水晶振動子
【課題】 CI値(直列共振抵抗値)を悪化させることなく小型化にも対応させ、水晶振動板の駆動レベルによる周波数変動量が小さくなり線形の特性が得られる高安定向けの水晶振動子を提供する。
【解決手段】 円盤形状に形成されたATカットの厚みすべり水晶振動板2であって、前記水晶振動板2の片面には、2段階の曲率を有するプラノコンベックス研磨加工部21,22と、水晶振動板の端部に形成されたベベル研磨加工部23を有してなる。
【解決手段】 円盤形状に形成されたATカットの厚みすべり水晶振動板2であって、前記水晶振動板2の片面には、2段階の曲率を有するプラノコンベックス研磨加工部21,22と、水晶振動板の端部に形成されたベベル研磨加工部23を有してなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚みすべり振動モードで発振する水晶振動子において、特にATカット厚みすべり水晶振動板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水晶振動子は共振特性に優れることから、周波数、時間の基準源として広く用いられており、水晶振動板の表面に金属薄膜電極を形成し、この金属薄膜電極を外気から保護するため、パッケージ体により気密封止されている。
【0003】
このうちOCXOと称される恒温槽型水晶発振器に用いられる水晶振動子では、金属性のパッケージ体が用いられているのが現状である。具体的には、金属ベースにはガラスなどの絶縁材を介して一対の金属リード端子が植設されており、当該金属リード端子のインナーリード部分には、一対の金属平板のサポート部材が対向して取り付けられている。水晶振動板は、例えば、SCカットやATカット水晶振動板であり、表裏面には励振電極と、各励振電極からの引出電極が形成されている。そして、前記金属サポートの上に水晶振動板が搭載され、導電接合材により電気的機械的に接続されるとともに、前記金属ベースに金属製の蓋を被せて気密封止する構成となっている。
【0004】
なお、OCXOは外部の温度変化に影響することなく、水晶振動子を恒温槽内で温度制御することにより周波数の高安定化を行ったものであり、周波数安定度として1×10-7〜1×10-10程度の水晶振動子で得られる最高水準の周波数安定度を得ることができるため、無線基地局や伝送ラインなどの基準周波数として利用されている。
【0005】
特許文献1では、様々な形状の水晶振動板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−96701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のような高安定向けの水晶振動板としては、プラノコンベックス加工するのが主流となっている。また水晶振動子の小型化に伴いコンベックス加工された水晶振動板に対しても小さく設計する必要があるが、水晶振動板を小さく設計するとCI値(直列共振抵抗値)が大きくなるなどの問題がある。そこで水晶振動板の小型化に合わせてコンベックス加工の曲率も小さくするのが一般的な手法であるが、振動エネルギー閉じ込め効果が入りすぎてしまい、駆動レベルが低い状態(低ドライブ)で過電流となり、振動特性として非線形的な変動を起こすなどの問題点を有していた。特にこのようなコンベックス加工による問題は直径が8mm以下の小型水晶振動板に顕著な傾向が現れているのが現状であった。
【0008】
本発明は上記問題点を解決するためになされたもので、CI値(直列共振抵抗値)を悪化させることなく小型化にも対応させ、水晶振動板の駆動レベルによる周波数変動量が小さくなり線形の特性が得られる高安定向けの水晶振動子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明の水晶振動子は、円盤形状に形成された厚みすべり水晶振動板であって、前記水晶振動板の片面には、2段階の曲率を有するプラノコンベックス研磨加工部と、水晶振動板の端部に形成されたベベル研磨加工部を有してなることを特徴とする。
【0010】
上記構成により、水晶振動板の振動領域の加工を主とする2段階の曲率を有するプラノコンベックス研磨加工部と水晶振動板の振動領域外の端部の加工を主とするベベル研磨加工部を組み合わせることで、水晶振動板の小型化に対応させながら、エネルギー閉じ込め効果の低下をなくし、CI値(直列共振抵抗値)特性やCI値(直列共振抵抗値)温度特性などを改善することができる。輪郭系のスプリアス振動による寄生発振も生じにくくできる。また水晶振動板の小型化にともなって、曲率の小さなプラノコンベックス研磨加工部のみを形成してエネルギー閉じ込め効果が高まりすぎることによる弊害を曲率の大きなプラノコンベックス研磨加工部によって改善することができ、水晶振動板の駆動レベルによる周波数変動量が小さくなり線形のより高安定な電気的特性が得られる。プラノコンベックス研磨加工部として水晶振動板の一主面のみに研磨加工領域を形成しているので、完成した水晶振動板の最厚肉部分(頂点部)の設計やその位置認識が容易となり、周波数設計や励振電極の形成位置の最適化が容易に行え、生産性の優れた水晶振動板が得られる。また曲率を有するベベル研磨加工部を構成することで、2段階の曲率を有するコンベックス研磨加工部から水晶振動板の端部に向かって連続して曲線状に水晶振動板の厚みを縮小させることができるため、輪郭系のスプリアス振動をより効率的に抑制する。
【0011】
図5は、従来と本発明の構成によるDLD特性について比較検証したものを示している。すなわち図5(a)は一段階のみの曲率を有するプラノコンベックス研磨加工部で構成された従来の水晶振動板の駆動レベルによる周波数特性とその時のCI値(直列共振抵抗値)特性を示しており、図5(b)は2段階の曲率を有するプラノコンベックス研磨加工部と、水晶振動板の端部に形成されたベベル研磨加工部で構成された本発明の水晶振動板の駆動レベルによる周波数特性とその時のCI値(直列共振抵抗値)特性を示している。共通項目としては、円盤形状で、直径が7.7mm、周波数が10MHzのATカット水晶振動板を用いており、駆動レベルを0.001μWから100μWまで変動させた際の周波数変動量を示している。これらの検証結果から明らかなように、本発明によるものでは10μW付近まで周波数変動量が変化なく安定しており(線形を保つことができる)実施するうえでより望ましいことがわかる。
