樹脂成形品の成形方法
【課題】発泡樹脂成形品の製造に際し、スキン層形成の問題、及びキャビティ内の高圧化の問題を抑制することを課題とする。
【解決手段】一対の金型21,22の少なくとも一方の金型21,22のキャビティ23形成面に通気性断熱部材Xを設置し、キャビティ23内に発泡性溶融樹脂Rを射出し、キャビティ23内で形成される発泡性溶融樹脂Rの樹脂層を通気性断熱部材Xに一体成形させ、その成形中に、キャビティ23内で発泡性溶融樹脂Rの発泡に伴い発生する気体を通気性断熱部材Xを介してキャビティ23外へ排出し、かつ、前記樹脂層における通気性断熱部材Xとの界面部を無皮層化させる。
【解決手段】一対の金型21,22の少なくとも一方の金型21,22のキャビティ23形成面に通気性断熱部材Xを設置し、キャビティ23内に発泡性溶融樹脂Rを射出し、キャビティ23内で形成される発泡性溶融樹脂Rの樹脂層を通気性断熱部材Xに一体成形させ、その成形中に、キャビティ23内で発泡性溶融樹脂Rの発泡に伴い発生する気体を通気性断熱部材Xを介してキャビティ23外へ排出し、かつ、前記樹脂層における通気性断熱部材Xとの界面部を無皮層化させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂成形、特に発泡樹脂成形の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両用部材を、軽量化や低コスト化等を図るために、樹脂成形品で構成することがある。例えば、特許文献1には、自動車のトランクルームにおいて、トランクボードと、その下方のトランクフロアとを、樹脂成形品、特に、内部に多数の空隙が形成された発泡樹脂成形品で構成することが開示されている。そして、この特許文献1には、さらに、相対向するトランクボードの下面及びトランクフロアの上面の一部又は全部において、表面のスキン層(射出成形時に溶融樹脂が成形用金型のキャビティに触れて冷えることにより発泡空隙を有することなく固化した表皮層のこと)を除去して内部の発泡層を露出させることにより、トランクルームから車室へ伝達される騒音がトランクボードやトランクフロアの発泡層内に直接入り込んで吸音性が向上すると記載されている。
【0003】
また、前記特許文献1には、発泡層の形成方法として、樹脂に発泡剤を添加することの他、ガスインジェクション法や臨界発泡法等が適用可能であることや、特定の周波数帯域の騒音を効果的に減衰するために、金型の所定部位に不織布等でなる所定面積の吸音材を挿入して固定したうえで金型を閉じ、ここに溶融樹脂を射出して成形することにより、吸音材以外の表面はスキン層が形成されて遮音効果が得られ、吸音材の部分では吸音効果が得られる樹脂成形品が成形されること等が併せて記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−322832号公報(段落0020,0028,0040,0044、図4、図7参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般に、発泡樹脂成形品を得るために、発泡性溶融樹脂をキャビティ内に射出すると、前述したように、溶融樹脂が成形用金型に触れて冷えることにより発泡空隙の無いスキン層が製品表面にできる。したがって、そのスキン層を一部又は全部除去して内部の発泡層を露出しなければ騒音吸音効果が得られないのであるが、そのためにスキン層の剥ぎ取り作業が必要となり生産性がよくない。また、発泡性溶融樹脂をキャビティ内に射出すると、該樹脂の発泡に伴い気体が発生し、キャビティ内が高圧化して、該樹脂の発泡性及び流動性が阻害されるという問題もある。
【0006】
本発明者等は、発泡樹脂成形品の製造に際し、前記のようなスキン層形成の問題、及びキャビティ内の高圧化の問題を抑制することを課題として、鋭意研究・検討を重ねた末に、本発明を完成したものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、まず、本願の請求項1に記載の発明は、相対的に開閉動作が可能に構成され、閉状態で内部にキャビティが形成される第1の金型及び第2の金型を備える成形用金型装置の前記キャビティ内に発泡性溶融樹脂を射出して樹脂成形品を得る樹脂成形品の成形方法であって、前記第1の金型及び第2の金型の少なくとも一方の金型の前記キャビティ形成面に通気性断熱部材を設置する設置工程と、前記設置工程後に、前記キャビティ内に前記発泡性溶融樹脂を射出することにより、前記キャビティ内で形成される前記発泡性溶融樹脂の樹脂層を前記通気性断熱部材に一体成形させる成形工程とを含み、前記成形工程中に、前記キャビティ内で前記発泡性溶融樹脂の発泡に伴い発生する気体を前記通気性断熱部材を介して前記キャビティ外へ排出し、かつ、前記樹脂層における前記通気性断熱部材との界面部を無皮層化させることを特徴とする。
【0008】
次に、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の樹脂成形品の成形方法において、前記成形工程中に、前記第1の金型及び第2の金型の少なくとも一方の金型を所定の位置まで開くことにより前記キャビティの容積を増大させることを特徴とする。
【0009】
次に、請求項3に記載の発明は、前記請求項2に記載の樹脂成形品の成形方法において、前記発泡性溶融樹脂は、前記樹脂成形品を補強するための補強繊維を含有していることを特徴とする。
【0010】
次に、請求項4に記載の発明は、前記請求項1から3のいずれかに記載の樹脂成形品の成形方法において、前記発泡性溶融樹脂は、超臨界状態の不活性流体を含有していることを特徴とする。
【0011】
次に、請求項5に記載の発明は、前記請求項1から4のいずれかに記載の樹脂成形品の成形方法において、前記成形工程では、前記発泡性溶融樹脂をショートショットで射出することを特徴とする。
【0012】
次に、請求項6に記載の発明は、前記請求項1から5のいずれかに記載の樹脂成形品の成形方法において、前記通気性断熱部材は、不織布であることを特徴とする。
【0013】
そして、請求項7に記載の発明は、前記請求項1から6のいずれかに記載の樹脂成形品の成形方法において、前記樹脂成形品は、車両用部材であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
まず、請求項1に記載の発明によれば、設置工程において、第1の金型及び第2の金型の少なくとも一方の金型のキャビティ形成面に通気性断熱部材を設置するようにしたから、後の成形工程中に、この通気性断熱部材を介して発泡ガスを金型の外に排気することにより、キャビティ内の高圧化が防止でき、発泡性溶融樹脂の発泡・流動性の促進及び均一化が図れ、発泡セルの分散性が向上する。また、成形工程において、キャビティ内で形成される前記発泡性溶融樹脂の樹脂層を前記通気性断熱部材と一体成形するようにしたから、発泡性溶融樹脂と通気性断熱部材との一体化により、両者の界面部が強化され、得られた発泡樹脂成形品の剛性・強度が向上する。さらに、前記設置工程で通気性断熱部材が設置されたキャビティ内に前記発泡性溶融樹脂を射出するようにしたから、発泡性溶融樹脂が金型に直接触れることがなく、通気性断熱部材を介してキャビティ内に射出されることとなり、樹脂と金型との間には通気性断熱部材の空気の層が存在し、その断熱効果により、後の成形工程中に、製品表面のスキン層の形成が遅れて、あたかも樹脂と通気性断熱部材との界面部がスキンレス化(無皮層化)し、その結果、騒音が発泡樹脂層の内部まで入り込んで吸音され、吸音性が向上することとなる。
【0015】
次に、請求項2に記載の発明によれば、前記成形工程中に、第1の金型及び第2の金型の少なくとも一方の金型を所定の位置まで開くようにしたから、キャビティ内の圧力が低下することとなり、樹脂の発泡が促進され、樹脂をキャビティの隅々まで行き渡らせることができて、成形品の欠肉が抑制される。
【0016】
次に、請求項3に記載の発明によれば、発泡性溶融樹脂に、樹脂成形品を補強するための補強繊維を含有させたから、キャビティの体積増加時に補強繊維が立ち上がるスプリングバック現象が得られて、発泡が促進され、かつ成形品の物性が向上する。
【0017】
次に、請求項4に記載の発明によれば、発泡性溶融樹脂に、超臨界状態の不活性流体を含有させたから、発泡ガスを金型の外に排気することにより、キャビティ内の高圧化が防止でき、発泡性溶融樹脂の発泡が促進される際に、より微細なセル構造が得られて、樹脂成形品の剛性が向上する。
【0018】
次に、請求項5に記載の発明によれば、前記成形工程では、発泡性溶融樹脂をショートショットで射出するようにしたから、射出圧力の高圧化を招くことなく、少量の樹脂でもキャビティ内全域に樹脂を流し込ませることができる。
【0019】
次に、請求項6に記載の発明によれば、通気性断熱部材は不織布であるから、該通気性断熱部材として、周知の汎用品を用いながら、前記請求項1から5の効果が得られる。
