説明

樹脂成形品の成形方法

【課題】結晶性高分子樹脂を用い、部分ごとに高い機械的強度と寸法精度とが要求される成形品を、形状の自由度が高く、かつ比較的簡素な工程で製造可能な樹脂成形品の成形方法を提供する。
【解決手段】可動型を型締め位置より固定型から離反させた状態にセットした成形型内に、結晶性高分子樹脂の融液をショートショット状態で射出する第1射出工程と、前記融液の温度が融点以下、結晶化温度以上の状態で、該融液が臨界伸張ひずみ速度以上のひずみ速度で伸張するように、前記可動型を高速で型締めして、前記融液を配向状態とすると共に、その状態を維持して結晶化させる結晶化工程と、該結晶化工程で形成された中間成形品の周辺部分を最終形状に成形するため、前記成形型または他の成形型で、前記中間成形品の周囲に追加樹脂の融液を射出する第2射出工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用部品等の樹脂成形品、特に結晶性高分子樹脂を用いた成形品の成形方法に関し、樹脂成形品の成形技術の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂成形品の材料として、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、或いはポリ塩化ビニールなどの所謂汎用プラスチックは、安価であると共に成形性に優れているなどの理由で、各種の分野で広く用いられているところであるが、機械的強度や耐熱性等に劣るため、自動車用部品や機械用部品等の工業製品用で、これらの特性が要求されるものの材料としては適さないという欠点がある。
【0003】
そのため、このような用途の工業製品用材料としては、高価ではあるが、機械的強度や耐熱性等に優れたポリエチレンテレフタレートやポリカーボネート、或いはポリアミドなどの所謂エンジニアリングプラスチックが用いられている。
【0004】
このような実情に対処するものとして、特許文献1には、結晶性高分子樹脂融液の成形時における結晶化率を大幅に向上させることにより、ポリプロピレン等の汎用プラスチック材を用いながら、エンジニアリングプラスチックに相当する機械的強度や耐熱性を実現する発明が開示されている。
【0005】
この発明は、結晶性高分子樹脂の融液を、融点以下、結晶化温度以上の状態、換言すれば過冷却状態で、臨界伸張ひずみ速度以上のひずみ速度で伸張させることを特徴とするもので、これによれば、結晶化の基点となる多数の核を有する高分子の鎖が配向状態で多数形成されると共に、これらの核から結晶が成長して、短時間で配向性を有する密な結晶体が形成されるとされており、機械的強度や耐熱性に優れた成形品が得られることが期待される。
【0006】
ここで、前記臨界伸張ひずみ速度とは、過冷却状態の融液を伸張させて、その伸張方向のひずみ速度を上げたときに、結晶サイズが不連続的に小さくなるときの速度であり、この速度以上で伸張させることにより、従来の方法で結晶化させた場合に比べて、結晶化率が大幅に向上するのである。
【0007】
そして、前記特許文献1には、臨界速度以上の伸張ひずみ速度を実現するための方法として、上下の板の間にディスク状の高分子樹脂融液のサンプルを挟み、これを過冷却状態に保持して、一方の板を他方の板の方へ一定速度で移動させることにより押しつぶす方法、ダイの吐出口から急冷却しながら高分子樹脂融液を高速で吐出する方法、一対の引き抜きローラにより高分子樹脂融液を急冷却しながらダイから引き抜く方法などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開WO2008/108251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、前記特許文献1に記載された上下の板で高分子樹脂融液のサンプルを挟む方法では、予めサンプルを作成する必要があると共に、周囲が不規則な形状となるため、周辺部を機械的に成形するなどの他の工程がさらに必要となる。
【0010】
また、ダイから高分子樹脂融液を吐出する方法も、一定断面形状の長尺物が得られるだけであり、さらに、一対のローラによって高分子樹脂融液を引き抜く方法も、フィルム状のものが得られるだけで、これを積層して製品を得ようとすると再度樹脂を溶融しなければならず、結晶化によって向上させた強度が低下することになる。
【0011】
なお、成形型を用いる通常の射出成形方法は、前記各方法に比べて製品形状の自由度は高いが、射出時にせん断ひずみが発生するだけで、成形型内に高速で射出しても臨界伸張ひずみ速度を得ることはできない。
【0012】
