説明

水中映像取得装置

【課題】 超音波を用いた水中映像取得装置において、自立型無人潜水器に搭載するためには装置の小型化が必須である。また、運用時間延長のために低消費電力化、移動物体観察のために高フレームレート化、小型反射体観察のための高分解能化が、実用化への障壁となる。
【解決手段】 球状の音響レンズ、あるいは球状の音響レンズと同等な効果を発揮する音響レンズを設けることで、音響レンズのみで到来波の垂直および水平方向に分解することを可能とする。音響レンズ通過後の超音波を検出することにより、反射波の到来方向を知りイメージングが可能となる。また、小型で高分解能、広視野角な音響レンズを提供する。さらに、低消費電力かつ、高フレームレートな水中映像取得装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶や船舶曳航体、自律型無人潜水機等の移動体に搭載して、水中で超音波を対象に照射し、その反射を受信する音響レンズを具備した水中映像取得装置(ソーナー)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水中において、一般的に超音波は可視光、電磁波よりも減衰が少なく、透明度の低い水中でも伝搬する。そこで、水中における対象物の位置、寸法、および形状を認識する手法として、音響的手法による画像化技術(ソーナー)が検討されている。例えばこのような映像取得装置には、船舶や船舶に曳航される曳航体に設置し、映像取得装置の位置を移動させながら送波器から送信した超音波の反射を受波器で受信することにより2次元データを取得し、さらに時系列に処理することで3次元映像を取得する3次元イメージングソーナーがある。
【0003】
特許文献1においては、送波器に入力する電気信号の周波数を変更することによって送波ビームのステアリングを可能とする周波数掃引方式を採用した水中映像取得装置が開示されている。
【0004】
特許文献1に記載の水中映像取得装置は、目標からの反射を集束させる音響レンズを受波器の前に具備している。周波数掃引方式では、極性を交互に反転させ配列した送波器用電気音響変換素子に、送信電気回路1chで異なる周波数の送信電気信号を入力するだけで、送波ビームのステアリングが可能である。周波数掃引方式は、送信方向によって周波数が異なるため、受波器1チャンネルで受波した受信信号をフーリエ変換するだけで方位方向に分離できる方式である。
【0005】
特許文献2においては、水の濁度や照度に左右されない水中作業、水中セキュリティための監視等の濁水中や夜間においても水中視認をすることができる映像取得装置が開示されている。特許文献2に記載の映像取得装置では、受波器として1次元トランスデューサアレイを用いており、この全面に音響レンズを有している。この音響レンズにより物体からの反射波を鉛直方向に分解し、方向に対応する受波素子で受信することにより、対象物の鉛直方向の位置情報を得ることができるようになっている。すわなち、周波数掃引方式で超音波の水平方向の分解を、音響レンズで超音波の鉛直方向の分解を、受信信号を時系列に処理することにより超音波の奥行き方向の分解を行い、3次元画像を取得している。
【0006】
周波数掃引方式では、物体からの反射波が帰ってくる方向と送信周波数とが一意に関連付けられるようにする必要があるが、実際には、装置の周囲環境からランダムに入射する音波や、受波面上の他のチャンネル上から反射した異なる周波数の超音波が装置内残響として存在するため、撮像した像の特に上下方向にゴーストが現れる原因となる。特許文献3においては、周波数送信方式を採用した水中画像撮像装置において、音響画像のノイズやゴーストを低減させる技術が開示されている。
【0007】
レンズを用いた到来方向分離は一次元に限らない。到来波を垂直・水平問わず到来方向毎に分離できるレンズとして、マイクロ波アンテナ分野においてはルーネベルグレンズが知られている。非特許文献1に記載されているルーネベルグレンズは形状が球形で、屈折率がレンズの中心で最大であり、レンズの中心から外側にいくにつれて屈折率が連続的に小さくなるように設計されたものである。レンズの半径をR、レンズ中心からの距離をrとすると、屈折率分布nが、n=(2−(r/R)1/2に従うとき、このレンズに入射した平面波は、入射と反対側の球表面上に焦点を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭47−026160
【特許文献2】特開2009−204471
