説明

樹脂組成物

【課題】強靱性及び耐熱性に優れた硬化物を製造し得る樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)フェノール樹脂と、(B)架橋剤と、(C)特定のアクリル系エラストマと、を含むことを特徴とする樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系エラストマを含有する樹脂組成物に関し、詳しくは、強靱性及び耐熱性に優れた硬化物を製造し得る樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子に用いられるバッファコート膜(応力緩和用)、表面コート膜(表面保護用)などの材料として、耐熱性や機械強度などに優れているポリイミド系樹脂が広く使用されている。ポリイミド系樹脂は他の樹脂と比較して優れた耐熱性、機械特性、電気絶縁性を有している。しかし、その反面、通常のポリイミド系樹脂は塗布後の硬化に200℃以上の高温を要すること、弾性率が高いために基板に反りを生じることなどの欠点があった。そこで、ポリイミド系樹脂に他の樹脂を配合することでポリイミドの優れた特性を残したままこれらの欠点を改善しようとする試みが多数行われてきたが、実現するのは困難であった。
【0003】
一方、上記各膜を形成し得る樹脂組成物として、フェノール系樹脂を用いた樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この樹脂組成物により、低硬化収縮性、強靱性、耐熱性などの要求性能において一定のレベルの性能を満足することができる。
【0004】
【特許文献1】特許第3812655号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の樹脂組成物(その硬化物)は、上記諸性能が一定レベル以上であって、トータルバランスに優れるものの、強靱性、特に破断伸びにおいては低レベルであり、また弾性率がやや大きくフィルム状の硬化物としたとき反りの発生があり、改善の余地が残されていた。
【0006】
本発明は、前記問題点に鑑みなされたものであり、以下の目的を達成することを課題とする。
本発明の目的は、強靱性及び耐熱性に優れた硬化物を製造し得る樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段は以下に通りである。
(1)(A)フェノール樹脂と、
(B)架橋剤と、
(C)下記一般式(1)〜(3)で表される繰り返し単位と、下記一般式(4)及び下記一般式(5)で表される繰り返し単位の少なくとも一方とを有するアクリル系エラストマと、
を含むことを特徴とする樹脂組成物。
【0008】
【化1】

[一般式(1)〜(5)中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素数2〜20の脂肪族炭化水素基を表し、Rは炭素数1〜10のアルキレン基を表し、Rは2級アミンを有する炭化水素基を表し、Rは3級アミンを有する炭化水素基を表す。a、b、c、d、eはそれぞれ各繰り返し単位の存在比を示し、0.4≦a+b≦0.9945であり、a+b+c+d+e=1である。また、nは0〜7の整数を表す。]
【0009】
(2)前記一般式(4)のRで表される2級アミンを有する炭化水素基が、下記構造式(1)で表されることを特徴とする前記(1)に記載の樹脂組成物。
【0010】
【化2】

【0011】
(3)前記一般式(5)のRで表される3級アミンを有する炭化水素基が、下記構造式(2)で表されることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の樹脂組成物。
【0012】
【化3】

【0013】
(4)前記一般式(1)で表される繰り返し単位の存在比(a)と、前記一般式(2)で表される繰り返し単位の存在比(b)との比(a/b)が99〜0.01であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0014】
(5)前記一般式(3)で表される繰り返し単位の存在比(c)が0.01〜0.3であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0015】
(6)前記一般式(4)で表される繰り返し単位と、前記一般式(5)で表される繰り返し単位とをともに有し、それぞれの存在比(d:e)が、1:40〜40:1であることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0016】
(7)前記(C)アクリル性エラストマの含有量が2.0〜40.0重量%であることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0017】
(8)前記(A)フェノール樹脂が、下記一般式(6)で表される繰り返し単位を有するフェノール樹脂であることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0018】
【化4】

