説明

橋梁の接合方法

【課題】 高い防水性能を有し、気温差による高架橋の伸縮に伴う空間部の拡縮に柔軟に対応可能であるともに、防水層を損傷要因から保護することにより防水層が劣化しにくい、高架橋の接合方法を提供する。
【解決手段】 隣接する橋梁1、1´の間に形成される空間部3の内部に緩衝部材25を配置し、緩衝部材25の上面全体と空間部に沿って隣接する橋梁の上面の少なくとも一部とを覆うようにエラストマーを吹き付けることによって伸縮性を有する防水層36を形成し、防水層36と該防水層36の両側に沿って隣接する橋梁1、1´の上面の少なくとも一部とを覆うように保護層40を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば高架橋や河川橋梁などにおける橋梁の接合方法に関する。特に、本発明は、隣接する橋梁の間に設けられた空間部への水の浸入をより確実に防止することができるとともに、橋梁の間の空間部の拡縮に柔軟に対応可能な接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道事業においては、道路や鉄道よる交通網が発達し交通量が増大するのに伴って、踏み切りによる道路の渋滞を軽減し、電車の走行騒音による周囲への影響を軽減し、さらには土地の有効利用を図るために、高架鉄道方式の採用又は高架鉄道方式への切り換えが多くなっている。高架鉄道方式を採用すれば、高架橋の下を駅や店舗その他の建物、駐車場、駐輪場などのスペースとして有効利用することができる。
【0003】
高架橋などの橋梁は、地盤上に多数の鉄筋コンクリートの橋脚を列設し、橋脚の上に床版及び壁高欄を設けたものである。一般に、橋脚の間隔は約6〜約10mであり、橋梁の幅は約11m、長さは約30m〜約50mであり、橋梁の壁高欄(立ち上がり部分)の高さは約2mである。橋梁は、一般に、鉄筋コンクリートやプレストレスト・コンクリートを用いて形成される。高架橋においては、一般に、バラスト軌道又はスラブ軌道が用いられる。バラスト軌道は、橋梁の水平部分の上にバラストからなる道床を構築し、その上に、レール締結装置を介してレールをまくらぎに固定した軌きょうを敷設したものである。スラブ軌道は、橋梁の水平部分の上にモルタルを介してコンクリートスラブを据え付け、レール締結装置によってコンクリートスラブにレールを固定したものである。
【0004】
バラスト軌道及びスラブ軌道のいずれの場合においても、高架橋の構造体である橋梁の間には、気温差による構造体の伸縮を吸収する目的で、延長方向の一定間隔毎に目地(以下、空間部という)が設けられる。この空間部は、バラスト落下防止や防水のために、何らかの方法で接合する必要がある。
【0005】
この空間部を接合するための従来技術として以下のものがある。
現在、高架橋に一般に用いられている方法として、鋼板を用いた方法がある。この方法は、隣接する橋梁間の空間部内に緩衝用部材を配置し、その部材の上部を含む橋梁の上面に、鋼板を敷設する方法である。
【0006】
特許文献1には、高架橋の橋梁間に形成される空間部に詰めて漏水を防止するためのジョイント材が開示される。このジョイント材は、隣り合う橋梁の両端部表面と空間部の上方とを覆うソリッドゴム製ヒレ部分と、そのヒレ部分から下方に垂下されたソリッドゴム製脚部分とを有する。ジョイント材はさらに、ヒレ部分と脚部分によって形成される空間部に、中空部と鉛直方向のスリットとを有するゴム又は発泡体製の嵌め込み体を有する。使用の際には、エポキシ樹脂を介して脚部分を空間部に挿入する。
【0007】
特許文献2には、高速道路や交通量の多い一般道路などの自動車道路において、相互に平行に形成された橋梁間の継目部を止水する方法が開示されている。この方法は、橋梁の側縁部の欄干部により構成される上下線間の中央分離帯の継目部を覆うように弾性シール部材を配設し、該弾性シール部材を覆うようにエラストマー層を形成固着することによって、橋梁間を止水する方法である。
【0008】
【特許文献1】実開平5−38005明細書
【特許文献2】特公平7−18132明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特に北海道をはじめとする寒冷地における橋梁の空間部の接合においては、単なる漏水やバラスト落下防止だけではなく、水の浸入による凍結及びつらら発生の確実な防止を考慮しなければならない。これは、空間部に浸入した水の凍結融解作用によって、橋梁並びに緩衝用部材の劣化が早まる危険性があるとともに、空間部に水が浸入した場合にはその水が凍結して橋梁下につららが発生し、例えば高架下事業が行われる場合には事業に大きな支障が生じる可能性があるからである。したがって、寒冷地の橋梁における空間部の接合方法は、寒冷地以外で用いられる空間部の接合方法と比べて、接合部の伸縮性及び施工性を低下させることなくより高い防水性能を接合部に付与できるようなものでなければならない。さらに、鉄道などの橋梁上は、保線作業のための作業員の通行や、資材、器具の仮置きなどが行われるため、接合部を保護する必要がある。
