説明

水中溶接方法および水中溶接装置

【課題】水中にある亀裂を含む被溶接部に対して、溶接ヘッドを用いて溶接による補修を行うことにより、被溶接部に対して精度良く溶接部を形成させることのできる水中溶接方法を提供する。
【解決手段】本発明による水中溶接方法は、まず、被溶接部10に対して溶接ヘッド9からシールドガス5を噴出させることにより、溶接ヘッド9先端と被溶接部10との間に気相空間を形成する。次に、溶接ヘッドを被溶接部に対して静止させたまま、一定時間被溶接部を加熱させることにより被溶接部の亀裂内から水を蒸発させる。その後、溶接ヘッドを被溶接部に対して、蒸発工程に引き続いて静止させたまま、被溶接部の亀裂表面を加熱させることにより溶融させ、この亀裂表面に対して溶加材を供給することにより、被溶接部の亀裂表面を溶接により埋めてスポット溶接部を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中にある亀裂を含む被溶接部に対して溶接ヘッドにより溶接を行う水中溶接方法および水中溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、原子炉圧力容器内に設置された原子炉内構造物および圧力バウンダリには、応力腐食割れが発生し、図12に示すような亀裂6が生じる可能性がある。すでに応力腐食割れが発生し、補修を行うことが必要となった場合、従来より応力腐食割れが発生した部位に対して溶接による補修が行われている。溶接により補修を行う場合には、耐応力腐食割れ性に優れた溶加材11aを用いてクラッド溶接を行う。このことにより、溶接による補修を行った部位に応力腐食割れが発生することを防止することができる。また、亀裂6の開口部に溶加材11aを用いることなく直接溶接を行う場合には、母材を溶融させて亀裂6表面を埋めている。このため、炉水に対して亀裂6を隔離することができ、また炉水が漏洩することを防止することができる。
【0003】
通常、このような溶接を行うことによる補修は、原子力プラントの定期検査時に実施される。原子力プラントの定期検査は、作業者の被爆量を低減させるために、原子炉内に炉水を張った状態で行われる。しかしながら、溶接による補修を行うために原子炉内に張られた炉水を抜く場合には、炉水を抜き、かつ補修を行った後に炉水を張るための作業時間が必要となる。このため、原子力プラントの定期検査期間内において限られた作業時間内に補修を行うことが困難となる。また、作業時間を確保して原子炉内から炉水を抜いた状態で補修を行う場合においては、補修を行う作業者の被爆量が増加するという問題が生じる。
【0004】
このような問題を解決する方法として、原子炉内に炉水が張られた状態、つまり水中で溶接による補修を行う方法が考えられている。そのうちの一つの方法として、特開2005一81368に開示されている水中溶接方法がある。この方法では、図11に示すように、溶接ヘッド9(図12参照)内において、レーザ発光部から発せられるレーザ1が集光レンズ2を介して被溶接部10に対して照射され、溶接部3が形成される。この場合、被溶接部10を水から隔離させるために、被溶接部10の周囲をシールドカバー4で覆い、被溶接部10に対してシールドガス5を噴出させる。このことにより、被溶接部10の周囲から水が隔離されて気相空間が形成される。
【0005】
また、別の方法として、特許第3119090号に開示されている水中施工方法がある。この方法では、気相空間を形成させるためにチャンバまたは収納室を用いている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したいずれの方法においても、シールドカバー4、チャンバ、または収納室などが設けられることにより、溶接ヘッド9周囲の構造が大きくなる。このため、被溶接部10の周囲が狭隘である場合には、被溶接部10へのアクセスが困難になる。さらに、被溶接部10の形状によっては、被溶接部10の周囲を覆うためのシールドカバー4の形状が複雑になる。このため、溶接ヘッド9の全体がさらに大きくなる。
【0007】
一方、シールドカバー4またはチャンバ一などを用いることなく、図12に示すように、被溶接部10に対してシールドガス5を噴射させて、気相空間を形成させる方法が考えられている。しなしながら、この場合には、被溶接部10に形成できる気相空間は狭い範囲に限られる。また、被溶接部10に対して溶接を行う場合には、シールドガス5を噴射させながら溶接ヘッド9および溶加材11aを供給する溶加材供給部11を被溶接部10の亀裂6の形状に合わせて移動させる必要がある。このため、シールドガス5を噴射させる溶接ヘッド9の移動に伴い気相空間も移動する。このことにより、被溶接部10は溶接が行われる直前まで水にさらされている状態にある。さらに、被溶接部10に応力腐食割れを含む亀裂6がある場合には、亀裂6内部には、水6aが残存している状態にある。
【0008】
このように内部に水6aが残存している亀裂6表面に対して溶接を行う場合、図12に示すように、被溶接部10に対してレーザ1が照射されることにより被溶接部10の母材が溶融されて溶融金属7となり、亀裂6表面が埋められる。このとき、溶融金属7により埋められた亀裂6内部に残存する水6aが、溶接を行うことにより生じた熱により、亀裂6内部において蒸発して膨張する。これにより亀裂6内部の圧力が上昇し、このため、亀裂6を埋めていた溶融金属7が脱離し、穴状に形成された溶接欠陥8が形成されることが考えられる。
【0009】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、シールドカバーまたはチャンバ一などの気相空間を維持させるための特別な構造体を用いることなく、溶接ヘッドを用いて溶接による補修を行うことにより、被溶接部に対して精度良く溶接部を形成させることのできる水中溶接方法及び水中溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、水中にある亀裂を含む被溶接部に対して溶接ヘッドにより溶接を行う水中溶接方法において、被溶接部に対して溶接ヘッドからシールドガスを噴出させることにより、溶接ヘッド先端と被溶接部との間に気相空間を形成する気相空間形成工程と、溶接ヘッドを被溶接部に対して静止させたまま、一定時間被溶接部を加熱させることにより被溶接部の亀裂内から水を蒸発させる蒸発工程と、溶接ヘッドを被溶接部に対して、蒸発工程に引き続いて静止させたまま、溶接ヘッドにより被溶接部の亀裂表面を加熱させることにより溶融させ、この亀裂表面に対して溶加材を供給することにより、被溶接部の亀裂表面を溶接により埋めてスポット溶接部を形成する溶接工程と、を備えたことを特徴とする水中溶接方法である。
【0011】
本発明は、蒸発工程は、被溶接部を加熱させることによって、亀裂周辺に形成された温度分布が定常状態に達するまで継続することを特徴とする水中溶接方法である。
【0012】
本発明は、蒸発工程において、被溶接部を加熱させるために被溶接部に対して溶接ヘッド内の集光レンズを介してレーザが照射され、被溶接部に対して照射されるレーザのビーム径は、溶接工程の時よりも大きくなるように、集光レンズと被溶接部との距離が調整され、溶接工程において、被溶接部の亀裂表面を加熱させるために亀裂表面に対して溶接ヘッド内の集光レンズを介してレーザが照射され、亀裂表面に対して照射されるレーザのビーム径は、蒸発工程の時よりも小さくなるように、集光レンズと被溶接部との距離が調整されることを特徴とする水中溶接方法である。
【0013】
本発明は、溶接工程において、被溶接部の亀裂表面に対して照射されるレーザの出力は、蒸発工程において被溶接部に対して照射されるレーザの出力よりも小さくなることを特徴とする水中溶接方法である。
【0014】
本発明は、蒸発工程において、被溶接部を加熱するために被溶接部に対して連続波のレーザが照射され、溶接工程において、被溶接部の亀裂表面を加熱するために亀裂表面に対して溶接ヘッドからパルスレーザが照射されることを特徴とする水中溶接方法である。
