説明

水性砥粒分散媒組成物及び加工用水性スラリー並びにそれらを用いた加工方法

【課題】 砥粒の分散安定性に優れ、且つ系の粘度安定性に優れる水性砥粒分散媒組成物及び加工用水性スラリー並びにそれらを用いた加工方法を提供する。
【解決手段】 本水性砥粒分散媒組成物は、グリコール類(例えば、プロピレングリコール等)及び/又は水溶性エーテル(例えば、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等)と、ゼータ電位が0mV以上の粒子(例えば、Al粒子)と、を含むことを特徴とする。本加工用水性スラリーは、上記水性砥粒分散媒組成物と、砥粒(例えば、炭化珪素等)と、を含むことを特徴とする。本加工方法は、上記水性砥粒分散媒組成物又は上記加工用水性スラリーを用いて、切削加工、研削加工、研磨加工又は切断加工を行うことを特徴とする。また、他の本加工方法は、上記水性砥粒分散媒組成物又は上記加工用水性スラリーを用いて、ワイヤソー加工又はバンドソー加工を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性砥粒分散媒組成物及び加工用水性スラリー並びにそれらを用いた加工方法に関する。更に詳しくは、砥粒の分散安定性に優れ、且つ系の粘度安定性に優れる水性砥粒分散媒組成物及び加工用水性スラリー並びにそれらを用いた加工方法に関する。本発明は、切断、切削及び研削等の各種加工分野において幅広く利用できる。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコン、石英、水晶、化合物半導体などのインゴット等の被加工材の切断加工では、主に鉱物油を主成分とする非水溶性の基油を分散媒とし、この分散媒に砥粒を分散させたタイプの切断加工用油剤が使用されていた。特に、インゴットのスライス或いはウエハのラッピングは、炭化珪素(SiC)等の砥粒を分散媒に混合・分散させたスラリー状切削液を、加工部に供給することにより行われていた。
【0003】
しかし、非水溶性の基油を主成分とする分散媒は、飛散したミストによる人体への影響や作業環境の悪化が懸念され、且つ引火の危険があり、貯蔵量の制限も生じていた。更には、この分散媒を用いた加工後の洗浄において、有機溶剤系の洗浄剤を用いた場合には、人体や環境への悪影響が懸念されていた。また、界面活性剤を多用した水溶性の洗浄剤を用いた場合には、洗浄に多くの労力を費やす必要がある上、洗浄により生じた廃液を処理する経費増の問題が生じていた。
【0004】
そのため、近年では、これらの非水溶性分散媒に代えて水溶性の分散媒を用い、これに砥粒を分散させたスラリー状切削液が種々使用されるようになっている。このような水溶性の分散媒としては、グリコールを基油とし、分散剤を添加したものが一般的に使用されている。
【0005】
しかしながら、上記のような分散媒においては、砥粒の分散安定性と、砥粒を分散させた場合の系の増粘が問題点となっている。このうち、系の粘度変化(増粘)は、加工時の供給量に影響し、更には加工性能にまで影響を及ぼす。また、使用時のポンプアップや、後工程である洗浄工程にも影響を及ぼすため、砥粒の分散安定性に優れ、且つ系の粘度安定性に優れる水溶性の砥粒分散媒が求められている。
【0006】
上記課題を解決しようとするものとして、例えば、多価アルコールを主成分とする水性分散媒中にベントナイト、セルロース或いは雲母を添加したものが開示されている(特許文献1参照)。また、キサンタンガムやカラギーナン等のセルロース系多糖類を用いた水溶性切削液が開示されている(特許文献2参照)。
【0007】
また、最近では、切断、研削、切削等の各種加工、特にワイヤソーなどの切断加工において、加工精度や歩留まりの向上から、使用される砥粒が細かくなる傾向にあり、これまでの分散媒では、砥粒を細かくしていくとスラリー粘度が上昇してしまい、ポンプによる供給が難しく、加工精度も低下する傾向が認められている。そのため、粒径の細かい砥粒を用いた場合においても、砥粒の分散安定性に優れ、且つ系の粘度安定性に優れる水溶性の砥粒分散媒が求められている。
【0008】
【特許文献1】特開2000−327838号公報
