説明

機械設備の異常診断装置及び異常診断方法

【課題】 実際の回転速度を直接取り込むことができない場合でも、診断精度を確保しつつ、異常の有無や異常の部位を特定することができる機械設備の異常診断装置及び異常診断方法を提供する。
【解決手段】 回転或いは摺動する少なくとも一つの部品12を備えた、機械設備10の異常診断装置は、機械設備10から発生する信号を電気信号として出力する少なくとも一つの検出部20と、電気信号の波形の周波数分析を行い、周波数分析で得られたスペクトルに基づき算出した基準値より大きい該スペクトルのピークを抽出し、ピーク間の周波数と回転速度信号に基づき算出した部品の損傷に起因する周波数成分とを比較照合し、その照合結果に基づき部品の異常の有無及び異常部位を判定する信号処理部32と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械設備、例えば、減速機や電動機あるいは風車や鉄道車両等に用いられる回転或いは摺動する部品の異常診断装置及び異常診断方法に関し、特に、該部品の異常の有無や前兆、或いはその異常部位を特定する機械設備の異常診断装置及び異常診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両や発電用風車等の回転部品は、一定期間使用した後に、軸受やその他の回転部品について、損傷や摩耗等の異常の有無が定期的に検査される。この定期的な検査は、回転部品が組み込まれた機械装置を分解することにより行われ、回転部品に発生した損傷や摩耗は、担当者が目視による検査により発見するようにしている。そして、検査で発見される主な欠陥としては、軸受の場合、異物の噛み込み等によって生ずる圧痕、転がり疲れによる剥離、その他の摩耗等、歯車の場合には、歯部の欠損や摩耗等、車輪の場合には、フラット等の摩耗があり、いずれの場合も新品にはない凹凸や摩耗等が発見されれば、新品に交換される。
【0003】
また、回転部品が組み込まれた機械装置を分解することなく、実稼動状態で回転部品の異常診断を行う様々な方法が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。最も、一般的なものとしては、特許文献1に記載されるように、軸受部に加速度計を設置し、軸受部の振動加速度を計測し、更に、この信号にFFT(高速フーリエ変換)処理を行って振動発生周波数成分の信号を抽出して診断を行う方法が知られている。
【0004】
また、鉄道車両の車輪の転動面において、ブレーキの誤動作などによる車輪のロックや滑走によるレールとの摩擦・摩耗によって生じるフラットと呼ぶ平坦部の検出方法としても種々提案されている(例えば、特許文献4〜6参照。)。特許文献4では、振動センサや回転測定装置等により鉄道車両車輪、及び列車が通過する線路の欠陥状態を検出する装置について提案している。
【特許文献1】特開2002−22617号公報
【特許文献2】特開2003−202276号公報
【特許文献3】特開2004−257836号公報
【特許文献4】特表平9−500452号公報
【特許文献5】特開平4−148839号公報
【特許文献6】特表2003−535755号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記機械設備全体を分解して、担当者が目視で検査する方法では、装置から回転体や摺動部材を取り外す分解作業や、検査済みの回転体や摺動部材を再度装置に組込み直す組込み作業に多大な労力がかかり、装置の保守コストに大幅な増大を招くという問題があった。
【0006】
また、組立て直す際に検査前にはなかった打痕を回転体や摺動部材につけてしまう等、検査自体が回転体や摺動部材の欠陥を生む原因となる可能性があった。また、限られた時間内で多数の軸受を目視で検査するため、欠陥を見落とす可能性が残るという問題もあった。さらに、この欠陥の程度の判断も個人差があり実質的には欠陥がなくても部品交換が行われるため、無駄なコストがかかることにもなる。
【0007】
一方、特許文献1に記載の異常診断方法では、回転速度に基づき振動発生周波数成分を算出しているが、実際の回転速度を直接取り込むことができない場合に、算出に用いた回転速度データが実際の回転速度とずれを生じていると、診断精度が悪くなるという問題がある。
【0008】
更に、特許文献4に記載の欠陥状態の検出装置では、鉄道車両で異常振動を示す欠陥状態が車輪のフラットによるものか、車軸軸受によるのか、あるいは線路又は他の異常によるものなのかを識別できないという問題がある。
【0009】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、実際の回転速度を直接取り込むことができない場合でも、診断精度を確保しつつ、異常の有無や異常の部位を特定することができる機械設備の異常診断装置及び異常診断方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、鉄道車両における車輪のフラット等の部品の異常が発生している状態を正確に検出して、その車輪を特定することができる機械設備の異常診断装置及び異常診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、下記の構成により達成される。
(1) 回転或いは摺動する少なくとも一つの部品を備えた、機械設備の異常診断装置であって、
前記機械設備から発生する信号を電気信号として出力する少なくとも一つの検出部と、
前記電気信号の波形の周波数分析を行い、該周波数分析で得られたスペクトルに基づき算出した基準値より大きい該スペクトルのピークを抽出し、該ピーク間の周波数と回転速度信号或いは移動速度信号に基づき算出した前記部品の損傷に起因する周波数成分とを比較照合し、その照合結果に基づき前記部品の異常の有無及び異常部位を判定する信号処理部と、
を備えたことを特徴とする機械設備の異常診断装置。
(2) 前記信号処理部は、前記検出された信号に増幅処理とフィルタ処理の少なくとも一方を施し、その処理された波形にエンベロープ処理を行うことを特徴とする(1)に記載の機械設備の異常診断装置。