【0015】
本発明は、溶接工程において、被溶接部の亀裂表面に対して照射されるパルスレーザの平均出力は、蒸発工程において被溶接部に対して照射される連続波のレーザの出力よりも小さくなることを特徴とする水中溶接方法である。
【0016】
本発明は、蒸発工程において、被溶接部を加熱させるために、溶接ヘッドからレーザ、アーク、プラズマ、高周波、および高温ガスのうちいずれか一つが照射され、溶接工程において、被溶接部の亀裂表面を加熱させるために、溶接ヘッドからレーザ、アーク、プラズマ、高周波のうちのいずれか一つが照射されることを特徴とする水中溶接方法である。
【0017】
本発明は、気相空間形成工程、蒸発工程、および溶接工程からなる1サイクルの工程において形成されたスポット溶接部により単位スポット溶接部を形成し、単位スポット溶接部を直線状に一定の間隔で配置し、かつ互いに重ね合わせることにより、直線状に連続する直線状スポット溶接部を形成し、さらに直線状に形成された直線状スポット溶接部を一定の間隔で並べて配置し、かつ互いに重ね合わせることにより、平面状に連続する平面状スポット溶接部を形成することを特徴とする水中溶接方法である。
【0018】
本発明は、平面状に形成された平面状スポット溶接部を積層させることにより、立体状に連続する立体状スポット溶接部が形成されることを特徴とする水中溶接方法である。
【0019】
本発明は、水中にある亀裂を含む被溶接部に対して溶接ヘッドにより溶接を行う水中溶接装置において、溶接ヘッドは、少なくとも、レーザを発光するレーザ発光部と、レーザ発光部からのレーザを、被溶接部に対して集光するための集光レンズと、を備え、集光レンズに、集光レンズを駆動させる集光レンズ駆動機構が連結され、被溶接部近傍に、レーザにより加熱された被溶接部から発せられる光の発光強度を計測する光センサが設けられ、光センサに、光センサが計測した発光強度が定常状態に達した場合に信号を出力する検出装置が連結され、検出装置に、検出装置から入力される信号を受けて集光レンズ駆動装置に駆動指令を与えるコントローラが連結されていることを特徴とする水中溶接装置である。
【0020】
本発明は、水中にある亀裂を含む被溶接部に対して溶接ヘッドにより溶接を行う水中溶接装置において、溶接ヘッドは、少なくとも、レーザを発光するレーザ発光部と、レーザ発光部からのレーザを、被溶接部に対して集光するための集光レンズと、を備え、集光レンズに、集光レンズを駆動させる集光レンズ駆動機構が連結され、被溶接部近傍に、レーザを照射することにより加熱された被溶接部から発せられる光の発光領域を撮影するカメラユニットが設けられ、カメラユニットに、カメラユニットが撮影した画像から、ある一定の発光強度以上の発光領域が有する面積を計測する画像処理装置が連結され、画像処理装置に、画像処理装置が計測した面積が定常状態になった場合に信号を出力する検出装置が連結され、検出装置に、検出装置から入力される信号を受けて集光レンズ駆動装置に駆動指令を与えるコントローラが連結されることを特徴とする水中溶接装置である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、亀裂内部から水を蒸発させるために被溶接部を加熱する蒸発工程が完了した後、被溶接部の亀裂表面を溶接するために亀裂表面を加熱させる溶接工程に移行する間、溶接ヘッドから噴射されたシールドガスにより形成された気相空間が移動することがない。このことにより、被溶接部の亀裂内部に水が残存することを防止することができる。このため、亀裂表面に対して精度良くスポット溶接部を形成させることができる。
【0022】
また、本発明によれば、蒸発工程において、加熱されている被溶接部から発せられる光の発光強度を計測することにより、亀裂内部から水を確実に蒸発させることができるとともに、蒸発工程から溶接工程への移行を自動的に行うことができる。このため、亀裂表面に対して精度良くスポット溶接部を形成させることができる。
【0023】
また、本発明によれば、蒸発工程において、加熱されている被溶接部から発せられる光の発光領域を撮影した画像から、ある一定の発光強度以上の発光領域が有する面積を計測することにより、亀裂内部から水を確実に蒸発させることができるとともに、蒸発工程から溶接工程への移行を自動的に行うことができる。このため、亀裂表面に対して精度良くスポット溶接部を形成させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
第1の実施の形態
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。ここで、図1乃至図4は、本発明による水中溶接方法の第1の実施の形態を示す図である。このうち図1(a)、(b)、(c)は、水中溶接方法を説明する図であり、図2は、光センサを用いた水中溶接装置の全体構成を説明する図であり、図3(a)、(b)、(c)、(d)は、スポット溶接部の形成方法を説明する図であり、図4は、スポット溶接部の積層方法を説明する図である。
【0025】
まず、図2により、本発明による水中溶接装置について説明する。図2に示すように、水中溶接装置は、水中にある亀裂6を含む被溶接部10に対して溶接ヘッド9により溶接を行うためのものである。
【0026】
図2に示すように、水中溶接装置の溶接ヘッド9は、少なくとも、レーザ1を発光するレーザ発光部22と、レーザ発光部22からのレーザ1を、被溶接部10に対して集光するための集光レンズ26とを備えている。
【0027】
このうちレーザ発光部22は、光ファイバー23を介して図示しないレーザ発信器と連結されている。また、レーザ発光部22から発光されたレーザ1が透過するコリメートレンズ24およびダイクロイックミラー25が、レーザ発光部22と集光レンズ26との間にそれぞれ設けられている。なお、上記のうち、レーザ発光部22と、コリメートレンズ24と、ダイクロイックミラー25と、集光レンズ26とから溶接ヘッド9が構成されている。
【0028】
また、集光レンズ26には、集光レンズ26を駆動させる集光レンズ駆動機構30が連結されている。また、被溶接部10近傍には、レーザ1により加熱された被溶接部10から発せられる光の発光強度を計測する光センサ27が設けられている。また、光センサ27には、光センサ27が計測した発光強度が定常状態に達した場合に信号を出力する検出装置28が連結されている。さらに、検出装置28には、検出装置28から入力される信号を受けて集光レンズ駆動装置30を駆動させるコントローラ29が連結されている。また、溶接ヘッド9には、被溶接部10に対して溶加材11aを供給するための溶加材供給部11が設けられている。
【0029】
次に、このような構成からなる本実施の形態の作用について、図1(a)、(b)、(c)および図2により説明する。
【0030】
このうち、図1(a)は、溶接ヘッド9先端と被溶接部10との間に気相空間を形成する方法を説明する図であり、図1(b)は、被溶接部10の亀裂6内部から水6aを蒸発させる方法を説明する図であり、図1(c)は、被溶接部10の亀裂6表面を溶接により埋める方法を説明する図である。
【0031】
まず、図1(a)および図2に示すように、溶接ヘッド9先端と被溶接部10との間に気相空間が形成される(気相空間形成工程)。この場合、被溶接部10に対して溶接ヘッド9からシールドガス5を噴出させる。このことにより、溶接ヘッド9先端と被溶接部10との間に気相空間を形成させることができる。
【0032】
次に、図1(b)に示すように、被溶接部10の亀裂6内部から水6aを蒸発させる(蒸発工程)。この場合、溶接ヘッド9を被溶接部10に対して静止させたまま、溶接ヘッド9のレーザ発光部22から発せられたレーザ1を被溶接部10に対して照射させて、一定時間被溶接部10を加熱させる。
【0033】
