説明

機能性膜付基板の製造方法

【課題】 所望する光学的機能を有しつつ、簡便な方法で耐衝撃性を向上することのできる機能性膜付基板の製造方法を提供する。
【解決手段】 物理的気相成長法を用い略真空雰囲気中にて透明樹脂からなる基板上に金属酸化物を蒸着させることによってなる光学薄膜が形成された機能性膜付基板を製造する方法において、金属酸化物を基板上に蒸着する際に、酸素,窒素,希ガスの何れかから選ばれる少なくとも1種のガスを真空度1.0×10-2Pa〜9.0×10-1Paの範囲内で過剰なガス導入をして蒸着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は反射防止機能や増反射機能を有する誘電体多層膜が形成された機能性膜付基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、透明樹脂からなる基板上に屈折率の異なる誘電体の薄膜を積層させることにより、反射防止機能や増反射機能を有した機能性膜付基板が知られている。このような機能性膜付基板は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的気相成長法を用いて基板に誘電体の薄膜を積層させることによって形成されたものが知られている(特許文献1 参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−271860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したような機能性膜が形成された基板は所望する光学機能は付与されるが、一方でこのような機能性膜の形成により耐衝撃性能が著しく低下してしまうという問題があった。
上記従来技術の問題点に鑑み、所望する光学的機能を有しつつ、簡便な方法で耐衝撃性を向上することのできる機能性膜付基板の製造方法を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、物理的気相成長法を用い略真空雰囲気中にて透明樹脂からなる基板上に金属酸化物を蒸着させることによってなる光学薄膜が形成された機能性膜付基板を製造する方法において、前記金属酸化物を前記基板上に蒸着する際に、酸素,窒素,希ガスの何れかから選ばれる少なくとも1種のガスを真空度1.0×10-2Pa〜9.0×10-1Paの範囲内で過剰なガス導入をして蒸着させるを特徴とするものである。なお、本発明において過剰なガス導入とは、金属酸化物を基板上に形成させるのにガスが必要な場合には真空度が1.0×10-2Pa〜9.0×10-1Paの範囲内で反応蒸着に必要なガス導入よりも過剰となるガス導入を行いながら蒸着させることであり、金属酸化物を基板上に形成させるのにガスが不必要な場合であっても真空度が1.0×10-2Pa〜9.0×10-1Paの範囲内となるようにガス導入を行いながら蒸着させることを含む。
【0006】
このような製造方法によって得られた機能性膜付基板は、必要とする光学性能を有しつつ高い耐衝撃性を得ることができる。本発明においては基板の表面に金属酸化物からなる薄膜を1層以上、物理的気相成長法を用いて積層させ機能性膜を形成する。本発明に用いられる物理的気相成長法(PVD法)は、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等の真空雰囲気において成膜を行う方法であればよい。
【0007】
本発明に用いる基板は、ポリカーボネイト、アクリル等の透明樹脂からなる板材であればよい。なお、基板自体の耐擦傷性及び耐衝撃性を向上させるために、例えばポリカーボネイト板とアクリル板等、性能の異なる2種類以上の透明樹脂板を接合して1枚の基板とすることもできる。また、基板には耐擦傷性や耐衝撃性を向上させるために、予めハードコートやプライマーコートが施されていてもよい。
【0008】
基板上に形成される金属酸化物の薄膜は、高屈折率の薄膜として、Al2O3,TiO2,ZrO2,Ta2O5,Nb2O5等の従来、反射防止膜用や増反射膜用の薄膜として使用されている高屈折率(中屈折率も含む)の金属酸化物であり。このような高屈折率の薄膜を形成する蒸着材料としては、Al2O3,TiO2,Ti2O3,Ti35,ZrO2,Ta2O5,Nb2O5等が好適に用いられる。また、低屈折率の薄膜としてはSiO2やMgF2挙げられ、このような低屈折率の薄膜を形成する蒸着材料としてはSiO2,MgF2好適に用いられる。