【0012】
また、上述の構成において、前記プラノコンベックス研磨加工部は曲率半径400mm(R400)の加工領域と曲率半径150mm(R150)の加工領域からなり、前記ベベル研磨加工部は曲率半径45(R45)の加工領域を構成するとよい。特に、前記水晶振動板の直径が7.7mm以下であれば、前記プラノコンベックス研磨加工部のうちの曲率半径400mm(R400)の加工領域は、直径が1.21mmから1.39mmで構成するとよい。このように構成することで、上述の作用効果に加えて、より電気的特性の優れた高安定向けの水晶振動子を提供することができる。特にCI値(直列共振抵抗値)温度特性が大幅に改善することができる。
【0013】
図6〜図11はこのようなプラノコンベックス研磨加工領域の直径寸法に応じた周波数温度特性とその時のCI値(直列共振抵抗値)温度特性について、比較検証したものを示している。共通項目としては、図4に示すような一方向の両端部に切欠き部24,24を有する円盤形状で、直径が7.7mm、周波数が10MHzのATカット水晶振動板を用いており、当該水晶振動板の一方の主面のみにプラノコンベックス研磨加工部21,22とプラノベベル研磨加工部23が形成されている。プラノコンベックス研磨加工部21は曲率半径400mm(R400)で構成され、プラノコンベックス研磨加工部22はと曲率半径150mm(R150)で構成されるとともに、ベベル研磨加工部22は曲率半径45mm(R45)で構成されている。
【0014】
図6(グラフ1)では前記プラノコンベックス研磨加工部21の直径を1.03mmで構成した時の特性データを示しており、図7(グラフ2)では前記プラノコンベックス研磨加工部21の直径を1.12mmで構成した時の特性データを示しており、図8(グラフ3)では前記プラノコンベックス研磨加工部21の直径を1.21mmで構成した時の特性データを示しており、図9(グラフ4)では前記プラノコンベックス研磨加工部21の直径を1.31mmで構成した時の特性データを示しており、図10(グラフ5)では前記プラノコンベックス研磨加工部21の直径を1.39mmで構成した時の特性データを示しており、図11(グラフ6)では前記プラノコンベックス研磨加工部21の直径を1.45mmで構成した時の特性データを示している。
【0015】
これらの検証結果から明らかなように、前記プラノコンベックス研磨加工部21の直径を1.21mm(図8、水晶振動板の直径比として約15.7%)と1.31mm(図9、水晶振動板の直径比として約17%)、1.39mm(図10、水晶振動板の直径比として約18%)によって構成したものが他の直径寸法で構成した場合と比較してCI値(直列共振抵抗値)温度特性が安定しており実施するうえでより望ましいことがわかる。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、水晶振動板の小型化に対応させながら、CI値(直列共振抵抗値)を向上させることができ、水晶振動板の駆動レベルによる周波数変動量も小さくすることができる。線形の特性が得られる高安定向けの水晶振動子を提供することができる。また輪郭系のスプリアス振動による寄生発振も生じにくく、CI値(直列共振抵抗値)温度特性等も改善することができる
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態を示す分解斜視図。
【図2】図1のA方向から見たもので、実施例1の水晶振動板の平面図。
【図3】図2のB−B線に沿った断面図。
【図4】実施例2の水晶振動板の平面図と、そのC−C線に沿った断面図。
【図5】従来と本発明における水晶振動板のDLD特性を示すグラフ。
【図6】実施例2の水晶振動板の温度特性を示すグラフ1。
【図7】実施例2の水晶振動板の温度特性を示すグラフ2。
【図8】実施例2の水晶振動板の温度特性を示すグラフ3。
【図9】実施例2の水晶振動板の温度特性を示すグラフ4。
【図10】実施例2の水晶振動板の温度特性を示すグラフ5。
【図11】実施例2の水晶振動板の温度特性を示すグラフ6。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明による実施の形態を、水晶振動子を例にとり、図面を参照して説明する。図1は本発明の実施形態を示す分解斜視図であり、図2は図1のA方向から見たもので、実施例1の水晶振動板の平面図であり、図3は図2のB−B線に沿った断面図である。図4は実施例2の水晶振動板の平面図と、そのC−C線に沿った断面図である。なお、各形態において同様の部分については同番号を付すとともに特に必要がなければ説明の一部を割愛している。
【0019】
ベース1は全体として低背の長円柱形状であり、金属製のシェルを主とするベース本体10に金属リード端子11,12が貫通して植設された構成であり、絶縁ガラスGがベース本体の一部に充填されることにより、これら金属リード端子11,12は電気的に独立して一体形成されている。
【0020】
金属リード端子11,12は細長い円柱形状であり、このインナーリードの先端部には、後述する金属サポート13,14が溶接の手法(レーザー溶接、スポット溶接等)により対向して取り付けられている。
【0021】
金属サポート13,14は、例えばニッケル鉄系の低熱膨張性の合金で、水晶の熱膨張係数の半分ぐらいから熱膨張係数がゼロに近い金属材料を用いている、具体的に三菱マテリアル株式会社製のものであれば、MA―INV36<Fe-36Ni>(インバー/アンバー)、MA−S−INVER<Fe-32Ni-5Co>(スーパーインバー)等があげられる。
【0022】
このような金属サポート13,14は、図示しないが、例えば厚みが0.1mmのインバーなどの金属母材に対してその表裏主面に対して3〜10μmの銅メッキからなる当該金属サポートより熱伝導率の高い金属膜が形成されている。また前記金属リード端子と接合されるリード接続部と、断面略コ字形状で後述する水晶振動板を挟み込んだ状態で保持する水晶振動板保持部とを有している。前記金属サポートの水晶振動板保持部には溶融後の金属ろう材が溜まる図示しない金属サポートの金属ろう材溜まり部と、水晶振動板の接続電極の一部を外部表面に露出されるように構成された切欠部や穴部などの窓部が形成されている。これらの金属ろう材溜まり部や窓部は後述する水晶振動板保持部の目印とすることが望ましい。
