説明

正孔輸送材料、該正孔輸送材料を重合させてなる高分子化合物、有機電界発光素子用組成物および有機電界発光素子

【課題】湿式成膜法に適した正孔輸送材料の提供。
【解決手段】式Iで表され、分子量が300〜5000である正孔輸送材料。基板上に、陽極、陰極、およびこれら両極間に設けられた有機発光層を有する有機電界発光素子において、この正孔輸送材料を重合させて得られる高分子化合物を含有する層を有する有機電界発光素子。


(R〜Rは、水素原子、連結基Zへの直接結合または1価の基。nは1〜4。Aは、水素原子または特定の架橋基を示す。但し、一分子中において、少なくとも1つのAは架橋基である。Eは、−O−Rまたは−Ar。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式成膜法による成膜が可能な、架橋基を有する有機化合物からなる正孔輸送材料と、該正孔輸送材料を重合させてなる高分子化合物と、該正孔輸送材料を含有する有機電界発光素子用組成物と、該高分子化合物を含有する層を有する、発光効率が高く、駆動安定性に優れた有機電界発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機薄膜を用いた電界発光素子(有機電界発光素子)の開発が行われている。有機電界発光素子における有機薄膜の形成方法としては、真空蒸着法と湿式成膜法が挙げられる。
真空蒸着法は積層化が可能であるため、陽極および/または陰極からの電荷注入の改善、励起子の発光層封じ込めが容易であるという利点を有する。湿式成膜法は真空プロセスが要らず、大面積化が容易で、1つの層(塗布液)に様々な機能をもった複数の材料を混合して入れることが容易である等の利点がある。
【0003】
しかしながら、湿式成膜法は積層化が困難であるため、真空蒸着法による素子に比べて駆動安定性に劣り、一部を除いて実用レベルに至っていないのが現状である。特に、湿式成膜法での積層化は、有機溶媒と水系溶媒を使用するなどして二層の積層は可能であるが、三層以上の積層化は困難であった。
【0004】
このような積層化における問題点を解決するために、例えば特許文献1では、エポキシ基を有するジアミン化合物を使用して成膜を行っている。
【0005】
また、特許文献2には、下記の様な架橋基を有する芳香族アミン化合物が提案されている。
【化4】

【0006】
上記の化合物は、アミンのp−位全てが電子供与性の強い置換基であるため、非常に酸化されやすく保存安定性に問題があった。
【特許文献1】特開平7−85973号公報
【特許文献2】特開平7−114987号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、湿式成膜法に適した正孔輸送材料、特に電子および励起子を発光層側に封じ込める効果が高く、保存安定性に優れる正孔輸送材料を提供することを課題とする。
本発明はまた、発光効率が高く、駆動安定性が高い有機電界発光素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、下記の特定構造を有する架橋基を有する有機化合物が、高い正孔輸送能、高い電子および励起子阻止能を有し、保存安定性にも優れる、湿式成膜法に適した化合物であることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
[1] 下記一般式(I)で表され、分子量が300〜5000であることを特徴とする正孔輸送材料。
【化5】

[式(I)中、R〜Rは、各々独立に、水素原子、連結基Zへの直接結合または1価の基を示す。
nは、1〜4の整数を示す。
連結基Zは、nが1のときは存在せず、nが2以上のときは直接結合またはn価の連結基を示す。
は、水素原子または下記式(IA)で表される架橋基を示す。但し、一分子中において、少なくとも1つのAは下記式(IA)で表される架橋基である。
は、下記式(IE−1)または(IE−2)で表される基を示す。
一分子中に存在する、複数の、R〜R、AおよびEは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
−G−J (IA)
{式(IA)中、Gは、−O−基、−C(=O)−基、または置換基を有していてもよい−CH−基から選ばれる基を1〜30個連結してなる2価の基を示す。Jは、架橋基群Tの中から選ばれる一価の基を表す。
<架橋基群T>
【化6】

(式J−1、J−3〜J−5中、R〜Rは、各々独立に、水素原子またはアルキル基を示す。式J−7において、Arは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を示す。但し、式J−1の基は、カルボニル基に直接連結されることはない。)}
−O−R (IE−1)
−Ar (IE−2)
{式(IE−1)中、Rは1価の基を示す。式(IE−2)中、Arは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を示す。}]
【0010】
[2] nが2〜4の整数のとき、Zが、各々独立に、直接結合、エーテル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基であることを特徴とする[1]に記載の正孔輸送材料。
【0011】
[3] nが1または2であることを特徴とする[1]または[2]に記載の正孔輸送材料。
【0012】
[4] 一分子内における架橋基の数が、1、2または3であることを特徴とする[1]ないし[3]のいずれかに記載の正孔輸送材料。
【0013】
[5] Eが下記式(IE)で表されることを特徴とする[1]ないし[4]のいずれかに記載の正孔輸送材料。
【化7】

(式(IE)中、Qは直接結合または酸素原子を示す。R10〜R15は、各々独立に、水素原子、連結基Zへの直接結合または1価の基を示す。)
【0014】
[6] 一分子内に、ビフェニル骨格を有することを特徴とする[1]ないし[5]のいずれかに記載の正孔輸送材料。
【0015】
[7] [1]ないし[6]のいずれかに記載の正孔輸送材料と溶剤とを含有することを特徴とする有機電界発光素子用組成物。
【0016】
[8] [1]ないし[6]のいずれかに記載の正孔輸送材料を重合させて得られる高分子化合物。
【0017】
[9] 基板上に、陽極、陰極、およびこれら両極間に設けられた有機発光層を有する有機電界発光素子において、[8]に記載の高分子化合物を含有する層を有することを特徴とする有機電界発光素子。
【0018】
[10] 有機発光層が、湿式成膜法で形成されることを特徴とする[9]に記載の有機電界発光素子。
【0019】
[11] 高分子化合物を含有する層が、正孔輸送層であることを特徴とする[9]または[10]に記載の有機電界発光素子。
【発明の効果】
【0020】
本発明の正孔輸送材料は、高い正孔輸送能、高い電子および励起子阻止能を有し、保存安定性にも優れる。また、この正孔輸送材料は湿式成膜法に適しており、この正孔輸送材料を用いて有機電界発光素子の有機層を湿式成膜法で積層して形成することが可能となる。
【0021】
また、この正孔輸送材料を含む有機電界発光素子用組成物を用いて、湿式成膜法により形成される有機電界発光素子は、大面積化が可能である。
また、この正孔輸送材料を含む有機電界発光素子用組成物を用いて、有機溶剤に不溶な有機薄膜を形成することも可能であり、有機電界発光素子の湿式成膜法による積層化が容易となる。
さらに、本発明の正孔輸送材料を重合させて得られる高分子化合物を含有する層を有する有機電界発光素子によれば、高い効率で発光させることが可能となり、かつ素子の安定性、特に駆動安定性が向上する。
また、本発明の正孔輸送材料は、優れた製膜性、電荷輸送性、発光特性、耐熱性から、素子の層構成に合わせて、正孔注入材料、正孔輸送材料、発光材料、ホスト材料、電子注入材料、電子輸送材料などとしても適用可能である。
【0022】
本発明の正孔輸送材料を重合させて得られる高分子化合物を含有する層を有する有機電界発光素子は、フラットパネル・ディスプレイ(例えばOAコンピュータ用や壁掛けテレビ)、車載表示素子、携帯電話表示や面発光体としての特徴を生かした光源(例えば、複写機の光源、液晶ディスプレイや計器類のバックライト光源)、表示板、標識灯への応用が考えられ、その技術的価値は大きいものである。
なお、本発明の正孔輸送材料は、本質的に優れた耐酸化還元安定性を有することから、有機電界発光素子に限らず、電子写真感光体にも有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定されない。
【0024】
[正孔輸送材料]
本発明の正孔輸送材料は、下記一般式(I)で表され、分子量が300〜5000のものである。
【0025】
【化8】

【0026】
[式(I)中、R〜Rは、各々独立に、水素原子、連結基Zへの直接結合または1価の基を示す。
nは、1〜4の整数を示す。
連結基Zは、nが1のときは存在せず、nが2以上のときは直接結合またはn価の連結基を示す。
は、水素原子または下記式(IA)で表される架橋基を示す。但し、一分子中において、少なくとも1つのAは下記式(IA)で表される架橋基である。
は、下記式(IE−1)または(IE−2)で表される基を示す。
一分子中に存在する、複数の、R〜R、AおよびEは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
−G−J (IA)
{式(IA)中、Gは、−O−基、−C(=O)−基、または置換基を有していてもよい−CH−基から選ばれる基を1〜30個連結してなる2価の基を示す。Jは、架橋基群Tの中から選ばれる一価の基を表す。
<架橋基群T>
【化9】

(式J−1、J−3〜J−5中、R〜Rは、各々独立に、水素原子またはアルキル基を示す。式J−7において、Arは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を示す。但し、式J−1の基は、カルボニル基に直接連結されることはない。)}
−O−R (IE−1)
−Ar (IE−2)
{式(IE−1)中、Rは1価の基を示す。式(IE−2)中、Arは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を示す。}]
【0027】
[1]構造上の特徴
本発明の正孔輸送材料は、トリフェニルアミン骨格の少なくとも1つのフェニル基の4−位に、置換基Eを有しているため、電気的酸化耐性に優れ、かつ、架橋基Aがフェニル基の4−位にないため、電気的還元耐性にも優れる。また、該部分構造の非対称性ゆえに、非晶質性に優れ、かつ、未重合時の融点やガラス転移点が低いことから、高温下での重合によって、優れて高い重合度が得られ、結果、未反応残基の低減も可能となるため、湿式成膜法により形成した膜を穏和な条件で有機溶剤に不溶とすることが可能であり、これにより得られる不溶性の膜は、電気的耐性に優れたものとなる。
【0028】
[2]分子量範囲
本発明の正孔輸送材料の分子量は、通常5000以下、好ましくは2500以下であり、また通常300以上、好ましくは500以上である。分子量がこの上限値を超えると、溶解性が低下して、湿式製膜が困難になるため、付加的に溶解性向上手段を講ずる必要性が生じる。また不純物の高分子量化によって精製が困難となる場合がある。また、分子量がこの下限値を下回ると、架橋基に対する電荷輸送性基の割合が著しく低下するため、電荷輸送性が低下し、あるいは未反応残基の割合が増加して、電気的耐性を損ねるおそれがある。またガラス転移温度および、融点、気化温度などが低下するため、耐熱性が著しく損なわれるおそれがある。
【0029】
[3]R〜R
〜Rは、各々独立に、水素原子、連結基Zへの直接結合または1価の基を表す。1価の基は、連結基Zへ結合したものであってもよい。R〜Rの1価の基としては次のようなものが挙げられる。
【0030】
<1価の基の具体例>
置換基を有していてもよいアルキル基(好ましくは炭素数1から8の直鎖または分岐のアルキル基であり、例えばメチル、エチル、n−プロピル、2−プロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアルケニル基(好ましくは炭素数2から9のアルケニル基であり、例えばビニル、アリル、1−ブテニル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアルキニル基(好ましくは炭素数2から9のアルキニル基で
あり、例えばエチニル、プロパルギル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアラルキル基(好ましくは炭素数7から15のアラルキル基であり、例えばベンジル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアルコキシ基(好ましくは置換基を有していてもよい炭素数1〜8のアルコキシ基であり、たとえばメトキシ、エトキシ、ブトキシ基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜12の芳香族炭化水素基を有するものであり、例えばフェニルオキシ、1−ナフチルオキシ、2−ナフチルオキシ基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいヘテロアリールオキシ基(好ましくは5または6員環の芳香族複素環基を有するものであり、例えばピリジルオキシ、チエニルオキシ基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアシル基(好ましくは置換基を有していてもよい炭素数2〜10のアシル基であり、例えばホルミル、アセチル、ベンゾイル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基(好ましくは置換基を有していてもよい炭素数2〜10のアルコキシカルボニル基であり、例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基(好ましくは置換基を有していてもよい炭素数7〜13のアリールオキシカルボニル基であり、例えばフェノキシカルボニル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアルキルカルボニルオキシ基(好ましくは置換基を有していてもよい炭素数2〜10のアルキルカルボニルオキシ基であり、例えばアセトキシ基などが挙げられる。)
ハロゲン原子(特に、フッ素原子または塩素原子)、
カルボキシ基
シアノ基
水酸基
メルカプト基
置換基を有していてもよいアルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜8のアルキルチオ基であり、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいアリールチオ基(好ましくは炭素数6〜12のアリールチオ基であり、例えば、フェニルチオ基、1−ナフチルチオ基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいスルホニル基(例えばメシル基、トシル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいシリル基(例えばトリメチルシリル基、トリフェニルシリル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいボリル基(例えばジメシチルボリル基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよいホスフィノ基(例えばジフェニルホスフィノ基などが挙げられる。)
置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基(例えばベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、フルオランテン環などの、5または6員環の単環または2〜5縮合環由来の1価の基が挙げられる。)
置換基を有していてもよい芳香族複素環基(例えばフラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、ベンゾイミダゾール環、
ペリミジン環、キナゾリン環などの、5または6員環の単環または2〜4縮合環由来の1価の基が挙げられる。)
【0031】
上記各基が有していてもよい置換基としては、上記1価の基として例示した基が挙げられる。
【0032】
〜Rとしては、上記各基の中で好ましくは、各々独立に、アルキル基、アルキルオキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基である。
〜Rの1価基としては下記に例示する架橋基であってもよい。
である。
【0033】
[4]n
nは、1〜4の整数を表す。nは、好ましくは、1または2である。
【0034】
[5]Z
は、n=1であるときは、存在せず、nが2以上であるときは、直接結合またはn価の連結基を表す。
n価の連結基としては、上記<1価の基の具体例>に対応するn価基やエーテル基が挙げられる。より詳しくは、n価の連結基の具体例としては、以下の連結基が挙げられ、単独もしくは(同一あるいは異なる)2以上を連結して適用可能である。ただし、以下の具体例において、L、L及びLはそれぞれ独立に、水素原子又は任意の置換基を表す。また、ここで例示した基は、L、L及びL以外にも置換基を有していても良い。
【0035】
【化10】

【0036】
【化11】

【0037】
【化12】

【0038】
【化13】

【0039】
nが2〜4の整数であるとき、Zは、直接結合、エーテル基、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基であることが好ましい。芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基は置換基を有していてもよい。芳香族炭化水素基では、ベンゼン環由来のn価基、芳香族複素環基では、ピリジン環由来のn価基であることが好ましい。
【0040】
[6]A
は、水素原子または下記式(IA)で表される架橋基を示す。但し、一分子中において、少なくとも1つのAは下記式(IA)で表される架橋基である。また、一分子内における架橋基の数は、1以上12以下であることが好ましく、さらに好ましくは1〜3である。
−G−J (IA)
【0041】
{式(IA)中、Gは、−O−基、−C(=O)−基、または置換基を有していてもよい−CH−基から選ばれる基を1〜30個連結してなる2価の基を示す。Jは、架橋基群Tの中から選ばれる一価の基を表す。
<架橋基群T>
【化14】

