説明

樹脂組成物、熱硬化性樹脂組成物、及び硬化物

【課題】 熱硬化後の塗膜物性、特に、耐水性、耐溶剤性に優れた熱硬化性樹脂組成物及びこれに適した樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 カルボキシル基含有ビニル系単量体(a)及びエポキシ基含有ビニル系単量体(b)を含むビニル系単量体混合物を懸濁重合して得られるビニル系重合体(A)を、水を含有する溶媒(S)中で塩基性化合物(B)で中和して得られる樹脂組成物;この樹脂組成物を含有する熱硬化性樹脂組成物;及びこの熱硬化性樹脂組成物を硬化して得られる硬化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性塗料の用途に好適な樹脂組成物及びその樹脂組成物を含有する熱硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境への意識の高まりから、塗料、インク、接着剤、レジスト材料、焼成材料等の分野において水系化が進んでおり、各種のものが検討されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
特許文献1には、乳化重合法により製造されたカルボキシル基及びエポキシ基含有ビニル系重合体粒子の水系分散体が開示されている。しかしながら、乳化重合により得られた水系分散体では、粒子径や反応性乳化剤の有無により耐水性が著しく変化することが記載されていることからも明らかな様に、粒子間の架橋反応性は乏しく、硬化塗膜全体としての性能は十分でなかった。また、室温付近での耐水性はある程度有するものの、50℃といったより厳しい条件下では耐水性が不十分であった。
【0003】
特許文献2には、懸濁重合法により製造されたカルボキシル基含有ビニル系重合体を塩基性化合物で中和して得られる樹脂組成物が開示されている。しかしながら、特許文献2に記載されている水性樹脂組成物は、20℃程度の室温付近の耐水性は有するものの、50℃といったより厳しい条件下では耐水性が不十分であった。また、室温付近であっても、キシレン等の溶剤に対しては、十分な耐性を有していなかった。
【特許文献1】特開2003−147255号公報
【特許文献2】特開平07−26195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、熱硬化後の塗膜物性、特に、耐水性、耐溶剤性に優れた熱硬化性樹脂組成物及びこれに適した樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、懸濁重合法により製造されたカルボキシル基とエポキシ基を含有するビニル系重合体を塩基性化合物で中和して得られた樹脂組成物が非常に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明は、カルボキシル基含有ビニル系単量体(a)及びエポキシ基含有ビニル系単量体(b)を含むビニル系単量体混合物を懸濁重合して得られるビニル系重合体(A)を、水を含有する溶媒(S)中で塩基性化合物(B)で中和して得られる樹脂組成物に関するものであり、該樹脂組成物を含有する熱硬化性樹脂組成物に関するものであり、該熱硬化性樹脂組成物を硬化して得られた硬化物に関するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、有機溶剤含有量が少なく、熱硬化時の反応性及び熱硬化後の塗膜物性、特に、耐水性、耐溶剤性に優れた樹脂組成物及び熱硬化性樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の樹脂組成物は、カルボキシル基含有ビニル系単量体(a)及びエポキシ基含有ビニル系単量体(b)を含むビニル系単量体混合物を懸濁重合して得られるビニル系重合体(A)を、水を含有する溶媒(S)中で塩基性化合物(B)により中和して得られるものである。
【0009】
カルボキシル基含有ビニル系単量体(a)としては、特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルテトラヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルテトラヒドロフタル酸、5−メチル−2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルマレイン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルマレイン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルコハク酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルシュウ酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルシュウ酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、ソルビン酸等のカルボキシル基含有ビニル系単量体;無水イタコン酸、無水マレイン酸等の酸無水基含有ビニル系単量体;イタコン酸モノメチル等のジカルボン酸のモノエステル等が挙げられる。これらは1種以上を適宜選択して使用できる。
