説明

水中音響送波器

【課題】音響放射能力の維持を図りながら、共振周波数の低周波数化ないし小型化を実現する水中音響送波器を提供すること。
【解決手段】水中音響送波器1は、断面が楕円の筒状ハウジングである楕円シェル2、振動素子3a積層体からなるアクティブ柱状体3、アクティブ柱状体3の振動変位を楕円シェル2に伝導するヒンジ部4、及び楕円シェル2の内壁に複数の突起部5を有する。突起部5は、第1材質5aと、第1材質5aよりも高密度の第2材質5bから形成される。突起部5の重心は、突起部5が単一の材質で形成されている場合の重心の位置より突起部の開放端側にある。好ましくは、突起部5の総体積における第2材質5bの体積割合は、20%〜60%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中において音波を送波する水中音響送波器に関する。
【背景技術】
【0002】
水中において、低周波音波は高周波音波と比較して伝搬損失が少なく、より遠方まで到達できる。そのため、低周波音波は、ソナー、海洋資源探査、海流の調査などの分野において利用されている。この低周波音波の探知能力にとっては、音波を発生させる音源のハイパワー化が重要事項である。このようなハイパワーを有する低周波送波器の代表的な存在として、特許文献1〜3及び非特許文献1に記載されているようなフレックステンショナル・トランスデューサ(Flextensional Transducer)(水中音響送波器)が知られている。図6に、特許文献2〜3及び非特許文献1に記載されている水中音響送波器の概略断面図を示す。水中音響送波器11は、断面が楕円の筒状ハウジングである楕円シェル12、圧電セラミックである複数の振動素子13aが楕円シェル12の長軸に沿って積層したアクティブ柱状体13、及びアクティブ柱状体13の振動変位を楕円シェル12に伝達するヒンジ部14を有する。
【0003】
水中音響送波器11の音波放射の動作について説明する。アクティブ柱状体13に電気エネルギーが供給されると、圧電効果によりアクティブ柱状体13は積層方向(楕円シェル12の長軸方向)に振動変位(機械エネルギー)を発生する。この振動変位は、ヒンジ部14を通じて楕円シェル12に伝導する。これにより、楕円シェル12は、長軸方向と短軸方向で伸長と収縮を交互に繰り返す伸縮運動を行う。図6に、楕円シェル12が長軸方向に伸長したときの変位を矢印で示す。楕円シェル12が長軸方向に伸長したとき、楕円シェル12は短軸方向に収縮する。このとき、短軸方向の変位は、長軸方向の変位よりも大きくなる。そして、楕円シェル12が長軸方向に復元(収縮)するとき、短軸方向にも同時に復元(伸長)する。すなわち、楕円シェル12がこの伸縮運動を繰り返すことにより、音波が楕円シェル12から放射される。
【0004】
ここで、楕円シェル12の共振周波数を低くするためには、楕円シェル12の寸法を大きくするか、又は楕円シェル12を薄肉化する必要がある。図7に示すような特許文献1に記載の水中音響送波器11においては、楕円シェル12の内側の一部に、単一の材質からなる複数の突起部15を設けている。この突起部15は楕円シェル12の見かけの密度を増加させている。これにより、特許文献1に記載の水中音響送波器11においては、水中音響送波器11の大きさを変更することなく、また楕円シェル12の厚さを薄くすることなく、固有振動数の低下を図っている。
【0005】
【特許文献1】特開昭62−135100号公報
【特許文献2】特開平5−56494号公報
【特許文献3】米国特許3277433号明細書
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・アコースティカル・ソサイアティー・オブ・アメリカ(Journal of Acoustical Society of America)、1980年、第68巻、第4号、1046〜1052頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図6に示すような水中音響送波器11において、楕円シェル12は、通常、音響インピーダンスにおいて水と整合が取りやすいアルミニウム合金等で構成されている。しかしながら、アクティブ柱状体13のスチフネス(剛性)は楕円シェル12のスチフネスに比べて相当大きいために、水中音響送波器11の共振周波数は、楕円シェル12自体の共振周波数の2倍ないしそれ以上の値となる。そのため、水中音響送波器11の共振周波数を低くするためには、楕円シェル12自体の伸縮モードに関する共振周波数を低下させる必要がある。