【0020】
次に、請求項7に記載の発明によれば、樹脂成形品は車両用部材であるから、該車両用部材を樹脂成形するに際し、前記請求項1から6の効果が得られる。以下、発明の最良の実施形態及び実施例を通して本発明をさらに詳しく説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る成形装置1の構成を示す概略全体図である。横に長い外筒(シリンダ)10及びスクリュー軸11を備える周知構造のスクリューフィーダ12の始端部近傍に樹脂ペレット及び樹脂成形品を補強するための補強繊維の投入ホッパ13が設けられ、終端部近傍に超臨界流体の供給管14が接続されている。供給管14の上流側は、図外の超臨界流体発生・供給装置を介して、例えば窒素(N2)や二酸化炭素(CO2)等の不活性ガスのガスボンベに連結されている。スクリュー軸11の先端部はチェックリング15及び円錐形状のヘッド16を備え、外筒10の先端部もそれに呼応して円錐形状に絞られて、金型装置20の固定型21にノズル17を介して接続されている。金型装置20の固定型21と可動型22との間には、鎖線で示すように閉状態のときに、製品の形状を律するキャビティ23が形成され、このキャビティ23に前記ノズル17に通じるバルブゲート18が開口している。ここで、ノズル17からバルブゲート18までの通路がホットランナーを構成し、また、金型装置20は、型締機構や射出圧縮・拡張機構を有しており、一方、この成形装置1は、図示しないが、動作全体を統括する制御コントローラを備えている。
【0022】
前記制御コントローラによる、この成形装置1の動作は、まず、図2に示すように、金型装置20の固定型21及び可動型22の少なくとも一方(図例は両方)の金型のキャビティ形成面に通気性断熱部材X1,X2を設置する(設置工程)。なお、本実施形態では、通気性断熱部材X1,X2はシート状に形成されたもので、固定型21及び可動型22の両キャビティ形成面にそれぞれ個別に設置される。また、固定型21側のシート状断熱部材X1には、バルブゲート18に対応して穴Yが空いている。
【0023】
次いで、図3に示すように、可動型22が移動して金型装置20が型締めされ、この閉合状態の金型装置20に形成されたキャビティ23内に(より詳しくは、シート状通気性断熱部材X1,X2内に)、補強繊維と超臨界流体とを含有する発泡性溶融樹脂Rがショートショットで射出される。次いで、図4に示すように、射出された溶融樹脂Rが、降温・降圧に起因して自己発泡し、前記キャビティ23内(より詳しくは、シート状通気性断熱部材X1,X2内)の端部まで流動してフル充填状態となる。なお、図例は、溶融樹脂Rがキャビティ23端部まで流動してフル充填する場合を示したが、これに限らず、溶融樹脂Rがキャビティ23端部まで完全には流動していなくても構わない。そして、このとき、キャビティ23内で形成される発泡性溶融樹脂Rの樹脂層が通気性断熱部材X1,X2に一体成形される(成形工程)。また、この図3〜図4に亘る成形工程中に、キャビティ23内(より詳しくは、シート状通気性断熱部材X1,X2内)で発泡性溶融樹脂Rの発泡に伴い発生する気体(発泡ガス)を通気性断熱部材X1,X2を介してキャビティ23外へ排出し(図3の拡大部分の矢印参照)、かつ、前記樹脂層における通気性断熱部材X1,X2との界面部を無皮層化(スキンレス化)させる。
【0024】
つまり、図2に示したように、固定型21と可動型22の両金型に、該金型によって形成されるキャビティ23よりもサイズが大きいシート状の通気性断熱部材X1,X2(例えば不織布)を設置し、その後、図3に示したように、型締めを行った際に、前記キャビティ23よりも外方にハミ出た断熱部材X1,X2が両金型で挟まれることによって、前記キャビティ23が断熱部材X1,X2で覆われ、包み込まれることとなる。そして、このように、キャビティ23よりも大きいサイズの通気性断熱部材X1,X2を固定型21と可動型22の両金型で挟み込むことにより、図3に拡大図示したように、キャビティ23内で発生した発泡ガスを、例えば金型にガスベント等を設けることなく、通気性断熱部材X1,X2を介して、キャビティ23の外方へ排出することが可能となる。
【0025】
なお、図2の設置工程で、一対の通気性断熱部材X1,X2のうちのいずれか一方の裏面に、例えば非通気性のバッキング材を予め積層・貼着しておくと、成形品に対して騒音が入射してくる側を任意に設定することができる(図16参照)。すなわち、非通気性のバッキング材が無い方の通気性断熱部材を、騒音が入射してくる側に配置すると、吸音率の点で良い結果が得られるのである。ここで、バッキング材の好ましい例としては、100g/m2のポリエチレン製のもの等が挙げられる。
【0026】
次いで、図5に示すように、可動型22が所定の位置まで後退し、このコアバックにより、キャビティ23の容積が増大し、その結果、まだ溶融状態にある溶融樹脂R中の補強繊維(太線で示す)が弾性回復力によって立ち上がり、このスプリングバック特性と樹脂Rの発泡とにより、溶融樹脂Rがキャビティ23内(より詳しくは、シート状通気性断熱部材X1,X2内)で膨張して製品の見かけ体積が増加する(膨張工程)。そして、この膨張工程中に、後述するように、前記溶融樹脂Rの膨張を補助する膨張補助動作が行われ、これにより、発泡セルの成長が制御されて、微細かつ均一な発泡セル構造を有する製品が最終的に成形される。
【0027】
次に、図6は、本発明の第2の実施形態に係る成形装置1の構成を示す概略全体図である。前記図1〜図5に示した第1実施形態と重複する部分があるが、同じ構成要素には同じ符号を用いて繰り返し説明する。横に長い外筒(シリンダ)10及びスクリュー軸11を備える周知構造のスクリューフィーダ12の始端部近傍に樹脂ペレット及び樹脂成形品を補強するための補強繊維の投入ホッパ13が設けられ、終端部近傍に超臨界流体の供給管14が接続されている。供給管14の上流側は、図外の超臨界流体発生・供給装置を介して、例えば窒素(N2)や二酸化炭素(CO2)等の不活性ガスのガスボンベに連結されている。スクリュー軸11の先端部はチェックリング15及び円錐形状のヘッド16を備え、外筒10の先端部もそれに呼応して円錐形状に絞られて、金型装置20の固定型21にノズル17を介して接続されている。金型装置20の固定型21と可動型22との間には、鎖線で示すように閉状態のときに、製品の形状を律するキャビティ23が形成され、このキャビティ23に前記ノズル17に通じるバルブゲート18が開口している。ここで、ノズル17からバルブゲート18までの通路がホットランナーを構成し、また、金型装置20は、型締機構や射出圧縮・拡張機構を有しており、一方、この成形装置1は、図示しないが、動作全体を統括する制御コントローラを備えている。
【0028】
前記制御コントローラによる、この成形装置1の動作は、まず、図7に示すように、金型装置20の固定型21及び可動型22の少なくとも一方の金型のキャビティ形成面に通気性断熱部材X3を設置する(設置工程)。なお、本実施形態では、通気性断熱部材X3は袋状に形成されたもので、固定型21及び可動型22の両キャビティ形成面に設置される。また、この袋状の通気性断熱部材X3には、バルブゲート18に対応して穴Yが空いている。
【0029】
次いで、図8に示すように、可動型22が移動して金型装置20が型締めされ、この閉合状態の金型装置20に形成されたキャビティ23内に(より詳しくは、袋状通気性断熱部材X3内に)、補強繊維と超臨界流体とを含有する発泡性溶融樹脂Rがショートショットで射出される。次いで、図9に示すように、射出された溶融樹脂Rが、降温・降圧に起因して自己発泡し、前記キャビティ23内(より詳しくは、袋状通気性断熱部材X3内)の端部まで流動してフル充填状態となる。なお、図例は、溶融樹脂Rがキャビティ23端部まで流動してフル充填する場合を示したが、これに限らず、溶融樹脂Rがキャビティ23端部まで完全には流動していなくても構わない。そして、このとき、キャビティ23内で形成される発泡性溶融樹脂Rの樹脂層が通気性断熱部材X3に一体成形される(成形工程)。また、この図8〜図9に亘る成形工程中に、キャビティ23内(より詳しくは、袋状通気性断熱部材X3内)で発泡性溶融樹脂Rの発泡に伴い発生する気体(発泡ガス)を通気性断熱部材X3を介してキャビティ23外へ排出し(例えばガスベント等の手段を用いる)、かつ、前記樹脂層における通気性断熱部材X3との界面部を無皮層化(スキンレス化)させる。
【0030】
次いで、図10に示すように、可動型22が所定の位置まで後退し、このコアバックにより、キャビティ23の容積が増大し、その結果、まだ溶融状態にある溶融樹脂R中の補強繊維(太線で示す)が弾性回復力によって立ち上がり、このスプリングバック特性と樹脂Rの発泡とにより、溶融樹脂Rがキャビティ23内(より詳しくは、袋状通気性断熱部材X3内)で膨張して製品の見かけ体積が増加する(膨張工程)。そして、この膨張工程中に、後述するように、前記溶融樹脂Rの膨張を補助する膨張補助動作が行われ、これにより、発泡セルの成長が制御されて、微細かつ均一な発泡セル構造を有する製品が最終的に成形される。