【0010】
この観点から、従来技術には以下のような課題が存在する。鋼板を敷設する方法は、砂利などが空間部から落下しないように空間部を鋼板で覆うだけであり、防水性は全く考慮されていない。また、特許文献1の技術は、漏水を防止するためのジョイント材に関するものであるが、この技術では、寒冷地において求められる高い防水性能は得られない場合が多い。さらに、特許文献2の技術は、人の通行や保線作業が行われることのない部分において用いられる技術であるため、防水層の損傷等に対する対策は全く考慮されていない。
【0011】
本発明は、従来の接合方法を上回る高い防水性能を有し、気温差による橋梁の伸縮に伴う空間部の拡縮に柔軟に対応可能であるともに、防水層を保線作業や紫外線などによる損傷要因から防止することにより伸縮性の高い防水層が劣化しにくい接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第一の態様は、隣接する橋梁の間に形成される空間部に緩衝部材を配置する工程と、配置された緩衝部材の上面全体と空間部に沿って隣接する橋梁の上面の少なくとも一部とを覆うように、伸縮性を有する防水層を形成する工程と、防水層の少なくとも一部と該防水層の少なくとも一部の両側に沿って隣接する橋梁の上面の一部とを覆うように、保護層を形成する工程とを含む、橋梁の空間部を接合する方法である。防水層は、エラストマーを吹き付けることによって形成することができる。エラストマーは、好ましくは、二液型ウレタン樹脂である。
【0013】
緩衝部材は、上部の幅が下部の幅より広幅に形成されたもの、例えば横断面形状が略T字型、略逆三角形、又は略逆台形などの形状に形成されたものを用いることができる。この場合は、緩衝部材が空間部に収まるようにするために、橋梁は、隣接する橋梁の対向する端面の上部間の距離が下部間の距離より広幅になるように形成される。緩衝部材は、さらに、空間部と平行に延びる断面蛇腹状の上壁部と、上壁部の両側に形成された側壁部と、少なくとも側壁部の下端の外端間の幅より狭い幅を有し、側壁部同士を接続するように側壁部の下端から下方に延びる、下部構造体と、上壁部、側壁部、及び下部構造体に囲まれた、空間部に沿って延びる中空部とを有するものを用いることもできる。
【0014】
防水層を形成する工程は、少なくとも緩衝部材の上に絶縁材を配置する工程と、絶縁材の上に伸縮性を有する防水層を形成する工程とを含むものとすることができる。保護層に覆われない防水層の部分は、紫外線から防水層を保護するための保護膜で被覆することが好ましい。
【0015】
保護層は、コストの観点からコンクリート又はモルタルで形成されることが好ましい。この場合には、保護層には、保護層の伸縮を吸収する目的で、空間部に沿って空間部の上方に、保護層の厚みを貫通する隙間が設けられる。保護層は、さらに強度を高めるために、補強部材を含むことが好ましく、補強部材は、金網又は鉄筋であり、少なくとも橋梁の上面と平行な面内に広がるように保護層内に配置されること好ましい。
【0016】
本発明の第二の態様は、隣接する橋梁の間に形成される空間部と平行に延びる断面蛇腹状の上壁部と、上壁部の両側に形成された側壁部と、少なくとも側壁部の下端の外端間の幅より狭い幅を有し、側壁部同士を接続するように側壁部の下端から下方に延びる、下部構造体と、上壁部と側壁部と下部構造体とに囲まれた、空間部に沿って延びる中空部と、を有することを特徴とする、隣接する橋梁を互いに接合するための方法において隣接する橋梁の間に形成される空間部に配置される緩衝部材である。
【0017】
本発明によれば、隣接する橋梁の間に形成される空間部に緩衝部材を配置し、その上面と橋梁の一部とを覆うようにエラストマーを吹き付けて伸縮性の高い防水層を形成することによって、従来技術と比較して、橋梁の伸縮による空間部の拡縮への対応能力を向上させながら確実な防水性能を得ることができる。防水層の形成にエラストマー吹き付け技術を採用することによって、複雑な形状を有する部分に存在する空間部、例えばダクトなどが存在する部分、鉛直方向に立ち上がる部分、又はその他の立体構造部に存在する空間部についても、確実かつ容易に防水層を形成することができる。このように防水層を形成することにより、空間部への水の浸入による凍結及びつららの発生を確実に防止できるため、橋梁の補修頻度を大幅に低減させることができるとともに、近年有効利用が進んでいる高架下の危険防止に寄与する。好ましくはエラストマーとして硬化速度の速い二液型ウレタン樹脂を用いることによって、高い伸縮性及び防水性を有する防水層をより迅速かつ確実に形成することができる。