【0023】
上記金属サポート13,14と後述する水晶振動板2とを接合する金属ろう材としては、例えばAuGe、AuSn、Auなどの金系合金ろう材ペレットを用い、前記金属サポートの金属ろう材溜まり部などに対して予め溶接などで取り付けるとよい。
【実施例1】
【0024】
水晶振動板2は、図3に示すようにATカットの円盤形状の水晶振動板からなり、直径が7.7mm、周波数が10MHzのものを用いており、当該水晶振動板の一方の主面のみにプラノコンベックス研磨加工部21,22とプラノベベル研磨加工部23が形成されている。プラノコンベックス研磨加工部21は曲率半径400mm(R400)で構成され、プラノコンベックス研磨加工部22は曲率半径150mm(R150)で構成されるとともに、ベベル研磨加工部23は同じ一方の主面のみに曲率半径45mm(R45)で構成されている。このように全ての研磨加工部を一方の主面のみに構成する実施例1では、1つのプラノベベル研磨加工領域と2つのプラノコンベックス研磨加工領域とが一体となった加工上盤を準備すれば、一回の加工で3つの研磨加工領域を効率的に加工することができ、生産性を高めることができる。またATカット水晶振動板を用いることで、SCカット水晶振動板にくらべて、水晶振動板の加工による厚み系および輪郭系スプリアスコントロールが容易でありスプリアス抑制が行いやすい。水晶振動板の加工技術が確立されており部材の安定供給が行え、より安価で性能の安定した水晶振動板が得られる。OCXOとして使用し起動してから周波数が安定するまでの時間が早く使い勝手がよいという優位点がある。
【0025】
この水晶振動板2の表裏面には、真空蒸着法やスパッタリング法等の手法により図示しない励振電極と引出電極、金属ろう材との接続電極などを形成し、水晶振動板の端部には溶融後の金属ろう材が溜まる図示しない水晶振動板の金属ろう材溜まり部も形成されている。各電極23,24は金を主成分とする電極材料により構成されており、例えばクロムやニッケルの下地電極層の上面に金電極層が形成されている。前記金属ろう材接続電極や金属ろう材溜まり部は、水晶振動板の主面の中心点を通過するZ’軸に対して当該中心点から板面が+30°とー30°回転させた回転軸と当該水晶振動板の端部が交差する4点のうち、それぞれ対向する2点に形成し、金属サポート接合部の目印とすることが望ましい。
【0026】
そして、前記金属サポートの保持部の窓部(水晶振動板保持部の目印)に対して、前記水晶振動板2の金属ろう材接続電極や金属ろう材溜まり部(サポート接合部の目印)を位置合わせしながら、電極が形成された水晶振動板2を金属ろう材により金属サポート13,14に電気的機械的な接合がなされる。またこのような状態で水晶振動板が搭載されたベース1に図示しない蓋を被覆し真空雰囲気中で気密封止することで最終的な水晶振動子が完了する。
【実施例2】
【0027】
上記実施例1では円盤形状の水晶振動板2を例にして説明したが、図4に示すように、水晶振動板の主面の中心点を通過するZ’軸に対して当該中心点から板面が+30°とー30°回転させた回転軸と当該水晶振動板の端部が交差する4点のうち、いずれかの対向する2点に直交する切欠き部24,24を形成している。前記ベベル研磨加工部23については水晶振動板の両方の主面に曲率半径45mm(R45)で構成されている。実施例2の水晶振動板では、切欠き部24,24の両端部分で前記一対の金属サポートと接合することができるので、実施例1の水晶振動板にくらべて金属サポートの間の寸法に搭載される水晶振動板の直径寸法が制限されることが緩和され、より直径の大きな水晶振動板を配置接合することができる。また、コンベックス研磨加工部21,22を一方の主面のみに構成しながらベベル研磨加工部23を両方の主面に構成する実施例2では、プラノコンベックス研磨加工部の優位点とバイベベル研磨加工部の優位点を兼ね備えることができる。すなわち、水晶振動板の振動領域の加工を主とするプラノコンベックス研磨加工部を構成することにより、完成した水晶振動板の最厚肉部分(頂点部)の設計やその位置認識が容易となり、周波数設計や励振電極の形成位置の最適化が容易に行え、生産性の優れた水晶振動板が得られる。また水晶振動板の振動領域外の端部の加工を主とするバイべベル研磨加工部を構成することにより、プラノベベル研磨加工部にくらべてより輪郭振動モードを効率的に抑制することができる。各水晶振動板のCI値(直列共振抵抗値)のバラツキを抑制させ、チッピングの悪影響も軽減させることができる。
【0028】
上記実施形態により、水晶振動板2の振動領域の加工を主とする2段階の曲率を有するプラノコンベックス研磨加工部21,22と、水晶振動板2の振動領域外の端部の加工を主とするベベル研磨加工部23を組み合わせることで、水晶振動板2の小型化に対応させながら、エネルギー閉じ込め効果の低下をなくし、CI値(直列共振抵抗値)特性やCI値(直列共振抵抗値)温度特性などを改善することができる。輪郭系のスプリアス振動による寄生発振も生じにくくできる。また水晶振動板2の小型化にともなって、曲率の小さなプラノコンベックス研磨加工部22のみを形成してエネルギー閉じ込め効果が高まりすぎることによる弊害を曲率の大きなプラノコンベックス研磨加工部21によって改善することができ、水晶振動板2の駆動レベルによる周波数変動量が小さくなり線形のより高安定な電気的特性が得られる。プラノコンベックス研磨加工部21,22として水晶振動板2の一主面のみに研磨加工領域を形成しているので、完成した水晶振動板2の最厚肉部分(頂点部)の設計やその位置認識が容易となり、周波数設計や励振電極の形成位置の最適化が容易に行え、生産性の優れた水晶振動板が得られる。また曲率を有するベベル研磨加工部23を構成することで、2段階の曲率を有するコンベックス研磨加工部21,22から水晶振動板2の端部に向かって連続して曲線状に水晶振動板の厚みを縮小させることができるため、輪郭系のスプリアス振動をより効率的に抑制する。
【0029】