【0031】
ここで、超臨界流体とは、気体と液体とが共存できる限界の温度(臨界温度)及び圧力(臨界圧力)を超えた状態にある流体のことで、前記臨界温度は、例えば二酸化炭素で31℃、窒素でマイナス147℃であり、前記臨界圧力は、例えば二酸化炭素で7.4MPa、窒素で3.4MPaである。超臨界状態にある流体は、密度が液体に近似し、流動性が気体に類似する。その結果、溶融樹脂中を活発に移動して、樹脂分子の奥深くまで均一に拡散・浸透し、微細発泡の種になり得る。
【0032】
前記図5及び図10の膨張行程中における膨張補助動作は、(i)キャビティ23内に存在して発泡性溶融樹脂Rの発泡を妨げる気体をキャビティ23外へ排出するガス排出動作、(ii)キャビティ23内の圧力を減圧する吸引動作、(iii)発泡性溶融樹脂Rをその内部から加圧する樹脂加圧動作のうちの少なくとも1つにより達成される。さらに、(iii)の樹脂加圧動作は、(A)発泡性溶融樹脂Rの内部に気体を圧入する気体圧入動作、(B)発泡性溶融樹脂Rの内部に同種類・同組成又は別種類・別組成の溶融樹脂を圧入する樹脂圧入動作等で達成される。
【0033】
その場合に、(i)のガス排出動作は、例えばガスベントにより実現可能である。ガスベントは、一般に、金型の分割面や、バルブゲートから遠い製品の周縁部、あるいは製品の表面でウェルドラインの出易い位置、又はボルト締結部やサービスホール部あるいは高さの高いボスやリブ等を利用して設置される。また、冷却後に製品を金型装置から押し出すためのエジェクターピンとそのピン穴とのクリアランスを利用して金型装置の外へガス抜きを行うようにすることもできる。
【0034】
一方、(ii)の吸引動作は、例えば真空吸引装置により実現可能である。すなわち、例えば可動型に内設した吸引通路を介して、真空ポンプの駆動により、キャビティ内を極低圧状態にするのである。この方法は、前記のガスベントに比べて、樹脂のキャビティへの転写精度に優れる。また、吸引通路の設置場所は、ガスベントに類似して、製品の周縁部やボルト締結部あるいはサービスホール部等が目立たず好ましい。
【0035】
次に、(iii)の樹脂加圧動作は、例えば部分加圧装置により実現可能である。すなわち、例えば金型装置の外から気体圧入管(前記(A)の気体圧入動作の場合)又は溶融樹脂圧入管(前記(B)の樹脂圧入動作の場合)を延設し、固定型の内面(キャビティ形成面)に開口する導入口に接続して、不活性ガス又は溶融樹脂を成形材料である発泡性溶融樹脂内に供給し、該溶融樹脂の流動末端部を部分的に内部から加圧して、該樹脂の表面層ないしスキン層をキャビティ23面に押し付けるようにするのである。
【0036】
図11は、本発明の必須構成要素を重要度順に並べた一覧表、図12は、製品として自動車のトランクボードを成形する場合に特有の構成要素の一覧表である。図11に示したように、通気性断熱部材Xは、不織布が最も好ましく、他にも種々の通気性シートや通気性フィルム等が好ましく使用し得る。特に、不織布の場合、目付けの範囲は、100〜400g/m2が好ましい。100g未満では、成形工程におけるスキンレス化が困難となり、400gを超えると、冷却時間が長期化し、生産性が低下する。
【0037】
また、溶融樹脂Rの発泡方法としては、化学発泡剤を用いる方法、超臨界状態の二酸化炭素や窒素等の不活性ガスを用いる方法、等がある。
【0038】
そして、膨張補助手段としてガスベントを用いるときは、その設置面積は、周辺部面積の10〜90%が好ましい。10%未満だと、製品の転写性及び保形性に劣り、90%を超えると、バリが発生がする。より好ましくは、設置面積は、周辺部面積の50〜70%である。
【0039】
また、膨張補助手段として真空吸引を用いるときは、その吸引力は、245KPa以下が好ましい。この範囲を超えると、発泡セルの径やそのセル径のバラツキが大きくなる。
【0040】
さらに、膨張補助手段としてガス又は溶融樹脂による部分加圧を用いるときは、その加圧力は、2.94MPa以下が好ましい。この範囲を超えると、ガスによる部分加圧の場合は、製品の末端部に破れが顕著に発生し、溶融樹脂による部分加圧の場合は、部分加圧したい部分以外に該樹脂が侵入してしまう。例えば、固定型と可動型との間に充填された発泡性溶融樹脂の末端部に対応して導入口が固定型に形成されている。ここで、ガス又は樹脂の加圧力が適切であれば、前記導入口から溶融樹脂の内部に圧入されたガス又は樹脂は、溶融樹脂の末端部を内部からキャビティ面に押し付け、これにより転写性・保形性が向上する。しかし、ガス又は樹脂の加圧力が前記範囲を超えたときには、溶融樹脂の内部に圧入されたガス又は樹脂は、溶融樹脂の表面層ないしスキン層を押し破り、その結果、製品の端部破れや、保形性の低下等の不具合が発生するのである。
【0041】
図11に戻り、射出後の成形工程において溶融樹脂Rの自己発泡を促進させる(補助する)手段としては、金型装置20の型締圧減圧が効果的である。その場合、型締圧の減圧は、減圧前の型締圧(つまり射出時の本来の型締圧)の45〜80%が好ましい。45%未満だと、製品の重量バラツキが大きくなり、80%を超えると、製品の転写性及び保形性が低下する。
【0042】
また、溶融樹脂Rに含有させる補強繊維としては、例えば、ガラスファイバ、カーボンファイバ、ナノファイバ、天然繊維等が好ましく使用可能である。その場合、繊維長が長いほど、図5及び図10の膨張工程におけるスプリングバック効果が大きくなる。
【0043】
そして、図3及び図8の成形工程における樹脂Rの射出のショートショット率は、1〜25%が好ましい。1%未満(つまりショート不足)だと、製品にバリや板厚増が発生し、25%を超えると、キャビティ23内での樹脂Rの未充填が発生する。
【0044】
次に、図12に示したように、製品としてトランクボードを成形する場合は、遅延時間(溶融樹脂Rの射出から可動型22のコアバックまでの時間)は、0.5〜30秒が好ましい。0.5秒未満だと、超臨界流体の後発泡が頻発し、製品表面の泡状痕が発生する。30秒を超えると、製品に凹みが生じ、スキン層とコア層(発泡層)との分離が起こり、板厚のバラツキが発生する。
【0045】
また、射出タイムラグ(バルブゲート18が開いてから溶融樹脂Rが射出されるまでの時間)は、0.7秒以下が好ましい。この範囲を超えると、後で射出される溶融樹脂Rが射出される頃には、先に射出された溶融樹脂の発泡によってキャビティ23内が高圧となり入り難くなっているため、製品の重量バラツキが増大する。あるいは、前記範囲を超えると、先に射出されたホットランナー(ノズル17からバルブゲート18までの通路)内の溶融樹脂の発泡によって、後に射出されるシリンダ(外筒10)内の溶融樹脂Rが射出されたときには、該溶融樹脂Rの発泡セルの径が肥大したり、先行射出されたような状態となって、この現象が該溶融樹脂Rのキャビティ23内の流動を阻害するために、製品重量のバラツキが生じることとなる。
【0046】
また、通気性断熱部材Xの設置方法は、前述したように(図7参照)、袋状に形成されたもの(好ましくはキャビティ23のサイズに合った大きさのもの、又は伸縮自在のもの)を用い、固定型21及び可動型22の両キャビティ形成面に設置するのが設置作業性の観点からは好ましい。また、成形後の製品の縁からハミ出た断熱部材Xを切り揃える手間も不要となる。
【0047】
以上のように、本実施形態によれば、設置工程において、第1の金型21及び第2の金型22の少なくとも一方の金型のキャビティ形成面に通気性断熱部材Xを設置するようにしたから、後の成形工程中に、この通気性断熱部材Xを介して発泡ガスを金型の外に排気することにより、キャビティ23内の高圧化が防止でき、発泡性溶融樹脂Rの発泡・流動性の促進及び均一化が図れ、発泡セルの分散性が向上する。また、成形工程において、キャビティ23内で形成される前記発泡性溶融樹脂Rの樹脂層を前記通気性断熱部材Xと一体成形するようにしたから、発泡性溶融樹脂Rと通気性断熱部材Xとの一体化により、両者R,Xの界面部が強化され、得られた発泡樹脂成形品の剛性・強度が向上する。さらに、前記設置工程で通気性断熱部材Xが設置されたキャビティ23内に前記発泡性溶融樹脂Rを射出するようにしたから、発泡性溶融樹脂Rが金型21,22に直接触れることがなく、通気性断熱部材Xを介してキャビティ23内に射出されることとなり、樹脂Rと金型21,22との間には通気性断熱部材Xの空気の層が存在し、その断熱効果により、後の成形工程中に、製品表面のスキン層の形成が遅れて、あたかも樹脂Rと通気性断熱部材Xとの界面部がスキンレス化(無皮層化)し、その結果、騒音が発泡樹脂層の内部まで入り込んで吸音され、吸音性が向上することとなる。
【0048】