【0018】
また、空間部に配置した緩衝部材の上に、エラストマーとの接着性の低いクラフトテープなどの絶縁材を配置することによって、防水層が橋梁の上面に強固に接着していても空間部の拡縮への対応能力を低下させることがない。
【0019】
また、橋梁の対向する端面の上部の幅が下部の幅より広幅になるように橋梁を作り、その結果形成される空間部の形状に合うように横断面形状が形成された緩衝部材を空間部に配置することによって、緩衝部材を配置した後に該緩衝部材がずれて沈下するのを防止することができる。このように構成することによって、補修しにくい部分において補修頻度を低減させることができるため、本発明に係る方法は、コスト低下に寄与する。さらに、少なくとも上部の内部を中空とし、上壁を断面蛇腹状に形成した緩衝部材を用いることによって、より効果的に空間部の拡縮に対応可能となるとともに、施工性が向上する。
【0020】
さらに、防水層を保護層で被覆することによって、バラストの飛散や保線作業員の通行、器具の仮置きなどによる損傷から防水層を保護するとともに、紫外線に対して脆弱な伸縮性の高い防水層を紫外線による劣化から保護することができる。保護層が形成されない部分については、防水層を保護膜で被覆することによって、保護層と同様に防水層を紫外線による劣化から保護することができる。保護層の材料は特に限定されないが、保護層がコンクリート又はモルタルで形成される場合には、保護層の上面から下面まで貫通する隙間を空間部に沿って設けることによって、保護層の伸縮を吸収することができる。保護層内に、補強部材を含むことによって、保護層の強度を向上させ、保護層の亀裂や剥離を防止することができる。金網又は鉄筋の補強部材を、橋梁の上面と概ね平行に保護層内に配置することによって、保護層の強度をより向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1〜図7を参照して、本発明の一実施形態を詳細に説明する。
本発明の方法は、図1に示されるような、線路5が敷設される高架橋10の隣接する橋梁の床版(水平部分)1及び1´の間に設けられる目地すなわち空間部3、及び、隣接する橋梁の壁高欄(立ち上がり部分)2及び2´の間に設けられる目地すなわち空間部4を接合するための技術である。これらの空間部3及び4は、床版1、1´及び壁高欄2、2´の気温差による伸縮を吸収する目的で、一定間隔毎に設けられる。図1においては、空間部3は、高架橋10の延長方向に対して横断する方向に設けられているが、延長方向と平行な方向に設けられる場合もある。したがって、本明細書において、隣接する橋梁というときは、高架橋の延長方向に隣接する床版(又は壁高欄)だけでなく、延長方向と交わる方向に隣接する床版(又は壁高欄)も含むものとする。空間部3及び4の幅(すなわち、隣接する橋梁間の距離)は、約30mm〜約50mmである。床版1、1´上には、バラスト軌道の場合には道床が構築され、その上に橋梁の延長方向に延びるレールを有する軌きょうが構築される。スラブ軌道の場合には、コンクリートスラブが据え付けられ、その上に同じく橋梁の延長方向に延びるレールが固定される。
【0022】
なお、こうした構造物間の空間部は、高架橋の橋梁間のみに設けられるものではなく、例えば河川橋梁などの桁式橋梁における桁と桁との間、又は、桁と橋台との間にも設けられる場合がある。したがって、本発明に係る接合方法は、以下に詳細に示される高架橋の空間部だけでなく、例えば河川橋梁などにおける空間部にも適用可能である。
【0023】
図2は、図1の矢印Aの方向から見た、空間部3を含む床版1、1´の図である。なお、以下の説明においては、床版1、1´間の空間部3を接合する工程について説明するが、上述のように、これらの工程は、壁高欄2、2´間の空間部4を接合する場合や、例えば河川橋梁などの桁式橋梁における桁と桁との間又は桁と橋台との間を接合する場合も同様である。
【0024】
本発明の一実施形態においては、まず、床版1、1´の端面11、11´の少なくとも一部すなわち緩衝部材25が配置される範囲全体又はその少なくとも一部に、端面の凹凸を平滑にして緩衝部材25との密着性をよくするための下地処理材21を塗布することが好ましい。下地処理材21は、当業者に周知の、例えばエポキシ系樹脂などを用いることができる。次いで、下地処理材21の上に、例えばエポキシ系接着剤などの当業者に周知の接着剤22を塗布する。