【0007】
そこで、楕円シェル12の共振周波数を低くするためには、楕円シェル12の寸法を大きくするか、又は楕円シェル12の肉厚を薄くする必要がある。しかしながら、楕円シェル12の大型化は、望ましい手段ではない。また、楕円シェル12の薄肉化は、機械的強度を低下させると共に、音響放射能力も低下させることになる。
【0008】
図7に示すような特許文献1に記載の水中音響送波器11においては、楕円シェル12の内側に設けた突起部15により見かけの密度を増加させている。しかしながら、突起部15は、楕円シェル12と同じ軽量材料、例えば密度2,800kg/m程度のアルミニウム合金、で形成されている。そのため、共振周波数を低下させる効果は小さいものとなっている。このアルミニウム合金の突起部15を大きくして共振周波数を低下させようとしても、伸縮時にアクティブ柱状体13(電歪素子13a)と接触しない程度までしか突起部15を大きくすることができない。一方、この突起部15の全体をアルミニウム合金より高密度の材料、例えばステンレススチール等、で形成した場合には、共振周波数をより低下させることはできる。しかしながら、突起部15の重みにより楕円シェル12の変位が小さくなるため、音響送波レベルが大きく低下する(例えば5dB以上)ことになる。
【0009】
本発明の目的は、音響放射能力の維持を図りながらも、共振周波数の低周波数化ないし小型化を実現する水中音響送波器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1視点によれば、筒状ハウジングである楕円シェルの伸縮運動により音波を送波する水中音響送波器において、楕円シェルは、その内面に複数の突起部を有し、複数の突起部のうち少なくとも1つの突起部は、密度が異なる少なくとも2種類の材質で形成され、少なくとも1つの突起部の重心は、少なくとも1つの突起部が単一の材質で形成されている場合の重心の位置より突起部の開放端側にある水中音響送波器を提供する。
【0011】
上記第1視点の好ましい形態によれば、突起部は、少なくとも2種類の材質が、突起部の高さ方向に積層して形成されている。さらに好ましい形態によれば、突起部は、第1材質と、第1材質より高密度の第2材質とが突起部の高さ方向に積層して形成され、第2材質が第1材質より突起部の開放端側にあり、複数の突起部における第2材質の総体積は、複数の突起部の総体積の20%〜60%である。
【0012】
上記第1視点の好ましい形態によれば、楕円シェルの内部に、楕円シェルの長軸に沿って積層された複数の振動素子を有し、楕円シェルは、複数の振動素子の振動運動によって伸縮運動をし、突起部は、楕円シェルの伸縮運動時に振動素子に接触しない。
【0013】
上記第1視点の好ましい形態によれば、楕円シェルの楕円形状を示す断面において、突起部は、楕円シェルと長軸の一端の交点と、楕円シェルと長軸の他端の交点との間において、楕円シェルと短軸の交点を中心として少なくとも50%の領域に形成されている。
【0014】
上記第1視点の好ましい形態によれば、楕円シェルの楕円形状を示す断面において、突起部は、根元側から開放端側に向けて、同径であるか、又は縮径している。
【0015】
上記第1視点の好ましい形態によれば、第1材質はアルミニウム合金であり、第2材質はステンレススチールである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の水中音響送波器においては、突起部が付加質量となる(見かけの密度を増加させる)ことにより、共振周波数を低下させることができる。また、突起部において楕円シェルのより内側に重みを掛けることにより、音響送波レベルの低下を抑制することができる。
