説明

機上現像型平版印刷版原版及び平版印刷方法

【課題】レーザーによる画像記録が可能であり、検版性及び耐刷性に優れた機上現像型の平版印刷版原版、及び平版印刷方法を提供する。
【解決手段】支持体上に、印刷インキと湿し水とを供給することにより未露光部分を除去可能な画像記録層を有する平版印刷版原版であって、(a)一般式(1)で表される赤外線吸収剤、(b)それぞれ異なる置換基を有するジアリールヨードニウム塩化合物及びスルホニウム塩化合物から選択される少なくとも1つの重合開始剤、並びに(c)重合性化合物、を含有する画像記録層を有することを特徴とする。


1a及びR2aは、酸素原子等を有するアルキル基を、mは1または2の整数を、Yはジアルキルメチレン基等を、Z及びZは芳香族炭化水素環等を、Bはn価の有機基を、nは2から6の整数を、Aはカウンターアニオンを表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷版原版及びそれを用いる平版印刷方法に関する。詳しくは、レーザーによる画像露光可能な機上現像型の平版印刷版原版、及び、前記平版印刷版原版を機上現像する平版印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、平版印刷版は、印刷過程でインキを受容する親油性の画像部と、湿し水を受容する親水性の非画像部とからなる。平版印刷は、水と油性インキが互いに反発する性質を利用して、平版印刷版の親油性の画像部をインキ受容部、親水性の非画像部を湿し水受容部(インキ非受容部)として、平版印刷版の表面にインキの付着性の差異を生じさせ、画像部のみにインキを着肉させた後、紙等の被印刷体にインキを転写して印刷する方法である。
この平版印刷版を作製するため、従来は、親水性の支持体上に親油性の感光性樹脂層(画像記録層)を設けてなる平版印刷版原版(PS版)を用い、PS版にリスフィルムなどのマスクを通した露光を行った後、アルカリ性現像液などによる現像処理を行い、画像部に対応する画像記録層を残存させ、非画像部に対応する不要な画像記録層を溶解除去して、平版印刷版を得ていた。
【0003】
この分野の最近の進歩によって、現在、平版印刷版は、CTP(コンピュータ・トゥ・プレート)技術によって得られるようになっている。すなわち、レーザーやレーザーダイオードを用いて、リスフィルムを介することなく、直接平版印刷版原版を走査露光し、現像して平版印刷版が得られる。
【0004】
上記進歩に伴って、平版印刷版原版に関わる課題は、CTP技術に対応した画像形成特性、印刷特性、物理特性などの改良へと変化してきている。また、地球環境への関心の高まりから、平版印刷版原版に関わるもう一つの課題として、現像処理などの湿式処理に伴う廃液に関する環境課題がクローズアップされている。
【0005】
上記の環境課題に対して、現像あるいは製版の簡易化や無処理化が指向されている。簡易な製版方法の一つとしては、「機上現像」と呼ばれる方法が行われている。すなわち、平版印刷版原版を露光後、従来の現像は行わず、そのまま印刷機に装着して、画像記録層の不要部分の除去を通常の印刷工程の初期段階で行う方法である。
また、簡易現像の方法としては、画像記録層の不要部分の除去を、従来の高アルカリ性現像液ではなく、pHが中性に近いフィニッシャーまたはガム液によって行う「ガム現像」と呼ばれる方法も行われている。
【0006】
上述のような製版作業の簡易化においては、作業のしやすさの点から明室または黄色灯下で取り扱い可能な平版印刷版原版及び光源を用いるシステムが好ましいので、光源としては、波長760〜1200nmの赤外線を放射する半導体レーザー及びYAGレーザー等の固体レーザーが用いられる。また、UVレーザーを用いることができる。
【0007】
機上現像可能な平版印刷版としては、例えば特許文献1及び2には、親水性支持体上に、重合性化合物を内包するマイクロカプセルを含む画像記録層(感熱層)を有する平版印刷版原版が記載されている。また、特許文献3には、支持体上に、赤外線吸収剤とラジカル重合開始剤と重合性化合物とを含有する画像記録層(感光層)を設けた平版印刷版原版が記載されている。さらに、特許文献4には、支持体上に、重合性化合物と、ポリエチレンオキシド鎖を側鎖に有するグラフトポリマーまたはポリエチレンオキシドブロックを有するブロックポリマーを含有する画像記録層を設けた機上現像可能な平版印刷版原版が記載されている。
【0008】
一般に、印刷版を印刷機に取り付ける前工程として、印刷版に目的通りの画像記録がされているか、印刷版上の画像を検査、識別する作業(検版)が行われる。現像処理工程を伴う通常の平版印刷版原版は、一般に画像記録層を着色しておけば現像処理により着色画像が得られるので、印刷機に印刷版を取り付ける前に画像を確認することは容易である。
しかし、現像処理を行わない機上現像型または無処理(無現像)型の平版印刷版原版では、印刷版を印刷機に取り付ける段階で印刷版上に画像がなく、検版ができない。特に、多色印刷において見当合わせの目印となるトンボ(レジスタマーク)が描きこまれていることを判別できるか否かは印刷作業にとって重要である。そのため、機上現像型または無処理(無現像)型平版印刷版原版は、露光した段階で画像を確認する手段、すなわち、露光領域が発色または消色する、いわゆる焼き出し画像が生ずることが要求されている。
【0009】
焼き出し剤として、光または熱で酸、塩基またはラジカルを発生する化合物と、発生した酸、塩基またはラジカルと相互作用して変色する化合物とを用いた平版印刷版原版が提案されている(例えば、特許文献5参照)。また、熱分解性化合物の色変化を、感熱層を有する直描型平版印刷版原版の焼き出し剤として利用することも提案されている(例えば、特許文献6参照)。さらに、熱分解温度が250℃以下の熱分解性色素を焼き出し剤として用いることも提案されている(例えば、特許文献7参照)。
これらによれば、露光部において発色あるいは消色が生じ、画像の検版性はある程度向上はするが、未だ十分ではなかった。
【0010】
特許文献8には、メチン鎖に5員環を有するシアニン色素系の赤外線吸収剤とラジカル発生剤を含有する系によって、良好な視認性を有し、検版が可能なレベルの焼き出し画像が得られることが記載されている。しかしながら、市場からは、さらに優れた検版性の付与が要望されている。
なお、特許文献9には、同一分子内に赤外吸収しうる発色団を2つ以上有し、該発色団が共有結合により結合してなる赤外線吸収剤を含有し、赤外線露光により、画像形成可能な記録層を設けた平版印刷版原版が記載されている。しかし、特許文献9に記載の平版印刷版原版の現像方式はアルカリ現像であって、現像処理を行わず直接印刷機に装着して印刷する方式の平版印刷版原版に、特許文献9に記載の赤外線吸収色素を含有すると機上現像性が劣化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−277740号公報
【特許文献2】特開2001−277742号公報
【特許文献3】特開2002−287334号公報
【特許文献4】米国特許出願公開第2003/0064318号
【特許文献5】特開平11−277927号公報
【特許文献6】特開2000−335129公報
【特許文献7】特開2003−191657公報
【特許文献8】特開2007−090850号公報
【特許文献9】特開2001−242613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、レーザーによる画像記録が可能であり、検版性及び耐刷性に優れた機上現像型の平版印刷版原版、及び平版印刷方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは、同一分子内に赤外吸収しうる発色団を2つ以上有し、該発色団が共有結合により結合してなる赤外線吸収剤を用いることによって、検版性及び耐刷性に優れた機上現像型の平版印刷版原版が得られることを見出した。本発明は以下のとおりである。
【0014】
1.支持体上に、印刷インキと湿し水とを供給することにより未露光部分を除去可能な画像記録層を有する平版印刷版原版であって、(a)一般式(1)で表される赤外線吸収剤、(b)スルホニウム塩化合物及び非対称のジアリールヨードニウム塩化合物から選択される少なくとも1つの重合開始剤、並びに(c)重合性化合物、を含有する画像記録層を有することを特徴とする平版印刷版原版。
【0015】
【化1】

【0016】
一般式( 1 ) 中、R1a及びR2aは、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子から選ばれる少なくとも一つの原子を有するアルキル基を表す。mは1または2の整数を表す。Yは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、硫黄原子、酸素原子または炭素原子数12個以下のジアルキルメチレン基を示す。Z及びZはそれぞれ独立に、芳香族炭化水素環または複素芳香環を表す。Bはn価の有機基を表し、nは2から6の整数を表す。Aは、ハロゲン化物イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン及びスルホン酸イオンから選ばれるカウンターアニオンを表す。
【0017】
2.前記一般式(1)中のR1a及びR2aが、エ―テル基、エステル基、アミド基、チオエーテル基及びケトン基から選ばれる少なくとも1つの基を有するアルキル基であることを特徴とする前記1記載の平版印刷版原版。
3.前記一般式(1)中のR1a及びR2aが、エ―テル基及びエステル基から選ばれる少なくとも1つの基を有するアルキル基であることを特徴とする前記1または2記載の平版印刷版原版。
【0018】
4.前記一般式(1)中のBが下記一般式(2)で表わされ、nが2であるか、または、一般式(1)中のBが一般式(3)で表わされ、nが3であることを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
【0019】
【化2】