【0025】
次いで、床版1、1´の間の空間部3に、該空間部3の少なくとも上部を密閉し、床版1、1´の伸縮を吸収するための緩衝材として機能する緩衝部材25を配置する。本発明の一実施形態においては、緩衝部材25は、図2に示される矩形の横断面を有し、床版1、1´間の空間部3の幅と概ね同一の幅を有する。緩衝部材25は、空間部3の長さと同じ長さの長尺状緩衝部材として形成してもよいし、適当な長さに分割した複数の緩衝部材25として形成し、それらを空間部3に連続的に配置してもよい。緩衝部材25の材質は、床版1、1´間の空間部3の拡縮に対応可能なものであればよく、性能、耐久性、及びコストの面から、合成ゴムが好ましい。
【0026】
緩衝部材25は、図2に示されるように、その上面26が床版1、1´の上面12、12´と同一面を形成するように空間部3に配置されてもよいし、上面26が上面12、12´より下方に位置するように配置されてもよい。後者の場合には、上面26の上方の空間は、シーリング材によって充填される。前者のように上面26と上面12、12´とを面一に形成すれば、シーリング材の充填が不要になるため、工程が削減し、コストが低減するという利点がある。空間部3と緩衝部材25との間に隙間が生じる場合には、生じた隙間に必要に応じてシーリング材を充填することが好ましい。
【0027】
次いで、図3に示されるように、空間部3内に配置した緩衝部材25に沿って、緩衝部材25(すなわち空間部3)に隣接する床版1、1´の上面12、12´の少なくとも一部13、13´に、表面を平滑にして後に形成される防水層との接着性をよくする、すなわち防水性能をより高めるために、下地処理材30を塗布することが好ましい。下地処理材30は、当業者に周知の、例えばエポキシ系樹脂などを用いることができる。
【0028】
一方、緩衝部材25の上面26の上には、好ましくは弾性接着剤を介して、絶縁材35が配置される。絶縁材35は、例えば不織布付きブチルテープなどのような、後の工程において絶縁材35の上に配置される伸縮性を有する防水層36との接着性が低いものが用いられる。防水層36との接着性が低い絶縁材35を緩衝部材25の上面26上に配置することによって、空間部3の幅が大きく拡縮した場合であっても、緩衝部材25上の防水層36の伸縮が妨げられることがないという利点がある。図3においては、絶縁材35は、緩衝部材25の上面26の幅と同一の幅で配置するように示されているが、緩衝部材25の上面26の幅より広い幅で配置してもよい。
【0029】
以上のようにして配置された下地処理材30及び絶縁材35の上に、エラストマーを吹き付けることによって、防水層36が形成される。防水層36を形成するエラストマーは、防水性、床版上面との接着性、及び伸縮性が高いものであればよく、例えば、超速硬化ウレタン樹脂
、常温硬化ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂などを用いることができる。中でも、施工性及び経済性の観点から、超速硬化ウレタン樹脂が好ましい。超速硬化ウレタン樹脂は、イソシアネート成分を主とする主剤と、ポリオール成分を主とする硬化剤とを混合することによって得られる二液型ウレタン樹脂である。本発明の一実施形態においては、これらの主剤と硬化剤とをそれぞれ高圧ポンプで吐出し、二液衝突混合スプレーガンなどの吹き付け手段によりノズル直前で衝突混合させた後噴霧することによって、吹き付け後短時間で、厚さが均一で継目がなく伸縮性の高い防水層36を形成することができる。形成される防水層36の厚さは、防水層36の防水機能を損なわない限りできるだけ薄いことが好ましく、本発明の一実施形態においては、約2mmが好ましい。
【0030】
このような防水層36を形成することによって、従来技術と比較して、空間部の拡縮性能をより向上させながらより確実な防水性能を得ることができる。また、吹き付け方法を採用することによって、複雑な形状を有する部分、例えばダクトが配置される部分や、壁高欄2、2´などの鉛直方向に立ち上がる部分についても、確実かつ容易に防水層を形成することができる。
【0031】
防水層36は、特に超速硬化ウレタン樹脂によって形成される場合には、紫外線による劣化が生じる可能性がある。したがって、後述する保護層が上に形成されない露出部分、例えば壁高欄2、2´(すなわち、立ち上がり部分)の空間部を覆う防水層又はダクトが配置されるダクト部の空間部を覆う防水層は、紫外線から防水層36を保護するための、例えばアクリルウレタンなどの保護膜で被覆することが好ましい。