【0017】
したがって、本発明の水中音響送波器によれば、全体の外形寸法を大きくすることなく、かつ音響送波レベルを大きく低下させることなく、共振周波数を低下させることができる(または、音響送波レベルを大きく低下させることなく、かつ共振周波数を高くすることなく、小型化することができる)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の第1実施形態に係る水中音響送波器について説明する。図1に、本発明の第1実施形態に係る水中音響送波器の断面図を示す。水中音響送波器1は、フレックステンショナル(Flextensional)型の水中音響送波器である。水中音響送波器1は、断面(開口)が楕円形状の筒状ハウジングである楕円シェル2と、楕円シェル内部において振動素子3aが長軸方向に沿って積層したアクティブ柱状体3と、アクティブ柱状体3の振動変位を楕円シェル2に伝達するヒンジ部4と、複数の突起部5と、を有する。アクティブ柱状体3は、その両端に配したヒンジ部4を介して楕円シェル2の高曲率部分(長軸との交点付近)に接続されている。また、アクティブ柱状体3は、電気信号(電圧)が印加可能に構成されている。アクティブ柱状体3に電気信号が印加されると、アクティブ柱状体3は、楕円シェル2の長軸方向に振動する。アクティブ柱状体3の振動変位により、楕円シェル2は長軸方向と短軸方向で伸長と収縮を交互に繰り返す伸縮運動を行う。このとき、楕円シェル2の特性上、短軸方向の伸縮変位は、長軸方向の伸縮変位(アクティブ柱状体3の振動変位)よりも大きくなる。水中音響送波器1は、この楕円シェル2の伸縮運動により音波を放射する。
【0019】
楕円シェル2の材質は、水中における音響放射に対する音響インピーダンスの整合をとるために、及び大きな音響送波レベルを得るために、アルミニウム合金が好ましい。振動素子3aとしては、板状の圧電素子(電歪素子)又は磁歪素子、例えばジルコン酸チタン酸鉛(PZT)等の圧電セラミック、を使用することができる。ヒンジ部4の材質は、ステンレススチール、炭素鋼、モリブデン鋼等の強度の強いものが好ましく、又は楕円シェル2と同じ、例えばアルミニウム合金、であってもよい。
【0020】
本発明の水中音響送波器1における楕円シェル2の内面(内壁)には複数の突起部5が形成されている。ここで、複数の突起部5のうち少なくとも1つの突起部は、密度の異なる複数の材質で形成されている。複数の突起部5のうち少なくとも1つ、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは100%、の突起部5の重心は、該突起部5が単一の材質で形成されている場合の重心の位置より突起部の開放端側(楕円シェル2の内側より)にある。また、突起部5を1つの材質で形成したとしても、細径化、凹部(穴)の形成、貫通孔の形成(空洞化)、多孔質化等により開放端側に重心を移動させることも可能である。
【0021】
突起部5の質量は、楕円シェル2の共振周波数や音響送波レベルに応じて適宜設定することができる。例えば、突起部5を有する楕円シェル2の質量は、複数の突起部5によって、突起部を有さない楕円シェルの質量より5%〜40%、より好ましくは10%〜30%、増大すると好ましい。
【0022】
図1に示す形態においては、突起部5は、密度の異なる2種類の材質、第1材質5a及び第1材質5aより高密度の第2材質5b、を有し、根元側(外側)の第1材質5aと開放端側(内側)の第2材質5bとが突起部5の高さ方向に積層して形成されている。第1材質5aの材質は、好ましくは金属であり、例えば、楕円シェル2と同じにすることができる。このとき、第1材質5aは、楕円シェル2の内面(内壁)の機械的加工によって楕円シェル2と一体的に形成することができる。または、楕円シェル2の内面に別部材として取り付けた(固定した)ものでもよい。第2材質5bの材質は、第1材質5aの密度より高いものであり、好ましくは、第2材質5bの密度は、第1材質5aの密度の1.5倍〜4倍、より好ましくは2倍〜4倍、さらに好ましくは2.5倍〜4倍である。第1材質5aと第2材質5bの密度の差が大きいほど、突起部5の重心を開放端側に移動させやすくなる。例えば、第1材質5aが密度約2,800kg/mのアルミニウム合金である場合、第2材質5bとして、鉄、銅、ニッケル、もしくはこれらのうちの少なくとも1つを含む合金、又は密度約8,000kg/mのステンレススチールを使用することができる。本発明の水中音響送波器1は、水中、特に海水中、において使用されるので、腐食防止の観点から、第2材質5bは、特にステンレススチールが好ましい。