この場合、レーザ1は、図示しないレーザ発信器から光ファイバー23を介して溶接ヘッド9のレーザ発光部22から発光される。レーザ発光部22から発光されたレーザ1はコリメートレンズ24およびダイクロイックミラー25を透過し、集光レンズ26により集光される。溶接ヘッド9の集光レンズ26により集光されたレーザ1は、被溶接部10に対して照射される。このようにして、被溶接部10が加熱され、このことにより、被溶接部10の亀裂6内部から水6aを蒸発させることができる。
【0034】
次に、図1(c)に示すように、被溶接部10の亀裂6表面にスポット溶接部12が形成される(溶接工程)。この場合、まず、溶接ヘッド9を被溶接部10に対して、蒸発工程に引き続いて静止させたまま、溶接ヘッド9のレーザ発光部22から発せられたレーザ1を被溶接部10の亀裂6表面に対して照射させて、亀裂6表面を加熱させる。このことにより、亀裂6表面の周辺の母材を溶融させ、同時に、この亀裂6表面に対して溶加材供給部11から溶加材11aを供給する。このことにより、被溶接部10の亀裂6表面を溶接により埋めて、スポット溶接部12が形成される。
【0035】
なお、蒸発工程から溶接工程に移行する場合には、被溶接部10に対して照射させたレーザ1を、照射させたまま連続的に移行しても良い。あるいは、レーザ1を照射させることを一旦停止し後に、再度レーザ1を照射させて溶接工程に移行しても良い。
【0036】
以上により、図1(a)に示した気相空間形成工程、図1(b)に示した蒸発工程、図1(c)に示した溶接工程を経て、本実施の形態による水中溶接方法の1サイクルの工程が完了する。
【0037】
ところで、被溶接部10の亀裂6表面を、上記1サイクルの工程で形成されたスポット溶接部12で埋めることができないことが考えられる。このような場合には、図3(a)、(b)、(c)、(d)に示すように、上述した水中溶接方法の1サイクルの工程を連続して繰り返す。ここで、図3(a)は、被溶接部10に存在する亀裂6表面の形状を説明する図であり、図3(b)は、亀裂6表面に対してスポット溶接部12を直線状に形成する様子を説明する図であり、図3(c)は、亀裂6表面に対してスポット溶接部12を平面状に形成する様子を説明する図であり、図3(d)は、亀裂6表面に対してスポット溶接部12を平面状に形成し、亀裂6表面の全体を埋める様子を説明する図である。
【0038】
まず、図3(b)に示すように、直線状スポット溶接部33を形成する場合について述べる。この場合、上述した水中溶接方法の1サイクルの工程で形成されるスポット溶接部12からなる単位スポット溶接部12を形成し、この単位スポット溶接部12を、図3(a)に示す亀裂6表面に、図3(b)に示すように直線状に一定の間隔L1で複数配置し、かつ互いに重ね合わせる。このようにして複数の単位スポット溶接部12により、直線状に連続する直線状スポット溶接部33が形成される。
【0039】
次に、図3(c)に示すように、平面状スポット溶接部34を形成する場合について述べる。この場合、直線状に形成された直線状スポット溶接部33を一定の間隔L2で複数並べて配置し、かつ互いに重ね合わせる。このことにより、平面状に連続する平面状スポット溶接部34が形成される。
【0040】
次に、上記により平面状に形成された平面状スポット溶接部34を、図4に示すように、必要な形状に肉盛させることもできる。この場合には、以下に述べるように、さらに上述した水中溶接方法の1サイクルの工程を連続して繰り返す。
【0041】
この場合には、図4に示すように、平面状に形成された平面状スポット溶接部34を複数積層させる。このことにより、立体状に連続する立体状スポット溶接部35を形成することができる。
【0042】
このように、本実施の形態によれば、亀裂6内部から水6aを蒸発させるために被溶接部10を加熱する蒸発工程が完了した後、被溶接部10の亀裂6表面を溶接するために亀裂6表面を加熱させる溶接工程に移行する間、溶接ヘッド9を被溶接部10に対して静止させておく。このため、溶接ヘッド9から噴射されたシールドガス5により形成された気相空間が移動することがない。このことにより、被溶接部10の亀裂6内部に水6aが残存することを防止することができる。
【0043】
以上により、亀裂6内部に水6aが残存することがないため、溶融金属7が脱離することはなく、亀裂6表面に溶接欠陥8(図12参照)が形成されることを防止することができる。このことにより、亀裂6表面に対して精度良くスポット溶接部12を形成することができる。
【0044】
また、本実施の形態によれば、被溶接部10に存在する亀裂6を、1サイクルの工程で形成されるスポット溶接部12で埋めることができない場合には、スポット溶接部12からなる単位スポット溶接部12を一定の間隔L1で複数配置して直線状スポット溶接部33を形成し、あるいは直線状スポット溶接部33を間隔L2で複数配置して平面状スポット溶接部34を形成することができる。このことにより、亀裂6表面に溶接欠陥8が形成されることなく、亀裂6表面の全体に対して精度良く直線状スポット溶接部33あるいは平面状スポット溶接部34を形成することができる。
【0045】
さらに、本実施の形態によれば、平面状に連続して形成された平面状スポット溶接部34を、必要な形状に肉盛させる場合には、平面状スポット溶接部34を積層させることにより、立体状スポット溶接部35を形成することができる。このことにより、亀裂6表面に溶接欠陥8が形成されることなく、亀裂6表面の全体に対して精度良く立体状スポット溶接部35を形成することができるとともに、必要な形状に肉盛させることができる。
【0046】
第2の実施の形態
次に、図5により、本発明による水中溶接方法の第2の実施の形態について説明する。ここで、図5(a)、(b)、(c)、(d)は、水中溶接方法を説明する図である。
【0047】
図5(a)、(b)、(c)、(d)に示す第2の実施の形態は、亀裂6内部から水6aを蒸発させるために被溶接部10を加熱させる工程を、亀裂6周辺部分の温度分布が定常状態に達したと判定されるまで継続させるものであり、他の構成は、図1乃至図4に示す第1の実施の形態と略同一である。
【0048】
本実施の形態において、図1乃至図4に示す第1の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。ここで、図5(a)は、溶接ヘッド9先端と被溶接部10との間に気相空間を形成する方法を説明する図であり、図5(b)は、被溶接部10の亀裂6内部から水6aを蒸発させる際に、亀裂6周辺部分の温度分布が変化している状態を説明する図であり、図5(c)は、被溶接部10の亀裂6内部から水6aを蒸発させる際に、亀裂6周辺部分の温度分布が定常状態に達した状態を説明する図であり、図5(d)は、被溶接部10の亀裂6表面を溶接により埋める方法を説明する図である。
【0049】
本実施の形態による水中溶接方法において、まず、図2および図5(a)に示すように、溶接ヘッド9先端と被溶接部10との間に気相空間が形成される(気相空間形成工程)。この場合、被溶接部10に対して溶接ヘッド9からシールドガス5を噴出させる。このことにより、溶接ヘッド9先端と被溶接部10との間に気相空間を形成させることができる。
【0050】
次に、図2および図5(b)に示すように、被溶接部10の亀裂6内部から水6aを蒸発させる(蒸発工程)。この場合、まず、溶接ヘッド9を被溶接部10に対して静止させたまま、溶接ヘッド9のレーザ発光部22から発せられたレーザ1を被溶接部10に対して照射させて、一定時間被溶接部10を加熱させる。このことにより、被溶接部10の亀裂6内部から水6aを蒸発させることができる。
【0051】
この間、加熱された被溶接部10から光が発せられる。被溶接部10から発せられた光は、溶接ヘッド9の集光レンズ26を透過し、ダイクロイックミラー25で反射される。ダイクロイックミラー25で反射された光の発光強度を、被溶接部10近傍に設けられた光センサ27により計測する。
【0052】