【0032】
次いで、図5に示されるように、少なくとも防水層36の上を覆うように、防水層36をバラスト等による損傷や紫外線から保護するための保護層40を形成する。保護層40は、まず保護層40を形成するための型枠45を組み立て(型枠の一例として図4を参照されたい)、次に型枠45の内部にモルタル又はコンクリートを流し込み、乾燥させることによって、形成される。保護層40には、空間部3の上方に該空間部3に沿って、保護層40の厚みを貫通するように隙間又は空間41が設けられる。これにより、空間部3の拡縮に伴って保護層40の隙間又は空間41が拡縮することになる。隙間又は空間41の幅は、約30mm〜約50mmであることが好ましい。隙間又は空間41は、当業者に周知の樹脂発泡体などで充填されるか、あるいは、隙間又は空間41を覆うように耐候性の鋼板が配置されることが好ましい。
【0033】
保護層40の材料は、モルタル又はコンクリートに限定されるものではなく、防水層36を損傷から保護することができ、かつ、耐久性にすぐれたものであれば、どのような材料を用いてもよい。保護層40は、例えば合成樹脂などといった伸縮性のある材料によって形成することもでき、この場合には、隙間又は空間41は設ける必要はない。保護層40は、図5においては横断面が概ね台形の形状を有するものとして示されているが、形状はこれに限定されるものではなく、例えば横断面が矩形を有するような形状に形成してもよい。保護層40は、スラブ軌道が敷設される高架橋の場合には、レールが固定されるコンクリートスラブが据え付けられる部分以外の部分の床版に形成される。一方、バラスト軌道が敷設される高架橋の場合には、保護層40は、バラストによる防水層36の損傷を防止するために道床の下にも設けられる。
【0034】
保護層40の内部には、図5に示されるように補強部材50、50´を配置することが好ましい。保護層40の好ましい材料であるモルタル又はコンクリートは、引っ張り応力に対して脆弱であるため、保護層40が伸びたときに保護層40に亀裂又は剥離等が生じる可能性がある。補強部材50、50´は、保護層40に亀裂又は剥離等が生じる危険性を低減させ、耐久性をより向上させるために、保護層40の適切な位置に配置される。補強部材50、50´は、例えば、鉄筋又は金網などを用いることができるが、これらに限定されるものではない。鉄筋又は金網の補強部材50、50´を用いる場合には、モルタル又はコンクリートを型枠45内に流し込む前に、床版1、1´の表面から延びる支持材によって補強部材50、50´を適切な高さに支持し、そこにモルタル又はコンクリートを流し込むことによって、補強部材50、50´が保護層40の内部に配置される。保護層40の亀裂又は剥離等は保護層40の上面から生じることが多いため、補強部材50、50´を配置する位置(高さ)は、保護層40の上面付近が好ましい。補強部材50、50´は、図5に示されるような形状ものとして配置するのではなく、保護層40の材料全体に、例えば強化繊維などの補強部材50、50´を混入させることによって、保護層40の引っ張り強度が増加するようにしてもよい。
【0035】
本発明の別の実施形態においては、緩衝部材を配置した後に該緩衝部材がずれて沈下するのを防止できるように、緩衝部材の形状と緩衝部材の受け側の形状とを変えることができる。図6は、一実施形態として、横断面がT字型の緩衝部材が、断面がT字型に形成された空間部内に配置された状態の図を示す。この実施形態においては、床版1、1´の対向する端面11、11´の上縁部は、図6において参照符号60及び60´で示されるようにそれぞれL字型に切り欠いて形成され、その結果、空間部6は、空間部6の延長方向と直交する方向の断面形状がT字型になるように形成される。一方、緩衝部材65は、その横断面形状がT字型に形成される。この緩衝部材65は、図6に示されるように、T字型の空間部6内に収まるように配置される。
【0036】
本発明のさらに別の実施形態においては、緩衝部材65は、少なくとも上部が下部より広い幅を有するもの、例えば横断面形状が略逆三角形又は略逆台形などの形状に形成されたものを用いることもできる。この実施形態においては、緩衝部材65が配置される空間部6の形状は、こうした緩衝部材65が収まる形状になるように形成される。すなわち、床版1、1´は、隣接する床版1、1´の対向する端面11、11´の間の幅が、上部が下部より広くなるように形成される。緩衝部材65と、空間部6の形状をこのように形成することによって、緩衝部材を配置した後に該緩衝部材がずれて沈下するのを防止できる。