【0020】
一般式(2)及び一般式(3)中、Dはそれぞれ独立に、硫黄原子、酸素原子またはNRを表す。Rは水素原子またはアルキル基を表す。Xは、単結合、スルホニル基、カルボニル基、アゾ基、フェニレン基、または下記一般式(4)で表される基を表す。Xは、窒素原子、メチン基(−CH<)、または芳香族炭化水素基を表す。R1b及びR2bはそれぞれ独立に、水素原子またはアルキル基を表す。kは1または2の整数を表す。
【0021】
【化3】

【0022】
5.前記一般式(2)または一般式(3)中のDが硫黄原子または酸素原子であることを特徴とする前記4記載の平版印刷版原版。
6.前記ヨードニウム塩化合物が、電子供与性基を有することを特徴とする前記1〜5のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
7.前記スルホニウム塩化合物が、電子吸引性基を有することを特徴とする前記1〜5のいずれか1項に平版印刷版原版。
8.前記画像記録層が、親水性基を有するバインダーポリマーを含有することを特徴とする前記1から7のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
9.前記画像記録層が、疎水化前駆体を含有することを特徴とする前記1〜8のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
10.前記平版印刷版原版が、支持体と画像記録層の間に下塗り層を有し、下塗り層に基板吸着性基及び重合性基を有するポリマーを含有することを特徴とする前記1〜9のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
11.前記画像記録層の上に、無機質層状化合物を含む保護層を有することを特徴とする前記1〜10のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
12.前記1〜11に記載の平版印刷版原版を、赤外線レーザーで画像様に露光する工程と、露光後の平版印刷版原版になんらの現像処理を施すことなく、印刷インキと湿し水とを供給して、印刷する印刷工程とを有し、該印刷工程の途上において画像記録層の赤外線レーザー未露光部分が除去されることを特徴とする平版印刷方法。
【0023】
本発明では、上記のような特定の赤外線吸収剤を用いることによって、検版性及び耐刷性に優れた機上現像型の平版印刷版原版が得られた。
本平版印刷版原版の発色メカニズムを以下のように考えている。赤外線を平版印刷版原版に露光することで赤外線吸収剤が励起し、特定ラジカル発生剤に電子移動が起こり、その際に赤外線吸収剤の構造が変化し(ラジカルカチオンの生成)、色変化を起こすためと考えている。特定ラジカル開始剤を用いることで、赤外線吸収剤から効率よく電子移動が生起、進行するため大きな色変化となり、優れた検版性が得られるものと考えられる。
また、本発明の機能発現は以下のように考えている。同一分子内に赤外吸収しうる発色団を2つ以上有し、該発色団が共有結合により連結する赤外線吸収剤が分子間相互作用をすることにより多層構造をとり、クエンチャーとなる他分子との相互作用が減るため、主発色体であるラジカルカチオンがより長寿命化し、発色の経時安定性が向上すると考えられる。また、赤外線吸収剤に酸素原子、硫黄原子及び窒素原子から選ばれる少なくとも一つの原子を有するアルキル基を含有させることにより、高濃度条件で画像記録層を固体が析出することなく塗布することができ、色素と開始剤が近傍化するため電子移動が起こりやすくなり、高い耐刷性が得られる。さらに、本発明の赤外線吸収剤を画像記録層に含有させることで、機上現像性も向上することが分かった。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、レーザーによる画像記録が可能であり、検版性及び耐刷性に優れた機上現像型の平版印刷版原版を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[平版印刷版原版]
本発明の平版印刷版原版は、支持体上に画像記録層を有し、印刷インキ及び/または湿し水を供給することにより機上現像可能である。また、場合により、画像記録層上に保護層、支持体と画像記録層の間に下塗り層を有してもよい。
以下、本発明の平版印刷版原版の構成要素及び成分などについて説明する。
【0026】
(画像記録層)
本発明に用いられる画像記録層は、露光後、印刷機上で印刷インキと湿し水とを供給して未露光部分を除去することにより、画像形成可能な画像記録層である。画像記録層が含有する機上現像可能な代表的な画像形成機構としては、(1)(A)赤外線吸収剤、(B)重合開始剤、及び、(C)重合性化合物を含有して、重合反応を利用して画像部を硬化させる態様と(2)(A)赤外線吸収剤、及び、(D)疎水化前駆体を含有して、疎水化前駆体の熱融着や熱反応を利用して疎水性領域(画像部)を形成する態様を挙げることができる。また、上記二つの態様が混合したものでもよい。例えば、(1)重合型の画像記録層に(D)疎水化前駆体を含有させてもよいし、(2)疎水化前駆体型に重合性化合物などを含有させてもよい。なかでも、(A)赤外線吸収剤、(B)重合開始剤、及び、(C)重合性化合物を含有する重合型の態様が好ましい。
以下に、画像記録層に用いられる各成分について、順次説明する。
【0027】
<(A)一般式(1)で表される赤外線吸収剤>
本発明の画像記録層は、一般式(1)で表される赤外線吸収剤を含有する。一般式(1)で表される赤外線吸収剤は、分子内に複数のシアニン色素骨格を含有し、赤外波長領域に極大吸収を有するシアニン色素であり、以下では特定シアニン色素とも呼ぶ。
【0028】
特定シアニン色素は赤外線吸収剤としての機能を有するため、本発明の平版印刷版原版は、760〜1200nmの赤外線を発するレーザーを光源として画像形成することができる。本発明において、赤外線吸収剤とは、吸収した赤外線を熱に変換する機能と赤外線により励起して後述する重合開始剤(ラジカル発生剤)に電子移動及び/またはエネルギー移動する機能を有する化合物を指す。本発明に係る画像記録層には、前記特定シアニン色素に加えて、他の赤外線吸収剤、すなわち、波長760〜1200nmに吸収極大を有する染料または顔料を併用することができる。
【0029】
【化4】

【0030】
一般式(1)中、R1a及びR2a は、それぞれ独立に、硫黄原子、酸素原子及び窒素原から選ばれるすくなくとも一つの原子を有するアルキル基を表す。R1a及びR2a は、好ましくは、エ―テル基、エステル基、アミド基、チオエーテル基、ケトン基、スルホニル酸基、アミノ基、スルホニルアミド基またはヒドロキシ基を有するアルキル基であり、より好ましくは、エ―テル基、エステル基、アミド基、チオエーテル基またはケトン基を有するアルキル基である。これらのうち、エ―テル基、エステル基またはアミド基を有するアルキル基がさらに好ましく、エーテル基またはエステル基を有するアルキル基が最も好ましい。
【0031】
Bはn価の有機基を表し、nは2から6の整数を表す。好ましいものとして、Bに芳香環が2つ以上含まれるものが挙げられる。さらに好ましくは、n=2または3であり、最も好ましくは、n=2である。
【0032】
Bで表される好ましい有機基としては、下記一般式(2)または(3)で表される有機基が挙げられる。
【0033】
【化5】

【0034】
一般式(2)及び一般式(3)中、Dはそれぞれ独立に、硫黄原子、酸素原子またはNRを表す。Rは水素原子またはアルキル基を表す。なかでも、Dは硫黄原子または酸素原子であることが好ましい。
【0035】
は、単結合、スルホニル基、カルボニル基、アゾ基、フェニレン基、または下記一般式(4)で表される基を表す。一般式(4)中、R1b及びR2bはそれぞれ独立に、水素原子またはアルキル基を表す。アルキル基の炭素数は1から10が好ましい。kは1または2の整数を表す。
は、窒素原子、メチン基(−CH<)または芳香族炭化水素基を表す。
【0036】
【化6】

【0037】
これらの中で、Xとしてはスルホニル基が最も好ましい。
【0038】
一般式(1)中、mは1または2の整数を表す。mは発色画像の視認性向上の観点から、m=1である(すなわち、5 員環を形成している)ことが最も好ましい。
【0039】
及びZはそれぞれ独立に、芳香族炭化水素環または複素芳香環を表す。好ましくは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環であり、具体的には、ベンゼン環及びナフタレン環が挙げられる。また、好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下の炭化水素基及びハロゲン原子が挙げられる。
【0040】
Yは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、硫黄原子、酸素原子または炭素原子数12個以下のジアルキルメチレン基を示す。
【0041】
は、ハロゲン化物イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン及びスルホン酸イオンから選ばれるカウンターアニオンを表す。これらのアニオンは、画像記録層塗布液の保存安定性の点で好ましい。特に好ましくは、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びアリールスルホン酸イオンである。また、視認性向上の観点からは、Aは無機アニオンあるいは強酸のカウンターアニオンであることが好ましく、このような観点からは、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、CFSO、CSOが挙げられ、中でもヘキサフルオロホスフェートイオンが最も好ましい。
【0042】
本発明において、好適に用いることのできる特定シアニン色素の具体例としては、下記化合物(IR−1)〜(IR−32)が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0043】
【化8】