次に、光センサ27に連結された検出装置28により、光の発光強度を計測した光センサ27からの出力値がある一定値で時間変化するか否かが計測される。この場合、蒸発工程における被溶接部10から発せられる光の発光強度は被溶接部10の温度に依存する。このため、被溶接部10から発せられる光を計測している光センサ27からの出力値は、被溶接部10の温度に依存する値となる。このことにより、光センサ27からの出力値がある一定値で時間変化することなく安定した場合には、被溶接部10のうち、亀裂6周辺部分の温度分布が定常状態に達したと判定される。このように、亀裂6周辺部分の温度が安定しているときは、亀裂6内部から水6aが蒸発することがない。
【0053】
ところで、蒸発工程の初期段階においては、光センサ27からの出力値がある一定値になることなく変化していく。すなわち、亀裂6周辺の温度が安定することなく上昇していく。この場合、図5(b)に示すように、亀裂6周辺部分の温度分布を示す等温線13が、停止することなく、亀裂6表面を中心として拡大されていく。
【0054】
このような蒸発工程は、上述のように光センサ27からの出力値がある一定値で時間変化することなく安定するまで継続して行われる。この場合、図5(c)に示すように、亀裂6周辺部分の温度分布を示す等温線13が拡大されることなく停止している。
【0055】
次に、図5(d)に示すように、被溶接部10の亀裂6表面にスポット溶接部12が形成される(溶接工程)。この場合、まず、溶接ヘッド9を被溶接部10に対して、蒸発工程に引き続いて静止させたまま、溶接ヘッド9のレーザ発光部22から発せられたレーザ1を被溶接部10の亀裂6表面に対して照射させて、亀裂6表面を加熱させる。このことにより、亀裂6表面の周辺の母材を溶融させ、同時に、この亀裂6表面に対して溶加材供給部11から溶加材11aを供給する。このことにより、被溶接部10の亀裂6表面を溶接により埋めて、スポット溶接部12が形成される。
【0056】
以上により、図5(a)に示した気相空間形成工程、図5(b)、(c)に示した蒸発工程、図5(d)に示した溶接工程を経て、本実施の形態による水中溶接方法の1サイクルの工程が完了する。
【0057】
このように、本実施の形態によれば、亀裂6内部から水6aを蒸発させるために被溶接部10を加熱する蒸発工程が完了した後、被溶接部10の亀裂6表面を溶接するために亀裂6表面を加熱させる溶接工程に移行する間、溶接ヘッド9を被溶接部10に対して静止させておく。このため、溶接ヘッド9から噴射されたシールドガス5により形成された気相空間が移動することがない。このことにより、被溶接部10の亀裂6内部に水6aが残存することを防止することができる。
【0058】
また、被溶接部10から発せられる光の発光強度の時間変化を計測することにより、亀裂6周辺部分の温度分布が定常状態に達したと判定されるまで蒸発工程が継続される。このことにより、被溶接部10が十分に加熱される。このため、亀裂6内部から水6aを確実に蒸発させることができる。したがって、被溶接部10の亀裂6内部に水6aが残存することを防止することができる。
【0059】
このように、亀裂6内部に水6aが残存することがないため、溶融金属7が脱離することはなく、亀裂6表面に溶接欠陥8(図12参照)が形成されることを防止することができる。このことにより、亀裂6表面に対して精度良くスポット溶接部12を形成することができる。
【0060】
第3の実施の形態
次に、図6により、本発明による水中溶接方法の第3の実施の形態について説明する。ここで、図6(a)、(b)、(c)は、水中溶接方法を説明する図である。
【0061】
図6(a)、(b)、(c)に示す第3の実施の形態は、亀裂6内部から水6aを蒸発させるために被溶接部10に対して高温ガス14を噴出させるものであり、他の構成は、図1乃至図4に示す第1の実施の形態と略同一である。
【0062】
本実施の形態において、図1乃至図4に示す第1の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。ここで、図6(a)は、溶接ヘッド9先端と被溶接部10との間に気相空間を形成する方法を説明する図であり、図6(b)は、被溶接部10の亀裂6内部から水6aを蒸発させる方法を説明する図であり、図6(c)は、被溶接部10の亀裂6表面を溶接により埋める方法を説明する図である。
【0063】
本実施の形態による水中溶接方法において、まず、図2および図6(a)に示すように、溶接ヘッド9先端と被溶接部10との間に気相空間が形成される(気相空間形成工程)。この場合、被溶接部10に対して溶接ヘッド9からシールドガス5を噴出させる。このことにより、溶接ヘッド9先端と被溶接部10との間に気相空間を形成させることができる。
【0064】
次に、図2および図6(b)に示すように、被溶接部10の亀裂6内部から水6aを蒸発させる(蒸発工程)。この場合、まず、溶接ヘッド9を被溶接部10に対して静止させたまま、溶接ヘッド9から高温ガス14を噴出させて、一定時間被溶接部10を加熱させる。また、高温ガス14が噴出される被溶接部10の亀裂6表面が溶融されることがないように、高温ガス14の温度を調整する。このことにより、亀裂6表面が溶融されることなく加熱される。このため、亀裂6内部に水6aが残存したまま亀裂6表面が溶融されて埋められることがない。
【0065】
このような蒸発工程は、亀裂6周辺部分の温度分布が定常状態に達したと判定されるまで継続して行われる。亀裂6周辺部分の温度分布が定常状態に達すると、図6(b)に示すように、亀裂6周辺部分の温度分布を示す等温線13が拡大されることなく停止している。
【0066】
次に、図6(c)に示すように、被溶接部10の亀裂6表面にスポット溶接部12が形成される(溶接工程)。この場合、まず、溶接ヘッド9を被溶接部10に対して、蒸発工程に引き続いて静止させたまま、溶接ヘッド9のレーザ発光部22から発せられたレーザ1を被溶接部10の亀裂6表面に対して照射させて、亀裂6表面を加熱させる。このことにより、亀裂6表面の周辺の母材を溶融させ、同時に、この亀裂6表面に対して溶加材供給部11から溶加材11aを供給する。このことにより、被溶接部10の亀裂6表面を溶接により埋めて、スポット溶接部12が形成される。
【0067】
以上により、図6(a)に示した気相空間形成工程、図6(b)に示した蒸発工程、図6(c)に示した溶接工程を経て、本実施の形態による水中溶接方法の1サイクルの工程が完了する。
【0068】
このように、本実施の形態によれば、亀裂6内部から水6aを蒸発させるために被溶接部10を加熱する蒸発工程が完了した後、被溶接部10の亀裂6表面を溶接するために亀裂6表面を加熱させる溶接工程に移行する間、溶接ヘッド9を被溶接部10に対して静止させておく。このため、溶接ヘッド9から噴射されたシールドガス5により形成された気相空間が移動することがない。このことにより、被溶接部10の亀裂6内部に水6aが残存することを防止することができる。
【0069】
また、亀裂6周辺部分の温度分布が定常状態に達したと判定されるまで蒸発工程が継続される。このことにより、被溶接部10を十分に加熱することができる。また、蒸発工程においては、被溶接部10に対して噴出される高温ガス14が、亀裂6表面が溶融されることのない温度に維持されている。このため、亀裂6内部に水6aを残存させたまま、亀裂6表面を溶融して埋めることなく、亀裂6内部から水6aを確実に蒸発させることができる。したがって、被溶接部10の亀裂6内部に水6aが残存することを防止することができる。
【0070】
このように、亀裂6内部に水6aが残存することがないため、溶融金属7が脱離することはなく、亀裂6表面に溶接欠陥8(図12参照)が形成されることを防止することができる。このことにより、亀裂6表面に対して精度良くスポット溶接部12を形成することができる。
【0071】
第4の実施の形態
次に、図7により、本発明による水中溶接方法の第4の実施の形態について説明する。ここで、図7(a)、(b)、(c)、(d)は、水中溶接方法を説明する図である。
【0072】
図7(a)、(b)、(c)、(d)に示す第4の実施の形態は、集光レンズ26と被溶接部10との距離を調整するものであり、他の構成は、図1乃至図4に示す第1の実施の形態と略同一である。