(3) 回転或いは摺動する少なくとも一つの部品を備えた、機械設備の異常診断装置であって、
前記機械設備から発生する信号を電気信号として出力する少なくとも一つの検出部と、
前記電気信号の単位時間当たりの波形が閾値を越えた衝撃波の頻度と、回転速度信号或いは移動速度信号に基づき、前記部品の異常の有無及び異常部位を判定する信号処理部と、
を備えたことを特徴とする機械設備の異常診断装置。
(4) 前記信号処理部は、前記電気信号の波形をフィルタ処理し、全波整流波形に変換した波形に対して、前記閾値を越えるたびに、前記回転速度信号に応じた所定の時間、前記閾値を越える値に保持するように変換した波形を構成し、該波形が所定の回転数あたりに前記閾値を越える回数によって前記部品に異常を生じた可能性を知らせることを特徴とする請求項3に記載の機械設備の異常診断装置。
(5) 前記信号処理部は、前記閾値を保持するように変換した波形が所定の回転数あたりに前記閾値を越える回数によって前記部品に異常を生じた可能性の真偽を、複数回の統計的判断で判断することを特徴とする請求項4に記載の機械設備の異常診断装置。
(6) 前記信号処理部は、前記部品の回転速度が略一定の場合に実行されることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の機械設備の異常診断装置。
(7) 前記検出部は、前記機械設備から発生する振動を検出するセンサと、前記機械設備の温度を検出するセンサが単一の筐体内に収容される一体型センサを有していることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の機械設備の異常診断装置。
(8) 前記機械設備は、軸受及び該軸受を固定する軸受箱を備え、
前記一体型センサは、前記軸受箱の平坦部に固定されることを特徴とする(7)に記載の機械設備の異常診断装置。
(9) 前記信号処理部による判定結果を伝送するデータ伝送手段を有することを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載の異常診断装置。
(10) 前記信号処理部による処理、及び前記判定結果を制御系に出力する処理を行なうマイクロコンピュータを具備したことを特徴とする(1)〜(9)のいずれかに記載の異常診断装置。
(11) 前記機械設備は鉄道車両用軸受装置であることを特徴とする(1)〜(10)のいずれかに記載の機械設備の異常診断装置。
(12) 前記機械設備は風車用軸受装置であることを特徴とする(1)〜(10)のいずれかに記載の機械設備の異常診断装置。
(13) 前記機械設備は工作機械主軸用軸受装置であることを特徴とする(1)〜(10)のいずれかに記載の機械設備の異常診断装置。
(14) 回転或いは摺動する少なくとも一つの部品を備えた、機械設備の異常診断方法であって、
前記機械設備から発生する信号を検出して電気信号として出力する工程と、
該検出された信号の波形の周波数を分析する工程と、
該分析工程で得られたスペクトルに基づき算出した基準値より大きい該スペクトルのピークを抽出し、該ピーク間の周波数と回転速度信号或いは移動速度信号に基づき算出した前記部品の損傷に起因する周波数成分とを比較照合する工程と、
該比較工程での照合結果に基づき前記部品の異常の有無及び異常部位を判定する工程と、
を備えることを特徴とする機械設備の異常診断方法。
(15) 回転或いは摺動する少なくとも一つの部品を備えた、機械設備の異常診断方法であって、
前記機械設備から発生する信号を検出して電気信号として出力する工程と、
前記電気信号の単位時間当たりの波形が閾値を越えた衝撃波の頻度と、回転速度信号或いは移動速度信号に基づき、前記部品の異常の有無を検出する工程と、
を備えたことを特徴とする機械設備の異常診断方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の機械装置の異常診断装置及び異常診断方法によれば、周波数分析で得られたスペクトルに基づき算出した基準値より大きいスペクトルのピークを抽出し、ピーク間の周波数と回転速度信号に基づき算出した回転或いは摺動する部品の損傷に起因する周波数成分とを比較照合し、その照合結果に基づき該部品の異常の有無及び異常部位を判定するので、実際の回転速度を直接取り込むことができない場合に、算出に用いた回転速度データが実際の回転速度とずれを生じているとしても、異常の有無や異常部位の特定を精度良く行うことができる。
【0012】
また、本発明の機械装置の異常診断装置及び異常診断方法によれば、簡単な構成で回転或いは摺動する部品が組み込まれている機械装置を分解することなく、異常の有無と異常の部位を特定することができ、装置の分解や組立にかかる手間を軽減できると共に、分解や組立に伴う該部品への損傷を防止することができる。
【0013】
また、本発明の機械装置の異常診断装置及び異常診断方法によれば、機械設備から発生する信号から出力された電気信号の単位時間当たりの波形が閾値を越えた衝撃波の頻度と、回転速度信号に基づき、部品の異常の有無及び異常部位を判定するので、鉄道車両における車輪のフラット等の部品の異常が発生している状態を正確に検出して、その車輪を特定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の第1実施形態に係る機械設備の異常診断装置について図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
(第1実施形態)
まず、図1〜4を参照して、第1実施形態の機械設備の異常診断装置について説明する。図1に示されるように、異常診断装置は、機械設備10から発生する信号を検出する検出部20と、検出部20の出力した電気信号から機械設備10の異常等の状態を判定するための信号処理部32及び機械設備10を駆動制御する制御部34とを備えた制御器30と、モニタや警報機等の出力装置40とを備える。
【0016】
機械設備10には、1例として回転部品である転がり軸受12が設けられており、転がり軸受12は、回転軸(図示せず)に外嵌される回転輪である内輪14と、ハウジング(図示せず)に内嵌される固定輪である外輪16と、内輪14及び外輪16との間に配置された複数の転動体である玉18と、玉18を転動自在に保持する保持器(図示せず)とを備える。
