説明

樹脂水性分散体

【課題】各種旧塗膜に対する付着性に優れ、且つ、耐水性、耐アルカル性等の上塗り塗料としての適性をも具備した水性被覆剤とすることができる樹脂水性分散体を提供すること。
【解決手段】アミノ基含有エチレン性不飽和単量体(a−1)、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a−2)およびその他のエチレン性不飽和単量体(a−3)を含有するエチレン性不飽和単量体(A)、好ましくはエチレン性不飽和単量体(A)100重量部あたり、単量体(a−1)の使用量が0.1〜5重量部、単量体(a−2)の使用量が0.1〜5重量部、且つ、これら単量体(a−1)と単量体(a−2)の使用量の合計が0.5〜6重量部であるものを、アルキレンオキサイド骨格を有する乳化剤(B)、好ましくはポリオキシエチレンアルキルエーテル骨格を有する乳化剤の存在下で乳化重合してなるものである樹脂水性分散体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は旧塗膜に対する付着性に優れ、且つ上塗り塗料としての適性である耐水性、耐アルカリ性などを併せ持った樹脂水性分散体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護、労働衛生上等の観点から各種被覆剤において溶剤系から水系への移行が進められている。建築塗料分野においては以前から水性であるエマルジョン塗料が主流である。しかし、エマルジョン塗料は旧塗膜に対する付着性が溶剤系塗料と比べると劣ることから、改修用途においては溶剤系塗料が多く使用されているのが現状である。かかる状況下、旧塗膜付着性に優れるエマルジョン塗料、特に上塗り塗料としての性能、即ち耐水性、耐アルカリ性等の耐久性も併せ持つエマルジョン塗料の開発が望まれている。
そこで旧塗膜に対する付着性と共に、耐水性、耐アルカリ性等の耐久性にも優れる水性被覆剤の開発について盛んに検討がなされている。
【0003】
例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび不飽和カルボン酸を、乳化剤としてアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩を用いて重合することにより得られ、且つガラス転移温度(以後、Tgと略す。)が15〜50℃で、合成樹脂粒子の平均粒子径が0.01〜0.12μmである合成樹脂エマルジョンを用いた水性被覆剤が各種旧塗膜に対する付着性に優れる旨が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。本方法によると確かに旧塗膜、特に水性被覆剤からなる旧塗膜に対しては良好な付着性を示すが、溶剤系、特にターペン可溶型塗料や溶剤型2液塗料からなる塗膜に対する付着性は充分なものではない。
【0004】
また、表面張力が40mN/m以下の反応性界面活性剤を用いて乳化重合することにより得られたエマルジョンからなる水性被覆剤が、旧塗膜に対する付着性に優れる旨が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。しかし、本方法においても溶剤系被覆剤からなる塗膜、特にターペン可溶型塗料や2液硬化型溶剤系被覆剤からなる旧塗膜に対する付着性は充分なものではない。
【0005】
【特許文献1】特開2001−342219号公報
【特許文献2】特開2002−194292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、各種旧塗膜に対する付着性に優れ、且つ、耐水性、耐アルカル性等の上塗り塗料としての適性をも具備した水性被覆剤とすることができる樹脂水性分散体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、凝集することから通常共重合が困難であるとされている、アミノ基含有エチレン性不飽和単量体とカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体の共重合が、アルキレンオキサイド骨格を有する乳化剤の存在下では凝集せずに可能となること、および、アルキレンオキサイド骨格を有する乳化剤の存在下でアミノ基含有エチレン性不飽和単量体とカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体を共重合させて得られる樹脂水性分散体を用いることにより、旧塗膜に対する付着性に優れ、且つ、上塗り塗料としての性能、即ち耐水性、耐アルカリ性等の耐久性も併せ持つ水性被覆剤が容易に得られることを見い出