説明

水不溶性色材分散体及びこの製造方法、これを用いた記録液、画像形成方法、及び画像形成装置

【課題】極めて微細な水不溶性色材の微粒子を含有し、しかもその凝集を抑制して長期にわたり安定な微粒子の分散状態を維持する分散体を提供する。また、上記の高い分散安定性を高濃度の再分散液としたきにも示し、保存安定性が高く長時間の貯蔵が可能であり、吐出性及び透明性が高い記録液を提供する。さらにまた、上記記録液を用いた、精度の高い画像形成を可能とする画像形成方法及び画像形成装置を提供する。
【解決手段】水不溶性色材の微粒子と、カチオン性基及び酸基を有する高分子分散剤と、水性媒体と、相間移動塩基又は無機塩基とを含有する水不溶性色材分散体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水不溶性色材分散体及びこの製造方法、これを用いた記録液、画像形成方法、及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、高速記録が可能であり、描画パターンの自由度が高く、記録時の騒音が少ない。また、低コストで画像記録が可能であり、さらにはカラー記録が容易である等の利点がある。そのため今日においては急速に普及しさらに発展しつつある。この記録液として従来、水溶性染料を水性媒体に溶解させた染料インクが広く用いられてきた。しかし、染料インクは印刷物の耐水性や耐候性に劣るため、これを改善しうる顔料インクが検討されている。
【0003】
ところで顔料インクは、通常水に不溶性の顔料を水性媒体に分散して得られる。そして一般的には、ブレイクダウン法により顔料の粒子が作製される。すなわち、顔料および各種界面活性剤や水溶性高分子などを分散剤として、それらを単独あるいは併用して水性溶媒に添加し、サンドミル、ビーズミル、ボールミルなどの分散機を使用して粉砕し、顔料粒子径を微細化する方法が採用されている(特許文献1、2参照)。また、着色力や耐候性の向上を考慮し顔料を固溶体化することが提案されている(特許文献3参照)。
【0004】
これに対し、液相で顔料微粒子を生成させるビルドアップ法が検討されている。たとえば、アルカリ存在下の非プロトン性有機溶媒中に、有機顔料と高分子分散剤、または分散剤として高分子化合物を溶解させた後、この溶液と水とを混合させ顔料分散液を調製する方法、またそこに用いられる所定の高分子化合物等の検討がなされている(特許文献4〜7参照)。しかしこれらの手法により作製された顔料分散液は、保存時に一次もしくは二次粒子径の増大がおきやすく、十分な保存安定性があるとは言えず、さらなる保存安定性の改良が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−57044号公報
【特許文献2】特開2006−328262号公報
【特許文献3】特開昭60−35055号公報
【特許文献4】特開2003−26972号公報
【特許文献5】特開2004−43776号公報
【特許文献6】特開2006−342316号公報
【特許文献7】特開2007−119586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、極めて微細な水不溶性色材の微粒子を含有し、しかもその凝集を抑制して長期にわたり安定な微粒子の分散状態を維持する分散体、およびこの製造方法の提供を目的とする。また本発明は、上記の高い分散安定性を高濃度の再分散液としたきにも示し、保存安定性が高く長期間の貯蔵が可能であり、吐出性及び透明性が高い記録液及びインクセットの提供を目的とする。さらにまた、本発明は、上記記録液及びインクセットを用いた印画物、精度の高い画像形成を可能とする画像形成方法及び画像形成装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の課題点に鑑み、鋭意検討を行った結果、特定のカチオン性基と酸基とを有する高分子分散剤と相間移動塩基または無機塩基とを水不溶性色材の微粒子と共存させ、該微粒子がナノメートルサイズの極めて微細な状態であっても2次凝集を起こしにくい良好な分散性と長期間にわたる保存安定性を両立できることを見出した。この知見に基づき本発明はなされたものであり、すなわち上記の課題は以下の手段により達成される。
【0008】
(1)水不溶性色材の微粒子と、カチオン性基及び酸基を有する高分子分散剤と、水性媒体と、相間移動塩基とを含有することを特徴とする水不溶性色材分散体。
(2)前記相間移動塩基が下記一般式(I)または(II)で表される塩基であることを特徴とする(1)に記載の水不溶性色材分散体。
【化1】

(式中、R〜Rは、炭素原子数1〜10のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、またはアルキルアリール基である。kは1〜4の整数である。)
(3)前記高分子分散剤の前記カチオン性基を含む繰り返し単位が下記一般式(1)または(2)で表されることを特徴とする(1)または(2)に記載の水不溶性色材分散体。
【化2】

(一般式(1)において、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子または置換基を表す。Xは窒素上のカチオン電荷と釣り合うアニオン基を表す。Rは水素原子または置換基を表す。Jは−CO−、−COO−、−CONR10−、−OCO−、メチレン基、フェニレン基、または−CCO−基を表す。R10は水素原子、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。Wは単結合または2価の連結基を表す。)
(一般式(2)において、Rは、水素原子または置換基を表す。Qは、炭素原子および窒素原子とともに不飽和の環を形成するのに必要な原子群を表す。R、J、およびWはそれぞれ一般式(1)におけるR、J、およびWと同じ意味を表す。)
(4)前記高分子分散剤が一般式(3)または(4)で表される繰り返し単位を有する化合物であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の水不溶性色材分散体。
【化3】

(一般式(3)において、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子または置換基を表す。Xは窒素上のカチオン電荷と釣り合うアニオン基を表す。Rは水素原子または置換基を表す。Jは−CO−、−COO−、−CONR10−、−OCO−、メチレン基、フェニレン基、または−CCO−基を表す。R10は水素原子、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。Wは単結合または2価の連結基を表す。R103は水素原子または置換基を表す。mおよびnは繰り返し単位の質量組成比を表す。)
(一般式(4)において、Rは、水素原子または置換基を表す。Qは、炭素原子および窒素原子とともに不飽和の環を形成するのに必要な原子群を表す。R103、R、J、W、m、およびnはそれぞれ一般式(3)におけるR103、R、J、W、m、およびnと同じ意味を表す。)
(5)前記一般式(3)が下記一般式(5)または(6)で表されることを特徴とする(4)に記載の水不溶性色材分散体。
【化4】

(一般式(5)において、R109〜R111は、置換もしくは非置換の、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。Lは、置換もしくは非置換の、アルキレン基、エーテル基、カルボニル基、ウレタン基、アミド基、アリーレン基、またはヘテロアリーレン基を表す。X、R、R103、m、およびnはそれぞれ一般式(3)におけるX、R、R103、m、およびnと同じ意味である。)
(一般式(6)において、Yは、酸素原子、硫黄原子、NR113を表し、R113は水素原子、置換または非置換の、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、またはヘテロアリール基を表す。R103、R109〜R111、L、X、m、およびnはそれぞれ一般式(5)におけるR103、R109〜R111、L、X、m、およびnと同じ意味である。)
(6)前記高分子分散剤が、下記一般式(7)、一般式(8)、または一般式(9)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の水不溶性色材分散体。
【化5】