【0017】
検出部20は、運転中に機械設備10から発生する振動を検出するセンサ22を備える。センサ22は、ボルト固定、接着、ボルト固定と接着、或いはモールド材による埋め込み等によってハウジングの外輪近傍に固定されている。なお、ボルト固定の場合には、回り止め機能を備えるようにしてもよい。また、センサ22をモールドする場合には、防水性が図られると共に、外部からの加振に対する防振性が向上するため、センサ22自体の信頼性を飛躍的に向上することができる。
【0018】
また、センサ22は、振動を検出可能なものであればよく、振動センサ、AE(acoustic emission)センサ、超音波センサ、及びショックパルスセンサ等や、加速度、速度、歪み、応力、変位型等、振動を電気信号化できるものであればよい。また、ノイズが多いような機械装置に取り付ける際には、絶縁型を使用する方がノイズの影響を受けることが少ないので好ましい。さらに、センサ22が、圧電素子等の振動検出素子を使用する場合には、この素子をプラスチック等にモールドして構成してもよい。加えて、本実施形態の機械設備10は、転がり軸受12の他に、歯車や車輪(共に図示せず)等の振動をセンサ22によって検出することができる。
【0019】
また、検出部20は、機械設備から発生する振動を検出するセンサ22と、機械設備の温度を検出する温度センサや回転速度センサが単一の筐体内に収容される一体型センサであってもよい。この場合、一体型センサは、転がり軸受12を固定する軸受箱の平坦部に固定されることが好ましい(図7参照。)。温度センサは、温度がある規定値になると、バイメタルの接点が離れるか、接点が溶断することで導通しなくなる方式の温度ヒューズであってもよい。これにより、ある規定値以上の温度が検出されると、温度ヒューズが導通しなくなるので、異常を検出することができる。
【0020】
信号処理部32及び制御部34とを備える制御器30は、マイクロコンピュータ(ICチップ,CPU,MPU,DSP等)によって構成されており、データ伝送手段24を介してセンサ22からの電気信号を受け取る。
【0021】
信号処理部32は、図2に示されるように、データ蓄積分配部50、回転分析部52、フィルタ処理部54、振動分析部56、比較判定部58、内部データ保存部60を備える。データ蓄積分配部50は、センサ22からの電気信号及び回転速度に関する電気信号を受け取り一時的に蓄積すると共に、信号の種類に応じて各分析部52,56の何れかに信号を振り分ける収集および分配機能を有している。各種信号は、データ蓄積分配部50に送られる以前に、図示しないAD変換器によりデジタル信号にA/D変換され、図示しない増幅器によって増幅された後にデータ蓄積分配部50に送られる。なお、A/D変換と増幅は、順序が逆であっても構わない。
【0022】
回転分析部52は、回転速度を検出するセンサ(図示せず)からの出力信号を基に、内輪14、即ち回転軸の回転速度を算出し、算出した回転速度を比較判定部58に送信する。なお、上記検出素子が、内輪14に取り付けられたエンコーダと外輪16に取り付けられた磁石及び磁気検出素子で構成されている場合には、検出素子が出力する信号は、エンコーダの形状と回転速度に応じたパルス信号となる。回転分析部52は、エンコーダの形状に応じた所定の変換関数又は変換テーブルを有しており、関数またはテーブルに従って、パルス信号から内輪14及び回転軸の回転速度を算出する。
【0023】
フィルタ処理部54は、回転部品である転がり軸受12や歯車や車輪等の固有振動数に基づいて、振動信号からその固有振動数に対応する所定の周波数帯域のみを抽出し、不要な周波数帯域を除去する。この固有振動数は、回転部品を被測定物として、打撃法により加振し、被測定物に取付けた振動検出器又は打撃により発生した音響を周波数分析することにより容易に求めることができる。なお、被測定物が転がり軸受の場合には、内輪、外輪、転動体、保持器等のいずれかに起因する固有振動数が与えられる。一般的に、機械部品の固有振動数は複数存在し、また固有振動数での振幅レベルは高くなるため測定の感度がよい。
【0024】
振動分析部56は、センサ22からの出力信号を基に、軸受12、歯車、車輪に発生している振動の周波数分析を行う。具体的には、振動分析部56は、振動信号の周波数スペクトルを算出するFFT計算部であり、FFTのアルゴリズムに基づいて、振動の周波数スペクトルを算出する。算出された周波数スペクトルは、比較判定部58に送信される。また、振動分析部56は、FFTを行う前処理として、絶対値処理やエンベロープ処理を行い、診断に必要な周波数成分のみに変換してもよい。振動分析部56は、必要に応じて、エンベロープ処理後のエンベロープデータも併せて比較判定部58に出力する。
【0025】
比較判定部58は、振動分析部56による振動の周波数スペクトルと、この周波数スペクトルから算出される異常診断に用いられる基準値とを比較し、周波数スペクトルから基準値より大きいピーク成分を抽出して、ピーク間の周波数値を算出する。一方で、図4及び図5に示す関係式から、各回転部品の異常時に起因して発生する回転部品の振動発生周波数成分、即ち、軸受の傷成分Sx(内輪傷成分Si、外輪傷成分So、転動体傷成分Sb及び保持器成分Sc)、歯車の噛み合いに対応する傷成分Sg、車輪等の回転体の摩耗やアンバランス成分Srを求め、この振動発生周波数成分とピーク間の周波数値を比較する。さらに、比較判定部58は、判定結果に基づき、異常の有無及び異常部位の特定を行う。
【0026】
なお、振動発生周波数成分の演算は、これより前に行ってもよく、以前に同様の診断を行っている場合には、内部データ保存部60に記憶し、そのデータを用いてもよい。また、算出に用いる各回転部品の設計諸元データは事前に入力記憶させておく。
【0027】
そして、比較判定部58での判定結果は、メモリやHDD等の内部データ保存部60に保存されても良いし、データ伝送手段42を介して出力装置40へ伝送されてもよい。また、この判定結果を、機械設備10の駆動機構の動作を制御する制御部34へ出力し、この判定結果に応じた制御信号をフィードバックするようにしてもよい。
