形成される。
【0030】
垂直クラック5の深さDは、スクライビングホイール1の材質や刃先形状、スクライビングホイール1にかける荷重などで調整することができる。スクライビングホイール1としては、通常、円盤状のホイールの円周部に断面略V字形状の刃が形成されたものを用いるが、ガラス面に対するかかりを向上させたり、垂直クラック5の深さDを深くしたりする場合には、この刃の稜線となる刃先に複数の溝が切り欠かれたものを用いればよい。前記スクライビングホイールの外径としては1mm〜20mmの範囲、前記溝の深さとしては1μm〜20μmの範囲が推奨される。
【0031】
また、ガラス基板3に所定深さの垂直クラック5を形成する方法としては、スクライビングホイール1を用いたスクライブの他、レーザ光を照射して垂直クラック5を形成する方法を用いても構わない。レーザ光としては、例えば、COガスレーザ、YAGレーザやチタンサファイヤレーザなどが挙げられる。
【0032】
次に、同図(b)に示すように、樹脂フィルム4aの外表面の、前記垂直クラック5を延長した位置又はその近傍に、所定荷重をかけてカッター2を圧接させ、カッター2を樹脂フィルム4aに対して相対的に移動させて、樹脂フィルム4aに切り込み6を入れる。このとき、前述のように、カッター2によって押し出された樹脂フィルム4aが、切り込み6の両側に突条となって、バリ41が形成される。カッター2の圧接力は、通常は、0.1〜0.8MPaの範囲が好ましい。
【0033】
また、切り込み6の深さdは、樹脂フィルム4aの厚さの90%以上で且つガラス基板3に達しない範囲(この場合は100%未満)とするのが好ましい。これによって、前工程においてガラス基板3に形成された垂直クラック5が、ガラス基板3の、樹脂フィルム面側まで伸展し(同図(b)のD’として図示)、ガラス基板3がほぼ切断された状態となる。
【0034】
なお、図2の実施形態ではカッター2として固定式の刃を使用しているが、これに限定されるものではなく、回転式のカッターを用いても構わない。
【0035】
次に、同図(c)に示すように、ローラ部材9を、中心軸91が切り込み方向に対して垂直で、且つローラ部材9が切り込み6の両側に接触するように配置し、所定の押圧力を加えながら転動させる。これによって、切り込み6の両側のバリ41がローラ部材9によって押し潰され、樹脂フィルム4aの表面の平面度が高くなる。また同時に、上記押圧力がかかることによって、垂直クラック5が樹脂フィルム面側に伸展し、同図(d)に示すように、ガラス基板3及び樹脂フィルム4aは垂直クラック5及び切り込み6の部分で切断される。
【0036】
樹脂フィルム4aの変形を容易にするために、前述のように、ローラ部材8によって樹脂フィルム4aを押圧する前に、従来公知の加熱手段を用いて切り込み6の部分を加熱してもよい。
【0037】
本発明の切断方法の対象となる脆性材料基板としては、例えばガラス、セラミック、シリコン、サファイヤ等の脆性材料基板が挙げられる。脆性材料基板の厚さに特に限定はないが、通常は、0.05mm〜2mmの範囲である。
【0038】
また、樹脂フィルム4aとしては、前述のものがここでも例示される。樹脂フィルム4aの厚さに特に限定はないが、通常は、500μm以下の範囲である。
【0039】
図5の実施形態では、ガラス基板3をスクライブして比較的深い垂直クラック5を形成した後、スクライブラインに対応する反対側の位置から樹脂フィルム4aに切り込み6を入れたが、他の実施形態として、まず、スクライビングホイール1の刃先を選択しスクライブによって、ガラス基板4aの板厚の約30%以下の浅い垂直クラック5を形成した後、このスクライブラインに対応する反対側の位置から樹脂フィルム4aに切り込み6を入れてもよい。この場合には、垂直クラック5が浅く形成されているので、切り込み6を入れようとする樹脂フィルム4a部分の直下のガラス基板4aの面が、垂直クラック5が深く形成された場合に比べて強固であるので、樹脂フィルム4aに切り込み6をより安定して入れることができる。
【0040】