そこで、本発明は、結晶性高分子樹脂を用い、その結晶化率を向上させる前記の方法を利用しながら、製品形状の自由度が高く、しかも、最終形状の製品が比較的容易な工程で得られる樹脂成形品の成形方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、本発明は、次のように構成したことを特徴とする。
【0014】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、樹脂成形品の成形方法において、可動型を型締め位置より固定型から離反させた状態にセットした成形型内に、結晶性高分子樹脂の融液をショートショット状態で射出する第1射出工程と、前記融液の温度が融点以下、結晶化温度以上の状態で、該融液が臨界伸張ひずみ速度以上のひずみ速度で伸張するように、前記可動型を高速で型締めして、前記融液を配向状態とすると共に、その状態を維持して結晶化させる結晶化工程と、前記成形型または他の成形型内で、前記結晶化工程で成形された中間成形品の周囲に追加樹脂の融液を射出して、該中間成形品の周辺部分を最終形状に成形する第2射出工程とを備えたことを特徴とする。
【0015】
ここで、前記結晶性高分子樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニール等の汎用性プラスチックのほか、ポリアミド等の結晶性のエンジニアリングプラスチックも含む。
【0016】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明において、前記第1射出工程及び結晶化工程と第2射出工程とを同一の成形型で行うことを特徴とする。
【0017】
また、請求項3に記載の発明は、前記請求項1または請求項2に記載の発明において、前記結晶性高分子樹脂と追加樹脂とは同質の樹脂であることを特徴とする。ここで、同質の樹脂とは、主骨格が同一の樹脂をいう。
【0018】
さらに、請求項4に記載の発明は、前記請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の発明において、前記結晶性高分子樹脂は汎用プラスチックであることを特徴とする。
【0019】
そして、請求項5に記載の発明は、前記請求項4に記載の発明において、前記汎用プラスチックはポリプロピレンであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
以上の構成により、本願各請求項の発明によれば、次の効果が得られる。
【0021】
まず、請求項1に記載の発明によれば、第1射出工程として、可動型を型締め位置より固定型から離反させた状態で成形型内に結晶性高分子樹脂の融液を射出し、その後、該融液を過冷却状態とした上で、結晶化工程で、前記可動型をキャビティ形状が成形品の最終形状となるまで高速で型締めする。
【0022】
このとき、前記融液は可動型と固定型との間に挟み付けられて周囲に拡がるように流動することになるが、そのときの伸張ひずみ速度が臨界伸張ひずみ速度以上となるように型締めされるので、前述のように、結晶化の基点となる多数の核を有する高分子の鎖が配向状態に多数形成されると共に、これらの核から結晶が成長して、短時間で配向性を有する密な結晶体が形成されることになる。これにより、中間成形品として、結晶化率が高く、機械的強度や耐熱性に優れた高強度部分が得られる。
【0023】
その場合に、前記結晶性高分子樹脂の融液の射出量は、ショートショット状態に相当する量、即ち最終形状の成形品を形成するのに必要な量より少ない量とされるので、キャビティ形状が最終形状となるまで型締めされたときにも、該キャビティ内には樹脂融液の未充填部分が残ることになるが、このように、キャビティを完全に充満させないことにより、融液の流動速度、即ち該融液の伸張ひずみ速度を高くすることができ、確実に臨界伸張ひずみ速度を達成することが可能となる。
【0024】
そして、第2射出工程で、前記結晶化工程で形成された中間成形品が成形型内にある状態で、該成形型内に追加樹脂の融液が射出され、前記中間成形品の周囲の融液の未充填部分に相当する部分が追加成形されることにより、該融液の固化後、型開きすれば、最終形状の成形品が得られることになる。
【0025】
その場合に、前記追加成形部分は、積極的な結晶化が行われていないので、中間成形品部分に比べて機械的強度や耐熱性に劣ることになるが、融液の流動速度が相対的に緩やかなので、成形型の成形面に忠実に成形され、高い寸法精度で成形されることになる。これにより、部分ごとに要求される機械的強度や耐熱性と寸法精度とが両立した成形品が、前記特許文献1に記載の方法に比べて、高い形状の自由度で、簡素な工程で製造されることになる。
【0026】