(式J−1、J−3〜J−5中、R〜Rは、各々独立に、水素原子またはアルキル基を示す。式J−7において、Arは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を示す。但し、式J−1の基は、カルボニル基に直接連結されることはない。)}
【0042】
なお、式J−1、J−3〜J−5において、R〜Rのアルキル基としては、好ましくは炭素数1から8の直鎖または分岐のアルキル基であり、例えばメチル、エチル、n−プロピル、2−プロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル基などが挙げられる。該アルキル基は置換基を有していてもよく、該置換基としては、上記R〜Rの1価の基として例示した基が挙げられる。
【0043】
式J−7において、Arの置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基としては、例えばベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、フルオランテン環などの、5または6員環の単環または2〜5縮合環由来の1価の基が挙げられる。また、置換基を有していてもよい芳香族複素環基としては、例えばフラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環などの、5または6員環の単環または2〜4縮合環由来の1価の基が挙げられる。
上記各基が有していてもよい置換基としては、上記R〜Rの1価の基として例示した基が挙げられる。
【0044】
Arとして好ましくは、置換基を有していてもよいベンゼン環由来の基または置換基を有していてもよいピリジン環由来の基である。
【0045】
の架橋基は、熱や光などの電磁エネルギーにより、互いに結合を形成し得る基であれば特に制限されないが、不飽和二重結合、環状エーテル、ベンゾシクロブタンなどを含む基が好ましい。
【0046】
の架橋基は、特に上記一般式(IA)で表されるものであることが、不溶化しやすいため好ましく、Aは、とりわけ、上記一般式(IA)におけるJが下記架橋基群T’から選ばれる基であることが、電気化学的耐久性に優れるため、好ましい。
【0047】
<架橋基群T’>
【化15】

【0048】
[7]E
は、下記式(IE−1)または(IE−2)で表される基を示す。
【0049】
−O−R (IE−1)
−Ar (IE−2)
(式(IE−1)中、Rは1価の基を示す。式(IE−2)中、Arは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を示す。)
【0050】
式(IE−1)において、Rの1価の基としては、上記R〜Rの1価の基として例示した基が挙げられる。好ましくは、Rは炭素数1〜30のアルキル基または炭素数6〜30の芳香族炭化水素基である。
【0051】
式(IE−2)において、Arの置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基としては、上記架橋基群Tの式J−7のArの置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基と同様である。
【0052】
Arは好ましくは、置換基を有していてもよいベンゼン環由来の1価基(フェニル基)である。
【0053】
特に、Eは下記式(IE)で表されることが正孔輸送性及び電気的酸化耐久性の点で好ましい。
【0054】
【化16】

(式(IE)中、Qは直接結合または酸素原子を示す。R10〜R15は、各々独立に、水素原子、連結基Zへの直接結合または1価の基を示す。)
【0055】
上記式(IE)において、R10〜R15の1価の基としては、上記R〜Rの1価の基として例示した基が挙げられる。R10〜R15は好ましくは各々独立に、アルキル基、アルキルオキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基である。
【0056】
[8]ビフェニル骨格
一般式(I)で表される本発明の正孔輸送材料は、一分子内に、下記式で表されるビフェニル骨格を有することが電気的還元耐久性向上のため好ましい。
【0057】
【化17】

【0058】
[9]例示
以下に、本発明の正孔輸送材料として好ましい具体的な例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
まず、一般式(I)で表される化合物の具体例を示す。以下の具体例において、A〜Aはそれぞれ、一般式(I)におけるAと同義である。
【0059】
【化18】

【0060】
【化19】

【0061】
【化20】

【0062】
【化21】

【0063】
【化22】

【0064】
【化23】

【0065】
【化24】

【0066】
【化25】

【0067】
【化26】

【0068】
【化27】

【0069】
【化28】

【0070】
【化29】

【0071】
上記一般式(I)で表される化合物の具体例のうち、好ましいものとしては、以下に示すものが挙げられる。
【0072】
【化30】

【0073】
次に、架橋基A(上記例示化合物におけるA〜A)の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0074】
【化31】

【0075】
【化32】

【0076】
【化33】

【0077】
【化34】

【0078】
【化35】

【0079】
上記架橋基A(上記例示化合物におけるA〜A)の具体例のうち、好ましいものとしては、以下のものが挙げられる。
【0080】
【化36】

【0081】
前記一般式(I)で表され、分子量が300〜5000である本発明の正孔輸送材料として、より具体的には、後述の合成例1〜18で合成された目的物3、6、10、15、17、18、20、23、25、30、34、38、42、43、47、50、51、53が挙げられるが、その他、次のような化合物も挙げられる。ただし、本発明の正孔輸送材料は、以下の例示化合物に何ら限定されるものではない。
【0082】
【化37】

【0083】
【化38】

【0084】
【化39】

【0085】
【化40】

【0086】
【化41】

【0087】
【化42】

【0088】
[10]合成法
本発明の正孔輸送材料は、目的とする化合物の構造に応じて原料を選択し、公知の手法を用いて合成することができる。
代表的な合成スキームを以下に示す。
【0089】
【化43】

