水素センサー及びその製造方法
本発明に従い新規な水素センサーの製造方法が提供されるが、該方法は、弾性基板の表面に遷移金属またはその合金薄膜を形成するステップと、上記弾性基板に引張力を印加して、上記基板表面に形成された上記合金薄膜に複数のナノギャップを形成するステップと、を含み、上記薄膜への上記ナノギャップは、上記引張力の印加時には上記薄膜が該引張力の印加方向に伸長すると共に該印加方向に対して垂直方向に収縮し、該引張力を解除すると上記薄膜が該印加方向に収縮すると共に該印加方向に対して垂直方向に伸長することにより形成されることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素センサー及びその製造方法に係り、より詳しくは、遷移金属またはその合金薄膜を利用した水素センサー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素エネルギーは、リサイクル可能で且つ環境汚染の問題を引き起こさないという長所があるため、それに係る研究が活発に進められている。
【0003】
しかしながら、水素ガスは、大気中に僅か4%でも漏洩されると爆発の危険性があるため、使用時の安全が担保されない限り、実生活への広範な適用は困難であるという問題点がある。そのため、水素エネルギーの活用に係る研究と共に、実使用にあたって水素ガスの漏洩を早期に検出できる水素ガス検出センサー(以下、略して「水素センサー」と称する)の開発が並行して進められている。
【0004】
これまでに開発された水素センサーとしては、セラミックス/半導体式センサー(接触燃焼式、熱電式及び半導体厚膜式センサー)、半導体素子式センサー(MISFET、MOS)、光学式センサー及び電気化学式(Potentiometric/Amperometric)センサーなどがある。
【0005】
セラミックス/半導体式センサーは、セラミックス半導体の表面へのガスの接触時に生じる電気伝導度の変化を利用するものが大半であり、大気中で加熱環境下において使用される場合が多いため、高温で安定した金属酸化物(セラミックス、SnO2、ZnO、Fe2O3)が主に使用される。しかしながら、高濃度の水素気体状態で飽和され、高濃度の水素気体を検知することができないという短所を持っている。
【0006】
このうち、接触燃焼式は、センサー表面上における可燃性ガスの接触により生成される酸化反応によって生じる燃焼熱の変化を検出する方式であって、センサー出力がガスの濃度に比例し、検出精度が高く、且つ周囲温度または湿度による影響が少ないという長所がある。しかしながら、作動温度が高温でなければならず、選択性に乏しいという短所を持っている。
【0007】
また、半導体素子式センサー(MISFET、MOS)や水素吸着によって光透過度が変化するガスクロミック物質を使用した光学式センサーは、水素気体を吸着しやすいパラジウムを使用するが、高濃度の水素気体に繰り返し露出すると性能が低下するなどの短所を持っている。
【0008】
最後に、電気化学式センサーは、検知対象ガスを電気化学的に酸化または還元し、その際に外部回路に流れる電流を測定する装置であって、測定原理によって定電位式、ガルバニック電池式、イオン電極式などに分けられる。多様なガス検知能力にもかかわらず製作方法が複雑で且つ難しいという短所を持っている。
【0009】
最近、センサー用水素検知技術として利用される材料には、Pd薄膜センサー、MISFETなどの半導体センサー、カーボンナノチューブセンサー、及びチタニアナノチューブセンサー等がある(F.Dimeo et al.、2003 Annual Merit Review:非特許文献1)。しかしながら、これら技術が持っているそれぞれの長所にもかかわらず、水素センサーの核心と言える検知可能な初期水素濃度、反応時間、検知温度、駆動消費電力などの面において、その性能はまだ微々たるレベルに止まっている。
【0010】
既に開発された技術として、パラジウム(Pd)の水素との反応によりグラファイト(graphite)層を用いてPdが生成できる位置(site)を用意し、このようにして生成されたパラジウム粒子が、機能化した基板への水素の流入に伴いPd格子の膨張が生じることで互いにつながったワイヤのような形態で形成され、この結果、電気抵抗が減少するという現象を用いる技術が提示されている(Penner et al. Science 293 (2001)2227−2231:非特許文献2)。該技術では、水素吸着によるPdの格子膨張を実験的に確認することにより、Pdナノ粒子を連続的でないワイヤの形態で並べて電気信号を検出した。しかしながら、製作方法が複雑で且つ最小検知濃度が高いという短所を持っている。
【0011】
Pd薄膜を用いた水素ガス検知センサーは、他の素材を用いて製作したセンサーに比べて水素検知能力が遥かに優れているため、通常的に多用されている。従来、この種の水素センサーの場合、スパッタと蒸気蒸着法などで強い力をPd粒子に与えることで基板に密着し、格子を膨張させる方法を用いたが、膨張する量が基板との結合力によって減少してしまうため、水素に対する敏感度がそれほど大きくない様子を示した。また、Pd粒子を基板に接着していない場合は、水素への露出時にPd格子が膨張した後、水素への露出を中止してもPd同士の結合力によって初期状態に戻らず、再現性に乏しいという短所がある。さらには、Pd粒子を用いたこれらの水素センサーは、高濃度の水素にだけ反応し、水素への露出を中止すると、初期抵抗値が変わるという不具合もある。
【0012】
このように、従来の水素センサーは、既存の水素センサーの問題点をある程度は補完したものの、検知能力、敏感度、安定性、低濃度での素早い反応時間などの課題において既存のセンサーの代案になれないというのが実情である。
【0013】
したがって、水素検出性能を最適化できる材料及び構造に関する研究が進められつつある中、ナノ材料を使用して水素検出性能を高めようとする試みが続いている。
【0014】
代表的なナノ材料としてのパラジウムは、周辺の環境と関係なく水素と反応する性質をもっており、水素ガスを化学的に吸収すると格子定数が増加し、これにより電流を印加すると抵抗が増加する現象を示す。
【0015】
このような現象に着目し、最近、表面積が極大化したパラジウムナノワイヤを用いて水素にだけ反応する固体状態の水素センサーの研究が活発に進められている。パラジウムナノワイヤを用いた水素ンサーは、水素の存在有無によってパラジウムナノワイヤの抵抗値が変化する現象を用いて水素を検知するようになる。
【0016】
今までに開発されたパラジウムナノワイヤの製造方法は、HOPG(Highly Oriented Pyrolytic Graphite)鋳型(template)を利用した方法、EBL(E−beam lithography)を利用した方法、及びDEP(di−electrophoresis)を利用した方法などがある。
【0017】
上記HOPG鋳型を利用した方法は、基板のナノ鋳型に電気化学的にパラジウムナノワイヤを製造する方法であるが、製造工程が複雑で、且つ長時間がかかり、さらには、製作過程中の誤差により、生産されたパラジウムナノワイヤが所定の抵抗値を持ちにくくなり、生産歩留まりが低いという短所があった。
【0018】
また、上記EBLを利用した方法は、基板にナノパターニングを行った後、電気化学的にパラジウムナノワイヤを形成する方法であるが、生産歩留まりが低く、製造コストが高価であるという短所があった。
【0019】
上記DEPを利用する方法も同様に、基板にナノワイヤの材料物質からなる層を形成し、金属電極を介して高周波交流電源を供給することでナノワイヤを製造する方法であるが、製造工程が複雑で、且つ均一な形態のパラジウムナノワイヤの生産が不可能であるため、生産歩留まりが低いという短所があった。
【0020】
そのため、パラジウム金属が有する水素検知性能をそのまま保ちつつも、低廉で、且つ簡易にパラジウム水素センサーを製造することができる新規な製造工程を開発する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】F.Dimeo et al.、2003 Annual Merit Review
【非特許文献2】Penner et al. Science 293 (2001)2227-2231
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は、上記の従来技術の問題点を解決するためになされたものであって、その一つの目的は、製造方法が複雑で、且つ長時間がかかり、生産歩留まりが低い従来の水素センサーの製造方法に代えて、短時間で簡易に、且つ低廉に製作可能な水素センサーを製造することができる新規な水素センサーの製造方法、及びその水素センサーを提供することである。
【0023】
本発明の他の目的は、製作過程の誤差による影響を排除し、水素センサーが水素に反応する反応再現性を高めて、精度よく水素を検知することができる超低価で高性能の水素センサー及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記目的を達成するための、本発明に係る新規な水素センサーの製造方法は、弾性基板の表面に遷移金属またはその合金薄膜を形成するステップと、上記弾性基板に引張力を印加して、上記基板表面に形成された上記合金薄膜に複数のナノギャップを形成するステップと、を含み、上記薄膜への上記ナノギャップは、上記引張力の印加時には上記薄膜が該引張力の印加方向に伸長すると共に該印加方向に対して垂直方向に収縮し、該引張力を解除すると上記薄膜が該印加方向に収縮すると共に該印加方向に対して垂直方向に伸長することにより形成されることを特徴とする。
【0025】
一実施例において、上記遷移金属は、Pd、Pt、Ni、Ag、Ti、Fe、Zn、Co、Mn、Au、W、In及びAlから選択されていてよい。
【0026】
一実施例において、上記合金は、Pd−Ni、Pt−Pd、Pd−Ag、Pd−Ti、Pd−Fe、Pd−Zn、Pd−Co、Pd−Mn、Pd−Au、Pd−W、Pt−Ni、Pt−Ag、Pt−Ti、Fe−Pt、Pt−Zn、Pt−Co、Pt−Mn、Pt−Au及びPt−Wから選択されていてよい。
【0027】
一実施例において、上記遷移金属はPdであり、上記合金はPd合金であればよい。
【0028】
一実施例において、上記弾性基板の表面に0.85(x(0.96を満たすPdxNi1-x合金薄膜を形成していてよい。
【0029】
一実施例において、上記弾性基板の表面に0.90(x(0.94を満たすPdxNi1-x合金薄膜を形成していてよい。
【0030】
一実施例において、上記弾性基板は、0.2〜0.8のポアソン比(Poisson's ratio)を有していてよい。
【0031】
一実施例において、上記引張力は、上記弾性基板が1.05ないし1.50倍に伸長するように印加されていてよい。
【0032】
一実施例において、上記弾性基板は、天然ゴム、合成ゴムまたはポリマーで製造していてよい。
【0033】
一実施例において、上記引張力は、上記弾性基板に対して1回以上繰り返し印加していてよい。
【0034】
一実施例において、上記引張力は、上記弾性基板に対して1方向以上から印加していてよい。
【0035】
一実施例において、上記引張力は、第1方向、該第1方向に対して垂直な第2方向、及び上記第1方向及び上記第2方向とは異なる方向をなす第3方向から繰り返し印加していてよい。
【0036】
一実施例において、上記薄膜の膜厚は、約1nmないし約100μmであってよい。
【0037】
一実施例において、上記ナノギャップは、約1nmないし10μmの間隔を隔てて形成されていてよい。
【0038】
一実施例において、上記ナノギャップが形成された上記遷移金属またはその合金薄膜を熱処理するステップを更に含んでいてよい。
【0039】
一実施例において、上記ナノギャップが形成された上記遷移金属またはその合金薄膜をイオンミリングするステップを更に含んでいてよい
本発明の他の態様に係る新規な水素センサーの製造方法は、弾性基板を用意するステップと、上記弾性基板にα相を有するPdまたはPd合金薄膜を形成するステップと、上記薄膜を所定の濃度の水素含有ガスに露出して、上記α相の薄膜をβ相の薄膜に変化させ、体積の膨張によるナノギャップを上記薄膜に形成するステップと、上記水素含有ガスに対する露出を中止させ、上記β相の薄膜を再びα相の薄膜に変化させるステップと、を含むことを特徴とする。
【0040】
一実施例において、上記α相に変化された上記薄膜を熱処理するステップを更に含んでいてよい。
【0041】
一実施例において、上記α相に変化された上記薄膜をイオンミリングするステップを更に含んでいてよい。
【0042】
一実施例において、上記水素含有ガスへの露出の際の水素濃度を2〜15%にしてよい。
【0043】
一実施例において、上記薄膜の膜厚は、約1nmないし約100μmの範囲内にあってよい。
【0044】
本発明のまた他の態様に係る水素センサーは、弾性材質の基板と、上記基板の表面に形成された遷移金属またはその合金の薄膜と、上記薄膜の両端に形成された電極と、を含み、上記薄膜には、上記基板への引張力の印加によって形成された複数のナノギャップが含まれていることを特徴とする。
【0045】
本発明の他の態様に係る水素センサーは、弾性材質の基板と、上記基板の表面に形成されたPdまたはPd合金の薄膜と、上記薄膜の両端に形成された電極と、を含み、上記薄膜には、上記相変化を用いた方法により形成された複数のナノギャップが含まれていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0046】
本発明に係る水素センサーの製造方法では、複雑な工程を有する従来の水素センサーの製造方法(半導体式、接触燃焼式、FET(field effect transistor)方式、電解質式(電気化学式)、光ファイバ式、圧電式、熱電式など)、または大型且つ高価で不便な方式の商用化された水素センサー(接触燃焼式水素センサー、パラジウム合金と熱板結合型水素センサー、Pd/Ag合金固体相水素センサー、PdゲートFET水素センサーなど)の場合とは異なり、遷移金属(例えば、パラジウム)またはその合金薄膜(例えば、Pd−Ni合金薄膜)を配置した基板に物理的な引張力を印加して、上記薄膜が水素ガスを検知できるナノギャップを有する形態に加工することができ、短時間且つ低費用で高性能の水素センサーを大量生産することができる。
【0047】
本発明に係る水素センサーの製造方法によれば、複雑な工程を有する従来の水素センサーの製造方法とは異なり、遷移金属またはその合金薄膜を弾性基板に配置し、上記弾性基板に引張力を印加して、上記基板に配置された上記薄膜を引張力の印加方向に伸長すると共に、その印加方向に対して垂直方向に収縮することができる。その結果、上記弾性基板に引張力を印加するという簡単な方法にて物理的なストレインを与えて、容易にナノギャップを有する遷移金属またはその薄膜を形成することができる。したがって、水素濃度の変化に応じて抵抗値が変化する、低廉且つ高性能の水素センサーを大量で製造することができ、これにより、水素センサーの製造歩留まりを画期的に向上させることができる。
【0048】
また、本発明に係る水素センサーは、シリコンオキサイド基板、サファイア基板、またはガラス基板のように非弾性材質の基板上に形成された従来の水素センサーとは異なり、弾性素材からなる基板の表面に遷移金属またはその合金薄膜を配置してなることにより、水素センサーそのものが弾性を備えるようになり、水素が漏出するおそれのある様々な空間に自在に設置可能であることから、水素センサーの活用の幅を拡大することができる。また、本発明によれば、Pd薄膜の相変化によりナノギャップを形成することができ、短時間且つ低費用で高性能の水素センサーを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】パラジウム薄膜が配置された弾性基板に引張力を印加した際の、弾性基板及び上記弾性基板に配置された遷移金属またはその合金薄膜の変形様態を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施例に係る水素センサーの斜視図である。
【図3】ナノギャップが形成されたパラジウム薄膜を示す写真であって、(a)は約1000倍の顕微鏡写真であり、(b)は約50倍の顕微鏡写真であり、(c)は3D立体写真である。
【図4】1方向以上から順次に引張力を印加し、引張力を解除したときに現われる、パラジウム薄膜が配置された基板の形態変化を示す説明図である。
【図5】水素の存在有無によって本発明の一実施例に係る水素センサーの抵抗値が変化することを説明する説明図である。
【図6】本発明の水素センサーの水素検出能力を測定するためのシステムの概路図である。
【図7】本発明の一実施例に係る水素センサーを測定システムに装着した後、種々の水素濃度で測定した抵抗値及び電流値の変化を示す図である。
