説明

樹脂複合高弾性チューブ

【課題】 円筒状不織布の表面に継ぎ目がなく均一で、且つ、樹脂複合高弾性チューブの表面から内部まで樹脂を均等に分布させることで、除電、加圧、摩擦、吸着、吸収、塗布等の性能を長期間に亘って発揮できる樹脂複合高弾性チューブを提供する。
【解決手段】 ポリエステル系エラストマー繊維を10〜90%含み、ニードリングにより一体化した円筒状不織布の構造体に、遅効性凝固剤を含有する樹脂を付着させてなり、表面から内部まで均一な導電性を有するとともに、高弾性を有し長期間の使用に耐える樹脂複合高弾性チューブ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニードリングにより一体化した樹脂複合高弾性チューブに関するものである。この種の樹脂複合高弾性チューブは、ロール芯材の外周に装着して、除電、加圧、摩擦、吸着、吸収、塗布など各種機能を発現せしめる一般工業用不織布ロールであリ、用途としては、鉄鋼、非鉄金属、ガラスの製造工程、フイルム製造工程、物流ロールコンベアーにおいて搬送用ロールの被覆材として搬送物の除電、傷防止クッション、ロールの滑り防止、騒音防止に利用される。また、薄板鋼板等の表面処理工程においてメッキ液、洗浄液等の薬液の拭取り及び防錆油等の塗布、洗浄、印刷機においてインクの塗布及び拭取り、ドラム、ベルト、ロール、紙、フイルムなどからの除電、現像機において薬液の塗布及び拭取り、複写機において、ドラム、ベルト、ロール、紙、フイルムなどからの除電、トナーの拭取り、掻き落し、移動、オイルの塗布用のロール被覆材などにも使用される。
【背景技術】
【0002】
従来、不織布でロール芯材を被覆した除電ロールが開示されている。例えば、シャフトの外周面上に、導電性不織布を螺旋状または海苔巻き状に巻回したものや、導電性不織布をドーナツ状に打ち抜いて、その多数枚をシャフトに挿入してシャフトの軸方向に積層したもので、この導電性不織布層は導電性ポリマーで被覆されていることを特徴とする除電ロールが開示されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、本出願人は、一般工業用耐熱不織布ロールとして、表面に継ぎ目がなく均一で、且つ、表面から内部まで樹脂が均等に分布し、ロール芯材の外周に装着して、加圧、摩擦、吸着、吸収、塗布など各種機能を有する樹脂複合耐熱チューブ被覆材を開示している(特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平04−36999号公報
【特許文献2】特開2002−13078号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示す除電ロールでは、図4に示すように、(a)細巾の不織布あるいは樹脂により繊維を固定した不織布を螺旋状に巻き付けた除電ロール、および(b)ロール巾の不織布を海苔巻き状に巻き付けた除電ロールは、その巻き付けに手間がかかるだけでなく、巻き付けた不織布や樹脂により繊維を固定した不織布間に隙間、重なり、接着剤層が生じてしまうという問題がありロール表面の均一性に欠けるものであった。また、長期使用すると接着剤が劣化してロールから部分的に剥がれるという問題が生じていた。さらに、(c)ドーナツ状に打ち抜いた不織布あるいは樹脂により繊維を固定した不織布の円板を多数枚シャフトに挿入して積層した除電ロールでは、不織布あるいは樹脂により繊維を固定した不織布の製造ロスが大きく、且つ、圧縮成形に手間がかかり価格の高い除電ロールとなっていた。
【0006】
また、導電性不織布層を導電性樹脂で被覆した導電ロールにおいて、シート状不織布あるいは、円筒状に一体化した不織布にエマルジョン樹脂を含浸させて乾燥する公知の方法では、図5に示すように、水分が不織布の表面から蒸発して乾燥するため、乾燥が進むに従って不織布内部のエマルジョン樹脂が表面近くに移行し(所謂、マイグレーション)、そこで乾燥して樹脂分を残すこととなる。そのため、ロール被覆材として使用される不織布層の表面付近は多量の導電性樹脂を含有しているが、内部は導電性樹脂の含有量が少なくなる。一方、乾燥時間が長いと、エマルジョン樹脂が自重で下方に沈降して、下部は多量の導電性樹脂を含有しているが、上部は導電性樹脂の含有量が少なくなる。不織布の厚さが薄い場合には、それほど問題はないが、厚くなるに従って不織布の表面付近と内部とに差が生じ、表面付近は硬度が高く内部は硬度が低くなるとともに、表面付近は導電性が高く、すなわち電気抵抗が低く、内部は導電性が低く、すなわち電気抵抗が高くなり、工業用ロールとして要求される除電、加圧、摩擦、吸着、吸収、塗布等の性能が、ロールが摩耗することによって急速に変化し、性能が安定せず長期間に亘って使用することが困難となっていた。