その場合に、前記成形工程中に、第1の金型21及び第2の金型22の少なくとも一方の金型を所定の位置まで開くようにしたから、キャビティ23内の圧力が低下することとなり、樹脂Rの発泡が促進され、樹脂Rをキャビティ23の隅々まで行き渡らせることができて、成形品の欠肉が抑制される。
【0049】
また、発泡性溶融樹脂Rに、樹脂成形品を補強するための補強繊維を含有させたから、キャビティ23の体積増加時に補強繊維が立ち上がるスプリングバック現象が得られて、発泡が促進され、かつ成形品の物性が向上する。
【0050】
さらに、発泡性溶融樹脂Rに、超臨界状態の不活性流体を含有させたから、発泡ガスを金型21,22の外に排気することにより、キャビティ23内の高圧化が防止でき、発泡性溶融樹脂Rの発泡が促進される際に、より微細なセル構造が得られて、樹脂成形品の剛性が向上する。
【0051】
また、前記成形工程では、発泡性溶融樹脂Rをショートショットで射出するようにしたから、射出圧力の高圧化を招くことなく、少量の樹脂Rでもキャビティ23内全域に樹脂Rを流し込ませることができる。
【0052】
そして、通気性断熱部材Xを不織布とした場合には、該通気性断熱部材Xとして、周知の汎用品を用いながら、前記効果が得られる。
【0053】
さらに、樹脂成形品は車両用部材であるから、該車両用部材を樹脂成形するに際し、前記効果が得られる。以下、実施例を通して本発明をさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0054】
図13に示す成形条件で、パラメータを種々変えて、トランクボードの試作を行った。その場合、図14及び図15に示すように、不織布Xの目付けが10g/m2及び50g/m2のときは、不織布Xへの樹脂Rの含浸率が100%及び99%と非常に高くなり、その結果、製品にはスキン層が形成された。つまり、図16(b)に示したように、発泡層50と不織布Xとが一体成形された成形品100において、不織布Xへの樹脂Rの含浸部分51が多過ぎると、その含浸部分51が直接に金型に触れて、急激に冷え、スキン層52が生成してしまう。したがって、騒音が、この表面のスキン層52で反射されるから、吸音率が低下してしまう。
【0055】
これに対し、図14及び図15に示すように、不織布Xの目付けが100g/m2〜500g/m2のときは、不織布Xへの樹脂Rの含浸率が94%〜51%と低くなり、その結果、製品にはスキン層が形成されなかった。つまり、図16(a)に示したように、発泡層50と不織布Xとが一体成形された成形品100において、不織布Xへの樹脂Rの含浸部分51が少ないと、その含浸部分51が直接に金型に触れないから、急激に冷えることがなく、発泡性溶融樹脂Rの樹脂層における不織布Xとの界面部が無皮層化(スキンレス化)するのである。したがって、騒音が、不織布X及び発泡層50を奥深くまで入り込んで、吸音率が向上する。
【0056】
なお、不織布Xとの一体成形の無い成形品200では、樹脂Rの発泡層50が直接に金型に触れて、急激に冷え、スキン層52が生成する。したがって、騒音が、この樹脂Rのスキン層52で反射されて、吸音率が低下する。
【0057】
ただし、不織布Xの目付けが500g/m2のときは、冷却時間が210秒と長くなり過ぎ、生産性の観点から好ましくない結果となる。したがって、前述のように(図11参照)、不織布Xの目付けの好ましい範囲は、100〜400g/m2とする。
【0058】
また、発泡性溶融樹脂Rと不織布Xとの本発明に係る一体成形品100の吸音率の測定を行った。すなわち、図17に示すように、測定装置61の上面に本発明に係る不織布一体成形品100をシール65を介して取り付けた。測定装置61の中からスピーカ62でホワイトノイズ(あらゆる可聴覚周波数帯域の周波数成分が含まれているノイズ)を発生させ、一体成形品100における装置61の内側と外側とでそれぞれマイクロホン63,64を使って集音した音の大きさを比較した。同様に、不織布の無い成形品200でも吸音率の測定を行った。結果を図18に示す。周波数の高低に拘らず、広い周波数範囲で、本発明に係る不織布一体成形品100は吸音率に優れることが明らかである。
【0059】
また、発泡性溶融樹脂Rと不織布Xとの本発明に係る一体成形品100の三点耐荷重性の測定を行った。すなわち、図19に示すように、本発明に係る不織布一体成形品100を2点で支えて水平に置き、中間部に荷重71を載置して変位量を測定した。同様に、不織布の無い成形品200でも変位量の測定を行った。結果を図20に示す。本発明に係る不織布一体成形品100は耐荷重性に優れることが明らかである。
【0060】
なお、本発明は、特許請求の範囲を逸脱しない限り、前記実施形態及び実施例に限定されるものでないことはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、発泡樹脂成形品の製造に際し、スキン層形成の問題、及びキャビティ内の高圧化の問題を抑制することができるもので、樹脂成形、特に発泡樹脂成形の技術分野に広範な産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る成形装置の構成を示す概略全体図であって、金型が型開きしている状態を例示するものである。
【図2】同じく設置工程を例示するものである。
【図3】同じく成形工程における射出工程を例示するものである。
【図4】同じく成形工程における射出工程後の樹脂の流動を例示するものである。
【図5】同じく成形工程中における膨張行程を例示するものである。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る成形装置の構成を示す概略全体図であって、金型が型開きしている状態を例示するものである。
【図7】同じく設置工程を例示するものである。
【図8】同じく成形工程における射出工程を例示するものである。
【図9】同じく成形工程における射出工程後の樹脂の流動を例示するものである。
【図10】同じく成形工程中における膨張行程を例示するものである。
【図11】本発明の必須構成要素を重要度順に並べた一覧表である。
【図12】製品として自動車のトランクボードを成形する場合に特有の構成要素の一覧表である。
【図13】本発明の実施例における主な成形条件の一覧表である。
【図14】不織布の目付け変化による影響を示す一覧表である。
【図15】図14に対応するグラフである。
【図16】騒音の吸音性を示す説明図であって、(a)はスキンレス化した場合、(b)はスキンレス化しなかった場合、(c)は不織布を用いなかった場合を例示するものである。
【図17】吸音率の測定装置の説明図である。
【図18】吸音率の測定結果を示すグラフである。
【図19】三点耐荷重性の測定装置の説明図である。
【図20】三点耐荷重性の測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0063】
1 成形装置
12 スクリューフィーダ
20 金型装置
21 固定型
22 可動型
23 キャビティ
R 溶融樹脂
X1〜X3 通気性断熱部材
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂成形、特に発泡樹脂成形の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両用部材を、軽量化や低コスト化等を図るために、樹脂成形品で構成することがある。例えば、特許文献1には、自動車のトランクルームにおいて、トランクボードと、その下方のトランクフロアとを、樹脂成形品、特に、内部に多数の空隙が形成された発泡樹脂成形品で構成することが開示されている。そして、この特許文献1には、さらに、相対向するトランクボードの下面及びトランクフロアの上面の一部又は全部において、表面のスキン層(射出成形時に溶融樹脂が成形用金型のキャビティに触れて冷えることにより発泡空隙を有することなく固化した表皮層のこと)を除去して内部の発泡層を露出させることにより、トランクルームから車室へ伝達される騒音がトランクボードやトランクフロアの発泡層内に直接入り込んで吸音性が向上すると記載されている。
【0003】
また、前記特許文献1には、発泡層の形成方法として、樹脂に発泡剤を添加することの他、ガスインジェクション法や臨界発泡法等が適用可能であることや、特定の周波数帯域の騒音を効果的に減衰するために、金型の所定部位に不織布等でなる所定面積の吸音材を挿入して固定したうえで金型を閉じ、ここに溶融樹脂を射出して成形することにより、吸音材以外の表面はスキン層が形成されて遮音効果が得られ、吸音材の部分では吸音効果が得られる樹脂成形品が成形されること等が併せて記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−322832号公報(段落0020,0028,0040,0044、図4、図7参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般に、発泡樹脂成形品を得るために、発泡性溶融樹脂をキャビティ内に射出すると、前述したように、溶融樹脂が成形用金型に触れて冷えることにより発泡空隙の無いスキン層が製品表面にできる。したがって、そのスキン層を一部又は全部除去して内部の発泡層を露出しなければ騒音吸音効果が得られないのであるが、そのためにスキン層の剥ぎ取り作業が必要となり生産性がよくない。また、発泡性溶融樹脂をキャビティ内に射出すると、該樹脂の発泡に伴い気体が発生し、キャビティ内が高圧化して、該樹脂の発泡性及び流動性が阻害されるという問題もある。
