説明

欠陥識別マーカー付き基板、及びその製造方法

【課題】デバイスプロセス工程でウェハの欠陥そのものを検出しなくても、欠陥位置が容易に分かり、欠陥位置情報のデータを別途用意しなくても、基板自体からその欠陥位置を識別することができる欠陥識別マーカー付き基板、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】炭化珪素単結晶からなる単結晶基板、又は、炭化珪素単結晶上にエピタキシャル層を備えたエピタキシャル基板において、欠陥が存在する位置に対応する基板の表面側又は裏面側に、レーザー照射加工によって形成された識別マーカーが付された欠陥識別マーカー付き基板であり、また、欠陥の位置に対応させて、基板の表面側又は裏面側にマーカー加工用のレーザー光を照射して識別マーカーを形成する欠陥識別マーカー付き基板の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素単結晶からなる単結晶基板、又は、炭化珪素単結晶上にエピタキシャル層を備えたエピタキシャル基板において、これらの基板に存在する欠陥を識別するためにマーカーを付した、欠陥識別マーカー付き基板に関し、また、本発明は、このような欠陥識別マーカー付き基板を得るための製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換用の素子として、ダイオード、トランジスタ、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などが用いられているが、その多くはシリコン半導体のエピタキシャル層を有した基板をもとに製造されたものである。シリコン半導体は、長年の技術開発により、単結晶シリコンからなる基板や、シリコンを用いたエピタキシャル層に含まれる欠陥は極少となり、高品質のものが製造できるようになっている。
【0003】
近年、シリコン半導体材料より高い絶縁破壊電界を持つ炭化珪素(SiC)を用いたデバイスの開発や実用化が進みつつある。具体的な絶縁破壊電界強度は、シリコンが0.3MV/cm程度であるのに対して、4Hポリタイプの炭化珪素は3.5MV/cm程度である。このような炭化珪素の物性の優位性を利用することによって、シリコンの1/10以下の薄いエピタキシャル膜の厚さでも、シリコンと同等の耐圧を有する電力用半導体素子の実現が可能である。薄いエピタキシャル膜であることは、同じ耐圧で厚さ方向の電気抵抗が小さくなるため、デバイスとして用いた場合に高効率を実現する能力を持つことも意味する。
【0004】
炭化珪素は炭素と珪素の化合物であるが、包晶反応型の状態図を示し、液相成長は原理的に適用できないため、一般には、原料粉を坩堝に入れて高温で加熱してガス化し、坩堝内に設置した種結晶上に結晶成長をさせることにより単結晶を製造する(昇華再結晶法、または改良レイリー法と呼ばれる)。この結晶成長は2000℃以上と極めて高温の環境下で合成されるため、残留熱応力等の影響を皆無とすることは難しく、結晶内部には欠陥や転位を有することになる。代表的にはマイクロパイプとばれる直径数μm程度の結晶を貫通する欠陥が発生することがあり、デバイスを形成する際には耐圧不良や導通不良等の致命的な欠陥となることが判明している。
【0005】
結晶成長完了後、取り出された炭化珪素結晶は、シリコン基板と同様な工程を経て、円形の基板となる。具体的には円盤状の基板に加工切断され、表面は研磨により鏡面に仕上げたのち、デバイスが形成される片面は加工ダメージ層が無くなるようにCMP(Chemical Mechanical Polishing)研磨され、基板(ウェハ)となる。炭化珪素はダイヤモンドに次ぐ硬さを有しているため、一般にはダイヤモンドをベースとした研磨材が用いられる。シリコンに比べて難加工性であることから、研磨方法によってはダメージ層が残る場合もある。
【0006】
さらに、この炭化珪素単結晶基板をベースに、デバイスを構成する層を作成するために、ドープ濃度や膜厚を厳密に制御したエピタキシャル成長をCVD(Chemical Vapor Deposition)法により行う。これらCVD成長の過程でも欠陥が発生することが知られており、特に、エピタキシャル層の表面に形成されて、三角状の形状を有した三角欠陥と呼ばれるものや、CVD装置内の原料ガスが装置内部に蓄積して、そのゴミが基板の表面に落下して融着したダウンフォールと呼ばれる欠陥のほか、基板からエピタキシャル層に伝搬したマイクロパイプは、デバイスの耐圧不良や逆リーク電流の増大、バラツキ、導通不良などのデバイス不良となる因子のマクロ欠陥である事が判明している(非特許文献1)。
