説明

機械式自動変速装置の制御システム

【課題】本発明は、潤滑油の粘性に関わらずギヤ入れをすることのできる機械式自動変速装置の制御システムを提供する。
【解決手段】ギヤの切り換えを行う(S10)。変速アクチュエータの作動が不完全でギヤ入れが失敗し、潤滑油温度が所定温度以下であれば、係合クラッチのスリップ制御を行いエンジンの回転速度を上昇させる(S12-S16)。そして、係合していない側のクラッチを接続する(S18)。再度第1シンクロ機構を作動させ、切断されているアウタクラッチ側のギヤ段を4速から2速へ変速する(S20)。また、潤滑油温度が所定温度より高く、ギヤ入れのリトライ回数が2回より多ければ変速機30の故障と判定する(S22-S24)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械式自動変速装置の制御システムに関し、詳しくは、減速シフト時のクラッチ制御に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の変速装置として、手動変速装置における変速機の操作(セレクト及びシフト)及びクラッチの断接をアクチュエータにより作動させることで自動変速を可能とする機械式自動変速装置が知られている。当該機械式自動変速装置では、変速機への入力トルクを伝達する2つのクラッチを設け、2つのクラッチによって交互に駆動トルクを変速機に伝達し変速するデュアルクラッチ式自動変速装置が知られている。
【0003】
このようなデュアルクラッチ式自動変速装置では、変速時のクラッチ切断による駆動トルク変化の抑制及び変速期間の短縮のために、車両の走行状況等に基づき、次に選択される変速段を予測し、現在接続していないスタンバイしているクラッチ側で予測した変速段に予め変速する所謂プレシフトを行い、クラッチを切り換えることにより変速を行うようにしている。
【0004】
しかしながら、デュアルクラッチ式自動変速装置は、所定の変速段であるときに、次の変速段を予測して予め変速しておく方法では、予測が当たった場合には変速のレスポンスを向上可能であるが、例えば変速中に運転者により次の変速要求があった場合は、実行中の変速を達成したのち、次の変速要求に基づく変速機構の動作を開始し、変速機構の動作が完了した後にクラッチの切り換えを開始するため、レスポンスが劣ることになる。
【0005】
したがって、特許文献1の自動変速装置のように、変速中であっても、スタンバイ側クラッチの解放が完了したと判断されるとプリシフト動作を開始し、プリシフト制御の開始タイミングを早期化して、連続変速要求時のレスポンスを向上している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−41601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の自動変速装置では、プレシフト時に変速機の潤滑油(例えばATF)の温度が低く粘度が高いような場合には、シンクロメッシュ機構を作動させてギヤ段の変速を行っても、潤滑油の粘度が高いことにより回転抵抗が増大してシンクロメッシュ機構による同期ができずギヤ入れが困難になる虞がある。
【0008】
したがって、ギヤ入れが困難になると、制御部にてギヤ入れ不可、延いては自動変速装置の故障と判定されることとなり好ましいことではない。
本発明は、この様な問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、潤滑油の粘性に関わらずギヤ入れをすることのできる機械式自動変速装置の制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1の機械式自動変速装置の制御システムでは、車両に搭載され内燃機関からの動力が入力され、内燃機関の動力を断接するクラッチをそれぞれ有する2本の入力軸と、前記2本の入力軸に対して平行に配置される副軸と、前記2本の入力軸と前記副軸に設けられる複数のギヤと、前記複数のギヤの係合状態を切り換える複数の切換手段とを有し、前記複数の切換手段を作動させ前記内燃機関から入力される動力を増減速し出力軸より出力する変速手段と、前記2本の入力軸のそれぞれに設けられるクラッチと前記複数の切換手段とを制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、一方の前記入力軸に設けられるクラッチが接続され、他方の前記入力軸に設けられる前記切換手段を作動させ前記ギヤの切り換え時に、前記車両の走行に必要な動力を伝達しつつ、前記一方の入力軸と前記内燃機関とが相対回転可能なように前記一方の入力軸に設けられるクラッチを作動させ、前記内燃機関の回転速度を他方の入力軸の切り換え後のギヤ列に見合った回転速度となるように上昇させた後に、前記他方の入力軸に設けられるクラッチを接続し前記他方の入力軸の回転速度を上昇させる回転同期制御を行うことを特徴とする。
