説明

水性液体洗浄剤組成物

【課題】硬質表面に付着した食品・飲料に由来する変質した重度の汚れの洗浄性に優れるとともに高い殺菌効果を発現でき、且つアルミニウム腐食とスケール付着・蓄積の両方を防止した洗浄剤組成物であって、長期保存安定性と希釈液安定性に優れる水性液体洗浄剤組成物を提供する。
【解決手段】(A)アルカリ剤、(B)水中でカルシウムイオンを放出し得る含カルシウム化合物、(C)分子中に1〜4個のヒドロキシル基と2〜4個のカルボキシル基を有するヒドロキシカルボン酸又はその塩、(D)ホスホン酸もしくはその塩、及び高分子カルボン酸もしくはその塩から選ばれる一種以上の化合物、並びに、(E)亜塩素酸塩を含有する、水性液体洗浄剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品加工機器、食品・飲料充填設備等の諸設備や壁、床等の環境など、硬質表面、特に部分的にアルミニウム材質を含む硬質表面の洗浄に使用される水性液体洗浄剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
食品加工機器等の諸設備など、硬質表面に付着した食品・飲料に由来する変質した重度の汚れを除去するため、アルカリ成分を含む洗浄剤が一般的に広く使用されている。さらに微生物学的により高い衛生度を必要とされる諸設備等には、次亜塩素酸塩やカチオン界面活性剤等の殺菌剤を併用した洗浄剤が提案され、一般的に使用されている。一方、これらの諸設備等には、アルミニウムやアルミニウム合金の材質で製造されたパーツが多々使用されており、アルカリ成分の接触はこれら、アルミニウムやアルミニウム合金の腐食を引起すため、腐食防止剤として珪酸塩を併用した洗浄剤が古くから提案されている。しかし、珪酸塩を含む洗浄剤を使用すると、珪酸塩に由来する難溶性スケールが対象物に付着・蓄積して白化現象を引起し、外観が大きく損なわれるばかりでなく、対象物表面に汚れが付着しやすくなり菌の温床を形成して非常に不衛生な状態となる。
【0003】
このような背景に対して、種々の提案がなされている。特許文献1では、珪酸塩を含有せずにアルミニウムを含む材質の腐食を低減させる洗浄剤が提案されている。また、特許文献2では、特許文献1同様、珪酸塩を含有せずにアルミニウムを含む材質の腐食を低減させる洗浄剤が提案されており、殺菌効果の高いカチオン界面活性剤の併用までが示唆されている。また、特許文献3では、珪酸塩とカチオン界面活性剤と特定のポリオキシアルキレンアルキルエーテルとを併用して、殺菌性を有し且つ白化現象(スケール)を改善した洗浄剤が提案されている。また、特許文献4では、亜塩素酸塩を用いた殺菌剤組成物が提案されている。
【特許文献1】米国特許第5710120号
【特許文献2】特開2004−123979号
【特許文献3】特開2004−231594号
【特許文献4】特開平1−207212号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、殺菌性能及びスケール防止能については言及しておらず、実質的に本特許文献からは最適な殺菌成分を含み、且つスケール防止能に優れる洗浄剤を見出す手掛かりには成り得ない。また、特許文献2では、洗浄剤の長期的保存安定性に課題が残されている。また、希釈した溶液も1〜3日の放置で沈殿が生じることから、希釈液の調整装置や供給装置、発泡洗浄機等の機器に付着・蓄積するといった課題もある。また、特許文献3では、アルミニウム防食性については言及されておらず、また珪酸塩を使用しているため珪酸塩に由来するスケールの問題については根本的な改善には至っていない。更に、特許文献4では、洗浄性やアルミニウム防食性、スケールの問題については全く記載がないことから、本用途に適する洗浄剤組成物としての有力な知見にはなり得ない。すなわち、これら特許文献1〜4からは、上記のような多数の課題に対して満足に改善した洗浄剤は見出せていない。
【0005】