【特許文献2】特開2000−87009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、砥粒の分散安定性に優れ、且つ系の粘度安定性に優れる水性砥粒分散媒組成物及び加工用水性スラリー並びにそれらを用いた加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、水中でのゼータ電位がプラス(0mV以上)の粒子を添加することにより、系が安定しており、混合・分散される砥粒の濡れ性を著しく向上させ、加工用スラリーの増粘を抑制することができ、ポンプによる安定供給が可能な分散媒が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、以下に示す通りである。
1.グリコール類及び/又は水溶性エーテルと、ゼータ電位が0mV以上の粒子と、を含むことを特徴とする水性砥粒分散媒組成物。
2.本水性砥粒分散媒組成物中における上記粒子のゼータ電位が0mV以上である上記1記載の水性砥粒分散媒組成物。
3.上記粒子が、Al粒子である上記1又は2記載の水性砥粒分散媒組成物。
4.上記粒子の含有量が、上記グリコール類及び上記水溶性エーテルの合計を100質量部とした場合に、0.02〜60質量部である上記1乃至3のいずれかに記載の水性砥粒分散媒組成物。
5.上記粒子の含有量が、本水性砥粒分散媒組成物を100質量%とした場合に、0.01〜6質量%である上記1乃至3のいずれかに記載の水性砥粒分散媒組成物。
6.上記グリコール類及び上記水溶性エーテルの含有量の合計が、本水性砥粒分散媒組成物を100質量%とした場合に、10〜95質量%である上記1乃至5のいずれかに記載の水性砥粒分散媒組成物。
7.pHが3〜9である上記1乃至6のいずれかに記載の水性砥粒分散媒組成物。
8.上記1乃至7のいずれかに記載の水性砥粒分散媒組成物と、砥粒と、を含むことを特徴とする加工用水性スラリー。
9.25℃における粘度が、80〜450mPa・sである上記8記載の加工用水性スラリー。
10.上記1乃至7のいずれかに記載の水性砥粒分散媒組成物又は上記8若しくは9記載の加工用水性スラリーを用いて、切削加工、研削加工、研磨加工又は切断加工を行うことを特徴とする加工方法。
11.上記1乃至7のいずれかに記載の水性砥粒分散媒組成物又は上記8若しくは9記載の加工用水性スラリーを用いて、ワイヤソー加工又はバンドソー加工を行うことを特徴とする加工方法。
12.被加工材が、シリコン、石英、水晶、化合物半導体、セラミックス、ガラス、金属酸化物、超硬合金及び焼結合金のうちの少なくとも1種である上記10又は11記載の加工方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水性砥粒分散媒組成物は、ゼータ電位が0mV以上の粒子を含有しているため、砥粒を混合・分散させた際に安定な系となり、且つ粘度安定性に優れるため、スラリーの増粘を抑制することができる。
また、上記粒子が、Al粒子である場合には、砥粒を混合・分散させた際に、系を十分に安定させることができ、スラリーの増粘を十分に抑制することができる。
更に、上記粒子を特定の含有量とした場合には、砥粒を混合・分散させた際に、系を十分に安定させることができ、スラリーの増粘を十分に抑制することができる。
また、上記グリコール類及び上記水溶性エーテルを特定の含有量とした場合には、砥粒を混合・分散させた際に、系を十分に安定させることができ、スラリーの増粘を十分に抑制することができる。
更に、本水性砥粒分散媒組成物のpHを3〜9とした場合には、被加工材がシリコンであっても、加工時の切り屑と加工用スラリーとの化学反応による不具合(水素の発生、スラリーのゲル化等)を抑制できる。
また、本発明の加工用水性スラリーは、本水性砥粒分散媒組成物を含有しているため、系が安定しており且つ増粘が抑制されており、切断、研削、切削等の各種加工において好適に用いることができる。
更に、25℃で特定の粘度を有する場合は、切断、研削、切削等の各種加工において加工性を向上させることができる。
本発明の加工方法は、本水性砥粒分散媒組成物又は本加工用水性スラリーを用いるため、系が安定しており且つ増粘が抑制されており、切断、研削、切削等の各種加工において加工性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(1)水性砥粒分散媒組成物
本発明の水性砥粒分散媒組成物は、グリコール類及び/又は水溶性エーテルと、ゼータ電位が0mV以上の粒子と、を含むことを特徴とする。