【特許文献3】特開2009−250734
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】The Mathematical Theory of Optics、Univ. California Press、1964
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
船舶等に備えつけられる従来のイメージングソーナーの観察対象はメートルオーダの静止物体であることが多い。この用途では、装置規模は船舶に搭載できる大きさであればよいし、消費電力は船舶とは別に準備すればよい。また、観察対象は静止しているので高フレームレートも要求されない。
【0011】
一方、自律型無人潜水機などにイメージングソーナーを搭載し、多目的用途に用いるためには、いくつか課題がある。これらには、イメージングソーナーの小型化、低消費電力化、高分解能化、高フレームレート化、広視野角化が挙げられる。
【0012】
一般的に自立型無人潜水器は船舶等よりも小型なため、それに搭載するイメージングソーナーも小型化しなければならない。
また、イメージングソーナー自体の消費電力が高ければ、自律型無人潜水機の運用時間が制限されるため、低消費電力であることは重要である。
さらに、多目的用途に用いるためには観察対象は限定できないため、静止物体だけでなく移動物体も観察するためには高フレームレートが必須である。観察対象も同様、従来よりも小さい反射体を観察できるようになるためには、高分解能化を達成しなければならない。
【0013】
これらの課題は、観察領域を従来装置より限定して小さくすれば、達成されうる。しかしながら、効率良く、かつ取りこぼしなく観察するためには、むしろ観察領域は広げなければならない。
【0014】
以上により本発明においては、自立型無人潜水器に搭載可能なほど小型で、低消費電力、高分解能、高フレームレート、広視野角なイメージングソーナーを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するため、本発明の水中映像取得装置は、水中の対象物に向けて超音波を送信する送波部と、前記対象物からの超音波の反射波が入射する入射面と、前記入射した反射波が集束する受信面とを有し、前記音波入射面及び前記音波受信面は同一の中心軸で、それぞれ曲率が一定であり、少なくとも2層以上の、音速の異なる媒質から構成された音響レンズと、前記音響レンズを通った反射波を受信する受信器と、前記受信器が受信した反射波を信号処理する信号処理部と、前記信号処理部が信号を処理した信号処理結果に基づいた音響映像を表示する表示手段とを有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、球状の音響レンズ、あるいは球状の音響レンズと同等な効果を発揮する音響レンズを設けることで、音響レンズのみで到来波の垂直および水平方向に分解することが可能となる。つまり、音響レンズ通過後の超音波を検出することにより、反射波の到来方向を知ることが可能となる。
【0017】
また、複数枚構成の複合レンズよりも小型で高分解能、広視野角な音響レンズを提供することができる。
【0018】
さらに、低消費電力かつ、高フレームレートなイメージングソーナーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例である水中映像取得装置の基本ブロック図
【図2】本発明の送波器の最適な実施例の一つ
【図3】本発明の音響レンズの基本設計概念を説明する図
【図4】均質層ルーネベルグレンズを説明する図
【図5】本発明の検出部の最適な実施例の一つ
【図6】本発明の音響レンズの効果を説明する図
【図7】本発明の音響レンズの効果を説明する図
【図8】本発明の音響レンズの効果を説明する図
【図9】本発明の音響レンズの効果を説明する図
【図10】本発明の音響レンズの効果を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせのすべてが、発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0021】
図1は本発明の最適な実施例の一つであり、本発明で実現するイメージングソーナー内部のブロック図を説明するものである。
【0022】
ソーナーには外部に超音波を送信する送信器100と、送信された音波の対象物からの反射を受信する受信器102と、反射音波を受信器102に集束させる音響レンズ101と、受信した反射波によるアナログ信号を増幅する増幅器(AMP)103と、アナログ信号からデジタル信号へ変換するA/D変換器(ADC)104と、デジタル信号を保存するメモリ部105と、デジタル信号から対象物のアジマス方位解析、レンジ方位解析、送波・受波時間差による装置−対象物間の距離解析などを行い画像生成する演算処理部106と、装置と使用者とのインターフェースを提供する操作盤107と、設定された送波信号の諸元通りに超音波信号を発生させる波形発生器108と、波形発生器108からの信号を増幅する増幅器109(AMP)と、演算処理の結果生成した画像を表示する画像表示部110を具備する。 送信器100・受信器102としてはPZT(ジルコン酸チタン酸鉛)などの圧電体に整合層およびバッキング材を付与した超音波トランスデューサを、送波器・受波器として具備する形態が一般的である。
【0023】
操作盤107は、例えばマウス、キーボードなどから構成される。使用者は、操作盤107を介して送波信号の諸元や、解析条件、画像表示条件などを設定する。
【0024】
ソーナーでの一般的な信号処理として演算処理部では、A/D変換後の信号に対して、上述の他には例えば速度補正、斜距離補正、動揺補正、包絡線検波などの処理が行われる。処理の順は任意であり、また、スキャンコンバータやバンドパスフィルタなど他の信号処理があってもよいし、これらの組み合わせであってもよい。すわなち、演算処理部は、最終的に信号処理された受信信号を時系列で切り出し、輝度で表された音響画像、音響映像を生成するという目的を達していればいかなる処理を内部で行っていても構わない。
【0025】
以下、本発明における音響レンズ101の特徴を述べるとともに、本レンズを用いた場合の効果について説明する。
【0026】
本発明における音響レンズ101の最も基本的な特徴は、回路等の信号処理を用いることなく音響レンズのみで2次元整相が可能であるということである。2次元ビームフォーミング可能な球状の一つとして、球状がある。球状音響レンズは2次元受波素子アレイと組み合わせることにより、以下のようにして音波を鉛直方向および水平方向に分割できる。まず、対象物からの反射波を球状音響レンズで集束し、レンズ形状に沿って2次元に配置した受波素子アレイで受信する。このとき、音響レンズの通過前後で、反射音波の到来方向と受波素子を1対1に対応付ける。各素子で受信した反射音波は、この対応付けを参照して、2次元映像を構成できる。また、反射音波の到達遅れ時間をソーナー観察領域の奥行きとして表現することで、鉛直、水平、奥行きの3次元映像を取得できる。
【0027】
ビームフォーミングを行うために周波数掃引方式を用いたイメージングソーナーでは、この方式に伴う特殊な送波回路や受信信号の周波数解析のための回路が必要であり、また、フェーズドアレイ方式を用いたイメージングソーナーでは、多くの遅延回路が必要である。本発明における音響レンズ101は、レンズのみで2次元整相が可能であり、周波数掃引方式やフェーズドアレイ方式に必須な回路は必要ないため、消費電力を抑えることができる。
【0028】
また、本発明における音響レンズを用いることにより、送受波器の構成を簡単にし、消費電力を低減することも可能である。
【0029】
周波数掃引方式では、送波ビームを周波数でステアリングするため、使用周波数帯域分の送信信号が必要となる。このため、送波器も受波器も使用周波数帯域をカバーすべく広帯域な特性が要求される。使用周波数帯域を送信する広帯域信号として、広帯域雑音を送波する場合、複数の周波数信号を重畳するため、送信パワーが大きくなり、送波器の許容入力パワーを超え、電子回路の規模が大きくなる。また、使用周波数帯域を送信する広帯域信号として、リニアFMを送波する場合、周波数を単調かつ連続的に増加あるいは減少させるため、送信方位が連続的に変化し、十分な送信エネルギーを確保できず、取得した音響映像が不明瞭なものとなる。さらに、周波数掃引方式を用いた送波器では、送波アレイが傾斜しているため、送信エネルギーを十分確保するためには、ある程度のパルス幅が必要になるが、パルス幅が長くなるほど距離分解能が悪くなる。
【0030】
一方本方式では、周波数掃引方式のような制限はない。送受波器は狭帯域な特性でも構わない。本発明における送波器は、図2に示すように無指向性の送波器200であっても構わず、また、パルス幅の短いパルス波201でもチャープ波でも構わないため、簡単な構成かつ低省電力で送受波器を構成できる。