【0007】
前記除電ロールの問題点を解決するために、本出願人は特許文献2に示すような樹脂複合耐熱チューブ被覆材を提供しているが、本出願は、工業用ロールに要求される除電、加圧、摩擦、吸着、吸収、塗布等の性能に加えて、さらに長期間の使用に耐えるよう改良を加えたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の樹脂複合高弾性チューブは、ポリエステル系エラストマー繊維を10〜90%含み、ニードリングにより一体化した円筒状不織布の構造体に、遅効性凝固剤を含有する樹脂を付着させてなり、表面から内部まで均一な高弾性を有し長時間の使用に耐えるものである。該円筒状不織布に遅効性凝固剤を含有する導電性樹脂を付着させた場合も、表面から内部まで均一な導電性を有するとともに、高弾性を有し長期間の使用に耐えるものである。
【0009】
ポリエステル系エラストマーは、テレフタル酸ジメチル、1,4−ブタンジオール、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコールを原料とし、エステル交換や重縮合反応で製造することができる熱可塑性エラストマーであり、機械的強度や弾性に優れており、熱変形温度や耐熱温度が高く成形性に富んでいる。したがって、このポリエステル系エラストマー繊維を用いることにより、円筒状不織布の構造体に高弾性を付加することができる。
【0010】
本発明では、樹脂として粘度が低いエマルジョン系のものを使用しているので、不織布の中心部まで充分に樹脂が浸透する。樹脂が不織布の中心部まで浸透した状態で、そのまま放置すると遅効性凝固剤の作用で凝固する。凝固の際に不織布の表面から水分を蒸発させることがないので、樹脂分が内部から表面近くに移行して付着量のむらが生じるようなことがない。また外部から何らかの作用を受けることもないので、表面近くと内部とで凝固状態が異なることや、樹脂の固まりや空洞が生じることがない。
【0011】
すなわち、本発明においては、円筒状に形成された樹脂複合高弾性チューブの表面には継ぎ目がなく均一で、且つ、樹脂複合高弾性チューブの表面から内部まで樹脂が均等に分布している。そして樹脂複合高弾性チューブの表面側も内部も樹脂の付着量が均等であって、当該硬度の厚さ方向のバラツキが10%未満となっているとともに、導電性のバラツキも小さくなっている。したがって、表面が減摩して内部が露出しても工業用ロールとして要求される除電、加圧、摩擦、吸着、吸収、塗布等の性能が低下することなく発揮でき長期間に亘って使用できる。また、従来のものに較べて充分に厚いものにすることも可能であり、部分摩耗した場合は再研磨することにより長期間に亘って使用することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、円筒状に形成された樹脂複合高弾性チューブの表面に継ぎ目がなく均一で、且つ、樹脂複合高弾性チューブの表面から内部まで樹脂が均等に分布しているという特徴を有している。これにより、表面が減摩して内部が露出しても工業用ロールとして要求される除電、加圧、摩擦、吸着、吸収、塗布等の性能が低下することなく発揮でき長期間に亘って使用できる。また、従来のものに較べて充分に厚いものにすることも可能であり、部分摩耗した場合は再研磨することにより長期間に亘って使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本発明による樹脂複合高弾性チューブを示したもので、(a)は正面図、(b)は側面図である。図2は本発明による樹脂複合高弾性チューブの処理段階を示した説明図である。図3は、本発明による樹脂複合高弾性チューブを、ロール芯材と平行方向に2分割または4分割した切片の斜視図である。図4は、従来の除電ロールを示したもので、(a)は不織布を螺旋状に巻付けたもの、(b)は不織布を海苔巻き状に巻付けたもの、(c)はドーナツ状に形成した多数の不織布を、ロール芯材に積層したものである。図5は、従来の除電ロールにおいて、マイグレーションや沈降が生じた状態を示したものである。
【0014】