(一般式(7)中、R101〜R103はそれぞれ水素原子またはメチル基を表す。R104〜R108は、水素原子、置換もしくは非置換の、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、チオアルコキシ基、エステル基、アミド基、ケトン基、シアノ基、アリール基、またはヘテロアリール基を表す。このときR104〜R108は互いに結合して環を形成してもよい。R109〜R111は、置換もしくは非置換の、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。l、m、及びnはそれぞれ繰り返し単位の質量組成比を表し、l+m+n=100となる。Xは窒素上のカチオン電荷と釣り合うアニオン基を表す。Lは、置換もしくは非置換の、アルキレン基、エーテル基、カルボニル基、ウレタン基、アミド基、アリーレン基、またはヘテロアリーレン基を表す。)
(一般式(8)中、R101〜R111、X、及びLは一般式(7)と同じ意味である。Yは、酸素原子、硫黄原子、NR113を表し、R113は水素原子、置換または非置換の、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、またはヘテロアリール基を表す。)
(一般式(9)中、R101〜R108、L、およびXは一般式(7)と同じ意味である。Yは一般式(8)と同じ意味である。R112は、置換もしくは非置換の、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。)
(7)前記高分子分散剤のカチオン性基として第四級アンモニウム基を有することを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載の水不溶性色材分散体。
(8)前記相間移動塩基に代え、あるいはこれと同時に無機塩基を含有することを特徴とする(1)〜(7)のいずれか1項に記載の水不溶性色材分散体。
(9)(1)〜(8)のいずれか1項に記載の水不溶性色材分散体を製造する方法であって、
有機溶剤に、水不溶性色材と、相間移動塩基または無機塩基と、カチオン性基及び酸基を有する高分子分散剤とを共溶解させる工程、及び
その溶解液を水性媒体と混合し、前記水不溶性色材の微粒子を生成させる工程を有することを特徴とする水不溶性色材分散体の製造方法。
(10)(9)に記載の方法により前記水不溶性色材分散体を製造し、該水不溶性色材分散体と有機酸及び/又は無機酸とを混合し、前記水不溶性色材の微粒子の凝集物を得る工程、及び
前記凝集物と、水性媒体と、有機塩基又は無機塩基とを混合し前記微粒子の凝集を解き再分散する工程を加えることを特徴とする水不溶性色材分散体の製造方法。
(11)前記水不溶性色材微粒子の動的光散乱測定による体積平均粒子径が100nm以下であることを特徴とする(1)〜(8)のいずれか1項に記載の水不溶性色材分散体。
(12)前記水不溶性色材微粒子の動的光散乱測定による体積平均粒子径が50nm以下であることを特徴とする(11)に記載の水不溶性色材分散体。
(13)前記水不溶性色材が、キナクリドン有機顔料、ジケトピロロピロール有機顔料、及びモノアゾイエロー有機顔料からなる群より選ばれる有機顔料であることを特徴とする(1)〜(8)、(11)及び(12)のいずれか1項に記載の水不溶性色材分散体。
(14)(1)〜(8)、及び(11)〜(13)のいずれか1項に記載の分散体を用いて作製される記録液であって、前記水不溶性色材を、記録液全質量の0.1〜15質量%含むことを特徴とする記録液。
(15)前記記録液がインクジェット用記録液である(14)に記載の記録液。
(16)(14)又は(15)に記載の記録液を用いて記録液を媒体に付与することにより、画像を記録する工程を有することを特徴とする画像形成方法。
(17)(14)又は(15)に記載の記録液を用いて記録液を媒体に付与することにより、画像を記録させるための手段を有することを特徴とする画像形成装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明の分散体は、極めて微細な水不溶性色材の微粒子を含有するにもかかわらず、その凝集を抑制して長期にわたり安定な微粒子の分散状態を維持するという優れた作用効果を奏する。また本発明の分散体は、上記の高い分散安定性を高濃度の再分散液としたきにも持続し、これを用いたインク組成物は保存安定性が高く長時間の貯蔵が可能であり、吐出性及び透明性が高い記録液を提供することができる。さらにまた、本発明の製造方法よれば上記の優れた分散体を効率良くかつ純度良く得ることができる。また本発明の記録液、画像形成方法、及び画像形成装置は良好で精度の高い画像形成を可能とする。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の分散体は、水不溶性色材の微粒子と、カチオン性基及び酸基を有する高分子分散剤と、水性媒体と、相間移動塩基または無機塩基とを含有する。
【0011】
本発明の分散体に用いられる上記カチオン性基及び酸基を有する高分子分散剤(以下、特定の高分子分散剤と称することがある。)として、具体的には、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル等、アクリル酸、アクリル酸誘導体、メタクリル酸、メタクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、アルケニルスルホン酸、ビニルアミン、アリルアミン、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマール酸、フマール酸誘導体、酢酸ビニル、ビニルホスホン酸、ビニルピロリドン、アクリルアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、及びその誘導体等からなる群より選ばれた2つ以上の単量体(このうち少なくとも1つは酸基になる官能基を有する単量体であり、少なくとも1つはカチオン性基になる官能基を有する単量体が選ばれる。)から構成されるブロック共重合体、或いはランダム共重合体、グラフト共重合体、又はこれらの変性物、及びこれらの塩等が挙げられる。
【0012】
上記特定の高分子分散剤の酸基としては、カルボン酸基、スルホン酸基、又はリン酸基であることが好ましく、カルボン酸基又はスルホン酸基であることがより好ましく、カルボン酸基であることが特に好ましい。
【0013】
上記高分子分散剤が持つ酸価は100mgKOH/g〜300mgKOH/gであることが好ましく、140mgKOH/g〜240mgKOH/gであることがより好ましい。
【0014】
本発明の分散体に含有させる上記特定の高分子分散剤はカチオン性基を有し、このカチオン性基は、対になる有機もしくは無機アニオンと塩構造を形成してなる。ただし、分散体中で前記塩構造部が解離していてもよい。このカチオン性基は、窒素原子、硫黄原子、又はリン原子を有する基であることが好ましく、窒素原子を有する基であることがより好ましい。さらに具体的にいうと、上記カチオン性基は、アンモニウム基、ピリジニウム基、イミダゾリウム基を有する基であることが好ましく、第四級アンモニウム基、ベンズイミダゾリウム基を有する基であることがより好ましい。このとき、第四級アンモニウム基を構成する配位子としては、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基であることが好ましく、なかでも炭素原子数1〜8のアルキル基であることがより好ましい。ベンズイミダゾリウム基は置換基を有してもよく、具体的にはアルキル基、アリール基、アラルキル基、アミド基、シアノ基、ハロゲン等が好ましく挙げられ、なかでも炭素原子数1〜8のアルキル基、ベンジル基、ハロゲンであることがより好ましい。対アニオンとしては有機、無機全てのアニオン種が挙げられるが、具体的には有機カルボン酸、有機スルホン酸、有機ジスルホンアミド類、ハロゲン(塩素、臭素、ヨウ素)、無機アニオン種(テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート)等が挙げられるが、本発明はこれに限定されることなく、全てのアニオン性構造をとりうるものを使用してよい。より好ましくはハロゲン、無機アニオンであり、さらに好ましくはテトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェートである。
【0015】
更に詳しく説明すると、本発明の分散体に用いられる上記特定の高分子分散剤は親水性基部位(親水性基を有する繰り返し単位)と疎水性部位(親水性基を有する繰り返し単位)から構成されていることが好ましく、親水性モノマー成分と疎水性モノマー成分とを共重合させた共重合体を用いることが好ましい。疎水性モノマー成分のみからなる重合体である高分子分散剤を用いる場合には水不溶性色材に良好な分散安定性を付与することが困難なことがある。なお、親水性とは水に対する親和性が大きく水に溶解しやすい性質であり、疎水性とは水に対する親和性が小さく水に溶解しにくい性質である。上記特定の高分子分散剤において親水性部位の重合組成比は特に限定されないが、10〜50であることが好ましい。
【0016】
例えば、疎水性モノマー成分としては、炭素原子数8以上の長鎖アルキル基、t−ブチル基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等の疎水性ユニットを構造単位にして有するモノマー成分が挙げられる。水不溶性色材に高い分散安定性を付与する観点からはスチレンやステアリルメタクリルアミド等を疎水性モノマーとしての繰り返し単位に有するブロックセグメントが好ましいが、疎水性モノマー成分はこれに限定されない。
【0017】
また、親水性モノマー成分としては、前述した酸基(カルボン酸基、スルホン酸基、又はリン酸基が好ましい。)等の官能基を有する構造等の親水性ユニットを単位構造として含有するモノマー成分が挙げられる。具体的には、アクリル酸やメタクリル酸、或いはその無機塩や有機塩などのカルボン酸塩等が挙げられるが、親水性モノマー成分はこれに限定されるものではない。あるいは、上述したカチオン性基(アンモニウム基であることが好ましい。)等の官能基を有する構造等の親水性ユニットを単位構造として含有するモノマー成分が挙げられる。
【0018】
本発明においては、前記高分子分散剤の前記カチオン性基を含む繰り返し単位が前記一般式(1)または(2)で表されるものであることが好ましい。
一般式(1)において、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子または置換基を表す。Xは窒素上のカチオン電荷と釣り合うアニオン基を表す。Rは水素原子または置換基を表す。Jは−CO−、−COO−、−CONR10−、−OCO−、メチレン基、フェニレン基、または−CCO−基を表す。R10は水素原子、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。Wは単結合または2価の連結基を表す。
一般式(2)において、Rは、水素原子または置換基を表す。Qは、炭素原子および窒素原子とともに不飽和の環を形成するのに必要な原子群を表す。R、J、およびWはそれぞれ一般式(1)におけるR、J、およびWと同じ意味を表す。
【0019】
また、前記高分子分散剤が前記一般式(3)または(4)で表される繰り返し単位を有する化合物であることがこのましい。
一般式(3)において、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子または置換基を表す。Xは窒素上のカチオン電荷と釣り合うアニオン基を表す。Rは水素原子または置換基を表す。Jは−CO−、−COO−、−CONR10−、−OCO−、メチレン基、フェニレン基、または−CCO−基を表す。R10は水素原子、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。Wは単結合または2価の連結基を表す。R103は水素原子または置換基を表す。mおよびnは繰り返し単位の質量組成比を表す。
一般式(4)において、Rは、水素原子または置換基を表す。Qは、炭素原子および窒素原子とともに不飽和の環を形成するのに必要な原子群を表す。R103、R、J、W、m、およびnはそれぞれ一般式(3)におけるR103、R、J、W、m、およびnと同じ意味を表す。
【0020】
前記一般式(3)が下記一般式(5)または(6)で表されることがより好ましい。
一般式(5)において、R109〜R111は、置換もしくは非置換の、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。Lは、置換もしくは非置換の、アルキレン基、エーテル基、カルボニル基、ウレタン基、アミド基、アリーレン基、またはヘテロアリーレン基を表す。X、R、R103、m、およびnはそれぞれ一般式(3)におけるX、R、R103、m、およびnと同じ意味である。
一般式(6)において、Yは、酸素原子、硫黄原子、NR113を表し、R113は水素原子、置換または非置換の、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、またはヘテロアリール基を表す。R103、R109〜R111、L、X、m、およびnはそれぞれ一般式(5)におけるR103、R109〜R111、L、X、m、およびnと同じ意味である。
【0021】
本発明においては、前記高分子分散剤が、前記一般式(7)、一般式(8)、または一般式(9)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物であることが特に好ましい。
一般式(7)中、R101〜R103はそれぞれ水素原子またはメチル基を表す。R104〜R108は、水素原子、置換もしくは非置換の、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、チオアルコキシ基、エステル基、アミド基、ケトン基、シアノ基、アリール基、またはヘテロアリール基を表す。このときR104〜R108は互いに結合して環を形成してもよい。R109〜R111は、置換もしくは非置換の、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。l、m、及びnはそれぞれ繰り返し単位の質量組成比を表し、l+m+n=100となる。Xは窒素上のカチオン電荷と釣り合うアニオン基を表す。Lは、置換もしくは非置換の、アルキレン基、エーテル基、カルボニル基、ウレタン基、アミド基、アリーレン基、またはヘテロアリーレン基を表す。
一般式(8)中、R101〜R111、X、及びLは一般式(7)と同じ意味である。Yは、酸素原子、硫黄原子、NR113を表し、R113は水素原子、置換または非置換の、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、またはヘテロアリール基を表す。
一般式(9)中、R101〜R108、L、およびXは一般式(7)と同じ意味である。Yは一般式(8)と同じ意味である。R112は、置換もしくは非置換の、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。
【0022】
104〜R108は、水素原子又は置換もしくは非置換のアルキル基であることが好ましく、水素原子、メチル基、又はエチル基であることがより好ましい。
【0023】
109〜R111は、置換もしくは非置換の、アルキル基又はアラルキル基であることが好ましく、アルキル基であることがより好ましく、炭素原子数1〜8のアルキル基であることが特に好ましい。
【0024】
Yは、NR123であることが好ましく、NHであることがより好ましい。
【0025】
は、置換もしくは非置換のアルキレン基又はアリーレン基であることが好ましく、アルキレン基、アリーレン基、又はこれらの組合せがより好ましく、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、フェニレン基、−(CH)C−であることが特に好ましい。
【0026】
lは20〜60(質量組成比)であることが好ましく、30〜50(質量組成比)であることがより好ましい。mは0〜75(質量組成比)であることが好ましく、5〜45(質量組成比)であることがより好ましく、5〜25(質量組成比)であることが特に好ましい。nは10〜50(質量組成比)であることが好ましく、20〜40(質量組成比)であることがより好ましい。
【0027】
なお、上記一般式(1)〜(8)で表される繰り返し単位を有する高分子分散剤において、その末端基は特に限定されず、水素原子もしくは重合停止剤残基であってもよい。また、カチオン性基を陽イオン化した状態で示しているが、このときの対イオンは特に限定されず、例えば、Cl、Br、Iなどが挙げられる。
【0028】
上記特定の高分子分散剤を分散体に含有させる割合は特に限定されるものではないが、該高分子分散剤を水不溶性色材の分散剤として効果的に機能する量を含有させることが好ましく、具体的には水不溶性色材1質量部に対して0.05質量部以上であることが好ましく、非プロトン性有機溶剤を用いる場合には該溶剤100質量部に対して50質量部以下の範囲で用いるのが好ましい。上記特定の高分子分散剤が多すぎると該高分子分散剤を完全に溶解させるのが困難な場合があり、少なすぎると、十分な分散効果を得ることが難しい場合がある。また、上記特定の高分子分散剤は、1種類単独でまたは2種類以上を併用して用いることができる。
【0029】
上記特定の高分子分散剤の分子量は特に限定されないが質量平均分子量で5,000〜100,000であることが好ましく、10,000〜50,000であることがより好ましい。本発明において単に分子量というときには質量平均分子量を意味し、また質量平均分子量は、特に断らない限り、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(キャリア:テトラヒドロフラン)により測定されるポリスチレン換算の平均分子量である。なお本発明において「分散体」とは、所定の微粒子が分散した組成物をいい、その形態は特に限定されず、液状の組成物(分散液)、ペースト状の組成物、及び固体状の組成物を含む意味に用いる。
【0030】
上記特定の高分子分散剤の分散体中における含有形態は特に限定されず、その他の成分とは独立して含まれていても、その他の成分と集合して含まれていてもよい。すなわち本発明において「水不溶性色材の微粒子と特定の高分子分散剤とを含有する」とは、分散体中の水不溶性色材の微粒子の中に高分子分散剤が含まれていても、分散体中で微粒子とは別に高分子分散剤が共存していてもよい。したがって、上記特定の高分子分散剤の一部が微粒子に吸着し、解離平衡状態になっているような含有形態も上記概念に含まれる。このことは、上記特定の高分子分散剤以外の成分、例えば後述する相間移動塩基等についても同様であるが、相間移動塩基については、その機能上、微粒子表面に存在する形で含有されている形態が好ましい。
【0031】
次に、本発明に用いられる好ましい上記特定の高分子分散剤として、下記の例示化合物(D−1)〜(D−22)を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、化学式中、Hexはヘキシル基、Phはフェニル基、Meはメチル基、Buはブチル基をそれぞれ表す。
【0032】
【化6】

