説明

機能性フィルムの製造方法

【課題】特定範囲の溶解性パラメータを有する溶媒を使用することにより、メチレンクロリドなどのハロゲン化炭化水素溶媒を用いることなく、表面性の良好な機能性フィルムを得ること。
【解決手段】セルロースアシレートフィルムの表面に、機能性層を有する機能性フィルムの製造方法において、セルロースアシレートの置換度が特定の条件を満足し、且つ機能性層塗工溶液の有機溶媒の溶解性パラメータが18MPa1/2以下であるか、又は21MPa1/2以上である機能性フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセルロースアシレートフィルムを基材とする機能性フィルムの製造方法、並びに該機能性フィルムを用いた偏光板及び液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶画像表示装置に使用されるセルロースアシレートフィルムは、通常、その光学特性から、TACといわれるセルロースアセテートフィルムが用いられている。液晶表示装置におけるセルロースアセテートフィルムの具体的な用途としては、液晶画像表示装置に使用されている偏光板の保護フィルムや、光学補償フィルム、反射防止フィルム等の基材フィルム、さらにカラーフィルターなどが代表的なものである。
【0003】
セルロースアセテートフィルムは、通常、溶媒中に溶解したセルロースアセテートの溶液(ドープ)を支持体上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成するソルベントキャスト法で形成される。セルロースアセテートの溶解性のため、溶媒は主としてメチレンクロリドが用いられているが、このようなハロゲン化炭化水素溶媒は、近年、地球環境保護の観点から、その使用は著しく規制される方向にある。これらのために、セルロースアセテートのアセチル基の一部を炭素数の大きなプロピロニル基やブチリル基などのアシル基で置き換えることにより、セルロースアセテートフィルムの溶解性を改良したセルロースアシレートを使用し、エステルやケトン系の溶媒を用いてソルベントキャストすることや、セルロースアセテートより溶融温度を低下させて溶融製膜することが提案されている(特許文献1及び2)。
【0004】
また、アセチル基の代わりにブチリル基、プロピオニル基を導入することにより、吸湿性が大きいセルローストリアセテートを改良することも知られている。
【特許文献1】特開平8−231761号公報
【特許文献2】特開2000−352620号公報
【特許文献3】特開2005−88578号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながらこれらのフィルムは、偏光板の保護フィルムとしては有効に使用できるが、ハードコートフィルムや反射防止フィルム、光学補償フィルムなどの基材フィルムとして使用する場合、その溶解性がよすぎるため、よく用いられるアセトン、メチルエチルケトンなどの溶媒を用いた塗工液を塗布すると、基材フィルムの表面が侵され、表面特性が著しく劣化するという問題が生じ、機能性の付与が困難であった。フィルムの特性としては、ヘイズが大きくなってしまい、その結果、液晶表示装置に使用した場合、正面コントラストが低下して表示上も問題であった。
【0006】
平面性の改良のため、溶媒中に水分を30質量%以上含有させた塗布組成物が提案されているが(特許文献3)、疎水性の組成物の塗布ができないこと、水分の乾燥に負荷が掛ること、セルロースアシレートフィルム中の水分の残留が多くなり、環境湿度によりカールする等の問題があった。
したがって本発明の課題は、地球環境に大きな問題を起こすことなく作製したセルロースアシレートフィルムの表面特性を損なわずに優れた機能性フィルムを作製することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
鋭意検討の結果、機能性を付与する塗工液の溶媒を選択することにより上記の問題が解決できることを見出した。つまり、使用する溶媒の溶解性パラメータが特定の範囲のものを使用することでメチレンクロリドなどのハロゲン化炭化水素溶媒を用いずにフィルムを作製でき、乾燥負荷が大きく、疎水性材料の使用に限界のある水のような特定の溶媒を用いず、かつ表面性の良好な、セルロースアシレートフィルムを基材とする機能性フィルムを得ることができる。
【0008】
すなわち本発明の前記課題は、以下の手段により解決することができる。
(1) セルロースアシレートフィルムの表面に、塗設された機能性層を有する機能性フィルムの製造方法において、セルロースアシレートの置換度が下記数式(1)〜(3)を満足し、且つ機能性層塗工溶液の有機溶媒の溶解性パラメータが18.5MPa1/2以下であるか、又は21MPa1/2以上であることを特徴とする機能性フィルムの製造方法。
数式(1):2.0≦X+Y≦3.0
数式(2):0≦X≦1.8
数式(3):1.2≦Y≦2.9
ここで、Xはアセチル基の置換度、Yはプロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基の置換度の総和を表す。
(2) セルロースアシレートフィルムが、溶融製膜法により作製されたフィルムである前記(1)に記載の機能性フィルムの製造方法。
(3) 機能性層が、ハードコート層、反射防止層、光学補償層、導電性層、又はこれらから選ばれる複数の層である前記(1)または(2)に記載の機能性フィルムの製造方法。
(4) 偏光膜に、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の機能性フィルムを少なくとも1層積層したことを特徴とする偏光板。
(5) 前記(1)〜(3)のいずれかに記載の機能性フィルム、又は前記(4)の偏光板を用いた液晶表示装置。
【発明の効果】
【0009】
特定のセルロースアシレートフィルムと、特定の溶媒を使用した本発明の機能性フィルムは、塗布面状が良好で、光透過性に優れ、種々の画像表示装置用のフィルム、液晶表示装置の偏光板保護フィルム、光学補償フィルムに有用に適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
<機能性フィルム>
〔セルロースアシレート〕
本発明に好ましく用いられるセルロースアシレートについて詳細に記載する。
セルロースを構成する、β−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部又は全部をアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位及び6位のそれぞれについて、セルロースがエステル化している割合の合計を意味する。全ての水酸基がエステル化されたものの置換度は3になる。
【0011】
[アシル基、置換度]
本発明で用いられるセルロースアシレートのアシル基は、アセチル基とアセチル基以外のアシル基とが混合状態で共に含まれているものであり、具体的には下記数式(1)〜(3)で表される範囲の置換度を満足するものである。
【0012】
数式(1):2.0≦X+Y≦3.0
数式(2):0≦X≦1.8
数式(3):1.2≦Y≦2.9
ここで、Xはアセチル基の置換度、Yはプロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基の置換度の総和を表す。
【0013】
セルロースアシレートの有機溶媒溶解性を高めるため、又は溶融温度を低下させるためには、アシル基はプロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基が好ましいが、炭素数の大きなアシル基だけでは、作製したフィルムの弾性率、ガラス転移温度が低くなりすぎるため、本発明ではアセチル基を混合含有させる。
【0014】
アシル基全体による置換度は2以上であることが必要であり、該置換度が2よりちいさいと溶解性、溶融性が劣り、吸湿性が大きくなるので好ましくない。
【0015】
本発明に用いられるセルロースアシレートは、広葉樹パルプ、針葉樹パルプ、綿花リンター由来のセルロースを原料とし、アシル化剤として2種以上のカルボン酸無水物を混合し、又は逐次添加することにより反応させる方法;2種以上のカルボン酸の混合酸無水物(例えば、酢酸・プロピオン酸混合酸無水物)を用いる方法;カルボン酸と別のカルボン酸の酸無水物(例えば、酢酸とプロピオン酸無水物)を原料として反応系内で混合酸無水物(例えば、酢酸・プロピオン酸混合酸無水物)を形成させてセルロースと反応させる方法;置換度が3に満たないセルロースアシレートを一旦合成し、酸無水物や酸ハリドを用いて、残存する水酸基を更にアシル化する方法;などを用いることができる。
【0016】
6位置換度の大きいセルロースアシレートの合成については、特開平11−5851号、特開2002−212338号及び特開2002−338601号などの公報に記載がある。
【0017】
本発明に用いられるセルロースアシレートの原料やその合成方法は、特に限定されず、公知の方法で作製されることができ、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)p.7〜12の記載なども適用できる。
【0018】
[重合度]
本発明に用いられるセルロースアシレートの重合度は、好ましくは100〜700、より好ましくは120〜600、特に好ましくは150〜450である。平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による分子量分布測定などの方法により測定できる。更に特開平9−95538に詳細に記載されている。
【0019】
本発明においては、セルロースアシレートのGPCによる質量平均重合度/数平均重合度が1.6〜5であることが好ましく、1.8〜4.5であることが更に好ましく、2〜4であることが特に好ましい。
【0020】
[置換度]
本発明のアシル基の置換度は、ASTM D−817−91に準じた方法;セルロースアシレートを完全に加水分解し、遊離したカルボン酸もしくはその塩をガスクロマトグラフィー又は高速液体クロマトグラフィーで定量する方法;1H‐NMR又は13C‐NMRによる方法;などを単独又は組み合わせることにより決定することができる。
【0021】
これらのセルロースアシレートは1種類のみを用いてもよく、2種以上混合してもよい。また、セルロースアシレート以外の高分子成分を適宜混合したものでもよく、混合される高分子成分はセルロースアシレートと相溶性に優れるものが好ましい。本発明においては異なる2種類以上のセルロースアシレートを、層を分けて用いてもよい。
【0022】
〔セルロースアシレートフィルム〕
[セルロースアシレートフィルムの製造法]
上記の方法で作製したセルロースアシレートをフィルムにするには、セルロースアシレート溶液を用いたソルベントキャスト法、溶媒を用いない溶融製膜法などにより製造することができる。
特に製造法に限定は無いが、溶融製膜法が溶媒を用いないこと、製造設備が小さくなること等のためより好ましい。
【0023】
{ソルベントキャスト法}
ソルベントキャスト法については、米国特許2336310号、同2367603号、同2492077号、同2492078号、同2607704号、同2739069号、同2739070号、英国特許640731号及び同736892号の各明細書、並びに特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号及び同62−115035号の各公報に記載がある。
【0024】
ソルベントキャスト法で使用する溶媒は、ケトン類、エステル類及びエーテル類から選ばれるハロゲン原子を含まない有機溶媒が好ましく用いられる。ケトン類及びエステル類がさらに好ましい。ケトン類、エステル類及びエーテル類は環状構造を有していてもよい。有機溶媒の沸点は、140℃未満であることが好ましく、100℃未満であることがさらに好ましく、60℃未満であることが最も好ましい。
【0025】
有機溶媒の例としては、アセトン(沸点:56℃)、テトラヒドロフラン(沸点:65.4℃)、1,4−ジオキサン(沸点:101℃)、メチルアセテート(沸点:57℃)、エチルホルメート(沸点:54℃)などを挙げることができる。アセトン及びメチルアセテートが特に好ましい。2種類以上の有機溶媒を併用してもよい。有機溶媒を併用する場合、上記のような良溶媒と貧溶媒を併用してもよい。貧溶媒の例としては、炭素原子数が1〜4の低級アルコール(例えば、メタノール、n−ブタノール等)及びシクロヘキサンなどを挙げることができる。良溶媒と貧溶媒を併用する場合、良溶媒の割合は60質量%以上であることが好ましい。
【0026】
セルロースアシレート溶液は、一般的なソルベントキャスト法におけるドープの調製方法及び装置を用いて調製することができる。比較的低濃度の溶液は常温で攪拌することにより得ることができる。高濃度の溶液の場合は、加圧及び加熱条件下で攪拌して調製することが好ましい。具体的には、セルロースアシレートと溶媒を加圧容器に入れて密閉し、加圧下で溶媒の常温における沸点以上、且つ溶媒が沸騰しない範囲の温度に加熱しながら攪拌する。加熱温度は、通常は60℃以上であり、好ましくは80〜110℃である。各成分は予め粗混合してから容器に入れてもよい。また、順次容器に投入してもよい。容器は攪拌できるように構成されている必要がある。窒素ガス等の不活性気体を注入して容器を加圧することができる。また、加熱による溶媒の蒸気圧の上昇を利用してもよい。あるいは、容器を密閉後、各成分を圧力下で添加してもよい。
【0027】
溶液中のセルロースアシレートの濃度は、一般に5〜50質量%であり、好ましくは10〜40質量%である。セルロースアシレート溶液をフィルムの製造に使用する場合、溶液の粘度は10000〜1000000cPの範囲であることが好ましい。
【0028】
ソルベントキャスト法では、セルロースアシレートと、必要に応じて、下記に述べる可塑剤、安定剤、その他の添加剤とを混合調製したセルロースアシレート溶液(ドープ)を、鏡面状態に仕上げた支持体(例えば、ドラム、バンド等)上に流延し、フィルムを剥ぎ取り乾燥してフィルムを得る方法が一般的である。
【0029】
{溶融製膜法}
溶融製膜法については、特開2005−178194号公報に記載がある。
【0030】
(セルロースアシレート混合物の物性)
溶融製膜法においては、溶融製膜に先立ち、セルロースアシレート混合物(セルロースアシレート及び、下記に述べる可塑剤、安定剤、その他の添加剤を混合したもの)を調製することが好ましい。該セルロースアシレート混合物は、以下の物性を満たすことが好ましい。
【0031】
(重量減)