【0090】
ここで、X〜Xは、脱離基(例えば、Br、I、−B(OH)など)を表す。
〜Yは、A21の前駆体(例えば、ビニル基の前駆体は−CHO基であり、−O−(CH−O−CH−メチルオキセタン基の前駆体は、−OH基である)、または、脱離基(例えば、Br、I、−B(OH)など)を表す。
21〜R23は、R〜Rと同義の架橋基を表す。
21は、Aと同義の架橋基を表す。
はEと同義の基を表す。
各原料化合物は、適宜、試薬として入手可能であり、反応は、公知のカップリング手法を用いて、容易に実現可能である。
尚、ArNH系化合物(例えば、化合物a,e)からArNH系化合物(例えば、化合物b,c)を合成する反応においては、一旦、アシル化し、ArNHAc体にしてから、ArNAc体を得、その後、脱アセチル化してArNH体を得ることも選択可能である。ここで、Arは、それぞれ独立に、任意の1価の芳香族炭化水素基を表し、Acは、アセチル基を表す。
【0091】
化合物の精製方法としては、「分離精製技術ハンドブック」(1993年、(財)日本化学会編)、「化学変換法による微量成分および難精製物質の高度分離」(1988年、(株)アイ ピー シー発行)、あるいは「実験化学講座(第4版)1」(1990年、(財)日本化学会編)の「分離と精製」の項に記載の方法をはじめとし、公知の技術を利用可能である。具体的には、抽出(懸濁洗浄、煮沸洗浄、超音波洗浄、酸塩基洗浄を含む)、吸着、吸蔵、融解、晶析(溶媒からの再結晶、再沈殿を含む)、蒸留(常圧蒸留、減圧蒸留)、蒸発、昇華(常圧昇華、減圧昇華)、イオン交換、透析、濾過、限外濾過、逆浸透、圧浸透、帯域溶解、電気泳動、遠心分離、浮上分離、沈降分離、磁気分離、各種クロマトグラフィー(形状分類:カラム、ペーパー、薄層、キャピラリー、移動相分類:ガス、液体、ミセル、超臨界流体。分離機構:吸着、分配、イオン交換、分子ふるい、キレート、ゲル濾過、排除、アフィニティー)などが挙げられる。
【0092】
生成物の確認や純度の分析方法としては、ガスクロマトグラフ(GC)、高速液体クロマトグラフ(HPLC)、高速アミノ酸分析計(有機化合物)、キャピラリー電気泳動測定(CE)、サイズ排除クロマトグラフ(SEC)、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)、交差分別クロマトグラフ(CFC)、質量分析(MS、LC/MS,GC/MS,MS/MS)、核磁気共鳴装置(NMR(1HNMR,13CNMR))、フーリエ変換赤外分光高度計(FT−IR)、紫外可視近赤外分光高度計(UV.VIS,NIR)、電子スピン共鳴装置(ESR)、透過型電子顕微鏡(TEM−EDX)電子線マイクロアナライザー(EPMA)、金属元素分析(イオンクロマトグラフ、誘導結合プラズマ−発光分光(ICP−AES)原子吸光分析(AAS)、蛍光X線分析装置(XRF))、非金属元素分析、微量成分分析(ICP−MS,GF−AAS,GD−MS)等を必要に応じ、適用可能である。
【0093】
[高分子化合物]
本発明の高分子化合物は、本発明の正孔輸送材料を重合させて得られるものであり、例えば、後述の本発明の有機電界発光素子の製造において、本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて形成される。
【0094】
本発明における高分子化合物は、熱硬化性である場合、架橋度がゲル分率で通常10%以上、好ましくは50%以上、最も好ましくは80%以上のものである。ここで、ゲル分率とは、特定の溶剤(本発明の正孔輸送材料が、未架橋時に、0.5重量%以上溶解可能な溶剤を指す)に浸せきしたときに、溶かされずに残存した部分をゲル(架橋部分はゲルとして残る)とし、このゲル部分の重量と溶剤で溶かす前の重量との比(百分率)を指す。
一方、本発明の高分子化合物が、熱可塑性である場合、GPC等の公知の手段を用いた測定手法から得られた重量平均分子量が、架橋前の正孔輸送材料の分子量の通常3倍以上、好ましくは5倍以上、最も好ましくは10倍以上に変化することと定義できる。
【0095】
[有機電界発光素子用組成物]
本発明の有機電界発光素子用組成物は、陽極と陰極とに挟持された有機層を有する有機電界発光素子において、通常、該有機層を湿式成膜法により形成する際の塗布液として用いられる。本発明の有機電界発光素子用組成物は、該有機層のうち、正孔輸送層を形成するために用いられることが好ましい。
【0096】
なお、ここでは、有機電界発光素子における陽極−発光層間の層が1つの場合には、これを「正孔輸送層」と称し、2つ以上の場合は、陽極に接している層を「正孔注入層」、それ以外の層を総称して「正孔輸送層」と称す。また、陽極−発光層間に設けられた層を総称して「正孔注入・輸送層」と称する場合がある。
【0097】
本発明の有機電界発光素子用組成物は、前記本発明の正孔輸送材料と溶剤とを含有することを特徴とする。
該溶剤は、本発明の正孔輸送材料を溶解するものが好ましく、通常、本発明の正孔輸送材料を0.05重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、さらに好ましくは1重量%以上溶解する溶剤である。
【0098】
なお、本発明の有機電界発光素子用組成物は、本発明の正孔輸送材料の1種のみを含むものであってもよく、2種以上を含むものであってもよいが、架橋基が未反応残基として残存する割合を低減することが容易であり、非結晶性の向上が期待できることから、正孔輸送材料を2種以上含むことが好ましく、4種以下含むことがさらに好ましい。また、本発明の組成物は、本発明の正孔輸送材料を通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上含有し、通常90重量%以下、好ましくは70重量%以下、さらに好ましくは50重量%以下含有する。
【0099】
また、本発明の有機電界発光素子用組成物は、必要に応じ、電子受容性化合物や、後述の正孔輸送層の溶解性を低下させ、正孔輸送層上へ他の層を塗布することを可能とする架橋反応を促進するための添加物等の添加剤を含んでいてもよい。この場合は、溶剤としては、本発明の正孔輸送材料と添加剤の双方を0.05重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、さらに好ましくは1重量%以上溶解する溶剤を使用することが好ましい。
【0100】
本発明の有機電界発光素子用組成物に含まれる、本発明の正孔輸送材料の架橋反応を促進する添加物としては、アルキルフェノン化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物、メタロセン化合物、オキシムエステル化合物、アゾ化合物、オニウム塩などの重合開始剤や重合促進剤、縮合多環炭化水素、ポルフィリン化合物、ジアリールケトン化合物などの光増感剤等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ただし、本発明の有機電界発光素子用組成物は、十分に優れた重合性を有しており、電気的耐性を損なわない観点からは、重合開始剤を含まないことが好ましい。尚、該組成物を製膜する際の下地層に、重合開始剤を保持させておき、下地層との界面近傍から重合を促進せしめるなどの手法に関しては、好ましい重合促進手法の一例である。
【0101】
また、本発明の有機電界発光素子用組成物に含まれる電子受容性化合物としては、本発明の有機電界発光素子の正孔注入層に含有される電子受容性化合物として後述したものの1種または2種以上を使用することができる。
【0102】
本発明の有機電界発光素子用組成物に含有される溶剤としては、特に制限されるものではないが、本発明の正孔輸送材料を溶解させる必要があることから、好ましくは、トルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族化合物;1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等の含ハロゲン溶剤;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル、1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル等のエーテル系溶剤;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル等の脂肪族エステル;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸イソプロピル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等のエステル系溶剤等の有機溶剤が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0103】
本発明の有機電界発光素子用組成物に含有される溶剤の組成物中の濃度は、通常10重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは80重量%以上である。
【0104】
なお、水分は有機電界発光素子の性能劣化、中でも特に連続駆動時の輝度低下を促進する可能性があることが広く知られており、塗膜中に残留する水分をできる限り低減するために、これらの溶剤の中でも、25℃における水の溶解度が1重量%以下であるものが好ましく、0.1重量%以下である溶剤がより好ましい。
【0105】
本発明の有機電界発光素子用組成物に含有される溶剤として、20℃における表面張力が40dyn/cm未満、好ましくは36dyn/cm以下、より好ましくは33dyn/cm以下である溶剤が挙げられる。
【0106】
即ち、本発明の正孔輸送材料を重合させて得られる高分子化合物を含有する層を湿式成膜法により形成する場合、下地との親和性が重要である。膜質の均一性は有機電界発光素子の発光の均一性、安定性に大きく影響するため、湿式成膜法に用いる塗布液には、よりレベリング性が高く均一な塗膜を形成しうるように表面張力が低いことが求められる。このような溶剤を使用することにより、本発明の正孔輸送材料を重合させて得られる高分子化合物を含む均一な層を形成することができる。
【0107】
このような低表面張力の溶剤の具体例としては、前述したトルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族系溶剤、安息香酸エチル等のエステル系溶剤、アニソール等のエーテル系溶剤、トリフルオロメトキシアニソール、ペンタフルオロメトキシベンゼン、3−(トリフルオロメチル)アニソール、エチル(ペンタフルオロベンゾエート)等が挙げられる。
【0108】
これらの溶剤の組成物中の濃度は、通常10重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上である。
【0109】
本発明の有機電界発光素子用組成物に含有される溶剤としてはまた、25℃における蒸気圧が10mmHg以下、好ましくは5mmHg以下で、通常0.1mmHg以上の溶剤が挙げられる。このような溶剤を使用することにより、有機電界発光素子を湿式成膜法により製造するプロセスに好適な、また、本発明の正孔輸送材料の性質に適した組成物を調製することができる。このような溶剤の具体例としては、前述したトルエン、キシレン、メチシレン等の芳香族系溶剤、エーテル系溶剤およびエステル系溶剤が挙げられる。これらの溶剤の組成物中の濃度は、通常10重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上である。
【0110】
本発明の有機電界発光素子用組成物に含有される溶剤として、25℃における蒸気圧が2mmHg以上、好ましくは3mmHg以上、より好ましくは4mmHg以上(但し、上限は好ましくは10mmHg以下である。)である溶剤と、25℃における蒸気圧が2mmHg未満、好ましくは1mmHg以下、より好ましくは0.5mmHg以下である溶剤との混合溶剤が挙げられる。このような混合溶剤を使用することにより、湿式製膜法により本発明の正孔輸送材料、更には電子受容性化合物を含む均質な層を形成することができる。このような混合溶剤の組成物中の濃度は、通常10重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上である。
【0111】
有機電界発光素子は、多数の有機化合物からなる層を積層して形成するため、膜質が均一であることが非常に重要である。湿式成膜法で層形成する場合、その材料や、下地の性質によって、スピンコート法、スプレー法などの塗布法や、インクジェット法、スクリーン法などの印刷法等、公知の成膜方法が採用できる。例えばスプレー法は、凹凸のある面への均一な膜形成に有効であるため、パターニングされた電極や画素間の隔壁による凹凸が残る面に、有機化合物からなる層を設ける場合に、好ましい。スプレー法による塗布の場合、ノズルから塗布面へ噴射された塗布液の液滴はできる限り小さい方が 、均一な膜質が得られるため好ましい。そのためには、塗布液に蒸気圧の高い溶剤を混合し、塗布雰囲気中において噴射後の塗布液滴から溶剤の一部が揮発することにより、基板に付着する直前に細かい液滴が生成する状態が好ましい。また、より均一な膜質を得るためには、塗布直後に基板上に生成した液膜がレベリングする時間を確保することが必要で、この目的を達成するためにはより乾燥の遅い溶剤、すなわち蒸気圧の低い溶剤をある程度含有させる手法が用いられる。
【0112】
具体例としては、25℃における蒸気圧が2mmHg以上10mmHg以下である溶剤としては、例えば、キシレン、アニソール、シクロヘキサノン、トルエン等の有機溶剤が挙げられる。25℃における蒸気圧が2mmHg未満である溶剤としては、安息香酸エチル、安息香酸メチル、テトラリン、フェネトール等が挙げられる。
【0113】
混合溶剤の比率は、25℃における蒸気圧が2mmHg以上である溶剤が、混合溶剤総量中、5重量%以上、好ましくは25重量%以上、但し50重量%未満であり、25℃における蒸気圧が2mmHg未満である溶剤が、混合溶剤総量中、30重量%以上、好ましくは50重量%以上、特に好ましくは75重量%以上、但し、95重量%未満である。
【0114】
なお、有機電界発光素子は、多数の有機化合物からなる層を積層して形成するため、各層がいずれも均一な層であることが要求される。湿式成膜法で層形成する場合、層形成用の溶液(組成物)に水分が混入することにより、塗膜に水分が混入して膜の均一性が損なわれるおそれがあるため、溶液中の水分含有量はできるだけ少ない方が好ましい。具体的には、有機電界発光素子組成物中に含まれる水分量は、好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.1重量%以下、さらに好ましくは0.05重量%以下である。
【0115】
また、一般に、有機電界発光素子は、陰極等の水分により著しく劣化する材料が多く使用されているため、素子の劣化の観点からも、水分の存在は好ましくない。溶液中の水分量を低減する方法としては、例えば、窒素ガスシール、乾燥剤の使用、溶剤を予め脱水する、水の溶解度が低い溶剤を使用する等が挙げられる。なかでも、水の溶解度が低い溶剤を使用する場合は、塗布工程中に、溶液塗膜が大気中の水分を吸収して白化する現象を防ぐことができるため好ましい。
この様な観点からは、本発明の有機電界発光素子用組成物は、例えば25℃における水の溶解度が1重量%以下(好ましくは0.1重量%以下)である溶剤を、該組成物中10重量%以上含有することが好ましい。なお、上記溶解度条件を満たす溶剤が30重量%以上であればより好ましく、50重量%以上であれば特に好ましい。
【0116】
なお、本実施の形態が適用される有機電界発光素子用組成物に含有される溶剤として、前述した溶剤以外にも、必要に応じて、各種の他の溶剤を含んでいてもよい。このような他の溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等がある。
また、本発明の有機電界発光素子用組成物は、レベリング剤や消泡剤等の塗布性改良剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。
【0117】
[成膜方法]
前述の如く、有機電界発光素子は、多数の有機化合物からなる層を積層して形成するため、膜質が均一であることが非常に重要である。湿式成膜法で層形成する場合、その材料や、下地の性質によって、スピンコート法、スプレー法などの塗布法や、インクジェット法、スクリーン法などの印刷法等、公知の成膜方法が採用できる。
【0118】
湿式成膜法を用いる場合、本発明の正孔輸送材料および必要に応じて用いられるその他の成分(電子受容性化合物、架橋反応を促進する添加物や塗布性改良剤等)を、適切な溶剤に溶解させ、上記有機電界発光素子用組成物を調製する。この組成物を、スピンコート法やディップコート法等の手法により、形成する層の下層に該当する層上に塗布し、乾燥することにより、本発明の正孔輸送材料を含有する層を形成する。
通常、本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて形成される層は、正孔輸送層として用いられる。そのため、通常は、この層は正孔注入層上に形成されるか、陽極上に形成される。
【0119】
また、本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて形成された層に引き続き発光層を形成するためには、発光層成膜用の塗布組成物に、形成された正孔輸送層が溶解しないことが好ましい。このため、本発明の有機電界発光素子用組成物を成膜後、加熱および/または光などの電磁エネルギー照射により、本発明の正孔輸送材料が重合反応を起こし、反応後の膜の溶解性を低下させることが好ましい。
【0120】
加熱の手法は特に限定されないが、例としては加熱乾燥、減圧乾燥等が挙げられる。加熱乾燥の場合の条件としては、通常120℃以上、好ましくは400℃以下に本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて形成された層を加熱する。加熱時間としては、通常1分以上、好ましくは24時間以下である。加熱手段としては特に限定されないが、形成された層を有する積層体をホットプレート上に載せたり、オーブン内で加熱するなどの手段が用いられる。例えば、ホットプレート上で120℃以上、1分間以上加熱する等の条件を用いることができる。
【0121】
光などの電磁エネルギー照射による場合には、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、赤外ランプ等の紫外・可視・赤外光源を直接用いて照射する方法、あるいは前述の光源を内蔵するマスクアライナ、コンベア型光照射装置を用いて照射する方法などが挙げられる。光以外の電磁エネルギー照射では、例えばマグネトロンにより発生させたマイクロ波を照射する装置、いわゆる電子レンジを用いて照射する方法が挙げられる。
【0122】
照射時間としては、膜の溶解性を低下させるために必要な条件を設定することが好ましいが、通常、0.1秒以上、好ましくは10時間以下照射される。
【0123】
加熱および光などの電磁エネルギー照射は、それぞれ単独、あるいは組み合わせて行ってもよい。組み合わせる場合、実施する順序は特に限定されない。
【0124】
加熱および光を含む電磁エネルギー照射は、実施後に層に含有する水分および/または表面に吸着する水分の量を低減するために、窒素ガス雰囲気等の水分を含まない雰囲気で行うことが好ましい。同様の目的で、加熱および/または光などの電磁エネルギー照射を組み合わせて行う場合には、少なくとも有機発光層の形成直前の工程を窒素ガス雰囲気等の水分を含まない雰囲気で行うことが特に好ましい。
【0125】
[有機電界発光素子]
本発明の有機電界発光素子は、基板上に陽極および陰極を有するとともに、陽極と陰極との間に有機層を有し、好ましくは有機層が複数の有機層を積層してなる積層型の構造である。そして、複数の有機層のうちの何れかの有機層、好ましくは正孔輸送層が、上述の本発明の正孔輸送材料を重合させて得られる高分子化合物を含有する層であり、この層は、例えば、前述の本発明の正孔輸送材料を含有する有機電界発光素子用組成物を用いて形成される。
【0126】
図1は、本発明の有機電界発光素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。図1に示す有機電界発光素子は、基板1の上に、陽極2、正孔注入層3、正孔輸送層4、有機発光層5、正孔阻止層6、電子輸送層7、電子注入層8および陰極9を、この順に積層して構成される。この構成の場合、通常は正孔輸送層4が上述の正孔輸送材料を重合させて得られる高分子化合物を含有する層に該当することになる。
【0127】
[1]基板
基板1は有機電界発光素子の支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシートなどが用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホンなどの透明な合成樹脂の板が好ましい。合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意する必要がある。基板のガスバリア性が小さすぎると、基板を通過した外気により有機電界発光素子が劣化することがあるので好ましくない。このため、合成樹脂基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0128】
[2]陽極
陽極2は、後述する有機発光層側の層(正孔注入層3または有機発光層5など)への正孔注入の役割を果たすものである。この陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウムおよび/またはスズの酸化物などの金属酸化物、ヨウ化銅などのハロゲン化金属、カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子などにより構成される。陽極2の形成は通常、スパッタリング法、真空蒸着法などにより行われることが多い。また、銀などの金属微粒子、ヨウ化銅などの微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末などの場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散し、基板1上に塗布することにより陽極2を形成することもできる。更に、導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板1上に薄膜を形成したり、基板1上に導電性高分子を塗布して陽極2を形成することもできる(Applied Physics Letters,1992年,Vol.60,pp.2711参照)。陽極2は異なる物質で積層して形成することも可能である。
【0129】
陽極2の厚みは、必要とする透明性により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常60%以上、好ましくは80%以上とすることが望ましく、この場合、厚みは、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。不透明で良い場合、陽極2は基板1と同一でもよい。また、更には上記の陽極2の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
【0130】
なお、陽極に付着した不純物を除去し、イオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させることを目的として、陽極表面を紫外線(UV)/オゾン処理したり、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ処理することが好ましい。また、正孔注入の効率を更に向上させ、かつ、有機層全体の陽極への付着力を改善させる目的で、正孔注入層3と陽極2との間に公知の陽極バッファ層を挿入してもよい。
【0131】
[3]正孔注入層
正孔注入層3は、陽極2から有機発光層5へ正孔を輸送する層である。通常はこの正孔注入層3が、陽極2上に形成される。よって、正孔注入層3は、好ましくは正孔注入性化合物および電子受容性化合物を含有して構成されることになる。更に、正孔注入層3は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、その他の成分を含有していてもよい。
【0132】
正孔注入層3を陽極2上に形成する手法としては、湿式成膜法、真空蒸着法が挙げられるが、上述したように、均質で欠陥がない薄膜を容易に得られる点や、形成のための時間が短くて済む点から、湿式成膜法が好ましい。また、陽極2として一般的に用いられるITO(インジウム・スズ酸化物)は、その表面が10nm程度の表面粗さ(Ra)を有するのに加えて、局所的に突起を有することが多く、短絡欠陥を生じ易いという課題があった。陽極2の上の正孔注入層3を湿式成膜法により形成することは、真空蒸着法で形成する場合と比較して、陽極2表面の凹凸に起因する素子の欠陥の発生を低減するという利点をも有する。
【0133】
正孔注入性化合物としての芳香族アミン化合物としては、トリアリールアミン構造を含む化合物が好ましく、従来有機電界発光素子における正孔注入層の形成材料として利用されてきた化合物の中から適宜選択してもよい。芳香族アミン化合物として、例えば、下記一般式(1)で表されるビナフチル系化合物が挙げられる。
【0134】
【化44】

【0135】
一般式(1)中、Ar〜Arは各々独立に、置換基を有していてもよい5または6員環の芳香族炭化水素環または芳香族複素環の単環基または縮合環基であり、ArとAr、ArとArは、各々結合して環を形成していてもよい。W1およびW2は各々0〜4の整数を表し、W1+W2≧1である。X11およびX12は各々独立に、直接結合または2価の連結基を表す。また、一般式(1)中のナフタレン環は、−(X11NArAr)および−(X12NArAr)に加えて、任意の置換基を有していてもよい。
【0136】
一般式(1)中、Ar〜Arの置換基を有していてもよい5または6員環の芳香族炭化水素環または芳香族複素環の単環基または縮合環基としては、各々独立に、例えば5または6員環の単環または2〜3縮合環であり、具体的には、フェニル基、ナフチル基、アントリル基等の芳香族炭化水素環由来の基;ピリジル基、チエニル基等の芳香族複素環由来の基が挙げられる。これらはいずれも置換基を有していてもよい。
【0137】
Ar〜Arの有することがある置換基としては、Ar〜Arが有することがある置換基として後述するもの、および、アリールアミノ基(即ち、後述の−(NArAr),−(NArAr)に相当する)が挙げられる。
【0138】
また、ArとAr、および/または、ArとArは、各々結合して環を形成していてもよい。この場合、形成する環の具体例としては、それぞれ、置換基を有することがあるカルバゾール環、フェノキサジン環、イミノスチルベン環、フェノチアジン環、アクリドン環、アクリジン環、イミノジベンジル環等が挙げられる。中でもカルバゾール環が好ましい。
【0139】
一般式(1)において、W1およびW2は各々0〜4の整数を表し、W1+W2≧1である。特に好ましいものは、W1=1かつW2=1である。なお、W1および/またはW2が2以上の場合のアリールアミノ基は、各々同一であっても異なっていても良い。
【0140】
11およびX12は各々独立に直接結合または2価の連結基を表す。2価の連結基としては特に制限はないが、例えば、下記に示すもの等が挙げられる。X11およびX12として、直接結合が特に好ましい。
【0141】
【化45】

【0142】
一般式(1)におけるナフタレン環は、−(X11NArAr)および−(X12NArAr)に加えて、任意の位置に任意の置換基を1個または2個以上有していてもよい。このような置換基として好ましいものは、ハロゲン原子、水酸基、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基よりなる群から選ばれる1種または2種以上の置換基である。これらのうち、アルキル基が特に好ましい。
【0143】
また、正孔注入性化合物として使用する、分子中に正孔輸送部位を有する高分子化合物としては、例えば芳香族三級アミノ基を構成単位として主骨格に含む高分子化合物が挙げられる。具体例として、以下の一般式(2)で表される構造を繰り返し単位として有する正孔注入性化合物が挙げられる。
【0144】
【化46】

(式(2)中、Ar44〜Ar48は、各々独立して置換基を有していてもよい2価の芳香族環基を示し、R31〜R32は、各々独立して置換基を有していてもよい1価の芳香族環基を示し、Qは直接結合、または下記の連結基から選ばれる。なお、「芳香族環基」とは、「芳香族炭化水素環由来の基」および「芳香族複素環由来の基」の両方を含む。)
【化47】