【0007】
以上のように、炭化珪素単結晶基板や、これを用いて形成されるエピタキシャル層には、デバイスにとって致命的な欠陥を有していることが分っている。そのため、炭化珪素単結晶からなる単結晶基板や、その上にエピタキシャル層を形成したエピタキシャル基板を用いてデバイスを製造する場合には、欠陥の位置を正確に特定し、少なくともそれを避ける必要がある。
【0008】
不良デバイスの検査排除については、デバイスを製造後、ウェハレベルでデバイス部位にプローブを押し当てて通電を行う検査や、パッケージ後に通電検査する方法によって、必要なデバイス特性を有しているかを検査し、不良を排除するのが一般的なスクリーニング方法である。
【0009】
また、デバイスを作製する前段階では、炭化珪素基板の基板内にある特定の基底面内欠陥を識別する目的で、反射X線トポグラフィー測定を行い、これらより得られたウェハ内のX線回折データから、特定の回折パターンを識別することによって欠陥を検出し、基板内の欠陥の位置情報を取得する方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−44083号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 平成21年5月20日“パワーエレクトロニクスインバータ基板技術開発 成果報告書”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
炭化珪素は、高い絶縁破壊電界強度を有するため、炭化珪素単結晶からなる単結晶基板、又は更にエピタキシャル層を備えたエピタキシャル基板は、一般には600V以上の耐圧を持つパワーデバイス向けに用いられることが多い。そして、これらデバイスを製造した後に、プローブ試験などで耐圧不良を検査除去するが、炭化珪素は高い絶縁破壊強度を持つことから、先述のマイクロパイプや、三角欠陥、ダウンフォールが、明確に欠陥として作用するような大きさで存在しない場合や、デバイスを作製する位置関係に無い場合には、所定設計耐圧のプラス数十%増程度の過電圧では不良としての発見が難しい。特に、基板に存在するマイクロパイプがエピタキシャル層に伝搬することなく埋没したり、エピタキシャル成長初期のダウンフォールがエピタキシャル層内に埋没すると、エピタキシャル成長後の表面には僅かな痕跡しか残さず、このように基板に内包された欠陥を、従来のプローブ試験などで検査することは困難である。
【0013】
このような内包欠陥の認識率を上げるためには、より高い電圧を加えて検査する必要がある。シリコン基板においては、デバイス欠陥を発見しやすくするため、デバイス検査の環境温度を上げて通電試験を実施する方法もあるが、炭化珪素は材料としての強度も高く、耐熱性、高熱伝導性を有し、真性半導体温度も高いため、数十℃の環境温度の上昇程度では、発見率向上の寄与は小さいと考えられる。
【0014】
以上のように、炭化珪素の基板もしくはエピタキシャル層にデバイス不良の原因となり得る欠陥があっても、プローブ検査だけでは検出しきれない場合があるように、本来不良品と判断しなければならない素子や、将来故障する可能性が高い素子が、デバイス作製後のテストでは良品と判断されてしまうことがある。仮に、これらの検査で欠陥を検出できるようにしようとすると、より高い電圧、高温下での検査や長時間の通電検査が必要となって、装置を大がかりで複雑なものとしなければならない。
【0015】
また、先述の特許文献1に記載されている反射X線による欠陥識別方法は、高価な装置を必要とする上、検出する主対象は基底面内転位である。デバイス不良の大半を占めるマイクロパイプ、三角欠陥、ダウンフォールなどのマクロ欠陥の検出を迅速に行うには必ずしも有効な方法とは言えない。しかも、基板における欠陥の位置情報データを、デバイスプロセス工程まで持ち込んだとしても、チップとして切断してしまうと欠陥の位置情報を照合するのが困難になることから、基板の状態で検査した者とデバイスプロセス後に検査を行う者とが、万が一にもデータと物品を取り違えることが無いように、厳格な物品とデータの受け渡しが必須となる。そのため、管理用プロセスコンピュータが必要になるなど、デバイスプロセスを複雑にするばかりか、デバイスの製造コストを上昇させることにもなる。
【0016】