また、請求項2に記載の発明によれば、前記第1射出工程及び結晶化工程と、第2射出工程とを同一の成形型で行うので、これらの工程を連続して行うことができ、設備や作業を簡素化することができて、当該成形品の製造コストが低減されることになる。
【0027】
また、請求項3に記載の発明によれば、第1射出工程で射出される結晶性高分子樹脂と、第2射出工程で射出される追加樹脂とは同質の樹脂であるので、中間成形部分と追加成形部分との境界における良好な相溶性が得られ、両部分が強固に一体化された成形品が得られる。また、リサイクル時に両部分を分離する必要がないから、リサイクル性にも優れた成形品が得られることになる。
【0028】
さらに、請求項4に記載の発明によれば、前記結晶性高分子樹脂として、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニール等の汎用性プラスチックが用いられるので、成形品を安価に製造することができる。
【0029】
そして、請求項5に記載の発明によれば、前記汎用プラスチックとして広く用いられているポリプロピレンが採用されるので、価格面及び入手面でさらに有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明方法で成形される成形品の例として示す自動車のドアモジュールキャリヤの正面図である。
【図2】同じくインストルメントパネルコア部材の斜視図である。
【図3】本発明方法の第1実施形態で用いる成形装置の構成図である。
【図4】同実施形態の工程を示す説明図である。
【図5】同実施形態の方法で成形された成形品の断面図である。
【図6】本発明方法の第2実施形態で用いる成形装置の構成図である。
【図7】同実施形態の工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0032】
まず、本発明の方法で形成される樹脂成形品の例を説明すると、図1に示す成形品1は、自動車のドアに内装されるドアモジュールキャリヤで、周辺部1aには、ドア本体を構成するインナパネルまたはアウタパネルに密接してシール性を確保するため、高い寸法精度が要求される部分があり、その内側の非周辺部1bには、該キャリヤ1をドア本体に取り付けるための取付部やパワウインド用モータ等の各種機器や部材の取付部等が設けられるので、高い機械的強度が要求される。
【0033】
また、図2に示す成形品2は、自動車のインストルメントパネルコア部材で、周辺部2aには、デフロスター吹き出し部など一部が外部に露出するため、表面の良好な外観が要求される部分があり、その内側の非周辺部2bには、メータ類やエアバッグ等の各種機器や部材が取り付けられるので、高い機械的強度が要求される。
【0034】
図3は、本発明の第1実施形態で用いられる成形装置の構成を示すもので、この成形装置10は、下側の固定型12と上側の可動型13とでなる成形型11と、可動型13を昇降させて型締め、型開きを行う例えば高速油圧シリンダでなる型締め装置14と、前記固定型12と可動型13と形成されるキャビティ15内に樹脂の融液を射出する第1射出装置16及び第2射出装置17とを有する。
【0035】
前記第1、第2射出装置16、17は、いずれも、シリンダ16a、17aと、該シリンダ16a、17a内に樹脂材料を供給するホッパ16b、17bと、供給された樹脂材料を加熱溶融し、該樹脂材料の融液をシリンダ16a、17aの先端に設けられた吐出通路16c、17cに向けて圧送するスクリュー16d、17dとを有する。
【0036】
そして、前記固定型12には、第1射出装置16の吐出通路16cに接続され、該固定型12の上面の前記キャビティ15を構成する成形面12aの中央部に通じる第1射出通路18と、第2射出装置17の吐出通路17cに接続され、前記成形面12aの周辺部に通じる第2射出通路19とが設けられている。
【0037】
次に、この成形装置10を用いる本実施形態に係る樹脂成形品の成形方法を説明すると、図4(a)に示すように、まず、型締め装置14により、可動型13を型締め位置より所定距離Xだけ固定型12から離反した位置まで下降させ、成形品の最終形状の容積より大きい容積のキャビティ15'を形成する。
【0038】
また、これと並行して、第1、第2射出装置16、17のホッパ16b、17bに、固形の結晶性の高分子樹脂材料A及び通常の(結晶性または非結晶性の)高分子樹脂材料Bをそれぞれ投入し、スクリュー16d、17dを作動させて、これらの樹脂材料A、Bを融点以上まで加熱して溶融させ、その融液A’、B’を吐出通路16c、17c及び第1、第2射出通路18、19から前記キャビティ15’内に射出可能な状態とする。
【0039】
次に、第1射出工程として、同図(b)に示すように、前記第1射出装置16により、結晶性高分子樹脂材料の融液A’をキャビティ15’内に射出する。その際、該融液A’の射出量は、ショートショット状態に相当する量とされる。