【0033】
【化7】

【0034】
【化8】

【0035】
本発明の水不溶性色材分散体に含有させる相間移動塩基として、具体的にはアルキルアンモニウム化合物、アルキルスルホニウム化合物、アルキルホスホニウム化合物が挙げられる。このアルキルアンモニウム化合物、アルキルスルホニウム化合物、アルキルホスホニウム化合物は、ClogP値が負となるものが好ましく、この値が−2未満であることがより好ましい。ここでClogP値とは、化合物の1−オクタノール中及び水中における化合物の平衡濃度間の比率を示す1−オクタノール/水分配係数Pの常用対数値をいう。このClogP値は、化合物の化学構造に基づくフラグメントアプローチ(A. Leo, Comprehensive Medical Chemistry, Vol.4; C. Hansch, P. G. Sammens, J. B. Taylor and C. A. Ramden, Eds., p.295, Pergramon Press, 1990)等によって決定され、デイライト・ケミカル・インフォメーション・システム社から入手し得る“CLOGP”プログラムで計算された値で定義可能である。
【0036】
なかでも上記相間移動塩基は上記一般式(I)又は(II)で表されるものが好ましい。式中、R〜Rは炭素原子数1〜10のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、またはアルキルアリール基であり、好ましくはメチル基、エチル基、n−プロピル基、フェニル、ベンジル基であり、より好ましくはメチル基、エチル基、あるいはn−プロピル基であることが好ましい。具体的には、アルキルアンモニウム化合物が好ましく、コリンヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、又はテトラプロピルアンモニウムヒドロキシドがより好ましい。
【0037】
本発明における相間移動塩基は、塩基部の対骨格が高い疎水性を持たないことが好ましく、各アルキル鎖の炭素原子数は3以下であることが好ましい。これは、アルキル鎖による疎水性を抑えることで、水不溶性色材分散体の保存安定性を高めることができる観点からである。またこのような相間移動塩基を用いると、通常の金属アルカリによる分散に比べ、凝集体の再分散を大幅に速めることができる。これは、水層中の相間移動塩基がその相間移動性を示すことにより、上記特定の高分子分散剤が水不溶性微粒子とともに構築する凝集層へ浸透しやすくなるためと考えられる。
【0038】
本発明において上記特定の高分子分散剤と相間移動塩基とを分散体中に併存させることにより水不溶性色材の微粒子の分散性が向上する作用機序については明らかでない点を含む。これについて推定を含めていうと、分散体中での当該特定の高分子分散剤の相間移動塩基中和物の溶解度が適度に低いため、親水部は水和しながら、疎水部が微粒子表面に疎水性相互作用により吸着でき、吸着平衡との関係で生じる上記特定の高分子分散剤の微粒子表面からの脱離が抑えられることが考えられる。あるいは、微粒子の形成時に用いる水不溶性色材の溶解液中において相間移動塩基のカチオン部と上記特定の高分子分散剤のカチオン性基との塩交換が生じうる。そのため、水不溶性色材の微粒子の生成時にその微粒子内部に上記特定の高分子分散剤が効果的に取り込まれ、該特定の高分子分散剤の微粒子表面からの脱離が抑えられること等が考えられる。
【0039】
本発明において塩基ないし塩基構造部は水を含む液中で解離したオキソニウムイオン(OH)を生じる化合物ないしそのような構造部であるが、上記塩基は液中でイオンに解離した状態で存在していてもよい。したがって、この塩基ないし塩基構造部は水溶液や水分散液といった水を含む液中で解離し、特定の陽イオンとオキソニウムイオン(陰イオン)を生ずるが、該陽イオンが検出されればオキソニウムイオンを確認しなくても、その水を含む液は上記塩基ないし塩基構造部を有するとみなされる。本発明における相間移動塩基の検出・定量方法は特に限定されないが、化合物の同定において一般に使用されるH−NMR解析法や液体クロマトグラフィーによりその構造を、中和滴定によりその量を知ることができる。
【0040】
本発明の分散体においては、上記相間移動塩基に代え又はこれと組み合わせて無機塩基を用いることも好ましい。この無機塩基としては、上記非プロトン性水溶性有機溶剤に含有させるアルカリは一般式(I)もしくは(II)で表される塩基のほか、必要に応じて、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどの無機塩基、トジアザビシクロウンデセン(DBU)、ナトリウムメトキシド、tert−ブトキシナトリウム、tert−ブトキシカリウムなどの金属アルコキシド、などの無機塩基、有機塩基を併せて用いることができる。
【0041】
上記のとおり、本発明の製造方法によれば相間移動塩基及び無機塩基のなかから適宜アプリケーション上の要求に応じて好適なものを選択して用いることができ。たとえば、分散体としたときに残留する微量の金属イオンによるデバイス中の電極等の汚染や腐食を抑制ないし防止する必要性が高い場合には、相間移動塩基を選択して用いることでこの要求に応えることができる。また、通常媒体中のイオンの除去には極めて煩雑な処理操作を要するが、本発明によれば上記のように好適な塩基を選定することで、そのような迂遠な工程を必要とせずに所望の分散体を得ることができ精密機器や精密化学製品等の製造にも対応することができる。
【0042】
前記相間移動塩基又は無機塩基の使用割合は特に限定されるものではないが、後述する分散体の調製時に用いる有機溶剤に水不溶性色材及び前記特定の高分子分散剤と共溶解させることを考慮し、相間移動塩基又は無機塩基を水不溶性色材に対するモル比で1.0〜100モル当量とすることが好ましく、1.5〜50モル当量とすることがより好ましく、2.0〜20モル当量とすることが特に好ましい。
また、水不溶性色材分散体から得られる水不溶性色材/上記特定の高分子分散剤を含有する凝集体を再分散させる際に使用する相間移動塩基又は無機塩基の量としては、該特定の高分子分散剤が持つ酸基1モル当量に対し、0.5〜10モル当量であることが好ましく、0.8〜5モル当量であることがより好ましく、0.9〜1.5モル当量であることが特に好ましい。
【0043】
本発明の分散体において水不溶性色材を構成する有機顔料としては、色相ないし構造について特に限定されるものではなく、例えば、ペリレン化合物顔料、ペリノン化合物顔料、キナクリドン化合物顔料、キナクリドンキノン化合物顔料、アントラキノン化合物顔料、アントアントロン化合物顔料、ベンズイミダゾロン化合物顔料、ジスアゾ縮合化合物顔料、ジスアゾ化合物顔料、アゾ化合物顔料、インダントロン化合物顔料、インダンスレン化合物顔料、キノフタロン化合物顔料、キノキサリンジオン化合物顔料、金属錯体アゾ化合物顔料、フタロシアニン化合物顔料、トリアリールカルボニウム化合物顔料、ジオキサジン化合物顔料、アミノアントラキノン化合物顔料、ジケトピロロピロール化合物顔料、ナフトールAS化合物顔料、チオインジゴ化合物顔料、イソインドリン化合物顔料、イソインドリノン化合物顔料、ピラントロン化合物顔料、イソビオラントロン化合物顔料、またはそれらの混合物などが挙げられる。
【0044】
更に詳しくは、例えば、C.I.ピグメントレッド179、C.I.ピグメントレッド190、C.I.ピグメントレッド224、C.I.ピグメントバイオレット29等のペリレン化合物顔料、C.I.ピグメントオレンジ43、もしくはC.I.ピグメントレッド194等のペリノン化合物顔料、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントバイオレット42、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド192、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド207、もしくはC.I.ピグメントレッド209のキナクリドン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド206、C.I.ピグメントオレンジ48、もしくはC.I.ピグメントオレンジ49等のキナクリドンキノン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー147等のアントラキノン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド168等のアントアントロン化合物顔料、C.I.ピグメントブラウン25、C.I.ピグメントバイオレット32、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー181、C.I.ピグメントオレンジ36、C.I.ピグメントオレンジ62、もしくはC.I.ピグメントレッド185等のベンズイミダゾロン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー95、C.I.ピグメントイエロー128)、C.I.ピグメントイエロー166、C.I.ピグメントオレンジ34、C.I.ピグメントオレンジ13、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントレッド144(C.I.番号20735)、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントイエロー219、C.I.ピグメントレッド220、C.I.ピグメントレッド221、C.I.ピグメントレッド242、C.I.ピグメントレッド248、C.I.ピグメントレッド262、もしくはC.I.ピグメントブラウン23等のジスアゾ縮合化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー83、もしくはC.I.ピグメントイエロー188等のジスアゾ化合物顔料、C.I.ピグメントレッド187、C.I.ピグメントレッド170、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントレッド48、C.I.ピグメントレッド53、C.I.ピグメントオレンジ64、もしくはC.I.ピグメントレッド247等のアゾ化合物顔料、C.I.ピグメントブルー60等のインダントロン化合物顔料、C.I.ピグメントブルー60等のインダンスレン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー138等のキノフタロン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー213等のキノキサリンジオン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー129、もしくはC.I.ピグメントイエロー150等の金属錯体アゾ化合物顔料、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントグリーン36、C.I.ピグメントグリーン37、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー75、もしくはC.I.ピグメントブルー15(15:1、15:6等を含む)等のフタロシアニン化合物顔料、C.I.ピグメントブルー56、もしくはC.I.ピグメントブルー61等のトリアリールカルボニウム化合物顔料、C.I.ピグメントバイオレット23、もしくはC.I.ピグメントバイオレット37等のジオキサジン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド177等のアミノアントラキノン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド254、C.I.ピグメントレッド255、C.I.ピグメントレッド264、C.I.ピグメントレッド272、C.I.ピグメントオレンジ71、もしくはC.I.ピグメントオレンジ73等のジケトピロロピロール化合物顔料、C.I.ピグメントレッド187、もしくはC.I.ピグメントレッド170等のナフトールAS化合物顔料、C.I.ピグメントレッド88等のチオインジゴ化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー139、C.I.ピグメントオレンジ66等のイソインドリン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー109、C.I.ピグメントイエロー110、もしくはC.I.ピグメントオレンジ61等のイソインドリノン化合物顔料、C.I.ピグメントオレンジ40、もしくはC.I.ピグメントレッド216等のピラントロン化合物顔料、またはC.I.ピグメントバイオレット31等のイソビオラントロン化合物顔料が挙げられる。
【0045】
なかでも水不溶性色材が、キナクリドン有機顔料、ジケトピロロピロール有機顔料、モノアゾイエロー有機顔料であることが好ましい。
【0046】
本発明の分散体において、分散体中の水不溶性色材の含有量は特に限定されず、インクとしての利用を考慮したとき例えば0.01〜30質量%であることが好ましく、1.0〜20質量%であることがより好ましく、1.1〜15%であることが特に好ましい。
【0047】
本発明における分散体は高濃度であっても分散体を低粘度に維持することができる。例えば記録液として用いる場合、高濃度であっても低濃度であれば記録液に使用できる添加剤の種類や添加量の自由度が増すため、本発明の分散体を記録液として好適に用いることができる。
【0048】
本発明の水不溶性色材分散体は、有機溶剤に、相間移動塩基(好ましくは、上記一般式(I)又は(II)で表される相間移動塩基)又は無機塩基の存在下と、水不溶性色材と、カチオン性基および酸基(好ましくは、カルボン酸基、スルホン酸基、及びリン酸基)を有する高分子分散剤とを共溶解させる工程、及び前記工程で得られた溶解液を水性媒体と混合し、前記水不溶性色材の微粒子を生成させる工程を有する本発明の製造方法により好適に製造することができる。
【0049】
本発明の製造方法に用いられる有機溶剤としては、非プロトン性有機溶媒、プロトン性有機溶媒のいかなる種類もが使用可能である。ただしアルカリ存在下で水不溶性色材および高分子分散剤を溶解させる有機溶剤としては、好ましくは非プロトン性有機溶剤であり、より好ましくはジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、スルホラン等である。また、これらは1種類単独でまたは2種類以上を併用して用いることができる。
【0050】
上記溶解液中の有機溶剤と水不溶性色材と比率は特に限定されないが、水不溶性色材をより良好な溶解状態とする際には、水不溶性色材1質量部に対して2〜500質量部の有機溶剤を用いることが好ましく、5〜100質量部を用いることがより好ましい。
【0051】