また、機能性膜を形成する各薄膜の膜厚(光学膜厚)は、形成する膜層数や所望する光学特性(例えば、反射防止特性,増反射特性)が得られるように設計される。
【0009】
また本発明は、真空蒸着装置等を用いて真空雰囲気中で基板に薄膜を形成する際に、所定のガスを装置内に導入することによって機能性膜に耐衝撃性を持たせるものである。蒸着時に導入するガスは、薄膜の形成を阻害しないものであればよく、高屈折率の薄膜形成に必要な酸素や、他のガスとして窒素、希ガス等の不活性ガスが1種または混合して用いられる。なお、前述した高屈折率の薄膜において、TiO2等は成膜中(蒸着中)に酸素を導入しないと吸収膜となってしまい、必要とされる透過率が得られにくい。このため、吸収膜となりやすい高屈折率の薄膜形成には、透明な薄膜の形成(好適な金属酸化物の形成)のために酸素導入が必要となるため、本発明を適用する場合には、この酸素導入量を通常の薄膜形成に必要な量よりも多くしておけばよい。また、ガスの導入量が多いほど成膜時の薄膜の屈折率が変化(低く)なってしまう。このため、高屈折率及び低屈折率の薄膜形成時に耐衝撃性向上を目的としてガスを導入する場合、ガスを導入した状態での装置内の真空度は好ましくは1.0×10-2Pa〜9.0×10-1Paの範囲内、さらに好ましくは1.0×10-2Pa〜9.0×10-2Paの範囲内である。
【0010】
また、成膜時における耐衝撃性向上のためのガスの導入は、少なくとも1つの高屈折率の薄膜形成時に行われれば、得られる機能性膜の耐衝撃性が向上する。このような耐衝撃性向上のためのガスの導入は、好ましくは機能性膜を形成するために必要な全ての高屈折率の薄膜形成時であり、さらに好ましくは機能性膜を形成するために必要な全ての薄膜形成時である。なお、反射防止膜や増反射膜形成のために高屈折率の薄膜と低屈折率の薄膜とを交互に積層させる場合において、高屈折率の薄膜形成時には前述した通常の酸素ガス導入(金属酸化物膜の形成に必要とされるガス導入)を行い、耐衝撃性向上のためのガスの導入は低屈折率の薄膜形成時のみ行うとした場合には、耐衝撃性の向上があまり期待できない。
【0011】
また、成膜時に過剰のガスを導入することにより、機能性膜付基板の耐衝撃性能は向上するが、成膜後の膜全体の対擦傷性能が下がる。しかしながら、このような機能性膜付基板を例えば携帯電話やTV等の表示画面の前面に用いる場合に、成膜側を内側にしておけば機能性膜は外部に露出しないため、擦傷性能を考慮する必要はなくなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、所望する光学的機能を有しつつ、簡便な方法で耐衝撃性を向上させた機能性膜付基板を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明における実施形態を説明する。
図1は本実施形態における機能性膜付基板として、反射防止機能を有する反射防止膜付基板の構成を示した図である。反射防止膜付基板10は基板1と基板1上に形成される反射防止膜2からなる。基板1は通常に入手できるものであればよく、屈折率は1.48〜1.70程度のものを使用する。具体的に基板材料としては、プラスチック(例えば、ポリカーボネイト樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂等)が用いられ、光学的に透明であれば特に限定されない。
【0014】
反射防止膜2は基板1上に形成され、本実施形態では4層の誘電体の第1薄膜層2a〜第4薄膜層2dからなる。基板1上に初めに形成される第1薄膜層2aは、基板1の屈折率よりも高い屈折率をもつ透明誘電体からなる薄膜層である。第1薄膜層2aに使用される材料は、使用する基板1に応じて適宜選択されるが、屈折率1.50〜2.50程度の範囲のものが使用される。具体的に第1薄膜層2aの主成分には、Al2O3(屈折率1.6)、ZrO2(屈折率1.9)や、TiO2(屈折率2.2)等の金属酸化物が挙げられる。第1誘電膜層2aの膜厚は10nm以上600nm以下が好ましく、より好ましくは20nm以上550nm以下である。膜厚がこれ以上薄くても厚くても、反射防止効果が得られにくい。
【0015】