【0006】
本発明者等は、発泡樹脂成形品の製造に際し、前記のようなスキン層形成の問題、及びキャビティ内の高圧化の問題を抑制することを課題として、鋭意研究・検討を重ねた末に、本発明を完成したものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、まず、本願の請求項1に記載の発明は、相対的に開閉動作が可能に構成され、閉状態で内部にキャビティが形成される第1の金型及び第2の金型を備える成形用金型装置の前記キャビティ内に発泡性溶融樹脂を射出して樹脂成形品を得る樹脂成形品の成形方法であって、前記第1の金型及び第2の金型の少なくとも一方の金型の前記キャビティ形成面に通気性断熱部材を設置する設置工程と、前記設置工程後に、前記キャビティ内に前記発泡性溶融樹脂を射出することにより、前記キャビティ内で形成される前記発泡性溶融樹脂の樹脂層を前記通気性断熱部材に一体成形させる成形工程とを含み、前記成形工程中に、前記キャビティ内で前記発泡性溶融樹脂の発泡に伴い発生する気体を前記通気性断熱部材を介して前記キャビティ外へ排出し、かつ、前記樹脂層における前記通気性断熱部材との界面部を無皮層化させることを特徴とする。
【0008】
次に、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の樹脂成形品の成形方法において、前記成形工程中に、前記第1の金型及び第2の金型の少なくとも一方の金型を所定の位置まで開くことにより前記キャビティの容積を増大させることを特徴とする。
【0009】
次に、請求項3に記載の発明は、前記請求項2に記載の樹脂成形品の成形方法において、前記発泡性溶融樹脂は、前記樹脂成形品を補強するための補強繊維を含有していることを特徴とする。
【0010】
次に、請求項4に記載の発明は、前記請求項1から3のいずれかに記載の樹脂成形品の成形方法において、前記発泡性溶融樹脂は、超臨界状態の不活性流体を含有していることを特徴とする。
【0011】
次に、請求項5に記載の発明は、前記請求項1から4のいずれかに記載の樹脂成形品の成形方法において、前記成形工程では、前記発泡性溶融樹脂をショートショットで射出することを特徴とする。
【0012】
次に、請求項6に記載の発明は、前記請求項1から5のいずれかに記載の樹脂成形品の成形方法において、前記通気性断熱部材は、不織布であることを特徴とする。
【0013】
そして、請求項7に記載の発明は、前記請求項1から6のいずれかに記載の樹脂成形品の成形方法において、前記樹脂成形品は、車両用部材であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
まず、請求項1に記載の発明によれば、設置工程において、第1の金型及び第2の金型の少なくとも一方の金型のキャビティ形成面に通気性断熱部材を設置するようにしたから、後の成形工程中に、この通気性断熱部材を介して発泡ガスを金型の外に排気することにより、キャビティ内の高圧化が防止でき、発泡性溶融樹脂の発泡・流動性の促進及び均一化が図れ、発泡セルの分散性が向上する。また、成形工程において、キャビティ内で形成される前記発泡性溶融樹脂の樹脂層を前記通気性断熱部材と一体成形するようにしたから、発泡性溶融樹脂と通気性断熱部材との一体化により、両者の界面部が強化され、得られた発泡樹脂成形品の剛性・強度が向上する。さらに、前記設置工程で通気性断熱部材が設置されたキャビティ内に前記発泡性溶融樹脂を射出するようにしたから、発泡性溶融樹脂が金型に直接触れることがなく、通気性断熱部材を介してキャビティ内に射出されることとなり、樹脂と金型との間には通気性断熱部材の空気の層が存在し、その断熱効果により、後の成形工程中に、製品表面のスキン層の形成が遅れて、あたかも樹脂と通気性断熱部材との界面部がスキンレス化(無皮層化)し、その結果、騒音が発泡樹脂層の内部まで入り込んで吸音され、吸音性が向上することとなる。
【0015】
次に、請求項2に記載の発明によれば、前記成形工程中に、第1の金型及び第2の金型の少なくとも一方の金型を所定の位置まで開くようにしたから、キャビティ内の圧力が低下することとなり、樹脂の発泡が促進され、樹脂をキャビティの隅々まで行き渡らせることができて、成形品の欠肉が抑制される。
【0016】
次に、請求項3に記載の発明によれば、発泡性溶融樹脂に、樹脂成形品を補強するための補強繊維を含有させたから、キャビティの体積増加時に補強繊維が立ち上がるスプリングバック現象が得られて、発泡が促進され、かつ成形品の物性が向上する。
【0017】
次に、請求項4に記載の発明によれば、発泡性溶融樹脂に、超臨界状態の不活性流体を含有させたから、発泡ガスを金型の外に排気することにより、キャビティ内の高圧化が防止でき、発泡性溶融樹脂の発泡が促進される際に、より微細なセル構造が得られて、樹脂成形品の剛性が向上する。
【0018】
次に、請求項5に記載の発明によれば、前記成形工程では、発泡性溶融樹脂をショートショットで射出するようにしたから、射出圧力の高圧化を招くことなく、少量の樹脂でもキャビティ内全域に樹脂を流し込ませることができる。
【0019】
次に、請求項6に記載の発明によれば、通気性断熱部材は不織布であるから、該通気性断熱部材として、周知の汎用品を用いながら、前記請求項1から5の効果が得られる。
【0020】
次に、請求項7に記載の発明によれば、樹脂成形品は車両用部材であるから、該車両用部材を樹脂成形するに際し、前記請求項1から6の効果が得られる。以下、発明の最良の実施形態及び実施例を通して本発明をさらに詳しく説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る成形装置1の構成を示す概略全体図である。横に長い外筒(シリンダ)10及びスクリュー軸11を備える周知構造のスクリューフィーダ12の始端部近傍に樹脂ペレット及び樹脂成形品を補強するための補強繊維の投入ホッパ13が設けられ、終端部近傍に超臨界流体の供給管14が接続されている。供給管14の上流側は、図外の超臨界流体発生・供給装置を介して、例えば窒素(N2)や二酸化炭素(CO2)等の不活性ガスのガスボンベに連結されている。スクリュー軸11の先端部はチェックリング15及び円錐形状のヘッド16を備え、外筒10の先端部もそれに呼応して円錐形状に絞られて、金型装置20の固定型21にノズル17を介して接続されている。金型装置20の固定型21と可動型22との間には、鎖線で示すように閉状態のときに、製品の形状を律するキャビティ23が形成され、このキャビティ23に前記ノズル17に通じるバルブゲート18が開口している。ここで、ノズル17からバルブゲート18までの通路がホットランナーを構成し、また、金型装置20は、型締機構や射出圧縮・拡張機構を有しており、一方、この成形装置1は、図示しないが、動作全体を統括する制御コントローラを備えている。
【0022】
前記制御コントローラによる、この成形装置1の動作は、まず、図2に示すように、金型装置20の固定型21及び可動型22の少なくとも一方(図例は両方)の金型のキャビティ形成面に通気性断熱部材X1,X2を設置する(設置工程)。なお、本実施形態では、通気性断熱部材X1,X2はシート状に形成されたもので、固定型21及び可動型22の両キャビティ形成面にそれぞれ個別に設置される。また、固定型21側のシート状断熱部材X1には、バルブゲート18に対応して穴Yが空いている。
【0023】
次いで、図3に示すように、可動型22が移動して金型装置20が型締めされ、この閉合状態の金型装置20に形成されたキャビティ23内に(より詳しくは、シート状通気性断熱部材X1,X2内に)、補強繊維と超臨界流体とを含有する発泡性溶融樹脂Rがショートショットで射出される。次いで、図4に示すように、射出された溶融樹脂Rが、降温・降圧に起因して自己発泡し、前記キャビティ23内(より詳しくは、シート状通気性断熱部材X1,X2内)の端部まで流動してフル充填状態となる。なお、図例は、溶融樹脂Rがキャビティ23端部まで流動してフル充填する場合を示したが、これに限らず、溶融樹脂Rがキャビティ23端部まで完全には流動していなくても構わない。そして、このとき、キャビティ23内で形成される発泡性溶融樹脂Rの樹脂層が通気性断熱部材X1,X2に一体成形される(成形工程)。また、この図3〜図4に亘る成形工程中に、キャビティ23内(より詳しくは、シート状通気性断熱部材X1,X2内)で発泡性溶融樹脂Rの発泡に伴い発生する気体(発泡ガス)を通気性断熱部材X1,X2を介してキャビティ23外へ排出し(図3の拡大部分の矢印参照)、かつ、前記樹脂層における通気性断熱部材X1,X2との界面部を無皮層化(スキンレス化)させる。