【0040】
このとき、前記融液A’をキャビティ15’内に射出する第1射出通路18は、固定型12の上面の成形面12aの中央部に通じており、また、融液A’は温度の低下により粘度が増大するので、同図(b)に示すように、キャビティ15’内の全域に流動することなく、前記成形面12aの中央部に盛り上がった状態となる。
【0041】
次に、結晶化工程として、前記キャビティ15内に射出された結晶性高分子樹脂の融液A’の温度が、融点よりも低く、結晶化温度よりは高い温度まで冷却された時点、即ち、該融液A’が過冷却状態となった時点で、同図(c)に示すように、前記型締め装置14を高速で作動させて可動型13を型締め位置まで急速に下降させる。
【0042】
これにより、前記融液A’は両型12、13の成形面12a、13aの間に急激に挟み付けられ、成形品の最終形状と同一形状となったキャビティ15”の周辺部に拡がりながら高速で流動し、その流動方向に伸張することになるが、その際、前記可動型13の下降速度は、融液A’の流動による伸張ひずみ速度が臨界速度以上となるように設定されており、したがって、融液A’は臨界伸張ひずみ速度以上で伸張する。
【0043】
その場合に、該融液A’の射出量は、ショートショット状態に相当する量とされているから、キャビティ形状が最終形状となるまで型締めされたときに、キャビティ15”内の周辺部に融液A’の未充填部分aが残ることになるが、このように、キャビティ15”内を完全に充満させないことにより、融液A’の伸張ひずみ速度を確実に臨界伸張ひずみ速度以上とすることが可能となる。
【0044】
そして、以上のように、過冷却状態の結晶性高分子樹脂の融液A’が臨界伸張ひずみ速度以上の速度で伸張することにより、該融液A’の結晶化が促進され、キャビティ15”内の周辺部を除く部分に、結晶度の高い高強度の中間成形品Cが形成されることになる。
【0045】
次に、第2射出工程として、同図(d)に示すように、第2射出装置17により、通常の高分子樹脂材料の融液B’をキャビティ15”内に射出する。このとき、該融液B’をキャビティ15”内に射出する第2射出通路19は、固定型12の上面の成形面12aの周辺部に通じているので、該融液B’はキャビティ15”の周辺部における前記融液A’の未充填部分aに射出され、前記中間成形品Cの周囲に供給されることになる。
【0046】
これにより、成形品の最終形状と同一形状のキャビティ15”内の全体が充満され、融液A’、B’の硬化後、可動型13を上昇させて型開きすれば、図5に示すように、所定形状の成形品Dが得られることになる。
【0047】
その場合に、該成形品Dは、通常の高分子樹脂材料Bでなる周辺部D1は、融液B’の流動速度が相対的に緩やかなので、キャビティ15”を構成する成形面12a、13aにより、高い寸法精度や表面の良好な外観が得られ、また、その内側の結晶性高分子樹脂材料Aでなる前記中間成形品Cに相当する非周辺部D2は、前述のように、結晶化度が高く、高い機械的強度や耐熱性が得られることになり、図1、2に示すドアモジュールキャリヤ1やインストルメントパネルコア部材2に適した成形品が得られる。
【0048】
そして、以上の実施形態では、前記第1射出工程、結晶化工程、及び第2射出工程の全てを単一の成形装置10を用いて実行するので、これらの工程を連続して行うことができ、設備や作業が簡素化されることになる。
【0049】
また、前記樹脂材料A、Bは、第1、第2射出装置16、17により別個に射出されるので、非周辺部D2と周辺部D1のそれぞれの要求に応じて適切なものを選択して使用することができるが、主骨格が同一の同質樹脂材料を用いれば、成形品Dの周辺部D1と非周辺部D2との境界面D3における良好な相溶性が得られ、両部D1、D2が強固に結合一体化された成形品Dが得られる。
【0050】
次に、本発明の第2実施形態を説明する。なお、以下の説明では、第1実施形態と同じ構成要素については同じ符号を用いる。
【0051】
図6は、この実施形態で用いられる成形装置20の構成を示すもので、この成形装置20は、前記第1実施形態に係る成型装置10と同様に、下側の固定型22と上側の可動型23とでなる成形型21と、可動型23を昇降させて型締め、型開きを行う高速油圧シリンダ等でなる型締め装置24とを有すると共に、この成型装置20には、前記固定型22と可動型23で形成されるキャビティ25内に樹脂融液を射出する単一の射出装置26が備えられている。
【0052】
前記射出装置26は、シリンダ26aと、該シリンダ26a内に樹脂材料を供給するホッパ26bと、供給された樹脂材料を加熱溶融し、該樹脂材料の融液をシリンダ26aの先端に設けられた吐出通路26cに向けて圧送するスクリュー26dとを有する。