本発明で用いられるセルロースアシレート混合物は、220℃における加熱減量率が5重量%以下が好ましい。ここで、加熱減量率とは窒素下において室温から10℃/分の昇温度速度で試料を昇温した時の、220℃における重量減少率をいう。より好ましくは3重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下である。このようにすることにより、製膜中に発生する故障(気泡の発生)を抑制できる。
【0032】
(溶融粘度)
本発明で用いられる熱可塑性のセルロースアシレート混合物は、220℃、1sec-1における溶融粘度が100〜2000Pa・secであることが好ましく、より好ましくは200〜1000Pa・sec、さらに好ましくは300〜800Pa・secである。このような高めの溶融粘度にすることで、ダイ出口の張力で伸びる(延伸される)ことがなく、延伸配向に起因する光学異方性(レターデーション)の増加を防止できる。このような粘度の調整はどのような手法で達成してもよいが、例えばセルロースアシレートの重合度や可塑剤等の添加剤の量により達成できる。
【0033】
(ペレット化)
上記セルロースアシレートは、溶融製膜に先立ち、後述する添加物と混合しペレット化するのが好ましい。すなわち、セルロースアシレート混合物を予めペレット化しておくことが好ましい。またペレット化を行う時に、添加物を押出機の途中にある原料投入口やベント口から投入して混合物のペレットにすることもできる。ペレット化を行うに当たり、セルロースアシレート及び添加物は事前に乾燥を行うことが好ましいが、ベント式押出機を用いることで、これを代用することもできる。
【0034】
乾燥を行う場合は、本発明においては、セルロースアシレートの含水率を好ましい量に調整するため、セルロースアシレートを乾燥することが好ましい。乾燥の方法については、除湿風乾燥機を用いて乾燥することが多いが、目的とする含水率が得られるのであれば特に限定されない(加熱、送風、減圧、攪拌などの手段を単独又は組み合わせで用いることで、効率的に行うことが好ましく、更に好ましくは、乾燥ホッパーを断熱構造にすることである)。
【0035】
乾燥温度として好ましくは0〜200℃であり、さらに好ましくは40〜180℃であり、特に好ましくは60〜150℃である。乾燥温度が該下限値以上であれば、乾燥に時間がかかりすぎることがなく、また含有水分率を目標値以下にすることが容易なので好ましい。一方、乾燥温度が該上限値以下であれば、樹脂が互いにブロッキングするなどの不具合が生じないので好ましい。
【0036】
乾燥風量として好ましくは20〜400m3/時間で有り、更に好ましくは50〜300m3/時間、特に好ましくは100〜250m3/時間である。乾燥風量が該下限値以上であれば乾燥効率がよいので好ましい。一方、風量を多くしても一定量以上あれば乾燥効果の更なる向上はあまり大きくならないので、該上限値以下にすることにより経済的に乾
燥を行うことができる。
【0037】
乾燥用空気の露点として、好ましくは0〜−60℃で有り、更に好ましくは−10〜−50℃、特に好ましくは−20〜−40℃である。乾燥時間は少なくとも15分以上必要であり、さらに好ましくは、1時間以上、特に好ましくは2時間以上である。一方、50時間を超えて乾燥させても更なる水分率の低減効果はあまり大きくならず、また樹脂の熱劣化を防止する観点からも乾燥時間は不必要に長くしないことが好ましい。本発明のセルロースアシレートは、その含水率が1.0質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることが更に好ましく、0.01質量%以下であることが特に好ましい。
【0038】
ペレット化は、上記セルロースアシレートと添加物を、2軸混練押出機を用い150℃以上250℃以下で溶融後ヌードル状に押出して水中で固化し、裁断することで作製することができる。また、押出機による溶融後水中に口金より直接押出ながらカットする、アンダーウォーターカット法等によりペレット化を行ってもかまわない。
【0039】
押出機は十分な、溶融混練が得られる限り、任意の公知の単軸スクリュー押出機、非噛み合い型異方向回転二軸スクリュー押出機、噛み合い型異方向回転二軸スクリュー押出機、噛み合い型同方向回転二軸スクリュー押出機などを用いることができる。
【0040】
好ましいペレットの大きさは、断面積が1mm2以上300mm2以下、長さが1mm以上30mm以下であることが好ましく、より好ましくは、断面積が2mm2以上100mm2以下、長さが1.5mm以上10mm以下である。
【0041】
押出機の回転数は10rpm以上1000rpm以下が好ましく、より好ましくは、20rpm以上700rpm以下、さらにより好ましくは30rpm以上500rpm以下である。これより、回転速度が該下限値以上であれば、滞留時間が長くなりすぎることがないので、熱劣化により分子量が低下したり、黄色味が増加したりするなどの不都合が生じないので好ましい。また回転速度が該上限値以下であれば、剪断により分子の切断がおきることがなく、分子量低下を招いたり、架橋ゲルが発生したりするなどの問題が生じないので好ましい。
【0042】
ペレット化における押出滞留時間は10秒以上30分以内、より好ましくは、15秒以上10分以内、さらに好ましくは30秒以上3分以内である。十分に溶融ができれば、滞留時間は短い方が、樹脂劣化、黄色み発生を抑えることができる点で好ましい。
【0043】
(溶融製膜)
(乾燥)
上述の方法でペレット化したものを、上述の乾燥方法と同様の方法により溶融製膜に先立ちペレット中の水分を減少させることが好ましい。
【0044】
(溶融押出し)
上述したセルロースアシレート樹脂は、押出機の供給口を介してシリンダー内に供給される。シリンダー内は、供給口側から順に、供給口から供給したセルロースアシレート樹脂を定量輸送する供給部(領域A)と、セルロースアシレート樹脂を溶融混練・圧縮する圧縮部(領域B)と、溶融混練・圧縮されたセルロースアシレート樹脂を計量する計量部(領域C)とで構成される。樹脂は上述の方法により水分量を低減させるために、乾燥することが好ましいが、残存する酸素による溶融樹脂の酸化を防止するために、押出機内を不活性(窒素等)気流中で、又はベント付き押出し機を用い真空下で実施するのがより好ましい。
【0045】
押出機のスクリュー圧縮比は2.5〜4.5に設定され、L/Dは20〜70に設定されている。ここでスクリュー圧縮比とは、供給部Aと計量部Cとの容積比、すなわち(供給部Aの単位長さ当たりの容積)÷(計量部Cの単位長さ当たりの容積)で表され、供給部Aのスクリュー軸の外径d1、計量部Cのスクリュー軸の外径d2、供給部Aの溝部径a1、及び計量部Cの溝部径a2とを使用して算出される。また、L/Dとは、シリンダー内径に対するシリンダー長さの比である。また、押出温度は190〜240℃が好ましい。押出機内での温度が230℃を超える場合には、押出機とダイとの間に冷却機を設けるようにするとよい。
【0046】
スクリュー圧縮比が2.5以上であれば、十分に溶融混練されて、未溶解部分が残ったり、剪断発熱が小さ過ぎて結晶の融解が不十分となり、製造後のセルロースアシレートフィルムに微細な結晶が残存し易くなったりする不具合が生じることがなく、さらに、気泡が混入するなどの問題も起こらない。従って、セルロースアシレートフィルムの強度が低下したり、又はフィルムを延伸する場合に、残存した結晶が延伸性を阻害し、配向を十分に上げることができなくなったりするなどの問題も生じない。一方、スクリュー圧縮比が4.5以下であれば、剪断応力がかかり過ぎるなどの不都合が生じないので、発熱により樹脂が劣化して製造後のセルロースアシレートフィルムに黄色味がでたり、また分子の切断が起こって分子量が低下し、フィルムの機械的強度が低下したりするなどの問題も生じない。従って、製造後のセルロースアシレートフィルムに黄色味が出にくく、且つフィルム強度が強く更に延伸破断しにくくするためには、スクリュー圧縮比は2.5〜4.5の範囲がよく、より好ましくは2.8〜4.2、特に好ましいのは3.0〜4.0の範囲である。
【0047】
また、L/Dが20以上であれば、溶融不足や混練不足となることがなく、圧縮比が小さい場合の様に製造後のセルロースアシレートフィルムに微細な結晶が残存するなどの不都合は生じない。一方、L/Dが70以下であれば、押出機内でのセルロースアシレート樹脂の滞留時間が長くなり過ぎることがないので、樹脂の劣化を引き起こすことはなく、また、滞留時間が長くなることに伴う分子の切断は起こらないので、分子量が低下してセルロースアシレートフィルムの機械的強度が低下することもない。従って、製造後のセルロースアシレートフィルムに黄色味が出にくく、且つフィルム強度が強く更に延伸破断しにくくするためには、L/Dは20〜70の範囲が好ましく、より好ましくは22〜65の範囲、特に好ましくは24〜50の範囲である。
【0048】
また、押出温度は上述の温度範囲にすることが好ましい。このようにして得たセルロースアシレートフィルムは、ヘイズが2.0%以下、イエローインデックス(YI値)が10以下である特性値を有することが好ましい。ここで、ヘイズは押出温度が低過ぎないかの指標、換言すると製造後のセルロースアシレートフィルムに残存する結晶の多少を知る指標になり、ヘイズが上記範囲内であれば、製造後のセルロースアシレートフィルムの強度が充分であり、延伸時の破断の発生という問題が生じない。また、イエローインデックス(YI値)は押出温度が高過ぎないかを知る指標となり、イエローインデックス(YI値)が上記範囲内であれば、黄色味の点で問題無い。
【0049】
押出機の種類として、一般的には、設備コストの比較的安い単軸押出機が用いられることが多く、フルフライト、マドック、ダルメージ等のスクリュータイプがあるが、熱安定性の比較的悪いセルロースアシレート樹脂には、フルフライトタイプが好ましい。また、設備コストは高価であるが、スクリューセグメントを変更することにより、途中でベント口を設けて、不要な揮発成分を脱揮させながら押出ができる二軸押出機を用いることが可能である。二軸押出機には、大きく分類して同方向と異方向のタイプがあり、どちらも用いることが可能であるが、滞留部分が発生し難くセルフクリーニング性能の高い同方向回転のタイプが好ましい。二軸押出機は設備が高価であるが、混練性が高く、樹脂の供給性
能が高いため、低温での押出が可能となるため、セルロースアセテート樹脂の製膜に適している。ベント口を適正に配置することにより、未乾燥状態でのセルロールアシレートペレットやパウダーをそのまま使用することも可能である。また、製膜途中で出たフィルムのミミ等も乾燥させることなしにそのまま再利用することもできる。なお、好ましいスクリューの直径は目標とする単位時間あたりの押出量によってことなるが、10mm以上300mm以下、より好ましくは20mm以上250mm以下、更に好ましくは30mm以上150mm以下である。
【0050】
(濾過)
樹脂中の異物濾過のためや異物によるギアポンプ損傷を避けるため、押出機出口にフィルター濾材を設ける、いわゆるブレーカープレート式の濾過を行うことが好ましい。またさらに精度高く異物濾過をするために、ギアポンプ通過後に、いわゆるリーフ型ディスクフィルターを組み込んだ濾過装置を設けることが好ましい。濾過は、濾過部を1ヶ所設けて行うことができ、また複数ヶ所設けて行う多段濾過でもよい。
【0051】
フィルター濾材の濾過精度は高い方が好ましいが、濾材の耐圧や濾材の目詰まりによる濾圧上昇から、濾過精度は15μm〜3μmが好ましく、更に好ましくは10μm〜3μmである。特に、最終的に異物濾過を行うリーフ型ディスクフィルター装置を使用する場合では、品質の上で濾過精度の高い濾材を使用することが好ましく、耐圧、フィルターライフの適性を確保するために、装填枚数にて調整することが可能である。濾材の種類は、高温高圧下で使用される点から鉄鋼材料を用いることが好ましく、鉄鋼材料の中でも特にステンレス鋼,スチールなどを用いることが好ましく、腐食の点から特にステンレス鋼を用いることが望ましい。濾材の構成としては、線材を編んだものの他に、例えば金属長繊維又は金属粉末を焼結し形成する焼結濾材が使用でき、濾過精度,フィルターライフの点から焼結濾材が好ましい。
【0052】
(ギアポンプ)
厚み精度を向上させるためには、吐出量の変動を減少させることが重要であり、押出機とダイスの間にギアポンプを設けて、ギアポンプから一定量のセルロースアシレート樹脂を供給することは効果がある。ギアポンプとは、ドライブギアとドリブンギアとからなる一対のギアが互いに噛み合った状態で収容され、ドライブギアを駆動して両ギアを噛み合い回転させることにより、ハウジングに形成された吸引口から溶融状態の樹脂をキャビティ内に吸引し、同じくハウジングに形成された吐出口からその樹脂を一定量吐出するものである。押出機先端部分の樹脂圧力が若干の変動があっても、ギアポンプを用いることにより変動を吸収し、製膜装置下流の樹脂圧力の変動は非常に小さなものとなり、厚み変動が改善される。ギアポンプを用いることにより、ダイ部分の樹脂圧力の変動巾を±1%以内にすることが可能である。
【0053】
(ダイ)
上記の如く構成された押出機によってセルロースアシレート樹脂が溶融され、必要に応じて、濾過機、ギアポンプを経由して溶融樹脂がダイに連続的に送られる。ダイは、ダイス内の溶融樹脂の滞留が少ない設計であれば、一般的に用いられるTダイ、フィッシュテールダイ、ハンガーコートダイの何れのタイプでも構わない。またTダイの直前に、樹脂温度の均一性アップのためのスタティックミキサーを入れることも問題ない。Tダイ出口部分のクリアランスは、一般的にフィルム厚みの1.0〜5.0倍がよく、好ましくは1.2〜3倍、更に好ましくは1.3〜2倍である。リップクリアランスがフィルム厚みの1.0倍以上であれば、製膜により面状の良好なシートを得ることが可能となる。また、リップクリアランスがフィルム厚みの5.0倍以下であれば、シートの厚み精度が低下することがなく好ましい。
【0054】
ダイは、フィルムの厚み精度を決定する非常に重要な設備であり、厚み調整が精密にコントロールできるものであることが好ましい。通常、厚み調整は40〜50mm間隔で調整可能であるが、好ましくは35mm間隔以下、更に好ましくは25mm間隔以下でフィルム厚み調整が可能なタイプが好ましい。また、セルロールアシレート樹脂は、溶融粘度の温度依存性、剪断速度依存性が高いことから、ダイの温度ムラや巾方向の流速ムラのできるだけ少ない設計が重要である。また、下流のフィルム厚みを計測して、厚み偏差を計算し、その結果をダイの厚み調整にフィードバックさせる、自動厚み調整ダイも長期連続生産の厚み変動の低減に有効である。
【0055】
フィルムの製造は、設備コストの安い単層製膜装置が一般的に用いられるが、場合によっては、機能層を外層に設けるために、多層製膜装置を用いて2種以上の構造を有するフィルムの製造も可能である。一般的には、機能層を表層に薄く積層することが好ましいが、特に層比を限定するものではない。