【0073】
本実施の形態において、図1乃至図4に示す第1の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。ここで、図7(a)は、溶接ヘッド9先端と被溶接部10との間に気相空間を形成する方法を説明する図であり、図7(b)は、被溶接部10の亀裂6内部から水6aを蒸発させる際に、被溶接部10の亀裂6周辺部分の温度分布が変化している状態を説明する図であり、図7(c)は、被溶接部10の亀裂6内部から水6aを蒸発させる際に、被溶接部10の亀裂6周辺部分の温度分布が定常状態に達した状態を説明する図であり、図7(d)は、被溶接部10の亀裂6表面を溶接により埋める方法を説明する図である。
【0074】
本実施の形態による水中溶接方法において、まず、図2および図7(a)に示すように、溶接ヘッド9先端と被溶接部10との間に気相空間が形成される(気相空間形成工程)。この場合、被溶接部10に対して溶接ヘッド9からシールドガス5を噴出させる。このことにより、溶接ヘッド9先端と被溶接部10との間に気相空間を形成させることができる。
【0075】
次に、図2および図7(b)に示すように、被溶接部10の亀裂6内部から水6aを蒸発させる(蒸発工程)。この場合、まず、溶接ヘッド9を被溶接部10に対して静止させたまま、溶接ヘッド9のレーザ発光部22から発せられたレーザ1を被溶接部10に対して照射させて、一定時間被溶接部10を加熱させる。この際、被溶接部10を加熱させるために被溶接部10に対して溶接ヘッド9の集光レンズ26を介してレーザ1が照射される。
【0076】
ここで、亀裂6内部から水6aを蒸発させるために、亀裂6表面が溶融しないようにする。このため、蒸発工程において、溶接部10に対して照射されるレーザ1のビーム径15aが、溶接工程において被溶接部10の亀裂6表面に対して溶接を行う時に亀裂6表面に対して照射されるレーザ1のビーム径15bよりも大きくなるように、集光レンズ26と被溶接部10との距離L3が調整される。このことにより、被溶接部10に対して照射されるレーザ1が局所的に集中されることがなく、被溶接部10の亀裂6表面が溶融されることはない。このため、亀裂6内部に水6aが残存したまま亀裂6表面が溶融されて埋められることがない。
【0077】
ところで、蒸発工程の初期段階においては、亀裂6周辺の温度が安定することなく上昇していく。この場合、図7(b)に示すように、亀裂6周辺部分の温度分布を示す等温線13が、停止することなく、亀裂6表面を中心として拡大されていく。
【0078】
このような蒸発工程は、亀裂6周辺部分の温度分布が定常状態に達したと判定されるまで継続して行われる。亀裂6周辺部分の温度分布が定常状態に達すると、図7(c)に示すように、亀裂6周辺部分の温度分布を示す等温線13が拡大されることなく停止している。
【0079】
亀裂6周辺部分の温度分布が定常状態に達したと判定された後、図7(d)に示すように、被溶接部10の亀裂6表面にスポット溶接部12が形成される(溶接工程)。この場合、まず、溶接ヘッド9の集光レンズ26を移動させる。この際、光センサ27に連結された検出装置28は、集光レンズ26を駆動する集光レンズ駆動機構30に駆動指令を与えるために、検出装置28に連結されたコントローラ29に信号を出力する。検出装置28が出力した信号を受けて、コントローラ29は集光レンズ駆動機構30に駆動指令を与える。次に、コントローラ29から与えられた駆動指令により集光レンズ駆動機構30が集光レンズ26を駆動させる。
【0080】
溶接工程において、亀裂6表面を溶接する場合には、亀裂6表面を溶融させるようにする。このため、溶接工程において、亀裂6表面に対して照射されるレーザ1のビーム径15bが、蒸発工程において被溶接部10に対して加熱する時に被溶接部10に対して照射されるレーザ1のビーム径15aよりも小さくなるように、集光レンズ26と被溶接部10との距離L4が調整される。
【0081】
次に、溶接ヘッド9を被溶接部10に対して、蒸発工程に引き続いて静止させたまま、溶接ヘッド9のレーザ発光部22から発せられたレーザ1を被溶接部10の亀裂6表面に対して照射させて、亀裂6表面を加熱させる。このことにより、亀裂6表面に対して照射されるレーザ1が集中されるため、亀裂6表面の周辺の母材を溶融させ、同時に、溶加材供給部11から溶加材11aを供給させることにより、被溶接部10の亀裂6表面を溶接により埋めて、スポット溶接部12を形成させる。
【0082】
また、上述した溶接工程において、被溶接部10の亀裂6表面に対して照射されるレーザ1の出力は、上述した蒸発工程において被溶接部10に対して照射されるレーザ1の出力よりも小さくする。このことにより、亀裂6周辺の温度を蒸発工程時よりも上昇させることがない。
【0083】
以上により、図7(a)に示した気相空間形成工程、図7(b)、(c)に示した蒸発工程、図7(d)に示した溶接工程を経て、本実施の形態による水中溶接方法の1サイクルの工程が完了する。
【0084】
このように、本実施の形態によれば、亀裂6内部から水6aを蒸発させるために被溶接部10を加熱する蒸発工程が完了した後、被溶接部10の亀裂6表面を溶接するために亀裂6表面を加熱させる溶接工程に移行する間、溶接ヘッド9を被溶接部10に対して静止させておく。このため、溶接ヘッド9から噴射されたシールドガス5により形成された気相空間が移動することがない。このことにより、被溶接部10の亀裂6内部に水6aが残存することを防止することができる。
【0085】
また、亀裂6周辺部分の温度分布が定常状態に達したと判定されるまで蒸発工程が継続される。このことにより、被溶接部10を十分に加熱することができる。また、蒸発工程においては、被溶接部10に対して照射されるレーザ1のビーム径15aが比較的大きいことから、被溶接部10の亀裂6表面が溶融されることなく加熱される。このため、亀裂6内部に水6aを残存させたまま、亀裂6表面を溶融して埋めることなく、亀裂6内部から水6aを確実に蒸発させることができる。したがって、被溶接部10の亀裂6内部に水6aが残存することを防止することができる。
【0086】
また、本実施の形態によれば、蒸発工程において、加熱されている被溶接部10から発せられる光の発光強度を計測し、その発光強度が定常状態に達したと判定された後に集光レンズ26を集光レンズ駆動機構30により駆動させて、溶接工程に移行する。このため、蒸発工程から溶接工程への移行を、自動的に行うことができる。
【0087】
また、溶接工程においては、亀裂6表面に対して照射されるレーザ1の出力が、蒸発工程において被溶接部10に対して照射されるレーザ1の出力よりも小さい。このため、亀裂6周辺の温度を蒸発工程時よりも上昇させることがない。つまり、亀裂6表面に溶接を行う際、亀裂6内部の温度が、蒸発工程時の亀裂6内部の温度よりも高くなることはない。このため、亀裂6内部に水が残存した状態にて亀裂6表面に対して溶接を行った場合においても、亀裂6内部に残存している水6aをこれ以上蒸発させることがない。
【0088】
このように、亀裂6内部に水6aが残存することがないため、溶融金属7が脱離することはなく、亀裂6表面に溶接欠陥8(図12参照)が形成されることを防止することができる。このことにより、亀裂6表面に対して精度良くスポット溶接部12を形成することができる。
【0089】
第5の実施の形態
次に、図8により、本発明による水中溶接方法の第5の実施の形態について説明する。ここで、図8(a)、(b)、(c)、(d)は、水中溶接方法を説明する図である。
【0090】
図8(a)、(b)、(c)、(d)に示す第5の実施の形態は、亀裂6内部から水6aを蒸発させるために被溶接部10に対して連続波のレーザ(CWレーザ)16が照射され、亀裂6表面に溶接を行うために亀裂6表面に対してパルスレーザ17が照射されるものであり、他の構成は、図1乃至図4に示す第1の実施の形態と略同一である。
【0091】