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は、アミノ基含有エチレン性不飽和単量体(a−1)、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a−2)およびその他のエチレン性不飽和単量体(a−3)を含有するエチレン性不飽和単量体(A)を、アルキレンオキサイド骨格を有する乳化剤(B)の存在下で乳化重合してなるものであることを特徴とする樹脂水性分散体を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂水性分散体は、旧塗膜に対する付着性に優れ、且つ、上塗り塗料としての性能、即ち耐水性、耐アルカリ性等の耐久性も併せ持つ水性被覆剤とすることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明においては、アルキレンオキサイド骨格を有する乳化剤(B)の存在下で乳化重合するエチレン性不飽和単量体(A)として、アミノ基含有エチレン性不飽和単量体(a−1)とカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a−2)を、その他のエチレン性不飽和単量体(a−3)と共に必須成分として含有するものを用いる必要がある。
【0011】
前記アミノ基含有エチレン性不飽和単量体(a−1)としては、特に制約はなく、アミノ基とエチレン性不飽和基を有するものであればいかなるものでもよく、またアミノ基も1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、4級アミノ基いずれのものでもかまわない。その具体例を挙げると、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート類、ビニルアミン、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル塩酸塩、3−(メタ)アクリロイル−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド等を挙げることができる。これらアミノ基含有エチレン性不飽和単量体(a−1)の中でも、製造が容易で、付着性により優れる水性被覆剤が得られる樹脂水性分散体を製造できることから、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート類が好ましい。
【0012】
また、前記カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a−2)も特に制約はなく、カルボキシル基とエチレン性不飽和結合を有するものであればいかなるものでもよく、その具体例を挙げると、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸ハーフエステル、マレイン酸ハーフエステル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、2−メタクリロイルプロピオン酸等を挙げることができる。これらカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a−2)の中でも、製造が容易で、付着性により優れる水性被覆剤が得られる樹脂水性分散体を製造できることから、(メタ)アクリル酸、イタコン酸が好ましい。
【0013】
これらアミノ基含有エチレン性不飽和単量体(a−1)およびカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a−2)と併用するその他のエチレン性不飽和単量体(a−3)としては、特に制約はなく、いかなるものも用いることができ、その具体例を挙げると、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル類;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸のエステル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、第3級カルボン酸ビニル、ベオバ等のビニルエステル類;スチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル単量体類;ビニルピロリドン等の複素環式ビニル単量体類;塩化ビニル、アクリロニトリル、ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルアミド;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン化合物;エチレン、プロピレン等のα−オレフィン類;ブタジエン等のジエン類;(メタ)アクリルアミド、マレイン酸アミド等の不飽和カルボン酸のアミド類;グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のグリシジル基含有ビニル単量体類;2−ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有ビニル単量体類;N−メチロール(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミドなどの不飽和カルボン酸の置換アミド;γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の不飽和結合含有シラン化合物;ジアリルフタレート、ジビニルベンゼン、アリルアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート等の1分子中に2個以上の不飽和結合を有するビニル単量体類などを挙げることができる。勿論これらに限定されるものではなく、ラジカル重合に使用できるエチレン性不飽和単量体であればいかなるものでも用いることができる。
【0014】
これらその他のエチレン性不飽和単量体(a−3)としては、付着性により優れる水性被覆剤が得られる樹脂水性分散体を製造できることから、(メタ)アクリル酸エステルおよび/またはスチレンを含有するものを用いることが好ましく、更には20℃における水に対する溶解度が0.1%以下の(メタ)アクリル酸エステルおよび/またはスチレンを含有するものを用いることがより好ましい。その使用量としては、エチレン性不飽和単量体(A)100重量部あたりの使用量が80重量部以上であることが好ましく、90〜97重量部であることがより好ましい。20℃における水に対する溶解度が0.1%以下の(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ステアリル等が挙げられる。
【0015】
前記アミノ基含有エチレン性不飽和単量体(a−1)と、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a−2)のそれぞれの使用量は、特に制約は無く、任意の量で使用することはできる。しかし、アミノ基含有エチレン性不飽和単量体(a−1)の使用量としては、重合が容易で、付着性、耐水性、耐アルカリ性等により優れる水性被覆剤が得られる樹脂水性分散体を製造できることから、エチレン性不飽和単量体(A)100重量部あたり、0.1〜5重量部であることが好ましく、なかでも0.5〜2重量部であることがより好ましい。また、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a−2)の使用量としては、重合が容易で、付着性、耐水性、耐アルカリ性等により優れる水性被覆剤が得られる樹脂水性分散体を製造できることから、エチレン性不飽和単量体(A)100重量部あたり、0.1〜5重量%であることが好ましく、なかでも0.5〜4重量部であることがより好ましい。さらに、これら単量体(a−1)と単量体(a−2)の使用量の合計としては、重合が容易で、付着性、耐水性、耐アルカリ性等により優れる水性被覆剤が得られる樹脂水性分散体を製造できることから、エチレン性不飽和単量体(A)100重量部あたり、0.5〜6重量部であることが好ましく、なかでも1〜4重量部であることがより好ましい。
【0016】
前記エチレン性不飽和単量体(A)の乳化重合は、乳化剤の存在下であることが必須であり、具体的にはアルキレンオキサイド骨格を有する乳化剤(B)を用いることが必須である。即ち、通常アミノ基含有エチレン性不飽和単量体(a−1)と、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a−2)を共重合させることは、凝集を起こすことから困難であるが、アルキレンオキサイド骨格を有する乳化剤(B)を用いることによりこれら単量体(a−1)と単量体(a−2)を共重合させることが可能となる。
【0017】