【0056】
(キャスト)
上記方法にて、ダイよりシート状に押し出されたセルロースアシレートは、キャスティングドラム上で冷却固化してフィルムが得られる。この時、静電印加法、エアナイフ法、エアーチャンバー法、バキュームノズル法、タッチロール法等の方法を用い、キャスティングドラムと溶融押出されたシートの密着を上げることが好ましい。このような密着向上法は、溶融押出シートの全面に実施してもよく、一部に実施してもよい。特にエッジピニングと呼ばれる、フィルムの両端部にのみを密着させる方法が取られることも多いが、これに限定されるものではない。
【0057】
キャスティングドラムは複数本用い、徐冷する法がより好ましい。特に一般的には、3本の冷却ロールを用いることが比較的よく行われているが、この限りではない。ロールの直径は50mm以上5000mm以下が好ましく、より好ましくは100mm以上2000mm以下、さらに好ましくは150mm以上1000mm以下である。複数本あるロールの間隔は、面間で0.3mm以上300mm以下が好ましく、より好ましくは、1mm以上100mm以下、さらに好ましくは3mm以上30mm以下である。
【0058】
キャスティングドラムの温度は60℃以上160℃以下が好ましく、より好ましくは70℃以上150℃以下、さらに好ましくは80℃以上140℃以下である。この後、得られたフィルムはキャスティングドラムから剥ぎ取られ、ニップロールを経た後巻き取られる。巻き取り速度は10m/分以上100m/分以下が好ましく、より好ましくは15m/分以上80m/分以下、さらに好ましくは20m/分以上70m/分以下である。製膜幅は0.7m以上5m以下、さらに好ましくは1m以上4m以下、さらに好ましくは1.3m以上3m以下が好ましい。このようにして得られた未延伸フィルムの厚みは30μm以上400μm以下が好ましく、より好ましくは40μm以上300μm以下、さらに好ましくは50μm以上200μm以下である。
【0059】
また、いわゆるタッチロール法を用いる場合、タッチロール表面は、ゴム、テフロン(登録商標)等の樹脂でもよく、金属ロールでもよい。さらに、金属ロールの厚みを薄くすることで、タッチしたときの圧力によりロール表面が若干くぼみ、圧着面積が広くなる、フレキシブルロールと呼ばれるようなロールを用いることも可能である。タッチロール温度は60℃以上160℃以下が好ましく、より好ましくは70℃以上150℃以下、さらに好ましくは80℃以上140℃以下である。
【0060】
{巻き取り}
このようにして得たフィルムは、両端をトリミングして巻き取ることが好ましい。トリミングされた部分は、粉砕処理された後、又は、必要に応じて、造粒処理や解重合・再重
合等の処理を行った後、同じ品種のフィルム用原料として、又は異なる品種のフィルム用原料として再利用してもよい。トリミングカッターはロータリーカッター、シャー刃、ナイフ等の何れのタイプの物を用いても構わない。材質についても、炭素鋼、ステンレス鋼何れを用いても構わない。一般的には、超硬刃、セラミック刃を用いると刃物の寿命が長く、また切り粉の発生が抑えられて好ましい。
【0061】
また、巻き取り前に、少なくとも片面にラミフィルムを付けることも、傷防止の観点から好ましい。好ましい巻き取り張力は、1kg/m幅以上50kg/幅以下、より好ましくは2kg/m幅以上40kg/幅以下、更に好ましくは3kg/m幅以上20kg/幅以下である。巻き取り張力が1kg/m幅以上であれば、フィルムを均一に巻き取ることが可能である。一方、巻き取り張力が50kg/幅以下であれば、フィルムが堅巻きになることがないので、巻き外観が悪化することがなく、フィルムのコブの部分がクリープ現象により延びてフィルムの波うちの原因になったり、又はフィルムの伸びによる残留複屈折が生じたりするなどの問題が起こらないので好ましい。巻き取り張力は、ラインの途中のテンションコントロールにより検知し、一定の巻き取り張力になるようにコントロールされながら巻き取ることが好ましい。製膜ラインの場所により、フィルム温度に差がある場合には、熱膨張によりフィルムの長さが僅かに異なることがあるため、ニップロール間のドロー比率を調整し、ライン途中でフィルムに規定以上の張力がかからない様にすることが好ましい。
【0062】
巻き取り張力は、テンションコントロールの制御により一定張力とすることもできるが、巻き取った直径に応じてテーパーをつけ、適正な巻取り張力にすることがより好ましい。一般的には巻き径が大きくなるにつれて張力を少しずつ小さくするが、場合によっては、巻き径が大きくなるにしたがって張力を大きくする方が好ましい場合もある。
【0063】
[セルロースアシレートフィルムの物性]
作製したセルロースアシレートフィルムは、温度25℃、湿度60%RHにおける平衡含水率が0.1〜3%であることが好ましく、0.1〜1.5%であることがさらに好ましい。フィルムの厚さは、5〜500μmであることが好ましく、20〜200μmであることがさらに好ましく、30〜120μmであることが最も好ましい。厚みむらは、長手方向、幅方向いずれも0%以上4%以下が好ましく、より好ましくは0%以上3%以下、さらに好ましくは0%以上2%以下である。
【0064】
引張り弾性率は1GPa以上5GPa以下が好ましい。破断伸度は3%以上100%以下が好ましく、より好ましくは5%以上80%以下、さらに好ましくは8%以上50%以下である。
【0065】
[添加剤]
セルロースアシレートフィルムには、その用途に応じて、添加剤(例えば、可塑剤、劣化防止剤、紫外線吸収剤等)を添加してもよい。
【0066】
(可塑剤)
セルロースアシレートフィルムには、機械的物性を改良するため、又はソルベントキャストでの乾燥速度を向上するためや、溶融製膜での溶融粘度の調整のため、可塑剤を添加することができる。可塑剤としては、リン酸エステル、カルボン酸エステル又は多価アルコールエステル系可塑剤が用いられる。
【0067】
リン酸エステルの例には、トリフェニルホスフェート(TPP)、ビフェニルジフェニルホスフェート(BDP)、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビス[ビス(2,6−ジメチルフェニル)ホスフェート]、ビスフェノールA−ビ
ス(ジフェニルホスフェート)、トリキシレニルホスフェート、トリクレジルホスフェートが含まれる。
【0068】
カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステル及びクエン酸エステルが代表的である。フタル酸エステルの例には、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート、(DOP)及びジエチルヘキシルフタレート(DEHP)が含まれる。クエン酸エステルの例には、クエン酸アセチルトリエチル(OACTE)及びクエン酸アセチルトリブチル(OACTB)が含まれる。その他のカルボン酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが含まれる。
【0069】
多価アルコール系可塑剤は、グリセリンエステル(例えばトリアセチン、トリプロピオニン、グリセリンジアセテートカプリレート、グリセリンジアセテートカプレート、グリセリンジアセテートラウレート、グリセリンジアセテートミリステート、グリセリンジアセテートパルミテート、グリセリンジアセテートステアレート、グリセリンジアセテートオレート等)、ジグリセリンエステルなどのグリセリン系のエステル化合物(例えばジグリセリンテトラアセテート、ジグリセリンテトラプロピオネート、ジグリセリンテトラブチレート、ジグリセリンテトラカプリレート、ジグリセリンテトララウレート等)、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールの水酸基にアシル基が結合した化合物などである。
【0070】
2種類以上の可塑剤を併用してもよい。相溶性、熱安定性からは分子量の大きなリン酸エステルが好ましい。
【0071】
可塑剤の添加量は、一般に、セルロースアシレート100質量部に対して0.1〜40質量部の範囲である。本発明のセルロースの混合脂肪酸エステルでは、1〜12質量部の範囲であることが好ましい。本発明のセルロースアシレートは、従来のセルロースアセテートと比較して、可塑剤の添加量が少なくても、可塑剤が充分に作用するとの利点がある。このため、可塑剤の量が12質量部以下でも、可塑剤の効果が得られる。
【0072】
(安定剤)
セルロースアシレート溶液(ドープ)又はセルロースアシレートフィルムに添加できる安定剤のうち、劣化防止剤の例には、過酸化物分解剤、ラジカル補足剤、金属不活性化剤及び酸捕獲剤が含まれる。劣化防止剤については、特開平5−197073号公報に記載がある。また、紫外線防止剤については、特開平7−11056号公報に記載がある。これらの安定剤の配合量は、セルロースアシレート100質量部に対して0.005〜0.5質量部であるのが好ましく、より好ましくは0.01〜0.4質量部であり、さらに好ましくは0.02〜0.3質量部である。
【0073】
溶融製膜の場合、熱安定剤として過酸化物分解剤、ラジカル補足剤として、ホスフィット系化合物、フェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物の添加が好ましい。これにより、経時劣化を抑制できる上、溶融製膜時のダイラインの発生や着色等の故障も改善できる。
【0074】
(過酸化物分解剤)
過酸化物分解剤としては、ホスフィット系化合物、チオエーテル系化合物が好ましい。ホスフィット系化合物としては、例えばシクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシル)ホスフィット、シクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフィット、シクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスフィット、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−
ブチルフェニル)オクチルホスフィット、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフィット等が挙げられる。
【0075】
チオエーテル系化合物としては、例えば、ジラウリルチオジプロピオネート、ジトリデシルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、パルミチルステアリルチオジプロピオネート、「アデカスタブAO−23」、「アデカスタブAO−412S」、「アデカスタブAO−503」{以上旭電化工業(株)製}、「スミラーザーTPM」、「スミライザーTPL−R」、「スミラーザーTPS」、「スミラーザーTP−D」{以上住友化学(株)製}などが挙げられる。
【0076】
(フェノール系化合物)
「スミライザーGM」、「スミライザーGS」、「スミライザーMDP−S」、「スミライザーBBM−S」、「スミライザーGA−80」{以上住友化学(株)製}、「アデカスタブAO−20」、「アデカスタブAO−30」、「アデカスタブAO−40」、「アデカスタブAO−60」、「アデカスタブAO−70」、「アデカスタブAO−80」、「アデカスタブAO−330」{以上旭電化工業(株)製}などが挙げられる。
【0077】
上記の(過酸化物分解剤)と(フェノール系化合物)の両方の性質を有する化合物として、「スミライザーGP」のような化合物が好ましい。
【0078】
(その他の安定剤)
弱有機酸、エポキシ化合物等を安定剤として配合してもよい。
弱有機酸とは、pKaが1以上のものであり、本発明の作用を妨害せず、着色防止性、物性劣化防止性を有するものであれば特に限定されない。例えば酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸、蓚酸、コハク酸、マレイン酸などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0079】
エポキシ化合物としては、例えばエピクロルヒドリンとビスフェノールAより誘導されるものが挙げられ、またエピクロルヒドリンとグリセリンからの誘導体や、ビニルシクロヘキセンジオキシド、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレートの如き環状のものも用いることができる。さらにエポキシ化大豆油、エポキシ化ヒマシ油、長鎖−α−オレフィンオキシド類なども用いることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0080】
(その他の添加剤)
(マット剤)
本発明に用いられるセルロースアシレートフィルムには、マット剤として微粒子を加えることが好ましい。本発明に使用される微粒子としては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子は珪素を含むものが濁度を低くでき好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。
【0081】
二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子径が20nm以下であり、且つ見かけ比重が70g/L以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmと小さいものがフィルムのヘイズを下げることができより好ましい。見かけ比重は90〜200g/L以上が好ましく、100〜200g/L以上がさらに好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
【0082】
これらの微粒子は、通常平均粒子径が0.1〜3.0μmの2次粒子を形成して、フィルム中では1次粒子の凝集体として存在し、フィルム表面に0.1〜3.0μmの凹凸を形成させる。2次平均粒子径は0.2μm以上1.5μm以下が好ましく、0.4μm以上1.2μm以下がさらに好ましく、0.6μm以上1.1μm以下が最も好ましい。1次、2次粒子径はフィルム中の粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、粒子に外接する円の直径をもって粒径とした。また、場所を変えて粒子200個を観察し、その平均値をもって平均粒子径とした。
【0083】