【0023】
水中音響送波器1における第2材質5bの総体積は、複数の突起部5の総体積に対して、好ましくは20%〜60%である。より好ましくは、第2材質5bを有する各突起部5において、第2材質5bの体積がその突起部5の体積の20%〜60%になるようにする。特に、音響送波レベルが多少低下したとしても共振周波数をより低くしたい場合には、第2材質5bの総体積を、複数の突起部5の総体積に対して、好ましくは40%〜60%、より好ましくは50%〜60%にする。一方、共振周波数を低くしたいが音響送波レベルはできるだけ低下させたくない場合には、第2材質5bの総体積を、複数の突起部5の総体積に対して、好ましくは20%〜40%、より好ましくは20%〜30%にする。ここで、第2材質5bの体積割合が20%未満であると、共振周波数を効果的に低くすることができない。また、第2材質5bの体積割合が60%を超えると、音響送波レベルが大きく低下してしまうことになる。
【0024】
ここで、突起部5の領域(範囲)について説明する。図2に、突起部5の領域を求めるための部分概略図を示す。図2は、1つの突起部5の断面図であり、図2(a)は、図1に示すような本発明の第1実施形態に係る突起部を示し、図2(b)は、図7に示すような単一の材質から形成された突起部を示す。また、図2におけるハッチングは、突起部5の領域を示している。図2(a)における突起部5と楕円シェル2の境界線8は、突起部5の左側面と楕円シェル2の内面との交点10aと突起部5の右側面と楕円シェル2の内面との交点10bとを結ぶ線である。本発明においては、この境界線8によって突起部5の領域を定めることとし、この領域を基に突起部5の重心の位置及び体積を求めることとする。
【0025】
図2を参照して、突起部5の重心位置について説明する。図2(a)に示す突起部5は、図1と同様にして第1材質5aと第2材質5bで形成されている。一方、図2(b)に示す突起部15は、図2(a)に示す突起部5と同じ大きさ及び同じ形状であるが、第1材質5aのみで形成されている。図2(a)に示す突起部5と図2(b)に示す突起部15の重心9の位置を比較すると、第2材質5bは第1材質5aより高密度であるので、図2(a)に示す突起部5の重心9の位置は、図2(b)に示す突起部15の重心9の位置よりも開放端(先端)側にある。このように、本発明においては、密度の異なる複数の材質を組み合わせることによって、単一部材で形成された突起部15の重心位置より開放端側に突起部5の重心を移動させている。突起部5の重心位置を開放端側に形成することにより、音響送波レベルの低下を抑制することができる。例えば、重さは同一であるが重心位置が異なる2つの突起部がある場合に、この2つの突起部は、重さが同じであるので共振周波数の低下率は同じである。しかしながら、重心の位置が異なると、音響送波レベルの低下率が異なってくる。すなわち、重心位置が根元側にある突起部よりも開放端側にある突起部のほうが音響送波レベルの低下を小さくすることができる。なお、第2材質5bの形成箇所は、図1及び図2(a)に示すような突起部5の最先端に限定されることなく、突起部5の重心を移動させることができる箇所であればどこでもよい。
【0026】
また、突起部5の体積は、図2(a)において境界線8によって区切られた第1材質5aの体積と第2材質5bの体積(ハッチング領域の体積)の合計である。したがって、図2(a)に示す突起部5における第2材質5bの体積割合(%)は、[第2材質5bの体積]/[第1材質5aの体積+第2材質5bの体積]×100となる。
【0027】