【0010】
また、請求項2の機械式自動変速装置の制御システムでは、請求項1において、ギヤの係合状態を検出する係合状態検出手段を備え、前記制御手段は、前記切換手段作動後に、前記係合状態検出手段にて切り換え後のギヤ列の係合を所定時間検出できないと、前記回転同期制御を行うことを特徴とする。
【0011】
また、請求項3の機械式自動変速装置の制御システムでは、請求項1或いは2において、前記変速手段内の潤滑油の温度を検出する温度検出手段を備え、前記制御手段は、前記温度検出手段にて検出される前記潤滑油温度が所定温度以下であると、前記回転同期制御を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、一方の入力軸に設けられるクラッチが接続され、他方の入力軸に設けられる切換手段を作動させギヤの切り換え時に、車両の走行に必要な駆動力を伝達しつつ、一方の入力軸と内燃機関とが相対回転可能なように一方の入力軸に設けられるクラッチを作動させ、内燃機関の回転速度を他方の入力軸の切り換え後のギヤに見合った回転速度となるように上昇させた後に、他方の入力軸に設けられるクラッチを接続し前記他方の入力軸の回転速度を上昇させる回転同期制御を行うようにしている。
【0013】
このように、車両の走行に必要な駆動力を駆動輪に伝達しつつ、内燃機関の回転速度を上昇させ、ギヤを切り換える側の他方の入力軸に設けられるクラッチを接続させ他方の入力軸の回転速度を切り換え後のギヤに見合った回転速度としており、一方の入力軸に設けられるクラッチを完全に切断していないので車両を走行させる動力の抜けを起こすことなく、回転速度を同期させて容易に、そして確実にギヤの係合を行うことができる。また、変速時に回転速度を同期させて確実にギヤの係合を行うことができるので、変速時間を短縮することができる。
【0014】
また、請求項2の発明によれば、切換手段作動後に、係合状態検出手段にて切り換え後のギヤの係合を所定時間検出できない、即ちギヤ列の係合が困難であり、ギヤの係合に時間を要する場合に回転同期制御を行って確実にギヤの係合を行っているので、ギヤの係合不可による機械式自動変速装置の不適切な故障判定を減らすことができる。
【0015】
また、請求項3の発明によれば、潤滑油温度が所定温度以下であると、回転同期制御を行うようにしており、例えば、潤滑油の温度が低く、潤滑油の粘度の高く切換手段での回転速度の同期が困難な状況で回転同期制御を行うので、確実にギヤの係合を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る機械式自動変速装置の制御システムの概略構成図である。
【図2】本発明に係る機械式自動変速装置の制御システムのシフトダウン時の回転同期制御のフローチャートである。
【図3】本発明に係る機械式自動変速装置の制御システムのシフトダウン時の回転制御でのストローク量と回転速度の変化を時系列で示す図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る機械式自動変速装置の制御システムの概略構成図である。以下、当該機械式自動変速装置の制御システムの構成を説明する。
【0018】
図1に示すように、機械式自動変速装置の制御システムは、図示しない車両に搭載され、大きく分けてエンジン(内燃機関)10、クラッチユニット20、機械式自動変速機(以下、変速機という)(変速手段)30、エンジン電子コントロールユニット(以下、エンジンECUという)70及び車両電子コントロールユニット(以下、車両ECUという)(制御手段)80で構成される。なお、それぞれの構成要素は、電気的に接続されている。
【0019】