【0053】
また、前記固定型22には、上流端が射出装置26の吐出通路26cに接続され、途中で第1分岐通路27aと第2分岐通路27bとに分岐された射出通路27が設けられ、このうち、第1分岐通路27aの下流端は固定型22の上面の前記キャビティ25を構成する成形面22aの中央部に開口し、第2分岐通路27bは該成型面22aの周辺部に開口している。
【0054】
そして、前記第1、第2分岐通路27a、27bの成型面22aへの開口部の直前部には、これらの通路27a、27bを開通、遮断する第1、第2開閉弁28a、28bがそれぞれ設けられている。
【0055】
次に、この成形装置20を用いる本実施形態に係る樹脂成形品の成形方法を説明すると、図7(a)に示すように、まず、型締め装置24により、可動型23を型締め位置より固定型22から所定距離だけ離反した位置まで下降させ、成形品の最終形状の容積より大きい容積のキャビティ25’を形成する。
【0056】
また、これと並行して、射出装置26のホッパ26bに、固形の結晶性の高分子樹脂材料Aを投入し、スクリュー26dを作動させて、該樹脂材料Aを融点以上まで加熱して溶融させ、その融液A’を吐出通路26c及び射出通路27の第1、第2分岐通路27a、27bにおける第1、第2開閉弁28a、28bの直前位置まで供給し、これらの開閉弁28a、28bのいずれかを開けば、弁を開いた分岐通路から融液A’が前記キャビティ25’内に射出可能な状態とする。
【0057】
次に、第1射出工程として、同図(b)に示すように、前記第1開閉弁28aを開き、射出通路27の第1分岐通路27aを開通させると共に、前記射出装置26を作動させて、結晶性高分子樹脂材料の融液A’をキャビティ25’内にショートショット状態に相当する量だけ射出し、その後、前記第1開閉弁28aを閉じる。
【0058】
このとき、前記第1分岐通路27aは、固定型22の上面の成形面22aの中央部に通じているので、前記第1実施形態と同様に、融液A’はキャビティ25’内の全域に流動せず、前記成形面22aの中央部に盛り上がった状態となる。
【0059】
次に、結晶化工程として、前記キャビティ25’内に射出された融液A’の温度が、融点よりも低く、かつ結晶化温度よりは高い温度まで冷却された時点で、図(c)に示すように、前記型締め装置24を高速で作動させて可動型23を型締め位置まで急速に下降させる。
【0060】
これにより、前記融液A’は両型22、23の成形面22a、23aの間に急激に挟み付けられ、成形品の最終形状と同一形状となったキャビティ25”の周辺部に拡がりながら高速で流動し、その流動方向に伸張することになるが、前記可動型23の下降速度は、融液A’の流動による伸張ひずみ速度が臨界速度以上となるように設定されているので、該融液A’は臨界伸張ひずみ速度以上で伸張する。
【0061】
その場合に、融液A’の射出量は、ショートショット状態に相当する量とされているから、キャビティ25”内の周辺部には樹脂融液の未充填部分aが残るが、このように、キャビティ25”を完全に充満させないことにより、融液A’の伸張ひずみ速度を確実に臨界伸張ひずみ速度以上とすることが可能となる。
【0062】
そして、以上のように、過冷却状態の結晶性高分子樹脂の融液A’が臨界伸張ひずみ速度以上の速度で伸張することにより、該融液A’の結晶化が促進され、キャビティ25”内に、結晶度の高い高強度の中間成形品Cが形成されることになる。
【0063】
次に、第2射出工程として、同図(d)に示すように、第2開閉弁28bを開いて、射出通路27の第1分岐通路27aを遮断すると共に第2分岐通路27bを開通させ、この状態で射出装置26を作動させて、前記結晶性高分子樹脂材料の融液A’をキャビティ25”内に再び射出する。このとき、開通された第2分岐通路28bは、固定型22の上面の成形面22aの周辺部に通じているので、前記融液A’はキャビティ25”の周辺部における前記融液A’の未充填部分aに射出され、前記中間成形品Cの周囲に供給されることになる。
【0064】
これにより、成形品の最終形状と同一形状のキャビティ25”内の全体が充満され、融液A’の固化後、可動型23を上昇させて型開きすれば、図5に示す第1実施形態による成型品Dと同様に、周辺部は高い寸法精度や表面の良好な外観を有し、その内側の前記中間成形品Cに相当する非周辺部は、結晶化度が高く、高い機械的強度を有する成形品が得られることになる。
【0065】
その場合に、この実施形態では、単一の射出装置26を用いるから、成型品の周辺部と非周辺部とは常に同一の樹脂材料で形成されることになり、したがって、周辺部と非周辺部との境界面における良好な相溶性が得られ、両部が強固に結合一体化された成形品が得られる。