また、前記プラノコンベックス研磨加工部は曲率半径400mm(R400)の研磨加工部21と曲率半径150mm(R150)の研磨加工部22からなり、前記ベベル研磨加工部23は曲率半径45mm(R45)の加工領域を構成するよい。特に、前記水晶振動板2は直径が7.7mm以下であれば、前記プラノコンベックス研磨加工部21を直径が1.21mmから1.39mmで構成することで、CI値(直列共振抵抗値)温度特性が大幅に改善することができる。
【0030】
以上により、水晶振動板2の小型化に対応させながら、CI値(直列共振抵抗値)を向上させることができ、水晶振動板2の駆動レベルによる周波数変動量も小さくすることができる。線形の特性が得られる高安定向けの水晶振動子を提供することができる。また輪郭系のスプリアス振動による寄生発振も生じにくく、CI値(直列共振抵抗値)温度特性等も改善することができる。
【0031】
また、金属サポート13,14がニッケル鉄系の低熱膨張性の合金からなり、水晶の熱膨張係数の半分ぐらいから熱膨張係数がゼロに近い「インバー」、「スーパーインバー」等を用いて構成しているので、外部環境温度の変化により金属サポート13,14の熱膨張が生じることがほとんどなくなり、金属サポート13,14から水晶振動板2に対して外部環境温度の変化による応力を与えることがなくなり、経年変化に対する応力もより一層抑制できる。「インバー」、「スーパーインバー」は上述のように低熱膨張性の高い材料であるが、熱伝導率が悪く外部からの熱が加わった時の熱追従性が悪いために水晶振動板へ伝わる熱が遅れて、起動特性が悪化する傾向にある。本発明ではこのインバー、スーパーインバーより熱伝導率の高いCuメッキ(金属膜M)を金属サポートの外部表面に形成されていることで、外部環境温度の変化による水晶振動子のパッケージ体(蓋とベース1)外部の温度に対してCuメッキ(金属膜M)が遅れなく水晶振動板2に対して温度を伝え、温度差が生じることがほとんどなくなる。結果として低熱膨張でありながら、熱伝導率も同時に高めることができ、高安定向けの水晶振動子に望ましい保持構造が得られ、水晶振動子のエージング特性と熱追従性を同時かつより効果的に高めることができ、より安定した周波数温度特性を得ることができる。OCXOとして水晶振動子を利用する場合の起動特性も向上することができる。つまり水晶振動子を恒温槽内で所定温度まで加熱して周波数が安定するまでの時間もより短時間で起動させることができる。
【0032】
また、金属膜Mを金属サポート13,14の表裏主面に形成することで金属サポート全体としての熱変形に偏りが生じることがなくなり、水晶振動板2に対して余分な応力をかけることがない上で好ましい。金属膜MとしてCuメッキを用いることで、金属ろう材が溶融する際に濡れ性がよく、金属ろう材による接合力を向上させることができる。汎用されるメッキ浴を用いて比較的安価かつ容易にメッキ形成することができ、伝熱性に優れた金属膜を形成することができる。インバーやスーパーインバーなどニッケル鉄系の低熱膨張性の合金からなる厚さ0.1mmの金属母材に対してCuメッキとして3〜10μmの厚みで形成することで、コストを抑えながら安定した伝熱性を維持し、サポート全体としての低熱膨張性能の維持や不要な熱応力の悪影響をなくすことができる。Cuメッキとして3μmより薄く形成すると伝熱性が低下する。Cuメッキとして10μmより厚く形成すると金属サポートの曲げ加工等によりメッキの割れの危険性が増したり、サポート全体としての熱膨張性能にも悪影響が生じ水晶振動板に対して不要な熱的な応力を加わりやすくなる危険性が高まる。特にCuメッキの厚みにより適正に熱伝導率を調整することができ、上述のように3〜10μmの厚みでCuメッキを形成することで、水晶振動子の周波数のハンチング(オーバーシュート)を起すことなく、水晶振動板へ伝わる熱遅延することもない条件で保持部材を作成することができる。
【0033】
また、前記金属ろう材がAuGe、AuSn、Auなどの金系合金ろう材からなり、かつ前記水晶振動板2の表裏主面に形成される図示しない励振電極と引出電極、金属ろう材との接続電極が金を主成分とするクロムやニッケルの下地電極層の上面に金電極層が形成されている。このため、励振電極や金属ろう材が酸化等の電気的特性の劣化が生じにくい安定した材料となるので、エージング特性もさらに高めることができる。
【0034】
また前記金属サポートの水晶振動板保持部の目印(金属ろう材溜まり部・窓部)に対して前記水晶振動板の金属サポート接合部の目印(金属ろう材接続電極や金属ろう材溜まり部)が近接した状態で前記溶融した金属ろう材により接合することで、水晶振動板の端部のうち応力感度がない少なくとも2つのポイントに対する正確な位置決めがなされた状態でお互いを接合することができる。つまり金属サポート13,14などの外部から水晶振動板2に対して受ける応力も安定したものとすることでき、経年変化に対する応力も抑制できる。
【0035】
本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施できので、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求範囲によって示すものであって、明細書本文に拘束されるものではない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、水晶振動子等の圧電振動デバイスに適用できる。
【符号の説明】
【0037】
1 ベース
10 ベース本体
11,12 リード端子
13,14 金属サポート
2 水晶振動板
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚みすべり振動モードで発振する水晶振動子において、特にATカット厚みすべり水晶振動板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水晶振動子は共振特性に優れることから、周波数、時間の基準源として広く用いられており、水晶振動板の表面に金属薄膜電極を形成し、この金属薄膜電極を外気から保護するため、パッケージ体により気密封止されている。
【0003】
