説明

歯科治療椅子の枕装置

【課題】高齢者や身障者等において背中が曲がっていて前かがみの姿勢の患者を歯科治療椅子に着座させた場合に、枕支え板を如何様に変化させ、かつ、枕を枕支え板に対して如何様に変化させても枕の頭支持部が患者の頭部に届かず安定した姿勢での治療ができる歯科治療椅子を提供する。
【解決手段】昇降可能な座部と、該座部に対して起伏可能な背凭れB1と、該背凭れ背面側を上下動し背凭れの上部から突出され、着座あるいは仰臥している患者の頭部側に向かって湾曲された枕支え板6と、前記背凭れの背面内に収納され前記枕支え板を上下動させるための枕角度シリンダ5と、該枕角度シリンダを上下動させるための枕昇降シリンダ4と、前記枕支え板と枕との間に取付けられ枕支え板および枕に対して所望回転位置で固定可能とする2軸構造の枕回動装置8とから構成した歯科治療椅子の枕装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、女性や子供等の身長の低い患者や身長の高い患者および高齢者や身障者のように背中が曲がっている患者等の如何なる人であっても、診療時に頭部を正確に保持することができる歯科治療椅子の枕装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来におけるこの種の枕装置としては、本発明の出願人会社が出願した実開昭58−48231号公報に開示されている技術がある。この技術は、枕を背凭れに対して上下動させるための枕支え板が湾曲して形成されており、該枕支え板を油圧シリンダ等の駆動機構によって上昇させると枕が前記湾曲に沿って着座している患者の後頭部方向に枕を移動させ、また、下降させると枕が背凭れの上部において後傾するものである。このような構造のものにあっては、健常者であれば身長の大小に係わらず患者の頭部を最適な状態で枕で保持することが可能であった。
【特許文献1】実開昭58−48231号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、前記した公知例の技術において、高齢者や身障者等において背中が曲がっていて前かがみの姿勢の患者を歯科治療椅子に着座させた場合に、前記した枕支え板を如何様に変化させ、かつ、枕を枕支え板に対して如何様に変化させても枕の頭支持部が患者の頭部に届かず安定した姿勢での治療ができなかった。また、施術姿勢で患者を仰臥させた場合には、頭が枕に届かないため頭が浮いた状態であるため、患者に非常な苦痛と疲労を与えるといった問題があった。
【0004】
本発明は前記した問題点を解決せんとするもので、その目的とするところは、身長の大小、かつ、背中が曲がった変形姿勢の如何にかかわらず、着座状態での治療および仰臥状態での治療においても患者の頭部を保持して、安楽な状態での治療を受けさせることができる歯科治療椅子の枕装置を提供せんとするにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の歯科診療椅子の枕装置は前記した目的を達成せんとするもので、請求項1の手段は、昇降可能な座部と、該座部に対して起伏可能な背凭れと、該背凭れ背面側を上下動し背凭れの上部から突出され、着座あるいは仰臥している患者の頭部側に向かって湾曲された枕支え板と、前記背凭れの背面内に収納され前記枕支え板を上下動させるための枕角度シリンダと、該枕角度シリンダを上下動させるための枕昇降シリンダと、前記枕支え板と枕との間に取付けられ枕支え板および枕に対して所望回転位置で固定可能とする2軸構造の枕回動装置とから構成したものである。
【0006】
請求項2の手段は、前記した請求項1において、前記枕回動装置は、前記枕に取付けられた枕取付台に固定ピンを介して回動自在に取付けられ、また、前記枕支え板に固定ピンを介して回動自在に取付けられ、前記2つの固定ピンに対して回転自在に軸支された把持部材と、該把持部材の前記固定ピンに形成されたリング状に配置された多数のピン穴に対して前記把持部材に収納されたバネ付勢されたピンと、該ピンを前記バネ力に抗して前記ピン穴より後退させる把持操作板とより構成したことを特徴する。
【発明の効果】
【0007】
本発明は前記したように、湾曲した枕支え板の先端を枕角度シリンダによって患者の頭部側に向かって移動させ、該枕支え板に回転自在で、かつ、所望回転位置で固定できる2軸構造の枕回動装置の先端に枕を取付けたので、枕支え板に対して枕回動装置は所望回転位置で固定でき、かつ、枕は枕回動装置に対して所望回転位置で固定できるので、健常者の身長差の相違および背中が曲がっている高齢者等の全ての患者の座部に着座している状態および仰臥状態で診療を受ける体勢の何れにおいても確実に患者の頭部を保持でき、また、枕角度シリンダをさらに上下動させる枕昇降シリンダによって上下動するようにしたので、如何なる体形の患者であってもより確実に頭部を保持することができる等の効果を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、湾曲した枕支え板の先端を枕角度シリンダによって患者の頭部側に向かって移動させ、該枕支え板の先端に回転自在で、かつ、所望角度位置で固定される枕回動装置の先端に枕を取付けた。