【0044】
【化9】

【0045】
【化10】

【0046】
【化11】


【0047】
【化12】


【0048】
【化13】

【0049】
本発明の特定シアニン色素は、例えば、後述する合成例1に具体的に示した方法により合成することができる。また、当該スキームに従って、出発物質、溶剤などを変更することで、前記構造を有する種々のシアニン色素を同様にして合成することができる。
【0050】
特定シアニン色素は画像記録層に含有される。さらに別の層にも添加してもよいが、ネガ型平版印刷版原版を作製した際に、画像記録層の波長760nm〜1200nmの範囲における極大吸収波長での吸光度が、反射測定法で0.3〜1.2の範囲にあるように添加する。好ましくは、0.4〜1.1の範囲である。この範囲で画像記録層の深さ方向での均一な重合反応が進行し、良好な画像部の膜強度と支持体に対する密着性が得られる。
画像記録層の吸光度は、画像記録層に添加する赤外線吸収剤の量と画像記録層の厚みにより調整することができる。吸光度の測定は常法により行うことができる。測定方法としては、例えば、アルミニウム等の反射性の支持体上に、乾燥後の塗布量が平版印刷版として必要な範囲において適宜決定された厚みの画像記録層を形成し、反射濃度を光学濃度計で測定する方法、積分球を用いた反射法により分光光度計で測定する方法等が挙げられる。
【0051】
特定シアニン色素の画像記録層への添加量としては全固形分中、0.1〜30質量% 添加されることが好ましく、0.5〜20質量% であることがさらに好ましく、1〜10質量%添加されることがより好ましい。
【0052】
<その他の赤外線吸収剤>
併用できる赤外線吸収剤としては、特開2008−195018号公報の段落番号[0058]〜[0087]に記載されている化合物が挙げられる。
【0053】
<(B)重合開始剤>
本発明に用いられる(B)重合開始剤は、光、熱あるいはその両方のエネルギーによりラジカルを発生し、(C)重合性化合物の重合を開始、促進する化合物を指す。本発明において使用しうる重合開始剤としては、(1)非対称のジアリールヨードニウム塩化合物または(2)スルホニウム塩化合物が挙げられる。重合開始剤として一般的に用いられるオニウム塩は重合感度、発色感度が十分であるものの、感材として安定性が不十分であり、使用方法が困難であった。
本発明に用いられる非対称のヨードニウム塩とは、ヨードニウムカチオンに隣接する2つのアリール基が異なることを指す。
その中でも、それぞれアリール基に異なる置換基を有するジアリールヨードニウム塩が好ましい。さらに、アリール基の例としてはベンゼン環またはナフタレン環よりなるアリール基が挙げられるが、特にベンゼン環よりなるアリール基が好ましく、式(5)で表されるものが特に好ましい。
【0054】
本発明に用いる(1)それぞれ異なる置換基を有するジアリールヨードニウム塩化合物としては、下記一般式(5)で示される化合物を指す。
【0055】
【化14】

【0056】
一般式(5)中、Ar101及びAr102は、置換基を有していてもよいベンゼン環であって、2つのベンゼン環の置換基が互いに異なっており、かつ、少なくとも片方のベンゼン環の置換基のハメットσ値の合計が負である構造を表す。Zはカウンターアニオンを表す。
【0057】
なお、一般式(5) において、2つのベンゼン環の置換基が互いに異なるとは、2つのベンゼン環が有している置換基が異なる場合だけではなく、一方のベンゼン環が置換基を有し、他方のベンゼン環が置換基を有さない場合も含むものとする。
【0058】
一般式(5)で表されるヨードニウム塩は、下記一般式(6)で表されることが好ましい。
【0059】
【化15】

【0060】
一般式(6)中、Ar201は、置換基を有するベンゼン環であって、置換基のハメットσ値の合計が負であるものを表す。Ar202は、置換基を有するベンゼン環であって、置換基のハメットσ値の合計が正であるものを表す。Zはカウンターアニオンを表す。
【0061】
一般式(5)及び(6)における、Zのカウンターアニオンは、好ましくは、ハロゲン化物イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、カルボキシレートイオン、スルホン酸イオンであり、より好ましくは、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、パーフルオロアルキルスルホン酸イオンである。
【0062】
ハメットσ値は、参考文献「化学セミナー10 ハメット側−構造と反応性−」に記載されているように、水中・25℃における安息香酸の酸解離平衡に対するメタ置換基、パラ置換基の影響を示す値である。負であれば電子供与性であり、正であれば電子吸引性である。なお、オルト置換基については、p−位置換基の値を代用して計算する。
ハメットσ値の合計を計算する場合、C−I結合に対してm 位にある置換基に対してはσm値を使用し、p位にある置換基に対してはσp値を使用する。
本発明のヨードニウム塩は、これらのハメットσ値をそれぞれのベンゼン環において合計し、少なくとも片方の合計が負であるヨードニウム塩であれば、いずれのヨードニウム塩も好適に使用することができる。
本発明に於けるヨードニウム塩は、2つのベンゼン環の置換基のハメットα値の合計が共に0以下であることが好ましい。
【0063】
本発明のヨードニウム塩は、一般式(5)において、2つのベンゼン環の置換基が互いに異なっており、かつ、少なくとも片方のベンゼン環の置換基のハメットσ値の合計が負である限り、いずれのヨードニウム塩も使用することができるが、より好ましくは、電子吸引基を2つ以上有するジアリールヨードニウム塩であり、さらに、好ましくは電子供与性基を3つ以上有する。
電子供与性基として好ましくは、アルキル基、アミノ基、アルコキシ基、ウレア基、アルコキシアルキル基、アシロキシアミノ基、シクロアルキル基、アリル基が挙げられ、それらは、電子吸引性を失わない範囲でアルキル基、アルケニル基、アリール基、水酸基、アルコキシ基、シオール基、チオアルコキシ基、アミノ基、ハロゲン原子等の置換基を有してもよい。
上記の中でも特に好ましい電子供与性基としては、アルキル基及びアルコキシ基が挙げられ、最も好ましい置換基はアルコキシ基である。
【0064】
電子供与性基の好ましい具体例としては、炭素数1〜20のアルキル基、例えば、メチル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−オクチル基、ドデシル基など、炭素数1〜20のアルコキシ基、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、ヘテロキシ基、オクチロキシ基、ドデシロキシ基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
電子供与性基の置換数として、より好ましくは3置換以上であることが好ましく、最も好ましくは4置換されている化合物である。
電子供与性基はヨードニウム塩のアリール基に導入されるが、その好ましい置換位置としては、パラ位、オルト位が挙げられる。電子供与性基はヨードニウム塩における2つのアリール基の双方に1個以上導入されていてもよく、また、片方のみに2個以上導入されていてもよい。
組み合わせとして、重合開始剤分子内に、アルコキシ基を3置換以上、より好ましくは4置換以上で有する化合物が好ましい。
【0065】
電子供与性基を導入するにあたっての物性値としての目安を挙げれば、置換基( アリール基に導入される電子供与性基) のハメット値の総和が、−0.27以下であることが好ましく、−0.54以下がより好ましく、−0.84以下であることが最も好ましい。なお、ハメット値はジアリールヨードニウム塩構造における置換基の電子吸引性の程度を表すものであり、本発明におけるハメット値としては、日本化学会 編、化学便覧 基礎編II(1984年、丸善( 株)発行) に記載の数値を参照することができる。
ハメット値は通常、置換位置がm位、p位の値で計算される。今回、電子的な効果として今回o位の値はp位の値と同値として計算する。
【0066】
本発明のヨードニウム塩のカウンターアニオンに関して、アニオン構造を有するものであれば制限無く、使用することが可能である。使用可能なカウンターアニオンとしては、カルボン酸アニオン、スルホン酸アニオン、スルホンアミドアニオン、ボレートアニオン、燐酸アニオン、スルフィン酸アニオン、硫酸アニオン、PF、BF、SbF、ハロゲン化物アニオンなどが挙げられる。これらの中で、安定性、発色性の観点から、スルホン酸アニオン、特にフルオロアルキル基を有するスルホン酸アニオン、PF、BFが好ましい。
以下に、本発明に用いうるヨードニウム塩(I−1)〜(I−22)の例を挙げるが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0067】
【化16】

【0068】
また、本発明に用いる(2)スルホニウム塩は、トリアリールスルホニウムを指す。
トリアリールスルホニウムは、硫黄原子に3個のアリール基が結合している分子構造を有する一価のカチオンである。
トリアリールスルホニウムと対アニオンからなる塩は、重合開始剤として機能することが知られている( 例えば、J.Amer.Chem.Soc.第112巻(16)、1990年、p6004−6015;J.Org.Chem.1988年、pp5571−5573; 国際公開第02/081439号パンフレット;欧州特許出願公開第1113005号明細書に記載)。
アリール基は、フェニルまたはナフチルであることが好ましく、フェニルであることがさらに好ましい。アリール基は置換基を有してもよく、少なくとも一つのアリール基が電子吸引性基により置換されていることが好ましい。
【0069】
トリアリールスルホニウム塩のアリール基を置換している電子求引性基は、ハメット値の総和が0.46よりも大きな値であることが好ましく、0.50よりも大きな値であることがさらに好ましく、0.60よりも大きな値であることが最も好ましい。また、ハメット値の総和は、4.0未満であることが好ましく、3.5未満であることがさらに好ましく、3.0未満であることが最も好ましい。
【0070】
電子求引性基には、ハロゲン原子、ハロゲン化アルキル基、アシル基、アシルオキシ基、アルカンスルフィニル基、シアノ、アミド基及びカルボキシルが含まれる。
ハロゲン原子には、フッ素原子(ハメット値は、メタ位(以下、m):0.34 、パラ位(以下、p):0.06、塩素原子(m:0.37、p:0.23)、臭素原子(m:0.37、p:0.23)、及び塩素原子(m:0.35、p:0.18)が含まれる。なお、オルト位での値は、パラ位とほぼ同じ値になる(他の基も同様である) 。
ハロゲン化アルキル基には、トリフルオロメチル(m:0.43、p:0.54)が含まれる。
アシル基には、アセチル(o:0.37、p:0.45)及びホルミル(m:0.36、p:0.43)が含まれる。
アルカンスルフィニル基には、メタンスルフィニル基(m:0.52、p:0.45)が含まれる。
シアノ基のハメット値は、(m:0.56、p:0.66)である。
アミド基には、アセトアミド(m:0.21、p:0.00)が含まれる。
カルボキシ基のハメット値は、(m:0.37、p:0.45)である。
【0071】
電子求引性基は、ハロゲン原子及びハロゲン化アルキル基が好ましく、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びトリフルオロメチルがさらに好ましく、塩素原子が最も好ましい。
電子求引性基は、トリアリールスルホニウムの複数のアリール基に導入することができる。また、一つのアリール基を複数の電子求引性基で置換してもよい。
トリアリールスルホニウム塩のアリール基が、いずれもハロゲン原子により置換されていることが好ましく、トリアリールスルホニウム塩のアリール基が、いずれも塩素原子により置換されていることが特に好ましい。
以下に、少なくとも一つのアリール基が電子求引性基により置換されているトリアリールスルホニウムの例を示す。
また、トリアリールスルホニウム塩を構成する対アニオンは、スルホネートイオン、スルフィネートイオン、カルボキシレートイオン(例、ベンゾイルホルメートイオン)、ボレートイオン、ハロゲン化物イオン(F-、Cl-、Br- - )、SO2−、HSO、PF,BF及びClOが好ましい。スルホネートイオン及びベンゾイルホルメートイオンがさらに好ましく、スルホネートイオンが最も好ましい。
以下に、各イオンの例示番号を引用して、トリアリールスルホニウム塩の例を示すが、本発明に用いるスルホニウム塩はこれらに限定されるものでない。
【0072】
【化17】