【0037】
緩衝部材65を空間部6内に配置する際に、必要に応じて、緩衝部材65と端面11、11´が接する部分の少なくとも一部に、下地処理材61と接着剤62とを塗布することが好ましい。また、図6は、緩衝部材65の上面66が床版1、1´の上面12、12´と同一面を形成するように配置されているが、緩衝部材65は、上部の高さHを低くして、緩衝部材65の上面66が上面12、12´より低くなるように形成されていてもよい。この場合には、緩衝部材65の上面66の上方にできる空間部は、シーリング材によって充填される。空間部6と緩衝部材65との間に隙間が生じる場合には、形成された隙間に必要に応じてシーリング材を充填することが好ましい。
【0038】
本発明のさらに別の実施形態においては、例えば図7に示されるような形状の緩衝部材75を用いることができる。緩衝部材75は、空間部と平行に延びる、対向する側壁77と、側壁77の間を渡すように設けられた、空間部の延びる方向を横切る断面の形状が蛇腹状になるように形成された上壁78と、側壁77の下端同士を接続する、断面U字型の下部構造体79と、上壁78、側壁77、及び下部構造体79によって囲まれた中空部76とを有する。側壁77の下端の外端間の幅は、少なくとも、空間部6の下部(すなわち、端面11、11´間の幅の狭い部分)の幅より広くなるように形成される。側壁77の下端には、緩衝部材75の落下やずれをより効果的に防止できるように、下端から外方に突出し、床版1、1´の切り欠き部分の底面と接することによって緩衝部材75を支持するための突出部80を形成してもよい。この場合にも、突出部80がない場合と同様に、突出部80の外端間の幅は、空間部6の下部(すなわち幅の狭い部分)の幅より広くなるように形成される。下部構造体79の幅は、空間部6の下部の幅と同じか又はそれより狭く形成される。図7においては、緩衝部材75の中空部76は、下部構造体79の内部にも存在するように記載されているが、別の実施形態においては、下部構造体79を中実体として形成して、中空部76が緩衝部材75の上部に存在するように、すなわち上壁78と、側壁77と、中実体として形成された下部構造体79の上面とによって囲まれるようにしてもよい。
【0039】
緩衝部材75は、上壁78と側壁77と下部構造体79とが一体的に形成されることが好ましい。緩衝部材75は、別々に成形された部材77、78、79の各々を接着剤などで接合することによって形成してもよいが、この場合には、部材同士の接合部分から水が浸入する可能性を考慮して、部材同士の接合をできるだけ強固にする必要がある。緩衝部材75を空間部6に配置する方法は、緩衝部材25又は緩衝部材65を空間部に配置する際の上述の方法と同様である。緩衝部材75は、上壁78が断面蛇腹状に形成され、内部に中空部76を有することによって、幅の寸法の自由度が大きいという利点がある。すなわち、端面11、11´の切り欠き部分の施工精度が低く、橋梁毎に空間部6の幅の寸法誤差が大きい場合でも、単一の寸法の緩衝部材75を用意すれば、緩衝部材75を空間部6に詰める際にその幅を容易に変化させることができるため、施工性が極めて向上し、施工コストを低減させることができる。また、緩衝部材75を空間部6に配置した後は、蛇腹状の上壁78の弾性回復力によって側壁77が端面11、11´に(又は、側壁77と端面11、11´との間にシーリング材が充填された場合には、シーリング材を介して端面11、11´に)押し付けられるため、防水性能がより向上する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る方法が用いられる鉄道高架橋を示す図である。
【図2】図1の矢印Aの方向から見たときの、空間部を含む床版の図である。
【図3】空間部内に配置された弾性部材と床版の上面との上に、下地処理剤及び絶縁材が配置され、その上に防水層が形成された状態を示す図である。
【図4】図3に示される防水層の上に型枠が形成された状態を示す図である。
【図5】図3に示される防水層の上に保護層が形成された状態を示す図である。
【図6】T字型に形成された緩衝部材を用いる場合の実施形態を示す図である。
【図7】蛇腹状の上壁と内部に中空部とを有する緩衝部材を用いる場合の実施形態を示す図である
【符号の説明】
【0041】
1、1´ 床版
2、2´ 壁高欄
3、4、6 空間部
5 線路
10 鉄道高架橋
11、11´ 床版の端面
12 12´ 床版の上面
13 13´ 床版の上面の一部
21、61、71 下地処理材
22、62、72 接着剤
25、65、75 緩衝部材