【0028】
また、出力装置40は、判定結果をモニタ等にリアルタイムに表示してもよいし、異常が検出された場合にはライトやブザー等の警報機を使って異常の通知を行なってもよい。なお、データ伝送手段24,42は、的確に信号を送受信可能であれば良く、有線でも良いし、ネットワークを考慮した無線を利用しても良い。
【0029】
次に、図3を参照して、振動信号を基にした異常診断の処理フローの具体例について説明する。
【0030】
まず、センサ31は各回転部品の振動を検出する(ステップS101)。検出された振動信号は、A/D変換器によりデジタル信号に変換され(ステップS102)、所定の増幅率で増幅された後(ステップS103)、フィルタ処理部54により回転部品の固有振動数に対応した所定の周波数帯域のみを抽出するフィルタ処理が行われる(ステップS104)。その後、振動分析部56では、フィルタ処理後のデジタル信号に対してエンベロープ処理を施し(ステップS105)、エンベロープ処理後のデジタル信号の周波数スペクトルを求める(ステップS106)。
【0031】
次に、図4及び図5に示す関係式から、回転速度信号に基づき各回転部品の異常に起因して発生する周波数成分(軸受の傷成分Sx(内輪傷成分Si、外輪傷成分So、転動体傷成分Sb及び保持器成分Sc)、歯車の噛み合いに対応する傷成分Sg、車輪等の回転体の摩耗やアンバランス成分Sr)を求める(ステップS107)。
【0032】
一方、振動分析部56で得られた周波数スペクトルから異常診断に用いられる基準値(例えば、音圧レベル或いは電圧レベル)を算出する(ステップS108)。なお、この基準値は、任意の時間における実測スペクトルデータのデジタル信号の実効値やピーク値であってもよく、またこれらの値を基に算出したものであってもよい。
【0033】
次いで、ステップS106で得られた周波数スペクトルから、ステップS108で計算された基準値より大きいピーク成分を抽出し、ピーク間の周波数値を算出する(ステップS109)。そして、ピーク間の周波数値と、ステップS107における回転部品の振動発生周波数成分とを比較し(ステップS110)、全ての成分が一致しない時は回転部品に異常なしとして判断する(ステップS111)。一方、いずれかの成分が一致する場合には、異常有りと判断してその異常部位を特定する(ステップS112)と共に、その照合結果を制御部34や、モニタや警報機等の出力装置40に出力する(ステップS113)。
【0034】
このように本実施形態では、周波数分析で得られたスペクトルに基づき算出した基準値より大きいスペクトルのピークを抽出し、ピーク間の周波数と回転速度信号に基づき算出した回転部品の損傷に起因する周波数成分とを比較照合し、その照合結果に基づき回転部品の異常の有無及び異常部位を特定するので、実際の回転速度を直接取り込むことができない場合に、算出に用いた回転速度データが実際の回転速度とずれを生じているとしても、異常の有無や異常部位の特定を精度良く行うことができる。
【0035】
また、本発明の機械装置の異常診断装置及び異常診断方法によれば、簡単な構成で回転部品が組み込まれている機械装置を分解することなく、異常の有無と異常の部位を特定することができ、装置の分解や組立にかかる手間を軽減できると共に、分解や組立に伴う該部品への損傷を防止することができる。
【0036】
さらに、本実施形態の機械装置の異常診断装置及び異常診断方法によれば、信号処理部をマイクロコンピュータで構成するようにしたので、信号処理部がユニット化され、異常診断装置の小型化やモジュール化を図ることができる。
【0037】
(第2実施形態)
次に、図6を参照して、本発明の第2実施形態に係る機械設備の異常診断装置及び異常診断方法について詳細に説明する。なお、第1実施形態と同等部分については、同一符号を付して説明を省略あるいは簡略化する。
【0038】
本実施形態は、複数の転がり軸受12,12を備えた機械設備70の異常診断装置において、センサ22を含んだ検出部とマイクロコンピュータ50からなる信号処理部とを組み合わせた、単一の処理ユニット80を転がり軸受12の軸受装置内に組み込んでいる。これにより、異常診断装置は管理を集中して行えるため、効率的な監視が可能である。また、単一の処理ユニットを軸受装置内に組み込むことで、装置全体がコンパクトになるといったメリットがあり好ましい。なお、この単一の処理ユニットは、機械設備内に組み込んでコンパクト化を図っても良く、また、複数の転がり軸受に対して単一の処理ユニットを構成するようにしても良い。
その他の構成および作用については、第1実施形態のものと同様である。
【0039】
(第3実施形態)
次に、図8〜図10を参照して、本発明の第3実施形態に係る機械設備の異常診断装置及び異常診断方法について詳細に説明する。
【0040】
図8に示すように、一両の鉄道車両100は前後2つの車台によって支持され、各車台には4個の車輪104が取り付けられている。各車輪104の軸受箱には、圧電式加速度センサ等からなる検出部としての振動センサ101が取り付けられ、地面に垂直方向の振動加速度を出力する。
【0041】
振動センサ101の出力は車両100の制御盤に設置された信号処理部である異常診断モジュール102により処理される。図9に示すように、異常診断モジュール102は、デジタル処理モジュール105を備えてデジタル処理により異常診断を行うものである。振動センサ101により検出される振動波形は、ローパスフィルタ(LPF)107を介して、AD変換器(ADC)108により離散値に変換され、CPU111に入力される。ここで、車輪104の異常であるフラットより発生する振動の周波数は、1kHzよりも低い周波数帯域にパワーが集中するとともに1kHzよりも高い範囲にも広がる。ローパスフィルタ107は、ノイズ成分が大きい1kHz以上の周波数を減衰させ、S/N比を向上させている。
【0042】
