説明

歪Si基板の製造方法

【課題】本発明は、歪Si基板の製造方法において、表面ラフネス、貫通転位密度、およびパーティクルレベルの低い歪Si基板の製造方法を提供することを目的としている。
【解決手段】本発明では、少なくとも、シリコン単結晶基板上に格子緩和したSiGe層を形成し、該SiGe層の表面をCMPにより平坦化し、該平坦化したSiGe層の表面上に歪Si層を形成する歪Si基板の製造方法において、前記平坦化した格子緩和SiGe層の表面上に歪Si層を形成させる前に該SiGe層の表面をSC1洗浄し、前記SC1洗浄後のSiGe層を有する前記基板を800℃以上の水素含有雰囲気中で熱処理し、該熱処理後800℃より低温に降温することなく直ちに前記熱処理をした基板上のSiGe層表面に保護Si層を形成し、該保護Si層の形成温度より低い温度で該保護Si層の表面上に歪Si層を形成することを特徴とする歪Si基板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速MOSFETに用いられるバルク型あるいはSOI型歪Si基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Si基板上にGe濃度が厚さとともに増加するSiGe濃度傾斜層を形成し、その上にGe濃度が一定であるSiGe濃度一定層を形成し、さらにその上にSi層を形成したバルク型歪Si基板では、Siより格子定数の大きいSiGe層上にSi層を形成させるため、Si層の格子定数が引き伸ばされ(引っ張り歪みが生じ)、歪みが発生する。このように、デバイス形成領域のSi層の格子定数が引き伸ばされると、電子および正孔の移動度が向上し、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor;MOS電界効果トランジスタ)の高性能化に寄与することが知られている。
しかしながら、歪Si基板では、Si基板とその表面上に積層されるSiGe層との格子定数の違いにより、SiGe層には転位が発生し、またその表面には凹凸(クロスハッチパターン)が発生してしまうため、現時点では満足のいく品質の歪Si基板は得られていない。
【0003】
こうした問題の改善策として、SiGe濃度傾斜層の形成途中に、少なくとも一度、表面の凹凸をCMP(Chemical Mechanical Polishing;化学的機械研磨)等によって平坦化することで、貫通転位密度および表面ラフネスを向上させる方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、SiGe層形成後、その表面の凹凸にCMPを行い、研磨後SC1洗浄することで、その後のSiGe層上に形成される歪Si層の貫通転位を抑え、かつ表面ラフネスも小さくする方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
しかし、上記特許文献1および上記特許文献2のいずれの方法においても、SiGe層表面に歪Siをエピタキシャル成長(以下エピ成長と呼ぶ)させる際に、自然酸化膜の除去工程および歪Siエピ成長工程の時の熱処理の過程で、表面ラフネスの悪化、および貫通転位密度の増加を誘発してしまうため、品質の高い歪Si基板を得るには不十分である。
このため、SiGe層表面への歪Siエピ成長はできるだけ低温成長させるのが好ましく、また特にSiGe表面の自然酸化膜除去工程では、歪Siエピ成長させる際に最も高温を要するプロセスであり、いかに低温化するかが鍵である。
【0005】
この低温化のために従来一般的に行われている手法は、SiGe層形成後のウェーハ洗浄の最終段にHF洗浄を行って自然酸化膜を除去した後、出来るだけ素早く歪Siエピ成長を行うことである。すなわち、自然酸化膜の形成を薄くすることができれば、低温でも自然酸化膜を除去することができ、SiGe層表面のラフネスの悪化を抑えて歪Siエピ成長を行うことが可能である。
【0006】
しかし、最終段にHF洗浄を有するプロセスは、パーティクルが付着しやすいという根本的な欠点を有しているため、結果としてパーティクルレベルの悪い歪Si基板ができてしまう。
【0007】