26、66 緩衝部材の上面
30 下地処理材
35 絶縁材
36 防水層
40 保護層
41 隙間又は空間
45 型枠
50、50´ 補強部材
60、60´ 床版の切り欠き部分
76 中空部
77 側壁
78 上壁
79 下部構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接する橋梁を互いに接合するための方法であって、
隣接する橋梁の間に形成される空間部に緩衝部材を配置する工程と、
配置された前記緩衝部材の上面全体と前記空間部に沿って隣接する前記橋梁の上面の少なくとも一部とを覆うように、伸縮性を有する防水層を形成する工程と、
前記防水層の少なくとも一部と該防水層の少なくとも一部の両側に沿って隣接する前記橋梁の前記上面の一部とを覆うように、保護層を形成する工程と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記防水層はエラストマーを吹き付けることによって形成されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記エラストマーは二液型ウレタン樹脂であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
緩衝部材を配置する前記工程は、隣接する前記橋梁の対向する端面の上部間の距離を前記対向する端面の下部間の距離より広幅にすることによって形成された前記空間部に、上部の幅が下部の幅より広幅に形成された前記緩衝部材を配置する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記緩衝部材は、前記空間部と平行に延びる断面蛇腹状の上壁部と、前記上壁部の両側に形成された側壁部と、少なくとも前記側壁部の下端の外端間の幅より狭い幅を有し、前記側壁部同士を接続するように前記側壁部の前記下端から下方に延びる、下部構造体と、前記上壁部、前記側壁部、及び前記下部構造体に囲まれた、空間部に沿って延びる中空部とを有することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
伸縮性を有する防水層を形成する前記工程は、
少なくとも前記緩衝部材の上に絶縁材を配置する工程と、
前記絶縁材の上に伸縮性を有する防水層を形成する工程と、
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記保護層に覆われない前記防水層の上全体を、紫外線から前記防水層を保護するための保護膜で被覆する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記保護層の材料は、コンクリート又はモルタルであり、保護層を形成する前記工程は、前記空間部に沿って前記空間部の上方に前記保護層の厚みを貫通する隙間を設ける工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記保護層は補強部材を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記補強部材は金網又は鉄筋であり、前記橋梁の上面と平行な面内に広がるように前記保護層内に配置されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
隣接する橋梁を互いに接合するための方法において、隣接する橋梁の間に形成される空間部に配置される緩衝部材であって、
隣接する橋梁の間に形成される空間部と平行に延びる断面蛇腹状の上壁部と、
前記上壁部の両側に形成された側壁部と、
少なくとも前記側壁部の下端の外端間の幅より狭い幅を有し、前記側壁部同士を接続するように前記側壁部の前記下端から下方に延びる、下部構造体と、
前記上壁部と前記側壁部と前記下部構造体とに囲まれた、前記空間部に沿って延びる中空部と、
を有することを特徴とする緩衝部材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−235829(P2009−235829A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85163(P2008−85163)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(590003825)北海道旅客鉄道株式会社 (94)
【出願人】(508096563)株式会社ビーエスアイ (1)
【出願人】(000133342)株式会社ダイフレックス (24)
【Fターム(参考)】