[一般式(6)中、Rは、水素原子、又は炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基を示す。フェノール樹脂中、上記構造単位はすべて同じであっても、Rと結合位置とが異なる2以上の構造単位が結合されていてもよい。]
【0019】
(9)前記(A)フェノール樹脂が、動植物油により変性された変性フェノール樹脂を含む、下記一般式(7)で表される繰り返し単位を有するフェノール樹脂であることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0020】
【化5】

[一般式(7)中、R、Rは、水素原子、又は炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基を示し、Rは動植物油由来の基を示す。x、yは構造単位の存在比を表し、x:yは0:100〜100:0である。]
【0021】
(10)前記動植物油が亜麻仁油であることを特徴とする前記(9)に記載の樹脂組成物。
【0022】
(11)前記(B)架橋剤が下記構造式(A)〜(F)で表される化合物であることを特徴とする前記(1)〜(10)のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0023】
【化6】

【0024】
(12)さらに、(D)溶媒を含むことを特徴とする前記(1)〜(11)のいずれかに記載の樹脂組成物。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、強靱性及び耐熱性に優れた硬化物を製造し得る樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の樹脂組成物は、(A)フェノール樹脂と、(B)架橋剤と、(C)下記一般式(1)〜(3)で表される繰り返し単位と、下記一般式(4)及び下記一般式(5)で表される繰り返し単位の少なくとも一方とを有するアクリル系エラストマと、を含むことを特徴としている。
【0027】
【化7】

[一般式(1)〜(5)中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素数2〜20の脂肪族炭化水素基を表し、Rは炭素数1〜10のアルキレン基を表し、Rは2級アミンを有する炭化水素基を表し、Rは3級アミンを有する炭化水素基を表す。a、b、c、d、eはそれぞれ各繰り返し単位の存在比を示し、0.4≦a+b≦0.9945であり、a+b+c+d+e=1である。また、nは0〜7の整数を表す。]
【0028】
以下に、本発明の樹脂組成物の(A)〜(C)の各成分、及びその他の成分について説明する。
【0029】
[(A)フェノール樹脂]
本発明の樹脂組成物に配合するフェノール樹脂は、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、又はこれらの硬化物が好ましく、具体的には、下記一般式(6)で表される繰り返し単位を有するフェノール樹脂が好ましい。
【0030】
【化8】

[一般式(6)中、Rは、水素原子、又は炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基を示す。フェノール樹脂中、上記構造単位はすべて同じであっても、Rと結合位置とが異なる2以上の構造単位が結合されていてもよい。]
【0031】
一般式(6)において、Rは、水素原子、炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基を示すが、当該脂肪族炭化水素基としては、直鎖でも分岐していてもよく、また環を形成していてもよい。また、炭素数は好ましくは0〜8であり、より好ましくは0〜4であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、オクチル基、オクタデシル基などが挙げられ、中でも、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基が好ましい。
【0032】
一方、本発明に係るフェノール樹脂において、一般式(6)における上記構造単位はすべて同じであっても、Rと結合位置とが異なる2以上の構造単位が結合されていてもよいが、後者の場合においては下記一般式(6’)で表されるクレゾールノボラックフェノール樹脂が好適なものとして例示できる。なお、以下に示すものは一例であり、本発明に係るフェノール樹脂は以下のものに限定されることはない。
【0033】
【化9】

【0034】
一般式(6’)において、p:qは、100:0〜0:100を示し、80:20〜20:80が好ましく、60:40〜40:60がより好ましい。
【0035】
また、低弾性率化のためには、動植物油により変性された変性フェノール樹脂を含む、下記一般式(7)で表される構造単位を有するフェノール樹脂を用いることが好ましい。
【0036】
【化10】