図1〜図3において、1は樹脂複合高弾性チューブであり、ポリエステル系エラストマー繊維を10〜90%含んでなり、円筒状不織布などで形成されている。2はロール芯材である。5は樹脂複合導電チューブの表面側、6はA部、7はB部、8はC部、9は内面側である。本発明における不織布は、その素材として、ポリエステル系エラストマー繊維の他は、羊毛などの天然繊維、レイヨンなどの非導電性の再生繊維や導電性の再生繊維、ポリエステル、ポリアミド、アクリル、ビニロンなどの非導電性の合成繊維や導電性の合成繊維が使用され、これらの短繊維または長繊維をニードルパンチ等の公知の方法で円筒状不織布としたものが使用される。これらの円筒状不織布を単独で使用することもできるが、羊毛などの天然繊維、レイヨンなどの非導電性の再生繊維や導電性の再生繊維、ポリエステル、ポリアミド、アクリル、ビニロンなどの非導電性の合成繊維や導電性の合成繊維で織られた織布の表面に前記繊維素材を積層して織布で補強し、円筒状にニードルパンチして形成した不織布を使用することもできる。円筒状不織布の見掛け密度は0.1〜0.5g/cc程度が適当である。密度が0.1g/cc未満では充分な強度が得られず耐久性に劣る。また0.5g/ccを越えると組織が密になり相手材に適切にフィットせず、工業用ロールに要求される除電、加圧、摩擦、吸着、吸収、塗布等の性能が発揮できず、また相手材に傷を付けるおそれがある。
【0015】
樹脂は合成ゴム系、アクリル系、ポリウレタン系、シリコン系など弾性、摩擦力、吸収などの各々の目的に応じて選択使用され、必要に応じてメチロールメラミン、エポキシなどの架橋剤、水分散顔料などの着色剤、界面活性剤などの浸透浸水剤、炭酸カルシウムなどの充填剤、老化防止剤など、通常の樹脂に使用される各種の添加剤を添加してもよい。樹脂に配合する導電成分としては、ポリアセチレン系樹脂、ポリアセン系樹脂、ポリ芳香族ビニレン系樹脂、ポリピロール系樹脂、ポリアニリン系樹脂、及びポリチオフェン系樹脂、並びにこれらの誘導体より選択した導電性樹脂一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。樹脂組成物中に均一に分散できるものであれば使用可能であり、カーボンブラック粉末、グラファイト粉末、カーボンファイバーやアルミニウム,銅,ニッケルなどの金属粉末、酸化チタン,酸化亜鉛などの金属酸化物粉末、導電性ガラス粉末などの粉末状導電剤が好ましく用いられる。この導電成分の配合量は、目的とする樹脂複合導電チューブの用途や状況に応じて適宜選定すればよく、特に制限されるものではないが、通常は組成物全体に対して5〜50重量%であり、特に好ましくは10〜30重量%である。
【0016】
そして、このエマルション(溶質溶媒が共に液体である分散系溶液のこと)に、遅効性の凝固剤が添加される。遅効性の凝固剤としては、例えば炭酸水素ナトリウム、硫酸アンモニウム、ケイフッ化ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、塩化マグネシウム、又は、塩化カルシウムなどの塩類を単独又は混合使用するのが適当である。凝固剤の添加量は、エマルションの種類、気温、液温などによっても異なるが、樹脂固形分に対しておおむね0.1〜5.0重量%とするのが適当である。この凝固剤の作用により、樹脂が数時間程度で凝固するよう調整するのが好ましい。樹脂の固形分濃度は、5〜40重量%とするのが適当である。固形分濃度が5重量%未満であると、凝固速度が遅くなり、しかも円筒状不織布に対する樹脂の付着量が少なくなり、樹脂複合高弾性チューブの耐久性がなくなる。また固形分濃度が40重量%を越えると、エマルションが凝固剤に対して敏感になり、不用意に凝固し易くなる。また円筒状不織布に含浸する際にも樹脂の粘度が高くなり、当該樹脂が充分に円筒状不織布中に浸透せず、均一な樹脂複合高弾性チューブが得られ難い。
【0017】
円筒状不織布に対する樹脂の付着量は、使用形態に応じて適切な量とすべきであるが、繊維に対して20〜200重量%、好ましくは50〜150重量%である。樹脂の付着量は前記20%未満では、円筒状不織布の個々の繊維を充分に固着することができず、加圧、摩擦、吸着、吸収、塗布など工業用ロール被覆材として樹脂複合高弾性チューブを使用する際、繊維が脱落し易く耐久性に乏しい。また200%を越えると、樹脂複合高弾性チューブは組織が密になり硬度が高くなり相手材に適切にフィットせず、工業用ロールとして要求される加圧、摩擦、吸着、吸収、塗布等の性能が発揮できずまた相手材に傷を付ける恐れがある。
【0018】