本発明の水不溶性色材分散体の製造方法においては、水不溶性色材等を溶解した溶解液と水性媒体とを混合する。本発明において、水性媒体とは、水単独または水と水に可溶な有機溶媒との混合溶媒である。このとき有機溶媒の添加は、顔料や分散剤を均一な分散状態に保つのに水のみでは不十分な場合や、塩基による凝集体分散工程の加速などに用いることが好ましい。具体的に使用できる有機溶剤としては特に限定されるものではないが、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール等の低級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール等の脂肪族ケトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルまたはモノエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルまたはモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルまたはモノエチルエーテル、N−メチルピロリドン、2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。これらは、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、水不溶性色材分散体中における水の量は99〜20質量%となるようにすることが好ましく、は95〜30質量%とすることがより好ましい。分散体中の上記の水溶性有機溶媒の量は50〜0.1質量%とすることが好ましく、は30〜0.05質量%とすることがより好ましい。
【0052】
本発明の製造方法において、上記水不溶性色材の溶解液及び/又は水性媒体に、結晶成長防止剤や紫外線吸収剤、酸化防止剤、樹脂添加物、界面活性剤などの少なくも1種を必要に応じて添加することができる。
【0053】
結晶成長防止剤としては、当該技術分野においてよく知られているフタロシアニン誘導体やキナクリドン誘導体が挙げられ、例えばフタロシアニンのフタルイミドメチル誘導体、フタロシアニンのスルホン酸誘導体、フタロシアニンのN−(ジアルキルアミノ)メチル誘導体、フタロシアニンのN−(ジアルキルアミノアルキル)スルホン酸アミド誘導体、キナクリドンのフタルイミドメチル誘導体、キナクリドンのスルホン酸誘導体、キナクリドンのN−(ジアルキルアミノ)メチル誘導体、キナクリドンのN−(ジアルキルアミノアルキル)スルホン酸アミド誘導体等が挙げられる。
【0054】
紫外線吸収剤としては、金属酸化物、アミノベンゾエート系紫外線吸収剤、サリチレート系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、シンナメート系紫外線吸収剤、ニッケルキレート系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ウロカニン酸系紫外線吸収剤およびビタミン系紫外線吸収剤等の紫外線吸収剤が挙げられる。
【0055】
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系化合物、チオアルカン酸エステル化合物、有機リン化合物、芳香族アミン等が挙げられる。
【0056】
樹脂添加物としては、アニオン変性ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、ポリウレタン、カルボキシメチルセルロース、ポリエステル、ポリアリルアミン、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアミンスルホン、ポリビニルアミン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メラミン樹脂あるいはこれらの変性物等の合成樹脂などが挙げられる。これらの結晶成長防止剤や紫外線吸収剤、樹脂添加物はいずれも1種類単独でまたは2種類以上を併用して使用することができる。
【0057】
界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステルのスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩、高級アルコールエーテルのスルホン酸塩、高級アルキルスルホンアミドのアルキルカルボン酸塩、アルキルリン酸塩などのアニオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、グリセリンのエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの非イオン性界面活性剤、また、この他にもアルキルベタインやアミドベタインなどの両性界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッソ系界面活性剤などを含めて、従来公知である界面活性剤およびその誘導体から適宜選ぶことができる。
【0058】
本発明の製造方法においては、水不溶性色材と、上記特定の高分子分散剤とを、相間移動塩基又は無機塩基の存在下で有機溶剤に共溶解した溶液を水性媒体と混合して水不溶性色材の微粒子を生成させるが、この際に使用される水の割合は、微粒子の分散安定性をより向上させ、かつ分散体の色濃度を更に良好なものとするという観点から、水不溶性色材溶液1質量部に対して0.5〜1000質量部が好ましく、1〜100質量部がより好ましい。
【0059】
本発明の製造方法においては、水不溶性色材の溶液と水性媒体とを混合する際の温度を−50℃〜100℃の範囲にすることが好ましく、−20℃〜50℃の範囲に調節することがより好ましい。混合する際の溶液の温度は生成する水不溶性色材の微粒子のサイズに大きく影響することがあり、ナノメートルオーダー微粒子の分散体を制御して得るために液温を−50℃〜100℃の範囲にすることが好ましい。また、この際に液体の流動性を確保するために混合する水に、エチレングリコ−ル、プロピレングリコ−ル、グリセリン等の公知の凝固点降下剤を加えておくことができる。
【0060】
さらに、サイズの均一性を持つナノメートルオーダーの微粒子を得るには、水不溶性色材溶液と水性媒体との混合を可能な限り速やかに行うことが好ましく、超音波振動子やフルゾーン撹拌羽、内部循環型撹拌装置、外部循環型撹拌装置、流量およびイオン濃度制御装置等の撹拌、混合、分散、晶析に使用される装置をいずれも使用することができる。また、連続して流れる水の中に混合してもよい。水不溶性色材溶液の水性媒体中への添加方法としては、通常の液体注入法をいずれも利用できるが、シリンジやニードル、チューブなどのノズルからの噴射流として水中、もしくは水上から投入するのが好ましい。なお、短時間で投入するために複数のノズルから投入することもできる。さらに、水不溶性色材微粒子の水性分散体を安定して作成するために、水不溶性色材溶液と混合する水性媒体にアルカリ及び分散剤を始めとする添加剤を加えておくことができる。
【0061】
有機溶剤に溶解した顔料等の水不溶性色材は、水性媒体との混合によって急速な結晶成長又はアモルファス様の凝集体を形成すると考えられるが、本発明においては水不溶性色材と前記酸基を有する高分子分散剤とが共溶解した溶液中で共存し、該溶液と水性媒体との混合工程中およびその直後に、生成した微粒子が分散安定性を損なわない。またこのときに加熱処理を行い微粒子の分散体中での結晶形および凝集状態の調整を行うことができる。
【0062】
本発明の水性水不溶性色材分散体は、そのままで、あるいは必要に応じて色材濃度を調整することによって種々の用途、例えばインクジェット用のインクに用いることができる。ところで、水性分散液が、インクジェット用のインクに適用するには、色材濃度が薄い場合がある。該分散液の分散媒の濃縮等により濃度を上昇させることはできるものの、工業的には実用的でない。これに対し、本発明の分散体は先ず水不溶性微粒子を粉末ないしペーストにして取り出したのち、水に対する分散性を付与し、この水不溶性色材の微粒子を水性媒体に効率的に再分散させることができる。そのため、所望の色材濃度を有する水性分散体を効率よく調製することができる。
【0063】
本発明の製造方法においては、前述の工程で得られた水性水不溶性色材分散体を用い、さらに該分散体に含まれる水不溶性色材の微粒子の凝集体を形成することが好ましい。
本発明において、「水不溶性色材の微粒子」というとき、水不溶性色材のみからなる微粒のほか、水不溶性色材とその他の成分とがなす微粒子が含まれる。例えば、水不溶性色材及び/又はその他の化合物が粒子の核をなし、そこに前記分散剤(高分子分散剤、界面活性剤等)が被覆するように吸着して微粒子をなしていてもよい。本発明の分散体においては、なかでも、水不溶性色材の微粒子に上記特定の高分子分散剤が被覆吸着した状態ないし特定の高分子分散剤の少なくとも一部が微粒子内部に取り込まれた状態で両者が分散体中に含まれていることが好ましい。この被覆吸着状態は、例えば、X線結晶構造解析(XRD)や、固体NMR法による粒子構造解析により確認することができる。
【0064】
上記水不溶性色材の微粒子の凝集体の形成には、有機酸/無機酸の添加による処理が好ましく用いられる。酸を用いた処理は、好ましくは、水不溶性色材の微粒子を酸で凝集させてこれを溶剤(分散媒)と分離し、濃縮、脱溶剤および脱塩(脱酸)を行う工程を含む。系を酸性にすることで酸性の親水性部分による静電反発力を低下させ、水不溶性色材微粒子を凝集させる。一般に顔料の分散液を酸で凝集物とし、その後にアルカリ処理を行っても、顔料微粒子が再分散されにくく一次粒子径の増大が観察されることがある。これに対し、本発明の分散体の製法によれば、顔料等の水不溶性色材の微粒子の水性分散体を調製し、これを酸で凝集物とし微粒子を再分散したとき、一次粒子径の増大を大幅に低減することができる。
【0065】
本発明において、得られた水不溶性色材分散体に対しては、加熱処理を施すことが可能である。これにより水不溶性色材の結晶性が良くなり、該分散体から得られたインクを用いた画像の耐候性が高められることがある。また加熱処理によって濾過性が大きく改善される場合があり有用なプロセスと言える。該加熱処理の温度は40〜100℃が好ましく、40〜80℃がより好ましく、50〜80℃であることが最も好ましい。加熱時間は10分〜3日間であることが好ましく、1時間から1日行うことが好ましく、さらに好ましくは2〜12時間である。
【0066】
水不溶性色材の微粒子の凝集に用いる酸としては、沈殿し難い微粒子となっている水性分散体中の顔料含有粒子を凝集させてスラリー、ペースト、粉状、粒状、ケーキ状(塊状)、シート状、短繊維状、フレーク状などにして、通常の分離法によって効率よく溶剤と分離できる状態にするものであることが好ましい。さらに好ましくは、水不溶性色材の溶解工程において用いたアルカリを溶剤と同時に分離するために、用いた相間移動塩基等のアルカリと水溶性の塩を形成する酸を利用するのがよく、酸自体も水への溶解度が高いものが好ましい。また脱塩を効率よく行うために、加える酸の量は微粒子が凝集する範囲でできるだけ少ない方がよい。具体的には塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、リン酸、トリフルオロ酢酸、ジクロロ酢酸、メタンスルホン酸などが挙げられるが、塩酸、酢酸および硫酸が特に好ましい。酸によって容易に分離可能な状態にされた水不溶性色材の微粒子の水性分散体は遠心分離装置や濾過装置またはスラリー固液分離装置などで容易に分離することが出できる。この際、希釈水の添加、またはデカンテーションおよび水洗の回数を増やすことで脱塩、脱溶剤の程度を調節することができる。
【0067】
さらに、水不溶性色材凝集体を得る工程では、有機溶剤の添加によりろ過性が改善可能であり有用なプロセスである。好ましい溶媒としては非プロトン性有機溶媒、プロトン性有機溶媒のいかなる種類もが使用可能であり、具体的には酢酸エチル、乳酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、メタノールエタノール、イソプロパノール等の極性溶媒が好ましい。量も特に限定されないが、水不溶性色材分散体100質量部に対し1〜100質量部が好ましく、5〜50質量部の範囲で用いるのがより好ましい。
【0068】
このようにして得られた凝集体は、含水率の高いペーストやスラリーのままで用いることもできるが、必要に応じてスプレードライ法、遠心分離乾燥法、濾過乾燥法または凍結乾燥法などのような、乾燥法により、微粉末として用いることもできる。
【0069】
本発明の製造方法においては、その好ましい実施態様として、水性分散体から調製した凝集体に水性媒体を添加し、微粒子を再分散性することが好ましく、このときアルカリ処理することがより好ましい。すなわち、アルカリ処理を含むこの工程では、上記凝集体を得る工程で例えば酸を用いて凝集させた水不溶性色材の微粒子をアルカリで処理し、該微粒子に吸着する等して共存する前記酸基を有する高分子分散剤を中和し、水性媒体中で水不溶性色材を効果的に再分散させることができる。
【0070】
本発明の製造方法における上記好ましい実施態様においては、凝集体の形成工程においてすでに脱塩および脱溶剤が行われているため、不純物の少ない顔料等の水不溶性色材の微粒子の水性分散体のコンクベースを得ることができる。再分散工程で使用するアルカリは、酸性の親水性部分を持つ分散剤の中和剤として働き、水への溶解性が高まるものであれば、いかなるものでも使用できる。ここでの「アルカリ」とは、先に述べた「塩基」と同義である。アルカリとして、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア等や、アミノメチルプロパノール、ジメチルアミノプロパノール、ジメチルエタノールアミン、ジエチルトリアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ブチルジエタノールアミン、モルホリン等の各種有機アミン、さらには前記の相間移動塩基が挙げられる。より具体的には前記一般式(I)又は(II)で示されるアンモニウム化合物類が挙げられ、さらに好ましくはコリンヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。また、これらの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記アルカリの使用量は、凝集した粒子を水に安定に再分散できる範囲であれば特に限定されるものではないが、印刷インキやインクジェットプリンター用インクなどの用途に用いる場合は各種部材の腐食の原因になる場合があるため、pHが6〜12になる量とすることが好ましく、7〜11の範囲になる量とすることがより好ましい。
【0071】
凝集した水不溶性色材粒子を水性媒体に再分散させる上記工程においては、必要に応じて撹拌、混合、分散装置を用いることができる。特に含水率の高い水不溶性色材のペースト、スラリーを用いる際は水を加えなくてもよい。さらに、再分散の効率を高める目的、および不要となった水溶性有機溶剤または過剰なアルカリ等を除去する目的で加熱、冷却、または蒸留などを行うことができる。
【0072】
本発明の記録液は、上記本発明の分散体を用い、例えば所定の高分子分散剤、界面活性剤、水性溶剤等の各成分を混合し均一に溶解又は分散することにより調製することができる。本発明の記録液においては、前記水不溶性色材を0.1〜15質量%含有することが好ましい。また、調製したインクに過剰量のポ高分子分散剤や添加剤が含有される場合には、遠心分離や透析などの方法によって、それらを適宜除去し、インク組成物を再調製することができる。また本発明の記録液は単独で用いてもよいが、これとは別のインクと組み合わせて、本発明のインクセットとしてもよい。