[一般式(7)中、R、Rは、水素原子、又は炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基を示し、Rは動植物油由来の基を示す。x、yは構造単位の存在比を表し、x:yは0:100〜100:0である。]
【0037】
一般式(7)において、R、一般式(6)において説明したのでここでは説明を省略する。また、Rは、Rと同義であり、好ましい例もRと同一である。
【0038】
一般式(7)において、x:yは、0:100〜100:0を示し、80:20〜20:80が好ましく、60:40〜40:60がより好ましい。
【0039】
一般式(7)において、Rで表す変性に用いた動植物油としては、亜麻仁油、ロジン油、トール油、カシューナッツ油、桐油などが挙げられ、中でも亜麻仁油、桐油が好ましい。
【0040】
本発明において、フェノール樹脂は、合成時の粘度、加工時の粘度、溶媒への溶解性等の観点から、重量平均分子量としては、2000〜50000が好ましく、3000〜20000がより好ましい。
【0041】
本発明の樹脂組成物において、フェノール樹脂の含有量は、樹脂組成物全体の60〜98重量部が好ましく、70〜90重量部がより好ましい。
【0042】
[(B)架橋剤]
架橋剤は、熱や酸の作用により、樹脂等の配合組成物や他の架橋剤分子との結合を形成する化合物である。本発明に係る架橋剤としては、従来公知のもの(例えば、ヘキサメチレンテトラミン、ブロック化ジイソシアネート、エポキシ樹脂、尿素等)を適宜使用することができるが、低弾性率化を図る観点から、下記構造式(A)〜(F)で表される化合物を使用することが好ましい。
【0043】
【化11】

【0044】
架橋剤の配合量としては、強靭性、高耐熱性、耐溶剤性、低熱膨張率等の観点から、前記フェノール樹脂100重量部に対し、2.0〜30.0重量部とするのが好ましく、5.0〜25.0重量部とすることがより好ましい。
【0045】
[(C)アクリル系エラストマ]
本発明に係るアクリル系エラストマは、下記一般式(1)〜(3)で表される繰り返し単位と、下記一般式(4)及び下記一般式(5)で表される繰り返し単位の少なくとも一方とを有する。
【0046】
【化12】

