説明

水中油型マイクロエマルション及びその製造方法

【課題】 皮膚刺激が十分に抑制されており、しかも不快臭の発生が十分に防止され、保存安定性にも十分優れた水中油型マイクロエマルションを提供する。
【解決手段】 分子内に炭素−炭素不飽和結合を有しないポリグリセリン脂肪酸エステルを主成分とする界面活性剤が配合されており、油相がグリセリン脂肪酸エステルジカルボン酸縮合物及び/又はアシルグルタミン酸エステルからなる特定油分を含有し、上記油相及び水相の両方がグリセリン及び/又は1,3−ブチレングリコールを含有する水中油型マイクロエマルション。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中油型マイクロエマルション及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医薬品、化粧品、食品などの分野において、エマルション製剤が頻繁に用いられている。エマルション製剤で用いられる二相系のエマルションとしては、油相中に水相が粒状に分散している油中水型エマルション、及び水相中に油相が粒状に分散している水中油型エマルションが挙げられる。
【0003】
化粧品用途の水中油型エマルションとしては、例えば特許文献1に記載のものが知られている。この特許文献1によると、肌にべたつくことなくしっとりした感触を与えると共に、肌のハリ感を向上させる効果が高く、かつ保存安定性に優れた水中油型乳化化粧料の提供を意図して、(A)オレイン酸系ノニオン性界面活性剤0.01〜5質量%及び(B)アニオン性界面活性剤0.001〜1質量%及び(C)抱水性油剤0.01〜5質量%を含有し、かつ成分(A)及び成分(C)の質量比が(A)/(C)=1〜500であることを特徴とする水中油型乳化化粧料が提案されている。
【0004】
ところで、エマルション製剤として、特にその外観の透明性又は半透明性、及び粒状の相(粒子)の微細さの観点から、マイクロエマルションの状態にあるものが強く求められている。
【特許文献1】特開2003−286126号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アニオン性界面活性剤は、一般にヒトの皮膚に対して刺激性を示すことが知られている。したがって、アニオン性界面活性剤を用いた特許文献1に記載のエマルションは、ヒトの皮膚に対する刺激が十分に抑制されていない。
【0006】
また、オレイン酸系ノニオン性界面活性剤は炭素−炭素二重結合を有するオレイン酸系ノニオン性界面活性剤を必須成分としているため、その匂いが一般に好まれ難く、その界面活性剤を配合した特許文献1に記載のエマルションは不快臭を発する。さらに特許文献1に記載のエマルションは経時安定性に劣っている。
【0007】
そこで、本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、皮膚刺激が十分に抑制されており、しかも不快臭の発生が十分に防止され、保存安定性にも十分優れた水中油型マイクロエマルションを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の界面活性剤を用いた水中油型エマルション系において、油相に特定の成分を配合することによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、分子内に炭素−炭素不飽和結合を有しないポリグリセリン脂肪酸エステルを主成分とする界面活性剤が配合されており、油相がグリセリン脂肪酸エステルジカルボン酸縮合物及び/又はアシルグルタミン酸エステルからなる特定油分を含有し、上記油相及び水相の両方がグリセリン及び/又は1,3−ブチレングリコールを含有する水中油型マイクロエマルションを提供する。ここで、本発明における「マイクロエマルション」とは、粒状に分散している相の平均粒径が、25℃における動的光散乱法を用いて導出された平均粒径で200μm未満であるエマルションを意味する。
【0010】
この水中油型マイクロエマルションは、界面活性剤の主成分がヒトの皮膚に対して刺激性の少ないポリグリセリン脂肪酸エステルであるので、皮膚刺激が十分に抑制されている。また、界面活性剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることに併せて、油相にグリセリン脂肪酸エステルジカルボン酸縮合物及び/又はアシルグルタミン酸エステルを含有させ、更に油相及び水相の両方にグリセリン及び/又は1,3−ブチレングリコールを添加することにより、動物由来の油相成分を用いなくても上述の平均粒径を有するマイクロエマルションが得られる。このような水中油型マイクロエマルションは、化粧品用途の場合に、しっとりとした使用感を実現できる。
【0011】
また、本発明の水中油型マイクロエマルションは、ポリグリセリン脂肪酸エステルを界面活性剤の主成分としており、オレイン酸系ノニオン性界面活性剤を必須成分としていないため、一般的に不快な臭いを発生し難い。また、長時間保存してもエマルションの合一が抑制され、保存安定性に十分優れている。その結果、化粧品に用いると、長期にわたってしっとりとした使用感が維持される。