二酸化珪素の微粒子は、例えば、「アエロジルR972」、「アエロジルR972V」、「アエロジルR974」、「アエロジルR812」、「アエロジル200」、「アエロジル200V」、「アエロジル300」、「アエロジルR202」、「アエロジルOX50」、「アエロジルTT600」{以上日本アエロジル(株)製}などの市販品を使用することができる。酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、「アエロジルR976」及び「アエロジルR811」{以上日本アエロジル(株)製}の商品名で市販されており、使用することができる。
これらの中で「アエロジル200V」、「アエロジルR972V」が1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上である二酸化珪素の微粒子であり、光学フィルムの濁度を低く保ちながら、摩擦係数をさげる効果が大きいため特に好ましい。
これらの微粒子は、セルロースアシレートの100質量部に対して0.001〜5質量部の濃度で含有させることが好ましい。
【0084】
(その他添加剤)
上記以外に種々の添加剤、例えば紫外線吸収剤{例えば、ヒドロキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、シアノアクリレート系化合物等)、赤外線吸収剤、光学調整剤、界面活性剤及び臭気トラップ剤(アミン等)など}を加えることができる。これらの詳細は、発明協会公開技法公技番号2001−1745号(2001年3月15日発行、発明協会),p.17〜22に詳細に記載されている素材が好ましく用いられる。
【0085】
赤外吸収染料としては例えば特開平2001−194522号公報のものが使用でき、紫外線吸収剤としては例えば特開平2001−151901号公報に記載のものが使用でき、それぞれセルロースアシレート100質量部に対して0.001〜5質量部含有させることが好ましい。光学調整剤としてはレターデーション調整剤を挙げることができ、例えば特開2001−166144、特開2003−344655、特開2003−248117、特開2003−66230記載のものを使用することができ、これにより面内のレターデーション(Re),厚み方向のレターデーション(Rth)を制御できる。好ましい添加量は0〜10質量部であり、より好ましくは0〜8質量部、さらに好ましくは0〜6質量部である。
【0086】
[セルロースアシレートフィルムの光学特性]
このようにして得たセルロースアシレートフィルムは、Re=0〜20nm,Rth=0〜80nmであることが好ましく、より好ましくはRe=0〜15nm,Rth=0〜70nm、さらに好ましくはRe=0〜10nm,Rth=0〜60nmである。
【0087】
Re、Rthはそれぞれ、面内のレターデーション及び厚さ方向のレターデーションを表す。Reは“KOBRA 21ADH”{王子計測機器(株)製}で光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rthは、上述のRe並びに、面内の遅相軸を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して+40°傾斜した方向から光を入射させて測定したレターデーション及び、−40°傾斜した方向から光を入射させて測定したレターデー
ションの、合計3方向から光を入射させて測定したレターデーション値を基に算出する。また製膜方向(長手方向)と、フィルムのReの遅相軸とのなす角度θが0°、+90°又は−90°に近いほど好ましい。
【0088】
全光透過率は90%以上が好ましく、より好ましくは91以上、さらに好ましくは92以上である。好ましいヘイズは0〜1%であり、より好ましくは0〜0.8%、さらに好ましくは0〜0.6%である。
【0089】
[フィルムの延伸]
上記の方法で製膜したフィルムを延伸してもよい。これによりRe,Rthを制御できる。延伸はTg以上Tg+50℃以下で実施するのが好ましく、より好ましくはTg+3℃以上Tg+30℃以下、さらに好ましくはTg+5℃以上Tg+20℃以下である。
【0090】
好ましい延伸倍率は、少なくとも一方に1%以上300%以下、より好ましくは2%以上250%以下、さらに好ましくは3%以上200%以下である。縦、横均等に延伸してもよいが、一方の延伸倍率を他方より大きくし不均等に延伸するほうがより好ましい。縦(MD)、横(TD)いずれを大きくしてもよいが、小さい方の延伸倍率は1%以上30%以下が好ましく、より好ましくは2%以上25%以下であり、さらに好ましくは3%以上20%以下である。大きいほうの延伸倍率は30%以上300%以下であり、より好ましくは35%以上200%以下、さらに好ましくは40%以上150%以下である。これらの延伸は1段で実施しても、多段で実施してもよい。
【0091】
なお、ここでいう延伸倍率は、以下の数式(4)を用いて求めたものである。
数式(4):延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/(延伸前の長さ)
【0092】
このような延伸は出口側の周速を速くした2対以上のニップロールを用いて、長手方向に延伸してもよく(縦延伸)、フィルムの両端をチャックで把持しこれを直交方向(長手方向と直角方向)に広げてもよい(横延伸)。また、特開2000−37772、特開2001−113591、特開2002−103445に記載の同時2軸延伸法を用いてもよい。
【0093】
Re、Rthの比を自由に制御するには、縦延伸の場合、ニップロール間をフィルム幅で割った値(縦横比)を制御することでも達成できる。すなわち、縦横比を小さくすることで、Rth/Re比を大きくすることができる。また、縦延伸と横延伸とを組み合わせてRe,Rthを制御することもできる。すなわち、縦延伸倍率と横延伸倍率を差が小さくすることでReは小さくでき、この差を大きくすることでReは大きくできる。
【0094】
このようにして延伸したセルロースアシレートフィルムのRe、Rthは、下記数式(5)〜(7)を満足することが好ましい。
数式(5):Rth≧Re
数式(6):200≧Re≧0
数式(7):500≧Rth≧30
より好ましくは下記数式(5−1)〜(7−1)、
数式(5−1):Rth≧Re×1.1
数式(6−1):150≧Re≧10
数式(7−1):400≧Rth≧50
さらに好ましくは下記数式(5−2)〜(7−2)を満足することである。
数式(5−2):Rth≧Re×1.2
数式(6−2):100≧Re≧20
数式(7−2):350≧Rth≧80
【0095】
また製膜方向(長手方向)と、フィルムのReの遅相軸とのなす角度θが0°、+90°又は−90°に近いほど好ましい。すなわち、縦延伸の場合は0°に近いほど好ましく、0±3°が好ましく、より好ましくは0±2°、さらに好ましくは0±1°である。横延伸の場合は、90±3°あるいは−90±3°が好ましく、より好ましくは90±2°あるいは−90±2°、さらに好ましくは90±1°あるいは−90±1°である。
【0096】
[表面処理]
未延伸又は延伸セルロースアシレートフィルムは、表面処理を行うことによって、各機能層(例えば、下塗層及びバック層)との接着の向上を達成することができる。例えばグロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、酸またはアルカリ処理を用いることができる。
【0097】
ここでいうグロー放電処理とは、10-3〜20Torrの低圧ガス下で起こる低温プラズマでもよく、更にまた大気圧下でのプラズマ処理も好ましい。このような条件においてプラズマ励起される気体をプラズマ励起性気体といい、例えばアルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、窒素、二酸化炭素、テトラフルオロメタンのようなフロン類、及びそれらの混合物などが挙げられる。これらについては、発明協会公開技報公技番号2001−1745号(2001年3月15日発行、発明協会)の30頁〜32頁に詳細に記載されている。
【0098】
なお、近年注目されている大気圧でのプラズマ処理は、例えば10〜1000keV下で20〜500kgyの照射エネルギーが用いられ、より好ましくは30〜500keV下で20〜300kgyの照射エネルギーが用いられる。
【0099】
(アルカリ鹸化処理)
これらの中でも、特に好ましくはアルカリ鹸化処理であり、セルロースアシレートフィルムの表面処理としては極めて有効である。具体的には特開2003−3266号、同2003−229299号、同2004−322928号、同2005−76088号の各公報等に記載された方法を用いることができる。
【0100】
アルカリ鹸化処理は、セルロースアシレートフィルムを鹸化液に浸漬してもよく、またセルロースアシレートフィルムに鹸化液を塗布してもよい。浸漬法の場合は、NaOHやKOH等のpH10〜14の水溶液を20℃〜80℃に加温した槽を0.1分から10分通過させたあと、中和、水洗、乾燥することで達成できる。塗布方法の場合、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、バーコーティング法及びE型塗布法などを用いることができる。
【0101】
アルカリ鹸化処理塗布液の溶媒は、鹸化液の透明支持体に対して塗布するために濡れ性がよく、また鹸化液溶媒によって透明支持体表面に凹凸を形成させずに、面状を良好なまま保つ溶媒を選択することが好ましい。具体的には、アルコール系溶媒が好ましく、イソプロピルアルコールが特に好ましい。また、界面活性剤の水溶液を溶媒として使用することもできる。
【0102】
アルカリ鹸化塗布液のアルカリは、上記溶媒に溶解するアルカリが好ましく、KOH、NaOHがさらに好ましい。鹸化塗布液のpHは10以上が好ましく、12以上がさらに好ましい。アルカリ鹸化時の反応条件は、室温で1秒以上5分以下が好ましく、5秒以上5分以下がさらに好ましく、20秒以上3分以下が特に好ましい。
【0103】
アルカリ鹸化反応後、鹸化液塗布面を水洗するか、又は酸で洗浄したあと水洗することが好ましい。また、塗布式鹸化処理と後述の配向膜解塗設を、連続して行うことができ、工程数を減少できる。これらの鹸化方法は、具体的には、例えば、特開2002−82226号公報、国際公開第02/46809号パンフレットなどに記載の内容が挙げられる。
【0104】
セルロースアシレートフィルムには、機能層との接着のため下塗り層を設けることも好ましい。この層は上記表面処理をした後、塗設してもよく、表面処理なしで塗設してもよい。下塗層についての詳細は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745号、2001年3月15日発行、発明協会)の32頁に記載されている。
【0105】
これらの表面処理、下塗り工程は、製膜工程の最後に組み込むこともでき、単独で実施することもでき、後述の機能層付与工程の中で実施することもできる。
【0106】
〔機能性層〕
これらの方法で作製したセルロースアシレートフィルムに設ける機能性層としては、発明協会公開技報(公技番号2001−1745号、2001年3月15日発行、発明協会)の32頁〜45頁に詳細に記載されている機能性層を組み合わせることが好ましい。中でも好ましいのが、偏光膜の付与(偏光板)、光学補償層の付与(光学補償フィルム)、反射防止層の付与(反射防止フィルム)、ハードコート層の付与である。
【0107】
[機能性層塗工用溶媒]
本発明では、機能性層を、直接、本発明におけるセルロースアシレートフィルム上に塗設する場合に、機能性層塗工溶液の有機溶媒の溶解性パラメータが18.5MPa1/2以下、又は21MPa1/2以上(好ましくは23Pa1/2以上)のものを使用する。このような溶媒としては、“Polymer Handbook”(John Wiley & Sons,Inc.刊)の表に記載の溶媒が挙げられる。具体的には、沸点が200℃以下、好ましくは150℃以下の溶媒が好ましい。
【0108】
溶解性パラメータが18.5MPa1/2以下のものとしては、i−ブチルアセテート(17.0)、n−ブチルアセテート(17.4)、s−ブチルアセテート(16.8)、i−プロピルアセテート(17.2)、n−プロピルアセテート(18.0)、メチルブチレート(18.2)、メチルプロピオネート(18.2)、エチルプロピオネート(17.2)、エチレングリコールジメチルエーテル(17.6)、メチルプロピルケトン(17.8)、メチルイソプロピルケトン(17.4)、ジエチルケトン(18.0)、メチルイソブチルケトン(17.2)、メチル−n−ブチルケトン(17.0)、メチルアミルケトン(17.4)、メチル−i−アミルケトン(17.2)、トルエン(18.2)、キシレン(18.0);溶解性パラメータが21MPa1/2以上のものとしては、t−ブタノール(21.7)、n−プロピルアルコール(24.3)、ヘキシルアルコール(21.9)、エタノール(26.0)、メタノール(29.7)、アセトニトリル(24.3)、などが好ましい。これらの溶媒は単独で用いてもよいが、好ましくは混合して用いることが好ましい。
上記のような有機溶媒を使用することで、本発明に用いられるセルロースアシレートフィルムの上に機能性層、特に光学補償層、配向膜、ハードコート層、及び反射防止層のいずれかを設けた場合に、表面性が良好で、ヘイズが小さく、液晶表示装置に使用した場合の正面コントラストが低下しない、さらには環境湿度による影響の少ない機能性フィルムを得ることができる。
【0109】
[光学補償層の付与(光学補償フィルムの作製)]
光学異方性層は、液晶表示装置の黒や白表示等における液晶セル中の液晶性化合物を補
償するためのものであり、延伸又は未延伸セルロースアシレートフィルムの上に配向膜を形成し、さらに光学異方性層を付与することで形成される。
【0110】
(配向膜)
先ず、上記の表面処理した未延伸又は延伸したセルロースアシレートフィルム上に配向膜を設ける。この膜は、液晶性化合物の分子の配向方向を規定する機能を有している。しかし、液晶性化合物を配向後にその配向状態を固定してしまえば、配向膜はその役割を終えているために、本発明の構成要素としては必ずしも必須のものではない。すなわち、配向状態が固定された配向膜上の光学異方性層のみを偏光膜上に転写して、本発明の偏光板を作製することも可能である。
【0111】
配向膜は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成、又はラングミュア・ブロジェット法(LB膜)による有機化合物(例えば、ω-トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライド、ステアリル酸メチルなど)の累積のような手段で設けることができる。さらに、電場の付与、磁場の付与又は光照射により、配向機能が生じる配向膜も知られている。
【0112】
配向膜は、ポリマーのラビング処理により形成することが好ましい。配向膜に使用するポリマーは、原則として、液晶性化合物の分子を配向させる機能のある分子構造を有する。