したがって、本発明の目的は、硬質表面に付着した食品・飲料に由来する変質した重度の汚れの洗浄性に優れるとともに高い殺菌効果を発現でき、且つアルミニウム腐食とスケール付着・蓄積の両方を防止した洗浄剤組成物であって、長期保存安定性と希釈液安定性に優れる水性液体洗浄剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、(A)アルカリ剤〔以下、(A)成分という〕、(B)水中でカルシウムイオンを放出し得る含カルシウム化合物〔以下、(B)成分という〕、(C)分子中に1〜4個のヒドロキシル基と2〜4個のカルボキシル基を有するヒドロキシカルボン酸又はその塩〔以下、(C)成分という〕、(D)ホスホン酸もしくはその塩、及び高分子カルボン酸もしくはその塩から選ばれる一種以上の化合物〔以下、(D)成分という〕、並びに、(E)亜塩素酸塩〔以下、(E)成分という〕を含有する、水性液体洗浄剤組成物に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、洗浄性と殺菌性を高度に達成でき、且つアルミニウムの腐食及び難溶性スケールの付着・蓄積が防止できる水性液体洗浄剤組成物が提供される。しかも、これらの効果は長期安定的に持続するため、腐食やスケールの発生を気にせず安心して使用でき、長期に亘り高い衛生度を維持することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
<(A)成分>
(A)成分は、洗浄力に寄与する成分である。具体的な例として、アルカリ金属水酸化物、炭酸アルカリ金属塩、モノエタノールアミン等のアルカノールアミン類等が挙げられ、中でもアルカリ金属水酸化物が好ましい。また、場合によっては、アルカリ金属水酸化物や炭酸アルカリ金属塩とアルカノールアミン類を併用してより相乗的に洗浄力を高めることも有効である。(A)成分の配合量は、組成物中、好ましくは0.01重量%以上で、さらに好ましくは0.1〜30重量%、さらになお好ましくは0.5〜20重量%で、最良であるのが1〜10重量%であり、これらの範囲で調整することによって洗浄性のさらなる向上が図れる。
【0009】
<(B)成分>
(B)成分は、(C)成分との相互作用により、金属腐食、特にアルミニウム材質の表面腐食を低減する役割を担っている。(B)成分は、本発明の洗浄剤組成物中、或いは使用に供する該洗浄剤組成物の希釈水溶液中に、カルシウムイオンを放出する化合物であれば限定されることはない。具体的には、酢酸カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム等の水溶性カルシウム塩が好適である。中でも酢酸カルシウム、塩化カルシウムが好ましい。(B)成分の配合量は、組成物中、0.003〜10重量%、更に0.1〜5重量%が好ましい。また、本発明では、(B)に由来するCa原子濃度が10ppm以上の洗浄媒体として用いられるように(B)成分を洗浄剤組成物中に配合することが、アルミニウム防食性の観点からより好ましい。
【0010】
<(C)成分>
(C)成分は、(B)成分との相互作用により、金属腐食、特にアルミニウム材質の表面腐食を低減する役割を担っている。(C)成分は、分子中に1〜4個のヒドロキシル基と2〜4個のカルボキシル基を有するヒドロキシカルボン酸又はその塩であり、全炭素数が3〜10であるものが好ましい。なかでも酒石酸、クエン酸、及びこれらの塩が好ましい。最も好ましいのは、酒石酸又はその塩である。(C)成分の好ましい配合量としては、組成物中、0.01重量%以上で、さらに好ましくは0.1〜30重量%、さらになお好ましくは0.5〜20重量%で、最良であるのが1〜10重量%であり、これらの範囲で調整することによって、よりアルミニウム防食性が高まる。
【0011】
<(D)成分>
(D)成分は、炭酸カルシウムに代表される炭酸スケール付着・蓄積を防止する役割を担っている。スケール成分粒子の分散性に優れることから、本発明では、ホスホン酸もしくはその塩、及び高分子カルボン酸もしくはその塩から選ばれる一種以上の化合物が、(D)成分として用いられる。
【0012】