【0031】
また、本発明における音響レンズは、球面、非球面レンズの組み合わせで作られる複数枚構成の複合音響レンズよりも小型化できる効果もある。
【0032】
本発明が小型化できる効果を持つ説明の詳細を以下にする。一般的に、レンズの大きさと到来方向分解には相関関係があるため、小型化にも限界がある。レンズを小さくするにつれて、回折による焦点の広がりが大きくなる。つまり、レンズを小さくし過ぎると、反射音波の到来方向と受波素子を1対1に対応付けることができなくなり、到来方向分解能の劣化、すなわち画像表示における分解能の劣化を招く。
【0033】
球面、非球面レンズの組み合わせで作られる複数枚構成の複合音響レンズを用いてイメージングソーナーを構成する場合、球状音響レンズとは違い各到来方向からの集束特性や収差特性が同程度になるように設計しなければならない。どの到来方向からきても集束特性や収差特性を同程度にするためには、複合レンズの枚数を増加させ、各レンズ素子によって生じる収差を相互にキャンセルさせる方法が必要である。しかし、音響レンズの構成枚数が多くなるほどレンズの総厚が増加するため、レンズを通過する音響エネルギーが減衰し像強度が低下するという副作用が生じる。像強度の低下が著しくない程度、例えば2〜3枚の音響レンズを組み合わせて複合音響レンズを構成する場合、ある到来方向からの集束特性、収差特性と別の到来方向からのそれを、同時に複数方向に対して最適化するのは難しい。このため、各到来方向からの集束特性が同程度になるようするためにある程度焦点径を均して設計せざるを得ないため、到来方向分解能を向上させるためにレンズが大きくなる傾向がある。
【0034】
一方本発明の球状レンズでは、球の中心を通る断面に対して最適設計を行えば全ての到来方向に対して適用できるため、複合レンズよりも焦点を小さくできる。ゆえに、複合レンズよりも小型化できる。
【0035】
以上、本発明における音響レンズの基本的な形状とその効果について説明を行ったが、以下、具体的な音響レンズの形状例、構成例、設計方法とその実施例について中心に説明を行う。
【0036】
まず、球状レンズの基本設計概念を述べる。
【0037】
音波の屈折はスネルの法則に従う。ある媒質Aの音速をc、媒質B の音速をc、 A からB への入射角と屈折角をそれぞれθ 、θとすると,スネルの法則は〔数1〕で表すことができる。
【0038】
【数1】

【0039】
一般的な非球面音響レンズでは、レンズ材料としてアクリルなど単一の材料が用いられるため、音波を屈折させるには〔数1〕において入射角を変える必要がある。これはレンズの形状を変化させることに対応する。設計においては、レンズ面内に入射する音線に対して音路長一定の原理やアッベの正弦条件が満たされるようにレンズの形状を決定している。
【0040】
一方、本発明の一つである球状レンズでは、既に“球”とレンズ形状が定まっているので、音波を屈折させるには〔数1〕において音速を変える必要がある。音速を変えるためには異なる音速を持つ複数の材料を用いて球状レンズを層構造にし、レンズ内に音速分布を作る必要がある。材料は有限、すなわち音速値は有限であるため、音速値変化のみで設計を考えると設計自由度は高くないが、層の厚みを変えると層に入射する音波の入射角も変わるので、音速値変化と層厚み変化の双方で設計を考えれば良い。
【0041】
図3は、例として3層構造における球状レンズの構成と基本設計概念図を示したものである。例では、音響レンズ300は異なる音速を持つ3種の媒質から構成されており、それらの音速は音響レンズ300の周囲媒質の音速とも異なる。図3において音響レンズ300の下にあるグラフは、音響レンズ300の音速分布を示しており、縦軸は媒質の音速301、横軸はレンズ中心からの距離302を表す。
【0042】
ある方向から到来した平面波303は、音響レンズ300とその周囲媒質との界面で屈折現象が起こる。図3における音響レンズ300内の矢印は、音波伝搬経路304の一つを表す。音速の違いによる屈折では、音速が遅くなる境界面では、入射角より屈折角が小さくなる方向に屈折し、音速が速くなる境界面では、入射角より屈折角が大きくなる方向に屈折する。
【0043】
媒質間境界で屈折を繰り返しながら集束する音波を、レンズ形状に沿って2次元に配置した受波素子アレイ305で受信する。ある方向から到来した平面波303を、音響レンズ300によって到来方向307の延長線上にある受波素子306一つだけに集束させるように設計すれば、その平面波300の到来方向307を知ることができる。このように、各音波到来方向と各受波素子が1対1対応するように音速分布を設計できれば、音響レンズ300通過前後で2次元ビームフォーミングが可能となる。