【0010】
中でも、他のビニル系単量体との共重合性が良好であるという点から、(メタ)アクリル酸が好ましい。
なお、「(メタ)アクリル酸」は「アクリル酸及び/又はメタクリル酸」を、「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル及び/又はメタクリロイル」をそれぞれ意味する。
【0011】
エポキシ基含有ビニル系単量体(b)としては、特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、α−エチルアクリル酸グリシジル、α−n−プロピルアクリル酸グリシジル、α−n−ブチルアクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸3,4−エポキシブチル、(メタ)アクリル酸6,7−エポキシへプチル、α−エチルアクリル酸6,7−エポキシへプチル、o−ビニルベンジルグリシジルエーテル、m−ビニルベンジルグリシジルエーテル、p−ビニルベンジルグリシジルエーテル等が挙げられる。これらは1種以上を適宜選択して使用できる。
中でも、前記単量体(a)および後述するその他のビニル系単量体(c)との共重合性が良好であるという点から、メタクリル酸グリシジルが好ましい。
【0012】
本発明において用いるビニル系重合体(A)においては、前記単量体(a)及び前記単量体(b)以外にも、その他のビニル系単量体(c)を必要に応じて併用することができる。その他のビニル系単量体(c)は、例えば、塗膜性能の改質や重合工程における前記単量体(a)のカルボキシル基と前記単量体(b)のエポキシ基との反応を緩和することを目的として使用することができる。
【0013】
その他のビニル系単量体(c)としては、特に制限されないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−(2−エチルヘキサオキシ)エチル(メタ)アクリレート、1−メチル−2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、3−メチル−3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、o−メトキシフェニル(メタ)アクリレート、m−メトキシフェニル(メタ)アクリレート、p−メトキシフェニル(メタ)アクリレート、o−メトキシフェニルエチル(メタ)アクリレート、m−メトキシフェニルエチル(メタ)アクリレート、p−メトキシフェニルエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートと、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、γ−ブチロラクトン又はε−カプロラクトン等との付加物;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート又は2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の二量体又は三量体;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニル系単量体;などが挙げられる。
【0014】
これらは1種以上を適宜選択して使用できる。中でも、塗膜の硬度や光沢を向上させる成分としては、メチルメタクリレートやスチレンが好ましい。また、塗膜の外観、柔軟性、基材との密着性を向上させる成分としては、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレートが好ましい。
なお、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート及び/又はメタクリレート」を、「(メタ)アクリロニトリル」は「アクリロニトリル及び/又はメタクリロニトリル」をそれぞれ意味する。
【0015】
本発明において用いるビニル系重合体(A)は、前記単量体(a)、前記単量体(b)、及び必要に応じて前記単量体(c)を含むビニル系単量体混合物を、懸濁重合して得られるものである。
各単量体の量は特に限定されないが、ビニル系単量体混合物100質量部中、単量体(a)が2〜40質量部、単量体(b)が0.5〜50質量部、単量体(c)が10〜97.5質量部であることが好ましい。より好ましい範囲は、単量体(a)が3〜30質量部、単量体(b)が1〜40質量部、単量体(c)が30〜96質量部である。
【0016】
懸濁重合法としては、特に制限されず、公知の方法で重合することができる。具体的には、例えば、水性媒体中にビニル系単量体混合物、分散剤、重合開始剤、連鎖移動剤などを添加し、懸濁化させ、その水性懸濁液を加熱することにより重合反応を進行させ、重合後の水性懸濁液を濾過、洗浄、脱水、乾燥することにより、ビニル系重合体(A)を製造することができる。
【0017】