突起部5の形状は、種々の形状を選択することができる。図3及び図4に、突起部5の概略斜視図を示す(第1材質及び第2材質は不図示)。突起部5は、例えば、図3に示すように、脈状(帯状)の突起にすることができる。または、突起部5は、図4に示すように、柱状(点状ないしブロック状)の突起であってもよい。また、図3に示す形態においては、突起部5は、楕円シェル2の開口間を垂直方向に延在しているが、突起部5の延在方向はこの方向に限定されない。例えば、脈状の突起部5は、楕円シェル2の周方向(図3に示す形態に対して垂直方向)に沿って延在していても、楕円シェル2開口間を斜行するように延在していても、又はらせん状(ネジ山状)に形成されていてもよい。また、突起部5は、楕円シェル2の伸縮運動時に互いに接触しないように、根元側から開放端側に向かって径(太さ)が変化しないか、又は縮径(細化)していると好ましい。
【0028】
突起部5の大きさ(高さ、幅、長さ、間隔)は、所望の共振周波数及び音響送波レベルになるように適宜決定する。突起部5は、楕円シェル2が短軸方向に収縮したときに、突起部5の先端がアクティブ柱状体3に接触しない範囲まで高くすることができる。各突起部5の高さはそれぞれ任意に設定することができるが、楕円シェル2の低曲率部分(アクティブ柱状体3との間隔が大きい部分)にある突起部5の高さをより高くし、かつ第2材質の割合を大きくすると、低周波数化の効果を大きくすることができる。突起部5間の間隔は、楕円シェル2の伸縮運動時に突起部5が互いに接触しないように設定する。
【0029】
図1に示す形態においては、突起部5は、楕円シェル2の一部(低曲率部分)にのみ形成されているが、互いに接触しない範囲において楕円シェル2内面の全面に亘って(一方のヒンジ部4から他方のヒンジ部4まで)形成してもよい。突起部5を楕円シェル2内面の一部に形成する場合、音響放射に寄与するのは低曲率のシェル部分であるので、突起部5は、低曲率側に形成するようにする。また、第2材質5bはすべての突起部に形成しなくてもよく、一部の突起部のみに形成することもできる。このとき、第2材質5bを有する突起部5が形成された領域Rは、楕円シェル2と長軸6の一端の交点2aと、楕円シェル2と長軸6の他端の交点2bとの間の領域Rにおいて、楕円シェル2と短軸7の交点2cを中心として、50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上を占めると好ましい。また、突起部5は、長軸6(アクティブ柱状体3)を中心として、楕円シェル2の両側に対称に形成すると好ましい。
【0030】
本発明の水中音響送波器1によれば、楕円シェル2の内側に高密度の第2材質5bを有する突起部5を形成することにより、楕円シェル2の外形を大きくすることなく、図7に示すような第1材質5aのみで形成された突起部15を有する水中音響送波器11よりも共振周波数を低下させることができる。さらに、突起部5の先端側に第2材質5bを形成することにより、音響送波レベルの低下を抑制することができる。
【0031】
次に、本発明の第2実施形態に係る水中音響送波器について説明する。図5に、本発明の第2実施形態に係る水中音響送波器の断面図を示す。第1実施形態においては、突起部5は2種類の材質で形成されていたが、第2実施形態においては、突起部5は、3種類の材質で形成されている。すなわち、突起部5は、第1材質5a、第3材質5c、及び第2材質5bが、突起部5の高さ方向に積層して構成されている。このとき、楕円シェル2は、突起部5により、5%〜40%、より好ましくは10%〜30%質量が増加すると好ましい。突起部5の開放端(先端)側にある第2材質5b及び/又は第3材質5cの密度は、第1材質5aより高くする。好ましくは、第2材質5b及び/又は第3材質5cの密度は、第1材質5aの密度の1.5倍〜4倍、より好ましくは2倍〜4倍、さらに好ましくは2.5倍〜4倍にする。また、第2材質5bの密度は、第3材質5cの密度より高いと好ましい。複数の突起部5における第2材質5bと第3材質5cとを合わせた総体積は、複数の突起部5の総体積に対して20%〜60%になると好ましい。
【実施例1】
【0032】