[一般式(1)〜(5)中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素数2〜20の脂肪族炭化水素基を表し、Rは炭素数1〜10のアルキレン基を表し、Rは2級アミンを有する炭化水素基を表し、Rは3級アミンを有する炭化水素基を表す。a、b、c、d、eはそれぞれ各繰り返し単位の存在比を示し、0.4≦a+b≦0.9945であり、a+b+c+d=1である。また、nは0〜7の整数を表す。]
【0047】
本発明のアクリル系エラストマは、前記一般式(1)〜(3)で表される各繰り返し単位と、下記一般式(4)及び下記一般式(5)で表される繰り返し単位の少なくとも一方とをセグメントとするエラストマであり、詳細は後述するように接着性、強靱性、及び耐熱性に優れている。
以下に、各繰り返し単位について説明する。
【0048】
一般式(1)及び(2)で表される繰り返し単位は、エラストマとしての主成分である。
【0049】
一般式(1)中、Rは、炭素数2〜20の脂肪族炭化水素基を表し、直鎖でも分岐していてもよく、また環を形成していてもよく、具体的には、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、ペンチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ラウリル基等が挙げられ、中でも、ブチル基、オクチル基、ラウリル基、が好ましい。
【0050】
一般式(2)中のシロキサン部位のnは0〜7であるが、0〜5が好ましく、0〜4がより好ましい。
【0051】
一般式(1)及び一般式(2)のそれぞれで表される繰り返し単位の合計存在比(a+b)は、0.4〜0.9945であり、0.6〜0.997であることが好ましく、0.7〜0.994であることがより好ましい。
また、一般式(1)で表される繰り返し単位の存在比(a)と、一般式(2)で表される繰り返し単位の存在比(b)との比は、柔軟性、接着性、他の樹脂との相溶性という観点から99〜0.01であることが好ましく、20〜0.05であることがより好ましい。
【0052】
一般式(3)で表される繰り返し単位はアクリル酸由来の単位であり、酸成分であることからアルカリ可溶セグメントとしての役割を果たす。当該一般式(3)で表される繰り返し単位の存在比(c)は、他の樹脂との相溶性、有機溶媒やアルカリへの溶解性、当該エラストマ自体の凝集力と強靭性、基材への接着性という観点から、0.01〜0.3であることが好ましく、0.03〜0.2であることがより好ましい。
【0053】
一般式(4)及び一般式(5)で表される繰り返し単位は、それぞれ、2級アミンを有する炭化水素基、3級アミンを有する炭化水素基を有し、当該繰り返し単位により分子間又は分子内においてカルボキシル基との間に生じる相互作用により凝集効果を働かせる役割を果たす。つまり、本発明のアクリル系エラストマは、単独では、分子間力が働くことにより分子の凝集力が働き、外力による抵抗が生じるために強靭性が高くなる。また、基材との接着においては、分子間力により生じた強靭性により破壊されにくくなり接着性が向上する。また、分子にあるカルボキシル基による基材との間に水素結合のような相互作用が生じることにより接着力自体も向上する。さらに、他の樹脂との混合においては、他の樹脂がカルボキシル基やフェノール性水酸基を有している場合は、当該エラストマに存在する3級アミン又は2級アミンと相互作用することができ、他の樹脂がローンペアを有する原子団であるエステル基、エーテル基、アミド基、ウレタン基等を有している場合は、当該エラストマ中に存在するカルボキシル基が相互作用することができる。この様に形成される相互作用により他の樹脂との相溶性が向上する。ひいては透明性も向上する。また、当該エラストマ中のカルボキシル基又は3級アミン又は2級アミンの量を制御することにより均一相溶から非相溶状態までを制御できる。特に非常に微細なドメイン(直径40nmから400nm程度)を形成させることも可能である。この様な相分離状態を形成している場合、外力が生じた際にその外力によるドメインを形成しているエラストマのセグメントのブラウン運動が活発化することで外力を熱として発散することにより外力による応力を緩和することができる。
本発明に係るアクリル系エラストマは、一般式(4)及び一般式(5)の両方又は一方を有していればよいが、それら両方有することが強靱性をさらに向上させることができるため好ましい。
【0054】
一般式(4)、(5)中のR、Rで表される、2級アミンを有する炭化水素基、3級アミンを有する炭化水素基としては、例えば、以下の構造式(1)〜(5)で表される基が挙げられる。
【0055】
【化13】