【0012】
本発明の水中油型マイクロエマルションにおいて、界面活性剤はアニオン性界面活性剤及びオレイン酸系ノニオン性界面活性剤を含有しないものであると、本発明の上記作用効果を一層有効に発揮できるので好ましい。また、本発明の水中油型マイクロエマルションにおいて、アシルグルタミン酸エステルがN−ラウロイル−L−グルタミン酸ジ(フィトステリル・2−オクチル)であると、本発明の上記作用効果をより確実に奏することができるので好ましい。
【0013】
本発明の水中油型マイクロエマルションは、油相を0.5〜10質量%含有すると好ましい。油相の配合割合をこの数値範囲内に調整することで、油相の平均粒径を一層小さくすることができる。また、同様の観点から、油相の総量に対して特定油分を1.0〜10質量%含有すると好ましい。
【0014】
本発明は、ポリグリセリン脂肪酸エステルを界面活性剤の主成分として配合してなる水中油型マイクロエマルションの製造方法であって、グリセリン脂肪酸エステルジカルボン酸縮合物及び/又はアシルグルタミン酸エステルからなる特定油分並びにグリセリン及び/又は1,3−ブチレングリコールを含有する油相を、グリセリン及び/又は1,3−ブチレングリコールを含有する水相に添加する工程を有する水中油型マイクロエマルションの製造方法を提供する。この製造方法によると、上述の本発明の水中油型マイクロエマルションを十分確実に得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、皮膚刺激が十分に抑制されており、しかも不快臭の発生が十分に防止され、保存安定性にも十分優れた水中油型マイクロエマルションを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0017】
本実施形態の水中油型マイクロエマルションは、分子内に炭素−炭素不飽和結合を有しないポリグリセリン脂肪酸エステルを主成分とする界面活性剤が配合されており、油相が、グリセリン脂肪酸エステルジカルボン酸縮合物及び/又はアシルグルタミン酸エステルからなる特定油分を含有し、油相及び水相の両方がグリセリン及び/又は1,3−ブチレングリコールを含有するものである。以下、本実施形態の水中油型マイクロエマルションを構成する各成分について説明する。
【0018】
本実施形態における界面活性剤は油相に配合されると好ましく、ポリグリセリン脂肪酸エステルを主成分とする。ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、分子内に炭素−炭素不飽和結合を有しないものであれば特に限定されない。かかるポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、テトラグリセリンモノラウリン酸エステル、ペンタグリセリンモノラウリン酸エステル、ヘキサグリセリンモノラウリン酸エステル、デカグリセリンモノラウリン酸エステル、ヘキサグリセリンモノミリスチン酸エステル、デカグリセリンモノミリスチン酸エステル、ヘキサグリセリンモノパルミチン酸エステル、ヘキサグリセリンモノステアリン酸エステル、ヘキサグリセリンセスキステアリン酸エステル、デカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンジステアリン酸エステル、デカグリセリントリステアリン酸エステル、ヘキサグリセリンモノイソステアリン酸エステル、デカグリセリンモノイソステアリン酸エステル、デカグリセリンジイソステアリン酸エステル、デカグリセリンモノカプリン酸エステルが挙げられる。
【0019】
これらのポリグリセリン脂肪酸エステルのうち、本発明の作用効果をより確実に発揮する観点から、ペンタグリセリンモノラウリン酸エステル及びヘキサグリセリンモノステアリン酸エステルからなる群より選ばれる1種以上のポリグリセリン脂肪酸エステルが好ましく、ペンタグリセリンモノラウリン酸エステルがより好ましい。上記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、常法により合成してもよく、市販のものを入手してもよい。
【0020】
また、ポリグリセリン脂肪酸エステルは、より安定なマイクロエマルションを得るために、HLB値が10〜17のものであると好ましい。
【0021】
分子内に炭素−炭素不飽和結合を有しないポリグリセリン脂肪酸エステルは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0022】
本実施形態に係る界面活性剤として、本発明の目的を阻害しない程度にアニオン性界面活性剤を配合してもよいが、本発明の目的をより確実に達成するためには、アニオン性界面活性剤を配合しないことが最も好ましい。
【0023】