【0073】
本発明の記録液は、各種印刷法、インクジェット法、電子写真法等の様々な画像形成方法および装置に使用でき、この装置を用いた画像形成方法により描画することができる。また、このインクジェット法により微細パターンを形成したり、薬物の投与を行ったりすることができる。
【0074】
本発明の記録液はインクジェット用記録液とすることが好ましく、これを用いたインクセットとすることが好ましい。また、本発明の記録液又はインクセットを用いて、記録液を媒体に付与する手段により画像が記録された印画物とすることが好ましく、前記手段が記録液の付与量もしくは濃度を調整する機能を有し、該手段により印画物の濃淡が調整された印画物とすることが好ましい。さらに上記の記録液又はインクセットは、記録液を媒体に付与することにより、画像を記録する工程を有する画像形成方法に用いることが好ましい。さらに本発明においては、上記記録液又はインクセットを用いて記録液を媒体に付与することにより、画像を記録させるための手段を有する画像形成装置とすることができる。
【0075】
上記の優れた特性を有する本発明の分散体は、インクとしたとき例えば面積比率(面積階調)により色調濃淡を表現している現行のオフセット印刷や凸版印刷等に匹敵するほどの、高濃度・高精彩な画像記録を実現しうるものである。
【0076】
〔透過型電子顕微鏡観察による平均粒径〕
本発明において、分散体に含まれる水不溶性色材は、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により、水不溶性色材溶解液と水性媒体混合時に形成された一次粒子の形状を観察し、平均粒径を以下のようにして算出することができる。水不溶性色材の微粒子を含む分散体をカーボン膜を貼り付けたCu200メッシュに希釈し、これを載せて乾燥させ、TEM(日本電子製1200EX)で10万倍で撮影した画像から粒子300個の径を測定して平均値を求める。この際、上記のように分散体を前記Cu200メッシュ上で乾燥させるため、前記分散体中に水不溶性色材が良好に分散した状態であっても、乾燥の過程で水不溶性色材粒子が見かけ上凝集してしまい、正確な粒子径が判別しにくい場合がある。このような場合には、重なっていない独立した粒子300個の径を測定して平均値を求める。また、水不溶性色材が球状でない場合は、粒子の長径(粒子の最も長い径)を測定する。
【0077】
本発明においては、その一実施態様において、水不溶性色材の粒子の平均粒径は5〜50nmである。とくに透過型電子顕微鏡観察(TEM観察)により算出した水不溶性色材の平均粒子径が、5〜50nmであることが好ましく、10〜45nmであることが好ましく、15〜40nmであることが分散体の透明性、分散体中での分散安定性、及び耐光性の両立の観点から特に好ましい。この平均粒径が小さすぎると、分散体中の安定な分散状態を長期間保つことが難しい場合があり、また良好な耐光性が得られない場合がある。一方で、大きすぎると、分散体の透明性が得られない場合がある。本発明において水不溶性色材の粒子は2種以上の顔料を含むが、顔料のみからなるものであっても、顔料以外の化合物が含まれていてもよい。このとき、2種以上の顔料の固溶体が粒子を構成していることが好ましい。ただし、粒子中に結晶構造を有する部分と結晶構造を有さない部分が混在していてもよい。また、先にも述べたように、顔料等及び/又はその他の化合物が粒子の核をなし、そこに前記分散剤(高分子分散剤、界面活性剤等)が被覆するように吸着して粒子をなしていてもよい。
【0078】
また、本発明の水不溶性色材は、樹脂微粒子や無機微粒子に含まれていてもよい。このとき、本発明の水不溶性色材の色味を損なわないため、前記樹脂微粒子及び無機微粒子は非着色成分であることが好ましい。前記樹脂微粒子及び無機微粒子の平均粒子径は6〜200nmであることが好ましく、インクジェット用記録液として用いる場合には良好な吐出安定性を得る観点から6〜150nmであることがさらに好ましく、6〜100nmであることが特に好ましい。
【0079】
〔動的光散乱法による平均粒径〕
本発明において、水不溶性色材の分散状態は動的散乱法により評価することもでき、これにより体積平均粒径を算出することができる。その原理は次のとおりである。粒径が約1nm〜5μmの範囲にある粒子は、液中で並進・回転等のブラウン運動により、その位置・方位を時々刻々と変えている。したがって、これらの粒子にレーザー光を照射し、出てくる散乱光を検出すると、ブラウン運動に依存した散乱光強度の揺らぎが観測される。この散乱光強度の時間の揺らぎを観測することで、粒子のブラウン運動の速度(拡散係数)が得られ、さらには粒子の大きさを知ることができる。
【0080】
この原理を用いて、水不溶性色材の平均粒径(以下、体積平均粒子径を平均粒径と称する)の測定を行い、その測定値がTEM観察で得られた平均粒径に近い場合には、液中の粒子が単分散していること(粒子同士が接合したり凝集したりしていないこと)を意味する。またその値が少し離れる場合、水不溶性色材の一次粒子は程度に応じた二次粒子状態(凝集状態)を形成していると捉えることができる。
すなわち、TEMによる一次粒子径観察と、動的光散乱法による二次粒子径測定により、水不溶性色材がどの程度の分散状態を形成しているかを知ることが可能である。
【0081】
本発明によれば、分散媒中の水不溶性色材に対して行った動的光散乱法による算術平均粒径が、TEM観察による平均粒径に対して近い、もしくはそれほど違わないレベルの平均粒径を示すことがわかった。すなわち、分散媒中で本発明の水不溶色材が高度の単分散状態にとして分散されていることが確認された。分散媒中の動的光散乱法による算術平均粒径は、60nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、45nm以下であることが特に好ましい。このように平均粒径の好ましい範囲は前記したTEM観察のそれとは大きくは異ならない。本発明においては、特に断らない限り、単に平均粒径というときTEMにより測定した平均粒径をいう。
【0082】
なお、分散媒中において粒子が完全に単分散していても測定誤差等により、TEM観察の平均粒径と動的光散乱法による平均粒径とに違いが生ずる場合があることを併記しておく。例えば測定時の溶液の濃度は測定装置の性能・散乱光検出方式に適していることが必要であり、光の透過量が十分に確保される濃度で行わないと誤差が発生する。またナノオーダーの粒子の測定の場合には得られる信号強度が微弱なため、ゴミや埃の影響が強く出て誤差の原因となるので、サンプルの前処理や測定環境の清浄度に気を付ける必要がある。ナノオーダーの粒子測定には、散乱光強度を稼ぐためにレーザー光源は発信出力が100mW以上のものが適する。
【0083】
本発明において分散体中に分散している水不溶性色材の粒径は、単分散であることが好ましい。単分散であることにより、粒径が大きい粒子の光散乱等の影響が軽減できるほか、例えば分散体を用いて印字、記録等で凝集体形成する際には形成する凝集体の充填形態の制御等に有利である。分散体の分散性を評価する指標としては、例えば動的光散乱法で得られる算術平均粒径において、粒子の粒径分布関数
dG=f(D)xdD(Gは粒子数、Dは一次粒径を表す)
の積分式における、全粒子数の90個数%を占める粒子の粒径(D90)と10固数%を占める粒子の粒径(D10)との差を用いることができる。本発明においては、前記D90とD10の差が45nm以下であることが好ましく、1〜30nmであることがより好ましく、1〜20nmであることが特に好ましい。なおこの方法は、前述した透過型電子顕微鏡により観察される粒子径を用いて作製する粒径分布曲線でも適用することができる。
【0084】
また、もう1つの分散性を示す指標の例としては、動的散乱法により得られる体積平均粒径(Mv)及び個数平均粒径(Mn)の比(Mv/Mn)を用いることもできる。本発明の分散体は前記Mv/Mnの値が1.5以下であることが好ましく、1.4以下であることがより好ましく、1.3以下であることがさらに好ましい。
【実施例】
【0085】
以下に実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、文中「部」及び「%」とあるのは特に示さない限り質量基準とする。また、各分散体の動的散乱法による平均粒子径はイオン交換水で希釈した後、堀場製作所のLB−500[商品名]動的光散乱測定器を用いて測定を行っている。このとき、各分散体の体積平均粒径Mvの他、個数平均粒径Mnの測定も行う。さらに、透過型電子顕微鏡(TEM)観察による平均粒径評価は、カーボン膜を貼り付けたCu200メッシュに希釈した分散体を滴下した後乾燥させ、TEM(日本電子製1200EX[商品名])で10万倍に拡大した画像から、重なっていない独立した粒子300個の長径を測定して平均値を平均粒径として算出した(以下、TEM観察により算出した平均粒径をTEM平均粒径と記述する。)。
【0086】
(実施例1)
C.I.ピグメントレッド122 13.2質量部、特定の高分子分散剤(D−1)酸価200mgKOH/g、Mw=18000) 6.6質量部、ジメチルスルホキシド 160質量部、 テトラメチルアンモニウムヒドロキシド[TMAH](Alfa Aesar社製 25%メタノール溶液)〔共溶解用塩基〕39質量部を混合し、60℃に加温後、2時間攪拌することで、前記顔料とスチレン/メタクリル酸共重合体とを共溶解し、濃青紫色の顔料溶解液を得た。なお、以下の実施例及び比較例においては、いずれも、共溶解用塩基としてTMAHを用いた。
【0087】
この顔料溶解液に超音波処理をした後、スターラーで攪拌している2000質量部のイオン交換水(氷浴により水温12℃)中に送液ポンプを用いて100ml/分の条件で速やかに注入したところ、赤みがかった顔料分散液(再沈液)1が得られた。この顔料分散液中の顔料微粒子の動的光散乱法により求めた体積平均粒径は37.4nm(TEM平均粒径:25.3nm)であり、凝集状態の進行を抑え、微細な高濃度分散液を得ることができた。2週間保存後の粒径に変化は見られず、また沈降物も見られなかった。さらに、これは速度論的に形成された緩い凝集状態であり、超音波ホモジナイザーもしくは一ヶ月の時間経時により、体積平均粒子径31.2nmまで微細化可能であった。
【0088】
次いでこの顔料分散液1を3Lフラスコに入れ、50℃に加熱し3時間攪拌した。次に室温まで冷却後、塩酸11mlを滴下してpHを3程度に調整し、顔料の分散体から顔料粒子を凝集させた。その後、さらに酢酸エチル200mlを加え2時間攪拌した後、平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、イオン交換水で2回水洗し、真空乾燥(45℃)を一日行うことで、脱塩及び脱溶剤されたPR−122(キナクリドン有機顔料)/分散剤(D−1)の凝集粉末体を得た。
【0089】
次に、この粉末体1質量部にテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(15質量%水溶液)〔再分散用塩基〕0.5質量部を加え、顔料分10%になるようイオン交換水〔再分散用水性媒体〕を加えたのち、超音波処理による再分散処理を行い、顔料分散液(再分散液)Aを得た。この顔料分散液A中の顔料微粒子の動的光散乱法による個数平均粒径は27.6nm(TEM平均粒径:25.4nm)であり、高濃度にもかかわらず微細な顔料微粒子を含有する分散液が得られた。2週間保存後の粒径に変化は見られず、また沈降物も見られなかった。
【0090】
(実施例2)
実施例1で顔料をC.I.ピグメントレッド254に変え、顔料の使用質量部は、実施例1におけるC.I.ピグメントレッド122と同モル量にした以外は同様にし、顔料分散液(再沈液)2を調製し、さらに顔料分10%の顔料分散液(再分散液)Bを得た。この顔料分散液B中の顔料微粒子の動的光散乱法による個数平均粒径は36.6nm(TEM平均粒径:29.2nm)であり、凝集状態の進行を抑え、微細な高濃度分散液を得ることが可能であった。2週間保存後の粒径に変化は見られず、また沈降物も見られなかった。
【0091】
(実施例3)
実施例1で顔料をC.I.ピグメントイエロー74に変え、顔料の使用質量部は、実施例1におけるC.I.ピグメントレッド122と同モル量にした以外は同様にし、顔料分散液(再沈液)3を調製し、さらに顔料分10%の顔料分散液(再分散液)Cを得た。この顔料分散液C中の顔料微粒子の動的光散乱法による個数平均粒径は38.5nm(TEM平均粒径:24.5nm)であり、2週間保存後の粒径に変化は見られず、また沈降物も見られなかった。
【0092】
(実施例4〜20)
実施例1〜3で用いた顔料分散液及び/又は添加する剤を下表1のように変えた以外同様にして、顔料分散液D〜Tを得た。顔料分散液試料A〜Tの再沈液の動的光散乱法による個数平均粒径及びTEM平均粒径、再分散液の動的光散乱法による個数平均粒径を、表1に示した。
【0093】
(比較例1)
C.I.ピグメントレッド122 13.2質量部、ポリビニルピロリドン(以下「PVP」という。)、和光社製、Mw=25000) 6.6質量部、ジメチルスルホキシド 160質量部、 テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(Alfa Aesar社製 25%メタノール溶液)〔共溶解用塩基〕39質量部を混合し、60℃に加温後、2時間攪拌することで、前記顔料とスチレン/メタクリル酸共重合体とを共溶解し、濃青紫色の顔料溶解液を得た。
この顔料溶解液に超音波処理をした後、スターラーで攪拌している2000質量部のイオン交換水(氷浴により水温12℃)中に送液ポンプを用いて100ml/分の条件で速やかに注入したところ、赤みがかった顔料分散液(再沈液)1cが得られた。この顔料分散液1c中の顔料微粒子の動的光散乱法により求めた体積平均粒径は189.4nm(TEM平均粒径:29.5nm)であり、一次粒子は微細なものが形成されているが、二次粒子は比較的大きく微粒子の凝集が進んだ分散体となっていた。また経時により激しく凝集が進行し、3日後には多量の沈降物が観察された。
【0094】
次いでこの顔料分散液1cを3Lフラスコに入れ、50℃に加熱し3時間攪拌した。次に室温まで冷却後、塩酸11mlを滴下してpHを3程度に調整し、顔料の分散体から顔料粒子を凝集させた。その後、さらにアセトン200mlを加え2時間攪拌した後、平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、イオン交換水で2回水洗し、真空乾燥(45℃)を一日行うことで、脱塩及び脱溶剤されたPR−122(キナクリドン有機顔料)/PVPの凝集粉末体を得た。
【0095】
次に、この粉末体1質量部に下記W−19〔再分散用界面活性剤〕0.5質量部を加え、顔料分10%になるようイオン交換水〔再分散用水性媒体〕を加えたのち、超音波処理による再分散処理を行い、顔料分散液(再分散液)Uを得た。この顔料分散液中の顔料微粒子の動的光散乱法による個数平均粒径は56.6nm(TEM平均粒径:29.4nm)であり、やや凝集状態の進んだ分散液が得られた。また2週間保存後の粒径は大きく増大し、108.2nmまで凝集が進行した。
・W−19:下記の構造を有する化合物
【0096】
【化9】