【0044】
以上、球状レンズの基本設計概念を述べた。次に、球状レンズの具体的な音速分布について述べる。
【0045】
まず、本発明における音響レンズの特徴を明確にするため、対比としてルーネベルグレンズについて説明する。到来波を垂直・水平問わず到来方向毎に分離できるレンズとして、マイクロ波アンテナ分野においてはルーネベルグレンズが知られている。ルーネベルグレンズは形状が球形で、屈折率がレンズの中心で最大であり、レンズの中心から外側にいくにつれて屈折率が連続的に小さくなるように設計されたものである。レンズの半径をR、レンズ中心からの距離をrとすると、屈折率分布n〔数2〕で表される。
【0046】
【数2】

【0047】
屈折率分布が〔数2〕に従うとき、このレンズに入射した平面波は、入射と反対側の球表面上に焦点を形成する。
【0048】
このようなルーネベルグレンズを、音響イメージング用レンズとして作製することは容易ではない。まず屈折率が連続的に変化するレンズを製作するのは困難であるため、屈折率が階段状に変化する複数個の均質層レンズを重ね合わせて近似することが行われる。しかしながら、〔数2〕の屈折率分布に対応する音速を持つ媒質が複数個存在し、かつそれらの媒質の音響インピーダンスの差が小さく、かつ各媒質による吸収減衰が小さい、という条件を満たさなければならない。また、〔数2〕の屈折率分布を100個に分割した均質層ルーネベルグレンズ400に対して、〔数1〕を用いて音波伝搬をシミュレーションした結果を図4に示す。集束領域402を見ると、均質層ルーネベルグレンズ400に入射した平面波401が、入射した側と反対側の表面で集まっている様子がわかるが、同時に完全に集束しきれていない様子もわかる。焦点径が小さいほど到来方向分解能、すなわち画像表示の分解能が良くなるが、図4のような100分割均質層ルーネベルグレンズ400では焦点径が大きく、イメージング用の分解性能を満たさない。
【0049】
本発明における音響レンズは、ルーネベルグレンズとは球状の形状である点では同じであるが、、屈折率分布は〔数2〕には従わない。
【0050】
図5は本発明における音響レンズの最適な実施例の一つを示す図である。図5に示す球状音響レンズは2層構造であるが、2層以上でも構わない。ルーネベルグレンズの中心の屈折率はレンズ周囲媒質に対して1/√2倍であるので、本発明における音響レンズの中心媒質500の音速は、レンズ周囲媒質の音速に対して1/√2倍より遅いことが望ましい。例えば、レンズ周囲媒質が水で、音速が1500m/秒の場合、中心媒質500の速度は1060m/秒以下であることが望ましい。中間媒質501の音速は、レンズ周囲媒質よりも遅く、中心媒質500よりも速い音速であればよく、レンズに入射する平面波が焦点を形成するように中間媒質501の厚みを決定すればよい。
【0051】
図5(a)のような2層構造の球状音響レンズの場合、レンズに入射する平面波の伝搬経路は3つに分類することができる。中心媒質500を通らない伝搬経路502、中心媒質500を通り焦点を形成する伝搬経路503、および中心媒質500を通るが焦点の形成に寄与しない伝搬経路504である。このうち、中心媒質500を通るが焦点の形成に寄与しない伝搬経路504は、音波進行方向に対して中心媒質500の端近くであればあるほど大きく屈折するため、受信面に到達したときには大きくばらつく。中心媒質500を通り焦点を形成する伝搬経路503は、音波進行方向に対して中心媒質500の正面付近で屈折現象が起こるため、各々の屈折の差が小さく、受信面のほぼ同じ場所に集まる。このため、中心媒質500を通り焦点を形成する伝搬経路503に対して、中心媒質500を通るが焦点の形成に寄与しない伝搬経路504の受信面での音圧は、無視して良いほど小さい。しかし、中心媒質500を通らない伝搬経路502は、受信面において中心媒質500を通り焦点を形成する伝搬経路503とは異なる焦点を形成し、偽像の要因となる。
【0052】
そこで図5(b)のように、レンズ入射面の一部に音波反射体または吸収体505を配置することによって、平面波の入射方向の延長線上に集束しない音波を除外することができる。除外される音波は、中心媒質500を通らない伝搬経路502、および中心媒質500を通るが焦点の形成に寄与しない伝搬経路504の一部であっても全部であってもよい。このとき、中心媒質500を通り焦点を形成する伝搬経路503上に音波反射体または吸収体505が存在しなければ、どの方向から音波が到来しても伝搬経路の対称性は失われないため、図5(c)に示すような両矢印の角度範囲が、本レンズを用いたイメージングソーナーの視野角506となる。