【図8】本発明の一実施例に係る水素センサーを水素検出システムに装着した後、種々の水素濃度での抵抗変化を示す図であって、(a)は10000ppm水素ガスの濃度での抵抗変化を測定した結果を示すグラフであり、(b)は5000ppm水素ガスの濃度での抵抗変化を測定した結果を示すグラフであり、(c)は500ppm水素ガスの濃度での抵抗変化を測定した結果を示すグラフである。
【図9】本発明の一実施例に係るPd薄膜水素センサーを測定システムに装着し、空気中に露出した際に測定した電流値を示す図であって、(a)はPd薄膜の膜厚16nmの水素センサーを測定システムに装着し、空気中に露出した際に測定した電流値を示すグラフであり、(b)はPd薄膜の膜厚が14nmである水素センサーを空気中に露出した際の時間に対する電流値の変化を示すグラフである。
【図10】Pd薄膜水素センサーが水素に繰り返し露出した際に発生するメカニズム及びPd薄膜の膜厚が8nmである水素センサーを水素中に露出した際の時間に対する電流値の変化を示す図である。
【図11】本発明の実施例に従い、PdxNi1-x薄膜を基板に形成する2つの方法を模式的に示す図である。
【図12】本発明の一実施例に係る水素センサーの斜視図である。
【図13】ナノギャップが形成されたPdxNi1-x合金薄膜のSEMイメージ写真である。
【図14】ナノギャップが形成されたPdxNi1-x合金薄膜の光学イメージ写真である。
【図15】本発明の一実施例に係る膜厚7.5nmのPd93Ni7合金薄膜を有する水素センサーを測定システムに装着し、窒素ガス中に露出した際に測定した電流値を示すグラフである。
【図16】本発明の一実施例に係る膜厚7.5nmのPd93Ni7合金薄膜を有する水素センサーを測定システムに装着し、空気中に露出した際に測定した電流値を示すグラフである。
【図17】膜厚8nmのPd93Ni7合金薄膜を有する水素センサーを測定システムに装着し、空気中に露出した際に測定した電流値を示すグラフである。
【図18】膜厚10nmのPd93Ni7合金薄膜を有する水素センサーを測定システムに装着し、空気中に露出した際に測定した電流値を示すグラフである。
【図19】膜厚11nmのPd93Ni7合金薄膜を有する水素センサーを測定システムに装着し、空気中に露出した際に測定した電流値を示すグラフである。
【図20】膜厚10nmのPd93Ni7合金薄膜を有する水素センサーを測定システムに装着し、窒素ガス中に露出した際に測定した電流値を示すグラフである。
【図21】膜厚11nmのPd93Ni7合金薄膜を有する水素センサーを測定システムに装着し、窒素ガス中に露出した際に測定した電流値を示すグラフである。
【図22】本発明の比較例として、膜厚7.5nmのPd薄膜を有する水素センサーを測定システムに装着し、窒素ガス中に露出した際に測定した電流値を示すグラフである。
【図23】本発明の比較例として、膜厚7.5nmのPd薄膜を有する水素センサーを測定システムに装着し、空気中に露出した際に測定した電流値を示すグラフである。
【図24】本発明の一実施例に係る水素センサーの製造工程を示す図である。
【図25】本発明の一実施例に従い製造された膜厚10nmのPd薄膜のOMイメージ写真である。
【図26】(a)は膜厚10nmのPd薄膜を0.5〜4%水素濃度に露出した際に測定した電流値の変化を示すグラフであり、(b)は膜厚11nmのPd薄膜を0.5〜4%水素濃度に露出した際に測定した電流値の変化を示すグラフである。
【図27】膜厚10.5nmのPd薄膜を空気中において2%水素濃度に露出した際に測定した電流値の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、添付図面を参照して本発明の種々の好適な実施形態について説明する。
【0051】
本発明の水素センサーの製造方法は、リソグラフィのようなMEMS工程を用いてパラジウムナノワイヤを生産する複雑な従来方式に代えて、遷移金属またはその合金薄膜を弾性基板に配置し、該弾性基板に特定の方向に引張力を印加することで該薄膜にナノギャップを形成してなる水素センサーを大量に生産することができる。
【0052】
上記基板に配置された薄膜は、該基板に引張力を印加すると、その印加方向に伸長すると共に、その印加方向に対して垂直方向には収縮する。また、上記弾性基板への引張力を解除すると、上記薄膜は、上記印加方向には収縮すると共に、その印加方向に対して垂直方向には伸長する。
【0053】
このように、本発明の水素センサーの製造方法によれば、弾性基板への引張力の印加といった簡単な方法にてパラジウムのような遷移金属またはその合金薄膜に物理的なストレインを与え、これにより、短時間で低廉且つ簡易にナノギャップを有する水素センサーを製造することができる。また、実施例によっては、パラジウムの相変化を用いてナノギャップを有する水素センサーを製造することもできる。
【0054】
上記のように遷移金属またはその合金薄膜にナノギャップを形成すると、上記ナノギャップによって電流の流れが阻害されるため、高い抵抗値を有する。しかしながら、水素雰囲気下では、周囲の水素を吸収することで遷移金属またはその合金薄膜の格子定数が増加し、体積の増加に伴い上記ナノギャップが埋められることで電流の流れが滑らかになるため、低い抵抗値を有するようになる。このような水素ガスの存在有無による抵抗値の変化を測定して水素濃度を測定可能になる。
【0055】
以下、図面を参照して本発明の種々の実施例について説明する。
【0056】
1.実施例A
先ず、本発明の水素センサーを製造するために弾性基板上に遷移金属またはその合金薄膜を配置する。
【0057】
このとき、上記基板は、水素を検知するセンサー部の役割を担う上記薄膜が配置される基材の役割を果たし、水素センサーを製造する過程で引張力を印加する際、基板上に配置された薄膜に対してストレインを伝達する役割を果たす。
【0058】
上記基板は、引張力を印加するとその印加方向に伸長でき、また引張力を解除すると元の形状に戻り得る弾性素材からなる。
【0059】
図1を参照すると、弾性素材によく見られるように、弾性素材に対して縦方向(x方向)に引張力を印加すると、縦方向の伸長変形率の成分以外の他の何らの条件がない限り、弾性素材は縦方向への伸長に伴い横方向(y方向)の収縮が発生することが予想される。また、上記横方向(y方向)の収縮変形率は、縦方向の伸長変形率に対して一定の比率を保ちつつ収縮するようになる。弾性素材への引張力を解除し、または弾性素材を短軸方向に収縮させると、横方向には伸長変形率が発生するようになり、このとき、横方向の伸長変形率と縦方向の収縮変化率間にも引張力の印加時と同等な一定比を保ちつつ変形がなされる。このような横方向の伸長変形率と縦方向の収縮変化率がもつ一定比の値を弾性素材のポアソン比(Poisson's ratio)と定義する。
【0060】
図1に示すように、弾性素材に引張力を印加すると、その表面に一体で結合し配置されたパラジウムまたはその合金薄膜が、弾性素材の変形に伴い一体で変形し、その変形の様態は、引張力の印加時には、x方向には伸長すると共に、y方向には収縮するようになり、また引張力を解除すると、x方向には収縮すると共に、y方向には伸長するようになる。
【0061】
本発明の一実施例に係る水素センサーを示す図2を参照すると、上記弾性基板に引張力を印加するといった簡単な方法にて上記弾性基板120の表面に一体で結合した薄膜110に物理的なストレインを与えることができ、物理的なストレインが与えられた上記パラジウムまたはその合金薄膜110には、図3に示すように、ナノギャップ11が形成される。
【0062】
上記弾性基板120に印加した引張力は、上記パラジウムまたはその合金薄膜110にそのまま伝わるため、上記弾性基板120が有するポアソン比によって上記薄膜110の伸長方向(x方向)、またはその収縮方向(y方向)への伸長と収縮の割合が決められるようになる。
【0063】
本発明の一実施例に係る水素センサー10の製造方法において、上記薄膜は、引張力の印加方向のx方向に伸長すると共に、引張力の印加方向に対して垂直方向のy方向に収縮するようになる。したがって、上記薄膜110に作用する物理的なストレイン、及びストレインによるナノギャップ11の効率的な形成を総合的に考慮した上で上記弾性基板12に印加する引張力の大きさを調節する必要があり、このような理由から、上記弾性基板120は、0.2ないし0.8のポアソン比を有することが好ましく、0.3ないし0.7のポアソン比を有することがより好ましく、0.5のポアソン比を有することが最も好ましい。
【0064】
また、上記弾性基板120への引張力は、上記弾性基板の特性と上記弾性基板の表面に一体で形成された上記遷移金属またはその合金薄膜の膜厚、材質及び性質などを総合的に考慮した上で、上記弾性基板120が適宜伸長するように印加すればよく、上記弾性基板120が1.05ないし1.50倍に伸長するように印加することが最も好ましく、この結果、上記薄膜110に均一なナノギャップ11が形成できるようになる。
【0065】
上記基板120上には、遷移金属またはその合金薄膜110を配置するようになる。このとき、本発明では、遷移金属の種類には制限がなく、水素によって膨張可能な種々の遷移金属またはこれらの合金薄膜を利用すればよい。
【0066】
好ましくは、上記遷移金属は、水素によって膨張可能なPd、Pt、Ni、Ag、Ti、Fe、Zn、Co、Mn、Au、W、In及びAlから選択されていてよい。
【0067】
また、上記合金は、水素によって膨張可能なPd−Ni、Pt−Pd、Pd−Ag、Pd−Ti、Pd−Fe、Pd−Zn、Pd−Co、Pd−Mn、Pd−Au、Pd−W、Pt−Ni、Pt−Ag、Pt−Ag、Pt−Ti、Fe−Pt、Pt−Zn、Pt−Co、Pt−Mn、Pt−Au、Pt−Wから選択されていてよい。例えば、Pd−NiまたはPd−Au合金の場合、Pdは水素との反応の際に触媒の役割を果たし、NiやAuはPdの格子定数を減少させることで、Pd−NiまたはPd−Au合金で製造された水素センサーの耐久性を高め、水素と反応する時間を短縮させる役割を果たす。より好ましくは、上記遷移金属及び合金としては、Pd及びその合金を利用する。
【0068】
一方、上記遷移金属またはその合金薄膜110を基板120上に配置する方法としては、当業界において通常に用いられる方法を用いればよい。例えば、スパッタリング(Sputtering)、蒸発法(Evaporation)などの物理的蒸着法と、化学気相法(CVD:chemical vapor Deposition)、原子層堆積法(ALD:atomic layer Deposition)などの蒸着法を用いればよい。
【0069】
上記弾性基板120に使用可能な素材としては、引張力の印加時にその印加方向に伸長でき、且つ引張力を解除すると元の形状に戻り得る素材であれば、特にその種類に関係なく使用可能であるが、その素材の例としては、天然ゴム、合成ゴム、またはポリマーなどが挙げられる。
【0070】
上記合成ゴムの例としては、ブタジエン系ゴム、イソプレン系ゴム、クロロプレン系ゴム、ニトリル系ゴム、ポリウレタン系ゴム、またはシリコン系ゴムなどがあり、好ましくは、界面自由エネルギー(interfacial free energy)が低いため基板上に配置された遷移金属またはその合金を成形加工しやすく、優れた耐久性を有する弾性材であるPDMS(polydimethylsiloxane)を使用すればよく、上記PDMSの他、ポリイミド(Polyimide)系高分子物質、ポリウレタン(Polyurethane)系高分子物質、フルオロカーボン(Fluorocarbon)系高分子物質、アクリル(Acrylic)系高分子物質、ポリアニリン(Polyaniline)系高分子物質、ポリエステル(polyester)系高分子物質なども、遷移金属またはその合金からなる薄膜に引張力を伝えることができるものであれば、弾性を適切に調節して使用することができる。
【0071】
上記遷移金属またはその合金薄膜110が配置された弾性基板120に引張力を印加すると、上述したように、上記薄膜110は引張力の印加方向のx方向に伸長すると共に、y方向に収縮して物理的なストレインを受け、ナノギャップ11を形成するようになる。このとき、1回でも引張力を印加すれば上記薄膜にはナノギャップ11が形成できるが、ナノギャップ11が形成されるときの方向性及び均一性を考慮すれば、上記弾性基板120への引張力は、1回以上繰り返し印加することが好ましい。
【0072】
また、上記引張力の印加は、特定の一方向のみに印加してもよいが、これに制限されるものではない。例えば、図4に示すように、パラジウム合金の製造時に添加される金属成分により上記合金の軟性が増加した場合は、一方向以上、例えば、2方向、3方向に引張力を印加して上記薄膜にナノギャップを形成することを促進することもできる。
【0073】
上記3方向に引張力が印加される場合は、第1方向、該第1方向に対して垂直な第2方向、及び上記第1方向及び上記第2方向とは異なる方向をなす第3方向に1回以上繰り返して、上記薄膜に作用するストレインを効果的に集中させることができ、これにより、上記遷移金属またはその合金薄膜にナノギャップを形成することができる。このとき、上記引張力が印加される第2方向は、上記第1方向に対して90゜の角度を有し、上記引張力が印加される第3方向は、上記第1方向及び第2方向に対して±0゜より大きいか、または±90゜より小さい角度を有する場合に、上記薄膜に作用するストレインを効果的に集中させることができる。
【0074】
一方、上記遷移金属またはその合金薄膜の膜厚は、1nmないし100μmの範囲にすることが好ましい。遷移金属またはその合金薄膜の膜厚は、上記基板への引張力の印加と解除による上記薄膜への効果的なナノギャップの生成可否と関連がある。膜厚が薄いほど、より多くのナノギャップが生成できる。しかしながら、膜厚が薄すぎると、上記基板に対して引張力を繰り返し印加した場合、遷移金属またはその合金薄膜が物理的に損傷して裂かれるおそれがある。そのため、効果的に薄膜にナノギャップを生成させつつ、印加された引張力に耐えられるように薄膜の膜厚を1nmないし100μmにすることが好ましく、上記弾性基板の弾性特性及び上記遷移金属またはその合金薄膜の物性などを総合的に考慮したとき、上記薄膜の膜厚は3nmないし100nmにすることがより好ましく、5nmないし15nmにすることが最も好ましい。
【0075】
また、上記基板は、その大きさに特に制限はないが、基板への引張力の印加時の便利性や製造された水素センサーの大きさなどを総合したとき、実用的な観点から幅0.1ないし10cm、長さ0.1ないし20cm、及び厚さ0.01ないし1cmを有することが好ましい。
【0076】
図5を参照すると、上記のような方法にてナノギャップが形成された遷移金属またはその合金薄膜は、水素が存在していない場合、電流の流れが上記ナノギャップによって滑らかにならず、高い抵抗を示すようになる。しかしながら、水素雰囲気下では、水素を吸収して体積が膨張し、体積の膨張に伴いナノギャップが埋められることで低い抵抗を有するようになる。したがって、こうした抵抗値の変化を測定して、上記ナノギャップが形成された上記薄膜を水素検知部として使用して水素の濃度を検知することができる。
【0077】
上記ナノギャップは、上記基板に印加される引張力及びその力の方向に応じてその幅を自在に調節できるが、水素雰囲気下で水素を吸収することで遷移金属またはその合金が膨張し、それに伴いナノギャップが埋められ、それによる抵抗値の変化から水素を検知することができる限界値を考慮した場合、1nmないし10μmの幅を有することが好ましい。
【0078】
また、上記のようなナノギャップを有する薄膜は、イオンミリング処理を施すことでその表面積を極大化することができる。このようなナノギャップを有する薄膜に対してイオンミリング処理を施す方法としては、上記のような薄膜が形成された基板の上部に対してイオンミリング処理を施す方法があり、これよりも好ましくは、上記薄膜が形成された基板の上に樹脂層を塗布した後、ナノギャップを有する薄膜部分のみを露出するように樹脂層パターンを形成し、露出した薄膜に対してイオンミリング処理を施した後、その樹脂層を除去する方法がある。
【0079】
また、上記ナノギャップを有する遷移金属またはその合金薄膜に対して熱処理を施すことで機械的性質を増加させることができる。このような熱処理方法としては、上記薄膜が形成された基板をファーニス(furnace)内で熱処理を施す方法がある。
【0080】
上記複数のナノギャップが形成された薄膜は、電流を印加できるように上記ナノギャップが形成された方向と平行な方向の両端に伝導性金属を蒸着して電極を形成させる。このとき、ナノギャップが形成された薄膜と電極とは互いに電気的に接続されている。このようにして形成された電極のいずれか一方に電流を印加(I+)すると共に電圧を測定(V+)し、他方の電極から出力される電流(I−)と電圧(V−)を測定して、2端子測定方式(quasi−two probe method)を用いて水素濃度の変化による抵抗変化を測定することができる。