【0056】
上記構造式(1)〜(5)の中でも、ピペリジン環骨格(2級アミン)、N−メチルピペリジン環骨格(3級アミン)を有する、構造式(1)、構造式(2)で表される基が好ましい。
【0057】
一般式(4)及び一般式(5)で表される繰り返し単位をともに有する場合、それぞれの存在比(d:e)は、1:40〜40:1であることが好ましく、1:30〜30:1であることがより好ましく、1:20〜20:1であることがさらに好ましい。
【0058】
以上の一般式(1)〜(5)中、Rは水素原子又はメチル基を表す。すなわち、各繰り返し単位の主鎖は、Rが水素原子の場合はアクリル酸に、メチル基の場合はメタクリル酸に由来する。
【0059】
以上の一般式(1)〜(5)で表される繰り返し単位により、本発明に係るアクリル系エラストマは、当該エラストマ中に存在するカルボキシル基と3級アミン又2級アミンとの相互作用により凝集力が生じることによる強靭性の向上と共に基材との間に生じる相互作用のため、接着性に優れている。また、カルボキシル基と3級アミン又は2級アミン間の相互作用により電荷密度が変化することで酸化反応を受けにくくなるため、耐熱性に優れている。
【0060】
一般式(3)で表される繰り返し単位は酸由来であり、また一般式(4)及び一般式(5)で表される繰り返し単位はアルカリ由来であることから、本発明に係るアクリル系エラストマは、酸セグメント及びアルカリセグメントの両方を有する。従って、併用するポリマー等が酸又はアルカリの官能基を有していれば、相溶性が向上し、ひいては透明性を向上させることができる。
【0061】
本発明のアクリル系エラストマの重量平均分子量(MW)は、溶解性、作業性、接着性、強靭性、他の樹脂との相溶性等の観点から、2000〜500000であることが好ましく、3000〜300000でることがより好ましく、4000〜200000であることがさらに好ましい。
【0062】
本発明に係るアクリル系エラストマは、その効果を損なわない範囲で、耐熱剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、スリップ剤、結晶核剤、粘着性付与剤、離型剤、可塑剤、顔料、染料、などの添加剤を添加することができる。
【0063】
本発明の樹脂組成物において、アクリル系エラストマの配合量としては、強靭性(特に破断伸び)、低硬化収縮性、低弾性率化(応力緩和)等の観点から、前記フェノール樹脂100重量部に対し、2.0〜40.0重量部とするのが好ましく、5.0〜35.0重量部とすることがより好ましい。
【0064】
<合成方法>
次に、本発明のアクリル系エラストマの合成方法について説明する。
本発明のアクリル系エラストマは、適当な溶媒を用い、前記一般式(1)〜(5)で表される繰り返し単位に由来するモノマー成分を所望の比率となるように重合開始剤等とともに混合、攪拌し、加熱して共重合して得ることができる。
【0065】
一般式(1)で表される繰り返し単位に由来するモノマーは、アクリル酸ブチルであり、一般式(2)で表される繰り返し単位に由来するモノマーは、メタクリルシリコーン(ただし、Si−O結合を含む繰り返し単位の数は0〜7である。)である。また、一般式(3)で表される繰り返し単位に由来するモノマーは、アクリル酸であり、一般式(4)、一般式(5)で表される繰り返し単位に由来するモノマーは、それぞれ、2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジルアクリレート、2,2,6,6−テトラメチル−N−メチルピペリジルアクリレートである。
【0066】
混合に用いる溶媒としては、特に制限はない。例えば、トルエン、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイゾブチルケトン、キシレン、ジメチルアセトアミド、γ―ブチロラクトン、N−メチルピロリドン、メタノール、エタノール、ブタノール、乳酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、水等を用いることができる。ここに示した例は一例であり、これらに制限されるものではない。
【0067】
重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビス2,4−ジメチルバレロニトリル等のアゾビス化合物、キュメンヒドロパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジt−ブチルパーオキサイド、ラウロイルポーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート等の過酸化物等、が挙げられる。特にこれらに限定されるものではない。
【0068】
その他の添加剤としては、シランカップリング剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、フィラー等を用いることができる。
【0069】
共重合反応は、上記の重合開始剤存在下に、乳化重合、けん濁重合、溶液重合、塊状重合などの方法で行うことができる。ラジカル重合、アニオン重合、リビングラジカル重合等の反応機構を利用することができる。その際の重合温度は、一般には−80〜150℃であり、0〜100℃とすることが好ましい。
【0070】
その他、共重合に際し、一般式(1)〜一般式(5)に記載した単量体以外に共重合可能な単量体を発明の効果が低下しない範囲で共重合性反応性比を調節し円滑に反応させる目的で用いることも可能である。
【0071】
[(D)溶媒]
本発明の樹脂組成物においては、前記各成分を溶媒に溶解し溶液とすることができる。使用する溶媒としては、特に制限はないが、例えば、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n−プロピル、乳酸イソプロピル等の乳酸エステル類; 酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸n−アミル、酢酸イソアミル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸n−ブチル、プロピオン酸イソブチル等の脂肪族カルボン酸エステル類; 2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン、シクロヘキサノン等のケトン類; エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類; プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル類; プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジプロピルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル等のプロピレングリコールジアルキルエーテル類; プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類; エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類、ブチルカルビトール等のカルビトール類; 3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル等の他のエステル類; トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類; N−ジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類; γ−ブチロラクン等のラクトン類などを挙げることができる。中でも、乳酸エチル、乳酸エチル、乳酸n−プロピル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートN−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンが好適に使用できる。また、これらの溶媒は、1種単独で使用しても、2種以上を混合して使用することもできる。ここに示した例は一例であり、これらに制限されるものではない。
【0072】
[溶解度調整剤]
本発明の樹脂組成物は、溶解度調整剤を含有することが好ましい。溶解度調整剤としては、下記構造式で表される化合物が好適に用いられる。
【0073】
【化14】