【0014】
上記「グリコール類」として具体的には、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール、アルキレングリコール誘導体、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合物、及びポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンの共重合物等のグリコール、グリコールエステル、グリコールエーテル、ポリグリセリン、ポリグリセリンエステル、ポリグリセリンエーテル及びポリグリセリン誘導体等が挙げられる。これらのなかでも、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコール等が好ましい。これらのグリコール類は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0015】
上記「水溶性エーテル」として具体的には、例えば、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンジアルキルエーテル等が挙げられる。これらのなかでも、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルが好ましい。これらの水溶性エーテルは、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。尚、水溶性エーテルにおいて、「水溶性」とは、20℃において水100質量部に対し3質量部以上が完全に溶解するものをいう。
【0016】
上記「粒子」は、ゼータ電位が0mV以上である限り特に限定されるものではない。上記粒子の種類として具体的には、例えば、Al、CeO及びZrO等の粒子が挙げられる。また、粒子の表面を、ポリアミン、カチオン活性剤等によってコーティングすることにより、ゼータ電位を0mV以上とした複合粒子を用いてもよい。これらのなかでも、Alが好ましい。このような粒子を用いた場合、本発明の水性砥粒分散媒組成物に砥粒を混合・分散させて得られる加工用水性スラリーの系を十分に安定させることができ、増粘を十分に抑制できるので好ましい。
【0017】
また、上記粒子の平均粒径は、0.01〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.01〜5μm、更に好ましくは0.01〜1μmである。上記粒子の平均粒径が上記範囲である場合には、本発明の水性砥粒分散媒組成物に砥粒を混合・分散させて得られる加工用水性スラリーの系を十分に安定させることができ、増粘を十分に抑制できるので好ましい。
【0018】
尚、上記粒子のゼータ電位は、イオン交換水100質量部に対して粒子0.1質量部を分散させ、pH4.6とした場合に測定したものとすることができる。
また、本水性砥粒分散媒組成物中における粒子のゼータ電位、即ち、水性砥粒分散媒組成物中に分散している状態での粒子のゼータ電位も0mV以上であることが好ましい。この場合、本水性砥粒分散媒組成物に砥粒を混合・分散させた際に、砥粒の分散性を向上させることができるので好ましい。尚、上記ゼータ電位は、下記実施例において述べる測定方法により測定できる。
【0019】
本発明の水性砥粒分散媒組成物は、予め、水等の少なくとも水を含む所定量の水系溶媒に分散させた分散組成物とすることができる。この場合、水性砥粒分散媒組成物として、そのまま用いてもよく、あるいは必要に応じて水系溶媒で更に希釈して用いることもできる。また、本発明の水性砥粒分散媒組成物は、使用する際に、所定量の水系溶媒に分散させて用いることもできる。
【0020】
そのため、上記グリコール類及び水溶性エーテルの含有量の合計は、本水性砥粒分散媒組成物全量を100質量%とした場合、通常は10〜99質量%、好ましくは10〜95質量%、更に好ましくは15〜95質量%、より好ましくは15〜90質量%、特に好ましくは20〜90質量%である。上記含有量の合計が上記範囲である場合には、砥粒を混合・分散させた際に、系を十分に安定させることができ、得られたスラリーの増粘を十分に抑制することができるので好ましい。
【0021】