具体的なホスホン酸又は塩としては、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸《CH3C(OH)〔PO(OH)22》(略:HEDP)、アミノトリ(メチレンホスホン酸)《N〔CH2PO(OH)23》(略:ATMP)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)《N2(CH22〔CH2PO(OH)24》、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)《N3(CH22〔CH2PO(OH)25》、2−ホスホノ−1,2,4−ブタントリカルボン酸《PO(OH)2CH2CCH2CH2(COOH)3》(略:PBTC)等のナトリウム塩またはカリウム塩或いはアンモニウム塩、アルカノールアミン塩が挙げられ、中でもHEDP、ATMP、PBTCのナトリウム塩またはカリウム塩或いはアンモニウム塩、アルカノールアミン塩が好ましく、さらにHEDP、ATMPのナトリウム塩またはカリウム塩が最も好ましい。
【0013】
具体的な高分子カルボン酸又はその塩としては、アクリル酸系ポリマー、マレイン酸系ポリマーが好ましく、なかでもポリアクリル酸、ポリマレイン酸及びアクリル酸−マレイン酸コポリマーから選ばれる1種又は2種以上が好ましい。これらは一部又は全部が塩となっていてもよく、塩としてはナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩が好ましい。ポリアクリル酸の重量平均分子量は2,000〜20,000が好ましく、特に好ましくは2,000〜15,000である。また、マレイン酸系ポリマーは、マレイン酸のホモポリマー、若しくは無水マレイン酸と共重合可能な他のモノマーとのコポリマー、これらの水溶性塩であり、下記の一般式(I)で表される構造を有するものが好ましい。
【0014】
【化1】

【0015】
〔式中、R1、R2、R3、R4は、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、フェニル基、アルコキシ基、又はカルボキシル基を示し、Mは、水素原子、アルカリ金属又は有機アミンであり、x/y(モル比)=1/10〜10/1で、平均分子量は2,000〜100,000である。〕
【0016】
上記一般式(I)において、x/y(モル比)は1/10〜10/1であり、好ましくは3/7〜7/3である。また、上記一般式(I)で表されるマレイン酸系ポリマーの重量平均分子量は2,000〜100,000であり、好ましくは2,000〜80,000で、さらに5,000〜80,000が好ましい。上記一般式(I)で表される構造を有するポリマーのうち、マレイン酸系コポリマーとしては、アクリル酸−マレイン酸コポリマーが好ましい。
【0017】
本発明では、組成物100g中に含まれるCa原子の重量をCaCO3換算した値〔Ca〕(mg)と、組成物100gが有するCaイオン捕捉能〔CV〕(mg)との比率が〔Ca〕/〔CV〕=1/0.4〜1/4であることが好ましい。また、当該〔Ca〕(mg)と、組成物100g中に含まれる(C)が有するCaイオン捕捉能〔CV(C)〕(mg)との比率が〔Ca〕/〔CV(C)〕=1/0.05〜1/2であることが好ましい。これら〔Ca〕と〔CV〕との重量比、及び〔Ca〕と〔CV(C)〕との重量比はアルミニウム防食性及び防スケール性に関して、より高い効果を得るために非常に重要な要素である。
【0018】
ここで、(C)成分を、Caイオン電極を用いてpH10超の条件で測定した、Caイオン捕捉能に、本発明の洗浄剤組成物100g中に含まれる(C)成分の含有g数を乗じた値、要するに本発明の洗浄剤組成物100g中、(C)成分が有するCaイオン捕捉能を、組成物100g中に含まれる(C)成分が有するCaイオン捕捉能〔CV(C)〕と定義する。
【0019】