【0113】
本発明では、液晶性化合物の分子を配向させる機能に加えて、架橋性官能基(例えば、二重結合等)を有する側鎖を主鎖に結合させるか、又は液晶性化合物の分子を配向させる機能を有する架橋性官能基を側鎖に導入することが好ましい。
【0114】
配向膜に使用されるポリマーは、それ自体架橋可能なポリマーか又は架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができ、またこれらの組み合わせを複数使用することもできる。
【0115】
ポリマーの例には、例えば特開平8−338913号公報の段落番号[0022]記載のメタクリレート系共重合体、スチレン系共重合体、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコール、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル共重合体、カルボキシメチルセルロース、ポリカーボネート等が含まれる。シランカップリング剤もポリマーとして用いることができるが、使用する溶媒の観点から水溶性ポリマー{例えば、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール等}が好ましく、ゼラチン、ポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコールがさらに好ましく、ポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコールが最も好ましい。重合度が異なるポリビニルアルコール又は変性ポリビニルアルコールを2種類併用することが特に好ましい。ポリビニルアルコールの鹸化度は、70〜100%が好ましく、80〜100%がさらに好ましい。ポリビニルアルコールの重合度は、100〜5000であることが好ましい。
【0116】
液晶性化合物の分子を配向させる機能を有する側鎖は、一般に疎水性基を官能基として有する。具体的な官能基の種類は、液晶性分子の種類及び、必要とする配向状態に応じて決定する。例えば、変性ポリビニルアルコールの変性基としては、共重合変性、連鎖移動変性又はブロック重合変性により導入できる。
【0117】
変性基の例には、親水性基(例えばカルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、アミノ基、アンモニウム基、アミド基、チオール基等)、炭素数10〜100個の炭化水素基
、フッ素原子置換の炭化水素基、チオエーテル基、重合性基(例えば不飽和重合性基、エポキシ基、アジリニジル基等)、アルコキシシリル基(例えばトリアルコキシシリル基、ジアルコキシシリル基、モノアルコキシシリル基等)などが挙げられる。これらの変性ポリビニルアルコール化合物の具体例として、例えば特開2000−155216号公報の段落番号[0022]〜[0145]、同2002−62426号公報の段落番号[0018]〜[0022]に記載のもの等が挙げられる。
【0118】
架橋性官能基を有する側鎖を配向膜ポリマーの主鎖に結合させるか、又は液晶性化合物の分子を配向させる機能を有する側鎖に架橋性官能基を導入することにより、配向膜のポリマーと光学異方性層に含まれる多官能モノマーとを共重合させることができる。その結果、多官能モノマーと多官能モノマーの間だけではなく、配向膜ポリマーと配向膜ポリマーの間、そして多官能モノマーと配向膜ポリマーの間も共有結合で強固に結合される。従って、架橋性官能基を配向膜ポリマーに導入することで、光学補償フィルムの強度を著しく改善することができる。
【0119】
配向膜ポリマーの架橋性官能基は、多官能モノマーと同様に、重合性基を含むことが好ましい。具体的には、例えば特開2000−155216号公報の段落番号[0080]〜[0100]記載のもの等が挙げられる。
【0120】
配向膜ポリマーは、上記の架橋性官能基とは別に、架橋剤を用いて架橋させることもできる。架橋剤としては、アルデヒド、N−メチロール化合物、ジオキサン誘導体、カルボキシル基を活性化することにより作用する化合物、活性ビニル化合物、活性ハロゲン化合物、イソオキサゾール及びジアルデヒド澱粉が含まれる。2種類以上の架橋剤を併用してもよい。具体的には、例えば特開2002−62426号公報の段落番号[0023]〜[0024]記載の化合物等が挙げられる。反応活性の高いアルデヒド、特にグルタルアルデヒドが好ましい。
【0121】
架橋剤の添加量は、配向膜ポリマー100質量部に対して0.1〜20質量部が好ましく、0.5〜15質量部がさらに好ましい。架橋反応終了後の配向膜に残存する未反応の架橋剤の量は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。このように調節することで、配向膜を液晶表示装置に長期使用、或は高温高湿の雰囲気下に長期間放置しても、レチキュレーション発生のない充分な耐久性が得られる。
【0122】
配向膜は、基本的に、配向膜形成材料である上記ポリマー、架橋剤を含む塗工溶液を、透明支持体、すなわちセルロースアシレートフィルム上に塗布した後、加熱乾燥(架橋させ)し、ラビング処理することにより形成することができる。架橋反応は、前記のように、透明支持体上に塗布した後、任意の時期に行ってよい。ポリビニルアルコールのような水溶性ポリマーを配向膜形成材料として用いる場合には、塗工溶液は消泡作用のある有機溶媒(例えば、メタノール等)と水の混合溶媒とすることが好ましい。その比率は質量比で水:メタノールが0:100〜99:1が好ましく、0:100〜91:9であることがさらに好ましい。これにより、泡の発生が抑えられ、配向膜、更には光学異方層の層表面の欠陥が著しく減少する。
【0123】
配向膜の塗布方法は、スピンコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、ロッドコーティング法またはロールコーティング法が好ましい。特にロッドコーティング法が好ましい。また、乾燥後の膜厚は0.1〜10μmが好ましい。加熱乾燥は、20℃〜110℃で行うことができる。充分な架橋を形成するためには60℃〜100℃が好ましく、特に80℃〜100℃が好ましい。乾燥時間は1分〜36時間で行うことができるが、好ましくは1分〜30分である。
pHも、使用する架橋剤に最適な値に設定することが好ましく、グルタルアルデヒドを使用した場合は、pH4.5〜5.5で、特に5が好ましい。
【0124】
配向膜は、延伸又は未延伸セルロースアシレートフィルム上に、又は上記下塗層上に設けられる。配向膜は、上記のようにポリマー層を架橋したのち、表面をラビング処理することにより得ることができる。
【0125】
上記ラビング処理は、LCDの液晶配向処理工程として広く採用されている処理方法を適用することができる。すなわち、配向膜の表面を、紙やガーゼ、フェルト、ゴム、ナイロン、又はポリエステル繊維などを用いて一定方向に擦ることにより、配向を得る方法を用いることができる。一般的には、長さ及び太さが均一な繊維を平均的に植毛した布などを用いて数回程度ラビングを行うことにより実施される。
【0126】
工業的にラビング処理を実施する場合、搬送している配向膜の付いたフィルムに対し、回転するラビングロールを接触させることで達成するが、ラビングロールの真円度、円筒度、振れ(偏芯)はいずれも30μm以下であることが好ましい。ラビングロールへのフィルムのラップ角度は、0.1〜90゜が好ましい。ただし、特開平8−160430号公報に記載されているように、360゜以上巻き付けることで、安定なラビング処理を得ることもできる。フィルムの搬送速度は1〜100m/分が好ましい。ラビング角は0〜60゜の範囲で適切なラビング角度を選択することが好ましい。液晶表示装置に使用する場合は、40〜50゜が好ましい。45゜が特に好ましい。
【0127】
このようにして得た配向膜の膜厚は、0.1〜10μmの範囲にあることが好ましい。
【0128】
次に、配向膜の上に光学異方性層の液晶性化合物の分子を配向させる。その後、必要に応じて、配向膜ポリマーと光学異方性層に含まれる多官能モノマーとを反応させるか、又は架橋剤を用いて配向膜ポリマーを架橋させる。
【0129】
(液晶性化合物)
光学異方性層に用いられる液晶性化合物には、棒状液晶性化合物及び円盤状液晶性化合物が含まれる。棒状液晶性化合物及び円盤状液晶性化合物は、高分子液晶でも低分子液晶でもよく、さらに、低分子液晶が架橋され液晶性を示さなくなったものも含まれる。
【0130】
(棒状液晶性化合物)
棒状液晶性化合物としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類及びアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。
【0131】
なお、棒状液晶性化合物には、金属錯体も含まれる。また、棒状液晶性化合物を繰り返し単位中に含む液晶ポリマーも、棒状液晶性化合物として用いることができる。言い換えると、棒状液晶性化合物は、(液晶)ポリマーと結合していてもよい。
【0132】
棒状液晶性化合物については、「季刊化学総説」第22巻、「液晶の化学」(1994年)(日本化学会編)の第4章、第7章及び第11章、並びに「液晶デバイスハンドブック」(日本学術振興会第142委員会編)の第3章に記載がある。
【0133】
棒状液晶性化合物の複屈折率は、0.001〜0.7の範囲にあることが好ましい。
【0134】
棒状液晶性化合物は、その配向状態を固定するために、重合性基を有することが好ましい。重合性基は、ラジカル重合性不飽基又はカチオン重合性基が好ましく、具体的には、例えば特開2002−62427号公報の段落番号[0064]〜[0086]記載の重合性基、重合性液晶化合物が挙げられる。
【0135】
(円盤状液晶性化合物)
円盤状(ディスコティック)液晶性化合物には、C.Destradeらの研究報告“Mol.Cryst.”,71巻、111頁(1981年)に記載されているベンゼン誘導体、C.Destradeらの研究報告“Mol.Cryst.”,122巻、141頁(1985年)及び“Physics lett,A”,78巻、82頁(1990年)に記載されているトルキセン誘導体、B.Kohneらの研究報告“Angew.Chem.”,96巻、70頁(1984年)に記載されたシクロヘキサン誘導体、並びにJ.M.Lehnらの研究報告“J.Chem.Commun.”,1794頁(1985年)及びJ.Zhangらの研究報告“J.Am.Chem.Soc.”,116巻、2655頁(1994年)に記載されているアザクラウン系やフェニルアセチレン系マクロサイクルが含まれる。
【0136】
円盤状液晶性化合物としては、分子中心の母核に対して、直鎖のアルキル基、アルコキシ基、置換ベンゾイルオキシ基が母核の側鎖として放射線状に置換した構造である液晶性を示す化合物も含まれる。分子または分子の集合体が、回転対称性を有し、一定の配向を付与できる化合物であることが好ましい。円盤状液晶性化合物から形成される光学異方性層は、最終的に光学異方性層に含まれる化合物が円盤状液晶性分子である必要はなく、例えば、低分子の円盤状液晶性化合物が熱や光で反応する基を有しており、結果的に熱、光で反応により重合又は架橋し、高分子量化し液晶性を失った化合物も含まれる。円盤状液晶性化合物の好ましい例は、特開平8−50206号公報に記載されている。また、円盤状液晶性化合物の重合については、特開平8−27284公報に記載がある。
【0137】
円盤状液晶性化合物を重合により固定するためには、円盤状液晶性化合物の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。円盤状コアと重合性基は、連結基を介して結合する化合物であることが好ましく、これにより重合反応においても配向状態を保つことができる。例えば、特開2000−155216号公報の段落番号[0151]〜「0168」記載の化合物等が挙げられる。
【0138】
ハイブリッド配向では、円盤状液晶性化合物の分子の長軸(円盤面)と偏光膜の面との角度が、光学異方性層の深さ方向でかつ偏光膜の面からの距離の増加と共に増加または減少している。角度は、距離の増加と共に減少することが好ましい。さらに、角度の変化としては、連続的増加、連続的減少、間欠的増加、間欠的減少、連続的増加と連続的減少を含む変化、又は増加及び減少を含む間欠的変化が可能である。間欠的変化は、厚さ方向の途中で傾斜角が変化しない領域を含んでいる。角度は、角度が変化しない領域を含んでいても、全体として増加または減少していればよい。さらに、角度は連続的に変化することが好ましい。
【0139】
偏光膜側の円盤状液晶性化合物の分子の長軸の平均方向は、一般に円盤状液晶性化合物又は配向膜の材料を選択することにより、またはラビング処理方法の選択することにより、調整することができる。また、表面側(空気側)の円盤状液晶性化合物の分子の長軸(円盤面)方向は、一般に、円盤状液晶性化合物又は、円盤状液晶性化合物と共に使用する添加剤の種類を選択することにより調整することができる。
【0140】
(光学異方性層の他の添加剤)
円盤状液晶性化合物と共に使用する添加剤の例としては、可塑剤、界面活性剤、重合性
モノマー及びポリマーなどを挙げることができる。長軸配向方向の変化の程度も、上記と同様に、液晶性分子と添加剤との選択により調整できる。またこれらの添加剤を併用することにより、塗工膜の均一性、膜の強度、液晶分子の配向性等を向上することができる。液晶性化合物と相溶性を有し、液晶性化合物の傾斜角の変化を与えられるか、又は配向を阻害しないことが好ましい。
【0141】
(重合性モノマー)
重合性モノマーとしては、ラジカル重合性又はカチオン重合性の化合物が挙げられる。好ましくは、多官能性ラジカル重合性モノマーであり、上記の重合性基含有の液晶化合物と共重合性のものが好ましい。例えば、特開2002−296423号公報の段落番号[0018]〜[0020]記載のものが挙げられる。これらの化合物の添加量は、円盤状液晶性化合物100質量部に対して一般に1〜50質量部の範囲にあり、5〜30質量部の範囲にあることが好ましい。
【0142】
(界面活性剤)
界面活性剤としては、従来公知の化合物が挙げられるが、特にフッ素系化合物が好ましい。具体的には、例えば特開2001−330725号公報の段落番号[0028]〜[0056]記載の化合物が挙げられる。
【0143】
(ポリマー)
円盤状液晶性化合物とともに使用するポリマーは、円盤状液晶性化合物分子に傾斜角の変化を与えられることが好ましい。ポリマーの例としては、セルロースアシレートを挙げることができる。セルロースアシレートの好ましい例としては、特開2000−155216号公報の段落番号[0178]記載のものが挙げられる。液晶性化合物分子の配向を阻害しないように、上記ポリマーの添加量は、液晶性化合物100質量部に対して0.1〜10質量部の範囲にあることが好ましく、0.1〜8質量部の範囲にあることがより好ましい。