本発明の水中音響送波器を作製し、突起部を有さない水中音響送波器と共振周波数及び送波レベルを比較した。実施例1において作製した本発明の水中音響送波器(以下、「送波器Aとする」は、第1実施形態に係る図1に示すような形態であり、楕円シェル、アクティブ柱状体、ヒンジ部及び突起部を有する。楕円シェルは、密度約2,800kg/mのアルミニウム合金で作製し、突起部の第1材質は、楕円シェルと一体的に形成した。第2材質は密度約8,000kg/cmのステンレススチールで形成し、第1質量部の先端に接着剤とネジ留めで強固に固定した。第2材質の体積割合は、突起部の総体積に対して20%とした。また、送波器Aの比較対照として、突起部を有していない水中音響送波器(以下、「送波器E」とする)を作製した。送波器Eは、突起部(第1材質及び第2材質)を有していない以外は、送波器Aと寸法、材質、構造等はすべて同一である。
【0033】
送波器Aと送波器Eの共振周波数を比較したところ、送波器Aの共振周波数は、送波器Eの共振周波数よりも10%以上低かった。また、両送波器の送波電圧感度を比較したところ、送波器Aと送波器Eの送波電圧感度はほとんど差がなかった。これより、突起部における体積割合が20%の第2材質を有する本発明の水中音響送波器によれば、音響送波レベルを低下させることなく低周波数化を実現することができた。
【実施例2】
【0034】
実施例2においては、第2材質の体積割合が60%である本発明の水中音響送波器(以下、「送波器B」とする)を作製し、送波器Eと共振周波数を比較した。送波器Bは、第2材質の体積割合が異なる以外は、寸法、材質、構造等はすべて送波器Aと同一である。
【0035】
送波器Bと送波器Eの共振周波数を比較したところ、送波器Bの共振周波数は、送波器Eの共振周波数よりも15%以上低かった。一方、送波器Bと送波器Eの送波電圧感度を比較したところ、送波器Bの送波電圧感度の低下は、送波器Eの送波電圧感度に対して2dB以下であった。これより、突起部における体積割合が60%の第2材質を有する本発明の水中音響送波器によれば、音響送波レベルをほとんど低下させることなく、低周波数化を実現することができた。
【実施例3】
【0036】
[比較例1]
突起部がすべて、楕円シェルと同じアルミニウム合金で形成された水中音響送波器(以下、「送波器C」とする)を作製し、送波器Eと共振周波数を比較した。送波器Cは、送波器Aの第2材質がアルミニウム合金で形成されている以外は、寸法、材質、構造等はすべて送波器Aと同一である。
【0037】
送波器Cと送波器Eの共振周波数を比較したところ、送波器Cの共振周波数は、送波器Eの共振周波数よりも5%程度低くなっただけであった。これより、楕円シェルと同じ材料で突起部を形成しただけでは、低周波数化の効果は小さいことが判明した。
【実施例4】
【0038】
[比較例2]
突起部がすべてステンレススチールで形成された水中音響送波器(以下、「送波器D」とする)を作製し、送波器Eと共振周波数を比較した。送波器Dは、送波器Aの突起部(第1材質)がステンレススチールで形成されている以外は、寸法、材質、構造等はすべて送波器Aと同一である。
【0039】
送波器Dと送波器Eの共振周波数を比較したところ、送波器Dの共振周波数は、送波器Eの共振周波数よりも20%近く低下した。しかしながら、送波器Dと送波器Eの送波電圧感度を比較したところ、送波器Dの音響送波レベルは、送波器Eの音響送波レベルに対して5〜10dB低下した。これより、突起部を重くするだけでは、低周波数化を実現することができても、音響送波レベルまで低下させてしまうことが判明した。
【0040】
以上の実施例及び比較例より、アルミニウム合金の第1材質とアルミニウム合金の密度の約2.9倍であるステンレススチールの第2材質とで突起部を形成し、第2材質の体積割合を20%〜60%にすると、音響送波レベルを大きく低下させることなく、共振周波数を低下させた水中音響送波器を実現可能となることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の水中音響送波器は、遠距離ソナー、海洋資源探査等の音響送波器として利用することができる。また、本発明の水中音響送波器には、水中音響受波器を付加することも可能である。