このように構成された機械式自動変速装置の制御システムを搭載した車両は、走行用動力源であるエンジン10がクラッチユニット20を介して変速機30に接続され、エンジン10からの動力をクラッチユニット20及び変速機30を経て図示しない左右の駆動輪に伝達することにより車両を走行させるようになっている。そして、エンジン10からの動力がクラッチユニット20及び変速機30を介して駆動輪に伝達されることにより、変速機30の変速段に応じた動力により駆動輪が駆動されて車両が走行する。
【0020】
エンジン10は、運転者の図示しないアクセルペダルの操作量に応じて動力を発生するものであり、出力軸11より動力を出力する。また、エンジン10には、エンジン10の回転速度を検出する図示しないクランク角センサが設けられている。
【0021】
クラッチユニット20は、図1に示すように、アウタクラッチ(クラッチ)21及びインナクラッチ(クラッチ)22からなり、クラッチユニット20の入力側が、アウタクラッチ21及びインナクラッチ22の入力側として共用されている。アウタクラッチ21及びインナクラッチ22は、内蔵した湿式多板クラッチ21a,22aをクラッチアクチュエータ23,24により駆動操作されることにより相互に独立して接続・切断され、それぞれ接続に伴ってエンジン10からの動力がクラッチの出力側に伝達されるようになっている。
【0022】
変速機30は、クラッチユニット20と同軸上に配置されたアウタ入力軸(入力軸)31と、アウタ入力軸31に回転可能に嵌入されたインナ入力軸(入力軸)32と、アウタ入力軸31と離間して平行に配置されたアウタカウンタ軸(副軸)33と、アウタカウンタ軸33に回転可能に嵌入されたインナカウンタ軸(副軸)34と、アウタ入力軸31と離間して平行に配置されたリバース軸(副軸)48と、アウタ入力軸31と同軸上に配置された出力軸(出力軸)35とを備えている。アウタ入力軸31はアウタクラッチ21を介して、エンジン10の出力軸11から動力が伝達される一方、インナ入力軸32はインナクラッチ22を介して出力軸11から動力が伝達されるよう構成されている。また、アウタ入力軸31はベアリング36に、インナカウンタ軸34はベアリング37、38に、出力軸35はベアリング39により回転可能に支持されている。
【0023】
アウタ入力軸31には、アウタクラッチ側ドライブギヤ(ギヤ)40が固設されている。また、インナ入力軸32には、インナクラッチ側ドライブギヤ(ギヤ)41が固設されている。
【0024】
また、アウタカウンタ軸33には、インナクラッチ側ドリブンギヤ(ギヤ)42と第3速ドライブギヤ(ギヤ)43が固設されている。また、インナカウンタ軸34には、アウタクラッチ側ドリブンギヤ(ギヤ)44とリバースドライブギヤ(ギヤ)45と第1・2速ドライブギヤ(ギヤ)46が固設され、第4速ドライブギヤ(ギヤ)47が相対回転可能に配設されている。更にアウタカウンタ軸33には、インナカウンタ軸34に第3速ドライブギヤ43或いは第4速ドライブギヤ47を選択的に結合するためのアウタカウンタ軸33の軸線に沿ってスライド移動可能な第1シンクロ機構(切換手段)54が設けられている。
【0025】
また、リバース軸48には、リバース中間ギヤ(ギヤ)49が固設されている。
また、出力軸35には、第3速ドリブンギヤ(ギヤ)50とリバースドリブンギヤ(ギヤ)51と第1・2速ドリブンギヤ(ギヤ)52が相対回転可能に配設され、第4速ドリブンギヤ(ギヤ)53が固設されている。更に出力軸35には、出力軸35にインナクラッチ側ドライブギヤ41或いは第3速ドリブンギヤ50を選択的に結合するための出力軸35の軸線に沿ってスライド移動可能な第2シンクロ機構(切換手段)55と、出力軸35にリバースドリブンギヤ51或いは第1・2速ドリブンギヤ52を選択的に結合するための出力軸35の軸線に沿ってスライド移動可能な第3シンクロ機構(切換手段)56とが設けられている。
【0026】
そして、これらのギヤは、アウタクラッチ側ドライブギヤ40とアウタクラッチ側ドリブンギヤ44とが、インナクラッチ側ドライブギヤ41とインナクラッチ側ドリブンギヤ42とが、第3速ドライブギヤ43と第3速ドリブンギヤ50とが、リバースドライブギヤ45とリバース中間ギヤ49とが、リバース中間ギヤ49とリバースドリブンギヤ51とが、第1・2速ドライブギヤ46と第1・2速ドリブンギヤ52とが、第4速ドライブギヤ47と第4速ドリブンギヤ53とが常時噛み合っている。
【0027】