また、本実施形態のマイクロエマルションの経時安定性を更に高める観点及び不快な匂いの発生を抑制する観点から、界面活性剤としてオレイン酸系ノニオン性界面活性剤を配合しないことが最も好ましい。
【0024】
本実施形態の水中油型マイクロエマルションにおいて、界面活性剤の総量に対する、分子内に炭素−炭素不飽和結合を有しないポリグリセリン脂肪酸エステルの配合割合は、30質量%超であると好ましく、50質量%以上であるとより好ましい。上記ポリグリセリン脂肪酸エステルの配合割合がかかる数値範囲内にあると、本発明の目的を一層効率的かつ確実に達成でき、本発明の作用効果をより有効に奏することができる。
【0025】
本実施形態において油相に含有した特定油分は、グリセリン脂肪酸エステルジカルボン酸縮合物及び/又はアシルグルタミン酸エステルである。
【0026】
油相中のグリセリン脂肪酸エステルジカルボン酸縮合物は、モノグリセリン脂肪酸エステルジカルボン酸縮合物であっても、ジグリセリン脂肪酸エステルジカルボン酸縮合物であってもよい。このグリセリン脂肪酸エステルジカルボン酸縮合物は、脂肪族ジカルボン酸、高級直鎖脂肪族モノカルボン酸及び高級分岐鎖脂肪族モノカルボン酸からなる混合脂肪酸を、公知の方法によりモノグリセリン又はジグリセリンとエステル化して得られる。エステル化の方法としては、無触媒又は触媒存在下、常圧又は減圧下でのエステル化反応を用いてもよい。この場合、エステル化反応終了後、定法に従って反応混合物をアルカリ脱酸、脱色剤による脱色、次いで水蒸気蒸留による脱臭精製を行ってもよい。
【0027】
あるいは、市販のグリセリン脂肪酸エステルジカルボン酸縮合物を入手して用いてもよい。
【0028】
脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナメチレンジカルボン酸、デカメチレンジカルボン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、ムコン酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。この中でも、特にアジピン酸、アゼライン酸及びセバシン酸からなる群より選ばれる1種以上のジカルボン酸が好ましく、アジピン酸がより好ましい。これら脂肪族ジカルボン酸は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0029】
高級直鎖脂肪族モノカルボン酸としては、直鎖状の飽和脂肪酸が好ましく、炭素数8以上の脂肪酸がより好ましい。具体的には、例えば、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ヘンエイコサン酸、ベヘン酸、トリコサン酸、リグノセリン酸が挙げられる。これらの中では、本発明の目的をより確実に達成する観点から、カプリル酸、カプリン酸及びステアリン酸からなる群より選ばれる1種以上の脂肪酸が好ましい。これら高級直鎖脂肪族モノカルボン酸は1種又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0030】
高級分岐鎖脂肪族モノカルボン酸は、炭素数が6以上で分岐鎖を1以上有するものが好ましい。具体的には例えば、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、ネオトリデカン酸、イソステアリン酸が挙げられる。これらの中では、本発明の目的をより確実に達成する観点から、2−エチルヘキサン酸及び/又はイソステアリン酸が好ましい。これら高級分岐鎖脂肪族モノカルボン酸は1種又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0031】
脂肪族ジカルボン酸、高級直鎖脂肪族モノカルボン酸及び高級分岐鎖脂肪族モノカルボン酸は、上述したもののいずれを組み合わせて用いてもよい。
【0032】
また、グリセリン脂肪酸エステルジカルボン酸縮合物の原料である脂肪酸、例えば高級直鎖脂肪族モノカルボン酸、の一部が、水素原子の一部を水酸基に置換したものであってもよい。
【0033】
グリセリン脂肪酸エステルジカルボン酸縮合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0034】
油相中のアシルグルタミン酸エステルとしては、例えば、ラウロイルグルタミン酸ジオクチルドデシル、N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジ(コレステリル・ベヘニル・オクチルドデシル)、N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジ(フィトステリル・ベヘニル・オクチルドデシル)、N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジ(フィトステリル・2−オクチル)等のラウロイルグルタミン酸エステルが挙げられる。これらの中では、本発明の目的をより確実に達成する観点から、ラウロイルグルタミン酸エステルが好ましく、N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジ(フィトステリル・2−オクチル)がより好ましい。