また、懸濁重合法は、水を媒体とすることや、溶剤を含まないため油滴粘度が高いこと、更には他の重合法に比べ、重合場のモノマー濃度が高く、比較的低温かつ短時間での重合が可能であることなどから、カルボキシル基とエポキシ基との反応が進行し難い傾向にある。また、万一重合中にカルボキシル基とエポキシ基との反応が進行した場合であっても、重合体は架橋粒子となり、系全体のゲル化には至らないので、安全性、作業性、工程通過性の面からも好ましい。
【0018】
また、一般に懸濁重合法で製造されるビニル系重合体(A)は、重量平均粒子径が10〜2000μm程度で、ほぼ真球に近い一次粒子となる。一方、乳化重合後に凝集またはスプレードライして製造されるビニル系重合体(A)は、一次粒子径が0.01〜1μm程度の凝集粒子となる。また、塊状重合法あるいは、溶液重合後に脱溶剤して得た重合体を粉砕した場合には、重合体粒子の形状は不揃いとなり、粒度分布が広くなる。
【0019】
ビニル系重合体(A)の重量平均粒子径は、30〜500μmの範囲内であることが好ましい。ビニル系重合体(A)の重量平均粒子径が、30μm以上である場合に、大気中への微粉の飛散が低減し、作業環境汚染や粉塵爆発性が低下する傾向にあると共に、粒子の流動性が向上し、取り扱い性が良好となる傾向にある。また、500μm以下である場合に、懸濁重合時の分散安定性が向上する傾向にあると共に、得られた粒子の比表面積が増大し、有機溶剤への溶解性が向上する傾向にある。ビニル系重合体(A)の重量平均粒子径の下限値は、80μm以上であることが特に好ましく、またこの上限値は、300μm以下であることが特に好ましい。
【0020】
ビニル系重合体(A)を懸濁重合法で製造する際に使用する分散剤としては、特に制限されないが、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩、(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体、(メタ)アクリル酸スルホアルキルのアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体、ポリスチレンスルホン酸のアルカリ金属塩、スチレンスルホン酸のアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体、あるいはこれら単量体の組み合わせからなる共重合体や、ケン化度70〜100%のポリビニルアルコ−ル、メチルセルロ−ス等が挙げられる。これらは、1種以上を適宜選択して使用できる。中でも、懸濁重合時の分散安定性が良好な(メタ)アクリル酸スルホアルキルのアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体が好ましい。
【0021】
懸濁重合の際に使用する分散剤の量は、特に制限されないが、水性懸濁液中0.002〜5質量%の範囲内であることが好ましい。分散剤の量が0.002質量%以上である場合に、懸濁重合時の分散安定性が良好となる傾向にある。また、分散剤の量が5質量%以下である場合に、ビニル系重合体(A)の洗浄性、脱水性、乾燥性及び重合体粒子の流動性が良好となる傾向にある。分散剤の量は、0.01〜1質量%の範囲内であることが特に好ましい。また、懸濁重合時の分散安定性向上を目的として、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マンガン等の電解質を使用することができる。
【0022】
懸濁重合における重合温度は、特に制限されないが、30〜130℃の範囲内であることが好ましい。重合温度が30℃以上である場合に、比較的短時間で重合体を製造することが可能となる傾向にある。また、重合温度が130℃以下である場合に、懸濁重合時の分散安定性が向上すると共に、カルボキシル基とエポキシ基との反応が進行し難い傾向にある。重合温度の下限値は、50℃以上であることが特に好ましく、またこの上限値は100℃以下であることが特に好ましい。
【0023】
懸濁重合の際に使用する重合開始剤としては、特に制限されないが、例えば、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物;ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート等の有機過酸化物;過酸化水素、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物;などが挙げられる。これらは、1種以上を適宜選択して使用できる。
【0024】
重合開始剤の使用量は、特に制限されないが、ビニル系単量体混合物100質量部に対して、0.05〜10質量部の範囲内であることが好ましい。重合開始剤の使用量が0.05質量部以上である場合に、単量体の重合速度が向上し、比較的短時間で重合体を製造することが可能となる傾向にある。また、10質量部以下の場合に、重合発熱が緩和され、重合温度制御が容易となる傾向にある。重合開始剤の使用量の下限値は0.1質量部以上であることがより好ましく、また、この上限値は5質量部以下であることがより好ましい。
【0025】