【実施例1】
【0009】
以下、本発明に係る歯科治療椅子の枕装置の一実施例を図面と共に説明する。
図1は本発明の枕装置Aの要部を示し、この枕装置Aは図2、図3に示す歯科治療椅子Bの背凭れB1に装備されている。歯科治療椅子Bは、患者が着座するための座部B2と、該座部B2を昇降するための昇降手段B3と、前記座部B2の前方に取付けられ前記背凭れB1を伏倒しベッド状とした時に患者の下肢を保持する前垂れB4とより構成されている。なお、以上の構成は公知の歯科治療椅子は公知の構造である。
【0010】
次に、枕装置の詳細を図1と共に説明するに、背凭れB1の背面に取付けられている背板1に一部において角筒部2aが形成されたスライド受け板2にして、このスライド受け板2に角筒状のスライド筒3が上下動自在にガイドされている。また、前記スライド受け板2の下端にはブラケット2bが形成されており、該ブラケット2bに枕昇降シリンダ4のピストン4a側がロットピン2cによって軸支され、枕昇降シリンダ4のラム4bの先端は前記スライド筒3に軸支されると共に、該スライド筒3内に収納されている枕角度シリンダ5のピストン5a側が一体的にロットピン4cによって軸支されている。従って、枕昇降シリンダ4内に油が供給されてラム4aが突出するとスライド筒3が背凭れB1の背面において上昇し、油が排出されると下降することになる。
【0011】
前記スライド筒3の上端は背凭れB1の前面側に向かって傾斜され、後述する枕支え板6をガイドするための4つのガイドピン3を有する支え板ガイド部3aが取付けられている。枕支え板6は側面形状において湾曲されており、下端側が前記支え板ガイド部3aにガイドされ、下端が前記枕角度シリンダ5のラム5bの先端とロットピン5cによって軸支されている。なお、従って、枕角度シリンダ5に油が供給されてラム5bが突出されると枕支え板6の上端は支え板ガイド部3aから突出して背凭れB1の前面側上方に移動し、油が排出されるとスライド筒3内に戻されることになる。なお、7は前記したスライド筒3、枕昇降シリンダ4および枕角度シリンダ5を覆うためのカバーである。
【0012】
以上のように枕昇降シリンダ4のラム4bが上昇するとスライド筒3が上昇するので、枕角度シリンダ5が上昇し、この上昇した位置においてラム5bが上昇すると、枕支え板6の上端は高い位置からさらに前方に向かって突出することになる。従って、枕支え板6に後述する2関節機構8を介して取付けられる枕9は図2の状態から図3の状態に変化するので、枕9は高い位置で、かつ、前方に相当量突出することになる。
【0013】
次に、2関節機構の枕回動装置8の詳細を図4、図5と共に説明する。
81は前記枕9に一端が固定された二股状の枕取付台9aにおける前記二股部分に固定されたボルト状の固定ピンにして、この固定ピン81の頭部内側には複数個のピン挿入穴81aが形成されている。82は前記枕支え板6の上端二股部分に固定された前記固定ピン81と同じ固定ピンにして、頭部内側には複数個のピン挿入穴82aが形成されている。
【0014】
83は両端が前記固定ピン81,82に対して回転自在に軸支される軸部83aが形成された把持部材にして、該軸部83aには複数本(図示のものでは図1で示すように4本)のピン84が挿入されると共にスプリング84aによってピン挿入穴81a側に向かってバネ付勢されている。85,86は前記把持部材83に対してネジ挿通孔83bを貫通したネジ85aによって固定された把持固定操作板と固定板にして、該固定板86と把持部材83との間には移動可能にロック板87が配置され、このロック板87の両端は前記ピン84に形成された溝84bが係合されている。88は前記ロック板87にネジ87aによって一体化された把持操作板にして、該把持操作板88と前記把持固定操作板85とを操作する者が手で握ることで前記ロック板87を前記スプリング84aのバネ力に抗して図4において左方向に移動する。これにより、ピン84は同図において左方向に移動してピン挿入孔81aより抜け出るように構成されている。
【0015】
このように構成した2関節機構の枕回動装置8の動作は、図4の状態(ピン84がピン挿入孔81aに挿入されている状態、すなわち、ロック状態)において、把持固定板85と把持操作板88をスプリング84aのバネ力に抗して握ると、該把持操作板88はロック板87が移動してピン84をピン挿入孔81aより抜け出る方向に移動させる。これにより、枕支え板6に対して枕回動装置8は回転可能となり、また、枕9は枕回動装置8に対して回動可能となる。これにより、枕9は枕支え板6に対して色々の角度位置に変位することがでる。
【0016】