また、上記本発明の水性砥粒分散媒組成物の使用時における上記グリコール類及び水溶性エーテルの含有量の合計は、本水性砥粒分散媒組成物全量を100質量%とした場合、通常は10〜95質量%、好ましくは15〜95質量%、更に好ましくは15〜90質量%、より好ましくは20〜90質量%である。上記含有量が上記範囲である場合には、砥粒を混合・分散させた際に、系を十分に安定させることができ、得られたスラリーの増粘を十分に抑制することができるので好ましい。よって、本発明の水性砥粒分散媒組成物において、上記グリコール類及び水溶性エーテルの含有量の合計は、上記範囲とすることもできる。上記含有量の合計が上記範囲であれば、希釈することなく直ちに使用することができるので好ましい。
【0022】
また、上記粒子の含有量は、上記グリコール類及び水溶性エーテルの合計を100質量部とした場合に0.02〜60質量部であることが好ましく、より好ましくは0.02〜50質量部、更に好ましくは0.02〜45質量部、特に好ましくは0.05〜40質量部、最も好ましくは0.07〜40質量部である。上記粒子の含有量が上記範囲である場合には、砥粒を混合・分散させた際に、系を十分に安定させることができ、得られたスラリーの増粘を十分に抑制することができるので好ましい。
【0023】
更に、上記粒子の含有量は、本水性砥粒分散媒組成物全量を100質量%とした場合、通常は0.01〜36質量%、好ましくは質量0.01〜32質量%、更に好ましくは0.02〜29質量%、より好ましくは0.05〜28質量%、特に好ましくは0.07〜27質量%である。上記粒子の含有量が上記範囲である場合には、砥粒を混合・分散させた際に、系を十分に安定させることができ、得られたスラリーの増粘を十分に抑制することができるので好ましい。
【0024】
また、本発明の水性砥粒分散媒組成物の使用時における上記粒子の含有量は、本水性砥粒分散媒組成物全量を100質量%とした場合、通常は0.01〜6質量%、好ましくは0.01〜5質量%、更に好ましくは0.02〜4.5質量%、より好ましくは0.05〜4質量%、特に好ましくは0.07〜4質量%である。上記含有量が上記範囲である場合には、砥粒を混合・分散させた際に、系を十分に安定させることができ、得られたスラリーの増粘を十分に抑制することができるので好ましい。よって、本発明の水性砥粒分散媒組成物において、上記粒子の含有量は、上記範囲とすることもできる。上記粒子の含有量が上記範囲であれば、希釈することなく直ちに使用することができるので好ましい。
【0025】
上記水系溶媒は、少なくとも水を含んでいればよい。通常は水であるが、水と他の溶媒の1種又は2種以上含有する混合溶媒でもよい。この他の溶媒としては、例えば、エタノール、n−プロパノール、イソ−プロパノール等が挙げられる。また、上記混合溶媒中の水の含有量は、通常は50質量%以上100質量%未満、好ましくは60〜99質量%、更に好ましくは70〜95質量%である。
【0026】
また、本水性砥粒分散媒組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内で、他の添加剤を含有させることができる。この他の添加剤としては、一般的な加工油剤に使用される添加剤を用いることができる。例えば、潤滑剤、消泡剤、防腐剤、防錆剤、防食剤、界面活性剤、pH調整剤、ぬれ剤、キレート剤、染料、香料等が挙げられる。尚、上記他の添加剤の含有量は適宜調整することができる。
【0027】
本発明の水性砥粒分散媒組成物の使用時におけるpHは特に限定されないが、pH3〜9であることが好ましく、より好ましくはpH4〜9、更に好ましくはpH5〜8、更に好ましくはpH6〜7.5である。このpHが上記範囲である場合、被加工材がシリコンであっても、加工時の切り屑と加工用スラリーとの化学反応による不具合(水素の発生、スラリーのゲル化等)を抑制できるので好ましい。
【0028】
(2)加工用水性スラリー
本発明の加工用水性スラリーは、前記水性砥粒分散媒組成物と、砥粒と、を含むことを特徴とする。尚、上記「水性砥粒分散媒組成物」については、前記の各説明をそのまま適用することができる。
【0029】
上記「砥粒」は特に限定されず、上記各種加工において一般的に用いられる砥粒を用いることができる。上記砥粒の種類として具体的には、例えば、炭化珪素、アルミナ、ジルコニア、ダイヤモンド等の砥粒が挙げられる。また、上記砥粒の平均粒径は通常1〜15μmであるが、本発明の水性砥粒分散媒組成物は優れた分散性能を有するため、3〜12μm、特に3〜10μmの平均粒径の細かい砥粒とすることができる。