本発明は、これらの問題を解決するものであり、デバイスプロセス工程において、基板に存在する欠陥そのものを検出しなくても、欠陥の位置を容易に識別することができ、また、欠陥位置情報のデータ等を別途用意しなくても、基板自体にその欠陥位置を正確に判別できるようにした、欠陥識別マーカー付き基板を提供することを目的とする。また、このような欠陥識別マーカー付き基板を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
即ち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)炭化珪素単結晶からなる単結晶基板、又は、炭化珪素単結晶上にエピタキシャル層を備えたエピタキシャル基板において、欠陥が存在する位置に対応する基板の表面側又は裏面側に、レーザー照射加工により形成された識別マーカーが付されていることを特徴とする欠陥識別マーカー付き基板。
(2)欠陥を取り囲むようにして、基板の表面側又は裏面側に識別マーカーが形成されている(1)に記載の欠陥識別マーカー付き基板。
(3)エピタキシャル基板におけるエピタキシャル層に欠陥が存在する場合、欠陥ごとエピタキシャル層を厚み方向に除去するように、欠陥識別マーカーが形成されている(1)に記載の欠陥識別マーカー付き基板。
(4)欠陥は、レーザー光を照射して得られる反射光又は拡散光によって検出可能なものである(1)〜(3)のいずれかに記載の欠陥識別マーカー付き基板。
(5)炭化珪素単結晶からなる単結晶基板の片面側、又は、炭化珪素単結晶上にエピタキシャル層を備えたエピタキシャル基板の片面側に、欠陥検出用のレーザー光を照射して、反射光又は拡散光によって基板に存在する欠陥の位置を特定し、欠陥が検出された位置に対応させて、基板の他方の面側にマーカー加工用のレーザー光を照射して、識別マーカーを形成することを特徴とする欠陥識別マーカー付き基板の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、デバイスの不良の大半を占めるマイクロパイプ、三角欠陥、ダウンフォール、残留傷などのマクロ欠陥を有する部分を容易に識別することができるように、レーザー照射表面加工によって識別マーカーを形成したことで、デバイスプロセスを実施する者は、デバイスを作製した後であっても、直接的に欠陥部位を認識することができる。そのため、デバイス製造後のプローブ検査などにおいて、基板に欠陥が含まれて本来不良品と判断しなければならない素子を、誤って良品と判断することがないように、予めスクリーニングすることができる。また、検出感度を上げるために必要以上に厳しい電圧や温度環境下で検査を行う必要が無くなる。従って、それらを実行するための検査装置の仕様も緩和され、安価な装置で実行でき、内包する欠陥を見逃すことは無くなり、デバイスの信頼性を著しく向上させることができる。更に、基板欠陥に関わる電子データ等の事前の受け渡しや送信が不要となり、基板と欠陥位置の特定は極めて容易に行えることから、仮に基板を長期に保管しても取り間違えることは無い。更にまた、保管後にプロセスへ投入するため洗浄を行っても、基板上の欠陥位置情報を喪失することは無い。
【0019】
また、本発明の方法では、欠陥の検出と加工を共にレーザー光で行うことができるため、装置の構成上、検査と加工の機能の一体化も容易であって、かつほぼ同時に作業を行うこともでき、生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る第1の実施形態を説明する基板構成図
【図2】本発明に係る第1の実施形態を説明する加工部位拡大図
【図3】本発明に係る第1の実施形態を説明する検査装置概略図
【図4】本発明に係る第1の実施形態を説明する加工装置概略図
【図5】本発明に係る第1の実施形態を説明する基板構成図
【図6】本発明に係る第1の実施形態を説明する基板断面図
【図7】本発明に係る第2の実施形態を説明する加工装置概略図
【図8】本発明に係る第2の実施形態を説明する加工基板断面図
【図9】本発明に係る第3の実施形態を説明する加工検査装置概略図
【図10】本発明に係る第3の実施形態を説明する加工部位概略図
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の欠陥識別マーカー付き基板は、SiC単結晶からなる単結晶基板、又は、SiC単結晶上にエピタキシャル層を備えたエピタキシャル基板(以下、単結晶基板とエピタキシャル基板をまとめて、単に「基板」と呼ぶことがある)において、欠陥が存在する位置に対応させて、基板の表面側又は裏面側に、レーザー照射加工による識別マーカーを備えたものである。すなわち、この識別マーカーは、基板における欠陥部位を識別するためのものである。