【0097】
(比較例2)
C.I.ピグメントレッド122 13.2質量部、スチレン/メタクリル酸共重合体[分散剤A](酸価180mgKOH/g、Mw=18000) 6.6質量部、ジメチルスルホキシド 160質量部、 テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(Alfa Aesar社製 25%メタノール溶液)〔共溶解用塩基〕39質量部を混合し、60℃に加温後、2時間攪拌することで、前記顔料とスチレン/メタクリル酸共重合体とを共溶解し、濃青紫色の顔料溶解液を得た。
この顔料溶解液に超音波処理をした後、スターラーで攪拌している2000質量部のイオン交換水(氷浴により水温12℃)中に送液ポンプを用いて100ml/分の条件で速やかに注入したところ、赤みがかった顔料分散液(再沈液)2cが得られた。この顔料分散液2c中の顔料微粒子の動的光散乱法により求めた体積平均粒径は145.4nm(TEM平均粒径:28.5nm)であり、一次粒子は微細なものが形成されているが、二次粒子は比較的大きく、比較的凝集状態の進んだ分散体となっていた。
【0098】
次いでこの顔料分散液2cを3Lフラスコに入れ、50℃に加熱し3時間攪拌した。次に室温まで冷却後、塩酸11mlを滴下してpHを3程度に調整し、顔料の分散体から顔料粒子を凝集させた。その後、さらに酢酸エチル200mlを加え2時間攪拌した後、平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、イオン交換水で2回水洗し、真空乾燥(45℃)を一日行うことで、脱塩及び脱溶剤されたPR−122(キナクリドン有機顔料)及びスチレン/メタクリル酸共重合体の凝集粉末体を得た。
【0099】
次に、この粉末体1質量部にテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(15質量%水溶液)〔再分散用塩基〕0.5質量部を加え、顔料分10%になるようイオン交換水〔再分散用水性媒体〕を加えたのち、超音波処理による再分散処理を行い、顔料分散液(再分散液)Vを得た。この顔料分散液の動的光散乱法による個数平均粒径は47.6nm(TEM平均粒径:27.1nm)であり、やや凝集状態の進んだ分散液が得られた。また2週間保存後の粒径は大きく増大し、79.1nmまで凝集が進行した。
【0100】
(比較例3,4)
比較例1,2において用いた顔料分散液及び/又は添加する剤を表1のように変えた以外同様にして、顔料分散液W,Xを得た。
【0101】
(実施例21、比較例5)
(インク組成物の調製)
次に顔料分散液A〜T(実施例)をそれぞれ50質量部用い、ジエチレングリコール7.5質量部、グリセリン5質量部、トリメチロールプロパン5質量部、アセチレノールEH(商品名、川研ファインケミカル社製)0.2質量部、及びイオン交換水32.3質量部と混合した後超音波処理し、インク組成物[1]〜[20]をそれぞれ得た。
【0102】
作製後一日以内の顔料分散液U〜X(比較例)をそれぞれ50質量部、ジエチレングリコール7.5質量部、グリセリン5質量部、トリメチロールプロパン5質量部、アセチレノールEH0.2質量部、イオン交換水32.3質量部を混合した後超音波処理し、インク組成物[c1]〜[c4]をそれぞれ得た。
【0103】
〔保存安定性の評価〕
得られたインク組成物[1]〜[20]、[c1]〜[c4]について、まず作成当日の動的光散乱平均粒子径を測定した。次に、該インク組成物を60℃下加熱下、一週間強制経時した後、再度動的光散乱による平均粒子径を測定した。このときの粒子径変動率(([初期の粒径]−[加熱経時後の粒径])/[初期の粒径])を表1に示す。この粒子径変動率が低ければ、保存安定性の高いインク組成物といえる。
【0104】
【表1】