(式(3)中、Ar49は置換基を有していてもよい2価の芳香族環基を示し、Ar50は置換基を有していてもよい1価の芳香族環基を示す。)
【0145】
一般式(2)において、Ar44〜Ar48は、好ましくは、各々独立して置換基を有していてもよい2価のベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環由来の基またはビフェニル基であり、好ましくはベンゼン環由来の基である。前記置換基としてはハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数2〜7の直鎖または分岐のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などの炭素数6〜12のアリールオキシ基;ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基等の、炭素数1〜6のアルキル鎖を有するジアルキルアミノ基、などが挙げられる。これらのうち、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基が挙げられ、特に好ましくはメチル基が挙げられる。Ar44〜Ar48がいずれも無置換の芳香族環基である場合が、最も好ましい。
【0146】
31およびR32として好ましくは、各々独立して、置換基を有することがあるフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピリジル基、トリアジル基、ピラジル基、キノキサリル基、チエニル基、またはビフェニル基であり、好ましくはフェニル基、ナフチル基またはビフェニル基であり、より好ましくはフェニル基である。該置換基としては、Ar44〜Ar48における芳香族環が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられる。
【0147】
一般式(3)において、Ar49は、置換基を有していてもよい2価の芳香族環基、好ましくは正孔輸送性の面からは芳香族炭化水素環基であり、具体的には置換基を有していてもよい2価のベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環由来の基、ビフェニレン基、およびターフェニレン基等が挙げられる。また、該置換基としては、Ar44〜Ar48における芳香族環が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられる。これらのうち、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基が挙げられ、特に好ましくはメチル基が挙げられる。
【0148】
Ar50は、置換基を有していてもよい芳香族環基、好ましくは正孔輸送性の面からは芳香族炭化水素環基であり、具体的には、置換基を有することがあるフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピリジル基、トリアジル基、ピラジル基、キノキサリル基、チエニル基、およびビフェニル基等が挙げられる。該置換基としては、一般式(2)のAr44〜Ar48における芳香族環が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられる。
【0149】
一般式(3)において、Ar49およびAr50がいずれも無置換の芳香族環基である場合が、最も好ましい。
【0150】
芳香族三級アミノ基を側鎖として含む正孔注入性化合物としては、例えば、以下の一般式(4)および(5)で表される構造を有する繰り返し単位として有する化合物が挙げられる。
【0151】
【化48】

(式(4)中、Ar51は置換基を有していてもよい2価の芳香族環基を示し、Ar52〜Ar53は、各々独立して置換基を有していてもよい1価の芳香族環基を示し、R33〜R35は、各々独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、置換基を有していてもよい1価の芳香族環基を示す。)
【0152】
【化49】

(式(5)中、Ar54〜Ar58は、各々独立して置換基を有していてもよい2価の芳香族環基を示し、R36およびR37は、各々独立して置換基を有していてもよい芳香族環基を示し、Yは直接結合、または下記の連結基から選ばれる。)
【化50】

【0153】
一般式(4)において、Ar51は、好ましくは、各々置換基を有していてもよい2価のベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環由来の基、ビフェニレン基であり、また、置換基としては、例えば、前述した一般式(2)のAr44〜Ar48における芳香族環が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も同様である。
【0154】
Ar52およびAr53として、好ましくは、各々独立してフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピリジル基、トリアジル基、ピラジル基、キノキサリル基、チエニル基、およびビフェニル基が挙げられ、これらは置換基を有することがある。該置換基としては例えば、一般式(2)のAr44〜Ar48における芳香族環が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も同様である。
【0155】
33〜R35は、好ましくは、各々独立して、水素原子;ハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルコキシ基;フェニル基;またはトリル基である。
【0156】
一般式(5)において、Ar54〜Ar58は、好ましくは、各々独立して置換基を有することがある2価のベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環由来の基、ビフェニレン基であり、好ましくはベンゼン環由来の基である。該置換基としては、一般式(2)のAr44〜Ar48における芳香族環が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も同様である。
【0157】
36およびR37は、好ましくは、各々独立して置換基を有することがあるフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピリジル基、トリアジル基、ピラジル基、キノキサリル基、チエニル基、またはビフェニル基である。該置換基としては、一般式(2)のAr44〜Ar48における芳香族環が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も同様である。
【0158】
一般式(2)〜(5)で示される構造のうち好ましい例を以下に示すが、何らこれらに限定されない。
【0159】
【化51】

【0160】
分子中に正孔輸送部位を有する高分子化合物である正孔注入性化合物は、一般式(2)〜(5)のいずれかで表される構造のホモポリマーであることが最も好ましいが、他の任意のモノマーとの共重合体(コポリマー)であってもよい。共重合体である場合、一般式(2)〜(5)で表される構成単位を50モル%以上、特に70モル%以上含有することが好ましい。なお、高分子化合物である正孔注入性材料は、一化合物中に、一般式(2)〜(5)で表される構造を複数種含有していてもよい。また、一般式(2)〜(5)で表される構造を含む化合物を、複数種併用して用いてもよい。一般式(2)〜(5)のうち、特に好ましくは、一般式(2)で表される繰り返し単位からなるホモポリマーである。
【0161】
高分子化合物からなる正孔注入性材料としては、さらに、共役系高分子が挙げられる。この目的のために、ポリフルオレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリパラフェニレンビニレンが好適である。
【0162】
次に、電子受容性化合物について説明する。
正孔注入層に含有される電子受容性化合物としては、例えば、トリアリールホウ素化合物、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、オニウム塩、アリールアミンとハロゲン化金属との塩、アリールアミンとルイス酸との塩よりなる群から選ばれる1種または2種以上の化合物等が挙げられる。これらの電子受容性化合物は、正孔注入性材料と混合して用いられ、正孔注入性材料を酸化することにより正孔注入層の導電率を向上させることができる。
【0163】
電子受容性化合物として、トリアリールホウ素化合物としては、下記一般式(6)に示したホウ素化合物が挙げられる。一般式(6)で表されるホウ素化合物は、ルイス酸であることが好ましい。また、このホウ素化合物の電子親和力は、通常4eV以上、好ましく、5eV以上である。
【0164】
【化52】

【0165】
一般式(6)において、好ましくは、Ar101〜Ar103は、各々独立に、置換基を有することがあるフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ビフェニル基等の5または6員環の単環、またはこれらが2〜3個縮合および/または直接結合してなる芳香族炭化水素環基;或いは置換基を有することがあるチエニル基、ピリジル基、トリアジル基、ピラジル基、キノキサリル基等の5または6員環の単環、またはこれらが2〜3個縮合および/または直接結合してなる芳香族複素環基を表す。
【0166】
Ar101〜Ar103が有することがある置換基としては、例えば、ハロゲン原子;アルキル基;アルケニル基;アルコキシカルボニル基;アルコキシ基;アリールオキシ基;アシル基;ハロアルキル基;シアノ基等が挙げられる。
【0167】
特に、Ar101〜Ar103の少なくとも1つが、ハメット定数(σおよび/またはσ)が正の値を示す置換基であることが好ましく、Ar101〜Ar103が、いずれもハメット定数(σおよび/またはσ)が正の値を示す置換基であることが特に好ましい。このような、電子吸引性の置換基を有することにより、これらの化合物の電子受容性が向上する。また、Ar101〜Ar103がいずれも、ハロゲン原子で置換された芳香族炭化水素基または芳香族複素環基であることがさらに好ましい。
【0168】
一般式(6)で表されるホウ素化合物の好ましい具体例を以下の6−1〜6−17に示すが、これらに限定するものではない。
【0169】
【化53】

【0170】
【化54】

【0171】
これらの中、以下に示す化合物が特に好ましい。
【0172】
【化55】

【0173】
電子受容性化合物として、オニウム塩としては、WO2005/089024号公報に記載のものが挙げられ、その好適例も同様であるが、特に好ましくは以下の化合物である。
【0174】
【化56】

【0175】
正孔注入層3の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
【0176】
なお、正孔注入層3における電子受容性化合物の正孔注入性化合物に対する含有量は、通常0.1モル%以上、好ましくは1モル%以上である。但し、通常100モル%以下、好ましくは40モル%以下である。
【0177】
[4]正孔輸送層
正孔輸送層4は、陽極2、正孔注入層3の順に注入された正孔を有機発光層5に注入する機能を有すると共に、発光層5から電子が陽極2側に注入されることによる発光効率の低下を抑制する機能を有する。
【0178】
この機能を発現するため、正孔輸送層4は、本発明の正孔輸送材料を重合させて得られる高分子化合物よりなる層であることが好ましい。
【0179】
この正孔輸送層4は、好ましくは、本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて、前記[成膜方法]に記載の方法で形成される。
その膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
【0180】
[5]有機発光層
正孔輸送層4の上には、通常有機発光層5が設けられる。有機発光層5は、電界を与えられた電極間において、陽極2から正孔注入層3および正孔輸送層4を通じて注入された正孔と、陰極9から電子注入層8,正孔阻止層6を通じて注入された電子との再結合により励起されて、主たる発光源となる層である。
【0181】
有機発光層5は、少なくとも、発光の性質を有する材料(発光材料)を含有するとともに、好ましくは、正孔輸送の性質を有する材料(正孔輸送性化合物)、或いは、電子輸送の性質を有する材料(電子輸送性化合物)とを含有する。更に、有機発光層5は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、その他の成分を含有していてもよい。これらの材料としては、後述のように湿式成膜法で有機発光層5を形成する観点から、何れも低分子系の材料を使用することが好ましい。
【0182】
発光材料としては、任意の公知の材料を適用可能である。例えば、蛍光発光材料であってもよく、燐光発光材料であってもよいが、内部量子効率の観点から、好ましくは燐光発光材料である。
【0183】
なお、溶剤への溶解性を向上させる目的で、発光材料の分子の対称性や剛性を低下させたり、或いはアルキル基などの親油性置換基を導入したりすることも、重要である。
【0184】
青色発光を与える蛍光色素としては、ペリレン、ピレン、アントラセン、クマリン、p−ビス(2−フェニルエテニル)ベンゼンおよびそれらの誘導体等が挙げられる。緑色蛍光色素としては、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体等が挙げられる。黄色蛍光色素としては、ルブレン、ペリミドン誘導体等が挙げられる。赤色蛍光色素としては、DCM(4-(dicyanomethylene)-2-methyl-6-(p-dimethylaminostyryl)-4H-pyran)系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、アザベンゾチオキサンテン等が挙げられる。
【0185】
燐光発光材料としては、例えば、長周期型周期表(以下、特に断り書きの無い限り「周期表」という場合には、長周期型周期表を指すものとする。)第7〜11族から選ばれる金属を含む有機金属錯体が挙げられる。
【0186】
燐光性有機金属錯体に含まれる、周期表第7〜11族から選ばれる金属として、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金等が挙げられる。これらの有機金属錯体として、好ましくは下記式(III)または式(IV)で表される化合物が挙げられる。
【0187】
ML(q−j)L′ (III)
(式(III)中、Mは金属を表し、qは上記金属の価数を表す。また、LおよびL′は二座配位子を表す。jは0、1または2の数を表す。)
【0188】
【化57】

(式(IV)中、Mは金属を表し、Tは炭素原子または窒素原子を表す。R92〜R95は、それぞれ独立に置換基を表す。但し、Tが窒素原子の場合は、R94およびR95は無い。)
【0189】
以下、まず、式(III)で表される化合物について説明する。
式(III)中、Mは任意の金属を表し、好ましいものの具体例としては、周期表第7〜11族から選ばれる金属として前述した金属が挙げられる。
【0190】
また、式(III)中、二座配位子Lは、以下の部分構造を有する配位子を示す。
【化58】

(上記Lの部分構造において、環A1は、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す。)
【0191】
該芳香族炭化水素基としては、5または6員環の単環または2〜5縮合環が挙げられる。具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環由来の1価の基などが挙げられる。
【0192】
該芳香族複素環基としては、5または6員環の単環または2〜4縮合環が挙げられる。具体例としては、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環由来の1価の基などが挙げられる。
【0193】
また、上記Lの部分構造において、環A2は、置換基を有していてもよい、含窒素芳香族複素環基を表す。
【0194】
該含窒素芳香族複素環基としては、5または6員環の単環または2〜4縮合環由来の基が挙げられる。具体例としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、フロピロール環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環由来の1価の基などが挙げられる。
【0195】
環A1または環A2がそれぞれ有していてもよい置換基の例としては、ハロゲン原子;アルキル基;アルケニル基;アルコキシカルボニル基;アルコキシ基;アリールオキシ基;ジアルキルアミノ基;ジアリールアミノ基;カルバゾリル基;アシル基;ハロアルキル基;シアノ基;芳香族炭化水素基等が挙げられる。
【0196】
また、式(III)中、二座配位子L′は、以下の部分構造を有する配位子を示す。但し、以下の式において、「Ph」はフェニル基を表す。
【0197】
【化59】

【0198】
中でも、L′としては、錯体の安定性の観点から、以下に挙げる配位子が好ましい。
【0199】
【化60】

【0200】
式(III)で表される化合物として、更に好ましくは、下記式(IIIa),(IIIb),(IIIc)で表される化合物が挙げられる。
【0201】
【化61】

(式(IIIa)中、Mは、Mと同様の金属を表し、wは、上記金属の価数を表し、環A1は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、環A2は、置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表す。)
【0202】
【化62】

(式(IIIb)中、Mは、Mと同様の金属を表し、wは、上記金属の価数を表し、環A1は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表し、環A2は、置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表す。)
【0203】
【化63】

(式(IIIc)中、Mは、Mと同様の金属を表し、wは、上記金属の価数を表し、jは、0、1または2を表し、環A1および環A1′は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表し、環A2および環A2′は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表す。)
【0204】
上記式(IIIa),(IIIb),(IIIc)において、環A1および環A1′の好ましい
例としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、チエニル基、フリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾフリル基、ピリジル基、キノリル基、イソキノリル基、カルバゾリル基等が挙げられる。
【0205】
上記式(IIIa)〜(IIIc)において、環A2および環A2′の好ましい例としては、ピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基、トリアジル基、ベンゾチアゾール基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾイミダゾール基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基、フェナントリジル基等が挙げられる。
【0206】
上記式(IIIa)〜(IIIc)で表される化合物が有していてもよい置換基としては、ハロゲン原子;アルキル基;アルケニル基;アルコキシカルボニル基;アルコキシ基;アリールオキシ基;ジアルキルアミノ基;ジアリールアミノ基;カルバゾリル基;アシル基;ハロアルキル基;シアノ基等が挙げられる。
【0207】
なお、これら置換基は互いに連結して環を形成してもよい。具体例としては、環A1が有する置換基と環A2が有する置換基とが結合するか、または、環A1′が有する置換基と環A2′が有する置換基とが結合するかして、一つの縮合環を形成してもよい。このような縮合環としては、7,8−ベンゾキノリン基等が挙げられる。
【0208】
中でも、環A1、環A1′、環A2および環A2′の置換基として、より好ましくは、アルキル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、シアノ基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、ジアリールアミノ基、カルバゾリル基が挙げられる。
【0209】
また、式(IIIa)〜(IIIc)におけるM〜Mの好ましい例としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金または金が挙げられる。
【0210】
上記式(III)および(IIIa)〜(IIIc)で示される有機金属錯体の具体例を以下に示すが、下記の化合物に限定されるものではない。
【0211】
【化64】

【化65】

【化66】

【0212】
上記式(III)で表される有機金属錯体の中でも、特に、配位子Lおよび/またはL′として2−アリールピリジン系配位子、即ち、2−アリールピリジン、これに任意の置換基が結合したもの、および、これに任意の基が縮合してなるものを有する化合物が好ましい。
【0213】
また、国際特許公開第2005/019373号明細書に記載の化合物も、発光材料として使用することが可能である。
【0214】
次に、式(IV)で表される化合物について説明する。
式(IV)中、Mは金属を表す。具体例としては、周期表第7〜11族から選ばれる金属として前述した金属が挙げられる。中でも好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金または金が挙げられ、特に好ましくは、白金、パラジウム等の2価の金属が挙げられる。
【0215】
また、式(IV)において、R92およびR93は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、シアノ基、アミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、ハロアルキル基、水酸基、アリールオキシ基、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す。
【0216】
更に、Tが炭素原子の場合、R94およびR95は、それぞれ独立に、R92およびR93と同様の例示物で表される置換基を表す。また、Tが窒素原子の場合は、R94およびR95は無い。
【0217】
また、R92〜R95は、更に置換基を有していてもよい。置換基を有する場合、その種類に特に制限はなく、任意の基を置換基とすることができる。
更に、R92〜R95のうち任意の2つ以上の基が互いに連結して環を形成してもよい。
【0218】
式(IV)で表される有機金属錯体の具体例(T−1、T−10〜T−15)を以下に示すが、下記の例示物に限定されるものではない。また、以下の化学式において、Meはメチル基を表し、Etはエチル基を表す。
【0219】
【化67】