また、(D)成分、或いはその他の任意成分としてのキレート剤についても同様に測定、算出して、組成物100g中に含まれるそれぞれの成分が有するCaイオン捕捉能を求める。これらの総和を洗浄剤組成物100gが有するCaイオン捕捉能〔CV〕と定義する。
【0020】
また、本発明の洗浄剤組成物100g中に含まれる、Ca原子をCaCO3換算したmg値を〔Ca〕と定義する。
【0021】
これらCaイオン捕捉能は、以下の方法で測定されたものである。(C)成分及び(D)成分は、水溶液中で(B)から解離されるCaイオンとキレート錯体を形成することが知られており、キレート剤としても有効な成分である。キレート剤1gが錯体形成できるCaイオン量を炭酸Ca(CaCO3)のmg値に換算してCaイオン捕捉能として表すことが一般的である。Caイオン捕捉能は、キレート剤の水溶液中での解離状態によっても大きく変動するため、通常キレート剤試料水溶液のpHを一定にして測定する。
【0022】
(Caイオン捕捉能の測定)
まず0.1M−NH4Cl−NH4OH緩衝液(pH10)を用いて標準Caイオン溶液を作製する。これを200mLビーカーに移し替えマグネチックスターラーで攪拌しながら、Caイオン電極(HORIBA、6583−10C)を備えたイオンメータ(HORIBA、D−53)を用いて標準Caイオン溶液の電位を測定し、図1の如きCaイオン濃度の対数と電位の関係を示す検量線を作成する。次に、測定対象の化合物を有効分として、100mlメスフラスコに0.1g秤量し、上記緩衝溶液でメスアップして試料液とする。この試料液を200mLビーカー移し替えマグネチックスターラーで攪拌しながら、20,000ppm(CaCO3換算)に相当するCaCl2溶液(pH10)をビュレットから滴下する(ブランクも測定する)。滴下はCaCl2溶液を0.1〜0.2mlずつ加えて行い、その時の電位を読み取り、図1の検量線よりCaイオン濃度を求める。図2中のサンプルの滴下量AにおけるCaイオン濃度が各成分のCaイオン捕捉能となる。
【0023】
〔Ca〕と〔CV〕との重量比の好ましい範囲としては、〔Ca〕/〔CV〕=1/0.4〜1/4で、さらに好ましくは1/0.5〜1/3で、特に好ましくは1/0.5〜1/2で、最も好ましくは1/0.5〜1/1.5である。また、〔Ca〕と〔CV(C)〕との重量比の好ましい範囲としては、〔Ca〕/〔CV(C)〕=1/0.05〜1/2で、さらに好ましくは1/0.1〜1/1.5で、特に好ましくは1/0.5〜1/1で、最も好ましくは1/0.2〜1/0.8である。
【0024】
アルミ防食性及びスケール防止能の観点から、(C)成分はpKCaが2〜6、更に2〜5、特に2〜4であることが好ましい。(D)成分はpKCaが3〜7であることが好ましい。ここで、pKCaはpH10超の条件でのCaイオンに対するキレート安定度定数として定義されるものであり、以下の方法で測定されたものである。
【0025】
(pKCaの測定)
測定対象の化合物を100mlメスフラスコに、有効分として0.1g秤量し、上記Caイオン捕捉能の測定で用いた緩衝溶液でメスアップして試料液とする。この試料液を200mLビーカー移し替えマグネチックスターラーで攪拌しながら、20,000ppm(CaCO3換算)に相当するCaCl2溶液(pH10)をビュレットから0.3ml滴下する。その時の電位を読み取り、検量線から遊離Caイオン濃度[Ca2+]とする。次式にてCaイオンに対するキレート安定度定数〔pKCa〕を求める。
【0026】
【数1】

【0027】
上記の方法により測定した、(C)成分、(D)成分、及び他のキレート剤〔便宜上(D’)成分とする〕の一部の化合物について、Caイオン捕捉能及びキレート安定度定数〔pKCa〕を表1に示した。なお、表中、Mwは重量平均分子量である(以下同様)。
【0028】
【表1】

【0029】
(C)成分及び(D)成分以外のキレート剤をさらに配合する場合は、そのキレート剤のCaイオン捕捉能を同様の方法/条件にて測定して、洗浄剤組成物中に含まれるそのキレート剤のg数を乗じた値を〔CV〕に含めて、上記の〔CV〕と〔Ca〕の重量比を計算する必要がある。
【0030】