【0024】
つまり、図2に示したように、固定型21と可動型22の両金型に、該金型によって形成されるキャビティ23よりもサイズが大きいシート状の通気性断熱部材X1,X2(例えば不織布)を設置し、その後、図3に示したように、型締めを行った際に、前記キャビティ23よりも外方にハミ出た断熱部材X1,X2が両金型で挟まれることによって、前記キャビティ23が断熱部材X1,X2で覆われ、包み込まれることとなる。そして、このように、キャビティ23よりも大きいサイズの通気性断熱部材X1,X2を固定型21と可動型22の両金型で挟み込むことにより、図3に拡大図示したように、キャビティ23内で発生した発泡ガスを、例えば金型にガスベント等を設けることなく、通気性断熱部材X1,X2を介して、キャビティ23の外方へ排出することが可能となる。
【0025】
なお、図2の設置工程で、一対の通気性断熱部材X1,X2のうちのいずれか一方の裏面に、例えば非通気性のバッキング材を予め積層・貼着しておくと、成形品に対して騒音が入射してくる側を任意に設定することができる(図16参照)。すなわち、非通気性のバッキング材が無い方の通気性断熱部材を、騒音が入射してくる側に配置すると、吸音率の点で良い結果が得られるのである。ここで、バッキング材の好ましい例としては、100g/m2のポリエチレン製のもの等が挙げられる。
【0026】
次いで、図5に示すように、可動型22が所定の位置まで後退し、このコアバックにより、キャビティ23の容積が増大し、その結果、まだ溶融状態にある溶融樹脂R中の補強繊維(太線で示す)が弾性回復力によって立ち上がり、このスプリングバック特性と樹脂Rの発泡とにより、溶融樹脂Rがキャビティ23内(より詳しくは、シート状通気性断熱部材X1,X2内)で膨張して製品の見かけ体積が増加する(膨張工程)。そして、この膨張工程中に、後述するように、前記溶融樹脂Rの膨張を補助する膨張補助動作が行われ、これにより、発泡セルの成長が制御されて、微細かつ均一な発泡セル構造を有する製品が最終的に成形される。
【0027】
次に、図6は、本発明の第2の実施形態に係る成形装置1の構成を示す概略全体図である。前記図1〜図5に示した第1実施形態と重複する部分があるが、同じ構成要素には同じ符号を用いて繰り返し説明する。横に長い外筒(シリンダ)10及びスクリュー軸11を備える周知構造のスクリューフィーダ12の始端部近傍に樹脂ペレット及び樹脂成形品を補強するための補強繊維の投入ホッパ13が設けられ、終端部近傍に超臨界流体の供給管14が接続されている。供給管14の上流側は、図外の超臨界流体発生・供給装置を介して、例えば窒素(N2)や二酸化炭素(CO2)等の不活性ガスのガスボンベに連結されている。スクリュー軸11の先端部はチェックリング15及び円錐形状のヘッド16を備え、外筒10の先端部もそれに呼応して円錐形状に絞られて、金型装置20の固定型21にノズル17を介して接続されている。金型装置20の固定型21と可動型22との間には、鎖線で示すように閉状態のときに、製品の形状を律するキャビティ23が形成され、このキャビティ23に前記ノズル17に通じるバルブゲート18が開口している。ここで、ノズル17からバルブゲート18までの通路がホットランナーを構成し、また、金型装置20は、型締機構や射出圧縮・拡張機構を有しており、一方、この成形装置1は、図示しないが、動作全体を統括する制御コントローラを備えている。
【0028】
前記制御コントローラによる、この成形装置1の動作は、まず、図7に示すように、金型装置20の固定型21及び可動型22の少なくとも一方の金型のキャビティ形成面に通気性断熱部材X3を設置する(設置工程)。なお、本実施形態では、通気性断熱部材X3は袋状に形成されたもので、固定型21及び可動型22の両キャビティ形成面に設置される。また、この袋状の通気性断熱部材X3には、バルブゲート18に対応して穴Yが空いている。
【0029】
次いで、図8に示すように、可動型22が移動して金型装置20が型締めされ、この閉合状態の金型装置20に形成されたキャビティ23内に(より詳しくは、袋状通気性断熱部材X3内に)、補強繊維と超臨界流体とを含有する発泡性溶融樹脂Rがショートショットで射出される。次いで、図9に示すように、射出された溶融樹脂Rが、降温・降圧に起因して自己発泡し、前記キャビティ23内(より詳しくは、袋状通気性断熱部材X3内)の端部まで流動してフル充填状態となる。なお、図例は、溶融樹脂Rがキャビティ23端部まで流動してフル充填する場合を示したが、これに限らず、溶融樹脂Rがキャビティ23端部まで完全には流動していなくても構わない。そして、このとき、キャビティ23内で形成される発泡性溶融樹脂Rの樹脂層が通気性断熱部材X3に一体成形される(成形工程)。また、この図8〜図9に亘る成形工程中に、キャビティ23内(より詳しくは、袋状通気性断熱部材X3内)で発泡性溶融樹脂Rの発泡に伴い発生する気体(発泡ガス)を通気性断熱部材X3を介してキャビティ23外へ排出し(例えばガスベント等の手段を用いる)、かつ、前記樹脂層における通気性断熱部材X3との界面部を無皮層化(スキンレス化)させる。
【0030】
次いで、図10に示すように、可動型22が所定の位置まで後退し、このコアバックにより、キャビティ23の容積が増大し、その結果、まだ溶融状態にある溶融樹脂R中の補強繊維(太線で示す)が弾性回復力によって立ち上がり、このスプリングバック特性と樹脂Rの発泡とにより、溶融樹脂Rがキャビティ23内(より詳しくは、袋状通気性断熱部材X3内)で膨張して製品の見かけ体積が増加する(膨張工程)。そして、この膨張工程中に、後述するように、前記溶融樹脂Rの膨張を補助する膨張補助動作が行われ、これにより、発泡セルの成長が制御されて、微細かつ均一な発泡セル構造を有する製品が最終的に成形される。
【0031】
ここで、超臨界流体とは、気体と液体とが共存できる限界の温度(臨界温度)及び圧力(臨界圧力)を超えた状態にある流体のことで、前記臨界温度は、例えば二酸化炭素で31℃、窒素でマイナス147℃であり、前記臨界圧力は、例えば二酸化炭素で7.4MPa、窒素で3.4MPaである。超臨界状態にある流体は、密度が液体に近似し、流動性が気体に類似する。その結果、溶融樹脂中を活発に移動して、樹脂分子の奥深くまで均一に拡散・浸透し、微細発泡の種になり得る。
【0032】
前記図5及び図10の膨張行程中における膨張補助動作は、(i)キャビティ23内に存在して発泡性溶融樹脂Rの発泡を妨げる気体をキャビティ23外へ排出するガス排出動作、(ii)キャビティ23内の圧力を減圧する吸引動作、(iii)発泡性溶融樹脂Rをその内部から加圧する樹脂加圧動作のうちの少なくとも1つにより達成される。さらに、(iii)の樹脂加圧動作は、(A)発泡性溶融樹脂Rの内部に気体を圧入する気体圧入動作、(B)発泡性溶融樹脂Rの内部に同種類・同組成又は別種類・別組成の溶融樹脂を圧入する樹脂圧入動作等で達成される。
【0033】
その場合に、(i)のガス排出動作は、例えばガスベントにより実現可能である。ガスベントは、一般に、金型の分割面や、バルブゲートから遠い製品の周縁部、あるいは製品の表面でウェルドラインの出易い位置、又はボルト締結部やサービスホール部あるいは高さの高いボスやリブ等を利用して設置される。また、冷却後に製品を金型装置から押し出すためのエジェクターピンとそのピン穴とのクリアランスを利用して金型装置の外へガス抜きを行うようにすることもできる。
【0034】
一方、(ii)の吸引動作は、例えば真空吸引装置により実現可能である。すなわち、例えば可動型に内設した吸引通路を介して、真空ポンプの駆動により、キャビティ内を極低圧状態にするのである。この方法は、前記のガスベントに比べて、樹脂のキャビティへの転写精度に優れる。また、吸引通路の設置場所は、ガスベントに類似して、製品の周縁部やボルト締結部あるいはサービスホール部等が目立たず好ましい。
【0035】
次に、(iii)の樹脂加圧動作は、例えば部分加圧装置により実現可能である。すなわち、例えば金型装置の外から気体圧入管(前記(A)の気体圧入動作の場合)又は溶融樹脂圧入管(前記(B)の樹脂圧入動作の場合)を延設し、固定型の内面(キャビティ形成面)に開口する導入口に接続して、不活性ガス又は溶融樹脂を成形材料である発泡性溶融樹脂内に供給し、該溶融樹脂の流動末端部を部分的に内部から加圧して、該樹脂の表面層ないしスキン層をキャビティ23面に押し付けるようにするのである。
【0036】
図11は、本発明の必須構成要素を重要度順に並べた一覧表、図12は、製品として自動車のトランクボードを成形する場合に特有の構成要素の一覧表である。図11に示したように、通気性断熱部材Xは、不織布が最も好ましく、他にも種々の通気性シートや通気性フィルム等が好ましく使用し得る。特に、不織布の場合、目付けの範囲は、100〜400g/m2が好ましい。100g未満では、成形工程におけるスキンレス化が困難となり、400gを超えると、冷却時間が長期化し、生産性が低下する。