【0022】
前記マーカーを施す欠陥は、デバイス作製において有害となる欠陥である。特に、光学的に検出できる欠陥である方が、上記レーザー照射で表面加工してマーカーを施すシステムと組み合わせ易いので好ましい。具体的には、例えば、レーザー光を照射して得られる反射光又は拡散光によって検出可能なものであるのがより好ましい。また、前記欠陥の例としては、マイクロパイプ、三角欠陥、ダウンフォール等が挙げられる。
【0023】
前記マーカーは、レーザー照射で加工して施されるものであるが、レーザー加工痕が、目視、光学的な反射や散乱で検知できるものが好ましい。具体的な例としては、レーザー加工痕を半円形状のドットにした場合には、そのドットは、直径5μm〜20μm、最大深さが2μm〜10μmである。また、エピタキシャル基板におけるエピタキシャル層にマーカーを施す場合には、エピタキシャル層を貫通して炭化珪素単結晶まで到達する深さに加工したマーカーであるのがより好ましい。このようにすることで、半導体チップとして検査する際にも不良デバイスとして容易に識別できる。
【0024】
(第1の実施形態)
図1は、本発明に係る第1の実施形態を示す構成図である。図1の例は、口径2インチ(50.8mm)、厚さ350μmの4H炭化珪素単結晶の上に、厚さ6μmのSiCエピタキシャル層を有したエピタキシャル基板1を示す。この図1の基板1には、識別マーカー1a〜1dが施されている。図2は、図1の識別マーカー1a〜1dの詳細を示している。これらは、図1の基板に存在する欠陥を識別するためにレーザー照射による表面加工で識別マーカーを施した部位であり、基板表面の欠陥部位に対応する裏面側に、該マーカーを施したものである。
【0025】
図2の(1a)〜(1d)は、これら加工部位を基板の表面からみた拡大図であって、図1の識別マーカー1a〜1dの識別マーカー部位を示したものである。図2には、エピタキシャル基板に存在する各種欠陥2a〜2eを示している。すなわち、マイクロパイプ2a〜2c、三角欠陥2d、ダウンフォール2eが示されている。これらの欠陥に対応させて、基板の裏面側には、レーザーによる加工痕であり、すなわち直径12μm、深さ5μm程度で深さ方向に半円の形状をしたドット3を施している。基板1は透明であるため、裏面の加工痕が表面側からも明確に見ることができる。このようなドット3を識別マーカー形状として採用したのは、基板裏面に残る研磨残留傷や偶発的にできた傷と誤認しないよう、通常の取り扱いでは現れないような形状を意図したためである。さらに本実施形態では、それぞれの欠陥の所在位置を中心にして矩形状に囲むように、ドット3をレーザー加工で形成した。このような加工を施した理由は、後ほどの工程で基板の欠陥を逃さず捉えるためであり、更には、欠陥の種別を識別するためである。
【0026】
次に、これらの欠陥の検出方法の例を説明する。図3は欠陥検出装置の概略図である。本実施形態では、欠陥検出用のレーザー光として、650nmの波長のレーザー光を用いている。前記レーザー光の波長は650nmの例であるが、本発明では、欠陥に対して散乱する波長であればよい。すなわち、前記レーザー光の波長としては、例えば、100nm〜1200nmの範囲である。レーザー光源4から放出されたレーザー光5は、集光レンズ6を通り、ミラー7で角度と照射位置を調整され、検査対象であるエピタキシャル層付きのエピタキシャル基板8に到達する。さらに基板表面層の異物や欠陥で拡散した光は、光検出器9で捕捉される。基板表面で反射した光は、ミラー10を通り、集光レンズ11を経て光検出器12で捕捉される。
【0027】
欠陥は、レーザー光の拡散光と反射波の強度変化で捉えるが、入射角θが浅い(小さい)と透明な炭化珪素の基板に対してレーザー光がほとんど裏面へ透過してしまうため、該入射角θは45°以上であるのが良く、適切には60°以上の角度でエピタキシャル基板に入射するよう調整するのが好ましい。一方、前記入射角θが大きいと透過光は少なくなるが、前記入射角θは、大き過ぎると全反射したり、装置の配置上集光し難くなったりするので、85°以下が好ましい。入射光の一部は基板裏面13に到達して反射し、再度基板表面から出てくるが、本反射波をそのまま受光すると、基板裏面の研磨傷などがノイズ情報として重畳されるため、フィルター14でカットしている。基板全体に渡る測定は、位置検出可能なXYステージ上に基板を載せて、基板を動かしながら走査を行うことにより実施するのが良い。