第2薄膜層2bは第1薄膜層2a上に積層され、第1薄膜層2aの屈折率よりも低い屈折率をもつ透明誘電体からなる薄膜層である。第2薄膜層2bに使用される透明誘電体は、使用する基板1に応じて適宜選択されるが、基板1の屈折率よりも低い屈折率(或いは第1薄膜層の屈折率よりも低い屈折率)が必要である。また同時に、安価に入手可能でかつ安定した成膜が確認されているものが好ましいため、それらを考慮して屈折率1.35以上1.60以下程度の範囲のものが使用される。具体的には、第2薄膜層2bの主成分にはSiO2(屈折率1.46)やMgF2(屈折率1.38)が挙げられる。また、第2薄膜層2bの膜厚は10nm以上600nm以下が好ましく、より好ましくは20nm以上550nm以下である。膜厚がこれ以上薄くても厚くても、反射防止効果が得られにくい。
【0016】
第3薄膜層2cは第2薄膜層2b上に積層され、第2薄膜層2bの屈折率よりも高い屈折率をもつ透明誘電体からなる薄膜層である。第3薄膜層2cに使用される透明誘電体は、第1薄膜層2aと基本的に同じ材料のものが使用可能である。第3薄膜層2cの膜厚は10nm以上600nm以下が好ましく、より好ましくは20nm以上550nm以下である。
【0017】
第4薄膜層2dは第3薄膜層2c上に積層され、第3薄膜層2cの屈折率よりも低い屈折率をもつ透明誘電体からなる薄膜層である。第4薄膜層2dに使用される透明誘電体は、第2薄膜層2bと基本的に同じ材料のものが使用可能である。また、第4薄膜層2dの膜厚は10nm以上600nm以下が好ましく、より好ましくは20nm以上550nm以下である。
なお、各薄膜層の膜厚(光学膜厚)は、所望する光学性能に応じて既知の膜設計によって適宜求めればよい。
【0018】
次に、本実施形態の反射防止膜付基板を製造する方法について説明する。図2は本実施の形態で用いる真空蒸着装置の概略構成を示した図である。真空蒸着装置20は、装置本体21、ガス供給部22、排気ポンプ23を含む。装置本体21内部には、基板1を装置内上方にて保持するための保持部材24、蒸着源30(蒸着材料)を載置する載置台25、蒸着源30を蒸発させるための電子ビームを照射する電子銃26、基板1上に形成される薄膜の膜厚を得るための膜厚センサ27等が設けられている。また、装置本体21と排気ポンプとを繋ぐ部分には装置内の真空度を測定するための真空計28が設けられている。
【0019】
装置本体21の保持部材24に基板1を取り付けた後、高屈折率の薄膜用の蒸着源30を載置台にセットし、排気ポンプ23を用いて装置内を略真空状態とする。装置内が略真空状態となったことを真空計28により確認後、ガス供給部22から酸素を所定の流量にて装置内に導入させる。なお、酸素の流量はガスを導入した状態での装置内の真空度が1.0×10-2Pa〜9.0×10-2Paの範囲内に収まる程度とする。装置内の真空度が所定の範囲を維持していることを確認後、電子銃26より蒸着源30に向けて電子ビームを照射させ、蒸着源30を加熱させ基板1上に蒸着材料を必要な膜厚が得られるまで蒸着させる。必要な膜厚が得られたら、酸素の導入と蒸着作業を停止し、蒸着源30を低屈折率用の蒸着源30に換えて、同様に酸素導入、蒸着作業を行う。このような作業を高屈折率の薄膜層、及び低屈折率の薄膜層の形成に対して繰り返し行い、図1に示すような4層の薄膜からなる反射防止膜付基板を得る。なお、以上の実施形態では反射防止膜付基板を例に挙げ説明したが、これに限るものではなく、増反射膜等の基板に金属酸化物を形成することによりなる機能性膜付基板の製造方法にも適用することができる。
【0020】
次により具体的な実施例、及び比較例を挙げる。
<実施例1>
実施例1では、蒸着源にTi3O5顆粒,SiO2顆粒を用意し、真空蒸着により高屈折率の薄膜としてTiO2を、低屈折率の薄膜としてSiO2を基板上に交互に4層積層し、反射防止膜付基板を得た。ここで基板としては、厚さ 1.0mmのPMMA/PC複合材料(ポリメチルメタクリレート/ポリカーボネート)の板(両面にハードコート付)を用いた。また、蒸着時における装置内の真空度は、排気ポンプによる排気を行いながら、TiO2形成に必要な酸素量よりも過剰となるガス流量を用いて装置内に酸素導入することにより、ガス導入状態において高屈折率の薄膜形成時は2.0×10-2Paとした。また、低屈折率の薄膜の形成時においても酸素を導入し、ガス導入状態において真空度1.5×10-2Paとした。成膜はPMMA面におこなった。なお、真空度の測定は真空計は真空蒸着機本体と排気ポンプとを繋ぐ部分に取り付けられた真空計(ライボルト社製 PR25)を用いて行った。
光学膜厚は基板側から30nm(TiO2)、50nm(SiO2)、265nm(TiO2)、125nm(SiO2)とした。得られた反射防止膜付基板を視感度透過率計(朝日分光(株) MODEL304)にて透過率を測定した。得られた透過率は95.3%であった。