このうちOCXOと称される恒温槽型水晶発振器に用いられる水晶振動子では、金属性のパッケージ体が用いられているのが現状である。具体的には、金属ベースにはガラスなどの絶縁材を介して一対の金属リード端子が植設されており、当該金属リード端子のインナーリード部分には、一対の金属平板のサポート部材が対向して取り付けられている。水晶振動板は、例えば、SCカットやATカット水晶振動板であり、表裏面には励振電極と、各励振電極からの引出電極が形成されている。そして、前記金属サポートの上に水晶振動板が搭載され、導電接合材により電気的機械的に接続されるとともに、前記金属ベースに金属製の蓋を被せて気密封止する構成となっている。
【0004】
なお、OCXOは外部の温度変化に影響することなく、水晶振動子を恒温槽内で温度制御することにより周波数の高安定化を行ったものであり、周波数安定度として1×10-7〜1×10-10程度の水晶振動子で得られる最高水準の周波数安定度を得ることができるため、無線基地局や伝送ラインなどの基準周波数として利用されている。
【0005】
特許文献1では、様々な形状の水晶振動板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−96701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のような高安定向けの水晶振動板としては、プラノコンベックス加工するのが主流となっている。また水晶振動子の小型化に伴いコンベックス加工された水晶振動板に対しても小さく設計する必要があるが、水晶振動板を小さく設計するとCI値(直列共振抵抗値)が大きくなるなどの問題がある。そこで水晶振動板の小型化に合わせてコンベックス加工の曲率も小さくするのが一般的な手法であるが、振動エネルギー閉じ込め効果が入りすぎてしまい、駆動レベルが低い状態(低ドライブ)で過電流となり、振動特性として非線形的な変動を起こすなどの問題点を有していた。特にこのようなコンベックス加工による問題は直径が8mm以下の小型水晶振動板に顕著な傾向が現れているのが現状であった。
【0008】
本発明は上記問題点を解決するためになされたもので、CI値(直列共振抵抗値)を悪化させることなく小型化にも対応させ、水晶振動板の駆動レベルによる周波数変動量が小さくなり線形の特性が得られる高安定向けの水晶振動子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明の水晶振動子は、円盤形状に形成された厚みすべり水晶振動板であって、前記水晶振動板の片面には、2段階の曲率を有するプラノコンベックス研磨加工部と、水晶振動板の端部に形成されたベベル研磨加工部を有してなることを特徴とする。
【0010】
上記構成により、水晶振動板の振動領域の加工を主とする2段階の曲率を有するプラノコンベックス研磨加工部と水晶振動板の振動領域外の端部の加工を主とするベベル研磨加工部を組み合わせることで、水晶振動板の小型化に対応させながら、エネルギー閉じ込め効果の低下をなくし、CI値(直列共振抵抗値)特性やCI値(直列共振抵抗値)温度特性などを改善することができる。輪郭系のスプリアス振動による寄生発振も生じにくくできる。また水晶振動板の小型化にともなって、曲率の小さなプラノコンベックス研磨加工部のみを形成してエネルギー閉じ込め効果が高まりすぎることによる弊害を曲率の大きなプラノコンベックス研磨加工部によって改善することができ、水晶振動板の駆動レベルによる周波数変動量が小さくなり線形のより高安定な電気的特性が得られる。プラノコンベックス研磨加工部として水晶振動板の一主面のみに研磨加工領域を形成しているので、完成した水晶振動板の最厚肉部分(頂点部)の設計やその位置認識が容易となり、周波数設計や励振電極の形成位置の最適化が容易に行え、生産性の優れた水晶振動板が得られる。また曲率を有するベベル研磨加工部を構成することで、2段階の曲率を有するコンベックス研磨加工部から水晶振動板の端部に向かって連続して曲線状に水晶振動板の厚みを縮小させることができるため、輪郭系のスプリアス振動をより効率的に抑制する。
【0011】
図5は、従来と本発明の構成によるDLD特性について比較検証したものを示している。すなわち図5(a)は一段階のみの曲率を有するプラノコンベックス研磨加工部で構成された従来の水晶振動板の駆動レベルによる周波数特性とその時のCI値(直列共振抵抗値)特性を示しており、図5(b)は2段階の曲率を有するプラノコンベックス研磨加工部と、水晶振動板の端部に形成されたベベル研磨加工部で構成された本発明の水晶振動板の駆動レベルによる周波数特性とその時のCI値(直列共振抵抗値)特性を示している。共通項目としては、円盤形状で、直径が7.7mm、周波数が10MHzのATカット水晶振動板を用いており、駆動レベルを0.001μWから100μWまで変動させた際の周波数変動量を示している。これらの検証結果から明らかなように、本発明によるものでは10μW付近まで周波数変動量が変化なく安定しており(線形を保つことができる)実施するうえでより望ましいことがわかる。
【0012】
また、上述の構成において、前記プラノコンベックス研磨加工部は曲率半径400mm(R400)の加工領域と曲率半径150mm(R150)の加工領域からなり、前記ベベル研磨加工部は曲率半径45(R45)の加工領域を構成するとよい。特に、前記水晶振動板の直径が7.7mm以下であれば、前記プラノコンベックス研磨加工部のうちの曲率半径400mm(R400)の加工領域は、直径が1.21mmから1.39mmで構成するとよい。このように構成することで、上述の作用効果に加えて、より電気的特性の優れた高安定向けの水晶振動子を提供することができる。特にCI値(直列共振抵抗値)温度特性が大幅に改善することができる。
【0013】
図6〜図11はこのようなプラノコンベックス研磨加工領域の直径寸法に応じた周波数温度特性とその時のCI値(直列共振抵抗値)温度特性について、比較検証したものを示している。共通項目としては、図4に示すような一方向の両端部に切欠き部24,24を有する円盤形状で、直径が7.7mm、周波数が10MHzのATカット水晶振動板を用いており、当該水晶振動板の一方の主面のみにプラノコンベックス研磨加工部21,22とプラノベベル研磨加工部23が形成されている。プラノコンベックス研磨加工部21は曲率半径400mm(R400)で構成され、プラノコンベックス研磨加工部22はと曲率半径150mm(R150)で構成されるとともに、ベベル研磨加工部22は曲率半径45mm(R45)で構成されている。
【0014】