図6に、本発明に係る切断方法の他の実施形態を示す。図6における切断対象となる積層体Sは、ガラス基板3の、樹脂フィルム面側と反対面側に、保護フィルム7を積層したものである。この場合、所定荷重をかけたスクライビングホイール1を、保護フィルム7の表面に圧接し相対的に移動させて、保護フィルム7をスクライブして、保護フィルム7及びガラス基板3に垂直クラック5を形成する。ここで使用する保護フィルム7としては、例えばPETフィルムやTACフィルムなどが挙げられる。
【0041】
図7に、本発明に係る切断方法のさらに他の実施形態を示す。図7における切断対象となる積層体Sは、ガラス基板3の片側面に2枚の樹脂フィルム4a,4bが積層されたものである。この場合、カッター2による切り込み6は、外側の樹脂フィルム4bを完全に分断し、ガラス基板側の樹脂フィルム4aではガラス基板3に達しない範囲の深さとする。これによって、前述と同様に、ガラス基板3の、樹脂フィルム面側を傷つけることなく、樹脂フィルム4a,4bを切断できるようになる。なお、樹脂フィルム4aにおける切り込み6の深さは、好ましくは、樹脂フィルム4aの厚さの90%以上100%未満である。また、樹脂フィルム4aと樹脂フィルム4bの材質は同一であってもよいし、異なっていてもよい。さらには、ガラス基板3の片側面に積層する樹脂フィルムの枚数に限定はなく、3枚以上であってももちろん構わない。
【0042】
図8に、本発明に係る切断方法のさらに他の実施形態を示す。図8における切断対象となる積層体Sは、ガラス基板3と樹脂フィルム4aとの間に接着剤層81が積層されたものである。このような構造の積層体Sを切断する場合、カッター2による切り込み6は、樹脂フィルム4aを完全に分断し、接着剤層81ではガラス基板3に達しない範囲とする。これによって、前述と同様に、ガラス基板3の、樹脂フィルム面側を傷つけることなく、接着剤層81を切断できるようになる。なお、接着剤層81における切り込み6の深さは、好ましくは、接着剤層81の厚さの90%以上100%未満である。
【0043】
接着剤層81の材質としては、例えば、紫外線硬化型樹脂や熱硬化型樹脂、又は両方の作用で硬化する樹脂などが挙げられる。具体的には、エチレン・酸無水物共重合体(エポキシ樹脂系接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤などの熱硬化性接着剤、シリコーン樹脂、シアノアクリレート、アクリル樹脂などの紫外線硬化性接着剤などが例示される。また、接着剤層81の厚みに特に限定はないが、通常は、0.1μm〜50μmの範囲である。
【0044】
図9に、本発明に係る切断方法のさらに他の実施形態を示す。図9における切断対象となる積層体Sは、ガラス基板3と樹脂フィルム4aとが、外周部に設けられた接着剤層82で積層されてなり、両者の中央部に空間が形成されてなるものである。このような構造の積層体Sを切断する場合、切り込み6の深さは、樹脂フィルム4aの厚みに対して90%以上100%未満とするのが好ましい。また、接着剤層82に換えて微粒子などのスペーサ部材を使用して、ガラス基板3と樹脂フィルム4aとの間に空間を形成した積層体の場合も、この図に示す方法によって同様に切断できる。
【0045】
本発明に係る積層体の切断方法は、例えば、液晶パネルのガラス基板の切断等に好適に使用できる。具体的には、ガラス基板に偏光板が積層されたもの等の切断に好適に使用できる。偏光板としては、通常は、偏光子の両面に支持フィルムを貼り合わせたものが使用される。偏光子としては、例えば、ポリビニルアルコール系の樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン/酢酸ビニル(EVA)樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂等の偏光子基板に、二色性染料又はヨウ素を吸着配向させたもの、分子的に配向したポリビニルアルコールフィルム中に、ポリビニルアルコールの二色性脱水生成物(ポリビニレン)の配向した分子鎖を含有するポリビニルアルコール/ポリビニレンコポリマーなどが挙げられる。偏光子の厚さに特に限定はないが、一般には偏光板の薄型化等を目的に、50μm以下の範囲とされる。一方、偏光子を支持・保護する支持フィルムとしては、例えば、TACフィルムやノルボルネン系フィルムなどが挙げられる。支持フィルムの厚さに特に限定はないが、一般には、300μm以下の範囲とされる。