【0035】
アシルグルタミン酸エステルは、定法により合成してもよく、市販のものを入手してもよい。また、アシルグルタミン酸エステルは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0036】
上述の特定油分は、油相の総量に対して1.0〜10質量%含有されていると好ましい。特定油分のこの含有割合が1.0質量%未満であっても、10質量%を超えても、油相の平均粒径が大きくなりすぎ、マイクロエマルションを形成することが困難になる傾向にある。
【0037】
油相及び水相には、マイクロエマルションの乳化安定性を十分高いものにする観点から、グリセリン及び/又は1,3−ブチレングリコールが配合されている。
【0038】
本実施形態において、上述のもの以外で油相に用いられる成分としては、例えば、アボカド油、アルモンド油、オリーブ油、マカデミアンナッツ油、ヒマシ油、ツバキ油、ホホバ油、ゴマ油、サフラワー油、大豆油、パーシック油、綿実油、ヒマワリ油、アマニ油、カカオ脂、ヤシ脂、モクロウ、カルナウバロウ、キャンデリラロウ等の植物性油脂類、硬化油類、流動パラフィン、ワセリン、イソパラフィン、セレシン、スクワラン、スクワレン等の炭化水素油、ラウリルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、ラノリンアルコール、水添ラノリンアルコール、ヘキシルデカノール、オクチルドデカノール等の高級アルコール類、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等のシリコーン油、パラフィン、マイクロクリスタリンワックス等の炭化水素ワックスが挙げられる。これらの中では、軽くてあっさりした使用感を得るために、炭化水素油及びシリコーン油からなる群より選ばれる1種以上の無極性油を含有すると好ましい。上述の油は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0039】
上述の特定油分に加えて、油相に炭化水素油及びシリコーン油からなる群より選ばれる1種以上の無極性油を含有する場合、上述の特定油分は、特定油分及び上記無極性油の総量に対して1〜10質量%含有されていると好適である。特定油分のこの含有割合が1.0質量%未満であると、使用感における本発明の特長が発揮され難くなる傾向にあり、10質量%を超えると、油相の平均粒径が大きくなりすぎ、マイクロエマルションを形成することが困難になる傾向にある。
【0040】
本実施形態の水中油型マイクロエマルションは、本発明の目的や効果を阻害しない範囲で、上述の各成分以外の「その他の成分」として、エステル油、シリコーン誘導体、界面活性剤、粉体、水溶性高分子、紫外線吸収剤、多価アルコール、糖類、保湿剤、低級アルコール、酸化防止剤、防腐剤、リパーゼやプロテアーゼ等の酵素類、レゾルシンやイオウ等の各種薬剤、清涼剤、色素、香料等を配合してもよい。
【0041】
多価アルコールとしては、例えば、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、イソプレングリコール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、1,5−ペンタンジオール、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、マビット、マルチトール、ラクトース、フラクトース、マルトース、ソルビタン、グルコース、アラビトール、キシリトール、マンニトールが挙げられる。
【0042】
本実施形態の水中油型マイクロエマルションは、その総量に対して油相を0.5〜10質量%含有すると好ましい。油相の配合割合をこの数値範囲内に調整することで、油相の平均粒径を一層小さくすることができる。
【0043】
上述した本実施形態の水中油型マイクロエマルションは、本発明の目的や効果を逸脱しない範囲で、上記各成分をあらゆる組合せで含有することができる。また、好ましい成分同士を併用した水中油型マイクロエマルションは、本発明の目的をより高いレベルで達成することができ、しかも本発明による効果を更に有効に奏することができるので好適である。
【0044】
本発明の水中油型マイクロエマルションは、上述の各成分の種類及び配合割合を調整することにより、油相の平均粒径を200nm未満にしたものであるが、100nm未満にすることもできる。本実施形態によると、動物由来の成分を用いなくても、油相の平均粒径を上述の範囲に収めることが可能である。したがって、本実施形態では、内容成分の変化による変臭が抑制され、製品の品質をほぼ一定に維持することができ、皮膚刺激性を低くしてより高いレベルの安全性が確保でき、しかも化粧品等に用いた場合にしっとりとした使用感を実現できるマイクロエマルションが得られる。