円盤状液晶性分子のディスコティックネマティック液晶相-固相転移温度は、70〜300℃が好ましく、70〜170℃がさらに好ましい。
【0144】
(光学異方性層の形成)
光学異方性層は、液晶性化合物及び、必要に応じて、後述の重合性開始剤や任意の成分を含む塗工液を、配向膜の上に塗布することで形成できる。
【0145】
塗工液の塗布は、公知の方法(例えば、ワイヤーバーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法など)により実施できる。
【0146】
光学異方性層の厚さは、0.1〜20μmであることが好ましく、0.5〜15μmであることがさらに好ましく、1〜10μmであることが最も好ましい。
【0147】
(液晶性化合物分子の配向状態の固定)
配向させた液晶性化合物を、配向状態を維持して固定することができる。固定化は、重合反応により実施することが好ましい。重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と光重合開始剤を用いる光重合反応とが含まれる。光重合反応が好ましい。
【0148】
光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許第2367661号、同第2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許第2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許第2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許第3046127号、同第2951758号の
各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp-アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許第3549367号明細書記載)、アクリジン及びフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許第4239850号明細書記載)、並びにオキサジアゾール化合物(米国特許第4212970号明細書記載)が含まれる。
【0149】
光重合開始剤の使用量は、重合性化合物100質量部に対して0.01〜20質量部の範囲にあることが好ましく、0.5〜5質量部の範囲にあることがさらに好ましい。
【0150】
液晶性化合物の重合のための光照射には、紫外線を用いることが好ましい。
照射エネルギーは、20mJ/cm2〜50J/cm2の範囲にあることが好ましく、20〜5000mJ/cm2の範囲にあることがより好ましく、100〜800mJ/cm2の範囲にあることがさらに好ましい。また、光重合反応を促進するため、加熱条件下や窒素雰囲気下で光照射を実施してもよい。
保護層を、光学異方性層の上に設けてもよい。
【0151】
この光学補償フィルムと偏光膜を組み合わせることも好ましい。具体的には、上記のような光学異方性層用を設けたフィルムを、偏光膜の保護フィルムとして使用することで、偏光膜と光学異方性層との間にポリマーフィルムや粘着層を増設することなく、偏光膜の寸度変化にともなう応力(歪み×断面積×弾性率)が小さい薄い偏光板が作製される。本発明に従う偏光板を大型の液晶表示装置に取り付けると、光漏れなどの問題を生じることなく、表示品位の高い画像を表示することができる。
【0152】
偏光膜と光学補償層の傾斜角度は、LCDを構成する液晶セルの両側に貼り合わされる2枚の偏光板の透過軸と液晶セルの縦又は横方向のなす角度にあわせるように延伸することが好ましい。通常の傾斜角度は45゜である。しかし、最近は、透過型、反射型及び半透過型LCDにおいて、必ずしも45゜でない装置が開発されており、延伸方向はLCDの設計にあわせて任意に調整できることが好ましい。
【0153】
(光学補償フィルムの用途−液晶表示装置)
このような光学補償フィルムは、TNモード、VAモード、OCBモード、IPSモード等の液晶表示装置に用いられる他、ECBモードおよびSTNモード、FLCモード、AFLCモード、ASMモードに対しても、上記と同様の考え方で光学的に補償することができる。また、透過型、反射型、半透過型のいずれの液晶表示装置においても有効である。GH(Guest−Host)型の反射型液晶表示装置の光学補償フィルムとしても有利に用いられる。
【0154】
[ハードコート層の付与(ハードコートフィルムの作製)]
ハードコート層は、フィルムの物理強度、表面硬度を付与するために、延伸又は未延伸セルロースアシレートフィルムの表面に設けることができる。特に、延伸又は未延伸セルロースアシレートフィルムと反射防止層の下層との間に設けることが好ましい。
【0155】
本発明に用いるハードコートには、公知の硬化性樹脂を用いることができ、熱硬化性樹脂、活性エネルギー線重合性樹脂等があるが、活性エネルギー線重合性樹脂が好ましい。熱硬化性樹脂としてはメラミン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等のプレポリマーの架橋反応を利用するものがある。さらに加水分解性官能基含有の有機金属化合物、例えば有機アルコキシシリル化合物も好ましく用いることができる。
【0156】
(活性エネルギー線重合性樹脂)
本発明において、ハードコート層の好ましく用いられる活性エネルギー線重合性樹脂の層は、多官能モノマー及び/又は、重合性官能基もしくは架橋性反応基を側鎖に有するオ
リゴマーもしくはポリマーと、重合開始剤とを含む塗工溶液を上記の延伸又は未延伸セルロースアシレートフィルム上に塗布し、多官能モノマー、オリゴマー、ポリマーを重合させることにより形成できる。これらの活性エネルギー線重合性樹脂層の重合性官能基としては、ラジカル重合性不飽和二重結合基や開環重合性の環状エーテル基が好ましい。
【0157】
重合性不飽和二重結合基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アリル基などを挙げることができ、反応性の観点よりアクリロイル基、メタアクリロイル基が好ましく用いられる。
【0158】
(重合性不飽和二重結合基含有多官能モノマー)
重合性不飽和二重結合基含有多官能モノマーの具体例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、n−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3,5−シクロヘキサントリオールトリ(メタ)アクリレートなどのポリオールのポリ(メタ)アクリレート類;アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの多酸と、グリコール(エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなど)やトリオール(グリセリン、トリメチロールプロパン等)などのポリオールとの反応によるポリエステル系ポリオールのオリゴマーと、(メタ)アクリレートの反応物などのポリオールポリアクリレート類;ビスフェノールAとグリシジル(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールとグリシジル(メタ)アクリレートの反応物などのエポキシアクリレート類;ポリイソシアネートとポリオールの縮合生成物からなるポリイソシアネートポリウレタン系オリゴマーと、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの水酸基含有アクリレートの反応によって得られるウレタンアクリレート類;などを挙げることができる。
【0159】
(開環重合性環状エーテル化合物)
また、開環重合性環状エーテル化合物しては、エポキシ誘導体、オキセタン誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、オキサゾリン誘導体などの環状イミノエーテル類などが挙げられ、特にエポキシ誘導体、オキセタン誘導体、オキサゾリン誘導体が好ましい。
【0160】
これらの開環重合性環状エーテル化合物は、上記のような環状構造を2個以上、好ましくは3個以上同一分子内に有する化合物が好ましい。例えば3官能グリシジルエーテルとしては、トリメチロールエタントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリグリシジルトリスヒドロキシエチルイソシアヌレートなど;4官能以上のグリシジルエーテルとしては、ソルビトールテトラグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシルエーテル、クレゾールノボラック樹脂のポリグリシジルエーテル、フェノールノボラック樹脂のポリグリシジルエーテルなど;3官能以上のエポキシ類としては、「エポリードGT−301」、「エポリードGT−401」、“EHPE”{以上、ダイセル化学工業(株)製}、フェノールノボラック樹脂のポリシクロヘキシルエポキシメチルエーテルなど;3官能以上のオキセタン類としては“OX−SQ”、“PNOX−1009”{以上、東亞合成(株)製}などが挙げられる。
【0161】
表面弾性率の調整、硬化収縮を低減、密着性改良などのため、必要に応じて、単官能のモノマーを多官能モノマーに添加することも可能である。単官能のモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートなどのアクリル酸のアルキルエ
ステル;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなどの極性基含有のアクリル酸エステル;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミドなどのアクリルアミド;N−ビニルピロリドン、スチレン、ビニルアセテート、無水マレイン酸などのその他の既存のモノマーが挙げられる。
【0162】
一方、同一分子内に1個又は2個の開環重合性基を有する化合物も、必要に応じて併用することができ、好ましい化合物としては、単官能又は2官能のグリシジルエーテル類、単官能又は2官能の脂環式エポキシ類、単官能又は2官能のオキセタン類が挙げられ、種々の市販もしくは公知の化合物を使用することができる。
【0163】
(2個以上のラジカル重合性基を含有するオリゴマー又はポリマー)
また、同様に、少なくとも2個以上のラジカル重合性基を含有するオリゴマー又はポリマーを、多官能モノマーに添加することも可能である。ラジカル重合性基を含有するオリゴマー又はポリマーとしては、(メタ)アクリロイル基、アリル基などの重合性基を側鎖に有するオリゴマー・ポリマーがあり、例としては、水酸基を有するオリゴマー又はポリマーと(メタ)アクリル酸から合成されるエステル誘導体;カルボン酸を有するオリゴマー又はポリマーと、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル{ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなど}やアリルアルコールなどから合成されるエステル誘導体;グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ開環重合体オリゴマー又はポリマー;クロルエチル基を有するオリゴマー又はポリマーの脱塩酸反応により合成される、アクリロイル基を導入した重合体;などが挙げられる。
【0164】
活性エネルギー線としては、放射線、ガンマー線、アルファー線、電子線、紫外線等が挙げられるが、紫外線が好ましい。活性エネルギー線重合性樹脂は、架橋しているポリマーを含む。架橋しているポリマーを含む活性エネルギー線重合性樹脂層は、多官能モノマーと重合開始剤を含む塗工溶液を、前記の延伸又は未延伸セルロースアシレートフィルム上に塗布し、多官能モノマーを重合させることにより形成できる。
【0165】
(無機又は有機微粒子)
これらの活性エネルギー線重合性樹脂層に、無機又は有機微粒子を添加することで、膜としての硬度を調節、架橋収縮率を改良することができる。
【0166】
微粒子としては、無機酸化物や内部架橋のポリマー樹脂粒子が好ましい。硬度が高いものとしては、モース硬度が6以上の無機酸化物粒子が好ましい。例えば、二酸化ケイ素粒子、二酸チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化アルミニウム粒子が含まれる。
【0167】
有機微粒子としては、例えば、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリシロキサン、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、セルロースアセテート、ポリカーボネート、ナイロン等の樹脂粒子等があり、それらの中でポリメタクリル酸メチル(ジビニルベンゼン共重合体)、ポリシロキサン、ポリスチレン、メラミン樹脂及びベンゾグアナミン樹脂、またこれら複合体からなる粒子が好ましい。内部架橋のポリマー樹脂微粒子が好ましい。
【0168】
これらの微粒子の平均粒子径は、1nm以上400nm以下、より好ましくは5nm以上200nm以下、さらに好ましくは10nm以上100nm以下が好ましい。1nm以上であれば分散が比較的容易で凝集粒子ができにくく、400nm以下であればヘイズが大きくなることがなく、平均粒子径がこのような範囲であれば、透明性を落すことがないので好ましい。
【0169】
これらの微粒子の添加量は、活性エネルギー線重合性樹脂層の全量の1〜99質量%であることが好ましく、5〜80質量%であることがより好ましく、10〜50質量%であることがさらに好ましい。
【0170】
(無機微粒子の表面修飾剤)
一般に、無機微粒子はバインダーポリマー(多官能モノマー)との親和性が悪いため、単に両者を混合するだけでは界面が破壊しやすく、膜として割れ、耐傷性を改善することは困難である。無機微粒子とポリマーバインダーとの親和性を改良するため、無機微粒子表面を、有機セグメントを含む表面修飾剤で処理することができる。
【0171】
表面修飾剤は、一方で無機微粒子と結合を形成し、他方でバインダーポリマーと高い親和性を有することが必要である。金属と結合を生成し得る官能基としては、シラン、アルミニウム、チタニウム、ジルコニウム等の金属アルコキシド化合物や、リン酸、スルホン酸、カルボン酸基等のアニオン性基を有する化合物が好ましい。またバインダーポリマーとは化学的に結合させることが好ましく、末端にビニル性重合基等を導入したものが好適である。例えば、エチレン性不飽和基を重合性基及び架橋性基として有するモノマーからバインダーポリマーを合成する場合は、金属アルコキシド化合物又はアニオン性化合物の末端にエチレン性不飽和基を有していることが好ましい。