【0073】
上記の他、特開2008−200891号公報段落番号[0041]〜[0052]に記載のスルホニウム塩も好適なものとして挙げられる。
【0074】
上記重合開始剤の中でも焼き出し画像の視認性向上を図る観点からは、対イオンとして無機アニオン、例えば、PF6-、BF4-など、を有するものが好ましい。さらに、発色に優れていることから、オニウム塩としては、ジアリールヨードニウムが好ましい。
【0075】
重合開始剤は、画像記録層を構成する全固形分に対し0.1〜40質量%、好ましくは0.5〜30質量%、特に好ましくは1〜20質量%の割合で添加することができる。この範囲で、良好な感度と印刷時の非画像部の良好な汚れ難さが得られる。これらの重合開始剤は、1種のみを用いても良いし、2種以上を併用しても良い。これらの重合開始剤は他の成分と同一の層に添加してもよいし、別の層を設けそこへ添加してもよい。
【0076】
また、本発明では、前記の重合開始剤に加え、本発明の効果を失わない範囲で公知の重合開始剤を併用することが可能である。併用する重合開始剤の添加量は好ましくは、重合開始剤全質量に対して、50質量%以下、好ましくは25質量%以下、最も好ましくは10質量%以下である。
【0077】
(C)重合性化合物
本発明に用いることができる重合性化合物は、少なくとも一個のエチレン性不飽和二重結合を有する付加重合性化合物であり、末端エチレン性不飽和結合を少なくとも1個、好ましくは2個以上有する化合物から選ばれることが好ましい。このような化合物群は当該産業分野において広く知られているものであり、本発明においてはこれらを特に限定無く用いることができる。これらは、例えば、モノマー、プレポリマー、すなわち2量体、3量体及びオリゴマー、またはそれらの混合物並びにそれらの(共)重合体などの化学的形態をもつ。
【0078】
具体例としては、特開2008−105018号公報の段落番号[0089]〜[0098]に記載の化合物が挙げられる。なかでも好ましいものとして、脂肪族多価アルコール化合物と不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸など)とのエステルが挙げられる。別の好ましい重合性化合物としては特開2005−329708号公報に記載のイソシアヌル酸構造を有する重合性化合物が挙げられる。
【0079】
上記の中でも、機上現像性に関与する親水性と耐刷性に関与する重合能のバランスに優れる点から、トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ビス(アクリロイルオキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレートなどのイソシアヌル酸エチレンオキシド変性アクリレート類が特に好ましい。
【0080】
本発明において、重合性化合物は、画像記録層の全固形分に対して、好ましくは5〜80質量%、更に好ましくは25〜75質量%の範囲で使用される。
【0081】
(D)疎水化前駆体
本発明では、機上現像性を向上させるため、疎水化前駆体を用いることができる。本発明における疎水化前駆体とは、熱が加えられたときに画像記録層を疎水性に変換できる微粒子を意味する。微粒子としては、疎水性熱可塑性ポリマー微粒子、熱反応性ポリマー微粒子、疎水性化合物を内包しているマイクロカプセル、及びミクロゲル(架橋ポリマー微粒子)から選ばれる少なくともひとつの粒子が好ましい。なかでも、重合性基を有するポリマー微粒子及びミクロゲルが好ましい。
【0082】
疎水性熱可塑性ポリマー微粒子としては、1992年1月のResearch Disclosure No.33303、特開平9−123387号公報、同9−131850号公報、同9−171249号公報、同9−171250号公報及び欧州特許第931647号明細書などに記載の疎水性熱可塑性ポリマー微粒子を好適なものとして挙げることができる。
このようなポリマー微粒子を構成するポリマーの具体例としては、エチレン、スチレン、塩化ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、ビニルカルバゾール、ポリアルキレン構造を有するアクリレートまたはメタクリレートなどのモノマーのホモポリマーもしくはコポリマーまたはそれらの混合物を挙げることができる。その中で、より好適なものとして、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチルを挙げることができる。
【0083】
本発明に用いられる疎水性熱可塑性ポリマー微粒子の平均粒径は0.01〜2.0μmが好ましい。
【0084】
本発明に用いられる熱反応性ポリマー微粒子としては、熱反応性基を有するポリマー微粒子が挙げられ、これらは、熱反応による架橋、及びその際の官能基変化により疎水化領域を形成する。
【0085】
本発明に用いる熱反応性基を有するポリマー微粒子における熱反応性基としては、化学結合が形成されるならば、どのような反応を行う官能基でもよいが、ラジカル重合反応を行うエチレン性不飽和基(例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アリル基など)、カチオン重合性基(例えば、ビニル基、ビニルオキシ基など)、付加反応を行うイソシアナート基またはそのブロック体、エポキシ基、ビニルオキシ基及びこれらの反応相手である活性水素原子を有する官能基(例えば、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基など)、縮合反応を行うカルボキシ基及び反応相手であるヒドロキシ基またはアミノ基、開環付加反応を行う酸無水物及び反応相手であるアミノ基またはヒドロキシ基などを好適なものとして挙げることができる。
【0086】
本発明で用いられるマイクロカプセルとしては、例えば、特開2001−277740号公報、特開2001−277742号公報に記載のごとく、画像記録層の構成成分の全てまたは一部をマイクロカプセルに内包させたものである。なお、画像記録層の構成成分は、マイクロカプセル外にも含有させることもできる。さらに、マイクロカプセルを含有する画像記録層は、疎水性の構成成分をマイクロカプセルに内包し、親水性の構成成分をマイクロカプセル外に含有することが好ましい態様である。
【0087】
本発明においては、架橋樹脂粒子、すなわちミクロゲルを含有する態様であってもよい。このミクロゲルは、その中及び/または表面に、画像記録層の構成成分の一部を含有することができ、特に、重合性化合物をその表面に有することによって反応性ミクロゲルとした態様が、画像形成感度や耐刷性の観点から特に好ましい。
【0088】
画像記録層の構成成分をマイクロカプセル化、もしくはミクロゲル化する方法としては、公知の方法が適用できる。
【0089】
上記のマイクロカプセルやミクロゲルの平均粒径は、0.01〜3.0μmが好ましい。0.05〜2.0μmがさらに好ましく、0.10〜1.0μmが特に好ましい。この範囲内で良好な解像度と経時安定性が得られる。
【0090】
疎水化前駆体の含有量としては、画像記録層の固形分濃度で5〜90質量%の範囲であることが好ましい。
【0091】
(E)その他の成分
本発明における画像記録層には、必要に応じて、さらに他の成分を含有することができる。
【0092】
(1)バインダーポリマー
本発明の画像記録層には、画像記録層の膜強度を向上させるため、バインダーポリマーを用いることができる。本発明に用いることができるバインダーポリマーは、従来公知のものを制限なく使用でき、皮膜性を有するポリマーが好ましい。なかでも、アクリル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリウレタン樹脂が好ましい。
【0093】
なかでも本発明に好適なバインダーポリマーとしては、特開2008−195018号公報に記載のような、画像部の皮膜強度を向上するための架橋性官能基を主鎖または側鎖、好ましくは側鎖に有しているものが挙げられる。架橋性基によってポリマー分子間に架橋が形成され、硬化が促進する。
【0094】
架橋性官能基としては、(メタ)アクリル基、ビニル基、アリル基などのエチレン性不飽和基やエポキシ基等が好ましく、これらの基は高分子反応や共重合によってポリマーに導入することができる。例えば、カルボキシ基を側鎖に有するアクリルポリマーやポリウレタンとグリシジルメタクリレートとの反応、あるいはエポキシ基を有するポリマーとメタクリル酸などのエチレン性不飽和基含有カルボン酸との反応を利用できる。
【0095】
バインダーポリマー中の架橋性基の含有量は、バインダーポリマー1g当たり、好ましくは0.1〜10.0mmol、より好ましくは1.0〜7.0mmol、最も好ましくは2.0〜5.5mmolである。
【0096】
また、本発明のバインダーポリマーは、さらに親水性基を有することが好ましい。親水性基は画像記録層に機上現像性を付与するのに寄与する。特に、架橋性基と親水性基を共存させることにより、耐刷性と現像性の両立が可能になる。
【0097】
親水性基としては、たとえば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルキレンオキシド構造、アミノ基、アンモニウム基、アミド基、スルホ基、リン酸基等などがあり、なかでも、炭素数2または3のアルキレンオキシド単位を1〜9個有するアルキレンオキシド構造が好ましい。バインダーポリマーに親水性基を付与するには親水性基を有するモノマーを共重合すればよい。
【0098】
また、本発明のバインダーポリマーには、着肉性を制御するため、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基などの親油性の基を導入できる。具体的には、メタクリル酸アルキルエステルなどの親油性基含有モノマーを共重合すればよい。
【0099】
以下に本発明に用いられるバインダーポリマーの具体例(1)〜(11)を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0100】
【化18】