また、pH10超の条件でのCaイオンに対するキレート安定度定数〔pKCa〕が6以上の窒素含有カルボン酸型のキレート剤、例を挙げるとエチレンジアミン4酢酸(EDTA)やニトリロ3酢酸(NTA)、ジエチレントリアミン5酢酸(DTPA)等の併用は、(B)成分と(C)成分の相互作用を破壊し、アルミニウム防食性を大きく損ねる可能性がある。従って、(C)成分及び(D)成分以外のキレート剤をさらに配合する場合は、限定されることではないが、pH10超の条件でのCaイオンに対するキレート安定度定数〔pKCa〕が6以下の(C)成分又は(D)成分以外の窒素含有カルボン酸型のキレート剤を選定することがより好ましい。そして、Caイオンのキレート作用以外の作用を付与するため、pH10超の条件でのCaイオンに対するキレート安定度定数〔pKCa〕が6以上のキレート剤の含有を必要とする場合は、含有するキレート剤量のCaイオン捕捉能に等しい〔Ca〕を算出して(B)に加えて調整することが好ましい。
【0031】
<(E)成分>
(E)成分は殺菌性を支配する成分であり、且つ洗浄剤組成物原液の長期的保存安定性と洗浄剤組成物希釈使用液の安定性とを達成し得る成分として最適であることが判明した。さらに、本組成物中に配合された(E)成分自身の安定性に於いても、十分な長期保存性が確保できることを確認した。具体的には、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム、亜塩素酸リチウム等の亜塩素酸アルカリ金属塩、亜塩素酸カルシウム等の亜塩素酸アルカリ土類金属塩等が挙げられるが、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸リチウムが好ましい。好ましい配合量としては、組成物中、0.01〜10重量%で、さらに好ましくは0.03〜5重量%、最も好ましくは0.1〜5重量%である。
【0032】
なお、次亜塩素酸又はその塩は、本発明の洗浄剤組成物に配合した場合、(A)〜(D)成分及び(F)成分や他の任意成分、特に(C)、(D)、(F)成分によって分解が促進され、互いの性能を大きく損ねるため、含有しないことが好ましい。また、高い殺菌性を有する、例えば塩化ベンザルコニウムに代表されるカチオン界面活性剤は、(D)成分のスケール粒子の分散性阻害を引起し、防スケール性や希釈液の安定性を損ねるため含有しないことが好ましい。但し、これら次亜塩素酸又はその塩及びカチオン界面活性剤を、本発明の洗浄剤組成物とは別形態で供給し、希釈使用時に併用する場合は、この限りでない。
【0033】
<(F)成分>
本発明の洗浄剤組成物には、さらに、起泡性、油汚れの乳化洗浄性の付与及び保存安定性等をより高めるために、(F)成分として、界面活性剤、例えば、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤を配合することが出来る。特に、起泡性の付与は、食品工場での様々な機器や設備等を洗浄する際には、洗浄液を撒布する手段として好適である。この場合、高発泡性を有する界面活性剤が好ましく、洗浄液が泡沫となって被洗物に付着し、一定時間保持されることにより、垂直面やネット状コンベア等での洗浄効果や殺菌効果がより向上するといったメリットも期待できる。
【0034】
具体的には、アニオン界面活性剤としては、高級脂肪酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルコールスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩、高級アルコールエーテルのスルホン酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩が好ましい。ノニオン界面活性剤としては、アルキルポリグリコシド、ポリアルキレンアルキルエーテルが好ましい。両性界面活性剤としては、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルヒドロキシスルホベタイン、アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、アルキルジメチルアミンオキサイドが好ましい。中でも、アルキルポリグリコシド、アルキルジメチルアミンオキサイド、アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインが好ましい。これらの界面活性剤は、炭素数6〜22のアルキル基を有するものが好ましく、より好ましくは炭素数8〜20、最も好ましくは炭素数10〜18のアルキル基を有するものである。