【0220】
本発明において、発光材料として用いる化合物の分子量は、通常10000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下、また、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上の範囲である。分子量が100未満であると、耐熱性が著しく低下したり、ガス発生の原因となったり、膜を形成した際の膜質の低下を招いたり、或いはマイグレーションなどによる有機電界発光素子のモルフォロジー変化を来したりするため、好ましくない。分子量が10000を超えると、有機化合物の精製が困難となったり、溶媒に溶解させる際に時間を要する可能性が高いため、好ましくない。
【0221】
なお、発光層は、上に説明した各種の発光材料のうち、何れか一種を単独で含有していてもよく、二種以上を任意の組み合わせおよび比率で併有していてもよい。
【0222】
低分子系の正孔輸送性化合物の例としては、前述の正孔輸送層の正孔輸送性化合物として例示した各種の化合物の他、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルに代表される、2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5−234681号公報)、4,4’,4”−トリス(1−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(Journal of Luminescence,1997年,Vol.72-74,pp.985)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chemical Communications,1996年,pp.2175)、2,2’,7,7’−テトラキス−(ジフェニルアミノ)−9,9’−スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synthetic Metals,1997年,Vol.91,pp.209)等が挙げられる。
【0223】
低分子系の電子輸送性化合物の例としては、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール(BND)や、2,5−ビス(6’−(2’,2”−ビピリジル))−1,1−ジメチル−3,4−ジフェニルシロール(PyPySPyPy)や、バソフェナントロリン(BPhen)や、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP、バソクプロイン)、2−(4−ビフェニリル)−5−(p−ターシャルブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(tBu−PBD)や、4,4’−ビス(9−カルバゾール)−ビフェニル(CBP)等がある。
【0224】
これら正孔輸送性化合物や電子輸送性化合物は発光層においてホスト材料として使用されることが好ましいが、ホスト材料として具体的には以下のような化合物を使用することができる。
【0225】
【化68】

【0226】
有機発光層5の形成法としては、湿式成膜法、真空蒸着法が挙げられるが、上述したように、均質で欠陥がない薄膜を容易に得られる点や、形成のための時間が短くて済む点、更には、本発明の有機化合物による正孔輸送層4の不溶化の効果を享受できる点から、湿式成膜法が好ましい。湿式成膜法により有機発光層5を形成する場合、上述の材料を適切な溶剤に溶解させて塗布溶液を調製し、それを上述の形成後の正孔輸送層4の上に塗布・成膜し、乾燥して溶剤を除去することにより形成する。その形成方法としては、前記正孔輸送層の形成方法と同様である。
【0227】
有機発光層5の膜厚は、通常3nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
【0228】
[6]正孔阻止層
図1では、有機発光層5と電子輸送層7の間に、正孔阻止層6が設けられているが、正孔阻止層6はこれを省略してもよい。
正孔阻止層6は、有機発光層5の上に、有機発光層5の陰極9側の界面に接するように積層されるが、陽極2から移動してくる正孔が陰極9に到達するのを阻止する役割と、陰極9から注入された電子を効率よく有機発光層5の方向に輸送することができる化合物より形成される。
【0229】
正孔阻止層6を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。
【0230】
このような条件を満たす正孔阻止材料としては、ビス(2−メチル−8−キノリノラト),(フェノラト)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラト),(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2−メチル−8−キノラト)アルミニウム−μ−オキソ−ビス−(2−メチル−8−キノリラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(特開平11−242996号公報)、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール誘導体(特開平7−41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(特開平10−79297号公報)が挙げられる。更に、国際公開第2005−022962号公報に記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も、正孔阻止材料として好ましい。
【0231】
具体的には以下に記載の化合物が挙げられる。
【化69】

【0232】
正孔阻止層6も、正孔注入層3や有機発光層5と同様、湿式成膜法を用いて形成することもできるが、通常は真空蒸着法により形成される。真空蒸着法の手順の詳細は、後述の電子注入層8の場合と同様である。
【0233】
正孔阻止層6の膜厚は、通常0.5nm以上、好ましくは1nm以上、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
【0234】
[7]電子輸送層
電子輸送層7は素子の発光効率をさらに向上させることを目的として、正孔阻止層6と電子注入層8との間に設けられる。
【0235】
電子輸送層7は、電界を与えられた電極間において陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送することができる化合物より形成される。電子輸送層7に用いられる電子輸送性化合物としては、電子注入層8からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し注入された電子を効率よく輸送することができる化合物であることが必要である。
このような条件を満たす材料としては、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3−または5−ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5,645,948号)、キノキサリン化合物(特開平6−207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、2−t−ブチル−9,10−N,N’−ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。
【0236】
電子輸送層7の膜厚は、通常下限は1nm、好ましくは5nm程度であり、上限は通常300nm、好ましくは100nm程度である。
【0237】
電子輸送層7は、正孔注入層3と同様にして湿式製膜法、或いは真空蒸着法により発光層4上に積層することにより形成される。通常は、真空蒸着法が用いられる。
【0238】
[8]電子注入層
電子注入層8は、陰極9から注入された電子を効率良く有機発光層5へ注入する役割を果たす。
電子注入を効率よく行うには、電子注入層8を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。例としては、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属等が用いられる。その膜厚は通常0.1nm以上、5nm以下が好ましい。
【0239】
更に、後述するバソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体に代表される有機電子輸送材料に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(特開平10−270171号公報、特開2002−100478号公報、特開2002−100482号公報などに記載)ことにより、電子注入・輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。この場合の膜厚は通常、5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
【0240】
電子注入層8は、湿式成膜法或いは真空蒸着法により、有機発光層5またはその上の正孔阻止層6上に積層することにより形成される。
【0241】
湿式成膜法の場合の詳細は、正孔注入層3および有機発光層5の場合と同様である。
一方、真空蒸着法の場合には、真空容器内に設置されたるつぼまたは金属ボートに蒸着源を入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10−4Pa程度にまで排気した後、るつぼまたは金属ボートを加熱して蒸発させ、るつぼまたは金属ボートと向き合って置かれた基板上の有機発光層5または正孔阻止層6または電子輸送層7上に電子注入層8を形成する。
【0242】
電子注入層としてのアルカリ金属の蒸着は、クロム酸アルカリ金属と還元剤をニクロムに充填したアルカリ金属ディスペンサーを用いて行う。このディスペンサーを真空容器内で加熱することにより、クロム酸アルカリ金属が還元されてアルカリ金属が蒸発される。有機電子輸送材料とアルカリ金属とを共蒸着する場合は、有機電子輸送材料を真空容器内に設置されたるつぼに入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10−4Pa程度にまで排気した後、各々のるつぼおよびディスペンサーを同時に加熱して蒸発させ、るつぼおよびディスペンサーと向き合って置かれた基板上に電子注入層8を形成する。
このとき、電子注入層8の膜厚方向において均一に共蒸着されるが、膜厚方向において濃度分布があっても構わない。
【0243】
[8]陰極
陰極9は、有機発光層5側の層(電子注入層8または有機発光層5など)に電子を注入する役割を果たす。陰極9の材料としては、前記の陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率良く電子注入を行うには、仕事関数の低い金属が好ましく、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属またはそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。
【0244】
陰極9の膜厚は通常、陽極2と同様である。
【0245】
低仕事関数金属から成る陰極を保護する目的で、この上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層すると、素子の安定性が増すので好ましい。この目的のために、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。
【0246】
[9]その他
以上、図1に示す層構成の有機電界発光素子を中心に説明してきたが、本発明の有機電界発光素子は、その趣旨を逸脱しない範囲において、別の構成を有していてもよい。例えば、その性能を損なわない限り、陽極2と陰極9との間に、上記説明にある層の他に任意の層を有していてもよく、また、任意の層が省略されていてもよい。
【0247】
なお、本発明においては、正孔輸送層4に本発明の有機化合物を使用することにより、正孔注入層3、正孔輸送層4および有機発光層5を全て湿式成膜法により積層形成することができる。これにより、大面積のディスプレイを製造することが可能となる。
【実施例】
【0248】
次に、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0249】
[合成例]
以下に本発明の正孔輸送材料の合成例を示す。
なお、以下の合成例において、ガラス転移温度はDSC測定により、重量減少開始温度はTG−DTA測定により、融点はDSC測定またはTG−DTA測定によりそれぞれ求めた。
【0250】
(合成例1)
<目的物1の合成>
【化70】

【0251】
窒素気流中、m−ヨードアニソール(40.06g)、N,N’−ジフェニルベンジジン(10.09g)、銅粉(3.81g)、炭酸カリウム(16.59g)、およびテトラグライム(20ml)を、180℃で8時間攪拌した後、放冷し、銅粉(1.39g)を加え、200℃で6時間攪拌した。放冷後、反応混合物にクロロホルムと活性白土を加えて攪拌し、不溶物を濾別し、濾液を濃縮した。得られた油状物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン=7/3)で精製することにより、目的物1(13.8g)を得た。
【0252】
<目的物2の合成>
【化71】

【0253】
窒素気流中、目的物1(13.72g)と塩化メチレン(200ml)の混合物を攪拌し、氷浴により0℃に冷却した。ここに、三臭化ホウ素(1mol/lジクロロメタン溶液 100ml)を滴下し、滴下終了後は室温で攪拌して一晩反応させた。氷水100mlを入れたビーカーにこれを添加し、油層を濃縮した。得られた固形分をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=7/3)で精製することにより、目的物2(8.85g)を得た。
【0254】
<目的物3の合成>
【化72】

【0255】
目的物2(3.5g)をテトラヒドロフラン(50ml)に溶解し、トリエチルアミン(2.7g)を加え、4℃の冷却下、DCスターラーで攪拌しながらシンナモイルクロライド(4.44g)のテトラヒドロフラン溶液(20ml)を滴下し、冷却下で3時間攪拌した。室温にもどして2時間攪拌後、出てきた結晶を濾別し、得られた溶液を濃縮した。残留20mlまで溶媒を濃縮し、その後メタノールに添加すると結晶が得られた。その結晶をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=3/7)にて精製し、目的物3(3.9g)を得た。
【0256】
このもののガラス転移温度は77.8℃、融点は197℃、窒素気流下での重量減少開始温度は394℃であった。
DEI−MS(m/z=780(M))により目的物3であることを確認した。
【0257】
(合成例2)
<目的物4の合成>
【化73】

【0258】
窒素気流中、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム錯体(1.79g)と脱水トルエン(30ml)の混合溶液に、トリス(tert−ブチル)フォスフィン(3.5ml)を加え、50℃で1時間攪拌して得られた溶液を、N,N’−ジフェニルベンジジン(14.53g)、3−ベンジロキシフェニルブロマイド(25g)、tert−ブトキシナトリウム(18.26g)、および脱水トルエン(200ml)の混合溶液に投入し、加熱還流条件下で、4.3時間攪拌した。得られた溶液から、ジクロロメタン(200ml×2回)で有機固形分を抽出し、得られた抽出溶液に、無水硫酸マグネシウムおよび活性白土を加えて振り混ぜた後、濾過した。これを濃縮して得られた固形分から、ジクロロメタン(200ml)で有機固形分を抽出し、得られた抽出溶液を濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン)、酢酸エチル/エタノールによる熱懸洗およびクロロホルム/酢酸エチルからの再結晶で精製し、目的物4(23.39g;LC純度99.89%)を得た。
【0259】
<目的物5の合成>
【化74】

【0260】
目的物4(23.39g)、5%Pd担持カーボン(3.93g)、およびテトラヒドロフラン(350ml)を仕込み、系内を窒素置換した後に水素で置換し、水素を常圧に保ったまま55℃で5,5時間反応した。反応終了後、放冷し、系内を窒素置換した。触媒を濾別し、濾液をさらにセライト濾過し、得られた濾液を濃縮した。得られた固形分をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン/酢酸エチル)で2回精製することにより、目的物5(7.80g)を得た。
【0261】
<目的物6の合成>
【化75】

【0262】
窒素気流中、水酸化カリウム(7.70g)のジメチルスルホキシド(14.4ml)溶液に、目的物5(7.26g)を加え、そのまま約30分攪拌した。さらに、3−メチル−3−(4−ブロモブチル)オキシメチルオキセタン(13.66g)を、ゆっくりと滴下した。室温で2.5時間攪拌し、さらに60℃で2時間反応した。反応液を水に滴下し、塩化メチレンで抽出した。有機層を水洗して濃縮し、濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン/酢酸エチル)で精製することにより、目的物6(4.96g)を得た。
【0263】
このもののガラス転移温度は3℃であった。
DEI−MS(m/z=833(M))により目的物6であることを確認した。
【0264】
(合成例3)
<目的物7の合成>
【化76】

【0265】
氷冷下、2−(3−ブロモフェニル)エタノール(25g,116mmol)とイミダゾール(10.25g、150.8mmol)の塩化メチレン溶液(50mL)にt−ブチルジメチルクロロシラン(24.5g,163mmol)の塩化メチレン溶液(50mL)を滴下した。滴下終了後、室温まで温度を上昇させ、さらに3時間攪拌した。反応混合物を水にあけ、有機層を分離し、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶媒を減圧下に留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに処し、目的物7(15.5g、収率40%)を得た。
【0266】
<目的物8の合成>
【化77】

【0267】
窒素気流中、N,N’−ジフェニルベンジジン(7.40g)、目的物7(15.26g)、tert−ブトキシナトリウム(5.07g)、およびトルエン(100ml)の溶液に、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム錯体(0.91g)、トリ−tert−ブチルホスフィン(1.06g)およびトルエン(30ml)を窒素雰囲気下、50℃で15分間攪拌して調製した溶液を加えて、加熱還流下、4時間半攪拌した。放冷後、クロロホルム及び活性白土を加え1時間攪拌した後、不溶物を濾別、濾液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=30:1)で精製し、析出物を濾取することにより、目的物8(9.44g)を得た。
【0268】
<目的物9の合成>
【化78】

【0269】
窒素気流中、目的物8(9.26g)、テトラブチルアンモニウムフルオライド水和物(TBAF)(10.52g)、およびテトラヒドロフラン(THF)(100ml)を加えて室温で4時間半攪拌した。ここへ水(150ml)を加え、酢酸エチル(100ml)で抽出して油層を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)で精製することにより、目的物9(4.60g)を得た。
【0270】
<目的物10の合成>
【化79】