【0030】
上記砥粒の含有量は特に限定されず適宜調整できるが、上記水性砥粒分散媒組成物を100質量部とした場合に、通常は50〜200質量部であることが好ましく、より好ましくは70〜170質量部、更に好ましくは80〜150質量部である。上記砥粒の含有量が上記範囲である場合には、系を十分に安定させることができ、スラリーを所定の粘度とすることができるので好ましい。
【0031】
本発明の加工用水性スラリーの25℃における粘度は、80〜450mPa・sであることが好ましく、より好ましくは100〜420mPa・s、更に好ましくは110〜400mPa・s、特に好ましくは130〜370mPa・sである。上記加工用水性スラリーの粘度が上記範囲である場合、各種加工の際に、加工工具へ十分に付着させることができ、被加工材の加工表面が荒れることなく、十分な加工性が得られるので好ましい。
【0032】
(3)加工方法
本発明の加工方法は、前記水性砥粒分散媒組成物又は前記加工用水性スラリーを用いて、切削加工、研削加工、研磨加工又は切断加工を行うことを特徴とする。
また、本発明の他の加工方法は、前記水性砥粒分散媒組成物又は前記加工用水性スラリーを用いて、ワイヤソー加工又はバンドソー加工を行うことを特徴とする。
尚、上記「水性砥粒分散媒組成物」及び「加工用水性スラリー」については、前記の各説明をそのまま適用することができる。
【0033】
上記各加工方法において、上記水性砥粒分散媒組成物を用いる場合には、通常、砥粒と混合・分散して調製された加工用水性スラリーが加工液として用いられる。また、砥粒が予め混合・分散された本加工用水性スラリーを用いる場合には、そのまま加工液として用いられる。尚、ワイヤソー加工等において、砥粒がワイヤーに固着されている場合(固定砥粒方式の場合)には、上記水性砥粒分散媒組成物がそのまま加工液として用いられる。
【0034】
上記加工における被加工材としては、例えば、(a)シリコン、石英、水晶、化合物半導体、セラミックス、ガラス、金属酸化物、超硬合金(例えば、炭化タングステンなどの金属炭化物粉末を焼結したもの)、焼結合金及び光学材料等の脆性材料、(b)炭素鋼、鋳鉄、ステンレス等の鉄系材料及びその合金、銅、アルミニウム、亜鉛、錫、チタン、白金等の非鉄金属材料及びその合金等の金属材料、(c)フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリウレタン、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリスチレン等の一般の成形加工用素材として用いられるプラスチック材料等が挙げられる。特に、本発明の加工方法においては、上記被加工材を上記脆性材料のうちの少なくとも1種とすることができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
[1]水性砥粒分散媒組成物の調製
表1に示す割合(単位は質量%)となるように、グリコール類(プロピレングリコール)、水溶性エーテル(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)、粒子(Al粒子)、水及びpH調整剤(トリエタノールアミン)を配合し、実施例1〜4及び比較例1、2の各水性砥粒分散媒組成物を調製した。また、得られた各水性砥粒分散媒組成物のpHを、株式会社堀場製作所製、型式「pH METER F−21」により測定し、表1に併記した。
尚、上記Al粒子は、Al微粒子分散液(日産化学製、商品名「ALSOL200」、粒子の平均粒径;0.5μm、粒子のゼータ電位;70mV、固形分;10質量%)を用いた。また、比較例2においては、上記Al微粒子分散液の代わりに、コロイダルシリカ(日産化学工業株式会社製、商品名「MP−3040」、粒子の平均粒径;0.3μm、粒子のゼータ電位;−40mV、固形分;40質量%)を用いた。更に、各粒子のゼータ電位は、レーザーゼータ電位計(大塚電子株式会社製、型式「ELS−6000」)によって測定した。
【0036】
【表1】

【0037】
[2]性能評価
(1)粘度測定