また、エンコーダ等の回転速度センサ106により検出されたパルス信号は、波形整形回路109によってパルス整形され、タイマ・カウンタ(TCNT)110によりパルスカウントを行うことで、回転速度信号がCPU111へ入力され、CPU111は、振動波形と回転速度信号をもとに異常診断を実行する。
【0043】
また、CPU111により診断された診断結果は、伝送手段を構成する通信プロトコルIP112に基づき、例えば、USB等のシリアルインターフェース(SIO)113より、ラインドライバ114を介して通信回線103へ伝送される。従って、本実施形態では、AD変換器108、タイマ・カウンタ110、CPU111、通信プロトコルIP112、シリアルインターフェース113、ラインドライバ114がデジタル処理モジュール105を構成する。
【0044】
CPU111は、回転速度センサ106により検出された回転速度信号が略一定の所定速度(本実施形態では、185〜370min−1)であるときに、サンプリング周波数fsと、サンプリング数Nsを一定にした波形ブロックデータを処理して、車輪104のフラットの検出を行う。具体的には、fs=2kHz、Ns=2000、とすると、ブロックデータの区間長=1secである。この1秒間にフラットによる振動波形パルスをカウントした回数と、回転速度センサ106で検出した車速から1秒間に車輪104が回転する回数とを比較することでフラットの検出を行っている。
【0045】
車輪104でフラットが発生している状態での振動加速度は大きく、通常の車両の振動で起きる振動加速度の値は、それよりも小さいことが多い。また、レール継ぎ目の振動は、フラットと同等、若しくは、それよりも大きい振動加速度のレベルとなる。さらに、レールのカーブにおけるレールと車輪104の摩擦からくる振動加速度のレベルも、フラットやレール継ぎ目によるものと同等である。
【0046】
一方、フラットは1回転で1回の衝撃が起るのに対して、レールの継ぎ目による衝撃の場合は、より長い周期で発生し、レール摩擦による衝撃の場合は、不規則に発生する。そこで、本実施形態では、フラット特有の振動加速度の閾値を越える衝撃(パルス)発生の規則性に着目して、ほぼ一定速度における単位時間あたりの衝撃波回数をカウントし、そのカウント数がほぼ車輪の回転数に一致していれば、フラットが発生している可能性が高い、として異常診断を行う。
【0047】
更に、本実施形態では、車両100に搭載されたセンサ101、106と異常診断モジュール102を用いて、同じ車輪104について繰り返し診断処理を行うアルゴリズムを設計し、パルス数のカウント数のバラツキやノイズの影響等を考慮した、統計的判断手法により異常診断の信頼性を向上させる。
【0048】
このような処理を行う機械装置の異常診断方法について、図10のフローチャートを参照して詳細に説明する。
【0049】
まず、振動センサ101によって検出された信号は、AD変換器108によってデジタル信号に変換されるとともに(ステップS200)、回転速度センサ106から回転速度信号が入力される。本実施形態の異常診断は、回転速度が185〜370min−1の間における略一定速度で走行中の区間に実行されるため、データの区間長における回転速度が急な加減速により15%以上変化しているかどうか判断する(ステップS201)。そして、15%以上変化する場合には、内部出力“N”を出力して異常診断は行わない(ステップS202)。
【0050】
一方、略一定速度で走行していると判断される場合は、AD変換器108によって変換されたデジタル信号を絶対値化して全波整流波形とし(ステップS203)、閾値を超えたデータをピークホールド処理により一定時間(τ)だけ閾値を超えた値に保持する(ステップS204)。この保持時間(τ)は、車輪の回転速度によって決まり、車輪1回転分よりも短い値にする。この絶対値化して一定時間保持するピークホールド処理は、安定なピーク計測を可能とする。
【0051】
そして、パルスが閾値を越えた回数をイベントカウント処理としてカウントして(ステップS205)、カウント数が車輪の回転数と一致するかどうか判断する(ステップS206)。カウント数が、車輪の回転数と一致していると認められる場合、フラット有りと判定して内部出力“F”(Flat)を出力し(ステップS207)、一致しない場合は、フラット無しと判定して“G”(Good)を外部出力する(ステップS208)。なお、本実施形態では、レール継目の影響を受けることもあるので、(車輪回転数+1)のカウント数も車輪回転数に一致したものとみなす。
【0052】
例えば、車輪の回転速度は略一定の185min−1、即ち、毎秒約3回転であって、図11(a)は1秒間の波形で3回の衝撃波が発生している様子を示している。この異常診断では、ピーク保持時間τを30msとし、衝撃波の絶対値が一旦、閾値を越えたら30msの間は、元のデータに係らず、閾値を越える値に保持している。最初に閾値を越えた時点から30msを過ぎたら同じ処理を繰り返し、データが1秒分に達したら変換された波形(閾値保持波形)から閾値を越えた回数をカウントする。図11(a)の波形に対して、絶対値処理とピークホールド処理を行ったものが図11(b)の波形である。
【0053】
さらに、本実施形態では、信頼性の高い診断結果が得られるように、1秒に1回得られる上記出力を用いて、例えば、次のいずれかの条件に基づく簡単な統計的判断を行う(ステップS209)。
(1)、連続3回の“F”を出力した。
(2)、過去10回の有効データの内、6回以上“F”を出力した。
この(1)、(2)に該当する場合は、確実にフラットを発生している車輪と判断して、最終的に外部出力として“F”を出力し(ステップS210)、(1)、(2)以外の場合は外部出力として“G”を出力する(ステップS211)。
【0054】
なお、フラットを起こしていないのに“F”を出力する場合があるのは、車輪のレール摩擦音などの雑音の影響や、フラットを起こしている車輪から車軸、又はレールを通して正常な車輪に伝播する影響による場合等である。この場合は、フラットを起こしている車輪に比べて“F”を出力する頻度は少ないので、上記(1)、(2)のような複数回の統計処理によって正確な判別が可能である。
【0055】