【0271】
窒素気流中、目的物9(4.21g)にテトラヒドロフラン(50ml)を加えて氷浴により0℃に冷却し、30分間攪拌した。ここへシンナモイルクロライド(4.86g)とトリエチルアミン(2.95g)を加えて0℃でさらに30分間攪拌した。そこへジメチルアミノピリジンを加え、酢酸エチル(100ml)で抽出して油層を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)で精製することにより、目的物10(4.60g)を得た。
【0272】
このもののガラス転移温度は43℃、融点は観測されず、窒素気流下での重量減少開始温度は360℃であった。
DEI−MS(m/z=836(M))により目的物10であることを確認した。
【0273】
(合成例4)
<目的物11の合成>
【化80】

【0274】
窒素気流中、トルエン(400ml)に、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム錯体(0.166g)、ビス(トリフェニルフォスフィノ)フェロセン(0.356g)を室温で10分間攪拌し、ジフェニルアミン(10.15g)、4、4’−ジブロモビフェニル(61.78g)、およびtert−ブトキシナトリウム(6.92g)を加えて、100℃で5時間半攪拌した。放冷後、活性白土を加えて15分間攪拌した後、不溶物を濾別し、濾液の約1/3を濃縮し、析出物を濾取した。さらに濾液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:トルエン=10:1)で精製することにより、目的物11(16.20g)を得た。
【0275】
<目的物12の合成>
【化81】

【0276】
窒素気流中、トルエン(200ml)に、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム錯体(0.16g)とビス(トリフェニルフォスフィノ)フェロセン(0.145g)を加えて室温で10分間攪拌し、さらに目的物11(8.01g)、アニリン(6.15g)、およびtert−ブトキシナトリウム(2.31g)を加えて、100℃で6時間攪拌した。放冷後不溶物を濾別し、濾液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=25:1)で精製することにより、目的物12(6.40g)を得た。
【0277】
<目的物13の合成>
【化82】

【0278】
DCスターラー、滴下漏斗、および冷却管を装備した4口フラスコに50重量%NaOH水溶液(300g)とヘキサン(250mL)の混合溶液を加え、テトラn−ブチルアンモニウムブロマイド(TBABr)(4.98g,15.5mmol)を添加した。混合物を5℃まで冷却後、オキセタン(31g)とジブロモブタン(200g)の混合物を激しく攪拌しながら滴下した。滴下終了後、室温で15分間攪拌し、さらに還流下、15分間攪拌し、室温まで放冷しながら15分間攪拌した。有機層を分離し、有機層を水洗して硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒を減圧下に除去し、減圧蒸留(0.42mmHg、72℃)にて目的物13(52.2g、収率71.2%)を得た。
【0279】
<目的物14の合成>
【化83】

【0280】
窒素気流中、ジメチルスルホキシド(50ml)に粉砕した水酸化カリウム(8.98g)を加え、m−ブロモフェノール(6.92g)を加えて30分間攪拌後、目的物13(12.33g)を加えて室温で6時間攪拌した。析出物を濾取した後、濾液を塩化メチレンで抽出して油層を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:塩化メチレン=2:1)で精製することにより、目的物14(11.4g)を得た。
【0281】
<目的物15の合成>
【化84】

【0282】
窒素気流中、目的物12(3.30g)、目的物14(3.16g)、tert−ブトキシナトリウム(0.92g)、およびトルエン(30ml)の溶液に、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム錯体(0.083g)、トリ−tert−ブチルフォスフィン(0.16g)、およびトルエン(5ml)を窒素雰囲気下、60℃で15分間攪拌して調製した溶液を加えて、100℃で4時間攪拌した。放冷後、不溶物を濾別し、濾液を濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン:酢酸エチル=20:1)で精製することにより、目的物15(1.18g)を得た。
DEI−MS(m/z=660(M))により目的物15であることを確認した。
【0283】
(合成例5)
<目的物16の合成>
【化85】

【0284】
窒素気流中、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(6.44g)、4−ブロモビフェニル(15.0g)、tert−ブトキシナトリウム(8.66g)、およびトルエン(120ml)の溶液に、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム錯体(0.166g)、ビス(トリフェニルフォスフィノ)フェロセン(0.356g)、およびトルエン(5ml)を窒素雰囲気下、60℃で15分間攪拌して調製した溶液を加えて、加熱還流下、4時間攪拌した。放冷後、トルエン及び活性白土を加え15分間攪拌した後、不溶物を濾別し、濾液を濃縮し、エタノールを加えた。析出物を濾取した後、エタノール、メタノール、トルエン、メタノールの順で懸濁洗浄することにより、目的物16(7.48g)を得た。
【0285】
<目的物17の合成>
【化86】

【0286】
窒素気流中、目的物16(2.52g)、目的物14(3.95g)、tert−ブトキシナトリウム(1.15g)、およびトルエン(50ml)の溶液に、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム錯体(0.207g)、トリ−tert−ブチルホスフィン(0.243g)、およびトルエン(20ml)を窒素雰囲気下、60℃で15分間攪拌して調製した溶液を加えて、80℃で4時間攪拌した。放冷後、塩化メチレン(50ml)を加え30分間攪拌した後、不溶物を濾別し、濾液を濃縮した。塩化メチレン/酢酸エチル混合液でカラム精製し、トルエン溶媒で活性白土処理を行うことにより、目的物17(1.74g)を得た。
【0287】
このもののガラス転移温度は27℃、融点は観測されず、窒素気流下での重量減少開始温度は432℃であった。
DEI−MS(m/z=1000(M))により目的物17であることを確認した。
【0288】
(合成例6)
<目的物18の合成>
【化87】

【0289】
窒素気流中、N,N’−ビス(p−フェニルフェニル)アミン(4.69g)、目的物14(4.00g)、tert−ブトキシナトリウム(1.63g)、およびトルエン(90ml)の溶液に、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム錯体(0.063g)、トリ−tert−ブチルホスフィン(0.098g)、およびトルエン(10ml)を窒素雰囲気下、60℃で15分間攪拌して調製した溶液を加えて、85℃に加熱下、4時間攪拌した。放冷後、トルエン及び活性白土を加え、室温で15分間攪拌した後、不溶物を濾別し、濾液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン溶媒)で精製し、トルエン溶媒で活性白土処理を行うことにより、目的物18(2.61g)を得た。
【0290】
このもののガラス転移温度は14℃、融点は観測されず、窒素気流下での重量減少開始温度は404℃であった。
DEI−MS(m/z=569(M))により目的物18であることを確認した。
【0291】
(合成例7)
<目的物19の合成>
【化88】

【0292】
窒素気流下、ジフェニルホスフィノフェロセン(166mg,0.30mmol)、トリスジベンジリデンアセトンジパラジウムクロロホルム付加物(155mg、0.15mmol)の脱水トルエン溶液(50mL)を30℃で10分間攪拌し、目的物11(6.0g、14.99mmol)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(1.5g、7.49mmol)、およびtert−ブトキシナトリウム(1.73g、18mmol)を添加した。温度を100℃まで上昇させ、8時間攪拌した。反応混合物を水にあけ、有機層を分離し、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶媒を減圧下に留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに処し、目的物19(4.24g、収率67%)を得た。
【0293】
<目的物20の合成>
【化89】

【0294】
窒素気流下、トリ−tert−ブチルホスフィン(174mg,0.86mmol)、トリスジベンジリデンアセトンジパラジウムクロロホルム付加物(148mg、0.14mmol)の脱水トルエン溶液(20mL)を30℃で10分間攪拌し、触媒を調製した。ここへ目的物19(4.0g、4.77mmol)、目的物20(3.45g、10.5mmol)、およびtert−ブトキシナトリウム(1.21g、12.6mmol)を添加した。温度を90℃まで上昇させ、8時間攪拌した。反応混合物を水にあけ、有機層を分離し、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶媒を減圧下に留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに処し、目的物20(2.47g、収率39%)を得た。
【0295】
DEI−MS(m/z=1334(M))により目的物20であることを確認した。
【0296】
(合成例8)
<目的物21の合成>
【化90】

【0297】
窒素気流中、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム錯体(0.673g)、ビス(トリフェニルフォスフィノ)フェロセン(0.708g)、およびトルエン(455ml)を、室温で10分間攪拌して得た溶液に、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(13.02g)、3−ブロモ−1−(n−ヘキシルオキシ)ベンゼン(33.10g)、tert−ブトキシナトリウム(14.99g)を順次投入し、90℃の油浴中、6時間攪拌した。放冷後、酢酸エチル1リットルと食塩水500mlを加え、振り混ぜた後、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、次いで濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン混合液)および塩化メチレン/メタノールからの再結晶により精製し、目的物21の白色結晶(21.44g)を得た。
【0298】
<目的物22,23の合成>
【化91】

【0299】
トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム錯体(0.078g)、ビス(トリフェニルフォスフィノ)フェロセン(0.082g)、およびトルエン(100ml)を窒素雰囲気下、室温で30分間攪拌して得た溶液に、目的物21(5.528g)、4,4’−ジブロモビフェニル(2.340g)、tert−ブトキシナトリウム(1.922g)を順次投入し、加熱還流下、6時間攪拌した。放冷後、濾過し、塩化メチレンによる振りかけ洗浄を行い、得られた濾液を濃縮後、塩化メチレンに溶解させ、これをメタノール中に投入して再沈殿させ、析出した固形分を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン)で精製し、目的物22(4.6g)を得た。
【0300】
窒素気流中、目的物14(4.15g)、目的物22(4.6g)およびトルエン(85ml)の溶液に、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム錯体(0.179g)、トリ−tert−ブチルフォスフィン(0.35ml)およびトルエン(15ml)を窒素雰囲気下、55℃で30分間攪拌して調製した溶液を加え、さらにtert−ブトキシナトリウム(1.33g)を加え、加熱還流下、4時間攪拌した。氷冷後、活性白土を加えてよく撹拌した後、濾過し、濾液を濃縮後、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(クロロホルム溶媒)で精製した。その後、得られた不揮発成分をトルエンに溶解させた溶液に、活性白土を加え、撹拌後、濾過し、濾液を濃縮した。これを塩化メチレンに溶解させたものを、エタノール/メタノールの混合溶液に投入して、再沈殿させた後、減圧下、70℃で乾燥し、無定形固体の目的物23(2.10g)を得た。この高分子化合物のポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は4480、数平均分子量(Mn)3380であった(n=1〜20)。
【0301】
(合成例9)
<目的物24の合成>
【化92】

【0302】
トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム錯体(0.046g)、ビス(トリフェニルフォスフィノ)フェロセン(0.048g)、およびトルエン(10ml)を窒素雰囲気下、室温で30分間攪拌して得た溶液を、目的物21(3.663g)、4,4’−ジブロモビフェニル(1.378g)、およびtert−ブトキシナトリウム(1.02g)の混合溶液に投入し、加熱還流下、4.5時間攪拌した。ここに、中間体1(0.922g)、tert−ブトキシナトリウム(1.02g)を投入して4時間後、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム錯体(0.065g)、ビス(トリフェニルフォスフィノ)フェロセン(0.072g)、およびトルエン(7ml)を窒素雰囲気下、室温で15分間攪拌して得た溶液を加え、1時間撹拌後、さらに中間体1(3g)を投入し、1.5時間撹拌し、ここに、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム錯体(0.100g)、ビス(トリフェニルフォスフィノ)フェロセン(0.115g)、およびトルエン(8ml)を窒素雰囲気下、50℃で15分間攪拌して得た溶液を加え、1.5時間撹拌した。放冷後、活性白土を加えてよく撹拌した後、濾過し、濾液を2規定塩酸水溶液、次いで食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥して濃縮した。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン/ヘキサンおよび塩化メチレン/酢酸エチル)で精製後、トルエンに溶解させた溶液に、活性白土を加え、よく撹拌後、濾過し、濾液を濃縮し、減圧下、加熱乾燥して、目的物24(4.44g)を得た。
【0303】
<目的物25の合成>
【化93】

【0304】
窒素気流中、メチルトリフェニルフォスフォニウムヨージド(2.292g)とテトラヒドロフラン(10ml)の溶液に、氷冷下、tert−ブトキシカリウム(0.668g)のテトラヒドロフラン溶液(10ml)を、10分間かけて滴下した後、15分間撹拌して得た溶液を、氷冷下で、目的物24(4.44g)のテトラヒドロフラン溶液(20ml)に投入し、1時間撹拌後、室温下でさらに1時間撹拌した。得られた溶液に氷水および食塩を投入後、塩化メチレンで抽出し、抽出液を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン/ヘキサン)で精製後、トルエンに溶解させた溶液に、活性白土を加えてよく撹拌後、不溶分を除去後、濃縮した。これを再びシリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン/ヘキサン)で精製し、得られた固形分を減圧下、70℃で加熱乾燥し、目的物25(1.40g)を得た。この高分子化合物のポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は2690、数平均分子量(Mn)は2000であった(n=1〜15)。
【0305】
(合成例10)
<目的物26の合成>
【化94】

【0306】
窒素気流中、トルエン(400ml)に、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム錯体(0.166g)、およびビス(トリフェニルフォスフィノ)フェロセン(0.356g)を室温で10分間撹拌し、ジフェニルアミン(10.15g)、4、4’−ジブロモビフェニル(61.78g)、およびtert−ブトキシナトリウム(6.92g)を加えて、100℃で5時間半撹拌した。放冷後、活性白土を加え、15分間撹拌した後、不溶物を濾別し、濾液の約1/3を濃縮し、析出物を濾取した。さらに濾液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/トルエン)で精製し、メタノールで再沈殿させることにより、目的物26(16.20g)を得た。
【0307】
<目的物27の合成>
【化95】

【0308】
窒素気流中、トルエン(200ml)に、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム錯体(0.14g)、およびビス(トリフェニルフォスフィノ)フェロセン(0.145g)を室温で10分間撹拌し、化合物26(8.01g)、アニリン(6.15g)、およびtert−ブトキシナトリウム(2.31g)を加えて、100℃で6時間撹拌した。放冷後、不溶物を濾別し、濾液に活性白土を入れて30分撹拌後に吸引濾過して濾液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン)で精製することにより、目的物27(7.36g)を得た。
【0309】
<目的物28の合成>
【化96】

【0310】
窒素雰囲気下、m−ブロモフェノール(9.52g)、p−フルオロベンズアルデヒド(6.21g)、炭酸カリウム(8.98g)、およびN,N−ジメチルホルムアミド(80ml)を混合し、180℃で2時間反応させた。放冷後、水を加え、塩化メチレンで抽出し、油層を濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン)で精製することにより、目的物28(10.5g)を得た。
【0311】
<目的物29の合成>
【化97】

【0312】
窒素雰囲気下、目的物27(2.68g)、目的物28(2.56g)、炭酸セシウム(3.81g)、トルエン(40ml)、および酢酸パラジウム(0.04g)を仕込み、系内を十分に窒素置換して、50℃まで加温した。トリ−tert−ブチルホスフィン(0.07g)を加え、窒素気流中、6時間加熱還流して反応させた。放冷後、反応液を吸引濾過して濾液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル)にて精製し、目的物29(2.35g)を得た。
【0313】
<目的物30の合成>
【化98】

【0314】
窒素気流中、目的物29(2.31g)、メチルトリフェニルフォスフォニウムヨージド(1.69g)、および脱水テトラヒドロフラン(46ml)を加え、0℃で撹拌しているところへt−ブトキシカリウム(0.47g)を加えて4時間撹拌後、室温で1時間撹拌した。氷冷しながら、反応混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出し、有機層を水で洗浄、硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン)にて精製することで目的物30(1.56g)を得た。
【0315】
DEI−MS(m/z=606(M))により目的物30であることを確認した。このもののガラス転移温度は104℃であった。
【0316】
(合成例11)
<目的物31の合成>
【化99】