そして、医者やアシスタントが枕9の位置が所望の位置と判断して把持固定板85と把持操作板88とから手を離すとスプリング84aのバネ力によって把持操作板88が戻るのでピン84が固定ピン81に形成されている何れかのピン挿入穴81aに入り込みロック状態となり、枕を前記所望の位置に固定した状態で保持できることとなる。なお、ピン84を複数本としたのは、多数形成されたピン挿入穴81aの何れか1つに複数本のピン84の1つが挿入されるので、ピン挿入穴81のピッチ数よりも小さなピッチで固定できるためである。この場合、複数のピン84aのピッチは等間隔でなくずれたピッチとする必要がある。
【0017】
前記した如く構成した枕装置にあっては、歯科治療椅子B4に着座している患者が身長の低い場合には、図6に示す如く枕昇降シリンダ4のラム4bを伸長させ、かつ、枕角度シリンダ5のラム5bを収納して枕9を最下降位置まで下降させる。次いで、枕回動装置8を背凭れB1の前面側下方に回動すると共に枕9を背凭れB1の下方に垂下した状態とすることで、患者の頭部を支持することが可能となる。なお、子供のような低身長の患者の場合には、枕昇降シリンダ4のラム4bを収納することで、枕9の位置はさらに低い位置となる。
【0018】
また、高齢者や身障者等の背中が曲がっている患者の場合には、背凭れB1と患者の背中との間に大きな隙間が発生するので、図7に示す如く枕昇降シリンダ4のラム4bを突出させ、かつ、枕角度シリンダ5のラム5bを突出させて枕9を最上方位置まで上昇させる。次いで、枕回動装置8を水平方向に回動すると共に枕9を背凭れB1と略平行となる状態とすることで、患者の頭部を支持することが可能となる。
【0019】
なお、図示していないが、身長が高い患者の場合には、枕昇降シリンダ4のラム4bのみを伸長させ、あるいは、枕角度シリンダ5も伸長させると共に枕回動装置8を背凭れB1の延長上となるようにし、かつ、枕9も同様にすることで患者の頭部を支持することが可能となる。
【0020】
次に、治療等により患者を仰臥姿勢とする場合には、背凭れB1を伏倒すると共に前垂れB4を水平状態となす。この状態において、低身長者の場合には、前記した着座姿勢と同様な操作を行うことで図8に示すように患者の頭部を枕9で支持することが可能となる。また、高身長者の場合には、図9に示すように枕回動装置8を背凭れB1の上方に回動し枕9を枕回動装置8側に回動することで患者の頭部を枕9で支持することが可能となる。なお、高齢者や身障者等の背中が曲がっている患者の場合には、仰臥姿勢での治療は困難であることから、座位の状態で治療を行うのが一般的である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る歯科治療椅子の枕装置の断面図である。
【図2】枕支え板を移動した状態での枕の動きを示した側面図である。
【図3】枕支え板と枕回動装置を回動した状態での枕の動きを示した側面図である。
【図4】枕回動装置のロック状態を示す断面図である。
【図5】同上の非ロック状態を示す断面図である。
【図6】背骨が曲がっている患者の着座状態を示す側面図である。
【図7】子供等の背の低い患者の着座状態を示す側面図である。
【図8】子供等の背の低い患者の仰臥状態を示す側面図である。
【図9】背の高い患者の仰臥状態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0022】
B 歯科治療椅子
B1 背凭れ
B2 座部
4 枕昇降シリンダ
5 枕角度シリンダ
6 枕支え板
8 枕角度装置
9 枕

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降可能な座部と、
該座部に対して起伏可能な背凭れと、
該背凭れ背面側を上下動し背凭れの上部から突出され、着座あるいは仰臥している患者の頭部側に向かって湾曲された枕支え板と、
前記背凭れの背面内に収納され前記枕支え板を上下動させるための枕角度シリンダと、
該枕角度シリンダを上下動させるための枕昇降シリンダと、
前記枕支え板と枕との間に取付けられ枕支え板および枕に対して所望回転位置で固定可能とする2軸構造の枕回動装置と、
から構成したことを特徴とする歯科治療椅子の枕装置。
【請求項2】
前記枕回動装置は、前記枕に取付けられた枕取付台に固定ピンを介して回動自在に取付けられ、また、前記枕支え板に固定ピンを介して回動自在に取付けられ、前記2つの固定ピンに対して回転自在に軸支された把持部材と、該把持部材の前記固定ピンに形成されたリング状に配置された多数のピン穴に対して前記把持部材に収納されたバネ付勢されたピンと、該ピンを前記バネ力に抗して前記ピン穴より後退させる把持操作板とより構成したことを特徴する請求項1記載の歯科治療椅子の枕装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−113761(P2008−113761A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−298191(P2006−298191)
【出願日】平成18年11月1日(2006.11.1)
【出願人】(000108672)タカラベルモント株式会社 (113)
【Fターム(参考)】