図2は樹脂複合高弾性チューブの処理段階を示した説明図である。(a)に示す円筒状不織布に樹脂を含浸した後、(b)では、そのまま室温で数時間放置し、円筒状不織布に含浸させた樹脂を凝固させる。このとき40〜90℃程度に加温して、樹脂の凝固を促進することも好ましいことである。(c)では、樹脂が充分凝固したならば、遅効性凝固剤を洗浄後、これを100〜150℃に加熱して水分を蒸発させ乾燥させる。そしてこれを所定の寸法に裁断しロール芯材に装着接着し、表面研磨して仕上げる。樹脂複合高弾性チューブの硬度はJISK6301のスプリングC型硬度計において30〜90度が適当である。硬度が30度未満では工業用ロールとして要求される除電、加圧、摩擦、吸着、吸収、塗布等の性能が発揮できず耐久性に乏しい。硬度が90度を越える場合は工業用ロールとして要求される加圧、摩擦、吸着、吸収、塗布等の性能が発揮できず、また相手材に傷を付ける恐れがある。
【実施例】
【0019】
(実施例1)ポリエステル系エラストマー繊維(帝人ファイバー株式会社製の帝人エルク:繊度2.2dtex、カット長50〜76mm)50%とポリエステル系レギュラー繊維(帝人ファイバー製:繊度3.3dtex、カット長51mm)50%よりなる400g/mのウエブに円筒形のベッドプレートを有する特殊ニードル機によりニードルパンチを施して密度0.2g/cc、厚さ2mm、内径40mm、外径42mm、長さ500mmの円筒状不織布を作成した。ポリウレタン系エマルジョン樹脂100重量部に、炭酸水素ナトリウム0.5重量部を添加して樹脂液を調整した。前記円筒状不織布に樹脂液を含浸させ固形分で100%重量比となるよう調整した。そして140℃で4時間乾燥して密度0.40g/ccの樹脂複合高弾性チューブとした。
【0020】
(比較例1)前記実施例1で述べたものと同じ円筒状不織布に、ポリウレタン系エマルジョン樹脂を固形分で100%重量比となるよう調整した。そして140℃で4時間乾燥して密度0.40g/ccの樹脂複合高弾性チューブとした。
【0021】
(実施例2)
ポリエステル系エラストマー繊維(帝人ファイバー株式会社製の帝人エルク:繊度2.2dtex、カット長50〜76mm)50%とポリエステル系レギュラー繊維(帝人ファイバー製:繊度3.3dtex、カット長51mm)50%よりなる1600g/mのウエブに円筒形のベッドプレートを有する特殊ニードル機によりニードルパンチを施して密度0.2g/cc、厚さ8mm、内径40mm、外径56mm、長さ500mmの円筒状不織布を作成した。二トリル−ブタジエン共重合ゴム径エマルジョン樹脂100重量部に、加硫剤ディスパージョン5重量部(組成はコロイド硫黄20部、亜鉛華60部、加硫促進剤EZ10部、加硫促進剤MZ10部、水90部)、炭酸水素ナトリウム0.5部を添加して樹脂液を調整した。前記円筒状不織布に樹脂液を含浸させ固形分で60%重量比となるよう調整した。そして140℃で4時間乾燥して密度0.34g/ccの樹脂複合高弾性チューブとした。
【0022】
(比較例2)前記実施例2で述べたものと同じ円筒状不織布に、二トリル−ブタジエン共重合ゴム径エマルジョン樹脂液を含浸させ固形分で60%重量比となるよう調整した。そして140℃で4時間乾燥して密度0.35g/ccの樹脂複合導電チューブとした。
【0023】
(実施例3)ポリエステル系エラストマー繊維(帝人ファイバー株式会社製の帝人エルク:繊度2.2dtex、カット長50〜76mm)50%と導電性アクリル繊維(三菱レイヨン製、繊度3.3dtex、カット長50〜76mm)50%よりなる1600g/mのウエブに円筒形のベッドプレートを有する特殊ニードル機によりニードルパンチを施して密度0.2g/cc、厚さ8mm、内径40mm、外径56mm、長さ500mmの円筒状不織布を作成した。二トリル−ブタジエン共重合ゴム径エマルジョン100重量部に、導電性ポリアニリン系樹脂20重量部、加硫剤ディスパージョン5重量部(組成はコロイド硫黄20部、亜鉛華60部、加硫促進剤EZ10部、加硫促進剤MZ10部、水90部)、炭酸水素ナトリウム0.5部を添加して樹脂液を調整した。前記円筒状不織布に樹脂液を含浸させ固形分で60%重量比となるよう調整した。そして140℃で4時間乾燥して密度0.34g/ccの樹脂複合導電チューブとした。
【0024】
(比較例2)前記実施例2で述べたものと同じ円筒状不織布に、二トリル−ブタジエン共重合ゴム径エマルジョン100重量部に、導電性ポリアニリン系樹脂20重量部、を添加して樹脂を調整した。前記円筒状不織布に樹脂液を含浸させ固形分で60%重量比となるよう調整した。そして140℃で4時間乾燥して密度0.35g/ccの樹脂複合導電チューブとした。