上記問題に対して、特許文献3には、SiGe層形成後、その表面をHF+HNO系エッチャントを用いたエッチングによりSiGe層の厚さを所望の厚さまで薄くし、その表面をSC2洗浄することで表面上に保護酸化膜を形成させ、当該保護酸化膜を高真空下で熱処理により除去した後、SiGe層の表面上に歪Siを650℃で形成させる方法が開示されている。また、特許文献4には、SiGe層形成後、その表面に保護層(例えばSi層)を積層した後に、歪Si層をエピ成長により形成させる方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、上記特許文献3の方法では、表面に付着したパーティクルの除去が不十分であり、上記特許文献4には、洗浄工程については何ら記載がされていない。従って、両者のいずれの方法を用いても、満足のいく表面ラフネスを有し、かつパーティクルレベルの低い歪Si基板を得ることは困難である。
【0009】
【特許文献1】特表2000−513507号公報
【特許文献2】特開2002−289533号公報
【特許文献3】特開2001−148473号公報
【特許文献4】特開2003−31495号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、歪Si基板の製造方法において、表面ラフネス、貫通転位密度、およびパーティクルレベルの低い歪Si基板の製造方法を提供することを目的としている。
また、該歪Si基板を用いた高品質のSOI型歪Si(SSOI:Strained Silicon On Insulator)基板の製造方法を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため、本発明では、少なくとも、シリコン単結晶基板上に格子緩和したSiGe層を形成し、該SiGe層の表面をCMPにより平坦化し、該平坦化したSiGe層の表面上に歪Si層を形成する歪Si基板の製造方法において、前記平坦化した格子緩和SiGe層の表面上に歪Si層を形成させる前に該SiGe層の表面をSC1洗浄し、前記SC1洗浄後のSiGe層を有する前記基板を800℃以上の水素含有雰囲気中で熱処理し、該熱処理後800℃より低温に降温することなく直ちに前記熱処理をした基板上のSiGe層表面に保護Si層を形成し、該保護Si層の形成温度より低い温度で該保護Si層の表面上に歪Si層を形成することを特徴とする歪Si基板の製造方法を提供する(請求項1)。
【0012】
このように、シリコン単結晶基板上に格子緩和したSiGe層を形成し、その表面上に歪Siをエピ成長させる前に該SiGe層の表面をCMPにより平坦化することで、格子緩和SiGe層の表面のクロスハッチや転位等を解消することができる。その後、SC1洗浄(NHOHとHの水溶液による洗浄)することにより、CMPで使用した研磨剤や表面に付着したパーティクルを効率的に除去することが可能である。また、SC1洗浄を行うとSiGe層表面に自然酸化膜が形成され、この自然酸化膜は不純物等の表面への付着を防ぐ役割を果たす。そして、この自然酸化膜を800℃以上の水素含有雰囲気中(以下、単にHベークと呼ぶこともある)で除去した後、直ちにSiGe層表面上に保護Si層を800℃よりも低温に降温することなく形成させる。こうすることで、Hベークの際にSiGe層表面のラフネス(ヘイズ)の悪化を最小限とすることができる。続く歪Siエピ成長では、表面ラフネスが小さく、かつパーティクルの少ない表面上に歪Siをエピ成長させるので、良質な歪Si層を得ることができる。この時、歪Siエピ成長の際の温度を保護Si層形成温度よりも低い温度とするのは、温度が低い方が、歪Si層に含まれるGe濃度が下がるためである。
【0013】
この場合、前記格子緩和SiGe層表面のSC1洗浄後に、SC2洗浄を行うのが好ましい(請求項2)。
【0014】
このように、SC1洗浄後にSC2洗浄(HClとHの水溶液による洗浄)を行うことで、SiGe層の表面に付着した重金属等を除去することができるので、より不純物の少ない表面を得ることができる。
【0015】
この場合、前記格子緩和SiGe層表面の洗浄の際のエッチング量をトータルで3nm以下とするのが好ましい(請求項3)。
【0016】
SiGeは、Siと比べてエッチングレートが早いため、表面ラフネスが悪化しやすい。しかし、SiGe層の表面を洗浄する際にエッチングされるSiGe層のエッチング代をトータルで3nm以下とすれば、表面ラフネスの悪化を最小限に抑えることができる。
【0017】
また、前記保護Si層の厚さを10nm以下とするのが好ましい(請求項4)。
【0018】