前記アルキレンオキサイド骨格を有する乳化剤(B)に特に制約はなく、アルキレンオキサイド骨格を有する乳化剤であればいかなるものでも用いることができる。その具体例を挙げると、ポリオキシエチレンアルキルフェニルスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩等のアニオン乳化剤;ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体等のノニオン乳化剤等を挙げることができ、さらに、メタクリル酸ポリオキシエチレンスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルケニルフェニルスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルケニルフェニル硫酸塩類、メタクリル酸ポリオキシプロピレンスルホン酸塩類等のアニオン系反応性乳化剤;ポリオキシエチレンアルケニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンメタクリロイルエーテル等のノニオン系反応性乳化剤などの反応性乳化剤も用いることができる。勿論、これらの乳化剤は、複数種併用することも可能である。乳化剤の種類については上記構造に制約されるものではなく、市販されているもの、具体的にはアクアロンHSシリーズ、KHシリーズ、BCシリーズ〔第一工業製薬(株)製〕、アデカリアソープSEシリーズ、NEシリーズ、SRシリーズ、ERシリーズ〔旭電化工業(株)製〕等を挙げることができる。これらアルキレンオキサイド骨格を有する乳化剤(B)の中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩等のポリオキシエチレンアルキルエーテル骨格を有する乳化剤を用いることが好ましい。
【0018】
これらアルキレンオキサイド骨格を有する乳化剤(B)の使用量に特に制約はないが、重合が容易で、付着性、耐水性、耐アルカリ性等により優れる水性被覆剤が得られる樹脂水性分散体を製造できることから、エチレン性不飽和単量体(A)100重量部あたり0.5〜5重量部であることが好ましく、1〜3重量部であることがより好ましい。また、エチレン性不飽和単量体(A)を乳化重合するにあたり、前記アルキレンオキサイド骨格を有する乳化剤(B)は必須であるが、これ以外の骨格を有するその他の乳化剤を併用してもかまわない。併用するにあたっては、その他の乳化剤に特に制約は無く、乳化重合で使用できるものであればいかなるものでも用いることができる。その他の乳化剤の具体例を挙げるとすると、アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキル硫酸塩類、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ジアルキルスルホサクシネートの塩類等を挙げることができ、また、ビニルスルホン酸塩類、スチレンスルホン酸ソーダ、ナトリウムアリルアルキルスルホサクシネート等の反応性乳化剤を用いることも可能である。勿論、複数種を併用することも可能である。
【0019】
本発明の樹脂水性分散体は、エチレン性不飽和単量体(A)を乳化重合してなる水性分散体であり、乳化重合方法には特に制約はなく、各種の乳化重合方法で行うことができる。乳化重合方法の具体例を挙げると、エチレン性不飽和単量体(A)の全量100重量部に対して、ラジカル重合開始剤(C)0.01〜10重量部、好ましくは0.05〜1重量部と、水性媒体50〜10,000重量部、好ましくは60〜200重量部を使用して、アルキレンオキサイド骨格を有する乳化剤(B)の存在下、0〜100℃、好ましくは40〜80℃で重合することができる。また、ラジカル重合開始剤と還元剤を併用するレドックス重合にても行うことができ、この場合の還元剤の使用量はエチレン性不飽和単量体(A)100重量部に対して0.01〜10重量部、好ましくは0.05〜1重量部である。この際、鉄イオンや銅イオン等の多価金属塩イオンを生成する化合物を促進剤として併用することも可能である。また、コアシェル重合、シード重合等の異相構造エマルジョンとすることも可能である。
【0020】
前記ラジカル重合開始剤(C)としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩類;アゾビスイソブチロニトリルおよびその塩酸塩、2,2′−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、4,4′−アゾビス(4−シアノ吉草酸)等のアゾ系開始剤;過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等の過酸化物系開始剤等が挙げられる。この中でも、付着性、耐水性、耐アルカリ性等により優れる水性被覆剤が得られる樹脂水性分散体を製造できることから、過酸化物系開始剤、特に有機過酸化物系開始剤が好ましく、特にt−ブチルハイドロパーオキサイドが好ましい。これらラジカル重合開始剤(C)と併用可能な還元剤としては、例えば、ナトリウムスルホオキシレートホルムアルデヒド、ピロ亜硫酸ソーダ、イソアスコルビン酸ソーダ等が挙げられる。