【0081】
上記のように遷移金属またはその合金薄膜が配置された弾性基板に引張力を印加してナノギャップを形成した後、上記薄膜に伝導性金属を蒸着させて電極を形成した水素センサーは、水素ガスの存在有無によって抵抗値が異なるという特性を有し、これにより、水素濃度を測定することができるようになる。
【0082】
図2に示すように、本発明の一実施例に係る水素センサー10は、弾性素材からなる基板120と、該基板120の表面に配置され、該基板120への引張力の印加によって複数のナノギャップ11が形成された遷移金属またはその合金薄膜110、及び上記薄膜の両端に形成された電極130と、を含む。
【0083】
再び図5を参照すると、上記水素センサー10が水素ガスに露出すると、ナノギャップを有するPd薄膜の周囲の水素分圧がPd薄膜内部の水素分圧よりも高くなり、水素分子は、Pd薄膜の表面の界面エネルギーを下げるためにPd薄膜の表面に吸着されてH原子に解離する。Pd薄膜の内外の水素分圧の差は、解離したH原子がPd薄膜の内部に拡散して入る駆動力として作用し、拡散して入ったH原子は、α相Pd原子が形成した格子(fcc、face centered cubic)構造の侵入型位置に侵透してPdHxを形成するようになる。このとき、侵入型位置に入ったH原子のため格子定数が増加するようになる。
【0084】
したがって、上記水素センサー10は、水素雰囲気下で格子定数が増加し、それに伴い体積が膨張すると、体積の膨張によりナノギャップ11が埋められることで低い抵抗を有するようになる。こうした抵抗値の変化を測定して、上記ナノギャップが形成された上記薄膜を水素検知部として使用して水素の濃度を検知することができる。
【0085】
上記方法にて製造された水素センサーは、既存の水素検出センサーとは異なり、常温測定が可能であり、小型であるため、消費電力を低減させることができる。
【0086】
したがって、本発明の水素センサーは、低価、小型化、低電力消耗、常温動作という特性を満足しつつ、反応時間の減少と安定的駆動というセンサーとしての必須要件を満たすことができる。
【0087】
以下、本実施例の種々の具体的な実験例を挙げてより詳細に説明する。
【0088】
製造例1
横20mm、縦10mm、及び膜厚0.75mmのPDMS基板120上にPdをスパッタにて蒸着させた。このとき、Pd薄膜110は、膜厚7.5nmにし、横15mm、縦10mmの大きさで基板120上に配置した。
【0089】
次いで、上記基板120に引張力を5回印加して、上記基板120の横長さが25mmになるように伸長させた後、引張力を解除した。
【0090】
図3に示すように、上記のように引張力を印加して、Pd薄膜110にナノギャップを形成することができた。
【0091】
上記工程によりナノギャップ11が形成された薄膜110の両端部にAu電極をスパッタリング方式にて蒸着し、上記PDMS基板120上に薄膜110と電極130が電気的に接続された水素センサー10を製造した。
【0092】
製造例2
Pd薄膜110の膜厚を10nmにして、弾性基板120に形成したことを除いては、上記製造例1と同じ方法にて水素センサー10を製造した。
【0093】
製造例3
Pd薄膜110の膜厚を12nmにして、弾性基板120に形成したことを除いては、上記製造例1と同じ方法にて水素センサー10を製造した。
【0094】
製造例4
横20mm、縦10mm、及び膜厚0.75mmのPDMS基板120上にPdをスパッタにて蒸着した。このとき、Pd薄膜110は、膜厚を6nmにし、横15mm、縦10mmの大きさで基板120上に配置した。
【0095】
次いで、上記基板120に引張力を横方向(第1方向)に印加し、上記基板120の横長さが25mmになるように伸長させた後、引張力を解除して、元の大きさに戻らせた。
【0096】
上記第1方向に引張力を印加した基板120に右上−左下を連結する対角線方向(第2方向)に引張力を印加して、上記基板120が元の対角線長さの1.25倍まで伸長するように引張力を印加した後、元の大きさに上記基板を戻らせた。
【0097】
連続して、上記第2方向に引張力を印加した基板120に左上−右下を連結する対角線方向(第3方向)に引張力を印加して、上記基板120が元の対角線長さの1.25倍に伸長するように引張力を印加した後、元の大きさに上記基板を戻らせた。
【0098】
上記第1、第2、及び第3方向に順次に引張力を5回繰り返し印加して、上記基板120の表面に配置された上記薄膜110にナノギャップ11を形成した。
【0099】
上記工程によりナノギャップ11が形成された薄膜110の両端部にAu電極をスパッタリング方式にて蒸着し、上記PDMS基板120上に薄膜110と電極130とが電気的に接続された水素センサー10を製造した。
【0100】
実験例1
上記製造例により製造された水素センサーの特性を評価するために、2端子測定方式にて測定が可能なシステム20を製作し、実験に供した。
【0101】
上記システムは、図6に示すようなI−V測定装置であり、上記製造例の水素センサー10を中心に、反応チャンバ210、H2とN2のガスの流れ量を調節するMFC(Mass Flow Controller)220、センサーの電圧・電流印加装置230、及びガスタンク240で構成される。
【0102】
上記システム20において上記水素センサー10が装着される反応チャンバ210は、水素ガスとセンサーとが反応する際にそれを外部と密閉させると共に、H2とN2ガスがMFC220によりその量が正確に調節されることで所望の割合の水素ガス濃度を作る役割をする。濃度が調節されたH2ガスは、反応チャンバ210内において水素センサーと反応し、このときのセンサーの変化に対する電気的信号は、上記電圧・電流印加装置230により測定される。
【0103】
このような測定は常温及び常圧で実施され、ナノギャップ11を有するPd薄膜水素センサー10を外部電流印加装置に接続された反応チャンバ210内に装着した後、チャンバ内にH2とN2とが混合されたガスを流れ込ませつつ100nAの電流を印加し、電位差の変化により抵抗の差を測定した。
【0104】
図7の(a)は、上記製造例1において製造された水素センサー10を図6のシステム20に装着し、4%(40000ppm)の水素濃度で抵抗値の変化を測定した結果を示すグラフであり、図7の(b)は、上記製造例1の水素センサーを0ないし4%の水素濃度に露出した際に測定した電流値を示すグラフである。
【0105】
図7の(a)及び(b)を参照すると、製造例1の水素センサー10は、爆発上限濃度である4%の水素濃度において約1秒(グラフ上の点1つが1秒を意味する)で急な抵抗変化を示すことが分かり、反応チャンバ210内から水素を除去した途端に抵抗値が増加して、水素濃度の変化をon−off式で検知できる精密水素センサーとして作用し得ることが分かる。
【0106】
また、図7の(c)は、上記製造例2において製造された水素センサー、図7の(d)は、上記製造例3において製造された水素センサーを、それぞれ図6のシステム20に装着し、水素濃度の変化による抵抗値または電流値の変化を測定した結果を示すグラフである。
【0107】
図7の(c)を参照すると、製造例2の水素センサーもまた、0ないし4%の水素濃度の変化をon−off式で検知できる精密水素センサーとして作用し得ることが分かり、図7の(d)を参照すると、製造例3の水素センサーもまた、水素濃度の変化に応じて電流値の変化をみせており、水素センサーとして作用し得ることが分かる。
【0108】
図8は、上記製造例4において製造された水素センサー10を、図6のシステム20に装着し、それぞれ1%(10000ppm)(a)、0.5%(5000ppm)(b)、0.05(500ppm)(c)まで水素の濃度に変化を与えながら抵抗の変化を測定した結果を示すグラフである。
【0109】
図8の(a)を参照すると、爆発上限濃度(4%)の1/4である1%(10、000ppm)の水素濃度において約1秒で急な抵抗変化を示すことが分かる(x軸は全反応時間を示す)。すなわち、既存の水素センサー素子に比べて、遥かに素早い速度で水素ガスを検出できるのみならず、数回繰り返した後もその信号の大きさに変化のない極めて優れた耐久性を有していることが分かる。
【0110】
そして、反応チャンバ210内の水素を除去すると、約1ないし2秒足らずで素早い速度で抵抗値が増加していき、早い回復速度を有することが分かった。
【0111】
図8の(b)を参照すると、0.5%(5、000ppm)に水素濃度を減少させた際にも、約3ないし5秒足らずで急な抵抗変化を示し、素早い速度で水素を検出できることが分かり、回復時間は約3秒と測定され、本発明の水素センサーが水素ガスを検出するのに優れた性能を示すことが分かった。
【0112】
また、図8の(c)を参照すると、センサーの最も重要な要素ともいえる初期検知水素量でも、0.05%(500ppm)の水素濃度において約3ないし5秒足らずで水素ガスを検出し、極少量の水素を即時に検出する特性を示した。そして、水素を除去すると、1秒足らずで抵抗値が増加していき、早い回復速度を有することが分かった。
【0113】
一方、図9の(a)は、本実施例の水素センサーの他の製造例に係るものであって、Pd薄膜の膜厚が16nmである水素センサーを空気中に露出した際に測定した電流値を示すグラフであり、図9の(b)は、Pd薄膜の膜厚が14nmである水素センサーを空気中に露出した際の時間に対する電流値の変化を示すグラフである。図9の(a)に示すように、Pd薄膜が16nmと厚膜である場合、基本抵抗が0に落ちないONセンサーとして空気中で作動することが分かる。これに対し、Pd薄膜の膜厚が14nmと薄い図9の(b)の場合、基本抵抗が0に落ちるセンサーであって、初期何度かの先行反応後に空気中でON−OFFセンサーとして動作することが分かる。
【0114】
一方、図10は、本実施例の水素センサーを窒素中または空気中に露出した際に現れるメカニズム及びPd薄膜の膜厚が8nmである水素センサーを空気中に露出した際の時間に対する電流値の変化を示すグラフである。図10に示すように、Pd薄膜が引張によってナノクラックが形成されている際には基本抵抗が0に落ちないON状態で存在しているが、水素に露出すると膨張によって抵抗が減少し、すべての水素が除去された後は、熱力学的平衡状態に変化することによってOFF状態に変わり、ON−OFFセンサーとして作動することが分かる。これに関する一つの例示として、Pd薄膜の膜厚が8nmである水素センサーを窒素中に露出した際の時間に対する電流値の変化を示した。
【0115】
2.実施例B
上記実施例では、遷移金属またはその合金を用いて水素センサーを製造することについて説明した。本実施例では、遷移金属合金のうちPdxNi1-x合金薄膜を用いて水素センサーを製造することについて具体的に説明する。本実施例は、弾性基板上にPdxNi1-x合金薄膜を形成することを除いては、実施例Aにおける説明と実質的に同一であるので、重複説明は省略することにする。
【0116】
先ず、本発明の水素センサーを製造するために弾性基板上にPdxNi1-x合金薄膜を形成する。上記合金薄膜は、種々の方法にて形成することができ、本実施例では、次のような方法にて形成する。すなわち、図11を参照すると、本実施例に従い上記PdxNi1-x合金薄膜を形成する2つの方法が概略的に示されている。
【0117】
図11の左図を見ると、レイヤー・バイ・レイヤー蒸着方式であって、2つのターゲット(Pd、Ni)が並行に位置し、サンプルホルダー部分が回転しながら、両ターゲットの上を時間差をあけて交互に通り過ぎ、PdとNiをレイヤー・バイ・レイヤー形態で基板上に蒸着する。なお、図11の右図を見ると、上記方式とは異なることが分かる。すなわち、2つのターゲットが傾斜して設けられており、2つのターゲットから出るプラズマは下方のサンプルホルダー側で重なるようになる。サンプルホルダーが回転しており、2つのターゲット物質が均一に基板上に蒸着される。2つの物質が同時に蒸着されるため、上記方式とは異なり、PdとNiが合金あるいは固溶体を形成する。かかる方式にてPdxNi1-x合金を基板上に形成し、いずれの方式にて薄膜を蒸着しても、後述する水素検知特性には差がない。なお、本発明は上記のような蒸着方式に制限されるものではないことを理解しなければならない。すなわち、上記PdxNi1-x合金蒸着方式は基板にPdxNi1-x合金を蒸着する例示的な発明に過ぎず、本発明がPdxNi1-x合金の特定の蒸着方式に制限されない。例えば、実施例Aのところで説明したように、スパッタリング、化学気相法、原子層堆積法などを用いてもよい。
【0118】
図12には、本実施例に係る水素センサー10の斜視図が示されており、該水素センサー10は、弾性素材かなる基板120と、該基板120の表面に形成され、該基板120に印加された引張力によって複数のナノギャップ111が形成されたPdxNi1-x合金薄膜110、及び上記薄膜の両端に形成された電極130と、を含む。実施例Aとは異なり、本実施例の基板120上には、0.85(x(0.96を満たすPdxNi1-x合金薄膜を形成する。本実施例では、従来の水素センサーで通常採用されるPd薄膜の代りに所定の組成比を有するPdxNi1-x合金薄膜を形成しており、その具体的な理由は次のとおりである。
【0119】
すなわち、Pd薄膜の場合、所定の濃度の水素への露出により特定の濃度以上でその相が変化する相転移現象が発生する。引張力の印加によるナノギャップが形成され、水素に露出すると、ギャップ同士の間隔を減少させる水素濃度以上でのみ反応が生じるようになる。これは、Pdの相転移によるものであって、このため、最低検知濃度が高くなるという短所を持つ。
【0120】
ところが、Pd薄膜でなく、本実施例において提示する如くPdxNi1-x合金薄膜を用いる場合、露出した水素濃度の差に起因する相転移現象が生じず、上述したような水素ガス検知能の低下といった問題点を改善することができることが発見された。本実施例では、このような点を考慮して、弾性基板120上に0.85(x(0.96を満たすPdxNi1-x合金薄膜110を形成する。上記モル比xが0.85未満であると、Ni含量の過多により水素の露出による反応度合いが低くなるといった問題が生じ、0.96を超過すると、上述したような相転移の問題を引き起こす。より好ましくは、上記モル比は、0.90(x(0.94である。
【0121】
次に、上記弾性基板120に引張力を印加し、上記基板の表面に形成された上記合金薄膜110にナノギャップ111を形成する。その他、ポアソン比、弾性基板の材料、弾性基板に印加される引張力、引張力の印加回数、引張力の印加方向、合金薄膜の膜厚、ナノギャップの幅などは、前記実施例Aと同一であるため、重複説明は省略することにする。
【0122】
本実施例に従い製造された水素センサーは、実施例Aの水素センサーと同様に、既存の水素検出センサーとは異なり、常温測定が可能であり、また小型であるので、消費電力を低減させることができる。したがって、本発明の水素センサーは、低価、小型化、低電力消耗、常温動作の特性を満たしつつ反応時間の減少と安定的駆動というセンサーとしての必須要件を満たすことができる。
【0123】
以下、本実施例の実験例を挙げて詳しく説明する。
【0124】
横20mm、縦10mm、及び膜厚0.75mmのPDMS基板上にPdxNi1-x(但し、0.85(x(0.96)合金をスパッタにて蒸着させた。このとき、PdxNi1-x薄膜は、その膜厚を7.5nmにし、横15mm、縦10mmの大きさで基板上に配置した。
【0125】
次いで、上記基板に引張力を5回印加し、上記基板の横長さが25mmになるように伸長させた後、引張力を解除することで上記PdxNi1-x薄膜にナノギャップを形成した。図13は、上記過程によってナノギャップが形成されたPdxNi1-x合金薄膜のSEMイメージ写真であり、図14は、ナノギャップが形成されたPdxNi1-x合金薄膜の光学イメージ写真である。
【0126】
そして、比較のために、上記したものと同じ大きさのPDMS基板上にPdをスパッタにて蒸着させた。このとき、Pd薄膜は、その膜厚を7.5nmにし、横15mm、縦10mmの大きさで基板上に配置した。次いで、基板に引張力を5回印加し、上記基板の横長さが25mmになるように伸長させた後、引張力を解除することで上記Pd薄膜にナノギャップを形成した。
【0127】
上記2つの工程によりナノギャップが形成された薄膜の両端部のそれぞれにAu電極をスパッタリング方式にて蒸着し、PDMS基板上に薄膜と電極とが電気的に接続された水素センサーを製造した。
【0128】
上記のように製造された水素センサーの特性を評価するために、実施例Aと同様に、2端子測定方式にて測定が可能な図6のシステム20を使用した。本システムは、実施例Aのとろころで説明したので、その説明を省略する。