【0105】
表中の略称等はそれぞれ下記を意味する。
・TMAH:テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(clogP:−4.586)
・分散剤A:スチレン/メタクリル酸共重合体(酸価180mgKOH/g、Mw=18000)
【0106】
これら表1の結果が示すように、カチオン性基を持たない分散剤を用いたものでは(比較例1〜4)、分散安定性が低く、インクとしたに二次凝集を起こしやすく、保存安定性が劣ることが分かる。
【0107】
これに対し、特定のカチオン性基と酸基との両方を有する特定の高分子分散剤と相間移動塩基又は無機塩基とを含有する本発明の顔料微粒子分散体(実施例1〜20)は、再沈液/再分散液の両方において顔料微粒子が微細化された分散液を与えることが分かる。また本発明によればインクとしたときの保存安定性も極めて高く、二次凝集をほとんど起こさないことが分かる。
なかでも実施例1(高分子分散剤D−1)と実施例5(高分子分散剤D−5)との対比により、カチオン性基を構成する第四級アンモニウム基の配位子が疎水的なものであるとき、インク中での保存安定性まで含めた分散安定性が一層高まることが分かる。これはインク化する際に疎水性溶媒が添加されることから、該疎水性部を持つことがインク液中での分散安定性の向上に寄与するものと考えられる。
また、高分子分散剤D−23(実施例15)とD−30(実施例16)との比較によれば、疎水化によるインク安定化効果はカチオン構造だけでなくアニオンを変えたときにも見られ、より疎水的なアニオンへ塩交換することでも高い安定性を得ることが可能である。
【0108】
〔吐出性の評価〕
上記作製したインク組成物のうち下表2に示したものをインクジェットプリンター(PX−G930、商品名、エプソン(株)社製)のカートリッジに詰め、インクジェットペーパー(写真用紙<光沢>、商品名、エプソン(株)社製)にベタ画像(反射濃度が1.0)を全面に印字して、白スジの発生数を計測し、下記の基準に則り吐出性の評価を行った。
【0109】
3:印字面全体で全く未印字部である白スジが発生していない
2:僅かに白スジの発生は認められるが、実用上許容範囲にある
1:印字面全体に亘り白スジが多発し、実用上不可の品質である
評価結果を表2に示す。
【0110】
[表2]
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
インク組成物 吐出性
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
[1] (実施例1) 3
[2] (実施例2) 3
[5] (実施例5) 3
[10] (実施例10) 3
[12] (実施例12) 3
[c1] (比較例1) 1
[c2] (比較例2) 2
[c4] (比較例4) 1
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【0111】
上記表4から分かるように、実施例の顔料分散液を用いて作製したインク組成物は吐出性に優れることがわかる。
【0112】
〔透明性の評価〕
インク組成物のうち下表3に示したものを厚さ60μmのポリエチレンテレフタレート(PET)シート上にバーコーターで塗工し、乾燥させた後、透明性を目視で評価した。
2:良好
1:不良
〔顔料粒子径の評価〕
TEM平均粒子径を前述の方法に従って算出した。
【0113】
各評価結果を表3に示す。
【0114】
[表3]
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
試料 TEM平均粒径[nm] 透明性
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
[1] (実施例1) 25.3 2
[2] (実施例2) 29.2 2
[5] (実施例5) 29.6 2
[10] (実施例10) 25.3 2
[12] (実施例12) 24.1 2
[c1] (比較例1) 29.5 1
[c2] (比較例2) 28.5 1
[c4] (比較例4) 26.9 1
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【0115】
表3から分かるように本発明のインク組成物を用いた印画物は高濃度であっても透明性に優れ、インク組成物として有用である。
【0116】
上記の結果より、本発明の特定のカチオン性基と酸基とを有する高分子分散剤を使用した分散体は、そこに含まれる顔料微粒子を不用意に二次凝集させることなく微細なまま維持することができる。そのため、インク化した際において吐出安定性が高く、高濃度領域でも高い透明性を持つため、色再現性の高いインク組成物を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性色材の微粒子と、カチオン性基及び酸基を有する高分子分散剤と、水性媒体と、相間移動塩基とを含有することを特徴とする水不溶性色材分散体。
【請求項2】
前記相間移動塩基が下記一般式(I)または(II)で表される塩基であることを特徴とする請求項1に記載の水不溶性色材分散体。
【化1】