【0021】
さらに、本発明の樹脂水性分散体を得るための前記乳化重合方法では、連鎖移動剤(D)、例えば、メルカプタン類、アルコール系有機溶剤、脂肪族系有機溶剤、芳香族系有機溶剤等を用いることも可能である。但し、揮発性有機溶剤はできるだけ含まないことが環境保護、労働衛生の観点から好ましく、更には付着性が向上することから、連鎖移動剤として20℃における水に対する溶解度が5%以下の連鎖移動剤を用いることがより好ましい。20℃における水に対する溶解度が5%以下の連鎖移動剤の具体例としては、ラウリルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類、チオグリコール酸オクチル等のチオグリコール酸アルキル類を挙げることができる。
【0022】
本発明の樹脂水性分散体は、必要に応じて、顔料、充填剤、骨材、分散剤、湿潤剤、増粘剤、レオロジーコントロール剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、防錆剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等を配合することも可能である。
【0023】
本発明の樹脂水性分散体は、塗料用、粘接着剤用、繊維加工用、工業建材用、土木用、紙加工用など、様々の用途に対して適応可能である。中でも、旧塗膜に対する付着性に優れることから、塗料用、特に建築塗料用に有用である。また、耐水性、耐アルカリ性等の耐久性を有することから上塗り塗料用として用いることができるが、それ以外にもシーラー用、下地調整用等各種建築塗料用として有用である。
【実施例】
【0024】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに制限されるものではない。なお、以下の「部」および「%」はいずれも重量基準である。
【0025】
実施例1
メタクリル酸ジメチルアミノエチル(以後、DMAEMAと略す。)4部、メタクリル酸(以後、MAAと略す。)2部、スチレン(以後、SMと略す。)120部、アクリル酸2−エチルヘキシル(以後、2−EHAと略す。)140部およびメタクリル酸メチル(以後、MMAと略す。)134部からなるエチレン性不飽和単量体を、ニューコール707SF〔日本乳化剤(株)製乳化剤;有効成分30%〕40部およびノイゲンET−102〔第一工業製薬(株)製ポリオキシエチレンアルキルエーテル骨格含有乳化剤〕4部を120部のイオン交換水に溶解させた乳化剤水溶液を用いて乳化し、モノマーエマルジョンを作製した。また、過硫酸ナトリウム(以後、NAPSと略す。)1.2部をイオン交換水24部に溶解させてラジカル重合開始剤水溶液を作製した。
【0026】
攪拌機、温度計、冷却器を取り付けた1リットル反応容器にイオン交換水310部を仕込み、窒素ガスを送入しつつ攪拌しながら反応容器内を80℃に昇温した。昇温後、モノマーエマルジョンおよびラジカル重合開始剤水溶液を反応容器内にそれぞれ3時間かけて滴下投入し、乳化重合を行った。滴下終了後、NAPS0.2部を添加し、更に2時間攪拌しながら80℃で保持した後に室温まで冷却し、14%アンモニア水でpHを8.5に調整し、その後イオン交換水で不揮発分が45%となるように調整した後に取り出し、樹脂水性分散体を得た。
【0027】
実施例2〜4
第1表に示す原料を使用した以外は実施例1と同様の方法で樹脂水性分散体を得た。
【0028】
実施例5
DMAEMA4部、MAA2部、SM145部、2−EHA115部、MMA20部、i−BMA114部およびドデシルメルカプタン2部からなるエチレン性不飽和単量体および連鎖移動剤を、ニューコール707SF40部およびノイゲンET−102 4部を120部のイオン交換水に溶解させた乳化剤水溶液を用いて乳化し、モノマーエマルジョンを作製した。また、t−ブチルハイドロパーオキサイド(有効成分69%、以後、PB−Hと略す。)2.4部をイオン交換水24部に溶解させてラジカル重合開始剤水溶液を、またイソアスコルビン酸ソーダ2部をイオン交換水24部に溶解させて還元剤水溶液を作製した。
【0029】
攪拌機、温度計、冷却器を取り付けた1リットル反応容器にイオン交換水290部および1%塩化第2鉄水溶液0.7部を仕込み、窒素ガスを送入しつつ攪拌しながら反応容器内を70℃に昇温した。昇温後、モノマーエマルジョン、ラジカル重合開始剤水溶液および還元剤水溶液を反応容器内にそれぞれ3時間かけて滴下投入し、乳化重合を行った。滴下終了後、NAPS0.2部を添加し、更に2時間攪拌しながら70℃で保持した後に室温まで冷却し、14%アンモニア水でpHを8.5に調整し、その後イオン交換水で不揮発分が45%となるように調整した後に取り出し、樹脂水性分散体を得た。