この保護Si層は、所定の温度まで降温し歪Siを形成するまでの間にSiGe表面のラフネス悪化を防止するためだけのものであるため、10nm以下の厚さで十分である。これ以上保護層を厚くしてしまうと、ミスフィット転位が多数形成され膜質を悪化させてしまう恐れがある。
【0019】
また、前記歪Si層形成後の表面をエッチングするのが好ましい(請求項5)。
【0020】
このように、歪Si層形成後の表面をエッチングすることで、表層部分にパイルアップしているGeを除去することができる。
【0021】
また、前記水素含有雰囲気中での熱処理後、該熱処理を行った温度と同一温度で前記熱処理後のSiGe層の表面に保護Si層を形成するのが好ましい(請求項6)。
【0022】
このように、水素含有雰囲気中での熱処理後と同一の温度で、その後の保護Si層の形成を行えば、むき出しのSiGe層の表面を露出させる時間を最小限に抑えることができる。
【0023】
さらに、請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載された製造方法によって製造された歪Si基板をボンドウェーハとして用い、ウェーハ貼り合わせ法によりSOI型の歪Si基板を製造する歪Si基板の製造方法を提供する(請求項7)。
【0024】
このように、本発明に係る製造方法で製造された歪Si基板をボンドウェーハとして利用し、ベースウェーハと貼り合せるウェーハ貼り合わせ法によりSOI型歪Si基板を作製すれば、デバイスを形成する部分である歪Si層の品質が高いので、高品質なSSOI基板が得られる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、貫通転位密度、表面ラフネス、およびパーティクルレベルの低い歪Si基板を製造することができる。
また、該歪Si基板をSOI型基板のデバイス領域(SOI層)として用いることで、高品質なSSOI基板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
従来、少なくとも格子緩和SiGe層を含む歪Si基板の製造において、表面ラフネスおよび貫通転位密度の2つのパラメータを同時に満足させるのは、両者がトレードオフ関係の傾向にあるため、両立し難かった。また、基板形成中に表面に付着するパーティクルの除去もしなければならず、上記三つの課題を解決できる効率的な方法の開発が待たれていた。
【0027】
こうした課題に対する解決策として、従来、格子緩和SiGe層の表面を研磨し、十分に平坦化することで転位および表面ラフネスについては向上が見られ、また研磨後十分に洗浄を行うことでパーティクルレベルの問題についても向上が見られることは知られていた。本発明者らは、前記方法に合わせて更に、洗浄後のSiGe層の表面に歪Siをエピ成長させる際、洗浄工程で形成された自然酸化膜を水素雰囲気中での熱処理(Hベーク)により除去する工程および該Hベーク処理後、直ちに保護Si層を形成し、歪Si層をエピ成長させる工程での条件を適切に管理することで、上記三つの課題をよりいっそう効果的に解決することを考え、鋭意実験および検討を行い、本発明を完成させるに至った。
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明するが、本発明はこれらの記載によって限定されるものではない。
図1は本発明に係る例示的な歪Si基板の製造工程を示す概略図である。
まず、主表面が十分に平坦なSi単結晶基板11を用意する。なお、Si単結晶基板11の製造方法や面方位は目的に合わせて適宜選択すればよく、特に限定されない。例えば、CZ法あるいはFZ法でSi単結晶を作製するのが一般的である。
【0029】
次いで、Si単結晶基板11の表面上に厚さに伴ってGe濃度が増加するようにSiGe濃度傾斜層12を成長させる。所望のGe濃度までSiGe濃度傾斜層12を成長させた後、Ge濃度が一定のSiGe一定濃度層13を成長させると、格子緩和したSiGe層を得ることができる。
なお、SiGe一定濃度層13の上に、その表面の面粗れを防止するためのSi層14を堆積しても良い(図1A参照)。
【0030】