【0101】
【化19】

【0102】
なお、本発明におけるバインダーポリマーは質量平均モル質量(Mw)が2000以上であることが好ましく、5000以上であるのがより好ましく、1万〜30万であるのがさらに好ましい。
【0103】
本発明では必要に応じて、特開2008−195018号公報に記載のポリアクリル酸、ポリビニルアルコールなどの親水性ポリマーを用いることができる。また、親油的なバインダーポリマーと親水的なバインダーポリマーを併用することもできる。
【0104】
バインダーポリマーの含有量は、画像記録層の全固形分に対して、5〜90質量%が好ましく、5〜80質量%であるのがより好ましく、10〜70質量%であるのがさらに好ましい。
【0105】
(2)低分子親水性化合物
本発明における画像記録層は、耐刷性を低下させることなく機上現像性を向上させるために、低分子親水性化合物を含有してもよい。
低分子親水性化合物としては、例えば、水溶性有機化合物としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコール類及びそのエーテルまたはエステル誘導体類、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート等のポリヒドロキシ類、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンモノエタノールアミン等の有機アミン類及びその塩、アルキルスルホン酸、トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等の有機スルホン酸類及びその塩、アルキルスルファミン酸等の有機スルファミン酸類及びその塩、アルキル硫酸、アルキルエーテル硫酸等の有機硫酸類及びその塩、フェニルホスホン酸等の有機ホスホン酸類及びその塩、酒石酸、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、グルコン酸、アミノ酸類等の有機カルボン酸類及びその塩、ベタイン類、等が挙げられる。
【0106】
本発明においてはこれらの中でも、ポリオール類、有機硫酸塩類、有機スルホン酸塩類、ベタイン類の群から選ばれる少なくとも一つを含有させることが好ましい。
【0107】
有機スルホン酸塩の具体的な化合物としては、n−ブチルスルホン酸ナトリウム、n−ヘキシルスルホン酸ナトリウム、2−エチルヘキシルスルホン酸ナトリウム、シクロヘキシルスルホン酸ナトリウム、n−オクチルスルホン酸ナトリウムなどのアルキルスルホン酸塩;5,8,11−トリオキサペンタデカン−1−スルホン酸ナトリウム、5,8,11−トリオキサヘプタデカン−1−スルホン酸ナトリウム、13−エチル−5,8,11−トリオキサヘプタデカン−1−スルホン酸ナトリウム、5,8,11,14−テトラオキサテトラデコサン−1−スルホン酸ナトリウムなどのエチレンオキシド鎖を含むアルキルスルホン酸塩;ベンゼンスルホン酸ナトリウム、p−トルエンスルホン酸ナトリウム、p−ヒドロキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、p−スチレンスルホン酸ナトリウム、イソフタル酸ジメチル−5−スルホン酸ナトリウム、1−ナフチルスルホン酸ナトリウム、4−ヒドロキシナフチルスルホン酸ナトリウム、1,5−ナフタレンジスルホン酸ジナトリウム、1,3,6−ナフタレントリスルホン酸トリナトリウムなどのアリールスルホン酸塩などが挙げられる。塩は、カリウム塩、リチウム塩でもよい。
【0108】
有機硫酸塩としては、ポリエチレンオキシドのアルキル、アルケニル、アルキニル、アリールまたは複素環モノエーテルの硫酸塩が挙げられる。エチレンオキシド単位は1〜4であるのが好ましく、塩は、ナトリウム塩、カリウム塩またはリチウム塩が好ましい。
【0109】
ベタイン類としては、窒素原子への炭化水素置換基の炭素原子数が1〜5である化合物が好ましく、具体例としては、トリメチルアンモニウムアセタート、ジメチルプロピルアンモニウムアセタート、3−ヒドロキシ−4−トリメチルアンモニオブチラート、4−(1−ピリジニオ)ブチラート、1−ヒドロキシエチル−1−イミダゾリオアセタート、トリメチルアンモニウムメタンスルホナート、ジメチルプロピルアンモニウムメタンスルホナート、3−トリメチルアンモニオ−1−プロパンスルホナート、3−(1−ピリジニオ)−1−プロパンスルホナートなどが挙げられる。
【0110】
上記の低分子親水性化合物は、疎水性部分の構造が小さくて界面活性作用がほとんどないため、湿し水が画像記録層露光部(画像部)へ浸透して画像部の疎水性や皮膜強度を低下させることがなく、画像記録層のインキ受容性や耐刷性を良好に維持できる。
【0111】
これら低分子親水性化合物の画像記録層への添加量は、画像記録層全固形分量の0.5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。より好ましくは1質量%以上10質量%以下であり、さらに好ましくは2質量%以上8質量%以下である。この範囲で良好な機上現像性と耐刷性が得られる。
これらの化合物は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0112】
(3)感脂化剤
本発明の画像記録層には、着肉性を向上させるために、画像記録層にホスホニウム化合物、含窒素低分子化合物、アンモニウム基含有ポリマーなどの感脂化剤を用いることができる。特に、保護層に無機質の層状化合物を含有させる場合、これらの化合物は、無機質の層状化合物の表面被覆剤として機能し、無機質の層状化合物による印刷途中の着肉性低下を防止する。
【0113】
好適なホスホニウム化合物としては、特開2006−297907号公報及び特開2007−50660号公報に記載のホスホニウム化合物を挙げることができる。具体例としては、テトラブチルホスホニウムヨージド、ブチルトリフェニルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムブロミド、1,4−ビス(トリフェニルホスホニオ)ブタン=ジ(ヘキサフルオロホスファート)、1,7−ビス(トリフェニルホスホニオ)ヘプタン=スルファート、1,9−ビス(トリフェニルホスホニオ)ノナン=ナフタレン−2,7−ジスルホナートなどが挙げられる。
【0114】
上記含窒素低分子化合物としては、アミン塩類、第4級アンモニウム塩類が挙げられる。またイミダゾリニウム塩類、ベンゾイミダゾリニウム塩類、ピリジニウム塩類、キノリニウム塩類も挙げられる。なかでも、第4級アンモニウム塩類、及びピリジニウム塩類が好ましい。具体例としては、テトラメチルアンモニウム=ヘキサフルオロホスファート、テトラブチルアンモニウム=ヘキサフルオロホスファート、ドデシルトリメチルアンモニウム=p−トルエンスルホナート、ベンジルトリエチルアンモニウム=ヘキサフルオロホスファート、ベンジルジメチルオクチルアンモニウム=ヘキサフルオロホスファート、ベンジルジメチルドデシルアンモニウム=ヘキサフルオロホスファートなどが挙げられる。
【0115】
上記アンモニウム基含有ポリマーとしては、その構造中にアンモニウム基を有すれば如何なるものでもよいが、側鎖にアンモニウム基を有する(メタ)アクリレートを共重合成分として5〜80モル%含有するポリマーが好ましい。
【0116】
上記アンモニウム塩含有ポリマーは、下記の測定方法で求められる還元比粘度(単位:cSt/g/ml)の値で、5〜120の範囲のものが好ましく、10〜110の範囲のものがより好ましく、15〜100の範囲のものが特に好ましい。
【0117】
<還元比粘度の測定方法>
30%ポリマー溶液3.33g(固形分として1g)を、20mlのメスフラスコに秤量し、N−メチルピロリドンでメスアップする。この溶液をウベローデ還元粘度管(粘度計定数=0.010cSt/s)に入れ、30℃にて流れ落ちる時間を測定し、計算式(「動粘度」=「粘度計定数」×「液体が細管を通る時間(秒)」)を用いて定法により算出した。
【0118】
以下に、アンモニウム基含有ポリマーの具体例を示す。
(1)2−(トリメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=p−トルエンスルホナート/3,6−ジオキサヘプチルメタクリレート共重合体(モル比10/90)
(2)2−(トリメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=ヘキサフルオロホスファート/3,6−ジオキサヘプチルメタクリレート共重合体(モル比20/80)
(3)2−(エチルジメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=p−トルエンスルホナート/ヘキシルメタクリレート共重合体(モル比30/70)
(4)2−(トリメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=ヘキサフルオロホスファート/2−エチルヘキシルメタクリレート共重合体(モル比20/80)
(5)2−(トリメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=メチルスルファート/ヘキシルメタクリレート共重合体(モル比40/60)
(6)2−(ブチルジメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=ヘキサフルオロホスファート/3,6−ジオキサヘプチルメタクリレート共重合体(モル比20/80)
(7)2−(ブチルジメチルアンモニオ)エチルアクリレート=ヘキサフルオロホスファート/3,6−ジオキサヘプチルメタクリレート共重合体(モル比20/80)
(8)2−(ブチルジメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=13−エチル−5,8,11−トリオキサ−1−ヘプタデカンスルホナート/3,6−ジオキサヘプチルメタクリレート共重合体(モル比20/80)
(9)2−(ブチルジメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=ヘキサフルオロホスファート/3,6−ジオキサヘプチルメタクリレート/2−ヒドロキシ−3−メタクロイルオキシプロピルメタクリレート共重合体(モル比15/80/5)
【0119】
上記感脂化剤の含有量は、画像記録層の全固形分に対して0.01〜30.0質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜15.0質量%、1〜5質量%がさらに好ましい。
【0120】
(4)その他
さらにその他の成分として、界面活性剤、着色剤、焼き出し剤、重合禁止剤、高級脂肪酸誘導体、可塑剤、無機微粒子、無機質層状化合物、及び共増感剤もしくは連鎖移動剤などを添加することができる。具体的には、特開2008−284817号公報の段落番号[0114]〜[0159]、特開2006−091479号公報の段落番号[0023]〜[0027]、米国特許公開2008/0311520号明細書[0060]に記載の化合物及び添加量が好ましい。