次に得られた反射防止膜付基板に対して落球試験を行い、耐衝撃性の評価を行った。落球試験は、反射防止膜付基板を膜側を下にした状態でリング状のゴム製のジグ上に置き、直径11mm、重さ5.6gのパチンコ玉(遊戯球)を所定の高さ(10cm,25cm,50cm,80cm,100cm)から落下させ、クラックや割れの発生の有無を確認した。クラックや割れが生じなかった場合には評価○、生じた場合には評価×とした。また、対擦傷性評価として、#0000のスチールウールを1.5kg荷重で膜上を5往復させて、生じた傷を数えた。その結果を表1に示す。
【0021】
<実施例2>
実施例2では、ガス導入時の真空度を高屈折率の薄膜形成時は3.0×10-2Pa、低屈折率の薄膜の形成時は2.5×10-2Paとした以外は、すべて実施例1と同じ条件とした。得られた反射防止膜付基板の視感度透過率は95.3%であった。また、実施例1と同じ落球試験、耐擦傷性評価を行った。その結果を表1に示す。
【0022】
<実施例3>
実施例3では、ガス導入時の真空度を高屈折率の薄膜形成時は2.0×10-2Paとし、低屈折率の薄膜の形成時はガス導入を行わず、排気のみ(真空度5.0×10-3Pa)とした以外は、すべて実施例1と同じ条件とした。得られた反射防止膜付基板の視感度透過率は95.3%であった。また、実施例1と同じ落球試験、耐擦傷性評価を行った。その結果を表1に示す。
【0023】
<実施例4>
実施例4では、ガス導入時の真空度を高屈折率の薄膜形成時は3.0×10-2Paとし、低屈折率の薄膜の形成時はガス導入を行わず、排気のみ(真空度5.0×10-3Pa)とした以外は、すべて実施例1と同じ条件とした。得られた反射防止膜付基板の視感度透過率は95.3%であった。また、実施例1と同じ落球試験、耐擦傷性評価を行った。その結果を表1に示す。
【0024】
<実施例5>
実施例5では、基板に初めに蒸着する高屈折率の薄膜形成時は、ガス導入時の真空度を2.0×10-2Paとし、低屈折率の薄膜の形成時はガス導入を行わず、排気のみ(真空度5.0×10-3Pa)とし、3層目の高屈折率の薄膜形成時は、酸素導入における真空度を9.0×10-3Paとし、過剰なガス導入を行わずTiO2形成に必要な酸素導入だけ行った。その他の条件は、すべて実施例1と同じ条件とした。得られた反射防止膜付基板の視感度透過率は95.3%であった。また、実施例1と同じ落球試験、耐擦傷性評価を行った。その結果を表1に示す。
【0025】
<実施例6>
実施例6では、基板に初めに蒸着する高屈折率の薄膜形成時は、ガス導入時の真空度を3.0×10-2Paとし、低屈折率の薄膜の形成時はガス導入を行わず、排気のみ(真空度5.0×10-3Pa)とし、3層目の高屈折率の薄膜形成時は、酸素導入における真空度を9.0×10-3Paとし、過剰なガス導入を行わずTiO2形成に必要な酸素導入だけ行った。その他の条件は、すべて実施例1と同じ条件とした。得られた反射防止膜付基板の視感度透過率は95.3%であった。また、実施例1と同じ落球試験、耐擦傷性評価を行った。その結果を表1に示す。
【0026】
<実施例7>
実施例7では基板の厚さを0.5mmとした以外は、すべて実施例1と同じ条件とした。得られた反射防止膜付基板の視感度透過率は95.3%であった。また、実施例1と同じ落球試験、耐擦傷性評価を行った。その結果を表1に示す。
【0027】
<比較例1>
比較例1では、従来の反射防止膜形成の条件であり、1層、3層ともに高屈折率の薄膜形成時に導入される酸素は、TiO2形成に必要な酸素導入だけ行い、過剰なガス導入を行わず真空度を9.0×10-3Paとした。また、2層、4層の低屈折率薄膜の形成時はガス導入を行わず、排気のみ(真空度5.0×10-3Pa)とした。その他の条件は、すべて実施例1と同じ条件とした。得られた反射防止膜付基板の視感度透過率は95.3%であった。また、実施例1と同じ落球試験、耐擦傷性評価を行った。その結果を表1に示す。
【0028】
<比較例2>
比較例2では、1層、3層ともに高屈折率の薄膜形成時に導入される酸素は、TiO2形成に必要な酸素導入だけ行い、過剰なガス導入を行わず真空度を9.0×10-3Paとした。また、2層、4層の低屈折率薄膜の形成時に酸素によるガス導入を行い、真空度2.0×10-3Paとした。その他の条件は、すべて実施例1と同じ条件とした。得られた反射防止膜付基板の視感度透過率は95.3%であった。また、実施例1と同じ落球試験、耐擦傷性評価を行った。その結果を表1に示す。
【0029】