上記[1]で調製した実施例1〜4及び比較例1、2の各水性砥粒分散媒組成物100質量部と、砥粒(炭化珪素粉末、信濃電気製錬株式会社製、商品名「シナノランダムGP#3000」、平均粒径;5μm)100質量部と、を混合し、1000rpmで1時間攪拌して、加工用水性スラリーを調製した。その後、25℃における粘度を、B形粘度計(株式会社東京計器製、回転数:60rpm)により測定し、その結果を表1に併記した。
【0038】
(2)ハードケーキ評価
上記加工用水性スラリーを室内に6時間静置させ、沈降した砥粒の硬さを下記の基準で評価した。その結果を表1に併記した。
「○」:硬くならず、流動性がある。
「△」:若干硬くなる。
「×」:硬くなり、流動性がない。
【0039】
[3]実施例の効果
表1によれば、ゼータ電位が0mV以上の粒子を含んでいない比較例1の水性砥粒分散媒組成物を用いた加工用水性スラリーにおいては、スラリーの粘度が700mPa・sと高く、且つハードケーキ評価においても「△」であった。
また、ゼータ電位が−40mVのコロイダルシリカを含有する比較例2の水性砥粒分散媒組成物を用いた加工用水性スラリーにおいては、スラリーの粘度が650mPa・sと高く、且つハードケーキ評価においても「△」であった。
これに対して、ゼータ電位が0mV以上であるアルミナ粒子を含有する実施例1〜4の水性砥粒分散媒組成物を用いた加工用水性スラリーにおいては、スラリーの粘度が160〜360mPa・sと適度な粘度を有しており、且つハードケーキ評価においても全て「○」であった。
【0040】
以上のことから、グリコール類及び/又は水溶性エーテルと、ゼータ電位が0mV以上の粒子と、を含む水性砥粒分散媒組成物は、砥粒の分散安定性に優れ、且つ系の粘度安定性に優れるものであることが分かった。
尚、本発明においては、上記具体的実施例に示すものに限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコール類及び/又は水溶性エーテルと、ゼータ電位が0mV以上の粒子と、を含むことを特徴とする水性砥粒分散媒組成物。
【請求項2】
本水性砥粒分散媒組成物中における上記粒子のゼータ電位が0mV以上である請求項1記載の水性砥粒分散媒組成物。
【請求項3】
上記粒子が、Al粒子である請求項1又は2記載の水性砥粒分散媒組成物。
【請求項4】
上記粒子の含有量が、上記グリコール類及び上記水溶性エーテルの合計を100質量部とした場合に、0.02〜60質量部である請求項1乃至3のいずれかに記載の水性砥粒分散媒組成物。
【請求項5】
上記粒子の含有量が、本水性砥粒分散媒組成物を100質量%とした場合に、0.01〜6質量%である請求項1乃至3のいずれかに記載の水性砥粒分散媒組成物。
【請求項6】
上記グリコール類及び上記水溶性エーテルの含有量の合計が、本水性砥粒分散媒組成物を100質量%とした場合に、10〜95質量%である請求項1乃至5のいずれかに記載の水性砥粒分散媒組成物。
【請求項7】
pHが3〜9である請求項1乃至6のいずれかに記載の水性砥粒分散媒組成物。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の水性砥粒分散媒組成物と、砥粒と、を含むことを特徴とする加工用水性スラリー。
【請求項9】
25℃における粘度が、80〜450mPa・sである請求項8記載の加工用水性スラリー。
【請求項10】
請求項1乃至7のいずれかに記載の水性砥粒分散媒組成物又は請求項8若しくは9記載の加工用水性スラリーを用いて、切削加工、研削加工、研磨加工又は切断加工を行うことを特徴とする加工方法。
【請求項11】
請求項1乃至7のいずれかに記載の水性砥粒分散媒組成物又は請求項8若しくは9記載の加工用水性スラリーを用いて、ワイヤソー加工又はバンドソー加工を行うことを特徴とする加工方法。
【請求項12】
被加工材が、シリコン、石英、水晶、化合物半導体、セラミックス、ガラス、金属酸化物、超硬合金及び焼結合金のうちの少なくとも1種である請求項10又は11記載の加工方法。

【公開番号】特開2006−278773(P2006−278773A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−96261(P2005−96261)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000115083)ユシロ化学工業株式会社 (69)
【Fターム(参考)】