図6(グラフ1)では前記プラノコンベックス研磨加工部21の直径を1.03mmで構成した時の特性データを示しており、図7(グラフ2)では前記プラノコンベックス研磨加工部21の直径を1.12mmで構成した時の特性データを示しており、図8(グラフ3)では前記プラノコンベックス研磨加工部21の直径を1.21mmで構成した時の特性データを示しており、図9(グラフ4)では前記プラノコンベックス研磨加工部21の直径を1.31mmで構成した時の特性データを示しており、図10(グラフ5)では前記プラノコンベックス研磨加工部21の直径を1.39mmで構成した時の特性データを示しており、図11(グラフ6)では前記プラノコンベックス研磨加工部21の直径を1.45mmで構成した時の特性データを示している。
【0015】
これらの検証結果から明らかなように、前記プラノコンベックス研磨加工部21の直径を1.21mm(図8、水晶振動板の直径比として約15.7%)と1.31mm(図9、水晶振動板の直径比として約17%)、1.39mm(図10、水晶振動板の直径比として約18%)によって構成したものが他の直径寸法で構成した場合と比較してCI値(直列共振抵抗値)温度特性が安定しており実施するうえでより望ましいことがわかる。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、水晶振動板の小型化に対応させながら、CI値(直列共振抵抗値)を向上させることができ、水晶振動板の駆動レベルによる周波数変動量も小さくすることができる。線形の特性が得られる高安定向けの水晶振動子を提供することができる。また輪郭系のスプリアス振動による寄生発振も生じにくく、CI値(直列共振抵抗値)温度特性等も改善することができる
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態を示す分解斜視図。
【図2】図1のA方向から見たもので、実施例1の水晶振動板の平面図。
【図3】図2のB−B線に沿った断面図。
【図4】実施例2の水晶振動板の平面図と、そのC−C線に沿った断面図。
【図5】従来と本発明における水晶振動板のDLD特性を示すグラフ。
【図6】実施例2の水晶振動板の温度特性を示すグラフ1。
【図7】実施例2の水晶振動板の温度特性を示すグラフ2。
【図8】実施例2の水晶振動板の温度特性を示すグラフ3。
【図9】実施例2の水晶振動板の温度特性を示すグラフ4。
【図10】実施例2の水晶振動板の温度特性を示すグラフ5。
【図11】実施例2の水晶振動板の温度特性を示すグラフ6。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明による実施の形態を、水晶振動子を例にとり、図面を参照して説明する。図1は本発明の実施形態を示す分解斜視図であり、図2は図1のA方向から見たもので、実施例1の水晶振動板の平面図であり、図3は図2のB−B線に沿った断面図である。図4は実施例2の水晶振動板の平面図と、そのC−C線に沿った断面図である。なお、各形態において同様の部分については同番号を付すとともに特に必要がなければ説明の一部を割愛している。
【0019】
ベース1は全体として低背の長円柱形状であり、金属製のシェルを主とするベース本体10に金属リード端子11,12が貫通して植設された構成であり、絶縁ガラスGがベース本体の一部に充填されることにより、これら金属リード端子11,12は電気的に独立して一体形成されている。
【0020】
金属リード端子11,12は細長い円柱形状であり、このインナーリードの先端部には、後述する金属サポート13,14が溶接の手法(レーザー溶接、スポット溶接等)により対向して取り付けられている。
【0021】
金属サポート13,14は、例えばニッケル鉄系の低熱膨張性の合金で、水晶の熱膨張係数の半分ぐらいから熱膨張係数がゼロに近い金属材料を用いている、具体的に三菱マテリアル株式会社製のものであれば、MA―INV36<Fe-36Ni>(インバー/アンバー)、MA−S−INVER<Fe-32Ni-5Co>(スーパーインバー)等があげられる。
【0022】
このような金属サポート13,14は、図示しないが、例えば厚みが0.1mmのインバーなどの金属母材に対してその表裏主面に対して3〜10μmの銅メッキからなる当該金属サポートより熱伝導率の高い金属膜が形成されている。また前記金属リード端子と接合されるリード接続部と、断面略コ字形状で後述する水晶振動板を挟み込んだ状態で保持する水晶振動板保持部とを有している。前記金属サポートの水晶振動板保持部には溶融後の金属ろう材が溜まる図示しない金属サポートの金属ろう材溜まり部と、水晶振動板の接続電極の一部を外部表面に露出されるように構成された切欠部や穴部などの窓部が形成されている。これらの金属ろう材溜まり部や窓部は後述する水晶振動板保持部の目印とすることが望ましい。
【0023】
上記金属サポート13,14と後述する水晶振動板2とを接合する金属ろう材としては、例えばAuGe、AuSn、Auなどの金系合金ろう材ペレットを用い、前記金属サポートの金属ろう材溜まり部などに対して予め溶接などで取り付けるとよい。
【実施例1】
【0024】
水晶振動板2は、図3に示すようにATカットの円盤形状の水晶振動板からなり、直径が7.7mm、周波数が10MHzのものを用いており、当該水晶振動板の一方の主面のみにプラノコンベックス研磨加工部21,22とプラノベベル研磨加工部23が形成されている。プラノコンベックス研磨加工部21は曲率半径400mm(R400)で構成され、プラノコンベックス研磨加工部22は曲率半径150mm(R150)で構成されるとともに、ベベル研磨加工部23は同じ一方の主面のみに曲率半径45mm(R45)で構成されている。このように全ての研磨加工部を一方の主面のみに構成する実施例1では、1つのプラノベベル研磨加工領域と2つのプラノコンベックス研磨加工領域とが一体となった加工上盤を準備すれば、一回の加工で3つの研磨加工領域を効率的に加工することができ、生産性を高めることができる。またATカット水晶振動板を用いることで、SCカット水晶振動板にくらべて、水晶振動板の加工による厚み系および輪郭系スプリアスコントロールが容易でありスプリアス抑制が行いやすい。水晶振動板の加工技術が確立されており部材の安定供給が行え、より安価で性能の安定した水晶振動板が得られる。OCXOとして使用し起動してから周波数が安定するまでの時間が早く使い勝手がよいという優位点がある。