【0035】
(F)成分は、本発明の洗浄剤組成物中に、好ましくは0.05〜30重量%の範囲で配合され、より好ましくは0.5〜20重量%、1〜15重量%が最も好ましい。
【0036】
また、高い起泡性付与と同時に、泡持続性と油汚れの乳化洗浄性等を向上させるために、これらを2種以上併用することも有効で、アルキルアミンオキサイドとアルキルポリグリコシドの組み合わせ、及び上記アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインとアルキルポリグリコシドの組み合わせが好適である。アルキルポリグリコシドを併用することにより、油汚れの洗浄性と泡持続性の向上が図れる。この場合、両者の重量比率は、アルキルアミンオキサイド/アルキルポリグリコシド>1/2、アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン/アルキルポリグリコシド>1/2が好ましい。
【0037】
<その他任意成分>
本発明の洗浄剤組成物は、さらに、任意成分として、溶剤、香料、着色剤、防腐剤、粘度調整剤等を含有してもよい。
【0038】
<洗浄剤組成物の使用方法>
以下に本発明の洗浄剤組成物の代表的な使用法を示すが、何ら限定されるものではない。本発明の洗浄剤組成物は、使用する際に、1〜100重量%に希釈されて被洗物に適用されることが好ましい。さらに好ましい希釈濃度は2〜20重量%、さらになお2〜10重量%が好ましい。
【0039】
食品加工工場内の製造ライン等の処理面積が大きい場合は、泡洗浄機が好適に用いられる。フリーザーや飲料充填機等の大型設備では、備え付けの泡洗浄機による自動運転泡洗浄システムが採用されている。この自動運転泡洗浄システムでは、泡洗浄機で任意濃度の希釈液や発泡液を調整して被洗浄物へ配管によって供給され、既設のノズルから泡沫で撒布される仕組みとなっている。泡沫撒布した後、一定時間保持しすすぎ工程が行われるが、すすぎ水は必ずしも洗浄剤組成物の希釈液或いは発泡液と同じ経路を通るとは限らない。つまり、配管内や泡洗浄機内に、洗浄剤組成物の希釈液や発泡液が残っており、次の運転まで押し出されることはないという状況となる。従って、洗浄運転頻度を1日1回とすると、配管内や発泡機内に約1日間、撒布に供した洗浄剤組成物の希釈液が残っていることになる。この場合、少なくとも1日、好ましくは3日程度安定な洗浄剤組成物の希釈液が必要となる。安定性が不足して(B)由来の沈殿物等を生じると、配管や泡洗浄機の内壁に付着ししばしば問題となる。
【0040】
また、可動式の泡洗浄機(例えば「SCU−HF」スプレーイング社製、「KF−100」花王(株)製等)を用いた洗浄手法に於いても、自動運転泡洗浄システムと同様の問題が起こり得る。被洗浄物がまな板等の調理器具や備品等、処理面積が小さい場合は、トリガースプレーヤーやフォーマースプレーヤー等の泡を発生させることのできるハンドスプレーヤーが好適に用いられるが、この場合も同様の問題が起こり得る。ハンドスプレーヤーは、混合する気体の圧力が、泡洗浄機ほど高く確保できないので、(B)成分由来の沈殿物が生じるとノズル詰まりの原因にもなる。
【0041】
洗浄剤組成物では(B)成分に由来する沈殿物を、洗浄剤組成物1〜100重量%に希釈した溶液についても、1〜3日間の安定性が得られる。
【0042】