第1シンクロ機構54は、車両ECU80で制御される変速アクチュエータ57により作動される。また、第2シンクロ機構55は、車両ECU80で制御される変速アクチュエータ58により作動される。また、第3シンクロ機構56は、車両ECU80で制御される変速アクチュエータ59により作動される。
変速アクチュエータ57,58,59は、それぞれ作動させる第1シンクロ機構54、第2シンクロ機55、第3シンクロ機56の作動状態によりギヤの係合状態を検出する機能を有している。
【0028】
また、変速機30には、アウタ入力軸31の回転速度を検出する第1回転センサ60と、インナ入力軸32の回転速度を検出する第2回転センサ61と、出力軸35の回転速度に基づいて車両の速度を検出する速度センサ62とが設けられている。更に変速機30には、変速機30の潤滑油の温度検出する温度センサ63が設けられている。
【0029】
エンジンECU70は、エンジン10の総合的な制御を行うための制御装置であり、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)及び中央演算処理装置(CPU)等を含んで構成される。
エンジンECU70の入力側には、図示しないクランク角センサやエアフローセンサ等のセンサ類及び車両ECU80が電気的に接続されており、これら各種センサ類からの検出情報等が入力される。
【0030】
一方、エンジンECU70の出力側には、図示しない燃料噴射弁等及び車両ECU80が電気的に接続されている。
エンジンECU70は、これら各種センサ類にて検出する検出情報及び車両ECU80からの車両情報より、エンジン10の運転を制御する。
【0031】
車両ECU80は、車両の総合的な制御を行うための制御装置であり、エンジンECU70と同様に入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)及び中央演算処理装置(CPU)等を含んで構成される。
車両ECU80の入力側には、変速アクチュエータ57,58,5、第1回転センサ60、第2回転センサ61や車速センサ62、温度センサ63を等のセンサ類及びエンジンECU70が電気的に接続されており、これら各種センサ類からの検出情報等が入力される。
【0032】
一方、車両ECU80の出力側には、アクチュエータ23,24、変速アクチュエータ57,58,60等及びエンジンECU70が電気的に接続されている。
車両ECU80は、これら各種センサ類にて検出する検出情報及びエンジンECU70からの車両情報より、アウタクラッチ21とインナクラッチ22を断接し、第1シンクロ機構54、第2シンクロ機構55及び第3シンクロ機構56を作動させ、それぞれのギヤとそれぞれの軸との係合を変化させて変速機30のギヤ段を前進1速から6速までと後退とを制御する。そして、アウタクラッチ21を接続することで偶数段或いは後退段で、インナクラッチ22を接続することで奇数段での走行を可能とする。また、車両ECU80は、アウタクラッチ21或いはインナクラッチ22の切断されている一方のクラッチのギヤ段を接続している他方のクラッチのギヤ段の次段に予めシフトすることによりアウタクラッチ21とインナクラッチ22の断接により変速を可能とする所謂プレシフトを可能とする。
【0033】
以下、このように構成された本発明に係る機械式自動変速装置の制御システムにおけるシフトダウン時の回転同期制御について説明する。
図2は本発明に係る機械式自動変速装置の制御システムのシフトダウン時の回転同期制御のフローチャートである。図3は、シフトダウン時の回転同期制御でのストローク量と回転速度の変化を時系列で示す図の一例であり、インナ入力軸32側のギヤ段(ここでは3速)で走行中にアウタ入力軸31側のシフトダウン(ここでは4速から2速へシフトダウン)を行う場合を示す。そして、図中下段は回転速度変化を、上段はストローク量変化をそれぞれ示す。なお、図中下段の太実線はエンジン10の回転速度を、一点鎖線はアウタ入力軸31の回転速度を、太破線はインナ入力軸32を、細破線はシフトダウン時のアウタ入力軸31の目標回転速度(ここでは2速)をそれぞれ示す。また、図中上段の太実線はインナクラッチ22のストローク量を、太破線はアウタクラッチ21のストローク量を、一点鎖線は回転伝達開始位置を、二点鎖線はクラッチの滑り開始位置をそれぞれ示す。
【0034】