【0030】
実施例6
モノマーエマルジョンを作製するにあたり、乳化剤としてニューコール707SFおよびノイゲンET−102の代わりにアクアロンKH−10〔第一工業製薬(株)製エチレンオキサイド骨格含有反応性乳化剤〕16部を用いた以外は実施例5と同様の方法で樹脂水性分散体を得た。
【0031】
比較例1および2
第2表に示す原料を使用した以外は実施例1と同様の方法で樹脂水性分散体を得た。
【0032】
比較例3
2−EHA140部、MMA128部、SM120部、アクリル酸(以後、AAと略す。)6部、ヒドロキシエチルメタクリレート(以後、HEMAと略す。)6部からなるエチレン性不飽和単量体を、エレミノールJS−2〔三洋化成工業(株)製アニオン性反応性乳化剤:アルキルアリルスルホコハク酸ナトリウム塩;有効成分38%〕21部およびアクアロンHS−10〔第一工業製薬(株)製アニオン性反応性乳化剤:ポリオキシエチレン−1−(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩〕4部を120部のイオン交換水に溶解させた乳化剤水溶液を用いて乳化し、モノマーエマルジョンを作製した以外は実施例1と同様の方法で樹脂水性分散体を得た。
【0033】
比較例4
SM120部、アクリル酸ブチル(以後、BAと略す。)160部、MMA106部、MAA10部およびメタクリル酸グリシジル(以後、GMAと略す。)4部からなるエチレン性不飽和単量体を、ニューコール707SF22部およびダウファックス2A−1〔日本乳化剤(株)製アニオン乳化剤、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム50%水溶液〕6部を120部のイオン交換水に溶解させた乳化剤水溶液を用いて乳化し、モノマーエマルジョンを作製した。また、NAPS1.2部をイオン交換水24部に溶解させてラジカル重合開始剤水溶液を作製した。
【0034】
攪拌機、温度計、冷却器を取り付けた1リットル反応容器にニューコール707SF4部およびイオン交換水315部を仕込み、窒素ガスを送入しつつ攪拌しながら反応容器内を80℃に昇温した。昇温後、モノマーエマルジョンおよびラジカル重合開始剤水溶液を反応容器内にそれぞれ3時間かけて滴下投入し、乳化重合を行った。滴下終了後、NAPS0.2部を添加し、更に2時間攪拌しながら80℃で保持した後に室温まで冷却し、14%アンモニア水でpHを8.5に調整し、その後イオン交換水で不揮発分が45%となるように調整した後に取り出し、樹脂水性分散体を得た。得られた樹脂水性分散体の平均粒子径は0.12μm(光散乱型粒度分布測定器で測定)であった。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
第1表および第2表の脚注
*1)i−BMA:メタクリル酸イソブチル
【0038】
【表3】

【0039】
試験例1〜6および比較試験例1〜4
ディスパーを用い、下記顔料ペースト配合組成で、3000rpm、1時間の条件で分散を行って顔料ペースト291.4部を得た後、下記塗料配合組成で配合を行って水性塗料を得、得られた水性塗料の付着性試験、耐水付着性試験、耐水性試験、耐アルカリ性試験を下記試験方法で行った。試験結果を第4表に示す
【0040】
・顔料ペースト配合組成
水 62.0部
オロタンSG−1*2) 5.7部
10%トリポリ燐酸ナトリウム 4.1部
50%エマルゲンA−60*3) 3.7部
プロピレングリコール 14.4部
ベストサイド500*4) 0.8部
R−930*5) 200.2部
SNデフォーマー380*6) 0.4部
28%アンモニア水 0.2部
小 計 291.4部
【0041】
・塗料配合組成
顔料ペースト 291.4部
樹脂水性分散体 634.4部
(実施例1〜6または比較例1〜4で得たもの)
テキサノール*7) 57.1部
3%セロカサイズQP−4400H*8) 13.4部
15%アデカノールUH−438*9) 3.3部
BYK−028*10) 0.4部
合 計 1000.0部
【0042】
*2)オロタンSG−1 : ローム&ハース(株)製顔料分散剤
*3)エマルゲンA−60 : 花王(株)製ノニオン性乳化剤
*4)ベストサイド500 : 日本曹達(株)製防腐剤
*5)R−930 : 石原産業(株)製酸化チタン
*6)SNデフォーマー380 : サンノプコ(株)製消泡剤
*7)テキサノール : イーストマンケミカル社製造膜助剤
*8)セロカサイズQP−4400H: ダウケミカル社製増粘剤
*9)アデカノールUH−438 : 旭電化(株)製増粘剤