【0074】
本発明の樹脂組成物において、溶解度調整剤を使用する場合、その配合量としては、各種溶媒に対する溶解速度を調節する必要性の観点から、前記フェノール樹脂100重量部に対し、0.02〜2.0 重量部とするのが好ましく、0.1〜1.0重量部とすることがより好ましい。
【0075】
[その他の成分]
本発明の樹脂組成物は、必要に応じて、他の成分を配合することができる。他の成分としては、例えば、シランカップリング剤、光酸発生剤、フィラー等が挙げられる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0077】
[実施例1]
500mlの三口フラスコにトルエン75g、イソプロパノール(IPA)75gを秤取し、別途に秤取したアクリル酸ブチル(BA)72.9g、メタクリルシリコーン(X−22−2475)12.9g、アクリル酸(AA)12.2g、2,2,6,6−テトラメチル−N−メチルピペリジルメタクリレート(LA82)2.0g、及びアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.13gからなるモノマー混合物を加えた。室温にて約270rpmの攪拌回転数で攪拌しながら、窒素ガスを400ml/minの流量で30分間流し、溶存酸素を除去した。その後、窒素ガスの流入を停止し、フラスコを密閉し、恒温水槽にて約25分で65℃まで昇温した。同温度を14時間保持して重合反応を行い、エラストマ溶液を得た。この際の重合率は98%であった。また、重量平均分子量(MW)は、約27000であった。
反応混合物の所定量(約2g)をアルミパンに秤取し180℃に加熱したホットプレート上で30分間過熱し、揮発成分を除去し、固形分量を測定した後、以下の式に従って重合率を算出した。
重合率(%)=((固形分重量)/(反応混合物量))/0.4×100
なお、分子量の測定は、THFを溶離液としてゲルパーミエーションクロマトグラフィーにて行った。ポンプはHITACHI製L6200 RI測定装置はHITACHI製L3300を用いた。
【0078】
次いで、以下のようにして評価用サンプルの作製を行った。ノボラック型フェノール樹脂(旭有機材社製、EP4050G)の50%乳酸エチル(EL)溶液10gに架橋剤としてヘキサメトキシメチルメラミン(三和ケミカル社製、MW−30HM)を1.0g加え攪拌し溶解させた。その後、上記のように得られたエラストマ溶液を固形分で0.5gになるように溶液を加え攪拌しながら均一になるまで溶解させた。この様にして、フェノール樹脂、架橋剤、エラストマの混合溶液を調製した。離型処理を施したPETフィルム上にこの溶液を流延した後、100℃にて溶剤を揮発除去した。このときのフィルム厚は13μmであった。このフィルムを2cm×2cmのサイズに切り取りPETから剥がしアルカリ溶解性用サンプルとした。
残りのフィルムは170℃の高温槽中にて加熱による硬化反応を起こさせ約2時間同温度を保持することにより硬化物フィルムを作製した。この硬化物フィルムを所定のサイズに切断した後、PETから剥がし測定用サンプルとした。硬化物フィルムの厚みは約12μmであった。
【0079】
[実施例2]
モノマー混合物としてアクリル酸ブチル(BA)73.0g、メタクリルシリコーン(X−22−2475)12.9g、アクリル酸(AA)12.2g、2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジルアクリレート(LA87)1.9gを用いたこと以外は実施例1と全く同様にしてエラストマ溶液を得た。この際の重合率は97.7%であった。MWは28000であった。
次いで、得られたエラストマ溶液を用い、実施例1と全く同様にして硬化物フィルムを作製した。硬化前のフィルムの厚みは約13μm、硬化物フィルムの厚みは約12μmであった。
【0080】
[実施例3]
モノマー混合物としてアクリル酸ブチル(BA)73.4g、メタクリルシリコーン(X−22−2475)13.0g、アクリル酸(AA)12.3g、ジメチルアミノエチルメタクリレート(DM)1.3gを用いたこと以外は実施例1と全く同様にしてエラストマ溶液を得た。この際の重合率は97.1%であった。MWは27000であった。
得られたエラストマ溶液を用い、実施例1と全く同様にして硬化物フィルムを作製した。硬化前のフィルムの厚みは約3μm、硬化フィルムの厚みは約12μmであった。
【0081】
[実施例4]