【0129】
上記システムを用いた測定は、常温及び常圧で実施し、ナノギャップを有するPdxNi1-x薄膜水素センサー10を外部電流印加装置と接続された反応チャンバ210内に装着した後、チャンバ内にH2とN2とが混合されたガスを流し込み、電圧を0.1Vに保ちつつ電流の強さを測定した。
【0130】
図15に示すように、Pd93Ni7合金薄膜を有する水素センサーを窒素中に露出した場合、最低の水素検知濃度が約0.08%であることが分かり、図16に示すように、空気中に露出した場合、最低の水素検知濃度が0.66%と極めて低いことが分かる。
【0131】
一方、本発明者は、基板上に形成される上記組成からなる薄膜の膜厚を変化させつつ、上記過程に従い実験を行い、その結果を図17ないし図21に示した。すなわち、図17ないし図19は、薄膜の膜厚をそれぞれ8nm、10nm及び11nmで形成した後、反応チャンバ210内において水素センサーを空気中に露出させた場合における水素検知濃度を示す。図示の如く、図16に比べて最低の水素検知濃度がさらに低くなったことが分かる。すなわち、図17の場合、最低の水素検知濃度は0.65%、すなわち、6500ppmであり、図18の場合、最低の水素検知濃度は約0.45%であり、図19の場合、最低の水素検知濃度は500ppmであって、極微量の水素も検知できることが分かる。すなわち、上記組成の薄膜の膜厚を増加させるほど、より低い濃度の水素を検出することができることが分かる。
【0132】
一方、図20及び図21は、薄膜の膜厚をそれぞれ10nm及び11nmで形成した後、反応チャンバ210内において水素センサーを窒素雰囲気に露出した場合における水素検知濃度を示す図であって、図20の場合、最低の水素検知濃度は約0.01%、図21の場合、最低の水素検知濃度は約0.05%であって、空気中よりも低いことが分かる。
【0133】
上記本実施例の実験例と比べて、図22に示すように、Pd薄膜(膜厚7.5nm)を有する水素センサーを窒素中に露出した場合における最低の水素検知濃度は0.4%であり、図23に示すように、空気中に露出した場合における最低の水素検知濃度は1.2%であって、本発明に係る組成を有するPdxNi1-x合金よりもその最低の水素検知濃度が高いことが分かる。
【0134】
すなわち、上述したように、本発明に従い所定の組成を有するPdxNi1-x合金薄膜を水素センサーに用いる場合、水素への露出による相転移現象が抑制され、Pd薄膜が適用された水素センサーに比べて、極めて低い濃度の水素を検知できるということが分かる。
【0135】
3.実施例C
上記実施例A、Bでは、弾性基板に引張力を印加して、上記基板に形成された薄膜にナノギャップを形成し、該ナノギャップを用いて水素を検出した。以下の実施例では、引張力の印加ではない他のメカニズムによりナノギャップを形成して水素を検出することを説明する。なお、実施例A、Bと重複する部分についての説明は省略することにする。
【0136】
図24は、本実施例に従い水素センサーを製造する工程を示す図である。図24(a)に示すように、本実施例でも上記実施例と同様に、先ず弾性基板10を用意する。該弾性基板10は、後続する工程においてその上に形成されたPdまたはPd合金薄膜の相変化による体積膨張の際、その膨張をそのまま収容する役割を果たし、それにより、上記薄膜にナノギャップの形成を促進させる役割を果たす。
【0137】
本発明は、弾性基板10の組成及び種類に特に制限はなく、基板の上部に形成されるPdまたはPd合金薄膜の相変化の際に生じる体積膨張及び収縮をそのまま収容することができる弾性材料であれば何でも使用可能である。例えば、実施例A、Bと同様に、天然ゴム、合成ゴム、またはポリマーが挙げられる。
【0138】
次いで、図24(b)に示すように、上記弾性基板10上にα相を有するPdまたはPd合金薄膜30を形成する。該PdまたはPd合金薄膜30を形成する方法としては、当業界において通常用いられる如何なる方法も使用可能であり、上記実施例と同様に、スパッタリング、化学気相法(CVD)などを用いればよい。
【0139】
一方、上記形成される薄膜30の膜厚は、後続する工程における薄膜30のα(β相への変化時に上記薄膜30に効果的にナノギャップが生成されるか否かと関連がある。すなわち、膜厚が薄いほどより多くのナノギャップが生成できる。したがって、効果的に薄膜にナノギャップを生成させるべく、上記実施例と同様に、上記薄膜30の膜厚を1nmないし100μmにすることが好ましく、より好ましくは、3nmないし100nm、最も好ましくは、5nmないし15nmである。
【0140】
そして、本実施例において、上記Pd合金薄膜は、Pd−Ni、Pd−Pt、Pd−Ag、Pd−Ti、Pd−Fe、Pd−Zn、Pd−Co、Pd−Mn、Pd−Au、Pd−Wから選択された1種の薄膜であればよく、より好ましくは、Pd−Ni薄膜である。
【0141】
次いで、図24(c)に示したように、上記形成されたα相の薄膜30を所定の濃度の水素含有ガスに露出させる。このような水素含有ガスへの露出により基板10に形成されたα相の薄膜30は、徐々にβ相の薄膜30に相変化していくようになる。
【0142】
このとき、図24(c)に示すように、水素の吸収により上記薄膜30に体積膨張が生じ、その下部の弾性基板10は、かかる薄膜30の体積膨張を収容するようになる。その結果、上記β相に相変化された薄膜30内部には体積膨張によるナノギャップが形成され、約1nmないし10μmの幅を有することができる。なお、上記水素含有ガスへの露出の際にその水素濃度を2〜15%の範囲にすることが好ましい。このような濃度範囲で上記薄膜30の相変化が起こりやすいためである。
【0143】
後続して、水素含有ガスへの露出を中止してβ相の薄膜30を再びα相に転換させる(図24(d))。このようなα相への転換後も、上記薄膜30の内部には体積膨張によるナノギャップが残存し続けるようになり、有効に水素センサーとして作動することができる。ナノギャップによる水素センサーの動作原理は上記実施例と同様である。また、前記実施例と同様に、上記ナノギャップを有する薄膜30に対してイオンミリング処理を施してその表面積を増加させることもできて、また、熱処理を施して機械的性質を増大させることもできる。
【0144】
以下、実験例により本実施例を詳しく説明する。
【0145】
(実験例)
横20mm、縦10mm、及び膜厚0.75mmのPDMS基板上にPdをスパッタにて蒸着させた。このとき、得られるα相のPd薄膜は、膜厚をそれぞれ10nm、11nmにし、横15mm、縦10mmの大きさでPDMS基板上に形成した。次いで、上記それぞれのPDMS基板上に形成されたα相のPd薄膜をそれぞれ10%の水素濃度を有する水素含有ガスに露出して、その薄膜をβ相に相変化させた。後続して、上記水素含有ガスへの露出を中止し、その薄膜の相を再びα相に変化させた。
【0146】
図25は、上記工程において製造された膜厚10nmのPd薄膜に対するOM(Optical Microscope、電子光学顕微鏡)イメージ写真である。図25に示すように、上記工程において製造されたPd薄膜の場合、その内部にナノギャップが形成されており、これにより水素センサーとして容易に利用できることが分かる。
【0147】
次いで、上記工程によりナノギャップが形成された薄膜の両端部にAu電極をスパッタリング方式にて蒸着し、PDMS基板上にPd薄膜と電極とが電気的に接続された水素センサーを製造した。そして、該製造された水素センサーの特性を評価するために、上記実施例と同様に、2端子測定方式にて測定が可能な図6に示したものとI−V測定装置を使用した。
【0148】
このような測定は、常温及び常圧で実施し、ナノギャップを有するPd薄膜水素センサー10を外部電流印加装置と接続された反応チャンバ210内に装着した後、チャンバ内にH2とN2とが混合されたガスを流し込み、100nAの電流を印加して、時間による電流の変化を測定した。
【0149】
図26(a)は、膜厚10nmのPd薄膜を0.5〜4%の水素濃度に露出した際に測定した電流値の変化を示すグラフであり、図26(b)は、膜厚11nmのPd薄膜を0.5〜4%の水素濃度に露出した際測定した電流値の変化を示すグラフである。図26(a)及び(b)に示すように、本実施例に従い製造された水素センサーの場合、水素への露出時は電流値を有するが、水素の除去時はその電流値が0に落ちることから、水素濃度の変化をon−off式で検知できる精密水素センサーとして作用し得ることが分かる。
【0150】
一方、図27は、膜厚10.5nmのPd薄膜を空気中において2%の水素濃度に露出した際に測定した電流値の変化を示すグラフであって、この場合にも、水素ガスへの露出時に電流値を有するが、水素の除去時にその電流値が0に落ちることから、水素濃度の変化をon−off式で検知できることが分かる。
【0151】
以上、本発明について種々の実施例を参照して説明したが、本発明がこれらの実施例に制限されるものではないことを理解しなければならない。すなわち、特許請求の範囲内で上記実施例を種々に変形及び修正することができ、これらはいずれも本発明の範囲内に属する。したがって、本発明は、特許請求の範囲及びその均等物によってだけ制限される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素センサー及びその製造方法に係り、より詳しくは、遷移金属またはその合金薄膜を利用した水素センサー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素エネルギーは、リサイクル可能で且つ環境汚染の問題を引き起こさないという長所があるため、それに係る研究が活発に進められている。
【0003】
しかしながら、水素ガスは、大気中に僅か4%でも漏洩されると爆発の危険性があるため、使用時の安全が担保されない限り、実生活への広範な適用は困難であるという問題点がある。そのため、水素エネルギーの活用に係る研究と共に、実使用にあたって水素ガスの漏洩を早期に検出できる水素ガス検出センサー(以下、略して「水素センサー」と称する)の開発が並行して進められている。
【0004】
これまでに開発された水素センサーとしては、セラミックス/半導体式センサー(接触燃焼式、熱電式及び半導体厚膜式センサー)、半導体素子式センサー(MISFET、MOS)、光学式センサー及び電気化学式(Potentiometric/Amperometric)センサーなどがある。
【0005】
セラミックス/半導体式センサーは、セラミックス半導体の表面へのガスの接触時に生じる電気伝導度の変化を利用するものが大半であり、大気中で加熱環境下において使用される場合が多いため、高温で安定した金属酸化物(セラミックス、SnO2、ZnO、Fe2O3)が主に使用される。しかしながら、高濃度の水素気体状態で飽和され、高濃度の水素気体を検知することができないという短所を持っている。
【0006】
このうち、接触燃焼式は、センサー表面上における可燃性ガスの接触により生成される酸化反応によって生じる燃焼熱の変化を検出する方式であって、センサー出力がガスの濃度に比例し、検出精度が高く、且つ周囲温度または湿度による影響が少ないという長所がある。しかしながら、作動温度が高温でなければならず、選択性に乏しいという短所を持っている。
【0007】
また、半導体素子式センサー(MISFET、MOS)や水素吸着によって光透過度が変化するガスクロミック物質を使用した光学式センサーは、水素気体を吸着しやすいパラジウムを使用するが、高濃度の水素気体に繰り返し露出すると性能が低下するなどの短所を持っている。
【0008】
最後に、電気化学式センサーは、検知対象ガスを電気化学的に酸化または還元し、その際に外部回路に流れる電流を測定する装置であって、測定原理によって定電位式、ガルバニック電池式、イオン電極式などに分けられる。多様なガス検知能力にもかかわらず製作方法が複雑で且つ難しいという短所を持っている。
【0009】
最近、センサー用水素検知技術として利用される材料には、Pd薄膜センサー、MISFETなどの半導体センサー、カーボンナノチューブセンサー、及びチタニアナノチューブセンサー等がある(F.Dimeo et al.、2003 Annual Merit Review:非特許文献1)。しかしながら、これら技術が持っているそれぞれの長所にもかかわらず、水素センサーの核心と言える検知可能な初期水素濃度、反応時間、検知温度、駆動消費電力などの面において、その性能はまだ微々たるレベルに止まっている。
【0010】
既に開発された技術として、パラジウム(Pd)の水素との反応によりグラファイト(graphite)層を用いてPdが生成できる位置(site)を用意し、このようにして生成されたパラジウム粒子が、機能化した基板への水素の流入に伴いPd格子の膨張が生じることで互いにつながったワイヤのような形態で形成され、この結果、電気抵抗が減少するという現象を用いる技術が提示されている(Penner et al. Science 293 (2001)2227−2231:非特許文献2)。該技術では、水素吸着によるPdの格子膨張を実験的に確認することにより、Pdナノ粒子を連続的でないワイヤの形態で並べて電気信号を検出した。しかしながら、製作方法が複雑で且つ最小検知濃度が高いという短所を持っている。
【0011】
Pd薄膜を用いた水素ガス検知センサーは、他の素材を用いて製作したセンサーに比べて水素検知能力が遥かに優れているため、通常的に多用されている。従来、この種の水素センサーの場合、スパッタと蒸気蒸着法などで強い力をPd粒子に与えることで基板に密着し、格子を膨張させる方法を用いたが、膨張する量が基板との結合力によって減少してしまうため、水素に対する敏感度がそれほど大きくない様子を示した。また、Pd粒子を基板に接着していない場合は、水素への露出時にPd格子が膨張した後、水素への露出を中止してもPd同士の結合力によって初期状態に戻らず、再現性に乏しいという短所がある。さらには、Pd粒子を用いたこれらの水素センサーは、高濃度の水素にだけ反応し、水素への露出を中止すると、初期抵抗値が変わるという不具合もある。
【0012】
このように、従来の水素センサーは、既存の水素センサーの問題点をある程度は補完したものの、検知能力、敏感度、安定性、低濃度での素早い反応時間などの課題において既存のセンサーの代案になれないというのが実情である。
【0013】
したがって、水素検出性能を最適化できる材料及び構造に関する研究が進められつつある中、ナノ材料を使用して水素検出性能を高めようとする試みが続いている。
【0014】
代表的なナノ材料としてのパラジウムは、周辺の環境と関係なく水素と反応する性質をもっており、水素ガスを化学的に吸収すると格子定数が増加し、これにより電流を印加すると抵抗が増加する現象を示す。
【0015】
このような現象に着目し、最近、表面積が極大化したパラジウムナノワイヤを用いて水素にだけ反応する固体状態の水素センサーの研究が活発に進められている。パラジウムナノワイヤを用いた水素ンサーは、水素の存在有無によってパラジウムナノワイヤの抵抗値が変化する現象を用いて水素を検知するようになる。
【0016】
今までに開発されたパラジウムナノワイヤの製造方法は、HOPG(Highly Oriented Pyrolytic Graphite)鋳型(template)を利用した方法、EBL(E−beam lithography)を利用した方法、及びDEP(di−electrophoresis)を利用した方法などがある。
【0017】
上記HOPG鋳型を利用した方法は、基板のナノ鋳型に電気化学的にパラジウムナノワイヤを製造する方法であるが、製造工程が複雑で、且つ長時間がかかり、さらには、製作過程中の誤差により、生産されたパラジウムナノワイヤが所定の抵抗値を持ちにくくなり、生産歩留まりが低いという短所があった。
【0018】
また、上記EBLを利用した方法は、基板にナノパターニングを行った後、電気化学的にパラジウムナノワイヤを形成する方法であるが、生産歩留まりが低く、製造コストが高価であるという短所があった。
【0019】
上記DEPを利用する方法も同様に、基板にナノワイヤの材料物質からなる層を形成し、金属電極を介して高周波交流電源を供給することでナノワイヤを製造する方法であるが、製造工程が複雑で、且つ均一な形態のパラジウムナノワイヤの生産が不可能であるため、生産歩留まりが低いという短所があった。
【0020】
そのため、パラジウム金属が有する水素検知性能をそのまま保ちつつも、低廉で、且つ簡易にパラジウム水素センサーを製造することができる新規な製造工程を開発する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】F.Dimeo et al.、2003 Annual Merit Review
【非特許文献2】Penner et al. Science 293 (2001)2227-2231