ビニル系重合体(A)の分子量を調整するために、懸濁重合の際に連鎖移動剤を使用することができる。連鎖移動剤としては、例えば、n−ブチルメルカプタン、sec−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類;チオグリコール酸2−エチルヘキシル、チオグリコール酸メトキシブチル、トリメチロールプロパントリス(チオグリコレート)等のチオグリコール酸エステル類;β−メルカプトプロピオン酸2−エチルヘキシル、β−メルカプトプロピオン酸3−メトキシブチル、トリメチロールプロパントリス(β−チオプロピオネート)等のメルカプトプロピオン酸エステル類;などが挙げられる。これらは、1種以上を適宜選択して使用できる。中でも、連鎖移動定数が大きく、塗膜の外観や初期光沢が良好となる傾向にあるn−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸2−エチルヘキシルが好ましい。
連鎖移動剤の使用量は、特に制限されないが、ビニル系単量体混合物100質量部に対して0.1〜10質量部の範囲内であることが好ましい。連鎖移動剤の使用量が、0.1質量部以上である場合に、酸基とエポキシ基との反応が抑制される傾向があると共に、ラジカルの連鎖移動により共重合体の分子量が低下し、塗膜の外観や初期光沢が向上する傾向にある。また、10質量部以下の場合に、未反応の単量体や連鎖移動剤の残存量が減少し、硬度や耐溶剤性が向上する傾向にある。連鎖移動剤の使用量の下限値は0.2質量部以上であることがより好ましく、また、この上限値は5質量部以下であることがより好ましい。
【0026】
ビニル系重合体(A)の重量平均分子量は、特に制限されないが、5,000〜200,000の範囲内であることが好ましい。ビニル系重合体(A)の重量平均分子量が5,000以上の場合に、硬化塗膜の硬度、耐溶剤性が向上する傾向にある。また、ビニル系重合体(A)の重量平均分子量が200,000以下の場合に、種々の溶剤に対する溶解性が向上する傾向にあり、この重合体を用いた熱硬化性樹脂組成物を高固形分化し易くなると共に、塗膜の外観や基材に対する密着性が向上する傾向にある。ビニル系重合体(A)の重量平均分子量の下限値は、10,000以上であることが特に好ましく、またこの上限値は、100,000以下であることが特に好ましい。
【0027】
ビニル系重合体(A)のMw/Mn(重量平均分子量/数平均分子量)は、特に制限されないが、4以下であることが好ましい。ビニル系重合体(A)のMw/Mnが4以下の場合に、種々の溶剤に対する溶解性が向上する傾向にあり、この重合体を用いた熱硬化性樹脂組成物を高固形分化し易くなると共に、塗膜の外観や基材に対する密着性が向上する傾向にある。ビニル系重合体(A)のMw/Mnは3以下であることが特に好ましい。
【0028】
ビニル系重合体(A)の酸価は、特に制限されないが、15〜250mgKOH/gの範囲内であることが好ましい。ビニル系重合体(A)の酸価が15mgKOH/g以上の場合に、塩基性化合物による水溶解性や、硬化塗膜形成時のエポキシ基との反応性、硬化塗膜の基材に対する密着性、硬度、耐溶剤性が向上する傾向にある。また、ビニル系重合体(A)の酸価が250mgKOH/g以下の場合に、重合時のエポキシ基との反応が進行し難い傾向にあると共に、水性樹脂組成物を低粘度化、あるいは高固形分化し易くなる傾向にある。ビニル系重合体(A)の酸価の下限値は、20mgKOH/g以上が特に好ましく、またこの上限値は200mgKOH/g以下であることが特に好ましい。
【0029】
ビニル系重合体(A)において、使用する前記単量体(a)のカルボキシル基と前記単量体(b)のエポキシ基の当量比は、特に制限されないが、塗膜物性のバランスから1/30〜30/1であることが好ましく、1/20〜20/1であることがより好ましい。
【0030】
本発明の樹脂組成物は、ビニル系重合体(A)を、水を含有する溶媒(S)中で塩基性化合物(C)により中和することにより得られる。
【0031】
溶媒(S)は、水を含有する溶媒である。水の含有量は、特に制限されないが、溶媒(S)全量中、70〜99.5質量%の範囲が好ましい。水の含有量が70質量%以上の場合に後述する親水性有機溶剤による溶剤臭や引火の危険性が軽減する傾向にあり、また、99.5質量%以下の場合に、後述する塩基性化合物(C)の添加によりビニル系重合体(A)が水溶化する際の粘度上昇が緩和される傾向にある。水の含有量の下限値は、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が特に好ましい。また、水の含有量の上限値は、99質量%以下がより好ましく、98質量%以下が特に好ましい。
溶媒(S)は、水以外にも親水性有機溶剤を含有してもよい。親水性有機溶剤は、塩基性化合物(C)の添加前に添加してもよいし、塩基性化合物(C)の添加後に添加してもよい。
【0032】