【0025】
前記実施例1、2、3および比較例1、2、3の樹脂複合高弾性チューブの評価を、それぞれ下記に従って行った。評価結果を表1および表2に示す。
【0026】
〔樹脂複合高弾性チューブの評価方法〕
(1)表面付近と内部との硬度バラツキ
図3に示すように、樹脂複合高弾性チューブを10cm幅に裁断しその切り口を実施例1および比較例1では厚み方向に2分割し、実施例2および比較例2では厚み方向に4分割し、分割面の各部分についてそれぞれ円周方向の4カ所において硬度を測定した。硬度計はJISK6301のスプリング硬度計を使用した。各部の硬度を表1に示す。なお、表1において、実施例1及び比較例1では、樹脂複合高弾性チューブの厚みを2等分した表面側から内側の3つの部分とは、表面部5、B部7、内面部9の位置である。実施例2及び比較例2では、樹脂複合高弾性チューブの厚みを4等分した表面側から内側の5つの部分とは、表面部5、A部6、B部7、C部8、内面部9の位置である。また、硬度のバラツキは、実施例1および比較例1では、各例について12のデーター、実施例2および比較例2では、各例について20のデーターの最大値と最小値との差を平均で割って100を掛けた数値である。
【0027】
(2)表面付近と内部との導電性バラツキ
図3に示すように、実施例3および比較例3の樹脂複合高弾性チューブを10cm幅に裁断しその切り口を厚み方向に4分割し、分割面の各部分についてそれぞれ円周方向の電気抵抗値を測定した。日置電機株式会社製ディジタルメグオームハイテスター34531を使用した。各部の電気抵抗値を表2(単位;Ω/sq)に示す。樹脂複合高弾性チューブの厚みを4等分した表面側から内側の5つの部分とは、表面部5、A部6、B部7、C部8、内面部9の位置である。また、電気抵抗値は、各例について20のデーターを平均した数値である。
【0028】
(3)マイグレーション評価
試験片の断面を目視で観察して評価し表1、表2に示す。表1、表2において、マイグレーションがないものは「なし」、マイグレーションがあるものは「あり」と表示している。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
本発明の実施例1,2においては、硬度のバラツキが8.3%、9.4%であって、表面側から内部まで硬度が均一であることがわかる。このバラツキの数値が10%以内であれば、硬度がほぼ均一で、表面が減摩して内部が露出しても工業用ロールとして要求される加圧、摩擦、吸着、吸収、塗布等の性能が低下することなく発揮できる。もし、部分摩耗した場合は再研磨することで長期間に亘って使用できる。これに対し比較例1,2においては、硬度のバラツキが大きい。特に比較例2のものは厚みが10mmと厚いので、樹脂が表面付近に集中して硬度が高く中央付近のB部は樹脂が移行して少なくなっており硬度が低くなっている。従って樹脂複合高弾性チューブの表面付近が摩耗すると、表面状態が大幅に変化して工業用ロールに要求される加圧、摩擦、吸着、吸収、塗布等の性能が低下する。
【0032】
また、比較例1においては、厚みが2mmと比較例2より薄く硬度バラツキが若干小さいが、樹脂が表面付近に集中して硬度が高く、中央付近のB部は樹脂が移行して少なくなって硬度が低くなっている。従って、比較例2と同様に使用に耐えないものとなっている。実施例1,2と比較例1,2を比較すれば、本発明による顕著な効果が理解できる。
【0033】
また、ニードリングにより一体化した円筒状不織布の構造体から作成した実施例3と、細幅の樹脂複合高弾性シートを螺旋状に巻き付け接着した比較例3のロール表面を比較すると、円筒状不織布の構造体から作成した実施例3は継ぎ目がなく表面が均一であるが、細幅の樹脂複合高弾性シートを螺旋状に巻き付け接着した比較例3は、隣り合った不織布間に1mm〜3mmの隙間が空いて不均一な表面となっている。従って、比較例2と同様に工業用ロールに要求される加圧、摩擦、吸着、吸収、塗布等の性能が低下する。実施例3と比較例3を比較すれば、本発明による顕著な効果が理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、主として、印刷機におけるインクの塗布及び拭取り、現像機における薬液の塗布及び拭取り、複写機におけるトナーの搬送、拭取り、オイルの塗布用として述べた。