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は、上記の従来技術の問題点を解決するためになされたものであって、その一つの目的は、製造方法が複雑で、且つ長時間がかかり、生産歩留まりが低い従来の水素センサーの製造方法に代えて、短時間で簡易に、且つ低廉に製作可能な水素センサーを製造することができる新規な水素センサーの製造方法、及びその水素センサーを提供することである。
【0023】
本発明の他の目的は、製作過程の誤差による影響を排除し、水素センサーが水素に反応する反応再現性を高めて、精度よく水素を検知することができる超低価で高性能の水素センサー及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記目的を達成するための、本発明に係る新規な水素センサーの製造方法は、弾性基板の表面に遷移金属またはその合金薄膜を形成するステップと、上記弾性基板に引張力を印加して、上記基板表面に形成された上記合金薄膜に複数のナノギャップを形成するステップと、を含み、上記薄膜への上記ナノギャップは、上記引張力の印加時には上記薄膜が該引張力の印加方向に伸長すると共に該印加方向に対して垂直方向に収縮し、該引張力を解除すると上記薄膜が該印加方向に収縮すると共に該印加方向に対して垂直方向に伸長することにより形成されることを特徴とする。
【0025】
一実施例において、上記遷移金属は、Pd、Pt、Ni、Ag、Ti、Fe、Zn、Co、Mn、Au、W、In及びAlから選択されていてよい。
【0026】
一実施例において、上記合金は、Pd−Ni、Pt−Pd、Pd−Ag、Pd−Ti、Pd−Fe、Pd−Zn、Pd−Co、Pd−Mn、Pd−Au、Pd−W、Pt−Ni、Pt−Ag、Pt−Ti、Fe−Pt、Pt−Zn、Pt−Co、Pt−Mn、Pt−Au及びPt−Wから選択されていてよい。
【0027】
一実施例において、上記遷移金属はPdであり、上記合金はPd合金であればよい。
【0028】
一実施例において、上記弾性基板の表面に0.85(x(0.96を満たすPdxNi1-x合金薄膜を形成していてよい。
【0029】
一実施例において、上記弾性基板の表面に0.90(x(0.94を満たすPdxNi1-x合金薄膜を形成していてよい。
【0030】
一実施例において、上記弾性基板は、0.2〜0.8のポアソン比(Poisson's ratio)を有していてよい。
【0031】
一実施例において、上記引張力は、上記弾性基板が1.05ないし1.50倍に伸長するように印加されていてよい。
【0032】
一実施例において、上記弾性基板は、天然ゴム、合成ゴムまたはポリマーで製造していてよい。
【0033】
一実施例において、上記引張力は、上記弾性基板に対して1回以上繰り返し印加していてよい。
【0034】
一実施例において、上記引張力は、上記弾性基板に対して1方向以上から印加していてよい。
【0035】
一実施例において、上記引張力は、第1方向、該第1方向に対して垂直な第2方向、及び上記第1方向及び上記第2方向とは異なる方向をなす第3方向から繰り返し印加していてよい。
【0036】
一実施例において、上記薄膜の膜厚は、約1nmないし約100μmであってよい。
【0037】
一実施例において、上記ナノギャップは、約1nmないし10μmの間隔を隔てて形成されていてよい。
【0038】
一実施例において、上記ナノギャップが形成された上記遷移金属またはその合金薄膜を熱処理するステップを更に含んでいてよい。
【0039】
一実施例において、上記ナノギャップが形成された上記遷移金属またはその合金薄膜をイオンミリングするステップを更に含んでいてよい
本発明の他の態様に係る新規な水素センサーの製造方法は、弾性基板を用意するステップと、上記弾性基板にα相を有するPdまたはPd合金薄膜を形成するステップと、上記薄膜を所定の濃度の水素含有ガスに露出して、上記α相の薄膜をβ相の薄膜に変化させ、体積の膨張によるナノギャップを上記薄膜に形成するステップと、上記水素含有ガスに対する露出を中止させ、上記β相の薄膜を再びα相の薄膜に変化させるステップと、を含むことを特徴とする。
【0040】
一実施例において、上記α相に変化された上記薄膜を熱処理するステップを更に含んでいてよい。
【0041】
一実施例において、上記α相に変化された上記薄膜をイオンミリングするステップを更に含んでいてよい。
【0042】
一実施例において、上記水素含有ガスへの露出の際の水素濃度を2〜15%にしてよい。
【0043】
一実施例において、上記薄膜の膜厚は、約1nmないし約100μmの範囲内にあってよい。
【0044】
本発明のまた他の態様に係る水素センサーは、弾性材質の基板と、上記基板の表面に形成された遷移金属またはその合金の薄膜と、上記薄膜の両端に形成された電極と、を含み、上記薄膜には、上記基板への引張力の印加によって形成された複数のナノギャップが含まれていることを特徴とする。
【0045】
本発明の他の態様に係る水素センサーは、弾性材質の基板と、上記基板の表面に形成されたPdまたはPd合金の薄膜と、上記薄膜の両端に形成された電極と、を含み、上記薄膜には、上記相変化を用いた方法により形成された複数のナノギャップが含まれていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0046】
本発明に係る水素センサーの製造方法では、複雑な工程を有する従来の水素センサーの製造方法(半導体式、接触燃焼式、FET(field effect transistor)方式、電解質式(電気化学式)、光ファイバ式、圧電式、熱電式など)、または大型且つ高価で不便な方式の商用化された水素センサー(接触燃焼式水素センサー、パラジウム合金と熱板結合型水素センサー、Pd/Ag合金固体相水素センサー、PdゲートFET水素センサーなど)の場合とは異なり、遷移金属(例えば、パラジウム)またはその合金薄膜(例えば、Pd−Ni合金薄膜)を配置した基板に物理的な引張力を印加して、上記薄膜が水素ガスを検知できるナノギャップを有する形態に加工することができ、短時間且つ低費用で高性能の水素センサーを大量生産することができる。
【0047】
本発明に係る水素センサーの製造方法によれば、複雑な工程を有する従来の水素センサーの製造方法とは異なり、遷移金属またはその合金薄膜を弾性基板に配置し、上記弾性基板に引張力を印加して、上記基板に配置された上記薄膜を引張力の印加方向に伸長すると共に、その印加方向に対して垂直方向に収縮することができる。その結果、上記弾性基板に引張力を印加するという簡単な方法にて物理的なストレインを与えて、容易にナノギャップを有する遷移金属またはその薄膜を形成することができる。したがって、水素濃度の変化に応じて抵抗値が変化する、低廉且つ高性能の水素センサーを大量で製造することができ、これにより、水素センサーの製造歩留まりを画期的に向上させることができる。
【0048】
また、本発明に係る水素センサーは、シリコンオキサイド基板、サファイア基板、またはガラス基板のように非弾性材質の基板上に形成された従来の水素センサーとは異なり、弾性素材からなる基板の表面に遷移金属またはその合金薄膜を配置してなることにより、水素センサーそのものが弾性を備えるようになり、水素が漏出するおそれのある様々な空間に自在に設置可能であることから、水素センサーの活用の幅を拡大することができる。また、本発明によれば、Pd薄膜の相変化によりナノギャップを形成することができ、短時間且つ低費用で高性能の水素センサーを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】パラジウム薄膜が配置された弾性基板に引張力を印加した際の、弾性基板及び上記弾性基板に配置された遷移金属またはその合金薄膜の変形様態を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施例に係る水素センサーの斜視図である。
【図3】ナノギャップが形成されたパラジウム薄膜を示す写真であって、(a)は約1000倍の顕微鏡写真であり、(b)は約50倍の顕微鏡写真であり、(c)は3D立体写真である。
【図4】1方向以上から順次に引張力を印加し、引張力を解除したときに現われる、パラジウム薄膜が配置された基板の形態変化を示す説明図である。
【図5】水素の存在有無によって本発明の一実施例に係る水素センサーの抵抗値が変化することを説明する説明図である。
【図6】本発明の水素センサーの水素検出能力を測定するためのシステムの概路図である。
【図7】本発明の一実施例に係る水素センサーを測定システムに装着した後、種々の水素濃度で測定した抵抗値及び電流値の変化を示す図である。
【図8】本発明の一実施例に係る水素センサーを水素検出システムに装着した後、種々の水素濃度での抵抗変化を示す図であって、(a)は10000ppm水素ガスの濃度での抵抗変化を測定した結果を示すグラフであり、(b)は5000ppm水素ガスの濃度での抵抗変化を測定した結果を示すグラフであり、(c)は500ppm水素ガスの濃度での抵抗変化を測定した結果を示すグラフである。
【図9】本発明の一実施例に係るPd薄膜水素センサーを測定システムに装着し、空気中に露出した際に測定した電流値を示す図であって、(a)はPd薄膜の膜厚16nmの水素センサーを測定システムに装着し、空気中に露出した際に測定した電流値を示すグラフであり、(b)はPd薄膜の膜厚が14nmである水素センサーを空気中に露出した際の時間に対する電流値の変化を示すグラフである。
【図10】Pd薄膜水素センサーが水素に繰り返し露出した際に発生するメカニズム及びPd薄膜の膜厚が8nmである水素センサーを水素中に露出した際の時間に対する電流値の変化を示す図である。
【図11】本発明の実施例に従い、PdxNi1-x薄膜を基板に形成する2つの方法を模式的に示す図である。
【図12】本発明の一実施例に係る水素センサーの斜視図である。
【図13】ナノギャップが形成されたPdxNi1-x合金薄膜のSEMイメージ写真である。
【図14】ナノギャップが形成されたPdxNi1-x合金薄膜の光学イメージ写真である。
【図15】本発明の一実施例に係る膜厚7.5nmのPd93Ni7合金薄膜を有する水素センサーを測定システムに装着し、窒素ガス中に露出した際に測定した電流値を示すグラフである。
【図16】本発明の一実施例に係る膜厚7.5nmのPd93Ni7合金薄膜を有する水素センサーを測定システムに装着し、空気中に露出した際に測定した電流値を示すグラフである。
【図17】膜厚8nmのPd93Ni7合金薄膜を有する水素センサーを測定システムに装着し、空気中に露出した際に測定した電流値を示すグラフである。
【図18】膜厚10nmのPd93Ni7合金薄膜を有する水素センサーを測定システムに装着し、空気中に露出した際に測定した電流値を示すグラフである。
【図19】膜厚11nmのPd93Ni7合金薄膜を有する水素センサーを測定システムに装着し、空気中に露出した際に測定した電流値を示すグラフである。
【図20】膜厚10nmのPd93Ni7合金薄膜を有する水素センサーを測定システムに装着し、窒素ガス中に露出した際に測定した電流値を示すグラフである。
【図21】膜厚11nmのPd93Ni7合金薄膜を有する水素センサーを測定システムに装着し、窒素ガス中に露出した際に測定した電流値を示すグラフである。
【図22】本発明の比較例として、膜厚7.5nmのPd薄膜を有する水素センサーを測定システムに装着し、窒素ガス中に露出した際に測定した電流値を示すグラフである。
【図23】本発明の比較例として、膜厚7.5nmのPd薄膜を有する水素センサーを測定システムに装着し、空気中に露出した際に測定した電流値を示すグラフである。
【図24】本発明の一実施例に係る水素センサーの製造工程を示す図である。
【図25】本発明の一実施例に従い製造された膜厚10nmのPd薄膜のOMイメージ写真である。
【図26】(a)は膜厚10nmのPd薄膜を0.5〜4%水素濃度に露出した際に測定した電流値の変化を示すグラフであり、(b)は膜厚11nmのPd薄膜を0.5〜4%水素濃度に露出した際に測定した電流値の変化を示すグラフである。
【図27】膜厚10.5nmのPd薄膜を空気中において2%水素濃度に露出した際に測定した電流値の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、添付図面を参照して本発明の種々の好適な実施形態について説明する。
【0051】
本発明の水素センサーの製造方法は、リソグラフィのようなMEMS工程を用いてパラジウムナノワイヤを生産する複雑な従来方式に代えて、遷移金属またはその合金薄膜を弾性基板に配置し、該弾性基板に特定の方向に引張力を印加することで該薄膜にナノギャップを形成してなる水素センサーを大量に生産することができる。
【0052】
上記基板に配置された薄膜は、該基板に引張力を印加すると、その印加方向に伸長すると共に、その印加方向に対して垂直方向には収縮する。また、上記弾性基板への引張力を解除すると、上記薄膜は、上記印加方向には収縮すると共に、その印加方向に対して垂直方向には伸長する。
【0053】
このように、本発明の水素センサーの製造方法によれば、弾性基板への引張力の印加といった簡単な方法にてパラジウムのような遷移金属またはその合金薄膜に物理的なストレインを与え、これにより、短時間で低廉且つ簡易にナノギャップを有する水素センサーを製造することができる。また、実施例によっては、パラジウムの相変化を用いてナノギャップを有する水素センサーを製造することもできる。
【0054】
上記のように遷移金属またはその合金薄膜にナノギャップを形成すると、上記ナノギャップによって電流の流れが阻害されるため、高い抵抗値を有する。しかしながら、水素雰囲気下では、周囲の水素を吸収することで遷移金属またはその合金薄膜の格子定数が増加し、体積の増加に伴い上記ナノギャップが埋められることで電流の流れが滑らかになるため、低い抵抗値を有するようになる。このような水素ガスの存在有無による抵抗値の変化を測定して水素濃度を測定可能になる。
【0055】
以下、図面を参照して本発明の種々の実施例について説明する。
【0056】
1.実施例A
先ず、本発明の水素センサーを製造するために弾性基板上に遷移金属またはその合金薄膜を配置する。
【0057】
このとき、上記基板は、水素を検知するセンサー部の役割を担う上記薄膜が配置される基材の役割を果たし、水素センサーを製造する過程で引張力を印加する際、基板上に配置された薄膜に対してストレインを伝達する役割を果たす。
【0058】
上記基板は、引張力を印加するとその印加方向に伸長でき、また引張力を解除すると元の形状に戻り得る弾性素材からなる。
【0059】
図1を参照すると、弾性素材によく見られるように、弾性素材に対して縦方向(x方向)に引張力を印加すると、縦方向の伸長変形率の成分以外の他の何らの条件がない限り、弾性素材は縦方向への伸長に伴い横方向(y方向)の収縮が発生することが予想される。また、上記横方向(y方向)の収縮変形率は、縦方向の伸長変形率に対して一定の比率を保ちつつ収縮するようになる。弾性素材への引張力を解除し、または弾性素材を短軸方向に収縮させると、横方向には伸長変形率が発生するようになり、このとき、横方向の伸長変形率と縦方向の収縮変化率間にも引張力の印加時と同等な一定比を保ちつつ変形がなされる。このような横方向の伸長変形率と縦方向の収縮変化率がもつ一定比の値を弾性素材のポアソン比(Poisson's ratio)と定義する。
【0060】
図1に示すように、弾性素材に引張力を印加すると、その表面に一体で結合し配置されたパラジウムまたはその合金薄膜が、弾性素材の変形に伴い一体で変形し、その変形の様態は、引張力の印加時には、x方向には伸長すると共に、y方向には収縮するようになり、また引張力を解除すると、x方向には収縮すると共に、y方向には伸長するようになる。
【0061】
本発明の一実施例に係る水素センサーを示す図2を参照すると、上記弾性基板に引張力を印加するといった簡単な方法にて上記弾性基板120の表面に一体で結合した薄膜110に物理的なストレインを与えることができ、物理的なストレインが与えられた上記パラジウムまたはその合金薄膜110には、図3に示すように、ナノギャップ11が形成される。
【0062】
上記弾性基板120に印加した引張力は、上記パラジウムまたはその合金薄膜110にそのまま伝わるため、上記弾性基板120が有するポアソン比によって上記薄膜110の伸長方向(x方向)、またはその収縮方向(y方向)への伸長と収縮の割合が決められるようになる。
【0063】
本発明の一実施例に係る水素センサー10の製造方法において、上記薄膜は、引張力の印加方向のx方向に伸長すると共に、引張力の印加方向に対して垂直方向のy方向に収縮するようになる。したがって、上記薄膜110に作用する物理的なストレイン、及びストレインによるナノギャップ11の効率的な形成を総合的に考慮した上で上記弾性基板12に印加する引張力の大きさを調節する必要があり、このような理由から、上記弾性基板120は、0.2ないし0.8のポアソン比を有することが好ましく、0.3ないし0.7のポアソン比を有することがより好ましく、0.5のポアソン比を有することが最も好ましい。