SiGe一定濃度層13の表面(あるいはSi層14の表面)は、クロスハッチによる表面ラフネスが悪化しているため、その表面をCMPにより研磨し平坦化させる(図1B参照)。次いで、平坦化された基板主表面13をSC1洗浄によりCMPによる研磨の過程で発生したパーティクル等を除去する。なお、SC1洗浄では、パーティクル付着の少ない洗浄が可能であり、また、Si、SiGe共にエッチングされ、かつその表面上に自然酸化膜15が形成されるという特徴が知られている(図1C参照)。ここで、SiGeはSiよりもエッチングレートが早いため、ラフネスが悪化しやすい。ラフネス悪化を防止するためには、研磨後のSiGe層13の表面のエッチング量を3nm以下におさまるようにするのが望ましい。
なお、SiGe層のGe濃度が高くなるほどSC1によるエッチングレートは早くなるため、高濃度のGeを有するSiGe層を作製したときには注意を要する。
【0031】
次いで、上記SC1洗浄によって格子緩和SiGe一定濃度層13の表面上に形成された自然酸化膜15を、枚葉式CVD(Chemical Vapor Deposition)装置を用いて、減圧条件下、所定の温度および時間、Hベークを行い除去する。Hベークには少なくとも800℃以上が必要であり、好ましくは900℃以上で行う。
【0032】
なお、SiGe層は、高温Hベーキング処理によってもラフネスが悪化しやすいことが知られている。そのため、熱処理はなるべく短時間で行う方が良い。しかし、この工程で自然酸化膜を完全に除去しないと、結晶性の良い歪Si層を得られないので、ラフネスが悪化せず、かつ完全に自然酸化膜が除去できるような適切な時間および温度設定が必要となる。なお、後述する実施例で詳細に説明するが、自然酸化膜が表面上に残っている間は、HベークによるSiGe表面のラフネス悪化は極めて僅かであり、かつ自然酸化膜が除去された後、直ちに保護Si層16を形成すればラフネス(ヘイズ)悪化は防止できる(図1D参照)。
【0033】
また、Hベーキング処理による自然酸化膜15の除去を行った後、保護Si層16の形成をできるだけ素早く行うことも肝要であるので、保護Si層16の形成は自然酸化膜除去後800℃より低温にすることなく、好ましくはHベークとほぼ同一温度で行うのが良く、効果的である。
なお、保護Si層16の形成には、一般的に、Siソースガスとしてトリクロロシラン(TCS)、ジクロロシラン(DCS)、モノシラン(SiH)が使用される。また、この保護Si層16を形成させる意義は、主に、自然酸化膜を除去した後に所定の温度まで降温し、歪Si層17を形成するまでの間、SiGe層13の表面のラフネス悪化を防止するためだけのものであるので、10nm以下の厚さで十分である。これ以上の厚さにすると、保護Si層16内でミスフィット転位が多数形成され膜質を悪化させてしまうことがある。
【0034】
次いで、保護Si層16上に歪Siを所定の温度でエピ成長させる。この時、保護Si層16を形成しておいた場合は、650℃程度までエピ成長温度を下げてもヘイズを悪化させることなく良好に歪Si層17をエピ成長させることができる(図1E参照)。
なお、エピ成長をなるべく低温の条件で行うのは、高温となるほどSiGe層からの歪Si層へのGe拡散が著しいものとなってしまうためである。
【0035】
所望の歪Si基板を得る最終工程として、歪Si層17の表面を所定の厚さエッチング除去するのが好ましい。後述する実施例で詳細に説明するが、歪Si層17表面にはGeがパイルアップしているためである。なお、除去量は歪Si層17表面から10nm程度とするのが望ましい。
Geが歪Si層表層に堆積されたままだと、その後歪Siの歪量が低下してしまい、また歪Si層の一部をゲート酸化膜とした場合、絶縁耐圧特性が悪化してしまう。
【0036】
このように、本発明に係る歪Si基板の製造方法に従えば、SiGe層の表面をCMPにより研磨し、その後SC1洗浄し、該SC1洗浄により形成された自然酸化膜を除去するための水素含有雰囲気中での熱処理および保護層の形成と歪Si層のエピタキシャル成長の際の温度と時間を適切に管理することにより、貫通転位密度、表面ラフネス、およびパーティクルの少ない歪Si基板を複雑な工程を経ることなく、高い生産性で製造することができる。
また、前記歪Si基板の歪Si層表面を所定の厚さエッチング除去することにより、優れた特性を有する歪Si基板を得ることができる。
【0037】
また、本発明に係る歪Si基板をボンドウェーハとして用いて、ウェーハ貼り合わせ法により、例えば表面に酸化膜を形成させたシリコン単結晶基板(ベースウェーハ)と、該酸化膜を形成した面を挟んで前記歪Si層部分とを貼り合わせ、歪Si層まで研削および研磨等で薄膜化することで、高品質なSOI型歪Siウェーハを得ることも可能である。