【0172】
これら表面修飾剤の代表例としては、H2C=C(CH3)COOC36Si(OCH33、H2C=CHCOOC24OTi(OC253、H2C=C(CH3)COOC24OCOC510OPO(OH)2、[H2C=C(CH3)COOC24OCOC510O]2POOH、H2C=C(CH3)COOC24OSO3H、H2C=CHCOO(C510COO)2H、H2C=CHCOOC510COOH等の不飽和二重結合含有のカップリング剤やリン酸、スルホン酸、カルボン酸等が挙げられる。
【0173】
これらの微粒子の表面修飾は、溶液中でなされることが好ましい。表面修飾剤を溶解した溶液に微粒子を添加し、超音波、スターラー、ホモジナイザー、ディゾルバー、プレネタリーミキサー、ペイントシェーカー、サンドグラインダーを用いて、撹拌、分散することが好ましい。
【0174】
(光ラジカル重合開始剤)
光ラジカル重合開始剤の例としては、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーのケトン、ベンゾイルベンゾエート、ベンゾイン類、α−アシロキシムエステル、テトラメチルチウラムモノスルフィド、及びチオキサントンなどが含まれる。
【0175】
光ラジカル重合開始剤は、多官能モノマー100質量部に対して、0.1〜15質量部の範囲で使用することが好ましく、1〜10質量部の範囲で使用することがさらに好ましい。
【0176】
光重合開始剤に加えて、光増感剤を用いてもよい。光増感剤の例には、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、及びチオキサントンなどが含まれる。
【0177】
(光酸発生剤)
カチオンを発生させる光酸発生剤として、トリアリールスルホニウム塩やジアリールヨードニウム塩やスルホン酸のニトロベンジルエステルなど化合物が挙げられ、有機エレクトロニクス材料研究会編、「イメージング用有機材料」(ぶんしん出版社刊)(1997年)などに記載されている化合物など種々の公知の光酸発生剤が使用できる。この中で特に好ましくは、ジフェニル−4−チオフェノキシフェニルスルホニウムヘキサフルオロア
ンチモネートなどのスルホニウム塩又はジフェニルヨードニウム塩であり、対イオンとしてはPF6-、SbF6-、AsF6-、B(C654-などが好ましい。
【0178】
本発明におけるハードコートフィルムの作製は、前記の延伸又は未延伸セルロースアシレートフィルム上に、活性エネルギー線重合性樹脂を含む塗工溶液を、ディッピング法、スピナー法、スプレー法、ロールコーター法、グラビア法、ワイヤーバー法等の公知の薄膜形成方法で形成、乾燥、活性エネルギー線照射して作製することができる。
【0179】
ハードコート層の具体的な構成組成物としては、例えば、特開2002−144913号公報、同2000−9908号公報等記載のものが挙げられる。
【0180】
ハードコート層の膜厚は用途により適切に設計することができるが、一般に0.2〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.5〜7μmである。
【0181】
ハードコート層の硬度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験で、H以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。またJIS K5400に従うテーバー試験で、試験前後の試験片の摩耗量が少ないほど好ましい。
【0182】
ハードコート層は、平均粒径0.2〜10μmの粒子を含有させることにより、防眩機能(アンチグレア機能)を付与した防眩層(後述)を兼ねることもできる。また、微粒子を添加して屈折率を調整することで後述する反射防止層の中屈折率又は高屈折率層を兼ねることもできる。
【0183】
[反射防止層の付与(反射防止フィルム)]
反射防止膜は、一般に、防汚性層でもある低屈折率層、及び低屈折率層より高い屈折率を有する少なくとも一層の層(すなわち、高屈折率層、中屈折率層)を、延伸又は未延伸セルロースアシレートフィルム上に設けてなる。
【0184】
屈折率の異なる無機化合物(金属酸化物等)の透明薄膜を積層させた多層膜として、化学蒸着(CVD)法、物理蒸着(PVD)法、金属アルコキシド等の金属化合物のゾル/ゲル方法でコロイド状金属酸化物粒子皮膜を形成後に後処理(紫外線照射:特開平9−157855号公報、プラズマ処理:特開2002−327310号公報)して薄膜を形成する方法などが挙げられる。
【0185】
一方、生産性が高い反射防止膜として、無機粒子をマトリックスに分散されてなる薄膜を積層塗設してなる反射防止膜が各種提案されている。またこのような、塗布による反射防止フィルムの最上層表面に微細な凹凸の形状を付与した防眩性反射防止層からなる反射防止フィルムも挙げられる。
【0186】
本発明におけるセルロースアシレートフィルムは、上記いずれの方式にも適用できるが、特に好ましいのが塗設による方式(塗布型)である。
【0187】
(塗布型反射防止フィルムの層構成)
支持体であるセルロースアシレートフィルム上に、少なくとも中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層(最外層)の順序、又は高屈折率層、低屈折率層(最外層)の順序の3層又は2層構成から成る反射防止膜は、以下の関係を満足する屈折率を有する様に設計される。
高屈折率層の屈折率>中屈折率層の屈折率>透明支持体の屈折率>低屈折率層の屈折率
【0188】
(ハードコート層)
またセルロースアシレートフィルムと、中屈折率層(3層構成)又は高屈折率(2層構成)との間にハードコート層を設けてもよい。あるいは中屈折率層、高屈折率層はハードコート層を兼ねることもできる。このような場合、高屈折率層で記載する手法を用いて、微粒子を微細に分散して高屈折率ハードコート層に含有させて形成することが好ましい。
【0189】
具体的には、例えば、特開平8−122504号公報、同8−110401号公報、同10−300902号公報、特開2002−243906号公報、特開2000−111706号公報等の記載が挙げられる。また、各層に他の機能を付与させてもよく、例えば、防汚性の低屈折率層、帯電防止性の高屈折率層としたもの(例、特開平10−206603号公報、特開2002−243906号公報等)等が挙げられる。
【0190】
(高屈折率層及び中屈折率層)
反射防止膜の高い屈折率を有する層は、平均粒径100nm以下の高屈折率の無機化合物超微粒子及びマトリックスバインダーを少なくとも含有する硬化性膜からなる。
【0191】
高屈折率の無機化合物超微粒子としては、屈折率1.65以上の無機化合物が挙げられ、好ましくは屈折率1.9以上のものが挙げられる。例えば、Ti、Zn、Sb、Sn、Zr、Ce、Ta、La、In等の酸化物、これらの金属原子を含む複合酸化物等が挙げられる。
【0192】
このような超微粒子とするには、粒子表面が表面処理剤で処理されること(例えば、シランカップリング剤等:特開平11−295503号公報、同11−153703号公報、特開2000−9908;アニオン性化合物又は有機金属カップリング剤:特開2001−310432号公報等)、高屈折率粒子をコアとしたコアシェル構造とすること(例えば、特開2001−166104号公報等)、特定の分散剤併用(例えば、特開平11−153703号公報、米国特許第6210858号明細書、特開2002−2776069号公報等)等挙げられる。
【0193】
マトリックスを形成するバインダーとしては、従来公知の熱可塑性樹脂、硬化性樹脂皮膜等が挙げられる。
【0194】
更に、ラジカル重合性及び/又はカチオン重合性の重合性基を少なくとも2個以上含有の多官能性化合物含有組成物、加水分解性基を含有の有機金属化合物及びその部分縮合体組成物から選ばれる少なくとも1種の組成物が好ましい。例えば、特開2000−47004号公報、同2001−315242号公報、同2001−31871号公報、同2001−296401号公報等に記載の化合物が挙げられる。
【0195】
また、金属アルコキドの加水分解縮合物から得られるコロイド状金属酸化物と、金属アルコキシド組成物から得られる硬化性膜も好ましい。例えば、特開2001−293818号公報等に記載されている。
【0196】
高屈折率層の屈折率は、一般に1.70〜2.20である。高屈折率層の厚さは、5nm〜10μmであることが好ましく、10nm〜1μmであることがさらに好ましい。
【0197】
中屈折率層の屈折率は、低屈折率層の屈折率と高屈折率層の屈折率との間の値となるように調整する。中屈折率層の屈折率は、1.50〜1.70であることが好ましい。
【0198】
(低屈折率層)
低屈折率層は、通常、高屈折率層の上又はセルロースアシレートフィルム上に順次積層
された複数の層の上に、すなわち反射防止層の最外層として設けられる。低屈折率層の屈折率は1.20〜1.55である。好ましくは1.30〜1.50である。
【0199】
(滑り性の付与)
低屈折率層は、耐擦傷性、防汚性を有する最外層として構築することが好ましい。耐擦傷性を大きく向上させる手段として表面への滑り性付与が有効で、従来公知のシリコーンの導入、フッ素の導入等から成る薄膜層の手段を適用できる。
【0200】
含フッ素化合物の屈折率は1.35〜1.50であることが好ましい。より好ましくは1.36〜1.47である。また、含フッ素化合物はフッ素原子を35〜80質量%の範囲で含む架橋性又は重合性の官能基を含む化合物が好ましい。このような化合物は、例えば、特開平9−222503号公報段落番号[0018]〜[0026]、同11−38202号公報段落番号[0019]〜[0030]、特開2001-40284号公報段落番号[0027]〜[0028]、特開2000−284102号公報等に記載の化合物が挙げられる。
【0201】
シリコーン化合物としては、ポリシロキサン構造を有する化合物であり、高分子鎖中に硬化性官能基又は重合性官能基を含有して、膜中で橋かけ構造を有するものが好ましい。例えば、反応性シリコーン[例えば、「サイラプレーン」{チッソ(株)製等}]、両末端にシラノール基含有のポリシロキサン(特開平11−258403号公報等)等などが挙げられる。
【0202】
架橋又は重合性基を有する含フッ素及び/又はシロキサンのポリマーの架橋又は重合反応は、重合開始剤、増感剤等を含有する最外層を形成するための塗工溶液を、塗布と同時又は塗布後に光照射や加熱することにより実施することが好ましい。
【0203】
また、シランカップリング剤等の有機金属化合物と、特定のフッ素含有炭化水素基含有のシランカップリング剤とを触媒共存下に縮合反応で硬化するゾル/ゲル硬化膜も好ましい。このような硬化膜としては、例えば、ポリフルオロアルキル基含有シラン化合物又はその部分加水分解縮合物(特開昭58−142958号公報、同58−147483号公報、同58−147484号公報、特開平9−157582号公報、同11−106704号公報記載等記載の化合物)、フッ素含有長鎖基であるポリ「ペルフルオロアルキルエーテル」基を含有するシリル化合物(特開2000−117902号公報、同2001−48590号公報、同2002−53804号公報記載の化合物等)などが挙げられる。
【0204】
(その他の添加剤)
低屈折率層は、上記以外の添加剤として充填剤{例えば、二酸化珪素(シリカ)、含フッ素粒子(フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム)等の一次粒子平均径が1〜150nmの低屈折率無機化合物、特開平11−3820公報の段落番号[0020]〜[0038]に記載の有機微粒子等}、シランカップリング剤、滑り剤、界面活性剤等を含有することができる。
【0205】
低屈折率層が最外層の下層に位置する場合には、低屈折率層は気相法(真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法等)により形成されてもよい。安価に製造できる点では、塗布法が好ましい。
【0206】
低屈折率層の膜厚は、30〜200nmであることが好ましく、50〜150nmであることがさらに好ましく、60〜120nmであることが最も好ましい。
【0207】
(防眩層)
アンチグレア機能は、反射防止層の表面に凹凸を形成することにより得られる。反射防止層がアンチグレア機能を有する場合、反射防止層のヘイズは、3〜30%であることが好ましく、5〜20%であることがさらに好ましく、7〜20%であることが最も好ましい。
【0208】
反射防止層表面に凹凸を形成する方法は、これらの表面形状を充分に保持できる方法であればいずれの方法でも適用できる。
【0209】
前記のハードコート層に、粒径0.2〜10μmで且つ、ハードコート層の樹脂との屈折率の差が0.04〜0.3である透光性微粒子を含有させることにより、防眩層を形成させることができる。透光性微粒子としては、ポリスチレンやポリアクリルビーズなどの有機粒子や酸化ケイ素ビーズなどの無機粒子が挙げられる。
【0210】
具体的には、例えば、低屈折率層中に微粒子を使用して膜表面に凹凸を形成する方法(例えば、特開2000−271878号公報等)、低屈折率層の下層(高屈折率層、中屈折率層又はハードコート層)に比較的大きな粒子(粒径0.05〜2μm)を少量(0.1〜50質量%)添加して表面凹凸膜を形成し、その上にこれらの形状を維持して低屈折率層を設ける方法(例えば、特開2000−281410号公報、同2000−95893号公報、同2001−100004号公報、同2001−281407号公報等)等が挙げられる。
【0211】
(前方散乱層)
前方散乱層は、液晶表示装置に適用した場合の、上下左右方向に視角を傾斜させたときの視野角改良効果を付与するために設ける。前記ハードコート層中に屈折率の異なる微粒子を分散することで、ハードコート機能と兼ねることもできる。具体的には、例えば、前方散乱係数を特定化した特開11−38208号公報、透明樹脂と微粒子の相対屈折率を特定範囲とした特開2000−199809号公報、ヘイズ値を40%以上と規定した特開2002−107512号公報等が挙げられる。
【0212】
(その他の層)
上記の層以外に、プライマー層、帯電防止層、下塗り層や保護層等を設けてもよい。
【0213】
(塗布方法)
反射防止フィルムの各層は、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート、マイクログラビア法やエクストルージョンコート法(米国特許第2681294号明細書)により、塗布により形成することができる。