【0064】
また、上記弾性基板120への引張力は、上記弾性基板の特性と上記弾性基板の表面に一体で形成された上記遷移金属またはその合金薄膜の膜厚、材質及び性質などを総合的に考慮した上で、上記弾性基板120が適宜伸長するように印加すればよく、上記弾性基板120が1.05ないし1.50倍に伸長するように印加することが最も好ましく、この結果、上記薄膜110に均一なナノギャップ11が形成できるようになる。
【0065】
上記基板120上には、遷移金属またはその合金薄膜110を配置するようになる。このとき、本発明では、遷移金属の種類には制限がなく、水素によって膨張可能な種々の遷移金属またはこれらの合金薄膜を利用すればよい。
【0066】
好ましくは、上記遷移金属は、水素によって膨張可能なPd、Pt、Ni、Ag、Ti、Fe、Zn、Co、Mn、Au、W、In及びAlから選択されていてよい。
【0067】
また、上記合金は、水素によって膨張可能なPd−Ni、Pt−Pd、Pd−Ag、Pd−Ti、Pd−Fe、Pd−Zn、Pd−Co、Pd−Mn、Pd−Au、Pd−W、Pt−Ni、Pt−Ag、Pt−Ag、Pt−Ti、Fe−Pt、Pt−Zn、Pt−Co、Pt−Mn、Pt−Au、Pt−Wから選択されていてよい。例えば、Pd−NiまたはPd−Au合金の場合、Pdは水素との反応の際に触媒の役割を果たし、NiやAuはPdの格子定数を減少させることで、Pd−NiまたはPd−Au合金で製造された水素センサーの耐久性を高め、水素と反応する時間を短縮させる役割を果たす。より好ましくは、上記遷移金属及び合金としては、Pd及びその合金を利用する。
【0068】
一方、上記遷移金属またはその合金薄膜110を基板120上に配置する方法としては、当業界において通常に用いられる方法を用いればよい。例えば、スパッタリング(Sputtering)、蒸発法(Evaporation)などの物理的蒸着法と、化学気相法(CVD:chemical vapor Deposition)、原子層堆積法(ALD:atomic layer Deposition)などの蒸着法を用いればよい。
【0069】
上記弾性基板120に使用可能な素材としては、引張力の印加時にその印加方向に伸長でき、且つ引張力を解除すると元の形状に戻り得る素材であれば、特にその種類に関係なく使用可能であるが、その素材の例としては、天然ゴム、合成ゴム、またはポリマーなどが挙げられる。
【0070】
上記合成ゴムの例としては、ブタジエン系ゴム、イソプレン系ゴム、クロロプレン系ゴム、ニトリル系ゴム、ポリウレタン系ゴム、またはシリコン系ゴムなどがあり、好ましくは、界面自由エネルギー(interfacial free energy)が低いため基板上に配置された遷移金属またはその合金を成形加工しやすく、優れた耐久性を有する弾性材であるPDMS(polydimethylsiloxane)を使用すればよく、上記PDMSの他、ポリイミド(Polyimide)系高分子物質、ポリウレタン(Polyurethane)系高分子物質、フルオロカーボン(Fluorocarbon)系高分子物質、アクリル(Acrylic)系高分子物質、ポリアニリン(Polyaniline)系高分子物質、ポリエステル(polyester)系高分子物質なども、遷移金属またはその合金からなる薄膜に引張力を伝えることができるものであれば、弾性を適切に調節して使用することができる。
【0071】
上記遷移金属またはその合金薄膜110が配置された弾性基板120に引張力を印加すると、上述したように、上記薄膜110は引張力の印加方向のx方向に伸長すると共に、y方向に収縮して物理的なストレインを受け、ナノギャップ11を形成するようになる。このとき、1回でも引張力を印加すれば上記薄膜にはナノギャップ11が形成できるが、ナノギャップ11が形成されるときの方向性及び均一性を考慮すれば、上記弾性基板120への引張力は、1回以上繰り返し印加することが好ましい。
【0072】
また、上記引張力の印加は、特定の一方向のみに印加してもよいが、これに制限されるものではない。例えば、図4に示すように、パラジウム合金の製造時に添加される金属成分により上記合金の軟性が増加した場合は、一方向以上、例えば、2方向、3方向に引張力を印加して上記薄膜にナノギャップを形成することを促進することもできる。
【0073】
上記3方向に引張力が印加される場合は、第1方向、該第1方向に対して垂直な第2方向、及び上記第1方向及び上記第2方向とは異なる方向をなす第3方向に1回以上繰り返して、上記薄膜に作用するストレインを効果的に集中させることができ、これにより、上記遷移金属またはその合金薄膜にナノギャップを形成することができる。このとき、上記引張力が印加される第2方向は、上記第1方向に対して90゜の角度を有し、上記引張力が印加される第3方向は、上記第1方向及び第2方向に対して±0゜より大きいか、または±90゜より小さい角度を有する場合に、上記薄膜に作用するストレインを効果的に集中させることができる。
【0074】
一方、上記遷移金属またはその合金薄膜の膜厚は、1nmないし100μmの範囲にすることが好ましい。遷移金属またはその合金薄膜の膜厚は、上記基板への引張力の印加と解除による上記薄膜への効果的なナノギャップの生成可否と関連がある。膜厚が薄いほど、より多くのナノギャップが生成できる。しかしながら、膜厚が薄すぎると、上記基板に対して引張力を繰り返し印加した場合、遷移金属またはその合金薄膜が物理的に損傷して裂かれるおそれがある。そのため、効果的に薄膜にナノギャップを生成させつつ、印加された引張力に耐えられるように薄膜の膜厚を1nmないし100μmにすることが好ましく、上記弾性基板の弾性特性及び上記遷移金属またはその合金薄膜の物性などを総合的に考慮したとき、上記薄膜の膜厚は3nmないし100nmにすることがより好ましく、5nmないし15nmにすることが最も好ましい。
【0075】
また、上記基板は、その大きさに特に制限はないが、基板への引張力の印加時の便利性や製造された水素センサーの大きさなどを総合したとき、実用的な観点から幅0.1ないし10cm、長さ0.1ないし20cm、及び厚さ0.01ないし1cmを有することが好ましい。
【0076】
図5を参照すると、上記のような方法にてナノギャップが形成された遷移金属またはその合金薄膜は、水素が存在していない場合、電流の流れが上記ナノギャップによって滑らかにならず、高い抵抗を示すようになる。しかしながら、水素雰囲気下では、水素を吸収して体積が膨張し、体積の膨張に伴いナノギャップが埋められることで低い抵抗を有するようになる。したがって、こうした抵抗値の変化を測定して、上記ナノギャップが形成された上記薄膜を水素検知部として使用して水素の濃度を検知することができる。
【0077】
上記ナノギャップは、上記基板に印加される引張力及びその力の方向に応じてその幅を自在に調節できるが、水素雰囲気下で水素を吸収することで遷移金属またはその合金が膨張し、それに伴いナノギャップが埋められ、それによる抵抗値の変化から水素を検知することができる限界値を考慮した場合、1nmないし10μmの幅を有することが好ましい。
【0078】
また、上記のようなナノギャップを有する薄膜は、イオンミリング処理を施すことでその表面積を極大化することができる。このようなナノギャップを有する薄膜に対してイオンミリング処理を施す方法としては、上記のような薄膜が形成された基板の上部に対してイオンミリング処理を施す方法があり、これよりも好ましくは、上記薄膜が形成された基板の上に樹脂層を塗布した後、ナノギャップを有する薄膜部分のみを露出するように樹脂層パターンを形成し、露出した薄膜に対してイオンミリング処理を施した後、その樹脂層を除去する方法がある。
【0079】
また、上記ナノギャップを有する遷移金属またはその合金薄膜に対して熱処理を施すことで機械的性質を増加させることができる。このような熱処理方法としては、上記薄膜が形成された基板をファーニス(furnace)内で熱処理を施す方法がある。
【0080】
上記複数のナノギャップが形成された薄膜は、電流を印加できるように上記ナノギャップが形成された方向と平行な方向の両端に伝導性金属を蒸着して電極を形成させる。このとき、ナノギャップが形成された薄膜と電極とは互いに電気的に接続されている。このようにして形成された電極のいずれか一方に電流を印加(I+)すると共に電圧を測定(V+)し、他方の電極から出力される電流(I−)と電圧(V−)を測定して、2端子測定方式(quasi−two probe method)を用いて水素濃度の変化による抵抗変化を測定することができる。
【0081】
上記のように遷移金属またはその合金薄膜が配置された弾性基板に引張力を印加してナノギャップを形成した後、上記薄膜に伝導性金属を蒸着させて電極を形成した水素センサーは、水素ガスの存在有無によって抵抗値が異なるという特性を有し、これにより、水素濃度を測定することができるようになる。
【0082】
図2に示すように、本発明の一実施例に係る水素センサー10は、弾性素材からなる基板120と、該基板120の表面に配置され、該基板120への引張力の印加によって複数のナノギャップ11が形成された遷移金属またはその合金薄膜110、及び上記薄膜の両端に形成された電極130と、を含む。
【0083】
再び図5を参照すると、上記水素センサー10が水素ガスに露出すると、ナノギャップを有するPd薄膜の周囲の水素分圧がPd薄膜内部の水素分圧よりも高くなり、水素分子は、Pd薄膜の表面の界面エネルギーを下げるためにPd薄膜の表面に吸着されてH原子に解離する。Pd薄膜の内外の水素分圧の差は、解離したH原子がPd薄膜の内部に拡散して入る駆動力として作用し、拡散して入ったH原子は、α相Pd原子が形成した格子(fcc、face centered cubic)構造の侵入型位置に侵透してPdHxを形成するようになる。このとき、侵入型位置に入ったH原子のため格子定数が増加するようになる。
【0084】
したがって、上記水素センサー10は、水素雰囲気下で格子定数が増加し、それに伴い体積が膨張すると、体積の膨張によりナノギャップ11が埋められることで低い抵抗を有するようになる。こうした抵抗値の変化を測定して、上記ナノギャップが形成された上記薄膜を水素検知部として使用して水素の濃度を検知することができる。
【0085】
上記方法にて製造された水素センサーは、既存の水素検出センサーとは異なり、常温測定が可能であり、小型であるため、消費電力を低減させることができる。
【0086】
したがって、本発明の水素センサーは、低価、小型化、低電力消耗、常温動作という特性を満足しつつ、反応時間の減少と安定的駆動というセンサーとしての必須要件を満たすことができる。
【0087】
以下、本実施例の種々の具体的な実験例を挙げてより詳細に説明する。
【0088】
製造例1
横20mm、縦10mm、及び膜厚0.75mmのPDMS基板120上にPdをスパッタにて蒸着させた。このとき、Pd薄膜110は、膜厚7.5nmにし、横15mm、縦10mmの大きさで基板120上に配置した。
【0089】
次いで、上記基板120に引張力を5回印加して、上記基板120の横長さが25mmになるように伸長させた後、引張力を解除した。
【0090】
図3に示すように、上記のように引張力を印加して、Pd薄膜110にナノギャップを形成することができた。
【0091】
上記工程によりナノギャップ11が形成された薄膜110の両端部にAu電極をスパッタリング方式にて蒸着し、上記PDMS基板120上に薄膜110と電極130が電気的に接続された水素センサー10を製造した。
【0092】
製造例2
Pd薄膜110の膜厚を10nmにして、弾性基板120に形成したことを除いては、上記製造例1と同じ方法にて水素センサー10を製造した。
【0093】
製造例3
Pd薄膜110の膜厚を12nmにして、弾性基板120に形成したことを除いては、上記製造例1と同じ方法にて水素センサー10を製造した。
【0094】
製造例4
横20mm、縦10mm、及び膜厚0.75mmのPDMS基板120上にPdをスパッタにて蒸着した。このとき、Pd薄膜110は、膜厚を6nmにし、横15mm、縦10mmの大きさで基板120上に配置した。
【0095】
次いで、上記基板120に引張力を横方向(第1方向)に印加し、上記基板120の横長さが25mmになるように伸長させた後、引張力を解除して、元の大きさに戻らせた。
【0096】
上記第1方向に引張力を印加した基板120に右上−左下を連結する対角線方向(第2方向)に引張力を印加して、上記基板120が元の対角線長さの1.25倍まで伸長するように引張力を印加した後、元の大きさに上記基板を戻らせた。
【0097】
連続して、上記第2方向に引張力を印加した基板120に左上−右下を連結する対角線方向(第3方向)に引張力を印加して、上記基板120が元の対角線長さの1.25倍に伸長するように引張力を印加した後、元の大きさに上記基板を戻らせた。
【0098】
上記第1、第2、及び第3方向に順次に引張力を5回繰り返し印加して、上記基板120の表面に配置された上記薄膜110にナノギャップ11を形成した。
【0099】
上記工程によりナノギャップ11が形成された薄膜110の両端部にAu電極をスパッタリング方式にて蒸着し、上記PDMS基板120上に薄膜110と電極130とが電気的に接続された水素センサー10を製造した。
【0100】
実験例1
上記製造例により製造された水素センサーの特性を評価するために、2端子測定方式にて測定が可能なシステム20を製作し、実験に供した。
【0101】
上記システムは、図6に示すようなI−V測定装置であり、上記製造例の水素センサー10を中心に、反応チャンバ210、H2とN2のガスの流れ量を調節するMFC(Mass Flow Controller)220、センサーの電圧・電流印加装置230、及びガスタンク240で構成される。
【0102】
上記システム20において上記水素センサー10が装着される反応チャンバ210は、水素ガスとセンサーとが反応する際にそれを外部と密閉させると共に、H2とN2ガスがMFC220によりその量が正確に調節されることで所望の割合の水素ガス濃度を作る役割をする。濃度が調節されたH2ガスは、反応チャンバ210内において水素センサーと反応し、このときのセンサーの変化に対する電気的信号は、上記電圧・電流印加装置230により測定される。
【0103】
このような測定は常温及び常圧で実施され、ナノギャップ11を有するPd薄膜水素センサー10を外部電流印加装置に接続された反応チャンバ210内に装着した後、チャンバ内にH2とN2とが混合されたガスを流れ込ませつつ100nAの電流を印加し、電位差の変化により抵抗の差を測定した。
【0104】
図7の(a)は、上記製造例1において製造された水素センサー10を図6のシステム20に装着し、4%(40000ppm)の水素濃度で抵抗値の変化を測定した結果を示すグラフであり、図7の(b)は、上記製造例1の水素センサーを0ないし4%の水素濃度に露出した際に測定した電流値を示すグラフである。
【0105】
図7の(a)及び(b)を参照すると、製造例1の水素センサー10は、爆発上限濃度である4%の水素濃度において約1秒(グラフ上の点1つが1秒を意味する)で急な抵抗変化を示すことが分かり、反応チャンバ210内から水素を除去した途端に抵抗値が増加して、水素濃度の変化をon−off式で検知できる精密水素センサーとして作用し得ることが分かる。
【0106】
また、図7の(c)は、上記製造例2において製造された水素センサー、図7の(d)は、上記製造例3において製造された水素センサーを、それぞれ図6のシステム20に装着し、水素濃度の変化による抵抗値または電流値の変化を測定した結果を示すグラフである。
【0107】
図7の(c)を参照すると、製造例2の水素センサーもまた、0ないし4%の水素濃度の変化をon−off式で検知できる精密水素センサーとして作用し得ることが分かり、図7の(d)を参照すると、製造例3の水素センサーもまた、水素濃度の変化に応じて電流値の変化をみせており、水素センサーとして作用し得ることが分かる。
【0108】
図8は、上記製造例4において製造された水素センサー10を、図6のシステム20に装着し、それぞれ1%(10000ppm)(a)、0.5%(5000ppm)(b)、0.05(500ppm)(c)まで水素の濃度に変化を与えながら抵抗の変化を測定した結果を示すグラフである。
【0109】
図8の(a)を参照すると、爆発上限濃度(4%)の1/4である1%(10、000ppm)の水素濃度において約1秒で急な抵抗変化を示すことが分かる(x軸は全反応時間を示す)。すなわち、既存の水素センサー素子に比べて、遥かに素早い速度で水素ガスを検出できるのみならず、数回繰り返した後もその信号の大きさに変化のない極めて優れた耐久性を有していることが分かる。