【0317】
反応容器にtert−ブチル−(4−ヨードブトキシ)−ジメチルシラン(15.09g)、m−ブロモフェノール(6.92g)、炭酸カリウム(7.19g)、およびN,N−ジメチルホルムアミド(70ml)を入れ、130℃で4時間半反応させた。室温まで放冷後、水(100ml)を加え、塩化メチレン(100ml)で抽出して油層を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル)で精製することにより、目的物31(10.5g)を得た。
【0318】
<目的物32の合成>
【化100】

【0319】
目的物31(5.15g)、N,N−ビス−(p−ビフェニリル)−アミン(5.27g)、tert−ブトキシナトリウム(3.15g)、およびトルエン(65ml)を入れ、十分に窒素置換し、50℃で撹拌した。そこへトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム錯体(0.31g)のトルエン(10ml)溶液に、トリ−t−ブチルホスフィン(0.48g)を加え、50℃まで加温した溶液を添加し、5時間還流した。室温まで放冷後、反応混合物を濾過し、濾液を減圧下で濃縮した。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン)にて精製し、目的物32(6.24g)を得た。
【0320】
<目的物33の合成>
【化101】

【0321】
窒素気流中、目的物32(6.23g)、テトラブチルアンモニウムフルオライド(TBAF)(12.88g)、およびテトラヒドロフラン(62ml)を加えて室温で6時間半撹拌した。水(150ml)を加え、酢酸エチル(100ml)で抽出して油層を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル)で精製することにより、目的物33(3.91g)を得た。
【0322】
<目的物34の合成>
【化102】

【0323】
窒素気流中、目的物33(3.88g)に、テトラヒドロフラン(58ml)を加えて氷浴で0℃に冷却しながら撹拌し、トリエチルアミン(TEA)(3.24g)を加えた後、アクリル酸クロライド(1.09g)を滴下し、室温にて3時間反応させた。不溶物を濾別し、濾液を濃縮して、メタノールにより再沈殿を行った後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン)で精製することにより、無色で油状の目的物34(2.69g)を得た。
【0324】
DEI−MS(m/z=539(M))により目的物34であることを確認した。このもののガラス転移温度は21℃、窒素気流下での重量減少開始温度は397℃であった。
【0325】
(合成例12)
<目的物35の合成>
【化103】

【0326】
窒素雰囲気下、3−ブロモフェノール(16.9g)、炭酸カリウム(53.8g)、N,N−ジメチルホルムアミド(97.4ml)、および1,4−ジブロモブタン(63.1g)を加え、室温で3.5時間撹拌した。反応混合物をトルエンで抽出し、有機層を食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。残渣を蒸留(4.8mmHg(47kPa)/60℃)し、1,4−ジブロモブタンを除去した後に、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン=3/1)にて精製することで目的物35(9.7g)を得た。
【0327】
<目的物36の合成>
【化104】

【0328】
窒素雰囲気下、m−ヒドロキシベンズアルデヒド(4.06g)、炭酸カリウム(17.5g)、N,N−ジメチルホルムアミド(38.5ml)、および目的物35(9.77g)を加え、60℃で7時間撹拌した。室温まで放冷後、反応混合物をトルエンで抽出し、有機層を食塩水で洗浄して、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン=5/1)にて精製することで目的物36(10.3g)を得た。
【0329】
<目的物37の合成>
【化105】

【0330】
窒素雰囲気下、N,N−ビス−(p−フェニルフェニル)アミン(3.54g)、目的物36(384g)、炭酸セシウム(6.45g)、およびトルエン(100ml)を仕込み、系内を十分に窒素置換して、50℃まで加温した(溶液A)。酢酸パラジウム(0.07g)のトルエン10ml溶液に、トリ−tert−ブチルホスフィン(0.13g)を加え、50℃まで加温した(溶液B)。窒素気流中、溶液Aに溶液Bを添加し、4時間加熱還流して反応させた。放冷後、反応液を濾過して濾液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン)にて精製し、目的物37(5.5g)を得た。
【0331】
<目的物38の合成>
【化106】

【0332】
窒素気流中、目的物37(4.72g)、メチルトリフェニルホスホニウムヨージド(3.56g)、および脱水テトラヒドロフラン(50ml)を加え、0℃で撹拌しているところへtert−ブトキシカリウム(0.47g)を加えて4時間撹拌後、室温で1時間撹拌した。氷冷しながら、反応混合物に水を加え、塩化メチレンで抽出し、有機層を水で洗浄して、硫酸ナトリウムで乾燥した。この有機層を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン)にて精製することで目的物38(2.67g)を得た。
【0333】
DEI−MS(m/z=587(M))により目的物38であることを確認した。このものの融点は87℃、ガラス転移温度は73℃であった。
【0334】
(合成例13)
<目的物39の合成>
【化107】

【0335】
3,4’−ジフェニルアミノエーテル(24.03g)、ブロモベンゼン(37.68g)、tert−ブトキシナトリウム(25.37g)、およびトルエン(190ml)を仕込み、系内を十分に窒素置換して、50℃まで加温した(溶液A)。トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム錯体(0.62g)のトルエン10ml溶液に、ビス(トリフェニルフォスフィノ)フェロセン(1.35g)を加え、50℃まで加温した(溶液B)。窒素気流中、溶液Aに溶液Bを添加し、100℃で6時間半、加熱反応した。放冷後、吸引濾過をして濾液を濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン=1:1)にて精製し、目的物39(23.60g)を得た。
【0336】
<目的物40の合成>
【化108】

【0337】
目的物39(7.8g)、1−ベンジロキシ−3−ブロモベンゼン(12.88g)、t−ブトキシナトリウム(9.36g)、トルエン(190ml)を仕込み、系内を十分に窒素置換して、60℃まで加温した(溶液C)。トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム錯体(0.92g)のトルエン15ml溶液に、トリ−tert−ブチルホスフィン(1.1g)を加え、60℃まで加温した(溶液D)。窒素気流中、溶液Cに溶液Dを添加し、5時間加熱還流した。室温まで放冷し、セライト濾過し、濾液を濃縮した。得られた粗生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン)にて精製し、目的物40(14.8g)を得た。
【0338】
<目的物41の合成>
【化109】

【0339】
目的物40(14.8g)をテトラヒドロフラン(100ml)に溶解し、5重量%Pd担持活性炭(2.20g)を加え、系内を水素置換した後、60℃で7時間還元反応を行った。反応終了後、系内を窒素置換し、触媒を濾別し、さらに濾液にセライトを通し、濾液を濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン)にて精製し、目的物41(10.00g)を得た。
【0340】
<目的物42の合成>
【化110】

【0341】
目的物41(3.05g)、2−クロロエチルビニルエーテル(2.42g)、炭酸カリウム(3.53g)、およびN,N−ジメチルホルムアミド(25ml)を仕込み、少量のヨウ化カリムを加え、80℃で5時間、さらに100℃で2.5時間加熱して反応させた。反応終了後、反応液に水を加え、酢酸エチルで抽出した。得られた有機層を2回水洗し、さらに飽和食塩水で洗浄した。有機層に硫酸ナトリウムを加えて脱水乾燥し、濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン、2回目はヘキサン/酢酸エチル)にて精製し、目的物42(1.91g)を得た。
【0342】
DEI−MS(m/z=676(M))により目的物42であることを確認した。このもののガラス転移温度は9℃であった。
【0343】
(合成例14)
<目的物43の合成>
【化111】

【0344】
目的物41(13.1g)、6−ブロモ−1−ヘキセン(7.42g)、炭酸カリウム(11.44g)、およびN,N−ジメチルホルムアミド(110ml)を仕込み、70℃で7.5時間加熱して反応させた。原料となる目的物41がほぼ消失したので、反応液に水を加え、塩化メチレンで抽出した。得られた有機層を3回水洗し、濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン)にて精製し、目的物43(10.80g)を得た。
【0345】
DEI−MS(m/z=700(M))により目的物43であることを確認した。このもののガラス転移温度は−11℃であった。
【0346】
(合成例15)
<目的物44の合成>
【化112】

【0347】
窒素雰囲気下、3−ブロモフェノール(16.9g)、炭酸カリウム(53.8g)、N,N−ジメチルホルムアミド(97.4ml)、および1,4−ジブロモブタン(63.1g)を加え、室温で5時間半撹拌した。反応混合物をトルエンで抽出し、有機層を食塩水で洗浄して、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。残渣を蒸留(4.8mmHg(47kPa)/60℃)し、1,4−ジブロモブタンを除去した後に、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン=3/1)にて精製することで目的物44(9.7g)を得た。
【0348】
<目的物45の合成>
【化113】

【0349】
窒素雰囲気下、m−ヒドロキシベンズアルデヒド(4.06g)、炭酸カリウム(17.5g)、N,N−ジメチルホルムアミド(38.5ml)、および目的物44(9.77g)を加え、60℃で7時間撹拌した。室温まで放冷後、反応混合物をトルエンで抽出し、有機層を食塩水で洗浄して、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン=5/1)にて精製することで目的物45(10.3g)を得た。
【0350】
<目的物46の合成>
【化114】

【0351】
窒素気流中、目的物39(3g)、目的物45(5.94g)、炭酸セシウム(13.8g)、およびトルエン(38ml)を加えて60℃で撹拌した。そこへパラジウム(II)アセテート(0.304g)のトルエン溶液(20ml)にトリ−tert−ブチルホスフィン(1.1g)を添加し、50℃まで加温した溶液を加え、7時間還流した。室温まで放冷後、反応混合物を濾過し、濾液を減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン/酢酸エチル=70/1)にて精製することで目的物46(2.99g)を得た。
【0352】
<目的物47の合成>
【化115】

【0353】
窒素気流中、目的物46(2.52g)、メチルトリフェニルホスホニウムヨージド(2.41g)、および脱水テトラヒドロフラン(50ml)を加え、0℃で撹拌しているところへtert−ブトキシカリウム(0.67g)を加え、4時間撹拌後、室温で1時間撹拌した。氷冷しながら、反応混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出し、有機層を水で洗浄して、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン=1/2)にて精製することで目的物47(1.7g)を得た。
【0354】
DEI−MS(m/z=884(M))により目的物47であることを確認した。このもののガラス転移温度は73℃、窒素気流下での重量減少開始温度は447℃であった。
【0355】
(合成例16)
<目的物48の合成>
【化116】

【0356】
N,N−ビス−(p−フェニルフェニル)アミン(16.5g)、1−ベンジロキシ−3−ブロモベンゼン(14.86g)、t−ブトキシナトリウム(10.85g)、およびトルエン(220ml)を仕込み、系内を十分に窒素置換して、60℃まで加温した(溶液A)。トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム錯体(1.06g)のトルエン20ml溶液に、トリ−tert−ブチルホスフィン(1.25g)を加え、60℃まで加温した(溶液B)。窒素気流中、溶液Aに溶液Bを添加し、3.5時間、加熱還流した。室温まで放冷し、セライト濾過し、濾液を濃縮した。得られた粗生成物を、ヘキサン/塩化メチレン(1/1)溶液で2回懸洗し、さらにメタノールで懸洗し、目的物48(18.4g)を得た。
【0357】
<目的物49の合成>
【化117】

【0358】
目的物48(18g)をテトラヒドロフラン(120ml)に溶解し、5重量%Pd担持活性炭(1.52g)を加え、系内を水素置換した。常温常圧にて6時間還元反応を行ったが、反応の進行が遅かったので、さらに5重量%Pd担持活性炭(1.0g)を加え、水素置換し、55℃で6時間還元反応を行った。反応終了後、系内を窒素置換し、触媒を濾別し、さらに濾液にセライトを通し、濾液を濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン)にて精製し、目的物49(14.33g)を得た。
【0359】
DEI−MS(m/z=413(M))により目的物49であることを確認した。
【0360】
<目的物50の合成>
【化118】

【0361】
目的物49(3.06g)、2−クロロエチルビニルエーテル(0.9g)、炭酸カリウム(2.05g)、およびN,N−ジメチルホルムアミド(30ml)を仕込み、少量のヨウ化カリムを加え、70℃で10時間加熱して反応させた。原料となる目的物49の消失は見られなかったが、反応液に水を加え、酢酸エチルで抽出した。得られた有機層を2回水洗し、さらに飽和食塩水で洗浄した。有機層に硫酸ナトリウムを加えて脱水乾燥し、濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン)にて精製し、目的物50(1.46g)を得た。
【0362】
DEI−MS(m/z=483(M))により目的物50であることを確認した。このもののガラス転移温度は31℃であった。
【0363】
(合成例17)
<目的物51の合成>
【化119】

【0364】
目的物49(7.33g)、6−ブロモ−1−ヘキセン(3.18g)、炭酸カリウム(4.90g)、およびN,N−ジメチルホルムアミド(70ml)を仕込み、70〜80℃で16時間加熱反応した。原料となる目的物49が消失したので、反応液に水を加え、塩化メチレンで抽出した。得られた有機層を3回水洗し、濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン)にて精製し、目的物51(8.45g)を得た。
【0365】
DEI−MS(m/z=495(M))により目的物51であることを確認した。このもののガラス転移温度は11℃であった。
【0366】
(合成例18)
<目的物52の合成>
【化120】

【0367】
3−ヒドロキシジフェニルアミン(5.0g)、2−クロロエチルビニルエーテル(5.75g)、炭酸カリウム(7.46g)、およびN,N−ジメチルホルムアミド(45ml)を仕込み、少量のヨウ化カリムを加え、100℃で2時間、加熱して反応させた。反応終了後、反応液に水を加え、酢酸エチルで抽出した。得られた有機層を2回水洗し、さらに飽和食塩水で洗浄した。有機層に硫酸ナトリウムを加えて脱水乾燥し、濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン)にて精製し、目的物52(5.41g)を得た。
【0368】
<目的物53の合成>
【化121】

【0369】
目的物26(2.41g)、目的物52(1.69g)、tert−ブトキシナトリウム(1.27g)、およびトルエン(40ml)を仕込み、系内を十分に窒素置換して、50℃まで加温した(溶液A)。トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム錯体(0.12g)のトルエン10ml溶液に、トリ−tert−ブチルホスフィン(0.15g)を加え、50℃まで加温した(溶液B)。窒素気流中、溶液Aに溶液Bを添加し、4時間加熱還流して反応させた。放冷後、反応液をセライト濾過して濾液を濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン、2回目はヘキサン/酢酸エチル)にて精製し、目的物53(1.57g)を得た。
DEI−MS(m/z=606(M))により目的物53であることを確認した。
【0370】
[有機電界発光素子の作製]
(実施例1)
図1に示す構造を有する有機電界発光素子を以下の方法で作製した。
【0371】
ガラス基板1の上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を150nm堆積したもの(スパッター成膜品;シート抵抗15Ω)を通常のフォトリソグラフィ技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして陽極2を形成した。パターン形成したITO基板を、アセトンによる超音波洗浄、純水による水洗、イソプロピルアルコールによる超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
【0372】
正孔注入層3を以下のように湿式塗布法によって形成した。
正孔注入層3の材料として、下記に示す構造式の芳香族アミノ基を有する高分子化合物(P−1(重量平均分子量:29400,数平均分子量:12600))と下記に示す構造式の電子受容性化合物(A−1)とを用い、下記の条件でスピンコートした。
【化122】