【0038】
以下、本発明の実験例を示して更に具体的に説明するが、本発明は下記の実験例に限定されるものではない。
【0039】
CZ法で製造した面方位が{100}であるSi単結晶基板11を用意した。このSi単結晶基板11を枚様式のCVD装置内に搬送し、プロセスガスとしてジクロロシランと四塩化ゲルマニウムを用いて1000℃、80torr(約11kPa)の条件で以下のようにSiGe層のエピタキシャル成長を行った。すなわち、ジクロロシランの供給量は200sccmで一定とし、四塩化ゲルマニウムの供給量を0g/min〜0.6g/minまで増加させてGe濃度が0%から21%に至るまで徐々に増加するSiGe濃度傾斜層12を2μm成長させ、その上に、ジクロロシラン、四塩化ゲルマニウムの供給量をそれぞれ200sccm、0.6g/minとしてGe濃度が21%で一定である格子緩和SiGe濃度一定層13を2μm成長させた。なお、SiGe濃度一定層13の表面はクロスハッチ等が存在し、表面ラフネスは悪かった(図1A参照)。
【0040】
このSiGe濃度一定層13を、研磨代約100nmとしてCMPを行った(図1B参照)。研磨後のSiGe濃度一定層13の表面の平坦性は、RMS粗さが0.13nm(測定領域30μm×30μm)となった。また、この半導体基板について、SiGe濃度一定層13の表面全域のヘイズをパーティクル測定器によって測定し、良好であることを確認した。
【0041】
以下に記載する実験例では、このGe濃度21%のSiGe一定濃度層13を積層し、CMP処理まで行った基板を用いている。
【0042】
(実験例1)
上記CMP後の半導体基板に対し、ウェーハ表面の洗浄のラストをHF仕上げとする場合と、SC1仕上げとする場合とで比較を行った(図2参照)。
【0043】
1)上記半導体基板に対し、76℃、(NHOH:H:HO)=1:1:5の混合液(SC1)洗浄+DHF(5%)洗浄+スピン乾燥した後、ウェーハ表面をパーティクル測定器(KLAテンコール社製 SP1)のDark Field Wideモードでパーティクルレベルを測定した(図2左図参照)。
2)上記半導体基板に対し、76℃、NHOH:H:HO)=1:1:5の混合液(SC1)洗浄+スピン乾燥した後、ウェーハ表面をパーティクル測定器(SP1)のDark Field Wideモードでパーティクルレベルを測定した(図2右図参照)。
【0044】
図2を見ても明らかなように、ウェーハの洗浄のラストをHFで仕上げると、パーティクルが非常に付着しやすくなる。
【0045】
(実験例2)
ウェーハのラスト洗浄を上記実験例1の条件でSC1洗浄を行った上記CMP後の半導体基板(図1C)に対し、SC1洗浄によって形成された自然酸化膜15除去のため、枚葉式CVD装置を用い、減圧条件下で下記の温度および時間、Hベークを行う際の最適条件を検討した。
【0046】
80torr(約11kPa)の減圧条件下で、650℃からHベーク温度として(900、950、1000℃)のそれぞれの温度まで昇温し、それぞれの温度に対し、それぞれの一定時間(0、30、60秒)で処理した後、DCS(100sccm)を用いて30秒、Hベークの時と同一温度で反応させ、保護Si層16を形成させた後、パーティクル測定器(SP1)のヘイズマップを観察した(図3B,C参照)。
ただし、900℃の条件においては、60秒間Hベーク処理を行っても、自然酸化膜15は除去されなかったため、0および30秒の時の図は省略してある。また、950℃の条件においては、30秒のHベーク処理でほぼ完全に自然酸化膜15が除去できたため、60秒の時の図は省略した。
なお、比較対象として、SC1洗浄後(Hベーク前)のヘイズレベルを図3Aに示した。
【0047】
本実験例2によれば、SC1洗浄により形成された自然酸化膜15は、900℃以下のHベーク処理では除去するのに相当の時間を要することが判った。また、950℃、0秒の条件では、自然酸化膜は部分的に残ってしまっているが、同様の温度で30秒処理すれば、ほぼ完全に自然酸化膜は除去できている。また、1000℃においては、昇温途中に自然酸化膜は完全に除去されることが確認された。それゆえ、0秒の処理時間で(すなわち、650℃から1000℃に達するまでの昇温工程のみで)完全に自然酸化膜は除去できている。従って、1000℃、30および60秒の条件では、すでに自然酸化膜が除去され、SiGe層がむき出しの状態のところに熱処理を行い続けたため、図3Cに示されているように、ヘイズレベルは処理時間に応じて悪化した。