モノマー混合物としてアクリル酸ブチル(BA)72.9g、メタクリルシリコーン(X−22−2475)12.9g、アクリル酸(AA)12.2g、2,2,6,6−テトラメチルーN−メチルピペリジルメタクリレート(LA82)1.0g、2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジルアクリレート(LA87)1.0gを用いたこと以外は実施例1と全く同様にしてエラストマ溶液を得た。この際の重合率は98.4%、MWは28000であった。
得られたエラストマ溶液を用い、実施例1と全く同様にして硬化物フィルムを作製した。硬化前のフィルムの厚みは約13μm、硬化フィルムの厚みは約12μmであった。
【0082】
[比較例1]
モノマー混合物としてアクリル酸ブチル(BA)85.0g、メタクリルシリコーン(X−22−2475)15.0gを用いたこと以外は実施例1と全く同様にしてエラストマ溶液を得た。この際の重合率は98.0%、MWは28000であった。
得られたエラストマ溶液を用い、実施例1と全く同様にして硬化物フィルムを作製した。硬化前フィルムの厚みは約3μm、硬化フィルムの厚みは約12μmであった。
【0083】
[比較例2]
モノマー混合物としてアクリル酸ブチル(BA)74.5g、メタクリルシリコーン(X−22−2475)13.2g、アクリル酸(AA)12.3gを用いたこと以外は実施例1と全く同様にしてエラストマ溶液を得た。この際の重合率は98.5%、MWは27000であった。
得られたエラストマ溶液を用い、実施例1と全く同様にして硬化物フィルムを得た。硬化前フィルムの厚みは約3μm、硬化フィルムの厚みは約12μmであった。
【0084】
[比較例3]
モノマー混合物としてアクリル酸ブチル(BA)83.4g、メタクリルシリコーン(X−22−2475)14.7g、2,2,6,6−テトラメチルーN−メチルピペリジルメタクリレート(LA82)1.9gを用いたこと以外は実施例1と全く同様に行った。この際の重合率は99.0%、MWは29000であった。
得られたエラストマ溶液を用い、実施例1と全く同様にして硬化物フィルムを得た。硬化前フィルムの厚みは約13μm、硬化フィルムの厚みは約12μmであった。
【0085】
[比較例4]
エラストマ溶液を用いなかったこと以外は実施例1と全く同様にして硬化物フィルムを得た。硬化前フィルムの厚みは約13μm、硬化フィルムの厚みは約12μmであった。
【0086】
<評価>
(1)強靱性
強靱性(強度、弾性率、破断伸び)の測定は、INSTRON社製 MICROTESTERを用いて行った。測定は、室温にて、チャック間距離25mm、試験片の幅は5mm、テストススピード5mm/分の条件で行った。測定結果を表1に示す。
(2)透明性
透明性の評価は、ヘイズ値を測定することにより行った。ヘイズ値の測定は、日本電色工業社製(NDH5000を用い、得られたエラストマ溶液とフェノール樹脂硬化物との混合物に対して行った。測定結果を表1に示す。
(3)耐熱性
エラストマとフェノール樹脂硬化物との混合物をTMA測定し、TMA測定により得られた熱膨張曲線において膨張率が増大する変曲点をガラス転移点Tgとし、このTgにより耐熱性を評価した。装置は(Rigaku社製、TAS100)を用いて、10℃/分の昇温速度で測定を行った。Tgを表1に示す。
(4)アルカリ溶解性
フェノール樹脂と得られたエラストマ混合物の硬化前のアルカリ溶解性は、2.3%テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドの水溶液への溶解性を完全溶解する時間で評価した。溶解時間を表1に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
表1より、実施例1〜4の樹脂組成物からは、強靱性、透明性、及び耐熱性のすべてにおいて良好な硬化フィルムが得られたが、比較例1〜4においてはすべての評価を同時に良好な結果とすることができなかったことが分かる。また、実施例1〜4のアルカリ溶解性用サンプルはいずれも良好なアルカリ溶解性を示していることから、アルカリ性現像液に対して良好な現像性を呈する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)フェノール樹脂と、
(B)架橋剤と、
(C)下記一般式(1)〜(3)で表される繰り返し単位と、下記一般式(4)及び下記一般式(5)で表される繰り返し単位の少なくとも一方とを有するアクリル系エラストマと、
を含むことを特徴とする樹脂組成物。
【化1】