【0373】
スピンコート条件
塗布環境 大気中
溶媒 安息香酸エチル
塗布液濃度 P−1 2.0重量%
A−1 0.8重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
乾燥条件 230℃×3時間
上記のスピンコートにより膜厚30nmの均一な薄膜が形成された。
【0374】
続いて、正孔輸送層4を以下のように湿式塗布法によって形成した。正孔輸送層4の材料として、下記に示す本発明の正孔輸送材料(H−1)(合成例2で合成した目的物6)を下記の条件でスピンコートした。
【0375】
【化123】

【0376】
スピンコート条件
塗布環境 窒素グローブボックス中
溶媒 トルエン
塗布液濃度 H−1 0.4重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
【0377】
上記のスピンコート膜に紫外光を積算光量で5J/cm照射し、真空中、130℃で1時間加熱することにより膜厚20nmの均一な薄膜を得た。
【0378】
続いて、発光層5を以下のように湿式塗布法によって形成した。発光層5の材料として、下記の化合物(E−1)と(E−2)を、下記に示す構造式のイリジウム錯体(D−1)と共に用い、下記の条件でスピンコートした。
【0379】
【化124】

【0380】
スピンコート条件
塗布環境 窒素グローブボックス中
溶媒 キシレン
塗布液濃度 E−1 1.0重量%
E−2 1.0重量%
D−1 0.1重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
乾燥条件 130℃×60分(減圧下)
上記のスピンコートにより膜厚40nmの均一な薄膜が形成された。
【0381】
発光層5までを成膜した基板を窒素グローブボックスに連結されたマルチチャンバー型真空蒸着装置に大気に曝すことなく搬入し、装置内を真空度3.8×10−5Paまで排気した後、正孔阻止層6および電子輸送層7を真空蒸着法によって成膜した。
【0382】
正孔阻止層6として、下記に示すピリジン誘導体(HB−1)を蒸着速度0.07〜0.1nm/秒で5nmの膜厚で積層した。蒸着時の真空度は3.5×10−5Paであった。
【0383】
【化125】

【0384】
続いて、正孔阻止層6の上に、電子輸送層7として下記に示すアルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体(ET−1)を同様にして蒸着した。蒸着時の真空度は3.1〜3.2×10−5Pa、蒸着速度は0.09〜0.11nm/秒で膜厚は30nmとした。
【0385】
【化126】

【0386】
上記の正孔阻止層6および電子輸送層7を真空蒸着する時の基板温度は室温に保持した。
ここで、電子輸送層7までの蒸着を行った素子を電子輸送層までを蒸着した有機層蒸着チャンバーから金属蒸着チャンバーへと真空中で搬送し、陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極2のITOストライプとは直交するように素子に密着させて、装置内の真空度が4.0×10−5Pa以下になるまで排気した後、電子注入層8と陰極9からなる2層型陰極を真空蒸着法によって形成した。電子注入層8として、先ず、フッ化リチウム(LiF)を、モリブデンボートを用いて、蒸着速度0.015〜0.014nm/秒、真空度4.9〜5.2×10−5Paで、0.5nmの膜厚で電子輸送層7の上に成膜した。次に、アルミニウムを同様にモリブデンボートにより加熱して、蒸着速度0.1〜1.3nm/秒、真空度7.5〜9.1×10−5Paで膜厚85nmのアルミニウム層を形成して陰極9を完成させた。以上の電子注入層8と陰極9の蒸着時の基板温度は室温に保持した。
【0387】
以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。この素子の発光特性は以下の通りである。
輝度/電流:32.9[cd/A]@100cd/m
電圧:5.6[V] @100cd/m
発光効率:18.7[1m/w]@100cd/m
素子の発光スペクトルの極大波長は512nmであり、イリジウム錯体(D−1)からのものと同定された。色度はCIE(x,y)=(0.296,0.627)であった。
【0388】
(実施例2)
正孔輸送層4を以下に示す方法で製膜したほかは実施例1と同様にして有機電界発光素子を得た。
実施例1と同様の方法で正孔注入層3を成膜したITO基板上に、正孔輸送層4の材料として、下記に示す本発明の正孔輸送材料(H−2)(合成例3で合成した目的物10)を下記の条件でスピンコートした。
【0389】
【化127】

【0390】
スピンコート条件
塗布環境 窒素グローブボックス中
溶媒 キシレン
塗布液濃度 H−2 1.0重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
【0391】
上記のスピンコート膜に紫外光を積算光量で30J/cm照射し、窒素中、230℃で1時間加熱することにより、膜厚22nmの均一な薄膜を得た。
その後、実施例1と同様の手順で有機電界発光素子を作製した。
【0392】
このようにして得られた2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子の発光特性は以下に示す通りである。
輝度/電流:27.6[cd/A]@100cd/m
電圧:6.0[V] @100cd/m
発光効率:14.5[1m/w]@100cd/m
素子の発光スペクトルの極大波長は512nmであり、イリジウム錯体(D−1)からのものと同定された。色度はCIE(x,y)=(0.285,0.630)であった。
【0393】
(実施例3)
正孔輸送層4を以下に示す方法で製膜したほかは実施例1と同様にして有機電界発光素子を得た。
実施例1と同様の方法で正孔注入層3を成膜したITO基板上に、正孔輸送層4の材料として、下記に示す本発明の正孔輸送材料(H−3)(合成例5で合成した目的物17)を下記の条件でスピンコートした。
【0394】
【化128】

【0395】
スピンコート条件
塗布環境 窒素グローブボックス中
溶媒 キシレン
塗布液濃度 H−3 0.9重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
【0396】
上記のスピンコート膜に紫外光を積算光量で5J/cm照射し、窒素中、150℃で1時間加熱することにより、膜厚19nmの均一な薄膜を得た。
その後、実施例1と同様の手順で有機電界発光素子を作製した。
【0397】
このようにして得られた2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子の発光特性は以下に示す通りである。
輝度/電流:34.5[cd/A]@100cd/m
電圧:6.1[V] @100cd/m
発光効率:17.8[1m/w]@100cd/m
素子の発光スペクトルの極大波長は513nmであり、イリジウム錯体(D−1)からのものと同定された。色度はCIE(x,y)=(0.302,0.625)であった。
【0398】
(実施例4)
正孔輸送層4を以下に示す方法で製膜したほかは実施例1と同様にして有機電界発光素子を得た。
実施例1と同様の方法で正孔注入層3を成膜したITO基板上に、正孔輸送層4の材料として、下記に示す本発明の正孔輸送材料(H−6)(合成例8で合成した目的物23)を下記の条件でスピンコートした。
【0399】
【化129】

【0400】
スピンコート条件
塗布環境 窒素グローブボックス中
溶媒 キシレン
塗布液濃度 H−6 0.8重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
【0401】
上記のスピンコート膜に紫外光を積算光量で2J/cm照射し、窒素中、200℃で1時間加熱することにより、膜厚20nmの均一な薄膜を得た。
その後、実施例1と同様の手順で有機電界発光素子を作製した。
【0402】
このようにして得られた2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子の発光特性は以下に示す通りである。
輝度/電流:30.7[cd/A]@100cd/m
電圧:6.7[V] @100cd/m
発光効率:14.5[1m/w]@100cd/m
素子の発光スペクトルの極大波長は512nmであり、イリジウム錯体(D−1)からのものと同定された。色度はCIE(x,y)=(0.285,0.634)であった。
【0403】
(実施例5)
正孔輸送層4および発光層5を以下に示す方法で製膜したほかは実施例1と同様にして有機電界発光素子を得た。
実施例1と同様の方法で正孔注入層3を成膜したITO基板上に、正孔輸送層4の材料として、下記に示す本発明の正孔輸送材料(H−7)(合成例15で合成した目的物47)を下記の条件でスピンコートした。
【0404】
【化130】

【0405】
スピンコート条件
塗布環境 窒素グローブボックス中
溶媒 キシレン
塗布液濃度 H−7 1.2重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
【0406】
上記のスピンコート膜に紫外光を積算光量で5J/cm照射し、真空中、200℃で1時間加熱することにより、膜厚21nmの均一な薄膜を得た。
【0407】
続いて、発光層5を以下のように湿式塗布法によって形成した。発光層5の材料として、下記の化合物(E−1)と(E−2)を、下記に示す構造式のイリジウム錯体(D−1)と共に用い、下記の条件でスピンコートした。
【0408】
【化131】

【0409】
スピンコート条件
塗布環境 窒素グローブボックス中
溶媒 キシレン
塗布液濃度 E−1 1.8重量%
E−2 0.2重量%
D−1 0.1重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
乾燥条件 130℃×60分(減圧下)
上記のスピンコートにより膜厚40nmの均一な薄膜が形成された。
その後、実施例1と同様の手順で有機電界発光素子を作製した。
【0410】
このようにして得られた2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子の発光特性は以下に示す通りである。
輝度/電流:23.3[cd/A]@100cd/m
電圧:8.4[V] @100cd/m
発光効率:8.8[1m/w]@100cd/m
素子の発光スペクトルの極大波長は510nmであり、イリジウム錯体(D−1)からのものと同定された。色度はCIE(x,y)=(0.281,0.629)であった。
【0411】
(比較例1)
正孔輸送層4を以下に示す方法で製膜したほかは実施例1と同様にして有機電界発光素子を得た。
実施例1と同様の方法で正孔注入層3を成膜したITO基板上に、正孔輸送層4の材料として、下記に示す化合物(H−4)を下記の条件でスピンコートした。
【0412】
【化132】

【0413】
スピンコート条件
塗布環境 窒素グローブボックス中
溶媒 キシレン
塗布液濃度 H−4 1.2重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
【0414】
上記のスピンコート膜に紫外光を積算光量で2J/cm照射し、真空中、130℃で1時間加熱することにより、膜厚25nmの均一な薄膜を得た。
その後、実施例1と同様の手順で有機電界発光素子を作製した。
【0415】
このようにして得られた2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子の発光特性は以下に示す。
輝度/電流:19.1[cd/A]@100cd/m
電圧:7.1[V] @100cd/m
発光効率:8.5[1m/w]@100cd/m
素子の発光スペクトルの極大波長は512nmであり、イリジウム錯体(D−1)からのものと同定された。色度はCIE(x,y)=(0.294,0.628)であった。
【0416】
(比較例2)
正孔輸送層4を以下に示す方法で製膜したほかは実施例1と同様にして有機電界発光素子を得た。
実施例1と同様の方法で正孔注入層3を成膜したITO基板上に、正孔輸送層4の材料として、下記に示す化合物(H−5)を下記の条件でスピンコートした。
【0417】
【化133】

【0418】
スピンコート条件
塗布環境 窒素グローブボックス中
溶媒 トルエン
塗布液濃度 H−5 0.5重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
【0419】
上記のスピンコート膜を窒素中、200℃で1時間加熱することにより、膜厚20nmの均一な薄膜を得た。
その後、実施例1と同様の手順で有機電界発光素子を作製した。
【0420】
このようにして得られた2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子の発光特性は以下に示す。
輝度/電流:17.1[cd/A]@100cd/m
電圧:6.2[V] @100cd/m
発光効率:8.8[1m/w]@100cd/m
素子の発光スペクトルの極大波長は513nmであり、イリジウム錯体(D−1)からのものと同定された。色度はCIE(x,y)=(0.300,0.624)であった。
【0421】
(駆動寿命試験)
実施例1〜5、および比較例1,2で作製した素子について、初期輝度2500cd/cmでの規格化半減寿命(比較例1のものを1.0とした場合の規格化半減寿命)を調べた。
【0422】
以上のようにして作製した有機電界発光素子の発光特性と駆動寿命試験結果を表1にまとめる。
【0423】
【表1】

【0424】
表1から明らかなように、本発明の正孔輸送材料を用いて作製された有機電界発光素子は、発光効率に優れ、長寿命を達成できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0425】
本発明は、有機電界発光素子が使用される各種の分野、例えば、フラットパネル・ディスプレイ(例えばOAコンピュータ用や壁掛けテレビ)や面発光体としての特徴を生かした光源(例えば、複写機の光源、液晶ディスプレイや計器類のバックライト光源)、表示板、標識灯等の分野において、好適に使用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0426】
【図1】本発明の有機電界発光素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0427】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 正孔阻止層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表され、分子量が300〜5000であることを特徴とする正孔輸送材料。
【化1】

[式(I)中、R〜Rは、各々独立に、水素原子、連結基Zへの直接結合または1価の基を示す。
nは、1〜4の整数を示す。
連結基Zは、nが1のときは存在せず、nが2以上のときは直接結合またはn価の連結基を示す。
は、水素原子または下記式(IA)で表される架橋基を示す。但し、一分子中において、少なくとも1つのAは下記式(IA)で表される架橋基である。
は、下記式(IE−1)または(IE−2)で表される基を示す。
一分子中に存在する、複数の、R〜R、AおよびEは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
−G−J (IA)
{式(IA)中、Gは、−O−基、−C(=O)−基、または置換基を有していてもよい−CH−基から選ばれる基を1〜30個連結してなる2価の基を示す。Jは、架橋基群Tの中から選ばれる一価の基を表す。
<架橋基群T>
【化2】

(式J−1、J−3〜J−5中、R〜Rは、各々独立に、水素原子またはアルキル基を示す。式J−7において、Arは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を示す。但し、式J−1の基は、カルボニル基に直接連結されることはない。)}
−O−R (IE−1)
−Ar (IE−2)
{式(IE−1)中、Rは1価の基を示す。式(IE−2)中、Arは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を示す。}]
【請求項2】
nが2〜4の整数のとき、Zが、各々独立に、直接結合、エーテル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基であることを特徴とする請求項1に記載の正孔輸送材料。
【請求項3】
nが1または2であることを特徴とする請求項1または2に記載の正孔輸送材料。
【請求項4】
一分子内における架橋基の数が、1、2または3であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の正孔輸送材料。
【請求項5】
が下記式(IE)で表されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の正孔輸送材料。
【化3】

(式(IE)中、Qは直接結合または酸素原子を示す。R10〜R15は、各々独立に、水素原子、連結基Zへの直接結合または1価の基を示す。)
【請求項6】
一分子内に、ビフェニル骨格を有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の正孔輸送材料。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の正孔輸送材料と溶剤とを含有することを特徴とする有機電界発光素子用組成物。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の正孔輸送材料を重合させて得られる高分子化合物。
【請求項9】
基板上に、陽極、陰極、およびこれら両極間に設けられた有機発光層を有する有機電界発光素子において、請求項8に記載の高分子化合物を含有する層を有することを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項10】
有機発光層が、湿式成膜法で形成されることを特徴とする請求項9に記載の有機電界発光素子。
【請求項11】
高分子化合物を含有する層が、正孔輸送層であることを特徴とする請求項9または10に記載の有機電界発光素子。

【図1】
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【公開番号】特開2008−218983(P2008−218983A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−7068(P2008−7068)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】