ここでは、一例として3速ギヤで走行中に2速ギヤへシフトダウンする場合について説明する。詳しくは、インナクラッチ22を接続して3速で走行中に、減速を行いアウタクラッチ21側のギヤ段を予めプレシフトされている4速ギヤから2速ギヤへ変速する場合について図2及び図3を用いて説明する。
【0035】
図2に示すように、ステップS10では、ギヤの切り換えを行う。詳しくは、車両ECU80の指令に基づいて、第1シンクロ機構54を作動させ、切断されて予め4速にプレシフトされているアウタクラッチ21側のギヤ段を2速へ変速を開始する。そして、第1シンクロ機構54の作動によりアウタ入力軸31の回転速度が上昇し、アウタ入力軸31が同期を開始する(図3(a))。そして、ステップS12に進む。
【0036】
ステップS12では、ギヤ入れが失敗したか、否かを判別する。詳しくは、第1シンクロ機構54の作動が不完全で変速アクチュエータ57によりギヤの係合状態が不完全と検出しているか否かを判別する。判別結果が真(Yes)で第1シンクロ機構54の作動が不完全でギヤ入れが失敗していれば、ステップS14に進む(図3(b))。また、判別結果が偽(No)で第1シンクロ機構54の作動が完全でギヤ入れが成功していれば、当該ルーチンを抜ける。
【0037】
ステップS14では、潤滑油温度が所定温度以下であるか否かを判別する。詳しくは、温度センサ63にて検出される潤滑油温度が所定温度以下で潤滑油の粘度が高くギヤ入れが困難な状態であるか否かを判別する。判別結果が真(Yes)で潤滑油温度が所定温度以下であれば、ステップS16に進む。また、判別結果が偽(No)で潤滑油温度が所定温度より高ければ、ステップS22に進む。
【0038】
ステップS16では、係合クラッチのスリップ制御及びエンジン10の回転速度を上昇させる。詳しくは、現在の車速で走行可能なトルクを駆動輪に伝達しつつ、エンジン10に対してインナ入力軸32が相対回転可能なように現在係合しているインナクラッチ22を切断側にストロークさせる。そして、エンジン10の回転速度を現在の車速でシフトダウン先の2速ギヤとした場合のアウタ入力軸31の回転速度(図3中の2速アウタ入力軸目標回転速度)相当まで上昇させる(図3(c))。そして、ステップS18に進む。
【0039】
ステップS18では、係合していない側のクラッチを接続する。詳しくは、現在係合していない側のアウタクラッチ21を瞬時にエンジン10の回転速度をアウタ入力軸31の回転速度の同期が可能な回転伝達開始位置まで接続し、アウタ入力軸31の回転速度を現在の車速でのシフトダウン先のギヤ段の回転速度相当、即ち図3の2速アウタ入力軸目標回転速度とする(図3(d))。そして、ステップS20に進む。
【0040】
ステップS20では、再度第1シンクロ機構54を作動させ、切断されているアウタクラッチ21側のギヤ段を4速から2速へ変速する。そして、本ルーチンを抜ける。
ステップS22では、リトライ回数が2回より多いか否かを判別する。詳しくは、ギヤ入れを2回より多く実施したか否かを判別する。判別結果が真(Yes)でリトライ回数が2回以下であれば、再度ギヤ入れを実施するためにステップS10へ戻る。また、判別結果が偽(No)でリトライ回数が2回より多ければ、ステップS24に進み、変速機30の故障と判定し、本ルーチンを抜ける。
【0041】
このように、本発明に係る機械式自動変速装置の制御システムでは、現在の車速で走行可能なトルクを駆動輪に伝達しつつ、エンジン10に対して例えば現在係合しているクラッチ(ここではインナクラッチ22)側の入力軸(ここではインナ入力軸32)が相対回転可能なように現在係合しているクラッチ(ここではインナクラッチ22)を切断側にストロークさせる。そして、エンジン10の回転速度を現在の車速でシフトダウン先のギヤ段(ここでは2速ギヤ)とした場合の入力軸(ここではアウタ入力軸31)の回転速度相当まで上昇させた後に、現在係合していないクラッチ(ここではアウタクラッチ21)を接続し、現在係合していないクラッチ(ここではアウタクラッチ21)側の入力軸(ここではアウタ入力軸31)の回転速度を現在の車速でシフトダウン先のギヤ段(ここでは2速ギヤ)とした時の入力軸の回転速度相当としている。
【0042】
したがって、走行に必要な駆動力を駆動輪に伝達しつつ、回転を同期させることができるので、車両を走行させる駆動力の抜け起こすことなく、容易にそして確実にギヤ列の係合を行うことができる。また、容易にギヤ列の係合を行うことができるので、変速時間を短縮することができる。