また、ステップS210で、外部出力として“F”が出力された場合には、シリアルインターフェース113、ラインドライバ114から通信回線103を通じて異常信号が出力され、警報機等の出力装置から車輪のフラット等の異常発生の警報を行う。
【0056】
従って、本実施形態の異常診断装置及び異常診断方法によれば、車輪104の軸受箱に取り付けられた振動センサ101による振動加速度の波形と回転速度センサ106による車輪104の回転速度信号から、車輪104がN回転する時間に、低域通過フィルタリングされた単位時間当たりの振動加速度の波形において、あらかじめ設定された閾値を越えたら、回転速度に応じてある時間だけ閾値を越えた状態を保持した波形において、閾値を越えた回数をカウントし、そのカウント回数が車輪の回転数に一致したと認識することによって車輪のフラット発生等の異常発生の警報を行うので、比較的簡単な回路やソフトで、回転部品の異常を正確に特定することができる。
【0057】
また、本実施形態では、フラットの波形を包絡線検波波形に変換せずに、絶対値化した全波整流波形に基づいて、異常診断が行われるので、演算量が少なく簡単に診断することができる。
【0058】
なお、本実施形態では、ローパスフィルタ(LPF)107を振動センサ101とAD変換器108との間に挿入したが、センサ内にLPFを内蔵しているタイプでは、このLPF107はLCフィルタ等で簡単に構成することができ、更に、フラット以外の周波数成分を抑える場合には、デジタル処理モジュール105内にディシタルフィルタを設けることもできる。その場合、デジタルフィルタはCPUのソフトとして実現することも可能である。
【0059】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態の異常診断装置と異常診断方法について図12を参照して詳細に説明する。第3実施形態では、A/D変換処理後のデシタル信号にビット処理によるピークホールドを行ったのに対して、本実施形態ではA/D変換処理前のアナログ信号段階でピークホールド処理が行われる。なお、第3実施形態と同等部分については同一符号を付して、説明を省略あるいは簡略化する。
【0060】
第4実施形態の診断モジュール120は、図12の診断モジュールのブロック図に示すように、振動センサ101とADC108の間に、アナログ処理のエンベロープ回路115を入れた構成である。エンベロープ回路115は、ローパスフィルタ、絶対値回路としての全波整流器117と、アナログ用のピークホールド回路118等により構成されている。
【0061】
従って、本実施形態では、ステップS203及びステップS204の絶対値処理及びピークホールド処理は、A/D変換(ステップS200)前に行われ、デジタル処理部119は、第3実施形態のステップS201、S202、S205〜S211と同様の処理を行い、一定時間内の閾値を越えた回数をカウントして、車輪の回転速度に応じた値であれば、フラットとして警告信号を出力する。
【0062】
本実施形態では、第3実施形態に比較して、アナログ回路が別途必要になるが、デジタル化した後の処理が簡単になり、ピークホールド回路を入れたAD変換器108におけるA/D変換のサンプリングレートも低く済ませることができる。
【0063】
車輪フラットでは、1kHz程度までの帯域を有する衝撃波形であるから、第3実施形態のようにローパスフィルタ107を通過させただけの波形であると、2kHz位のサンプリングレートを取らないと、衝撃加速度のピークが下がってしまうことが懸念されるが、本実施形態のようにAD変換器108の前段のアナログ回路でピークホールド回路118を入れておけば、200Hz程度のサンプリングでも車輪フラットの検出には、十分な速度とすることができる。
【0064】
この場合のピークホールド回路118の時定数(τ)も、数ms〜数十msの間の車速範囲に合わせて適切に選択される。なお、全波整流回路117によりエンペロープ検波される波形に対しても、AD変換器108の前段にローパスフィルタ107を入れてノイズをカットするのが望ましい。
【0065】
また、本実施形態では、エンベロープ回路115の前段にハイパスフィルタ(HPF)116が設けられている。ハイパスフィルタ116を入れるのは、DC成分とそれにごく近い低周波成分を取り除くためであって、単なるACカップリング・コンデンサでも構わない。このハイパスフィルタ116によってエンベロープ波形のDC成分によるリップルを抑えることができる。
【0066】
また、図13の点線で示すような波形では、リップルの影響により閾値を越える回数のカウントに誤動作を生ずる場合があるが、これを避けるために閾値を立上がりVと、立ち下がりVのように閾値の高さを変えておくことが望ましい。本実施形態では、図13のように、立上がり時にVを横切り、次にVよりも低く設定したVを立下がり時に横切ったら、初めて1回のカウントとすれば、点線のような波形においても正確にカウントすることができる。勿論、このような処理はハードでカウントしても等価である。
なお、その他の構成及び作用については第3実施形態のものと同様である。
【0067】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態の異常診断装置と異常診断方法について、図14を参照して詳細に説明する。本実施形態は、第4実施形態におけるエンベロープ回路をデジタル処理にて置き換えたものである。なお、第4実施形態と同等部分については同一符号を付して、説明を省略あるいは簡略化する。
【0068】
第5実施形態の診断モジュール130は、図14に示すように、AD変換器108の後段のデジタル処理部131はDSP等の高速プロセッサで構成され、デジタル・ハイパスフィルタ(HPF)135により低周波成分を除去して、エンベロープ処理回路132のヒルベルト変換フィルタ133による実数部、虚数部の複素信号から、2乗和の平方根の演算を行う振幅復調134により振幅を復調して包絡線波形を得て、更に、デジタルLPF136により残存するノイズをカットして、閾値カウント137により回数カウントを行い、診断部138でフラットの有無の判定を行う。
【0069】