【0037】
また、溶融樹脂Rの発泡方法としては、化学発泡剤を用いる方法、超臨界状態の二酸化炭素や窒素等の不活性ガスを用いる方法、等がある。
【0038】
そして、膨張補助手段としてガスベントを用いるときは、その設置面積は、周辺部面積の10〜90%が好ましい。10%未満だと、製品の転写性及び保形性に劣り、90%を超えると、バリが発生がする。より好ましくは、設置面積は、周辺部面積の50〜70%である。
【0039】
また、膨張補助手段として真空吸引を用いるときは、その吸引力は、245KPa以下が好ましい。この範囲を超えると、発泡セルの径やそのセル径のバラツキが大きくなる。
【0040】
さらに、膨張補助手段としてガス又は溶融樹脂による部分加圧を用いるときは、その加圧力は、2.94MPa以下が好ましい。この範囲を超えると、ガスによる部分加圧の場合は、製品の末端部に破れが顕著に発生し、溶融樹脂による部分加圧の場合は、部分加圧したい部分以外に該樹脂が侵入してしまう。例えば、固定型と可動型との間に充填された発泡性溶融樹脂の末端部に対応して導入口が固定型に形成されている。ここで、ガス又は樹脂の加圧力が適切であれば、前記導入口から溶融樹脂の内部に圧入されたガス又は樹脂は、溶融樹脂の末端部を内部からキャビティ面に押し付け、これにより転写性・保形性が向上する。しかし、ガス又は樹脂の加圧力が前記範囲を超えたときには、溶融樹脂の内部に圧入されたガス又は樹脂は、溶融樹脂の表面層ないしスキン層を押し破り、その結果、製品の端部破れや、保形性の低下等の不具合が発生するのである。
【0041】
図11に戻り、射出後の成形工程において溶融樹脂Rの自己発泡を促進させる(補助する)手段としては、金型装置20の型締圧減圧が効果的である。その場合、型締圧の減圧は、減圧前の型締圧(つまり射出時の本来の型締圧)の45〜80%が好ましい。45%未満だと、製品の重量バラツキが大きくなり、80%を超えると、製品の転写性及び保形性が低下する。
【0042】
また、溶融樹脂Rに含有させる補強繊維としては、例えば、ガラスファイバ、カーボンファイバ、ナノファイバ、天然繊維等が好ましく使用可能である。その場合、繊維長が長いほど、図5及び図10の膨張工程におけるスプリングバック効果が大きくなる。
【0043】
そして、図3及び図8の成形工程における樹脂Rの射出のショートショット率は、1〜25%が好ましい。1%未満(つまりショート不足)だと、製品にバリや板厚増が発生し、25%を超えると、キャビティ23内での樹脂Rの未充填が発生する。
【0044】
次に、図12に示したように、製品としてトランクボードを成形する場合は、遅延時間(溶融樹脂Rの射出から可動型22のコアバックまでの時間)は、0.5〜30秒が好ましい。0.5秒未満だと、超臨界流体の後発泡が頻発し、製品表面の泡状痕が発生する。30秒を超えると、製品に凹みが生じ、スキン層とコア層(発泡層)との分離が起こり、板厚のバラツキが発生する。
【0045】
また、射出タイムラグ(バルブゲート18が開いてから溶融樹脂Rが射出されるまでの時間)は、0.7秒以下が好ましい。この範囲を超えると、後で射出される溶融樹脂Rが射出される頃には、先に射出された溶融樹脂の発泡によってキャビティ23内が高圧となり入り難くなっているため、製品の重量バラツキが増大する。あるいは、前記範囲を超えると、先に射出されたホットランナー(ノズル17からバルブゲート18までの通路)内の溶融樹脂の発泡によって、後に射出されるシリンダ(外筒10)内の溶融樹脂Rが射出されたときには、該溶融樹脂Rの発泡セルの径が肥大したり、先行射出されたような状態となって、この現象が該溶融樹脂Rのキャビティ23内の流動を阻害するために、製品重量のバラツキが生じることとなる。
【0046】
また、通気性断熱部材Xの設置方法は、前述したように(図7参照)、袋状に形成されたもの(好ましくはキャビティ23のサイズに合った大きさのもの、又は伸縮自在のもの)を用い、固定型21及び可動型22の両キャビティ形成面に設置するのが設置作業性の観点からは好ましい。また、成形後の製品の縁からハミ出た断熱部材Xを切り揃える手間も不要となる。
【0047】
以上のように、本実施形態によれば、設置工程において、第1の金型21及び第2の金型22の少なくとも一方の金型のキャビティ形成面に通気性断熱部材Xを設置するようにしたから、後の成形工程中に、この通気性断熱部材Xを介して発泡ガスを金型の外に排気することにより、キャビティ23内の高圧化が防止でき、発泡性溶融樹脂Rの発泡・流動性の促進及び均一化が図れ、発泡セルの分散性が向上する。また、成形工程において、キャビティ23内で形成される前記発泡性溶融樹脂Rの樹脂層を前記通気性断熱部材Xと一体成形するようにしたから、発泡性溶融樹脂Rと通気性断熱部材Xとの一体化により、両者R,Xの界面部が強化され、得られた発泡樹脂成形品の剛性・強度が向上する。さらに、前記設置工程で通気性断熱部材Xが設置されたキャビティ23内に前記発泡性溶融樹脂Rを射出するようにしたから、発泡性溶融樹脂Rが金型21,22に直接触れることがなく、通気性断熱部材Xを介してキャビティ23内に射出されることとなり、樹脂Rと金型21,22との間には通気性断熱部材Xの空気の層が存在し、その断熱効果により、後の成形工程中に、製品表面のスキン層の形成が遅れて、あたかも樹脂Rと通気性断熱部材Xとの界面部がスキンレス化(無皮層化)し、その結果、騒音が発泡樹脂層の内部まで入り込んで吸音され、吸音性が向上することとなる。
【0048】
その場合に、前記成形工程中に、第1の金型21及び第2の金型22の少なくとも一方の金型を所定の位置まで開くようにしたから、キャビティ23内の圧力が低下することとなり、樹脂Rの発泡が促進され、樹脂Rをキャビティ23の隅々まで行き渡らせることができて、成形品の欠肉が抑制される。
【0049】
また、発泡性溶融樹脂Rに、樹脂成形品を補強するための補強繊維を含有させたから、キャビティ23の体積増加時に補強繊維が立ち上がるスプリングバック現象が得られて、発泡が促進され、かつ成形品の物性が向上する。
【0050】
さらに、発泡性溶融樹脂Rに、超臨界状態の不活性流体を含有させたから、発泡ガスを金型21,22の外に排気することにより、キャビティ23内の高圧化が防止でき、発泡性溶融樹脂Rの発泡が促進される際に、より微細なセル構造が得られて、樹脂成形品の剛性が向上する。
【0051】
また、前記成形工程では、発泡性溶融樹脂Rをショートショットで射出するようにしたから、射出圧力の高圧化を招くことなく、少量の樹脂Rでもキャビティ23内全域に樹脂Rを流し込ませることができる。
【0052】
そして、通気性断熱部材Xを不織布とした場合には、該通気性断熱部材Xとして、周知の汎用品を用いながら、前記効果が得られる。
【0053】
さらに、樹脂成形品は車両用部材であるから、該車両用部材を樹脂成形するに際し、前記効果が得られる。以下、実施例を通して本発明をさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0054】
図13に示す成形条件で、パラメータを種々変えて、トランクボードの試作を行った。その場合、図14及び図15に示すように、不織布Xの目付けが10g/m2及び50g/m2のときは、不織布Xへの樹脂Rの含浸率が100%及び99%と非常に高くなり、その結果、製品にはスキン層が形成された。つまり、図16(b)に示したように、発泡層50と不織布Xとが一体成形された成形品100において、不織布Xへの樹脂Rの含浸部分51が多過ぎると、その含浸部分51が直接に金型に触れて、急激に冷え、スキン層52が生成してしまう。したがって、騒音が、この表面のスキン層52で反射されるから、吸音率が低下してしまう。
【0055】
これに対し、図14及び図15に示すように、不織布Xの目付けが100g/m2〜500g/m2のときは、不織布Xへの樹脂Rの含浸率が94%〜51%と低くなり、その結果、製品にはスキン層が形成されなかった。つまり、図16(a)に示したように、発泡層50と不織布Xとが一体成形された成形品100において、不織布Xへの樹脂Rの含浸部分51が少ないと、その含浸部分51が直接に金型に触れないから、急激に冷えることがなく、発泡性溶融樹脂Rの樹脂層における不織布Xとの界面部が無皮層化(スキンレス化)するのである。したがって、騒音が、不織布X及び発泡層50を奥深くまで入り込んで、吸音率が向上する。
【0056】
なお、不織布Xとの一体成形の無い成形品200では、樹脂Rの発泡層50が直接に金型に触れて、急激に冷え、スキン層52が生成する。したがって、騒音が、この樹脂Rのスキン層52で反射されて、吸音率が低下する。
【0057】