本実施の形態において、図1乃至図4に示す第1の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。ここで、図8(a)は、溶接ヘッド9先端と被溶接部10との間に気相空間を形成する方法を説明する図であり、図8(b)は、被溶接部10の亀裂6内部から水6aを蒸発させる際に、被溶接部10の亀裂6周辺部分の温度分布が変化している状態を説明する図であり、図8(c)は、被溶接部10の亀裂6内部から水6aを蒸発させる際に、被溶接部10の亀裂6周辺部分の温度分布が定常状態に達した状態を説明する図であり、図8(d)は、被溶接部10の亀裂6表面を溶接により埋める方法を説明する図である。
【0092】
本実施の形態による水中溶接方法において、まず、図2および図8(a)に示すように、溶接ヘッド9先端と被溶接部10との間に気相空間が形成される(気相空間形成工程)。この場合、被溶接部10に対して溶接ヘッド9からシールドガス5を噴出させる。このことにより、溶接ヘッド9先端と被溶接部10との間に気相空間を形成させることができる。
【0093】
次に、図2および図8(b)に示すように、被溶接部10の亀裂6内部から水6aを蒸発させる(蒸発工程)。この場合、まず、溶接ヘッド9を被溶接部10に対して静止させたまま、溶接ヘッド9のレーザ発光部22から発せられたレーザ1を被溶接部10に対して照射させて、一定時間被溶接部10を加熱させる。この際、被溶接部10に対して照射されるレーザ1は、連続波のレーザ16からなっている。また、連続波のレーザ16が照射される被溶接部10の亀裂6表面が溶融されることがないように、連続波のレーザ16の出力を調整する。このため、亀裂6内部に水6aが残存したまま亀裂6表面が溶融されて埋められることがない。
【0094】
ところで、蒸発工程の初期段階においては、亀裂6周辺の温度が安定することなく上昇していく。この場合、図8(b)に示すように、亀裂6周辺部分の温度分布を示す等温線13が、停止することなく、亀裂6表面を中心として拡大されていく。
【0095】
このような蒸発工程は、亀裂6周辺部分の温度分布が定常状態に達したと判定されるまで継続して行われる。この場合、図8(c)に示すように、亀裂6周辺部分の温度分布を示す等温線13が拡大されることなく停止している。
【0096】
次に、亀裂6周辺部分の温度分布が定常状態に達したと判定された後、図8(d)に示すように、被溶接部10の亀裂6表面に対してスポット溶接部12が形成される(溶接工程)。この場合、まず、溶接ヘッド9を被溶接部10に対して、蒸発工程に引き続いて静止させたまま、溶接ヘッド9のレーザ発光部22から発せられたレーザ1を被溶接部10の亀裂6表面に対して照射させて、亀裂6表面を加熱させる。この際、亀裂6表面に対して照射されるレーザ1は、パルスレーザ17からなっている。このことにより、パルスレーザ17のピーク時における高い出力により亀裂6表面の周辺の母材を溶融させ、同時に、この亀裂6表面に対して溶加材供給部11から溶加材11aを供給する。このことにより、被溶接部10の亀裂6表面を溶接により埋めて、スポット溶接部12が形成される。
【0097】
また、上述した溶接工程において、被溶接部10の亀裂6表面に対して照射されるパルスレーザ17の平均出力は、上述した蒸発工程において被溶接部10に対して照射される連続波のレーザ16の出力よりも小さくする。このことにより、亀裂6周辺の温度を蒸発工程時よりも上昇させることがない。
【0098】
以上により、図8(a)に示した気相空間形成工程、図8(b)、(c)に示した蒸発工程、図8(d)に示した溶接工程を経て、本実施の形態による水中溶接方法の1サイクルの工程が完了する。
【0099】
このように、本実施の形態によれば、亀裂6内部から水6aを蒸発させるために被溶接部10を加熱する蒸発工程が完了した後、被溶接部10の亀裂6表面を溶接するために亀裂6表面を加熱させる溶接工程に移行する間、溶接ヘッド9を被溶接部10に対して静止させておく。このため、溶接ヘッド9から噴射されたシールドガス5により形成された気相空間が移動することがない。このことにより、被溶接部10の亀裂6内部に水6aが残存することを防止することができる。
【0100】
また、亀裂6周辺部分の温度分布が定常状態に達したと判定されるまで蒸発工程が継続される。このことにより、被溶接部10を十分に加熱することができる。また、蒸発工程においては、被溶接部10に対して照射される連続波のレーザ16が、被溶接部10の亀裂6表面が溶融されることのない出力により被溶接部10に対して照射される。このため、亀裂6内部に水6aを残存させたまま、亀裂6表面を溶融して埋めることなく、亀裂6内部から水6aを確実に蒸発させることができる。したがって、被溶接部10の亀裂6内部に水6aが残存することを防止することができる。
【0101】
また、溶接工程においては、亀裂6表面に対して照射されるパルスレーザ17の平均出力が、蒸発工程において被溶接部10に対して照射される連続波のレーザ16の出力よりも小さい。このため、亀裂6周辺の温度を蒸発工程時よりも上昇させることがない。つまり、亀裂6表面に溶接を行う際、亀裂6内部の温度が、蒸発工程時の亀裂6内部の温度よりも高くなることはない。このため、亀裂6内部に水が残存した状態にて亀裂6表面に対して溶接を行った場合においても、亀裂6内部に残存している水6aをこれ以上蒸発させることがない。
【0102】
このように、亀裂6内部に水6aが残存することがないため、溶融金属7が脱離することはなく、亀裂6表面に溶接欠陥8(図12参照)が形成されることを防止することができる。このことにより、亀裂6表面に対して精度良くスポット溶接部12を形成することができる。
【0103】
第6の実施の形態
次に、図9により、本発明による水中溶接方法の第6の実施の形態について説明する。ここで、図9(a)、(b)、(c)、(d)は、蒸発工程と溶接工程の熱源の組合せを説明する図である。
【0104】
図9(a)、(b)、(c)、(d)に示す第6の実施の形態は、蒸発工程における熱源と溶接工程における熱源との組合せを変えるものであり、他の構成は、図1乃至図4に示す第1の実施の形態と略同一である。
【0105】
本実施の形態において、図1乃至図4に示す第1の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。ここで、図9(a)は、蒸発工程における熱源として高温ガス14を用いる場合を説明する図であり、図9(b)は、溶接工程における熱源としてレーザ1を用いる場合を説明する図であり、図9(c)は、蒸発工程における熱源として高周波加熱コイル18を用いる場合を説明する図であり、図9(d)は、溶接工程における熱源としてレーザ1を用いる場合を説明する図である。
【0106】
本実施の形態による水中溶接方法において、まず、図2および図9に示すように溶接ヘッド9先端と被溶接部10との間に気相空間が形成される(気相空間形成工程)。この場合、被溶接部10に対して溶接ヘッド9からシールドガス5を噴出させる。このことにより、溶接ヘッド9先端と被溶接部10との間に気相空間を形成させることができる。
【0107】
次に、図2および図9に示すように、被溶接部10の亀裂6内部から水6aを蒸発させる(蒸発工程)。この蒸発工程において、被溶接部10を加熱させるために、溶接ヘッド9からレーザ1、アーク、プラズマ、高周波18、および高温ガス14のうちいずれか一つが照射される。
【0108】
図9(a)に示すように、蒸発工程における熱源として高温ガス14を用いる場合、溶接ヘッド9を被溶接部10に対して静止させたまま、溶接ヘッド9から高温ガス14を噴出させて、一定時間被溶接部10を加熱させる。また、高温ガス14が噴出される被溶接部10の亀裂6表面が溶融されることがないように、高温ガス14の温度を調整する。このことにより、亀裂6表面が溶融されることなく加熱される。このため、亀裂6内部に水6aが残存したまま亀裂6表面が溶融されて埋められることがない。
【0109】