【0028】
以上のような装置構成例で、エピタキシャル基板8を検査し、例えば、拡散光がバックグランド強度より20%以上大きい部位を欠陥と認識させる。このように、欠陥と認識する拡散光の強度を、バックグランド強度の20%以上としたのは、誤検出しないようにするためである。よって、20%未満であると、欠陥を見落とす割合が急激に増える。このような検査を行う場合には空気中の埃などが付着すると欠陥と誤認される可能性があるため、クリーンルームで行うようにするのが望ましい。また、基板は検査前に塩酸、過酸化水素水、アンモニアなどを用いて十分な浸漬洗浄を行った後、スクラブ洗浄を行い、スピン乾燥させるようにするのが望ましい。
【0029】
以上のような検査装置にて、顕微鏡観察で無欠陥部位であった部分をバックグランド値として、拡散光と反射波を検出し、異常が認められた部位の位置をXYステージの位置検出センサーから欠陥の位置記録を取る方式で検査するのが好ましい。欠陥検出用レーザー光は、エピタキシャル層側から照射してもよく、反対面の炭化珪素単結晶側から照射するようにしてもよい。
【0030】
次に、欠陥部位を識別するための識別マーカーの加工方法を述べる。
図4に、加工に用いるレーザー装置の概略図を示す。その一例として、YAG4次高調波の波長266nmのUVレーザー光源15を用いることができる。このような短波波光を用いる理由は、基板が透明であり長波長のレーザー光では光が透過して加工が困難となるためである。前記レーザー光の波長は266nmの例であるが、前述のように、本発明では、SiC単結晶からなる単結晶基板、又は、SiC単結晶上にエピタキシャル層を備えたエピタキシャル基板を加工できる波長であればよい。前記レーザー光の波長としては、例えば、50nm〜350nmの範囲のものを使用することができる。図4に示した例では、レーザー光源15からのレーザー光17は、集光レンズ16を通して、加工対象面18に照射されて識別マーカーが加工される。例えば、識別マーカーを付す面(加工対象面18)を、欠陥検出用レーザー光を照射した面とは反対側にする場合、図3で示した検査対象基板9を反転して裏面を上にして、同じXYステージに載せて、欠陥として認識された位置情報を、基板が反転したデータであることを考慮して計算しながら、XYステージを動かすようにすれば良い。そして、加工レーザー装置の焦点位置近傍に合わせて、図2の(1a)〜(1d)に示したようなドット3の加工を、各欠陥の周囲にそれぞれ施すようにする。以上のような方法で、基板が持つ欠陥を認識できるような加工痕で識別マーカーを基板に施すことができる。もちろん、欠陥検出用レーザー光を照射して検査した面を加工対象面18としてもよい。
【0031】
図5は、第1の実施形態で欠陥検出が完了した基板1に、約6mm角のショットキーバリヤダイオードを試作した際のチップ採取配置19と欠陥検出加工位置1a〜1dとの関係を示すものである。このように、後に排除すべきチップは視角的にも明白であり、簡便な光センサーでも容易に位置検出が可能である。
【0032】
次に、これら基板の有効性を検証するために、ショットキーバリヤダイオードを試作した例を示す。
図6の断面観察を行った部位のスケッチ概略図で説明すると、エピタキシャル層21の上にスパッタにより厚さ1μmのモリブデン膜23を形成し、ショットキー電極とした。その上にアルミニウムを蒸着し電極22とした。裏面側の炭化珪素単結晶には、厚さ0.3μmのニッケル膜24を蒸着し、1000℃で2分間程度の熱処理を施し、裏面のオーミック電極とした。チップサイズは先の設計通り6mm角とした。以上のショットキーバリヤダイオードに、デバイスの欠陥を検出するための初期測定として、個々のチップ電極に検査用プローブを当て、約700Vの順方向とは逆の方向に電圧をかけて耐圧の評価をした。図5に示したチップ採取位置19の全37個のチップのうち、3個のチップが耐圧不良を起こし、これらは図5の1b〜1dのチップであり、欠陥部位に識別するための表面加工したチップと一致した。
【0033】