(式中、R〜Rは、炭素原子数1〜10のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、またはアルキルアリール基である。kは1〜4の整数である。)
【請求項3】
前記高分子分散剤の前記カチオン性基を含む繰り返し単位が下記一般式(1)または(2)で表されることを特徴とする請求項1または2に記載の水不溶性色材分散体。
【化2】

(一般式(1)において、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子または置換基を表す。Xは窒素上のカチオン電荷と釣り合うアニオン基を表す。Rは水素原子または置換基を表す。Jは−CO−、−COO−、−CONR10−、−OCO−、メチレン基、フェニレン基、または−CCO−基を表す。R10は水素原子、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。Wは単結合または2価の連結基を表す。)
(一般式(2)において、Rは、水素原子または置換基を表す。Qは、炭素原子および窒素原子とともに不飽和の環を形成するのに必要な原子群を表す。R、J、およびWはそれぞれ一般式(1)におけるR、J、およびWと同じ意味を表す。)
【請求項4】
前記高分子分散剤が一般式(3)または(4)で表される繰り返し単位を有する化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の水不溶性色材分散体。
【化3】

(一般式(3)において、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子または置換基を表す。Xは窒素上のカチオン電荷と釣り合うアニオン基を表す。Rは水素原子または置換基を表す。Jは−CO−、−COO−、−CONR10−、−OCO−、メチレン基、フェニレン基、または−CCO−基を表す。R10は水素原子、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。Wは単結合または2価の連結基を表す。R103は水素原子または置換基を表す。mおよびnは繰り返し単位の質量組成比を表す。)
(一般式(4)において、Rは、水素原子または置換基を表す。Qは、炭素原子および窒素原子とともに不飽和の環を形成するのに必要な原子群を表す。R103、R、J、W、m、およびnはそれぞれ一般式(3)におけるR103、R、J、W、m、およびnと同じ意味を表す。)
【請求項5】
前記一般式(3)が下記一般式(5)または(6)で表されることを特徴とする請求項4に記載の水不溶性色材分散体。
【化4】

(一般式(5)において、R109〜R111は、置換もしくは非置換の、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。Lは、置換もしくは非置換の、アルキレン基、エーテル基、カルボニル基、ウレタン基、アミド基、アリーレン基、またはヘテロアリーレン基を表す。X、R、R103、m、およびnはそれぞれ一般式(3)におけるX、R、R103、m、およびnと同じ意味である。)
(一般式(6)において、Yは、酸素原子、硫黄原子、NR113を表し、R113は水素原子、置換または非置換の、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、またはヘテロアリール基を表す。R103、R109〜R111、L、X、m、およびnはそれぞれ一般式(5)におけるR103、R109〜R111、L、X、m、およびnと同じ意味である。)
【請求項6】
前記高分子分散剤が、下記一般式(7)、一般式(8)、または一般式(9)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の水不溶性色材分散体。
【化5】

(一般式(7)中、R101〜R103はそれぞれ水素原子またはメチル基を表す。R104〜R108は、水素原子、置換もしくは非置換の、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、チオアルコキシ基、エステル基、アミド基、ケトン基、シアノ基、アリール基、またはヘテロアリール基を表す。このときR104〜R108は互いに結合して環を形成してもよい。R109〜R111は、置換もしくは非置換の、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。l、m、及びnはそれぞれ繰り返し単位の質量組成比を表し、l+m+n=100となる。Xは窒素上のカチオン電荷と釣り合うアニオン基を表す。Lは、置換もしくは非置換の、アルキレン基、エーテル基、カルボニル基、ウレタン基、アミド基、アリーレン基、またはヘテロアリーレン基を表す。)
(一般式(8)中、R101〜R111、X、及びLは一般式(7)と同じ意味である。Yは、酸素原子、硫黄原子、NR113を表し、R113は水素原子、置換または非置換の、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、またはヘテロアリール基を表す。)
(一般式(9)中、R101〜R108、L、およびXは一般式(7)と同じ意味である。Yは一般式(8)と同じ意味である。R112は、置換もしくは非置換の、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。)
【請求項7】
前記高分子分散剤のカチオン性基として第四級アンモニウム基を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の水不溶性色材分散体。
【請求項8】
前記相間移動塩基に代え、あるいはこれと同時に無機塩基を含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の水不溶性色材分散体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の水不溶性色材分散体を製造する方法であって、
有機溶剤に、水不溶性色材と、相間移動塩基または無機塩基と、カチオン性基及び酸基を有する高分子分散剤とを共溶解させる工程、及び
その溶解液を水性媒体と混合し、前記水不溶性色材の微粒子を生成させる工程を有することを特徴とする水不溶性色材分散体の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法により前記水不溶性色材分散体を製造し、該水不溶性色材分散体と有機酸及び/又は無機酸とを混合し、前記水不溶性色材の微粒子の凝集物を得る工程、及び
前記凝集物と、水性媒体と、有機塩基又は無機塩基とを混合し前記微粒子の凝集を解き再分散する工程を加えることを特徴とする水不溶性色材分散体の製造方法。
【請求項11】
前記水不溶性色材微粒子の動的光散乱測定による体積平均粒子径が100nm以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の水不溶性色材分散体。
【請求項12】
前記水不溶性色材微粒子の動的光散乱測定による体積平均粒子径が50nm以下であることを特徴とする請求項11に記載の水不溶性色材分散体。
【請求項13】
前記水不溶性色材が、キナクリドン有機顔料、ジケトピロロピロール有機顔料、及びモノアゾイエロー有機顔料からなる群より選ばれる有機顔料であることを特徴とする請求項1〜8、11及び12のいずれか1項に記載の水不溶性色材分散体。
【請求項14】
請求項1〜8、及び11〜13のいずれか1項に記載の分散体を用いて作製される記録液であって、前記水不溶性色材を、記録液全質量の0.1〜15質量%含むことを特徴とする記録液。
【請求項15】
前記記録液がインクジェット用記録液である請求項14に記載の記録液。
【請求項16】
請求項14又は15に記載の記録液を用いて記録液を媒体に付与することにより、画像を記録する工程を有することを特徴とする画像形成方法。
【請求項17】
請求項14又は15に記載の記録液を用いて記録液を媒体に付与することにより、画像を記録させるための手段を有することを特徴とする画像形成装置。

【公開番号】特開2009−263626(P2009−263626A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38320(P2009−38320)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 ナノテクノロジープログラム「ナノテク・先端部材実用化研究開発」/「有機顔料ナノ結晶の新規製造プロセスの研究開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】