なお、図9(c)に示すように、蒸発工程における熱源として、高温ガス14の代わりに高周波加熱コイル18を用いても良い。
【0110】
このような蒸発工程は、亀裂6周辺部分の温度分布が定常状態に達したと判定されるまで継続して行われる。この場合、図9(c)に示すように、亀裂6周辺部分の温度分布を示す等温線13が拡大されることなく停止している。
【0111】
次に、被溶接部10の亀裂6表面にスポット溶接部12が形成される(溶接工程)。この溶接工程において、被溶接部10の亀裂6表面を加熱させるために、溶接ヘッド9からレーザ1、アーク、プラズマ、高周波18のうちのいずれか一つが照射される。
【0112】
図9(b)に示すように、この溶接工程における熱源としてレーザ1を用いる場合、まず、溶接ヘッド9を被溶接部10に対して、蒸発工程に引き続いて静止させたまま、溶接ヘッド9のレーザ発光部22から発せられたレーザ1を被溶接部10の亀裂6表面に対して照射させて、亀裂6表面を加熱させる。このことにより、亀裂6表面の周辺の母材を溶融させ、同時に、この亀裂6表面に対して溶加材供給部11から溶加材11aを供給する。このことにより、被溶接部10の亀裂6表面を溶接により埋めて、スポット溶接部12が形成される。
【0113】
また、上述した溶接工程において被溶接部10の亀裂6表面に対して照射されるレーザ1の出力は、上述した蒸発工程において被溶接部10に対して噴出される高温ガス14の温度から決まる出力よりも小さくする。このことにより、亀裂6周辺の温度を蒸発工程時よりも上昇させることがない。
【0114】
また、図9(c)に示すように、蒸発工程における熱源として、高温ガス14の代わりに高周波加熱コイル18を用いた場合においても、図9(d)に示すように、溶接工程における熱源として、レーザ1を用いても良い。
【0115】
以上により、気相空間形成工程、図9(a)、(c)に示した蒸発工程、図9(b)、(d)に示した溶接工程を経て、本実施の形態による水中溶接方法の1サイクルの工程が完了する。
【0116】
このように、本実施の形態によれば、亀裂6内部から水6aを蒸発させるために被溶接部10を加熱する蒸発工程が完了した後、被溶接部10の亀裂6表面を溶接するために亀裂6表面を加熱させる溶接工程に移行する間、溶接ヘッド9を被溶接部10に対して静止させておく。このため、溶接ヘッド9から噴射されたシールドガス5により形成された気相空間が移動することがない。このことにより、被溶接部10の亀裂6内部に水6aが残存することを防止することができる。
【0117】
また、亀裂6周辺部分の温度分布が定常状態に達したと判定されるまで蒸発工程が継続される。このことにより、被溶接部10を十分に加熱することができる。また、蒸発工程においては、被溶接部10に対して噴出される高温ガス14が、亀裂6表面が溶融されることのない温度に維持される。このため、亀裂6内部に水6aを残存させたまま、亀裂6表面を溶融して埋めることなく、亀裂6内部から水6aを確実に蒸発させることができる。したがって、被溶接部10の亀裂6内部に水6aが残存することを防止することができる。
【0118】
また、溶接工程においては、亀裂6表面に対して照射されるレーザ1の出力が、蒸発工程において被溶接部10に対して噴出される高温ガス14の温度から決まる出力よりも小さい。このため、亀裂6周辺の温度を蒸発工程時よりも上昇させることがない。つまり、亀裂6表面に溶接を行う際、亀裂6内部の温度が、蒸発工程時の亀裂6内部の温度よりも高くなることはない。このため、亀裂6内部に水が残存した状態にて亀裂6表面に対して溶接を行った場合においても、亀裂6内部に残存している水6aをこれ以上蒸発させることがない。
【0119】
このように、亀裂6内部に水6aが残存することがないため、溶融金属7が脱離することはなく、亀裂6表面に溶接欠陥8(図12参照)が形成されることを防止することができる。このことにより、亀裂6表面に対して精度良くスポット溶接部12を形成することができる。
【0120】
また、本実施の形態によれば、蒸発工程および溶接工程における熱源として、異なる熱源を用いた場合においても、精度良くスポット溶接部12を形成させることができる。
【0121】
第7の実施の形態
次に、図10により、本発明による水中溶接装置の第7の実施の形態について説明する。ここで、図10は、カメラユニットを用いた水中溶接装置の全体構成を説明する図である。
【0122】
図10に示す第7の実施の形態は、光センサ27の代わりにカメラユニット31および画像処理装置32を用いて集光レンズ駆動機構30を制御するものであり、他の構成は、図2に示す第7の実施の形態と略同一である。
【0123】
本実施の形態において、図1乃至図4に示す第1の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0124】
図10に示すように、本実施の形態による水中溶接装置において、被溶接部10近傍には、レーザ1を照射することにより加熱された被溶接部10から発せられる光の発光領域を撮影するカメラユニット31が設けられている。また、カメラユニット31には、カメラユニット31が撮影した画像から、ある一定の発光強度以上の発光領域が有する面積を計測する画像処理装置32が連結されている。また、画像処理装置32には、画像処理装置32が計測した面積が定常状態になった場合に信号を出力する検出装置28が連結されている。さらに、検出装置28には、検出装置28から入力される信号を受けて集光レンズ駆動装置30に駆動指令を与えるコントローラ29が連結されている。
【0125】
本実施の形態によれば、蒸発工程においては、加熱された被溶接部10から光が発せられる。被溶接部10から発せられた光は、溶接ヘッド9の集光レンズ26を透過し、ダイクロイックミラー25で反射される。ダイクロイックミラー25で反射された光の発光領域を被溶接部10近傍に設けられたカメラユニット31で撮影する。カメラユニット31で撮影された画像から、ある一定の発光強度以上の発光領域が有する面積をカメラユニット31に連結された画像処理装置32により計測する。
【0126】
次に、画像処理装置32に連結された検出装置28により、ある一定の発光強度以上の発光領域が有する面積を計測した画像処理装置32からの出力値がある一定値で時間変化するか否かが計測される。この場合、蒸発工程における被溶接部10から発せられる光の発光強度は被溶接部10の温度に依存する。また、画像処理装置32が計測する、ある一定の発光強度以上の発光領域とは、被溶接部10における、ある一定の温度以上の領域を意味している。このため、被溶接部10から発せられる光の発光領域を撮影した画像からある一定の発光強度以上の発光領域が有する面積を計測している画像処理装置32の出力値は、被溶接部10の温度に依存する値となる。このことにより、画像処理装置32の出力値がある一定値で時間変化することなく安定した場合には、被溶接部10のうち、亀裂6周辺部分の温度分布が定常状態に達したと判定される。このように、亀裂6周辺部分の温度が安定しているときは、亀裂6内部から水6aが蒸発することがない。
【0127】
このような蒸発工程は、画像処理装置32からの出力値がある一定値で時間変化することなく安定するまで継続して行われる。つまり、亀裂6周辺部分の温度分布が定常状態に達したと判定されるまで継続して行われる。
【0128】
亀裂6周辺部分の温度分布が定常状態に達したと判定された後、被溶接部10の亀裂6表面にスポット溶接部12が形成される溶接工程に移行する。この場合には、画像処理装置32に連結された検出装置28が、集光レンズ26を駆動する集光レンズ駆動機構30に駆動指令を与えるために、検出装置28に連結されたコントローラ29に信号を出力する。検出装置28が出力した信号を受けて、コントローラ29は集光レンズ駆動機構30に駆動指令を与える。次に、コントローラ29から与えられた駆動指令により集光レンズ駆動機構30が集光レンズ26を駆動させる。
【0129】