親水性有機溶剤としては、特に制限されないが、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール等のアルコール類;エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノアセテート、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル等のエチレングリコール誘導体;プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルプロピオネート、1−ブトキシエトキシプロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のプロピレングリコール誘導体;テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;などが挙げられる。これらは、1種以上を適宜選択して使用できる。
【0033】
親水性有機溶剤の含有量は、特に制限されないが、溶媒(S)全量中0.5〜30質量%の範囲内であることが好ましい。親水性有機溶剤の含有量が0.5質量%以上の場合に、後述する塩基性化合物(C)の添加によりビニル系重合体(A)が水溶化する際の粘度上昇が緩和される傾向にある。また、この含有量が30質量%以下の場合に、有機溶剤臭や引火の危険性が軽減する傾向にある。親水性有機溶剤の含有量の下限値は、1質量%以上がより好ましく、2質量%以上が特に好ましい。また、この上限値は20質量%以下がより好ましく、10質量%以下が特に好ましい。
【0034】
溶媒(S)の使用量は、特に制限されないが、ビニル系重合体(A)100質量部に対して、100〜2000質量部の範囲が好ましい。溶媒(S)の使用量が、100質量部以上の場合に樹脂組成物の粘度が下がり、取り扱い性、塗装性などが良好となる傾向にあり、2000質量部以下の場合に塗料顔料の分散安定性、塗膜形成時の乾燥性などが良好となる傾向にある。溶媒(S)の使用量の下限値は、150質量部以上がより好ましく、200質量部以上が特に好ましい。また、この使用量の上限値は、900質量部以下がより好ましく、600質量部以下が特に好ましい。
【0035】
塩基性化合物(B)としては、特に制限されないが、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジブチルアミン、アミルアミン、1−アミノオクタン、2−ジメチルアミノエタノール、エチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、1−アミノ−2−プロパノール、2−アミノ−1−プロパノール、3−アミノ−1−プロパノール、1−ジメチルアミノ−2−プロパノール、3−ジメチルアミノ−1−プロパノール、2−プロピルアミノエタノール、エトキシプロピルアミン、アミノベンジルアルコール、モルホリン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムなどが挙げられる。これらは、1種以上を適宜選択して使用できる。中でも、硬化塗膜の外観や初期光沢が良好となる傾向にあるアミン系化合物が好ましい。さらに、耐水性も良好となる傾向にあるアンモニアが特に好ましい。
【0036】
塩基性化合物(B)の使用量は、特に制限されないが、ビニル系共重合体(A)のカルボキシル基に対し、0.5〜1.5当量の範囲内であることが好ましい。塩基性化合物(B)の使用量が0.5当量以上である場合に、溶媒(S)中への分散性あるいは溶解性が良好となる傾向にある。また、塩基性化合物(B)の使用量が1.5当量以下である場合に、樹脂組成物の粘度、pHの経時安定性が良好となる傾向にある。塩基性化合物(B)の使用量の下限値は0.8当量以上であることが特に好ましく、またこの上限値は1.2当量以下であることが特に好ましい。
【0037】
本発明の樹脂組成物の形態としては、特に制限されないが、例えば、透明な水溶液、半透明なコロイダルディスパージョン、乳白色のエマルションなどが挙げられる。中でも、溶剤が揮発するだけで緻密な膜を形成し、塗膜の外観、初期光沢、耐水性が良好であることから、樹脂組成物の形態としては水溶液が好ましい。
樹脂組成物の製造方法としては、懸濁重合後の水性懸濁液を濾過、洗浄、脱水、乾燥して得たビニル系重合体(A)を溶媒(S)中に再分散した後、塩基性化合物(C)を添加して製造する方法や、懸濁重合後の水性懸濁液に、塩基性化合物(C)を直接添加して製造する方法などが挙げられる。
【0038】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、本発明の樹脂組成物を含有するものである。この熱硬化性樹脂組成物には、必要に応じて硬化触媒等の添加剤を配合することもできる。本発明の熱硬化性樹脂組成物に含まれるビニル系重合体(A)はカルボキシル基とエポキシ基とを有するので、所定温度に加熱すると両基が反応し、樹脂組成物が硬化する。
【0039】