【0053】
図6は本発明における音響レンズの最適な実施例の一つを示す図である。図6に示す球状音響レンズは2層構造であるが、2層以上でも構わない。本発明における音響レンズの中心媒質600の音速は、レンズ周囲媒質の音速よりも遅く、最外殻媒質601の音速は、レンズ周囲媒質よりも速い音速が望ましい。
【0054】
図6(a)のような音響レンズの最外殻媒質601の音速がレンズ周囲媒質の音速よりも速い場合、最外殻媒質601表面の凸面形状による屈折現象により音波の進行方向は拡散方向に進行するため、レンズに入射する平面波の伝搬経路は4つに分類することができる。最外殻媒質表面で全反射現象が起きる伝搬経路602、中心媒質600を通らない伝搬経路603、中心媒質600を通り焦点を形成する伝搬経路604、および中心媒質600を通るが焦点の形成に寄与しない伝搬経路605である。このうち、中心媒質600を通るが焦点の形成に寄与しない伝搬経路605は、音波進行方向に対して中心媒質600の端近くであればあるほど大きく屈折するため、受信面に到達したときには大きくばらつく。中心媒質600を通り焦点を形成する伝搬経路604は、音波進行方向に対して中心媒質600の正面付近で屈折現象が起こるため、各々の屈折の差が小さく、受信面のほぼ同じ場所に集まる。このため、中心媒質600を通り焦点を形成する伝搬経路604に対して、中心媒質600を通るが焦点の形成に寄与しない伝搬経路605の受信面での音圧は、無視して良いほど小さい。
【0055】
また、このような最外殻媒質601の音速がレンズ周囲媒質の音速よりも速い構造の音響レンズでは、図5(b)に示したような音波反射体または吸収体を設けることなく、偽像の要因となる音波伝搬経路を除外することができる。
【0056】
また、中心媒質600を通り焦点を形成する伝搬経路604上に受波器606が存在しなければ、どの方向から音波が到来しても伝搬経路の対称性は失われないため、図6(b)に示すような両矢印の角度範囲が、本レンズを用いたイメージングソーナーの視野角607となる。
【0057】
あるいは、例えば半球殻を合体させて最外殻を作製する場合、接着面608が生じるため、図6(c)に示すように中心媒質600を通り焦点を形成する伝搬経路604上にその接着面608が存在しないような角度範囲が、本レンズを用いたイメージングソーナーの視野角607となる。
【0058】
図7は本発明における音響レンズの最適な実施例の一つを示す図である。図7に示す音響レンズは2層構造であるが、2層以上でも構わない。図7に示すように、同一中心軸を共有していれば、音響レンズの最外殻の媒質が音波入射面700と音波受信面701とで異なっていても構わない。この両者で媒質が異なっていても、音波伝搬経路の対称性は失われない。
【0059】
図6を用いて説明したように、音響レンズの最外殻の音波入射面700の音速がレンズ周囲媒質よりも音速が速ければ、最外殻の音波入射面700は拡散体として働き、偽像の要因となる音波伝搬経路を除外することができる。しかしながら、音速の速い媒質中では波長が長くなり、回折が起こりやすいため、音波受信面701での焦点の広がりが大きくなる。
【0060】
そこで、音波受信面701の媒質として、音波入射面700より音速の遅い材料を選択することにより、回折による焦点広がりを小さくすることができ、イメージングの際に空間分解能を向上させることができる。
【0061】
また、音波受信面701の媒質として、音響インピーダンスが圧電素子のそれと近い材料を選択することにより、音波受信面701と受波器との境界での反射を抑えることができ、感度を向上させることができる。
【0062】
また、図7(b)のように音響レンズの最外殻の音波入射面700と音波受信面701の媒質で異なっており、かつ互いに半球殻でなくても音波伝搬経路の対称性は保たれるため構わない。
【0063】
図8は本発明における音響レンズの最適な実施例の一つを示す図である。図8に示す音響レンズは2層構造であるが、2層以上でも構わない。図8(b)に示すように、同一中心軸を共有していれば、音響レンズの最外殻において、音波入射面800側の曲率と音波受信面801側の曲率が異なっていても構わない。この両者で曲率がことなっていても、音波伝搬経路の対称性は失われない。