ただし、不織布Xの目付けが500g/m2のときは、冷却時間が210秒と長くなり過ぎ、生産性の観点から好ましくない結果となる。したがって、前述のように(図11参照)、不織布Xの目付けの好ましい範囲は、100〜400g/m2とする。
【0058】
また、発泡性溶融樹脂Rと不織布Xとの本発明に係る一体成形品100の吸音率の測定を行った。すなわち、図17に示すように、測定装置61の上面に本発明に係る不織布一体成形品100をシール65を介して取り付けた。測定装置61の中からスピーカ62でホワイトノイズ(あらゆる可聴覚周波数帯域の周波数成分が含まれているノイズ)を発生させ、一体成形品100における装置61の内側と外側とでそれぞれマイクロホン63,64を使って集音した音の大きさを比較した。同様に、不織布の無い成形品200でも吸音率の測定を行った。結果を図18に示す。周波数の高低に拘らず、広い周波数範囲で、本発明に係る不織布一体成形品100は吸音率に優れることが明らかである。
【0059】
また、発泡性溶融樹脂Rと不織布Xとの本発明に係る一体成形品100の三点耐荷重性の測定を行った。すなわち、図19に示すように、本発明に係る不織布一体成形品100を2点で支えて水平に置き、中間部に荷重71を載置して変位量を測定した。同様に、不織布の無い成形品200でも変位量の測定を行った。結果を図20に示す。本発明に係る不織布一体成形品100は耐荷重性に優れることが明らかである。
【0060】
なお、本発明は、特許請求の範囲を逸脱しない限り、前記実施形態及び実施例に限定されるものでないことはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、発泡樹脂成形品の製造に際し、スキン層形成の問題、及びキャビティ内の高圧化の問題を抑制することができるもので、樹脂成形、特に発泡樹脂成形の技術分野に広範な産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る成形装置の構成を示す概略全体図であって、金型が型開きしている状態を例示するものである。
【図2】同じく設置工程を例示するものである。
【図3】同じく成形工程における射出工程を例示するものである。
【図4】同じく成形工程における射出工程後の樹脂の流動を例示するものである。
【図5】同じく成形工程中における膨張行程を例示するものである。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る成形装置の構成を示す概略全体図であって、金型が型開きしている状態を例示するものである。
【図7】同じく設置工程を例示するものである。
【図8】同じく成形工程における射出工程を例示するものである。
【図9】同じく成形工程における射出工程後の樹脂の流動を例示するものである。
【図10】同じく成形工程中における膨張行程を例示するものである。
【図11】本発明の必須構成要素を重要度順に並べた一覧表である。
【図12】製品として自動車のトランクボードを成形する場合に特有の構成要素の一覧表である。
【図13】本発明の実施例における主な成形条件の一覧表である。
【図14】不織布の目付け変化による影響を示す一覧表である。
【図15】図14に対応するグラフである。
【図16】騒音の吸音性を示す説明図であって、(a)はスキンレス化した場合、(b)はスキンレス化しなかった場合、(c)は不織布を用いなかった場合を例示するものである。
【図17】吸音率の測定装置の説明図である。
【図18】吸音率の測定結果を示すグラフである。
【図19】三点耐荷重性の測定装置の説明図である。
【図20】三点耐荷重性の測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0063】
1 成形装置
12 スクリューフィーダ
20 金型装置
21 固定型
22 可動型
23 キャビティ
R 溶融樹脂
X1〜X3 通気性断熱部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に開閉動作が可能に構成され、閉状態で内部にキャビティが形成される第1の金型及び第2の金型を備える成形用金型装置の前記キャビティ内に発泡性溶融樹脂を射出して樹脂成形品を得る樹脂成形品の成形方法であって、
前記第1の金型及び第2の金型の少なくとも一方の金型の前記キャビティ形成面に通気性断熱部材を設置する設置工程と、
前記設置工程後に、前記キャビティ内に前記発泡性溶融樹脂を射出することにより、前記キャビティ内で形成される前記発泡性溶融樹脂の樹脂層を前記通気性断熱部材に一体成形させる成形工程とを含み、
前記成形工程中に、前記キャビティ内で前記発泡性溶融樹脂の発泡に伴い発生する気体を前記通気性断熱部材を介して前記キャビティ外へ排出し、かつ、前記樹脂層における前記通気性断熱部材との界面部を無皮層化させることを特徴とする樹脂成形品の成形方法。
【請求項2】
前記請求項1に記載の樹脂成形品の成形方法において、
前記成形工程中に、前記第1の金型及び第2の金型の少なくとも一方の金型を所定の位置まで開くことにより前記キャビティの容積を増大させることを特徴とする樹脂成形品の成形方法。
【請求項3】
前記請求項2に記載の樹脂成形品の成形方法において、
前記発泡性溶融樹脂は、前記樹脂成形品を補強するための補強繊維を含有していることを特徴とする樹脂成形品の成形方法。
【請求項4】
前記請求項1から3のいずれかに記載の樹脂成形品の成形方法において、
前記発泡性溶融樹脂は、超臨界状態の不活性流体を含有していることを特徴とする樹脂成形品の成形方法。
【請求項5】
前記請求項1から4のいずれかに記載の樹脂成形品の成形方法において、
前記成形工程では、前記発泡性溶融樹脂をショートショットで射出することを特徴とする樹脂成形品の成形方法。
【請求項6】
前記請求項1から5のいずれかに記載の樹脂成形品の成形方法において、
前記通気性断熱部材は、不織布であることを特徴とする樹脂成形品の成形方法。
【請求項7】
前記請求項1から6のいずれかに記載の樹脂成形品の成形方法において、
前記樹脂成形品は、車両用部材であることを特徴とする樹脂成形品の成形方法。
【請求項1】
相対的に開閉動作が可能に構成され、閉状態で内部にキャビティが形成される第1の金型及び第2の金型を備える成形用金型装置の前記キャビティ内に発泡性溶融樹脂を射出して樹脂成形品を得る樹脂成形品の成形方法であって、
前記第1の金型及び第2の金型の少なくとも一方の金型の前記キャビティ形成面に通気性断熱部材を設置する設置工程と、
前記設置工程後に、前記キャビティ内に前記発泡性溶融樹脂を射出することにより、前記キャビティ内で形成される前記発泡性溶融樹脂の樹脂層を前記通気性断熱部材に一体成形させる成形工程とを含み、
前記成形工程中に、前記キャビティ内で前記発泡性溶融樹脂の発泡に伴い発生する気体を前記通気性断熱部材を介して前記キャビティ外へ排出し、かつ、前記樹脂層における前記通気性断熱部材との界面部を無皮層化させることを特徴とする樹脂成形品の成形方法。
【請求項2】
前記請求項1に記載の樹脂成形品の成形方法において、
前記成形工程中に、前記第1の金型及び第2の金型の少なくとも一方の金型を所定の位置まで開くことにより前記キャビティの容積を増大させることを特徴とする樹脂成形品の成形方法。
【請求項3】
前記請求項2に記載の樹脂成形品の成形方法において、
前記発泡性溶融樹脂は、前記樹脂成形品を補強するための補強繊維を含有していることを特徴とする樹脂成形品の成形方法。
【請求項4】
前記請求項1から3のいずれかに記載の樹脂成形品の成形方法において、
前記発泡性溶融樹脂は、超臨界状態の不活性流体を含有していることを特徴とする樹脂成形品の成形方法。
【請求項5】
前記請求項1から4のいずれかに記載の樹脂成形品の成形方法において、
前記成形工程では、前記発泡性溶融樹脂をショートショットで射出することを特徴とする樹脂成形品の成形方法。
【請求項6】
前記請求項1から5のいずれかに記載の樹脂成形品の成形方法において、
前記通気性断熱部材は、不織布であることを特徴とする樹脂成形品の成形方法。
【請求項7】
前記請求項1から6のいずれかに記載の樹脂成形品の成形方法において、
前記樹脂成形品は、車両用部材であることを特徴とする樹脂成形品の成形方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2007−182025(P2007−182025A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−2616(P2006−2616)
【出願日】平成18年1月10日(2006.1.10)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年1月10日(2006.1.10)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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