<比較例3>
比較例3では、1層、3層ともに高屈折率の薄膜形成時に導入される酸素は、TiO2形成に必要な酸素導入だけ行い、過剰なガス導入を行わず真空度を9.0×10-3Paとした。また、2層、4層の低屈折率薄膜の形成時に酸素によるガス導入を行い、真空度3.0×10-3Paとした。その他の条件は、すべて実施例1と同じ条件とした。得られた反射防止膜付基板の視感度透過率は95.3%であった。また、実施例1と同じ落球試験、耐擦傷性評価を行った。その結果を表1に示す。
【0030】
<比較例4>
比較例4では、基板の厚さを0.5mmとした以外は、すべて比較例1と同じ条件とした。また、実施例1と同じ落球試験、耐擦傷性評価を行った。その結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
<結果>
実施例1〜7何れの反射防止膜付基板においても、従来例となる比較例1に対して耐衝撃性の向上が見られた。また、実施例1〜7の対擦傷性能は比較例1に対して劣る結果となった。しかしながら、例えば携帯電話やTV等の表示画面の前面に用いる場合に、成膜側を内側にしておけば機能性膜は外部に露出しないため、擦傷性能を考慮する必要はなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本実施形態における機能性膜付基板の構成を示した図である。
【図2】本実施形態における真空蒸着装置の概略構成を示した図である。
【符号の説明】
【0034】
1 基板
2 反射防止膜
10 反射防止膜付基板
20 真空蒸着装置
21 装置本体
22 ガス供給部
23 排気ポンプ
28 真空計
30 蒸着源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理的気相成長法を用い略真空雰囲気中にて透明樹脂からなる基板上に金属酸化物を蒸着させることによってなる光学薄膜が形成された機能性膜付基板を製造する方法において、前記金属酸化物を前記基板上に蒸着する際に、酸素,窒素,希ガスの何れかから選ばれる少なくとも1種のガスを真空度1.0×10-2Pa〜9.0×10-1Paの範囲内で過剰なガス導入をして蒸着させることを特徴とする機能性膜付基板の製造方法。
【請求項2】
請求項1の機能性膜付基板の製造方法において、前記過剰なガス導入とは、前記金属酸化物を基板上に形成させるのに前記ガスが必要な場合には前記真空度が1.0×10-2Pa〜9.0×10-1Paの範囲内で反応蒸着に必要なガス導入よりも過剰となるガス導入であり、前記金属酸化物を基板上に形成させるのに前記ガスが不必要な場合であっても前記真空度が1.0×10-2Pa〜9.0×10-1Paの範囲内となるように前記ガス導入を行うことを特徴とする機能性膜付基板の製造方法。
【請求項3】
請求項2の機能性膜付基板の製造方法において、前記光学薄膜は前記基板の屈折率よりも高い屈折率を持つ金属酸化物からなる薄膜と前記基板の屈折率よりも低い屈折率を持つ金属酸化物からなる薄膜とが複数積層されることによりなる光学薄膜であり、前記高屈折率の薄膜は、主成分にAl2O3,TiO2,ZrO2,Ta2O5,Nb2O5から選ばれる金属酸化物であり、前記高屈折率の薄膜形成時に選ばれるガスは酸素であることを特徴とする機能性膜付基板の製造方法。
【請求項4】
請求項3の機能性膜付基板の製造方法において、前記ガスの導入は前記機能性膜を形成するために必要な全ての前記高屈折率及び低屈折率の薄膜形成時においてなされることを特徴とする機能性膜付基板の製造方法。
【請求項5】
請求項3の機能性膜付基板の製造方法において、前記ガスの導入は前記機能性膜を形成するために必要な前記高屈折率の薄膜形成時においてなされることを特徴とする機能性膜付基板の製造方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の機能性膜付基板の製造方法において、前記機能性膜は反射防止膜であることを特徴とする機能性膜付基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−248580(P2010−248580A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−100219(P2009−100219)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(000135184)株式会社ニデック (745)
【Fターム(参考)】