【0121】
(G)画像記録層の形成
本発明における画像記録層は、例えば、特開2008−195018号公報の段落番号[0142]〜[0143]に記載のように、必要な上記各成分を公知の溶剤に分散または溶解して塗布液を調製し、これを支持体上にバーコーター塗布など公知の方法で塗布し、乾燥することで形成される。塗布、乾燥後に得られる支持体上の画像記録層塗布量(固形分)は、用途によって異なるが、一般的に0.3〜3.0g/mが好ましい。この範囲で、良好な感度と画像記録層の良好な皮膜特性が得られる。
【0122】
(下塗り層)
本発明の平版印刷版原版は、画像記録層と支持体との間に下塗り層(中間層と呼ばれることもある)を設けることが好ましい。下塗り層は、露光部においては支持体と画像記録層との密着を強化し、未露光部においては画像記録層の支持体からのはく離を生じやすくさせるため、耐刷性を損なわず現像性を向上させるのに寄与する。また、赤外線レーザー露光の場合は、下塗り層が断熱層として機能することにより、露光により発生した熱が支持体に拡散して感度が低下するのを防ぐ。
【0123】
下塗り層に用いる化合物としては、具体的には、特開平10−282679号公報に記載されている付加重合可能なエチレン性二重結合反応基を有しているシランカップリング剤、特開平2−304441号公報記載のエチレン性二重結合反応基を有しているリン化合物が挙げられる。より好ましいものとして、特開2005−125749号及び特開2006−188038号公報に記載のごとき、支持体表面に吸着可能な吸着性基、親水性基、及び架橋性基を有する高分子樹脂が挙げられる。この高分子樹脂は、吸着性基を有するモノマー、親水性基を有するモノマー、及び架橋性基を有するモノマーの共重合体が好ましい。より具体的には、フェノール性ヒドロキシ基、カルボキシ基、−PO32、−OPO32、−CONHSO2−、−SO2NHSO2−、−COCH2COCH3などの吸着性基を有するモノマーと、親水性のスルホ基を有するモノマーと、さらにメタクリル基、アリル基などの重合性の架橋性基を有するモノマーとの共重合体である高分子樹脂が挙げられる。この高分子樹脂は、高分子樹脂の極性置換基と、対荷電を有する置換基及びエチレン性不飽和結合を有する化合物との塩形成で導入された架橋性基を有してもよいし、上記以外のモノマー、好ましくは親水性モノマーがさらに共重合されていてもよい。
【0124】
下塗り層用高分子樹脂中の不飽和二重結合の含有量は、高分子樹脂1g当たり、好ましくは0.1〜10.0mmol、最も好ましくは2.0〜5.5mmolである。
下塗り層用の高分子樹脂は、質量平均モル質量が5000以上であるのが好ましく、1万〜30万であるのがより好ましい。
【0125】
本発明の下塗り層は、上記下塗り層用化合物の他に、経時における汚れ防止のため、キレート剤、第2級または第3級アミン、重合禁止剤、アミノ基または重合禁止能を有する官能基とアルミニウム支持体表面と相互作用する基とを有する化合物等(例えば、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)、2,3,5,6−テトラヒドロキシ−p−キノン、クロラニル、スルホフタル酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジヒドロキシエチルエチレンジアミン二酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸など)を含有することができる。
【0126】
下塗り層は、公知の方法で塗布される。下塗り層の塗布量(固形分)は、0.1〜100mg/m2であるのが好ましく、1〜30mg/m2であるのがより好ましい。
【0127】
(支持体)
本発明の平版印刷版原版に用いられる支持体としては、公知の支持体が用いられる。なかでも、公知の方法で粗面化処理され、陽極酸化処理されたアルミニウム板が好ましい。
また、上記アルミニウム板は必要に応じて、特開2001−253181号公報や特開2001−322365号公報に記載されている陽極酸化皮膜のマイクロポアの拡大処理や封孔処理、及び米国特許第2,714,066号、同第3,181,461号、同第3,280,734号及び同第3,902,734号の各明細書に記載されているようなアルカリ金属シリケートあるいは米国特許第3,276,868号、同第4,153,461号及び同第4,689,272号の各明細書に記載されているようなポリビニルホスホン酸などによる表面親水化処理を適宜選択して行うことができる。
支持体は、中心線平均粗さが0.10〜1.2μmであるのが好ましい。
【0128】
本発明の支持体には必要に応じて、裏面に、特開平5−45885号公報に記載されている有機高分子化合物、特開平5−45885号公報に記載されているケイ素のアルコキシ化合物を含むバックコート層を設けることができる。
【0129】
(保護層)
本発明の平版印刷版原版は、画像記録層の上に保護層(オーバーコート層)を設けることが好ましい。保護層は酸素遮断によって画像形成阻害反応を抑制する機能の他、画像記録層における傷の発生防止、及び高照度レーザー露光時のアブレーション防止の機能を有する。
【0130】
このような特性の保護層については、例えば、米国特許第3,458,311号明細書及び特公昭55−49729号公報に記載されている。保護層に用いられる酸素低透過性のポリマーとしては、水溶性ポリマー、水不溶性ポリマーのいずれをも適宜選択して使用することができる。具体的には、例えば、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、水溶性セルロース誘導体、ポリ(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。
【0131】
また、保護層には酸素遮断性を高めるため、特開2005−119273号公報に記載のように天然雲母、合成雲母等の無機質の層状化合物を含有することが好ましい。
また、保護層には、可撓性付与のための可塑剤、塗布性を向上させための界面活性剤、表面の滑り性を制御する無機微粒子など公知の添加物を含むことができる。また、画像記録層の説明に記載した感脂化剤を保護層に含有させることもできる。
【0132】
保護層は、公知の方法で塗布される。保護層の塗布量としては、乾燥後の塗布量で、0.01〜10g/mの範囲であることが好ましく、0.02〜3g/mの範囲がより好ましく、最も好ましくは0.02〜1g/mの範囲である。
【0133】
〔製版方法〕
本発明の平版印刷版原版の製版は機上現像方法で行うことが好ましい。機上現像方法は、平版印刷版原版を画像露光する工程と、露光後の平版印刷版原版になんらの現像処理を施すことなく、油性インキと水性成分とを供給して、印刷する印刷工程とを有し、該印刷工程の途上において平版印刷版原版の未露光部分が除去されることを特徴とする。画像様の露光は平版印刷版原版を印刷機に装着した後、印刷機上で行ってもよいし、プレートセッターなどで別途行ってもよい。後者の場合は、露光済み平版印刷版原版は現像処理工程を経ないでそのまま印刷機に装着される。その後、該印刷機を用い、油性インキと水性成分とを供給してそのまま印刷することにより、印刷途上の初期の段階で機上現像処理、すなわち、未露光領域の画像記録層が除去され、それに伴って親水性支持体表面が露出され非画像部が形成される。油性インキ及び水性成分としては、通常の平版印刷用の印刷インキと湿し水が用いられる。
以下、さらに詳細に説明する。
【0134】
本発明において画像露光に用いられる光源としては、レーザーが好ましい。本発明に用いられるレーザーは、特に限定されないが、波長760〜1200nmの赤外線を照射する固体レーザー及び半導体レーザーなどが好適に挙げられる。
赤外線レーザーに関しては、出力は100mW以上であることが好ましく、1画素当たりの露光時間は20マイクロ秒以内であるのが好ましく、また照射エネルギー量は10〜300mJ/cmであるのが好ましい。レーザーにおいては、露光時間を短縮するためマルチビームレーザーデバイスを用いるのが好ましい。
【0135】
露光された平版印刷版原版は、印刷機の版胴に装着される。レーザー露光装置付きの印刷機の場合は、平版印刷版原版を印刷機の版胴に装着したのち画像露光される。
【0136】
画像様に露光した平版印刷版原版に湿し水と印刷インキとを供給して印刷すると、画像記録層の露光部においては、露光により硬化した画像記録層が、親油性表面を有する印刷インキ受容部を形成する。一方、未露光部においては、供給された湿し水及び/または印刷インキによって、未硬化の画像記録層が溶解または分散して除去され、その部分に親水性の表面が露出する。その結果、湿し水は露出した親水性の表面に付着し、印刷インキは露光領域の画像記録層に着肉して印刷が開始される。
【0137】
ここで、最初に版面に供給されるのは、湿し水でもよく、印刷インキでもよいが、湿し水が除去された画像記録層成分によって汚染されることを防止する点で、最初に印刷インキを供給するのが好ましい。
このようにして、本発明の平版印刷版原版はオフセット印刷機上で機上現像され、そのまま多数枚の印刷に用いられる。
【実施例】
【0138】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0139】
〔合成例1:特定シアニン色素(例示化合物(IR−1))の合成〕
3−メトキシプロピルトシラート47gと2,3,3,5−テトラメチル−3H−インドール39.0gを120℃で3時間攪拌し、室温まで放冷後、析出した結晶をろ過し、十分に酢酸エチルで洗浄し中間体(1)60gを得た。得られた中間体(1)60gに対して、2,5−ビス[(フェニルアミノ)メチレン]シクロペンチリデンクロロアミニウムクロライド19.8g、無水酢酸14.7g、トリエチルアミン36.4g、2−プロパノール436mlを加え、80℃でさらに3時間攪拌した。反応終了後、室温まで放冷し、析出した結晶をろ過し、十分に水で洗浄し、(A)53.0gを得た(収率47%)。
【0140】
ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン2.4gとN−メチルピロリドン(以下、NMP)15mlの溶液を、0℃に冷却し、水素化ナトリウム(関東化学製, dispersion in paraffin liquid, 60質量%)0.38gを少量ずつ添加し、30分間攪拌した。攪拌後、 (A)5.0gのNMP15mlの溶液を滴下し、さらに30分間攪拌し、室温まで昇温した。その後、ヘキサフルオロリン酸カリウム2.5g、水150mlの水溶液に対して、上記反応液を滴下し、室温下30分間攪拌した。析出した結晶をろ過・水洗い・乾燥し、例示シアニン色素(IR−1)4.0gを得た(収率37%)。1H−NMR(溶媒DMSO)により同定を行った。
【0141】
【化20】