【0066】
なお、この実施形態においても、単一の成形装置20を用い、各工程を連続的に行うので、設備や作業が簡素化されることになるが、第1、第2実施形態において、中間成形品Cを形成するまでの第1射出工程及び結晶化工程と、第2射出工程とを異なる成形装置を用いて行ってもよい。
【実施例】
【0067】
次に、前記第1実施形態に係る方法によって実施した実施例について説明する。
【0068】
この実施例では、株式会社日本製鋼所製、型締力220トンの成形型に2つの射出装置を備えたものを用い、結晶性高分子樹脂材料として、日本ポリプロ株式会社製のポリプロピレン樹脂材料(商品名:ノバテック)を用いた。
【0069】
そして、射出装置における樹脂材料の溶融温度を180℃、型温度を150℃に設定し、まず、可動型を固定型からの開き量(図4(a)の寸法X)が25mmとなる位置まで下降させ、両型の間に成形品の最終形状の容積より大きい容積のキャビティを形成した。
【0070】
次に、第1射出工程として、第1射出装置により、前記結晶性高分子樹脂材料の融液を134cm、比較的緩やかな速度で射出し、その後、該融液の温度が160℃に低下するまで約10秒間、待機した。この温度は、該樹脂の融点より低く、結晶化温度よりも高い温度であり、これにより、融液は過冷却状態となった。
【0071】
次に、結晶化工程として、成形型の可動型を最大速度(1000mm/秒)で型締めし、キャビティの周辺部に融液の未充填部分を残して、板厚3mmの中間成形品を形成した。
【0072】
その後、第2射出工程として、第2射出装置により、前記結晶性高分子樹脂と同じ樹脂の融液を、温度200℃、射出速度200mm/秒の条件で前記キャビティ周辺部の未充填部分に射出した。そして、成形型を80℃まで冷却した後、型開きし、成形品を取り出した。
【0073】
これにより、結晶化が促進され、高い機械的強度や耐熱性を有する非周辺部と、その周囲の通常の射出成形と同様の寸法精度を有する周辺部とが一体化されてなる成形品が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上のように、本発明に係る樹脂成形品の成形方法によれば、結晶化率が高く、機械的強度や耐久性の高い高強度部分と、その周囲の高い寸法精度の部分とが一体化された成形品が得られ、したがって、部分ごとに機械的強度等と寸法精度とが要求される例えば自動車用部品等の製造技術分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0075】
1、2、D 成形品
1a、2a、D1 周辺部分
1b、2b、D2 非周辺部分
10、20 成形装置
11、21 成形型
14、24 型締め装置
16,17,26 射出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動型を型締め位置より固定型から離反させた状態にセットした成形型内に、結晶性高分子樹脂の融液をショートショット状態で射出する第1射出工程と、
前記融液の温度が融点以下、結晶化温度以上の状態で、該融液が臨界伸張ひずみ速度以上のひずみ速度で伸張するように、前記可動型を高速で型締めして、前記融液を配向状態とすると共に、その状態を維持して結晶化させる結晶化工程と、
前記成形型または他の成形型内で、前記結晶化工程で成形された中間成形品の周囲に追加樹脂の融液を射出して、該中間成形品の周辺部分を最終形状に成形する第2射出工程とを備えたことを特徴とする樹脂成形品の成形方法。
【請求項2】
前記第1射出工程及び結晶化工程と第2射出工程とを同一の成形型で行うことを特徴とする請求項1に記載の樹脂成形品の成形方法。
【請求項3】
前記結晶性高分子樹脂と追加樹脂とは同質の樹脂であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の樹脂成形品の成形方法。
【請求項4】
前記結晶性高分子樹脂は汎用プラスチックであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の樹脂成形品の成形方法。
【請求項5】
前記汎用プラスチックはポリプロピレンであることを特徴とする請求項4に記載の樹脂成形品の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−86513(P2012−86513A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237179(P2010−237179)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】