この結果から、エピタキシャル基板での欠陥部と、デバイス耐圧不良部(チップ)との一致が見られた。マイクロパイプ2aが観測された識別加工部(マーカー)1aについては、逆耐圧不良が生じなかったため、チップを縦に切断してマイクロパイプ近傍の断面解析を行った。図6は断面観察を行った部位のスケッチ概略である。炭化珪素単結晶20、エピタキシャル層21、ショットキーバリア電極23(アルミニウム電極22)、ニッケル電極24で構成され、更に、炭化珪素単結晶20には、直径が1μm程度のマイクロパイプ25が観察された。基板に存在したマイクロパイプ25について、エピタキシャル層側には、マイクロパイプが伝搬することなく閉塞されており、かつ、ニッケル電極24側もニッケルが僅かにパイプに浸透した状態で閉塞されていた。ショットキーバリヤダイオードの耐圧はエピタキシャル層で維持されるため、基板のマイクロパイプが偶発的にエピタキシャル層へ何の影響も与えず、閉塞されたため、耐圧が維持されたものと思われる。このようにデバイスの初期測定では見逃された欠陥が基板検査の結果と不良位置が認識されていたため、本チップに欠陥が内包されていることが検出できた。
【0034】
(第2の実施形態)
図7は、本発明に係る第2の実施形態を説明するための図である。この図7は、YAG4次高調波の波長266nmのUVレーザー光源26、及び集光レンズ17を用いて、SiC単結晶上にSiCエピタキシャル層29を備えたエピタキシャル基板に識別マーカーを付す様子を示しており、図中には、エピタキシャル層29に癒着した直径が2μm程度のダウンフォール28と、炭化珪素単結晶30とが示されている。このダウンフォール28は、先述した図3の検査装置で検出したものである。第1の実施形態では、識別のための加工レーザーは裏面(炭化珪素単結晶)側に施したが、本実施形態では表面(すなわちエピタキシャル層がある面)のダウンフォール28を中心とした近傍にレーザー光を照射して加工した。図8が加工後の図面であるが、ダウンフォールが存在した位置に、直径15μm、深さはSiC単結晶に到達する深さの10μmの円柱状の穴31となっている。本実施形態のエピタキシャル膜の厚さは8μm程度であったため、このような加工(マーカー)を施せば、例えば、第1の実施形態と同じようなショットキーダイオードを試作した場合には、電圧を担えるエピタキシャル層そのものが無く貫通しているため、その後の耐圧検査で低い電圧で容易に基板欠陥部位であったことが検出され、見逃されることは無い。すなわち、デバイスプロセスを実施する者は、基板の欠陥位置を意識せずとも、また特別なデバイス検査を行わずとも、基板欠陥が内包されたチップを容易に排除できる。
【0035】
(第3の実施形態)
図9は、本発明に係る第3の実施形態を説明するための図である。図中に示した装置の上部は、図3で説明した欠陥検出装置と同じ構成であり、本実施の形態では、レーザー光源4から照射される650nmの波長のレーザー光5を用いている。レーザー光源4から放出されたレーザー光5は、集光レンズ6を通り、ミラー7で角度と照射位置を調整され、検査対象であるエピタキシャル基板8(すなわち、SiC単結晶上にSiCエピタキシャル層を備えた基板)に到達する。さらに、エピタキシャル層側の基板表面層の異物や欠陥で拡散した光は、光検出器9で捕捉される。基板表面で反射した光はミラー10を通り集光レンズ11を経て光検出器12で捕捉される。図9の下部は、図4のレーザー加工装置とほぼ同等の構成であり、YAG4次高調波の波長266nmのUVレーザー光源32を用い、該レーザー光は、集光レンズ33を通り、加工対象となる基板裏面13(すなわちSiC単結晶からなる面)に達する。該レーザー光の経路には、更に、ガルバノメーター34が設置されている。ガルバノメーター34で、上部の欠陥検出装置にて欠陥が検出された場合には、即時、レーザー光源32からレーザーが発光し、ガルバノメーター34で基板照射位置が微調整される。本実施形態では、裏面加工でマーカーを基板裏面に施すため、XYステージに直接搭載せず、基板の外周円の一部のみを固定した基板フォルダーに基板を納めて、フォルダーを2軸ロボットにつなぎ、XYステージと同様な走査を行う構成を採用した。
【0036】
以上のような装置により、欠陥個所に対応させて基板の裏面側の加工を行うことができ、識別マーカーを施すことができる。すなわち、本実施形態では、欠陥の検出とマーカーの付与を、欠陥検出レーザーとマーカー加工レーザーとを備えた1台の装置で行うものであり、上述のように、XYステージを必要とせず、効率よくマーカーを施すことができるものである。なお、欠陥検出用レーザー光とマーカー加工用レーザー光について、それぞれのレーザー光が基板に当る位置関係を調整する際には、擬似的な欠陥、例えばレーザーマーキングされたドットなどを表面に形成したダミーウェハーを予め準備し、先述した手順と同様にして、欠陥検出測定と裏面加工を行った後、擬似欠陥と裏面加工位置とを肉眼で比較して、集光レンズやレーザー光源の角度を調節することを繰り返して実施すればよい。