【0025】
この水晶振動板2の表裏面には、真空蒸着法やスパッタリング法等の手法により図示しない励振電極と引出電極、金属ろう材との接続電極などを形成し、水晶振動板の端部には溶融後の金属ろう材が溜まる図示しない水晶振動板の金属ろう材溜まり部も形成されている。各電極23,24は金を主成分とする電極材料により構成されており、例えばクロムやニッケルの下地電極層の上面に金電極層が形成されている。前記金属ろう材接続電極や金属ろう材溜まり部は、水晶振動板の主面の中心点を通過するZ’軸に対して当該中心点から板面が+30°とー30°回転させた回転軸と当該水晶振動板の端部が交差する4点のうち、それぞれ対向する2点に形成し、金属サポート接合部の目印とすることが望ましい。
【0026】
そして、前記金属サポートの保持部の窓部(水晶振動板保持部の目印)に対して、前記水晶振動板2の金属ろう材接続電極や金属ろう材溜まり部(サポート接合部の目印)を位置合わせしながら、電極が形成された水晶振動板2を金属ろう材により金属サポート13,14に電気的機械的な接合がなされる。またこのような状態で水晶振動板が搭載されたベース1に図示しない蓋を被覆し真空雰囲気中で気密封止することで最終的な水晶振動子が完了する。
【実施例2】
【0027】
上記実施例1では円盤形状の水晶振動板2を例にして説明したが、図4に示すように、水晶振動板の主面の中心点を通過するZ’軸に対して当該中心点から板面が+30°とー30°回転させた回転軸と当該水晶振動板の端部が交差する4点のうち、いずれかの対向する2点に直交する切欠き部24,24を形成している。前記ベベル研磨加工部23については水晶振動板の両方の主面に曲率半径45mm(R45)で構成されている。実施例2の水晶振動板では、切欠き部24,24の両端部分で前記一対の金属サポートと接合することができるので、実施例1の水晶振動板にくらべて金属サポートの間の寸法に搭載される水晶振動板の直径寸法が制限されることが緩和され、より直径の大きな水晶振動板を配置接合することができる。また、コンベックス研磨加工部21,22を一方の主面のみに構成しながらベベル研磨加工部23を両方の主面に構成する実施例2では、プラノコンベックス研磨加工部の優位点とバイベベル研磨加工部の優位点を兼ね備えることができる。すなわち、水晶振動板の振動領域の加工を主とするプラノコンベックス研磨加工部を構成することにより、完成した水晶振動板の最厚肉部分(頂点部)の設計やその位置認識が容易となり、周波数設計や励振電極の形成位置の最適化が容易に行え、生産性の優れた水晶振動板が得られる。また水晶振動板の振動領域外の端部の加工を主とするバイべベル研磨加工部を構成することにより、プラノベベル研磨加工部にくらべてより輪郭振動モードを効率的に抑制することができる。各水晶振動板のCI値(直列共振抵抗値)のバラツキを抑制させ、チッピングの悪影響も軽減させることができる。
【0028】
上記実施形態により、水晶振動板2の振動領域の加工を主とする2段階の曲率を有するプラノコンベックス研磨加工部21,22と、水晶振動板2の振動領域外の端部の加工を主とするベベル研磨加工部23を組み合わせることで、水晶振動板2の小型化に対応させながら、エネルギー閉じ込め効果の低下をなくし、CI値(直列共振抵抗値)特性やCI値(直列共振抵抗値)温度特性などを改善することができる。輪郭系のスプリアス振動による寄生発振も生じにくくできる。また水晶振動板2の小型化にともなって、曲率の小さなプラノコンベックス研磨加工部22のみを形成してエネルギー閉じ込め効果が高まりすぎることによる弊害を曲率の大きなプラノコンベックス研磨加工部21によって改善することができ、水晶振動板2の駆動レベルによる周波数変動量が小さくなり線形のより高安定な電気的特性が得られる。プラノコンベックス研磨加工部21,22として水晶振動板2の一主面のみに研磨加工領域を形成しているので、完成した水晶振動板2の最厚肉部分(頂点部)の設計やその位置認識が容易となり、周波数設計や励振電極の形成位置の最適化が容易に行え、生産性の優れた水晶振動板が得られる。また曲率を有するベベル研磨加工部23を構成することで、2段階の曲率を有するコンベックス研磨加工部21,22から水晶振動板2の端部に向かって連続して曲線状に水晶振動板の厚みを縮小させることができるため、輪郭系のスプリアス振動をより効率的に抑制する。
【0029】
また、前記プラノコンベックス研磨加工部は曲率半径400mm(R400)の研磨加工部21と曲率半径150mm(R150)の研磨加工部22からなり、前記ベベル研磨加工部23は曲率半径45mm(R45)の加工領域を構成するよい。特に、前記水晶振動板2は直径が7.7mm以下であれば、前記プラノコンベックス研磨加工部21を直径が1.21mmから1.39mmで構成することで、CI値(直列共振抵抗値)温度特性が大幅に改善することができる。
【0030】
以上により、水晶振動板2の小型化に対応させながら、CI値(直列共振抵抗値)を向上させることができ、水晶振動板2の駆動レベルによる周波数変動量も小さくすることができる。線形の特性が得られる高安定向けの水晶振動子を提供することができる。また輪郭系のスプリアス振動による寄生発振も生じにくく、CI値(直列共振抵抗値)温度特性等も改善することができる。
【0031】
また、金属サポート13,14がニッケル鉄系の低熱膨張性の合金からなり、水晶の熱膨張係数の半分ぐらいから熱膨張係数がゼロに近い「インバー」、「スーパーインバー」等を用いて構成しているので、外部環境温度の変化により金属サポート13,14の熱膨張が生じることがほとんどなくなり、金属サポート13,14から水晶振動板2に対して外部環境温度の変化による応力を与えることがなくなり、経年変化に対する応力もより一層抑制できる。「インバー」、「スーパーインバー」は上述のように低熱膨張性の高い材料であるが、熱伝導率が悪く外部からの熱が加わった時の熱追従性が悪いために水晶振動板へ伝わる熱が遅れて、起動特性が悪化する傾向にある。本発明ではこのインバー、スーパーインバーより熱伝導率の高いCuメッキ(金属膜M)を金属サポートの外部表面に形成されていることで、外部環境温度の変化による水晶振動子のパッケージ体(蓋とベース1)外部の温度に対してCuメッキ(金属膜M)が遅れなく水晶振動板2に対して温度を伝え、温度差が生じることがほとんどなくなる。結果として低熱膨張でありながら、熱伝導率も同時に高めることができ、高安定向けの水晶振動子に望ましい保持構造が得られ、水晶振動子のエージング特性と熱追従性を同時かつより効果的に高めることができ、より安定した周波数温度特性を得ることができる。OCXOとして水晶振動子を利用する場合の起動特性も向上することができる。つまり水晶振動子を恒温槽内で所定温度まで加熱して周波数が安定するまでの時間もより短時間で起動させることができる。