【0064】
図8(a)において、音響レンズの最外殻の半径をR、隣り合う受波素子802間の距離をL、音響レンズの音波入射面800から対象物803までの距離をrとすると、受波素子802の延長線上かつ音響レンズから同距離上にある2点間の距離は〔数3〕で表すことができる。
【0065】
【数3】

【0066】
また、図8(b)において、音響レンズの音波入射面801側の最外殻の半径をR、音波受信面801側の最外殻の半径をR’(>R)、隣り合う受波素子802間の距離をL、音響レンズの音波入射面800から対象物803までの距離をrとすると、受波素子802の延長線上かつ音響レンズから同距離上にある2点間の距離は〔数4〕で表すことができる。
【0067】
【数4】

【0068】
ここで、R’>Rよりθ’<θ、δ’<δとなる。つまり、最外殻の音波入射面800の半径よりも音波受信面801の半径が大きい場合、空間分解能が向上する効果がある。
【0069】
このとき、音波入射面800と音波受信面801は半球殻形であってもなくてもよい。例えば、図8(c)のように音波受信面801の一部をカットしても音波伝搬経路の対称性は保たれる。すなわち、音波伝搬経路の対称性が保たれていれば、音響レンズはどのようにカットしても構わない。
【0070】
図9は本発明における音響レンズの最適な実施例の一つを示す図である。図9に示す音響レンズは2層構造であるが、2層以上でも構わない。図9に示すように、音響レンズの中心層媒質900は液体であることが望ましい。中心層媒質900を液体にすることにより、中心層媒質900は形状加工しなくてもよい利点が生じる。例えば図9(a)のような形状の場合、中心層媒質900が個体だと球状加工する必要がある。図9(b)、(c)も同様に、中心層媒質900が個体だと、最外殻の形状に沿った加工をする必要がある。一方、中心層媒質900が液体であれば、最外殻がどのような形状をしていようとも自動的に内部に全体に行き渡る。
【0071】
また、中心層媒質900が液体だと交換が容易という利点がある。音響レンズを用いたイメージングソーナーは、季節や地域、深度など環境が異なる場所で運用されることもある。環境変化に対する水温変化が大きい場合、音響レンズの集音特性変化が大きくなることが考えられる。このとき、その環境に適した音速を持つ中心層媒質900を選択することにより、環境変化に対する集音特性変化を最小限に抑えることが可能となる。例えば、シリコーンオイルは動粘性の違いにより870m/秒から1000m/秒の音速を持つので、動粘性の異なる数種のシリコーンオイルを事前に準備していれば、多くの環境に対応できる。
【0072】
また、中心層媒質900中において、焦点を形成する伝搬経路上でない場所にサーモスタットなど温度制御が可能な装置を設置することにより、液体温度を周囲環境に適した温度にコントールすることができる。
【0073】
図10は本発明における音響レンズの最適な実施例の一つを示す図である。図10は、図6(b)において、音響レンズ1000と受波器アレイ1001と密閉媒質1005との間に液体媒質1002が満たされているような構造をしている。この例に限らず、音響レンズ1000は曲率一定面を持つ2つ以上の媒質が同一中心軸を持つような構成をしており、また、音響レンズ1000と同一中心軸を持つ曲率一定曲面1003上に受波器アレイ1002が設置されており、音響レンズ1000と受波器アレイ1002の間に液体媒質1002が満たされていれば、どうような構成でも構わない。
【0074】
このように、音響レンズ1000と受波器アレイ1001の間が液体媒質1002で満たされていると、音響レンズ1000を通過した平面波1004を効率良く受波器アレイ1001上の受波素子へ送ることができる。仮に、音響レンズ1000と受波器アレイ1001が接触している構成の場合だと、接触不良で両者の間に空気などが混入すると、空気層で平面波が反射され感度が劣化する可能性がある。しかし、両者の間が液体媒質1002で満たされていればこの可能性はなくなる。
【0075】
また、この液体媒質1002として、フッ素系不活性液体のような液体として非常に音速の遅い材料(約700m/秒)を選択することにより、回折による焦点の広がりを小さくすることができ、イメージングの際に空間分解能を向上させることができる。
【符号の説明】
【0076】
100 送波器
101 受波器
102 音響レンズ
103 増幅器
104 A/D変換器