硬化触媒としては、特に制限されないが、例えば、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラn−ブチルアンモニウムクロリド、テトラn−ブチルアンモニウムブロミド、テトラn−ブチルアンモニウムホスフェート、テトラn−ドデシルアンモニウムクロリド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、フェニルトリメチルアンモニウムブロミド等の4級アンモニウム塩;アリルトリフェニルホスフォニウムクロリド、n−アミルトリフェニルホスフォニウムブロミド、ベンジルトリフェニルホスフォニウムクロリド、ブロモメチルトリフェニルホスフォニウムブロミド、エトキシカルボニルホスフォニウムブロミド、n−ヘプチルトリフェニルホスフォニウムブロミド、メチルトリフェニルホスフォニウムブロミド、テトラフェニルホスフォニウムブロミド等のホスフォニウム塩;等が挙げられる。これらは1種以上を適宜選択して使用することができる。
【0040】
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、以上述べた成分以外にも、必要に応じて、着色剤、充填剤、顔料分散剤、ゲル化防止剤、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、ハジキ防止剤、垂止め剤、ワックス等の各種添加剤を添加できる。さらに、光反応性単量体、オリゴマー、光重合開始剤、増感剤、酸発生剤等を添加して、レジスト材料等の感光性樹脂組成物として使用することもできる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、以下の記載において「部」は「質量部」を表す。また、物性測定及び評価は、以下の方法により実施した。
(1)分子量:
ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)[東ソー株式会社製 商品名HLC−8120]を用いて測定した。カラムは、東ソー株式会社製のTSKgel G5000HXLとGMHXL−Lを直列に連結して用いた。検量線は、F288/F80/F40/F10/F4/F1/A5000/A1000/A500[東ソー株式会社製 標準ポリスチレン]及びスチレンモノマーを使用して作成した。ビニル系重合体を0.4質量%溶解したTHF溶液を調製し、調製したTHF溶液を100μl使用して、40℃で測定を行った。標準ポリスチレン換算にてMw(重量平均分子量)、Mn(数平均分子量)、Mw/Mn(重量平均分子量/数平均分子量)を算出した。
【0042】
(2)酸価:
固形分約1gのビニル系重合体を精秤し、溶剤50g(イソプロパノール/アセトン/水=50/25/25質量%)を加えて溶解し、フェノールフタレインの変色点を基準にして0.2規定の水酸化カリウム(KOH)−エタノール溶液を滴定し、固形分1gを中和するのに必要なKOHのmg数を下記式(I)より算出した。
・酸価(mgKOH/g)=A×0.2×f×56.1/試料固形分質量(g)・・・(I)
A:滴定量(ml)。
f:0.2規定の水酸化カリウム溶液の力価。
(3)粘度:
25℃に保持したビニル系重合体溶液の粘度を、B型粘度計[TOKIMEC製 R100型粘度計(RBタイプ)]を用いて測定した。
【0043】
(4)密着性
塗膜の密着性について、JIS K 5600−5−6:1999に準じたクロスカット法により測定した。数値は剥離せずに残った面積を%表示したものであり、100に近づくほど、密着性が良好であることを示す。
(5)初期光沢
塗膜の60°鏡面反射率(G0)を光沢計[日本電色工業株式会社製 VG−2000]を用いて測定し、85以上を合格、85未満を不合格とした。
【0044】
(6)耐水性
作成した試験板を脱イオン水に浸漬して、50℃の恒温水槽中で6週間保持した後、上記と同様にして、塗膜の60°鏡面反射率(G)を測定した。下記式(II)より光沢保持率を算出し、70.0%以上を合格、70.0%未満を不合格とした。
・光沢保持率(%)=G1/G0×100・・・(II)
また、塗膜の色数を分光式色差計[日本電色工業株式会社製 SE−2000]を用いて測定した。初期の色数(L、a、b)及び耐水性試験後の色数(L、a、b)を測定し、下記式(III)より色差(ΔE)を算出し、2以下を合格、2を超える場合を不合格とした。
・色差(ΔE)={(L−L+(a−a+(b−b}1/2・・・(III)
【0045】
(7)耐溶剤性:
作成した試験板をキシレン中に25℃×1分間浸漬し、塗膜の状態を目視観察し、下記基準にて判定した。
「◎」:異常なし
「○」:ごく僅かに光沢低下
「△」:光沢低下
「×」:塗膜が白化あるいは溶解
【0046】
<実施例1>
撹拌機、冷却管、温度計を備えた重合装置中に、脱イオン水170部、硫酸ナトリウム0.1部、分散剤として、メタクリル酸スルホエチルとメチルメタクリレートの共重合体のナトリウム塩0.02部を加えて撹拌し、均一な水溶液とした。次に、メタクリル酸8部、メタクリル酸グリシジル1.65部、メチルメタクリレート52.35部、n−ブチルメタクリレート28部、n−ブチルアクリレート10部、ラウロイルパーオキサイド1.5部、n−ドデシルメルカプタン1.9部を加え、水性懸濁液とした。次に、重合装置内を窒素置換し、70℃に昇温して約1時間反応させ、90℃に昇温して0.5時間保持した後、40℃に冷却して、ビニル系重合体粒子を含む水性懸濁液を得た。この水性懸濁液を目開き45μmのナイロン製濾過布で濾過し、濾過物を脱イオン水で洗浄し、脱水し、40℃で16時間乾燥して、ビニル系重合体粒子を得た。このビニル系重合体の酸価は51.6mgKOH/g、重量平均分子量(Mw)は25,600、Mw/Mnは2.12であった。