このように、本実施の形態によれば、蒸発工程において、加熱されている被溶接部10から発せられる光の発光領域を撮影した画像から、ある一定の発光強度以上の発光領域が有する面積を計測し、その面積が定常状態に達したと判定された後に集光レンズ26を集光レンズ駆動機構30により駆動させて、溶接工程に移行する。このため、蒸発工程から溶接工程への移行を、自動的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】本発明の第1の実施の形態における水中溶接方法を説明する図。
【図2】本発明の第1の実施の形態における光センサを用いた水中溶接装置の全体構成を説明する図。
【図3】本発明の第1の実施の形態におけるスポット溶接部の形成方法を説明する図。
【図4】本発明の第1の実施の形態におけるスポット溶接部の積層方法を説明する図。
【図5】本発明の第2の実施の形態における水中溶接方法を説明する図。
【図6】本発明の第3の実施の形態における水中溶接方法を説明する図。
【図7】本発明の第4の実施の形態における水中溶接方法を説明する図。
【図8】本発明の第5の実施の形態における水中溶接方法を説明する図。
【図9】本発明の第6の実施の形態における蒸発工程と溶接工程の熱源の組合せを説明する図。
【図10】本発明の第7の実施の形態におけるカメラユニットを用いた水中溶接装置の全体構成を説明する図。
【図11】シールドカバーを用いた従来の水中溶接方法を説明する図。
【図12】従来の水中溶接方法により発生する溶接欠陥を説明する図。
【符号の説明】
【0131】
1 レーザ
2 集光レンズ
3 溶接部
4 シールドカバー
5 シールドガス
6 亀裂
6a 亀裂内部の水
7 溶融金属
8 溶接欠陥
9 溶接ヘッド
10 被溶接部
11 溶加材供給部
11a 溶加材
12 スポット溶接部
13 等温線
14 高温ガス
15a ビーム径
15b ビーム径
16 連続波のレーザ
17 パルスレーザ
18 高周波加熱コイル
22 レーザ発光部
23 光ファイバー
24 コリメートレンズ
25 ダイクロイックミラー
26 集光レンズ
27 光センサ
28 検出装置
29 コントローラ
30 集光レンズ駆動装置
31 カメラユニット
32 画像処理装置
33 直線状スポット溶接部
34 平面状スポット溶接部
35 立体状スポット溶接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中にある亀裂を含む被溶接部に対して溶接ヘッドにより溶接を行う水中溶接方法において、
被溶接部に対して溶接ヘッドからシールドガスを噴出させることにより、溶接ヘッド先端と被溶接部との間に気相空間を形成する気相空間形成工程と、
溶接ヘッドを被溶接部に対して静止させたまま、一定時間被溶接部を加熱させることにより被溶接部の亀裂内から水を蒸発させる蒸発工程と、
溶接ヘッドを被溶接部に対して、蒸発工程に引き続いて静止させたまま、溶接ヘッドにより被溶接部の亀裂表面を加熱させることにより溶融させ、この亀裂表面に対して溶加材を供給することにより、被溶接部の亀裂表面を溶接により埋めてスポット溶接部を形成する溶接工程と、を備えたことを特徴とする水中溶接方法。
【請求項2】
蒸発工程は、被溶接部を加熱させることによって、亀裂周辺に形成された温度分布が定常状態に達するまで継続することを特徴とする請求項1に記載の水中溶接方法。
【請求項3】
蒸発工程において、被溶接部を加熱させるために被溶接部に対して溶接ヘッド内の集光レンズを介してレーザが照射され、被溶接部に対して照射されるレーザのビーム径は、溶接工程の時よりも大きくなるように、集光レンズと被溶接部との距離が調整され、
溶接工程において、被溶接部の亀裂表面を加熱させるために亀裂表面に対して溶接ヘッド内の集光レンズを介してレーザが照射され、亀裂表面に対して照射されるレーザのビーム径は、蒸発工程の時よりも小さくなるように、集光レンズと被溶接部との距離が調整されることを特徴とする請求項1または2に記載の水中溶接方法。
【請求項4】
溶接工程において、被溶接部の亀裂表面に対して照射されるレーザの出力は、蒸発工程において被溶接部に対して照射されるレーザの出力よりも小さくなることを特徴とする請求項3に記載の水中溶接方法。
【請求項5】
蒸発工程において、被溶接部を加熱するために被溶接部に対して連続波のレーザが照射され、
溶接工程において、被溶接部の亀裂表面を加熱するために亀裂表面に対して溶接ヘッドからパルスレーザが照射されることを特徴とする請求項1または2に記載の水中溶接方法。
【請求項6】
溶接工程において、被溶接部の亀裂表面に対して照射されるパルスレーザの平均出力は、蒸発工程において被溶接部に対して照射される連続波のレーザの出力よりも小さくなることを特徴とする請求項5に記載の水中溶接方法。
【請求項7】
蒸発工程において、被溶接部を加熱させるために、溶接ヘッドからレーザ、アーク、プラズマ、高周波、および高温ガスのうちいずれか一つが照射され、
溶接工程において、被溶接部の亀裂表面を加熱させるために、溶接ヘッドからレーザ、アーク、プラズマ、高周波のうちのいずれか一つが照射されることを特徴とする請求項1または2に記載の水中溶接方法。
【請求項8】
気相空間形成工程、蒸発工程、および溶接工程からなる1サイクルの工程において形成されたスポット溶接部により単位スポット溶接部を形成し、単位スポット溶接部を直線状に一定の間隔で配置し、かつ互いに重ね合わせることにより、直線状に連続する直線状スポット溶接部を形成し、さらに直線状に形成された直線状スポット溶接部を一定の間隔で並べて配置し、かつ互いに重ね合わせることにより、平面状に連続する平面状スポット溶接部を形成することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の水中溶接方法。
【請求項9】
平面状に形成された平面状スポット溶接部を積層させることにより、立体状に連続する立体状スポット溶接部が形成されることを特徴とする請求項8に記載の水中溶接方法。
【請求項10】
水中にある亀裂を含む被溶接部に対して溶接ヘッドにより溶接を行う水中溶接装置において、
溶接ヘッドは、少なくとも、レーザを発光するレーザ発光部と、
レーザ発光部からのレーザを、被溶接部に対して集光するための集光レンズと、を備え、
集光レンズに、集光レンズを駆動させる集光レンズ駆動機構が連結され、
被溶接部近傍に、レーザにより加熱された被溶接部から発せられる光の発光強度を計測する光センサが設けられ、
光センサに、光センサが計測した発光強度が定常状態に達した場合に信号を出力する検出装置が連結され、
検出装置に、検出装置から入力される信号を受けて集光レンズ駆動装置に駆動指令を与えるコントローラが連結されていることを特徴とする水中溶接装置。
【請求項11】
水中にある亀裂を含む被溶接部に対して溶接ヘッドにより溶接を行う水中溶接装置において、
溶接ヘッドは、少なくとも、レーザを発光するレーザ発光部と、
レーザ発光部からのレーザを、被溶接部に対して集光するための集光レンズと、を備え、
集光レンズに、集光レンズを駆動させる集光レンズ駆動機構が連結され、
被溶接部近傍に、レーザを照射することにより加熱された被溶接部から発せられる光の発光領域を撮影するカメラユニットが設けられ、
カメラユニットに、カメラユニットが撮影した画像から、ある一定の発光強度以上の発光領域が有する面積を計測する画像処理装置が連結され、
画像処理装置に、画像処理装置が計測した面積が定常状態になった場合に信号を出力する検出装置が連結され、
検出装置に、検出装置から入力される信号を受けて集光レンズ駆動装置に駆動指令を与えるコントローラが連結されることを特徴とする水中溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−296263(P2008−296263A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146730(P2007−146730)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】