【0045】
また、本発明の水中油型マイクロエマルションは、アニオン性界面活性剤を必須成分としていないため、ヒトの皮膚に対する刺激を抑制することができる。さらには、オレイン酸系ノニオン界面活性剤等の炭素−炭素二重結合を有する物質を必須成分としてないため、マイクロエマルションの経時安定性が高く、200nm未満の微細な平均粒径を、長時間保持することができる。したがって、化粧品等に用いた場合にしっとりとした使用感を長期にわたって実現することが可能となる。また、一般に不快な臭いを有する物質を必須成分としていないため、水中油型マイクロエマルションを用いた化粧品等の保存、使用時に臭いを気にする傾向が低くなる。
【0046】
ところで、ポリグリセリン脂肪酸エステルは、ポリオキシアルキレン鎖を有するノニオン性界面活性剤と比較して、可溶化力及び乳化力が劣るため、製品中に香料や油溶性ビタミン類等の油性成分の析出を生じさせたり、経時的に起こる加水分解により遊離した脂肪酸が白濁や不溶性生成物を生じさせたりする一因となるといった製剤安定性上の問題がある。しかしながら、本発明の水中油型マイクロエマルションは、ポリグリセリン脂肪酸エステルを用いた場合であっても、製剤安定性の観点から極めて優れたものとなっている。これは、グリセリン脂肪酸エステルジカルボン酸縮合物及び/又はアシルグルタミン酸エステルを油相中に添加し、それと同時にグリセリン及び/又は1,3−ブチレングリコールを油相及び水相中に添加することにより、ポリグリセリン脂肪酸エステルの可溶性及び乳化性が改善するためと考えられる。ただし、要因はこれに限定されない。
【0047】
本発明の水中油型マイクロエマルションは、乳剤、乳剤型軟膏等の医薬品製剤における基剤、化粧料、食品用乳剤に用いられると好ましい。化粧料用途の場合、化粧水、多層ローション、日焼け止め、乳液、クリーム、美容液、不織布含浸のマスク、パック、整髪料、養毛料等の顔、手足、ボディ用の基礎化粧料、ファンデーション、アイシャドウ、アイライナー、マスカラ等のメーキャップ化粧料として用いることができる。
【0048】
次に本実施形態の水中油型マイクロエマルションの製造方法について説明する。本実施形態の水中油型マイクロエマルションの製造方法は、ポリグリセリン脂肪酸エステルを界面活性剤の主成分として配合してなる水中油型マイクロエマルションの製造方法であって、グリセリン脂肪酸エステルジカルボン酸縮合物及び/又はアシルグルタミン酸エステルからなる特定油分並びにグリセリン及び/又は1,3−ブチレングリコールを含有する油相を、グリセリン及び/又は1,3−ブチレングリコールを含有する水相に添加する工程を有するものである。より詳細には、グリセリン及び/又は1,3−ブチレングリコールを含有する水相を準備する水相準備工程と、上記特定油分並びにグリセリン及び/又は1,3−ブチレングリコールを含有する油相を準備する油相準備工程と、水相に油相を添加して混合物を得る油相添加工程と、混合物を撹拌して水中油型マイクロエマルションを得る撹拌工程とを有する。
【0049】
水相準備工程では、所定量の水及び上記ポリオールと、更に必要に応じてその他の成分とを撹拌混合することにより水相成分を得る。撹拌混合は、水相が均一に溶解すればよく、例えば室温〜90℃で1〜30分程度行うことが好ましい。また、油相準備工程では、所定量の上記特定油分及びグリセリン及び/又は1,3−ブチレングリコールと、好ましくは上記無極性油と、更に必要に応じてその他の成分とを撹拌混合して油相成分を得る。撹拌混合は油相が均一に溶解すればよく、例えば室温〜90℃で1〜30分程度行うことが好ましい。油相添加工程では、水相成分に対して油相成分を添加して、好ましくは70℃以上で混合することにより予備乳化し、続いて、ホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波乳化機又はコロイドミル等を用いて乳化することにより、本実施形態に係る水中油型マイクロエマルションを得る。
【0050】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0051】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1〜12、比較例1〜3)