【0142】
[実施例1〜13、及び比較例1〜11]
【0143】
1.平版印刷版原版(1)〜(13)及び(21)〜(31)の作製
(1)支持体の作製(その1)
厚み0.3mmのアルミニウム板(材質JIS A 1050)の表面の圧延油を除去するため、10質量%アルミン酸ソーダ水溶液を用いて50℃で30秒間、脱脂処理を施した後、毛径0.3mmの束植ナイロンブラシ3本とメジアン径25μmのパミス−水懸濁液(比重1.1g/cm)を用いアルミニウム板表面を砂目立てして、水でよく洗浄した。この板を45℃の25質量%水酸化ナトリウム水溶液に9秒間浸漬してエッチングを行い、水洗後、さらに60℃で20質量%硝酸に20秒間浸漬し、水洗した。この時の砂目立て表面のエッチング量は約3g/mであった。
【0144】
次に、60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、硝酸1質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む)、液温50℃であった。交流電源波形は、電流値がゼロからピークに達するまでの時間TPが0.8msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電流密度は電流のピーク値で30A/dm、補助陽極には電源から流れる電流の5%を分流させた。硝酸電解における電気量はアルミニウム板が陽極時の電気量175C/dmであった。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0145】
続いて、塩酸0.5質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む)、液温50℃の電解液にて、アルミニウム板が陽極時の電気量50C/dmの条件で、硝酸電解と同様の方法で、電気化学的な粗面化処理を行い、その後、スプレーによる水洗を行った。
次に、この板に15質量%硫酸(アルミニウムイオンを0.5質量%含む)を電解液として電流密度15A/dmで2.5g/mの直流陽極酸化皮膜を設けた後、水洗、乾燥して支持体(1)を作製した。
その後、非画像部の親水性を確保するため、支持体(1)に2.5質量%3号ケイ酸ソーダ水溶液を用いて60℃で10秒間、シリケート処理を施し、その後、水洗して、支持体(2)を得た。Siの付着量は10mg/mであった。この基板の中心線平均粗さ(Ra)を直径2μmの針を用いて測定したところ、0.51μmであった。
【0146】
(2)下塗り層の形成
次に、上記支持体(2)上に、下記下塗り層用塗布液(1)を乾燥塗布量が20mg/mになるよう塗布して、以下の実験に用いる下塗り層を有する支持体を作製した。
【0147】
<下塗り層用塗布液(1)>
・下記構造の下塗り層用化合物(1) 0.18g
・ヒドロキシエチルイミノ二酢酸 0.10g
・メタノール 55.24g
・水 6.15g
【0148】
【化21】

【0149】
(3)画像記録層の形成
上記のようにして形成された下塗り層上に、下記組成の画像記録層塗布液(1)をバー塗布した後、100℃60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量1.0g/mの画像記録層を形成した。
画像記録層塗布液(1)は下記感光液(1)及びミクロゲル液(1)を塗布直前に混合し攪拌することにより得た。
【0150】
<感光液(1)>
・バインダーポリマー(1)〔下記構造〕 0.240g
・赤外線吸収剤(表1記載の化合物) 0.030g
・重合開始剤(表1記載の化合物) 0.162g
・重合性化合物
トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート
(NKエステルA−9300、新中村化学(株)製) 0.192g
・低分子親水性化合物
トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート 0.062g
・低分子親水性化合物(1)〔下記構造〕 0.050g
・感脂化剤 ホスホニウム化合物(1)〔下記構造〕 0.055g
・感脂化剤
ベンジル−ジメチル−オクチルアンモニウム・PF6塩 0.018g
・フッ素系界面活性剤(1)〔下記構造〕 0.008g
・2−ブタノン 1.091g
・1−メトキシ−2−プロパノール 8.609g
【0151】
<ミクロゲル液(1)>
・ミクロゲル(1) 2.640g
・蒸留水 2.425g
【0152】
上記の、バインダーポリマー(1)、ホスホニウム化合物(1)、低分子親水性化合物(1)、及びフッ素系界面活性剤(1)の構造は、以下に示す通りである。
【0153】
【化22】