【0110】
そして、反応チャンバ210内の水素を除去すると、約1ないし2秒足らずで素早い速度で抵抗値が増加していき、早い回復速度を有することが分かった。
【0111】
図8の(b)を参照すると、0.5%(5、000ppm)に水素濃度を減少させた際にも、約3ないし5秒足らずで急な抵抗変化を示し、素早い速度で水素を検出できることが分かり、回復時間は約3秒と測定され、本発明の水素センサーが水素ガスを検出するのに優れた性能を示すことが分かった。
【0112】
また、図8の(c)を参照すると、センサーの最も重要な要素ともいえる初期検知水素量でも、0.05%(500ppm)の水素濃度において約3ないし5秒足らずで水素ガスを検出し、極少量の水素を即時に検出する特性を示した。そして、水素を除去すると、1秒足らずで抵抗値が増加していき、早い回復速度を有することが分かった。
【0113】
一方、図9の(a)は、本実施例の水素センサーの他の製造例に係るものであって、Pd薄膜の膜厚が16nmである水素センサーを空気中に露出した際に測定した電流値を示すグラフであり、図9の(b)は、Pd薄膜の膜厚が14nmである水素センサーを空気中に露出した際の時間に対する電流値の変化を示すグラフである。図9の(a)に示すように、Pd薄膜が16nmと厚膜である場合、基本抵抗が0に落ちないONセンサーとして空気中で作動することが分かる。これに対し、Pd薄膜の膜厚が14nmと薄い図9の(b)の場合、基本抵抗が0に落ちるセンサーであって、初期何度かの先行反応後に空気中でON−OFFセンサーとして動作することが分かる。
【0114】
一方、図10は、本実施例の水素センサーを窒素中または空気中に露出した際に現れるメカニズム及びPd薄膜の膜厚が8nmである水素センサーを空気中に露出した際の時間に対する電流値の変化を示すグラフである。図10に示すように、Pd薄膜が引張によってナノクラックが形成されている際には基本抵抗が0に落ちないON状態で存在しているが、水素に露出すると膨張によって抵抗が減少し、すべての水素が除去された後は、熱力学的平衡状態に変化することによってOFF状態に変わり、ON−OFFセンサーとして作動することが分かる。これに関する一つの例示として、Pd薄膜の膜厚が8nmである水素センサーを窒素中に露出した際の時間に対する電流値の変化を示した。
【0115】
2.実施例B
上記実施例では、遷移金属またはその合金を用いて水素センサーを製造することについて説明した。本実施例では、遷移金属合金のうちPdxNi1-x合金薄膜を用いて水素センサーを製造することについて具体的に説明する。本実施例は、弾性基板上にPdxNi1-x合金薄膜を形成することを除いては、実施例Aにおける説明と実質的に同一であるので、重複説明は省略することにする。
【0116】
先ず、本発明の水素センサーを製造するために弾性基板上にPdxNi1-x合金薄膜を形成する。上記合金薄膜は、種々の方法にて形成することができ、本実施例では、次のような方法にて形成する。すなわち、図11を参照すると、本実施例に従い上記PdxNi1-x合金薄膜を形成する2つの方法が概略的に示されている。
【0117】
図11の左図を見ると、レイヤー・バイ・レイヤー蒸着方式であって、2つのターゲット(Pd、Ni)が並行に位置し、サンプルホルダー部分が回転しながら、両ターゲットの上を時間差をあけて交互に通り過ぎ、PdとNiをレイヤー・バイ・レイヤー形態で基板上に蒸着する。なお、図11の右図を見ると、上記方式とは異なることが分かる。すなわち、2つのターゲットが傾斜して設けられており、2つのターゲットから出るプラズマは下方のサンプルホルダー側で重なるようになる。サンプルホルダーが回転しており、2つのターゲット物質が均一に基板上に蒸着される。2つの物質が同時に蒸着されるため、上記方式とは異なり、PdとNiが合金あるいは固溶体を形成する。かかる方式にてPdxNi1-x合金を基板上に形成し、いずれの方式にて薄膜を蒸着しても、後述する水素検知特性には差がない。なお、本発明は上記のような蒸着方式に制限されるものではないことを理解しなければならない。すなわち、上記PdxNi1-x合金蒸着方式は基板にPdxNi1-x合金を蒸着する例示的な発明に過ぎず、本発明がPdxNi1-x合金の特定の蒸着方式に制限されない。例えば、実施例Aのところで説明したように、スパッタリング、化学気相法、原子層堆積法などを用いてもよい。
【0118】
図12には、本実施例に係る水素センサー10の斜視図が示されており、該水素センサー10は、弾性素材かなる基板120と、該基板120の表面に形成され、該基板120に印加された引張力によって複数のナノギャップ111が形成されたPdxNi1-x合金薄膜110、及び上記薄膜の両端に形成された電極130と、を含む。実施例Aとは異なり、本実施例の基板120上には、0.85(x(0.96を満たすPdxNi1-x合金薄膜を形成する。本実施例では、従来の水素センサーで通常採用されるPd薄膜の代りに所定の組成比を有するPdxNi1-x合金薄膜を形成しており、その具体的な理由は次のとおりである。
【0119】
すなわち、Pd薄膜の場合、所定の濃度の水素への露出により特定の濃度以上でその相が変化する相転移現象が発生する。引張力の印加によるナノギャップが形成され、水素に露出すると、ギャップ同士の間隔を減少させる水素濃度以上でのみ反応が生じるようになる。これは、Pdの相転移によるものであって、このため、最低検知濃度が高くなるという短所を持つ。
【0120】
ところが、Pd薄膜でなく、本実施例において提示する如くPdxNi1-x合金薄膜を用いる場合、露出した水素濃度の差に起因する相転移現象が生じず、上述したような水素ガス検知能の低下といった問題点を改善することができることが発見された。本実施例では、このような点を考慮して、弾性基板120上に0.85(x(0.96を満たすPdxNi1-x合金薄膜110を形成する。上記モル比xが0.85未満であると、Ni含量の過多により水素の露出による反応度合いが低くなるといった問題が生じ、0.96を超過すると、上述したような相転移の問題を引き起こす。より好ましくは、上記モル比は、0.90(x(0.94である。
【0121】
次に、上記弾性基板120に引張力を印加し、上記基板の表面に形成された上記合金薄膜110にナノギャップ111を形成する。その他、ポアソン比、弾性基板の材料、弾性基板に印加される引張力、引張力の印加回数、引張力の印加方向、合金薄膜の膜厚、ナノギャップの幅などは、前記実施例Aと同一であるため、重複説明は省略することにする。
【0122】
本実施例に従い製造された水素センサーは、実施例Aの水素センサーと同様に、既存の水素検出センサーとは異なり、常温測定が可能であり、また小型であるので、消費電力を低減させることができる。したがって、本発明の水素センサーは、低価、小型化、低電力消耗、常温動作の特性を満たしつつ反応時間の減少と安定的駆動というセンサーとしての必須要件を満たすことができる。
【0123】
以下、本実施例の実験例を挙げて詳しく説明する。
【0124】
横20mm、縦10mm、及び膜厚0.75mmのPDMS基板上にPdxNi1-x(但し、0.85(x(0.96)合金をスパッタにて蒸着させた。このとき、PdxNi1-x薄膜は、その膜厚を7.5nmにし、横15mm、縦10mmの大きさで基板上に配置した。
【0125】
次いで、上記基板に引張力を5回印加し、上記基板の横長さが25mmになるように伸長させた後、引張力を解除することで上記PdxNi1-x薄膜にナノギャップを形成した。図13は、上記過程によってナノギャップが形成されたPdxNi1-x合金薄膜のSEMイメージ写真であり、図14は、ナノギャップが形成されたPdxNi1-x合金薄膜の光学イメージ写真である。
【0126】
そして、比較のために、上記したものと同じ大きさのPDMS基板上にPdをスパッタにて蒸着させた。このとき、Pd薄膜は、その膜厚を7.5nmにし、横15mm、縦10mmの大きさで基板上に配置した。次いで、基板に引張力を5回印加し、上記基板の横長さが25mmになるように伸長させた後、引張力を解除することで上記Pd薄膜にナノギャップを形成した。
【0127】
上記2つの工程によりナノギャップが形成された薄膜の両端部のそれぞれにAu電極をスパッタリング方式にて蒸着し、PDMS基板上に薄膜と電極とが電気的に接続された水素センサーを製造した。
【0128】
上記のように製造された水素センサーの特性を評価するために、実施例Aと同様に、2端子測定方式にて測定が可能な図6のシステム20を使用した。本システムは、実施例Aのとろころで説明したので、その説明を省略する。
【0129】
上記システムを用いた測定は、常温及び常圧で実施し、ナノギャップを有するPdxNi1-x薄膜水素センサー10を外部電流印加装置と接続された反応チャンバ210内に装着した後、チャンバ内にH2とN2とが混合されたガスを流し込み、電圧を0.1Vに保ちつつ電流の強さを測定した。
【0130】
図15に示すように、Pd93Ni7合金薄膜を有する水素センサーを窒素中に露出した場合、最低の水素検知濃度が約0.08%であることが分かり、図16に示すように、空気中に露出した場合、最低の水素検知濃度が0.66%と極めて低いことが分かる。
【0131】
一方、本発明者は、基板上に形成される上記組成からなる薄膜の膜厚を変化させつつ、上記過程に従い実験を行い、その結果を図17ないし図21に示した。すなわち、図17ないし図19は、薄膜の膜厚をそれぞれ8nm、10nm及び11nmで形成した後、反応チャンバ210内において水素センサーを空気中に露出させた場合における水素検知濃度を示す。図示の如く、図16に比べて最低の水素検知濃度がさらに低くなったことが分かる。すなわち、図17の場合、最低の水素検知濃度は0.65%、すなわち、6500ppmであり、図18の場合、最低の水素検知濃度は約0.45%であり、図19の場合、最低の水素検知濃度は500ppmであって、極微量の水素も検知できることが分かる。すなわち、上記組成の薄膜の膜厚を増加させるほど、より低い濃度の水素を検出することができることが分かる。
【0132】
一方、図20及び図21は、薄膜の膜厚をそれぞれ10nm及び11nmで形成した後、反応チャンバ210内において水素センサーを窒素雰囲気に露出した場合における水素検知濃度を示す図であって、図20の場合、最低の水素検知濃度は約0.01%、図21の場合、最低の水素検知濃度は約0.05%であって、空気中よりも低いことが分かる。
【0133】
上記本実施例の実験例と比べて、図22に示すように、Pd薄膜(膜厚7.5nm)を有する水素センサーを窒素中に露出した場合における最低の水素検知濃度は0.4%であり、図23に示すように、空気中に露出した場合における最低の水素検知濃度は1.2%であって、本発明に係る組成を有するPdxNi1-x合金よりもその最低の水素検知濃度が高いことが分かる。
【0134】
すなわち、上述したように、本発明に従い所定の組成を有するPdxNi1-x合金薄膜を水素センサーに用いる場合、水素への露出による相転移現象が抑制され、Pd薄膜が適用された水素センサーに比べて、極めて低い濃度の水素を検知できるということが分かる。
【0135】
3.実施例C
上記実施例A、Bでは、弾性基板に引張力を印加して、上記基板に形成された薄膜にナノギャップを形成し、該ナノギャップを用いて水素を検出した。以下の実施例では、引張力の印加ではない他のメカニズムによりナノギャップを形成して水素を検出することを説明する。なお、実施例A、Bと重複する部分についての説明は省略することにする。
【0136】
図24は、本実施例に従い水素センサーを製造する工程を示す図である。図24(a)に示すように、本実施例でも上記実施例と同様に、先ず弾性基板10を用意する。該弾性基板10は、後続する工程においてその上に形成されたPdまたはPd合金薄膜の相変化による体積膨張の際、その膨張をそのまま収容する役割を果たし、それにより、上記薄膜にナノギャップの形成を促進させる役割を果たす。
【0137】
本発明は、弾性基板10の組成及び種類に特に制限はなく、基板の上部に形成されるPdまたはPd合金薄膜の相変化の際に生じる体積膨張及び収縮をそのまま収容することができる弾性材料であれば何でも使用可能である。例えば、実施例A、Bと同様に、天然ゴム、合成ゴム、またはポリマーが挙げられる。
【0138】
次いで、図24(b)に示すように、上記弾性基板10上にα相を有するPdまたはPd合金薄膜30を形成する。該PdまたはPd合金薄膜30を形成する方法としては、当業界において通常用いられる如何なる方法も使用可能であり、上記実施例と同様に、スパッタリング、化学気相法(CVD)などを用いればよい。
【0139】
一方、上記形成される薄膜30の膜厚は、後続する工程における薄膜30のα(β相への変化時に上記薄膜30に効果的にナノギャップが生成されるか否かと関連がある。すなわち、膜厚が薄いほどより多くのナノギャップが生成できる。したがって、効果的に薄膜にナノギャップを生成させるべく、上記実施例と同様に、上記薄膜30の膜厚を1nmないし100μmにすることが好ましく、より好ましくは、3nmないし100nm、最も好ましくは、5nmないし15nmである。
【0140】
そして、本実施例において、上記Pd合金薄膜は、Pd−Ni、Pd−Pt、Pd−Ag、Pd−Ti、Pd−Fe、Pd−Zn、Pd−Co、Pd−Mn、Pd−Au、Pd−Wから選択された1種の薄膜であればよく、より好ましくは、Pd−Ni薄膜である。
【0141】
次いで、図24(c)に示したように、上記形成されたα相の薄膜30を所定の濃度の水素含有ガスに露出させる。このような水素含有ガスへの露出により基板10に形成されたα相の薄膜30は、徐々にβ相の薄膜30に相変化していくようになる。
【0142】
このとき、図24(c)に示すように、水素の吸収により上記薄膜30に体積膨張が生じ、その下部の弾性基板10は、かかる薄膜30の体積膨張を収容するようになる。その結果、上記β相に相変化された薄膜30内部には体積膨張によるナノギャップが形成され、約1nmないし10μmの幅を有することができる。なお、上記水素含有ガスへの露出の際にその水素濃度を2〜15%の範囲にすることが好ましい。このような濃度範囲で上記薄膜30の相変化が起こりやすいためである。
【0143】
後続して、水素含有ガスへの露出を中止してβ相の薄膜30を再びα相に転換させる(図24(d))。このようなα相への転換後も、上記薄膜30の内部には体積膨張によるナノギャップが残存し続けるようになり、有効に水素センサーとして作動することができる。ナノギャップによる水素センサーの動作原理は上記実施例と同様である。また、前記実施例と同様に、上記ナノギャップを有する薄膜30に対してイオンミリング処理を施してその表面積を増加させることもできて、また、熱処理を施して機械的性質を増大させることもできる。
【0144】
以下、実験例により本実施例を詳しく説明する。
【0145】
(実験例)
横20mm、縦10mm、及び膜厚0.75mmのPDMS基板上にPdをスパッタにて蒸着させた。このとき、得られるα相のPd薄膜は、膜厚をそれぞれ10nm、11nmにし、横15mm、縦10mmの大きさでPDMS基板上に形成した。次いで、上記それぞれのPDMS基板上に形成されたα相のPd薄膜をそれぞれ10%の水素濃度を有する水素含有ガスに露出して、その薄膜をβ相に相変化させた。後続して、上記水素含有ガスへの露出を中止し、その薄膜の相を再びα相に変化させた。
【0146】
図25は、上記工程において製造された膜厚10nmのPd薄膜に対するOM(Optical Microscope、電子光学顕微鏡)イメージ写真である。図25に示すように、上記工程において製造されたPd薄膜の場合、その内部にナノギャップが形成されており、これにより水素センサーとして容易に利用できることが分かる。
【0147】
次いで、上記工程によりナノギャップが形成された薄膜の両端部にAu電極をスパッタリング方式にて蒸着し、PDMS基板上にPd薄膜と電極とが電気的に接続された水素センサーを製造した。そして、該製造された水素センサーの特性を評価するために、上記実施例と同様に、2端子測定方式にて測定が可能な図6に示したものとI−V測定装置を使用した。
【0148】
このような測定は、常温及び常圧で実施し、ナノギャップを有するPd薄膜水素センサー10を外部電流印加装置と接続された反応チャンバ210内に装着した後、チャンバ内にH2とN2とが混合されたガスを流し込み、100nAの電流を印加して、時間による電流の変化を測定した。
【0149】
図26(a)は、膜厚10nmのPd薄膜を0.5〜4%の水素濃度に露出した際に測定した電流値の変化を示すグラフであり、図26(b)は、膜厚11nmのPd薄膜を0.5〜4%の水素濃度に露出した際測定した電流値の変化を示すグラフである。図26(a)及び(b)に示すように、本実施例に従い製造された水素センサーの場合、水素への露出時は電流値を有するが、水素の除去時はその電流値が0に落ちることから、水素濃度の変化をon−off式で検知できる精密水素センサーとして作用し得ることが分かる。