[一般式(1)〜(5)中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素数2〜20の脂肪族炭化水素基を表し、Rは炭素数1〜10のアルキレン基を表し、Rは2級アミンを有する炭化水素基を表し、Rは3級アミンを有する炭化水素基を表す。a、b、c、d、eはそれぞれ各繰り返し単位の存在比を示し、0.4≦a+b≦0.9945であり、a+b+c+d+e=1である。また、nは0〜7の整数を表す。]
【請求項2】
前記一般式(4)のRで表される2級アミンを有する炭化水素基が、下記構造式(1)で表されることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【化2】

【請求項3】
前記一般式(5)のRで表される3級アミンを有する炭化水素基が、下記構造式(2)で表されることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【化3】

【請求項4】
前記一般式(1)で表される繰り返し単位の存在比(a)と、前記一般式(2)で表される繰り返し単位の存在比(b)との比(a/b)が99〜0.01であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記一般式(3)で表される繰り返し単位の存在比(c)が0.01〜0.3であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記一般式(4)で表される繰り返し単位と、前記一般式(5)で表される繰り返し単位とをともに有し、それぞれの存在比(d:e)が、1:40〜40:1であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記(C)アクリル性エラストマの含有量が2.0〜40.0重量%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記(A)フェノール樹脂が、下記一般式(6)で表される繰り返し単位を有するフェノール樹脂であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【化4】

[一般式(6)中、Rは、水素原子、又は炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基を示す。フェノール樹脂中、上記構造単位はすべて同じであっても、Rと結合位置とが異なる2以上の構造単位が結合されていてもよい。]
【請求項9】
前記(A)フェノール樹脂が、動植物油により変性された変性フェノール樹脂を含む、下記一般式(7)で表される繰り返し単位を有するフェノール樹脂であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【化5】

[一般式(7)中、R、Rは、水素原子、又は炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基を示し、Rは動植物油由来の基を示す。x、yは構造単位の存在比を表し、x:yは0:100〜100:0である。]
【請求項10】
前記動植物油が亜麻仁油であることを特徴とする請求項9に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記(B)架橋剤が下記構造式(A)〜(F)で表される化合物であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【化6】

【請求項12】
さらに、(D)溶媒を含むことを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−111835(P2010−111835A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−288128(P2008−288128)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】