*10)BYK−028 : BYK社製消泡剤
【0043】
〔試験方法〕
・付着性および耐水付着性試験用基材の製造:ダイヤニューデポール〔恒和化学工業(株)製防水形外装合成樹脂エマルジョン系薄付け仕上げ塗料;以後、塗料(1)と略す。〕、キクスイタイルカラー仕上材〔菊水化学工業(株)製溶剤形アクリル樹脂エナメル塗料;以後、塗料(2)と略す。〕、ファインコート〔菊水化学工業(株)製ターペン可溶型アクリル樹脂塗料;以後、塗料(3)と略す。〕、ファインコートウレタン〔菊水化学工業(株)製弱溶剤形2液ウレタン塗料;以後、塗料(4)と略す。〕のそれぞれをスレート板に塗布量が300g/mとなるように刷毛塗りし、25℃で14日間乾燥させた後に50℃で3日間乾燥させて付着性および耐水付着性試験用基材を得た。
【0044】
・付着性試験:前記付着性試験用基材の塗膜上に水性塗料を塗布量が300g/mとなるように刷毛塗りし、25℃で7日間乾燥させた後、塗膜にカッターナイフで2mm間隔の切れ目を入れて5×5=25個の碁盤目を作製した後、セロハンテープ剥離試験を行い、下記の評価基準で評価した。
評価基準
○ :20個以上付着
△−○:15〜19個付着
△ :10〜14個付着
×〜△:5〜9個付着
× :4個以下付着
【0045】
・耐水付着性試験:前記耐水付着性試験用試験基材の塗膜上に水性塗料を塗布量が300g/mとなるよう刷毛塗りし、25℃で7日間乾燥させた後、水中に1日間浸漬し、取り出して25℃で24時間乾燥させた後に塗膜にカッターナイフで2mm間隔の切れ目を入れて5×5=25個の碁盤目を作製した後、セロハンテープ剥離試験を行い、前記付着性試験と同じ評価基準で評価した。
【0046】
・耐水性試験:JIS K 5660に準拠して行った。
【0047】
・耐アルカリ性試験:JIS K 5660に準拠して行った。
【0048】
【表4】

【0049】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基含有エチレン性不飽和単量体(a−1)、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a−2)およびその他のエチレン性不飽和単量体(a−3)を含有するエチレン性不飽和単量体(A)を、アルキレンオキサイド骨格を有する乳化剤(B)の存在下で乳化重合してなるものであることを特徴とする樹脂水性分散体。
【請求項2】
エチレン性不飽和単量体(A)100重量部あたり、アミノ基含有エチレン性不飽和単量体(a−1)の使用量が0.1〜5重量部、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a−2)の使用量が0.1〜5重量部、且つ、これら単量体(a−1)と単量体(a−2)の使用量の合計が0.5〜6重量部である請求項1に記載の樹脂水性分散体。
【請求項3】
その他のエチレン性不飽和単量体(a−3)が20℃における水に対する溶解度が0.1%以下の(メタ)アクリル酸エステルおよび/またはスチレンを含有するものである請求項2に記載の樹脂水性分散体。
【請求項4】
20℃における水に対する溶解度が0.1%以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび/またはスチレンの使用量が、エチレン性不飽和単量体(A)100重量部あたり80重量部以上である請求項3に記載の樹脂水性分散体。
【請求項5】
アルキレンオキサイド骨格を有する乳化剤(B)が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル骨格を有する乳化剤である請求項1に記載の樹脂水性分散体。
【請求項6】
ラジカル重合開始剤(C)として有機過酸化物を用いてエチレン性不飽和単量体(A)を乳化重合してなるものである請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂水性分散体。
【請求項7】
連鎖移動剤(D)の存在下でエチレン性不飽和単量体(A)を乳化重合してなるものである請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂水性分散体。
【請求項8】
連鎖移動剤(D)が、20℃における水に対する溶解度が5重量%以下のものである請求項6に記載の樹脂水性分散体。

【公開番号】特開2008−274084(P2008−274084A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−118721(P2007−118721)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】