【0042】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の範囲内における種々の変更、変形ないし改良を含む形態で実施可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1実施形態に係る水中音響送波器の概略断面図。
【図2】突起部の範囲を説明するための部分概略図。
【図3】突起部の形状の一例を示す概略斜視図。
【図4】突起部の形状の一例を示す概略斜視図。
【図5】本発明の第2実施形態に係る水中音響送波器の概略断面図。
【図6】従来技術に係る水中音響送波器の概略断面図。
【図7】従来技術に係る水中音響送波器の概略断面図。
【符号の説明】
【0044】
1 水中音響送波器
2 楕円シェル
2a,2b 長軸との交点
2c 短軸との交点
3 アクティブ柱状体
3a 振動素子
4 ヒンジ部
5 突起部
5a 第1材質
5b 第2材質
5c 第3材質
6 長軸
7 短軸
8 境界線
9 重心
10 突起部側面と楕円シェル内面との交点
11 水中音響送波器
12 楕円シェル
13 アクティブ柱状体
13a 振動素子
14 ヒンジ部
15 突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状ハウジングである楕円シェルの伸縮運動により音波を送波する水中音響送波器において、
前記楕円シェルは、その内面に複数の突起部を有し、
前記複数の突起部のうち少なくとも1つの突起部は、密度が異なる少なくとも2種類の材質で形成され、
前記少なくとも1つの突起部の重心は、前記少なくとも1つの突起部が単一の材質で形成されている場合の重心の位置より前記突起部の開放端側にあることを特徴とする水中音響送波器。
【請求項2】
前記突起部は、前記少なくとも2種類の材質が、前記突起部の高さ方向に積層して形成されていることを特徴とする請求項1に記載の水中音響送波器。
【請求項3】
前記突起部は、第1材質と、前記第1材質より高密度の第2材質とが前記突起部の高さ方向に積層して形成され、
前記第2材質が前記第1材質より前記突起部の開放端側にあり、
前記複数の突起部における前記第2材質の総体積は、前記複数の突起部の総体積の20%〜60%であることを特徴とする請求項2に記載の水中音響送波器。
【請求項4】
前記楕円シェルの内部に、前記楕円シェルの長軸に沿って積層された複数の振動素子を有し、
前記楕円シェルは、前記複数の振動素子の振動運動によって伸縮運動をし、
前記突起部は、前記楕円シェルの伸縮運動時に前記振動素子に接触しないことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の水中音響送波器。
【請求項5】
前記楕円シェルの楕円形状を示す断面において、
前記突起部は、前記楕円シェルと長軸の一端の交点と、前記楕円シェルと長軸の他端の交点との間において、前記楕円シェルと短軸の交点を中心として少なくとも50%の領域に形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の水中音響送波器。
【請求項6】
前記楕円シェルの楕円形状を示す断面において、
前記突起部は、根元側から開放端側に向けて、同径であるか、又は縮径していることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の水中音響送波器。
【請求項7】
前記第1材質はアルミニウム合金であり、
前記第2材質はステンレススチールであることを特徴とする請求項3〜6のいずれか一項に記載の水中音響送波器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−274113(P2007−274113A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−94587(P2006−94587)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】