【0150】
一方、図27は、膜厚10.5nmのPd薄膜を空気中において2%の水素濃度に露出した際に測定した電流値の変化を示すグラフであって、この場合にも、水素ガスへの露出時に電流値を有するが、水素の除去時にその電流値が0に落ちることから、水素濃度の変化をon−off式で検知できることが分かる。
【0151】
以上、本発明について種々の実施例を参照して説明したが、本発明がこれらの実施例に制限されるものではないことを理解しなければならない。すなわち、特許請求の範囲内で上記実施例を種々に変形及び修正することができ、これらはいずれも本発明の範囲内に属する。したがって、本発明は、特許請求の範囲及びその均等物によってだけ制限される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性基板の表面に遷移金属またはその合金薄膜を形成するステップと、
前記弾性基板に引張力を印加して、前記基板表面に形成された前記合金薄膜に複数のナノギャップを形成するステップと、
を含み、
前記薄膜への前記ナノギャップは、前記引張力の印加時には前記薄膜が該引張力の印加方向に伸長すると共に該印加方向に対して垂直方向に収縮し、該引張力を解除すると前記薄膜が該印加方向に収縮すると共に該印加方向に対して垂直方向に伸長することにより形成されることを特徴とする水素センサーの製造方法。
【請求項2】
前記遷移金属は、Pd、Pt、Ni、Ag、Ti、Fe、Zn、Co、Mn、Au、W、In及びAlから選択されることを特徴とする請求項1に記載の水素センサーの製造方法。
【請求項3】
前記合金は、Pd−Ni、Pt−Pd、Pd−Ag、Pd−Ti、Pd−Fe、Pd−Zn、Pd−Co、Pd−Mn、Pd−Au、Pd−W、Pt−Ni、Pt−Ag、Pt−Ti、Fe−Pt、Pt−Zn、Pt−Co、Pt−Mn、Pt−Au及びPt−Wから選択されることを特徴とする請求項1に記載の水素センサーの製造方法。
【請求項4】
前記遷移金属はPdであり、前記合金はPd合金であることを特徴とする請求項1に記載の水素センサーの製造方法。
【請求項5】
前記弾性基板の表面に0.85(x(0.96を満たすPdxNi1-x合金薄膜を形成することを特徴とする請求項1に記載の水素センサーの製造方法。
【請求項6】
前記弾性基板の表面に0.90(x(0.94を満たすPdxNi1-x合金薄膜を形成することを特徴とする請求項5に記載の水素センサーの製造方法。
【請求項7】
前記弾性基板は、0.2〜0.8のポアソン比(Poisson's ratio)を有することを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の水素センサーの製造方法。
【請求項8】
前記引張力は、前記弾性基板が1.05ないし1.50倍に伸長するように印加されることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の水素センサーの製造方法。
【請求項9】
前記弾性基板は、天然ゴム、合成ゴムまたはポリマーで製造することを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の水素センサーの製造方法。
【請求項10】
前記引張力は、前記弾性基板に対して1回以上繰り返し印加することを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の水素センサーの製造方法。
【請求項11】
前記引張力は、前記弾性基板に対して1方向以上から印加することを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載の水素センサーの製造方法。
【請求項12】
前記引張力は、第1方向、該第1方向に対して垂直な第2方向、及び前記第1方向及び前記第2方向とは異なる方向をなす第3方向から繰り返し印加することを特徴とする請求項12に記載の水素センサーの製造方法。
【請求項13】
前記薄膜の膜厚は、約1nmないし約100μmであること特徴とする請求項1ないし12のいずれかに記載の水素センサーの製造方法。
【請求項14】
前記ナノギャップは、約1nmないし10μmの間隔を隔てて形成されることを特徴とする請求項1ないし13のいずれかに記載の水素センサーの製造方法。
【請求項15】
前記ナノギャップが形成された前記遷移金属またはその合金薄膜を熱処理するステップを更に含むことを特徴とする請求項1ないし14のいずれかに記載の水素センサーの製造方法。
【請求項16】
前記ナノギャップが形成された前記遷移金属またはその合金薄膜をイオンミリングするステップを更に含むことを特徴とする請求項1ないし14のいずれかに記載の水素センサーの製造方法。
【請求項17】
弾性基板を用意するステップと、
前記弾性基板にα相を有するPdまたはPd合金薄膜を形成するステップと、
前記薄膜を所定の濃度の水素含有ガスに露出して、前記α相の薄膜をβ相の薄膜に変化させ、体積の膨張によるナノギャップを前記薄膜に形成するステップと、
前記水素含有ガスに対する露出を中止させ、前記β相の薄膜を再びα相の薄膜に変化させるステップと、
を含むことを特徴とする水素センサーの製造方法。
【請求項18】
前記α相に変化された前記薄膜を熱処理するステップを更に含むことを特徴とする請求項17に記載の水素センサーの製造方法。
【請求項19】
前記α相に変化された前記薄膜をイオンミリングするステップを更に含むことを特徴とする請求項17または18に記載の水素センサーの製造方法。
【請求項20】
前記水素含有ガスへの露出の際の水素濃度を2〜15%にすることを特徴とする請求項17ないし19のいずれかに記載の水素センサーの製造方法。
【請求項21】
前記薄膜の膜厚は、約1nmないし約100μmの範囲内にあることを特徴とする請求項17ないし20のいずれかに記載の水素センサーの製造方法。
【請求項22】
弾性材質の基板と、
前記基板の表面に形成された遷移金属またはその合金の薄膜と、
前記薄膜の両端に形成された電極と、
を含み、
前記薄膜には、前記基板への引張力の印加によって形成された複数のナノギャップが含まれていることを特徴とする水素センサー。
【請求項23】
前記遷移金属は、Pd、Pt、Ni、Ag、Ti、Fe、Zn、Co、Mn、Au、W、In及びAlから選択されることを特徴とする請求項22に記載の水素センサー。
【請求項24】
前記合金は、Pd−Ni、Pt−Pd、Pd−Ag、Pd−Ti、Pd−Fe、Pd−Zn、Pd−Co、Pd−Mn、Pd−Au、Pd−W、Pt−Ni、Pt−Ag、Pt−Ti、Fe−Pt、Pt−Zn、Pt−Co、Pt−Mn、Pt−Au及びPt−Wから選択されることを特徴とする請求項22に記載の水素センサー。
【請求項25】
前記薄膜は、0.85(x(0.96を満たすPdxNi1-x合金薄膜であることを特徴とする請求項24に記載の水素センサー。
【請求項26】
前記薄膜は、0.90(x(0.94を満たすPdxNi1-x合金薄膜であることを特徴とする請求項25に記載の水素センサー。
【請求項27】
前記薄膜は、その膜厚が約1nmないし約100μmの範囲内にあることを特徴とする請求項22ないし26のいずれかに記載の水素センサー。
【請求項28】
前記ナノギャップは、約1nmないし約10μmの間隔を隔てて形成されたことを特徴とする請求項22ないし27に記載の水素センサー。
【請求項29】
弾性材質の基板と、
前記基板の表面に形成されたPdまたはPd合金の薄膜と、
前記薄膜の両端に形成された電極と、
を含み、
前記薄膜には、請求項17に記載の方法により形成された複数のナノギャップが含まれていることを特徴とする水素センサー。
【請求項1】
弾性基板の表面に遷移金属またはその合金薄膜を形成するステップと、
前記弾性基板に引張力を印加して、前記基板表面に形成された前記合金薄膜に複数のナノギャップを形成するステップと、
を含み、
前記薄膜への前記ナノギャップは、前記引張力の印加時には前記薄膜が該引張力の印加方向に伸長すると共に該印加方向に対して垂直方向に収縮し、該引張力を解除すると前記薄膜が該印加方向に収縮すると共に該印加方向に対して垂直方向に伸長することにより形成されることを特徴とする水素センサーの製造方法。
【請求項2】
前記遷移金属は、Pd、Pt、Ni、Ag、Ti、Fe、Zn、Co、Mn、Au、W、In及びAlから選択されることを特徴とする請求項1に記載の水素センサーの製造方法。
【請求項3】
前記合金は、Pd−Ni、Pt−Pd、Pd−Ag、Pd−Ti、Pd−Fe、Pd−Zn、Pd−Co、Pd−Mn、Pd−Au、Pd−W、Pt−Ni、Pt−Ag、Pt−Ti、Fe−Pt、Pt−Zn、Pt−Co、Pt−Mn、Pt−Au及びPt−Wから選択されることを特徴とする請求項1に記載の水素センサーの製造方法。
【請求項4】
前記遷移金属はPdであり、前記合金はPd合金であることを特徴とする請求項1に記載の水素センサーの製造方法。
【請求項5】
前記弾性基板の表面に0.85(x(0.96を満たすPdxNi1-x合金薄膜を形成することを特徴とする請求項1に記載の水素センサーの製造方法。
【請求項6】
前記弾性基板の表面に0.90(x(0.94を満たすPdxNi1-x合金薄膜を形成することを特徴とする請求項5に記載の水素センサーの製造方法。
【請求項7】
前記弾性基板は、0.2〜0.8のポアソン比(Poisson's ratio)を有することを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の水素センサーの製造方法。
【請求項8】
前記引張力は、前記弾性基板が1.05ないし1.50倍に伸長するように印加されることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の水素センサーの製造方法。
【請求項9】
前記弾性基板は、天然ゴム、合成ゴムまたはポリマーで製造することを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の水素センサーの製造方法。
【請求項10】
前記引張力は、前記弾性基板に対して1回以上繰り返し印加することを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の水素センサーの製造方法。
【請求項11】
前記引張力は、前記弾性基板に対して1方向以上から印加することを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載の水素センサーの製造方法。
【請求項12】
前記引張力は、第1方向、該第1方向に対して垂直な第2方向、及び前記第1方向及び前記第2方向とは異なる方向をなす第3方向から繰り返し印加することを特徴とする請求項12に記載の水素センサーの製造方法。
【請求項13】
前記薄膜の膜厚は、約1nmないし約100μmであること特徴とする請求項1ないし12のいずれかに記載の水素センサーの製造方法。
【請求項14】
前記ナノギャップは、約1nmないし10μmの間隔を隔てて形成されることを特徴とする請求項1ないし13のいずれかに記載の水素センサーの製造方法。
【請求項15】
前記ナノギャップが形成された前記遷移金属またはその合金薄膜を熱処理するステップを更に含むことを特徴とする請求項1ないし14のいずれかに記載の水素センサーの製造方法。
【請求項16】
前記ナノギャップが形成された前記遷移金属またはその合金薄膜をイオンミリングするステップを更に含むことを特徴とする請求項1ないし14のいずれかに記載の水素センサーの製造方法。
【請求項17】
弾性基板を用意するステップと、
前記弾性基板にα相を有するPdまたはPd合金薄膜を形成するステップと、
前記薄膜を所定の濃度の水素含有ガスに露出して、前記α相の薄膜をβ相の薄膜に変化させ、体積の膨張によるナノギャップを前記薄膜に形成するステップと、
前記水素含有ガスに対する露出を中止させ、前記β相の薄膜を再びα相の薄膜に変化させるステップと、
を含むことを特徴とする水素センサーの製造方法。
【請求項18】
前記α相に変化された前記薄膜を熱処理するステップを更に含むことを特徴とする請求項17に記載の水素センサーの製造方法。
【請求項19】
前記α相に変化された前記薄膜をイオンミリングするステップを更に含むことを特徴とする請求項17または18に記載の水素センサーの製造方法。
【請求項20】
前記水素含有ガスへの露出の際の水素濃度を2〜15%にすることを特徴とする請求項17ないし19のいずれかに記載の水素センサーの製造方法。
【請求項21】
前記薄膜の膜厚は、約1nmないし約100μmの範囲内にあることを特徴とする請求項17ないし20のいずれかに記載の水素センサーの製造方法。
【請求項22】
弾性材質の基板と、
前記基板の表面に形成された遷移金属またはその合金の薄膜と、
前記薄膜の両端に形成された電極と、
を含み、
前記薄膜には、前記基板への引張力の印加によって形成された複数のナノギャップが含まれていることを特徴とする水素センサー。
【請求項23】
前記遷移金属は、Pd、Pt、Ni、Ag、Ti、Fe、Zn、Co、Mn、Au、W、In及びAlから選択されることを特徴とする請求項22に記載の水素センサー。
【請求項24】
前記合金は、Pd−Ni、Pt−Pd、Pd−Ag、Pd−Ti、Pd−Fe、Pd−Zn、Pd−Co、Pd−Mn、Pd−Au、Pd−W、Pt−Ni、Pt−Ag、Pt−Ti、Fe−Pt、Pt−Zn、Pt−Co、Pt−Mn、Pt−Au及びPt−Wから選択されることを特徴とする請求項22に記載の水素センサー。
【請求項25】
前記薄膜は、0.85(x(0.96を満たすPdxNi1-x合金薄膜であることを特徴とする請求項24に記載の水素センサー。
【請求項26】
前記薄膜は、0.90(x(0.94を満たすPdxNi1-x合金薄膜であることを特徴とする請求項25に記載の水素センサー。
【請求項27】
前記薄膜は、その膜厚が約1nmないし約100μmの範囲内にあることを特徴とする請求項22ないし26のいずれかに記載の水素センサー。
【請求項28】
前記ナノギャップは、約1nmないし約10μmの間隔を隔てて形成されたことを特徴とする請求項22ないし27に記載の水素センサー。
【請求項29】
弾性材質の基板と、
前記基板の表面に形成されたPdまたはPd合金の薄膜と、
前記薄膜の両端に形成された電極と、
を含み、
前記薄膜には、請求項17に記載の方法により形成された複数のナノギャップが含まれていることを特徴とする水素センサー。
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図12】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図26】
【図27】
【図3】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図25】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図12】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図26】
【図27】
【図3】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図25】
【公表番号】特表2012−507037(P2012−507037A)
【公表日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−547833(P2011−547833)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【国際出願番号】PCT/KR2010/008618
【国際公開番号】WO2011/081308
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(506263491)インダストリー−アカデミック コーペレイション ファウンデイション, ヨンセイ ユニバーシティ (18)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【国際出願番号】PCT/KR2010/008618
【国際公開番号】WO2011/081308
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(506263491)インダストリー−アカデミック コーペレイション ファウンデイション, ヨンセイ ユニバーシティ (18)
【Fターム(参考)】
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