105 メモリ部
106 演算処理部
107 操作盤
108 波形発生器
109 増幅器
110 画像表示部
200 送波器
201 パルス波
300 音響レンズ
301 媒質の音速
302 レンズ中心からの距離
303 平面波
304 音波伝搬経路
305 受波素子アレイ
306 受波素子
307 到来方向
400 均質層ルーネベルグレンズ
401 平面波
402 焦点領域
500 中心媒質
501 中間媒質
502 中心媒質を通らない伝搬経路
503 中心媒質を通り焦点を形成する伝搬経路
504 中心媒質を通るが焦点の形成に寄与しない伝搬経路
505 音波反射体または吸収体
506 視野角
600 中心媒質
601 最外殻媒質
602 最外殻媒質表面で全反射現象が起こる伝搬経路
603 中心媒質を通らない伝搬経路
604 中心媒質を通り焦点を形成する伝搬経路
605 中心媒質を通るが焦点の形成に寄与しない伝搬経路
606 受波器
607 視野角
608 接着面
700 音波入射面
701 音波受信面
800 音波入射面
801 音波受信面
802 受波素子
803 対象物
900 中心層媒質
1000 音響レンズ
1001 受波器アレイ
1002 液体媒質
1003 曲率一定曲面
1004 平面波
1005 密閉媒質


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中の対象物に向けて超音波を送信する送波部と、
前記対象物からの超音波の反射波が入射する入射面と、前記入射した反射波が集束する受信面とを有し、前記音波入射面及び前記音波受信面は同一の中心軸で、それぞれ曲率が一定であり、少なくとも2層以上の、音速の異なる媒質から構成された音響レンズと、
前記音響レンズを通った反射波を受信する受信器と、
前記受信器が受信した反射波を信号処理する信号処理部と、
前記信号処理部が信号を処理した信号処理結果に基づいた音響映像を表示する表示手段とを有することを特徴とする水中映像取得装置。
【請求項2】
請求項1に記載の水中映像取得装置において、前記音響レンズは、前記入射面の一部に反射体または吸収体を有することを特徴とする、水中映像取得装置。
【請求項3】
請求項1に記載の水中映像取得装置において、前記音響レンズは、レンズ内部に拡散体を有し、入射方向の延長線上に集束しない音波を除外することを特徴とする、水中映像取得装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかの水中映像取得装置において、前記音響レンズは、2層以上の同心球であることを特徴とする、水中映像取得装置。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかの水中映像取得装置において、前記音響レンズは、最外殻の材質が音波入射面と音波受信面とで異なり、かつ内殻の材質は球対称である2層以上の球であることを特徴とする、水中映像取得装置。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれかの水中映像取得装置において、前記音響レンズは、
同一中心軸を持ち、曲率一定曲面を持つ2つ以上の媒質で構成することを特徴とする、水中映像取得装置。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれかの水中映像取得装置において、前記音響レンズは、
2層以上の同心円筒であることを特徴とする、水中映像取得装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかの水中映像取得装置において、前記音響レンズは、中心層の媒質が液体であることを特徴とする、水中映像取得装置。
【請求項9】
請求項8に記載の水中映像取得装置において、前記音響レンズは、液体温度を恒温に保つ機能を有する、水中音波撮像装置。
【請求項10】
請求項1に記載の水中映像取得装置において、水
前記音響レンズと前記受信器の間は液体で満たされていることを特徴とする、水中映像撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−96963(P2013−96963A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242999(P2011−242999)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】