【0154】
−ミクロゲル(1)の合成−
油相成分として、トリメチロールプロパンとキシレンジイソシアナート付加体(三井武田ケミカル(株)製、タケネートD−110N)10g、ペンタエリスリトールトリアクリレート(日本化薬(株)製、SR444)3.15g、及びパイオニンA−41C(竹本油脂(株)製)0.1gを酢酸エチル17gに溶解した。水相成分としてPVA−205の4質量%水溶液40gを調製した。油相成分及び水相成分を混合し、ホモジナイザーを用いて12,000rpmで10分間乳化した。得られた乳化物を、蒸留水25gに添加し、室温で30分攪拌後、50℃で3時間攪拌した。このようにして得られたミクロゲル液の固形分濃度を、15質量%になるように蒸留水を用いて希釈し、これを前記ミクロゲル(1)とした。ミクロゲルの平均粒径を光散乱法により測定したところ、平均粒径は0.2μmであった。
【0155】
(3)保護層の形成
上記画像記録層上に、さらに下記組成の保護層塗布液(1)をバー塗布した後、120℃、60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量0.15g/mの保護層を形成して平版印刷版原版(1)〜(13)〔実施例1〜13用〕、及び平版印刷版原版(21)〜(31)〔比較例1〜11用〕を得た。
【0156】
<保護層塗布液(1)>
・無機質層状化合物分散液(1) 1.5g
・ポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製CKS50、スルホン酸変性、けん化度99モル%以上、重合度300)6質量%水溶液 0.55g
・ポリビニルアルコール((株)クラレ製PVA−405、けん化度81.5モル%、重合度500)6質量%水溶液 0.03g
・日本エマルジョン(株)製界面活性剤
(エマレックス710)1質量%水溶液 0.86g
・イオン交換水 6.0g
【0157】
(無機質層状化合物分散液(1)の調製)
イオン交換水193.6gに合成雲母ソマシフME−100(コープケミカル(株)製)6.4gを添加し、ホモジナイザーを用いて平均粒径(レーザー散乱法)が3μmになるまで分散した。得られた分散粒子のアスペクト比は100以上であった。
【0158】
2.平版印刷版原版 (14)〜(16)の作製
下塗り層を有する上記の支持体に、下記の画像記録層塗布液(2)をバー塗布した後、70℃、60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量0.6g/mの画像記録層を作製し、平版印刷版原版(14)〜(16)〔実施例14〜16用〕を得た。
【0159】
<画像記録層塗布液(2)>
・ポリマー微粒子水分散液(1) 20.0g
・赤外線吸収染料(表1記載の化合物) 0.2g
・重合開始剤 Irgacure250(チバスペシャリティケミカルズ製) 0.5g
・重合性化合物 SR-399(サートマー社製) 1.50g
・メルカプト−3−トリアゾール 0.2g
・Byk336(Byk Chimie社製) 0.4g
・KlucelM(Hercules社製) 4.8g
・ELVACITE4026(Ineos Acrylica社製) 2.5g
・n−プロパノール 55.0g
・2−ブタノン 17.0g
【0160】
なお、上記組成中の商品名で記載の化合物は下記の通りである。
・IRGACURE 250:(4−メトキシフェニル)[4−(2−メチルプロピル)フェニル]ヨードニウム=ヘキサフルオロホスファート(75質量%プロピレンカーボナート溶液)
・SR-399:ジペンタエリスリトールペンタアクリレート
・BYK 336:変性ジメチルポリシロキサン共重合体(25質量%キシレン/メトキシプロピルアセテート溶液)
・KLUCEL M:ヒドロキシプロピルセルロース(2質量%水溶液)
・ELVACITE 4026:高分岐ポリメチルメタクリレート(10質量%2−ブタノン溶液)
【0161】
(ポリマー微粒子水分散液(1)の製造)
1000mlの4つ口フラスコに撹拌機、温度計、滴下ロート、窒素導入管、還流冷却器を施し、窒素ガスを導入して脱酸素を行いつつ、ポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレート(PEGMA)20g、蒸留水200g及びn−プロパノール200gを加えて内温が70℃となるまで加熱した。次に予め混合されたスチレン(St)10g、アクリロニトリル(AN)80g及び2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.8gの混合物を1時間かけて滴下した。滴下終了後5時間そのまま反応を続けた後、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.4gを添加し、内温を80℃まで上昇させた。続いて、0.5gの2,2’-アゾビスイソブチロニトリルを6時間かけて添加した。合計で20時間反応させた段階でポリマー化は98%以上進行しており、質量比でPEGMA/St/AN=10/10/80のポリマー微粒子水分散液(1)が得られた。このポリマー微粒子の粒径分布は、粒子径150nmに極大値を有していた。
【0162】
ここで、粒径分布は、ポリマー微粒子の電子顕微鏡写真を撮影し、写真上で微粒子の粒径を総計で5000個測定し、得られた粒径測定値の最大値から0の間を対数目盛で50分割して各粒径の出現頻度をプロットして求めた。なお非球形粒子については写真上の粒子面積と同一の粒子面積を持つ球形粒子の粒径値を粒径とした。
【0163】
3.平版印刷版原版 (17)〜(19)の作製
下塗り層を有する上記の支持体に、下記の画像記録層塗布液(3)をバー塗布した後、70℃、60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量0.6g/mの画像記録層を作製した。
【0164】
<画像記録層塗布液(3)>
・ポリマー微粒子水分散液(2) 33.0g
・赤外線吸収剤(表1に記載の化合物) 1.0g
・1,5−ナフタレンジスルホン酸ジナトリウム 0.1g
・ポリアクリル酸(質量平均モル質量20000) 0.4g
・メタノール 16.0g
【0165】
(ポリマー微粒子水分散液(2)の製造)
1000mlの4つ口フラスコに撹拌機、温度計、滴下ロート、窒素導入管、還流冷却器を施し、窒素ガスを導入して脱酸素を行いつつ蒸留水350mLを加えて内温が80℃となるまで加熱した。分散剤としてドデシル硫酸ナトリウム1.5gを添加し、さらに開始剤として過硫化アンモニウム0.45gを添加し、次いでスチレン45.0gを滴下ロートから約1時間かけて滴下した。滴下終了後5時間そのまま反応を続けた後、水蒸気蒸留で未反応単量体を除去した。その後冷却しアンモニア水でpH6に調整し、最後に不揮発分が15質量%となるように純水を添加してポリマー微粒子水分散液(2)を得た。このポリマー微粒子の粒径分布は、粒子径60nmに極大値を有していた。
【0166】
上記のようにして画像記録層を形成して平版印刷版原版(17)〜(19)〔実施例17〜19用〕を得た。
【0167】
4.平版印刷版原版(20)の作製
前記保護層塗布液(1)において無機質層状化合物分散液(1)を加えなかった保護層塗布液(3)を用いた以外は平版印刷版原版(1)の作製と同様にして平版印刷版原版(20)〔実施例20用〕を得た。
【0168】
5.平版印刷版原版の評価
(1)検版性
得られた平版印刷版原版(1)〜(31)を水冷式40W赤外線半導体レーザー搭載のCreo社製Trendsetter3244VXにて、出力11.7W、外面ドラム回転数250rpm、解像度2400dpiの条件で露光した。得られた露光済み原版をそのまま暗所、25℃、相対湿度50%の雰囲気下で30分間静置した後に検版性を評価した。検版のし易さは、L表色系のL値(明度)を用い、露光部のL値と未露光部のL値の差ΔLで表記した。ΔLの値が大きい程、検版性が優れることを意味しており、ΔL値2.0程度が目視での検版が何とか可能なレベルであり、ΔL値が3.0以上であれば検版性に優れているといえる。測定は、KONICA−MINOLTA製分光測色計CM2600dとオペレーションソフトCM−S100Wを用い、SCE(正反射光除去)方式で行った。SCE方式では、正反射光を除去し、拡散光だけを測定しているので、目視に近い色の評価となり、実際の人による検版とよく相関する。結果を表1に示す。
【0169】
(2)機上現像性
上記のようにして得られた各平版印刷版原版を赤外線半導体レーザー搭載の富士フイルム(株)製Luxel PLATESETTER T−6000IIIにて、外面ドラム回転数1000rpm、レーザー出力70%、解像度2400dpiの条件で露光した。露光画像にはベタ画像および20μmドットFMスクリーンの50%網点チャートを含むようにした。
得られた露光済み原版を現像処理することなく、(株)小森コーポレーション製印刷機LITHRONE26の版胴に取り付けた。Ecolity−2(富士フイルム(株)製)/水道水=2/98(容量比)の湿し水とValues−G(N)墨インキ(大日本インキ化学工業(株)製)とを用い、LITHRONE26の標準自動印刷スタート方法で湿し水とインキとを供給して機上現像した後、毎時10000枚の印刷速度で、特菱アート(76.5kg)紙に印刷を100枚行った。
画像記録層の未露光部の印刷機上での機上現像が完了し、非画像部にインキが転写しない状態になるまでに要した印刷用紙の枚数を機上現像性として計測した。
【0170】
(3)耐刷性
機上現像が完了して、良好な印刷物が得られた。その状態で印刷を続けた。印刷枚数を増やしていくと徐々に画像記録層が磨耗するため印刷物上のインキ濃度が低下した。印刷物におけるFMスクリーン50%網点の網点面積率をグレタグ濃度計で計測した値が印刷100枚目の計測値よりも5%低下したときの印刷部数を刷了枚数として耐刷性を評価した。結果を表1に示す。
【0171】
表1中の記号: 赤外線吸収剤IR番号および重合開始剤の記号は本明細書の例示化合物番号を示す。比較用の赤外線吸収剤R−1、R−2、及び比較用の重合開始剤R−3、R−4の構造は下に示す。
【0172】
【化23】

【0173】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、印刷インキと湿し水とを供給することにより未露光部分を除去可能な画像記録層を有する平版印刷版原版であって、(a)一般式(1)で表される赤外線吸収剤、(b)スルホニウム塩化合物及び非対称のジアリールヨードニウム塩化合物から選択される少なくとも1つの重合開始剤、並びに(c)重合性化合物、を含有する画像記録層を有することを特徴とする平版印刷版原版。
【化1】

一般式( 1 ) 中、R1a及びR2aは、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子から選ばれる少なくとも一つの原子を有するアルキル基を表す。mは1または2の整数を表す。Yは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、硫黄原子、酸素原子または炭素原子数12個以下のジアルキルメチレン基を示す。Z及びZはそれぞれ独立に、芳香族炭化水素環または複素芳香環を表す。Bはn価の有機基を表し、nは2から6の整数を表す。Aは、ハロゲン化物イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン及びスルホン酸イオンから選ばれるカウンターアニオンを表す。
【請求項2】
前記一般式(1)中のR1a及びR2aが、エ―テル基、エステル基、アミド基、チオエーテル基及びケトン基から選ばれる少なくとも1つの基を有するアルキル基であることを特徴とする請求項1記載の平版印刷版原版。
【請求項3】
前記一般式(1)中のR1a及びR2aが、エ―テル基及びエステル基から選ばれる少なくとも1つの基を有するアルキル基であることを特徴とする請求項1または2記載の平版印刷版原版。
【請求項4】
前記一般式(1)中のBが下記一般式(2)で表わされ、nが2であるか、または、一般式(1)中のBが一般式(3)で表わされ、nが3であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
【化2】

一般式(2)及び一般式(3)中、Dはそれぞれ独立に、硫黄原子、酸素原子またはNRを表す。Rは水素原子またはアルキル基を表す。Xは、単結合、スルホニル基、カルボニル基、アゾ基、フェニレン基、または下記一般式(4)で表される基を表す。Xは、窒素原子、メチン基(−CH<)、または芳香族炭化水素基を表す。一般式(4)中、R1b及びR2bはそれぞれ独立に、水素原子またはアルキル基を表す。kは1または2の整数を表す。
【化3】

【請求項5】
前記一般式(2)または一般式(3)中のDが硫黄原子または酸素原子であることを特徴とする請求項4記載の平版印刷版原版。
【請求項6】
前記ヨードニウム塩化合物が、電子供与性基を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
【請求項7】
前記スルホニウム塩化合物が、電子求引性基を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に平版印刷版原版。
【請求項8】
前記画像記録層が、親水性基を有するバインダーポリマーを含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
【請求項9】
前記画像記録層が、疎水化前駆体を含有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
【請求項10】
前記平版印刷版原版が、支持体と画像記録層の間に下塗り層を有し、下塗り層に基板吸着性基及び重合性基を有するポリマーを含有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
【請求項11】
前記画像記録層の上に、無機質層状化合物を含む保護層を有することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
【請求項12】
請求項1〜11に記載の平版印刷版原版を、赤外線レーザーで画像様に露光する工程と、露光後の平版印刷版原版になんらの現像処理を施すことなく、印刷インキと湿し水とを供給して、印刷する印刷工程とを有し、該印刷工程の途上において画像記録層の赤外線レーザー未露光部分が除去されることを特徴とする平版印刷方法。

【公開番号】特開2010−234589(P2010−234589A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83714(P2009−83714)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】