【0043】
また、潤滑油温度が所定温度以下であると、回転を同期させるように制御しているので、例えば、潤滑油の温度が低く、粘度の高いような場合でも確実にギヤ列の係合を行うことができる。
以上で発明の実施形態の説明を終えるが、本発明の形態は上記実施形態に限定されるものではない。
【0044】
例えば、本実施形態は、4速から2速への変速の場合に一例ついて説明を行ったが、これに限定されるものではなく、他のギヤ段の変速においても同様に実施することで、確実にギヤの係合を行え、変速時間を短縮することができる。
【0045】
また、ギヤ入れ失敗と潤滑油温度を判定し回転の同期を行うように制御しているが、これに限定するものではなく、例えばギヤ入れ失敗の判定のみで回転の同期を行い変速するようにしても良く、ギヤ入れを容易にすることにより変速機30の不適切な故障判定を減らすことができる。
【0046】
また、アウタ入力軸31に回転可能に嵌入されたインナ入力軸32等を備える変速機30の構成としているが、これに限定するものではなく、エンジン10の動力を2つのクラッチによって交互に動力を変速機に伝達し変速するデュアルクラッチ式自動変速装置であれば良く、本実施例と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0047】
10 エンジン(内燃機関)
21 アウタクラッチ(クラッチ)
22 インナクラッチ(クラッチ)
30 機械式自動変速機(変速手段)
31 アウタ入力軸(入力軸)
32 インナ入力軸(入力軸)
33 アウタカウンタ軸(副軸)
34 インナカウンタ軸(副軸)
35 出力軸
54 第1シンクロ機構(切換手段)
55 第2シンクロ機構(切換手段)
56 第3シンクロ機構(切換手段)
57,58,59 変速アクチュエータ(係合検出手段)
63 温度センサ (温度検出手段)
80 車両ECU (制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され内燃機関からの動力が入力され、内燃機関の動力を断接するクラッチをそれぞれ有する2本の入力軸と、前記2本の入力軸に対して平行に配置される副軸と、前記2本の入力軸と前記副軸に設けられる複数のギヤと、前記複数のギヤの係合状態を切り換える複数の切換手段とを有し、前記複数の切換手段を作動させ前記内燃機関から入力される動力を増減速し出力軸より出力する変速手段と、
前記2本の入力軸のそれぞれに設けられるクラッチと前記複数の切換手段とを制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、一方の前記入力軸に設けられるクラッチが接続され、他方の前記入力軸に設けられる前記切換手段を作動させ前記ギヤ列の切り換え時に、前記車両の走行に必要な動力を伝達しつつ、前記一方の入力軸と前記内燃機関とが相対回転可能なように前記一方の入力軸に設けられるクラッチを作動させ、前記内燃機関の回転速度を他方の入力軸の切り換え後のギヤに見合った回転速度となるように上昇させた後に、前記他方の入力軸に設けられるクラッチを接続し前記他方の入力軸の回転速度を上昇させる回転同期制御を行うことを特徴とする機械式自動変速装置の制御システム。
【請求項2】
ギヤ列の係合状態を検出する係合状態検出手段を備え、
前記制御手段は、前記切換手段作動後に、前記係合状態検出手段にて切り換え後のギヤ列の係合を所定時間検出できないと、前記回転同期制御を行うことを特徴とする、請求項1に記載の機械式自動変速装置の制御システム。
【請求項3】
前記変速手段内の潤滑油の温度を検出する温度検出手段を備え、
前記制御手段は、前記温度検出手段にて検出される前記潤滑油温度が所定温度以下であると、前記回転同期制御を行うことを特徴とする、請求項1或いは2に記載の機械式自動変速装置の制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−36567(P2013−36567A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174214(P2011−174214)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】