【0046】
次に、本発明に係る積層体の切断装置について説明する。図10に、本発明の切断装置の一例を示す概説図を示す。図10の切断装置100は、カッター22を固定装着したフィルムカッターホルダー25と、ローラ部材9を回転自在に保持したローラホルダー92と、スクライビングホイール1を回転自在に保持したスクライブホルダー11と備える。フィルムカッターホルダー25とローラホルダー92とは、積層体の上面側に位置し、樹脂フィルム面4bを処理し、スクライブホルダー11は、積層体の下面側に位置し、ガラス基板3aの表面を処理する。したがって、積層体の樹脂フィルム4a及びガラス基板3aのいずれか一方を処理した後、もう一方を処理することもできるし、樹脂フィルム4a及びガラス基板3aの両方を同時に処理することもできる。
【0047】
カッター22には、平行な2つの面、即ちカット面22bと固定面22cが形成されている。カッター22は、カッター22の固定面22cが、フィルムカッターホルダー25の内部の平坦部25cと当接するように、フィルムカッターホルダー25に固定される。そして、カッター22のカット面22bとガラス基板3aの表面3bとが平行になるように、フィルムカッターホルダー25が、その上部が、不図示のフィルムカッターホルダーヘッドに装着される。この不図示のフィルムカッターホルダーヘッドによって、カッター22の樹脂フィルム面4bへの切込み深さが調整される。
【0048】
ローラ部材9は、ローラ軸93と樹脂フィルム面4bとが平行になるように、ローラホルダー92に装着され、ローラホルダー92は、不図示のローラホルダーヘッドに保持されている。この不図示のローラホルダーヘッドによって、ローラ部材9の樹脂フィルム面4bに対する押圧荷重が調整される。
【0049】
スクライビングホイール1が装着されたスクライブホルダー11は、その上部が、不図示のローラホルダーヘッドに保持されている。
【0050】
このような構成の切断装置における積層体の切断処理は、フィルムカッターホルダー25が先行し、ローラホルダー92が後続して移動する。フィルムカッターホルダー25とローラホルダー92とは、それぞれが独立して移動してもよいし、両ホルダーを所定間隔で連結して一体として移動してもよい。スクライブホルダー11の移動順序に特に限定はなく、例えば、フィルムカッターホルダー25に先行して移動してもよいし、ローラホルダー92に後続して移動してもよい。ただし、積層体の円滑な切断を図る観点からは、スクライブホルダー11は、フィルムカッターホルダー25に先行して移動するようにするのが望ましい。
【0051】
図11に、本発明の切断装置のさらに他の例を示す。図11の切断装置101が、図10の切断装置100と異なる点は、積層体の一方面側に、フィルムカッターホルダー25とローラホルダー92、スクライブホルダー11とが設けられている点にある。したがって、この切断装置では、積層体の樹脂フィルム4a及びガラス基板3aのいずれか一方を処理した後、積層体を上下反転させてもう一方を処理する必要がある。例えば、フィルムカッターホルダー25とローラホルダー92とを上昇させて、カッター22とローラ部材9とをガラス基板3aと非接触位置とした状態で、スクライブホルダー11を下降させて、ガラス基板3aにスクライビングホイール1を圧接し転動させる。これによって、ガラス基板3aに垂直クラックを形成する(図11(a))。次に、積層体を上下反転させる。そして、スクライブホルダー11を上昇させて、スクライビングホイール1を樹脂フィルム4aと非接触位置とした状態で、フィルムカッターホルダー25とローラホルダー92とを下降させて、カッター22とローラ部材9とを樹脂フィルム4aに圧接させ、樹脂フィルム4aに切り込みを入れると共に、ローラ部材9でバリを押さえる(同図(b))。