本発明の洗浄剤組成物に(F)成分を加え、泡沫状で被洗物に適用するため、上記の泡洗浄機を用いる場合、発泡倍率〔泡の体積(mL)/泡の重量(g)の比〕が3〜50倍、更に5〜40倍、特に7〜30倍であることが好ましい。トリガースプレーヤーやフォーマースプレーヤー等のハンドスプレーヤーを用いる場合、発泡倍率が2〜30倍、更に2〜20倍、特に3〜10倍であることが好ましい。
【実施例】
【0043】
表2に示す液体洗浄剤組成物を調製し、以下の評価を行なった。結果を表2に示す。
【0044】
(洗浄性試験)
表面を240番サンドペーパーで研磨し洗浄、乾燥した鉄板(15cm×30cm)の表面にナタネ油1.5gを均一に塗布し、180℃のオーブン中で1時間熱処理を行い、変性油汚れテストピースを作成した。この変性油汚れテストピース上に脱脂綿(1cm×2cm)を置き、脱脂綿に表2の洗浄剤組成物の10重量%水溶液1gを滴下し、25℃で15分間放置した。その後、脱脂綿を除去して流水にてすすぎを行い、鉄板表面の状態を目視で観察し、以下の基準で評価した。
*判定基準
◎;油の層が完全に除去されている
△;油の層が一部除去されているか、膨潤が認められ変色している。
×;油の層にほとんど変化が認められない
【0045】
(殺菌性試験)
大腸菌(Escherichia Coli IFO3972)を、SCD寒天培地(日本製薬(株)製)に35℃で約24時間前培養した後、寒天培地上に形成されたコロニーを適量かきとって1mLの滅菌水に懸濁した。この懸濁液を遠心洗浄後、適量の滅菌水で約108〜109cell/mLの菌濃度に調整して菌液とした。この菌液0.05mlを、予め滅菌水で1重量%となるように希釈した表2に示す洗浄剤組成物の希釈溶液2mLに接種し、25℃にて5分間接触させた。その後、直ちに、この菌液を接種した洗浄剤組成物希釈溶液の0.1mLを、1重量%チオ硫酸ナトリウムを加えたSCDLP培地(日本製薬(株))2mL中に添加して、殺菌に関わる成分を不活性化した。この不活化された溶液を、直径9cmの標準寒天培地に0.2mL塗抹して、35℃で24時間培養して、培地上に形成されたコロニー数をカウントして残菌数とし、以下の基準で判定した。
*判定基準
◎;コロニーの形成が認められない
△;コロニーの形成数が300未満である
×;コロニーの形成数が300以上である
【0046】
(アルミニウム腐食試験)
アルミニウムテストピース(JIS A1050 硫酸アルマイト処理、3cm×8cm×0.1cm、日本テストパネル(株))を約45度の角度をつけて設置する。これに、予め滅菌水で5重量%となるように希釈した表2に示す洗浄剤組成物の希釈溶液13mLを1秒間でノズルから撒布する〔操作(1)〕。10分放置〔操作(2)〕した後、水道水40mLを同様の別ノズルから3秒間で撒布してすすぎ工程〔操作(3)〕とする。すすぎ工程後、ドライヤーを用いて30秒間の冷風を当てて乾燥工程〔操作(4)〕とする。この操作(1)〜(4)を100回繰り返して、アルミニウムテストピースの状態変化を目視にて確認し、以下の基準にてアルミ防食性を判定した。
*判定基準
◎;変化が殆ど認められない
○;部分的に若干白い腐食が観察されるが実用上問題ない
△;全体的に薄白い腐食が観察されるが実用上注意すれば使用可能
×;全体に真白に変色した腐食が観察される
【0047】
(スケール付着試験)
ステンレステストピース(SUS304、3cm×8cm×0.1cm、日本テストパネル(株))を用いて、上記のアルミニウム腐食試験と同様の操作を行い、ステンレステストピース表面のスケール付着状態(スケール防止能)を以下の基準にて判定した。
*判定基準
◎;変化が認められない
△;虹色様の変化が認められる
×;部分的或いは全体的に白化が認められる
【0048】
(保存安定性試験)
表2の洗浄剤組成物をポリプロピレン製容器に充填し40℃に保存した。外観変化の観察と殺菌成分〔(E)成分もしくは(E’)成分〕の残存率測定を経時的に行った。外観変化の観察については以下の基準で判定した。
【0049】
*外観判定基準
◎;2ヵ月以上外観変化が認められない
○;2ヶ月までに、若干の褐色もしくは黄色が認められるが、2ヶ月以上不溶物や沈殿物等はなく均一透明系である