【0032】
また、金属膜Mを金属サポート13,14の表裏主面に形成することで金属サポート全体としての熱変形に偏りが生じることがなくなり、水晶振動板2に対して余分な応力をかけることがない上で好ましい。金属膜MとしてCuメッキを用いることで、金属ろう材が溶融する際に濡れ性がよく、金属ろう材による接合力を向上させることができる。汎用されるメッキ浴を用いて比較的安価かつ容易にメッキ形成することができ、伝熱性に優れた金属膜を形成することができる。インバーやスーパーインバーなどニッケル鉄系の低熱膨張性の合金からなる厚さ0.1mmの金属母材に対してCuメッキとして3〜10μmの厚みで形成することで、コストを抑えながら安定した伝熱性を維持し、サポート全体としての低熱膨張性能の維持や不要な熱応力の悪影響をなくすことができる。Cuメッキとして3μmより薄く形成すると伝熱性が低下する。Cuメッキとして10μmより厚く形成すると金属サポートの曲げ加工等によりメッキの割れの危険性が増したり、サポート全体としての熱膨張性能にも悪影響が生じ水晶振動板に対して不要な熱的な応力を加わりやすくなる危険性が高まる。特にCuメッキの厚みにより適正に熱伝導率を調整することができ、上述のように3〜10μmの厚みでCuメッキを形成することで、水晶振動子の周波数のハンチング(オーバーシュート)を起すことなく、水晶振動板へ伝わる熱遅延することもない条件で保持部材を作成することができる。
【0033】
また、前記金属ろう材がAuGe、AuSn、Auなどの金系合金ろう材からなり、かつ前記水晶振動板2の表裏主面に形成される図示しない励振電極と引出電極、金属ろう材との接続電極が金を主成分とするクロムやニッケルの下地電極層の上面に金電極層が形成されている。このため、励振電極や金属ろう材が酸化等の電気的特性の劣化が生じにくい安定した材料となるので、エージング特性もさらに高めることができる。
【0034】
また前記金属サポートの水晶振動板保持部の目印(金属ろう材溜まり部・窓部)に対して前記水晶振動板の金属サポート接合部の目印(金属ろう材接続電極や金属ろう材溜まり部)が近接した状態で前記溶融した金属ろう材により接合することで、水晶振動板の端部のうち応力感度がない少なくとも2つのポイントに対する正確な位置決めがなされた状態でお互いを接合することができる。つまり金属サポート13,14などの外部から水晶振動板2に対して受ける応力も安定したものとすることでき、経年変化に対する応力も抑制できる。
【0035】
本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施できので、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求範囲によって示すものであって、明細書本文に拘束されるものではない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、水晶振動子等の圧電振動デバイスに適用できる。
【符号の説明】
【0037】
1 ベース
10 ベース本体
11,12 リード端子
13,14 金属サポート
2 水晶振動板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円盤形状に形成された厚みすべり水晶振動板であって、
前記水晶振動板の片面には、2段階の曲率を有するプラノコンベックス研磨加工部と、水晶振動板の端部に形成されたベベル研磨加工部を有してなることを特徴とする水晶振動子。
【請求項2】
前記プラノコンベックス研磨加工部は曲率半径400mmの加工領域と曲率半径150mmの加工領域からなり、前記ベベル研磨加工部は曲率半径45mmの加工領域からなることを特徴とする特許請求項1記載の水晶振動子。
【請求項3】
前記水晶振動板は直径が7.7mm以下で、前記プラノコンベックス研磨加工部のうちの曲率半径400mmの加工領域は、直径が1.21mmから1.39mmで構成したことを特徴とする特許請求項1、または特許請求項2記載の水晶振動子。
【請求項1】
円盤形状に形成された厚みすべり水晶振動板であって、
前記水晶振動板の片面には、2段階の曲率を有するプラノコンベックス研磨加工部と、水晶振動板の端部に形成されたベベル研磨加工部を有してなることを特徴とする水晶振動子。
【請求項2】
前記プラノコンベックス研磨加工部は曲率半径400mmの加工領域と曲率半径150mmの加工領域からなり、前記ベベル研磨加工部は曲率半径45mmの加工領域からなることを特徴とする特許請求項1記載の水晶振動子。
【請求項3】
前記水晶振動板は直径が7.7mm以下で、前記プラノコンベックス研磨加工部のうちの曲率半径400mmの加工領域は、直径が1.21mmから1.39mmで構成したことを特徴とする特許請求項1、または特許請求項2記載の水晶振動子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−177976(P2010−177976A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17425(P2009−17425)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000149734)株式会社大真空 (312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000149734)株式会社大真空 (312)
【Fターム(参考)】
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