表1、2に示す各成分を表1、2に示す割合(質量部)で配合した水相成分及び油相成分をそれぞれ準備し、上述の方法により油相成分を水相成分に添加し、十分撹拌することによって、水中油型マイクロエマルションを調製した。表1、2中、グリセリン脂肪酸エステルジカルボン酸縮合物Aはジグリセリン混合脂肪酸(カプリル酸・カプリン酸・イソステアリン酸・ステアリン酸・12−ヒドロキシステアリン酸)エステルアジピン酸縮合物、グリセリン脂肪酸エステルジカルボン酸縮合物Bはモノグリセリン混合脂肪酸(2−エチルヘキサン酸・ステアリン酸)エステルアジピン酸縮合物、グリセリン脂肪酸エステルジカルボン酸縮合物Cはジグリセリン混合脂肪酸(イソステアリン酸・ステアリン酸)エステルセバシン酸縮合物、グリセリン脂肪酸エステルジカルボン酸縮合物Dはモノグリセリン混合脂肪酸(カプリル酸・カプリン酸)エステルセバシン酸縮合物を示す。また、アシルグルタミン酸エステルEは、N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジ(フィトステリル・2−オクチル)、アシルグルタミン酸エステルFはN−ラウロイル−L−グルタミン酸ジオクチルドデシル、アシルグルタミン酸エステルGはN−ラウロイル−L−グルタミン酸ジ(コレステリル・ベヘニル・オクチルドデシル)、アシルグルタミン酸エステルHはN−ラウロイル−L−グルタミン酸ジ(フィトステリル・ベヘニル・オクチルドデシル)を示す。
【0053】
【表1】



【0054】
【表2】



【0055】
得られた水中油型マイクロエマルションを40℃の環境下で一日静置した後、及び/又は一週間静置した後に、その透過率、pH及び/又は平均粒径を測定した。なお、平均粒径は上述の方法により導出した。また、透過率は、セル厚1cmの石英セル中に水中油型マイクロエマルションを入れて、分光光度計(島津製作所製、UV−160A、商品名)を用いて可視光の透過度を測定することにより導出した。結果を表3に示す。
【0056】
【表3】



【0057】
上記実施例及び比較例について、使用感(しっとり感)の官能評価、皮膚刺激性及び臭いの変化を調べた。使用感(しっとり感)の官能評価は、女性パネラー10名を一群として、表4に示す点数に基づきエマルション使用時のしっとり感を評価させ、その平均値(0〜5点)を算出して評価した。この平均値が高いほど、高いしっとり感が得られることを意味する。皮膚刺激性は、男性パネラー20名による48時間の閉塞貼付試験を行い、その後の皮膚の状態を表5に示す2種類(紅斑、浮腫)の判定基準に従って判定し、20名の皮膚刺激指数の平均値(0〜4点)にて評価した。この平均値が低いほど皮膚刺激性が低いことを意味する。臭いの変化については、香料専門パネラー3名が、一ヶ月静置した後のエマルションに脂肪酸臭が認められるか否かを合議により評価し、脂肪酸臭がほとんど認められなかった場合を「A」、明らかに脂肪酸臭が認められた場合を「B」とした。以上の結果を表3に示す。
【0058】
【表4】



【0059】
【表5】



【0060】
なお、比較例1の配合では水相と油相とが完全に分離して、エマルションを得ることができなかった。また、比較例2の配合では、40℃、一週間の静置の後、目視によりエマルションの合一が認められた。以上の理由により、比較例1、2についてはしっとり感以外について評価しなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に炭素−炭素不飽和結合を有しないポリグリセリン脂肪酸エステルを主成分とする界面活性剤が配合されており、
油相が、グリセリン脂肪酸エステルジカルボン酸縮合物及び/又はアシルグルタミン酸エステルからなる特定油分を含有し、
前記油相及び水相の両方がグリセリン及び/又は1,3−ブチレングリコールを含有する水中油型マイクロエマルション。
【請求項2】
前記界面活性剤はアニオン性界面活性剤及びオレイン酸系ノニオン性界面活性剤を含有しないものである、請求項1記載の水中油型マイクロエマルション。
【請求項3】
前記アシルグルタミン酸エステルがN−ラウロイル−L−グルタミン酸ジ(フィトステリル・2−オクチル)である、請求項1又は2に記載の水中油型マイクロエマルション。
【請求項4】
前記油相を0.5〜10質量%含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の水中油型マイクロエマルション。
【請求項5】
前記油相の総量に対して前記特定油分を1.0〜10質量%含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の水中油型マイクロエマルション。
【請求項6】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを界面活性剤の主成分として配合してなる水中油型マイクロエマルションの製造方法であって、
グリセリン脂肪酸エステルジカルボン酸縮合物及び/又はアシルグルタミン酸エステルからなる特定油分並びにグリセリン及び/又は1,3−ブチレングリコールを含有する油相を、グリセリン及び/又は1,3−ブチレングリコールを含有する水相に添加する工程、を有する水中油型マイクロエマルションの製造方法。


【公開番号】特開2007−77077(P2007−77077A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−267352(P2005−267352)
【出願日】平成17年9月14日(2005.9.14)
【出願人】(000135324)株式会社ノエビア (258)
【Fターム(参考)】