△;2ヶ月までに沈殿物や分離白濁が生じ、均一透明系でなくなっている
×;1ヶ月までに沈殿物や分離白濁が生じ、均一透明系でなくなっている
【0050】
殺菌成分の残存率については以下に示す算出法にて測定した。比較例2については1日後、それ以外については、2ヶ月後の測定値を示す。
【0051】
*殺菌成分の残存率算出方法
実施例1〜10、比較例4〜8については、食品添加物公定書解読書(第六版)の亜塩素酸ナトリウムの頁に、比較例2は、次亜塩素酸ナトリウムの頁に、比較例3は、JIS K 3362(合成洗剤試験方法)のカチオン活性剤の定量の頁にそれぞれ基づいて殺菌成分の定量値を測定した。次いで以下の式で殺菌成分の残存率を算出した。尚、分離が生じたものは、軽く振って全体を均一にしてから測定した。
【0052】
【数2】

【0053】
(希釈液安定性試験)
表2の洗浄剤組成物を水道水で希釈して、1、2、5、10重量%濃度の希釈液を調製し、透明なガラス瓶に入れ、各濃度についてキャップするものとキャップしないものとの2種類を準備し、合計8通りのガラス瓶入り希釈液を用意する。1〜3日間室温(25℃)にて放置して、希釈液の状態を観察し、以下の基準で判断した。
*判定基準
◎;8通りの全てが不溶物や沈殿物を認めず、3日まで均一透明系である
○;8通りの内1〜2個が、1日から3日の間に不溶物や沈殿物が認められる
△;8通りの内3個が、1日で不溶物や沈殿物が認められる
×;8通りの内4個以上が、1日で不溶物や沈殿物が認められる
【0054】
【表2】

【0055】
表2において、〔CV〕は〔CV(C)〕+〔CV(D)〕+〔CV(D’)〕である。また、ラウリルポリグルコシドは平均糖縮合度が1.3である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】Caイオン捕捉能の測定に関して、Caイオン濃度の対数と電位の関係を示す検量線の概略図
【図2】Caイオン捕捉能の測定に関して、サンプル滴下量とCaイオン濃度の関係を示す検量線の概略図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アルカリ剤、(B)水中でカルシウムイオンを放出し得る含カルシウム化合物、(C)分子中に1〜4個のヒドロキシル基と2〜4個のカルボキシル基を有するヒドロキシカルボン酸又はその塩、(D)ホスホン酸もしくはその塩、及び高分子カルボン酸もしくはその塩から選ばれる一種以上の化合物、並びに、(E)亜塩素酸塩を含有する、水性液体洗浄剤組成物。
【請求項2】
更に、(F)界面活性剤を含有する、請求項1記載の水性液体洗浄剤組成物。
【請求項3】
(C)が、酒石酸又はその塩であり、請求項1又は請求項2記載の水性液体洗浄剤組成物。
【請求項4】
組成物100g中に含まれるCa原子の重量をCaCO3換算した値〔Ca〕(mg)と、組成物100gが有するCaイオン捕捉能〔CV〕(mg)との比率が〔Ca〕/〔CV〕=1/0.4〜1/4である、請求項1〜3の何れか1項記載の水性液体洗浄剤組成物。
【請求項5】
組成物100g中に含まれるCa原子の重量をCaCO3換算した値〔Ca〕(mg)と、組成物100g中に含まれる(C)が有するCaイオン捕捉能〔CV(C)〕(mg)との比率が〔Ca〕/〔CV(C)〕=1/0.05〜1/2である、請求項1〜4の何れか1項記載の水性液体洗浄剤組成物。
【請求項6】
(B)に由来するCa原子濃度が10ppm以上の洗浄媒体として用いられる請求項1〜5の何れか1項記載の水性液体洗浄剤組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−197607(P2007−197607A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−19250(P2006−19250)
【出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】