【0052】
もちろん、図11の切断装置において、樹脂フィルム4aに切り込みを入れ、バリを押さえた後、積層体を上下反転させて、ガラス基板に垂直クラックを形成するようにしても構わない。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが本発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。
【0054】
実施例1
厚さ0.5mmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムに刃先角度45°のホイール型のカッターを0.4MPaの荷重をかけて圧接し、PETフィルムに対してカッターを相対移動させて、PETフィルムに切り込み入れた。切り込みの深さはPETフィルムの厚さの90%であった。PETフィルムの切り込み部分を顕微鏡観察したところ、切り込みの両側に高さ50μmのバリが形成されていた。
つぎに、このPETフィルムの切り込み部分に沿って、荷重0.2MPaをかけてローラ部材(材質:PEEK,直径4mm)を転動させた後、前記と同様にして、PETフィルムの切り込み部分を顕微鏡観察した。その結果、切り込みの両側のバリは完全に押し潰され、PETフィルムの表面に凹凸は見られなかった。また、切り込みの深さはPETフィルムの厚さのほぼ100%に達していた。なお、使用したカッター及びローラの仕様は次に示す通りである。
【0055】
【表1】

【0056】
実施例2
ソーダライムからなる厚さ1.1mmのガラス基板の片側面に、ガラス基板から順に、厚さ0.3mmの第1のPETフィルム、厚さ0.2mmの第2のPETフィルムを積層した積層体に対して、まず、ガラス基板にスクライビングホイールを0.2MPaの荷重をかけて圧接し、スクライブ速度300mm/secでガラス基板に対して相対移動させて、ガラス基板にスクライブラインを形成した。このとき形成された垂直クラックの深さは、ガラス基板の厚さの約80%であった。なお、用いたスクライビングホイールは、周辺リッジに深さ約10μmの溝が複数形成され、チッピング等を発生させることなく比較的深い垂直クラックを形成できる高浸透タイプのものである。
【0057】
次に、第2のPETフィルムに、図2に示すカッター22を0.4MPaの荷重をかけて圧接し、積層体に対してカッターを相対移動させて、第2のPETフィルムを完全に切断し、第1のPETフィルムに切り込み入れた。切り込みの深さは第1のPETフィルムの厚さの90%〜95%であった。
そして、第2のPETフィルムの切り込み部分に沿って、0.2MPaの荷重をかけてローラ部材を転動させたところ、積層体はクラック及び切り込みの部分で切断された。また切断された2つの積層体の第2のPETフィルムの表面に凹凸は見られなかった。なお、使用したカッター、ローラおよびスクライビングホイールの仕様は以下の表2に示す通りである。
【0058】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係る樹脂フィルムのバリ取り方法の一例を示す工程図である。
【図2】本発明のバリ取り方法で使用するカッターの他の形態を示す図である。
【図3】図2のカッターを用いて樹脂フィルムに切り込みを入れる説明図である。
【図4】本発明のバリ取り方法で使用するカッターのさらに他の形態を示す図である。
【図5】本発明に係る積層体の切断方法の一例を示す工程図である。
【図6】ガラス基板に保護フィルムが積層されている積層体の切断例を示す概説図である。
【図7】2枚の樹脂フィルムがガラス基板の片側面に積層されている積層体の切断例を示す概説図である。
【図8】ガラス基板と樹脂フィルムとが接着剤層で接合されている積層体の切断例を示す概説図である。
【図9】ガラス基板と樹脂フィルムとが、外周部を接着剤層で接合されている積層体の切断例を示す概説図である。