なお、図3C上の矢印は、自然酸化膜の残っている部分を示している。
なお、DHFをラスト洗浄とした場合には、810℃のHベークで自然酸化膜除去が可能であった。
【0048】
従って、自然酸化膜15を除去するためのHベーク工程では、950℃、30秒で行うか、1000℃、0秒で行うのが好ましいことが判った。
以下に示す実施例及び比較例では、Hベークを1000℃、0秒に設定し、保護Si層16の形成の有無と、歪Siのエピ成長の際の温度とウェーハ表面のヘイズレベルとの関係を調べた(図4参照)。
【実施例】
【0049】
(実施例1、2、比較例1、2)
図4C中の、実施例1、2は、Hベーク直後に保護Si層16を5nm形成させた後、800℃あるいは650℃の歪Si成長温度まで降温させ、歪Si層17を70nmエピ成長させたものである。比較例1、2は、Hベーク終了後、H雰囲気のまま、800℃あるいは650℃の歪Si成長温度まで降温させた後、歪Si層17を70nm成長させ、それぞれの条件におけるヘイズレベルを測定したものである。
なお、リファレンスとして、図4AにHベーク前のウェーハの表面のヘイズレベル(0.19ppm)を示す。なお、図4Bは、上記反応のレシピを示したものであり、650℃でCVD装置に投入し、水素雰囲気中1000℃まで昇温した後、直ちにDCSを3秒間流して保護Si層(Si Cap)を形成し、その後、800℃または650℃に降温し、800℃ではDCSを用い、650℃ではSiHを用いて歪Si層を形成したことを示している。
【0050】
本実施例によれば、Hベーク後、保護Si層16を形成せずに800℃以下に降温した比較例1、2は、いずれの場合においてもヘイズの悪化が見られた。特に、歪Siエピ成長温度が650℃の比較例2においては、リファレンス(図4A)と比べて、1.5ppm以上ヘイズが悪化した。また、歪Siエピ成長温度が800℃の比較例1においては、そのヘイズは約1ppm程度であった。
これに対し、歪Siエピ成長前に保護Si層16を形成したものは、800℃エピ(実施例1)においても650℃エピ(実施例2)においても、いずれの場合も0.5ppm以下を維持しており、保護Si層16によってヘイズレベル悪化が著しく抑制されたことを示している。
【0051】
(実施例3)
上記実施例1、2において、保護Si層16の有効性は示されたが、歪Siをエピ成長させる際の最適な温度条件は決定できていない。そこで、本実施例では、各歪Siエピ成長温度における、本発明に係る歪Si基板内のGeの深さ方向のプロファイルを測定した。
【0052】
本実施例3では、上記実施例1、2と同様に1000℃、0秒でSiGe表面の自然酸化膜15を除去した後、保護Si層16を形成させ、(650、800、950、1000℃)のそれぞれの温度まで降温し、歪Si層17をエピ成長させた各サンプルのGeプロファイルを測定した(図5A参照)。
【0053】
上記プロファイルで得られた結果は以下の通りである。
歪Si層17中のGe濃度は、歪Siエピ成長温度が高ければ高いほど高くなる傾向があり、800℃以下であれば1×1018/cm未満に抑えることができた。これに対して、950℃および1000℃の条件では、いずれの場合もGe濃度は1018/cm以上であった(図5B参照)。また、歪Si層17表面には、Geがパイルアップされていることも確認された(図5A参照)。尚、歪Si層17表面のヘイズレベルはいずれも0.5ppm以下で良好であった。
【0054】
このため、本実施例3と上記実施例1、2との結果から、歪Siエピ成長は出来るだけ低温で成長させた方が良く、特には650℃で実施するのが適当であることが判った。また、表面にパイルアップされたGeはエッチング除去すれば、デバイス特性を劣化させない。図5Aから10nmも除去すれば十分である。
【0055】
以上、実験例1、2及び実施例1〜3、比較例1、2において得られた結果から、シリコン単結晶基板上に、格子緩和SiGe層を積層し、該SiGe層表面をCMPにより平坦化後、SC1洗浄することでパーティクルレベルの低いウェーハ表面が得られることが判った。次いで、該SC1洗浄の際に形成された自然酸化膜を、水素含有雰囲気中950℃、30秒の条件あるいは1000℃、0秒の条件での熱処理により除去し、熱処理時と同一温度で直ちに保護Si層を形成させ、該保護Si層上に歪Si層を650℃まで降温してエピ成長させれば、貫通転位密度、ヘイズレベル(表面ラフネス)およびパーティクルレベルの低い高品質な歪Si基板が得られることが示された。