しかしながら、これに限定されるものではなく、ロール芯材の外周に装着して、加圧、摩擦、吸着、吸収、塗布など各種機能を発現せしめる一般工業用ロール被覆材として、鉄鋼、非鉄金属、ガラスの製造工程、物流ローラーコンベアーにおいて搬送用ローラーの被覆材として搬送物の傷防止クッション、ローラーの滑り防止、騒音防止に利用される。また、薄板鋼板等の表面処理工程においてメッキ液、洗浄液等の薬液の拭取り及び防錆油等の塗布、洗浄に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明による樹脂複合高弾性チューブを示したもので、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図2】本発明による樹脂複合高弾性チューブの処理段階を示した説明図である。
【図3】本発明による樹脂複合高弾性チューブを、ロール芯材と平行方向に2分割または4分割した切片の斜視図である。
【図4】従来のロールを示したもので、(a)は不織布を螺旋状に巻付けたもの、(b)は不織布を海苔巻き状に巻付けたもの、(c)はドーナツ状に形成した多数の不織布を、ロール芯材に積層したものである。
【図5】従来のロールにおいて、マイグレーションや沈降が生じた状態を示したものである。
【0036】
1 樹脂複合高弾性チューブ
2 ロール芯材
5 表面部
6 A部
7 B部
8 C部
9 内面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系エラストマー繊維を10〜90%含み、ニードリングにより一体化した円筒状不織布の構造体に、遅効性凝固剤を含有する樹脂を付着させてなり、表面から内部まで均一な高弾性を有し長期間の使用に耐える樹脂複合高弾性チューブ。
【請求項2】
ポリエステル系エラストマー繊維を10〜90%含み、ニードリングにより一体化した円筒状不織布の構造体に、遅効性凝固剤を含有する導電性樹脂を付着させてなり、表面から内部まで均一な導電性を有するとともに、高弾性を有し長期間の使用に耐える樹脂複合高弾性チューブ。
【請求項3】
前記遅効性凝固剤が、炭酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、ケイフッ化ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、メチルアルコール、又は、エチルアルコールなどのアルコール類の単体又は複数で構成され凝固剤の添加量が樹脂固形分に対して0.1〜5.0重量%であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の樹脂複合高弾性チューブ。
【請求項4】
前記樹脂が、合成ゴム系、アクリル系、ポリウレタン系、シリコン系、並びにこれらの誘導体より選択される少なくとも一種の水系エマルジョンであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂複合高弾性チューブ。
【請求項5】
前記導電性樹脂が、合成ゴム系、アクリル系、ポリウレタン系、シリコン系、並びにこれらの誘導体より選択される少なくとも一種の水系エマルジョン樹脂に、ポリアセチレン系樹脂、ポリアセン系樹脂、ポリ芳香族ビニレン系樹脂、ポリピロール系樹脂、ポリアニリン系樹脂、及びポリチオフェン系樹脂、並びにこれらの誘導体より選択される少なくとも一種を混合した樹脂であることを特徴とする請求項2に記載の樹脂複合高弾性チューブ。
【請求項6】
前記導電性樹脂が、合成ゴム系、アクリル系、ポリウレタン系、シリコン系、並びにこれらの誘導体より選択される少なくとも一種の水系エマルジョン樹脂に、カーボンブラック粉末、グラファイト粉末、カーボンファイバーやアルミニウム,銅,ニッケルなどの金属粉末、酸化チタン,酸化亜鉛などの金属酸化物粉末、導電性ガラス粉末などの粉末状導電剤を添加することを特徴とする請求項2に記載の樹脂複合高弾性チューブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−77566(P2010−77566A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−249202(P2008−249202)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000229863)アンビック株式会社 (35)
【Fターム(参考)】