【図10】本発明に係る切断装置の一例を示す概説図である。
【図11】本発明に係る切断装置の他の例を示す概説図である。
【図12】樹脂フィルムにカッターで切り込みを入れたときの状態図である。
【符号の説明】
【0060】
1 スクライビングホイール
2 カッター
3 ガラス基板(脆性材料基板)
5 垂直クラック
6 切り込み
7 保護フィルム
9 ローラ部材
,S,S,S,S 積層体
4a,4b 樹脂フィルム
22,23 カッター
41 バリ
81,82 接着剤層
91 中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カッターを樹脂フィルムに圧接させ、前記カッターを前記樹脂フィルムに対して相対的に移動させることによって、樹脂フィルムに切り込みを入れた後、切り込みを入れた部分を押圧部材で押圧して、切り込みによって生じたバリを押し潰すことを特徴とする樹脂フィルムのバリ取り方法。
【請求項2】
前記押圧部材がローラ部材であり、前記押圧部材の中心軸を切り込み方向に対して略垂直として、前記切り込みを入れた部分上を転動させる請求項1記載の樹脂フィルムのバリ取り方法。
【請求項3】
前記押圧部材の直径が1〜10mmの範囲である請求項2記載の樹脂フィルムのバリ取り方法
【請求項4】
前記押圧部材の押圧力が0.01〜0.4MPaの範囲である請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂フィルムのバリ取り方法。
【請求項5】
脆性材料基板の一方面側に少なくとも1枚の樹脂フィルムが積層された積層体の切断方法であって、前記脆性材料基板の、前記樹脂フィルム面側と反対面側から、前記脆性材料基板表面に対して垂直方向にクラックを形成する工程と、前記樹脂フィルムにカッターを圧接させ、前記カッターを前記樹脂フィルムに対して相対的に移動させることによって前記樹脂フィルムに切り込みを入れる工程と、前記樹脂フィルムの切り込みを入れた部分を押圧部材で押圧する工程とを含むことを特徴とする積層体の切断方法。
【請求項6】
前記押圧部材をローラ部材とし、前記押圧部材の中心軸を切り込み方向に対して略垂直として、前記切り込みを入れた部分上を転動させる請求項5記載の積層体の切断方法。
【請求項7】
前記押圧部材の直径を1〜10mmの範囲とした請求項6記載の積層体の切断方法。
【請求項8】
前記押圧部材の押圧力が0.01〜0.4MPaの範囲である請求項5〜7のいずれかに記載の積層体の切断方法。
【請求項9】
前記カッターの圧接力が0.1〜0.8MPaの範囲である請求項5〜8のいずれかに記載の積層体の切断方法。
【請求項10】
脆性材料基板の一方側面側に少なくとも1枚の樹脂フィルムが積層された積層体の切断装置であって、前記脆性材料基板に対して相対移動可能な、樹脂フィルムに切り込みを入れるカッターと、前記カッターによる切り込みの近傍に生じた樹脂フィルムのバリを押圧する押圧部材と、前記脆性材料基板に対して相対移動可能な、前記脆性材料基板に対して垂直方向にクラックを形成するクラック形成手段とを有することを特徴とする積層体の切断装置。
【請求項11】
前記クラック形成手段がスクライビングホイールである請求項10記載の積層体の切断装置。
【請求項12】
前記押圧部材がローラ部材であり、前記押圧部材の中心軸を切り込み方向に対して略垂直として、前記切り込みを入れた部分上を転動させる請求項10又は11記載の積層体の切断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−230288(P2011−230288A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194447(P2008−194447)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(390000608)三星ダイヤモンド工業株式会社 (383)
【Fターム(参考)】