【0056】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。上記実施の形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するいかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る歪Si基板の製造工程の一例を説明するための概略図である。
【図2】HF洗浄およびSC1洗浄後のウェーハ表面上のパーティクルの付着を示した図である。
【図3】Aは、保護Si層形成前のウェーハのヘイズレベルを示し、Bは、実施例2におけるHベーク処理の際の反応のレシピを示し、Cは、実施例2における各Hベーク条件によって自然酸化膜を除去した後のウェーハ表面のヘイズレベルを示した図である。
【図4】Aは、保護Si層形成前のウェーハのヘイズレベルを示し、Bは、実施例3における歪Siエピ成長の際の反応のレシピを示し、Cは、保護酸化膜の有無および歪Si成長時の温度の違いよるウェーハ表面のヘイズレベルを示した図である。
【図5】本発明に係る歪Si基板中のGeデプスプロファイル測定の結果を示した図である。
【符号の説明】
【0058】
11…シリコン単結晶基板、 12…SiGe濃度傾斜層(Ge濃度0%→21%)、
13…SiGe濃度一定層(Ge濃度21%)、 14…Si層、
15…自然酸化膜、 16…保護Si層、 17…歪Si層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、シリコン単結晶基板上に格子緩和したSiGe層を形成し、該SiGe層の表面をCMPにより平坦化し、該平坦化したSiGe層の表面上に歪Si層を形成する歪Si基板の製造方法において、前記平坦化した格子緩和SiGe層の表面上に歪Si層を形成させる前に該SiGe層の表面をSC1洗浄し、前記SC1洗浄後のSiGe層を有する前記基板を800℃以上の水素含有雰囲気中で熱処理し、該熱処理後800℃より低温に降温することなく直ちに前記熱処理をした基板上のSiGe層表面に保護Si層を形成し、該保護Si層の形成温度より低い温度で該保護Si層の表面上に歪Si層を形成することを特徴とする歪Si基板の製造方法。
【請求項2】
前記格子緩和SiGe層表面のSC1洗浄後に、SC2洗浄を行うことを特徴とする請求項1に記載された歪Si基板の製造方法。
【請求項3】
前記格子緩和SiGe層表面の洗浄の際のエッチング量をトータルで3nm以下とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の歪Si基板の製造方法。
【請求項4】
前記保護Si層の厚さを10nm以下とすることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載された歪Si基板の製造方法。
【請求項5】
前記歪Si層形成後の表面をエッチングすることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載された歪Si基板の製造方法。
【請求項6】
前記水素含有雰囲気中での熱処理後、該熱処理を行った温度と同一温度で前記熱処理後のSiGe層の表面に保護Si層を形成することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載された歪Si基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載された製造方法によって製造された歪Si基板をボンドウェーハとして用い、ウェーハ貼り合わせ法によりSOI型の歪Si基板を製造することを特徴とする歪Si基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−153545(P2008−153545A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−341799(P2006−341799)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】