【実施例】
【0214】
以下に、実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0215】
<機能性フィルムの作製>
〔セルロースアシレートフィルムの製膜〕
[セルロースアシレートの調製]
合成例1〜5
セルロースに、アシル化剤(酢酸、無水酢酸、プロピオン酸、プロピオン酸無水物、酪酸及び酪酸無水物から、目的とするアシル置換度に応じて単独又は複数を組み合わせて選
択される)、並びに触媒としての硫酸を混合し、反応温度を40℃以下に保ちながらアシル化を実施した。原料となるセルロースが消失してアシル化が完了した後、さらに40℃以下で加熱を続けて、所望の重合度に調整した。酢酸水溶液を添加して残存する酸無水物を加水分解した後、60℃以下で加熱を行うことで部分加水分解を行い、所望の全置換度に調整した。残存する硫酸を過剰量の酢酸マグネシウムにより中和した。酢酸水溶液から再沈殿を行い、さらに、水での洗浄を繰り返すことにより、表1に記載のアシル基の種類、置換度、重合度の異なるセルロースアシレートを得た。
【0216】
【表1】

【0217】
[セルロースアシレートフィルムの作製]
製造例1−1〜1−3:溶液流延フィルムの作製
表1に記載した組成のセルロースアシレート(CA2〜CA4)のそれぞれを、酢酸メチル/アセトン/メタノール/エタノール/ブタノール{80/5/7/5/3(質量部)}の混合溶液に22質量%になるように溶解し、さらに下記添加剤を添加した。
【0218】
・可塑剤A:トリフェニルホスフェート(3質量%)
・可塑剤B:ビフェニルジフェニルホスフェート(1質量%)
・UV剤a:2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン(0.5質量%)
・UV剤b:2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール(0.2質量%)
・UV剤c:2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−アミルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール(0.1質量%)
・微粒子:二酸化ケイ素(粒径20nm)、モース硬度約7(0.25質量%)
・クエン酸エチルエステル(モノエステルとジエステルが1:1混合、0.2質量%)※上記添加量(質量%)は全てセルロースアシレートに対する割合である。
【0219】
これらのセルロースアシレート、添加剤を溶媒中に撹拌しながら投入し、投入が終わると撹拌を停止し、25℃で3時間膨潤させスラリーを作製した。これを再度撹拌し、完全にセルロースアシレートを溶解した。この後、絶対濾過精度0.01mmの濾紙“#63”{東洋濾紙(株)製}で濾過し、さらに絶対濾過精度2.5μmの濾紙“FH025”(ポール社製)にて濾過した。
【0220】
調製したセルロースアシレート溶液を35℃に加温し、ガラス板上に乾燥膜厚が100μmになるように流延した。70℃で3分、130℃で5分乾燥した後、ガラス板からフィルムを剥ぎ取り、そして160℃、30分で段階的に乾燥して溶媒を蒸発させセルロースアシレートフィルム(CAF1−1〜CAF1−3)を得た。
【0221】
製造例3−1〜3−2:溶融フィルムの作製
表1のセルロースアシレート(CA1及びCA5)のそれぞれに、熱安定剤「スミライザーGP」{住友化学(株)製}を0.3質量%、二酸化珪素微粒子「アエロジルR972V」{日本アエロジル(株)製}0.05質量%、紫外線吸収剤として「アデカスタブLA−31」{旭電化工業(株)製}1質量%を添加し、よく撹拌・混合した。得られた混合物を二軸混練押出機にて、直径約3mm、長さ約5mmの円柱状のペレットに成形した後、110℃の真空乾燥機で6時間乾燥した。これをTg−10℃になるように調整したホッパーに投入し、窒素気流下、フルフライトスクリューを用いた一軸押出機で溶融した。さらに、押出機出口でブレーカープレート式の濾過を行った後、ギアポンプ通過後に4μmのステンレス製リーフ型ディスクフィルター型濾過装置を通した。
【0222】
Tダイを通して押出し、特開平11−235747号公報の実施例1記載のタッチロールを用い表1記載の面圧で製膜した。これをキャスティングロールから剥ぎ取り巻き取った。なお、巻き取り直前に両端(全幅の各3%)をトリミングした後、両端に幅10mm、高さ50μmの厚みだし加工(ナーリング)をつけた後、巻き取って、溶融製膜フィルム(CAF3−1〜CAF3−2)を作製した。
【0223】
得られたセルロースアシレートフィルムについて、使用したセルロースアシレートの種類と製膜方法を表2にまとめて示す。
【0224】
【表2】

【0225】
〔機能性フィルムの作製〕
[光学補償フィルムの作製]
実施例1
上記製造例3−1の溶融法で作製した、厚さ100μmのセルロースアシレートフィルム(CAF3−1)に、厚さ0.1μmのゼラチン下塗り層を設けて、下記の組成の配向膜塗工溶液を#16のワイヤーバーコーターで28mL/m2塗布した。60℃の温風で60秒、さらに90℃の温風で150秒乾燥した。
【0226】
(配向膜塗工溶液組成)
下記構造式の変性ポリビニルアルコール 10g
水 371g
メタノール 119g
グルタルアルデヒド(架橋剤) 0.5g
【0227】
【化1】

【0228】
次に、セルロースアシレートフィルムの遅相軸(波長632.8nmで測定)と45゜の方向に、形成された皮膜にラビング処理を施して得た配向膜上に、下記の組成の光学異方性層塗工溶液を#3のワイヤーバーで塗布し、これを金属の枠に貼り付けて、130℃で2分間加熱し、円盤状液晶性化合物を配向させた。次に、130℃で120W/cm高圧水銀灯を用いて、1分間UV照射し円盤状液晶性化合物を重合させた。その後、室温まで放冷した。このようにして、光学異方性層を形成し、光学補償フィルム(KH1)を作製した。
【0229】
{光学異方性層塗工溶液の組成}
下記構造式の円盤状液晶性化合物 41.01g
重合性モノマー 4.06g
“V#360”:エチレンオキサイド変成トリメチロールプロパントリアクリレート、大阪有機化学(株)製
セルロースアセテートブチレート(1) 0.90g
“CAB551−0.2”:イーストマンケミカル社製
セルロースアセテートブチレート(2) 0.23g
“CAB531−1”、イーストマンケミカル社製
光重合開始剤 1.35g
「イルガキュア907」、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製
光増感剤 0.45g
「カヤキュア−DETX」、日本化薬(株)製
メチルイソブチルケトン(MIBK)(溶媒) 102g
【0230】
【化2】

【0231】
比較例1
実施例1の光学異方性層塗工溶液の組成において、溶媒としてメチルイソブチルケトン(MIBK)を用いる代わりに、メチルエチルケトン(MEK)を用いる以外は実施例1と同様にして光学異方性層を形成し、光学補償フィルム(KHr1)を作製した。
【0232】
[ハードコートフィルムの作製]
実施例2−1
上記製造例3−1の溶融法で作製したセルロースアシレートフィルム(CAF3−1)に、下記組成のハードコート層塗工溶液を、乾燥膜厚が5μmになるようにワイヤーバー方式で塗布、乾燥し、紫外線を照射(500mJ/cm2)してハードコート層を形成し、ハードコートフィルム(HC1)を作製した。
【0233】
(ハードコート層塗工溶液の組成)
活性エネルギー線重合性樹脂 50g
[カヤラッドDPCA−20]、日本化薬(株)製
重合開始剤 2g
「イルガキュア184」、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製
メチルイソブチルケトン(MIBK)(溶媒) 50g
【0234】
実施例2−2〜2−3及び比較例2−1〜2−2
実施例2−1のハードコート層塗工溶液の組成において、溶媒としてメチルイソブチルケトン(MIBK)を用いる代わりに、トルエン、イソプロピルアルコール(IPA)、メチルエチルケトン(MEK)又はアセトンを用いる以外は実施例2−1と同様にしてハードコート層を形成し、ハードコートフィルム(HC2)〜(HC3)及び(HCr1)〜(HCr2)をそれぞれ作製した。
【0235】
実施例2−4〜2−6
実施例2−1において、セルロースアシレートフィルム(CAF3−1)を用いる代わりに、セルロースアシレートフィルム(CAF1−1)、(CAF1−2)又は(CAF1−3)を用いる以外は実施例2−1と同様にしてハードコート層を形成し、ハードコートフィルム(HC4)〜(HC6)をそれぞれ作製した。
【0236】
比較例2−3〜2−5
比較例2−1において、セルロースアシレートフィルム(CAF3−1)を用いる代わりに、セルロースアシレートフィルム(CAF1−1)、(CAF1−2)又は(CAF1−3)を用いる以外は比較例2−1と同様にしてハードコート層を形成し、ハードコートフィルム(HCr3)〜(HCr5)をそれぞれ作製した。
【0237】
[反射防止フィルムの作製]
実施例3−1
上記製造例3−2の溶融法で作製したセルロースアシレートフィルム(CAF3−2)に、下記組成の光散乱層塗工溶液を、乾燥膜厚が6μmになるようにワイヤーバー方式で塗布、乾燥し、紫外線を照射(250mJ/cm2)して光散乱層を形成し、次いでその光散乱層の上に、下記組成の低屈折率層塗工溶液を、乾燥後の膜厚が100nmになるように、同様にワイヤーバー方式で塗布、乾燥し、照射量900mJ/cm2の紫外線を照射し、反射防止フィルム(HB1)を作製した。
【0238】
(光散乱層塗工溶液の組成)
重合性モノマー 50g
“PET−30”:ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物、日本化薬(株)製
メチルイソブチルケトン(MIBK)(溶媒) 38.6g
重合開始剤 2g
「イルガキュア184」、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製
架橋ポリスチレン粒子 1.7g
“SX−350”:平均粒径3.5μm、屈折率1.61、30質量%トルエン分散液、綜研化学(株)製
架橋アクリル−スチレン粒子 13.3g
平均粒径3.5μm、屈折率1.55、30質量%トルエン分散液、綜研化学(株)製
シランカップリング剤 10g
“KBM−5103”、信越化学工業(株)製
【0239】
(低屈折率層塗工溶液の組成)
熱架橋性含フッ素ポリマー 13g
“JN7228A”:屈折率1.42、固形分濃度6質量%、JSR(株)製
シリカゾル 1.3g
“MEK−ST”の粒子サイズ違い、平均粒径45nm、固形分濃度30質量%、日産化学(株)製
メチルエチルケトン(MEK) 5g
シクロヘキサノン(CHN) 0.6g
【0240】
実施例3−2〜3−3及び比較例3−1〜3−2
実施例3−1の光散乱層塗工溶液の組成において、溶媒としてメチルイソブチルケトン(MIBK)を用いる代わりに、トルエン、イソプロピルアルコール(IPA)、メチルエチルケトン(MEK)又はアセトンを用いる以外は実施例3−1と同様にして光散乱層を形成し、次いでそれぞれの光散乱層の上に、実施例3−1と同様に低屈折率層を形成して、反射防止フィルム(HB2)〜(HB3)及び(HBr1)〜(HBr2)をそれぞれ作製した。
【0241】
[機能性フィルムの特性評価]
得られた機能性フィルムについて、以下の特性値を測定した。得られた結果を、各機能性フィルムの構成と共に表3に示す。
【0242】
(1)ヘイズ
JIS−K7136に準じてフィルムの全ヘイズ値(H)を測定した。
機能性塗布フィルムの界面の不均一の評価として、界面反射の乱れの評価値としてヘイズの値で代用した。界面の乱れ;面状の悪いものはヘイズの値が大きくなる。
【0243】
(2)Re
フィルムの幅方向に等間隔で10点サンプリングし、これを25℃、60%RHにて4時間調湿後、自動複屈折計“KOBRA−21ADH”{王子計測機器(株)製}を用いて、25℃、60%RHにおいて、面内レターデーション値(Re)を求めた。
【0244】
(3)反射率
分光光度計“V−550”{日本分光(株)製}に、アダプター“ARV−474”を装着して、380〜780nmの波長領域において、入射角5°における出射角−5゜の鏡面反射率を測定し、450〜650nmの平均反射率を算出た。
【0245】
【表3】

【0246】
表3に示すように、特定のセルロースアシレートフィルムと、特定の溶媒を使用した本発明の機能性フィルムは、塗布面状が良好で、光透過性に優れることが分かる。従って、種々の画像表示装置用のフィルム、液晶表示装置の偏光板保護フィルム、光学補償フィルムに有用に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースアシレートフィルムの表面に、塗設された機能性層を有する機能性フィルムの製造方法において、セルロースアシレートの置換度が下記数式(1)〜(3)を満足し、且つ機能性層塗工溶液の有機溶媒の溶解性パラメータが18.5MPa1/2以下であるか、又は21MPa1/2以上であることを特徴とする機能性フィルムの製造方法。
数式(1):2.0≦X+Y≦3.0
数式(2):0≦X≦1.8
数式(3):1.2≦Y≦2.9
ここで、Xはアセチル基の置換度、Yはプロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基の置換度の総和を表す。
【請求項2】
セルロースアシレートフィルムが、溶融製膜法により作製されたフィルムである請求項1に記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項3】
機能性層が、ハードコート層、反射防止層、光学補償層、導電性層、又はこれらから選ばれる複数の層である請求項1または2に記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項4】
偏光膜に、請求項1〜3のいずれかに記載の機能性フィルムを少なくとも1層積層したことを特徴とする偏光板。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の機能性フィルム、又は請求項4の偏光板を用いた液晶表示装置。

【公開番号】特開2007−217606(P2007−217606A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−41361(P2006−41361)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】