次に、撹拌機、冷却管を備えた装置中に、上記により得られたビニル系重合体粒子100部と脱イオン水273.8部を加え、室温にて撹拌した後、イソプロパノール15部と14質量%アンモニア水11.2部を加え、1時間撹拌を継続して中和を行い、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物の固形分は25質量%、粘度は114mPa・sであった。
この樹脂組成物を水研中塗ダル鋼板[日本ルートサービス株式会社製 標準試験板]にバーコーターNo.14で塗布し、室温で0.5時間保持した後、90℃で1時間、次いで150℃で1時間加熱して、硬化塗膜を得た。評価結果を表1に示す。
【0047】
<実施例2、3、5、比較例1、2>
表1に示す単量体、開始剤、連鎖移動剤を使用してビニル系重合体粒子を製造したこと以外は、実施例1と同様の方法でビニル系重合体を得た。ビニル系重合体100部に対する14質量%アンモニア水、イソプロパノール、脱イオン水の使用量を、それぞれ下記式(IV)、(V)、(VI)より算出し、算出した量を用いて、実施例1と同様に中和を行った後、実施例1と同様の方法で硬化塗膜を得た。評価結果を表1に示す。
・14質量%アンモニア水量(A)=B÷561×17÷14×C・・・(IV)
・イソプロパノール量(D)=(100÷E−1)×F・・・(V)
・脱イオン水量(G)=(100÷E−1)×100−A−D・・・(VI)
A:14質量%アンモニア水量(部)
B:ビニル系重合体の酸価(mgKOH/g)
C:中和度(%)
D:イソプロパノール量(部)
E:固形分(質量%)
F:全溶剤中に占めるイソプロパノール比(質量%)
G:脱イオン水量(部)
【0048】
<実施例4>
撹拌機、冷却管、温度計を備えた重合装置中に、脱イオン水250部、硫酸ナトリウム0.1部、分散剤として、メタクリル酸スルホエチルとメチルメタクリレートの共重合体のナトリウム塩0.02部を加えて撹拌し、均一な水溶液とした。次に、メタクリル酸8部、メタクリル酸グリシジル3.3部、n−ブチルメタクリレート27部、n−ブチルアクリレート61.7部、ラウロイルパーオキサイド2部、n−ドデシルメルカプタン1.9部を加え、水性懸濁液とした。次に、重合装置内を窒素置換し、70℃に昇温して約1時間反応させ、90℃に昇温して0.5時間保持した後、40℃に冷却して、ビニル系重合体粒子を含む水性懸濁液を得た。このビニル系重合体の酸価は51.1mgKOH/g、重量平均分子量(Mw)は32,500、Mw/Mnは2.66であった。
次に、上記で得られた水性懸濁液に脱イオン水75.7部を加え、室温にて撹拌した後、イソプロパノール17.7部と14質量%アンモニア水11.1部を加え、1時間撹拌を継続して、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物の固形分は22質量%、粘度は29mPa・sであった。
この樹脂組成物を水研中塗ダル鋼板[日本ルートサービス株式会社製 標準試験板]にバーコーターNo.14で塗布し、室温で0.5時間保持した後、90℃で1時間、次いで150℃で1時間加熱して、硬化塗膜を得た。評価結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1に示す結果から明らかなように、実施例1〜5では、密着性、初期光沢、耐水性、耐溶剤性について欠陥は生じなかった。これに対し、比較例1、2では、耐水性と耐溶剤性について著しい欠陥があり、満足できるものではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の樹脂組成物及び熱硬化性樹脂組成物は、上述の様な優れた特性を示すので、例えば、塗料、インク、接着剤、レジスト材料、焼成材料などの各種分野において幅広く使用することが可能であり、工業上極めて有益なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基含有ビニル系単量体(a)及びエポキシ基含有ビニル系単量体(b)を含むビニル系単量体混合物を懸濁重合して得られるビニル系重合体(A)を、水を含有する溶媒(S)中で塩基性化合物(B)により中和して得られる樹脂組成物。
【請求項2】
樹脂組成物が水溶液である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1記載の樹脂組成物を含有する熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項3記載の熱硬化性樹脂組成物を硬化して得られた硬化物。

【公開番号】特開2007−291215(P2007−291215A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−119743(P2006−119743)
【出願日】平成18年4月24日(2006.4.24)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】