【0037】
図10は、第3の実施形態で加工してマーカーを施した基板の欠陥部位の一例である。本実施形態では、欠陥部位35、36を塗りつぶす形でドット37加工をしてマーカーを施しており、ドット数も加工痕として認識できるように組み合わせて、欠陥周囲に直径10μmの4の点ドット37を形成するようにした。このような加工によるマーカーでは、後の欠陥の種別識別が困難とはなるが、デバイスとしては不良として排除する場合の識別面積としては小さくとどめられる。特に小さなチップサイズのデバイスや欠陥が隣り合うチップの間に位置した場合に、どちらのチップに欠陥があるか同定するときに有効である。
【0038】
以上、本発明の実施形態として、炭化珪素単結晶上にSiCエピタキシャル層を備えたエピタキシャル基板を電力用パワーデバイスとして用いる場合を例にしながら説明したが、無線用の高周波FETや、炭化珪素単結晶上に、同じく透明な半導体材料であるGaN等をエピタキシャル成長させたパワーデバイスなどにも有効である。また、当然のことながら、炭化珪素単結晶からなる単結晶基板の欠陥を検出して、それを識別するマーカーを加工する場合についても、同様に行うことができる。更には、マーカーとする加工痕形状としてドット、円形を例に説明したが、マーカーは、裏面傷などと誤認されないような人工的な加工と認識できるものであれば良い。
【符号の説明】
【0039】
1 エピタキシャル基板
1a〜1d 基板加工部位(マーカー部位)
2a〜2c マイクロパイプ
2d 三角欠陥
2e ダウンフォール
3 加工部分(ドット)
4 レーザー光源
5 レーザー光
6 集光レンズ
7 ミラー
8 エピタキシャル基板
9 光検出器
10 ミラー
11 集光レンズ
12 光検出器
13 基板裏面
14 フィルター
15 レーザー光源
16 集光レンズ
17 レーザー光
18 基板
19 チップ採取位置
20 炭化珪素単結晶
21 エピタキシャル層
22 アルミニウム電極
23 ショットキーバリア金属
24 ニッケル電極
25 マイクロパイプ
26 レーザー光源
27 集光レンズ
28 ダウンフォール
29 エピタキシャル層
30 炭化珪素単結晶
31 加工穴
32 レーザー光源
33 集光レンズ
34 ガルバノメーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素単結晶からなる単結晶基板、又は、炭化珪素単結晶上にエピタキシャル層を備えたエピタキシャル基板において、欠陥が存在する位置に対応する基板の表面側又は裏面側に、レーザー照射加工により形成された識別マーカーが付されていることを特徴とする欠陥識別マーカー付き基板。
【請求項2】
欠陥を取り囲むようにして、基板の表面側又は裏面側に識別マーカーが形成されている請求項1に記載の欠陥識別マーカー付き基板。
【請求項3】
エピタキシャル基板におけるエピタキシャル層に欠陥が存在する場合、欠陥ごとエピタキシャル層を厚み方向に除去するように、欠陥識別マーカーが形成されている請求項1に記載の欠陥識別マーカー付き基板。
【請求項4】
欠陥は、レーザー光を照射して得られる反射光又は拡散光によって検出可能なものである請求項1〜3のいずれかに記載の欠陥識別マーカー付き基板。
【請求項5】
炭化珪素単結晶からなる単結晶基板の片面側、又は、炭化珪素単結晶上にエピタキシャル層を備えたエピタキシャル基板の片面側に、欠陥検出用のレーザー光を照射して、反射光又は拡散光によって基板に存在する欠陥の位置を特定し、欠陥が検出された位置に対応させて、基板の他方の面側にマーカー加工用のレーザー光を照射して、識別マーカーを形成することを特徴とする欠陥識別マーカー付き基板の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−258683(P2011−258683A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130749(P2010−130749)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】