以上のように構成された本実施形態のデジタル処理部131は、DSP等の高速プロセッサを使用して包絡線波形を得るソフトウェアを、診断時間に支障を与えずにリアルタイムに実行することが可能である。前段のハイパスフィルタ135により低周波成分を除去した図15(a)に示す入力波形に対して、エンベロープ処理132により包絡線波形を発生させ、ローパスフィルタ136によりノイズ除去を行った波形が、図15(b)の波形である。このように処理された波形に対して閾値カウント137と診断部138により、第4実施形態と同様にフラット等の判定処理を行う。具体的に、図15(b)に示す波形により、1秒間に3回の衝撃波が発生しているのがわかる。
なお、その他の構成及び作用については第4実施形態のものと同様である。
【0070】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
本発明の機械設備は、異常診断対象である回転或いは摺動する部品を備えたものであればよく、鉄道車両用軸受装置、風車用軸受装置、工作機械主軸用軸受装置等を含む。
【0071】
例えば、鉄道車両用軸受装置90は、図7に示されるように、複列円錐ころ軸受12を介して車軸90を鉄道車両用台車の一部を構成する軸受箱92に対して回転自在に支持しており、検出部20,20を軸受箱92のラジアル荷重の負荷圏領域に固定して、軸受箱92の振動を検出することで異常診断を行っている。なお、軸受軌道面に損傷が発生した場合、その損傷部を転動体が通過する際に生じる衝突力は無負荷圏よりも負荷圏の方が大きいことから、検出部20を負荷圏側に固定することで、感度の良い振動検出を可能とする。
【0072】
また、回転或いは摺動する部品としては、転がり軸受、歯車、車軸、ボールねじ等の回転部品や、リニアガイド、リニアボールベアリング等の摺動部品であってもよく、損傷によって周期的な振動を発生する部品であれば良い。また、回転部品の損傷に起因する周波数成分を算出するための速度信号としては、回転速度信号が用いられたが、摺動部品の場合の速度信号としては、移動速度信号が用いられる。
【0073】
さらに、検出部によって検出される信号は、音、振動、超音波(AE)、応力、歪み等を含み、これらの信号では、回転或いは摺動部品を含む機械設備に欠陥または異常がある場合に、その欠陥または異常を示す信号成分を含む。
【実施例】
【0074】
以下、本発明の機械設備の異常診断装置及び方法を用いた回転部品の異常診断について具体例を示す。
【0075】
(実施例1)
図16は、外輪軌道面に欠陥をつけた単列深溝軸受を1500min-1で回転させた時のハウジングの振動をエンベロープ処理後に周波数分析を行った結果を示す。図において、実線は、実測した振動データに基づくエンベロープ周波数スペクトルを示し、点線は基準値を示している。
【0076】
図16の結果から、周波数スペクトルには基準値を越えているピーク成分が存在し、そのピーク間の周波数値は、外輪損傷に起因した周波数成分(64.4Hz)と一致していることから、軸受の外輪が損傷していると診断することができる。
【0077】
(実施例2)
図17は、正常の単列深溝軸受を1500min-1で回転させた時のハウジングの振動をエンベロープ処理後に周波数分析を行った結果を示す。この結果、周波数スペクトルには基準値を越えるピーク成分は存在せず、軸受に異常がないことがわかる。
【0078】
(実施例3)
図18は、外輪軌道面に欠陥をつけた単列深溝軸受が2430min-1で実際に回転する場合のハウジングの振動をエンベロープ処理後に周波数分析を行った結果を示す。ただし、算出に用いる回転速度データが2400min-1で、実際の回転速度とズレを生じており、一点鎖線は、回転速度2400min-1に基づく外輪損傷に起因した周波数成分を示している。
【0079】
図18に見られるように、実回転速度と診断に用いた回転速度との差異が大きいと発生周波数の高長波成分に大きなズレが生じ、診断精度に影響を与えることがわかる。しかしながら、本発明の診断装置及び方法を適用すれば、ピーク間の周波数値を用いて、異常の有無及び部位の特定を行うので、実回転速度とのズレの影響を小さくし、精度の良い診断が行われることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の第1実施形態である異常診断装置の概略図である。
【図2】図1の信号処理部のブロック図である。
【図3】本発明の第1実施形態である異常診断方法の処理フローを示すフローチャートである。
【図4】軸受の傷の部位と、傷に起因して発生する振動発生周波数の関係を示す図である。
【図5】歯車の噛合いで発生する異常振動周波数の関係式を説明するための図である。
【図6】本発明の第2実施形態である異常診断装置の概略図である。
【図7】異常診断装置の検出部が組み込まれた機械設備である鉄道車両用軸受装置の断面図である。
【図8】本発明の第3実施形態である異常診断装置の構成図である。
【図9】図8に示す異常診断モジュールのブロック図である。
【図10】図8に示す異常診断モジュールの処理フローチャートである。
【図11】第3実施形態の異常診断の処理波形を説明するための図である。
【図12】本発明の第4実施形態である異常診断モジュールのブロック図である。
【図13】図11に示す異常診断モジュールの誤動作の説明図である。
【図14】本発明の第4実施形態である異常診断モジュールのブロック図である。
【図15】図13に示すデジタル処理部の処理波形を示す図である。
【図16】実施例1の異常診断を説明するための図である。
【図17】実施例2の異常診断を説明するための図である。
【図18】実施例3の異常診断を説明するための図である。
【符号の説明】
【0081】
10,70 機械設備
12 転がり軸受(回転部品)
20 検出部
22 センサ
30 制御器
32 信号処理部
34 制御部
40 出力装置
50 データ蓄積分配部
52 回転分析部
54 フィルタ処理部
56 振動分析部
58 比較判定部
60 内部データ保存部
90 鉄道車両用軸受
92 軸受箱
100 鉄道車両
101 振動センサ
102、120、130 異常診断モジュール
103 通信回線
104 車輪
105 デジタル処理モジュール
106 回転速度センサ
107、136 LPF
108 ADC
109 波形整形回路
110 TCNT
111 CPU
112 通信プロトコルIP
113 SIO
114 ラインドライバ
115 エンベロープ回路
116、135 HPF
117 全波整流回路
118 ピークホールド
119、131 デジタル処理部
132 エンベロープ処理
133 ヒルベルト変換
134 振幅復調
137 閾値カウント
138 診断部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転或いは摺動する少なくとも一つの部品を備えた、機械設備の異常診断装置であって、
前記機械設備から発生する信号を電気信号として出力する少なくとも一つの検出部と、
前記電気信号の波形の周波数分析を行い、該周波数分析で得られたスペクトルに基づき算出した基準値より大きい該スペクトルのピークを抽出し、該ピーク間の周波数と回転速度信号或いは移動速度信号に基づき算出した前記部品の損傷に起因する周波数成分とを比較照合し、その照合結果に基づき前記部品の異常の有無及び異常部位を判定する信号処理部と、
を備えたことを特徴とする機械設備の異常診断装置。
【請求項2】
前記信号処理部は、前記検出された信号に増幅処理とフィルタ処理の少なくとも一方を施し、その処理された波形にエンベロープ処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の機械設備の異常診断装置。
【請求項3】
回転或いは摺動する少なくとも一つの部品を備えた、機械設備の異常診断装置であって、
前記機械設備から発生する信号を電気信号として出力する少なくとも一つの検出部と、
前記電気信号の単位時間当たりの波形が閾値を越えた衝撃波の頻度と、回転速度信号或いは移動速度信号に基づき、前記部品の異常の有無及び異常部位を判定する信号処理部と、
を備えたことを特徴とする機械設備の異常診断装置。
【請求項4】
前記信号処理部は、前記電気信号の波形をフィルタ処理し、全波整流波形に変換した波形に対して、前記閾値を越えるたびに、前記回転速度信号に応じた所定の時間、前記閾値を越える値に保持するように変換した波形を構成し、該波形が所定の回転数あたりに前記閾値を越える回数によって前記部品に異常を生じた可能性を知らせることを特徴とする請求項3に記載の機械設備の異常診断装置。
【請求項5】
前記信号処理部は、前記閾値を保持するように変換した波形が所定の回転数あたりに前記閾値を越える回数によって前記部品に異常を生じた可能性の真偽を、複数回の統計的判断で判断することを特徴とする請求項4に記載の機械設備の異常診断装置。
【請求項6】
前記信号処理部は、前記部品の回転速度が略一定の場合に実行されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の機械設備の異常診断装置。
【請求項7】
前記検出部は、前記機械設備から発生する振動を検出するセンサと、前記機械設備の温度を検出するセンサが単一の筐体内に収容される一体型センサを有していることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の機械設備の異常診断装置。
【請求項8】
前記機械設備は、軸受及び該軸受を固定する軸受箱を備え、
前記一体型センサは、前記軸受箱の平坦部に固定されることを特徴とする請求項7に記載の機械設備の異常診断装置。
【請求項9】
前記信号処理部による判定結果を伝送するデータ伝送手段を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の異常診断装置。
【請求項10】
前記信号処理部による処理、及び前記判定結果を制御系に出力する処理を行なうマイクロコンピュータを具備したことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の異常診断装置。
【請求項11】
前記機械設備は鉄道車両用軸受装置であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の機械設備の異常診断装置。
【請求項12】
前記機械設備は風車用軸受装置であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の機械設備の異常診断装置。
【請求項13】
前記機械設備は工作機械主軸用軸受装置であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の機械設備の異常診断装置。
【請求項14】
回転或いは摺動する少なくとも一つの部品を備えた、機械設備の異常診断方法であって、
前記機械設備から発生する信号を検出して電気信号として出力する工程と、
該検出された信号の波形の周波数を分析する工程と、
該分析工程で得られたスペクトルに基づき算出した基準値より大きい該スペクトルのピークを抽出し、該ピーク間の周波数と回転速度信号或いは移動速度信号に基づき算出した前記部品の損傷に起因する周波数成分とを比較照合する工程と、
該比較工程での照合結果に基づき前記部品の異常の有無及び異常部位を判定する工程と、
を備えることを特徴とする機械設備の異常診断方法。
【請求項15】
回転或いは摺動する少なくとも一つの部品を備えた、機械設備の異常診断方法であって、
前記機械設備から発生する信号を検出して電気信号として出力する工程と、
前記電気信号の単位時間当たりの波形が閾値を越えた衝撃波の頻度と、回転速度信号或いは移動速度信号に基づき、前記部品の異常の有無を検出する工程と、
を備えたことを特徴とする機械設備の異常診断方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2006−234785(P2006−234785A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−176505(P2005−176505)
【出願日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】